説明

光学ガラス

【課題】低いガラス転移温度(Tg)及び高屈折率低分散性を有し、化学的耐久性、特に表面法耐候性に優れ、精密モールドプレス成形に適した光学ガラスを提供する。
【解決手段】屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO2、B23、を含有し、Bの含有量は22質量%以下であり、かつ、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、からなる群より選択される1種以上の成分を含有し、さらに10質量%以下のGd23を含有し、ガラス転移点(Tg)が580℃以下、表面法耐候性が級1または級2であることを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低いガラス転移温度(Tg)及び高屈折率低分散性を有し、化学的耐久性、特に表面法耐候性に優れ、精密モールドプレス成形に適した光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
光学系を構成するレンズには一般に球面レンズと非球面レンズがある。多くの球面レンズは、ガラス材料をリヒートプレス成形して得られたガラス成形品を研削研磨することによって製造される。一方、非球面レンズは、加熱軟化したレンズプリフォーム材を、高精度な成形面をもつ金型でプレス成形し、金型の高精度な成形面の形状をレンズプリフォーム材に転写して得る方法、すなわち、精密モールドプレス成形によって製造されることが主流となっている。
【0003】
精密プレス成形によって非球面レンズのようなガラス成形品を得るにあたっては、前述したように高温環境下でプレス成形することが必要であるので、この際使用する金型も高温に曝され、また、金型に高いプレス圧力が加えられる。そのため、レンズプリフォーム材を加熱軟化させる際及びレンズプリフォーム材をプレス成形する際に、金型の成形面が酸化、侵食されたり、金型成形面の表面に設けられている離型膜が損傷したりして金型の高精度な成形面が維持できなくなることが多く、また、金型自体も損傷し易い。そのようになると、金型を交換せざるを得ず、金型の交換回数が増加して、低コスト、大量生産を実現できなくなる。そこで、精密プレス成形に使用するレンズプリフォーム材となるガラスは、上記損傷を抑制し、金型の高精度な成形面を長く維持し、かつ、低いプレス圧力での精密プレス成形を可能にするという観点から、できるだけ低いガラス転移温度(Tg)を有することが望まれている。
【0004】
精密プレス成形を行う場合、そのレンズプリフォーム材となるガラスは表面が鏡面、あるいはそれに近い状態である必要がある。レンズプリフォーム材の作製法は、滴下法によって熔融ガラスから直接作製される方法と研削研磨によって作製される方法が一般的であるが、コストや工程数を考慮すると前者の方法がより一般的に用いられている。滴下法によって得られたレンズプリフォーム材はゴブあるいはガラスゴブと呼ばれる。精密プレス成形用の光学ガラスは一般に化学的耐久性が悪く、前記したゴブ表面にヤケを生じ、鏡面あるいは鏡面に近い状態を保てなくなるという欠点がある。特に作製後のゴブを保管する場合などに問題となり、化学的耐久性の中でも表面法耐候性が重要な特性となる。
【0005】
以上の理由より、光学設計上の有用性という観点で従来から高屈折率低分散性を有し、ガラス転移温度(Tg)が低く、表面法耐候性の優れた光学ガラスが強く求められている。
【0006】
特に、屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有する高屈折率低分散性の光学ガラスが強く求められている。
【0007】
高屈折率低分散性の光学ガラスは光学設計上非常に有用であるため、古くから種々のガラスが提案されている。
【0008】
特開平6−305769号公報、特開2002−362938号公報、特開2003−201142号公報、特開2002−12443号公報、および特開2003−252647号公報には、ガラス転移点(Tg)の低い光学ガラスが開示されている。しかし、これらの公報に具体的に開示されている光学ガラスは、質量%の比率でZnO/SiO2が2.8以上、B23/SiO2が3.2以下、SiO2、B23、La23、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、ZnO、Li2Oの合計含有量が96質量%を超え、の範囲外にあるため、表面法耐候性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−305769号公報
【特許文献2】特開2002−362938号公報
【特許文献3】特開2003−201142号公報
【特許文献4】特開2002−12443号公報
【特許文献5】特開2003−252647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記背景技術に記載した光学ガラスに見られる諸欠点を総合的に解消し、前記の光学定数を有し、ガラス転移温度(Tg)が低く、表面法耐候性に優れ、精密モールドプレス成形に適した光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、特定量のSiO2、B23、La23、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、ZnO、Li2Oを含有させることにより、前記の光学定数を有し、ガラス転移温度(Tg)が低く、表面法耐候性に優れ、精密モールドプレス成形に適した光学ガラスが得られた。
