説明

光変調装置およびバイアス電圧制御方法

【課題】光変調器に入力される信号のバイアス電圧を高速かつ効率的に制御すること。
【解決手段】光変調装置は、生成回路と、重畳器と、光変調器と、算出回路と、制御器とを備える。生成回路は、所定の周波数を有する電気信号よりも周波数が低く、かつ、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しない低周波信号を生成する。重畳器は、生成回路によって生成された低周波信号を電気信号に重畳する。光変調器は、重畳器によって低周波信号が重畳されて得られた電気信号である入力信号を用いて、光源からの光を変調し信号光を出力する。算出回路は、光変調器によって出力される信号光の周波数成分のうち低周波信号と同一の周波数を有する低周波成分の振幅の平均値と、振幅の中心値とを算出する。制御器は、算出回路により算出された低周波成分の振幅の平均値が振幅の中心値に近づくように、光変調器へ入力される入力信号のバイアス電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調装置およびバイアス電圧制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワーク上で伝送されるデータ量の増加に伴って、伝送容量の大容量化の要求が高まっている。こうした伝送容量の大容量化を実現するために、高速で光を変調することができる光変調器を備えた光変調装置が用いられている。このような光変調装置は、入力される電気信号を用いて、光源が発する光を変調するLN(LiNbO)変調器などの光変調器を備えており、この光変調器により変調された光を信号光として出力する。
【0003】
ただし、光変調器では、例えば温度変動や経時変動などに起因して、光変調器に入力される電気信号のバイアス電圧の大きさと、光変調器から出力される信号光の強度との周期的な特性(以下「周期特性」という)が変動する。周期特性が変動すると、光変調器に入力される電気信号のバイアス電圧が最適値からずれるという問題があった。
【0004】
このため、光変調器に入力される電気信号のバイアス電圧を自動制御する技術が提案されている。このようにバイアス電圧を自動制御する光変調装置の構成を図8に示す。この光変調装置は、パイロット信号生成回路11、データ信号生成回路12、パイロット信号重畳器13、レーザーダイオード(LD:Laser Diode)14およびLN変調器15を有する。また、この光変調装置は、DAC(Digital Analog Converter)16a、16b、光カプラ17、PD(Photo Detector)18、I/V変換器19、バンドパスフィルタ(BPF:Band Pass Filter)20およびADC(Analog Digital Converter)21を有する。また、この光変調装置は、遅延回路22、位相比較器23、バイアス電圧制御器24およびバイアス電圧印加回路25を有する。
【0005】
パイロット信号生成回路11により生成された正弦波状のパイロット信号は、DAC16aを経てアナログ信号に変換される。一方、データ信号生成回路12により生成されたデータ信号は、DAC16bを経てアナログ信号に変換される。なお、パイロット信号は、データ信号よりも周波数が低い低周波信号である。そして、DAC16aからのパイロット信号は、パイロット信号重畳器13によってDAC16bからのデータ信号に重畳される。パイロット信号がデータ信号に重畳されて得られた入力信号は、バイアス電圧印加回路25を経てLN変調器15に入力される。そして、LN変調器15が、入力信号を用いてLD14で発生した光を変調し、変調した光を信号光として出力する。
【0006】
LN変調器15によって出力された信号光は、光カプラ17によって分岐され、分岐光が、PD18によって電流信号に変換された後、I/V変換器19によって電圧信号に変換される。そして、I/V変換器19から出力される電圧信号がBPF20を通過することにより、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分である低周波成分が抽出される。BPF20によって抽出された低周波成分は、ADC21を経てディジタル信号に変換された後に位相比較器23に入力される。なお、BPF20によって抽出された低周波成分は、パイロット信号に対応する正弦波状の波形を示す。
【0007】
一方、パイロット信号生成回路11により生成されたパイロット信号は、DAC16aを経てアナログ信号に変換され、遅延回路22によって所定の遅延時間を付与され、遅延時間の付与されたパイロット信号が位相比較器23に入力される。なお、パイロット信号に付与される遅延時間は、LN変調器15、光カプラ17、PD18、I/V変換器19、BPF20およびADC21での処理に要する時間である。言い換えると、パイロット信号に付与される遅延時間は、BPF20によって抽出された低周波成分のパイロット信号に対する遅延を補償するための時間である。そして、位相比較器23は、遅延回路22を経たパイロット信号の位相と、BPF20によって抽出された低周波成分の位相との比較を行う。そして、バイアス電圧制御器24は、位相比較器23による位相の比較結果を基にして、バイアス電圧印加回路25からデータ信号に印加されるバイアス電圧を制御する。すなわち、バイアス電圧制御器24は、BPF20によって抽出された低周波成分が最小となるように、LN変調器15に入力される入力信号のバイアス電圧を制御する。
【0008】
