説明

光制御素子

【課題】
共振型電極を用いながら、動作帯域を拡大すると共に、製造時の電極形状のバラツキに起因する特性の劣化を抑制することが可能な光制御素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された複数の光導波路2と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極3とを有する光制御素子において、該制御電極3は、共振型電極と、該共振型電極に制御信号を給電する給電電極とを備え、該共振型電極は、1本の信号電極30を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する該制御信号が該信号電極上に形成する波長より長く設定され、該給電電極は、1本の入力配線部41を複数に分岐した分岐配線部42,43を有し、該分岐配線部の全てが、該信号電極上の異なる位置51,52に接続され、該信号電極には、該分岐配線部により同相又は所定位相差を有する制御信号が給電されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御素子に関し、特に、光導波路を伝搬する光波を変調する共振型電極を備えた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
無線に用いられる数GHz以上の高周波信号を光伝送するための光変調器や、長距離伝送において、データ変調とともに用いられる光クロック生成用のパルサー変調器などの光通信システムの送信装置に、共振型光変調器のような光制御素子が利用されている。共振型光変調器には、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板材料が利用され、共振型電極を有する制御電極を用いて、基板に形成された光導波路の屈折率を変化させて、その光導波路を伝搬する光の強度や位相を変調するよう構成されている。
【0003】
図1は、共振型電極を用いた光制御素子である共振型光変調器の一例であり、電気光学効果を有する基板1に光導波路2が形成され、さらに、該光導波路2を伝搬する光波を光変調するための制御電極3が設けられている。図1では、光導波路2に2つの分岐導波路21,22を有するマッハツェンダー干渉計が利用され、制御電極3には、共振型電極(信号電極)30と、該共振型電極に制御信号を導入する給電電極(給電線)40から構成され、さらに制御電極は、信号電極30や給電線40と、それを取り囲む接地電極31とから構成される。給電電極(給電線)が共振型電極(信号電極)に給電する位置を、給電位置(給電点)という。
【0004】
図1に示すような、共振型電極30では、給電点50から特定の周波数の電気信号を入力すると、共振型電極30に電気信号の定在波が生じる。このように、共振型光変調器は、電気信号の共振現象を利用しているので、特定の周波数を入力したときに、特に効率良く動作し、一般に進行波型光変調器よりも電極単位長さ当りの変調効率が良い。
【0005】
このような特性があるため、従来の共振型光変調器の電極の長さが、電気信号の1波長分よりも短くなるように設計された例が多い。しかしながら、光導波路を伝搬する光の速度と作用部の電極を伝搬する制御信号の速度がほぼ一致した条件では、電極を長くすることが可能であり、制御信号の減衰にも影響を受けるが、電極の長さに応じた駆動電圧の改善が得られる。
【0006】
非特許文献1には、速度整合と共振型電極の併用が効率改善に有効であることが開示され、また、非特許文献2には、ニオブ酸リチウムを基板に用いた共振電極型光変調器が記載されており、電気信号の屈折率(nm)をほぼ2.2(ニオブ酸リチウムの光に対する屈折率は約2.2)とすることで、良好な特性が得られた事例が紹介されている。
【0007】
一方、光と電気信号の速度が一致しない条件では、電極の長さを十分長くすることができず、単位長さあたりの変調効率が高くても、結果として全体の変調効率を良くすることができない。そのため、変調器の効率を表すパラメータである半波長電圧Vπが概ね10V以上となり、非常に高い電圧を印加しなければ、十分な動作が得られない。
【0008】
