説明

光周波数シンセサイザおよび波長変換装置

【課題】 出力光の光周波数が入力光の周波数と比較して、マイクロ波シンセサイザの精度で規定しうる確度の光周波数シンセサイザおよび波長変換装置を提供すること。
【解決手段】 光周波数シフタ2と、光周波数シフタ2を内部に含む光ループ回路1と、周回光と基準光とを合波する合波器3と、特定の光を光ループ回路1外に出力させる光出力回路4とを備える。さらに、光出力回路4からの、周回数KおよびLの周回光(K、Lは零または自然数、K≠L)を取り出し干渉させる光干渉回路5と、該干渉光の電気信号を出力する光電変換手段6と、入力されたマイクロ波基準周波数信号と上記電気信号との位相差に応じた誤差信号を出力する位相比較器7と、上記誤差信号の低域周波数成分を濾波するループフィルタ9と、濾波された誤差信号により発振周波数を制御し、該発振周波数に基づいて光周波数シフタ2を駆動する電圧制御発振器とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光周波数シンセサイザおよび波長変換装置に関し、より詳細には、光通信や光計測分野で必要とされる、広帯域で高確度の光周波数シンセサイザおよび波長変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化に伴い大容量の情報を伝達したいという要望から、高速で大容量の情報が伝達可能な光通信システムが注目されている。このような光通信ネットワークにおいて、帯域を有効に活用することが必須であり、有効に帯域を使用可能にするためには、広帯域で波長変換を可能にすることが求められている。
【0003】
このような波長変換では、光領域の光周波数基準光源として、アセチレンやシアン化合物などの気体の吸収線に、半導体レーザやヘリウムネオンレーザなどのレーザ光の波長を安定化させた光源が使用されている。これらは、その吸収線の光周波数の値付けと誤差評価とが十分になされており、産業応用上十分な確度を有する。
【0004】
しかしながら、これらの評価済みの吸収線は高々数十しかなく、任意の光周波数基準光源とはなりえない。そこで、モード同期レーザ光の複数の縦モードのうちの1つを上述の吸収線に周波数同期させることにより、縦モード間隔をグリッド間隔とする光周波数グリッドが利用されている。このモード同期光は時間領域では光短パルスであり、光ピークパワーが大きい。そこで、光ファイバ等の非線形性を利用して、そのスペクトル帯域をひろげることにより、超広帯域の光グリッドも得られている。
【0005】
ところが、モード同期レーザでは、モード同期周波数(縦モード間隔)は実効レーザ共振器長により定まる最適周波数の高々数パーセントしか変化できないため、任意の光周波数を発生させることは困難である。この解決策として、光変調器により連続光を短パルス化した後、光非線形現象を誘起する光非線形材料に上記短パルス光を入射することにより広帯域化する手法も提案されている。しかしながら、光パルスの繰り返し周波数を大きく変えると、光パルス幅等のパルス特性が変化するため、各スペクトル成分の強度が変動するという問題がある。
【0006】
また、光周波数シフタを光ループ回路の中で動作させて光周波数シフトを多数回行うことにより、光周波数グリッド発生範囲を±1.8THz以上に広げることが可能な波長変換装置が開示されている(特許文献1および非特許文献1参照)。このような波長変換装置において、光周波数シフタとして単一側波帯光変調器(SSB光変調器とも呼ぶ)を用いる場合、光周波数シフト量を数十GHz程度まで任意に選択することが可能である。よって、任意の光周波数を発生可能であるうえ、広帯域の光周波数掃引も可能となる。例えば、光周波数シフタの駆動周波数を5GHzから25GHzまで20GHz掃引すると、光ループ回路についての50周回光に対して、その光周波数を1THz連続的に掃引することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−37805号公報
【非特許文献1】A.Takada et al, ”Wavelength Converter Operating on Strict Frequency Grid Using a Single Side Band Optical Modulator in a Circulating Loop” OFC2003 FP5, 2003
【非特許文献2】O.Tadanaga et al, ”Variable Optical Frequency Shifter Using Multiple Quasi-Phase-Matched LiNbO3 Wavelength Converters” OFC2003 paper FP3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の光周波数シフタを含む光ループ回路では、出力光は入力光と比較して、光ループ回路のループ長と光ループ回路を通過する光の周回回数との積だけ光遅延を被る。さらに、上記光遅延時間である光周回遅延時間は、光ループ回路の温度変化により変動する。よって、光周回遅延時間により、出射光の光周波数が変動する。
