説明

光学ガラス

【課題】本発明は、高屈折率・低分散性の光学特性を有し、失透しにくくプリフォーム成形性に優れ、しかも、成形温度が低く、プレス成形性にも優れた光学ガラスの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、酸化物基準の質量%表示で、B:10〜20%、SiO:0.5〜12%、ZnO:5〜19%、Ta:2.5〜17%、LiO:0.2〜3%、ZrO:0.6〜4.9%、WO:1〜20%、La:25〜50%、Gd:0〜13%、Y:0.2〜20%、ただし、La+Gd+Y:35〜60%、を含有し、Nbを実質的に含有せず、かつ、屈折率nが1.82〜1.86、アッベ数νが37〜44、ガラス転移点(T)が630℃以下である光学ガラスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率で低分散性の光学ガラス、それを用いた精密プレス成形用プリフォームおよびそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精細かつ小型のデジタルカメラやカメラ付携帯電話等の普及により、光学系の軽量化・小型化の要求が急速に高まっている。それらの要求に応えるため、高機能性ガラス製非球面レンズを使用した光学設計が主流となっている。特に、高屈折率で低分散特性を示すガラスを使用した大口径の非球面レンズは、光学設計上重要なものとなっている。
【0003】
また、非球面レンズの製造法としては、生産性と製造原価の点から研磨工程を必要としない精密プレス成形法が主流となっている。精密プレス成形法は、溶融ガラスを直接、金型に滴下してそのままプレスするダイレクトプレス法と、溶融ガラスから滴下等により、一度、所定の質量、形状を有するガラスプリフォームとし(以下、この工程をガラスプリフォーム成形と称す)、得られたガラスプリフォームを金型内に入れて再加熱、プレス成形するリヒートプレス法とに大別される。後者のリヒートプレス法では、プレス成形性も重要であるが、溶融ガラスから、精度のよいガラスプリフォームを作ること(ガラスプリフォーム成形性)も重要である。
【0004】
高屈折率で低分散特性を示すガラスとしては、従来、B−Laを主成分とするガラスが知られている。しかしながら、これは化学的耐久性、耐失透性またはプレス成形性の向上に重点がおかれており、ガラスプリフォーム成形性、すなわち、液相温度が低く、失透しにくいこと(耐失透性)と、所定の形状とするための適正な粘性(液相温度での粘性、以下、液相温度粘性が、例えば、5〜15dPa・s)を有すること等、については必ずしも充分ではない。
【0005】
プレス成形するためのガラスプリフォームは、一例としては、直径数mm(1〜10mm)の白金ノズルからガラス融液を滴下することにより製造される。このようなガラスプリフォームを熱間成形で精密かつ均一的に製造するため、液相温度以下で析出する結晶体が単一結晶であることが望ましい。
【0006】
−Laを主成分とするガラスは、量産工程で液相温度付近でガラスプリフォームを生産することもある。その場合、一部が液相温度以下になり結晶体(失透物)が析出することがある。結晶体を融解することでガラス融液となるが、結晶体が融解する際に、結晶体が複数あると、結晶体が生成する前の組成と同じ融液になるとは限らない。ガラス融液が不均一になり、脈理の原因となる。したがって、ガラスプリフォーム用光学ガラスとしては、液相温度が低く、かつ液相温度以下で析出する結晶体が単一であることが好ましい。
【0007】
一方、光学ガラスとしては、プレス成形温度が低いほど、金型の耐久性が向上し、成形サイクルが短く生産性が上がるため、プレス成形温度の低いことも要求される。
【0008】
上記問題点を解決するために、B、La以外にLiOを主成分とするガラスが知られているが、La等の希土類元素を多量に含有するために、高屈折率化させようとすると安定なガラスが得られないという問題点があった。
【0009】
上記問題を解決するために、B−SiO−La−Gd−ZnO−LiO−ZrOを主成分とするガラスが特許文献1に提案されているが、実施例中には屈折率が1.79以上となる高屈折率ガラスの組成は具体的に提示されておらず、加えて成形温度が高いという問題点がある。
【0010】
さらに、B−SiO−La−ZnO−LiO−ZrO−Taを主成分としn=1.84以上、ν35以上、Tgが630℃以下のモールドプレス成形用光学ガラスが特許文献2、3、4に提案されている。しかしながら、特許文献2の実施例中には液相温度が具体的に表示されておらず、加えてLa23、Gd23、Y23、Yb23の合計含有量に対するLa23の含有量モル%分率が0.66以下であるため、液相温度以下で析出する結晶体が複数析出するため、ガラスプリフォーム成形の制御の点で必ずしも十分でない。
