説明

光体積記録器信号を処理する方法および装置

本発明は、臨床シナリオにおいて光体積記録器信号〔フォトプレスチモグラフ信号〕の解析を支援するために光体積記録器信号を処理する方法および装置に関する。ある時間期間にわたって収集された光体積記録器信号の微分が計算される。収集された光体積記録器信号の時間に関する微分が、収集された光体積記録器信号の関数として解析され、xy図において表示され、あるいは逆に、収集された光体積記録器信号が、収集された光体積記録器信号の時間に関する微分の関数として解析され、xy図において表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床シナリオにおいて光体積記録器信号〔フォトプレスチモグラフ信号〕の解析を支援するために光体積記録器信号を処理する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心電図(ECG: electrocardiogram)を別にすると、光体積記録器信号(PPG: photoplethysmograph)信号は麻酔や集中治療などの臨床シナリオにおいて最もよく収集される信号の一つである。PPG信号は被験者、すなわち患者の指、耳または額から連続的にかつ快適に測定されることができる。PPGはしばしば、皮膚に光を照射し、光吸収の変化を測定する脈波型酸素飽和度計(pulse oximeter)を使って取得される。通常の脈波型酸素飽和度計は皮膚の真皮および皮下組織への血液灌流をモニタリングする。
【0003】
通常、PPG信号から、患者の心拍数およびSpO2が推定される。しかしながら、PPG波形およびその形態に埋め込まれたすべての情報がPPG信号の解析において使用されるわけではない。たとえば、PPG波形は、被験者の心血管応答または変化の早期検出を支援するために時間を追って追跡されることのできる被験者の心血管状態についての追加的情報を与える。
【0004】
しかしながら、臨床現場では、モニタリング期間中、医師は特定の患者についてPPG波形や形態を簡単かつ直観的な仕方で追跡および比較することはできない。薬物応答および疾病進行などのような臨床コンテキストに関係したPPG波形を簡単な仕方で解釈するための、簡単かつ医師にとって直観的な概念が欠けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より堅牢であり、PPG信号の解釈において医師を支援し、PPG波形の関係した臨床コンテキストとの、たとえば患者の心血管状態との相関付けを可能にするPPG信号の簡単かつ直観的な解析のための方法及び装置を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
方法に関し、この目的は、被験者から取得された光体積記録器信号を処理する方法によって達成される。前記方法は:
・ある時間期間にわたって前記光体積記録器信号を収集する段階と;
・収集された光体積記録器信号の微分を計算する段階と;
・収集された光体積記録器信号の時間に関する微分を、収集された光体積記録器信号の関数として、あるいは逆に収集された光体積記録器信号を、収集された光体積記録器信号の時間に関する微分の関数として解析する段階とを含む。
【0007】
本発明の方法によれば、PPG波形および形態を解析する簡単かつ直観的な方法が提供される。その結果はたとえば、モニタリング期間または診断手順の間、たとえば患者モニタ上に呈示されてもよい。PPG信号自身の関数としてのPPG信号の時間微分、あるいは逆にPPG信号の時間微分の関数としてのPPG信号は、特定のPPG波形またはPPG波形の一部を認識し、指示する追加的な、改善された方法を提供する。xyグラフを介して視覚的に行われるにしろ、プロセッサによって自動的に行われるにしろ、この関数の解析は、PPG信号の解釈において医師をさらに支援し、医師がPPG信号を特定の臨床コンテキストに関係させられるようにする。この関数の解析は、たとえばPPG振幅および振幅変化、収縮期および拡張期の傾き、振動のような、PPG波形の時間を追った変化の簡単な解釈を提供する。この関数の解析はさらに、重複切痕(dicrotic notch)などのずっと高速でより堅牢な認識ならびに収縮期および拡張期におけるPPG波形変化のより堅牢な弁別を提供する。この関数の解析は、PPG信号の解釈ミスの可能性を減らす。というのも、この関数は、たとえば被験者の種々の姿勢から収集されたPPG信号間の改善された区別を与え、それにより被験者の同じ姿勢について得られたPPG信号のみが比較されることを保証するからである。さらに、血管拡張および/または血管収縮などによる患者の重篤な状態のより早期の検出が可能になり、PPG信号の関数としてのPPG信号の微分のより堅牢な解析のおかげで、PPG信号の解釈ミスの可能性は低下する。PPG信号の解析は、該解析において従来のPPG波形、すなわち時間の関数としてのPPG信号がさらに使われる場合には、一層堅牢になる。さらに、この関数の特定の特徴または一部は、一つまたは複数のパラメータによって特徴付けられてもよい。たとえば重複切痕などである。解析の結果としてこれらのパラメータを出力することによって、本発明は、PPG信号を介して患者の解析およびモニタリングにおいて医師をさらに支援する。
