説明

光反射体及びその製造方法

【課題】高い反射率を維持することができる光反射体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光を反射する光反射体であって、可視光から赤外光にわたる領域の光の反射率が85%以上になるように表面が鏡面加工されたアルミニウム又はアルミニウム合金による基材11と、基材11に焼成して形成された二酸化チタンコート層12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光を反射する光反射体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
降雪地域の横断歩道の信号待ち付近やバス停の周辺、点字ブロック、地下道の入口付近、トンネル出入口付近などの積雪を効率的に融雪、融氷する装置が種々提案されている。特許文献1の融雪装置は、ケースに収装された赤外線ヒーターの近くに、下面が開口する断面コ状の反射板が設けられている。このように構成すれば赤外線ヒーターから放射される赤外線がすべて開口部分から路面へと向かう。したがって赤外線ヒーターの全エネルギーを積雪を融かすことに利用でき、照射効率が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−138141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の融雪装置の反射板は、1シーズンの降雪期間(4〜5ヶ月)を終えると、表面が変形し、反射効率が大幅に低下していた。
【0005】
この原因について本件発明者らは鋭意研究し、以下のような知見を得た。すなわち従来のアルミニウム反射板は、光の反射率が元々低かった。図8に示すように、光の反射率が最も高いところでも30%程度であり、波長によっては数%程度でしかない。そのためアルミニウム反射板が、反射しなかった赤外光を吸収することで、熱による表面変形を生じていたのである。また1シーズンを終えると、アルミニウム反射板の表面には、多くの汚れが付着する。この汚れによっても熱を吸収しやすくなり、表面変形を生じやすくなっていたのである。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、高い反射率を維持できる光反射体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0008】
本発明は、光を反射する光反射体であって、表面が鏡面加工されたアルミニウム又はアルミニウム合金による基材(11)と、前記基材(11)に焼成して形成された二酸化チタンコート層(12)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、光を反射する光反射体の製造方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金によるワークの表面を鏡面研磨する研磨工程(#101)と、前記表面研磨されたワークを二酸化チタン前駆体溶液に浸漬するディップ工程(#102)と、前記浸漬されたワークを引き上げて表面をコーティングする引き上げコーティング工程(#103)と、前記引き上げたワークを乾燥させる乾燥工程(#104)と、前記乾燥させたワークを焼成する焼成工程(#105)と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材として、アルミニウム又はアルミニウム合金を使用するので、軽量であり、また安価に製造することができる。また可視光から赤外光にわたる領域の波長の光をほぼ全反射することができる。
【0011】
また本発明のように製造することで、融点が650℃程度と低いアルミニウムに対して二酸化チタンコート層を焼成できる。
【0012】
そして二酸化チタンコート層による、いわゆるセルフクリーニング作用を得ることができ、表面に汚れが付着することを防止でき、初期の反射率を長期間にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による光反射体の一実施形態を示す図である。
【図2】電解研磨をアルミニウム板に施したときの反射特性を説明する図である。
【図3】光の波長と色相との関係を説明する図である。
【図4】可視光から赤外光の領域の波長の光の反射特性を示す図であり、引き上げ速度を同一として焼成温度を変えた場合でデータを纏めた図である。
【図5】可視光から赤外光の領域の波長の光の反射特性を示す図であり、焼成温度を同一として引き上げ速度を変えた場合でデータを纏めた図である。
【図6】可視光の短波長380nmにおける反射率を纏めた表を示す図である。
