説明

光合成微細藻類培養装置

【課題】光合成微細藻類の培養効率を大幅に向上させる光合成微細藻類培養装置を提供する。
【解決手段】光の透過可能な材質からなり、光合成微細藻類と培養液の混合液Cを収容し当該光合成微細藻類を培養するための培養容器1を、当該培養容器1内面のなす立体形状が高さ方向に長く延びたシルエットを有するように設置すると共に、散気手段3により培養容器1内面の下端部から二酸化炭素を供給し、混合液Cの高低差による大きな圧力及び長い二酸化炭素浮上時間を得ることで、混合液C中に多くの二酸化炭素を溶け込ませ光合成微細藻類の培養効率を向上させる。さらに、このような培養容器1を水中に設置し、浮力により培養容器1にかかる負荷を低減し使用材料を削減可能とすると共に、空気中と比べ耐光性・耐熱性の低い安価な材料を使用可能とすることで培養容器1の低コスト化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成微細藻類を培養するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の元凶である二酸化炭素を光合成反応により吸収して固定化する微細生物として光合成微細藻類が注目されている。ここで、二酸化炭素の吸収を活発化させるためには、光合成微細藻類を効率的に培養することが求められる。このため、光合成微細藻類の性質に合わせ、人工光を間欠的に照射するなど様々な工夫がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−234055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、人工光を間欠的に照射するなど、光の照射方法を調整するのみでは十分な効率が得られず、より培養効率の高い光合成微細藻類培養装置が求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、光合成微細藻類の培養効率を大幅に向上させる光合成微細藻類培養装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による光合成微細藻類培養装置は、光を吸収し二酸化炭素を取り込み光合成を行う光合成微細藻類を培養するための光合成微細藻類培養装置において、光の透過可能な材質からなり、光合成微細藻類と培養液の混合液を収容し当該光合成微細藻類を培養するための容器であって、当該容器内面のなす立体形状が一方向に長く延びたシルエットを有し、当該シルエットが高さ方向に長くなる状態で水中に設置された培養容器と、培養容器中の混合液に、当該培養容器内面の下端部から二酸化炭素を供給する散気手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
このような光合成微細藻類培養装置によれば、培養容器内面のなす立体形状が高さ方向に長く延びたシルエットを有するため、培養容器に収容される混合液の高さが高くなる。そして、混合液の高さにより、散気手段が二酸化炭素を供給する培養容器内面の下端部に大きな圧力がかかると共に、二酸化炭素が混合液中を浮上しきるまでの時間も長くなるため、多くの二酸化炭素が混合液中に溶け込む。さらに、培養容器が水中に設置されているため、培養容器外部の水圧により培養容器内面の下端部にさらに大きな圧力がかかり、一層多くの二酸化炭素が混合液中に溶け込む。以上により、光合成微細藻類の培養効率が向上する。また、培養容器が水中に設置されているため、培養容器にかかる負荷が浮力により軽減され、培養容器に使用する材料を削減することができる。さらに、水中にあることで太陽光の紫外線や熱による劣化も軽減され、培養容器に耐光性・耐熱性の低い安価な材料を用いることができる。以上により、低コストで培養容器を設置することができる。
【発明の効果】
【0008】
このように本発明によれば、低コスト化を図りつつ、光合成微細藻類の培養効率を大幅に向上させる光合成微細藻類培養装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光合成微細藻類培養装置の概略側面構成図である。
