説明

光塩基発生剤

【課題】従来の光塩基発生剤よりも、より触媒活性の高い塩基を発生する新規な化合物、これらの化合物を含んでなる光塩基発生剤及び塩基発生方法を提供する。
【解決手段】一般式[1]で示される化合物、これらの化合物を含んでなる光塩基発生剤及び塩基発生方法。


(式中、Arは、特定構造のクマリニル基及び特定構造のアセナフテニル基からなる群より選ばれる何れかの基を表し、Yは、特定構造の4級アンモニウム基を表し、Zは、ハロゲンアニオン、ボレートアニオン、N,N-ジメチルカルバメートアニオン、N,N-ジメチルジチオカルバメートアニオン、シアネートアニオン、チオシアネートアニオン、安息香酸アニオン又はベンゾイルぎ酸アニオンを表し、R及びRは夫々独立して、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光(活性エネルギー線)の照射により塩基を発生する性質を有する化合物、これらを含んでなる光塩基発生剤及び塩基発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光(活性エネルギー線)感受性の重合開始剤(以下、単に光重合開始剤と略記する場合がある。)による硬化(以下、単に光硬化と略記する場合がある。)は、熱感受性の重合開始剤(以下、単に熱重合開始剤と略記する場合がある。)による硬化(以下、単に熱硬化と略記する場合がある。)と比べて、低温かつ短時間での硬化が可能である、微細なパターンの形成が可能である等の多くの利点を有することから、塗料、印刷インキ、歯科材料、レジストなどの表面加工の分野で広く用いられている。
【0003】
光硬化技術において使用される光重合開始剤は、発生する活性種により光ラジカル発生剤、光酸発生剤、光塩基発生剤の3つのグループに大別することができる。光ラジカル発生剤は、アセトフェノン等を代表とする、光(活性エネルギー線)の照射によりラジカル種を発生する光重合開始剤で従来から広く用いられているものではあるが、ラジカル種は空気中の酸素によって失活してしまうという性質を有するため、酸素存在下では重合反応が阻害され硬化が抑制されるという欠点がある。そのため、特に光ラジカル発生剤を用いて薄膜を硬化しようとする場合には、空気中の酸素を遮断するなどの特別な工夫が必要とされている。また、光酸発生剤は、光(活性エネルギー線)の照射により酸を発生する光重合開始剤であるため、酸素による阻害を受けないという利点があることから、90年代後半から多種の光酸発生剤が実用に供されているが、光(活性エネルギー線)の照射によって発生する酸が硬化後においても系内に残存する場合には、硬化膜の変性による性能低下の問題や半導体分野等では酸による基板への腐食性の問題が指摘されている。他方で、光塩基発生剤は、光(活性エネルギー線)の照射によって塩基を発生するものであるため、空気中の酸素の阻害を受けず、また、腐食性の問題や硬化膜の変性を生じにくいことから、近年その研究開発が盛んに行われている光重合開始剤である。
【0004】
このような光塩基発生剤としては、例えばカルバメート系(ウレタン系)の光塩基発生剤(例えば特許文献1等)、α-アミノケトン系の光塩基発生剤(例えば特許文献2等)、4級アンモニウム系の光塩基発生剤(例えば特許文献3、4等)、O-アシルオキシム系の光塩基発生剤(例えば特許文献5等)などの様々な光塩基発生剤が知られている。
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献5等の光塩基発生剤は、光(活性エネルギー線)の照射によって生じる塩基が1級または2級アミンであるため塩基性が低く、塩基発生剤としての効果を十分に示さない場合があるという問題点を有していた。また、特許文献3、特許文献4等の4級アンモニウム塩系の光塩基発生剤も知られてはいるが、これらの塩基発生剤は、エポキシ樹脂を硬化させるための触媒活性が十分ではないという問題点を有していた。
【0006】
このような状況下、エポキシ樹脂を十分に硬化させるための触媒活性を示す塩基を発生し得る光塩基発生剤、すなわち、従来の光塩基発生剤よりも、より触媒活性の高い塩基を発生する光塩基発生剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−77264号公報
【特許文献2】特開平11−71450号公報
【特許文献3】特開2003−212856号公報
【特許文献4】特開2005−264156号公報
【特許文献5】特開2006−36895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来の光塩基発生剤よりも、より触媒活性の高い塩基を発生する新規な化合物、これらの化合物を含んでなる光塩基発生剤及び塩基発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式[1]

[式中、Arは、一般式[I]

(式中、m個のRは夫々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は炭素数2〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキルカルボニル基を表し、mは、0〜5の整数を表す。)で示されるクマリニル基、及び一般式[II]

(式中、n個のRは夫々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は炭素数2〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキルカルボニル基を表し、nは、0〜7の整数を表す。)で示されるアセナフテニル基からなる群より選ばれる何れかの基を表し、Yは、一般式[III]

(式中、R〜Rは夫々独立して、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表す。)で示される基、一般式[IV]

{式中、Aは、窒素原子又はメチン基(CH基)を表し、Rは、水素原子又はヒドロキシル基を表す。}で示される基、式[V]

で示される基、式[Vl]

で示される基及び一般式[VIl]