【0008】
ある実施形態では、提案される方法は、特定の応用シナリオに適応されることができる。具体的には、本方法は、たとえばPPG信号の一階微分もしくは高階微分、あるいは振幅規格化、アーチファクト除去および/または高域通過および低域通過フィルタ処理などのようなPPG信号の異なる前処理ステップの使用によって、特定の応用のために適応されることができる。
【0009】
上記の目的は、被験体の組織内の血液の性質に対応する光体積記録器信号を収集するセンサーと、前記センサーに接続され、前記センサーからの光体積記録器信号を受け取り、処理するよう適応されたプロセッサとを有する光体積記録器測定装置によっても達成される。前記プロセッサは、前記センサーから受け取られた光体積記録器信号の時間に関する微分を計算し、前記光体積記録器信号の微分を前記光体積記録器信号の関数として、あるいは前記光体積記録器信号を前記光体積記録器信号の微分の関数として、解析するよう適応されている。
【0010】
上記の目的は、本発明に基づく光体積記録器測定装置を有する患者モニタリング・システムによっても達成される。
【0011】
上記の目的は、コンピュータに本発明に基づく方法を実行させるよう指示するコンピュータ・プログラムによっても達成される。
【0012】
上記の目的は、コンピュータに本発明に基づく方法を実行させる命令の組を含む、フロッピー(登録商標)ディスク、CD、DVD、ブルーレイ・ディスクまたはランダム・アクセス・メモリ(RAM)のような記憶デバイスのようなコンピュータ可読媒体によっても達成される。
【0013】
有利な実施形態は従属請求項において定義される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明のこれらおよびその他の側面は、以下に記載される実施形態を参照することから明白となり、明快にされるであろう。
【図1】a、bおよびcは、頭位上方傾斜台(head up tilt table)試験(HUTT)の間に収集されたPPG信号を示す図である。
【図2】一連の姿勢変化の間に被験体から収集されたPPG信号を示すチャートである。
【図3】a、bおよびcは、本発明のある側面に基づく、PPG信号のxy図である。
【図4】aおよびbは、本発明のある側面に基づく、PPG信号のさらなるxy図である。
【図5】患者の種々の状態を比較する、本発明のある側面に基づくPPG信号のxy図である。
【図6】現状技術の光体積記録器測定装置での、被験体が姿勢を変えるときの、本発明のある側面に基づくPPG信号のxy図である。
【図7】被験体の姿勢が考慮に入れられるときの、本発明のあるさらなる側面に基づくPPG信号のさらなるxy図である。
【図8】本発明に基づく光体積記録器測定装置のある実施形態の概略図である。
【図9】本発明に基づく光体積記録器測定装置のあるさらなる実施形態の概略図である。
【図10】本発明に基づく光体積記録器測定装置のあるさらなる実施形態の概略図である。
【図11】本発明のある側面に基づく、基礎的PPGのPPG信号のxy図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
光体積記録(PPG)は、器官の体積測定である光体積記録を光学的に得るものである。これは、皮膚に光を照射し、光吸収の変化を測定する脈波型酸素飽和度計によって得ることができる。通常の脈波型酸素飽和度計は皮膚の真皮および皮下組織への血液灌流をモニタリングする。ECGを別とすれば、PPGは臨床において、特に麻酔や集中治療において、最も頻繁に収集される信号の一つである。典型的には、PPGは指、耳または額から測定される。このPPG信号から、心拍数や患者のSpO2が推定できる。しかしながら、現在のところ、PPG信号から日常的に推定されるのは、心拍数および患者のSpO2だけであるが、PPG波形は、介入〔インターベンション〕の際の被験者の心血管応答などの検出のために、被験者の心血管状態についての追加的な情報を提供する。
【0016】