【0009】
例えば、ループ長2メートルの光ループ回路の温度が1秒間に1℃変化した場合、光ループ回路を50周回した光の光周波数は、波長1.5ミクロン帯の光に対して約670Hz偏移する。ここで、ループを構成する光ファイバの線膨張係数は10−5/℃程度とした。入力する基準光の光スペクトル線幅が10KHz程度以上であれば、この程度の光周波数偏移は問題とはならない。しかし、出力光と入力する基準光などを干渉させ、フォトダイオードなどを用いた光電変換により、ビートとしてマイクロ波/ミリ波発生を行う場合は、上記光周波数偏移がそのまま、マイクロ波/ミリ波周波数偏移につながるという問題があった。
【0010】
したがって、光ループ回路への入力光と出力光との間に生じるループ遅延の揺らぎが生じる場合においても、出力光間または、入力光と光ループ出力光間ビート周波数が安定な光周波数シンセサイザが必要とされている。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、出力光の光周波数が入力光の周波数と比較して、マイクロ波シンセサイザの精度で規定しうる確度の光周波数シンセサイザおよび波長変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1記載の発明は、入力された光の光周波数を所定のシフト量だけ偏移させる光周波数シフタと、前記光周波数シフタを内部に含む光ループ回路と、該光ループ回路を周回する光と前記光ループ回路の外部からの入力光を合波する合波器と、前記合波された光のうち特定の1つまたは複数の光周波数の光を前記光ループ回路外に出力させる光出力回路とを備え、前記入力光の光周波数を前記所定のシフト量だけ多数回シフトすることにより広帯域の光周波数範囲の出力光を出力する光周波数シンセサイザにおいて、前記光出力回路から出力された、前記光ループ回路を所定の回数Kだけ周回した周回光および前記光ループ回路を所定の回数Lだけ周回した周回光(KおよびLは零または自然数であり、K≠L)を取り出し干渉させ出力する光干渉回路と、該光干渉回路から出力された干渉光を電気信号に変換し出力する光電変換手段と、マイクロ波基準周波数信号を入力する入力ポートを有し、該入力ポートから入力された前記マイクロ波基準周波数信号と、前記光電変換手段から出力された電気信号との位相を比較し、該位相差に応じた誤差信号を出力する位相比較器と、該位相比較器から出力された誤差信号により発振周波数を制御し、該発振周波数に基づいて前記光周波数シフタを駆動する電圧制御発振器とを備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記位相比較器から出力された誤差信号を濾波して、所定の周波数成分を通過させる手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記光周波数シフタは、単一側波帯(SSB)光変調器であることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記光周波数シフタは、光非線形材料からなる光非線形素子と、前記非線形材料の励起光と前記光周波数シフタへの入射光とを合波し、前記光非線形素子に結合させる光合波手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
請求項5記載発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光周波数シンセサイザを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、マイクロ波基準周波数信号と光電変換手段から出力された電気信号との位相差に基づく誤差信号に応じて、光周波数シフタの光周波数のシフト量を制御しているので、光ループ回路から出力される光は、光周回遅延時間の変動による光周波数の変動を抑えた出力光とすることが可能となる。よって、入力光の周波数と比較して、マイクロ波シンセサイザの精度で規定しうる確度の出力光を出力することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る光周波数シンセサイザの構成図である。
図1において、符号1は、光ファイバや光導波路等の光を伝達する手段によりループを形成している光ループ回路であり、入力された光について、光周波数を所定のシフト量Δνだけ偏移させて出力する光周波数シフタ2を備えている。よって、光ループ回路1をN回周回する光の光周波数は、およそN×Δνだけシフトする。
【0019】
