説明

光学ガラスの製造方法

【課題】脱泡剤の使用量を低減でき且つ充分に脱泡できる光学ガラスの製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラス原料を溶融し成形する光学ガラスの製造方法において、前記ガラス原料として、網目形成成分及び網目修飾成分を含む非ガラス状原料体と、この非ガラス状原料体が溶融され冷却されてガラス化したカレットと、を併用する。カレットとしては、非ガラス状原料体と網目形成成分及び網目修飾成分を構成するカチオン元素の物質量比が略同一のものを用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズを使用する光学機器の高機能化が急速に進められており、これに伴って光学レンズに対する高精度化の要求が強まっている。そこで、光学レンズの精度を低下する主要な原因である光学レンズ内への気泡残留を解消する必要がある。
【0003】
光学レンズ内への気泡残留を抑制するには、光学レンズを成形する前の溶融ガラスを脱泡することが有効である。従来、溶融ガラスの脱泡は、Sb等からなる脱泡剤をガラス材料に混合することで行われてきた(例えば、特許文献1参照)。つまり、高温にさらされると、Sbが分解反応を起こし、酸素ガスを溶融ガラス中へと放出する。これにより、溶融ガス中に滞留する微細な気泡が、酸素ガスに巻き込まれて外部へと排出されるため、溶融ガラスの脱泡を充分に行うことができる。
【特許文献1】特開2003−292338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、環境保護の観点等から、Sb等の脱泡剤の使用量を低減することが望まれる。
【0005】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、脱泡剤の使用量を低減でき且つ充分に脱泡できる光学ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、溶融されるガラス原料として、非ガラス状原料体と、ガラス化したカレットとを併用すると、中型又は大型の気泡が多量に発生し、溶融ガラス中の微細気泡をまきこんで外部へと排出することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) ガラス原料を溶融し成形する光学ガラスの製造方法であって、
前記ガラス原料として、網目形成成分及び網目修飾成分を含む非ガラス状原料体と、この非ガラス状原料体が溶融され冷却されてガラス化したカレットと、を併用する製造方法。
【0008】
(2) ガラス原料を溶融し成形する光学ガラスの製造方法であって、
前記ガラス原料として、網目形成成分及び網目修飾成分を含む非ガラス状原料体と、この非ガラス状原料体と前記網目形成成分及び網目修飾成分を構成するカチオン元素の物質量比が略同一のカレットと、を併用する製造方法。
【0009】
(3) 前記非ガラス状原料体として、実質的にSb成分を含まないものを用いる(1)又は(2)記載の製造方法。
【0010】
(4) 前記非ガラス状原料体として、溶融温度下で分解され、非金属元素を含むガスを放出するガス放出体を含むものを用いる(1)から(3)いずれか記載の製造方法。
【0011】
(5) 前記ガス放出体は、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物からなる群より選ばれる1種以上である(4)記載の製造方法。
【0012】
(6) 前記非ガラス状原料体よりも多量の前記カレットを用いる(1)から(5)いずれか記載の製造方法。
【0013】
(7) (1)から(6)いずれか記載の製造方法で製造される光学ガラスからなる精密プレス整形用プリフォーム。
【0014】
(8) (7)記載の精密プレス整形用プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【0015】
(9) (1)から(6)いずれか記載の製造方法で製造される光学ガラスからなる光学素子。
【0016】
(10) (8)又は(9)記載の光学素子を用いた光学機器。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス原料として非ガラス状原料体及びカレットを併用したので、非ガラス状原料体から中型又は大型の気泡が多量に発生し、カレット溶融時に発生する微細な気泡を巻き込んで外部に排出する。これにより、充分に脱泡できるため、脱泡剤を別途使用する必要性が低く、脱泡剤の使用量を低減できる。
【0018】
また、カレットとしては、非ガラス状原料体が溶融され冷却されたもの、又は網目形成成分及び網目修飾成分を構成するカチオン元素の物質量比が非ガラス状原料体と略同一であるものを用いたので、異なる素材をガラス原料に用いることによる光学特性(屈折率等)の低下を充分に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を説明するが、本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明に係る光学ガラスの製造方法は、非ガラス状原料体と、カレットと、を併用することを特徴とする。これにより、非ガラス状原料体から中型又は大型の気泡が多量に発生し、カレット溶融時に発生する微細な気泡を巻き込んで外部に排出する。