【図2】図1中の培養容器の斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る光合成微細藻類培養装置の概略構成図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る光合成微細藻類培養装置が備える培養容器の斜視図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る光合成微細藻類培養装置が備える培養容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による光合成微細藻類培養装置の好適な実施形態について図1〜図5を参照しながら説明する。なお、各図において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
先ず、本発明による光合成微細藻類培養装置の第1実施形態を説明する。図1は第1実施形態に係る光合成微細藻類培養装置の概略側面構成図、図2は図1中の培養容器の斜視図である。
【0012】
図1に示すように、光合成微細藻類培養装置100は、光合成微細藻類と培養液の混合液(濁液)Cを収容し当該光合成微細藻類を培養する1又は複数個(本実施形態では8個)の培養容器1と、水E及び培養容器1を収容する培養槽又は培養池(以降、一括して培養槽と呼ぶ)2と、培養容器1中の混合液Cに二酸化炭素を供給する散気手段3と、培養容器1中の混合液Cを回収し、培養容器1中に新たな混合液Cを供給する送受液ポンプ4とを備えている。
【0013】
培養容器1に収容され培養液と混合される光合成微細藻類は、ボツリオコッカス(Botryococcus)属のボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcusbraunii)や、シュードコリシスチス(Pseudochoricystis)属のシュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)等が用いられている。これらの光合成微細藻類は、光を吸収し二酸化炭素を取り込む光合成を行うことで石油類似の炭化水素(油)を生成する。
【0014】
図2に示すように、培養容器1は中空直方体形状の容器であり、光の透過可能な(光透過性を有する)樹脂等の材料からなる。そして、培養容器1内面のなす立体形状は高さ、幅(横)、奥行き方向にそれぞれ辺h,w,dを有する直方体となっており、各辺の大小関係はh>w>dとなっている。このため、培養容器1内面のなす立体形状を辺h及びdのなす面側から見たシルエットは、一方向(辺hの方向)に長く延びた形状となっている。ここで、立体形状を辺h及びdのなす面側から見たシルエットとは、当該立体形状が辺h及びdのなす面に正投影された像を意味している。以下、シルエットは同様の意味で用いる。
【0015】
このような構成を有する培養容器1は、辺hが鉛直方向に一致するように設置され、辺d及び辺wのなす2面が培養容器1内面の上面及び底面となっている。そして、培養容器1内面の底面には、培養容器1中に混合液Cを出し入れする送受液口5と、二酸化炭素を供給する散気ノズル6が設けられている。一方、培養容器1内面の上面には、混合液Cに溶け込まなかった二酸化炭素を排出する排気ノズル7が設けられている。なお、送受液口5及び散気ノズル6の形成箇所は底面に限定されるものではなく、底面近傍すなわち培養容器1内面の下端部であれば良い。同様に、排気ノズル7の形成箇所も上面近傍すなわち培養容器1内面の上端部であれば良い。
【0016】
ここで、上記各辺の寸法の好ましい例としては、辺dを10cm以下、辺hを100cm以下、辺wを10cm以上の任意の値とするものが挙げられる。
【0017】
図1に示すように、培養容器1は、その上端部に比重が軽く浮力の大きい浮力体8が付され、排気ノズル7を空気中に露出させた状態で水E中に設置されている。そして、この培養容器1は、各種配管11,12により散気手段3、送受液ポンプ4と接続されている。なお、各種配管11,12は、その全体又は一部がフレキシブルな管路となっており、水Eの流動による培養容器1の動きにフレキシブルに追従することが可能となっている。
【0018】
散気手段3は、工場等の二酸化炭素排出源9からのガスを吸入し、培養容器1に向かって排出するブロア10を有している。このブロア10は、散気配管11により培養容器1の上記散気ノズル6と接続されている。
【0019】
