説明

光学フィルムの製造方法

【課題】 溶剤を使用しない方法であって、設備費用及びランニングコストが安価で、厚みむら、ダイライン、ギヤマークが発生しにくく、光学品質に優れた、樹脂フィルムの製造法を提供する。
【解決手段】 Tダイ(1)から溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂(2)を、金属製冷却ロール(3)と、圧力制御された複数のロール(4、6、7)で弛まないように張力をかけた無端金属ベルト(9)との間で、円弧状に狭圧し、次いで、冷却したフィルムを剥離手段(5)により金属製冷却ロールから剥離させる光学フィルムの製造方法であって、剥離時以降のフィルムの巻き取り速度を、金属製冷却ロールの回転周速度より遅い速度でかつ剥離時以後にフィルムが弛まない速度とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】延伸光学フィルムからなる位相差補償板(以下位相差板という)を組み込んだ液晶表示素子は従来より使用されている。位相差板は、通常、原反として高分子フィルム〔例えばポリカーボネート(PC)フィルムやポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリスルホン(PSf)フィルム)などの未延伸フィルム(シートを含む)〕を延伸して、フィルムを配向させることにより所望の位相差を得ている。光学フィルムの原反として用いられる未延伸フィルムの作製方法としては、以下のように様々な方法が提案されている。しかしながら、これら従来法には、それぞれ欠点があって、必ずしも満足できるものではなかった。
【0003】(1)光学的品質のフィルムが得られる方法として、樹脂を溶剤に溶かし、無端ベルトまたはベースフィルム上に流延し、乾燥後、剥離させる溶剤キャスト法が提案されている(特開平4−301415号公報)。しかし、この方法では、設備費、ランニングコストが高額となり、作業環境が劣悪となり勝ちであった。
【0004】(2)押出機を用いる方法として、Tダイからの押出樹脂をロールとロールで挟圧する方法が提案されている(特開平2−61899号公報)。しかし、この方法で得られるフィルムは、厚みむら、ダイライン、ギヤマークが発生すると共に、残留位相差が大きいため、光学的用途に供するフィルムとしては、品質の充分なものではなかった。
【0005】(3)近年、ポリプロピレン(PP)の鏡面成形方法として、Tダイから溶融状態で押出された膜状の樹脂をキャストドラムと無端金属ベルトとの間で円弧状に挟圧する方法が提案されている(特開平6−170919号公報)。これは、Tダイから流延された樹脂を金属ロールと金属無端ベルトで狭圧しながら冷却してシート状とする製造方法である。しかし、これにより、厚みむら、ダイライン、ギヤマークの無いフィルムが製造できるが、やはり残留位相差の発生は充分に解消できるものではなかった。
【0006】上記フィルムを原反として延伸し位相差板とする際、残留している位相差のために延伸処理が均一に行いにくく、延伸の前工程として十分にアニール処理をしてやる必要がある。そのために長い予熱ゾーンが必要となり設備費、ランニングコストが高くなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、溶剤を使用しない方法であって、設備費用及びランニングコストが安価で、厚みむら、ダイライン、ギヤマークが発生しにくく、光学品質に優れた、樹脂フィルムの製造法を提供することにある。
【0008】
【発明を解決する手段】本発明の光学フィルムの製造方法は、Tダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属製冷却ロールと、圧力制御された複数のロールで弛まないように張力をかけた無端金属ベルトとの間で、円弧状に狭圧し、次いで、冷却したフィルムを剥離手段により金属製冷却ロールから剥離させる光学フィルムの製造方法であって、剥離時以後のフィルムの巻き取り速度を、金属製冷却ロールの回転周速度より遅い速度でかつ剥離時以後にフィルムが弛まない速度とするものである。
【0009】金属ロール面上よりシートを剥離するときは、冷却行程後方に配置されたピンチロール、もしくは巻き取り装置により剥離される。また、好ましくは金属ロールの近接位置に剥離ロールを設置しシートを剥離するのがよい。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の製造方法で使用する装置の構成について、図1を参照しながら説明する。Tダイ1から溶融状態で膜状に押し出した熱可塑性樹脂2を冷却ロール3上に導いて冷却する。無端ベルト9は、初期状態では2本のロール4と6で支えられており、ベルト押しつけロール7は、冷却駆動ロール4とベルト引張ロール6とのほぼ中間点に位置し、無端ベルト9とは接触していない。このとき冷却駆動ロール4を冷却ロール3の上方より接近させ、樹脂2を挟圧する。
【0011】冷却ロール3には、熱伝導率が高く、高精度の鏡面仕上げがなされている金属ロールが用いられる。冷却駆動ロール4は、ロール表面がシリコンