説明

光偏向器制御装置および光偏向器制御方法

【課題】電気光学結晶に電子注入して生じる電界の大きさの傾斜を利用して光を偏向する場合、許容の範囲内の偏向角になるまでの時間を短縮可能な光偏向器制御装置および光偏向器制御方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態は、電気光学結晶11と、電気光学結晶11の第1の面に配置された正極12と、該第1の面と対向する第2の面に配置された負極13とを備えた光偏向器を制御する。本発明の一実施形態では、正極12、負極13への偏向動作のための電圧を印加する前に、正極12、負極13に対してトラップ準位充填用電圧を印加して(ステップ1003、1006)、偏向動作のための電圧の印加時において、許容範囲内の偏向角を実現するのに必要な、電気光学結晶11に存在するトラップ準位への電子の充填を少なくとも完了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器制御装置および光偏向器制御方法に関し、より詳細には、電気光学結晶への電界印加により生じる光偏向を制御する光偏向器制御装置および光偏向器制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プロジェクターをはじめとする映像機器、レーザプリンタ、高分解能な共焦点顕微鏡、バーコードリーダ、分光器等において、レーザ光を偏向するための光制御素子に対する要求が高まっている。光を偏向する技術として、ポリゴンミラーを回転させる技術、ガルバノミラーにより光の偏向方向を制御する技術、音響光学効果を利用した光回折技術、MEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれるマイクロマシーン技術、プリズム形状に加工した電気光学結晶、またはプリズム形状の電極が形成された電気光学結晶を用いてビームを偏向する技術等が提案されている。
【0003】
その中でも、特許文献1に開示された光の偏向技術は、簡便な構成でビームの偏向を効率的に大きくすることができるので非常に有用な構成である。すなわち、特許文献1に記載された光の偏向技術では、電気光学結晶に電界を印加することにより、電気光学結晶内部に空間電荷を生じさせ、入射する光の光軸に対して垂直な断面に電界の大きさの傾斜を生じさせている。この電界の大きさの傾斜により屈折率変化にも傾斜が生じるので、上記電気光学結晶を伝搬する光は偏向することになる。
【0004】
特許文献1では、電気光学結晶と、該電気光学結晶の対向する2つの面にそれぞれ配置された正極および負極という単純で対称な構造を用いて、大きな偏向角を得ることができる。また、直流電圧に替えて交流電圧を電極間に印加することにより偏向されるビームの偏向角を時間的に変化させることもできる。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/137408号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から明らかなように、光偏向技術においては、特許文献1に記載されたような電気光学結晶に電子注入して電界の大きさの傾斜を生じさせる構成は、当時求められていた出射光の偏向角を大きくする、ということが実現でき、非常に有力である。このような大きな偏向角を得ることの要望が満たされた次の要望として、電圧印加に応じた一定の偏向角を得るまでの時間を短縮したい、という声が挙がっている。
【0007】
すなわち、従来では、電気光学結晶内や電気光学結晶と電極との界面に存在するトラップ準位の影響により、偏向角が一定になるまでに所定の時間を要していた。上記電気光学結晶内部や電気光学結晶と正極や負極との界面に存在する、空のトラップ準位を電子で満たすのにはある程度時間がかかってしまう。従って、偏向させるため電気光学結晶へと電子を注入するために正極および負極に電圧を印加すると、負極から電子が注入されるわけだが、上記空のトラップ準位に電子が満たさせるのに時間を要し、電子(空間電荷)の空間分布が定常状態になるまでに時間がかかってしまう。よって、その間、偏向角が印加電圧の値で一意に定まらない。すなわち、上記空間電荷の空間分布が定常状態になるまで偏向角が安定せず、上記定常状態になるまで所定の時間を要するので、偏向角が印加電圧の値で一意に定まるまで時間がかかる。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、電気光学結晶に電子注入して生じる電界の大きさの傾斜を利用して光を偏向する場合、電気光学結晶への印加電圧の値で一意に定まる偏向角、あるいは許容の範囲内の偏向角になるまでの時間を短縮可能な光偏向器制御装置および光偏向器制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電気光学効果を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光偏向器の動作を制御する光偏向器制御装置であって、前記光偏向器の動作のための第1の電圧を印加させる第1の電圧印加手段と、前記第1の電圧印加時に偏向角が時間軸に対して一定となるように第2の電圧を印加させる第2の電圧印加手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の電圧を印加するタイミングを取得するタイミング取得手段をさらに備え、前記第2の電圧印加手段は、前記タイミング取得手段にて取得されたタイミングの前に前記第2の電圧を印加させることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第2の電圧印加手段は、前記第2の電圧の前回の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、今回の前記第2の電圧の印加を行わせることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の電圧は、前記第2の電圧以上の電圧であり、前記光偏向器の動作の際は、前記第1の電極および第2の電極には、前記第2の電圧以上の電圧である第1の電圧が常に印加されており、前記第2の電圧印加手段は、前記第1の電圧および前記第2の電圧のいずれか一方の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、前記第2の電圧を印加させることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第2の電圧印加手段は、最初に印加された第2の電圧をバイアスとしてかけ続けるように制御することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、電気光学効果を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光偏向器の動作を制御する光偏向器制御方法であって、前記光偏向器の動作のための第1の電圧を印加する第1の電圧印加工程と、前記第1の電圧印加時に偏向角が時間軸に対して一定となるように第2の電圧を印加させる第2の電圧印加工程とを有することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第1の電圧を印加するタイミングを取得するタイミング取得工程をさらに有し、前記第2の電圧印加工程は、前記タイミング取得工程にて取得されたタイミングの前に前記第2の電圧を印加することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第2の電圧印加工程は、前記第2の電圧の前回の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、今回の前記第2の電圧の印加を行わせることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第1の電圧は、前記第2の電圧以上の電圧であり、前記光偏向器の動作の際は、前記第1の電極および第2の電極には、前記第2の電圧以上の電圧である第1の電圧が常に印加されており、前記第2の電圧印加工程は、前記第1の電圧および前記第2の電圧のいずれか一方の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、前記第2の電圧を印加することを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第2の電圧印加工程は、最初に印加された第2の電圧をバイアスとしてかけ続けるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、偏向動作のための電圧印加時に、電気光学結晶のトラップ準位への電子の充填が、許容範囲内の偏向角を出力可能な状態となっているので、偏向動作を開始するまでの時間を短縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