共振型光変調器において、共振効率を示すQ値は、制御信号の減衰や電極形状などによって決まり、一般に、Q値が高いほど、共振周波数における効率は高くなる。ただし、この場合、共振周波数付近の効率の周波数依存性が大きいため、動作帯域(効率が最適周波数の半分になる帯域幅)は狭くなる。このため、作製プロセスの再現性の問題で、共振型電極の長さなど、電極の形状が変化すると、使用周波数における特性のバラツキが大きいなど、制御上、使用上の不都合が生じる。特に、速度整合条件を満たした、長い電極長の共振型光変調器においては、この問題は顕著になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mark Yu and Anand Gopinath, "Velocity Matched Resonant Slow-Wave Structure for Optical Modulator", Proceedings of Integrated Photonics Research (IPR), ITuH7-1, pp.365-369, Palm Springs, California, March 22, 1993
【非特許文献2】Roger Krahenbuhl and M. M. Howerton, "Investigations on Short-Path-Length High-Speed Optical Modulators in LiNbO3 With Resonant-Type Electrodes", JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.19, No. 9, pp.1287-1297, SEPTEMBER 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、共振型電極を用いながら、動作帯域を拡大すると共に、製造時の電極形状のバラツキに起因する特性の劣化を抑制することが可能な光制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、該制御電極は、共振型電極と、該共振型電極に制御信号を給電する給電電極とを備え、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する該制御信号が該信号電極上に形成する波長より長く設定され、該給電電極は、1本の入力配線部を複数に分岐した分岐配線部を有し、該分岐配線部の全てが、該信号電極上の異なる位置に接続され、該信号電極には、該分岐配線部により同相又は所定位相差を有する制御信号が給電されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光制御素子において、該光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、前記共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路の少なくとも1つに対応して配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光制御素子において、該所定位相差は、所定周波数を有する制御信号に対して、2πの整数倍であることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該信号電極への各分岐配線部の給電点は、等価な励振点から、互いにインピーダンスの増減が異なる方向に微小量ずらして配置されていることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該給電電極は、1本の入力配線部をN本に分岐した分岐配線部を有し、各分岐配線部における該給電電極のインピーダンスと、各共振型電極の該給電位置におけるインピーダンスとは、該入力配線部における該給電電極のインピーダンスの略N倍に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、該制御電極は、共振型電極と、該共振型電極に制御信号を給電する給電電極とを備え、該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する該制御信号が該信号電極上に形成する波長より長く設定され、該給電電極は、1本の入力配線部を複数に分岐した分岐配線部を有し、該分岐配線部の全てが、該信号電極上の異なる位置に接続され、該信号電極には、該分岐配線部により同相又は所定位相差を有する制御信号が給電されているため、共振型電極に制御信号を印加する給電位置(給電点)毎に、制御信号を印加するタイミングを微妙に調整することが可能となる。例えば、最適な給電点からずらす部分を設けることで、共振条件がわずかながら乱され、最適周波数での効率は下がるものの、共振周波数付近の効率の周波数依存性が小さくなり、結果として、動作帯域を拡大することが可能となる。
【0017】
請求項2に係る発明により、光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、前記共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路の少なくとも1つに対応して配置されているため、共振型電極を利用した光変調器など、より低駆動電圧の光制御素子を提供することが可能となる。
