説明

光反射性樹脂組成物、発光装置及び光学表示装置

【課題】高い光反射率と熱的安定性及び光学的安定性とを有し、更に接着強度にも優れた、光反射性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】炭素−炭素二重結合を有しないエポキシ樹脂、エポキシ樹脂100重量部を基準にして40〜400重量部の酸化チタン、及び硬化剤を含むように、光反射性樹脂組成物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射性樹脂組成物に関する。また、本発明は、かかる光反射性樹脂組成物を使用した光学装置及び光学表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学装置などにおいて、発光素子は、通常、接着剤やそのフィルムなどによって下地の基板などに接合されている。また、その発光素子から放出される光を有効に活用するために、発光素子の近傍に光反射層(例えば白色フィルム、白色塗膜、銀色フィルム、銀色塗膜など)が配置されており、反射性の改良が図られている。このように、発光装置において、接着性と反射性とは機能的に別々に分離して論じられ、発光素子と基板表面の光反射層との間に挟まれて使用される接着剤などにおいて、その反射率が議論されることは少なかった。
【0003】
発光ダイオードを参照して一例を示すと、特許文献1は、図1に示すような発光ダイオード100を記載している。マウントリード(リード電極)105のカップ底面上に、ダイボンド樹脂103を介してLEDチップ102が接合されており、また、LEDチップ102は、光利用効率の優れた発光ダイオードを提供するため、フェノール誘導体エポキシ樹脂が10%未満のエポキシ樹脂からなる透光性の樹脂101で封止されている。また、LEDチップ102は、ワイヤ104を介してリード電極105及び106と電気的に接続されている。ここで、マウントリード105のカップ部分は、表面を銀めっきされた鉄入り銅からなり、また、ダイボンド樹脂103は、無色透明なエポキシ樹脂組成物からなる。
【0004】
また、特許文献2には、発光素子をマウントする基体接合材として、銀ペーストの銀パウダーの代わりにアルミパウダーが混入されたアルミペーストが用いられた、発光ダイオードが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−196151号公報
【特許文献2】特開2003−69082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、従来、発光装置においては、発光素子と基板との接合のための透明なエポキシ樹脂からなる層と、基板表面上に施される銀めっきのような、発光素子から放出される光を反射するための光反射層との2つの層を設けることが必要であった。
【0007】
又、基板の銀めっきは、発光素子を使用し続けると100〜150℃に加熱されるため、銀の酸化が進行して黒色に変色する。その結果、発光素子を長時間使用すると、発光素子から放出される光の反射量が減少するとの問題点を有していた。
【0008】
同様に特許文献2における銀やアルミペーストを用いて、発光素子をマウントする場合においても、発光素子の使用が長くなると、これらペーストに含まれる銀やアルミパウダーが酸化して、光の反射量(率)が減少するとの問題点を有していた。
【0009】
本発明は、少なくとも可視波長領域で高い光反射率、並びに優れた熱的安定性及び光学的安定性を有し、また接着強度にも優れた光反射性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、その1つの面において、炭素−炭素二重結合を有しないエポキシ樹脂、エポキシ樹脂100重量部を基準にして40〜400重量部の酸化チタン、及び硬化剤を含む、光反射性樹脂組成物にある。
【0011】
また、本発明は、そのもう1つの面において、基板と発光素子とを有し、基板と発光素子とが上記樹脂組成物を介して接合されている、発光装置にある。
【0012】
また、本発明は、そのもう1つの面において、基板と、基板表面に設けられた上記樹脂組成物からなる光反射層と、発光素子とを有し、基板と発光素子とが光反射層を介して接合されている、発光装置にある。
【0013】
さらに、本発明は、そのもう1つの面において、上記樹脂組成物を用いて接合又はシールされた部材を含む、光学表示装置にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、高い光反射率、並びに優れた熱的安定性及び光学的安定性を有し、また接着強度にも優れた光反射性樹脂組成物を提供することができる。すなわち、本発明においては、酸化チタンで発光素子等からの光を反射することとし、特定量の当該酸化チタンを炭素−炭素不飽和結合を有しないエポキシ樹脂と組み合わせて樹脂組成物とすることにより、少なくとも可視波長領域ですぐれた光反射性と接着性との両機能を備えた樹脂組成物とすることが可能となる。
【0015】