たとえば、図1の上の図aは、頭位上方傾斜台試験(HUTT)の間のPPG形態変化を示している。この試験は、ある時間期間にわたって、患者を、常に頭を上にして種々の角度に傾けることに関わる。図1の上の図aは、PPG信号22を時間の関数として示しており、箱形曲線21は患者が傾斜される時を視覚化するものである。図1の左下の図bは、ニトログリセリン投与前のPPG信号22の拡大図および形を示している。図1の右下のcは、ニトログリセリン投与後のPPG信号22の拡大図および形を示している。この場合、PPGパルス振幅の増大およびPPG波形における最大PPGピークと二次ピーク(重複切痕とも呼ばれる)の相対的な高さの変化がはっきり見て取れる。これは、投与されたニトログリセリンの拡張効果による、患者の心血管状態の有意な変化を示している。しかしながら、この図からは、医師にとって、PPG波形を解釈するのは容易ではなく、よって、PPG信号22を適切な臨床コンテキストに関係付けることは、ストレートで簡単なことではない。そのため、時間の関数であるこのPPG信号22は、臨床上の日々の日常的な解析のためには好適ではない。これが、PPG形態論または波形の解析がいまだ臨床関係者によって受け入れられていない理由の一つである。臨床現場では、医師は、モニタリング期間中に特定の患者について、PPG形態および波形を簡単かつ直観的に追跡し、解析し、比較することができない。たとえば、PPG波形に埋め込まれている、患者の心血管状態などについての情報は典型的には次のような理由により使用されない:
・特定の臨床コンテキストまたは患者状態に関係付けられることのできるPPG形態の直観的な視覚化概念がない;
・PPG波形の形は、たとえば姿勢変化、物理的な活動および/または静水力学的効果のため、コンテキストに敏感であり、このためPPG波形の解釈および解析は難しくなる;
・異なる時点に得られたPPG信号は通常、比較のために記憶されることはない;
・収縮期と拡張期など、脈拍の異なる位相におけるPPG信号変化の解釈は難しい;および/または
・異なる心拍数に属するPPG信号は、有意な信号歪みなしには簡単に時間的に規格化されることができない。
【0017】
たとえば、図2は、単一の被験体から、横たわっている状態から座っている状態への一連の姿勢変化にわたって取られた、時間の関数としてのPPG信号から抽出された、規格化されたPPG波形を示している。これは、PPG波形の有意な形態変化を示している。横軸はスケーリングされた時間を表し、縦軸は規格化されたPPG信号を表す。はっきり見て取れるように、横たわった姿勢について得られたPPG波形は座っている姿勢について得られたものとは有意に異なっている。しかしながら、横たわっている諸姿勢について得られた種々のPPG波形も互いに異なっている。同じことは、座っている諸姿勢について得られたPPG波形についても言える。したがって、PPG信号のこの型の表現、すなわち時間の関数としてのPPG信号について、臨床コンテキストに関係付けられるPPG波形形態の信頼でき、かつ日常的な解釈および解析は、時間の関数としてのPPG信号が解析のために使われる従来のPPG図からは可能ではない。
【0018】
本発明の基本概念は図3に示されている。図3の図aは、PPG信号の通常のxy図を描いている。ここではx軸がPPG信号を表し、y軸が時間を表している。図3の図cは、x軸が時間を表し、y軸がPPG信号の時間に関する微分dPPG(t)/dtを表すxy図を描いている。最終結果は、図3のxy図bに示されている。ここでは、x軸は関心のあるPPGの時間に関する微分dPPG(t)/dtを表し、y軸はPPG(t)信号を表す。認識できるように、図3の図bにおける収縮期および拡張期は簡単に弁別されることができる。PPG信号の時間微分が0をまたぐ点が、収縮期のはじまり、心臓周期におけるPPGの最小と、収縮期の終わり、心臓周期におけるPPGの最大との目印となる。図3の図bでは、PPG信号の最大振幅、収縮期におけるPPG信号の最大傾きおよび拡張期におけるPPG信号の最小傾きおよびPPG信号の重複切痕が図3の図bにおいて、それぞれPPGの最大値、dPPG(t)/dtの最小値つまり大きなループの左端、dPPG(t)/dtの最大値つまり大きなループの右端およびより小さな内側ループによって、明瞭に認識できる。あるいはまた、この図の目視による分析の代わりに、PPG信号の関数としてのPPG信号の微分の自動解析が実行されることができる。ここで、たとえば、PPG波形のある種の部分を表すパラメータが計算される。そのパラメータとは、PPG(t)の関数としてのdPPG(t)/dtの最大、最小または極値または重複切痕を特徴付ける小さなループの面積といったものである。このようにして、PPG(t)信号の関数としての時間に関するPPG信号の微分dPPG(t)/dtの解析は、PPG波形パターンのより簡単な認識を与える。