また、光ループ回路1には、複数の入力ポートを有し、それら入力ポートから入力された光を合波し同一の出力ポート(合波器3の出力ポートとも呼ぶ)に出力する手段としての合波器3が設けられている。合波器3の複数の入力ポートの第1の入力ポートは、光周波数シフタ2に光を伝達する手段を介して接続されている(光学的に接続されている、とも呼ぶ)。また、上記入力ポートの第2の入力ポートは、基準光を入力するための入力ポートである。このような構成により、光ループ回路1内を周回する光(単に周回光とも呼ぶ)と光ループ回路の外部からの入力光である基準光を合波することができる。
【0020】
また、光ループ回路1には、複数の出力ポートを有し、上記合波された光(基準光および周回光)のうち特定の1つまたは複数の光周波数の光をループ外に出力させる手段としての光出力回路4が設けられている。光出力回路4の入力ポートは、波長多重合波回路3の出力ポートに光学的に接続されている。また、光出力回路4の複数の出力ポートの第1の出力ポートは、光周波数シフタ2に光学的に接続されている。
【0021】
上記出力ポートの第2の出力ポートには、入力された光を干渉させる手段としての光干渉回路5が接続されている。このような構成により、光出力回路4から出力される、光ループ回路1を所定の回数Kだけ周回した周回光(周回数Kの周回光とも呼ぶ)、および光ループ回路1を所定の回数Lだけ周回した周回光(周回数Lの周回光とも呼ぶ)は、光干渉回路5にて干渉し、光干渉回路5の第1の出力ポートから出力される。光出力回路4から出力され、光干渉回路5にて干渉されない光は、最終的な出力光であり、光干渉回路5の第2の出力ポートから出力される。なお、光干渉回路5を調節することにより、光干渉回路5にて干渉に関わる光の一部を、干渉せずに第2の出力ポートから出力することもできる。ここで、KおよびLは、零または自然数、かつK≠Lである。KまたはL=0の場合は、対応する周回光は基準光となる。
【0022】
符号6は、入力された光を電気出力に変換する光電変換手段6である。光電変換手段6は、光干渉回路5の第1の出力ポートから出力された干渉光が入力されると、干渉光についての、干渉によって生じる光周波数のうなりに相当するビート信号を発生して出力する。
【0023】
符号7は、複数の入力ポートを有し、該複数の入力ポートの2つから入力された信号の位相を比較し、その位相差に基づいた誤差信号を出力する手段としての位相比較器7である。位相比較器7の複数の入力ポートの第1の入力ポートは、光電変換手段6に、導線等の電気を伝達する手段を介して接続されており(電気的に接続される、とも呼ぶ)、第2の入力ポートは、マイクロ波基準周波数発振器8に電気的に接続されている。第2の入力ポートは、マイクロ波基準周波数信号を入力するための入力端子に接続されていても良い。
【0024】
位相比較器7の出力ポートには、入力された誤差信号を濾波して所定の周波数帯を通過させる手段としてのループフィルタ9が電気的に接続されている。このループフィルタ9は、低周波数成分を濾波する低域通過フィルタとすればよい。ループフィルタ9には、ループフィルタ9にて濾波された誤差信号により、発振周波数が制御され、その制御された発振周波数に基づいて光周波数シフタ2を駆動する手段としての電圧制御発振器(VCO)10が電気的に接続されている。この電圧制御発振器10は、ループフィルタ9から出力される誤差信号に基づいて、光周波数シフタ2の光周波数シフト量を制御するための周波数Δfを発生する。
【0025】
このような構成で、合波器3の第2の入力ポートから入力された、光周波数νである基準光は、光ループ回路1を周回することにより多数回シフトされ、広帯域の光周波数範囲の出力光として出力することができる。このとき、互いの光周波数の差がシフト量Δνである、周回数Kの周回光と周回数Lの周回光を取り出して干渉させ、その干渉された出力光と周波数fのマイクロ波基準周波数信号との比較結果に基づいて電圧制御発振器により光周波数シフタを制御しているので、周回光の光周回遅延時間の変動による光周波数の変動を抑えることができる。よって、数テラヘルツ以上に渡り、マイクロ波周波数信号源と同等の高確度で任意の光周波数を有する光周波数シンセサイザを構成することができる。また、繰り返し周波数が可変な、短光パルス源を得ることもできる。
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。
【0027】
(実施例1)
本実施例では、波長1.5ミクロン帯で動作する光周波数シンセサイザ及び波長変換装置について図2を参照しながら説明する。
図2において、光周波数シフタ2として、単一側波帯光変調器(SSB光変調器)11を使用する。SSB光変調器は、ニオブ酸リチウム結晶上にマッハツェンダー型干渉計を組み合わせた光導波路と、それぞれの干渉計の分岐枝にプレーナ型進行波電極を施したものが開発され、変調周波数(すなわち光周波数シフト幅(シフト量Δν))25GHz程度までの広帯域のSSB変調が可能となっている。SSB光変調器11を駆動する電気信号は、90度位相が異なる正弦波信号が必要であるため、90度の位相差を有する、90度ハイブリッド12を使用している。SSB光変調器11への入力光パワーからシフト光パワーへの変換効率は、10dB程度が達成されている。
