説明

光学フィルム、偏光子保護フィルム、偏光板および画像表示装置

【課題】二軸延伸フィルムでありながら、示す位相差が小さく、高い耐熱性を有する光学フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の光学フィルムは、N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(c)を含む。N−置換マレイミド単位(a)は、(メタ)アクリル重合体(c)に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位である。(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、(メタ)アクリル重合体(c)に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位である。本発明の光学フィルムは、波長589nmの光に対する、0nm以上10nm以下の面内位相差Reを示し、−10nm以上10nm以下の厚さ方向の位相差Rthを示す。本発明の光学フィルムは、二軸延伸フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸フィルムである、低位相差の光学フィルムに関する。また、本発明は、偏光子保護フィルム、偏光板および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)のようなフラットパネル型の画像表示装置の市場が拡大している。画像表示装置には、光学フィルムが使用される。光学フィルムには、単なる透明性だけではなく、画像表示装置の光学設計に対応するように厳密に調整された光学特性が求められる。光学特性の一つが、位相差である。例えば、LCDの偏光板に使用される偏光子保護フィルムには、ゼロに近い位相差が求められる。光学フィルムに使用される高分子材料は、一般に、高分子の主鎖に沿う方向と、当該主鎖に直交する方向との間で屈折率が異なることに基づく複屈折を示す。このため、単に透明性が高い高分子材料を選択するだけでは、偏光子保護フィルムに用いられうる、位相差が小さい光学フィルムが得られない。
【0003】
上記屈折率差が小さい高分子材料の使用により、位相差が小さい光学フィルムが得られる。このような材料は、代表的には、トリアセチルセルロースのようなセルロース誘導体である。しかし、セルロース誘導体からなる光学フィルムは厚さ方向の位相差が大きく、このため、斜め方向からの入射光に対する複屈折が大きい。セルロース誘導体が示すこのような複屈折特性は、画像表示装置、特に、近年開発が進む大画面の画像表示装置、の視野角特性を低下させる。
【0004】
セルロース誘導体以外の高分子材料が、偏光子保護フィルムに使用されうる。特許文献1(特開2000-206333号公報)は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の二軸延伸フィルムからなる偏光子保護フィルムを開示する。この偏光子保護フィルムは、小さい位相差、ならびにPMMAに由来する特長、例えば、良好な成形加工性、高い表面硬度、高い光線透過率および低い波長依存性、を有する。
【0005】
これとは別に、光学フィルムに用いられうる高分子材料として、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体が知られている。主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、主鎖に環構造を有さない(メタ)アクリル重合体に比べて、ガラス転移温度(Tg)が高い。高いTgは、耐熱性に優れる光学フィルムを実現する。耐熱性に優れる光学フィルムは、例えば、画像表示装置における光源などの発熱部に近接した配置が容易となる。耐熱性に優れる光学フィルムは、その他にも、実用上の様々な利点を有する。特許文献2(特開2007-31537号公報)は、置換基Ar1が芳香族基であるN−置換マレイミド環構造と、(メタ)アクリル酸エステル単位との共重合体からなる光学フィルムを開示する。特許文献2の光学フィルムは、偏光子保護フィルムではなく、最大400nmの大きな面内位相差を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-206333号公報
【特許文献2】特開2007-31537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において用いられるPMMAは、小さいながらも固有複屈折を有する。このため、特許文献1に開示されている偏光子保護フィルムは、二軸延伸によって生じた、厚さ方向の位相差を示す。厚さ方向の位相差は、当該偏光子保護フィルムを備える画像表示装置の視野角特性を低下させる。これに加えて、PMMAのTgは100℃程度と低い。このため、高い耐熱性が要求される画像表示装置への当該偏光子保護フィルムの使用は、現実には難しい。
【0008】
一方、特許文献2が開示するN−置換マレイミド構造を有する共重合体、からなる樹脂フィルムは、N−置換マレイミド構造が当該共重合体の主鎖に位置するために、硬く、可とう性に乏しい。当該樹脂フィルムを延伸することによって、強度および可とう性といった機械的特性が向上し、光学フィルムとしての使用が可能となる。実際、特許文献2の光学フィルムは延伸フィルムである。しかし、延伸によって、N−置換マレイミド構造に由来する複屈折が生じるために、ゼロに近い小さな位相差が求められる偏光子保護フィルムとしての使用は困難である。
【0009】
なお、二軸延伸によって、強度および可とう性といった樹脂フィルムの機械的特性は、一軸延伸を行ったときよりも向上する。しかし、二軸延伸では、通常、厚さ方向の位相差が一軸延伸に比べて大きくなる。偏光子保護フィルムにおいて、面内位相差だけではなく厚さ方向の位相差についても、できるだけ小さいことが望まれる。
【0010】
本発明は、二軸延伸フィルムでありながら、示す位相差が小さく、高い耐熱性を有する光学フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学フィルムは、N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(c)を含む。前記N−置換マレイミド単位(a)は、前記(メタ)アクリル重合体(c)に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位である。前記(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、前記(メタ)アクリル重合体(c)に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位である。本発明の光学フィルムが示す、波長589nmの光に対する面内位相差Reは、0nm以上10nm以下である。本発明の光学フィルムが示す、波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthは、−10nm以上10nm以下である。本発明の光学フィルムは、二軸延伸フィルムである。
【0012】