本発明の光反射性樹脂組成物は、上記のような優れた特性を利用して、光学装置におけるいろいろな用途で有利に用いられる。例えば、本発明の樹脂組成物は、発光ダイオードなどの発光素子を、発光装置の下地基板などに接合する接合材として利用することができる。従来、先に説明したように、発光素子(LEDチップ等)固定用の接着には、透明のエポキシ樹脂が用いられている。かかる透明接着剤を使用した場合、発光素子の発光効率は、その接着剤における透明性の劣化度合いに加えて、光を反射する下地基板の平滑性、基板の劣化の度合いといったいろいろなファクタの影響を受ける。これに対して、本発明の樹脂組成物を接合材として使用して、発光素子を基板に固定すると、発光素子から放出される光の大半は、発光素子と基板との間に形成される本発明の樹脂組成物からなる層で反射されるので、下地基板の影響を受けることがなく、光を有効利用できるという効果がある。
【0016】
また、本発明の樹脂組成物は、その高い反射率に由来する良好な遮光性を利用して、液晶表示パネルなどの光学的画像表示装置の外周部材間の接合に、例えば遮光シール材として、利用することができる。本発明の樹脂組成物を用いることによって、外部の光が装置内に入り込むことや、装置内部の光が外部へ漏れるのを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
引き続いて、本発明をその好ましい実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されないことはもちろんである。
【0018】
本発明による樹脂組成物は、
(1)炭素−炭素不飽和結合を有しないエポキシ樹脂、
(2)該エポキシ樹脂100重量部を基準にして40〜400重量部の酸化チタン、及び
(3)硬化剤を含んでいる。
【0019】
本発明で使用される炭素−炭素不飽和結合を有しないエポキシ樹脂は、樹脂組成物中において主剤として使用される。「炭素−炭素不飽和結合」とは、「C=C」又は「C≡C」を指し、本発明においては、エポキシ樹脂中における直鎖状部分、環状部分、置換基等のいずれにも、炭素−炭素不飽和結合が存在しない。
【0020】
かかるエポキシ樹脂として、本発明においては、脂環式エポキシ樹脂、水素添加型エポキシ樹脂を使用することが好適である。本発明においては、脂環式エポキシ樹脂がとりわけ有用である。その理由は、脂環式エポキシ樹脂は、その硬化後の硬化物のガラス転位点が比較的高く、ガラス転位点が高いものを選択すれば、これにより高温使用下での接着力が確保しやすいことにある。又、これらのエポキシ樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上のエポキシ樹脂を組み合わせて使用してもよい。ここで、脂環式エポキシ樹脂又は水素添加型エポキシ樹脂といえども、工業的レベルで製造される市販品においては、炭素−炭素不飽和結合が全く含まれないものを入手することは難しく、実際上は、若干の炭素−炭素不飽和結合が含まれるものを使用せざるを得ない。したがって、本発明においては、脂環式エポキシ樹脂にあっては、ヨウ素価が0以上で2以下の値(ASTM 1959-97に規定するウィイス法による測定値)を示すもの、水素添加型エポキシ樹脂にあっては、水素添加されず炭素−炭素不飽和結合が樹脂中に残存している構造体(不純物)の量が、1000ppm以下の値(ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いた測定値)であるものを、「炭素−炭素不飽和結合を有しないエポキシ樹脂」と定義する。すなわち、「ヨウ素価が0以上で2以下の脂環式エポキシ樹脂」及び「炭素−炭素不飽和結合が樹脂中に残存している構造体(不純物)の量が1000ppm以下である水素添加型エポキシ樹脂」は、本発明の「炭素−炭素不飽和結合を有しないエポキシ樹脂」として使用可能である。
【0021】
具体的には、脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名「C2021」、ダイセル化学社)、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(商品名「DME−100」、新日本理化社)が、水素添加型エポキシ樹脂としては、水素添加型ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「YX−8000」、ジャパンエポキシレジン社)が商業的に入手可能である。
【0022】
本発明で使用されるエポキシ樹脂は、優れた耐熱性を有しており、通常、約25℃よりも高い温度において安定(分解しない)であり、反射率の低下、変形や接着強度の低下などを生じることがない。
【0023】
また、本発明で使用されるエポキシ樹脂は、耐熱性(特に変色)に加えて、耐候性(耐光性)にも優れている。すなわち、このエポキシ樹脂は、約100日間もしくはそれ以上の長期間にわたって過酷な発光条件や気候条件にさらされても、反射率の低下、黄変又はその他の変化を生じることがなく、変形や接着強度の低下などを生じることもない。
【0024】