【0011】
また特許文献3と4はTaが過剰に含まれており、液相温度以下で析出する結晶体が複数析出するため、ガラスプリフォーム成形の制御の点で必ずしも十分でなく、加えて低コスト化という点で問題がある。
【0012】
上記に加えて、化学的耐久性にも優れることが好ましい。すなわち、化学的耐久性が充分でないと、ガラスを洗浄するだけでガラス表面が曇るおそれがある。ガラス表面が曇る現象をガラスのヤケというが、白く見えるヤケを白ヤケといい、青く見えるヤケを青ヤケという。高屈折率で低分散性のガラスは、青ヤケが問題になることがある。また、化学的耐久性が不充分であると、洗浄以外にも研削・研磨加工などで鏡面性が低下するおそれもある。
【0013】
ガラスの化学的耐久性は、B3+イオンやLiなどのアルカリ金属イオン、Zn2+などのアルカリ土類金属イオンなどの軽元素イオンが溶出することに依存するので、光学特性との兼ね合いで各成分の含有量のバランスが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−201143号公報
【特許文献2】特開2003−267748号公報
【特許文献3】特開2006−016293号公報
【特許文献4】特開2006−016295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高屈折率・低分散性の光学特性を有し、失透しにくくプリフォーム成形性に優れ、しかも、成形温度が低く、プレス成形性にも優れた光学ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明の第1態様に係る光学ガラスは、酸化物基準の質量%表示で、B:10〜20%、SiO:0.5〜12%、ZnO:5〜19%、Ta:2.5〜17%、LiO:0.2〜3%、ZrO:0.6〜4.9%、WO:1〜20%、La:25〜50%、Gd:0〜13%、Y:0.2〜20%、ただし、La+Gd+Y:35〜60%を含有し、Nbを実質的に含有せず、かつ、屈折率nが1.82〜1.86、アッベ数νが37〜44、ガラス転移点(T)が630℃以下である。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、数値の下限は以上を、数値の上限は以下を意味するものとする。例えば、1〜2%の場合は、下限値1%は、1%以上を、上限値2%は、2%以下を、それぞれ意味する。
【0017】
この発明の第2態様に係る光学ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、B:20〜40%、SiO:1〜30%、ZnO:10〜34%、Ta:0.8〜8%、LiO:0.5〜15%、ZrO:0.5〜10%、WO:3〜15%、La:10〜25%、Gd:0〜5%未満、Y:0.1〜15%を含有し、La+Gd+Yの含有量が15〜30%であり、Nbを実質的に含有せず、かつ、屈折率nが1.82〜1.86、アッベ数νが37〜44、ガラス転移点(T)が630℃以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光学ガラス(以下、本ガラスという)は、高屈折率で、d線に対する屈折率nが1.82〜1.86であり、アッベ数νが37〜44である。
【0019】
本ガラスの液相温度における粘性(以下、液相温度粘性と略す)は5dPa・s以上であることが好ましく、この範囲であると所定の形状のプリフォームを成形しやすいものであるため、低粘性の光学ガラスの場合のような一度、板材に成形してから加工により所望の形状とする手間をかける必要がないため生産性に優れる。
【0020】
また、本ガラスは、液相温度が1130℃以下であることが好ましい。この範囲であると、失透性に優れ、しかも液相温度以下で析出する結晶が単一であるため、当該光学恒数領域の硝材としてはプリフォーム成形制御に優れている。
【0021】
さらに、本ガラスは、希土類元素の酸化物中、Taの含有量が従来技術の公知文献に比べて相対的に少ないため、液相からの失透物が基本的にLaBOのみとなるため失透制御が容易である。また、化学的耐久性にも優れ、洗浄などで青ヤケなどの表面の曇りが発生しないか、または発生しにくい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本ガラスの各成分範囲を設定した理由を以下に説明する。
