説明

光学フィルムの製造方法

【課題】 溶融押出法により光学フィルムを成形する際に冷却ロールによって発生する、点状欠陥である凹状痕を解消する光学フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】 押出機に取り付けられたTダイから溶融状態で押し出された、ガラス転移温度がTg(℃)である非晶性熱可塑性樹脂フィルムが最初に触れる冷却ロールの温度をT1(℃)とするとき、T2≧T1+10、且つ、T2≧Tg+10を満たす延伸温度T2(℃)にて該フィルムを延伸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途やディスプレイ分野などに用いられる光学フィルムの製造方法に関し、より詳細には、押出成形により得られ、該フィルムを延伸することによって得られる位相差フィルム用の原反として好適な、点状欠陥の改善された光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイにおいて位相差フィルムが多用されており、要求される光学特性はますます高品位化されている。位相差フィルムは一般に高分子からなるフィルムを延伸して得られるが、製膜条件や延伸条件に起因する品質ムラは位相差フィルムの位相差ムラの主原因となる。とりわけ、位相差フィルムにするための延伸前のフィルム(以下、位相差フィルム用原反と略記する。)にムラ欠陥が存在すると、位相差フィルムの位相差ムラに直結するため、より欠陥の少ない位相差フィルム用原反としての光学フィルムが要求されている。
【0003】
位相差フィルムの位相差ムラ欠陥のうち点状欠陥とは、該フィルムを用いて液晶ディスプレイを構成したときにその部分で光抜け現象が起きたり、色合いが異なって見えたりする欠陥をいう。これら点状欠陥の原因としては、ゲルと称される架橋物、気泡、樹脂以外の異物などがフィルム内部に存在する場合や、フィルム表面に存在する異物、溶融製膜時に冷却ロール上に付着している異物のフィルム上への転写痕である凹状痕等が挙げられる。
【0004】
光学フィルムの製造方法として一般的には溶液流延法が採用されているが、近年はコストと生産性の面から溶融押出法が盛んに研究されており、上記点状欠陥のうちの凹状痕は溶融押出フィルム特有の欠陥としてその対策が急務である。
【0005】
溶融押出フィルムの表面欠陥対策として、特許文献1では、バックアップロールで冷却した表面性の優れた弾性タッチロールと金属ロールで樹脂を挟圧し、樹脂の未溶融物による突起を解消して表面平滑性に優れたフィルムを得る方法が提案されている。確かに、この方法では上記した点状欠陥のうち架橋物に基づく凸状欠陥の解消は可能であっても、凹状痕を解決することはできない。
【0006】
この凹状痕欠陥を低減する手段としては、ロール上の異物管理を行うことが考えられ、環境からの異物に関しては製膜雰囲気のクリーン化により実現可能である。ところが現実には、溶融樹脂に含まれる低分子樹脂や安定剤等の添加剤のブリード物等がロールに付着することがあり、このような欠陥をなくすことは至難であって、しかも一旦付着したブリード物は容易には除去されず周期的にフィルム表面の点状欠陥を形成し続けることになる。
【0007】
【特許文献1】特開平04−82725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、溶融押出法により光学フィルムを成形する際に冷却ロールによって発生する、点状欠陥である凹状痕を解消する光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、押出機に取り付けられたTダイから溶融状態で押し出されたガラス転移温度がTg(℃)である非晶性熱可塑性樹脂フィルムが最初に触れる冷却ロールの温度をT1(℃)とするとき、次の関係式を満たす延伸温度T2(℃)にて該フィルムを延伸することを特徴とする。
T2≧T1+10、且つ、T2≧Tg+10
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明に用いられる非晶性熱可塑性樹脂は、光学フィルムとして使用される透明性に優れるものであって、特に位相差フィルムに適したものであればよく、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、オレフィン−マレイミド共重合体等が例示でき、これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。中でも固有複屈折率が小さく、光弾性係数の小さいノルボルネン系樹脂、オレフィン−マレイミド共重合体は上記温度条件における位相差の発現性が低いため好ましく、ノルボルネン系樹脂は溶融状態からの温度低下によって急激に固化されるような樹脂のため、上記の製造方法では特に効果が高く好ましい。
【0011】