なお、本発明で使用されるエポキシ樹脂における上記特性は、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)に関連すると考えられる。つまり、上記特性を満たすためには、かかるエポキシ樹脂のガラス転移温度が、約80〜200℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは、約120〜180℃の範囲である。また、ガラス転移温度が80℃を下回ると、熱間接着強さが不十分になり、装置稼動中に被着体の脱落を生じることとなり、反対に200℃を上回ると、一般に樹脂が脆化し、衝撃強さが不十分となる場合もある。
【0025】
なお、従来、エポキシ系樹脂接着剤としては、一般に芳香族型エポキシ樹脂、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂(DGEBA)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DGEBF)を主成分とした樹脂が使用されている。しかしながら、これらの樹脂は、ベンゼン環を主骨格に有しているため、時間の経過とともにベンゼン環の二重結合が開裂し樹脂の変色が生じる。また、このような芳香族エポキシ樹脂を使用した樹脂組成物に対して反射率に優れたフィラーを配合しても、樹脂自身の経時的な変色(黄変)により、光反射率が著しく低下してしまう。
【0026】
本発明においては、かかるエポキシ樹脂に追加して、本発明の作用効果に悪影響が出ない範囲で、1種類もしくはそれ以上のエポキシ樹脂あるいはその他の樹脂を補助的に添加することができる。適当な追加の樹脂として、例えば、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(商品名「TEPIC」、日産化学社)などを挙げることができる。これらの追加の樹脂は、例えば靭性、ガラス転移温度の向上などに寄与することができる。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂に対して特定量の酸化チタンを含んでいる。酸化チタンは、樹脂組成物に分散して存在しており、好ましくは、ほぼ均一に分散した状態となっている。
【0028】
なお、酸化チタンは白色フィラーとして知られており、酸化チタン以外にも、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等がある。本発明においては、可視光領域における光反射に優れているという観点からこのような白色フィラーのなかでも、酸化チタンが使用される。また、酸化チタンにはルチル型とアナターゼ型とがあるが、とりわけアナターゼ型酸化チタンが好適である。アナターゼ型酸化チタンは、ルチル型に比べて可視波長全領域で優れた反射性を有しており、高温経時後にもそれらの特性を維持することができる。
【0029】
酸化チタンとしては、いろいろな形態のものを使用することができるが、分散性や反射性などを考慮した場合、球形や楕円形の粉末、粒子などの形態で使用されることが好ましい。粉末や粒子の直径は、広い範囲で変更することができるというものの、通常、約0.1〜20μmの範囲であり、好ましくは約0.2〜5μmの範囲である。また、粉末や粒子の直径は、反射性の改良のため、バラツキを抑えて、ほぼ一定であることが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物において、酸化チタンは、エポキシ樹脂100重量部を基準にして40〜400重量部の範囲で使用され、好ましくは、100〜360重量部の範囲である。酸化チタンの配合量が40重量部を下回ると、得られる樹脂組成物において十分な反射率を確保できなくなり、反対に400重量部を上回ると、樹脂組成物の粘度が高くなり、良好な塗工性を確保できなくなる。
【0031】
また、本発明の樹脂組成物は、上記の酸化チタンに追加して、適当量のフィラーを沈降防止材として含有してもよい。適当な沈降防止性フィラーとして、例えば、微細化シリカなどを挙げることができる。沈降防止性フィラーの配合量は、良好な塗布性確保の観点から、エポキシ樹脂100重量部を基準にして、約0.2〜10重量部の範囲が好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び酸化チタンに加えて、硬化剤をさらに含む。かかる硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基の硬化に用いられる。本発明で使用可能な硬化剤としては、カチオン系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、炭素−炭素不飽和結合を有しない硬化剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。これらのなかでも、炭素−炭素不飽和結合を有しない硬化剤を用いることが好ましい。なお、本発明において、「炭素−炭素不飽和結合を有しない硬化剤」とは、ヨウ素価が0以上で2以下の値(ASTM 1959-97に規定するウィイス法による測定値)を示すものを指す。
【0033】
「炭素−炭素不飽和結合を有しない硬化剤」は、酸無水物であることが好ましい。酸無水物としては、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸又はそれを含むものを挙げることができる。酸無水物は、単独で使用してもよく、2種類以上の硬化剤を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