【図7】従来のアルミニウム反射板の反射特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
<光反射体の構造>
図1は、本発明による光反射体の一実施形態を示す図である。
【0015】
光反射体10は、基材11と、二酸化チタンコート層12と、を有する。
【0016】
基材11は、アルミニウム又はアルミニウム合金による基材である。基材11は、可視光から赤外光の領域の波長の光を高い反射率で反射するように鏡面加工されている。基材11として、たとえばステンレス板を用いると、鏡面加工しても、可視光から赤外光の領域において反射率が低下してしまう波長が存在してしまう。これに対して本実施形態のように、鏡面加工したアルミニウム又はアルミニウム合金による基材11を用いて鏡面加工すれば、可視光から赤外光の領域にわたる波長の光をほぼ全反射できるので好適である。
【0017】
可視光から赤外光の領域の波長の光をほぼ全反射するように鏡面加工するには、電解研磨や、電解研磨及び機械研磨を併用する研磨によって加工するとよい。電解研磨は、電気分解によって陽極の金属が溶解することを利用する研磨法である。また電解研磨及び機械研磨を併用する研磨には、たとえば電解砥粒研磨や電解複合研磨がある。電解砥粒研磨は、押付圧5〜20kPa程度の砥粒研磨に電流密度0.1A/cm2オーダーの電解を複合する加工方法である。電解複合研磨は、電解現象によって被加工体(陽極)の表面に生じる不働態化皮膜のうち、凸部に生じた皮膜のみを砥粒擦過によって除去して、 この部分に選択的に電解溶出作用を集中させることで効率よく金属鏡面を得る表面処理方法である。すなわち電解砥粒研磨や電解複合研磨は、電解研磨による電気化学的な研磨と研磨材による物理的な研磨を複合して同時に行うことで、電解による金属の溶出作用と研磨材による機械的擦過作用とを複合して表面研磨する手法である。電解砥粒研磨や電解複合研磨によれば、電解現象によって被研磨面(陽極)に生じる不動態化被膜のうち、凸部に生じた被膜のみを砥粒擦過によって除去し、この部分に選択的に電解溶出作用を集中させて金属鏡面を得ることができ、ナノレベルの超平滑面を得ることができる。
【0018】
図2は、電解研磨をアルミニウム基材に施したときの反射特性を説明する図である。
【0019】
上述したような電解研磨をアルミニウム基材に施して鏡面加工すると、図2に示されているように、可視光から赤外光の領域の波長の光は、ほぼ全域にわたって85%以上の高い反射率で反射する。電解砥粒研磨や電解複合研磨をすればさらに反射率が向上する。
【0020】
これに対して、市販品Aや市販品Bではこのような反射率は得られない。
【0021】
なお光の波長と色相との関係は、図3の通りである。可視光から赤外光の領域の波長とは、380nm以上の波長である。
【0022】
二酸化チタンコート層12は、基材11に焼成して形成される。二酸化チタンコート層12は、二酸化チタンTiO2によって基材11をコーティングする層である。二酸化チタンTiO2は、超親水特性があり、水が撥ね付いても表面で水滴とはならず、そのまま流れ落ちる。また油性の汚れが定着せず、雨などで定期的に水が流れることによって表面が洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用がある。
【0023】
二酸化チタンコート層を基材に焼成して形成されるには、一般的には非常に高い温度で加熱して焼成する。しかしながら基材11の材料であるアルミニウムは融点が約650℃と低いので、高温で加熱焼成することができない。そこで本実施形態では、以下のような手法で焼成して光反射体を製造した。
【0024】
<光反射体の製造方法>
(研磨工程#101)
最初に、アルミニウム(たとえばJIS H 4000「アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」の1050純アルミニウム)のワークに対して、可視光から赤外光の領域の波長の光をほぼ85%以上の反射率の反射特性になるように鏡面加工する。このような反射特性を得るには、電解研磨や、電解研磨及び機械研磨を併用する研磨(電解砥粒研磨や電解複合研磨など)によってナノオーダー(5nm以下の粗さ)に研磨するとよい。なお反射率は分光光度計によって測定できる。
【0025】
(ディップ工程#102)
表面研磨されたワークを洗浄してから二酸化チタン前駆体溶液に浸漬する。この二酸化チタン前駆体溶液は、チタン(IV)n−ブトキシド・モノマー34mLをベンゼン166mLに溶解させ、8時間還流した後、n−ブタノールに5%の水を溶解させた含水ブタノールを加えて加水分解を促進させ、再び8時間還流した後、濃縮し、ベンゼンで希釈して、チタン濃度を1.0mol/dm3に調整したものを用いた。