【0012】
本発明の第1の構成は、屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO2、B23、を含有し、Bの含有量は22質量%以下であり、かつ、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、からなる群より選択される1種以上の成分を含有し、さらに10質量%以下のGdを含有し、ガラス転移点(Tg)が580℃以下、表面法耐候性が級1または級2であることを特徴とする光学ガラスである。
【0013】
本発明の第2の構成は、屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO2、B23、La23、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、ZnO及びLi2Oを含有し、Bの含有量は22質量%以下であり、さらに10質量%以下のGdを含有し、実質的に鉛成分、ヒ素成分を含まず、かつZnO/SiO2が2.8以上、ガラス転移温度(Tg)が580℃以下、表面法耐候性が級1または級2であることを特徴とする光学ガラスである。
【0014】
本発明の第3の構成は、前記構成1または2の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材である。
【0015】
本発明の第4の構成は、前記構成3のレンズプリフォーム材を精密プレス成形してなる光学素子である。
【0016】
本発明の第5の構成は、前記構成1または2の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の光学ガラスの各成分について説明する。以下、特に断らない限り各成分の含有率は質量%を意味する。
【0018】
SiO2成分は、本発明の光学ガラスにおいて、ガラスの粘度を高め、耐失透性および表面法耐候性を向上させるのに非常に有効であり、欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎるとガラス転移温度(Tg)の上昇や熔融性が悪くなる。従って、好ましくは6%、より好ましくは6.01%、最も好ましくは6.02%を下限として含有することができ、好ましくは10%、より好ましくは9%、最も好ましくは8%を上限として含有することができる。
SiOは、原料として例えばSiO等を使用してガラス内に導入される。
【0019】
23成分は、ランタン系ガラスである本発明の光学ガラスにおいて、ガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎると耐失透性が不十分となり、多すぎると表面法耐候性が悪くなる。従って、好ましくは12%、より好ましくは13%、最も好ましくは14%を下限として含有することができ、好ましくは24%、より好ましくは22%、最も好ましくは20%を上限として含有することができる。
【0020】
23は、原料として例えばH3BO3、B23等を使用してガラス内に導入される。
【0021】
La23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効であり高屈折率低分散性を有する本発明のガラスに欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎるとガラスの光学定数の値を前記範囲内に維持し難く、多すぎると耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは26%、より好ましくは28%、最も好ましくは30%を下限として含有することができ、好ましくは42%、より好ましくは41%、最も好ましくは40%を上限として含有することができる。
【0022】
La23は、原料として例えばLa23、硝酸ランタン又はその水和物等を使用してガラス内に導入される。
【0023】
ZrO2成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善し、表面法耐候性を向上させる効果が顕著であり、欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると逆に耐失透性が悪くなるうえ、ガラス転移温度(Tg)を所望の低い値に維持し難くなる。従って、好ましくは1.5%、より好ましくは1.55%、最も好ましくは1.6%を下限として含有することができ、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは6%を上限として含有することができる。
【0024】
またZrO2は、原料として例えばZrO2等を使用してガラス内に導入される。
【0025】
Nb25成分は、屈折率を高め、表面法耐候性及び耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると逆に耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは1%、より好ましくは2%、最も好ましくは3%を下限として含有することができ、好ましくは10%、より好ましくは9%、最も好ましくは8%を上限として含有することができる。