本発明の一実施形態は、KTN(KTa1-xNbx3(0<x<1))やKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1))等の電気光学効果を有する電気光学結晶、および該電気光学結晶に電界を印加するための電極を備え、該電極に電圧を印加することによって生じた電気光学結晶内の屈折率の傾斜により光を偏向する光偏向器を制御するものである。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶を用いた光偏向器の構成を示す図である。
図1において、光偏向器10は、KTNやKLTN等の、方形の電気光学結晶11、電気光学結晶11の第1の面に形成された正極12、および電気光学結晶11の第1の面と対向する第2の面に形成された負極13を備えている。該正極12および負極13は、電気光学結晶11に対してオーミック接触している。また、正極12および負極13は直流電源14に接続されている。該直流電源14は、光偏向器10を制御するための制御部(不図示)に接続されている。
【0022】
図2は、上記制御部の概略構成を示すブロック図である。
この制御部20は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU21と、このCPU21によって実行される、光偏向器に係る各処理などの制御プログラムなどを格納するROM22を有する。また、制御部20は、CPU21の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM23などを有する。また、制御部20には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部24が接続されている。さらに、制御部20には、直流電源14が駆動回路25を介して接続されている。CPU21は、ROM22に格納された処理手順のプログラムに従い、駆動回路25を介して直流電源14の駆動を制御する。
【0023】
このような構成において、正極12および負極13に電圧を印加すると、正極12および負極13はオーミック接触しているので、負極13から電気光学結晶11へと電子が注入され、電気光学結晶11中に空間電荷が生じる。この空間電荷により、電気光学結晶11中に電界の大きさの傾斜が発生し、該電界の大きさの傾斜により屈折率の傾斜が生じる。よって、このとき入射光が電気光学結晶11に入射すると、上記屈折率の傾斜によって出射光は偏向する。
【0024】
このようにして、電気光学結晶11と、正極12および負極13という単純で対称な構造を用いて、大きな偏向角を得ることができる。また、直流電圧に替えて交流電圧を電極間に印加することにより偏向されるビームの偏向角を時間的に変化させることもできる。
【0025】
さて、電気光学結晶11の内部や、電気光学結晶11と正極12、負極13との界面にはトラップ準位が存在する。
図3は、電気光学結晶内部や、電気光学結晶と電極との界面にトラップ準位が存在することを説明するためのエネルギーバンド図である。
図3に示される通り、電極から電気光学結晶への電子の注入(電荷注入)がなされていない場合、トラップ準位31の一部は電子32で満たされているものの、空のトラップ準位も存在する。すなわち、図1で言えば正極12、負極13に電圧が印加されていない場合、電気光学結晶11内部や電気光学結晶11と正極12、負極13との界面に存在するトラップ準位には空のトラップ準位が存在している。
【0026】
次いで、電極にある電圧VTFL(後述する)以上の電圧を印加すると、印加電圧と電流との関係がオームの法則から外れ、電極から電気光学結晶へと大量の電子が注入される。そして、該注入された電子の一部は上記空のトラップ準位に捕獲され始める。すなわち、図1で言えば、電圧VTFL以上の電圧印加により負極13から電気光学結晶11へと電子が注入され、この注入された電子の一部が空のトラップ準位を充填していく。
【0027】
例えば、ある時刻に電極間に電圧印加(>VTFL)を開始し、電子を電極から電気光学結晶へと注入すると、図4に示すように、注入された電子41の一部はトラップ準位31のうち空のものに捕獲され、多くのトラップ準位31が注入された電子41によって満たされる。
【0028】
本明細書では、存在する空のトラップ準位の数がどうであれ、VTFL以上の所定の電圧を印加し始めてから、電気光学結晶内部および電気光学結晶と該電気光学結晶に接する電極との界面に存在する空のトラップ準位の略全てが、注入された電子によって満たされるまでに要する時間をTfilledと呼ぶことにする。このTfilledは、電気光学結晶内部や電気光学結晶と電極との界面に存在する空のトラップ準位の数によって決まるものであり、一意の時間ではない。すなわち、VTFL以上の所定の電圧を印加したときに、空のトラップ準位が多く存在する場合は、Tfilledは長くなるし、空のトラップ準位があまり存在しない場合は、Tfilledは短くなる。
【0029】
上記のようにトラップ準位がほぼ満たされた後(Tfilled経過後)は、図5(a)および(b)に示すように、電気光学結晶11中の電子(空間電荷)の空間分布および電界の空間分布は時間に依らなくなる。光偏向器10の偏向角は、電圧印加による、電気光学結晶11内の電界の空間分布(電界傾斜の分布)で決定されるため、図5(b)のように電界の空間分布が時間に依らなくなればなるほど、偏向角の時間による変化も小さくなる。すなわち、偏向角が印加電圧の値で一意に決まるようになる。この様子を図6(b)に示す。
【0030】
図6(a)は、正極12および負極13に対して印加した電圧の時間変化を示す図であり、図6(b)は、正極12および負極13への印加電圧が図6(a)に示すように時間変化する場合の、偏向角の経時変化を示す図である。
【0031】
入力操作部24を介してユーザにより偏向動作の指示が入力されると、CPU21は、直流電源14を駆動し、正極12および負極13によって電気光学結晶11に対して電圧Vを時間tだけ印加するように制御する。すなわち、上記ユーザ入力に応じて、図6(a)に示すように、時刻0において電圧Vが正極12および負極13に印加され、時刻tに電圧印加を終了する。
【0032】
このとき、電圧VがVTFL以上であれば電極から電気光学結晶へと電子が大量に注入されるので、図6(b)において時刻0から時刻t(t<t)までの時間がTfilledとなり、負極13から電気光学結晶11へと注入された電子が、電気光学結晶11に存在する空のトラップ準位を満たしていき、時刻t(Tfilled経過後)に、トラップ準位の略全てが電子によって充填される。そして、時刻tから時刻tまでは、電気光学結晶11中の電子密度や電界の大きさが図5(a)および(b)のようになるので、偏向角が時間に依らず一定の値となる。すなわち、電圧V(≧VTFL)によって一意に決まる偏向角を得ることができる。
【0033】
そして、時刻tにおいて、図6(a)に示す通り、電極への電圧印加をoffする場合を考えてみる。このように印加電圧をoffすると、図7に示すように、電気光学結晶の伝導帯に存在する電子は比較的速やかに電極へと移動し、無くなる。
【0034】