(式中、R及びR10は夫々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表す。)で示される基からなる群より選ばれる何れかの基を表し、Zは、ハロゲンアニオン、ボレートアニオン、N,N-ジメチルカルバメートアニオン、N,N-ジメチルジチオカルバメートアニオン、シアネートアニオン、チオシアネートアニオン、安息香酸アニオン又はベンゾイルぎ酸アニオンを表し、R及びRは夫々独立して、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。]で示される化合物の発明である。
【0010】
また、本発明は、上記一般式[1]で示される化合物を含んでなる光塩基発生剤の発明である。
【0011】
更に、本発明は、上記一般式[1]で示される化合物に光照射することを特徴とする塩基発生方法の発明である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物は、従来の光塩基発生剤が発生する塩基と比べて、より触媒活性の高い塩基を発生する一般式[1]で示される化合物であり、当該化合物は、塩基による硬化(架橋)が起こりにくいエポキシ樹脂であっても、当該樹脂を十分に硬化し得る塩基を発生する性質を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例6における、実施例1の化合物を用いた塗膜に光(活性エネルギー線)を照射した場合の照射時間と残膜率との関係を表す図である。
【図2】実施例6における、実施例2の化合物を用いた塗膜に光(活性エネルギー線)を照射した場合の照射時間と残膜率との関係を表す図である。
【図3】実施例6における、実施例2の化合物を用いた塗膜に光(活性エネルギー線)を照射した場合の照射時間と残膜率との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般式[1]におけるR及びRで示される炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、ネオオクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n-デシル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、ボルニル基(ボルナン-χ-イル基)、アダマンチル基、メンチル基(メンタ-χ-イル基)等が挙げられ、なかでも、炭素数1〜3の直鎖状のアルキル基であるメチル基、エチル基、n-プロピル基が好ましく、そのなかでも、炭素数1のアルキル基であるメチル基がより好ましい。
【0015】
一般式[1]におけるR及びRで示される「置換基を有していてもよいフェニル基」中の「置換基」としては、具体的には、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基等が挙げられる。
【0016】
一般式[1]におけるR及びRとしては、水素原子がより好ましい。
【0017】
一般式[1]におけるArとしては、上記一般式[I]で示されるクマリニル基がより好ましい。
【0018】
本発明の一般式[1]で示される化合物において、Arで示される基である、上記一般式[I]で示されるクマリニル基及び上記一般式[II]で示されるアセナフテニル基は、吸収した光(活性エネルギー線)を効率的に塩基を発生するためのエネルギーに変換できるため、これらから選ばれる何れかの基、すなわち、特定の吸光団を選択することにより、本発明の化合物が、従来の光塩基発生剤が発生する塩基と比べてより触媒活性の高い塩基を発生することが可能な光塩基発生剤となり得、特に吸光団が上記一般式[I]で示されるクマリニル基である場合には、塩基による硬化(架橋)が起こりにくいエポキシ樹脂であっても、当該樹脂を十分に硬化し得る塩基を発生することが可能な光塩基発生剤となり得るのである。
【0019】
上記一般式[I]及び[II]におけるR及びRで示されるハロゲン原子としては、具体的には、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、なかでも、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0020】
上記一般式[I]及び[II]におけるR及びRで示される炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、ネオオクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n-デシル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、ボルニル基(ボルナン-χ-イル基)、アダマンチル基、メンチル基(メンタ-χ-イル基)等が挙げられ、なかでも、炭素数1のアルキル基であるメチル基が好ましい。
【0021】
上記一般式[I]及び[II]におけるR及びRで示される炭素数2〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキルカルボニル基としては、具体的には、例えばメチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、n-ブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、sec-ブチルカルボニル基、tert-ブチルカルボニル基、シクロブチルカルボニル基、n-ペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、sec-ペンチルカルボニル基、tert-ペンチルカルボニル基、ネオペンチルカルボニル基、2-メチルブチルカルボニル基、1,2-ジメチルプロピルカルボニル基、1-エチルプロピルカルボニル基、シクロペンチルカルボニル基、n-ヘキシルカルボニル基、イソヘキシルカルボニル基、sec-ヘキシルカルボニル基、tert-ヘキシルカルボニル基、ネオヘキシルカルボニル基、2-メチルペンチルカルボニル基、1,2-ジメチルブチルカルボニル基、2,3-ジメチルブチルカルボニル基、1-エチルブチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n-ヘプチルカルボニル基、イソヘプチルカルボニル基、sec-ヘプチルカルボニル基、tert-ヘプチルカルボニル基、ネオヘプチルカルボニル基、シクロヘプチルカルボニル基、n-オクチルカルボニル基、イソオクチルカルボニル基、sec-オクチルカルボニル基、tert-オクチルカルボニル基、ネオオクチルカルボニル基、2-エチルヘキシルカルボニル基、シクロオクチルカルボニル基、n-ノニルカルボニル基、イソノニルカルボニル基、sec-ノニルカルボニル基、tert-ノニルカルボニル基、ネオノニルカルボニル基、シクロノニルカルボニル基、ノルボルニルカルボニル基等が挙げられ、なかでも、炭素数2のアルキルカルボニル基であるメチルカルボニル基(アセチル基)が好ましい。
【0022】
上記一般式[I]におけるmとしては、0〜2の整数がより好ましく、なかでも、0が特に好ましい。
【0023】
上記一般式[II]におけるnとしては、0〜5の整数がより好ましく、なかでも、0〜3の整数が更に好ましく、そのなかでも、0が特に好ましい。
【0024】
一般式[1]で示される化合物において、4級アンモニウム基を含む置換基(-COCR)は、上記一般式[I]で示されるクマリニル基においては、クマリン環の3〜4位の炭素原子の何れかに結合し、上記一般式[II]で示されるアセナフテニル基においては、アセナフテン環の3〜5位の炭素原子の何れかに結合するが、なかでも、上記一般式[I]で示されるクマリニル基においては、クマリン環の3位に結合しているもの、上記一般式[II]で示されるアセナフテニル基においては、アセナフテン環の5位に結合しているものが好ましい。
【0025】
上記一般式[III]におけるR、R及びRで示される炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、ネオオクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n-デシル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、ボルニル基(ボルナン-χ-イル基)、アダマンチル基、メンチル基(メンタ-χ-イル基)等が挙げられ、なかでも、炭素数1〜6の直鎖状のアルキル基であるメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基が好ましい。
【0026】
上記一般式[VII]におけるR及びR10で示される炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、ネオオクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n-デシル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、ボルニル基(ボルナン-χ-イル基)、アダマンチル基、メンチル基(メンタ-χ-イル基)等が挙げられ、なかでも、炭素数1のアルキル基であるメチル基が好ましい。
【0027】
一般式[1]におけるYとしては、上記一般式[III]で示される基、上記一般式[IV]で示される基、上記式[V]で示される基、上記式[VI]で示される基がより好ましく、なかでも、上記一般式[IV]で示される基が特に好ましい。
【0028】
本発明の一般式[1]で示される化合物において、Yで示される基(4級アンモニウム基)である、上記一般式[III]で示される基、上記一般式[IV]で示される基、上記式[V]で示される基、上記式[VI]で示される基、上記一般式[VII]で示される基の何れかから発生する塩基(3級アミン又はアミジン)は、従来のものよりも触媒活性の高い塩基であることから、これらの4級アンモニウム基の何れかを有する化合物は、従来の光塩基発生剤よりも、より触媒活性の高い塩基を発生する光塩基発生剤となり得るのである。更に、上記一般式[III]で示される基、上記一般式[IV]で示される基、上記式[V]で示される基、上記式[VI]で示される基の何れかを有する化合物は、従来の光塩基発生剤よりも、更に触媒活性の高い塩基を発生する光塩基発生剤となり得、特に、上記一般式[IV]で示される基を有する化合物は、上記一般式[IV]で示される基が脂肪族アンモニウム基であるため、上記した如きArで示される吸光団の光(活性エネルギー線)吸収を阻害せず、また、当該アンモニウム基の嵩高さがそれほど大きくないために、当該アンモニウム基から発生する3級アミン又はアミジンが適度な求核性を有するばかりでなく、当該3級アミン又はアミジンの沸点が比較的高いことから、エポキシ樹脂等による成膜の際の加熱工程時に当該3級アミン又はアミジンの蒸散が少なくなってより効果的にパターニングできたり、他の4級アンモニウム基を有する化合物と比較して、塩基による硬化(架橋)が起こりにくいエポキシ樹脂であっても、当該樹脂を十分に硬化し得る塩基を発生する光塩基発生剤となり得ることから、有用な化合物である。
【0029】
一般式[1]におけるZで示されるハロゲンアニオンとしては、具体的には、例えばフッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられ、なかでも、塩化物イオン、臭化物イオンが好ましい。
【0030】
一般式[1]におけるZで示されるボレートアニオンとしては、具体的には、例えば一般式[VIII]