【0019】
すべてのxy図において、x軸によって表されるパラメータとy軸によって表されるパラメータはを入れ替えることもできることを注意しておくべきである。さらに、PPG信号の関数としての、時間に関するPPG信号の微分の解析は、逆の状況、すなわち、時間に関するPPG(t)信号の微分の関数としてのPPG信号の解析によって置き換えてもよい。
【0020】
図4の左側の図aでは、三つのPPG信号11、12、13が示されている。第一のPPG信号は初期測定であり、第二のPPG信号12はニトロ投与の4分後に測定され、第三のPPG信号13は失神の直前に測定されている。図4の右側の図bでは、これら三つのPPG信号11、12、13が本発明のある実施形態に基づくxy図において示されている。x軸はPPG信号の時間微分を表し、y軸はPPG信号自身を表す。有意なパルス形の変化の解釈は、図4の右側の図bについてはストレートである:第一のPPG信号11に対して第二のPPG信号12および第三のPPG信号13についての収縮期の間の傾き増大、匹敵するパルス振幅(PPG信号の最大値と最小値の間の差)、および、第一のPPG信号11についてほとんどない重複切痕とそれに対し第二および第三のPPG信号12、13については小さなループまたは輪(strap)によって特徴付けられる完全に発達した重複切痕。
【0021】
図5は、HUTT試験のはじまりおよび失神の発現に近い約1分間の時間期間にわたる、本発明に基づくxy図におけるPPG信号を示している。後者では振動するPPG振幅が観察できる。結果として、xy図における振動するPPGグラフの出現は、患者の心血管状態における有意な変化に関係した、簡単に解釈できる信号パターンである。本発明に基づくある実施形態では、そのようなパターンの出願は、脈波型酸素飽和度計でのようなPPG測定装置において自動ルーチンによって認識できる。これにより、患者をモニタリングするとき、PPG(t)の関数としてのdPPG(t)/dtの自動解析の出力に基づいて、たとえば中央モニタリング・システムに対してアラーム信号を自動的に発することができる。
【0022】
信号の代替的な呈示は、エラーバーなどで表されるPPG信号の分散を加えることによって、与えることができる。ここで、分散は、所定の時間期間にわたるPPG測定から導出される。
【0023】
先述したように、PPG波形の形態は、PPG信号を抽出するときの患者の状態および特定の測定条件、たとえば患者の姿勢変化、患者の物理的活動および腕を上げた場合などの静水圧効果に依存する。そのような条件についての情報は、PPG信号処理において行われる波形の解析および解釈のための追加的情報として使うことができる。一つの例は、患者の姿勢の変化である。患者の横たわる位置もしくは姿勢に比べ患者の立っている位置もしくは姿勢における低下した静脈還流のように心血管調節システムが重力の効果を補償するので、姿勢の変化はPPG波形の形態に有意な影響をもつ。このことは、図6で例示される。図6では、PPG(t)に対するdPPG(t)/dtのグラフの有意な差が、患者の姿勢、この場合には横たわっているか立っているか、の関数として、収縮期および拡張期の両方において現れている。
【0024】
PPG信号のより慎重な解釈を与えるため、本発明のある実施形態では、測定条件に依存して、たとえば患者の姿勢の変化に依存して自動的にPPG曲線を分離することが提案される。PPGグラフの自動的な分離のための情報源として、被験体の姿勢を検出するセンサーの信号、たとえば加速度センサーの信号(ACC)が使われる。該センサーから被験体の姿勢の変化を検出するそれぞれの信号が受信されたら、たとえば、dPPG(t)/dt信号のこの部分に一定値を加えることによってx軸についてオフセットが設定され、それにより、xy図において、異なる姿勢で測定されたdPPG(t)/dt対PPG(t)グラフを分離するために、被験体の以前の姿勢で測定されたdPPG(t)/dt対PPG(t)のグラフから、被験体の別の姿勢で測定されたdPPG(t)/dt対PPG(t)のグラフを分離する。図7はこの方法の例を示しており、横たわっている姿勢および立っている姿勢で取得された二つのdPPG(t)/dt対PPG(t)グラフが、立っている姿勢について取得されたPPGの微分dPPG(t)/dtに所定のオフセットを加えることによって、分離されている。
【0025】