しかしながら、トラップ準位31に充填された電子71はトラップ準位に捕獲されたままである。すなわち、トラップ準位31に捕獲されている電子71は、熱再放出によりトラップ準位31から飛び出すわけだが、電子71のトラップ準位31からの飛び出しが終了するまでに時間Tdetrapかかる。すなわち、図6(b)において、時刻tから時間Tdetrap経過後のt(t<t)までの間は、正極12および負極13に対して電圧が印加されていない、すなわち、VTFL以上の電圧が印加されていないので、トラップ準位に捕獲された電子のうち、熱再放出によってトラップ準位から電子が飛び出していき、時間の経過と共に、トラップ準位に満たされている電子の数が徐々に減少する。
【0035】
そして、時刻tになると、図8に示すように、熱再放出によるトラップ準位31からの電子の放出が終了する。なお、図3において説明したように、上記電子の放出が終了しても、トラップ準位31の一部には電子が満たされていることもある。
【0036】
時刻t以降のトラップ準位の状態は、時刻0以前のトラップ準位と同等であるので、時刻t以降に再度、偏向のための電圧を印加すると、時間Tfilledだけ経過するまで偏向角は図6(b)に示すように安定しない。すなわち、安定した偏向角を得るためには、該安定した偏向角を実現するためにトラップ準位の略全てを電子で満たすのに必要な時間Tfilledだけ時間がかかることになる。
【0037】
また、本発明の一実施形態においては、出力される偏向角の精度が高くなくても良い場合、すなわち、最も安定な偏向角でなくてもある程度の偏向角の不安定さは許容する場合もある。すなわち、電圧を印加して時間Tfilledだけ時間が経過すると、図6(b)に示すように、安定した偏向角θが出力されるようになるが、場合によっては、偏向角θと偏向角θとの間であれば偏向角の精度として許容される場合もある。
【0038】
上述からも分かるように、トラップ準位への電子の充填と偏向角とは関係しており、電圧V(≧VTFL)を印加している時、ある偏向角に着目すると、該偏向角に応じた電子がトラップ準位に充填されていることになる。例えば、最も安定した偏向角を出力する場合は、トラップ準位の略全てが電子によって充填されていて、トラップ準位に対する、電子の充填と電子の熱再放出とが平衡状態にあると言える。また、実現される偏向角が安定していない場合は、ある瞬間のトラップ準位への電子の充填状態と、その次の瞬間のトラップ準位への電子の充填状態とが異なっており、偏向角が時間と共に変化する。
【0039】
従って、上記偏向角の不安定さをある程度許容する場合は、不安定さとして許容される偏向角に対応するトラップ準位への電子の充填(捕獲)が実現されていれば良い。よって、この場合も、許容される偏向角を得るためには、該許容される偏向角に対応するトラップ準位への電子の充填が少なくとも完了するのに必要な時間Tcompだけ時間がかかる。
【0040】
本発明の一実施形態では、偏向動作において、例えば、時間Tfilledや時間Tcompといった、許容される範囲内の偏向角を実現するのに必要なトラップ準位への電子の充填が完了するまでの時間の経過を待たなくても上記許容の範囲内の偏向角の実現を可能にすることを本質としている。そのために、本発明の一実施形態では、偏向のための電圧が印加される前の段階で、電気光学結晶に電圧を印加するための電極にVTFL以上の電圧を印加して、予め必要なトラップ準位の電子の充填状態を実現しておくべく、必要な分だけトラップ準位を電子で充填しておく。
【0041】
このように、偏向のための電圧印加に先立って、トラップ準位の電子の捕獲(充填)状態を少なくとも最低限の偏向角の精度が達成できる状態にしておくことにより、偏向のための電圧印加時に、許容範囲内の偏向角の出力を実現することができる。
【0042】
ここで、電圧VTFLは、図1に示す光偏向器10など、対向する2面に電極が配置された電気光学結晶を備える光偏向器に電圧を印加した場合の電流電圧特性を測定し、電流が電圧に比例する領域からずれてくる電圧として、実験的に求めることができる。
【0043】
図9は、本発明の一実施形態に係る、電圧VTFLの求め方を説明するための図であり、電気光学結晶11としてKTNを用いた場合の、電流電圧特性のlog−logプロットを示す図である。
図9において、領域91は、正極12および負極13に電圧を印加した際の、電流が電圧に比例する電圧の範囲であり、領域92は、正極12および負極13に電圧を印加した際の、電流が電圧の2乗に比例する電圧の範囲である。
【0044】
図9から分かるように、正極12および負極13に電圧を印加すると、領域91の範囲内では印加電圧と電流とは比例関係にある。すなわち、印加電圧と電流とはオームの法則に従っている。このとき、電圧を大きくしていき、電圧93になると印加電圧と電流との関係がオームの法則から外れる。印加電圧と電流との関係がオームの法則に従っている領域91においては、負極13から電気光学結晶11へと電子の注入は微量にはあるが、無視できる程度である。しかしながら、電圧93以上となると、負極13から電気光学結晶11へと電子が大量に注入されることになる。本発明の一実施形態では、この電圧93が電圧VTFLとなる。
【0045】
すなわち、本明細書において、「電圧VTFL」とは、光偏向器が備える電極に印加される電圧と電流との関係を測定した際に、印加電圧と電流とが比例状態から外れる電圧であって、印加電圧と電流との関係がオームの法則に従っている際に電極から電気光学結晶へと注入される電子よりも大量に、電極から電気光学結晶へと電子を注入させ、空間電荷制限状態になる電圧を指す。
【0046】
すなわち、本発明の光偏向器においては、光偏向を実現するために、電圧印加時に、電気光学結晶内に空間電荷を分布させ、電界の大きさの傾斜を生じさせることが重要であり、そのために所定の電圧印加によって電極から電気光学結晶へと電子を注入させる必要がある。上述したように、印加電圧と電流との関係がオームの法則に従っている場合においても、電極から電気光学結晶へと微量の電子が注入されることになるが、これは無視できるほど小さいものである。しかしながら、印加電圧と電流との関係がオームの法則から外れると、電極から電気光学結晶へと十分な電界の大きさの傾斜が実現できるほどの電子が注入され、該注入された電子の一部がトラップ準位に捕獲される(充填される)ことになる。本発明の一実施形態では、偏向のための電圧印加の前に、所望の範囲の偏向角(許容の範囲内の偏向角)を実現するためのトラップ準位への電子の捕獲状態(充填状態)を形成しておく必要があり、該捕獲状態を形成するために、大量の電子注入が必要になる。すなわち、印加電圧と電流との関係がオームの法則から外れる際の電子注入が必要となり、本発明の一実施形態では、オームの法則から外れる際の電圧を電圧VTFLとしているのである。
【0047】
KTNといった電気光学結晶を有する偏向器では、VTFL以上の電圧を印加してからTfilledまでは偏向角は時間変動し、それ以上の時間が経過すると安定する。さらに、電界off後もすぐには偏向角が0とはならず、有限の時間で0に近づく。そこで、本発明の一実施形態では、光偏向器に用いる電気光学結晶や該電気光学結晶に電圧を印加するための電極に応じて、VTFLを求め、該VTFL以上の所定の電圧を印加する際の偏向角の時間依存性を測定することにより、図6(b)に示すような偏向角の時間依存性を得ることができ、該偏向角の時間依存性からTfilled、Tcomp、Tdetrapを求めることができる。
【0048】
なお、上記KTN、KLTNは、電界を結晶軸方向に印加すると、大きな二次の電気光学効果を示す。その値は2×10−14/Vにもなり、100V/mmのDCバイアス時に非線形定数は2000pm/V以上となり、1次の電気光学効果を有する材料であるLiNO(LN)の有する非線形定数30pm/Vに比べて著しく大きい。さらに、KTN、KLTNは、TaとNbの組成比を変化させることにより、常誘電性から強誘電性への相転移温度を、ほぼ絶対零度から400℃まで変化させることが可能である。従って、温度コントローラを用いなくても、動作温度を室温等、所望に設定することができる。このように、KTNやKLTNは、光偏向器に対して好ましい材料である。
【0049】
