説明

光化学作用による組織接着

【課題】光化学作用による組織接着方法を提供する。
【解決手段】光化学作用による組織接着方法は、組織シールを作製するための、組織例えば角膜への光増感剤の塗布、ついで電磁エネルギーでの照射を含む。これらの方法は、創傷の修復またはその他の組織修復に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2000年2月11日に出願された米国仮特許出願第60/181,980号に基づく優先権を主張する。その内容は、参照することによりここに組み込まれる。
【0002】
本発明は、光化学作用による組織接着に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の創傷閉鎖方法、例えばステープルおよび縫合術は、多くの欠点を有する。これらの欠点には、炎症、過敏状態、感染、創傷割れ、および漏出の発生の可能性が含まれる。角膜への使用において、縫合術は、均等でない縫合張力により乱視を生じることが多い。ステープルおよび縫合術の使用の美容上の結果もまた、望ましくないことがある。
【0004】
縫合術に代わりうる代替方法には、止血作用のある接着剤、例えばフィブリン・シーラント(非特許文献1および2)、シアノアクリレート接着剤(非特許文献3)、および光力学的組織グルーが含まれるが、このグルーは、リボフラビン−5−ホスフェートとフィブリノーゲンとの混合物から構成されており、これは、白内障切開部を閉鎖し、角膜移植においてドナーの角膜を接着すると報告されている(非特許文献4および5、特許文献1)。さらには、温度制御された組織融合が、ウシの角膜およびラットの腸において試みられた(非特許文献6および7)。可視光で照射された1,8ナフタルイミドを用いた、硬膜の光化学作用による組織融合も報告されている(非特許文献8)。
【0005】
創傷閉鎖にとって理想的な技術は、通常の技術よりも単純で、より迅速で、術後合併症の傾向がより少ないものであろう。角膜においては、理想的な組織修復または創傷閉鎖技術ならば、乱視を誘発せずに水密シールを生じるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,552,452号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Henrickら、(1987)J Cataract Refract Surg 13:551-553
【非特許文献2】Henrickら、(1991)J Cataract Refract Surg 17:551-555
【非特許文献3】Shigemitsuら、(1997)International Ophthalmology 20:323-328
【非特許文献4】Goinsら、(1997)J Cataract Refract Surg 23:1331-1338
【非特許文献5】Goinsら、(1998)J Cataract Refract Surg 24:1566-1570
【非特許文献6】Barakら、(1997)Sury Ophthalmol 42 Supp.1:S77-81
【非特許文献7】Cilesizら、(1997)Lasers Surg Med 21:269-86
【非特許文献8】Judyら、(1993)Proc.SPIE-Int.Soc.Opt.Eng.1876:175-179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光化学作用による組織接着の方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、部分的には、光増感剤、例えばローズベンガル(RB)、リボフラビン−5−ホスフェート(R−5−P)、メチレンブルー(MB)、またはN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオン(N−HTP)の、組織、例えば角膜、皮膚、腱、軟骨、または骨への塗布、ついで光活性化、例えば電磁エネルギー例えば光での照射が、コラーゲン変性も熱誘発末梢組織損傷も伴わずに、組織−組織シール(例えば創傷の修復のため、または組織移植をシールするためのもの)を生じうるという発見に基づいている。さらには、この組織−組織シールは、架橋性基質、例えばタンパク質、例えばフィブリンまたはフィブリノーゲン、またはタンパク質ベースの組織接着剤またはグルーの外因性供給源の不存在下に光増感剤が組織に塗布される時に生じうる。このような外因性基質は、架橋性タンパク質を組織に与えるために用いるようにと提案されることが多い。(移植組織は、外因性供給架橋性基質源とは考えられない。)この手順はここでは、光化学作用による組織接着(PTB)と呼ばれる。PTBは、被験者、例えばヒト、またはヒトではない動物、好ましくは非アルビノ動物において生体外または生体内で用いることができる。
【0010】
したがって、1つの態様において本発明は、組織の架橋方法、例えば組織シールを作製する方法を特徴とする。この方法は、修復を必要とする組織、例えばコラーゲン性組織、例えば角膜、皮膚、骨、軟骨、または腱を識別すること;この組織、および任意には第二組織と、少なくとも1つの光増感剤、例えばローズベンガル(RB)、リボフラビン−5−ホスフェート(R−5−P)、メチレンブルー(MB)、またはN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオン(N−HTP)とを接触させて、組織−光増感剤混合物を形成すること;および組織中にタンパク質例えばコラーゲンの架橋を生じるのに十分なほど、電磁エネルギー例えば光を、この組織−光増感剤混合物に加えることを含んでいる。この組織は、架橋性基質、例えばタンパク質、例えばフィブリンまたはフィブリノーゲン、またはタンパク質ベースの組織接着剤またはグルーの外因性供給源と接触させられない。これは、電磁エネルギーを加えることによって架橋される。
【0011】
好ましい実施態様において、この組織は角膜組織である。例えば被験者の角膜組織の1つまたはそれ以上の要素、例えば切り傷、あるいはまた分離された縁部または表面は、互いに、あるいは移植組織に接合されうる。
【0012】
好ましい実施態様において、この組織は修復を必要としている。例えばこの組織例えば角膜は、外傷、外科切開、LASIK皮弁再付着、角膜移植、または乱視の矯正を受けたことがある。
【0013】
好ましい実施態様において、この光増感剤は、ローズベンガル、リボフラビン−5−ホスフェート、メチレンブルー、およびN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオンから成る群から選択される。
【0014】
好ましい実施態様において、この光増感剤はローズベンガルである。
【0015】
好ましい実施態様において、接触工程は生体外で行なわれる。
【0016】
好ましい実施態様において、接触工程は、被験者、例えばヒト、またはヒトではない動物、好ましくは非アルビノ動物、例えば非アルビノウサギにおいて生体内で行なわれる。
【0017】
好ましい実施態様において、被験者は、アルビノ動物以外、例えばアルビノウサギ以外である。
【0018】
好ましい実施態様において、被験者はヒトである。
【0019】
好ましい実施態様において、この組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用は、実質的な組織の熱損傷を伴わずに、例えば創傷部位の周りの収縮も変形も伴わずに行なわれる。
【0020】