PPG信号の解釈をより堅牢にするため、統計的データに基づく信頼区間が解析結果およびグラフに加えられてもよい。これは、医師がPPG信号における有意な変化と無意味な変化を区別するのを支援することになる。これはxy図において、たとえば図の関連のある領域をハイライトすることによって実装されてもよい。PPG信号の解析において医師をさらに支援するため、実際のdPPG(t)/dt対PPG(t)表現および/または重複切痕のようなそこから抽出された個別的な特性パラメータが、特定の生理条件に関係したdPPG(t)/dt対PPG(t)グラフおよび抽出されたパラメータと比較される。これらの個別的なdPPG(t)/dt対PPG(t)グラフは実際のPPGの背景において、あるいは表示ユニットの別個の領域において呈示されてもよい。
【0026】
本発明のあるさらなる実施形態では、dPPG(t)/dt対PPG(t)表現および/またはそこから抽出されるパラメータは、たとえばいくつかの被験体の統計的調査によって取得され、PPGシステムの記憶媒体に記憶されるPPGデータと比較される。そのような比較は、たとえば一般的な比較アルゴリズムによってシステム中に実装されてもよい。実際のPPGの記憶されたPPGデータとの有意な重なりが検出される場合、システムは、統計的PPGデータとの比較に基づいて、患者の生理状態について医師に提案をすることができる。
【0027】
提案される方法は、コンピュータ・システム上で走るコンピュータ・プログラムによって実現されることができることを理解しておくべきである。コンピュータ・システムは、被験体または患者の組織中の血液の属性を判別することのできるセンサーからデータを受領する適切なインターフェースを備えていてもよい。
【0028】
先述したように、あるさらなる側面によれば、本発明は、PPG信号を処理することのできる光体積記録器測定装置に関する。図8では、本発明に基づく光体積記録器測定装置100の概略図が示されている。たとえば脈波型酸素飽和度計の一部であってもよいそのような光体積記録器測定装置100は、PPGセンサー1と、プロセッサ2と、この実施形態では表示ユニット5とを有する。患者の血液の属性、たとえば患者のある組織中の血液の相対量を判別することのできるPPGセンサー1が、PPGセンサー1から受領されたPPG信号の処理器として作用するプロセッサ2に接続される。プロセッサ2は表示ユニット5、データ記憶装置3およびユーザー・インターフェース4に接続される。プロセッサ2によって処理されるデータが表示ユニット5によって視覚化される一方、データ記憶装置3は処理されたデータを別の時点での解析のために、たとえば該処理されたデータを基準データとして使うために、記憶するよう適応される。ユーザー・インターフェース4は、光体積記録器測定装置100を制御するために使われる。プロセッサ2は、センサー1から受領されたPPG信号の時間微分を計算するよう適応され、PPG信号のこの時間微分をPPG信号自身の関数として解析する。センサー1から受領されたPPG信号は表示ユニット5上で、xy図の第二軸、たとえばy軸に表示され、プロセッサによって計算されたPPG信号の微分は前記xy図の第一軸、たとえばx軸に表示される。表示ユニット5は、PPG信号の関数としてのPPG信号の微分の解析の結果を、たとえば、重複切痕のようなパラメータの形のこの関数の特徴的な特性を表示することによって、パラメータの形で表示してもよい。ユーザー・インターフェース4を用いて、医師は、ある種の臨床コンテキストにおける患者の個別的な必要性のためにPPG信号の最も適切な処理ステップを選ぶことができる。
【0029】
プロセッサ2によって計算された微分は、時間に関するPPG信号の一階微分であってもよいし、より高階の微分であってもよい。そのような微分の計算は、光体積記録器測定装置100上で、プロセッサ上で走るソフトウェアおよび/またはプログラム・コードによって実装されることができる。
【0030】
本発明のある実装では、光体積記録器測定装置100は、実際のPPG信号をたとえばいくつかの被験体の統計的調査によって取得され、光体積記録器測定装置100の記憶装置3に記憶されているPPG信号と自動的に比較するよう適応される。ここで、両方のPPGデータはdPPG(t)/dt対PPG(t)のデータとして表現される。そのような比較は、前記装置によって、たとえばプロセッサ2において実装される一般的な比較アルゴリズムによって実装されてもよい。実際のPPGデータの、記憶されている統計的PPGデータとの有意な重なりが検出されれば、前記装置は、該記憶されている統計的PPGデータとの比較に基づいて、その患者の生理条件についての提案、あるいは可能な生理条件のリストの提案を提供できる。
【0031】
ある実施形態では、dPPG(t)/dt対PPG(t)表現の特定のパターンの出現は、プロセッサ2における自動ルーチンによって認識される。たとえば、dPPG(t)/dt対PPG(t)図における内側の小さなループは重複切痕を表す。患者をモニタリングするとき、これはプロセッサの自動ルーチンの出力に基づいてアラーム信号をたとえば中央モニタリング・ユニットに対して自動的に発することを許容する。