その他に、本発明の一実施形態では、例えば、LiNbO3、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrNb26(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb26、Pb1-yLaTi1-xZr3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB24、LiB35、CsLiB610、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnOの電気光学結晶を用いることができる。
【0050】
(第1の実施形態)
本発明の一実施形態は、例えば、偏向を行う時間を予め設定してある分光器や、所定の時間になったら偏向動作を行うディスプレイ等、偏向のための電圧印加を行うタイミングが予め設定されている構成に適用することができる。本実施形態では、制御部が、偏向のための電圧印加を行うタイミングを認識している形態について説明する。
図10は、本実施形態に係る、光偏向の制御に対するフローチャートである。また、図13は、本実施形態の光偏向の制御における偏向角の経時変化を示す図である。なお、図13において、実線は、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧(偏向動作電圧)よりも大きい場合の偏向角の時間依存性を示している。また、破線は、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧(偏向動作電圧)よりも小さい場合の偏向角の時間依存性を示している。
なお、図10においては、例として、図13の偏向角θの偏向角を実現する場合であり、2回の偏向動作を行い、該2回の各々の偏向動作を実行するタイミングが予め設定されるものとする。よって、RAM23には、2回のそれぞれに対する偏向動作を行う時刻が保持されるものとする。また、制御部は、時計をさらに備えている。
【0051】
なお、図10では、制御部が、2回の偏向動作のタイミングを予め認識している場合について説明したが、偏向動作は2回に限らない。すなわち、本実施形態は、制御部が認識している偏向のための電圧印加のタイミングの前に、許容範囲内の偏向角を実現するための準備としての電圧印加(トラップ準位充填用電圧の印加)を行うものであり、偏向のための電圧印加の回数は、上記2回に限らず、1回であっても良いし、3回以上であっても良いのである。
【0052】
本実施形態では、後述するトラップ準位充填用電圧が、偏向動作のための電圧よりも大きい場合について説明する。
【0053】
ステップ1001では、CPU21は、ユーザ入力に基づいて、偏向動作を行うタイミングを取得する。すなわち、ユーザが時刻Tに、入力操作部24を介して、第1回目の偏向動作を実行する時刻T(>T)および第2回目の偏向動作を実行する時刻T(>T)を入力すると、CPU21は、該入力された時刻TおよびTを第1のタイミングおよび第2のタイミングとしてRAM23に格納する。
ステップ1002では、CPU21は、RAM23から第1回目の偏向動作を行う時刻Tを取得する。
【0054】
ステップ1003では、CPU21は、時計を参照して、図13に示すように、ステップ1002にて取得された時刻Tよりも時間Tfilled前(時刻Ta1;Ta1<T)になったら、電圧VTFL以上の所定の電圧(以下、“トラップ準位充填用電圧”とも呼ぶ)を時間Tfilledだけ正極12および負極13に印加するように制御する。すなわち、CPU21は、偏向動作のための電圧印加時に、実現される偏向角が時間軸に対して一定となるようにトラップ準位充填用電圧を印加するように制御する。このように予めトラップ準位充填用電圧を印加することにより、偏向角が時間依存を持たないようにトラップ準位が略充填されることになる。
【0055】
本実施形態では、上述のように、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧よりも大きいので、時刻Ta1からTfilled後の時刻Tにおいてはトラップ準位に電子が略充填されていると共に、伝導帯には、偏向動作のための電圧が印加された場合よりも多くの電子が存在する。よって、時刻Ta1にてトラップ準位充填用電圧を印加してからTfilled経過後に実現される偏向角θは、偏向動作時に実現したい偏向角θよりも大きくなる。
【0056】
ステップ1004では、CPU21は、時刻Tになったら、第1回目の偏向動作のための電圧を電気光学結晶11に印加するように制御する。このとき、トラップ準位充填用電圧から偏向動作のための電圧へと印加電圧が変更されることに応じて、伝導帯の電子状態もトラップ準位充填用電圧印加時から偏向動作のための電圧印加時に変わる。偏向動作のための電圧を印加した際に実現される偏向角がθなので、図13に示すように、時刻Tにおいて偏向角もθからθに不連続に変わる。
【0057】
なお、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧と等しい場合は、偏向角θは偏向角θに等しくなるので、実現される偏向角は時刻Tにおいて連続的に変わる。
【0058】
本実施形態では、ステップ1004の前の段階ですでに、印加電圧が偏向動作のための電圧の時の偏向角として許容範囲内の偏向角である偏向角θの偏向角を実現可能な状態になっているので、正極12、負極13に偏向のための電圧を印加するタイミングにおいて、待ち時間無しで所望の偏向角を実現することができる。
【0059】
ステップ1005では、CPU21は、RAM23から第2回目の偏向動作を行う時刻Tを取得する。
【0060】
ステップ1006では、CPU21は、時計を参照して、ステップ1005にて取得された時刻Tよりも時間Tfilled前(時刻Ta2;Ta2<T)になったら、トラップ準位充填用電圧を時間Tfilledだけ正極12および負極13に印加するように制御する。
【0061】
ステップ1007では、CPU21は、時刻Tになったら、第2回目の偏向動作のための電圧を電気光学結晶11に印加するように制御する。本実施形態では、ステップ1007の前の段階ですでに、印加電圧が偏向動作のための電圧の時の偏向角として許容範囲内の偏向角である偏向角θの偏向角を実現可能な状態になっているので、正極12、負極13に偏向のための電圧を印加するタイミングにおいて、待ち時間無しで所望の偏向角を実現することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、偏向角として安定した偏向角θを実現する場合について説明したが、用いるシステムによっては、安定した偏向角θからある程度範囲を持った偏向角の範囲(θとθとの間の偏向角)を許容できる場合もある。すなわち、本実施形態では、システムによっては、安定した偏向角θの80%以上の偏向角での動作は問題にならない。この場合は、ステップ1003および1006において、T、Tの時間Tcomp前になる際にトラップ準位充填用電圧を印加すれば良い。
【0063】
このように、本実施形態では、制御部が予め偏向動作のタイミング(偏向のための電圧印加のタイミング)を認識している場合、該タイミングよりも、時間TfilledあるいはTcompだけ先立って電圧VTFL以上の電圧を印加しているので、所望の偏向動作時において、所望の精度の偏向角を実現することができる。
【0064】
なお、上述の説明では、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧よりも大きい場合について説明したが、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧よりも小さい場合であっても良い。この場合は、図13に示されるように、トラップ準位充填用電圧を印加する時刻Tb1、Tb2はそれぞれ、時刻Ta1、Ta2よりも早くなる。すなわち、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧よりも小さい場合のTfilledは、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧よりも大きい場合のTfilledよりも大きくなる。
