説明

光化学反応デバイス

【課題】光エネルギーを利用して水から抽出した電子で選択的に二酸化炭素を還元し、有用な炭素化合物を合成する。
【解決手段】水を酸化して酸素を発生する酸化反応用電極12と、二酸化炭素を還元して炭素化合物を合成する還元反応用電極10と、を設ける。これら両電極10,12を電気的に接続する。そして、記還元反応用電極10が、照射される光エネルギーを利用して水を含む液中で二酸化炭素を還元し、炭素化合物を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーを利用して二酸化炭素を還元し炭素化合物を合成することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を電子供与剤とした酸化還元反応において二電極方式で光電極を利用した例として、非特許文献1が知られている。
【0003】
この非特許文献1には、還元反応用光電極にp−GaInP電極、酸化反応用光電極にWO電極を用い、0.5M硝酸カリウム溶液中でタングステン−ハロゲンランプの光を照射することで、水を分解する技術が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、二酸化炭素の還元反応を呈する還元反応用光電極として、TiOなどの半導体触媒の粉末を水に懸濁させ、二酸化炭素を通しながらキセノンランプや高圧水銀灯のような人工光源からの光照射を行うと、ホルムアルデヒド、蟻酸、メタン、メタノールなどが生成する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、水中で酸化ジルコニウム半導体に光照射し、光エネルギーを利用して水から効率的に水素と酸素を製造する方法、並びに水及び二酸化炭素から水の光分解触媒用触媒の存在下に光エネルギーを利用して水素、酸素と同時に一酸化炭素を製造しうる方法に関する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、水酸化塩溶液中のTiOなどの半導体電極と、炭酸水素溶液中のPd−Ru合金触媒を担持したガス拡散電極を短絡し、半導体電極側に光を照射してガス拡散電極側で二酸化炭素を蟻酸に還元生成する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、可視光応答型光触媒である酸化第一銅と電子供与剤であるトリエタノールアミンの存在下で光を照射することで、水中の反応でメタノールを、アセトニトリル中の反応で蟻酸を選択的に生成する技術が開示されている。
【0008】
また、非特許文献3には、高圧(40atm)で二酸化炭素を溶解させたメタノール溶媒中でp−InP光電極に光を照射して50mAの定電流を流すことで、一酸化炭素が89%の電流効率で生成する技術が開示されている。
【0009】
また、非特許文献4には、二酸化炭素を溶解させたメタノール溶媒中で、鉛修飾したp−InP光電極に光照射することによりファラデー効率29.9%でギ酸が、銀修飾したp−InP光電極に光照射することによりファラデー効率80.4%で一酸化炭素が生成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2526396号公報
【特許文献2】特開平6−158374号公報
【特許文献3】特開平7−112945号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Turnerら, Journal of The Electrochemical Society 155 (2008) F91
【非特許文献2】Fujishimaら, Nature 277 (1979) 637
【非特許文献3】Fujishimaら,The Journal of Physical Chemistry 102 (1998) 9834
【非特許文献4】Kanecoら, Applied Catalysis B:Environmental 64 (2006) 139
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、水を電子供与剤とした二酸化炭素の還元反応において、二酸化炭素の還元には伝導帯のエネルギー準位の高い光電極材料が必要であり、バンドギャップの短い可視光応答型の光電極を用いる場合は必然的に価電子帯のエネルギー準位も高くなり、水を電子供与剤として利用することが困難になる。そのため、二種の光電極を組み合わせた二電極方式の反応セルが可視光応答型光電極の利用には有効と考えられる。