このように、データ信号に重畳されるパイロット信号の位相と信号光から抽出された低周波成分の位相とを比較し、位相の比較結果を基にしてバイアス電圧を制御することにより、周期特性の変化に追従してバイアス電圧を最適値に自動調整することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−56187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、位相の比較結果を基にバイアス電圧を制御する従来技術は、光変調器に入力される信号のバイアス電圧を高速かつ高効率に制御することまでは考慮されていない。
【0011】
すなわち、従来技術では、信号光から抽出された低周波成分との位相の比較対象であるパイロット信号に、低周波成分の遅延を補償するための遅延時間を付与することが前提となる。このため、遅延時間が設定されていない光変調装置では、パイロット信号と低周波成分との位相の比較を行うことができず、位相の比較結果を基にしたバイアス電圧の制御を開始することができない。その結果、従来技術では、光変調器に入力される信号のバイアス電圧を高速かつ効率的に制御することが妨げられる恐れがある。
【0012】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、光変調器に入力される信号のバイアス電圧を高速かつ効率的に制御することが可能となる光変調装置およびバイアス電圧制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の開示する光変調装置は、生成回路と、重畳器と、光変調器と、算出回路と、制御器とを備える。生成回路は、所定の周波数を有する電気信号よりも周波数が低く、かつ、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しない低周波信号を生成する。重畳器は、前記生成回路によって生成された低周波信号を前記電気信号に重畳する。光変調器は、前記重畳器によって低周波信号が重畳されて得られた電気信号である入力信号を用いて、光源からの光を変調し信号光を出力する。算出回路は、前記光変調器によって出力される信号光の周波数成分うち前記低周波信号と同一の周波数を有する低周波成分の振幅の平均値と、振幅の中心値とを算出する。制御器は、前記算出回路により算出された低周波成分の振幅の平均値が振幅の中心値に近づくように、前記光変調器へ入力される前記入力信号のバイアス電圧を制御する。
【発明の効果】
【0014】
本願の開示する光変調装置の一つの態様によれば、光変調器に入力される信号のバイアス電圧を高速かつ効率的に制御することが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施例に係る光変調装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、パイロット信号生成回路によるパイロット信号の生成を説明するための図である。
【図3】図3は、LN変調器から出力される信号光とLN変調器に入力される入力信号との関係について説明するための図である。
【図4】図4は、LN変調器に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値よりも正側にずれた態様を示す図である。
【図5】図5は、LN変調器に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値よりも負側にずれた態様を示す図である。
【図6】図6は、BPFから出力される周波数成分を説明するための図である。
【図7】図7は、本実施例に係る光変調装置によるバイアス電圧制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、光変調器に入力される電気信号のバイアス電圧を自動制御する光変調装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本願の開示する光変調装置およびバイアス電圧制御方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
本実施例に係る光変調装置は、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しないパイロット信号がデータ信号に重畳された入力信号を用いて、光源からの光を変調し信号光として出力する光変調器を備える。そして、光変調装置は、光変調器により出力された信号光の周波数成分のうちパイロット信号と同一の周波数を有する低周波成分の振幅の平均値および振幅の中心値に基づいて、光変調器へ入力される入力信号のバイアス電圧を制御する。
【0018】
このように、本実施例に係る光変調装置は、光変調器から出力される信号光の周波数成分のうちパイロット信号に対応する低周波成分の振幅の平均値および中心値を基に、光変調器に入力される入力信号のバイアス電圧を制御する。このため、本実施例に係る光変調装置は、パイロット信号と低周波成分との位相の比較を行うことを不要化することができ、光変調器に入力される信号のバイアス電圧を高速かつ高効率に制御することが可能となる。
【0019】
図1は、本実施例に係る光変調装置の構成を示す機能ブロック図である。図1に示す光変調装置は、パイロット信号生成回路101、データ信号生成回路102、DAC103a、103b、パイロット信号重畳器104、LD105およびLN変調器106を有する。また、図1に示す光変調装置は、光カプラ107、PD108、I/V変換器109、BPF110、ADC111、演算回路112、バイアス電圧制御器113およびバイアス電圧印加回路114を有する。