ここで、前記光学フィルムの面内における遅相軸の方向の屈折率をnx、前記面内における進相軸の方向の屈折率をny、前記光学フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、前記光学フィルムの厚さをdとしたときに、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthは、それぞれ、式Re=(nx−ny)×dおよび式Rth={(nx+ny)/2−nz}×dにより定義される値である。
【0013】
重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該構成単位のホモポリマーを形成したときに、当該ホモポリマーが正の固有複屈折を示す構成単位をいう。重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該構成単位のホモポリマーを形成したときに、当該ホモポリマーが負の固有複屈折を示す構成単位をいう。
【0014】
重合体の固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、フィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。
【0015】
本発明の偏光子保護フィルムは、上記本発明の光学フィルムにより構成される。
【0016】
本発明の偏光板は、上記本発明の偏光子保護フィルムと、偏光子とを備える。
【0017】
本発明の画像表示装置は、上記本発明の光学フィルムを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、重合体に正の固有複屈折を与える作用を有するN−置換マレイミド単位(a)と、重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する(メタ)アクリル酸エステル単位(b)とを構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(c)が、光学フィルムに使用される。これにより、二軸延伸フィルムでありながら、示す位相差が小さく、高い耐熱性を有する光学フィルムが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の光学フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の偏光子保護フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の偏光板の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の画像表示装置の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態が説明される。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0021】
[(メタ)アクリル重合体(c)]
本発明の光学フィルムに用いられる(メタ)アクリル重合体(c)は、構成単位として、N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)を有する。N−置換マレイミド単位(a)は、当該単位を有する(メタ)アクリル重合体(c)に対して、正の固有複屈折を与える分子構造を有する。
【0022】
N−置換マレイミド単位(a)は、重合体に正の固有複屈折を与える作用を有するN−アルキル置換マレイミドが好ましい。置換基であるアルキル基は、例えば、炭素数1〜20のアルキル基であり、炭素数1〜20の脂肪族アルキル基が好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐状および環状でありうる。N−置換マレイミド単位(a)は、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−2−エチルヘキシルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミドの各単量体に由来する構成単位である。(メタ)アクリル重合体(c)は、これらのN−置換マレイミド単位を、1種または2種以上含みうる。光学フィルムの熱安定性および光学特性が高くなることから、N−置換マレイミド単位(a)は、特に好ましくは、N−シクロヘキシルマレイミド単位である。
【0023】
なお、特許文献2(特開2007-31537号公報)に開示されているような、芳香族基Ar1を置換基とするN−置換マレイミド単位(例えば、N−フェニルマレイミド単位、N−クロロフェニルマレイミド単位、N−メチルフェニルマレイミド単位、N−メトキシフェニルマレイミド単位、N−ナフチルマレイミド単位)は、通常、重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、当該単位を有する(メタ)アクリル重合体(c)に対して、負の固有複屈折を与える分子構造を有する。
【0025】
(メタ)アクリル重合体(c)において、N−置換マレイミド単位(a)が正の固有複屈折を与える作用を有し、(メタ)アクリル酸エステル単位(b)が負の固有複屈折を与える作用を有する。このため、双方の構成単位を有する共重合体である(メタ)アクリル重合体(c)が延伸された際に、双方の構成単位により生じる複屈折が互いに打ち消し合う。これにより、二軸延伸フィルムでありながら、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthがともに小さい光学フィルムが得られる。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する限り、限定されない。(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルの各単量体に由来する構成単位である。(メタ)アクリル重合体(c)は、これらの(メタ)アクリル酸エステル単位を、1種または2種以上含みうる。光学フィルムの熱安定性および光学特性が高くなることから、(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、特に好ましくは、メタクリル酸メチル(MMA)単位である。なお、MMA単位のホモポリマーであるPMMAからなる光学フィルムは、二軸延伸により、特に、厚さ方向の位相差Rthが大きくなる傾向を示す。
【0027】
(メタ)アクリル重合体(c)におけるN−置換マレイミド単位(a)の含有率は、好ましくは5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは8質量%以上22質量%以下、特に好ましくは10質量%以上22質量%以下である。(メタ)アクリル重合体(c)における(メタ)アクリル酸エステル単位(b)の含有率は、好ましくは70質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは75質量%以上95質量%以下であり、さらに好ましくは78質量%以上92質量%以下、特に好ましくは78質量%以上90質量%以下である。(メタ)アクリル重合体(c)におけるN−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)の含有率がこれらの範囲にある場合、二軸延伸フィルムでありながら、示す位相差がさらに小さく、さらに高い耐熱性を有する光学フィルムが得られる。これに加えて、二軸延伸フィルムでありながら、可視光域(およそ380nm以上750nm以下)の全体にわたって、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthが抑制される。