【0028】
このようなSSB光変調器11が、光ファイバによってループされた光ループ回路1に設けられている。また、SSB光変調器11には、90度ハイブリッド12が、位相差が90度の2つの正弦波信号をSSB光変調器11に入力できるように、SSB光変調器11に電気的に接続されている。
【0029】
光ループ回路1中において、SSB光変調器11には、光増幅器13が光学的に接続されている。光増幅器13は、SSB光変調器11の変換効率と光ループ回路1中のパッシブ光部品の損失を補償するために必要であり、エルビウム添加光増幅器などが適用可能である。
【0030】
光増幅器13には、4ポート型の光サーキュレータ14が光学的に接続されている。光サーキュレータ14の第1の端には光ファイバが連結されており、ここから所定の周波数νの基準光が入力される。光サーキュレータ14の第2の端には光増幅器13が光学的に接続されており、それらの間には、基準光の光周波数νと略同じ反射中心光周波数を有するファイバブラッググレーティング(FBG)15が配置されている。光サーキュレータ14の第3の端にはSSB光変調器11が光学的に接続されており、それらの間には、FBG16a〜16cが配置されている。FBG16a〜16cの反射中心波長は、それぞれ、ほぼ、ν、νi+1、νi+N(N:2以上の整数)に設定されている。また、FBG16aおよび16bについては、さらに反射率が10%程度以下に設定されている。ここで、νi+k=ν+kfである。但し、kはN以下の自然数であり、fは光ループ回路1を1周回することによる光周波数シフト量である。光サーキュレータ14の第4の端には光サーキュレータ17が接続されている。
【0031】
このような接続構成において、光サーキュレータ14の第1の端に入射された光は第2の端からのみ出射され、第2の端に入射された光は第3の端からのみ出射され、第3の端に入射された光は第4の端からのみ出射される。
【0032】
すなわち、光周波数νの入力周波数基準光は、光サーキュレータ14により図2の上方(第2の端)に出射され、基準光周波数νと同じ反射中心光周波数を有するFBG15により反射される。光サーキュレータ14に戻った光は図2の右側(第3の端)に出射される。第3の端側には、FBG16a〜16bが配置されているが、FBG16aおよび16bについては、反射率が10%程度以下に設定されているので、光サーキュレータ14の第3の端から出射された、光周波数νの光の大部分は、これらのFBG16a〜16cを通過し、SSB光変調器11によりその光周波数がおよそνi+1に偏移する。一方、FBG16aにて反射された光周波数νの光は、光サーキュレータ14の第3の端から入射され、図2の下方(第4の端)に出射される。
【0033】
上述の、νi+1に偏移した光は、FBG15を通過し、光サーキュレータ14により図2の右側(第3の端)に出射される。その後、同様にループを周回し、N周回後、光周波数がνi+N=ν+Nf(式1)となった周回光が、FBG16cに入射すると、その周回光はFBG16cによって反射され、光サーキュレータ14により図2の下方(第4の端)に出射される。なお、上記N周回中で、光周波数νi+1の光については、FBG16bにて一部は反射され、図2の下方(第4の端)に出力される。
【0034】
3ポート型の光サーキュレータ17の第1の端には、光サーキュレータ14が光学的に接続されており、第2の端には、光ファイバが連結されており、該光ファイバには、FBG18aおよび18bが配置されている。FBG18aおよび18bの反射中心波長は、それぞれ、ほぼν、νi+1に設定されている。最終的な出力光は、光サーキュレータ17の第2の端から出力されることになる。光サーキュレータ17の第3の端側には、フォトダイオード(PD)19が配置されており、第3の端から出射された光がフォトダイオード19に入射されるようになっている。
【0035】
このような接続構成において、光サーキュレータ17の第1の端に入射された光は第2の端からのみ出射され、第2の端に入射された光は第3の端からのみ出射される。
【0036】
すなわち、光サーキュレータ14から出射された光周波数ν、νi+1の光は、光サーキュレータ17により図2の右側(第2の端)に出射され、FBG18aおよび18bにて反射されて干渉光となる。次いで、該反射光(干渉光)は、光サーキュレータ17により図2の下方(第3の端)に出射される。この干渉光は、フォトダイオード19に入射し、ビート信号に変換される。
【0037】
一方、光サーキュレータ14から出射された光周波数νi+Nの光は、光サーキュレータ17により図2の右側(第2の端)に出射され、FBG18aおよび18bを通過して最終的な出力光となる。
【0038】