【0026】
(引き上げコーティング工程#103)
浸漬されたワークを、トルエンとブタノール雰囲気中にて、ステッピングモーターによる引き上げ装置を使用して所定速度で引き上げる。これによってワークの表面が膜でコーティングされる。
【0027】
(乾燥工程#104)
表面がコーティングされたワークを室温で十分に乾燥させる。
【0028】
(焼成工程#105)
乾燥させたワークを炉にて所定温度で1時間程度焼成する。
【0029】
以上の工程を経て、二酸化チタンでコーティングされた光反射体を製造した。
【0030】
続いて、以上のようにして製造する光反射体について、製造条件(引き上げ速度及び焼成温度)を変化させて特性を評価した。
【0031】
<評価実験条件>
縦50mm×横50mm×厚さ1mmのアルミニウム板(JIS H 4000の1050)に対して上記方法によって二酸化チタンコート層を形成した。なお引き上げコーティング工程#103における引き上げ速度は、144,289,483μm/secとした。また焼成工程#105における焼成温度は、300,350,400℃とした。
【0032】
<評価実験結果>
図4は、可視光から赤外光の領域の波長の光の反射特性を示す図であり、引き上げ速度を同一として焼成温度を変えた場合でデータを纏めた。図4(A)は引き上げ速度が144μm/secである。図4(B)は引き上げ速度が289μm/secである。図4(C)は引き上げ速度が483μm/secである。
【0033】
図4(A)を見ると、引き上げ速度が144μm/secでは、焼成温度にかかわらず、可視光以上の領域の波長、すなわち380nm以上の領域の波長に対して反射率が高い。
【0034】
図4(B)を見ると、引き上げ速度が289μm/secでは、144μm/secに比較すれば反射率が低下するものの、焼成温度にかかわらず、反射率がなおも高い。
【0035】
図4(C)を見ると、引き上げ速度が483μm/secでは、289μm/secに比較してさらに反射率が低下する。また焼成温度が高いと反射率が大きく、焼成温度が低いと反射率が小さい。そして特に短波長側で反射率のバラツキが大きい。
【0036】
図5は、可視光から赤外光の領域の波長の光の反射特性を示す図であり、焼成温度を同一として引き上げ速度を変えた場合でデータを纏めた。図5(A)は焼成温度が300℃である。図5(B)は焼成温度が350℃である。図5(C)は焼成温度が400℃である。
【0037】
図5(A)を見ると、焼成温度が300℃では、引き上げ速度が遅いと反射率が大きく、引き上げ速度が速いと反射率が小さい。そして特に短波長側で反射率のバラツキが大きい。
【0038】
図5(B)を見ると、焼成温度が350℃では、300℃と同様に、引き上げ速度が遅いと反射率が大きく、引き上げ速度が速いと反射率が小さいという傾向であるものの、バラツキが小さい。また300℃に比較して反射率が向上する。
【0039】
図5(C)を見ると、焼成温度が400℃でも、引き上げ速度が遅いと反射率が大きく、引き上げ速度が速いと反射率が小さいという傾向であるものの、バラツキがさらに小さい。また反射率もさらに向上する。
【0040】
以上から、可視光から赤外光の領域の波長の光の反射特性は、特に短波長側でバラツキが大きい。そこで可視光の短波長380nmにおける反射率を纏めると図6に示す表になる。
【0041】
この表から判るように、引き上げ速度が速いと反射率が小さい。これについて発明者らは以下のように考察する。すなわち発明者らは今までの経験から、引き上げ速度が速いほど二酸化チタンコート層の厚さが厚くなる特性を知っている。二酸化チタンコート層の厚さが厚くなれば、反射率が低下する。したがって引き上げ速度が速いと反射率が小さいということが発明者らの知見である。この結果から引き上げ速度は289μm/sec以下にすることが望ましいと発明者らは考える。また焼成温度が低くなると反射率が低下する。特に引き上げ速度289μm/secにおいて、焼成温度を350℃から300℃にすると、反射率が87%から83%に低下する。したがって焼成温度は350℃以上が望ましい。しかしながら焼成温度を高くし過ぎては、アルミニウムの融点に近づく。したがって焼成温度はアルミニウムの融点650℃よりも低温にしなければならない。発明者らは、このような考察に基づいて、引き上げコーティング工程#103における引き上げ速度が289μm/sec以下、焼成工程#105における焼成温度が350℃以上650℃以下、という光反射体の製造条件が望ましいという結論を得た。
【0042】