【0013】
前記非特許文献1には、水の分解による水素・酸素生成反応が報告されている。しかし、この非特許文献1では、二酸化炭素の還元反応について全く記載がない。二酸化炭素の還元反応、例えば二酸化炭素からギ酸が生成する反応の標準電極電位は−0.196Vとプロトンから水素が生成する電位(0V)よりもエネルギー的に高いため、p−GaInP電極のような半導体電極単体の表面ではエネルギー的に低い水素生成反応が起きる可能性が高く、二酸化炭素の還元反応を生起するのは難しいと考えられる。
【0014】
二酸化炭素の還元反応を呈する還元反応用光電極としては、非特許文献2が挙げられる。この非特許文献2では、ホルムアルデヒド、蟻酸、メタン、メタノールなどの同時生成が開示されている。また、特許文献1には、水素のみ、あるいは水素と同時に一酸化炭素を生成する例が開示されている。
【0015】
光照射により水素を生成する、あるいは2種類以上の二酸化炭素還元物を同時に生成するのは無機半導体光触媒の特徴であるが、工業的な利用を考えた場合、生成物が高い選択性で得られることは重要である。特許文献2では、酸化チタンへの光照射により生じた光電流の32%が蟻酸に変換されており高い変換効率を示している。しかし、反応溶液にアルカリ水溶液と炭酸塩水溶液を用いる必要がある。また、酸化チタンは紫外光応答型半導体であり、太陽光の利用効率が低いことが問題である。特許文献3は、可視光応答型光触媒を利用しているが、二酸化炭素の還元反応と対になる酸化反応を促進させるために電子供与剤を必要とする。
【0016】
非特許文献3では、可視光応答型の光電極を用いて二酸化炭素を還元しているが、反応性を高めるために高圧で二酸化炭素を溶解させる必要がある。非特許文献4においても、可視光応答型の光電極を用いて二酸化炭素を還元し、高いファラデー効率でギ酸や一酸化炭素を生成しているが、反応溶媒にメタノールを用いる必要がある。また、−2.5V(vs Ag/AgCl)と高いバイアス電圧を印加しており、光電極材料を用いることで反応電圧を低下させるメリットが生かされていない。
【0017】
半導体光電極上での反応生成物選択性が低い理由については以下のように推察される。半導体膜や粉体の表面は均一ではなく、多くの欠陥や原子レベルの構造的な段差などが存在する。従って、表面上のサイトによって局所的な表面エネルギーが異なる結果、被反応物である二酸化炭素、プロトンや溶媒、ガス、ならびに反応中間体などの吸着性能が異なる。したがって、これらの物質に電子が渡される確率、速度などのプロセスは一定でないために、種々の反応生成物が生成するものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、水を酸化して酸素を発生する酸化反応用電極と、二酸化炭素を還元して炭素化合物を合成する還元反応用電極と、を含み、これらを電気的に接続して構成され、前記還元反応用電極は、照射される光エネルギーを利用して水を含む液中で二酸化炭素を還元し、炭素化合物を合成することを特徴とする。
【0019】
また、前記水を含む液は、水、または電解質を含む水溶液であることが好適である。
【0020】
また、前記還元反応用電極が、半導体電極と二酸化炭素の還元作用を呈する触媒が接合した構造を有し、前記半導体電極に光照射して生じた励起電子が触媒に移動することにより、二酸化炭素の還元作用を呈することが好適である。
【0021】
また、前記二酸化炭素の還元作用を呈する触媒が、金属錯体であることが好適である。
【0022】
また、前記酸化反応用電極が、半導体電極で構成されることが好適である。
【0023】
また、前記酸化反応用電極と還元反応用電極を直結すると共に、両電極に光を照射することで、水を電子供与剤として動作することが好適である。
【0024】
また、前記酸化反応用電極と還元反応用電極をバイアス電源を介し接続すると共に、両電極に光を照射することで、水を電子供与剤として動作することが好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、光エネルギーを利用して水から抽出した電子で選択的に二酸化炭素を還元し、有用な炭素化合物を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る光化学反応デバイスの概略構成を示す図である。
