説明

光半導体装置

【課題】変調電圧を大きくしなくても周波数特性の劣化を防ぐことができる光半導体装置を得る。
【解決手段】半導体レーザ1からの光をマッハツェンダ型光変調器2が変調する。マッハツェンダ型光変調器2の出力光をマッハツェンダ型光変調器3が変調する。マッハツェンダ型光変調器2,3の各々は、活性層12を含むアンドープ層20と、アンドープ層20を挟むn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14とを有する。マッハツェンダ型光変調器2の活性層12のバンドギャップ波長が、マッハツェンダ型光変調器3の活性層12のバンドギャップ波長よりも短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッハツェンダ型光変調器を備える光半導体装置に関し、特に変調電圧を大きくしなくても周波数特性の劣化を防ぐことができる光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信用の送信器において、マッハツェンダ干渉(Mach-Zehnder interferometer)型の光変調器を備える光半導体装置が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−191290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マッハツェンダ型光変調器に入力される光の強度が大きくなると、位相変調部において光吸収電流が発生する。これにより、活性層を含むアンドープ層に加わる電圧が降下し、アンドープ層が完全に空乏化しなくなる。このため、位相変調部の寄生容量が増加し、周波数特性が劣化する。これを防ぐには、外部から印加される変調電圧を大きくして、光吸収電流により降下した電圧を補う必要がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、変調電圧を大きくしなくても周波数特性の劣化を防ぐことができる光半導体装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光半導体装置は、光源と、前記光源からの光を変調する第1のマッハツェンダ型光変調器と、前記第1のマッハツェンダ型光変調器の出力光を変調する第2のマッハツェンダ型光変調器とを備え、前記第1及び第2のマッハツェンダ型光変調器の各々は、活性層を含むアンドープ層と、前記アンドープ層を挟むクラッド層とを有し、前記第1のマッハツェンダ型光変調器の前記活性層のバンドギャップ波長が、前記第2のマッハツェンダ型光変調器の前記活性層のバンドギャップ波長よりも短いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、変調電圧を大きくしなくても周波数特性の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る光半導体装置を示す上面図である。
【図2】図1のA−A´に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る光半導体装置を示す上面図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係る光半導体装置を示す上面図である。
【図5】本発明の実施の形態4に係る光半導体装置を示す上面図である。
【図6】本発明の実施の形態5に係る光半導体装置を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る光半導体装置について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る光半導体装置を示す上面図である。この光半導体装置は、半導体レーザ1とマッハツェンダ型光変調器2,3を備える。半導体レーザ1からの光をマッハツェンダ型光変調器2が変調する。マッハツェンダ型光変調器2の出力光をマッハツェンダ型光変調器3が変調する。
【0011】
マッハツェンダ型光変調器2,3の各々は、光を分波する光分波部4と、この光分波部4で分波された光を導く2つの光経路5,6と、これら光経路5,6が導く2つの光を合波する光合波部7とを有する。光経路5,6の各々には、変調電圧が印加される位相変調部8と、直流電圧が印加される位相調整部9とが設けられている。
【0012】
図2は、図1のA−A´に沿った断面図である。即ち、マッハツェンダ型光変調器2の位相変調部8の断面図である。n型InP基板10上に、n型InPクラッド層11、アンドープInGaAsP多重量子井戸の活性層12、アンドープInPクラッド層13、p型InPクラッド層14、p型InGaAsP−BDR層15、及びp型InGaAsコンタクト層16が積層されている。この積層構造にリッジが形成され、リッジの上面の一部以外の基板上面側がSiN絶縁膜17で覆われている。p型InGaAsコンタクト層16にアノード電極18が接続され、n型InP基板10の裏面にカソード電極19が接続されている。このようにn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14が、活性層12を含むアンドープ層20を挟んでいる。マッハツェンダ型光変調器3も同様の積層構造を有する。
【0013】
半導体レーザ1からの光の強度が大きくなると、半導体レーザ1に近いマッハツェンダ型光変調器2の周波数特性が劣化しやすい。そこで、本実施の形態では、マッハツェンダ型光変調器2の活性層12のバンドギャップ波長を、マッハツェンダ型光変調器3の活性層12のバンドギャップ波長よりも短くする。例えば、半導体レーザ1からの光の波長が1550nmであるとき、前者は1420nm、後者は1430nmである。これにより、マッハツェンダ型光変調器2の活性層12のバンド端での光吸収量が減少し、光吸収電流が低減される。従って、変調電圧を大きくしなくても、高周波での周波数特性の劣化を防ぐことができる。そして、マッハツェンダ型光変調器2での光吸収量を減少させても、後段のマッハツェンダ型光変調器3が存在するため、十分な光変調を行うことができる。
【0014】