好ましい実施態様において、組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用は、例えば照射中に結像型熱カメラを用いて測定された場合、3℃の温度上昇よりも大きい上昇を伴わずに行なわれる。
【0021】
好ましい実施態様において、この組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用は、例えば照射中に結像型熱カメラを用いて測定された場合、2℃の温度上昇よりも大きい上昇を伴わずに行なわれる。
【0022】
好ましい実施態様において、この組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用は、例えば照射中に結像型熱カメラを用いて測定された場合、1℃の温度上昇よりも大きい上昇を伴わずに行なわれる。
【0023】
もう1つの態様において、本発明は、被験者、例えばヒト、またはヒトではない動物、好ましくは非アルビノ動物における角膜病変、例えば角膜切開、破裂、または角膜移植の修復方法を特徴とする。この方法は、角膜組織と少なくとも1つの光増感剤、例えばRB、R−5−P、MB、またはN−HTPとを接触させる工程と、前記光増感剤から反応種、例えば反応性酸素種を生成させるのに十分なほど、電磁エネルギー例えば光をこの角膜組織−光増感剤混合物に加える工程とを含んでいる。この角膜組織は、電磁エネルギーを加えることによって架橋される、架橋性基質の外因性供給源、例えばタンパク質、例えばフィブリンまたはフィブリノーゲン、またはタンパク質ベースの組織接着剤またはグルーと接触させられない。
【0024】
好ましい実施態様において、この角膜病変は、外科処置によって引き起こされる。
【0025】
好ましい実施態様において、この外科処置は、角膜移植手術、白内障手術、レーザー手術、角膜形成術、全層角膜形成術、後方層板角膜形成術(posterior lamellar keratoplasty)、LASIK、屈折手術、角膜再形成、および角膜破裂の治療から成る群から選択される、
好ましい実施態様において、被験者の角膜組織の1つまたはそれ以上の要素、例えば切れた、あるいはまた分かれた縁部または表面を、互いにまたは移植組織と接合させることができる。
【0026】
好ましい実施態様において、被験者の筋肉腱を、被験者の眼と接合させることができる。例えば、眼の調整不良は、例えば眼筋腱を眼に接合させることによって縮小させるか、調節するか、あるいは矯正することができる。
【0027】
もう1つの好ましい実施態様において、この角膜は、乱視矯正の必要がある。例えば直交経線に乱視を誘発し、これによって先在する乱視を打ち消すことによって、例えばPTBを、乱視を矯正するか、縮小するか、あるいは減少させるために用いることができる。好ましい実施態様において、PTBは、予測可能な程度の矯正乱視を誘発する。
【0028】
好ましい実施態様において、この方法はさらに、補助的療法、例えばコンタクトレンズ療法、羊膜療法、LASIK療法の適用、または抗生物質の投与も含む。
【0029】
好ましい実施態様において、加えられる電磁エネルギーは、1200J/cmよりも大きい。もう1つの好ましい実施態様において、加えられる電磁エネルギーは、200〜1200J/cmである。もう1つの好ましい実施態様において、加えられる電磁エネルギーは、200〜800J/cmである。さらにもう1つの好ましい実施態様において、加えられる電磁エネルギーは、200〜500J/cmである。さらにもう1つの好ましい実施態様において、加えられる電磁エネルギーは、300〜600J/cmである。もう1つの好ましい実施態様において、加えられる電磁エネルギーは、350〜550J/cmである。
【0030】
好ましい実施態様において、電磁エネルギーは、3.5W/cm未満の放射度で加えられる。
【0031】
好ましい実施態様において、被験者は、アルビノ動物以外、例えばアルビノウサギ以外である。
【0032】
もう1つの態様において、本発明は、生きている被験者、例えばヒト、またはヒトではない動物、好ましくは非アルビノ動物における生体内での角膜病変の修復方法を特徴とする。この方法は、角膜組織とローズベンガル(RB)とを接触させて、角膜組織−RB混合物を形成する工程と、RBから反応種、例えば反応性酸素種の生成を誘発するのに効果的であるように、電磁エネルギー例えば光をこの角膜組織−RB混合物に加える工程とを含む。角膜組織は、電磁エネルギーを加えることによって架橋される架橋性基質の外因性供給源、例えばタンパク質、例えばフィブリンまたはフィブリノーゲン、またはタンパク質ベースの組織接着剤またはグルーと接触させられない。
【0033】
好ましい実施態様において、被験者はヒトである。
【0034】
好ましい実施態様において、この角膜病変は外科処置によって引き起こされる。
【0035】
好ましい実施態様において、この外科処置は、角膜移植手術、白内障手術、レーザー手術、角膜形成術、全層角膜形成術、後方層板角膜形成術、LASIK、屈折手術、角膜再形成、および角膜破裂の治療から成る群から選択される。
【0036】
好ましい実施態様において、被験者の角膜組織の1つまたはそれ以上の要素、例えば切れた、あるいはまた分かれた縁部または表面を、互いにまたは移植組織と接合させることができる。
【0037】
好ましい実施態様において、被験者の筋肉腱を、被験者の眼と接合させることができる。例えば、眼の調整不良は、例えば眼筋腱を眼と接合させることによって縮小させるか、調節するか、あるいは矯正することができる。
【0038】
もう1つの好ましい実施態様において、この角膜は、乱視矯正の必要がある。例えば直交経線に乱視を誘発し、これによって先在する乱視を打ち消すことによって、例えばPTBを、乱視を矯正するか、縮小するか、あるいは減少させるために用いることができる。好ましい実施態様において、PTBは、予測可能な程度の矯正乱視を誘発する。
【0039】
好ましい実施態様において、この方法はさらに、補助的療法、例えばコンタクトレンズ療法、羊膜療法、LASIK療法の適用、または抗生物質の投与も含む。
【0040】
好ましい実施態様において、被験者は、アルビノ動物以外、例えばアルビノウサギ以外である。
【0041】
もう1つの態様において、本発明は、角膜病変を修復するためのキットを特徴とする。このキットは、光増感剤、例えばRB、R−5−P、MB、またはN−HTPと、角膜病変を修復するための光増感剤の光活性化についての使用説明書と、を含んでいる。
【0042】
好ましい実施態様において、このキットは、光増感剤と共に用いるための架橋性基質源、例えばタンパク質、例えばフィブリンまたはフィブリノーゲン、またはタンパク質ベースの組織接着剤またはグルーを含んでいない。
【0043】
好ましい実施態様において、この光増感剤はローズベンガルである。
【0044】
本発明の1つまたはそれ以上の実施態様の詳細は、添付図面および下記説明に示されている。
【0045】
本発明のその他の特徴、目的、および利点は、この説明および図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】300mmHgにおけるIOPLを示す、PTB処理された眼についての注入時間と共に増加するIOPの典型的なトレースである。
【図2】514nm光(2.55W/cm)およびPBS中のRB(1.5mM)を用いてPTB処理された眼(n=5)についての平均IOPL値。追加対照は、RBまたは緩衝液で処理されたが、レーザー光を用いない切開である。