【図2】他の実施形態に係る光化学反応デバイスの概略構成を示す図である。
【図3】Ru錯体の構造式と、ポリマー化したRu錯体の構造式を示す図である。
【図4】デバイスの電流−電圧特性を示す図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0028】
図1には、実施形態に係る光化学反応デバイスの構成を示している。半導体電極である還元反応用電極10と、その対極であって半導体電極である酸化反応用電極12が電気的に接続されている。ここで、図2に示すように、還元反応用電極10と、酸化反応用電極12との間にバイアス電源14を配置し、還元反応用電極10を酸化反応用電極12に対し、バイアス電圧(0〜1.4V)だけ負のバイアスがかかるようにバイアス電源14を配置することも好適である。
【0029】
そして、還元反応用電極10には、基材16の触媒が電子eのやり取りができる状態で接触する。図示の例では、金属錯体(ルテニウム錯体)が基材16として利用されている。
【0030】
このようなシステムにおいて、還元反応用電極10に光が照射されると、ここで光励起電子eが発生し、この光励起電子eが基材16の還元触媒反応に利用される。この例では、二酸化炭素(CO)がギ酸(HCOOH)に還元される。
【0031】
一方、酸化反応用電極12にも光が照射されることで、光触媒反応によって、水(HO)を酸素((1/2)O)あるいは過酸化水素などに酸化する反応が生じ、ここで生じた電子eが還元反応用電極10に移動し、還元反応用電極10の内部において光励起電子の対として発生したホールと結合する。
【0032】
このように、本実施形態では、光照射により還元反応用電極10内部で生じた光励起電子eが、二酸化炭素の還元作用を呈する基材16の反応サイトに移動することにより二酸化炭素の還元反応が行われる。特に、光励起電子を利用するためにバイアス電圧を印加することなく二酸化炭素を還元し、有用な有機化合物を高効率かつ高い反応生成物選択性で合成できる。また、水の酸化を酸化反応用電極12に光を照射して生起されるホールを利用して行うことができる。そして、ここで生じた電子が還元反応用電極10において生じたホールと効率的に結合する。このため、バイアス電源14がなくても、二酸化炭素の還元反応を水を電子供与剤として進めることができる。なお、バイアス電源14を配置して、バイアス電圧を両電極間に印加することで、上記反応をより効率的に進めることができる。
【0033】
また、還元反応用電極10と、酸化反応用電極12を別々に設ける、二電極方式を用いることで水を電子供与剤として二酸化炭素を還元することが可能になるとともに、水の酸化反応と二酸化炭素の還元反応に必要なエネルギーを二分できるため、吸収できる光エネルギーが低い可視光応答型半導体材料の利用が可能となる。
【0034】
「還元反応用電極」
ここで、還元反応用電極10に用いる半導体は、その伝導帯の最下端のエネルギー準位の値から、後に記載される基材の電子によって占有されていない分子軌道のうち最もエネルギーの低い準位の値を引いた値が0.2電子ボルト以下である材料とする。例えば、酸化タンタル、窒化タンタル、酸窒化タンタル、ニッケル含有硫化亜鉛、銅含有硫化亜鉛、窒素ドープ酸化タンタル、硫化亜鉛、リン化インジウム、リン化ガリウム、酸化鉄、炭化ケイ素、銅の酸化物とすることができる。
【0035】
ここで、後述する実施例で使用した、亜鉛ドープリン化インジウムが還元反応用電極10に特に好適である。亜鉛ドープリン化インジウムは、例えばVapor controlled czochralski(VCZ)法、LEC法、HB法などで合成されたものを用いる。
【0036】
窒化タンタル及び酸窒化タンタルは、酸化タンタルを、アンモニアガスを含む雰囲気で加熱処理することによって生成することができる。アンモニアは非酸化性のガス(アルゴン、窒素等)によって希釈することが好適であり、例えば、アンモニアとアルゴンとをそれぞれ同じ流量で混合したガス流中に酸化タンタルを配して加熱することが好適である。加熱温度は500℃以上900℃以下が好ましく、さらには550℃以上850℃以下がより好ましい。処理時間は1時間以上15時間以下が好ましい。アンモニア処理する前の酸化タンタルは市販の結晶性を有するもの、または、塩化タンタル等のタンタル含有化合物溶液に加水分解処理等を施すことによって得たアモルファス状のものなどが使用できる。