フォトダイオード19には、増幅器20が電気的に接続されており、増幅器20には、位相比較器7が電気的に接続されている。位相比較器7は、2つの入力ポートを有しており、第1の入力ポートには、増幅器20が電気的に接続され、第2の入力ポートには周波数f=25GHzのマイクロ波基準周波数信号を発振するマイクロ波基準周波数発振器8が電気的に接続されている。この位相比較器7は、増幅器20により増幅されたビート信号と周波数25GHzのマイクロ波基準周波数信号とを比較し、それらの周波数差に相当する誤差信号を生成し出力する。
【0039】
位相比較器7の出力ポートには、ループフィルタ9が電気的に接続されている。ループフィルタ9は、位相比較器7から出力された誤差信号の低周波数成分を濾波して出力する。また、ループフィルタ9には、電圧制御発振器(VCO)10が電気的に接続されており、電圧制御発振器10には、90度ハイブリッド12が電気的に接続されている。電圧制御発振器10は、ループフィルタ9から入力された誤差信号に基づいて周波数Δfの電気信号を発振し、SSB光変調器11を制御する。
【0040】
なお、位相比較器7は、マイクロ波バランスドミキサなどが適用できる。誤差信号の低周波成分を透過させるには、適当な遮断特性を有する低域通過フィルタが適用できる。
【0041】
さて、光ループ回路1のループ長は環境温度の変動により変化しているため、ループを周回した光は、SSB光変調器11による光周波数シフト以外にループ遅延時間の変動による微小な光周波数シフトを被る。その量は、
LN(β+δn/δT)(dT/dt)/λ
となる。ここで、Lは光ループ回路1のループ長、Nは周回数、βはループを構成するファイバの線膨張係数、δn/δTは上記ファイバの単位温度変化あたりの実効屈折率の変化分、(dT/dt)は上記ファイバの単位時間当たりの温度変動分、λは周回光の波長である。
【0042】
上述のように、1秒当たり1℃変化する、ループ長2メートルのループで、50周回程度周回する1.5ミクロン帯の光はおよそ数百ヘルツ偏移する。この量は、入射する光周波数基準光の線幅がキロヘルツ以上の場合で、出力光を単独で使用する場合は無視できるが、元の入射基準光と出力光とを干渉させ、マイクロ波/ミリ波を発生させるような応用分野ではその周波数や位相が変動するため問題となる。
【0043】
そこで本実施例では、上述の誤差信号に基づいて、光ループ遅延変動による光周波数変動を相殺するようにSSB光変調器11の駆動周波数を制御することにより、入射基準光に対して、使用するマイクロ波基準周波数信号の確度と同等の確度の光周波数差を有する出力光を得ている。
【0044】
具体的には、光サーキュレータ14により図2の下方(第4の端)に出射した光のうち、光周波数νである、周回していない光(基準光)と、光周波数νi+1の1回のみ周回した光とを、FBG18aおよび18bと光サーキュレータ17とにより抽出し、フォトダイオード19によりそれらのビートを発生させる。該ビートは、SSB光変調器11による光周波数シフト量(Δf)とループ周回遅延時間変動による光周波数シフトとの和となっている。
【0045】
このビート信号と、マイクロ波基準周波数発振器8からのマイクロ波基準周波数信号との間の位相差を位相比較器7で比較し、得られた誤差信号の低周波成分により電圧制御発振器(VCO)10を制御する。このように、位相比較器7の比較結果である誤差信号に基づいて、光周回遅延時間の変動による光周波数の変動を軽減するようにVCO10がSSB光変調器を制御することが可能となるので、周回光が光ループ回路1を一周する毎に光遅延の影響を自動的に軽減することができる。よって、最終的な出力光を、マイクロ波基準周波数信号と同等の確度と安定性とを有するものとすることができる。
【0046】
すなわち、本構成は、VCO10によって制御されたBBS光変調器11による光周波数シフト量と、光ループ回路1の光周回遅延時間変動による光周波数シフトとの総和がマイクロ波基準周波数信号の周波数になるように働く位相同期ループ(PLL)である。
【0047】
従って、本実施例に係る光周波数シンセサイザの出力光の光周波数と、入力光である基準光の光周波数との周波数差は、マイクロ波基準周波数信号(本実施例では、f=25GHz)と同等の確度が保証される。絶対周波数確度は、入力光のそれに依存するため、入力光(基準光)の光源として確度等が誤差評価された気体吸収線安定化光源等を用いればよい。
【0048】
本実施例に係る光周波数シンセサイザをマイクロ/ミリ波発生器に組み込んで使用する場合は、光サーキュレータ17の右側(第2の端側)に配置したFBG18aの反射率を小さくし、光周波数νの光が光周波数νi+Nの光と共に出力するように設定し、光サーキュレータ17の第2の端より出射される、2つの周波数の光のビートを広帯域PD等の光電変換器により得ればよい。また、基準周波数信号を5GHzから25GHzまで掃引し、12周回光を単一走行キャリアPD(UTC−PD)等の超広帯域PDにて光電変換することにより、60GHzから300GHz程度までの周波数のミリ波を連続的に掃引発生できる。
