説明

光学フィルタ

【課題】製造コストに優れる光学フィルタを提供する。
【解決手段】光学フィルタ10は、透明基材3の両面に、調光層1、調光層2、帯電防止層4、反射防止層5が、この順に積層してなる。調光層2は、ポリエステル系の樹脂に色素を分散させた第1のインクを硬化させてなる。帯電防止層4は、第1のインクと同系の樹脂エマルジョンに導電性酸化物ナノ粒子を分散させた第2のインクを調光層2上に塗布、硬化させてなる。第1のインクと親和性のある第2のインクに導電性酸化物ナノ粒子を良好に分散させることにより、調光層2上に良好に帯電防止層、反射防止層を形成でき、帯電防止層、反射防止層の熱硬化の際にこれら層に割れが生じることを抑えて光学フィルタの製造工程での歩留を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ等の光学系に利用される光学フィルタに関するものであり、特に湿式成膜技術を用いて形成された調光層を備える光学フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の撮像装置では、光量調整のために可視光域の光をほぼ均質に減衰させるND(ニュートラルデンシティー:Neutral Density)フィルタが用いられ、この種の光学フィルタは湿式成膜技術を用いて得ることができ、例えば、特許文献1に示されるように色素を分散した樹脂を透明基材上に塗布することによって得られる。
【0003】
また、特許文献2に示されるように、光学フィルタの表面反射を抑えることが求められており、インクを塗布して形成した光量調整のための調光層上に蒸着多層膜からなる反射防止層を形成したものがある。反射防止層は、例えば、ケイ素酸化物からなるアンダーコート層、チタン酸化物及び酸化ジルコニウムの混合物からなる高屈折率の第1層、ケイ素酸化物からなる低折率の第2の層、チタン酸化物及び酸化ジルコニウムの混合物からなる高屈折率の第3層、ケイ素酸化物からなる低折率の第4の層を順次蒸着形成してなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−30203号公報
【特許文献2】特開2004−246306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、特許文献2に示されるように反射防止層を蒸着形成する場合、蒸着機を用いるが、この蒸着機は大型の設備で、製造コストが高くなるという点である。
【0006】
また、蒸着式製膜技術に対して製造コストの低い湿式成膜技術で反射防止層を形成する場合、例えば、色素を分散したポリエステル系の樹脂等のインクを熱硬化させてなる高屈折率の調光層上にシリコーン系の樹脂からなるインクを塗布し、これを熱硬化させて低屈折率の反射防止層を形成する。しかしながら、調光層と反射防止層との素材の線膨張係数の差により熱硬化工程や熱バイアスをかけて行われる環境試験、所謂加速試験において、調光層や反射防止層の一部に亀裂や層間剥離等の割れが生じて光学フィルタの光学特性を劣化させ、歩留が悪いという問題点がある。
【0007】
また、基材及び各層に樹脂を用いた光学フィルタでは帯電によってゴミが付着してしまうという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学フィルタは、樹脂に色素を分散した第1のインクを硬化させてなる調光層と、前記調光層上に設けられてあり、前記第1のインクの樹脂と同系の樹脂の樹脂エマルジョンに導電性酸化物ナノ粒子を分散させた第2のインクを硬化させてなる帯電防止層と、前記帯電防止層上に設けられてあり、第3のインクを硬化させてなり、前記帯電防止層より低い屈折率の反射防止層と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記第2のインクの固形分に対する導電性酸化物ナノ粒子の割合を50〜65wt%とすることが好ましい。
【0010】
前記第1のインクは樹脂としてポリエステル系の樹脂を用いたものであり、前記第2のインクは樹脂エマルジョンとしてポリエステル系の樹脂エマルジョンを用いたものであることが好ましい。
【0011】
前記第2のインクは、前記導電性酸化物ナノ粒子として酸化スズを分散させたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、第2のインクを、第1のインクと同系の樹脂の樹脂エマルジョンとして導電性酸化物ナノ粒子を分散させたものとすることにより、導電性酸化物ナノ粒子を良好に分散させることができ、しかも、調光層上に均一な帯電防止層を形成でき、良好な光学特性を確保しつつ、帯電防止機能を備える光学フィルタが得られる。また、第2のインクの樹脂エマルジョンの固形分に対する導電性酸化物ナノ粒子の割合を50wt%〜65wt%とすることにより、帯電防止機能を確保しつつ、帯電防止層、反射防止層の熱硬化の際に調光層とその上層との膨張係数の差によって帯電防止層、反射防止層に割れが生じることを抑えて光学フィルタの製造工程での歩留を改善することができる。ひいては、比較的に製造コストの低い湿式成膜技術で光学フィルタを提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施形態に係わる光学フィルタの概略断面図である。
【図2】図2は本発明の他の実施形態に係わる光学フィルタの概略断面図である。
