説明

光子密度波のパルス酸素測定およびパルス検血のシステムと方法

本実施形態は、媒体内に光子密度波を発生させるために光を50MHzから3GHzまでの範囲内の変調周波数で変調し、光子密度波内の相対的な振幅変化および位相シフトを検出しかつ位相シフトに基づいて媒体内の散乱粒子に関連する生理学的値を検出してグラフに表示することができるシステムおよび方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本項は、読者を、後に説明されかつ/または特許請求される本実施形態の様々な態様に関連づけられ得る様々な技術態様へ導くためのものである。本説明は、開示されている実施形態の様々な態様のより良い理解を促すべく読者に背景情報を提供する上で役立つものと確信される。したがって、これらの主張はこの観点から読まれるべきものであり、先行技術を認めるものとして読まれるものでないことは理解されるべきである。
【背景技術】
【0002】
パルス酸素測定法は、患者の血流特性の監視を容易にする非侵襲的技術として定義されることがある。例えば、パルス酸素測定法は、患者の動脈血および/または患者の心拍におけるヘモグロビンの血液酸素飽和度を測定するために用いられる場合がある。具体的には、これらの血流特性測定は、患者の組織の一部に光を通しかつ組織を介する光の吸収および散乱を光電気的に検出する非侵襲的センサを用いて取得される場合がある。典型的なパルス酸素測定技術は現在、所定の組織ベッドのパルスおよび酸素飽和度を測定するために2つの発光ダイオード(LED)と1つの光検出器とを使用している。
【0003】
検出された光から結果的に得られる典型的な信号は、プレチスモグラフ波形と称されることがある。このような測定値は、主として特定のタイプの血液成分による放射光の吸収に基づくものである。この測定値は、取得されると、組織内の相対的な血液成分量を推定するために様々なアルゴリズムに使用され得る。例えば、このような測定値は、被監視量における酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとの割合を与える場合がある。組織内の動脈血の量は概して心臓周期の間に経時変化し、これがプレチスモグラフ波形に反映されることは留意されるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルス酸素測定法による血流特性の推定精度は、因子の数に依存する。例えば、光吸収特性の変動は、センサがどこに位置決めされるか、および/または監視されている患者の生理機能に依存して精度に影響する可能性がある。したがって、様々なタイプのノイズおよび干渉が不正確さをもたらす可能性がある。例えば、電気ノイズ、生理学的ノイズおよび他の干渉は、不正確な血流特性推定に寄与する可能性がある。ノイズソースの中には、一貫していて予測可能でありかつ/または最小限であるものもあるが、安定せず血流特性の測定精度に大きな障害となるものもある。したがって、患者の生理学的特性の不安定さおよびノイズ関連の問題点に対処するシステムおよび方法を提供することによって生理学的パラメータのより精確な、かつ/またはより管理された測定を有効化することが望ましい。
【0005】
本実施形態の優位点は、以下の詳細な説明を読みかつ図面を参照した時点で明らかとなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本実施形態によるパルスオキシメータシステムを示す斜視図である。
【図2】本実施形態によるパルスオキシメータシステムを示すブロック図である。
【図3A】高周波数で変調された光子密度波の位相変化のシミュレーションを表すグラフ対を示す。位相変化は、本実施形態による散乱に起因する。
【図3B】高周波数で変調された光子密度波の位相変化のシミュレーションを表すグラフ対を示す。位相変化は、本実施形態による散乱に起因する。
【図4】本実施形態によるソース変調信号の一例を示す。
【図5】本実施形態による、互いに関連して利用される複数のエミッタおよび/または検出器配置を表す図である。
【図6】本実施形態による、互いに関連して利用される複数のエミッタおよび/または検出器配置を表す図である。
【図7】本実施形態による、互いに関連して利用される複数のエミッタおよび/または検出器配置を表す図である。
【図8】本実施形態による、振幅および位相シフトにより特徴づけられた生理学的状態を表す二次元プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本実施形態は、概して医療装置に関する。より具体的には、本実施形態は、関連の光波が患者の組織に透過された後の光波特性の検出に基づいて、患者の血液に関する生理学的パラメータを推定することに関する。
【0008】