【0023】
本ガラスにおいて、Bはガラス骨格を形成し、また液相温度Tを低下させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、B含有量は10〜20質量%である。B含有量が10質量%未満ではガラス化が困難になり好ましくない。耐失透性の良好なガラスを得るためにはB含有量を10質量%以上とする。B含有量が11質量%以上であるとより好ましい、12質量%以上であると液相温度が低下するとともに、アッベ数を高くできるためさらに好ましい。
【0024】
一方、本ガラスでは、B含有量が20質量%超では屈折率nが低くなり、または耐水性等の化学的耐久性が低下するおそれがある。本ガラスにおいて、B含有量が20質量%以下である。屈折率nを高くしたい場合にはB含有量を19.5質量%以下とすると好ましく、B含有量が19質量%以下であるとさらに好ましい。なお、Bの含有量は、モル%で示すと、20〜40モル%である。
【0025】
ここで、モル%表示の含有量の範囲と質量%表示の含有量の範囲とは常に写像の関係を有しているとは限らず、互いに重ならない範囲が存在する場合がある。本発明において、互いに重なり合う範囲が最良の範囲であるが、重ならない範囲であっても本発明の効果を奏するものであることは言うまでもない(以下、モル%表示について同様である)。
【0026】
本ガラスにおいて、SiOはガラスの安定化および高温成形時の失透の抑制に有効な成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、SiO含有量は、0.5〜12質量%である。SiO含有量が12質量%を超えると、成形温度が高くなりすぎたり、屈折率nが低くなりすぎるおそれがある。SiO含有量が11質量%以下であると好ましく、10質量%以下であるとより好ましい。
【0027】
一方、SiO含有量を0.5質量%以上とすることで高温成形時の失透を抑制したり、または粘性を調整できる。SiO含有量は1質量%以上であると好ましく、SiO含有量が2質量%以上であるとより好ましい。なお、SiOの含有量は、モル%で示すと、1〜30モル%である。
【0028】
本ガラスにおいて、ZnOはガラスを安定化させ、成形温度および溶解温度を低下させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、ZnO含有量は5〜19質量%である。ZnO含有量が、5質量%未満ではガラスが不安定になるか、成形温度が高くなるおそれがある。ZnO含有量が6質量%以上であると好ましく、ZnO含有量が6.5質量%以上であるとさらに好ましい。一方、本ガラスにおいて、ZnO含有量が19質量%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、また化学的耐久性も低下するおそれがある。ZnO含有量が18質量%以下であると好ましく、ZnO含有量が17質量%以下であるとさらに好ましい。なお、ZnOの含有量は、モル%で示すと、10〜34モル%である。
【0029】
本ガラスにおいて、Taはガラスの安定化、屈折率nの向上、融液からの成形時の失透の抑制をもたらす成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、Ta含有量は2.5〜17質量%である。Ta含有量が、少なすぎると屈折率nが低くなりすぎたり、液相温度Tが高くなりすぎるおそれがある。そのため、Ta含有量は2.5質量%以上である。Ta含有量が5質量%以上であるとより好ましく、8質量%以上であるとさらに好ましい。
【0030】
一方、Ta含有量が多すぎると溶解温度は高く、比重が大きくなる。Ta含有量が多すぎると、液相温度以下でTaを含む結晶(例えば、LaTaO、LiTa)も析出しやすくなるほか、Taは希少元素で、高価な成分であるため、コストアップにもつながる。そのため、本ガラスでは、Ta含有量は、17質量%以下である。Ta含有量が、15質量%以下であるとより好ましく、13質量%以下であるとさらに好ましい。なお、Taの含有量は、モル%で示すと、0.8〜8モル%である。Ta含有量が1モル%以上であると好ましい。
【0031】
本ガラスにおいて、LiOは、ガラスを安定化させ、精密プレス成形温度、溶解温度を低下させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、LiO含有量は0.2〜3質量%である。LiO含有量が0.2質量%未満では、成形温度が高くなりすぎるおそれがある。LiO含有量が0.3質量%以上であると好ましく、LiO含有量が0.5質量%以上であるとさらに好ましい。