【0020】
パイロット信号生成回路101は、パイロット信号を生成する。具体的には、パイロット信号生成回路101は、データ信号生成回路102により生成されるデータ信号よりも周波数が十分に低く、かつ、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しない低周波信号をパイロット信号として生成する。
【0021】
ここで、パイロット信号生成回路101によるパイロット信号の生成の具体例について説明する。図2は、パイロット信号生成回路101によるパイロット信号の生成を説明するための図である。まず、パイロット信号生成回路101は、図2の上側に示すような正弦波状の信号S1を生成する。ここでは、正弦波状の信号S1の振幅の最大値MAXは、「1」であり、振幅の最小値MINは、「−1」であるものとする。正弦波状の信号S1の振幅の平均値AVEは、「0」であり、振幅の中心値TYPは、「0」である。ここで、正弦波状の信号S1の振幅の最大値MAXは「1」でない値とすることもでき、振幅の最小値MINは「−1」以外の値とすることもできる。換言すれば、正弦波状の信号S1の振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPは、「0」以外の値とすることもできる。
【0022】
そして、パイロット信号生成回路101は、正弦波状の信号S1のうち振幅の中心よりも下側の信号部分を一つおきに除去する。例えば、パイロット信号生成回路101は、正弦波状の信号S1のうち図2の上側の網掛けで示す信号部分Pを除去する。なお、パイロット信号生成回路101が信号部分Pを除去する場合には、例えば、フィルタリング処理や信号合成などの周知の技術を用いればよい。
【0023】
正弦波状の信号S1のうち振幅の中心よりも下側の信号部分が一つおきに除去されることにより、図2の下側に示すようなパイロット信号S2が生成される。パイロット信号S2の振幅の中心値TYPは、「0」である。これに対して、パイロット信号S2の振幅の平均値AVEは、振幅の中心値TYPよりも大きい「0.5」となる。すなわち、振幅の平均値AVEが振幅の中心値TYPと一致しない低周波信号であるパイロット信号S2が生成される。
【0024】
なお、図2に示した例では、正弦波状の信号のうち振幅の中心よりも下側の信号部分を一つおきに除去することで、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しないパイロット信号を生成する例を示したが、パイロット信号の生成手法はこれに限られない。例えば、パイロット信号生成回路101は、正弦波状の信号のうち振幅の中心よりも上側の信号部分を一つおきに除去することで、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しないパイロット信号を生成してもよい。
【0025】
図1に戻って、データ信号生成回路102は、所定の周波数を有する電気信号をデータ信号として生成する。DAC103aは、パイロット信号生成回路101により生成されたパイロット信号をアナログ信号に変換し、アナログ化したパイロット信号をパイロット信号重畳器104に出力する。DAC103bは、データ信号生成回路102により生成されたデータ信号をアナログ信号に変換し、アナログ化したデータ信号をパイロット信号重畳器104に出力する。
【0026】
パイロット信号重畳器104は、DAC103aから出力されるパイロット信号をDAC103bから出力されるデータ信号に重畳する。そして、パイロット信号重畳器104は、パイロット信号がデータ信号に重畳されて得られた電気信号をバイアス電圧印加回路114を介してLN変調器106に出力する。パイロット信号がデータ信号に重畳されると、LN変調器106に入力される電気信号の高出力(H:High)側および低出力(L:Low)側にパイロット信号が現れる。なお、以下では、パイロット信号がデータ信号に重畳されて得られた電気信号、すなわち、LN変調器106に入力される電気信号を、「入力信号」と呼ぶことがあるものとする。
【0027】
LD105は、光源であり、所定波長の光を発する。LN変調器106は、パイロット信号重畳器104からバイアス電圧印加回路114を経て入力される入力信号を用いて、LD105からの光を変調し、変調した信号光を光カプラ107に出力する。
【0028】
ここで、LN変調器106に入力信号が入力されると、LN変調器106から出力される信号光に入力信号に対応する変化が現れる。すなわち、LN変調器106に入力される入力信号のH側およびL側にパイロット信号が現れるため、LN変調器106から出力される信号光のH側およびL側にパイロット信号に対応する周波数成分が現れる。
【0029】
図3は、LN変調器106から出力される信号光とLN変調器106に入力される入力信号との関係について説明するための図である。図3は、図表50を含んでいる。図表50において横軸はLN変調器106に入力される入力信号の電圧を示し、縦軸は、LN変調器106から出力される信号光のパワーを示す。また、曲線51は、LN変調器106の周期特性を示す。なお、図3に示す例では、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値に設定されているものとする。また、図3に示す例では、一例として、正弦波状のパイロット信号がデータ信号に重畳されることにより得られた入力信号がLN変調器106に入力されているものとする。