【0026】
またNb25は、原料として例えばNb25等を使用してガラス内に導入される。
【0027】
Ta25成分は、屈折率を高め、表面法耐候性及び耐失透性を改善する効果が顕著であり、欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると上記範囲の光学定数を維持し難くなる。従って、好ましくは1%、より好ましくは2%、最も好ましくは3%を下限として含有することができ、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0028】
またTa25は、原料として例えばTa25等を使用してガラス内に導入される。
【0029】
WO3成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると逆に耐失透性や可視光領域の短波長域の光線透過率が悪くなる。従って、好ましくは1%、より好ましくは2%、最も好ましくは3%を下限として含有することができ、好ましくは10%、より好ましくは9%、最も好ましくは8%を上限として含有することができる。
【0030】
またWO3は、原料として例えばWO3等を使用してガラス内に導入される。
【0031】
ZnO成分は、ガラス転移温度(Tg)を低くする効果が大きく、欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは16%、より好ましくは20%を超え、最も好ましくは20.5%を下限として含有することができ、好ましくは26%、より好ましくは25%、最も好ましくは24%を上限として含有することができる。
【0032】
またZnOは、原料として例えばZnO等を使用してガラス内に導入できる。
【0033】
Li2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果を有するため、欠かすことのできない成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると耐失透性が急激に悪化する。従って、好ましくは0.6%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは1%を下限として含有することができ、好ましくは4%、より好ましくは3.5%、最も好ましくは3%を上限として含有することができる。
【0034】
またLi2Oは、原料として例えばLi2O、Li2CO3、LiOH、LiNO3等を使用してガラス内に導入できる。
【0035】
Sb23成分は、ガラス溶融時の脱泡のために任意に添加しうるが、その量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、好ましくは1%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限として含有できる。
【0036】
Gd23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性および表面法耐候性が悪くなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは4%未満、最も好ましくは2%を上限として含有することができる。
【0037】
またGd23は、原料として例えばGd23等を使用してガラス内に導入される。
【0038】
GeO2成分は、屈折率を高め、耐失透性を向上させる効果を有する成分であるが、原料が非常に高価であるため、好ましくは5%を上限とし、より好ましくは4%未満、最も好ましくは2%を上限として含有できる。
【0039】
またGeO2は、原料として例えばGeO2等を使用してガラス内に導入される。
【0040】
Al23成分は、化学的耐久性の改善に効果があり、特に表面法耐候性の改善に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは4%未満、最も好ましくは2%を上限として含有することができる。
【0041】
またAl23は、原料として例えばAl23、Al(OH)3等を使用してガラス内に導入される。
【0042】
TiO2成分は、光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果がある。しかしその量が多すぎると逆に耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは4%未満、最も好ましくは2%を上限として含有することができる。
【0043】
TiO2は、原料として例えばTiO2等を使用してガラス内に導入される。
【0044】
RO成分(MgO、CaO、SrO及びBaO成分から選ばれる1種又は2種以上の成分)は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪くなる。従って、好ましくは10%、より好ましくは4%未満、最も好ましくは2%を上限として含有することができる。
【0045】
RO成分は、原料として例えばMgO、CaO、SrO、BaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0046】
なお、上記ガラス中に存在する各成分を導入させるために使用される原料は、例示の目的で記載したものであり、上記列挙された酸化物等に限定されるものではない。従って、ガラス製造の条件の諸変更に適宜対応させて、公知の材料から選択できる。