【0028】
(メタ)アクリル重合体(c)がN−置換マレイミド単位(a)を構成単位として有することにより、当該重合体(c)のガラス転移温度(Tg)が向上する。これにより、当該重合体(c)を含む光学フィルムの耐熱性が向上する。(メタ)アクリル重合体(c)のTgは、例えば、110℃以上である。N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)の種類および含有率によっては、(メタ)アクリル重合体(c)のTgは、115℃以上、120℃以上、さらには125℃以上となる。(メタ)アクリル重合体(c)のTgがこのように高いことから、本発明の光学フィルムは、電源、光源および半導体回路のような発熱体が狭い空間に高密度で収容されている画像表示装置への使用に好適である。(メタ)アクリル重合体(c)のTgの上限は特に限定されないが、当該重合体および当該重合体を含む樹脂組成物の成形が容易となることから、200℃以下が好ましい。
【0029】
なお、N−置換マレイミド単位(a)の含有率が多いほど、(メタ)アクリル重合体(c)のTgが向上する。しかし、当該含有率が30質量%を超えると、(メタ)アクリル重合体(c)に残留するモノマーの量が多くなる傾向にある。残留するモノマーの量が多い場合、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物を成形加工する際の作業性が低下し、光学フィルムの生産性が低下することがある。
【0030】
N−置換マレイミド単位(a)は、(メタ)アクリル重合体(c)の主鎖に位置する環構造である。Tgおよび/または光学特性の調整のために(メタ)アクリル重合体の主鎖に導入する環構造としては、他に、無水マレイン酸構造および無水グルタル酸構造が知られている。N−置換マレイミド単位(a)を有する(メタ)アクリル重合体(c)は、これら他の環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体に比べて、熱分解しにくい。この特徴により、例えば、(メタ)アクリル重合体(c)および当該重合体(c)を含む樹脂組成物を溶融濾過(例えば、ポリマーフィルターによる溶融濾過)および/または溶融成形する際に、(メタ)アクリル重合体(c)の熱分解による発泡が抑えられる。発泡は、光学フィルムにおける光学欠点となる。このため、主鎖に環構造を有しながらも、熱分解による発泡が抑制された(メタ)アクリル重合体(c)を含む本発明の光学フィルムは、画像表示装置をはじめとする光学用途への使用に好適である。
【0031】
(メタ)アクリル重合体(c)の重量平均分子量は、好ましくは2,000〜1,000,000であり、より好ましくは10,000〜500,000であり、さらに好ましくは50,000〜300,000である。
【0032】
(メタ)アクリル重合体(c)は、本発明の効果が得られる限り、N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)以外の構成単位(d)を有しうる。(メタ)アクリル重合体(c)における構成単位(d)の含有率は、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは0〜5質量%であり、さらに好ましくは0〜2質量%であり、特に好ましくは0〜1質量%である。
【0033】
(メタ)アクリル重合体(c)における構成単位(d)は、「重合によりN−置換マレイミド単位(a)となる単量体」および「重合により(メタ)アクリル酸エステル単位(b)となる単量体」の双方の単量体と重合しうる単量体に由来する構成単位である。構成単位(d)は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル重合体(c)は、2種以上の構成単位(d)を有しうる。
【0034】
構成単位(d)は、例えば、(メタ)アクリル重合体(c)のTgが過度に高くなることを抑制するために、当該重合体(c)に加えうる。
【0035】
[光学フィルム]
図1に、本発明の光学フィルムの一例を示す。図1に示す光学フィルム1は、N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(c)を含む。典型的には、光学フィルム1は、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物からなる。
【0036】
光学フィルム1は、波長589nmの光に対して、0nm以上10nm以下の面内位相差Reを示す。光学フィルム1は、波長589nmの光に対して、−10nm以上10nm以下の厚さ方向の位相差Rthを示す。光学フィルム1は、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthともに、示す位相差が小さく、偏光子保護フィルムとしての使用に好適である。特に、厚さ方向の位相差Rthが小さいことは、大画面の画像表示装置において、十分な視野角特性が確保しうることを意味する。
【0037】
光学フィルム1は、二軸延伸フィルムである。二軸延伸によって、光学フィルム1は、光学フィルムとして、特に偏光子保護フィルムとして、十分な機械的特性(例えば、強度および可とう性)を示す。二軸延伸フィルムでは、通常、面内位相差Reが抑えられたとしても、厚さ方向の位相差Rthが大きくなる傾向にある。しかし、光学フィルム1は、二軸延伸フィルムでありながら、厚さ方向の位相差Rthも小さい。
【0038】
光学フィルム1を構成する材料の組成によっては、二軸延伸によって、光学フィルムとして、特に偏光子保護フィルムとして、十分な機械的特性を示しながら、面内位相差Reおよび/または厚さ方向の位相差Rthがさらに小さくなる。光学フィルム1において、波長589nmの光に対する面内位相差Reは、好ましくは0nm以上10nm未満であり、より好ましくは0nm以上5nm以下であり、さらに好ましくは0nm以上3nm以下であり、特に好ましくは0nm以上2nm以下である。光学フィルム1において、波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthは、好ましくは−5nm以上5nm以下であり、より好ましくは−3nm以上3nm以下であり、さらに好ましくは−2nm以上2nm以下である。このような小さい面内位相差Reおよび/または厚さ方向の位相差Rthを示す光学フィルム1は、LCDをはじめとする画像表示装置への使用に特に好適である。良好な視野角特性、コントラスト特性が得られる。
【0039】