【図3】RBおよび514nm照射を用いたPTB前後の平均IOPL。RB(10μl、1.5mM)を切開表面に塗布し、ついで(A)1.27W/cm、(B)2.55W/cm、および(C)3.82W/cmの放射度を用いて示されている線量で処理した。
【図4】R−5−Pおよび488nm照射を用いたPTB前後の平均IOPL。R−5−P(40μl、11mM)を切開表面に塗布し、ついで(A)1.27W/cm、(B)2.55W/cm、および(C)3.82W/cmの放射度を用いて示されている線量で処理した。
【図5】FIおよび488nm照射を用いたPTB前後の平均IOPL。FI(40μl、0.6mM)を切開表面に塗布し、ついで(A)1.27W/cm、(B)2.55W/cm、および(C)3.82W/cmの放射度を用いて示されている線量で処理した。
【発明を実施するための形態】
【0047】
ここに記載されているような光化学作用による組織接着(PTB)は、コラーゲン変性も熱誘発末梢組織損傷も伴わずに、組織−組織シールを作製するための方法、例えば創傷、例えば角膜創傷を治療するための方法を提供する。ここに記載されているようなPTBは、創傷をシールするための、創傷表面への光増感剤の塗布、ついでレーザー照射による熱活性化を含んでいる。光増感剤は、外因性タンパク質ベース接着剤、例えばフィブリノーゲンの不存在下に、創傷をシールするため、あるいはまた組織を修復するために効果的に塗布することができる。
【0048】
本発明の方法は、高い引張り強さの修復を与え、外因性タンパク質、例えばフィブリノーゲンを必要としない。これは、治療されることになる患者から分離されなければならないか、あるいは一人またはそれ以上のドナーに由来するものでなければならない。本発明の方法は、化学グルー、例えばシアノアクリレート接着剤の使用を必要としない。ここに記載されている方法は、組織加熱によって引き起こされたタンパク質の組織熱変性を最小限にする。
【0049】
縫合術を用いた角膜創傷または角膜移植組織の閉鎖は、新血管新生、ドナーの角膜の拒絶反応、および部分的に均等でない縫合張力によって誘発された術後乱視を伴うことがある。これは、全層角膜移植後に生じうる。この場合、移植片を定位置に保持するために、多くの縫合が必要である。角膜移植片において均等に張力を分配するように設計されている縫合技術でも、依然として有意な乱視を結果として生じることがある。さらにはゆるい縫合または破れた縫合は、患者を微生物性角膜炎に罹りやすくさせることがある。用いられている縫合術は、熟練技術を集約したものであり、主として角膜の専門家によって実施される。ここに記載されている方法は、縫合術の使用を必要としない。例えば創傷治癒、ホスト移植片のサイジング、および穿孔術のような要因も、術後乱視においてある役割を果たしているが、ここに記載されている方法は、等しく分配された力で移植片を保持し、術後乱視を減らすのを助ける。PTBは、創傷を閉鎖するため、例えば切開または角膜裂傷の治療、LASIK皮弁のスポットシール、白内障手術の実施、およびドナーの角膜の接着のための手順について、手術およびリハビリテーション時間を短縮する。
【0050】
光活性化および光増感剤
ここに記載されている組織−組織シールの作製方法は、好ましくは外因性タンパク質、例えばタンパク質ベースの接着剤、例えばフィブリンまたはフィブリノーゲンの不存在下に、光増感剤、例えばRB、R−5−P、MB、またはN−HTPで組織を処理する工程と、電磁放射線例えば光でこの光増感剤を光活性化する工程とを含む。
【0051】
光活性化は、電磁放射線の形態にあるエネルギーが、化合物例えば光増感剤によって吸収され、したがって化合物を「励起」し、ついでこれはこのエネルギーを別の形のエネルギー、好ましくは化学エネルギーに転換しうる方法について記載するために用いられる。電磁放射線は、電磁スペクトルの可視範囲または可視部分内、またはこのスペクトルの紫外線および赤外線領域内の波長を有するエネルギー、例えば光を含んでいてもよい。この化学エネルギーは、反応種、例えば反応性酸素種、例えばシングレット酸素、スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシル基、光増感剤の励起状態、光増感剤フリーラジカル、または基質フリーラジカル種の形態にあってもよい。ここに記載されている光活性化方法は好ましくは、吸収されたエネルギーの熱エネルギーへの実質のない転移を含んでいる。好ましくは、光活性化は、例えば照射中に組織を調べている結像熱カメラによって測定された場合、摂氏3度(℃)未満の温度上昇、より好ましくは2℃未満の上昇、さらに好ましくは1℃未満の温度上昇を伴って行なわれる。このカメラは、もとの染料付着部位、例えば染料が拡散して到達する創傷部位、あるいはこの創傷部位のすぐ近くの部位に焦点を当てることができる。ここで用いられている「光増感剤」は、光活性化した時に生物学的作用を生じる化合物、または光活性化した時に生物学的作用を生じる化合物の生物学的先駆物質である。好ましい光増感剤は、電磁エネルギー例えば光を吸収する光増感剤である。理論によって縛られたくはないが、この光増感剤は、組織例えばコラーゲン性組織と相互作用して、結合例えば共有結合または架橋を形成する、励起された光増感剤または誘導された種を生成することによって作用しうる。光増感剤は一般的には、光吸収および光活性化を可能にさせる多共役環を含む化学構造を有する。感光性化合物の例には、様々な感光性染料および生物分子、例えばキサンテン、例えばローズベンガルおよびエリトロシン;フラビン、例えばリボフラビン;チアジン、例えばメチレンブルー;ポルフィリンおよび膨張ポルフィリン、例えばプロトポルフィリンI〜プロトポルフィリンIX、コプロポルフィリン、ウロポルフィリン、メソポルフィリン、ヘマトポルフィリン、およびサフィリン;クロロフィリス、例えばバクテリオクロロフィルA、およびこれらの感光性誘導体が含まれる。ここに記載されている方法に用いるのに好ましい光増感剤は、光に暴露された時に反応性中間体を生成することができ、かつ実質量の熱エネルギーを放出しない光化学反応を引き起こすことができる化合物である。好ましい光増感剤はまた、水溶性である。好ましい光増感剤には、ローズベンガル(RB);リボフラビン−5−ホスフェート(R−5−P);メチレンブルー(MB);およびN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオン(N−HTP)が含まれる。
【0052】
理論によって縛られたくないが、この化学エネルギー、例えば修復されることになる組織が接触する光増感剤の光活性化によって生成された反応性酸素種が、結合し、この組織のタンパク質のアミノ酸に構造変化を引き起こし、その結果、共有結合の形成、重合、または組織のアミノ酸間の架橋を生じ、このようにして、組織病変または創傷をシールするか、修復するか、治療するか、あるいは閉鎖するのに役立つタンパク質枠組みを作製すると考えられる。例えばPTB処理の結果として、強力な共有結合架橋が、角膜病変の向かい合った表面上のコラーゲン分子間に形成され、きっちりした組織シールを生じると考えられる。
【0053】
光増感剤、例えばRB、R−5−P、MB、またはN−HTPを、生体適合性緩衝液または溶液、例えば塩水溶液中に溶解して、約0.1mM〜10mM、好ましくは約0.5mM〜5mM、より好ましくは約1mM〜3mMの濃度で用いることができる。
【0054】