【0018】
請求項3に係る発明により、所定位相差は、所定周波数を有する制御信号に対して、2πの整数倍であるため、常に同じ位相状態の制御信号を各給電点に印加することが可能となる。しかも、各分岐配線部を、互いの長さの差が2πの整数倍となるように設定すれば良いため、設計の自由度を増加させることも可能となる。
【0019】
請求項4に係る発明により、信号電極への各分岐配線部の給電点は、等価な励振点から、互いにインピーダンスの増減が異なる方向に微小量ずらして配置されているため、共振条件がわずかながら乱され、最適周波数での効率は下がるものの、共振周波数付近の効率の周波数依存性が小さくなり、結果として、動作帯域を拡大することが可能となる。
【0020】
請求項5に係る発明により、給電電極は、1本の入力配線部をN本に分岐した分岐配線部を有し、各分岐配線部における該給電電極のインピーダンスと、各共振型電極の該給電位置におけるインピーダンスとは、該入力配線部における該給電電極のインピーダンスの略N倍に設定されているため、入力配線部と分岐配線部とのインピーダンス整合を図ることが可能となり、給電電極の分岐部での制御信号の反射を抑制し、制御信号を効率良く共振型電極に入力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の共振型光変調器の一例を示す図である。
【図2】本発明の光制御素子に係る実施例を説明する図である。
【図3】共振型電極における給電位置とトータルインピーダンスとの関係を説明する図である。
【図4】共振型電極の各給電位置と給電電極との関係を説明する図である。
【図5】本発明の光制御素子に係る他の実施例を説明する図である。
【図6】本発明の光制御素子に駆動回路を接続した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の光制御素子について、詳細に説明する。
本発明の光制御素子は、図2に示すように、電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された複数の光導波路2と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極3とを有する光制御素子において、該制御電極3は、共振型電極と、該共振型電極に制御信号を給電する給電電極とを備え、該共振型電極は、1本の信号電極30を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する該制御信号が該信号電極上に形成する波長より長く設定され、該給電電極は、1本の入力配線部41を複数に分岐した分岐配線部42,43を有し、該分岐配線部の全てが、該信号電極上の異なる位置51,52に接続され、該信号電極には、該分岐配線部により同相又は所定位相差を有する制御信号が給電されていることを特徴とする。
【0023】
電気光学効果を有する基板1としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)結晶が好適に利用される。本発明の光制御素子では、図2のように、光導波路上に共振型電極を配置する構成が、最も効果的な変調が期待できるため、Zカット型の基板が好ましい。
【0024】
光導波路は、基板にリッジを形成する方法や基板の一部の屈折率を調整する方法、又は両者を組み合わせた方法で形成することが可能である。リッジ型導波路では、光導波路となる基板部分を残すように、その他の部分を機械的に切削したり、化学的にエッチングを施すことで除去する。また、光導波路の両側に溝を形成することも可能である。屈折率を調整する方法では、Tiなどを熱拡散法したり、プロトン交換法などを利用することで、光導波路に対応する基板表面の一部の屈折率を、基板自体の屈折率より高くなるよう構成する。
【0025】
制御電極を構成する共振型電極や給電電極は、信号電極30や接地電極31、又は給電線41から43と接地電極などで構成されている。これらの制御電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。また、各電極は、必要に応じて、基板との間にSiO膜などのバッファ層を介して配置されている。バッファ層には、光導波路を伝搬する光波が、制御電極により吸収又は散乱されることを防止する効果を有している。また、バッファ層の構成としては、必要に応じ、薄板の焦電効果を緩和するため、Si膜などを組み込むことも可能である。
【0026】