【0021】
つまり、非ガラス状原料体は、光学ガラスを構成する網目形成成分及び網目修飾成分が所定の比率で配合されたものであり、溶解ガラスの作製時の高温にさらされると、各成分の分解や原子価変化により、中型又は大型の気泡を多量に発生する傾向が強い。
【0022】
他方、カレットは、非ガラス状原料体が溶融され冷却されてガラス化されたものである。ガラス原料体として非ガラス状原料体を用いると、種々の変動要因の影響で、屈折率等の光学特性を所望値にするのが困難であることから、従来、ガラス化して光学特性が既知であるカレットを適宜組み合わせたガラス原料体を使用するのが一般的である。しかし、カレットは、溶融時に高温にさらされて中型又は大型の気泡が放出した後のものであるため、ガラス原料体としてカレットのみを用いると、カレット溶融時に発生する微細な気泡が溶融ガラスから排出されず、光学ガラスに残存しやすい。
【0023】
本発明においては、非ガラス状原料体及びカレットを併用することで、非ガラス状原料体から中型又は大型の気泡が多量に発生し、カレット溶融時に発生する微細な気泡を巻き込んで外部に排出する。これにより充分に脱泡でき、脱泡剤の使用量を低減できる。
【0024】
(非ガラス状原料体)
非ガラス状原料体の形態は、特に限定されず、粉末状又は塊状のいずれでもよいが、中型又は大型の気泡を積極的に溶融ガラス内に取り込むことができる点で、粉末状であることが好ましい。なお、非ガラス状原料体は、網目形成成分及び網目修飾成分の各々が互いに混合されたものであってもよいし、別々に単離されたものであってもよい。
【0025】
網目形成成分はガラスの骨格を形成するものであり、具体的には、SiO、Al及びB等が挙げられる。また、網目修飾成分はガラス骨格を変質させるものであり、具体的には、WO、フッ素、AgO、Bi、PbO、ZnO、SnO、B、MoO、LiO、BaO、TeO、Ta、NaO、P、Fe、CuO、CsO、Sb、及びCdO等が挙げられる。ここでは、各成分の例示として酸化物を主に列挙したが、これに限られず、後述のように硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物等であってもよい。
【0026】
上記各成分は、光学ガラスの所望の光学特性等に応じて適宜選択されてよい。ただし、環境保護の観点では、非ガラス状原料体として、Sb成分(例えばSb)の使用量の少ないもの、好ましくはSb成分を実質的に含まないものを用いることが好ましい。従来の光学ガラスの製造方法のように、ガラス原料としてカレットのみを用いる場合、カレットは既に高温にさらされ中型又は大型の気泡が放出した後のものであるため、Sb成分の使用量が低い又は実質的にゼロであると、脱泡が不充分になることが懸念される。これに対して本発明では、非ガラス状原料体を併用しているので、Sb成分の使用量にかかわらず中型又は大型の気泡が豊富に溶融ガラスへ放出されやすい。これにより、環境を保護しつつ、脱泡を充分に行うことができる。
【0027】
非ガラス状原料体は、溶融温度下で分解され、非金属元素を含むガスを放出するガス放出体を含むことが好ましい。これにより、非ガラス状原料体からより多量のガスが溶融ガラスへと放出され、微細な気泡の排出が更に促進される。
【0028】
ガス放出体の種類は、溶融温度(特に限定されないが、通常1200〜1400℃)に応じて適宜設定されてよく、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物等が挙げられ、これらを1種又は2種以上で使用してよい。特に限定されないが、ガス発生能に優れる点では、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物からなる群より選ばれる1種以上をガス放出体として用いることが好ましい。つまり、硝酸塩はNOxガスを、炭酸塩はCOxガスを、硫酸塩はSOxガスを、過酸化物はOガスを、塩化物はClガスをそれぞれ放出することが期待される。通常、網目形成成分及び網目修飾成分がガス放出体を兼ねることが想定されるが、これに限られず、網目形成成分及び網目修飾成分以外の成分としてガス放出体を用いてもよい。
【0029】
また、酸化作用によるガラス透過率の向上が望まれる場合には、ガス放出体として、酸素含有ガス(酸素元素を有する分子のガス)を放出するものを用いることが好ましい。酸素含有ガスとして、具体的にはNOxガス、COxガス、SOxガス、Oガスが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0030】
なお、本発明の製造方法は、従来の脱泡技術に代替するものではあるが、ガスを溶融ガラスへと導出する技術(いわゆるバブリング)や、脱泡剤の使用を除外するものではなく、これらの技術を併用してもよい。
【0031】
(カレット)
本発明の一実施形態では、カレットとして、併用される非ガラス状原料体が溶融され冷却されてガラス化したものを用いる。非ガラス状原料体を溶融して得られる溶融ガラスと、カレットを再溶融して得られる溶融ガラスとは、その組成が略一致しやすいので、所期の光学特性を有する光学ガラスを得やすい。
【0032】