上記ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとオレフィンとの付加重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加重合体並びにこれらの誘導体等が挙げられる。これらのノルボルネン系樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0012】
上記ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン(ノルボルネン)や、6−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5,6−ジメチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、1−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−エチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−n−ブチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−イソブチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、7−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エンなどのノルボルネン系誘導体等が挙げられる。
【0013】
上記ノルボルネン系モノマーの開環重合体としては、上記ノルボルネン系モノマーを公知の方法で開環重合させた後、残留している二重結合が水素添加されているものが広く用いられる。これは、ノルボルネン系モノマーの単独重合体であってもよく、ノルボルネン系モノマーと他の環状オレフィン系モノマーとの共重合体であってもよい。
【0014】
また、上記ノルボルネン系モノマーとオレフィンとの付加重合体としては、ノルボルネン系モノマーとα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。上記α−オレフィンとしては、炭素数2〜20、好ましくは2〜10のα−オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等が挙げられ、中でも共重合性が高いことから、エチレンが好ましく、他のα−オレフィンをノルボルネン系モノマーと共重合させる場合にも、エチレンが存在している方が共重合性が高められる。
【0015】
ノルボルネン系樹脂の数平均分子量は、小さいと機械的強度が低下することがある一方、大きいとフィルムの成形性に支障を来すことがあるので、5000〜50000が好ましく、8000〜30000がより好ましい。
【0016】
また、ノルボルネン系樹脂には、発明の主旨を外れない範囲で、その他ポリマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤、界面活性剤、可塑剤、各種フィラー等が添加されていてもよい。なお、添加剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0017】
オレフィン−マレイミド共重合体としては、例えば、オレフィン成分とマレイミド成分とのラジカル共重合反応により得られるものが挙げられる。オレフィン成分としては、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン等のオレフィン類が例示でき、このうち耐熱性、機械特性及び透明性の点から特にイソブテンが好ましい。また、これらオレフィン類は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。オレフィン成分の含有量は、共重合体全体の40〜60モル%が好ましく、耐熱性及び機械特性の点から45〜55モル%がより好ましい。オレフィン成分が60モル%を超える場合には得られるフィルムは脆くなり、40モル%未満の場合では得られるフィルムの耐熱性が低下するため好ましくない。
【0018】
マレイミド成分としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類が例示され、耐熱性、機械特性、及び透明性の点から特にN−メチルマレイミドが好ましい。さらに、これらマレイミド類は1 種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
オレフィン−マレイミド共重合体の分子量は1000〜5000000、特に機械特性と成形性のバランスの点から10000〜1000000のものが好ましい。分子量が5000000を超える場合には、得られるフィルムの表面性が悪くなり、1000未満の場合には、得られるフィルムが脆くなる傾向にある。
【0020】