【0049】
なお、本実施例において、FBG16cの反射中心周波数を、式1においてNを所望に応じて変えた周波数に設定することによって、最終的に出力される光の光周波数を制御できることは言うまでもない。
【0050】
また、本実施例では、マイクロ波基準周波数信号と比較するビート信号に、ループを1周する際に生じる光周回遅延時間変動による光周波数のシフト量を含めることが重要であって、FBG16a、16b、18aおよび18bの反射中心周波数を、それぞれνおよびνi+1に設定することが本質ではない。すなわち、FBG16a、16b、18aおよび18bの反射中心周波数について、FBG16aおよび18aの反射中心周波数と、FBG16bおよび16bの反射中心周波数との光周波数差が、光周波数シフト量fとなるように設定すればよい。
【0051】
以上、本実施例に係る装置に入力する光として、気体吸収線安定化レーザ光などの発振光周波数の確度が評価された連続光(CW光)を用いることにより、本実施例に係る装置を光周波数シンセサイザとして使用する場合を記した。データ信号等により変調された光信号を本実施例に係る装置に入力することにより、本実施例に係る装置の出力光として光周波数のみが変換された光信号を得ることができる。この場合、本実施例に係る装置は波長変換装置として動作する。
【0052】
(実施例2)
本実施例は、図3に示すように、実施例1に係る光周波数シンセサイザの構成において、FBG16cを取り除き、かつ出力光としてループ内を周回する複数の光周波数の光を同時に同一ポートから取り出す構成とすることにより、短光パルス出力を得る構成である。すなわち、光サーキュレータ14の第3の端には、周波数依存性のない光カップラ21が光学的に接続されており、それらの間には、FBG16aおよび16bが配置されている。また、光サーキュレータ14の第4の端側には、フォトダイオード19が配置されており、第4の端から出射された光がフォトダイオード19に入射するようになっている。
【0053】
光カップラ21の第1の出力ポートには、SSB光変調器11が光学的に接続されている。また、光カップラ21の第2の出力ポートには、光ファイバが連結されており、ここから最終的な出力光が出力されることになる。
【0054】
このような構成で、実施例1と同様にして、光周波数νの基準光と、光周波数νi+1の周回光との一部は、FBG16aおよび16bにて反射されて干渉し、光サーキュレータ14の第4の端より出射されて、フォトダイオード19に入力され、ビートとなる。次いで、実施例1と同様にして、ビートとマイクロ波基準周波数信号との位相比較に基づいて、光ループ遅延変動による光周波数変動を相殺するようにSSB光変調器11を制御することになる。
【0055】
本実施例では、光カップラ21は、周波数依存性がないので、入力された光を周波数に関係なく分岐して2つの出力ポートから出力する。この2つの出力ポートから出力される光は、光周波数νの基準光から周回数Nの周回光までを含んだ光、すなわち、基準光および光ループ回路1を周回している全ての光周波数の光となる。よって、本実施例では、基準光および光ループ回路1を周回している全ての光周波数の光を最終的な出力光とすることができる。このとき、最終的な出力光を、ループ遅延による光周波数のゆらぎの影響を抑えた光とすることができる。
【0056】
なお、本実施例のPLL構成により各周回光の光周波数を光位相も含めてロッキングするため、光ループ内を周回する光は時間領域で観測すると短光パルスとなっている。よって、最終的な出力光も短光パルスとなっている。
【0057】
(実施例3)
本発明は、光周波数シフタとしてSSB光変調器だけでなく、光非線形素子を用いても実現できる。光非線形素子として、光学結晶の光学軸を周期的に反転させることにより長い素子長(素子の長手方向)にわたって光波間の位相整合条件を満足するようにした擬似位相整合光非線形素子が使用できることが示されている(非特許文献2参照)。非特許文献2では、擬似位相整合光非線形素子として、光学結晶の光学軸を所定の周期で反転させたニオブ酸リチウム導波路(単にPPLNとも呼ぶ)を用いている。本実施例では、非特許文献2と同様に、光非線形素子としてPPLNを用いることができる。
【0058】
図4は、本実施例に係る光周波数シンセサイザの光周波数シフタの構成を示す図である。
図4において、符号21は、光周波数ν(波長λ)の光(第1の励起光とも呼ぶ)を励起する半導体レーザである。半導体レーザ21から発振される第1の励起光は、光分岐器22に入射する。光分岐器22の第1の出力ポートは光合波器23の第1の入力ポートに光学的に接続されており、第2の出力ポートは光増幅器24に光学的に接続されている。よって、第1の励起光は、光分岐器22にて光合波器23および光増幅器24に分岐する。光増幅器24は、PPLN25の第1の入力ポートに光学的に接続されている。