また、マッハツェンダ型光変調器2のアンドープ層20の層厚が、マッハツェンダ型光変調器3のアンドープ層20の層厚よりも薄い。例えば、前者は100nm、後者は120nmである。これにより、単位変調電圧あたりのアンドープ層20内の電界強度が増大するため、光変調に必要な変調電圧を低減することができる。
【0015】
また、マッハツェンダ型光変調器2のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14のキャリア濃度が、マッハツェンダ型光変調器3のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14のキャリア濃度よりも高い。例えば、前者は1.5E18cm−3、後者は1.0E18cm−3である。そして、マッハツェンダ型光変調器2のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の層厚が、マッハツェンダ型光変調器3のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の層厚よりも薄い。例えば、前者は1.8μm、後者は2μmである。このため、マッハツェンダ型光変調器2のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の抵抗が、マッハツェンダ型光変調器3のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の抵抗よりも小さくなる。これにより、光吸収電流による変調電圧の降下を小さくできるため、光変調に必要な変調電圧を低減することができる。
【0016】
また、マッハツェンダ型光変調器2の活性層12を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚が、マッハツェンダ型光変調器3の活性層12を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚よりも厚い。例えば、前者は10nm、後者は8nmである。これにより、マッハツェンダ型光変調器2の活性層12の単位変調電圧あたりのバンドギャップ波長のシフト量が大きくなり、屈折率変化による位相変化量がより大きくなるため、光変調に必要な変調電圧を低減することができる。
【0017】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る光半導体装置を示す上面図である。マッハツェンダ型光変調器2が2つのマッハツェンダ型光変調器を並列に接続した構成になっている。この場合でも、マッハツェンダ型光変調器2,3に実施の形態1の構成を適用することにより、同様の効果が得られる。なお、マッハツェンダ型光変調器3が2つのマッハツェンダ型光変調器を並列に接続した構成でも同様である。
【0018】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3に係る光半導体装置を示す上面図である。実施の形態1に対する相違点として、位相調整部9が位相変調部8よりも半導体レーザ1に近くなっている。これにより、位相変調部8で発生する光吸収電流を更に低減することができる。
【0019】
実施の形態4.
図5は、本発明の実施の形態4に係る光半導体装置を示す上面図である。実施の形態1〜3では複数のマッハツェンダ型光変調器が集積されていたが、本実施の形態では1つのマッハツェンダ型光変調器2の位相変調部8が複数の部分M1,M2,・・・を有する。各部分は図2と同様の積層構造を有する。第2の部分M2,M3・・・は、第1の部分M1よりも半導体レーザ1から遠い。
【0020】
半導体レーザ1からの光の強度が大きくなると、半導体レーザ1に近い第1の部分M1の周波数特性が劣化しやすい。そこで、本実施の形態では、第1の部分M1の活性層12のバンドギャップ波長を、第2の部分M2,M3・・・の活性層12のバンドギャップ波長よりも短くする。これにより、第1の部分M1の活性層12のバンド端での光吸収量が減少し、光吸収電流が低減される。従って、変調電圧を大きくしなくても、高周波での周波数特性の劣化を防ぐことができる。
【0021】
また、第1の部分M1のアンドープ層20の層厚が、第2の部分M2,M3・・・のアンドープ層20の層厚よりも薄い。これにより、単位変調電圧あたりのアンドープ層20内の電界強度が増大するため、光変調に必要な変調電圧を低減することができる。
【0022】
また、第1の部分M1のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14のキャリア濃度が、第2の部分M2,M3・・・のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14のキャリア濃度よりも高い。そして、第1の部分M1のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の層厚が、第2の部分M2,M3・・・のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の層厚よりも薄い。このため、第1の部分M1のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の抵抗が、第2の部分M2,M3・・・のn型InPクラッド層11及びp型InPクラッド層14の抵抗よりも小さくなる。これにより、光吸収電流による変調電圧の降下を小さくできるため、光変調に必要な変調電圧を低減することができる。
【0023】
また、第1の部分M1の活性層12を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚が、第2の部分M2,M3・・・の活性層12を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚よりも厚い。これにより、第1の部分M1の活性層12の単位変調電圧あたりのバンドギャップ波長のシフト量が大きくなり、屈折率変化による位相変化量がより大きくなるため、光変調に必要な変調電圧を低減することができる。
【0024】
実施の形態5.