光学フィルム1は、二軸延伸によって、光学フィルムとして、特に偏光子保護フィルムとして、十分な機械的特性を示しながら、可視光域の全体にわたって面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthが小さい。例えば、波長400nmの光および波長750nmの光に対する面内位相差Reが0nm以上10nm以下である。光学フィルム1を構成する材料の組成によっては、波長400nmの光および波長750nmの光に対する面内位相差Reが0nm以上5nm以下、0nm以上3nm以下、さらには0nm以上2nm以下となる。例えば、波長400nmの光および波長750nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthが−10nm以上10nm以下である。光学フィルム1を構成する材料の組成によっては、波長400nmの光および波長750nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthが、−5nm以上5nm以下、−3nm以上3nm以下、さらには−2nm以上2nm以下となる。
【0040】
光学フィルム1は、波長400nmおよび波長750nmの光に対する面内位相差Reが0nm以上5nm以下であり、波長400nmおよび波長750nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthが−10nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0041】
光学フィルム1は、Rth/dで表される、フィルムの厚さ方向の複屈折が、好ましくは−2×10-4以上2×10-4以下であり、より好ましくは−1×10-4以上1×10-4以下であり、さらに好ましくは−0.5×10-4以上0.5×10-4以下である。これらの範囲において、光学フィルム1の厚さ方向の複屈折が小さいことにより、当該フィルムの厚さの設定の自由度が増す。より具体的には、光学フィルム1の厚さを過度に小さくすることなく、強度および可とう性を十分に考慮した厚さを設定しうる。すなわち、これらの範囲とすることは、光学フィルム1の強度および可とう性に有利となる。なお、Rthは、波長589nmの光に対する、光学フィルムの厚さ方向の位相差(単位はnm)であり、dは、光学フィルムの厚さ(単位はnm)である。
【0042】
光学フィルム1は、N−置換マレイミド単位(a)を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(c)を含むため、耐熱性に優れる。光学フィルム1のTgは、例えば、110℃以上である。(メタ)アクリル重合体(c)の組成および光学フィルム1における当該重合体(c)の含有率によっては、115℃以上、120℃以上、さらには125℃以上となる。このような高いTgを有する光学フィルム1は、電源、光源および半導体回路のような発熱体が狭い空間に高密度で収容されている画像表示装置への使用に好適である。高いTgを有する光学フィルム1は、画像表示装置における光源などの発熱部の近傍への配置が容易となるなど、当該フィルム1を備える画像表示装置の設計の自由度も向上する。光学フィルム1のTgの上限は特に限定されないが、当該フィルム1の成形性の観点から、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。
【0043】
光学フィルム1における(メタ)アクリル重合体(c)の含有率は、好ましくは60質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以上100質量%以下である。光学フィルム1は、(メタ)アクリル重合体(c)からなりうる。
【0044】
光学フィルム1は、(メタ)アクリル重合体(c)以外の材料を、光学フィルム1を構成する樹脂組成物における含有率にして40質量%未満、好ましくは10質量%未満、含みうる。
【0045】
当該材料は、例えば、(メタ)アクリル重合体(c)以外の、当該重合体(c)と相溶性を有する熱可塑性樹脂である。当該熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィンポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン含有ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレンポリマー;ポリメタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリルポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;トリアセチルセルロースなどのセルロースエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール:ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミドである。
【0046】
当該材料は、例えば、添加剤である。添加剤は、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシケート系、ベンゾエート系、トリアジン系などの紫外線吸収剤;フェノール系、リン酸系、チオエーテル系などの酸化防止剤;位相差上昇剤、位相差低減剤などの位相差調整剤;位相差安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAやABSなどのゴム質重合体などである。光学フィルム1に対するこれら添加剤の添加量は、例えば0質量%以上5質量%以下であり、好ましくは0質量%以上2質量%以下であり、より好ましくは0質量%以上0.5%質量%以下である。添加剤の添加量が過度に多いと、光学フィルム1を形成する際にブリードアウトおよび/またはシルバーストリークが生じやすくなる。
【0047】
光学フィルム1の厚さは限定されない。光学フィルム1の厚さは、例えば、5μm以上250μm以下であり、好ましくは10μm以上150μm以下であり、より好ましくは20μm以上80μm以下である。厚さが5μmよりも小さい場合、光学フィルムとしての強度が不足することがある。厚さが250μmよりも厚くなると、フィルムの複屈折が過度に大きくなることがある。
【0048】
光学フィルム1の製造方法は限定されない。公知の方法を応用して、光学フィルム1を製造しうる。例えば、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物を成形してフィルムを形成し、得られたフィルムを二軸延伸することで、光学フィルム1が製造される。
【0049】
樹脂組成物を成形してフィルムを形成する方法は特に限定されず、例えば、キャスト成形、溶融押出成形、プレス成形である。
【0050】
上述したように、(メタ)アクリル重合体(c)は熱分解しにくい。このため、光学フィルム1は、溶融押出成形により好適に製造しうる。
【0051】
溶融押出成形は、例えば、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物に対して実施される。樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリル重合体(c)と、当該樹脂組成物におけるその他の成分とをオムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練機から押出混練することで形成しうる。混練機には公知の混練機、例えば、単軸押出機、二軸押出機のような押出機、および加圧ニーダーを適用しうる。