【図3】図3は本発明のさらに他の実施形態に係わる光学フィルタの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態の光学フィルタの概略断面図であって、本例の光学フィルタ10はNDフィルタであり、調光層1、1、調光層2、2をこの順に透明基材3上に印刷形成してあり、これらの上層として、帯電防止層4、4、反射防止層5、5を塗布形成してある。つまり、透明基材3の両面に、第1の調光層1、第2の調光層2、帯電防止層4、反射防止層5が、この順に積層してある。例えば、透明基材3の両面に調光層1、1を印刷形成した後に、これら調光層1、1のそれぞれに調光層2、2を印刷形成する。これら調光層2、2のそれぞれに帯電防止層4、4を塗布形成し、これら帯電防止層4、4のそれぞれに反射防止層5、5を塗布形成してある。調光層1、2についてはスクリーン印刷により形成する。帯電防止層4、反射防止層5については、ディップコートやリップコート等のコーティング方法により形成する。
【0015】
調光層1は、5μm〜100μmから適宜に選択された厚さの樹脂層で、次のように形成される。樹脂としてポリエステル系の2液硬化型インクを用いてあり、この樹脂に、青色色素と、第1の光学材料としての赤外線吸収剤とを、樹脂に対する溶解度の許容範囲で適宜に溶解させる。青色色素としては、例えば、アンスラキノン系染料を用い、赤外線吸収剤としては、例えば、ジイモニウム系、アミニウム塩系、フタロシアニン系の光学材料を用いる。調光層2に溶解する黒色色素と、調光層1に溶解する青色色素と、赤外線吸収剤とは、最終的なNDフィルタが可視光領域で波長依存性のない均一な調光を実現するように定量されている。以上のように色素を溶解した樹脂を透明基材3上に印刷し、硬化させて調光層1が形成される。
【0016】
調光層2は、5μm〜100μmから適宜に選択された厚さの樹脂層で、次のように形成される。樹脂としてポリエステル系の2液硬化型インクを用いてあり、この樹脂に、これに第2の光学材料として黒色色素、例えば、アジン系染料を樹脂に対する溶解度の許容範囲で適宜に溶解させてインクとする。このインクを調光層1上に印刷し、硬化させて第調光層2が形成される。このインクが上述の第1のインクである。
【0017】
透明基材3は、PET(Polyethylene Terephthalate)からなり、25μm〜100μmから適宜に選択された厚さである。
【0018】
帯電防止層4、4は、導電性酸化物ナノ粒子を調光層2のインクの樹脂と同系のポリエステル系の樹脂エマルジョンに分散させたインクを第2の調光層2、2上に塗布し、熱硬化してなり、50nm〜200nmから適宜に選択された厚さである。このインクが上述の第2のインクである。導電性酸化物ナノ粒子とは、5〜80nmの一次粒子径の酸化スズ、酸化スズドープ酸化インジウム、酸化アンチモンドープ酸化スズ等の導電性酸化物をいい、ここでは酸化スズを用いる。インクの樹脂エマルジョンの固形分に対する導電性酸化物ナノ粒子の割合を50〜65wt%としてある。
【0019】
ここで、第2のインクを調光層2の第1のインクの樹脂と同系の樹脂エマルジョンとすることにより熱膨張、熱収縮の影響による層の割れを防ぐことができ、第2の調光層2上に均一に帯電防止層4を塗布形成できる。この樹脂エマルジョンに界面活性剤を添加することにより、ぬれ性を高めて調光層2上にさらに均一な帯電防止層4を形成でき、調光層2と帯電防止層4との密着性を高める。また、第2のインクに樹脂エマルジョンを用いることにより、導電性酸化物ナノ粒子をインクに良好に分散させることができる。これにより、良好な光学特性を確保しつつ、帯電防止機能を備える光学フィルタが得られる。
【0020】
また、第2のインクに樹脂エマルジョンを用いることにより、第2のインクの硬化後に上層を良好に印刷形成できることとなる。樹脂エマルジョンとしては、第2の調光層2のインクの樹脂と同系のものであればよい。
【0021】
また、酸化スズ等の導電性酸化物ナノ粒子の第2のインクの固形分、すなわち、樹脂エマルジョンの樹脂と導電性酸化物ナノ粒子との総重量に対する割合を50wt%〜65wt%とする。言い換えれば、固形分重量で、樹脂エマルジョンの樹脂と導電性酸化物ナノ粒子との比が、1:1から3.5:6.5の範囲にあることが好ましい。これにより、帯電防止機能を確保しつつ、熱硬化の際の帯電防止層4、反射防止膜5に亀裂が生じることを抑えることができる。反射防止膜5は、調光層2と比較して線膨張係数が低く、調光層2上に直接設けるのでは熱硬化の際に割れてしまう。帯電防止層4に適度に導電性酸化物ナノ粒子をフィラーとして含有させることにより、帯電防止層4の線膨張係数を適度に低下させてあり、調光層2と帯電防止層4との線膨張係数の差と、帯電防止層4と反射防止膜5との線膨張係数の差と、をそれぞれ小さくしてある。これにより、帯電防止層4は反射防止膜5と調光層2との間のバッファ層として働き、帯電防止層4、反射防止膜5の割れを抑えている。導電性酸化物ナノ粒子を過剰に含む場合には、線膨張係数も過剰に低下してバッファ層としての機能を失う。導電性酸化物ナノ粒子をさらに過剰に含む場合には、帯電防止層4を熱硬化させる際にも、調光層2との線膨張係数の差が大きくなり、帯電防止層4に割れが生じる。インクに対する割合を変更したサンプルによる比較実験では、酸化スズの割合を50wt%より小さくすると、5mm角の光学フィルタ10に付着したゴミ(直径0.5mmのポリスチレンビーズ)を払い落とすことが困難となることを確認した。また、酸化スズの割合を65wt%より大きくすると熱硬化の際や加速試験の際に帯電防止層4、反射防止膜5に割れが生じることを確認した。
【0022】