(式中、R11〜R14は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。)で示されるボレートアニオンが挙げられる。
【0031】
上記一般式[VIII]におけるR11〜R14で示されるハロゲン原子としては、具体的には、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、なかでも、フッ素原子が好ましい。
【0032】
上記一般式[VIII]におけるR11〜R14で示される炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、ネオオクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n-デシル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、ボルニル基(ボルナン-χ-イル基)、アダマンチル基、メンチル基(メンタ-χ-イル基)等が挙げられ、なかでも、炭素数4の直鎖状のアルキル基であるn-ブチル基が好ましい。
【0033】
上記一般式[VIII]におけるR11〜R14で示される置換基を有していてもよいアリール基におけるアリール基の具体例としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられ、なかでも、フェニル基が好ましい。
【0034】
上記一般式[VIII]におけるR11〜R14で示される置換基を有していてもよいアリール基における置換基の具体例としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、例えばヒドロキシル基、メルカプト基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0035】
上記一般式[VIII]におけるR11〜R14としては、置換基を有していてもよいアリール基がより好ましい。
【0036】
このようなボレートアニオンの具体例としては、例えばテトラフェニルボレートアニオン、トリフェニル-n-ブチルボレートアニオン、テトラキス(4-フルオロフェニル)ボレートアニオン、テトラキス(3-クロロフェニル)ボレートアニオン、テトラキス(4-クロロフェニル)ボレートアニオン、テトラキス(4-メチルフェニル)ボレートアニオン、テトラキス(4-tert-ブチルフェニル)ボレートアニオン、テトラキス(4-メトキシフェニル)ボレートアニオン、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレートアニオン等のボレートアニオンが挙げられ、なかでも、テトラフェニルボレートアニオン、トリフェニル-n-ブチルボレートアニオンが好ましく、そのなかでも、テトラフェニルボレートアニオンがより好ましい。
【0037】
一般式[1]におけるZとしては、ボレートアニオンがより好ましく、そのなかでも、テトラフェニルボレートアニオンが特に好ましい。すなわち、このようなボレートアニオンは、触媒活性の高い塩基を発生する光塩基発生剤となり得るという点において好ましいのである。
【0038】
本発明の上記一般式[1]で示される化合物のうち、より具体的な化合物としては、一般式[1]におけるArが上記一般式[I]で示されるクマリニル基であり、Yが上記一般式[IV]で示される基であって、かつZが上記一般式[VIII]で示されるボレートアニオンである、一般式[2]

(式中、R、R、m個のR、R、R11、R12、R13、R14、A及びmは上記に同じ。)で示されるもの、一般式[1]におけるArが上記一般式[II]で示されるアセナフテニル基であり、Yが上記一般式[IV]で示される基であって、かつZが上記一般式[VIII]で示されるボレートアニオンである、一般式[3]