本発明の別実施形態では、併用される非ガラス状原料体と網目形成成分及び網目修飾成分を構成するカチオン元素の物質量比が略同一のカレットを用いる。これにより、非ガラス状原料体を溶融して得られる溶融ガラスと、カレットを再溶融して得られる溶融ガラスとが、理論的には略一致するので、所期の光学特性を有する光学ガラスをより高確率で得ることができる。
【0033】
ここで、カチオン元素とは、ある化合物を構成する元素のうち、化合物が電離した際にカチオンとなる元素を指し、具体的には、Si、Al、B、W、Ag、Bi、Pb、Zn、Sn、B、Mo、Li、Ba、Te、Ta、Na、P、Fe、Cu、Cs、Sb、及びCd等が挙げられる。
【0034】
なお、カレットは、通常、大型の塊が破砕されたものであるが、これに限られず、任意の形状を有してよい。ただし、迅速に溶融できたり、使用量の微妙な調節を容易化できたりする点で、カレットは破砕物であることが好ましい。
【0035】
(使用量比)
非ガラス状原料体及びカレットの使用量比は、特に限定されず、適宜設定されてよい。ただし、非ガラス状原料体の使用量比が増すにつれ、脱泡作用の向上が期待できる一方、カレットの使用量比が減るため、ガラス溶融時の光学定数のバラツキが大きくなりやすく、所望の光学特性を得るのが困難になりやすい。そこで、非ガラス状原料体よりも多量のカレットを用いる(つまり、ガラス原料におけるカレットの使用量を50質量%以上にする)ことが好ましい。これにより、脱泡を充分に達成でき且つ所望の光学特性を有する光学ガラスを容易に作製できる。
【0036】
より具体的には、ガラス原料における非ガラス状原料体の使用量は、下限が1%であることが好ましく、5%であることがより好ましく、10%であることが最も好ましく、上限が50%であることが好ましく、45%であることがより好ましく、40%であることが最も好ましい。
【0037】
溶解槽への非ガラス状原料体及びカレットの投入は、互いに混合された状態で行うことが好ましい。これにより、非ガラス状原料体から放出される中型又は大型の気泡が、カレット溶融時に発生する微細な気泡を高効率に巻き込むため、脱泡をより充分に行うことができる。ただし、これに限られず、非ガラス状原料体及びカレットを別々に投入してもよく、この場合、それぞれの投入は同時であっても、独立であってもよい。
【0038】
以上説明した本発明の製造方法を用いて製造される光学ガラスは、脱泡が充分になされているため、優れた光学特性を有する。このため、この光学ガラスからなるプリフォームを精密プレス成形等の成形を行うことで、高精度を有するレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子を得ることができる。なお、プリフォームを介さず、光学ガラスから直接的に成形してなる光学素子も同様に有用である。また、これらの光学素子を用いた光学機器も本発明に包含される。
【0039】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を溶融し成形する光学ガラスの製造方法であって、
前記ガラス原料として、網目形成成分及び網目修飾成分を含む非ガラス状原料体と、この非ガラス状原料体が溶融され冷却されてガラス化したカレットと、を併用する製造方法。
【請求項2】
ガラス原料を溶融し成形する光学ガラスの製造方法であって、
前記ガラス原料として、網目形成成分及び網目修飾成分を含む非ガラス状原料体と、この非ガラス状原料体と前記網目形成成分及び網目修飾成分を構成するカチオン元素の物質量比が略同一のカレットと、を併用する製造方法。
【請求項3】
前記非ガラス状原料体として、実質的にSb成分を含まないものを用いる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記非ガラス状原料体として、溶融温度下で分解され、非金属元素を含むガスを放出するガス放出体を含むものを用いる請求項1から3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
前記ガス放出体は、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物からなる群より選ばれる1種以上である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記非ガラス状原料体よりも多量の前記カレットを用いる請求項1から5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6いずれか記載の製造方法で製造される光学ガラスからなる精密プレス整形用プリフォーム。
【請求項8】
請求項7記載の精密プレス整形用プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【請求項9】
請求項1から6いずれか記載の製造方法で製造される光学ガラスからなる光学素子。
【請求項10】
請求項8又は9記載の光学素子を用いた光学機器。

【公開番号】特開2010−52998(P2010−52998A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221336(P2008−221336)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】