硬化剤は、通常、樹脂組成物のガラス転移温度(貯蔵安定性)の観点から、エポキシ樹脂100重量部を基準にして20〜160重量部の範囲が好ましい。
【0035】
また、本発明においては、使用する硬化剤の種類に応じて、硬化触媒を併用することも可能である。硬化触媒は、硬化温度を低く抑えるのに有効であるので、硬化剤のみを硬化系として使用すると硬化温度が高くなってしまうような場合には、好適に使用される。硬化触媒としては、具体的に、アミン系硬化触媒、カチオン系硬化触媒などを使用することができる。これらの硬化触媒は、単独で使用してもよく、2種類以上の硬化触媒を組み合わせて使用してもよい。特に、アミン系硬化触媒は、長期間にわたって使用したあとでも反射率の低下が見られないという点で、好ましい。これらの硬化触媒は、樹脂組成物の硬化耐熱性・耐候性、及び硬化性(例えば、150℃)の観点から、通常、エポキシ樹脂100重量部を基準にして1〜15重量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは、3〜7重量部の範囲である。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、添加剤を任意に含有することができる。適当な添加剤として、例えば、シランカップリング剤(接着向上剤)、ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「A−187」、日本ユニカー社)などを挙げることができる。
【0037】
また、本発明の樹脂組成物は、いろいろな形態で使用することができる。一般的には、ペーストの形態で使用して、使用時に容器から取出し、接合個所に塗布したり、ポッティングしたりすることができる。ペーストの塗布には、例えば、バーコート法などを使用することができる。
【0038】
また、本発明の樹脂組成物をシート状の成形物として使用することもできる。シート状にすることで、取扱い性などを改良することができる。シートの厚さは、使用目的や使用個所などのファクターに応じて変更することができるが、通常、50〜200μmであり、好ましくは、80〜120μmである。シートの成形は、例えばカレンダー成形法などを使用することができる。なお、得られたシート状の樹脂組成物に、この技術分野で一般的に実施されているように、例えばシリコーン処理紙のような剥離紙(リリースシート)を積層してもよい。さらに、得られたシート状の樹脂組成物をロールに巻き取り、保管あるいは運搬してもよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、約25〜270℃の温度において安定であり、いろいろな分野、特に光学発光装置の分野で接合目的に使用することができる。典型的には、図2に説明されるような、発光素子の接合材としての使用である。発光素子は、例えばLEDチップなどであるが、これらのものに限定されることはない。
【0040】
図2は、本発明の光反射性樹脂組成物をシート状の接合材1として使用した例である。接合材1の内部には、光反射性をもった酸化チタン2が含まれている。酸化チタン2は、ほぼ均一な状態で接合材1に分散している。接合材1は、発光素子4を基板3に接合し、固定することができる。発光素子4の周囲は、封止樹脂5で覆われている。例えば、発光装置10が発光ダイオードである場合、発光素子4はLEDチップである。図示の発光装置10では、接合材1が高い反射率を備えているので、発光素子4からの光は、光路Lに示すように直接的に発光素子4から放出される他に、接合材1に向かった光が、光路Lに示すように、接合材1の表面で反射されたり、図示しないが、接合材1内の酸化チタン2に衝突した後に反射されたりすることが可能となる。このようにして、本発明に従うと、発光素子4からの光のエネルギーを有効的に利用することができる。
【0041】
ここで、本発明の樹脂組成物をLEDチップ等の発光素子の接合材として使用する場合、発光素子に対して耐衝撃性を付与するため、発光素子を基板等の下地に一定以上の接着強度で固定する必要がある。この場合、樹脂組成物のせん断接着強度は、1MPa以上であることが好ましい。
【0042】
また、本発明の光反射性樹脂組成物をLEDチップ等の発光素子の接合材として用いた場合、初期反射率が、全可視波長域(400nm〜760nm;JIS Z8120等)の少なくとも短波長域(近紫外線側;例えば400、460nm)で80%以上、好ましくは90%以上であり、又、所定時間加熱後の反射率が50%以上であることが好ましい。ここで、可視光域の反射特性について述べると、短波長光は、短波長になればなる程、長波長光に比べより、被射体に吸収されやすく、その結果、反射率が小さくなる傾向を有する。よって、全可視光の反射率を評価する場合、簡便に短波長光における反射率の値により行うことができる。例えば、短波長光400nmで、初期反射率が80%以上、好ましくは90%以上であるということは、全可視光域で反射率が80%以上、好ましくは90%以上であることを意味し、その反射光は、白色光に極めて近いものと評価できる。一方、短波長光400nmで80%以上、好ましくは90%以下であっても、短波長光460nmで80%以上、好ましくは90%以上であれば、その反射光は、460nm以上の波長域で、その反射が全て80%以上、好ましくは90%以上確保できることになるから、可視光の反射の使用可能効率としては、実用上問題ない反射光として評価できる。