以下、1つまたは複数の実施形態について説明する。これらの実施形態の説明を簡潔におこなう努力において、本明細書では、実際の実装における特徴を全て説明するわけではない。任意のエンジニアリングまたは設計プロジェクトの場合のような任意のこのような実際の実装の開発においては、実装毎に変わることがあるシステム関連およびビジネス関連の制約との整合等、開発者独自の目的を達成するために多くの実装固有の決定が下されなければならないことは認識されるべきである。さらに、このような開発努力は複雑かつ時間のかかるものである可能性もあるが、それでも本開示の恩恵を有する当業者にとっては設計、加工および製造上の日常的な取り組みであると思われることは認識されるべきである。
【0009】
本実施形態は、発光体(例えば、レーザ/LED)で患者の組織内へ光を放射しかつこれが患者の組織を通過した後に光を光電気的に検出することによって、患者内の血流に対応する生理学的パラメータを非侵襲的に測定することに関する。より具体的には、本実施形態は、分解できる光子密度波を発生させるために放射光を高周波数で変調することに関する。光子密度波は、徐々に減衰する強度(intensity)の波として記述されてもよい。微視的レベルでは、光源によって発生される光子は、概して散乱する媒体内でランダムに移行する。しかしながら、光子は、変調周波数ではまとまって光源から離れて移動する光子密度波を形成する。光子の伝播は、概して波が通って移動する媒体における散乱および吸収によって決定づけられる。他の波と同様に、光子密度波は屈折、回折、干渉、分散、減衰、等々を受ける。
【0010】
観察される媒体における合計散乱粒子および吸収体濃度の各変化の測定を容易にするために、媒体通過後の光子密度波内の位相変化および振幅変化が検出されてもよい。実際に、このような波の位相は散乱に感応する場合があり、かつこのような波の振幅は吸収に感応する場合がある。例えば、高周波数で変調により発生される光子密度波における位相変化の検出は、波間の距離が光子の平均吸収長さより短い場合があることに起因して合計ヘモグロビンに対応してもよい。したがって、検出される位相変動は、吸収ではなく主として散乱係数に起因する場合がある。言い替えれば、位相の変動は、主として観察される媒体における散乱粒子の合計数(例えば、合計ヘモグロビン)に起因し、単に異なる光の周波数を吸収する粒子(例えば、酸素化および脱酸素化ヘモグロビン)の割合によらない。一方で、光子密度波の振幅の変化は、観察される体積における特定の光周波数(例えば、赤色光または赤外光)の吸収に対応し、よってさらには、探索される媒体における異なるタイプの粒子(例えば、酸素化および脱酸素化ヘモグロビン)の割合に対応してもよい。
【0011】
また、上述の特徴に加えて、本実施形態は、所定の組織部位(例えば、拍動信号が多い領域)に集中させ、ノイズアーチファクトの識別を容易にし、患者固有の組織特性(例えば、皮膚色および低血液酸素飽和度レベル)に対処しかつ/または総体的にノイズを低減するために、複数の高周波数光子密度波を互いに調和させて放射することにも関する点は留意されるべきである。例えば、複数の光子密度波は、組織ベッドを介する所定のポイントに強度を集めるべく波が互いの上に築かれるようにパターンで放射されてもよい。ある特有の例では、組織ベッドは、拍動信号が多い部位を識別するために放射周波数の組合せによって掃引されてもよい。同様に、波は、ほぼノイズのない環境では波が互いに相殺するように放射されてもよい。したがって、相殺されていない波の検出は、ノイズの存在を示すものである場合がある。さらに、ノイズを識別しかつ/または補正するためには相対測定が利用されてもよい。例えば、所定の波の特徴は複数の検出器ロケーションで検出されてもよく、かつ静脈の脈動ノイズ等の特性を識別するために互いに比較されてもよい。
【0012】
図1は、幾つかの実施形態によるパルス酸素測定システム10を示す斜視図である。システム10は、センサ14へ通信可能に結合されるパルスオキシメータまたはモニタ12を含む。モニタ12は、ディスプレイ、メモリ、プロセッサおよび様々な監視および制御要素を含んでもよい。センサ14は、センサケーブル16と、コネクタプラグ18と、患者(例えば、患者の指、耳、額または足指)に取り付けるように構成されるセンサアセンブリまたは本体20とを含んでもよい。システム10は、組織内へ波を放射しかつ組織による分散および/または反射後の波を検出することによって、患者体内の酸素交換状態の推定を容易にすべく患者の動脈血の血液成分を観察するために利用されてもよい。組織を通る光の量および光波の他の特性は、組織内の所定の血液成分および関連する光の吸収および/または散乱の量の変化にしたがって変わることがある。例えば、従来のパルス酸素測定システムの場合のように、システム10は脈動組織内へ2つ以上のLEDまたはレーザから光を放射し、次いで光が脈動組織を通った後に、透過光を光検出器(例えば、フォトダイオードまたはフォトディテクタ)で検出してもよい。このような測定値は、探索される血液量における血液酸素飽和度の比率を推定するために利用されてもよい。さらに本実施形態によれば、システム10は、主として探索される血液量における散乱粒子と相関する位相シフトが検出され得るように、高周波数で光子密度波を発生すべく放射光を変調してもよい。