次に、本発明の光制御素子に使用する共振型電極は、図3に示すように、共振型電極を構成する1本の信号電極30の長さは、該信号電極上で所定周波数を有する制御信号が該信号電極30上に形成する波長より、長く設定されている。図3では、信号電極30の長さが3λ/2(λ:信号波長)のものを図示している。当然、本発明の光制御素子は、図3に示した長さ信号電極に限定されないのは、言うまでもない。
【0027】
また、信号電極30の周囲には接地電極31が配置され、信号電極30の両端は、該接地電極31から開放された状態を例示している。当然、信号電極の両端が接地電極から開放されている「両端開放型」か、信号電極の両端が共に接地電極に短絡されている「両端短絡型」か、さらには、一端が短絡され、他端が開放された「一方短絡他方開放型」など種々の組み合わせが可能であることはいうまでもない。
【0028】
図3の下側は、信号電極30に発生する電界ベクトルの様子を示し、図3の上側は、信号電極30に対する給電位置とインピーダンスとの関係を示している。共振型電極では、位置によってインピーダンスが異なっており、図3の上側のグラフに示すように、場所により0Ωからほぼ無限大のインピーダンスを有している。
【0029】
図3では、例えば、100Ωのインピーダンスを実現する給電位置は、電界ベクトルの方向も考慮すると、一つの電界ベクトルのパターンで3箇所、合計6箇所(a1〜a3,b1〜b3)ある。つまり、給電位置a1〜a3(又は給電位置b1〜b3)には、同相(位相差が2πの整数倍となるものを含む)の制御信号を印加することにより、電界の共振した波形を形成することができる。また、給電位置a1〜a3に印加する制御信号と、給電位置b1〜b3に印加する制御信号とは、互いに逆相(位相差がπ又は(2n+1)π。nは整数)となるように給電することで、共振波形を形成することが可能となる。
【0030】
図4は、共振型電極を構成する信号電極30に、給電する様子の一例を示した図であり、3種類の給電方法を例示している。符号Aに制御信号を入力する場合には、給電位置a1及びa2に、同相の制御信号が印加される。また、符号Bに制御信号を入力する場合にも、給電位置b1及びb3に、同相の制御信号が印加される。符号Bの場合は、給電位置b2とa3のように、電界ベクトルが逆向きとなる給電位置に制御信号を入力するため、制御信号は、逆相状態とする必要がある。
【0031】
複数の給電位置に制御信号を同時に印加するには、図4に示すように、給電線を分岐させ、各給電位置への配線を簡略化することが可能となる。しかも、図2に示すように、同一基板1上に配線(41〜43)も形成する場合には、配線パターンを調整するだけで各位相を正確に制御することも可能となる。例えば、図3の符号Cの配線パターンのように、逆相の制御信号を印加する場合には、遅延線路を設けるなど、給電線の長さを調整することで、容易に位相差を設定することができる。
【0032】
また、このように給電線を分岐する場合には、分岐する前後で給電線のインピーダンスが変化する。このため、インピーダンス整合を行うためには、給電電極は、1本の入力配線部をN本に分岐した分岐配線部を有する場合には、各分岐配線部における該給電電極のインピーダンスと、各共振型電極の該給電位置におけるインピーダンスとは、該入力配線部における該給電電極のインピーダンスの略N倍に設定される。
【0033】
本発明では、「略N倍」と表示しているが、この意味は、N倍の関係が最も分岐損失を低減できるが、本発明の作用効果が期待できる実用的な範囲において、インピーダンス値がこのN倍から幾分異なっても、本発明は許容可能であることを意味している。なお、好ましい許容範囲は、N倍に対し±20%程度以内、反射を±10%程度以内に抑えることが望ましい。
【0034】
具体的には、通常、50Ωのインピーダンスを有する入力に対しては、入力配線部41のインピーダンスは50Ωであるが分岐配線部42,43のインピーダンスは100Ωとなる。このため、図3に示すように、共振型電極の信号電極30においても、インピーダンスが100Ωの給電位置が選択される。共振型電極には、常に最適なインピーダンスを有する給電位置が存在するため、給電位置を適切に選択することで、給電電極側のインピーダンスと共振型電極側のインピーダンスとを容易に整合させることが可能となる。これは、給電先が共振型電極だからこそ実現できる技術である。
【0035】