【0043】
また、本発明の光反射性樹脂組成物は、接合材としての使用の他に、図3に拡大して示すように、発光装置20における基板13の光反射層11としても利用することができる。この場合、基板上に、まず、光反射性樹脂組成物の光反射層11が設けられ、この光反射層11上にLEDチップ等の発光素子14が配置され、固定される。この場合、図3において示されるように、光反射層11と発光素子14との接合部の周辺部まで光反射層11が存在することになる。従来の技術では、先に説明したように基板に銀めっきを施したり、白色あるいは銀色のフィルム又は塗膜を配置することで、基板13の反射性を向上させていた。しかしながら、本発明によれば、樹脂組成物の塗膜もしくはシートにこの反射機能を付与することができる。発光装置20において、図示しないが、発光素子4からの光は、発光素子4と接合する光反射層11表面、発光素子4と接合していない光反射層11表面で反射されたり、光反射層11内の酸化チタン2に衝突した後に反射されることになる。基板13に光反射層11によって接合されている発光素子14は、ワイヤ16を有し、封止樹脂15で封止されている。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、上記以外の用途にも使用することができる。本発明の樹脂組成物は、高い反射率、換言すると、優れた遮光性を有しているので、例えば液晶表示パネル、プラズマディスプレイパネルなどの光学的表示装置において、それらの心臓部である情報表示部に対して不所望な外部の光が侵入するのを防止するために、または、装置内部の光が外部に漏れるのを防止するために、使用することができる。具体的には、光学表示装置において、その外枠部分はいろいろな部材から構成されるが、それらの構成部材を接合する部材を本発明の樹脂組成物を用いて接合又はシールすることで、良好な遮光性を得ることができる。
【0045】
図4は、遮光目的での使用の一例を、液晶表示パネル30を参照して説明したものである。液晶表示パネル30は、この技術分野で一般的な構造を示したもので、液晶28の上面及び下面が、それぞれ、配向膜26、透明電極25、ガラス基板23、そして偏光板24で覆われている。また、液晶28は、所定の厚さを確保するため、スペーサ27を備えており、その露出した両端は、本発明の光反射性樹脂組成物からなる遮光シール材21によって塞がれている。遮光シール材21は、その内部に酸化チタン22が分散しているので、外部から液晶内に入り込もうとする不所望な光を反射し、遮断することができ、また、装置内部の光が外部に漏れるのを防止することができる。よって、本発明の樹脂組成物で、液晶28、配向膜26、ガラス基板23が接合又はシールされた液晶表示パネルは、色調の低下や濁りが生じ難くなり、鮮明な画像を安定に表示することができる。
【0046】
以上の記載から理解できるように、本発明においては、基板と発光素子とを有し、基板と発光素子とが本発明の光反射性樹脂組成物を介して接合されている、発光装置が提供される。また、基板と、基板表面に設けられた本発明の光反射性樹脂組成物からなる光反射層と、発光素子とを有し、基板と発光素子とが光反射層を介して接合されている発光装置も提供される。そして、かかる発光装置の典型例が発光ダイオードであり、その発光素子がLEDチップである。
【0047】
また、本発明においては、本発明の光反射性樹脂組成物を用いて接合された部材を含む、光学表示装置が提供される。かかる光学表示装置においては、該樹脂組成物によって外部の光の装置内への侵入が阻止され、また装置内部の光が外部に漏れるのを防止できるため、光学的に鮮明な情報を安定的に表示することが可能となる。このような光学表示装置の典型例が、液晶表示パネルやプラズマディスプレイパネルである。なお、その他の光学表示装置の例としては、例えばSED(表面電界ディスプレイ)、有機ELデバイスなどを挙げることができる。
【実施例】
【0048】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0049】
下記の実施例、比較例及び参考例において、樹脂組成物を調製するために使用した原材料は、それぞれ、下記の表に記載したものである。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1
下記の第1表に記載のように、100重量部の脂環式エポキシ樹脂(C2021;ヨウ素価:2以下)、100重量部の4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(MH700)、4重量部の硬化触媒(FXR1020)、240重量部のアナターゼ型酸化チタン(A220)及び4重量部の沈降防止剤である微粉化シリカ(TS720)を同表に記載の量(重量部)で計量し、混合容器(容量0.1L)内でコンディショニングミキサーで攪拌混合した。得られた樹脂組成物のペーストを0.1mmの厚さでガラスプレート状に塗布し、150℃で1時間にわたって硬化させた。約0.1mmの厚さをもった樹脂組成物シートが得られた。