【0032】
一方、LiO含有量が3質量%を超えると失透しやすくなり、化学的耐久性の低下や溶解時の成分の揮散が激しくなるおそれがある。LiO含有量が2.5質量%以下であると好ましく、LiO含有量が2質量%以下であるとさらに好ましい。なお、LiOの含有量は、モル%で示すと、0.5〜15モル%である。
【0033】
本ガラスにおいて、ZrOはガラスを安定化させ、屈折率nを高くし、ガラスプリフォーム成形時の失透を抑制する成分で、必須成分である。本ガラスにおいて、ZrO含有量は0.6〜4.9%である。ZrO含有量が4.9%を超えると成形温度が高くなり過ぎたり、アッベ数νが小さくなりすぎるおそれがある。また、ZrO含有量が4.9%を超えると液相温度以下でZrOが析出しやすくなり、ガラスが安定化せず、液相温度が上昇するおそれもある。
【0034】
ZrO含有量が4.8%以下であるとより好ましく、ZrO含有量が4.7%以下であるとさらに好ましい。ZrO含有量が4.5%以下であると特に好ましい。なお、ガラス転移点T、屈伏点Atを重視する場合には、ZrO含有量を2%未満とするのが好ましい。一方、添加の効果を得るためには、ZrO含有量が0.8%以上であると好ましく、ZrO含有量が1.0%以上であるとさらに好ましい。同様の理由で、ZrO含有量が1.5%以上であると特に好ましい。また、本ガラスのZrO含有量は、0.5〜10モル%である。
【0035】
本ガラスにおいて、WOはガラスの安定化、屈折率nの向上、ならびに高温成形時の失透の抑制に効果的な成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、WO含有量は1〜20質量%である。WO含有量が1質量%未満では屈折率nが低くなり、液相温度Tが高くなるおそれがある。WO含有量が、5質量%以上であると好ましく、WO含有量が7質量%以上であるとさらに好ましく、8質量%以上であると特に好ましい。一方、WO含有量が20質量%を超えるとアッベ数νが小さくなり、目的とする低分散特性を得られなくなってしまう。そのため、WO含有量は18質量%以下であると好ましく、WO含有量が16質量%以下であるとさらに好ましい。なお、WOの含有量は、モル%で示すと、3〜15モル%である。
【0036】
本ガラスにおいて、Laはd線(587.6nm)に対する屈折率(以下、屈折率nという)を高く、アッベ数νを大きくし、かつ化学的耐久性を向上させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、La含有量は25〜50質量%である。La含有量は、25質量%未満では屈折率nが低くなりすぎるおそれがある。La含有量は28質量%以上であると好ましく、30質量%以上であるとさらに好ましい。
【0037】
一方、La含有量が50質量%を超えるとガラス化しにくくなり成形温度が高くなったり、液相温度Tが高くなるおそれがある。La含有量が48質量%以下であると好ましく、46質量%以下であるとより好ましい。なお、Laの含有量は、モル%で示すと、10〜25モル%である。
【0038】
本ガラスにおいて、Gdは必須成分ではないが、Laと同時に含有させることにより、屈折率nを高く、アッベ数νを大きくし、ガラスの安定性を向上させる成分である。しかしながら、Gdは、多量に導入すると、液相温度が上昇し、しかも液相温度以下でLaBO以外の結晶GdBOが析出してしまうため、プリフォーム成形性の制御で問題である。そのため、本ガラスにおいて、Gd含有量は0〜13質量%に制限される。高屈折率の達成ならびにガラスを安定化させるため、Gd含有量は1質量%以上であると好ましく、Gd含有量が2質量%以上であるとさらに好ましい。
【0039】
一方、Gd含有量が13質量%を超えると液相温度が高くなったり、nが低くなるおそれがある。そのため、Gd含有量は12.5質量%以下であると好ましく、12質量%以下であるとさらに好ましい。なお、Gdの含有量は、モル%で示すと、0〜5モル%未満である。
【0040】
また、本ガラスにおいては、GdとTaの合量、Gd+Taが30質量%以下であると、光学ガラスの比重を小さくでき、光学機器の軽量化に資するため好ましい。前記合量を25重量%以下とするのがより好ましく、23重量%以下とすることがさらに好ましく、20重量%以下とすることが特に好ましい。同様の理由で、Gd+Ta10モル%以下であると好ましい。
【0041】