【0065】
また、トラップ準位充填用電圧が偏向動作のための電圧よりも小さい場合、時刻Tb1からTfilled後の時刻Tにおいてはトラップ準位に電子が略充填されていると共に、伝導帯には、偏向動作のための電圧が印加された場合よりも少ない電子が存在することになる。よって、時刻Tb1にてトラップ準位充填用電圧を印加してからTfilled経過後に実現される偏向角θは、偏向動作時に実現したい偏向角θよりも小さくなる。よって、図13に示すように、時刻Tにおいて偏向角もθからθに不連続に変わる。
【0066】
(第2の実施形態)
本実施形態では、偏向動作がどのタイミングで行うかを制御部が予め認識していない形態について説明する。すなわち、本実施形態では、偏向動作の如何に依らず、電圧VTFL以上の電圧を、許容範囲内の偏向角を実現するのに必要な電子の充填状態を少なくとも実現する時間だけ印加した後から所定時間経過したら(ある規則に従って)電圧VTFL以上の電圧を印加するか、あるいは、装置の電源投入時または第1回目のトラップ準位充填用電圧の印加時から常にトラップ準位充填用電圧を印加し続けることにより、偏向のための電圧印加時にはいつでも、許容範囲内の偏向角の出力を可能とするものである。
【0067】
図11は、本実施形態に係る、光偏向の制御に対するフローチャートである。図11では、前回のトラップ準位充填用電圧の印加終了後から、その間の偏向動作のための電圧の印加に関係なく、後述する所定の経過時間経過後に次のトラップ準位充填用電圧を印加する形態について説明する。
なお、図11においても図10と同様、例として、図15、図16の偏向角θ〜θの偏向角を実現する場合について説明する。また、制御部はタイマをさらに備えている。
【0068】
ステップ1101において、CPU21は、光偏向器10の電源が投入されると、トラップ準位充填用電圧を時間Tfilledだけ正極12および負極13に印加するように制御する。このとき、CPU21は、トラップ準位充填用電圧の印加が終了した後にタイマを起動して、該トラップ準位充填用電圧の印加終了後からの経過時間の計測を開始する。
【0069】
ステップ1102では、CPU21は、ユーザが偏向動作に関する指示を入力したか否かを判断する。ユーザが入力操作部24を介して偏向動作を指示する場合は、CPU21は、該ユーザ入力に基づいて偏向動作の指示があると判断してステップ1103に進み、ユーザが偏向動作を指示するユーザ入力が無いと判断するとステップ1104に進む。
【0070】
ステップ1103では、CPU21は、偏向動作のための電圧を正極12および負極13に印加するように制御する。本実施形態では、電源投入と共にトラップ準位充填用電圧を時間Tfilledだけ印加するようにしているので、電源投入後の偏向動作の指示の入力時には、印加電圧がトラップ準位充填用電圧の時の偏向角がθの偏向角を実現するための準備が整っており、偏向のための電圧を待ち時間無く印加することができる。
【0071】
ステップ1104では、ステップ1101にて起動されたタイマを参照して、前回のトラップ準位充填用電圧の印加終了から現在までで、所定の経過時間が経過したか否かの判断を行う。所定の経過時間が経過していないと判断する場合は、ステップ1102に戻る。一方、所定の経過時間が経過していると判断する場合は、ステップ1105に進む。
【0072】
なお、上記所定の経過時間とは、該時間内であれば、許容範囲内の偏向角(ここでは、θ〜θ)が実現可能な時間を指す。上述したように、トラップ準位充填用電圧といった電圧VTFL以上の電圧印加をoffすると、熱再放出により、トラップ準位から電子が時間の経過と共に徐々に放出され、やがて許容範囲の偏向角が実現できないようになる。すなわち、許容範囲内の偏向角が実現できる期間は決まっており、この期間を所定の経過時間と呼ぶのである。なお、上記所定の経過時間は、実現したい偏向角の範囲や用いる電気光学結晶の材料に応じて実験的に求めることができる。
【0073】
ステップ1105では、CPU21は、トラップ準位充填用電圧を時間Tfilledだけ正極12および負極13に印加するように制御する。このとき、CPU21は、現在のタイマに計測された時間をリセットし、トラップ準位充填用電圧の印加が終了した後に再びタイマを起動して、VTFL以上の所定の電圧であるトラップ準位充填用電圧の印加終了後からの経過時間の計測を開始する。このように、所定の経過時間毎に、許容範囲内の偏向角の実現に対する準備のための電圧(電圧VTFL以上の電圧)を少なくとも時間Tfilledだけ印加しているので、いつ偏向動作の指示があっても、偏向のための電圧印加時において所望のトラップ準位の電子の充填状態を実現しておくことができる。
【0074】
ステップ1106では、ステップ1102と同様にして、CPU21は、ユーザが偏向動作に関する指示を入力したか否かを判断する。ユーザが入力操作部24を介して偏向動作を指示する場合は、CPU21は、該ユーザ入力に基づいて偏向動作の指示があると判断してステップ1108に進み、ユーザが偏向動作を指示するユーザ入力が無いと判断するとステップ1107に進む。
【0075】
ステップ1107では、CPU21は、タイマを参照して、前回のトラップ準位充填用電圧の印加終了時からの経過時間を取得し、該取得された経過時間が所定の経過時間よりも経過しているか否かを判断する。経過していると判断する場合は、トラップ準位への電子の充填が必要であるので、ステップ1105に進む。一方、経過していないと判断する場合は、現在の状態で偏向動作の指示があっても、許容範囲内の偏向角の出力が可能であるので、ステップ1106に進む。
【0076】
ステップ1108では、CPU21は、偏向動作のための電圧を正極12および負極13に印加するように制御する。本実施形態では、本ステップの前の段階でトラップ準位に、許容範囲内の偏向角を実現可能なほどに電子が充填されているので、偏向のための電圧を待ち時間無く印加することができる。
【0077】
ステップ1109では、CPU21は、光偏向器10の電源オフに関するユーザ入力があるか否かを判断する。電源オフがユーザにより指示されている場合は、CPU21は、電源オフに関する制御を行い終了する。一方、電源オフがユーザにより指示されていない場合は、ステップ1110に進む。
【0078】
ステップ1110では、CPU21は、タイマを参照して、前回のトラップ準位充填用電圧の印加終了時からの経過時間を取得し、該取得された経過時間が所定の経過時間よりも経過しているか否かを判断する。経過していると判断する場合は、トラップ準位への電子の充填が必要であるので、ステップ1105に進む。一方、経過していないと判断する場合は、現在の状態で偏向動作の指示があっても、許容範囲内の偏向角の出力が可能であるので、ステップ1106に進む。
【0079】
図14(a)、(b)〜図16(a)、(b)を用いて、本実施形態に係る、偏向動作のための電圧を任意の時間に印加する際の偏向角の時間依存性を説明する。
図14(a)は、偏向動作のための電圧を印加しない時のトラップ準位充填用電圧の時間依存性を示す図であり、図14(b)は、図14(a)に示すタイミングでトラップ準位充填用電圧を印加する際の実現される偏向角の時間依存性を示す図である。
図14(a)において、時刻0(=Tβ1)になったら、トラップ準位充填用電圧VfilledをTfirst-filledだけ印加する。この時間からトラップ準位に電子が充填されていくので、実現される偏向角は時間の経過と共に増加し、時刻Tα1(Tfirst-filled経過後)になると、トラップ準位はほぼ電子によって充填された状態となると共に、電導帯にも多数の電子が存在することになる。このときに実現される偏向角をθ’とする。
【0080】
なお、本明細書において、「Tαn(n;自然数)」とは、トラップ準位充填用電圧をoffする時刻を指し、「Tβn(n;自然数)」とは、トラップ準位充填用電圧の印加を開始する時刻を指す。
【0081】