【0052】
実施例2〜8
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、原材料の種類及び配合量を下記の第1表に記載するように変更した。実施例1と同様な手法に従って混合、塗布及び硬化を行い、約0.1mmの厚さをもった樹脂組成物シートを得た。
【0053】
比較例1〜4及び参考例1〜3
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、原材料の種類及び配合量を下記の第1表に記載するように変更した。実施例1と同様な手法に従って混合、塗布及び硬化を行い、約0.1mmの厚さをもった樹脂組成物シートを得た。なお、参考例3では、白色フィラーを有しない例として、銀ペースト(商品名「ドータイトD−550」藤倉化成工業社)をそのまま使用した。また、比較例4で使用したアルミ粉は、東洋アルミニウム社製であり、その平均粒径は17μmであった。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
試験例1
前記実施例1〜8、比較例1〜4及び参考例1〜3において調製した樹脂組成物シートを供試サンプルとして使用した。下記の手順に従って(1)せん断接着強さ(MPa)、(2)400nm及び460nmにおける初期反射率(%)、(3)400nm及び460nmにおける高温経時後の反射率(%)、及び(4)400nm及び460nmにおけるQUV試験による経時後の反射率(%)を測定した。
【0057】
(1)せん断接着強さ(MPa)
JIS 6850に従ってせん断接着強さ試験(OLSS)を実施した。この試験で使用した試験片はアルミ5052、表面脱脂方法はメチルエチルケトン(MEK)脱脂、接着剤硬化条件は150℃で1時間、そして引張速度は5mm/分であった。せん断接着強さが3MPa以上であれば、接合材として用いた際に充分な接合強度が得られるので、せん断接着強さが3MPa以上の場合を「良」として評価した。結果を下記の第2表に示す。
【0058】
(2)初期反射率(%)
以下に記載した方法に従って初期反射率の測定を実施した。ガラスプレート上で調製された厚さ0.1mmの樹脂組成物シートをサンプルとしてそのまま使用し、そして測定機器としては、スペクトロフォトメーターU−4100(日立社製)を用いた。なお、反射率の測定は、2種類の波長(400nm及び460nm)の光について実施した。下記の第2表に記載する測定結果が得られた。
【0059】
(3)高温での経時後の反射率(%)
以下に記載した方法に従って高温(150℃)で1000時間経過経時後の反射率の測定を実施した。ガラスプレート上で調製された厚さ0.1mmの樹脂組成物シートをサンプルとしてそのまま使用し、そして測定機器としてはスペクトロフォトメーターU−4100(日立社製)を用いた。なお、反射率の測定は、2種類の波長(400nm及び460nm)の光について実施した。下記の第2表に記載する測定結果が得られた。
【0060】
(4)QUV試験による経時後の反射率(%)
以下に記載した方法に従ってQUV試験による経時後の反射率の測定を実施した。ガラスプレート上で調製された厚さ0.1mmの樹脂組成物シートをサンプルとしてそのまま使用し、そして測定機器としてはスペクトロフォトメーターU−4100(日立社製)を用いた。また、QUV試験は、アクセレーテッドウェザリングテスター、QUV試験機(The Q Panel Company)を用いて発光波長351nmにおいて行った。なお、反射率の測定は、2種類の波長(400nm及び460nm)の光について実施した。下記の第3表に記載する測定結果が得られた。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
上記第2表に記載の測定結果から理解されるように、脂環式エポキシ樹脂と酸化チタンとを含む樹脂組成物は、460nmを含む短波長側の可視波長領域において、良好な初期反射率及び高温経時・QUV経時後の反射率を示した。特に、実施例1〜4の脂環式エポキシ樹脂とアナターゼ型酸化チタンを含む樹脂組成物は、さらに400nmを含む可視領域において良好な初期反射率及び高温経時・QUV経時後の反射率を示した。一方、比較例1に示すような芳香族エポキシ樹脂を主成分とする接着剤は、初期反射率が波長によって変化するばかりでなく、高温経時及びQUV経時後において反射率の大きな低下を示した。さらに、比較例2〜4の結果から、酸化チタン以外の白色フィラー(Al、BaSO)を用いた場合、また、アルミ粉末を用いた場合では、充分な初期反射率が達成できないことが分かった。
【0064】
試験例2
本例では、脂環式エポキシ樹脂に対するアナターゼ型酸化チタン(フィラー)の適正配合量について試験した。
【0065】