本ガラスにおいて、YはLa、Gdと同様に屈折率nを高く、アッベ数νを大きくし、化学的耐久性を向上させる成分である。さらに、Yは、ガラスを安定化させる他、他の希土類元素酸化物に比べて粘性を上げる成分でもある。本ガラスにおいて、Y含有量は0.2〜20質量%で必須成分である。
【0042】
含有量が0.5質量%以上であると好ましく、Y含有量が1質量%以上であるとさらに好ましい。一方、Y含有量が20質量%を超えると、液相温度が高くなったり、nが低くなるおそれがある。そのため、Y含有量は18質量%以下であると好ましく、15質量%以下であるとさらに好ましい。なお、Yの含有量は、モル%で示すと、0.1〜15モル%である。
【0043】
本ガラスにおいて、La、Gd、Y含有量の合量は、35〜60質量%である。合量が35質量%未満であると、屈折率nが低くなるか、または化学的耐久性が低くなるおそれがある。前記合量が40%以上であると好ましく、41質量%以上であるとさらに好ましく、43質量%以上であると特に好ましい。一方、合量が60質量%を超えるとガラス化しにくくなり成形温度が高くなったり、液相温度Tが高くなるおそれがある。前記合量が58質量%以下であると好ましく、前記合量が55質量%以下であるとさらに好ましい。なお、La、Gd、Yの含有量の合量は、モル%で示すと、15〜30モル%である。
【0044】
本ガラスにおいて、La23の含有量を、La23、Gd23、Y23、Yb23の合計含有量で割って算出した分率(以下、ランタン比という)が質量%ベースで0.67〜0.90であることが好ましく、La23、Gd23およびY23、の3成分を共に含有し、かつTa含有量が15.5%以下であると、液相温度以下で析出する結晶相がLaBO単独となる。
【0045】
その場合は、当該光学恒数領域の硝材としてはプリフォーム成形制御に優れている他、LaBOの結晶成長速度が遅いため、この結晶を基本的に単独で析出させることにより生産温度を液相温度より20℃低くすることができ生産性が向上するため好ましい。同様の理由で、モル%ベースのランタン比が0.67〜0.90であることが好ましい。
【0046】
本ガラスにおいて、アッベ数νが小さくなりすぎたり、もしくは液相温度が高くなるおそれがあるためNbは実質的に含有しない。本明細書において、実質的に含有しないとは、意図的に添加しないことを意味し、不可避的な不純物として含有することを排除するものではない。
【0047】
TiOは、ガラスの安定化、屈折率の向上等に効果のある成分であるが、一方で相対的に失透しやすい成分でもあるので、本ガラスにおいて、実質的に含有しないことが好ましい。
【0048】
本ガラスにおいて、Ybは必須成分ではないが、屈折率nの向上、あるいは高温成形時の失透の抑制等のために0〜10質量%含有してもよい。含有量が10質量%を超えると、ガラスが不安定になったり、成形温度が高くなりすぎたり、さらに比重が大きくなりすぎるおそれがある。そのため、Ybの含有量は、5質量%以下であると好ましく、さらに含まない方がより好ましい。
【0049】
本ガラスにおいて、Al、Ga、GeOはいずれも必須成分ではないが、ガラスの安定化、あるいは屈折率nの調整等の目的でそれぞれの成分を0〜10質量%含有しても良い。Al、Ga、GeOの含有量が10質量%を超えると、アッベ数νが低くなりすぎるおそれがある。Al、Ga、GeOの含有量が8質量%以下であるとより好ましく、6質量%以下であるとさらに好ましい。また、Ga、GeOは極めて希少かつ高価な成分であるため、含まないことが望ましい。なお、Al、Ga、GeOのそれぞれの含有量は、モル%で示すと、0〜8モル%である。
【0050】
本ガラスにおいて、BaO、SrO、CaO、MgOはいずれも必須成分ではないが、ガラスを安定化させる、アッベ数νを大きくする、または成形温度を低くする、比重を小さくする等のためにそれぞれ0〜15質量%含有しても良い。BaO、SrO、CaO、MgOのそれぞれの含有量が15質量%を超えると、ガラスが不安定になる、または屈折率nが低くなる等のおそれがある。
【0051】
また、ガラスをより安定化させる、屈折率nの調整、比重調整、溶解温度の低下等の目的のために、NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分を合量で0〜5質量%含有してもよい。NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分の合量が5質量%を超えると、ガラスが不安定になる、屈折率nが低くなる、硬度が小さくなる、または化学的耐久性が低下するおそれがある。なお、硬度または化学的耐久性を重視する場合には、NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分をいずれも実質的に含有しないことが好ましい。なお、NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分の含有量は、モル%で示すと、0〜5モル%である。