【0013】
これまでに全体を示したように、システム10は、患者の生理学的特性の非侵襲的測定を容易にするために光波を発生させかつ検出してもよい。実施形態において、システム10は分解できる光子密度波を発生させ、かつ波が媒体(例えば、患者の組織)を通った後に検出される所定の波特性の相対測定を行ってもよい。本実施形態によって測定され得る波特性には、主として探索される媒体における放射光の吸収に関連する特性(例えば、振幅変化)、および主として探索される媒体における散乱に関連する特性(例えば、位相シフト)が含まれてもよい。後に詳述するように、所定の波特性(例えば、振幅および位相)の測定値と所定の媒体特性(例えば、散乱粒子の量および血液酸素飽和度)との相関性は、分解できる光子密度波を発生するシステム光源の高周波数変調に基づくことができることは留意されるべきである。
【0014】
先に示したように、システム10は、主として観察される体積における散乱に関連する測定を行うために利用されてもよい。より具体的には、システム10は、観察される体積における散乱粒子の合計量に関する測定を、放射される光波内に検出される位相シフトに基づいて行うために利用されてもよい。例えば、システム10は、観察媒体内の散乱粒子の合計数の推定を容易にするために、高周波数(例えば、50MHzから3.0GHzまで)で変調されている光を放射して、分解できる光子密度波を発生させ、次いでこれらの高周波の位相シフトを測定してもよい。同様に、先に述べたように、システム10は、主として観察体積における吸収に関連する測定を行うために利用されてもよい。例えば、システム10は、所定の血中成分の割合(例えば、酸素化ヘモグロビンの脱酸素化ヘモグロビンに対する割合)の検出を容易にするために、分解できる光子密度波のACおよびDC振幅の変化を検出してもよい。ある検出ポイントで測定される振幅変化および位相シフトは、1つまたは複数のポイントと相対して考察されてもよいことは留意されるべきである。例えば、検出器で測定される振幅および位相シフトは、エミッタで発生される関連値と相対して考察されてもよい。
【0015】
図2は、本開示の実施形態を実装するように構成され得るパルス酸素測定システム10の一実施形態を示すブロック図である。先に示したように、システム10はモニタ12と、センサ14とを含んでもよい。センサ14は、正しく取り付けられるとエミッタ30からの光が患者の組織32内へ通ることができるように構成されてもよい。さらに、センサ14は、組織32を通った後に分散光が光検出器34によって受信され得るように構成されてもよい。光検出器34は次に、受信した光を光電流信号に変換してもよく、前記信号は次にモニタ12へ提供されてもよい。実施形態によっては、複数のセンサ14が使用されてもよいことは留意されるべきである。さらに、実施形態によっては、1つまたは複数のセンサが各々複数のエミッタおよび/または検出器を含んでもよい。複数のエミッタが使用される場合、概して、エミッタの各々はLED36等の赤色および赤外(IR)光源を含むことが望ましく、この場合、各赤色およびIR光源は各々他の赤色またはIR光源の10から20nm内である波長を放射するように構成される。
【0016】
実施形態によっては、エミッタ30および検出器34に加えて、センサアセンブリまたは本体20は本実施形態による他の様々な機能も含んでもよい。例えば、センサ14は、検出器34によって観察される光子密度波内の位相シフトを検出できる位相検出器38を含んでもよい。位相検出要素34は、図示されている実施形態ではセンサアセンブリ20内に配置されているが、実施形態によっては、位相検出要素34はオキシメータ12内に配置されてもよい。さらに、センサ14は、オキシメータ12が酸素飽和度の計算に適する較正係数を選択できるように、エミッタ30から受信される光の波長を示す信号を提供する能力を有し得るエンコーダ40(例えば、抵抗器またはチップ)を含んでもよい。エンコーダ40からのデータまたは信号は、オキシメータ12内の検出器/デコーダ機能42によって復号されてもよい。
【0017】
実施形態によっては、オキシメータ12は、内部バス46へ結合されるマイクロプロセッサ44を含んでもよい。同じくバス46へは、メモリ48(例えば、RAMおよび/またはROM)およびディスプレイ50が結合されてもよい。検出器34から受信される信号は、第1の増幅器52、スイッチ54、アナログ乗算器56、低域通過フィルタ58および/またはアナログ−デジタル変換器60を通して送られてもよい。デジタルデータは次に待ち行列型シリアルモジュール(QSM)62内に、後にQSM62がいっぱいになるとメモリ48へダウンロードするために格納されてもよい。ある実施形態では、受信される複数の光波長または光スペクトルのために、かつ/または位相検出器38により発生される位相データのために、別々の増幅器、フィルタおよびA/D変換器の複数の並列経路が存在してもよい。ある実施形態では、位相検出器38からの信号は任意の適切な方法で処理されてもよく、かつ光子密度波の振幅を検出するように構成され得る検出器34からの信号とは異なるデータ経路を介して送られてもよい。受信される光信号は、検出器34において電気信号に変換されてもよい。電気信号は次に増幅器52によって増幅され、かつ基準発振器(図示せず)と受信される信号との位相差に比例する信号を発生させるために、周波数混合器またはアナログ乗算器(例えば、アナログ乗算器56)へ送られてもよい。同様に、受信信号のACおよびDC振幅は、ピーク検出回路および低域通過フィルタ(例えば、フィルタ58)を用いて決定されてもよい。