光増感剤は、例えば組織中への注入によって、または組織の表面への塗布によって組織に投与することができる。例えば修復されることになる病変または創傷に着色する、例えばこれの壁を覆う、のに十分な量の光増感剤を塗布することができる。例えば少なくとも10μlの光増感剤溶液、好ましくは50μl、100μl、250μl、500μl、または1ml、あるいはそれ以上の光増感剤溶液を、組織、例えば角膜に塗布することができる。好ましくは、光増感剤は、染料が切開表面に大部分結合されるような結合効率、例えばコラーゲン結合効率を有する。
【0055】
電磁放射線例えば光を、適切な波長、エネルギー、および時間で組織に加え、光増感剤に反応を起こさせて、組織中のアミノ酸の構造に影響を与え、例えば組織タンパク質に架橋し、これによって組織シールを作製する。光の波長は、光増感剤の吸収に対応するかまたはこれを包含し、光増感剤と接触させられた組織の部位に到達するように、例えば光増感剤が注入された領域の中に浸透するように選ぶことができる。光増感剤の光活性化を得るのに必要な電磁放射線例えば光は、約350nm〜約800nm、好ましくは約400nm〜約700nmの波長を有していてもよく、可視、赤外、または近紫外スペクトル内にあってもよい。エネルギーは、約0.5〜5W/cm、好ましくは約1〜3W/cmの放射度で送り出されてもよい。照射時間は、組織、例えば組織コラーゲンの1つまたはそれ以上のタンパク質の架橋を可能にするのに十分なものであってもよい。例えば角膜組織において照射時間は、約30秒〜30分、好ましくは約1〜5分であってもよい。照射時間は、光が創傷、例えば皮膚または腱に到達するために散乱層に浸透しなければならない場合、組織において実質的にさらに長くてもよい。例えば、皮膚または腱の創傷に対して必要とされる線量を送り出すための照射時間は、少なくとも1分〜2時間、好ましくは30分〜1時間であってもよい。
【0056】
適切な電磁エネルギー源には、商品として入手しうるレーザー、ランプ、発光ダイオード、またはその他の電磁放射線源が含まれる。光放射線は、単色レーザー光線、例えばアルゴンレーザー光線、またはダイオードポンプソリッドステートレーザー光線の形態で供給されてもよい。光はまた、光学繊維装置を通して非外部表面組織に供給することもできる。例えばこの光は、小ゲージ皮下針または関節鏡に通された光学繊維によって送り出すことができる。光はまた、光学繊維またはカニューレを挿入された導波管を用いた経皮器具類によって伝達することもできる。
【0057】
エネルギー源の選択は一般に、この方法に用いられる光増感剤の選択に関連して行なわれる。例えばアルゴンレーザーは、RBまたはR−5−Pとの使用に適した好ましいエネルギー源であるが、それは、これらの染料がアルゴンレーザーによって放出される放射線の波長に対応する波長において最適に励起されるからである。レーザーと光増感剤とのその他の適切な組合せは、当業者に知られている。同調色素レーザーも、ここに記載されている方法に用いることができる。
【0058】
使用
ここに記載されている方法は、多様な用途における使用に適しているが、これには、試験管内研究所使用、生体外組織処理が含まれるが、特に生きている被験者、例えばヒトへの生体内外科処理、および非外科的創傷治療が含まれる。
【0059】
ここに記載されている方法は特に、外科使用のため、例えば組織の2つまたはそれ以上の部分をシールするか、閉鎖するか、あるいはまた接合するため、例えば組織移植手術を実施するため、または損傷を受けた組織、例えば角膜切開部を治療するために特に有用である。ここに記載されている方法は、精密な接着が必要とされるか、および/または縫合術、ステープル、またはタンパク質シーラントの使用が不都合であるか、または望ましくない場合の外科使用に用いることができる。例えば角膜移植およびその他の眼の手術において、外科的合併症、例えば炎症、過敏状態、感染、創傷割れ、漏出、および上皮内方成長が、縫合術の使用から発生することが多い。ここに記載されている光化学的組織接着方法は、外科またはマイクロサージャリー、例えば眼の外科手術または操作、例えば角膜創傷または切開の修復、屈折手術(角膜から均等な層に「そぎ落とす」ことによる、角膜における不規則性または欠陥の矯正)、角膜形成術、角膜移植、および例えば直交経線において先在する乱視を打ち消すように設計されている乱視を誘発することによる乱視の矯正における使用に特に適している。
【0060】
もう1つの例として、縫合術は、関節の動きに必要とされる軟骨表面の相互的滑動への機械的妨害のために、骨関節軟骨に用いられても満足すべきものではない。縫合術はまた、直径1〜2mmまたはそれ以下の小さい血管の表面をシールするのに用いることができないが、それは、縫合が血管内腔を侵害し、血流を危うくするからである。したがってここに記載されている方法はまた、小さい血管組織、関節軟骨、胃腸管、神経鞘、小管(尿道、尿管、胆管、胸管)、あるいはさらには内耳でさえ、外科的介入に有用である。縫合術またはステープルが指示されていないか、あるいは望ましくない場合、およびここに記載されている光化学組織接着方法が有用である場合のその他の処置には、例えば腹腔鏡(LP)胸郭処置、LP虫垂手術、LPヘルニア修復、LP卵管結紮、およびLP眼窩手術などの腹腔鏡手術または介入に関わる処置が含まれる。
【0061】
ここに記載されている光化学作用による組織接着方法はまた、縫合術の使用を補足するため、例えば縫合吻合を補強するためにも用いることができる。縫合は、流体および微生物の漏出を可能にすることがある管路を後に残す。漏出の問題は特に、流体または中にある内容物が縫合孔を通って漏出することがあるような場合、血管吻合において、または流体含有構造(大動脈、尿管、GI管、眼等)のあらゆる吻合に対して特に決定的である。1つの実施態様において、創傷は、一般的な処置にしたがって縫合し、ついでここに記載されている光化学作用による組織接着方法を用いて処理し、これによって治療中の創傷を水密にし、細菌に対して不浸透性にすることができる。
【0062】
さらにはここに記載されている方法は、非外科的創傷治療用途にも用いることができる。例えば「光化学包帯」を、通常の包帯に加えて、あるいはこれに代えて創傷治療に用いることができる。1つの実施態様において、生物適合性基質、例えば通常の包帯材料、例えば繊維ストリップを、ここに記載されている光増感剤で含浸し、創傷に当て、可視光源、例えば白熱、蛍光、または水銀蒸気光源、例えばキセノンアークランプ、またはレーザー光源で光活性化することができる。この光化学包帯は、創傷治療のためのもう1つの有利な物質、例えば抗生物質を含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、光増感剤−含浸包帯、および/または光源は、キットとして、例えばヘルスケアの専門家による使用のためのキット、または家庭用キットとして被験者に供給されてもよい。これらのキットには、使用説明書が入っていてもよい。ここに記載されている光化学包帯は、創傷上に残されてもよく、あるいは必要に応じて取り替えることもできる。
【0063】
このような包帯は、体から除去された組織に対して生体外で使用されてもよく、あるいは被験者、例えばヒト被験者に対して現場で使用されてもよい。例えばここに記載されている包帯は、体の内外の液体がにじみ出ている大きい表面へ、「人工皮膚」またはカバー剤として用いられてもよい。例えば火傷患者は、細菌感染を防ぐため、および体液および電解質の火傷部位からの損失を減らすために、ここに記載されている光化学包帯で覆われてもよいであろう。
【0064】
ここに記載されている方法はまた、研究所用途における使用のためにタンパク質を架橋するため、例えば顕微鏡用にタンパク質を固定するため;診断または精製のために基質に対して抗体またはその他のタンパク質試薬を固定するため;またはクロマトグラフィーまたは免疫学的用途における使用のためにタンパク質またはペプチドを固体マトリックスに架橋するためにも用いることができる。