【0037】
また、ニッケル含有硫化亜鉛は、ニッケル含有水和物と亜鉛含有水和物とを溶解させ、そこに硫化ナトリウム水和物を溶解させた水溶液を投入して撹拌し、遠心分離及び再分散を行い、上澄みを除去した上で乾燥させることによって得ることができる。ニッケル含有水和物は、例えば、硝酸ニッケル(II)六水和物等とすることができる。亜鉛含有水和物は、例えば、硝酸亜鉛(II)六水和物等とすることができる。ここで、ニッケル源として、その他に塩化ニッケル、酢酸ニッケル、過塩素酸ニッケル、硫酸ニッケル等が使用可能である。また、亜鉛源として、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、硫酸亜鉛等が使用可能である。
【0038】
同様に、銅含有硫化亜鉛は、銅含有水和物と硝酸亜鉛水和物とを溶解させ、そこに硫化ナトリウム水和物を投入して撹拌し、遠心分離及び再分散を行い、上澄みを除去した上で乾燥させることによって得ることができる。銅含有水和物は、例えば、硝酸銅(II)二・五(2.5)水和物とすることができる。亜鉛含有水和物は、例えば、硝酸亜鉛(II)六水和物等とすることができる。ここで、銅源として、その他に塩化銅、酢酸銅、過塩素酸銅、硫酸銅等が使用可能である。また、亜鉛源として、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、硫酸亜鉛等が使用可能である。
【0039】
「基材」
基材16は、その空軌道のエネルギー準位値が上述した還元反応用電極10の半導体の伝導帯の最下端のエネルギー準位の値よりも低い或いは0.2Vまで高い物質とする。基材16は、金属錯体とすることができ、例えば、カルボキシビピリジン配位子を有するレニウム錯体((Re(dcbpy)(CO)P(OEt))),((Re(dcbpy)(CO)Cl)),Re(dcbpy)(CO)MeCN,Re(dcbqi)(CO)MeCNや、Ru錯体[Ru(dcbpy)(bpy)(CO)2+(bpy=2,2’−bipyridine,dcbpy=4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)が利用される。
【0040】
特に、実施例において用いた、Ru錯体が好適であり、図3(a)に示した[Ru{bipyridiyl−4,4’−dicarboxulic acid di(3−pyrrol−1−yl)ester}(CO)Cl]を図3(b)に示すようにポリマー化した[Ru{bipyridiyl−4,4’−dicarboxulic acid di(3−pyrrol−1−yl)ester}(CO)を還元反応用電極10に形成することが特に好適である。
【0041】
また、還元反応用電極10と基材16とを、電子のやり取りが可能なように共存させる。例えば、基材16を電解液中に浮遊させておいてもよいし、接合させてもよい。接合する場合、例えば基材16を溶媒に混合しておき、ここに還元反応用電極10を挿入して、表面に基材16を付着させる。そして、これを乾燥させることによって還元反応用電極10の表面上に、基材16を接合する方法などにより、剛体光電極を得ることができる。溶媒は、有機溶媒とすることができ、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン等を適用することができる。
【0042】
なお、基材16は、電子を利用することにより二酸化炭素還元活性を示す化合物であれば何でもよく、特に限定されない。金属錯体の場合は、周期律表第VII族金属、第VIII族金属から選ばれる少なくとも一種の金属の錯体が挙げられ、例えば、ルテニウム、レニウム、マンガン、鉄、銅、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金などの金属と配位子との錯体を挙げることができる。
【0043】
配位子としては、特別な制約はないが、典型的な主配位子としては、含窒素複素環化合物、含酸素複素環化合物、含硫黄複素環化合物等を挙げることができる。また、補助配位子としては、好ましくは、CO、ハロゲン、ホスフィン類を挙げることができる。さらに、アセトニトリル、DMF、水などの溶媒分子も挙げることができる。これらの補助配位子は反応過程で変換し生じてもかまわない。これらの配位子は1種または2種以上の組合せで用いることができる。
【0044】