【0018】
図2の実施形態に示されているように、エミッタ30は2つのLED36を含んでもよい。これらのLED36は、モニタ12から、LED36を起動しかつLED36に所定の間隔で光を放射させる変調された駆動信号を受信してもよい。したがって、モニタ12は、放射される光子密度波の位相変化に基づく探索される媒体内の散乱に関する測定を容易にし得る高周波数でLED36を起動しかつ停止してもよい。この変調機能は、変調器64によって実行されてもよい。変調器64は、ハードウェア機能、ソフトウェア機能またはこれらの何らかの組合せを含んでもよい。例えば、変調器64の一部はメモリ48に格納されてもよく、かつプロセッサ44によって制御されてもよい。図示されている実施形態では、変調器64は光駆動装置66と、LED36の発光を変調するために協働する時間処理ユニット(TPU)68とを含む。正弦波発生器を含み得るTPU68は光駆動回路66へ、エミッタ30が起動される時間を制御しかつ複数の光源が使用される場合は異なる光源の多重化されたタイミングを制御するタイミング制御信号を提供してもよい。またTPU68は、検出器34から第1の増幅器52およびスイッチング回路54を介する信号のゲートインも制御してもよい。これらの信号は、複数の光源が使用されている場合少なくとも部分的に複数の光源のうちのどれが起動されるかに依存して適切な時間にサンプリングされる。
【0019】
図示されている実施形態では、変調器64はモニタ12内に配置されている。しかしながら、実施形態によっては、変調機能はセンサ14内に配置される変調器によって実行されてもよい。実際に、実施形態によっては、放射される光波の位相の変調および検出に関する機能は、潜在的干渉を回避するためにシステム10内に配置され得ることは留意されるべきである。例えば、高周波数の変調および検出要素は、信号が進む距離を縮小するため、よって潜在的干渉を減らすためにセンサ14内の同一場所に位置決めされてもよい。実際に、ある特定例において、センサ14は位相測定のための市販のチップセットと、高周波数変調のための一般に入手可能な駆動回路(例えば、DVD R/Wドライバ回路)とを含んでもよい。このような装置の例には、Analog Devices(TM)から入手可能なAD8302およびNational Semiconductor(TM)から入手可能なLMH6525が含まれてもよい。他の実施形態では、LED36はモニタ12内に配置されてもよく、光は、潜在的干渉を減らすために、モニタ12内のLED36から光ファイバを介してセンサ14へ送信されてもよい。
【0020】
変調器のロケーションに関わらず、DCであるとされるに十分低い周波数(例えば、1.5KHz)で測定を実行する従来のパルス酸素測定法とは対照的に、変調器64は、分解できる光子密度波を組織38を介して伝播させるに十分高い周波数(例えば、約50MHzから3.0GHzまで)でLED36を変調するように構成されてもよい。実施形態によっては、変調器64は、50MHzから2.4GHzまでの領域を掃引するように構成されてもよい。実施形態によっては、変調器64は、100MHzから1GHzまでの間を変調するように、または100MHzから1GHzまでの領域を掃引するように構成されてもよい。したがって、本実施形態は、毎67マイクロ秒に1サンプルという従来のパルス酸素測定法のサンプリング周波数よりはるかに高い周波数で動作する。
【0021】
実施形態によっては、LED36の連続変調の場合、光子密度波の分解できる振幅と位相との関係性は、組織ベッド32に沿ってエミッタから様々な位置で確立されてもよい。発光体を十分に高い周波数で変調することにより、光子密度波間の距離は、光が吸収されるために必要な平均距離より短くてもよい。したがって、光子密度波の位相変化は、吸収ではなく主として散乱によるものである可能性がある。さらに、この点に鑑みれば、検出される位相変化は探索される媒体における散乱粒子の数に対応することが決定され得る。光子密度波の周波数は、基本的に、入力される初期光源へロックされ、かつ位相変化は基本的に、動脈脈動および散乱粒子の導入にロックされる。実際に、位相オフセットにより測定されるAC散乱対DC散乱の変動は、探索される細動脈の総量に関する情報を生じ得る。
【0022】
周波数と吸収イベント間の平均時間との積が1よりはるかに大きい変調周波数の場合、組織ベッド上で互いから距離rに配置される2点間の位相変化は、関係式、
【数1】