【0052】
溶融押出成形は、例えば、Tダイ法、インフレーション法に従う。溶融押出成形の温度(成形温度)は、好ましくは200℃以上350℃以下、より好ましくは250℃以上300℃以下、さらに好ましくは255℃以上300℃以下、特に好ましくは260℃以上300℃以下である。
【0053】
Tダイ法によれば、先端部にTダイを取り付けた押出機から押し出したフィルムを巻き取ることによって、ロールに巻回したフィルムが得られる。このとき、巻き取りの温度および速度を制御して、フィルムの押し出し方向に延伸(一軸延伸)を加えうる。
【0054】
溶融押出成形に押出機を用いる場合、押出機の種類は特に限定されず、単軸、二軸および多軸でありうる。押出機のL/D値は(Lは押出機のシリンダーの長さ、Dはシリンダーの内径)、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、樹脂組成物を十分に可塑化できず、良好な混練状態が得られないことがある。L/D値が100を超える場合、樹脂組成物に対して過度に剪断発熱が加わることによって、樹脂組成物に含まれる成分が熱分解しやすくなる。
【0055】
この場合、シリンダーの設定温度は、好ましくは200℃以上350℃以下であり、より好ましくは250℃以上320℃以下である。設定温度が200℃未満の場合、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物の溶融粘度が過度に高くなって、フィルムの生産性が低下する。設定温度が350℃を超える場合、樹脂組成物に含まれる成分が熱分解することがある。
【0056】
溶融押出成形に押出機を用いる場合、押出機の形状は特に限定されない。押出機が1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。このような押出機を用いることによって、開放ベント部から分解ガスを吸引しうる。これにより、得られたフィルムに残存する揮発成分の量が低減される。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にする。この場合の減圧度は、開放ベント部の圧力(絶対圧)にして、好ましくは1.3hPa以上931hPa以下であり、より好ましくは13.3hPa以上798hPa以下である。開放ベント部の圧力が931hPaより高い場合、揮発成分および/または樹脂組成物に含まれる成分の分解により発生する単量体が、得られたフィルムに残存しやすい。一方、開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは、工業的に困難である。
【0057】
溶融押出成形の際には、溶融状態にある、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物を、ポリマーフィルターを用いて溶融濾過することが好ましい。溶融濾過によって、樹脂組成物中に存在する異物が除去される。このため、最終的に得られた光学フィルムにおける光学欠点および外観上の欠点の量が低減する。上述したように、(メタ)アクリル重合体(c)は、熱分解しにくく、したがって溶融濾過時に発泡が生じにくい。しかし、過度に高い温度での溶融濾過は、得られたフィルムに、穴あき、流れ模様および流れ筋といった欠点が生じる原因となる。これらの欠点は、特に、フィルムの連続成形時に発生しやすい。これらを考慮すると、溶融押出成形の温度は、樹脂組成物の溶融温度を低下させることでポリマーフィルターにおける当該組成物の滞留時間を短くするために、例えば、200℃以上350℃以下であり、好ましくは250℃以上320℃以下である。
【0058】
ポリマーフィルターの構成は特に限定されない。ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターが、好適に使用されうる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはこれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれも用いうる。金属繊維不織布を焼結したタイプが、最も好ましい。
【0059】
ポリマーフィルターの濾過精度は特に限定されない。濾過精度は、通常、15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下の場合、ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間が長くなることによって、当該組成物の熱劣化が大きくなる。また、フィルムの生産性が、低下する。濾過精度が15μmを超える場合、樹脂組成物に含まれる異物の除去が不十分となりやすい。
【0060】
ポリマーフィルターの形状は特に限定されない。ポリマーフィルターは、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;である。樹脂の滞留箇所が少ないことから、外流型の使用が好ましい。
【0061】
ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間は、好ましくは20分以下であり、より好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは5分以下である。溶融濾過における、ポリマーフィルターの入口圧および当該フィルターの出口圧は、例えば、それぞれ、3MPa以上15MPa以下および0.3MPa以上10MPaである。溶融濾過における圧力損失(ポリマーフィルターの入口圧と出口圧との圧力差)は、好ましくは1MPa以上15MPa以下である。圧力損失が1MPa以下の場合、樹脂組成物がポリマーフィルターを通過する流路に偏りが生じやすい。流路の偏りは、得られたフィルムの品質が低下する原因である。圧力損失が15MPaを超える場合、ポリマーフィルターが破損しやすい。
【0062】
ポリマーフィルターによる溶融濾過は、溶融押出成形時以外にも、樹脂組成物の形成時など、任意のタイミングで実施しうる。
【0063】
樹脂組成物を溶融濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置することにより、ポリマーフィルター内における樹脂組成物の圧力を安定化することが好ましい。
【0064】
各種の成形法により得られたフィルムは、次に、二軸延伸されて光学フィルム1が形成される。フィルムを成形する際に、既に一軸延伸が加えられている場合は、残る一軸延伸を行うことで、二軸延伸フィルムとなる。
【0065】
光学フィルム1が得られる限り、二軸延伸の方法は限定されない。二軸延伸は、例えば、縦延伸−横延伸の2段延伸でありうる。二軸延伸は、例えば、縦延伸−横延伸−縦延伸または横延伸−縦延伸−横延伸といった3段延伸(あるいは3段以上の多段延伸)でありうる。光学フィルム1は、二軸延伸フィルムであり、このため、強度が高く、膜厚の均一性に優れる。未延伸フィルムは、示す位相差が小さいが、光学フィルムとしての使用に十分な強度を有さない。一軸延伸フィルムは、光学特性および強度に異方性が生じやすく、示す位相差が大きい。