送受液ポンプ4は、送受液配管12により培養容器1の上記送受液口5と接続され、培地供給配管13により培地供給タンク14と接続され、生産受け入れ配管15により生産受け入れタンク16と接続されている。培地供給タンク14は、培養容器1に供給する新たな混合液Cを収容しているタンクである。また、生産受け入れタンク16は、培養容器1において光合成微細藻類の増殖が進行した混合液Cを収容するタンクである。そして、送受液ポンプ4は、新たな混合液Cを培地供給タンク14から培養容器1に供給する動作と、光合成微細藻類の増殖が進行した混合液Cを培養容器1から生産受け入れタンク16に回収する動作の2種類の動作を選択的に行うことができるようになっている。
【0020】
続いて、このように構成された光合成微細藻類培養装置100の作用について、図1を参照して説明する。
【0021】
培養容器1内の混合液Cには、散気手段3により二酸化炭素が供給される。また、屋外にあっては太陽光、室内にあっては室内に設けた光源の光が、水Eを透過し、さらに光の透過可能な材質からなる培養容器1を透過して混合液Cに照射される。そして、混合液C中の光合成微細藻類が光を吸収し、二酸化炭素を取り込んで光合成を行い増殖する。
【0022】
上記二酸化炭素の供給は、散気手段3の有するブロア10により、二酸化炭素排出源9のガスが散気配管11及び散気ノズル6を経由して混合液C中に供給されることで行われている。そして、供給された二酸化炭素は混合液C中に溶け込み光合成微細藻類に取り込まれ、溶け込まなかった二酸化炭素は混合液C中を浮上して排気ノズル7から空気中に排出される。
【0023】
以上の培養過程において光合成微細藻類の増殖が十分に進行すると、培養容器1中の混合液Cの補給及び増殖した光合成微細藻類の回収が行われる。具体的には、培養容器1中で光合成微細藻類の増殖の進行した混合液Cが、送受液ポンプ4により送受液口5、送受液配管12及び生産受け入れ配管14を介し生産受け入れタンク16に回収される。さらに、培地タンク14中の新たな混合液Cが、送受液ポンプ4により培地供給配管13、送受液配管12及び送受液口5を介し培養容器1中に供給される。このように混合液Cの補給及び光合成微細藻類の回収を行うことで、培養容器1中の光合成微細藻類が継続的に培養され、増殖過程で油を生成した光合成微細藻類が生産受け入れタンク16に蓄積される。
【0024】
ここで、培養容器1は、最も長い辺hが鉛直方向に一致するように設置されている、すなわち培養容器1内面のなす立体形状が高さ方向に長く延びたシルエットを有するように設置されているため、辺dや辺wを鉛直方向に一致させる場合と比べ収容されている混合液Cの高さが高くなっている。これにより、散気ノズル6の設けられた培養容器1内面の下端部に大きな圧力がかかると共に、二酸化炭素が混合液C中を浮上しきるまでの時間も長くなるため、光合成に必要な二酸化炭素が混合液C中に多く溶け込む。さらに、培養容器1が水中に設置されているため、培養容器1外部の水圧により培養容器1内面の下端部にさらに大きな圧力がかかり、一層多くの二酸化炭素が混合液C中に溶け込む。このようにして、混合液C中に溶け込む二酸化炭素の量が増え、光合成微細藻類の培養効率が向上する。
【0025】
また、培養容器1が培養槽2中の水E中に設置されているため、培養容器1にかかる負荷が浮力により軽減され、培養容器1を薄肉化し、使用材料を削減することができる。さらに、水中にあることで太陽光の紫外線や熱による劣化も軽減され、培養容器1の材質を耐光性・耐熱性の低い安価な材質とすることができる。以上により、低コストで培養容器1を設置することができる。
【0026】
このように、本実施形態においては、低コスト化を図りつつ、光合成微細藻類の培養効率を大幅に向上させることができる。
【0027】
さらに、本実施形態にあっては培養容器1の上端部に浮力体8が付され、浮力体8の浮力により当該上端部が上方に牽引されて培養容器1の姿勢が安定するため、培養容器1にかかる負荷がさらに軽減される。これにより、培養容器1をさらに薄肉化し、使用材料をさらに削減することができ、一層低コストで培養容器1を設置することができる。
【0028】
また、本実施形態にあっては培養容器1を例えば樹脂等の柔軟な材質で形成しているため、培養槽2中の水Eの流動に伴って培養容器1が変形し、培養容器1内部の混合液Cを撹拌する作用が得られる。さらに、この変形に伴い、最短辺dを挟む2面、すなわち対向する辺h,h同士が接触する程度まで接近し、培養容器1内面に付着した光合成微細藻類を除去する作用が得られる。このように光合成部際藻類の堆積が防止され、光合成微細藻類の培養効率がさらに向上する。
【0029】