【0052】
本ガラスにおいて、上記以外の任意成分としては、それぞれの要求特性に応じて選択することができる。例えば、高屈折率nと低ガラス転移点Tを重視する場合には、SnOを0〜4質量%(0〜4モル%)まで含有してもよい。同様に、高屈折率を重視する場合には、TeOおよび/またはBiを単独でまたは合量で0〜6質量%含有してもよい。TeOおよび/またはBiの含有量が6質量%を超えるとガラスが不安定になるか、あるいは透過率が著しく低下するおそれがある。ただし、アッベ数νを大きくしたい場合には、TeOまたはBiのいずれも実質的に含有しないことが好ましい。なお、TeOおよび/またはBiを単独でまたは合量は、モル%で示すと、0〜10モル%である。
【0053】
例えば、清澄等の目的で、本ガラスにSbを例えば0〜1質量%(0〜1モル%)含有してもよい。なお、Sbの含有量は、モル%で示すと、0〜1モル%である。
【0054】
本ガラスは基本的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。そのような成分を含有する場合それら成分の含有量の合計は、好ましくは10質量%(10モル%)以下、より好ましくは8質量%(8モル%)以下、さらに好ましくは6質量%(6モル%)以下または5質量%(5モル%)以下である。なお、その他の成分の含有量は、モル%で示すと、上述の通り、10モル%以下、より好ましくは8モル%以下、さらに好ましくは6モル%以下または5モル%以下である。
【0055】
本ガラスにおいては、環境面での負荷を減少させるため、成分として鉛(PbO)、ヒ素(As)、タリウム(TlO)、トリウム(ThO)、カドミウム(CdO)のいずれも実質的に含有しないことが好ましい。また、フッ素を含有すると、熱膨張係数を大きくし、離型性、成形性に悪影響を与えるほか、成分が揮散しやすいことから、ガラスの溶解時に光学ガラスの組成が不均一になりやすく、また、精密モールド成形時には離型膜など金型の耐久性を下げるなどの問題があるため、本ガラスでは、フッ素も実質上含有しないことが好ましい。
【0056】
本ガラスにおいては、着色の防止等の理由により、Feを代表とする遷移金属化合物を実質的に含有しないことが好ましい。たとえ原料から不可避的に混入した場合でも、本ガラスにおいて遷移金属化合物の総含有量は0.01質量%以下とすることが好ましい。
【0057】
本ガラスの光学特性としては、屈折率nは1.82〜1.86である。屈折率nが1.82以上であると、レンズの小型化、薄型化により適する。同様の理由で、屈折率nが1.83以上であると好ましい。屈折率nが1.84以上であるとレンズの小型化・薄型化にとって特に好ましい。一方、本ガラスの屈折率nが1.86を超えるとアッベ数が小さくなりすぎ、また、その他の熱物性に悪影響を及ぼすため好ましくない。本ガラスの屈折率nとしては1.855以下であると好ましい。なお、化学的耐久性を重視する場合は、屈折率nを1.82〜1.83とすることが特性のバランスの点で好ましい。
【0058】
一方、本ガラスのアッベ数νは、37〜44である。アッベ数νが37以上であると、ガラスが低分散特性となる。また、アッベ数νは、44以下であると、ガラスの耐失透性が良好となる。なお、化学的耐久性を重視する場合は、アッベ数νを42〜44とすることが特性のバランスの点で好ましい。
【0059】
本ガラスのガラス転移点Tは、630℃以下であり、精密プレス成形時に金型の劣化が生じにくい。本ガラスのガラス転移温度Tは、625℃以下であると好ましく、620℃以下であることがより好ましい。
【0060】
本ガラスの屈伏点Atは、680℃以下であると金型の劣化が生じにくいため好ましく、675℃以下がより好ましく、670℃以下であると特に好ましい。
【0061】
本ガラスの比重は、5.3以下であることが好ましい。5.3を超えると、光学素子として、例えば光学レンズとして使用した際、光学系の重量が大きくなりすぎ、レンズの駆動系に負担がかかる可能性がある。そのため、比重は5.3以下であることが望ましく、比重が5.25以下であるとより好ましい。比重が5.2以下であるとさらに好ましい。
【0062】
