説明

光制御素子及びその製造方法

【課題】
薄板化された基板を利用した光制御素子の製造時に、基板の研磨工程やウェハ加熱工程、さらには基板切断工程などにおいて、薄板や薄板上の電極が破損することを防止し、生産性の高い光制御素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する基板で形成され、厚みが50μm以下の薄板1と、該薄板上に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御用電極3,4とを有する光制御素子の製造方法において、該基板に制御用電極を形成する際に、制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で保護電極12を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御素子及びその製造方法に関し、特に、電気光学効果を有する基板で形成され、厚みが50μm以下の薄板を用いた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信分野や光測定分野において、電気光学効果を有する基板上に光導波路や変調電極を形成した導波路型光変調器などの光制御素子が多用されている。
光変調周波数の広帯域化を実現するためには、変調信号であるマイクロ波と光波との速度整合を図ることが重要であり、これまでに、様々な方法が考案されている。具体例を挙げれば、バッファ層の厚膜化、電極の高アスペクト化やリッジ構造などがこれにあたる。
【0003】
また、以下の特許文献1又は2においては、30μm以下の厚みを有する極めて薄い基板(以下、「第1基板」という。)に、光導波路並びに変調電極を組み込み、第1基板より誘電率の低い他の基板を接合し、マイクロ波に対する実効屈折率を下げ、マイクロ波と光波との速度整合を図ることが行われている。
【特許文献1】特開昭64−18121号公報
【特許文献2】特開2003−215519号公報
【0004】
これらのように、薄板化された第1基板を用いることで、光制御素子の設計自由度が飛躍的に高まり、例えばバッファ層を用いずとも、広帯域かつ低駆動電圧の光変調器などが作製可能となる。またさらに、マイクロ波の伝搬速度低減の観点からは、誘電率の低い材料を基板に用いることと同義に、第1基板を具体的には150μm以下とすることで、特に26GHz以上の領域においてマイクロ波自身の誘電体損(tanδ)の影響を低減できることが以下の非特許文献1により公開され、光変調器の広帯域化に適用されている。
【非特許文献1】Y.Yamane et.al., “Investigation of sandblast machining techniques for broadband LN modulators”, Sumitomo Osaka Cement Technical report 2002, pp49-54 (2003)
【0005】
他方、図1に示すように、光変調器などの光制御素子においては、電気光学効果を有する基板1上に、光導波路2を形成し、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御用電極が形成されている。制御用電極は、図1のように、信号電極3や接地電極4などからなり、光変調に寄与しない領域には、基板表面又は基板表面に形成されたバッファ層が剥き出しの状態となっている。
【0006】
図1のような光制御素子は、通常、1枚のウェハ(電気光学効果を有する数インチφの基板)の中に、複数の光制御素子が作り込まれ、最後に該ウェハを切断することで、個々の光制御素子が製造されている。また、上述したような基板の厚みが薄い光制御素子においては、ウェハの状態で基板の裏面を研磨して薄板化が行われている。さらに、薄板化した基板に対し、不純物をドーピングしたり、所定温度で加熱し基板の歪みを除去するなど、ウェハ加熱処理も行われている。
【0007】
研磨工程においては、図2に示すように、ウェハ状の基板1に制御用電極3,4を形成した後、ワックスなどの接着剤10で研磨ダミー基板11に基板1を固定し、基板1の裏面を研磨している。しかしながら、研磨工程時には、制御用電極3,4が離散的に配置されているのみであるため、基板1と接着剤10との接合部に掛る研磨時の応力が図2のAやBの部分などに集中し、制御用電極の一部が基板1から剥離するなどの破損が生ずる。
【0008】
また、薄板化された基板に対するウェハ加熱工程や基板切断工程などにおいては、制御用電極の形成部分とこれらが形成されていない部分とでは、熱応力や機械的強度が異なり、基板1が容易に破損するなどの問題を生じていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、薄板化された基板を利用した光制御素子の製造時に、基板の研磨工程やウェハ加熱工程、さらには基板切断工程などにおいて、薄板や薄板上の電極が破損することを防止し、生産性の高い光制御素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、電気光学効果を有する基板で形成され、厚みが50μm以下の薄板と、該薄板上に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御用電極とを有する光制御素子の製造方法において、該基板に制御用電極を形成する際に、制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で保護電極を形成することを特徴とする。