含窒素複素環化合物としては、例えば、ピリジン、ビピリジン、フェナントロリン、ターピリジン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリンなどを、含酸素複素環化合物としては、フラン、ベンゾフラン、オキサゾール、ピラン、ピロン、クマリン、ベンゾピロンなどを、含硫黄複素環化合物としては、例えば、チオフェン、チオナフテン、チアゾールなどを例示することができる。このような配位子は単独、もしくは2種以上の組合せで用いることができる。
【0045】
ここで、還元反応用電極10と基材16は連結基によって、化学的に結合していることが好ましい。この連結基は、化学的に結合すれば特に限定しないが、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、シラノール基、およびこれらの誘導体を挙げることができる。ここで、連結基は、還元反応用電極10と連結した状態では、プロトンが脱離した構造、または金属と酸素原子が配位している構造であってもかまわない。これらの連結基は、1種または2種以上の組合せで用いることもできる。また、複数個の使用であってもかまわない。
【0046】
また、還元反応用電極10と基材16の連結方法は、還元反応用電極10の半導体と基材が化学的に結合していれば良く、特に限定しない。例えば、(1)配位子に連結基を導入した金属錯体を半導体に吸着させる、(2)連結基を導入した配位子を半導体に吸着させた後に直接錯体を形成させる、(3)連結基を導入した半導体に金属錯体を結合させる、等が挙げられる。
【0047】
基材16の被覆率は、還元反応用電極10の表面積に対して1%以上、100%以下であることが好ましい。基材16の被覆率が1%より少ない場合は、基材量が少なすぎるため、十分な二酸化炭素還元活性が発現しない。
【0048】
特に好ましい組合せとしては、半導体が金属酸化物の場合は、連結基がリン酸基、GaPやInPのような化合物半導体の場合はリン酸エステルなどの連結基が挙げられる。
【0049】
また、実施例に記載したように、電気化学的にRu錯体を還元反応用電極10上に析出させることが好適である。還元反応用電極10と、対電極を浸漬し、電析によりRu錯体を還元反応用電極10上に結合させることができる。
【0050】
「酸化反応用電極」
酸化反応用電極12は、光の照射によって、光触媒機能を発揮し、水の酸化反応を生起するものを利用する。例えば、酸化チタン(TiO)や、酸化タングステン(WO)、酸窒化タンタル(TaON)が利用される。これらは、スパッタ法、加水分解法、重合法の直接合成法や、粉体をバインダで固定する方法などで作製される。また、これらは単体で、あるいは導電性基板上に形成された様態で使用される。なお、実施例において使用した、酸化チタンを水素で還元したTiO2−xが特に好適である。
【0051】
このような光化学反応デバイスにおいて、例えば還元反応用電極10、酸化反応用電極12を二酸化炭素が溶解した水中に浸漬し、両電極10,12に光を照射する。これによって、上述したように、基材16における還元触媒反応によって、水中の二酸化炭素からギ酸が生成され、酸化反応用電極12において、光触媒反応を利用して水が酸素ガスに酸化される。なお、基材16を選択し、適正な環境で触媒反応を生起することで、ギ酸に限らず、アルコールなどの有用な有機物を二酸化炭素から合成することが可能となる。
【0052】
なお、図2に示すように、バイアス電源14を設けバイアス電圧を印加する場合、バイアス電圧は、非光電極材料を用いた二電極系よりも低いバイアス電圧(0〜1.4V)で動作することが可能である。これは、還元反応用電極10、酸化反応用電極12に光エネルギーによる光励起を利用することによる。
【0053】
このように、本実施形態によれば、光エネルギーを利用して、二酸化炭素を有用な炭素化合物に変換し、光エネルギーを炭素化合物に貯蔵できる。特に、水を電子供与剤として二酸化炭素を還元できるため、系全体のコストを低減できる利点が生じる。また、二酸化炭素の還元作用を呈する錯体触媒を用いることで、高い反応生成物選択性で炭素化合物を合成できる。
【0054】
光エネルギーを利用することで、非光電極材料よりも低電圧で、二酸化炭素を還元できる。還元反応用電極10と、酸化反応用電極12の2電極方式を用いることで、還元と酸化の反応場分離が可能となり、生成物の分離も容易となる。また、両極に光電極を用いることで、水の酸化反応と二酸化炭素の還元反応に必要なエネルギーを二分できるため、可視光応答型半導体材料の利用が容易となる。