図2又は図4では、給電線を2つに分岐する例を示しているが、当然、これらに限定されず、3つ以上に分岐する場合も同様にインピーダンス整合を図ることができる。このように、分岐配線のインピーダンスの大きさによらず、適切な給電位置を選ぶことにより、インピーダンス整合が実現でき、反射損失無く適切な給電が行える。また、同相又は所定位相差で共振する周波数帯の制御信号が共振型電極に給電されるように、分岐後の経路を分岐配線の屈折率を調整し、同一基板上に配置する。なお、周波数帯とは6dB以内の帯域をいう。例えば、同相の場合には、各分岐配線部における、それぞれの配線の長さと配線の制御信号に対する屈折率の積は等しくなるように設定されている。
【0036】
共振型電極を構成する信号電極30に、図3及び4を用いて説明した給電位置(a1〜a3,b1〜b3)に同相又は逆相関係の制御信号を印加すると、当該信号電極30には、理想的な共振電界が発生する。しかしながら、このような理想的な共振条件は、極めて共振効率が高いが、動作帯域(効率が最適周波数の半分になる帯域幅)は狭くなる。しかしながら、共振型電極を構成する信号電極の長さや、特に、複数の分岐配線部の長さや制御信号に対する屈折率、さらには、複数の給電位置を高精度の制御して、光制御素子を製造することは困難であり、その結果、図2に示すような本発明の光制御素子においては、最適な共振条件と比較して、共振条件がわずかながら乱され、最適周波数での効率は下がるものの、共振周波数付近の効率の周波数依存性が小さくなり、結果として、動作帯域を拡大することが可能となる。
【0037】
本発明の光制御素子では、このような特性を積極的に利用し、信号電極30への各分岐配線部42,43の給電点(51,52)は、等価な励振点(a1〜a3,b1〜b3)から、互いにインピーダンスの増減が異なる方向に微小量ずらして配置することも可能である。当然、このずらす量は、光変調等、光制御素子の駆動に必要な共振電界が発生する範囲内であれば、どの程度ずらしても問題はない。例えば、理想的な給電点のインピーダンスが75Ωの場合、実際の給電点は、等価な位置からわずかにずらし、一方はインピーダンスが73Ω、他方は77Ωとなる位置に給電する。
【0038】
共振条件からずらす方法は、上述したような給電位置を調整するだけでなく、各給電位置に印加する制御信号の位相を、同相や逆相状態からずらすよう調整する方法もある。このような位相を調整する方法としては、図2の分岐配線部42,43の長さや制御信号に対する屈折率を調整することで、容易に設定調整することが可能となる。
【0039】
共振型電極の形状としては、図2や図3に示すように、信号電極30を挟む又は取り囲むように接地電極31を配置する、コプレーナ型(CPW)構造とし、光導波路(分岐導波路22)を伝搬する光信号の速度と電極を伝搬する制御信号の速度が、ほぼ等しくなる作製条件を用いる。
【0040】
ほぼ速度が等しい場合(速度整合条件がほぼ満たされる場合)、電極の長さを制御信号の共振周波数の波長より長くすることができ、駆動電圧の低減に有利である。ここでは、さらなる駆動電圧の低減を目的として、制御信号が光導波路部に効果的に印加されるリッジ型光導波路としている。当然、非CPW構造の電極であっても、非リッジ型導波路であっても、速度整合がほぼ満たされる構成であれば、どのような、電極タイプや光導波路であって良い。
【0041】
図2で示した光制御素子では、共振型電極として、1本の信号電極(共振型電極)の両端が接地電極から開放されている「両端開放型」の形状を用いたが、上述したように、「両端短絡型」や「一方短絡他方開放型」であっても良い。また、信号電極は、直線に限らず、電界を印加する光導波路の形状に合わせて、曲線状態であっても良い。
【0042】
給電電極の構造は、ここではCPW(信号電極を挟むように接地電極を配置する構成)となっているが、CPS(信号電極の片側に接地電極を配置する構成)、G−CPW(基板の表面にCPWを形成し、裏面に接地電極を配置する構成)であってもストリップラインであっても、あるいは、これらの組み合わせであってもかまわない。また、制御信号の損失を抑えるため、途中で電極の構造を変化させる場合には、インピーダンスを一定にするように設定する。
【0043】
共振型電極についても同様に、CPW、CPS、G−CPWの何れの構成を採用しても良い。ただし、共振型電極と給電電極との接続を容易とするため、両者は同じ構造の電極構成を採用することが好ましい。また、給電電極の分岐配線部は、例えば、カプラー、ハイブリッド等の給電線の配線が不連続であっても、電気的に連続であれば可能である。
【0044】
図2の光導波路2では、2つの分岐導波路21,22を有するマッハツェンダー干渉計(MZ干渉計)を例示している。MZ干渉計を構成する光導波路に対する共振型電極の位置は、上述したように、MZ干渉計の一方の分岐導波路22の長さ範囲内に収まるように、共振型電極の信号電極を配置するもの限定されず、例えば、2つの分岐導波路21,22の各々に共振型電極を配置したり、図5に示すように、共振型電極30の一部のみを分岐導波路22と重なるように配置し、共振型電極が光導波路に作用する作用部(範囲S)と非作用部とから構成されるよう配置することも可能である。なお、図5のような場合には、非作用部の共振型電極の形状や配置は、上述した共振型電極全体が作用部となるものと比較し、設計の自由度が増加する。