本発明における「保護電極」とは、光制御素子の駆動や動作に関係する電極ではないが、光制御素子の製造時に、薄板化された基板に加わる熱応力や機械的応力を緩和したり、基板の機械的強度を高める働きをする電極を意味する。
【0011】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載の光制御素子の製造方法において、該保護電極には溝が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、請求項1又は2に記載の光制御素子の製造方法において、該保護電極を形成した後、基板の裏面の研磨工程、ウェハ加熱工程、又は基板切断工程のいずれかを行うことを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、電気光学効果を有する基板で形成され、厚みが50μm以下の薄板と、該薄板上に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御用電極とを有する光制御素子において、該制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で形成された保護電極を有することを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明では、請求項4に記載の光制御素子において、該保護電極は、該制御用電極を構成する接地電極に電気的に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明により、基板に制御用電極を形成する際に、制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で保護電極を形成するため、基板の機械的強度を高めると共に、基板に熱応力や機械的応力が加わった際にも、保護電極は制御電極と同じ機械的また熱的特性を有するため、基板が破損するなどの不具合を生じることも無い。しかも、保護電極は、制御用電極と同じ形成方法で形成することが可能であるため、製造工程が複雑化することも無い。
【0016】
請求項2に係る発明により、保護電極には溝が形成されているため、基板の研磨時などで基板を接着剤で研磨ダミー基板に接合させる際に、接着剤が該溝に入り込み、基板全体に効率よく接着剤が広がると共に、接合時の接合強度をより高くすることが可能となる。また、基板に熱応力や機械的応力が加わった際には、該溝によりこれらの応力が伝達されるのを阻止することが基板の破損を効果的に抑制することができる。
【0017】
請求項3に係る発明により、保護電極を形成した後、基板の裏面の研磨工程、ウェハ加熱工程、又は基板切断工程のいずれかを行うため、薄板化した基板が破損し易い研磨工程、ウェハ加熱工程、又は基板切断工程において、効果的に基板を保護することが可能となる。
【0018】
請求項4に係る発明により、光制御素子が、制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で形成された保護電極を有しているため、光制御素子の製造時に基板が破損するなどの不具合を排除することが可能となる。また、光制御素子が完成した後でも、光制御素子を構成する薄板の機械的強度を高め、温度変化による熱応力歪みや機械的衝撃・加圧による機械的応力歪みなどに対しても、薄板の破損や局所的な変形を効果的に抑制することが可能となる。
【0019】
請求項5に係る発明により、保護電極は、制御用電極を構成する接地電極に電気的に接続されているため、保護電極が浮遊電極として動作せず、電気的にも安定な構造となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、電気光学効果を有する基板で形成され、厚みが50μm以下の薄板と、該薄板上に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御用電極とを有する光制御素子の製造方法において、該基板に制御用電極を形成する際に、制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で保護電極を形成することを特徴とする。
【0021】
電気光学効果を有する基板としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)結晶が好適に利用される。
【0022】
光導波路は、基板上にTiなどの不純物を熱拡散して形成される。また、制御用電極を形成するには、TiやAuなどの下地層を蒸着法で形成し、フォトリソグラフィー法により所定の電極パターンを残して下地層をマスクし、電解メッキ法によりAu電極を形成する。その後、フォトレジスト膜や下地層の一部をウェットエッチングにより除去する。
【0023】
本発明に係る光制御素子の特徴は、図3に示すように、基板1上に形成された制御用電極3,4以外に、保護電極12を有することである。このような保護電極は、制御用電極と同じ方法で形成され、生産性の観点からは、制御用電極と同時に形成することが好ましい。
【0024】
保護電極12は、基板1上の制御用電極が形成されていない領域において、制御用電極の信号電極や信号電極と接地電極とのギャップなどを変形又は無くさない範囲において、可能な限り、基板1の表面を覆うように形成されている。また、基板1と制御用電極との間にSiOなどによるバッファ層(不図示)を形成しない場合には、基板1の表面に形成された光導波路と保護電極とが直接接することが無いように、保護電極の形状を決めることが好ましい。
【0025】
このような保護電極12を形成することにより、基板1を接着剤10を介して研磨ダミー基板11に接合し、研磨した際でも、制御用電極3,4が破損されることを防ぎ、極めて安定して光制御素子を製造することが可能となる。