【0047】
本発明者は、前記範囲内の光学定数において、SiO2成分とB23成分の含有量の比を所定の値に調節することにより、表面法耐候性が向上することを見出した。すなわちB23/SiO2の値が、3.2以下であることが好ましく、3.18以下であることがより好ましく、3.17以下であることが最も好ましい。
【0048】
また、本発明者は、前記範囲内の光学定数において、SiO2成分とZnO成分の含有量の比を所定の値に調節することにより、表面法耐候性が向上することを見出した。すなわちZnO/SiO2の値が、2.8以上であることが好ましく、2.82以上であることがより好ましい。また、表面耐候性を級1とするためには特に3.3以上かつ3.7以下の範囲にすることが好ましい。
【0049】
また、本発明者は、前記範囲内の光学定数において、SiO2、B23、La23、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、ZnO、Li2Oの合計含有量が96質量%を超える場合に、表面法耐候性が向上することを見出した。すなわち、上記合計含有量が、96質量%を超えることが好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上が最も好ましい。
【0050】
さらに、所望の光学定数を維持し、かつ良好な耐候性を維持するためには、SiO2、B23、La23、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、ZnO、Li2Oの合計含有量、B23/SiO2の値、ZnO/SiO2の値を同時に上記所定の好ましい範囲内にするほうがよい。
【0051】
なお、本明細書中において「表面法耐候性」とは、レンズプリフォーム材、すなわちゴブを精密プレス成形前に保管する場合を想定しているため、保管環境で一定期間曝された時のヤケの状態の優劣のことを示す。
【0052】
具体的には、試験片として30mm×30mm×3mmの研磨面を有する試料を使用して、50℃相対湿度85%の恒温恒湿槽の中で24時間曝した後、50倍の顕微鏡で研磨面を観察しヤケの状態を観察する。判定基準は、24時間試験した試料を照度6000ルックスで観察したときに全くヤケが認められないものを級1、1500ルックスで観察したときにヤケが認められず6000ルックスで認められるものを級2、1500ルックスで観察したときにヤケが認められるものを級3とした。なお、級3については新たに50℃相対湿度85%の恒温恒湿槽の中で6時間曝した後、50倍の顕微鏡で研磨面を観察し、1500ルックスでヤケが認められるものを級4とした。ヤケが認められない場合は級3のままとする。なお、当該方法はOHARA OPTICAL GLASS カタログ 2002Jの第13頁に記載の公知の方法である。
【0053】
本発明の光学ガラスにおいて要求される表面法耐候性は、好ましくは級3、より好ましくは級2、最も好ましくは級1である。
【0054】
Lu23、Hf23、SnO2、Ga23、Bi23、BeOの各成分は含有させることは可能であるが、Lu23、Hf23、Ga23は高額原料であるため原料コストが高くなり実際の製造においては現実的ではなく、SnO2は白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際に錫と白金が合金化して合金となった箇所は耐熱性が悪くなり、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮され、Bi23、BeOは、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分である、という問題がある。従って、好ましくは0.1%未満、より好ましくは0.05%を上限として含有され、最も好ましくは含有しない。
【0055】
23は、耐失透性を著しく悪化させるという問題がある。従って、好ましくは0.1%未満、より好ましくは0.05%を上限として含有され、最も好ましくは含有しない。
【0056】
次に、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない成分について説明する。
【0057】
弗素成分は、レンズプリフォーム材となるゴブを作製する際に揮発による脈理などを発生するため、ゴブの作製が困難である。従って、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0058】
鉛化合物は、精密プレス成形時に金型と融着しやすい成分であるという問題並びにガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0059】
As23、カドミウム及びトリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0060】
25は、本発明の光学ガラスに含有させると、耐失透性を悪化させやすいのでP25を含有させることは好ましくない。
【0061】
TeO2は、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際、テルルと白金が合金化し、合金となった箇所は耐熱性が悪くなるため、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮されるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0062】