【0030】
図表50の曲線51に示したような周期特性を持つLN変調器106に、入力信号61が入力された場合、LN変調器106から信号光71が出力される。このとき、入力信号61のバイアス電圧Vは、周期特性を示す曲線51の傾きが最も急峻な部位に対応する電圧である最適値Vに設定されているものとする。入力信号61にはパイロット信号62が重畳されているため、信号光71のH側およびL側にはパイロット信号62の波形に対応する周波数成分72が出現する。そして、図3に示されるように、入力信号61のバイアス電圧Vが最適値Vに設定されている場合には、周波数成分72は、パイロット信号62の2倍の周波数を有する。このように、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値に設定されている場合には、パイロット信号の2倍の周波数を有する周波数成分が信号光に現れることが分かる。
【0031】
ここで、LN変調器106から出力される信号光とLN変調器106に入力される入力信号との関係は変動することがある。言い換えると、LN変調器106の周期特性が変動することがある。LN変調器106の周期特性の変動は、例えば光変調装置の温度変動や経時変動などにより生じる。そして、LN変調器106の周期特性が変動すると、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値からずれてしまい、LN変調器106から出力される信号光が劣化する。このようにLN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値からずれた態様を図4および図5に示す。
【0032】
図4は、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値よりも正側にずれた態様を示す図である。なお、図4に示す例では、図3の図表50の曲線51で示したLN変調器106の周期特性が曲線52に変動したものとする。
【0033】
LN変調器106の周期特性が曲線51から曲線52に変動すると、入力信号61のバイアス電圧Vは、図4に示すように、最適値Vよりも正側にずれる。この場合、LN変調器106から信号光73が出力される。入力信号61にはパイロット信号62が重畳されているため、信号光73のH側およびL側にはパイロット信号62に対応する周波数成分74が出現する。そして、図4に示されるように、入力信号61のバイアス電圧Vが最適値Vよりも正側にずれた場合には、信号光73に出現する周波数成分74は、パイロット信号62と同一の周波数を有する。
【0034】
図5は、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値よりも負側にずれた態様を示す図である。なお、図5に示す例では、図3の図表50の曲線51で示したLN変調器106の周期特性が曲線53に変動したものとする。
【0035】
LN変調器106の周期特性が曲線51から曲線53に変動すると、入力信号61のバイアス電圧Vは、図5に示すように、最適値Vよりも負側にずれる。この場合、LN変調器106から信号光75が出力される。入力信号61にはパイロット信号62が重畳されているため、信号光75のH側およびL側にはパイロット信号62に対応する周波数成分76が出現する。そして、図5に示されるように、入力信号61のバイアス電圧Vが最適値Vよりも負側にずれた場合には、信号光75に出現する周波数成分76は、パイロット信号62と同一の周波数を有する。ただし、信号光75に出現する周波数成分76の位相は、図4に示した周波数成分74の位相に対して反転している。
【0036】
このように、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値からずれると、信号光にパイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分が現れることが分かる。さらに、バイアス電圧が最適値よりも正側にずれた場合に信号光に現れる周波数成分の位相と、バイアス電圧が最適値よりも負側にずれた場合に信号光に現れる周波数成分の位相とは、互いに反転する関係にある。
【0037】
図1に戻って、光カプラ107は、LN変調器106から出力される信号光を分岐し、分岐により得られた一方の信号光を伝送路に出力し、他方の信号光をPD108に出力する。PD108は、光カプラ107から入力された信号光を電流信号に変換し、電流信号に変換した信号光をI/V変換器109に出力する。I/V変換器109は、PD108から入力された信号光を電圧信号に変換し、電圧信号に変換した信号光をBPF110に出力する。
【0038】
BPF110は、パイロット信号と同一の周波数を透過させる周波数帯域を透過帯域としており、I/V変換器109から入力された信号光の周波数成分のうちパイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分を透過する。具体的には、BPF110は、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値からずれた場合に、信号光の周波数成分のうちパイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分を透過する。そして、BPF110は、透過した周波数成分をADC111に出力する。
【0039】