で与えられ得る。但し、cは光の速度であり、ωは変調の角周波数であり、
【数2】

は低減された散乱係数である。組織ベッドの低減された散乱係数は、血液成分および周辺組織成分の両方で構成される。これは、
【数3】

と書き表されることが可能である。単一波長におけるこの方程式の時変成分は、概して動脈血に起因する部分のみとなる。第2の波長におけるこの方程式の時変成分は、散乱係数の逆畳み込みを考慮する。血液の散乱係数は、関係式、
【数4】

によってヘマトクリット値(HCT)に関係づけられる。但し、gは異方性係数であり、σは赤血球の散乱断面であり、Viは赤血球の量であり、HCTはヘマトクリット値である。
【0023】
したがって、変調器64が十分に高い周波数で動作する場合、測定された光子密度波の位相変化は観察される体積における散乱粒子の数の計算に利用されてもよい。例えば、モニタ12は、センサ14から位相シフトおよび/または振幅データを受信しかつモニタ12に表示するために探索組織内の散乱粒子の量に関する値を計算するように構成されてもよい。具体的には、モニタ12は、メモリ48に格納されかつこのような計算を実行するように構成される命令またはアルゴリズムを含んでもよい。
【0024】
高周波数で変調された光子密度波の位相変化測定値の、探索される媒体における散乱粒子の数に対する相関作用の一例として、図3は、2つの異なる周波数における、散乱に起因する位相変化のシミュレーションを表すグラフ対を含んでいる。具体的には、図3は、各々103.4MHzおよび1.034GHzの周波数で変調されている890nmにおける光子密度波の動脈脈動(ヘモグロビン15g/dL)の散乱変動に起因する位相変化(測定単位、度)のシミュレーションを表す第1のグラフ102と第2のグラフ104とを含む。第1のグラフ102における103.4MHzから第2のグラフ104における1.034GHzへの周波数の増加が約3から4度の位相変化をもたらすことは留意されるべきである。この変化は、光子密度波の波面間距離の低減と相関している。言い替えれば、波間距離は変調速度103.4MHz(第1のグラフ102)から変調速度1.034GHz(第2のグラフ104)までよりさらに低減され、かつ吸収の機会はあまりないことから、より高い変調速度の位相変化は、より具体的には散乱に対応する。実施形態によっては、図3に示されているものと図4に示されているものとの間の周波数領域は、光子密度波の異なる周波数における組織の特性をプロファイルするために掃引されてもよい。
【0025】
散乱は、位相変化に基づいて定量化されてもよい。具体的には、先に述べたように、周波数と吸収イベント間の平均時間との積が1よりはるかに大きい変調周波数の場合、2点間の位相変化は、関係式、
【数5】

によって与えられ得る。動脈脈動に起因する位相の変化は、赤血球数の濃度変化に起因する媒体の散乱係数の変化に直に関係づけられ得る。位相からの散乱変化と相関するための第2の方法が、組織ファントムまたは臨床データから決定される較正曲線を包含する可能性もあることは留意されるべきである。
【0026】
図4は、幾つかの実施形態による、交差結合されたLEDにより駆動されるソース変調信号の一例を示す。具体的には、図4は、赤色光源またはIR光源を含むLED36等のエミッタを起動しかつ/または停止するために変調器64によって発生され得る制御信号200を示している。他の実施形態では、各光源および/または追加の光源用に別々の変調器が利用されてもよい。実際に、複数のエミッタが利用される場合、各エミッタは別々の変調器によって変調されてもよい。
【0027】
図示されている実施形態では、制御信号200は経時的に、暗い区間202と、電力が赤色LEDへ供給されている区間204と、電力がIR LEDへ供給されている区間206とを表している。さらに、制御信号200は、参照符号208で示される周期を有する。この周期208は、LED36の各々が光子密度波を発生させるために、所望される周波数(例えば、約100から1000MHz)で変調され得るように調整されてもよい。変調周波数に対するこのような調整は、光子密度波における位相シフトの検出、よってこのような位相シフトに基づく散乱の変動の検出を容易にし得る。当業者には認識され得るように、制御信号200は異なるシナリオで調整または修正されてもよい。例えば、制御信号200は略正弦波的であるように調整されてもよく、様々な強度レベルを包含するように、等々と調整されてもよい。波の正弦波的性質は波発生器によって制御されてもよく、強度レベルは、より多くの電力を提供することによって、かつ/または暗い区間を減らして光が放射される時間長を大きくすることによって調整されてもよい。
【0028】
先に示したように、光子密度波の位相は散乱係数の変化に感応する場合があり、一方で光子密度波の振幅は媒体内の吸収体の濃度に感応する場合がある。具体的には、振幅測定に関して、AC振幅およびDC振幅は体積内の吸収に関する情報を生ずる場合がある。したがって、光子密度波の振幅変化の検出は、観察媒体における血液酸素飽和度値等の吸収体濃度値を計算するために利用されてもよい。このような計算は、2つの波長における光子密度波の振幅の定値および変調された値に関する一般的な比の比(ratio−of−ratios)(すなわち、ratrat)技術を用いて行われてもよい。比の比の値が得られると、これは臨床的較正曲線からの飽和度へマッピングされてもよい。