さらに本発明の光学ガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0063】
また、本発明のガラス組成物は、その組成が質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各酸化物のモル%表示による組成は、概ね以下の値をとる。
SiO2 10〜20%、
23 20〜45%、
La23 7〜17%、
ZrO2 1.5〜10%
Nb25 0.5〜5%
Ta25 0.2〜3.5%
ZnO 20〜38%及び
Li2O 2〜16%、
並びに
Gd23 0〜4%未満
GeO2 0〜4%未満及び/又は
Al23 0〜4%未満及び/又は
TiO2 0〜4%未満及び/又は
RO 0〜4%未満
ただし、ROは、MgO、CaO、SrO及びBaOから選ばれる1種又は2種以上、及び/又は
Sb23 0〜0.5%
【0064】
なお、本発明の光学ガラス中において、SiO2成分はガラスの粘度を高め、耐失透性および表面法耐候性を向上させるのに効果があり、好ましくは20mol%、より好ましくは17mol%、最も好ましくは14mol%を上限として含有することができ、好ましくは10mol%、より好ましくは10.5mol%、最も好ましくは11mol%を下限として含有することができる。
【0065】
本発明の光学ガラス中において、B23成分はガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分であり耐失透性を向上させる効果があり、好ましくは45mol%、より好ましくは40mol%、最も好ましくは35mol%を上限として含有することができ、好ましくは20mol%、より好ましくは24mol%、最も好ましくは26mol%、を下限として含有することができる。
【0066】
本発明の光学ガラス中において、La23成分はガラスの屈折率を高め、低分散化させる効果があり、好ましくは17mol%、より好ましくは16mol%、最も好ましくは15mol%を上限として含有することができ、好ましくは7mol%、より好ましくは8mol%、最も好ましくは9mol%を下限として含有することができる。
【0067】
本発明の光学ガラス中において、ZrO2成分は光学定数を調整し、耐失透性を改善し、表面法耐候性を向上させる効果があり、好ましくは10mol%、より好ましくは8mol%、最も好ましくは6mol%を上限として含有することができ、好ましくは1.5mol%、より好ましくは1.55mol%、最も好ましくは1.6mol%を下限として含有することができる。
【0068】
本発明の光学ガラス中において、Nb25成分は屈折率を高め、表面法耐候性及び耐失透性を改善する効果があり、好ましくは5mol%、より好ましくは4.5mol%、最も好ましくは4mol%を上限として含有することができ、好ましくは0.5mol%、より好ましくは1mol%、最も好ましくは1.5mol%を下限として含有することができる。
【0069】
本発明の光学ガラス中において、Ta25成分は屈折率を高め、表面法耐候性及び耐失透性を改善する効果があり、好ましくは3.5mol%、より好ましくは3mol%、最も好ましくは2.6mol%を上限として含有することができ、好ましくは0.2mol%、より好ましくは0.5mol%、最も好ましくは0.8mol%を下限として含有することができる。
【0070】
本発明の光学ガラス中において、WO3成分は光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果があり、好ましくは5mol%、より好ましくは4.5mol%、最も好ましくは4mol%を上限として含有することができ、好ましくは0.5mol%、より好ましくは1mol%、最も好ましくは1.5mol%を下限として含有することができる。
【0071】
本発明の光学ガラス中において、ZnO成分はガラス転移温度(Tg)を低くする効果があり、好ましくは38mol%、より好ましくは36mol%、最も好ましくは34mol%を上限として含有することができ、好ましくは20mol%、より好ましくは22mol%、最も好ましくは24mol%を下限として含有することができる。
【0072】
本発明の光学ガラス中において、Li2O成分はガラス転移温度(Tg)を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果があり、好ましくは16mol%、より好ましくは14mol%、最も好ましくは12mol%を上限として含有することができ、好ましくは2mol%、より好ましくは3mol%、最も好ましくは3.5mol%を下限として含有することができる。
【0073】
本発明の光学ガラス中において、Sb23成分はガラス溶融時の脱泡に効果があり、好ましくは0.5mol%、より好ましくは0.3mol%、最も好ましくは0.1mol%を上限として含有することができる。
【0074】
本発明の光学ガラス中において、Gd23成分はガラスの屈折率を高め、低分散化させる効果があり、好ましくは4mol%未満、より好ましくは3mol%、最も好ましくは1mol%を上限として含有することができる。
【0075】