(式中、R、R、n個のR、R、R11、R12、R13、R14、A及びnは上記に同じ。)で示されるものが挙げられる。これらの化合物は、本発明の他の化合物と比較して、従来の光塩基発生剤が発生する塩基と比べてより触媒活性の高い塩基を発生する光塩基発生剤となり得るという点において、好ましい化合物である。
【0039】
また、上記一般式[2]で示される化合物のより好ましい具体例としては、一般式[2]におけるR及びRが共に水素原子であり、Rが水素原子又はヒドロキシル基であり、R11〜R14がすべてフェニル基であり、Aが窒素原子又はメチン基(CH基)であり、mが0であって、かつ4級アンモニウム基を含む置換基(-COCR)がクマリン環の3位に結合しているものが挙げられ、より具体的には、式[4]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示される化合物、及び式[5]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示される化合物が、より好ましいものとして挙げられる。
【0040】
上記式[4]及び[5]で示される化合物は、本発明の他の化合物と比較して、安価かつ容易に製造できるばかりでなく、塩基による硬化(架橋)が起こりにくいエポキシ樹脂であっても、当該樹脂を十分に硬化し得る塩基を発生する光塩基発生剤となり得るという点において、より好ましい化合物である。
【0041】
なお、念のため付記すれば、上記式[4]〜[5]で示される化合物は、一般式[1]におけるR及びRが共に水素原子であり、Arが上記一般式[I]で示されるクマリニル基であり、当該クマリニル基におけるmが0であり、Yが上記一般式[IV]で示される基であって、Aが窒素原子でRが水素原子の組み合わせであるか、又はAがメチン基(CH基)でRがヒドロキシル基の組み合わせであり、Zがテトラフェニルボレートアニオンであって、かつ4級アンモニウム基を含む置換基(-COCR)がクマリン環の3位に結合しているものに相当する。
【0042】
更にまた、上記一般式[3]で示される化合物のより好ましい具体例としては、一般式[2]におけるR及びRが共に水素原子であり、Rがヒドロキシル基であり、R11〜R14がすべてフェニル基であり、Aがメチン基(CH基)であり、nが0であって、かつ4級アンモニウム基を含む置換基(-COCR)がアセナフテン環の5位に結合しているものが挙げられ、より具体的には、式[6]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示される化合物が、より好ましいものとして挙げられる。
【0043】
なお、念のため付記すれば、上記式[6]で示される化合物は、一般式[1]におけるR及びRが共に水素原子であり、Arが上記一般式[I]で示されるアセナフテニル基であり、当該アセナフテニル基におけるnが0であり、Yが上記一般式[IV]で示される基であって、Aがメチン基(CH基)でRがヒドロキシル基の組み合わせであり、Zがテトラフェニルボレートアニオンであって、かつ4級アンモニウム基を含む置換基(-COCR)がアセナフテン環の5位に結合しているものに相当する。
【0044】
本発明の化合物は、例えば200nm〜500nmの光(活性エネルギー線)等の波長200nm以上の光(活性エネルギー線)照射によって塩基を発生するもので、より具体的には、例えば波長365nmの光(活性エネルギー線)等の波長300nm以上の光(活性エネルギー線)を照射した場合でも、塩基を発生するのである。また、上記光(活性エネルギー線)のより好ましい範囲は、波長300nm〜500nmの光(活性エネルギー線)であり、これらの好ましい範囲において、本発明の化合物は良好な感度を示し、より具体的には、上記波長300nm〜500nmの領域において、モル吸光係数が3000以上となる吸収波長領域が存在するので、効率的に塩基を発生し得るのである。
【0045】
次に、本発明の化合物を製造する方法について説明する。本発明の一般式[1]で示される化合物の製造方法としては、例えば一般式[7]

(式中、Ar、R及びRは上記に同じ。)で示される化合物にハロゲン原子を導入して、一般式[8]

(式中、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、Ar、R及びRは上記に同じ。)で示される化合物を合成する。次いで、上記一般式[8]で示される化合物に対して、一般式[1]におけるYで示される4級アンモニウム基に対応する3級アミン又はアミジンを反応させて、一般式[9]

(式中、Xは、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを表し、Ar、Y、R及びRは上記に同じ。)で示される化合物とし、更に、一般式[1]におけるZで示される基に対応する、アニオンに変換して目的とする一般式[1]で示される化合物を合成すればよい。より具体的な製造方法としては、例えば上記一般式[7]で示される化合物に対して、通常0.8〜10当量、好ましくは1〜3当量の塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン化剤を反応させて、上記一般式[8]で示される化合物を得る(第一工程)。次いで、第一工程で得られた一般式[8]で示される化合物に対して、通常0.8〜10当量、好ましくは1〜3当量の3級アミン又はアミジンを反応させることにより、上記一般式[9]で示される化合物を得る(第二工程)。更に、第二工程で得られた一般式[9]で示される化合物に対して、通常0.8〜10当量、好ましくは1〜3当量のZに対応するアニオン成分を反応させることにより(第三工程)、本発明の一般式[1]で示される化合物を得ることができる。なお、一般式[1]で示される化合物におけるZが塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子の何れかである場合には、上記一般式[9]で示される化合物が一般式[1]で示される化合物に相当するので、上記第三工程は不要である。
【0046】
上記第一工程で使用される上記一般式[7]で示される化合物としては、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよく、具体的には、例えば3-アセチルクマリン、4-クロロ-3-アセチルクマリン、4-ブロモ-3-アセチルクマリン、4-メチル-3-アセチルクマリン、6-メチル-3-アセチルクマリン、4-アセチルクマリン、3-アセチルアセナフテン、4-アセチルアセナフテン、5-アセチルアセナフテン、5-アセチル-6-クロロアセナフテン、5-アセチル-6-ブロモアセナフテン等が挙げられ、目的とする一般式[1]で示される化合物の構造により、上記した如き化合物の何れかを適宜選択して用いればよいが、なかでも、目的とする一般式[1]で示される化合物が安価かつ容易に製造できるという点において、3-アセチルクマリン、5-アセチルアセナフテンが好ましい。なお、一般式[7]で示される化合物を合成する場合には、フリーデルクラフツ反応によるアルキル化、アシル化、芳香環へのハロゲン化、カルボニル基のα位炭素による求核置換反応等の通常この分野で行われる化学反応を行って合成すればよい。
【0047】
上記第一工程においては、有機溶媒中で反応を行うことが望ましい。その場合に使用される有機溶媒としては、反応原料である一般式[7]で示される化合物と反応しない有機溶媒であれば特に制限はなく、具体的には、例えばペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶媒、例えば酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、夫々単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、当該有機溶媒の使用量としては特に限定されないが、例えば一般式[7]で示される化合物1mmolに対して、通常0.1mL〜20mL、好ましくは0.2mL〜10mLである。
【0048】
上記第一工程における反応温度は、一般式[7]で示される化合物と塩素、臭素又はヨウ素等のハロゲン化剤とが反応するような温度に設定すればよいが、当該一般式[7]で示される化合物と当該ハロゲン化剤とが効率的に反応し、一般式[8]で示される化合物を収率よく合成できる温度に設定することが好ましい。具体的には、例えば通常−40℃〜100℃、好ましくは−20℃〜60℃である。
【0049】
上記第一工程における反応時間は、一般式[7]で示される化合物に対するハロゲン化剤の使用量、有機溶媒の種類及び使用量、反応温度等により変動する場合があるので一概には言えないが、通常0.1〜24時間、好ましくは0.2〜12時間の範囲に設定される。
【0050】
上記第一工程において、反応終了後の溶液から、第一工程の生成物である一般式[8]で示される化合物を単離、精製する方法としては、一般的な後処理、精製操作でよい。具体的には、例えば反応終了後の反応液をろ過して、結晶をろ取した後、適当な有機溶媒で洗浄する方法、例えば反応終了後の反応液に水を加え、次いで抽出、洗浄処理を行った後、洗浄後の有機層を濃縮し、そこで生じた結晶を乾燥する方法等を採用することにより、効率よく精製できる。なお、上記のような精製操作でなくとも、通常のカラムクロマトグラフィーによる精製操作を行ってもよい。
【0051】
上記第二工程で使用される3級アミン又はアミジンは、一般式[1]におけるYで示される4級アンモニウム基に対応する3級アミン又はアミジンであり、より具体的には、例えば一般式[III']