【実施例】
【0055】
図2に記載のデバイス(バイアス電圧0Vを含む)により、実験を行った。まず、光電気化学測定には電気化学アナライザー(BAS)を使用し、二電極方式で測定を行った。容器にはパイレックス(登録商標)ガラスセルを用いた。光源には300Wのキセノンランプ(朝日分光、MAX−302)を用いた。
【0056】
光電気化学測定に伴う生成物の評価には、イオンクロマトグラフ(DIONEX、ICS−2000オートサンプラーAS付)を使用した。このイオンクロマトグラフのカラムには、「IonPac AS15」を、溶離液にはKOH溶離液を用い、検出器は電気伝導度検出器を使用した。
【0057】
「実施例1」
ルテニウム錯体[Ru{bipyridiyl-4,4'-dicarboxulic acid di(3-pyrrol-1-yl)ester}(CO)Cl](図3(a))を約1mg含むアセトニトリル溶液に、作用極としてVCZ法で合成された亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP)(キャリア濃度4×1018〜6×1018/cmを、対電極に白金を、参照電極にI/I3−電極を用いて、アルゴンガスを10分間通気させた。電位を参照極に対して、−1.2V印加して、蛍光灯照射下で1時間電析を行い、作用極表面に、ルテニウム錯体ポリマー[Ru{bipyridiyl-4,4'-dicarboxulic acid di(3-pyrrol-1-yl)ester}(CO)]n(図3(b))を析出させた。
【0058】
上述のルテニウム錯体ポリマーを析出させた亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn(Ru−polymer))を作用極(還元反応用電極10)として用いて、二酸化炭素還元反応を行った。対極(酸化反応用電極12)には、水素で還元処理したルチル単結晶酸化チタン電極(TiO2−x)を使用した。電解液には蒸留水8mlを使用した。20分ほどアルゴンガスを溶液中にバブリングして溶存ガスを除去した後、10分ほど二酸化炭素ガスを溶液中にバブリングしてから二酸化炭素ガス雰囲気下で電流−電圧測定を行った。最後に、二酸化炭素ガス雰囲気下において、還元反応用電極10、酸化反応用電極12に対して−0.8Vのバイアス電圧を印加した状態で電流−時間測定を行った。
【0059】
「実施例2」
実施例1において、還元反応用電極10、酸化反応用電極12に対して−0.4Vのバイアス電圧を印加した状態で電流−時間測定を行った。
【0060】
「実施例3」
実施例1において、酸化反応用電極12に酸化タングステン電極(WO)を使用し、光源にはλ>422nmのカットオフフィルターを使用して可視光のみを照射しながら、還元反応用電極10、酸化反応用電極12に対して−0.8Vのバイアス電圧を印加した状態で電流−時間測定を行った。
【0061】
「比較例1」
実施例1において、二酸化炭素ガスをバブリングせずに、アルゴンガス雰囲気下で電流−時間測定を行った。
【0062】
「比較例2」
実施例2において、二酸化炭素ガスをバブリングせずに、アルゴンガス雰囲気下で電流−時間測定を行った。
【0063】
「比較例3」
実施例1において、Ru錯体ポリマーを電析していない亜鉛ドープ−リン化インジウム(p−InP−Zn)のウェハー(8mm×20mm)を用いて、二酸化炭素ガス雰囲気下で電流−時間測定を行った。
【0064】
「結果」
表1には、実施例1〜3、比較例1〜3の条件結果をまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例1で−0.8Vのバイアス電圧における電流−時間測定を行った結果、二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で31μMの蟻酸が検出されたのに対して、比較例1のアルゴンガス雰囲気においては20時間で5μMの蟻酸しか検出されなかった。
【0067】
バイアス電圧−0.4Vで電流−時間測定を行った実施例2では二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で4μMの蟻酸が検出されたのに対して、比較例2のアルゴンガス雰囲気においては20時間で1μMの蟻酸しか検出されなかった。