本発明の光学ガラス中において、GeO2成分は屈折率を高め、耐失透性向上させる効果があり、好ましくは4mol%未満、より好ましくは3mol%、最も好ましくは1mol%を上限として含有できる。
【0076】
本発明の光学ガラス中において、Al23成分は表面法耐候性を向上させる効果があり、好ましくは4mol%未満、より好ましくは3mol%、最も好ましく1mol%を上限として含有できる。
【0077】
本発明の光学ガラス中において、TiO2成分は光学定数を調整し、耐失透性を改善する効果があり、好ましくは4mol%未満、より好ましくは3mol%、最も好ましく1mol%を上限として含有できる。
【0078】
本発明の光学ガラス中において、RO成分(MgO、CaO、SrO及びBaO成分から選ばれる1種又は2種以上の成分)は光学定数の調整に効果があり、好ましくは4mol%未満、より好ましくは3mol%、最も好ましく1mol%を上限として含有できる。
【0079】
次に本発明の光学ガラスの物性について説明する。
【0080】
前述のとおり、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、好ましくは屈折率(nd)が1.75〜1.85かつアッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、より好ましくは屈折率(nd)が1.76〜1.84かつアッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、最も好ましくは、屈折率(nd)が1.76〜1.84かつアッベ数(νd)が36〜44の範囲の光学定数を有する。
【0081】
本発明の光学ガラスにおいては、Tgが高くなりすぎると前述したように精密プレス成形を行う場合、成形型の劣化などが起こり易くなる。従って、本発明の光学ガラスのTgは好ましくは580℃、より好ましくは550℃、最も好ましくは530℃を上限とする。
また屈伏点Atは好ましくは620℃、より好ましくは610℃、最も好ましくは580℃以下とする。
【0082】
本発明の光学ガラスでは、下記製造方法により、安定した生産を実現するため、液相温度を1080℃以下とすることが重要である。より好ましくは1050℃以下、特に好ましくは1020℃以下とすることで、安定生産可能な粘度範囲が広くなり、また、ガラス熔解温度を下げることができるため、消費されるエネルギーを抑えることができる。
【0083】
液相温度とは、粉砕したガラス試料を白金板上にのせ、温度傾斜のついた炉内に30分間保持した後取り出し、冷却後、ガラス中の結晶の有無を顕微鏡にて観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。
【0084】
前述のとおり本発明の光学ガラスはプレス成形用のプリフォーム材として使用することができ、或いは熔融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。プリフォーム材の製造方法としては、例えば特開平8−319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229に記載の光学ガラスの製造方法及び製造装置のような熔融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、またストリップ材を冷間加工して製造しても良い。
【0085】
なお、本発明の光学ガラスを用いて熔融ガラスを滴下させてプリフォームを製造する場合、熔融ガラスの粘度は、低すぎるとガラスプリフォームに脈理が入りやすくなり、高すぎると、自重と表面張力によるガラスの切断が困難になる。
【0086】
従って、高品質かつ安定した生産のためには、液相温度における粘度(Pa・s)の対数logηの値が好ましくは0.4〜2.0、より好ましくは0.5〜1.8、最も好ましくは0.6〜1.6の範囲である。
【0087】
なお、プリフォームの精密プレス成形方法を特に限定するものではないが、例えば特公昭62−41180に記載の光学素子の成形方法のような方法を使用することができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明のガラスの実施例(No.1〜No.47)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)および表面法耐候性と共に表1〜表10に示した。表中、各成分の組成は質量%で表示するものとする。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【0095】
【表7】

【0096】
【表8】

【0097】
【表9】

【0098】
【表10】

【0099】
【表11】

【0100】
また、比較例のガラス(No.A〜No.C)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(At)および表面法耐候性と共に表11に示す。
【0101】
表1〜表10に示した本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.47)は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表1〜表10に示した各実施例の組成の割合となるように秤量し、混合し、白金るつぼに投入し、組成による熔融性に応じて、1000〜1300℃で、3〜5時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより得ることができた。