(式中、R〜Rは上記に同じ。)で示される3級アミン、一般式[IV']

(式中、A及びRは上記に同じ。)で示される3級アミン、式[V']

で示されるアミジン、式[VI']

で示されるアミジン及び一般式[VII']

(式中、R及びR10は上記に同じ。)で示されるアミジンが挙げられ、目的とする一般式[1]で示される化合物の構造により、上記3級アミン又はアミジンの何れかを適宜選択して用いればよいが、なかでも、上記一般式[III']〜[VI']で示される3級アミン又はアミジンが好ましく、そのなかでも、上記一般式[IV']で示される3級アミンがより好ましい。なお、これらの3級アミン又はアミジンは、市販のものを用いれば足りる。
【0052】
上記第二工程においては、有機溶媒中で反応を行うことが望ましい。その場合に使用される有機溶媒としては、反応原料である一般式[8]で示される化合物や3級アミン又はアミジンと反応しない有機溶媒であれば特に制限はなく、具体的には、例えばペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶媒、例えばジメチルケトン(アセトン)、エチルメチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、夫々単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、当該有機溶媒の使用量としては特に限定されないが、例えば一般式[8]で示される化合物1mmolに対して、通常1mL〜100mL、好ましくは2mL〜50mLである。
【0053】
上記第二工程における反応温度は、一般式[8]で示される化合物と3級アミン又はアミジンとが反応するような温度に設定すればよいが、当該一般式[8]で示される化合物と当該3級アミン又はアミジンとが効率的に反応し、一般式[9]で示される化合物を収率よく合成できる温度に設定することが好ましい。具体的には、例えば通常−20℃〜120℃、好ましくは0℃〜100℃である。
【0054】
上記第二工程における反応時間は、一般式[8]で示される化合物に対する3級アミン又はアミジンの使用量、有機溶媒の種類及び使用量、反応温度等により変動する場合があるので一概には言えないが、通常0.1〜24時間、好ましくは0.2〜12時間の範囲に設定される。
【0055】
上記第二工程において、反応終了後の溶液から、第二工程の生成物である一般式[9]で示される化合物を単離、精製する方法としては、一般的な後処理、精製操作でよい。具体的には、例えば反応終了後の反応液をろ過して、結晶をろ取した後、適当な有機溶媒で洗浄すれば、効率よく精製できる。なお、上記のような精製操作でなくとも、通常のカラムクロマトグラフィーによる精製操作を行ってもよい。
【0056】
上記第三工程で使用されるアニオン成分は、一般式[1]におけるZで示される基に対応するアニオン成分であり、より具体的には、例えば一般式[VIII']