一方、BPF110は、信号光の周波数成分のうちパイロット信号と異なる周波数を有する周波数成分を遮断する。例えば、図3に例示したように、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値に設定されている場合には、パイロット信号の2倍の周波数を有する周波数成分が信号光に現れる。この場合、BPF110は、パイロット信号の2倍の周波数を有する周波数成分を遮断し、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分をADC111に出力しない。
【0040】
ここで、BPF110から出力される周波数成分について、図6を参照して具体例を説明する。図6は、BPF110から出力される周波数成分を説明するための図である。なお、図6では、BPF110が、図2の下側に示すパイロット信号S2と同一の周波数を有する周波数成分を透過する例について説明する。
【0041】
図6に示すように、BPF110は、振幅の平均値AVEが振幅の中心値TYPよりも大きいパイロット信号S2と同一の周波数を有する周波数成分B1または周波数成分B2を透過する。周波数成分B1の振幅の中心値TYPは、「0」であり、周波数成分B1の振幅の平均値AVEは、「0.5」である。すなわち、パイロット信号S2と同様に、周波数成分B1の振幅の平均値AVEは、振幅の中心値TYPよりも大きい。これは、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値よりも正側にずれていることを意味する。
【0042】
一方、周波数成分B2の振幅の中心値TYPは、「0」であり、周波数成分B1の振幅の平均値AVEは、「−0.5」である。すなわち、パイロット信号S2とは逆に、周波数成分B2の振幅の平均値AVEは、振幅の中心値TYPよりも小さい。さらに、周波数成分B2の位相は、周波数成分B1の位相に対して反転している。これは、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧が最適値よりも負側にずれていることを意味する。
【0043】
図1に戻り、ADC111は、BPF110から出力される周波数成分をディジタル信号に変換する。具体的には、ADC111は、BPF110から出力される周波数成分の値を周期的にサンプリングすることにより、この周波数成分をディジタル信号に変換する。そして、ADC111は、ディジタル化した周波数成分を演算回路112に出力する。なお、BPF110からの出力がない場合には、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分が検出されない状態を意味するので、ADC111は、演算回路112に「0」を出力する。
【0044】
演算回路112は、ADC111から入力される周波数成分の振幅の平均値AVEと、振幅の中心値TYPとを算出する。演算回路112は、算出回路の一例である。具体的には、演算回路112は、ADC111から周期的に入力される周波数成分の値を順次読み込む。続いて、演算回路112は、読み込んだ周波数成分の値から最大値MAXおよび最小値MINを抽出する。
【0045】
続いて、演算回路112は、次式(1)を演算することにより、周波数成分の振幅の中心値TYPを算出する。
振幅の中心値TYP = (最大値MAX−最小値MIN)/2 ・・・ (1)
【0046】
続いて、演算回路112は、次式(2)を演算することにより、周波数成分の振幅の平均値AVEを算出する。
振幅の平均値AVE = ADC111から周期的に入力される周波数成分の値の総和/ADC111の周波数成分の値のサンプリング数 ・・・ (2)
【0047】
なお、演算回路112は、ADC111からの出力が「0」である場合には、上記の式(1)および(2)により、周波数成分の振幅の中心値TYPおよび振幅の平均値AVEを「0」と算出する。
【0048】
バイアス電圧制御器113は、演算回路112により算出された周波数成分の振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPに基づいて、バイアス電圧印加回路114からLN変調器106に印加される電圧を制御する。バイアス電圧制御器113により制御される電圧が、LN変調器106へ入力される入力信号のバイアス電圧となる。
【0049】
具体的には、バイアス電圧制御器113は、演算回路112により算出された周波数成分の振幅の平均値AVEと振幅の中心値TYPとを比較し、比較の結果に基づいてLN変調器106へ入力される入力信号のバイアス電圧を正側または負側に変更する。このとき、バイアス電圧制御器113は、LN変調器106へ入力される入力信号のバイアス電圧を所定幅ずつ変更する。
【0050】
すなわち、振幅の平均値AVEが振幅の中心値TYPよりも大きい場合には、LN変調器106におけるバイアス電圧が最適値よりも正側にずれているので、バイアス電圧制御器113は、LN変調器106へ入力される入力信号のバイアス電圧を所定幅小さくする。そして、バイアス電圧制御器113は、演算回路112により算出される周波数成分の振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」となったか否かを判断する。そして、バイアス電圧制御器113は、振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」となると、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分が検出されずバイアス電圧が最適値となったことを意味するため、バイアス電圧の制御を終了する。一方、振幅の平均値AVEが振幅の中心値TYPよりも小さい場合には、LN変調器106におけるバイアス電圧が最適値よりも負側にずれているので、バイアス電圧制御器113は、LN変調器106へ入力される入力信号のバイアス電圧を所定幅大きくする。このようにして、バイアス電圧制御器113は、振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」となるまで入力信号のバイアス電圧を制御する。