本実施形態のように光反射体を製造すれば、二酸化チタンコート層の厚さが薄く、反射率を高くできる。特に二酸化チタン前駆体溶液からの引き上げ速度が289μm/sec以下であれば、アルミニウム基材とほぼ同じの反射率になる。また焼成温度が350℃以上であれば、アルミニウム基材とほぼ同じの反射率になる。さらに焼成温度が650℃以下であれば、アルミニウムの融点よりも低いので、二酸化チタンコート層を焼成してもアルミニウム基材の反射特性が損なわれない。
【0043】
二酸化チタンは、いわゆるセルフクリーニング作用という特性がある。したがって表面に汚れが付着することを防止でき、初期の反射率を維持できる。
【0044】
反射率が高ければ、無用なエネルギー吸収せず、表面変形を生じない。
【0045】
したがって高い反射率を維持できるのである。
【0046】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【0047】
光反射体は、融雪装置に限らず、他の用途に使用してもよい。たとえば道路に設置される反射板や、植物工場における光反射板、内視鏡に使用する反射板など、表面が汚れる可能性のある反射板に好適である。
【0048】
また光反射体は、板状のものに限らず、使用する用途に応じて形状を適宜変更すればよい。
【符号の説明】
【0049】
10 光反射体
11 基材
12 二酸化チタンコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射する光反射体であって、
表面が鏡面加工されたアルミニウム又はアルミニウム合金による基材と、
前記基材に焼成して形成された二酸化チタンコート層と、
を備えることを特徴とする光反射体。
【請求項2】
請求項1に記載の光反射体において、
前記基材は、可視光から赤外光にわたる領域の光の反射率が85%以上である、
ことを特徴とする光反射体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光反射体において、
前記二酸化チタンコート層は、二酸化チタン前駆体溶液に浸漬された前記基材が289μm/secの引き上げ速度で引き上げられて形成される膜厚以下の厚みである、
ことを特徴とする光反射体。
【請求項4】
光を反射する光反射体の製造方法であって、
アルミニウム又はアルミニウム合金によるワークの表面を鏡面研磨する研磨工程と、
前記表面研磨されたワークを二酸化チタン前駆体溶液に浸漬するディップ工程と、
前記浸漬されたワークを引き上げて表面をコーティングする引き上げコーティング工程と、
前記引き上げたワークを乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥させたワークを焼成する焼成工程と、
を備えることを特徴とする光反射体製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の光反射体製造方法において、
前記研磨工程は、ワーク表面における可視光から赤外光の領域の光の反射率が85%以上になるように鏡面加工する工程である、
ことを特徴とする光反射体製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の光反射体製造方法において、
前記研磨工程は、電解研磨によって鏡面研磨する工程である、
ことを特徴とする光反射体製造方法。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載の光反射体製造方法において、
前記研磨工程は、電解研磨と機械研磨とを併用して鏡面研磨する工程である、
ことを特徴とする光反射体製造方法。
【請求項8】
請求項4から請求項7までのいずれか1項に記載の光反射体製造方法において、
前記ディップ工程の二酸化チタン前駆体溶液は、チタン(IV)n−ブトキシド・モノマー34mLをベンゼン166mLに溶解させ、8時間還流した後、n−ブタノールに5%の水を溶解させた含水ブタノールを加えて加水分解を促進させ、再び8時間還流した後、濃縮し、ベンゼンで希釈して、チタン濃度を1.0mol/dm3に調整した溶液である、
ことを特徴とする光反射体製造方法。
【請求項9】
請求項4から請求項8までのいずれか1項に記載の光反射体製造方法において、
前記引き上げコーティング工程は、289μm/sec以下の引き上げ速度で引き上げてコーティングする工程である、
ことを特徴とする光反射体製造方法。
【請求項10】
請求項4から請求項9までのいずれか1項に記載の光反射体製造方法において、
前記焼成工程は、350℃以上650℃以下で加熱処理する工程である、
ことを特徴とする光反射体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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