【0026】
図4は、ウェハ基板20に複数の光制御素子を形成した状態を示す図である。
各光制御素子は、制御用電極の一部である信号電極3を有しており、図4においては、各素子内の接地電極や保護電極に関しては、図示が省略されている。光制御素子以外のウェハ基板上にも、網掛けの領域に保護電極21が形成されている。好ましくは、図4に示すように保護電極内に複数の溝22,23を10〜30μm程度の深さで形成する。
【0027】
図4のよに、ウェハ全体に保護電極21が形成されているため、ウェハ基板20を薄板化した際でも、機械的強度を高くすることができ、しかも、ウェハ加熱工程や基板切断工程において、ウェハ基板20に熱応力や機械的応力が加わっても、応力歪みが発生する領域が少なく、基板自体の破損が抑制される。
【0028】
保護電極に形成された溝22,23により、基板の研磨時などで基板を接着剤で研磨ダミー基板に接合させる際に、接着剤が該溝に入り込み、スピンコートなどでウェハ基板20を回転させても基板全体に効率よく接着剤が広がる。しかも、溝に入り込んだ接着剤により、接合時の接合強度をより高くすることが可能となる。
また、ウェハ加熱工程や基板切断工程のように、ウェハ基板20に熱応力や機械的応力が加わった際には、該溝によりこれらの応力が基板全体に伝達されるのを阻止するため、基板の破損を効果的に抑制することができる。
【0029】
図5は、各光制御素子に保護電極を形成した他の例を示す図である。
基板上の保護電極は、制御用電極の接地電極4と一体的に形成することも可能である。図5に示すように、信号電極3及び信号電極3と接地電極4とのギャップを除き、全ての基板上を領域Cで示したように覆うことも可能であるが、この場合には、光導波路2を伝搬する光波が保護電極により吸収されないように、保護電極と基板との間にバッファ層を形成する必要がある。
他方、領域Dで示したように、光導波路2の部分を除くように保護電極を形成することも可能である。
【0030】
本発明は、50μm以下の厚みを有する基板を使用する光制御素子には、特に、好適に使用できるものであるが、これに限らず、50μm以上の厚みの基板に対して、本発明を適用しても、一定の効果を奏することは可能である。
なお、50μm以下の厚みを有する基板(薄板)を用いる場合には、光制御素子としての機械的強度をより一層高めるため、補強板を薄板の裏面に、接着剤又は直接接合法を使用して接合させる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る光制御素子及びその製造法によれば、薄板化された基板を利用した光制御素子の製造時に、基板の研磨工程やウェハ加熱工程、さらには基板切断工程などにおいて、薄板や薄板上の電極が破損することを防止し、生産性の高い光制御素子及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の光制御素子の概略図を示す。
【図2】従来の光制御素子の基板研磨時の様子を示す図である。
【図3】本発明に係る光制御素子の基板研磨時の様子を示す図である。
【図4】ウェハ基板に保護電極を形成した状態を示す図である。
【図5】光制御素子に保護電極を形成した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 基板
2 光導波路
3 信号電極
4 接地電極
10 接着剤
11 研磨ダミー基板
12,21 保護電極
20 ウェハ基板
22,23 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板で形成され、厚みが50μm以下の薄板と、該薄板上に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御用電極とを有する光制御素子の製造方法において、
該基板に制御用電極を形成する際に、制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で保護電極を形成することを特徴とする光制御素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御素子の製造方法において、該保護電極には溝が形成されていることを特徴とする光制御素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光制御素子の製造方法において、該保護電極を形成した後、基板の裏面の研磨工程、ウェハ加熱工程、又は基板切断工程のいずれかを行うことを特徴とする光制御素子の製造方法。
【請求項4】
電気光学効果を有する基板で形成され、厚みが50μm以下の薄板と、該薄板上に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御用電極とを有する光制御素子において、
該制御用電極以外の基板表面に、制御用電極と同じ材料で形成された保護電極を有することを特徴とする光制御素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光制御素子において、該保護電極は、該制御用電極を構成する接地電極に電気的に接続されていることを特徴とする光制御素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−79465(P2007−79465A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270605(P2005−270605)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】