【0051】
バイアス電圧印加回路114は、バイアス電圧制御器113によって制御されたバイアス電圧を、LN変調器106へ入力される入力信号に印加する。
【0052】
次に、本実施例に係る光変調装置によるバイアス電圧制御処理について説明する。図7は、本実施例に係る光変調装置によるバイアス電圧制御処理の処理手順を示すフローチャートである。図7においては、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分の振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが演算回路112により算出された結果、振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」でなかった場合の動作を説明する。なお、振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」である場合は、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分が検出されずバイアス電圧が既に最適値となっているため、バイアス電圧制御の必要はない。
【0053】
図7に示すように、パイロット信号生成回路101は、データ信号よりも周波数が低く、かつ、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しないパイロット信号を生成する(ステップS101)。パイロット信号生成回路101により生成されたパイロット信号は、DAC103aによりアナログ化されてパイロット信号重畳器104に出力される。
【0054】
パイロット信号重畳器104は、パイロット信号をデータ信号に重畳する(ステップS102)。パイロット信号がデータ信号に重畳されて得られた入力信号は、バイアス電圧印加回路114を介してLN変調器106に入力される。そして、バイアス電圧印加回路114は、バイアス電圧を入力信号に印加する(ステップS103)。
【0055】
そして、LN変調器106は、パイロット信号重畳器104からバイアス電圧印加回路114を経て入力される入力信号を用いて、LD105からの光を変調する(ステップS104)。LN変調器106により変調された光は信号光として光カプラ107に出力される。信号光は、光カプラ107により分岐され、一方の信号光が伝送路に出力される。また、他方の信号光は、PD108へ出力され、PD108により電流信号に変換される。そして、電流信号に変換された信号光は、I/V変換器109により電圧信号に変換される。
【0056】
そして、電圧信号に変換された信号光は、BPF110に出力され、BPF110によりパイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分が取得される(ステップS105)。なお、パイロット信号の2倍の周波数を有する周波数成分は、BPF110により遮断される。そして、BPF110から出力される周波数成分は、ADC111によりディジタル化され、演算回路112へ出力される。
【0057】
そして、演算回路112は、ADC111から入力される周波数成分の振幅の平均値AVEと、振幅の中心値TYPとを算出する(ステップS106)。バイアス電圧制御器113は、演算回路112により算出された周波数成分の振幅の平均値AVEと振幅の中心値TYPとを比較する(ステップS107)。
【0058】
振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」である場合には(ステップS108肯定)、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分が取得されずバイアス電圧が最適値となったため、バイアス電圧制御器113は、バイアス電圧の制御を終了する。一方、振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」でない場合には(ステップS108否定)、バイアス電圧制御器113は、振幅の平均値AVEと振幅の中心値TYPとを比較する(ステップS109)。
【0059】
振幅の平均値AVEが振幅の中心値TYPよりも大きい場合には(ステップS109肯定)、バイアス電圧が最適値より正側にずれているので、バイアス電圧制御器113は、LN変調器106への入力信号のバイアス電圧を所定幅小さくする(ステップS110)。バイアス電圧制御器113は、LN変調器106への入力信号のバイアス電圧を所定幅小さくすると、処理をステップS103に戻す。
【0060】
これに対して、振幅の平均値AVEが振幅の中心値TYPよりも小さい場合には(ステップS109否定)、バイアス電圧が最適値より負側にずれているので、バイアス電圧制御器113は、入力信号のバイアス電圧を所定幅大きくする(ステップS111)。バイアス電圧制御器113は、LN変調器106への入力信号のバイアス電圧を所定幅大きくすると、処理をステップS103に戻す。
【0061】