【0029】
位相シフトの測定に関しては、光子密度波の波長が平均吸収係数のそれを下回ると、位相は、ほぼ例外なく散乱係数の関数になる。探索されている組織ベッドに依存するが、これは概して約500MHzの範囲内の変調周波数で発生するものと思われる。したがって、位相シフトの測定は、局部的な探索体積における赤血球または赤色血液細胞の数に関する情報を生じ得る。先に論じたHCTは、赤血球の数に比例する。したがって、周波数掃引により、一般的なパルス酸素濃度測定値並びにパドルヘマトクリットに関連する多パラメータ出力が取得され得る。
【0030】
所定の周波数における振幅および位相は、周波数と吸収イベント間の平均時間との積が1よりはるかに大きくなるまでは、所定の波長における散乱および吸収係数に比例し得る。周波数と吸収イベント間の平均時間との積が1よりはるかに大きい場合、振幅は吸収の関数であり、かつ位相は単に散乱の関数である。したがって、血液の低減された散乱係数の単一値および吸収係数の単一値の決定におけるエラーを減らすために周波数掃引が用いられてもよい。実際に、実施形態によっては、振幅および位相情報は共に、単位体積当たりの合計ヘモグロビン値を生ずるために利用されてもよい。
【0031】
実施形態によっては、十分な周波数で光源を変調し、よって散乱粒子に対応する検出可能な位相シフトを容易にすることによって、本実施形態は、血流パラメータの測定に特別な確度を提供し得る。実際に、光子密度波の検出された振幅は、従来のパルス酸素測定情報を計算するために利用されてもよく、位相は、このような値が正しい(例えば、所定の誤差範囲内である)ことを確定するために利用されてもよい。例えば、振幅情報は血液酸素飽和度(S)の値を計算するために利用されてもよく、経験的データは、特定のS値が所定の周波数における特定の位相変動に対応するものであることを指示し得る。言い替えれば、振幅の変化として観察される吸収体の所定の増加を伴うはずの所定の位相変化が存在し得る。測定された位相シフトおよび振幅変化に基づく様々なアルゴリズム(例えば、支持ベクトルマシン、クラスタ解析、ニューラルネットワークおよびPCA等の学習ベースのアルゴリズム)は、振幅シフトおよび位相シフトが知られているSと相関するかどうかを決定するために比較されてもよい。測定された振幅シフトおよび位相シフトが知られているSと相関する場合、測定されたS値は適切と見なされ、かつ正しいS値として表示され、または利用されてもよい。あるいは、測定された振幅シフトおよび位相シフトが一致しない場合、計算されたS値は不正である、または多すぎるノイズを含むものとして識別され、よって放棄され得る。
【0032】
実施形態によっては、図5から図7に示されているように、複数のエミッタおよび/または検出器配置は互いに関連して利用されてもよい。具体的には、図5は第1のエミッタ302と第2のエミッタ304とを示し、エミッタ302、304の各々は赤色光源とIR光源(例えば、LED)とを含む。波306は、エミッタ302、304から組織を介して第1の検出器310および第2の検出器312へ伝播する光子密度波を表す。当業者には理解されるであろうが、複数のエミッタは同じ組織ベッド内で別々の波を発生していることから、波は、各エミッタ302、304の変調周波数を調整することによって互いに干渉させられ合うことが可能である。したがって、複数のエミッタは、組織を介する強度を操舵して組織内の強度パターンを調整するために利用されてもよい。例えば、光子密度波の位相は、第1の検出器310における任意の信号を完全に無効にするようにして調整されることも可能である。したがって、第1の検出器310が信号を検出する場合、それはノイズを示し得る。
【0033】
図6は、複数のエミッタ400と1つの検出器402とを含む実施形態を示している。この実施形態は、局部的な組織成分の測定を考慮する(所定の波長における)エミッタの相対位相を調整することによって組織ベッド内のアダプティブな建設的/破壊的干渉パターンを発生させるために利用されてもよい。これらは、1つの検出器によって決定される位相および振幅変化において可視的となる。
【0034】
複数のエミッタを利用する他の実施形態では、光子密度波の干渉は、エミッタ間の相対位相を変えることによって探索体積を介する光子密度波の掃引を容易にし得る。例えば、このような技術は、パルス酸素測定法および検血法技術において使用するための光子密度波の「位相アレイ」を確立するために利用されてもよい。実際に、このような「位相アレイ」技術は、探索組織における脈動信号に富む領域の識別および/または光子密度波の干渉を介するセンサの較正を容易にし得る。例えば、個々の波の位相は、媒体内の強度プロファイルを決定するために制御されてもよい。