時刻Tα1において電圧をoffすると、伝導帯に存在する電子が無くなるので、図14(b)に示すように実現される偏向角は急峻に小さくなり(偏向角θ’’)、その後、トラップ準位から徐々に電子が再放出されるので、実現される偏向角は徐々に小さくなる。このとき、時刻Tα1から所定の時間経過後に次のトラップ準位充填用電圧を印加することにより、上記再放出された分の電子を再び充填することができる。よって、図14(a)に示すように、時刻Tα1から所定の時間経過後の時刻であるTβ2になったら、トラップ準位充填用電圧Vfilledを、Tsecond-filledだけ印加する。
【0082】
なお、上述したように、Tfilledは、トラップ準位の電子の充填状況がどうであれ(略空であろうと、所定のトラップ準位に充填されていようと)、VTFL以上の所定の電圧を印加し始めてから、空のトラップ準位が略全て電子によって充填されるまでに要する時間である。従って、略全てのトラップ準位が空の場合にトラップ準位充填用電圧を印加する場合(時刻Tβ1)は、充填すべきトラップ準位の数が多いので、トラップ準位充填用電圧を印加する時間は相対的に大きくなる。一方、トラップ準位のほとんどが電子によって充填されている場合にトラップ準位充填用電圧を印加する場合(時刻Tβ2、時刻Tβ3、時刻Tβ4)は、充填すべきトラップ準位の数が少ないので、トラップ準位充填用電圧を印加する時間は相対的に小さくなる。このように、トラップ準位充填用電圧を印加する際のトラップ準位の充填状況によって相対的にTfilledは変わるので、Tfirst-filledがTsecond-filledよりも大きくなる。
【0083】
図14(b)において、時刻Tβ2においてトラップ準位充填用電圧Vfilledを印加すると実現される偏向角が急峻に大きくなるが、これは、トラップ準位充填用電圧の印加により伝導帯に電子が流れ込んだためである。すなわち、電圧印加により該伝導帯に存在するようになった電子により偏向角が大きくなるのである。そして、時刻Tβ2から時刻Tα2までの時間に、空いたトラップ準位に電子が充填されていく。
【0084】
本実施形態では、前回のトラップ準位充填用電圧のoff時である時刻Tα1と次回のトラップ準位充填用電圧の印加開始時である時刻Tβ2との間の時間を、所定の経過時間以内に設定しているので、時刻Tα1にてトラップ準位充填用電圧がoffされても、トラップ準位には許容された偏向角を安定して実現できるほどの電子が充填されることになる。従って、図15(a)、(b)、および図16(a)、(b)にて後述するように、いつ偏向動作が行われるとしても、許容範囲内の安定した偏向角を実現することができる。
【0085】
図15(a)は、偏向動作のための電圧を印加する時(偏向動作のための電圧がトラップ準位充填用電圧よりも大きい場合)の印加電圧の時間依存性を示す図であり、図15(b)は、図15(a)に示すタイミングで電圧を印加する際に実現される偏向角の時間依存性を示す図である。また、図16(a)は、偏向動作のための電圧を印加する時(偏向動作のための電圧がトラップ準位充填用電圧よりも小さい場合)の印加電圧の時間依存性を示す図であり、図16(b)は、図16(a)に示すタイミングで電圧を印加する際に実現される偏向角の時間依存性を示す図である。
【0086】
図15および図16において、「Vactive」は、偏向動作のための電圧を指し、「Tactive」は、偏向動作のための電圧Vactiveの印加時間を指す。
【0087】
図15(a)、(b)を用いて、偏向動作のための電圧Vactiveがトラップ準位充填用電圧Vfilledよりも大きい場合の、偏向動作のための電圧を任意の時間に印加する際の偏向角の時間依存性について説明する。
図15(a)において、符号1501は、偏向動作のための電圧Vactiveをトラップ準位充填用電圧が印加される直前(時刻Tβ2)に印加する場合の偏向動作のための電圧であり、符号1502は、偏向動作のための電圧Vactiveをトラップ準位充填用電圧がoffされた直後(時刻Tα3)に印加する場合の偏向動作のための電圧であり、符号1503は、偏向動作のための電圧Vactiveをトラップ準位充填用電圧がoffされてある時間経過後に印加する場合の偏向動作のための電圧である。
【0088】
図15(b)において、偏向動作のための電圧1501が印加される場合は、時刻Tβ2において、トラップ準位充填用電圧Vfilledの代わりに、偏向動作のための電圧Vactiveが印加されるのだが、図14にて説明したように、時刻Tβ2においては、トラップ準位からは多少は電子が再放出されているが、実現したい偏向角θから許容範囲(図15(b)では偏向角θ〜θ)の偏向角を実現できるほどの電子はトラップ準位に充填されている。よって、時刻Tβ2において偏向動作のための電圧Vactiveを印加しても、少なくとも偏向角θは実現でき、その後Tactiveの間に空いているトラップ準位が電子により充填され、これにより偏向角θを実現することができる。
【0089】
また、偏向動作のための電圧1502が印加される場合は、時刻Tα3において、トラップ準位充填用電圧Vfilledはoffされるが、偏向動作のための電圧Vactiveが印加される。このときは、トラップ準位には電子が略充填されているので、偏向動作のための電圧1502において偏向角θを実現することができる。
【0090】
さらに、偏向動作のための電圧1503が印加される場合は、トラップ準位充填用電圧Vfilledは印加されていないが、前回のトラップ準位充填用電圧のoff時から所定の経過時間内であるので、トラップ準位からは多少は電子が再放出されているが、実現したい偏向角θから許容範囲の偏向角を実現できるほどの電子はトラップ準位に充填されている。従って、この場合においても、偏向動作のための電圧1503の印加時において、トラップ準位には十分な電子が充填されており、偏向角θとθとの間の偏向角を実現することができる。そして、偏向動作のための電圧1503により空のトラップ準位に電子が充填されて偏向角θを実現することができる。
【0091】
また、図16(a)、(b)を用いて、偏向動作のための電圧Vactiveがトラップ準位充填用電圧Vfilledよりも小さい場合の、偏向動作のための電圧を任意の時間に印加する際の偏向角の時間依存性について説明する。
図16(a)において、符号1601は、偏向動作のための電圧Vactiveをトラップ準位充填用電圧が印加される直前(時刻Tβ2)に印加する場合の偏向動作のための電圧であり、符号1602は、偏向動作のための電圧Vactiveをトラップ準位充填用電圧がoffされた直後(時刻Tα3)に印加する場合の偏向動作のための電圧であり、符号1603は、偏向動作のための電圧Vactiveをトラップ準位充填用電圧がoffされてある時間経過後に印加する場合の偏向動作のための電圧である。
【0092】
図16(b)において、偏向動作のための電圧1601が印加される場合は、時刻Tβ2において、トラップ準位からは多少は電子が再放出されている。しかしながら、上述のように、実現したい偏向角θから許容範囲内の偏向角θを実現できるほどの電子はトラップ準位に充填されている。よって、時刻Tβ2において偏向動作のための電圧Vactiveを印加しても、少なくとも偏向角θは実現でき、その後Tactiveの間に空いているトラップ準位が電子により充填され、これにより偏向角θを実現することができる。
【0093】
また、偏向動作のための電圧1602が印加される場合は、時刻Tα3において、トラップ準位充填用電圧Vfilledはoffされるが、偏向動作のための電圧Vactiveが印加される。このときは、トラップ準位には電子が略充填されているので、偏向動作のための電圧1602において偏向角θを実現することができる。
【0094】
さらに、偏向動作のための電圧1603が印加される場合は、トラップ準位充填用電圧Vfilledは印加されていないが、前回のトラップ準位充填用電圧のoff時から所定の経過時間内であるので、トラップ準位からは多少は電子が再放出されているが、実現したい偏向角θから許容範囲の偏向角を実現できるほどの電子はトラップ準位に充填されている。従って、この場合においても、偏向動作のための電圧1603の印加時において、トラップ準位には十分な電子が充填されており、偏向角θとθとの間の偏向角を実現することができる。そして、偏向動作のための電圧1603により空のトラップ準位に電子が充填されて偏向角θを実現することができる。