(式中、Mはアルカリ金属原子又はアンモニウム基(NH)を表し、R11〜R14は上記に同じ。)で示されるホウ酸塩、例えばN,N-ジメチルカルバミン酸ナトリウム、N,N-ジメチルカルバミン酸カリウム、N,N-ジメチルカルバミン酸リチウム等のN,N-ジメチルカルバミン酸塩、例えばN,N-ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸リチウム等のN,N-ジメチルジチオカルバミン酸塩、例えばシアン酸ナトリウム、シアン酸カリウム、シアン酸リチウム等のシアン酸塩、例えばチオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム等のチオシアン酸塩、例えば安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム等の安息香酸塩、例えばベンゾイルぎ酸ナトリウム、ベンゾイルぎ酸カリウム、ベンゾイルぎ酸リチウム等のベンゾイルぎ酸塩等が挙げられるが、これらの例に何ら限定されるものではない。
【0057】
上記一般式[VIII']におけるMで示されるアルカリ金属原子としては、具体的には、例えばリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子、セシウム原子等が挙げられ、なかでも、ナトリウム原子、カリウム原子が好ましく、そのなかでも、ナトリウム原子がより好ましい。
【0058】
上記一般式[VIII']におけるMとしては、アルカリ金属原子がより好ましい。
【0059】
上記一般式[VIII']で示されるホウ酸塩の具体例としては、例えばテトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸カリウム、テトラフェニルホウ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸アンモニウム、トリフェニル-n-ブチルホウ酸リチウム、テトラキス(4-フルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラキス(3-クロロフェニル)ホウ酸アンモニウム、テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム、テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸アンモニウム、テトラキス(4-メチルフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラキス(4-tert-ブチルフェニル)ホウ酸カリウム、テトラキス(4-メトキシフェニル)ホウ酸アンモニウム、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩が挙げられ、なかでも、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸カリウム、トリフェニル-n-ブチルホウ酸リチウムが好ましく、そのなかでも、テトラフェニルホウ酸ナトリウムがより好ましい。
【0060】
このようなアニオン成分の具体例のなかでも、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸カリウム、N,N-ジメチルカルバミン酸ナトリウム、N,N-ジメチルカルバミン酸カリウム、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、シアン酸ナトリウム、シアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、ベンゾイルぎ酸ナトリウム、ベンゾイルぎ酸カリウムが好ましく、目的とする一般式[1]で示される化合物の構造により、上記アニオン成分の何れかを適宜選択して用いればよいが、そのなかでも、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸カリウムがより好ましく、更にそのなかでも、テトラフェニルホウ酸ナトリウムが特に好ましい。なお、上述してきたアニオン成分は、市販のものを用いれば足りる。
【0061】
上記第三工程においては、有機溶媒中で反応を行うことが望ましい。その場合に使用される有機溶媒としては、反応原料である一般式[9]で示される化合物やアニオン成分と反応しない有機溶媒であれば特に制限はなく、具体的には、例えばペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶媒、例えばジメチルケトン(アセトン)、エチルメチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、例えばジメチルスルホキシド等(DMSO)のスルホキシド系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、夫々単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、当該有機溶媒の使用量としては特に限定されないが、例えば一般式[9]で示される化合物1mmolに対して、通常1mL〜100mL、好ましくは2mL〜50mLである。
【0062】
上記第三工程における反応温度は、一般式[9]で示される化合物とアニオン成分とが反応するような温度に設定すればよいが、当該一般式[9]で示される化合物と当該アニオン成分とが効率的に反応し、目的とする一般式[1]で示される化合物を収率よく合成できる温度に設定することが好ましい。具体的には、例えば通常−20℃〜120℃、好ましくは0℃〜100℃である。
【0063】
上記第三工程における反応時間は、一般式[9]で示される化合物に対するアニオン成分の使用量、有機溶媒の種類及び使用量、反応温度等により変動する場合があるので一概には言えないが、通常0.1〜24時間、好ましくは0.2〜12時間の範囲に設定される。
【0064】
上記第三工程において、反応終了後の溶液から、目的とする一般式[1]で示される化合物を単離、精製する方法としては、一般的な後処理、精製操作でよい。具体的には、例えば反応終了後の反応液を濃縮し、そこで生じた結晶をろ取した後、適当な有機溶媒で洗浄すれば、効率よく精製できる。なお、上記のような精製操作でなくとも、通常のカラムクロマトグラフィーによる精製操作を行ってもよい。なお、上でも少し述べたが、一般式[1]で示される化合物におけるZが塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子の何れかである場合には、上記一般式[9]で示される化合物が一般式[1]で示される化合物に相当するので、当該第三工程は不要である。
【0065】
このようにして得られる本発明の一般式[1]で示される化合物は、上でも少し述べたように、例えば半導体素子の製造工程におけるレジスト材料、半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜、電子部品の絶縁材料等として有用な光硬化性樹脂硬化用の光塩基発生剤として有用である。特に、本発明の化合物は、光塩基発生剤に対する感度不足が指摘されているエポキシ樹脂等の従来の光硬化性樹脂硬化用の光塩基発生剤、すなわち、樹脂硬化用の塩基供給源として使用することができるという点で非常に有用なものである。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0067】
合成例1 3-(2-ブロモアセチル)-2H-1-ベンゾピランの合成(第一工程)
3-アセチルクマリン10.0g(53.1mmol;和光純薬工業(株)製)をジクロロメタン50mLに溶解させた溶液に、氷冷下で臭素9.3g(58.2mmol)を滴下し、同温度で1時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応で生じた結晶をろ取し、得られた結晶を乾燥することにより、淡黄色結晶の3-(2-ブロモアセチル)-2H-1-ベンゾピラン14.1g(収率:99.4%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):4.90(2H,s,CHBr),7.43-7.53(2H,m,ArH),7.80(1H,t,ArH),8.00(1H,d,ArH),8.84(1H,s,ArH)
【0068】
合成例2 1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-4-アザビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミドの合成(第二工程)
合成例1で得られた3-(2-ブロモアセチル)-2H-1-ベンゾピラン14.1g(52.8mmol)のうちの6.0g(22.5mmol)をアセトン600mLに溶解させた溶液に、アセトン50mLに溶解させた1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)3.0g(26.7mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応で生じた結晶をろ取し、得られた結晶を乾燥することにより、白色結晶の1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-4-アザビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミド8.50g(収率:99.6%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):3.05-3.13(6H,m,DABCO),3.57-3.61(6H,m,DABCO),5.00(2H,s,CH),7.47-7.55(2H,m,ArH),7.82(1H,t,ArH),8.07(1H,d,ArH),8.92(1H,s,ArH)
【0069】
実施例1 1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-4-アザビシクロ[2.2.2]オクタン テトラフェニルホウ酸塩の合成(第三工程)
合成例2で得られた1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-4-アザビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミド8.50g(22.4mmol)のうちの7.0g(18.5mmol)をメタノール600mLに溶解させた溶液に、40℃下でメタノール60mLに溶解させたテトラフェニルホウ酸ナトリウム6.9g(20.2mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、そこで生じた結晶をろ取した後、得られた結晶を乾燥することにより、黄色結晶の、式[4]で示される1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-4-アザビシクロ[2.2.2]オクタン テトラフェニルホウ酸塩9.49g(収率:82.7%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):3.09-3.13(6H,m,DABCO),3.57-3.60(6H,m,DABCO),5.00(2H,s,CH),6.79(4H,t,BPh),6.92(8H,t,BPh),7.16-7.20(8H,m,BPh),7.47-7.56(2H,m,ArH),7.82(1H,dt,ArH),8.06(1H,dd,ArH),8.92(1H,s,ArH)
【0070】
合成例3 3-ヒドロキシ-1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミドの合成(第二工程)