【0032】
図9では、本発明に基づくさらなる光体積記録器測定装置200の概略図が描かれている。一般に、この方式は、図8に示される方式に対応するが、光体積記録器測定装置200はさらに、たとえば加速度(ACC)センサーのような姿勢センサー6を有している。姿勢センサー6はプロセッサ2に接続され、モニタリングされる被験体の姿勢に関係し、これに依存する信号をプロセッサ3に送信することができる。該姿勢データは、dPPG(t)/dt対PPG(t)の形で表されるPPG信号を解析するときに、および/または先述のように該データを表示ユニット5上に表示するためにPPG信号の視覚化データを生成するときに、プロセッサ3によって考慮に入れられることができる。
【0033】
図10の概略図によれば、さらなる光体積記録器測定装置300はさらに、たとえばECGシステムまたは患者の呼吸活動をモニタリングするシステムのセンサーのような第二のセンサー7を有しており、それによりプロセッサ2に入力される追加的データを提供する。そうした追加的データは、dPPG(t)/dt対PPG(t)の形で表されるPPG信号を解析する際に、および/またはPPG信号を表示するための表示データを生成する際に、プロセッサ2によって考慮に入れられることができる。たとえばECGセンサーのようなセンサーは患者モニタリング・システムに普通に統合されているので、こうしたセンサーは、本発明の光体積記録器測定装置300を患者モニタリング・システムに統合するときにも使用されることができる。本発明に基づくある実施形態では、光体積記録器測定装置300は第二のセンサー7によって与えられるデータによってトリガーされる。たとえば、光体積記録器測定装置300はPPG信号を記憶することを、たとえばQRS群の発達後に開始できる。したがって、第二のセンサー信号は、PPG信号をゲーティングまたはトリガーするために使うことができる。また、PPG信号の、第二のセンサー7によって与えられるデータとの相関付けが可能であり、これはさらに、PPG信号の解析および解釈の堅牢さおよび精度を改善する。
【0034】
図11では、本発明のある実施形態に基づくPPG信号のdPPG(t)/dt対PPG(t)表現が示されている。図のようなPPG信号は1分の時間期間にわたって記録される。記録され、表示されたPPGは、患者の心血管状態についての基礎的または初期情報として使われることができる。患者の心血管状態の変化は、実際のdPPG(t)/dt対PPG(t)表現と基礎的または初期dPPG(t)/dt対PPG(t)との間の差を引き起こす。解析され、報告された差は、患者の心血管状態を解釈するために医師によって使用されることができる。
【0035】
提案される装置100、200、300は患者モニタの一部であることができることも理解しておくべきである。
【0036】
まとめると、本発明は光体積記録の分野に関し、特に、臨床シナリオにおいて光体積記録器信号〔フォトプレスチモグラフ信号〕の解析を支援するために光体積記録器信号を処理する方法および装置に関する。ある時間期間にわたって収集された光体積記録器信号の微分が計算される。収集された光体積記録器信号の時間に関する微分が、収集された光体積記録器信号の関数として解析され、あるいは逆に、収集された光体積記録器信号が、収集された光体積記録器信号の時間に関する微分の関数として解析される。
【0037】
本発明は、図面および上記の記述において詳細に図示され、説明されてきたが、そのような図示および説明は、制約するものではなく、例解もしくは例示するものと考えられるべきであり、本発明は開示される実施形態に限定されるものではない。図面、本開示および付属の請求項を吟味することから、特許請求される発明を実施する際に、当業者は開示される実施形態への他の変形を理解し、実施することができる。請求項において、「有する/含む」の語は他の要素やステップを排除するものではなく、単数形の表現は複数を排除するものではない。ある種の施策が互いに異なる従属請求項に記載されているというだけの事実が、それらの施策の組み合わせが有利に使用できないことを示すことはない。請求項に参照符号があったとしても、範囲を限定するものと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から取得された光体積記録器信号を処理する方法であって:
・ある時間期間にわたって前記光体積記録器信号を収集する段階と;
・収集された光体積記録器信号の時間に関する微分を計算する段階と;