【0065】
キット
本発明はまた、光化学作用による組織接着における使用のためのキットも含む。このようなキットは、研究所用途または臨床的用途に用いることができる。このようなキットは、光増感剤、例えばここに記載されている光増感剤と、研究所使用のために少なくとも1つのタンパク質試薬を架橋するため、または動物の組織、例えば特にヒトの患者におけるヒトの組織を接着するか、修復するか、または治療するための、光増感剤の適用および照射のための使用説明書とを含んでいる。これらのキットは、保存用容器、例えば光増感剤の保存用の光保護された、および/または冷却された容器を含んでいてもよい。これらのキットに含まれている光増感剤は、様々な形態、例えば粉末、凍結乾燥、結晶、または液体形態で供給されてもよい。任意にはキットは、組織接着、創傷修復、または眼の治療の用途における使用のための追加薬剤、例えば抗生物質またはコンタクトレンズを含んでいてもよい。
【0066】
ここに記載されているキットはまた、光増感剤を組織に塗布するための手段、例えば注射、注射様器具、スポイト、粉末、エーロゾル容器、および/または包帯材料を含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、光化学メカニズム、および反応性中間体の発生、例えばシングレット酸素の発生に依存しているここに記載されているキットは、高酸素雰囲気中に保存されてもよい。
【0067】
キットは、使用説明書、例えば架橋性基質の外因性供給源、例えばタンパク質、例えばフィブリンまたはフィブリノーゲンの不存在下における使用説明書を含んでいてもよい。
【実施例】
【0068】
実施例1:角膜切開の修復におけるPTBの評価
PTBは、組織、例えば創傷、例えば角膜創傷をシールまたは修復するために用いることができる。この実施例は、生体外の哺乳動物の角膜を用いて、ここに記載されているようなPTBの効力をテストするように設計された実験手順を例証している。実験は下記手順にしたがって実施した。
【0069】
犠牲にして摘出したほぼ17〜24時間後、ウサギの眼を氷(Pel−Freez Biologicals)上に受入れた。これらの眼を氷の上に保持し、その同じ日に用いた。調べられることになる眼を、プラスチックカバーされたポリスチレンブロック上に載せ、外眼筋を通してポリスチレン中に挿入された針によって定位置に固定した。ついでこの眼を、この全手順の間処理区域の明視化を可能にする解剖顕微鏡(Reichert Scientific Instruments,IL)下に置いた。27G針を、縁の2mm前方のところで虹彩に対して平行に透明な角膜の中に挿入し、前眼房内のレンズの上に配置した。この針を、血圧変換器(Harvard Apparatus,MA)とミニ−インフューザー400(Bard Harvard)との両方に、Tカプラーを介して連結した。この圧力変換器は、増幅器ボックスに結線接続されている変換器要素から構成され、一体的シリコーンゴム膜を備えた半使い捨てドームを利用している。このドーム内部の圧力は、この膜を通ってプラスチックボタンに伝達され、このボタンの動きは電圧に変換される。変換器・増幅器の組合せによって発生した電圧は、眼内圧力(IOP)の下限に比例する。変換器・増幅器からの信号は、PCMICA(DAQCARD−1200)データ取得カード(National Instruments.TX)を備えたMacintosh G3 Power bookを用いて記録された。データ取得は、LabView4ソフトウエアパッケージ(National Instruments.TX)を用いて書かれたプログラムを用いて制御された。変換器および増幅器からの電圧は、据付けマノメータで校正する(calibrate)ことによって圧力に転換された。
【0070】
個々の眼に対する実験は、1分あたり1mLの率での水注入を用いて、IOPを30〜40mmHgまで増加することによって開始した。切開は、角膜において、3.5mmの角度のある角膜切開刀(Becton Dickinson Co.)を用いて、縁から1mmのところで虹彩に対して平行に行なった。各々の眼について、切開からの液体漏出(IOP)を生じるのに必要とされるIOPを、PTB処理の前後に記録した。リン酸塩緩衝液(PBS、pH7.2、Gibco BRL)中に溶解された光増感剤を、27G針が付いているGastight、50μl注射器(Hamilton Co.)を用いて切開壁に塗布した。同焦点蛍光分光検査法によって、切開壁上の光増感剤、例えばローズベンガルの位置が確認され、この光増感剤が、約100μM側面方向に切開壁の中に浸透したことが示された。
【0071】
光増感剤、これらの吸収極大、およびこの実施例において用いられているレーザー波長におけるこれらの吸収係数は、例えばローズベンガル(RB)、550nm、514nmにおいて33000dmモル−1cm−1;フルオレセイン(Fl)、490nm、488nmにおいて88300dmモル−1cm−1;メチレンブルー(MB)、664nm、661nmにおいて15600dmモル−1cm−1;リボフラビン−5−ホスフェート(R−5−P)、445nm、488nmにおいて4330dmモル−1cm−1;およびN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオン(N−HPT)、314nm、351nmにおいて2110dmモル−1cm−1であった。これらの光増感剤は、使用前に水性エタノールから2回再結晶されたN−HPT以外は受取られたままの状態で用いた。光増感剤の濃度は、すべての溶液が、レーザー照射波長における200μmの経路長さにおいて約1.0の吸光度を有するように調節された(ただし、吸収がほぼ係数10低いN−HPTを除く)。
【0072】
照射は、488nm(FlおよびR−5−Pの場合)、514.5nm(RBの場合)、または351nm(NHPTの場合)において、連続波(CW)アルゴン−イオンレーザー(Innova 100;Coherent,Inc.,Palo Alto,California)を用いた。4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン染料(Exciton,Inc.,Dayton,Ohio)を有するアルゴン−イオン−ポンプ色素レーザー(CR−599:Coherent)を、661nmにおける照射のために用いた(MBの場合)。レーザー光を1mm直径の石英繊維中に結合(couple)し、この組織上の1cm直径のスポットを、1および2インチの焦点長さの組合せ、S1−UVグレード溶融シリカ、SM1シリーズのケージアセンブリー(Thorlabs,NJ)に取り付けられた両凸レンズ(Esco Products)を用いてつくり出した。切開部全体をカバーするには1cm直径の円形スポットで十分であった。光学器械の構成部分は、レーザー光が切開平面に対して約45°の角度で角膜上に入射するように調節した。線量応答曲線は、一定放射度で照射時間を変えることによって得られた。別々の実験において、レーザー放射度の効果は、様々な放射度を用いてもたらされた同じ線量の比較によって調査した。用いられた線量は、124〜1524J/cmであり、用いられた放射度は、0.64、1.27、2.55、および3.86W/cmであった。レーザー暴露時間は、最高放射度を用いた最低線量の場合の33秒から、最低放射度を用いた最高線量の場合の26分27秒までの様々なものであった。IOPは、処理直後に記録した。注入が開始され(1分あたり1mL)、IOPは、最大ついで急激な減少が発生するまで増加したが、これは切開部の開口および前眼房からの液体の漏出に対応している。注入時間と共にIOPの変化を示す典型的なトレースが図1に示されている。5〜10匹のウサギの眼を、各々の線量および放射度条件についてテストした。