合成例1で得られた3-(2-ブロモアセチル)-2H-1-ベンゾピラン14.1g(52.8mmol)のうちの6.0g(22.5mmol)をアセトン600mLに溶解させた溶液に、アセトン300mLに溶解させた3-キヌクリジノール3.42g(26.9mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応で生じた結晶をろ取し、得られた結晶を乾燥することにより、白色結晶の3-ヒドロキシ-1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミド8.02g(収率:90.2%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):1.75-2.24(5H,m,quinuclidine),3.44-3.78(5H,m,quinuclidine),3.87-3.92(1H,m,quinuclidine),4.12-4.14(1H,m,quinuclidine),4.98(2H,s,CH),5.61(1H,s,OH),7.47-7.56(2H,m,ArH),7.84(1H,t,ArH),8.07(1H,d,ArH),8.92(1H,s,ArH)
【0071】
実施例2 3-ヒドロキシ-1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン テトラフェニルホウ酸塩の合成(第三工程)
合成例3で得られた3-ヒドロキシ-1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミド8.02g(20.3mmol)のうちの7.0g(17.8mmol)をメタノール600mLに溶解させた溶液に、40℃下でメタノール60mLに溶解させたテトラフェニルホウ酸ナトリウム6.7g(19.6mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、そこで生じた結晶をろ取した後、得られた結晶を乾燥することにより、黄色結晶の、式[5]で示される3-ヒドロキシ-1-[2-(2-オキソ-2H-1-ベンゾピラン-3-イル)-2-オキソエチル]-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン テトラフェニルホウ酸塩7.5g(収率:66.3%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):1.75-2.25(5H,m,quinuclidine),3.42-3.78(5H,m,quinuclidine),3.86-3.92(1H,m,quinuclidine),4.10-4.17(1H,m,quinuclidine),4.96(2H,s,CH),5.61(1H,d,OH),6.79(4H,t,BPh),6.92(8H,t,BPh),7.16-7.20(8H,m,BPh),7.46-7.55(2H,m,ArH),7.83(1H,dt,ArH),8.06(1H,dd,ArH),8.91(1H,s,ArH)
【0072】
合成例4 1-アセナフテン-5-イル-2-ブロモ-エタノンの合成(第一工程)
5-アセチル-1,2-ジヒドロアセナフテン14.0g(71.3mmol;和光純薬工業(株)製)を酢酸エチル300mLに溶解させた溶液に、氷冷下で臭素12.0g(75.1mmol)を滴下し、同温度で1時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応液に水200mLを加えて抽出し、更に抽出後の有機層を水で洗浄後、当該有機層を濃縮することで生じた結晶を乾燥することにより、黄色結晶の1-アセナフテン-5-イル-2-ブロモ-エタノン19.6g(収率:99.9%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):3.36(4H,s,CH),4.96(2H,s,CHBr),7.41(2H,dd,ArH),7.62(1H,dd,ArH),8.29(1H,d,ArH),8.48(1H,d,ArH)
【0073】
合成例5 1-(2-アセナフテン-5-イル-2-オキソ-エチル)-3-ヒドロキシ-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミドの合成(第二工程)
合成例4で得られた1-アセナフテン-5-イル-2-ブロモ-エタノン19.6g(71.2mmol)のうちの13.0g(47.2mmol)をアセトン100mLに溶解させた溶液に、アセトン800mLに溶解させた3-キヌクリジノール7.20g(56.6mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応で生じた結晶をろ取し、得られた結晶を乾燥することにより、黄色結晶の1-(2-アセナフテン-5-イル-2-オキソ-エチル)-3-ヒドロキシ-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミド15.7g(収率:82.6%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):1.80-2.23(5H,m,quinuclidine),3.40(4H,s,CH),3.52-3.82(5H,m,quinuclidine),3.95-4.00(1H,m,quinuclidine),4.15-4.22(1H,m,quinuclidine),5.22(2H,s,CH),5.64(1H,d,OH),7.49-7.51(2H,dd,ArH),7.69(1H,dd,ArH),8.27(1H,d,ArH),8.55(1H,d,ArH)
【0074】
実施例3 1-(2-アセナフテン-5-イル-2-オキソ-エチル)-3-ヒドロキシ-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン テトラフェニルホウ酸塩の合成(第三工程)
合成例5で得られた1-(2-アセナフテン-5-イル-2-オキソ-エチル)-3-ヒドロキシ-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン ブロミド15.7g(39.0mmol)のうちの7.0g(17.4mmol)をメタノール400mLに溶解させた溶液に、40℃下でメタノール50mLに溶解させたテトラフェニルホウ酸ナトリウム6.55g(19.1mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応で生じた結晶をろ取し、得られた結晶を乾燥することにより、黄色結晶の、式[6]で示される1-(2-アセナフテン-5-イル-2-オキソ-エチル)-3-ヒドロキシ-1-アゾニア-ビシクロ[2.2.2]オクタン テトラフェニルホウ酸塩9.24g(収率:82.8%)を得た。以下にH-NMRの測定結果を示す。
H-NMR(400MHz,DMSO)δ(ppm):1.81-2.24(5H,m,quinuclidine),3.41(4H,s,CH),3.51-3.81(5H,m,quinuclidine),3.92-3.98(1H,m,quinuclidine),4.12-4.20(1H,m,quinuclidine),5.16(2H,s,CH),5.65(1H,br,OH),6.79(4H,t,BPh),6.92(8H,t,BPh),7.17-7.20(8H,m,BPh),7.48(1H,dd,ArH),7.68(1H,dd,ArH),8.24(1H,d,ArH),8.56(1H,d,ArH)
【0075】
実施例4 紫外-可視吸収スペクトルの測定試験
実施例1〜3で得られた化合物のアセトニトリル溶液(約5×10−5mol/L)を各々調製し、石英セルTOS-UV-10(1cm×1cm×4cm)((株)東新理興製)に注入後、分光光度計UV-2550((株)島津製作所製)を用いて、紫外-可視吸収スペクトルを測定した。各々の化合物についての365nm(i線)におけるモル吸光係数(ε)を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例5 光(活性エネルギー線)に対する反応性の測定試験
実施例1〜3で得られた化合物100mgを各々石英試験管に入れ、アセトニトリル1mLに溶解させた。次いで、この溶液を高圧水銀灯(ハンディキュアラブ100W;セン特殊光源製)で10分間光(活性エネルギー線)照射した。光(活性エネルギー線)照射前後の溶液のpHをpHメーターで測定し、pHがアルカリ性に傾いていること、すなわち、光(活性エネルギー線)照射により塩基(3級アミン)が遊離しているか否かを確認した。測定結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
実施例6 ポリ(グリシジルメタクリレート)による硬化試験
ポリ(グリシジルメタクリレート)0.2gと、ポリ(グリシジルメタクリレート)0.2gに対して20重量%の実施例1又は2で得られた化合物とを含むN-メチルピロリドン(NMP)1mLの溶液を、シリコンウェハ上にスピンコートし、100℃で1分間加熱して、厚さが約1.5μmの塗膜を作製した。この塗膜に、特定の露光強度を有する2種の紫外線照射光源装置、すなわち、実施例1の化合物を用いた塗膜については、SP-9(ウシオ電機(株)製)を用いて所定時間紫外線照射し、実施例2の化合物を用いた塗膜については、SP-9(ウシオ電機(株)製)とREX-250(朝日分光(株)製)とを用いて所定時間紫外線照射して、実施例1〜2の化合物から各々塩基を発生させ、120℃で2時間加熱して塗膜を硬化させた。更に、この塗膜をアセトンに30秒間浸漬して現像した後の塗膜の厚さを測定して、現像前と現像後とでの塗膜の膜厚を残膜率として求めた。各光源装置の特定波長における露光強度を表3に、所定時間毎の紫外線照射に対する残膜率の測定結果を図1〜3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
実施例4〜5の結果から、本発明の化合物は、波長200nm以上に感光領域を有し、300nm以上の光(活性エネルギー線)に対しても高い感受性を有することがわかる。このことから、本発明の化合物は、波長300nm以上の光(活性エネルギー線)の照射によっても、塩基を発生することが判った。また、実施例6で得られた図1〜3の結果から明らかなように、本発明の化合物は、光塩基発生剤に対する感度不足が指摘されているエポキシ樹脂等の光硬化性樹脂に対しても良好な硬化特性を有することが判った。すなわち、例えば特許文献3のイミダゾリウム塩では、膜厚が1μmの塗膜で残膜率を求めているが、本願の実施例6では膜厚が1.5μmの塗膜による残膜率を求めており、その結果は、従来の塗膜と比較して膜厚の厚い塗膜であっても従来と同等の残膜率を示している。このことから、本発明の化合物は、従来の光塩基発生剤と比較して、より効果的にエポキシ樹脂を硬化できることが示唆される。このように、本発明の化合物が、従来の光塩基発生剤よりも、より触媒活性の高い塩基を発生できるのは、本発明の化合物が、特定構造の吸光団と特定の4級アンモニウム塩を組み合わせていることに起因していることが示唆される。また、これらの結果から、本発明の化合物は、例えばエポキシ樹脂硬化用の光塩基発生剤として有用なものであることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の化合物は、従来の光塩基発生剤よりも、より触媒活性の高い塩基を発生し得るものであるので、特に光塩基発生剤に対する感度不足が指摘されているエポキシ樹脂等の光硬化性樹脂に対しても、当該樹脂を十分に硬化し得る光塩基発生剤、それを利用した光硬化性樹脂材料として有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]