このようなバイアス電圧の制御が繰り返され、周波数成分の振幅の平均値AVEおよび振幅の中心値TYPが「0」となると、パイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分が検出されなくなり、LN変調器106への入力信号のバイアス電圧が最適値となる。
【0062】
上述してきたように、本実施例に係る光変調装置は、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しないパイロット信号を生成し、生成したパイロット信号をデータ信号に重畳する。そして、本実施例に係る光変調装置は、パイロット信号がデータ信号に重畳されて得られた入力信号を用いて光源からの光を変調し信号光を出力する。そして、本実施例に係る光変調装置は、信号光の周波数成分のうちパイロット信号と同一の周波数を有する周波数成分の振幅の平均値および中心値を基に、LN変調器106に入力される入力信号のバイアス電圧を制御する。このため、本実施例に係る光変調装置は、パイロット信号と周波数成分との位相の比較を行う従来の技術と比較して、LN変調器106に入力される信号のバイアス電圧を高速かつ高効率に制御することができる。
【0063】
また、本実施例に係る光変調装置は、パイロット信号と同一の周波数の周波数成分の振幅の平均値と振幅の中心値とを比較し、比較の結果に基づいてLN変調器106へ入力される信号のバイアス電圧を正側または負側に変更する制御を行う。このため、本実施例に係る光変調装置は、振幅の平均値と振幅の中心値との比較という簡易な演算処理を行うことでLN変調器106の周期特性の変化を検出することができ、LN変調器106のバイアス電圧の制御を迅速化することができる。
【0064】
また、本実施例に係る光変調装置は、LN変調器106へ入力する入力信号のバイアス電圧を所定幅ずつ変更する制御を行う。このため、本実施例に係る光変調装置は、LN変調器106のバイアス電圧の制御をより緻密に実行することができ、LN変調器106のバイアス電圧を最適値に高速に近づけることができる。
【0065】
また、本実施例に係る光変調装置は、パイロット信号と同一の周波数の周波数成分が検出されなかった場合には、バイアス電圧の制御を終了する。このため、本実施例に係る光変調装置は、LN変調器106のバイアス電圧が最適値に設定されている場合に、バイアス電圧の制御に伴う不要な消費電力を削減することができる。
【符号の説明】
【0066】
101 パイロット信号生成回路
102 データ信号生成回路
103a、103b DAC
104 パイロット信号重畳器
105 LD(光源)
106 LN変調器
107 光カプラ
108 PD
109 I/V変換器
110 BPF
111 ADC
112 演算回路
113 バイアス電圧制御器
114 バイアス電圧印加回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数を有する電気信号よりも周波数が低く、かつ、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しない低周波信号を生成する生成回路と、
前記生成回路によって生成された低周波信号を前記電気信号に重畳する重畳器と、
前記重畳器によって低周波信号が重畳されて得られた電気信号である入力信号を用いて、光源からの光を変調し信号光を出力する光変調器と、
前記光変調器によって出力される信号光の周波数成分うち前記低周波信号と同一の周波数を有する周波数成分の振幅の平均値と、振幅の中心値とを算出する算出回路と、
前記算出回路により算出された周波数成分の振幅の平均値が振幅の中心値に近づくように、前記光変調器へ入力される前記入力信号のバイアス電圧を制御する制御器と
を備えたことを特徴とする光変調装置。
【請求項2】
前記制御器は、
前記算出回路により算出された前記周波数成分の振幅の平均値と振幅の中心値とを比較し、比較の結果に基づいて前記入力信号のバイアス電圧を正側または負側に変更する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の光変調装置。
【請求項3】
前記制御器は、
前記入力信号のバイアス電圧を所定幅ずつ変更する制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光変調装置。
【請求項4】
前記制御器は、
前記算出回路により前記周波数成分と同一の周波数を有する周波数成分が検出されなかった場合には、前記入力信号のバイアス電圧の制御を終了することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光変調装置。
【請求項5】
光変調装置により実行されるバイアス電圧制御方法であって、
所定の周波数を有する電気信号よりも周波数が低く、かつ、振幅の平均値が振幅の中心値と一致しない低周波信号を生成し、
生成された前記低周波信号を電気信号に重畳し、
前記低周波信号が前記電気信号に重畳されて得られた入力信号を用いて、光源からの光を変調し信号光を出力し、
出力された信号光の周波数成分のうち前記低周波信号と同一の周波数を有する周波数成分の振幅の平均値および振幅の中心値を算出し、
算出された周波数成分の振幅の平均値が振幅の中心値に近づくように、前記入力信号のバイアス電圧を制御する
ことを含むことを特徴とするバイアス電圧制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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