【0073】
対照実験は、下記のものを含んでいた。すなわち、(1)光増感剤塗布を伴わない照射、(2)光増感剤の塗布のみ、および(3)光増感剤もレーザー照射も行なわない。光増感剤を用いない実験において、PBSは、光増感剤について記載されているのと同じ方法を用いて切開壁に塗布された。レーザー照射を行なわない対照実験において、眼は、レーザー処理サンプルと同じ時間放置された。
【0074】
実施例2:PTBにおけるローズベンガル(RB)の使用
角膜において、RBは、約0.5mM〜5mM、好ましくは約1mM〜3mMの濃度でPTBに用いることができる。RBの場合の照射波長は、好ましくは約450〜600nm、より好ましくは約500〜560nmである。照射線量は、約0.5〜2kJ/cmであってもよい。送り出される放射度は、約0.2〜3W/cmであってもよい。照射時間は好ましくは約1〜10分である。
【0075】
1.5mM RBおよび514nmレーザー光での切開処理の結果、実施例1に記載されているように測定された場合、処理後IOPの増加を生じた。対照実験は、PTB処置後のIOPの有意な増加(p<0.005)は、RBおよびレーザー照射の両方が適用され、どちらか単独によるものでない時に生じることを示した(図2)。RBおよび514nmレーザー光で処理された切開の平均IOPは、300±48mmHgよりも大きかったが、レーザー照射単独または光増感剤単独では、処理前と処理後のIOP値間に有意な増加を生じなかった。
【0076】
IOPについての線量応答曲線は、図3において1.27(3A)、2.55(3B)、および3.82W/cm(3C)の放射度で送り出されたRB線量について示している。線量−応答の関係は、508〜1270J/cm(3A)の線量について最低放射度(1.27W/cm)において観察された。テストされたどの放射度においても、508J/cm以下の線量については、IOPの有意な上昇は見られなかった。PTBは、1.27W/cmの放射度で送り出された1270J/cmにおいて最も効率的であった。2つの低い方の放射度(1.27および2.55W/cm)において送り出されたすべての線量は、100mmHgよりも大きいIOP値を生じた。2.55および3.82W/cmの放射度を用いた処理は、明白な線量応答パターンを生じなかった。一般に、選択された線量の場合、IOPは、より高い放射度においての方が低かった。例えば1270J/cmにおいて、平均IOP値は、1.27W/cm、2.55W/cm、および3.86W/cmの場合、274、150、および130mmHgであった。
【0077】
処理後、眼を熱損傷の存在について調べた。創傷部位の周りの組織収縮および変形は、熱損傷の徴候と考えられた。角膜への熱損傷は、テストされた最低放射度(1.27W/cm)では観察されなかった。熱損傷は、最高放射度(3.82W/cm)において、時には2.55W/cmにおいて、762〜1524J/cmの線量で観察されるであろう。高い放射度を用いて生じる熱作用は、コラーゲン収縮を生じ、その結果患者の視野のゆがみを生じることがある。
【0078】
実施例3:PTBにおけるリボフラビン−5−ホスフェート(R−5−P)の使用
角膜において、R−5−Pは、約1mM〜30mM、好ましくは約10mM〜20mMの濃度でPTBに用いることができる。R−5−Pの場合の照射波長は、好ましくは約400〜600nm、より好ましくは約450〜550nmである。照射線量は、約0.5〜2kJ/cmであってもよい。送り出される放射度は、約0.2〜3W/cmであってもよい。照射時間は好ましくは約1〜10分である。
【0079】
R−5−P PTBの効果を、実施例1に記載されているように評価した。11mM R−5−Pの使用、およびRBに用いたのと同じ放射度における488nm光、762J/cmおよび1016J/cmの線量を用いた照射は、PTB処理後、IOP値を有意に増加させた(p<0.05)。図4参照。R−5−Pを用いて観察されたIOP値は、RBの場合のものと同様な規模を有する。しかしながら同じ放射度および線量における各々の染料について観察されたIOP値は、匹敵しうるものではなかった。この処理はIOPに有意な増加を生じるが、2つの染料間に単純なパターンは観察されない。
【0080】
実施例4:PTBにおけるN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオン(N−HTP)の使用
角膜において、N−HTPは、約0.5mM〜10mM、好ましくは約3mM〜6mMの濃度で用いることができる。N−HTPの場合の照射波長は、好ましくは約330〜400nmである。照射線量は、約0.5〜2kJ/cmであってもよい。送り出される放射度は、約0.2〜3W/cmであってもよい。照射時間は好ましくは約1〜10分である。N−HTPの4.5mM溶液を、実施例1に記載されているように切開壁に塗布し、127J/cm〜508J/cmの線量で、351nm光(0.64W/cm)を用いて照射した。60±23mmHgおよび126±40mmHgの平均IOP値が、その他の光増感剤に用いられた線量よりも低い線量である、それぞれ254J/cmおよび508J/cmの線量を用いた時に生じた。
【0081】
実施例5.PTBにおけるメチレンブルー(MB)の使用
MBは、ラットの尾の腱においてコラーゲン架橋を光増感すると報告されている、眼の手術に頻繁に用いられている染料である(Ramshawら、(1994)Biochim Biophys Acta 1206:225−230)。本発明者らの以前の研究では、MBおよび355nm光は、可溶性コラーゲンの効率的な架橋を生じないことを証明した。したがってMBは、これらの生体外研究において対照として用いられた。MB(3mM)を、実施例1に記載されているように切開壁に塗布し、0.64W/cmにおいて661nm光で照射した。508J/cm、762J/cm、および1016J/cmの線量は、処理後のIOPを増加させなかった。しかしながらMBは、角膜組織を効率的に染色しないことが観察された。このことはおそらく、PTBについてのその低い効率を説明している。
【0082】
実施例6:PTBへの熱的貢献の評価
レーザー活性化組織融合は、多様な組織において研究されている(Abergelら、(1986)J Am Acad Dermatol.14:810−814;Cilesizら、上記;Massicotteら、(1998)Lasers in Surgery and Medicine 23:18−24;Ozら、(1990)J Vasc Surg.11:718−725;Poppasら、(1996)Lasers in Surgery and Medicine 18:335−344;Poppasら、(1996)Lasers in Surgery and Medicine 19:360−368;Stewartら、(1996)Lasers in Surgery and Medicine 19:9−16;Widerら、(1991)Plastic Reconstr Surg 88:1018−1025)。組織融合において、レーザー照射は、コラーゲンが変性する温度まで組織を加熱するために用いられ、冷却した時、コラーゲン分子が絡み合って「融合」を形成する。さらには染料増強熱融合が研究されている(Bass & Treat(1995)Lasers Surg and Med 17:315−349;Chuckら、(1989)Lasers Surg and Med 9:471−477)。この方法では、染料が選択的にレーザーエネルギーを吸収し、ついで所望の部位に熱を放出し、末梢組織損傷を縮小する。しかしながらこれらの方法は、熱組織損傷によって生じる角膜変形から結果として生じるであろう視力の潜在的低下によって、角膜には適切でない。角膜に対してPTBを実施する時、加熱は避けなければならない。