【0066】
延伸温度は限定されない。延伸温度は、(メタ)アクリル重合体(c)を含む樹脂組成物のTg近傍の温度が好ましい。延伸温度は、例えば、Tg−20℃以上Tg+50℃以下であり、好ましくはTg−10℃以上Tg+30℃以下である。延伸温度がTg−20℃以下の場合、延伸の際にフィルムが破断しやすい。延伸温度がTg+50℃以上の場合、延伸による効果が十分に得られない。延伸速度は特に限定されず、例えば、10%/分以上20000%/分以下であり、好ましくは100%/分以上10000%/分以下である。延伸速度が10%/分未満の場合、延伸を完了するまでの時間が長くなるため、光学フィルムの製造コストが高くなる。延伸速度が20000%/分を超える場合、延伸の際にフィルムが破断しやすい。
【0067】
延伸倍率は、面積比にして、好ましくは1.2倍以上25倍以下であり、より好ましくは1.5倍以上15倍以下であり、さらに好ましくは2倍以上10倍以下である。延伸倍率が1.2倍未満の場合、十分な機械的特性(例えば、強度および可とう性)が得られない。延伸倍率が25倍を超えると、それ以上延伸倍率を大きくすることによるメリットがない上に、延伸の際にフィルムが破断しやすい。
【0068】
光学フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を実施しうる。
【0069】
本発明の光学フィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されうる。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層である。
【0070】
本発明の光学フィルムの用途は特に限定されない。本発明の光学フィルムは、小さい位相差、高い透明性および高い耐熱性に基づき、以下の用途に好適である。当該用途は、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、LCDなどの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、位相差フィルム(ただし、波長589nmの光に対する面内位相差Reが10nm以下、かつ厚さ方向の位相差Rthが−10nm以上10nm以下)などの光学フィルムとして、本発明の光学フィルムを用いうる。本発明の光学フィルムは、特に、偏光子保護フィルムとしての使用に好適である。
【0071】
[偏光子保護フィルムおよび偏光板]
図2に、本発明の偏光子保護フィルムの一例を示す。図2に示す偏光子保護フィルム2は、本発明の光学フィルムにより構成される。すなわち、偏光子保護フィルム2は、N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(c)を含む。N−置換マレイミド単位(a)は、(メタ)アクリル重合体(c)に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位である。(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、(メタ)アクリル重合体(c)に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位である。偏光子保護フィルム2は、波長589nmの光に対して、0nm以上10nm以下の面内位相差Reを示す。偏光子保護フィルム2は、波長589nmの光に対して、−10nm以上10nm以下の厚さ方向の位相差Rthを示す。偏光子保護フィルム2は、二軸延伸フィルムである。
【0072】
図3に、本発明の偏光板の一例を示す。図3に示す偏光板3は、本発明の偏光子保護フィルム2と、偏光子4と、を備える。偏光子4は、一対の偏光子保護フィルム2により挟持されている。偏光子4と偏光子保護フィルム2とは、互いに接する。
【0073】
偏光子4は限定されず、偏光板3として必要な機能に応じて、任意の適切な偏光子を採用できる。偏光子4は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)の部分けん化フィルムのような親水性の高分子フィルムに、ヨウ素または二色性染料のような二色性物質を吸着させて一軸延伸したフィルム;PVAの脱水処理物あるいはポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物を用いたポリエン系配向フィルム、である。なかでも、PVA系フィルムに二色性物質を吸着させて一軸延伸したフィルムが、偏光子4として好ましい。この偏光子は、高い偏光二色比を示す。偏光子4の厚さは限定されず、一般に、1〜80μm程度である。
【0074】
偏光板3は、典型的には、偏光子保護フィルム2と偏光子4とを接着層を介して積層することにより製造される。具体的には、例えば、偏光子4または偏光子保護フィルム2から選ばれるいずれか一方の表面に、乾燥後に接着層となる接着剤組成物を塗布した後、両者を貼り合わせて乾燥させる。接着剤組成物の塗布方法は、例えば、ロール法、噴霧法、浸漬法である。接着剤組成物が金属化合物コロイドを含む場合、乾燥後の接着層の厚さが金属化合物コロイド粒子の平均粒子径よりも大きくなるように、接着剤組成物を塗布する。乾燥温度は、典型的には、5℃以上150℃以下、好ましくは30℃以上120℃以下である。乾燥時間は、典型的には、120秒以上、好ましくは300秒以上である。
【0075】
本発明の偏光板は、少なくとも1つの偏光子保護フィルム2を備えればよい。
【0076】
本発明の偏光子保護フィルムおよび偏光板は、画像表示装置への使用に好適である。画像表示装置は、例えば、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)、LCDである。LCDは、液晶セルと、液晶セルの少なくとも一方の主面に配置された偏光板とを備える。当該偏光板に、本発明の偏光板が好適である。
【0077】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、本発明の光学フィルムを備える。光学フィルムは、例えば、偏光子保護フィルムである。画像表示装置は、例えば、ELディスプレイパネル、PDP、FED、LCDである。
【0078】
本発明の光学フィルムを備える画像表示装置(本発明の画像表示装置)の構成は特に限定されず、電源、バックライト部、操作部などの部材を、必要に応じて適宜備えうる。
【0079】
図4に、本発明の画像表示装置における画像表示部の構造の一例を示す。図4に示す画像表示部11は、LCDの画像表示部であり、液晶セル5と、液晶セル5を挟持するように配置された一対の偏光板3a,3bと、液晶セル5および偏光板3a,3bの積層体における一方の面に配置されたバックライト8とを備える。それぞれの偏光板3a,3bは、偏光子4a,4bと、当該偏光子を挟持するように配置された一対の偏光子保護フィルム2a,2b,2c,2dとを備える。液晶セル5は公知の構造を有しており、例えば、液晶層、ガラス基板、透明電極、配向膜などを備える。バックライト8は公知の構造を有しており、例えば、光源、反射シート、導光板、拡散板、拡散シート、プリズムシート、輝度向上フィルムなどを備える。