【0095】
このように本実施形態では、トラップ準位充填用電圧といった、電圧VTFL以上の所定の電圧を印加した後の所定の経過時間後にトラップ準位充填用電圧を印加するようにしているので、偏向動作の指示がいつ入力されても、常に電気光学結晶内のトラップ準位への電子の充填を、許容範囲内の偏向角を実現できるような状態にしておくことができる。
【0096】
なお、本実施形態では、上述のように、偏向動作の指示の如何に依らず、許容範囲内の偏向角を実現可能にすることが重要である。よって、前回のトラップ準位充填用電圧の印加終了後から所定の経過時間経過後、あるいは経過する前に次のトラップ準位充填用電圧をかける形態ばかりではなく、最初に印加したトラップ準位充填用電圧をバイアスとして常に印加するようにしても良い。この場合は、CPU21は、光偏向器10の電源が投入されると、トラップ準位充填用電圧をバイアスとして正極12および負極13に印加するように制御するようにすれば良い。あるいは、トラップ準位充填用電圧をバイアスとして印加させる指示に関するユーザ入力に応じて、一度印加されたトラップ準位充填用電圧をバイアスとしてかけ続けるようにしても良い。上記バイアスとして印加されたトラップ準位充填用電圧の終了は、終了に関するユーザ入力に応じて行っても良いし、電源オフ時に終了するようにしても良い。
【0097】
さて、本実施形態では、前回のトラップ準位充填用電圧の印加終了時から所定の経過時間が経過する前に今回のトラップ準位充填用電圧を印加することが本質ではなく、いつ偏向動作が行われても、電気光学結晶のトラップ準位に少なくとも、許容範囲内の偏向角を実現できるほどに電子を充填しておくことが本質である。
【0098】
本実施形態では、偏向動作のための電圧が常にVTFL以上の電圧であれば、該偏向動作のための電圧の印加終了後において、電気光学結晶11のトラップ準位への電子充填状態は、許容範囲内の偏向角を少なくとも実現できる状態となる。よって、本実施形態では、偏向動作のための電圧が常にVTFL以上である場合、上記偏向動作のための電圧印加終了後から所定の経過時間が経過する前にトラップ準位充填用電圧を印加するようにしても良い。
【0099】
この場合、ステップ1103や1108において、CPU21は、現在のタイマに計測された時間をリセットして、偏向動作のための電圧の印加終了後からの経過時間の計測を開始する。この場合、偏向動作のための電圧およびトラップ準位充填用電圧の双方がVTFL以上の所定の電圧となり、ステップ1107、1110では、CPU21が、タイマを参照して、前回の偏向動作のための電圧の印加終了後からの経過時間を取得し、該経過時間が所定の経過時間を経過しているか否かの判断を行うようにすれば良い。
【0100】
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態では、VTFL以上の所定の電圧を印加する時間を、TfilledやTcompとしているが、これら時間に限定されない。本発明では、偏向のための電圧印加時に、トラップ準位への電子の捕獲状態(充填状態)を所望の状態に準備できていれば良い。すなわち、偏向のための電圧印加に先立って上記所望の状態を形成できていれば良く、トラップ準位充填用電圧を印加する時間を、TfilledやTcomp以上としても良いのである。
【0101】
また、前回のVTFL以上の所定の電圧(トラップ準位充填用電圧、または場合によっては偏向動作のための電圧)の印加から、今回のVTFL以上の所定の電圧の印加までの経過時間に応じて、トラップ準位充填用電圧の印加時間を決めても良い。上述したように、トラップ準位充填用電圧といった、VTFL以上の所定の電圧の印加終了からTdetrap経過した後は、トラップ準位への電子捕獲状態は初期状態に戻るので、許容範囲内の偏向角を実現するためには、VTFL以上の所定の電圧を少なくともTfilledやTcompだけ印加する必要がある。
【0102】
しかしながら、VTFL以上の所定の電圧の、前回の印加から今回の印加までの経過時間がTdetrap以内である場合、初期状態よりも多くの電子がトラップ準位に充填されていることになる。従って、この場合、所望の電子の充填状態を形成する目的で印加する、VTFL以上の所定の電圧を印加する時間は、TfilledやTcompよりも短くても良いことになる。すなわち、VTFL以上の所定の電圧の、前回の印加から今回の印加までの経過時間に応じて、トラップ準位の電子捕獲状態は変化しているので、上記経過時間と、許容範囲内の偏向角を実現するのに少なくとも必要な、トラップ準位充填用電圧の印加時間との関係を求めておけば、該関係を用いて上記経過時間に応じた印加時間を決定することができる。
【0103】
図15は、前回のトラップ準位充填用電圧をoffしてからTdetrap経過する前に次のトラップ準位充填用電圧を印加する場合を説明するための図である。図15において、時刻Tc1は、前回のトラップ準位充填用電圧をoffした時刻であり、時刻Tc2は、時刻Tc1からTdetrap経過後の時刻である。
【0104】
上述のように、時刻Tc1と時刻Tc2との間の時刻においては、電気光学結晶11のトラップ準位には初期状態よりも多くの電子が充填されていることになる。従って、トラップ準位充填用電圧を印加してからトラップ準位が略充填されるまでの経過時間T’filledは、Tfilledよりも小さくなる。よって、時刻Tc1と時刻Tc2との間の時刻Tc3において次のトラップ準位充填用電圧を印加することにより、T’filledを小さくすることができる。
【0105】
よって、本実施形態では、上記経過時間と、許容範囲内の偏向角を実現するのに少なくとも必要な、トラップ準位充填用電圧の印加時間との関係を実験により求めて、上記経過時間と上記印加時間とをプロットし、該プロットした結果をテーブルとしてRAM23に保持しておく。そして、ステップ1003、ステップ1006、ステップ1105において、CPU21は、前回のVTFL以上の所定の電圧の印加終了時からの経過時間がTdetrap未満か否かを判断し、Tdetrap以上であると判断する場合は、第1および第2の実施形態にて説明したように処理する。
【0106】
一方、Tdetrap未満であると判断する場合は、CPU21は、上記テーブルを参照して、前回のVTFL以上の所定の電圧の印加終了時からの経過時間に応じた、トラップ準位充填用電圧の印加時間を抽出し、該抽出した印加時間でトラップ準位充填用電圧を印加するようにすれば良い。
【0107】
このように、本発明で重要なことは、光偏向器を制御するための制御部が行う制御により、偏向動作のための電圧の印加に先立ってトラップ準位充填用電圧を印加することによって、偏向動作のための電圧印加時において、少なくとも、許容される範囲内の偏向角を実現するのに必要なトラップ準位への電子の充填を完了しておくことである。該完了状態を実現するために、例えば、第1〜第3の実施形態にて説明したような時間でトラップ準位充填用電圧を印加するのである。
【0108】
(第4の実施形態)
第1〜第3の実施形態では、光偏向器10の一例として、直流電源を用いる形態について説明したが、交流電源を用いても良い。
図12(a)〜(d)は、本実施形態に係る、交流電圧を印加した場合の、偏向角と時間との関係を示す図である。
図12(a)は、±Vの振幅を持つ矩形波電圧(印加電圧周期Tperiod<2Tfilled)を印加した場合の電圧の時間変化を示す図であり、図12(c)は、±Vの振幅を持つ矩形波電圧(印加電圧周期Tperiod>2Tfilled)を印加した場合の電圧の時間変化を示す図である。また、図12(b)は、印加電圧が図12(a)に示すように時間変化する場合の、偏向角の経時変化を示す図であり、図12(d)は、印加電圧が図12(c)に示すように時間変化する場合の、偏向角の経時変化を示す図である。
【0109】
(その他の実施形態)
上述した本発明の一実施形態は、複数の装置(例えばコンピュータ、スキャナ、プリンタ、分光器、ディスプレイなど)を含むシステムに適用することも、単独の装置(スキャナ、プリンタ、分光器、ディスプレイなど)に適用することも可能である。
【0110】