【0083】
本発明者らは、RBによって生じたPTBと、同様な構造を有するがタンパク質架橋を誘発するとは期待されない染料であるフルオレセイン(Fl)によって生じたPTBとを比較することによって、非光化学プロセスが創傷閉鎖に貢献する可能性を評価した。RBとFlとはどちらもキサンテン染料である。しかしながらRBはハロゲン化されており(4つのヨウ素と4つの塩素)、これらの重質原子の存在は、RBを光化学的に活性にする(Lessingら、(1982)J Mol Struct 84:281−292)。Flは、RBよりも高い量子収率の蛍光と低い量子収率のトリプレット状態の形成を有し(Flemingら、(1977)JACS 99:4306−4311)、したがってコラーゲン架橋を生じる可能性を有する低い割合の活性種を生成する。0.6mM Flの溶液を塗布し、RBに用いられたのと同じ範囲の放射度で、および508J/cm〜1016J/cmの線量で、488nmレーザー光を用いて照射した(図5)。調査された2つの最低放射度を用いて、2つの最低線量で処理された切開の場合は、IOPの増加は観察されなかった。しかしながらすべての放射度についての最高線量において、IOP値の増加が観察された。これらの値は、63±30〜89±42mmHgであった。ただし、これはRBよりもはるかに効率的ではない(図3と図5とを比較のこと)。これらの結果は、PTBが実際に光化学プロセスによって生じることを示唆している。3.82W/cmにおいて762J/cmの線量を用いて得られた116±40mmHgのIOP値(3分10秒のレーザー暴露時間)は、Flを用いて観察された他のどれよりもかなり高い。最高放射度(3.82W/cm)および線量(762J/cm)において観察されたシーリングは、何らかのその他の効果、例えばこれらの高い放射度条件下における熱メカニズムが作用していることを示唆している。
【0084】
実施例7:PTB対縫合術
実施例1に記載されているように、PTB処理後のIOP値を、縫合術を用いて得られた値と比較した。ブラックモノフィラメント10−0ナイロン(Ethilon Inc.)の2つの断続放射状(radial)縫合を用いて、角膜刀切開部を閉鎖した。縫合は、約90%角膜深さで放射状に配置された。縫合でのIOP値は、約230mmHgであった。この値は、PTB処理を用いて閉鎖された切開の場合と同様である。
【0085】
実施例8:生体内PTB
ニュージーランドウサギにおいて2種類の角膜創傷を修復するために、PTBを生体内で実施した。
【0086】
グループIにおいて、20匹のウサギ(New Zealand White)の角膜に、3.5mmの切開を行なった。線量およびレーザー放射度は、各々の条件および適切な対照眼について、5つまたはそれ以上の眼のサブグループにおいて様々に変えた。光活性化を514nmアルゴンレーザーで実施した。処理済されたラビットおよび非処理ラビットの眼の創傷漏出および切開破裂圧力を、麻酔下の動物を用いて生体内で測定した。
【0087】
グループIの創傷は、例えば191J/cmを用い、1.5mM RBを塗布して治療した。即時生体内破裂圧力は、PTB処理眼の場合495±10mmHgであった。同じ条件下において、対照眼における破裂圧力の値は、15mmHgから60mmHgまで様々であった。手術後1日目には、破裂圧力は、PTB処理眼と対照眼とで同じであった(約450±125mmHg)。14日目、破裂圧力は、PTB処理眼と対照眼との両方において500mmHgを超えた。
【0088】
グループIIにおいて、4〜16縫合によって固定された6mm全層角膜形成(PK)切開を、16匹のウサギの角膜に実施した。各グループにおいて角膜の半分がPTBを受け、この場合1%ローズベンガル染料を創傷縁部に塗布し、ついで191J/cmのフルエンスにおいてレーザー照射を行なった。光活性化は、514nmアルゴンレーザーおよび532nmCW Nd:YAGレーザーを用いて実施した。創傷漏出および切開破裂圧力を、手術直後期間内に生体内で測定した。PTB処理された眼は、縫合のみの対照眼の場合の250±150mmHgと比べて、PTB処理された眼の場合410±70mmHgの即時破裂圧力を示した。この結果は、PTBが縫合への補足として、並びにそれ自体として有用かつ効果的であることを示している。
【0089】
ここに記載されている結果は、PTBが、被験者、例えば動物またはヒトにおける組織、例えば角膜切開を生体内でシールするか、閉鎖するか、または治療するのに効果的であることを示している。タンパク質、例えばタンパク質ベースのシーラント、例えばフィブリノーゲンの存在は、良好な組織シールを得るのに必要でない。PTBは、その他の創傷治療技術、例えば縫合の代わりに、あるいはこれに加えて用いられてもよい。
【0090】
本発明のいくつかの実施態様が記載されている。それにもかかわらず、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な修正を行なうことができると理解される。したがって他の実施態様も、添付の特許請求の範囲内にある。
【0091】
他の実施態様
1.組織シールを作製する方法であって、
修復を必要としている組織を識別する工程と、
前記組織、および必要に応じて第二組織と、少なくとも1つの光増感剤とを接触させて、組織−光増感剤混合物を形成する工程と、
前記組織中にタンパク質の架橋を生じるのに効果的であるように、電磁エネルギーを前記組織−光増感剤混合物に加える工程と、
を含み、
前記組織は、電磁エネルギーを加えることによって架橋される外因性タンパク質またはペプチドと接触させられず、
これによって組織シールを作製する方法。
【0092】
2.前記組織が角膜組織であることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0093】
3.少なくとも1つの光増感剤が、ローズベンガル、リボフラビン−5−ホスフェート、およびN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオンから成る群から選択されることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0094】
4.前記少なくとも1つの光増感剤がローズベンガルであることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0095】
5.前記接触工程が、生体外で行なわれることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0096】
6.前記接触工程が、被験者において生体内で行なわれることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0097】
7.前記被験者がヒトであることを特徴とする実施態様6記載の方法。
【0098】