【0059】
PPLN25の第2の入力ポートには、光ループ回路1のループを形成する光ファイバが連結されており、この第2の入力ポートから光周波数シフタへの入射光(単に入射光とも呼ぶ)が入射される。PPLN25の出力ポートは、PPLN29に光学的に接続されている。PPLN25の位相整合波長は、第1の励起光の波長λとほぼ等しくなるように設定されている。よって、PPLN25は、第1の励起光が光増幅器24から第2の入力ポートに入射されると、第2高調波を発生する。このとき、PPLN25の第1の入力ポートから入射光が入射されると、発生された第2高調波がポンプ光の役割を果たし、PPLN25は、差周波(=第2高調波の光周波数−入射光の光周波数)を発生する。
【0060】
すなわち、PPLN25は、半導体レーザ21から発振される光が入射されると第2高調波を発生し、該第2高調波と入射光との差周波を発生するように設定されている。
【0061】
一方、符号26は、光周波数ν(波長λ)の光(第2の励起光とも呼ぶ)を励起する半導体レーザである。半導体レーザ26から発振される第2の励起光は、光分岐器27に入射する。光分岐器27の第1の出力ポートは光合波器23の第2の入力ポートに光学的に接続されており、第2の出力ポートは光増幅器28に光学的に接続されている。よって、第2の励起光は、光分岐器27にて光合波器23および光増幅器28に分岐する。光増幅器28は、PPLN29の第1の入力ポートに光学的に接続されている。
【0062】
PPLN29の第2の入力ポートには、PPLN25の出力ポートが光学的に接続されており、PPLN29の出力ポートには、光ループ回路1のループを形成する光ファイバが連結されており、この出力ポートから光周波数シフタからの出射光(単に出射光とも呼ぶ)が出射される。PPLN29の位相整合波長は、第2の励起光の波長λとほぼ等しくなるように設定されている。よって、PPLN29は、PPLN25と同様に、第2の励起光が入射されると第2高調波を発生し、該第2高調波とPPLN25から出射された光とにより差周波を発生する。
【0063】
すなわち、PPLN29は、半導体レーザ26から発振される光が入射されると第2高調波を発生し、該第2高調波とPPLN25から出射された光との差周波を発生するように設定されている。
【0064】
符号23は、光合波器であり、光分岐器22および27から入射された第1の励起光および第2の励起光を合波して、該合波した光をフォトダイオード30へと出射する。フォトダイオード30は、光合波器23から出射された合波光を、第1の励起光と第2の励起光とのビート信号に変換し、該ビート信号を位相比較器31へと出力する。
【0065】
位相比較器31は、2つの入力ポートを有しており、第1の入力ポートには、フォトダイオード30が電気的に接続されており、第2の入力ポートには、1/2分周器32が電気的に接続されている。1/2分周器32は、電圧制御発振器10が電気的に接続されており、電圧制御発振器10から周波数Δfの信号が入力されると、Δf/2の電気信号を位相比較器31へと出力する。
【0066】
位相比較器31は、入力される、ビート信号とΔf/2の電気信号との位相を比較し、該比較結果に基づいた第2の誤差信号をループフィルタ33へと出力する。第2の誤差信号は、ループフィルタ33を介して半導体レーザ21に入力される。半導体レーザ21は、第2の誤差信号に基づいて、駆動するための注入電流が制御されている。
【0067】
このような構成で本実施例に係る光周波数シフタは構成されている。以下では、この光周波数シフタを用いて入射光の光周波数をシフトする様子について説明する。
図5は、本実施例に係る、入射光、出射光および励起光の光周波数軸上の配置の一例を示す図である。
まず、半導体レーザ21からの第1の励起光(光周波数ν)を、PPLN25に入射することにより、光周波数が2νである、第1の励起光の第2高調波を発生させる。このとき、PPLN25に入射光(光周波数ν)を入射すると、図5から分かるように、PPLN25内で、発生された光周波数2νである第2高調波と光周波数νである入射光との差周波光(第1の差周波光)が、光周波数2ν−νに発生する。
【0068】
PPLN29では、半導体レーザ26からの第2の励起光(光周波数ν)により、光周波数が2νである、第2の励起光の第2高調波が発生している。このとき、PPLN29にPPLN25から光周波数2ν−νである光が入射すると、図5から分かるように、該光と第2の励起光の第2高調波との差周波光(第2の差周波光)が、光周波数2ν−(2ν−ν)=ν+2(ν−ν)に発生する。この光周波数ν+2(ν−ν)の差周波光が出射光としてPPLN29から出射される。すなわち、第1の励起光と第2の励起光との周波数差の2倍だけ光周波数がシフトした出射光が得られる。
【0069】