【0035】
強い脈動信号の達成を容易にするためには、脈動信号に富む領域を検出することが望ましい場合がある。例えば、動脈または動脈の特有の一部をも含む組織内の特定のロケーションに集中することが望ましい場合がある。集中が脈動に富む領域に留まることを保証するために、周期的な掃引が実行されてもよい。さらに、このような技術は、低飽和度の領域および/または閉塞が貧血状態を引き起こし得る探索組織内の領域を識別するために利用され得るアダプティブな測定システムを定義する場合がある。さらに、複数のエミッタの使用は、異なる皮膚および/または組織特性等の患者間の異なる生理学的変化へのセンサの適応を容易にし得ると思われる。
【0036】
図7は、複数の検出器500と1つのエミッタ502とを含む実施形態を示している。この実施形態は、非生理学的アーチファクトを識別するために利用されてもよい。複数の検出器500は各々、互いに対して異なる位相および振幅の関連性を有してもよい。複数の検出器500間の無相関の位相および振幅変化は、ノイズアーチファクト、センサオフ、等々のような非生理学的アーチファクトに繋がるものと思われる。
【0037】
組織ベッド周辺における複数の検出器の包含は、典型的には既存のパルス酸素測定技術を悩ます様々なノイズアーチファクトの検出および/またはその補償を容易にする場合がある。実際に、所定の波長に関して、動脈脈動と相関される複数の検出器間の位相および振幅の時変関係性が確立されてもよい。位相および振幅情報は、生理学的測定値を含む単一波長のための有界パラメータ空間を生ずる位相空間を形成してもよい。ノイズアーチファクトは、後にさらに詳しく説明するように、典型的にはこの有界エリアの外部に存在する。さらに、第2の波長の追加は、超空間における決定平面の制約に起因するノイズアーチファクトの低減を容易にする4次元的生理学的測定空間の形成を容易にする場合がある。単一波長に関する相関された位相および振幅変化は、細動脈密度、現実的なヘマトクリット数値、等々のような生理学的パラメータによって境界を付けられる。単一波長において、これらの境界は、2次元空間において検出される振幅および位相に対する境界となる。これらの同じ境界が、第2の波長にも当てはまる。4次相関(位相(波長1)、位相(波長2)、振幅(波長1)、振幅(波長2))は、リンクされる4次元空間内の生理学的因子によって境界を付けられる。境界は、その空間内の超平面として描かれることが可能である。例えば、クラスタ解析、ニューラルネットワークおよび部分最小二乗(PLS)アルゴリズムは、決定平面を発生させかつ様々なノイズアーチファクトを補償するために用いられてもよい。
【0038】
幾つかの実施形態において、かつ一例として、図8は、振幅604および位相シフト606によって特徴づけられる生理学的状態602を表す2次元プロット600を示している。位相シフトおよび/または振幅データが経験的データに基づいて適正に特徴づけられていれば、所定の相関性は、圧力の変化(例えば、センサの取付けがきつすぎる)、しゃ血を受けている所定の組織部位、センサがオフである、ノイズが存在している、等々を示し得る。プロット600は、所定の周波数における単一波長を表している。したがって、所定の周波数における複数の波長は、各々、予測される振幅および位相の変動に関してこのタイプの生理学的空間を有することになる。ノイズアーチファクト608は概して、この有界パラメータ空間または生理学的レジームの外側に存在する。したがって、測定値が生理学的レジームより外にあれば、これは多すぎるノイズを含むものとして放棄されてもよい。測定値が放棄されると、これは、先行する測定値または履歴値の何らかの組合せによって置換されてもよい。例えば、履歴値は、ノイズのある現行の測定値との置換を行うために平均化ルーチンを用いて平均化されてもよい。
【0039】
本開示の実施形態は様々な修正および代替形状をとりやすい場合があるが、本明細書では特定の実施形態が詳述され、図面では例として示されている。しかしながら、本実施形態が開示されている特定の形態に限定されるべきものでないことは理解されなければならない。むしろ本実施形態は、以下に添付される請求の範囲によって規定される本実施形態の精神および範囲内にある全ての修正、同等物および代替物を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視システムであって、
組織内へ光を放射することができるエミッタと、
光子密度波を発生させるために、概して50MHzから3GHzまでの範囲内の変調周波数で光を変調することができる変調器と、
振幅変化および位相シフトを含む光子密度波の相対特性を検出することができる検出器と、
位相シフトに基づいて、組織の生理学的パラメータの値に関する決定を下すことができるプロセッサと、
生理学的パラメータの値をユーザへ提示することができるディスプレイ要素とを備える監視システム。
【請求項2】