図6は、本発明の実施の形態5に係る光半導体装置を示す上面図である。実施の形態4に対する相違点として、位相調整部9が位相変調部8よりも半導体レーザ1に近くなっている。これにより、位相変調部8で発生する光吸収電流を更に低減することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 半導体レーザ(光源)
2 マッハツェンダ型光変調器(第1のマッハツェンダ型光変調器)
3 マッハツェンダ型光変調器(第2のマッハツェンダ型光変調器)
8 位相変調部
9 位相調整部
11 n型InPクラッド層(クラッド層)
12 活性層
14 p型InPクラッド層(クラッド層)
20 アンドープ層
M1 第1の部分
M2,M3・・・ 第2の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を変調する第1のマッハツェンダ型光変調器と、
前記第1のマッハツェンダ型光変調器の出力光を変調する第2のマッハツェンダ型光変調器とを備え、
前記第1及び第2のマッハツェンダ型光変調器の各々は、活性層を含むアンドープ層と、前記アンドープ層を挟むクラッド層とを有し、
前記第1のマッハツェンダ型光変調器の前記活性層のバンドギャップ波長が、前記第2のマッハツェンダ型光変調器の前記活性層のバンドギャップ波長よりも短いことを特徴とする光半導体装置。
【請求項2】
前記第1のマッハツェンダ型光変調器の前記アンドープ層の層厚が、前記第2のマッハツェンダ型光変調器の前記アンドープ層の層厚よりも薄いことを特徴とする請求項1に記載の光半導体装置。
【請求項3】
前記第1のマッハツェンダ型光変調器の前記クラッド層の抵抗が、前記第2のマッハツェンダ型光変調器の前記クラッド層の抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の光半導体装置。
【請求項4】
前記第1のマッハツェンダ型光変調器の前記クラッド層のキャリア濃度が、前記第2のマッハツェンダ型光変調器の前記クラッド層のキャリア濃度よりも高いことを特徴とする請求項3に記載の光半導体装置。
【請求項5】
前記第1のマッハツェンダ型光変調器の前記クラッド層の層厚が、前記第2のマッハツェンダ型光変調器の前記クラッド層の層厚よりも薄いことを特徴とする請求項3又は4に記載の光半導体装置。
【請求項6】
前記第1のマッハツェンダ型光変調器の前記活性層を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚が、前記第2のマッハツェンダ型光変調器の前記活性層を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚よりも厚いことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光半導体装置。
【請求項7】
前記第1及び第2のマッハツェンダ型光変調器の各々は、変調電圧が印加される位相変調部と、直流電圧が印加される位相調整部とを有し、
前記位相調整部は、前記位相変調部よりも前記光源に近いことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の光半導体装置。
【請求項8】
光源と、
前記光源からの光を変調するマッハツェンダ型光変調器とを備え、
前記マッハツェンダ型光変調器は、変調電圧が印加される位相変調部を有し、
前記位相変調部は、第1の部分と、前記第1の部分よりも前記光源から遠い第2の部分とを有し、
前記第1及び第2の部分の各々は、活性層を含むアンドープ層と、前記アンドープ層を挟むクラッド層とを有し、
前記第1の部分の前記活性層のバンドギャップ波長が、前記第2の部分の前記活性層のバンドギャップ波長よりも短波であることを特徴とする光半導体装置。
【請求項9】
前記第1の部分の前記アンドープ層の層厚が、前記第2の部分の前記アンドープ層の層厚よりも薄いことを特徴とする請求項8に記載の光半導体装置。
【請求項10】
前記第1の部分の前記クラッド層の抵抗が、前記第2の部分の前記クラッド層の抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項8又は9に記載の光半導体装置。
【請求項11】
前記第1の部分の前記クラッド層のキャリア濃度が、前記第2の部分の前記クラッド層のキャリア濃度よりも高いことを特徴とする請求項10に記載の光半導体装置。
【請求項12】
前記第1の部分の前記クラッド層の層厚が、前記第2の部分の前記クラッド層の層厚よりも薄いことを特徴とする請求項10又は11に記載の光半導体装置。
【請求項13】
前記第1の部分の前記活性層を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚が、前記第2の部分の前記活性層を構成する多重量子井戸の井戸層の層厚よりも厚いことを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載の光半導体装置。
【請求項14】
前記マッハツェンダ型光変調器は、直流電圧が印加される位相調整部を更に有し、
前記位相調整部は、前記位相変調部よりも前記光源に近いことを特徴とする請求項8〜13の何れか1項に記載の光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−141395(P2012−141395A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292997(P2010−292997)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】