8.前記組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用が、実質的な組織の熱損傷を伴わずに行なわれることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0099】
9.前記組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用が、3℃の温度上昇よりも大きい上昇を伴わずに行なわれることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0100】
10.前記組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用が、2℃の温度上昇よりも大きい上昇を伴わずに行なわれることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0101】
11.前記組織−光増感剤混合物への電磁エネルギーの適用が、1℃の温度上昇よりも大きい上昇を伴わずに行なわれることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0102】
12.角膜病変の修復方法であって、
角膜組織と少なくとも1つの光増感剤とを接触させて、角膜組織−光増感剤混合物を形成する工程と、
前記光増感剤からの反応種の生成を誘発するのに効果的であるように、前記角膜組織−光増感剤混合物に電磁エネルギーを加える工程と、
を含み、
前記角膜組織は、電磁エネルギーを加えることによって架橋される外因性タンパク質またはペプチドと接触させられず、
これによって角膜病変の一部または全部修復を促進させることを特徴とする方法。
【0103】
13.前記角膜病変が、外科処置によって引き起こされることを特徴とする実施態様12記載の方法。
【0104】
14.前記外科処置が、角膜移植手術、白内障手術、レーザー手術、角膜形成術(keratoplasty)、LASIK、屈折手術、角膜再形成、および角膜破裂の治療から成る群から選択されることを特徴とする実施態様13記載の方法。
【0105】
15.加えられる電磁エネルギーが、200J/cmよりも大きいことを特徴とする実施態様12記載の方法。
【0106】
16.前記電磁エネルギーが、3.5W/cm未満の放射度で加えられることを特徴とする実施態様12記載の方法。
【0107】
17.生きている被験者における生体内での角膜病変の修復方法であって、
角膜組織とローズベンガル(RB)とを接触させて、角膜組織−RB混合物を形成する工程と、
前記RBからの反応性酸素種の生成を誘発するのに効果的であるように、前記角膜組織−RB混合物に電磁エネルギーを加える工程と、
を含み、
前記角膜組織は、電磁エネルギーを加えることによって架橋される外因性タンパク質またはペプチドと接触させられず、
これによって角膜病変の一部または全部修復を促進させることを特徴とする方法。
【0108】
18.前記被験者がヒトであることを特徴とする実施態様17記載の方法。
【0109】
19.前記角膜病変が、外科処置によって引き起こされることを特徴とする実施態様17記載の方法。
【0110】
20.前記外科処置が、角膜移植手術、白内障手術、レーザー手術、角膜形成術、LASIK、屈折手術、角膜再形成、および角膜破裂の治療から成る群から選択されることを特徴とする実施態様19記載の方法。
【0111】
21.光増感剤と、
角膜病変の修復のための前記光増感剤の光活性化についての使用説明書と、
を含む、角膜病変の修復用キット。
【0112】
22.前記光増感剤がローズベンガルであることを特徴とする実施態様21記載のキット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織シールを作製するための医薬の製造における光増感剤の使用であって、該光増感剤が、ローズベンガル、リボフラビン−5−ホスフェートまたはN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオンであり、電磁エネルギーを加えることにより架橋される外因性タンパク質またはペプチドの不在下で、該光増感剤が、修復を必要としている組織と接触したときに、3.5W/cm未満の放射度で電磁エネルギーにより照射されて、前記組織中にタンパク質の架橋を生じさせることによって組織シールを作製することを特徴とする使用。
【請求項2】
前記組織が角膜組織であることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
角膜病変を修復するための医薬の製造における光増感剤の使用であって、該光増感剤が、ローズベンガル、リボフラビン−5−ホスフェートまたはN−ヒドロキシピリジン−2−(1H)−チオンであり、電磁エネルギーを加えることによって架橋される外因性タンパク質またはペプチドの不在下で、該光増感剤が、角膜組織と接触したときに、2.55W/cm未満の放射度で電磁エネルギーにより照射されて、該光増感剤から反応種を生成させることによって角膜病変の一部または全部の修復が促進されることを特徴とする使用。
【請求項4】
前記角膜病変が、外科処置によって引き起こされたものであることを特徴とする請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記外科処置が、角膜移植手術、白内障手術、レーザー手術、角膜形成術、LASIK、屈折手術、角膜再形成、および角膜破裂の治療よりなる群から選択されることを特徴とする請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記接触が、生体外で行なわれることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記接触が、被験者において生体内で行なわれることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の使用。
【請求項8】
前記被験者がヒトであることを特徴とする請求項7記載の使用。
【請求項9】
電磁エネルギーの適用が、実質的な組織の熱損傷を伴わずに行なわれることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の使用。
【請求項10】
電磁エネルギーの適用が、3℃の温度上昇よりも大きい温度上昇を伴わずに行なわれることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の使用。
【請求項11】
電磁エネルギーの適用が、2℃の温度上昇よりも大きい温度上昇を伴わずに行なわれることを特徴とする請求項10記載の使用。
【請求項12】
電磁エネルギーの適用が、1℃の温度上昇よりも大きい温度上昇を伴わずに行なわれることを特徴とする請求項11記載の使用。
【請求項13】
加えられる電磁エネルギーが、200J/cmよりも大きいことを特徴とする請求項1から12いずれか1項記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−210474(P2012−210474A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152163(P2012−152163)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2001−557603(P2001−557603)の分割
【原出願日】平成13年2月12日(2001.2.12)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】