[式中、Arは、一般式[I]

(式中、m個のRは夫々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は炭素数2〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキルカルボニル基を表し、mは、0〜5の整数を表す。)で示されるクマリニル基、及び一般式[II]

(式中、n個のRは夫々独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は炭素数2〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキルカルボニル基を表し、nは、0〜7の整数を表す。)で示されるアセナフテニル基からなる群より選ばれる何れかの基を表し、Yは、一般式[III]

(式中、R〜Rは夫々独立して、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表す。)で示される基、一般式[IV]

{式中、Aは、窒素原子又はメチン基(CH基)を表し、Rは、水素原子又はヒドロキシル基を表す。}で示される基、式[V]

で示される基、式[Vl]

で示される基及び一般式[VIl]

(式中、R及びR10は夫々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表す。)で示される基からなる群より選ばれる何れかの基を表し、Zは、ハロゲンアニオン、ボレートアニオン、N,N-ジメチルカルバメートアニオン、N,N-ジメチルジチオカルバメートアニオン、シアネートアニオン、チオシアネートアニオン、安息香酸アニオン又はベンゾイルぎ酸アニオンを表し、R及びRは夫々独立して、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。]で示される化合物。
【請求項2】
前記一般式[1]におけるArが、前記一般式[1]で示されるクマリニル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式[1]におけるYが、前記一般式[III]、前記一般式[IV]、前記式[V]及び前記式[VI]で示される基からなる群より選ばれる何れかの基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式[1]におけるYが、前記一般式[IV]で示される基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記一般式[1]におけるZが、ボレートアニオンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記一般式[1]におけるZが、テトラフェニルボレートアニオンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記一般式[1]におけるR及びRが、共に水素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
前記一般式[1]で示される化合物が、式[4]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示されるもの、式[5]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示されるもの又は式[6]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示されるものである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
前記一般式[1]で示される化合物が、式[4]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示されるもの又は式[5]

(式中、Phは、フェニル基を表す。)で示されるものである、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1記載の化合物を含んでなる光塩基発生剤。
【請求項11】
波長200nm〜500nmの光の照射によって塩基を発生するものである、請求項10に記載の光塩基発生剤。
【請求項12】
請求項1記載の化合物に光照射することを特徴とする、塩基発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25710(P2012−25710A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168117(P2010−168117)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】