オレフィン−マレイミド共重合体には、発明の主旨を外れない範囲で、その他ポリマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤、界面活性剤、可塑剤、各種フィラー等が添加されていてもよい。なお、添加剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0021】
本発明における延伸温度T2(℃)は、前述のように、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)、非晶性熱可塑性樹脂フィルムが最初に触れる冷却ロールの温度をT1(℃)とするとき、T2≧T1+10、且つ、T2≧Tg+10を満足する範囲である。延伸温度がT1+10を下回ると、凹状痕を有効に解消できなくなり、Tg+10を下回ると延伸に伴う歪みがフィルムに残りがちになって複屈折を生じる結果、無用な位相差が発現してしまうからである。より好ましい延伸温度範囲は、T2≧T1+15、T2≧Tg+12である。
なお、本発明で用いる樹脂のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量計により測定して得られる温度を採用するものとする。
【0022】
また、本発明に用いられるフィルムの厚みに関しては、特に制約を設けるものではないが、液晶ディスプレイに用いられる位相差フィルム用原反としての好ましい厚み範囲は50〜150μm程度であり、一般に位相差フィルムとするための延伸操作によって厚みが薄くなることを考慮すれば、延伸前の厚みとしては50〜300μm程度が好ましい。50μmを下回ると、位相差フィルムとした場合の厚みが薄くなり過ぎてフィルムに腰がなくなり、ハンドリング性が低下するからであり、300μmを上回ると、得られる位相差フィルムの厚みが厚過ぎて、例えば液晶ディスプレイの小型化にそぐわなくなるからである。厚みのより好ましい上限は200μmである。
【0023】
本発明の延伸方法には特に制限はなく、従来公知の延伸方法、例えば、フィルムの長手方向に引っ張るロール間縦一軸延伸、テンタークリップ等を用いてフィルムの幅方向に引っ張るテンター横一軸延伸、これらを任意の順に組み合わせる逐次二軸延伸、これらを同時に行う同時二軸延伸いずれもが採用できる。本発明の効果は、これらの延伸方式によらず得ることができるものである。
【0024】
本発明における延伸倍率は、延伸方法によってもその最適範囲を異にするものではあるが、上記フィルム厚みと裏腹の関係となり、1.01〜4倍程度が好ましい。特に、二軸方向に延伸する場合は、各方向の延伸倍率がこの範囲を満たすとともに、それぞれの延伸倍率の積もこの範囲を満たすことが望ましい。この範囲を外れると所期の効果が得られなかったり、位相差フィルム用原反としての適性を欠くものとなったりする場合がある。
【0025】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、溶融押出時の冷却ロールにて転写され、冷却ロール温度によって変形温度が一義的に決定される凹状痕は、上記温度範囲にて延伸することによって変形回復するとともに、製膜時の残留応力も緩和される。
【0026】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、押出機に取り付けられたTダイから溶融状態で押し出された非晶性熱可塑性樹脂フィルムが、それぞれTg+5(℃)〜Tg−40(℃)の範囲に温調された、表面粗さRyが0.5μm以下である表面が弾性変形可能なタッチロールと剛体の冷却ロールとで挟圧されたものである場合、一段と優れた品質の光学フィルムとすることが可能である。
【0027】
即ち、請求項1に記載の方法は凹状欠陥を解消するには非常に有効であるが、樹脂の未溶融物やゲル等に起因する凸状欠陥に対しては格別の効果が得られない。これに対して、冷却ロールにタッチロールを押し当てて製膜する方法を用いると、凹状欠陥は発生し易くなるが、逆に凸状欠陥を解消できることから、請求項1の方法と組み合わせることで一層大きな効果が得られるのである。
【0028】
冷却ロールとしては、挟圧時の圧力に耐える堅牢な構造を有する鋼、ステンレス、アルミニウム等の金属製軸芯の外周を炭素鋼やステンレス鋼で被覆したものが好適に例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
表面が弾性変形可能なタッチロールとしては、やはり挟圧時の圧力に耐える堅牢な構造を有する鋼、ステンレス、アルミニウム等の金属製軸芯に、シリコーンゴムやフッ素系ゴム等の弾性材料を被覆したものを例示することができる。軸芯に被覆される弾性変形可能な柔軟層は2層以上の多層構造であってもよく、多層の場合はその中に1つでも弾性材料があればよい。このような多層構造の例としては、ゴム材料の表面に金属製スリーブを装着したものが好適に例示できる。
【0030】