【0102】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
【0103】
ガラス転移温度(Tg)は日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003(光学ガラスの熱膨張の測定方法)に記載された方法により測定した。ただし試験片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
【0104】
屈伏点(At)は前記ガラス転移温度(Tg)と同様の測定方法で行い、ガラスの伸びが止まり、収縮が始まる温度(℃)とした。
【0105】
表面法耐候性の試験方法は次の方法により行い、表面法耐候性を決定した。試験片として30mm×30mm×3mmの研磨面を有する試料を使用して、50℃相対湿度85%の恒温恒湿槽の中で24時間曝した後、50倍の顕微鏡で研磨面を観察しヤケの状態を観察した。判定基準は、24時間試験した試料を照度6000ルックスで観察したときに全くヤケが認められないものを級1、1500ルックスで観察したときにヤケが認められず6000ルックスで認められるものを級2、1500ルックスで観察したときにヤケが認められるものを級3とした。なお、級3については新たに50℃相対湿度85%の恒温恒湿槽の中で6時間曝した後、50倍の顕微鏡で研磨面を観察し、1500ルックスでヤケが認められるものを級4とした。ヤケが認められない場合は級3のままとした。
【0106】
表1〜表10に見られるとおり、本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.47)はすべて、前記範囲内の光学定数(屈折率(nd)及びアッベ数(νd))を有し、ガラス転移温度(Tg)が580℃以下であるため、精密モールドプレス成形に適しており、更には表面法耐候性が良好であるので化学的耐久性にも優れている。
【0107】
これに対し、表11に示す組成の比較例A〜Cの各試料について、上記実施例と同じ条件にてガラスを作製し、同一の評価方法により、作製したガラスを評価した。比較例A〜Cに見られる通り、B23/SiO2の値が3.2を超えているため、表面法耐候性が悪くなる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上、述べたとおり、本発明の光学ガラスは、組成がSiO2−B23−La23−ZrO2−Nb25−Ta25−WO3−ZnO−Li2O系であり、かつ、鉛成分、ヒ素成分、弗素成分を含まないガラスであって、屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、転移温度(Tg)が580℃以下であるから、精密モールドプレス成形に適しており、産業上非常に有用である。
【0109】
さらに、表面法耐候性に優れているため、レンズプリフォーム材、すなわちゴブを精密プレス成形前に保管する場合、保管環境で一定期間曝された時にヤケなどが発生し難く、取り扱いが容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO2、B23、を含有し、Bの含有量は22質量%以下であり、かつ、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、からなる群より選択される1種以上の成分を含有し、さらに10質量%以下のGd23を含有し、ガラス転移点(Tg)が580℃以下、表面法耐候性が級1または級2であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
屈折率(nd)が1.75〜1.85、アッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、必須成分としてSiO2、B23、La23、ZrO2、Nb25、Ta25、WO3、ZnO及びLi2Oを含有し、Bの含有量は22質量%以下であり、さらに10質量%以下のGd23を含有し、実質的に鉛成分、ヒ素成分を含まず、かつZnO/SiO2が2.8以上、ガラス転移温度(Tg)が580℃以下、表面法耐候性が級1または級2であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項3】
請求項1または2記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材。
【請求項4】
請求項3のレンズプリフォーム材を精密プレス成形してなる光学素子。
【請求項5】
請求項1または2記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。

【公開番号】特開2011−116650(P2011−116650A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43759(P2011−43759)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【分割の表示】特願2005−54239(P2005−54239)の分割
【原出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】