【0080】
画像表示部11では、例えば、4つの偏光子保護フィルム2a〜2dから選ばれる少なくとも1つが本発明の光学フィルムである。全ての偏光子保護フィルムが本発明の光学フィルムでありうる。画像表示部11は、必要に応じて、位相差フィルムあるいは光学補償フィルムなどの任意の光学フィルムおよび光学部材をさらに有しうる。当該光学フィルムが本発明の光学フィルムでありうる。当該光学部材が本発明の光学フィルムを備えうる。
【0081】
本発明の画像表示装置は、本発明の偏光子保護フィルムおよび/または本発明の偏光板を備えうる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により、本発明がさらに詳細に説明される。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0083】
最初に、本実施例において作製した重合体および光学フィルムの評価方法を示す。
【0084】
[ガラス転移温度(Tg)]
重合体のTgは、JIS K7121の規定に準拠して、始点法により求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0085】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成
・ガードカラム:東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
・分離カラム:東ソー製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
リファレンス側カラム構成
・リファレンスカラム:東ソー製、TSKgel SuperH-RC
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0086】
[フィルムの厚さ]
フィルムの厚さd(nm)は、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0087】
[屈折率異方性]
波長400nm、589nmおよび750nmのそれぞれの光に対する、フィルムの面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthは、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS−100)を用いて測定した。
【0088】
なお、厚さ方向の位相差値Rthは、アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、フィルムの厚さd、フィルムを40°傾斜させて測定した面内位相差(Re(40°))、ならびにフィルムの三次元屈折率nx、nyおよびnzの各値を得た後、以下の式から求めた。nx、nyおよびnzについては、上述したとおりである。
厚さ方向の位相差Rth(nm)={(nx+ny)/2−nz}×d(nm)
【0089】
[発泡性試験]
重合体の発泡性は、以下のように評価した。最初に、乾燥した重合体を、JIS K7210に規定されるメルトインデクサーのシリンダー内に充填した。次に、重合体を充填したシリンダーを280℃で20分間保持した後、シリンダー内の重合体を、シリンダーの先端からストランド状に押し出した。このようにして得られたストランドの上部標線と下部標線との間に存在する長径0.5mm以上の泡の発生個数を目視により計測し、これを重合体1gあたりの個数で評価した。評価基準は、以下のとおりである。
◎(優):1個以下
○(良):2個以上5個以下
△(可):6個以上10個未満
×(不可):10個以上
【0090】
(製造例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)45質量部、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)5質量部および重合溶媒としてトルエン50質量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.04質量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.16質量部を4時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。次に、得られた重合体溶液を減圧下、200℃で1時間乾燥して、CHMI単位およびMMA単位を構成単位として有する、(メタ)アクリル重合体(A−1)の透明な固体を得た。重合体(A−1)の重量平均分子量は23万であり、Tgは126℃であった。重合体(A−1)に対する発泡性試験の評価結果は、「○(良)」であった。CHMI単位は、重合体に正の固有複屈折を与える構成単位である。MMA単位は、重合体に負の固有複屈折を与える構成単位である。重合体(A−1)におけるCHMI単位の含有率は10質量%、MMA単位の含有率は90質量%であった。
【0091】
(製造例2)
MMAおよびCHMIの仕込み量を、それぞれ40質量部および10質量部とし、熟成の時間を5時間とし、得られた重合溶液の乾燥温度を220℃とした以外は、実施例1と同様にして、CHMI単位およびMMA単位を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(A−2)の透明な固体を得た。重合体(A−2)の重量平均分子量は22万であり、Tgは128℃であった。重合体(A−2)に対する発泡性試験の評価結果は、「◎(優)」であった。重合体(A−2)におけるCHMI単位の含有率は20質量%、MMA単位の含有率は80質量%であった。
【0092】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(A−1)を、プレス成形機を用いて成形温度250℃でプレス成形して、厚さ152μmのフィルム(B−1)を得た。次に、作製したフィルム(B−1)を、二軸延伸試験装置(東洋精機製作所製、X−6S)を用いて、延伸温度146℃、延伸速度1000%/分の延伸条件で、縦方向および横方向の順に、それぞれ延伸倍率2倍および1.5倍で、逐次二軸延伸した。なお、縦方向はいわゆるMD方向、横方向はいわゆるTD方向を意味する。二軸延伸後、試験装置から速やかにフィルムを取りだして冷却し、厚さ55μmの二軸延伸フィルム(C−1)を得た。得られたフィルム(C−1)のTgは126℃、波長589nmの光に対する面内位相差Reは1.2nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは−3.9nm、波長400nmの光に対する面内位相差Reは1.3nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは−6.2nm、波長750nmの光に対する面内位相差Reは2.0nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは−2.8nmであった。
【0093】
(実施例2)