【0068】
また、比較例3では二酸化炭素ガス雰囲気においてリン化インジウム電極のみを使用した場合も、20時間で0.3μMの蟻酸しか検出されなかった。これより、電解質を用いない蒸留水中においてRu錯体ポリマーが付着したリン化インジウム電極上で二酸化炭素が蟻酸に還元していることが示唆される。
【0069】
対極をTiO光電極からWO光電極に変更し、λ>422nmの可視光照射下においてバイアス電圧−0.8Vで電流−時間測定を行った実施例3では二酸化炭素ガス雰囲気において20時間で19μMの蟻酸が検出され、可視光のみを照射しても二酸化炭素が蟻酸に還元していることが示唆された。
【0070】
図4,5は、実施例1、比較例1およびこれらについて光照射を行わない場合について、バイアス電圧を変更して、電流を計測した結果である。光を照射しない場合には、電流は流れない。一方、光を照射することで、光電流が流れるが、実施例1のように二酸化炭素がある条件の場合には、アルゴンガス雰囲気に比べ光電流が大きい。特に、バイアス電圧0Vにおいても、二酸化炭素の存在により光電流が増加している。これより、バイアス電圧0Vにおいても、二酸化炭素の還元反応が起こっていることがわかった。これより、p−InP−Zn(Ru−polymer)/TiO2−x系のデバイスにおいては、ゼロバイアスでも動作可能であることが示唆された。
【0071】
また、実施例1により、二酸化炭素ガス雰囲気において電流−電圧測定を行った結果、酸化反応用電極12に対して還元反応用電極10に印加する負のバイアス電圧の絶対値を大きくするに従って光電流値の増加が確認された。
【符号の説明】
【0072】
10 還元反応用電極、12 酸化反応用電極、14 バイアス電源、16 基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を酸化して酸素を発生する酸化反応用電極と、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を合成する還元反応用電極と、
を含み、これらを電気的に接続して構成され、
前記還元反応用電極は、照射される光エネルギーを利用して水を含む液中で二酸化炭素を還元し、炭素化合物を合成することを特徴とする光化学反応デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光化学反応デバイスであって、
前記水を含む液は、水、または電解質を含む水溶液であることを特徴とする光化学反応デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光化学反応デバイスであって、
前記還元反応用電極が、半導体電極と二酸化炭素の還元作用を呈する触媒が接合した構造を有し、前記半導体電極に光照射して生じた励起電子が触媒に移動することにより、二酸化炭素の還元作用を呈することを特徴とする光化学反応デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の光化学反応デバイスであって、
前記二酸化炭素の還元作用を呈する触媒が、金属錯体であることを特徴とする光化学反応デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の光化学反応デバイスであって、
前記酸化反応用電極が、半導体電極で構成されることを特徴とする光化学反応デバイス。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の光化学反応デバイスであって、
前記酸化反応用電極と還元反応用電極を直結すると共に、両電極に光を照射することで、水を電子供与剤として動作することを特徴とする光化学反応デバイス。
【請求項7】
前記酸化反応用電極と還元反応用電極をバイアス電源を介し接続すると共に、両電極に光を照射することで、水を電子供与剤として動作することを特徴とする光化学反応デバイス。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−94194(P2011−94194A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249756(P2009−249756)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】