本ガラスの液相温度Tは、1130℃以下であると好ましい。液相温度Tが、1130℃を超えると高温成形時に被成形物が失透しやすくなったり、高温成形の受け型として用いられるカーボンや耐熱合金が劣化するため好ましくない。本ガラスの液相温度Tが、1100℃以下であるとより好ましく、1080℃以下であるとさらに好ましい。なお、液相温度Tは、その温度に1時間保持した場合に、ガラス融液から結晶が生成しない最高温度として定義される。
【0063】
本ガラスの液相温度粘性ηTLは、5dPa・s以上であるとプリフォーム成形性に優れるため好ましい。液相温度粘性ηTLが7dPa・s以上であるとさらに好ましく、液相温度粘性ηTLが8dPa・s以上であると特に好ましい。
【0064】
本ガラスは、上記のような特性を有するため、光学設計がしやすく、光学素子、特には、デジタルカメラ等に用いられるガラスモールド非球面レンズに好適である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の具体的な態様を実施例(例1〜例15、例20〜例37)および比較例
【0066】
(例16〜例19)により説明するが、本発明はこれらに限定されない。例16および例17は、それぞれ、背景技術で引用した特許文献2の実施例44、49に記載されたガラス組成である。例18は同様に特許文献3の実施例13であり、例19は特許文献4の実施例5であると同時に特許文献3の実施例25でもある。なお、例16および例18は、ガラス化せず、光学恒数などの測定ができなかったため、該当箇所に[−]を記載してある。
【0067】
原料調製法としては、表に示す組成のガラスが得られるように下記原料を調合して白金製るつぼに入れ、1250〜1450℃で2時間溶解した。この際白金製スターラにより0.5時間撹拌して溶融ガラスを均質化した。均質化された溶融ガラスは流し出して板状に成形後、T+10℃の温度で4時間保持後、−1℃/minの冷却速度で室温まで徐冷した。作製したガラスサンプルの形状は、縦40mm×横40mm×厚さ10mmである。また、物性を評価する際は、このガラスサンプルを切断して評価を行った。
【0068】
原料としては、ホウ酸、炭酸リチウム、酸化亜鉛、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムとして、関東化学社製の特級試薬を使用した。酸化ランタン、酸化イットリウムおよび酸化ガドリニウムとして信越化学工業社製の純度99.9%の試薬を使用した。酸化タンタル、二酸化珪素、酸化タングステンとして、高純度化学研究所社製の純度99.9%以上の試薬を使用した。酸化テルルとして、双日ケミカル社製の純度99.9%以上の試薬を使用した。
【0069】
得られたガラスについて、波長587.6nm(d線)における屈折率n、波長656.3nm(C線)における屈折率nC、波長486.1nm(F線)における屈折率nF、アッベ数ν、ガラス転移点T(単位:℃)、屈伏点At(単位:℃)、液相温度T(単位:℃)、液相温度以下で析出する結晶相、および比重dを測定した。これらの測定法を以下に述べる。
【0070】
熱的特性(ガラス転移点T、屈伏点At):直径5mm、長さ20mmの円柱状に加工したサンプルを、熱機械分析装置(ブルカーエイエックスエス社製、商品名:TD5000SA)を用いて5℃/分の昇温速度で測定した。
【0071】
光学恒数(屈折率n、アッベ数ν):一辺が20mm、厚みが10mmの直方体形状に加工したサンプルを、精密屈折率計(カルニュー光学社製、商品名:KPR−2)を用いて測定した。アッベ数νは、計算式{(n−1)/(n−n)}により求めた。
【0072】
液相温度T:1辺が10mmの立方体形状に加工したガラスを白金製の皿に載せ、一定温度に設定した電気炉内で1時間静置した後に取り出したものを100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の析出が見られない最高温度を液相温度Tとした。液相温度T以下で析出する結晶相:1辺が10mmの立方体形状に加工したガラスを白金製の皿に載せ、液相温度から20〜50℃低く設定した電気炉内で1時間静置した後に取り出したものをアルミナ乳鉢で粉末にし、X線回折装置(リガク社製、商品名:RINT2500)を用いて、結晶相を同定した。
【0073】
液相温度粘性ηTL:JIS規格 Z8803(共軸二重円筒型回転粘度計による粘度測定方法)に従って測定した。具体的には、直径40mmの白金ルツボに85cmのガラスを入れ、白金製のロータをガラス融液に沈めて、1350℃から900℃まで−60℃/hr.で温度を下げながらトルク値を測定して粘性を求めた。
【0074】