ここで、第1の励起光と第2の励起光との光周波数差を、入力するマイクロ波基準周波数信号に安定化するために、PLL回路により周波数オフセットロッキングを行っている。すなわち、第1の励起光と第2の励起光との一部を干渉させ、そのビート周波数が入カマイクロ波基準周波数信号と同等の確度を得るための周波数(周波数Δf)の半分のΔf/2にロッキングするように半導体レーザ21の注入電流を制御している。すなわち、光ループ遅延変動による光周波数変動を相殺するように、周波数Δf/2とフォトダイオード30からのビート周波数に基づいて、半導体レーザ21への注入電流を制御しているのである。
【0070】
なお、本実施例において、PPLN25とPPLN29との位相整合波長、および半導体レーザ21と半導体レーザ26との励起波長を所望に応じて設定することにより、光周波数シフタにおけるシフト量を制御することができることは言うまでもない。
【0071】
実施例1および実施例2においても、SSB光変調器の代わりに本実施例に係る光周波数シフタを用いることができる。
【0072】
なお、実施例1で説明したように、実施例2および実施例3で説明した光周波数シンセサイザを用いても波長変換装置を構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態に係る光周波数シンセサイザの構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光周波数シンセサイザの構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る光周波数シンセサイザの構成図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る光周波数シンセサイザの光周波数シフタの構成を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る、入射光、出射光および励起光の光周波数軸上の配置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 光ループ回路
2 光周波数シフタ
3 合波器
4 光出力回路
5 光干渉回路
6 光電変換手段
7 位相比較器
8 マイクロ波基準周波数発振器
9 ループフィルタ
10 電圧制御発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された光の光周波数を所定のシフト量だけ偏移させる光周波数シフタと、前記光周波数シフタを内部に含む光ループ回路と、該光ループ回路を周回する光と前記光ループ回路の外部からの入力光を合波する合波器と、前記合波された光のうち特定の1つまたは複数の光周波数の光を前記光ループ回路外に出力させる光出力回路とを備え、前記入力光の光周波数を前記所定のシフト量だけ多数回シフトすることにより広帯域の光周波数範囲の出力光を出力する光周波数シンセサイザにおいて、
前記光出力回路から出力された、前記光ループ回路を所定の回数Kだけ周回した周回光および前記光ループ回路を所定の回数Lだけ周回した周回光(KおよびLは零または自然数であり、K≠L)を取り出し干渉させ出力する光干渉回路と、
該光干渉回路から出力された干渉光を電気信号に変換し出力する光電変換手段と、
マイクロ波基準周波数信号を入力する入力ポートを有し、該入力ポートから入力された前記マイクロ波基準周波数信号と、前記光電変換手段から出力された電気信号との位相を比較し、該位相差に応じた誤差信号を出力する位相比較器と、
該位相比較器から出力された誤差信号により発振周波数を制御し、該発振周波数に基づいて前記光周波数シフタを駆動する電圧制御発振器と
を備えることを特徴とする光周波数シンセサイザ。
【請求項2】
前記位相比較器から出力された誤差信号を濾波して、所定の周波数成分を通過させる手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の光周波数シンセサイザ。
【請求項3】
前記光周波数シフタは、単一側波帯(SSB)光変調器であることを特徴とする請求項1または2記載の光周波数シンセサイザ。
【請求項4】
前記光周波数シフタは、
光非線形材料からなる光非線形素子と、
前記非線形材料の励起光と前記光周波数シフタへの入射光とを合波し、前記光非線形素子に結合させる光合波手段と
を備えることを特徴とする請求項1または2記載の光周波数シンセサイザ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光周波数シンセサイザを備えることを特徴とする波長変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−106362(P2006−106362A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292951(P2004−292951)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】