プロセッサは、相対特性に基づく計算が相補的であるかどうかに基づいて、決定された生理学的パラメータの値を拒絶または受諾することができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
変調器が光を約100MHzから1GHzまでにおいて変調することができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
プロセッサが、検出された位相シフトに基づいて組織内の散乱粒子の推定数を計算することができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
複数のエミッタを備え、変調器が複数の変調周波数で組織を掃引するために複数のエミッタからの光を変調することができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
変調器がDVD R/Wドライバ回路を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
位相アレイを確立することができる複数のエミッタと、脈動信号に富む組織領域および/または飽和度が低い組織領域を識別するために位相アレイを利用することができる第2の計算コンポーネントとを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
振幅変化および位相シフトに基づく計算値の画定された範囲に基づいてノイズアーチファクトを識別することができるノイズ検出要素を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
変調器が、パルス酸素測定および検血技術において使用するための光子密度波の位相アレイを確立することができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
媒体内に光子密度波を発生させるために、100MHzから3GHzまでの範囲内の変調周波数で光を変調することと、
光子密度波における相対的な振幅変化および位相シフトを検出することと、
位相シフトに基づいて、媒体内の散乱粒子に関連する生理学的値を検出しかつグラフに表示することを含む、方法。
【請求項11】
約100MHzから1GHzまでにおいて光を変調することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
位相シフトに基づいて、媒体内の散乱粒子の数に関する値を計算することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
光子密度波の位相アレイを発生させるために複数の発光を変調することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
光子密度波の位相アレイに基づいて脈動信号に富む領域を識別することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
光子密度波の位相アレイに基づいて飽和度が低い領域を識別することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
変調周波数が500MHzから1GHzまでの範囲内である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
複数の光源から媒体内へ光を放射することと、
光子密度波を発生させるために、複数の光源からの光を異なる周波数で変調することであって、異なる周波数が約100MHzから1GHzまでであることと、
調和された波特性を確立するために、複数の光源の変調を調和させることと、
媒体を通過した後の光子密度波の相対特性の検出に基づいて、媒体の生理学的特徴の値を計算することを含む、方法。
【請求項18】
調和された波特性が定義された生理学的レジームの範囲内であるかどうかに基づいてノイズを識別することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
調和された波特性が指定された媒体領域内に集中された波の強度を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
較正を容易にするために、媒体を複数の変調周波数で掃引することを含む、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−504037(P2012−504037A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530092(P2011−530092)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/056952
【国際公開番号】WO2010/039418
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(591191572)ネルコー ピューリタン ベネット エルエルシー (22)
【Fターム(参考)】