金属スリーブとしては、例えば、炭素鋼やステンレス鋼、電鋳法で製造されたニッケル等が挙げられる。金属スリーブは、その表面にクロム等でメッキするなどされた多層構造であってもよい。金属スリーブの厚みは特に限定されず、所定の圧力を加えたとき冷却ロールとフィルムとが密着するのに十分は柔軟性があるとともに装着時の作業性と強度に支障がなければよく、例えば、電鋳ニッケルを用いた場合には100μm〜1mm程度とされればよい。
【0031】
タッチロールの表面硬度は、所定の圧力を加えたとき冷却ロールとフィルムとが密着するのに十分な柔軟性があればよく、例えば、シリコーンゴムの場合、ショアーA硬度で30°〜90°程度である。また、タッチロールの形状は通常は円筒状であるが、挟圧時に僅かに湾曲することがあり、中央部の圧力が低下するのを防止するために中央部が若干太いクラウン形状としても問題はない。更に、タッチロールの幅は特に限定されるものではないが、通常、押出フィルムの端部は平均厚みより厚くなる傾向にあるため、この端部を押圧しない程度の幅であることが好ましい。
【0032】
表面温度を上記範囲に制御するため、上記冷却ロール及びタッチロールは適当な温度に調節できる構造の軸芯部とされていることが好ましい。好適に用いられる温度調節手段としては、シーズヒーターを軸芯部に組み込んでロールを加熱する電気加熱方式、誘導発熱式コイルによる電磁誘導作用によってロールを加熱する誘導発熱方式、軸芯部内に設けられた流路に温度制御用の熱媒体を循環させてロールを加熱する熱媒体循環加熱方式等が挙げられる。これらの加熱方式のうち、特に好ましいものは熱媒体循環加熱方式であり、この熱媒体としては水、油等の液体が好ましく、熱媒体流路の好適な例としては、内部に二条スパイラルまたは四条スパイラル等の構造を有するものが挙げられる。
【0033】
いずれのロールについても表面温度は非晶性熱可塑性樹脂のTg+5〜Tg−40℃が望ましく、樹脂の種類よって最適温度は異なるが、基本的にロール温度が高い方がフィルムの凸状欠点解消に対しては有効である。冷却ロール、タッチロールのいずれか一方でも温度がTg−40℃を下回ると、非晶性熱可塑性樹脂は瞬間に固化するため、挟圧してもフィルム表面の凸状欠陥の解消の効果は殆ど得られない。一方、冷却ロール、タッチロールのいずれかの温度がTg+5℃以上のときは樹脂の冷却が不足し、ロールからのフィルムの剥離がスムーズにできず、剥離ムラによる新たな外観欠陥が発生する恐れがある。
【0034】
更に、タッチロールと冷却ロールの表面粗さをRyで0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下にすることで、フィルムの平滑性が保たれるとともに透明性を高度に確保できる。0.5μmを超えると、ロールの表面性状の転写により、凸状のスジが発生し欠陥となる恐れがある。
一般に金属ロールである冷却ロールの表面粗さを0.5μm以下とすることは容易であるが、タッチロールの表面粗さを0.5μm以下とする方法としては、ゴム表面を有するタッチロールの場合は表面を精度よく研磨する方法が挙げられる。また、ゴム表面に金属メッキを施したり、金属スリーブや研磨した硬化樹脂等の薄膜で被覆する方法も挙げられる。特に、タッチロール表面に金属スリーブを装着する場合は、ロール表面の平滑化が極めて容易である上、内部の柔軟な材料によってフィルムが均一に挟圧できて、表面粗さに優れた金属表面をフィルムに転写できるので最も好ましい。本発明においてRyとは、JIS B 0601−94に定義され、基準長さ内の山の最大高さと谷の深さとの長さとして示されるものである。
【0035】
冷却ロールとタッチロールの外径は特に限定されず、どちらが大きくてもよく、同じ大きさでもよい。また、タッチロールの圧力は冷却ロールとフィルムが完全に密着する圧力以上であればよく、樹脂の粘度などによって適宜決められればよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明の光学フィルムの製造方法は上述の通りの延伸条件とされているので、冷却ロール上の欠陥原因が溶融押出フィルムに転写されて形成される凹状痕を効果的に解消できて、優れた位相差フィルム用原反を製造することができる。また、冷却ロール及びタッチロールの表面温度と表面粗さが特定の範囲とされる場合は、凹状痕のみならず、樹脂の未溶融物や架橋物等に起因する凸状欠陥をも効果的に解消できて、一層優れた位相差フィルム用原反を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に実施例を示すことにより本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0038】
下記する材料、装置、条件を使用して、幅1600mm、厚さ60μmの溶融押出フィルムを製造した。