・収集された光体積記録器信号の前記微分を、収集された光体積記録器信号の関数として、あるいは逆に収集された光体積記録器信号を、収集された光体積記録器信号の前記微分の関数として解析しする段階とを含む、
方法。
【請求項2】
前記光体積記録器信号の前記微分が、前記収集された光体積記録器信号の時間に関する一階微分である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記解析する段階が、前記収集された光体積記録器信号の関数としての前記収集された光体積記録器信号の前記微分を、第二の光体積記録器信号の関数としての第二の光体積記録器信号の微分と比較することを含み、前記第二の光体積記録器信号は特定の生理条件を表す、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
第一軸が前記収集された光体積記録器信号の前記微分を表し、第二軸が前記収集された光体積記録器信号を表すxy図において、前記収集された光体積記録器信号が遅延させられる、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
異なる時間期間の間に収集された光体積記録器信号がが一つのxy図において表示される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
異なる時間期間に収集された少なくとも二つの光体積記録器信号が、互いに対して前記第一軸上のオフセットをもって前記xyに表示される、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
被験体の姿勢をモニタリングする段階をさらに含み、前記オフセットは前記被験体の姿勢の変化によって誘起される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
・被験体組織内の血液の性質に対応する、ある時間期間にわたる光体積記録器信号を収集するセンサーと、
・前記センサーに接続され、前記センサーからの光体積記録器信号を受け取り、処理するよう適応されたプロセッサとを有する光体積記録器測定装置であって、
前記プロセッサは、前記センサーから受け取られた光体積記録器信号の時間に関する微分を計算し、前記光体積記録器信号の前記微分を前記光体積記録器信号の関数として、あるいは前記光体積記録器信号を前記光体積記録器信号の前記微分の関数として、解析するよう適応されている、
光体積記録器測定装置。
【請求項9】
前記プロセッサが、xy図の少なくとも一部を特徴付けるパラメータを抽出するよう適応されている、請求項8記載の光体積記録器測定装置。
【請求項10】
xy図を表示するための前記プロセッサに接続された表示ユニットをさらに有しており、前記表示ユニット上で前記xy図の第一軸が前記収集された光体積記録器信号の前記微分を表し、前記xy図の第二軸が前記収集された光体積記録器信号を表す、請求項8または9記載の光体積記録器測定装置。
【請求項11】
前記プロセッサが、前記センサーから受け取った前記光体積記録器信号の時間に関する一階微分を計算する、請求項8ないし10のうちいずれか一項記載の光体積記録器測定装置。
【請求項12】
当該光体積記録器測定装置によってモニタリングされる被験体の姿勢を示す姿勢センサーをさらに有しており、前記プロセッサは、前記姿勢センサーからの信号を受け取り、処理するよう適応されている、請求項8ないし11のうちいずれか一項記載の光体積記録器測定装置。
【請求項13】
請求項8ないし12のうちいずれか一項記載の光体積記録器測定装置を有する患者モニタリング・システム。
【請求項14】
請求項1ないし7のうちいずれか一項記載の方法を実行するようコンピュータに命令するコンピュータ・プログラム。
【請求項15】
請求項1ないし7のうちいずれか一項記載の方法をコンピュータに実行させる命令の組を含む、フロッピー(登録商標)ディスク、CD、DVD、ブルーレイ・ディスクまたはランダム・アクセス・メモリ(RAM)のような記憶デバイスのようなコンピュータ可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−514823(P2013−514823A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543936(P2012−543936)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055397
【国際公開番号】WO2011/077294
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】