なお、本実施形態では、好ましい例として培養容器1内面の各辺の大小関係をh>w>dとしているが、辺hが高さ方向に長く延びていればwはそれ以上に長くても良い。
【0030】
また、本実施形態では、培養容器1の上端部に浮力体8を付しているが、培養容器単体で十分な浮力を得られる場合には省略しても良い。
【0031】
また、培養容器1をラミネート構造のフィルム材で形成してもよい。これにより、適度に強度を保ちつつ、さらに薄肉化を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態では、培養容器1中にの混合液C中に溶け込まなかった二酸化炭素が排気ノズル7から空気中に排出されるが、この二酸化炭素をブロア10に戻し再度散気するようにしても良い。このようにすることで、空気中に放出される二酸化炭素をさらに削減することができる。
【0033】
次に、本発明による光合成微細藻類培養装置の第2実施形態を説明する。図3は、第2実施形態に係る光合成微細藻類培養装置概略構成図である。
【0034】
第2実施形態の光合成微細藻類培養装置200が第1実施形態の光合成微細藻類培養装置100と違う点は、培養槽2中の水E中に代え、海洋や湖等の天然の水中に培養容器1を設置し、その設置数量を大規模にした点である。
【0035】
付帯設備17は、第1実施形態における散気手段3や送受液ポンプ4等、培養容器1に付帯する設備を1ユニットとしてまとめて図示したものであり、所定数量の培養容器1を縦横に併設してなる1群ごとに1ユニットが設置されている。
【0036】
本実施形態においても、第1実施形態で述べたように培養容器1単体を低コストで設置可能であるため、低コストで設置数量の大規模化を図ることができる。
【0037】
このように、本実施形態においては、第1実施形態と同様な効果を得られるのに加え、低コストで光合成微細藻類培養装置を大規模化することで光合成微細藻類の培養効率を一層向上させることができる。
【0038】
次に、本発明による光合成微細藻類培養装置の第3、第4実施形態を説明する。図4は、第3実施形態に係る光合成微細藻類培養装置が備える培養容器の斜視図、図5は、第4実施形態に係る光合成微細藻類培養装置が備える培養容器の斜視図である。
【0039】
第3、第4実施形態の光合成微細藻類培養装置が第1実施形態の光合成微細藻類培養装置100と違う点は、培養容器1を、第3実施形態にあっては辺h及びwのなしていた長方形がひし形となる培養容器18に代え、第4実施形態にあっては辺h及びwのなしていた長方形が楕円形となる培養容器19に代えた点である。
【0040】
このように形状を変更しても、培養容器18,19内面のなす立体形状が高さ方向に長く延びたシルエットを有することに変わりは無いため、第1実施形態と同様な効果が得られる。さらに、培養容器1内面の底部両端側の二酸化炭素供給デッドスペースが解消されたため、二酸化炭素が培養容器18,19の全体に行き渡りやすくなり、光合成微細藻類の培養効率を一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0041】
1,18,19…培養容器、2…培養槽、3…散気手段、6…散気ノズル、9…排出源、10…ブロア、11…散気配管、100,200…光合成微細藻類培養装置、C…混合液、E…水、h,w,d…辺。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を吸収し二酸化炭素を取り込み光合成を行う光合成微細藻類を培養するための光合成微細藻類培養装置において、
光の透過可能な材質からなり、前記光合成微細藻類と培養液の混合液を収容し当該光合成微細藻類を培養するための容器であって、当該容器内面のなす立体形状が一方向に長く延びたシルエットを有し、当該シルエットが高さ方向に長くなる状態で水中に設置された培養容器と、
前記培養容器中の前記混合液に、当該培養容器内面の下端部から二酸化炭素を供給する散気手段と、を備えたことを特徴とする光合成微細藻類培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−254766(P2011−254766A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133120(P2010−133120)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】