製造例2で作製した重合体(A−2)を、プレス成形機を用いて成形温度255℃でプレス成形して、厚さ138μmのフィルム(B−2)を得た。次に、作製したフィルム(B−2)を、二軸延伸試験装置(東洋精機製作所製、X−6S)を用いて、延伸温度148℃、延伸速度1000%/分の延伸条件で、縦方向および横方向の順に、それぞれ延伸倍率2倍および1.5倍で逐次二軸延伸した。二軸延伸後、試験装置から速やかにフィルムを取りだして冷却し、厚さ43μmの二軸延伸フィルム(C−2)を得た。得られたフィルム(C−2)のTgは128℃、波長589nmの光に対する面内位相差Reは0.4nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは0.8nm、波長400nmの光に対する面内位相差Reは0.3nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは1.0nm、波長750nmの光に対する面内位相差Reは0.4nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは0.8nmであった。
【0094】
(比較例1)
ポリメタクリル酸メチル(住友化学製、商品名:スミペックスEX)を、プレス成形機を用いて成形温度230℃でプレス成形して、厚さ146μmのフィルム(B−3)を得た。次に、作製したフィルム(B−3)を、二軸延伸試験装置(東洋精機製作所製、X−6S)を用いて、延伸温度129℃、延伸速度1000%/分の延伸条件で、縦方向および横方向の順に、それぞれ延伸倍率2倍および1.5倍で逐次二軸延伸した。二軸延伸後、試験装置から速やかにフィルムを取り出して冷却し、厚さ51μmの二軸延伸フィルム(C−3)を得た。得られたフィルム(C−3)のTgは109℃、波長589nmの光に対する面内位相差Reは6.1nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは−11.1nm、波長400nmの光に対する面内位相差Reは6.2nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは−12.4nm、波長750nmの光に対する面内位相差Reは5.7nm、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthは−10.8nmであった。
【0095】
比較例1に用いたポリメタクリル酸メチルに対する発泡性試験の評価結果は、「×(不可)」であった。
【0096】
実施例および比較例の評価結果を、以下の表1にまとめる。なお、Rth/dは、波長589nmの光に対する値である。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示すように、実施例1および2、特に実施例2、では、得られた二軸延伸フィルムが示す位相差が、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthともに小さくなった。これに加えて、実施例1および2、特に実施例2、では、可視光域の全体にわたって、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthが小さくなることが確認された。さらに、実施例1および2に用いた重合体、特に実施例2に用いた重合体、は、熱分解しにくく、フィルム成形時の発泡が抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の光学フィルムは、各種の画像表示装置(液晶表示装置、有機EL表示装置、PDPなど)への使用に好適である。
【符号の説明】
【0100】
1 光学フィルム
2、2a、2b、2c、2d 偏光子保護フィルム
3、3a、3b 偏光板
4、4a、4b 偏光子
5 液晶セル
8 バックライト
11 画像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−置換マレイミド単位(a)および(メタ)アクリル酸エステル単位(b)を構成単位として有する(メタ)アクリル重合体(c)を含み、
前記N−置換マレイミド単位(a)は、前記(メタ)アクリル重合体(c)に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル単位(b)は、前記(メタ)アクリル重合体(c)に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位であり、
波長589nmの光に対する面内位相差Reが0nm以上10nm以下、前記光に対する厚さ方向の位相差Rthが−10nm以上10nm以下であり、
二軸延伸フィルムである、光学フィルム。
ここで、前記光学フィルムの面内における遅相軸の方向の屈折率をnx、前記面内における進相軸の方向の屈折率をny、前記光学フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、前記光学フィルムの厚さをdとしたときに、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthは、それぞれ、式Re=(nx−ny)×dおよび式Rth={(nx+ny)/2−nz}×dにより定義される値である。
【請求項2】
前記N−置換マレイミド単位(a)が、シクロヘキシルマレイミド単位である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸エステル単位(b)が、メタクリル酸メチル単位である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル重合体(c)における前記N−置換マレイミド単位(a)の含有率が5質量%以上30質量%以下であり、
前記(メタ)アクリル重合体(c)における前記(メタ)アクリル酸エステル単位(b)の含有率が70質量%以上95質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
波長400nmの光および波長750nmの光に対する前記面内位相差Reが、5nm以下であり、
波長400nmの光および波長750nmの光に対する前記厚さ方向の位相差Rthが、−10nm以上10nm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
ガラス転移温度が110℃以上である請求項1〜5のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学フィルムにより構成される偏光子保護フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光子保護フィルムと、偏光子と、を備える偏光板。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学フィルムを備える画像表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−242754(P2011−242754A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80083(P2011−80083)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】