【0045】
本発明の光制御素子を駆動するには、図6に示すように、一つの駆動回路で構成することが可能となる。駆動回路の例としては、信号源からの所定周波数の信号をドライバに入れ、所定の信号電圧に増幅した後、ノイズを除去する帯域フィルタを介して、光制御素子の入力配線部41に入力する。本発明と異なる、2系列の制御信号を同相かつ同じ大きさで給電する光制御素子では、差動ドライバや外部位相器などが必要であるが、本発明の光制御素子は、一つの駆動回路のみで駆動することが可能となり、装置全体を低コスト化することが可能となる。
【0046】
また、本発明の光制御素子を光パルサー(光クロック生成器)に適用した場合には、以下のような効果も期待できる。当然、共振型電極への給電点への位相差を、ゼロ(同相)のみとするのではなく、2πの整数倍とすることができることは言うまでもない。
・高速、超低電圧、小型パルサー実現
・消費電力の画期的削減
・低コストな駆動系の使用による、ユーザーのコスト削減
・周辺回路を含めたサイズダウン、集積度の改善
・サイズダウンによるデバイス取れ数増加によるコストダウン
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、共振型電極を用いながら、動作帯域を拡大すると共に、製造時の電極形状のバラツキに起因する特性の劣化を抑制することが可能な光制御素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 電気光学効果を有する基板
2 光導波路
21,22 分岐導波路
3 制御電極
30 信号電極(共振型電極)
31 接地電極
41〜43 給電線(給電電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された複数の光導波路と、該基板に設けられ、該光導波路を伝搬する光の位相を制御するための制御電極とを有する光制御素子において、
該制御電極は、共振型電極と、該共振型電極に制御信号を給電する給電電極とを備え、
該共振型電極は、1本の信号電極を有し、該信号電極の長さは、所定周波数を有する該制御信号が該信号電極上に形成する波長より長く設定され、
該給電電極は、1本の入力配線部を複数に分岐した分岐配線部を有し、
該分岐配線部の全てが、該信号電極上の異なる位置に接続され、
該信号電極には、該分岐配線部により同相又は所定位相差を有する制御信号が給電されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御素子において、該光導波路は、単一又は複数のマッハツェンダー干渉計を構成し、前記共振型電極は、該マッハツェンダー干渉計を構成する2つの分岐導波路の少なくとも1つに対応して配置されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光制御素子において、該所定位相差は、所定周波数を有する制御信号に対して、2πの整数倍であることを特徴とする光制御素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光制御素子において、該信号電極への各分岐配線部の給電点は、等価な励振点から、互いにインピーダンスの増減が異なる方向に微小量ずらして配置されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光制御素子において、該給電電極は、1本の入力配線部をN本に分岐した分岐配線部を有し、各分岐配線部における該給電電極のインピーダンスと、各共振型電極の該給電位置におけるインピーダンスとは、該入力配線部における該給電電極のインピーダンスの略N倍に設定されていることを特徴とする光制御素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−58298(P2012−58298A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198626(P2010−198626)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/近接テラヘルツセンサシステムのための超短パルス光源の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】