また、上述の実施形態の機能を実現するように各構成を動作させるプログラムを記憶媒体に記憶させ、該記憶媒体に記憶されたプログラムをコードとして読み出し、コンピュータにおいて実行する制御方法も上述の実施形態の範疇に含まれる。即ちコンピュータが読み取り可能な記憶媒体も本発明の範囲に含まれる。また、前述のコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体はもちろんそのコンピュータプログラム自体も上述の実施形態に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶を用いた光偏向器の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る、光偏向器を制御する制御部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶内部や、電気光学結晶と電極との界面にトラップ準位が存在することを説明するためのエネルギーバンド図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る、電極への電圧印加により電極から電気光学結晶へと電子が注入された際に、電子がトラップ準位に充填される様子を示す図である。
【図5】(a)は、電極に挟まれた電気光学結晶において、該電極に電圧を印加してTfilled経過後の電気光学結晶中の位置と電子密度との関係を示す図であり、(b)は、電極に挟まれた電気光学結晶において、該電極に電圧を印加してTfilled経過後の電気光学結晶中の位置と電界の大きさとの関係を示す図である。
【図6】(a)は、電気光学結晶に形成された電極に対して印加した電圧の時間変化を示す図であり、(b)は、上記電極への印加電圧が(a)に示すように時間変化する場合の、偏向角の経時変化を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶への電圧印加停止直後のエネルギーバンド図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶への電圧印加停止後からTdetrap経過後のエネルギーバンド図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る、電圧VTFLの求め方を説明するための図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る、光偏向の制御に対するフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態に係る、光偏向の制御に対するフローチャートである。
【図12】(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る、交流電圧を印加した場合の、偏向角と時間との関係を示す図である。
【図13】図10に示す光偏向の制御時の、偏向角の経時変化を示す図である。
【図14】(a)は、偏向動作のための電圧を印加しない時のトラップ準位充填用電圧の時間依存性を示す図であり、(b)は、(a)に示すタイミングでトラップ準位充填用電圧を印加する際の実現される偏向角の時間依存性を示す図である。
【図15】(a)は、偏向動作のための電圧を印加する時(偏向動作のための電圧がトラップ準位充填用電圧よりも大きい場合)の印加電圧の時間依存性を示す図であり、(b)は、(a)に示すタイミングで電圧を印加する際に実現される偏向角の時間依存性を示す図である。
【図16】(a)は、偏向動作のための電圧を印加する時(偏向動作のための電圧がトラップ準位充填用電圧よりも小さい場合)の印加電圧の時間依存性を示す図であり、(b)は、(a)に示すタイミングで電圧を印加する際に実現される偏向角の時間依存性を示す図である。
【図17】本発明の一実施形態に係る、前回のトラップ準位充填用電圧をoffしてからTdetrap経過する前に次のトラップ準位充填用電圧を印加する場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0112】
10 光偏向器
11 電気光学結晶
12 正極
13 負極
14 直流電源
20 制御部
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 入力操作部
25 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、
前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光偏向器の動作を制御する光偏向器制御装置であって、
前記光偏向器の動作のための第1の電圧を印加させる第1の電圧印加手段と、
前記第1の電圧印加時に偏向角が時間軸に対して一定となるように第2の電圧を印加させる第2の電圧印加手段と
を備えることを特徴とする光偏向器制御装置。
【請求項2】
前記第1の電圧を印加するタイミングを取得するタイミング取得手段をさらに備え、
前記第2の電圧印加手段は、前記タイミング取得手段にて取得されたタイミングの前に前記第2の電圧を印加させることを特徴とする請求項1に記載の光偏向器制御装置。
【請求項3】
前記第2の電圧印加手段は、前記第2の電圧の前回の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、今回の前記第2の電圧の印加を行わせることを特徴とする請求項1に記載の光偏向器制御装置。
【請求項4】
前記第1の電圧は、前記第2の電圧以上の電圧であり、
前記光偏向器の動作の際は、前記第1の電極および第2の電極には、前記第2の電圧以上の電圧である第1の電圧が常に印加されており、
前記第2の電圧印加手段は、前記第1の電圧および前記第2の電圧のいずれか一方の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、前記第2の電圧を印加させることを特徴とする請求項1に記載の光偏向器制御装置。
【請求項5】
前記第2の電圧印加手段は、最初に印加された第2の電圧をバイアスとしてかけ続けるように制御することを特徴とする請求項1に記載の光偏向器制御装置。
【請求項6】
電気光学効果を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、
前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光偏向器の動作を制御する光偏向器制御方法であって、
前記光偏向器の動作のための第1の電圧を印加する第1の電圧印加工程と、
前記第1の電圧印加時に偏向角が時間軸に対して一定となるように第2の電圧を印加させる第2の電圧印加工程と
を有することを特徴とする光偏向器制御方法。
【請求項7】
前記第1の電圧を印加するタイミングを取得するタイミング取得工程をさらに有し、
前記第2の電圧印加工程は、前記タイミング取得工程にて取得されたタイミングの前に前記第2の電圧を印加することを特徴とする請求項6に記載の光偏向器制御方法。
【請求項8】
前記第2の電圧印加工程は、前記第2の電圧の前回の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、今回の前記第2の電圧の印加を行わせることを特徴とする請求項6に記載の光偏向器制御方法。
【請求項9】
前記第1の電圧は、前記第2の電圧以上の電圧であり、
前記光偏向器の動作の際は、前記第1の電極および第2の電極には、前記第2の電圧以上の電圧である第1の電圧が常に印加されており、
前記第2の電圧印加工程は、前記第1の電圧および前記第2の電圧のいずれか一方の印加終了後から所定の経過時間が経過すると、前記第2の電圧を印加することを特徴とする請求項6に記載の光偏向器制御方法。
【請求項10】
前記第2の電圧印加工程は、最初に印加された第2の電圧をバイアスとしてかけ続けるように制御することを特徴とする請求項6に記載の光偏向器制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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