・使用した樹脂 :熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品 名「ゼオノア1600」、Tg=163℃)
・押出機 :φ90mm、L/D=28の単軸押出機
・押出温度 :270〜320℃
・ポリマーフィルター:濾過精度10μmのリーフディスクタイプ
・Tダイ :コートハンガータイプ、リップ幅1800mm、リップク リアランス800μm、
・冷却ロール :φ350mm、幅2000mm、表面粗さRy0.3μm (S45C金属製ロール本体にHCrメッキ処理したもの )
・タッチロール :φ350mm、幅1600mm、表面粗さRy0.4μm (金属軸芯をショアーA硬度90°、厚さ5mmのシリコ ーンゴム層で被覆し、更に、厚さ200μmのニッケルス リーブを装着したもの)
【0039】
溶融押出したフィルム及びこれを延伸して得られた位相差フィルム用原反の外観欠点を次のような方法で評価した。即ち、フィルムの幅方向両端部を除く中央部1m幅×押出方向1mの面積について、クロスニコルに配置した偏光板に挟んだフィルムを回転させながら最も暗くなる状態にして、10倍のルーペを用いて色ムラとして確認できるサイズが50μm以上のものを色ムラ欠陥とする。
更に、キーエンス製レーザー顕微鏡を用いてその欠陥の凹凸を測定し、凹状痕についてキーエンス製マイクロスコープを用いて斜め10°(入射角80°)から光を当て、輝点となった部分のTD方向の長さ、MD方向の長さの平均値を転写性凹状欠陥のサイズとした。
【0040】
(実施例1)
冷却ロール温度を145℃に設定し、タッチロールを使用せずに押出製膜した。得られたフィルムの50μm以上の転写性凹状欠陥は5個であった。
このフィルムを、延伸炉の温度を175℃にして、延伸倍率1.5倍の縦一軸延伸を行ったところ転写性凹状欠陥は0個となった。
【0041】
(実施例2)
冷却ロール温度を145℃に設定し、タッチロール温度を135℃に設定して押出製膜した。得られたフィルムの50μm以上の転写性凹状欠陥は35個であった。
このフィルムを、延伸炉の温度を175℃にして、延伸倍率1.5倍の縦一軸延伸を行ったところ転写性凹状欠陥は0個となった。
【0042】
(実施例3)
冷却ロール温度を165℃に設定し、タッチロール温度を165℃に設定して押出製膜した。得られたフィルムの50μm以上の転写性凹状欠陥は41個であった。
このフィルムを、延伸炉の温度を178℃にして、延伸倍率1.5倍の縦一軸延伸を行ったところ転写性凹状欠陥は0個となった。
【0043】
(比較例1)
冷却ロール温度を145℃に設定し、タッチロールを使用せずに押出製膜した。得られたフィルム50μm以上の転写性凹状欠陥は7個であった。
このフィルムを、延伸炉の温度を168℃にして、延伸倍率1.5倍の縦一軸延伸を行ったところ転写性凹状欠陥は5個となった。
【0044】
(比較例2)
冷却ロール温度を165℃に設定し、タッチロール温度を165℃に設定して押出製膜した。得られたフィルムの50μm以上の転写性凹状欠陥は33個であった。
このフィルムを、延伸炉の温度を173℃にして、延伸倍率1.5倍の縦一軸延伸を行ったところ転写性凹状欠陥は11個となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機に取り付けられたTダイから溶融状態で押し出された、ガラス転移温度がTg(℃)である非晶性熱可塑性樹脂フィルムが最初に触れる冷却ロールの温度をT1(℃)とするとき、次の関係式を満たす延伸温度T2(℃)にて該フィルムを延伸することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
T2≧T1+10、且つ、T2≧Tg+10
【請求項2】
延伸倍率が1.01〜4であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
非晶性熱可塑性樹脂フィルムが、それぞれTg+5(℃)〜Tg−40(℃)の範囲に温調された、表面粗さRyが0.5μm以下である表面が弾性変形可能なタッチロールと剛体の冷却ロールとで挟圧されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
タッチロールが、その表面に金属スリーブを被覆されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
非晶性熱可塑性樹脂がノルボルネン系樹脂又はオレフィン−マレイミド共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。


【公開番号】特開2006−1250(P2006−1250A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182881(P2004−182881)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】