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、原材料の種類及び配合量を下記の第4表に記載するように変更した。すなわち、脂環式エポキシ樹脂、酸無水物、アミン系硬化触媒及び沈降防止材の種類及び配合量を共通とし、アナターゼ型酸化チタンの配合量のみを変更した。実施例1と同様な手法に従って混合、塗布及び硬化を行い、約0.1mmの厚さをもった樹脂組成物シートを得た。
【0066】
次いで、得られた樹脂組成物シートを供試サンプルとして使用し、前記試験例1に記載の手順に従って初期反射率(%)を測定し、あわせて、シート形成前のペーストの塗工性を3段階:「優」、「良」及び「可」で評価した。下記の第4表に記載の評価結果が得られた。また、図5は、第4表の評価結果をグラフにプロットしたものである。
【0067】
【表6】

【0068】
上記第4表に記載の測定結果及び図5のグラフから理解されるように、酸化チタンの配合量が、エポキシ樹脂100重量部に対して、約40〜400重量部であるときに、良好な初期反射率を示した。特に、酸化チタンの配合量が、エポキシ樹脂100重量部に対して、約100〜400重量部のときには、優れた初期反射率となった。また、樹脂組成物ペーストの塗工性については、エポキシ樹脂100重量部に対する酸化チタンの配合量が約40〜400重量部であれば、実際上問題がないことが確認された。
【0069】
試験例3
本例では、硬化触媒としてカチオン系硬化触媒を使用した場合の、初期反射率に及ぼす影響について試験した。
【0070】
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、下記の第5表に記載するように、硬化触媒として、4重量部のアミン系硬化触媒(FXR1020)に代えて、異なる量のカチオン系硬化触媒:U−CAT5003(サンアプロ社製)又はCP66(アデカ社製)を使用した。実施例1と同様な手法に従って混合、塗布及び硬化を行い、約0.1mmの厚さをもった樹脂組成物シートを得た。
【0071】
次いで、得られた樹脂シートを供試サンプルとして使用し、前記試験例1に記載の手順に従って初期反射率(%)を測定した。下記の第5表に記載の評価結果が得られた。
【0072】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来の発光ダイオードの構成の一例を示した断面図である。
【図2】本発明による光反射性樹脂組成物を発光素子の接合材に使用した発光装置、及びその光反射効果を説明した断面図である。
【図3】本発明による光反射性樹脂組成物を発光ダイオードの光反射層に使用した例を説明した断面図である。
【図4】本発明による光反射性樹脂組成物を液晶表示装置の遮光シール材として使用した例を説明した断面図である。
【図5】酸化チタン含有量と樹脂組成物の反射率との関係をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0074】
1 樹脂組成物
2 酸化チタン
3 基板
4 発光素子
5 封止樹脂
10 発光装置
11 光反射層
放射光
反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を有しないエポキシ樹脂、
エポキシ樹脂100重量部を基準にして40〜400重量部の酸化チタン、及び
硬化剤
を含む、光反射性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が脂環式エポキシ樹脂である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化剤が炭素−炭素二重結合を有しない硬化剤である、請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が酸無水物である、請求項3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸化チタンがアナターゼ型酸化チタンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
基板と発光素子とを有し、基板と発光素子とが請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を介して接合されている、発光装置。
【請求項7】
基板と、基板表面に設けられた請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる光反射層と、発光素子とを有し、基板と発光素子とが光反射層を介して接合されている、発光装置。
【請求項8】
前記発光素子がLEDチップであり、前記発光装置が発光ダイオードである、請求項6又は7記載の発光装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて接合又はシールされた部材を含む、光学表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−143981(P2008−143981A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330815(P2006−330815)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】