反射防止膜5、5は、フッ化アクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂等からなるインクを帯電防止層4、4上に塗布し、熱硬化してなり、50nm〜100nmから適宜に選択された厚さである。このインクが上述の第3のインクである。ここでは、反射防止膜5の第3のインクとしてシリコーン系樹脂を用いることとし、屈折率約1.4以下のものを使用している。ポリエステル系の樹脂エマルジョンの第2のインクから形成された帯電防止層4では屈折率約1.5を得ており、高屈折率の帯電防止層4上に屈折率の反射防止層5が設けられることとなり、単層の反射防止層を設ける場合と比較して反射防止機能を向上させている。
【0023】
光学フィルタ10では、帯電防止層4によって帯電を防止して静電気によりゴミの付着を抑えることが可能となり、また、反射防止膜5により反射光による光学特性の劣化を抑えることが可能となる。
【0024】
また、光学フィルタ10では、調光層1の赤外線吸収剤より比較的に高温・高湿環境での耐久性に優れる黒色色素を含む調光層2と、透明基材3とによって調光層1で挟持してあり、調光層1の光学材料を水分、熱から保護し、光学フィルタの光学特性の劣化を抑えることが可能となる。
【0025】
また、光学フィルタ10では、調光層を複数の層とすることにより、印刷技術、言い換えれば、湿式成膜技術を用いて、適当な光吸収特性を持った調光層を形成することができ、全体として所望の光学特性を得る。
【0026】
また、透明基材3の両面に調光層1、調光層2、帯電防止層4、反射防止層5を設けることによって、光学フィルタ10の反りを抑制することができる。また、調光層1、調光層2を2つ設けるために、各層を薄くすることができ、色素を樹脂に無理なく分散させることができ成膜性が向上する。これらから光学フィルタ20は光学特性をさらに向上させることができる。
【0027】
本発明は上述した実形態に限らず様々な変更が可能であり、例えば、図2に示す光学フィルタ20のように、上述の透明基材3の片面に上述の調光層1、調光層2、帯電防止層4、反射防止層5を設けるようにしてもよい。また、図3に示す光学フィルタ30のように上述の透明基材3の片面に1層の調光層6を設け、調光層6上に上述の帯電防止層4、反射防止層5を設けるようにしてもよい。調光層6は赤外線吸収層で、次のように形成される。樹脂としてポリエステル系の2液硬化型インクを用いてあり、この樹脂に、ジイモニウム系、アミニウム塩系、フタロシアニン系等の赤外線吸収剤を適宜選択し、分散させたものを、透明基材3上に印刷し、硬化させて調光層6を形成する。光学フィルタ30は赤外線カットフィルタを例として述べたが、これに限らず、1層の調光層からなるNDフィルタについても本発明は適用可能である。また、詳述しないが2層より多層の調光層からなるNDフィルタについても本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
デジタルカメラ、ビデオカメラ等の光学系において利用されるNDフィルタ、カラーフィルタ、赤外線カットフィルタ等の光学フィルタに適用できる。上述の各実施例では光学フィルタとしてNDフィルタを用いた例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、湿式成膜技術を用いて形成された調光層、帯電防止層、反射防止層を有する光学フィルタであれば、カラーフィルタ、赤外線カットフィルタ等様々なものに適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 調光層
2 調光層
3 透明基材
10 光学フィルタ
4 帯電防止層
5 反射防止層
20 光学フィルタ
6 調光層
30 光学フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に色素を分散した第1のインクを硬化させてなる調光層と、
前記調光層上に設けられてあり、前記第1のインクの樹脂と同系の樹脂の樹脂エマルジョンに導電性酸化物ナノ粒子を分散させた第2のインクを硬化させてなる帯電防止層と、
前記帯電防止層上に設けられてあり、第3のインクを硬化させてなり、前記帯電防止層より低い屈折率の反射防止層と、
を備えることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記第2のインクの固形分に対する前記導電性酸化物ナノ粒子の割合を50wt%〜65wt%とすることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記第1のインクは樹脂としてポリエステル系の樹脂を用いたものであり、前記第2のインクは樹脂エマルジョンとしてポリエステル系の樹脂エマルジョンを用いたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記第2のインクは、前記導電性酸化物ナノ粒子として酸化スズを分散させたものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の光学フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−197518(P2010−197518A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40072(P2009−40072)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】