比重d:約20g程度となるように切り出したガラスを、比重測定器(島津社製、商品名:SGM300P)を用いて、水を用いたアルキメデス法により測定した。
【0075】
化学的耐久性:耐水性と耐酸性で評価する。耐水性は、光学ガラスの水に対する溶出の程度をいい、耐酸性は酸に対する溶出の程度をいう。本明細書では、日本光学硝子工業会規格の「光学ガラスの化学的耐久性に測定方法(粉末法)」に準じて測定した。具体的には、光学ガラスを乳鉢で粉砕し、目開き710μm、600μm、425μmのフルイを用いて、425μmのフルイ上に残ったガラス粉末をサンプルとした。秤量したガラス粉末を質量既知のPt製溶出カゴ(目開き177〜210μm)に入れをそれを0.01mol/lの硝酸またはイオン交換水を入れた丸底フラスコに浸漬し、さらに、この丸底フラスコを沸騰したビーカーに浸漬し、60分間保持した。保持後、ガラス粉末を乾燥させ、秤量して質量減少率を算出した。この操作を3回繰り返し、平均値を求めた。質量減少率の値から、以下のように、耐水性および耐酸性を等級で評価した。
【0076】
耐水性の評価は、質量減少率が0.05%未満を1級、0.05%以上0.10%未満を2級、0.10%以上0.25%未満を3級、0.25%以上0.60%未満を4級という。耐酸性の評価は、質量減少率が0.20%未満を1級、0.20%以上0.35%未満を2級、0.35%以上0.65%未満を3級、0.65%以上1.20%未満を4級という。
【0077】
以下、測定および算出結果を表に示す。表1〜表6は本発明の実施例を質量%で表記したものであり、表7〜表12は本発明の実施例をモル%で表記したものである。なお、表中、La+Gd+Yの合量をLa+Gd+Yと略記し、Gd+Taの合量を、Gd+Taと略記する。また、測定値のない箇所は、「−」と表記する。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
【表7】

【0085】
【表8】

【0086】
【表9】

【0087】
【表10】

【0088】
【表11】

【0089】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0090】
デジタルカメラ等の光学系に用いられる光学素子として好適な光学ガラスを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%表示で、
:10〜20%、
SiO:0.5〜12%、
ZnO:5〜19%、
Ta:2.5〜17%、
LiO:0.2〜3%、
ZrO:0.6〜4.9%、
WO:1〜20%、
La:25〜50%、
Gd:0〜13%、
:0.2〜20%、
ただし、La+Gd+Y:35〜60%、
を含有し、Nbを実質的に含有せず、
かつ、屈折率nが1.82〜1.86、アッベ数νが37〜44、ガラス転移点(T)が630℃以下である光学ガラス。
【請求項2】
液相温度(T)が1130℃以下である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
液相温度粘性(ηTL)が5dPa・s以上である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
La23、Gd23、Y23、Yb23の合計含有量に対するLa23の含有量の質量%分率が0.67〜 0.90であるである請求項1、2または3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
液相温度(T)以下において、失透物が複数析出せず、LaBOのみ析出する請求項2〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形することによって得られる光学素子。
【請求項8】
酸化物基準のモル%表示で、
:20〜40%、
SiO:1〜30%、
ZnO:10〜34%、
Ta:0.8〜8%、
LiO:0.5〜15%、
ZrO:0.5〜10%、
WO:3〜15%、
La:10〜25%、
Gd:0〜5%未満、
:0.1〜15%、
ただし、La+Gd+Y:15〜30%、
を含有し、Nbを実質的に含有せず、
かつ、屈折率nが1.82〜1.86、アッベ数νが37〜44、ガラス転移点(T)が630℃以下である光学ガラス。

【公開番号】特開2011−6318(P2011−6318A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121942(P2010−121942)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】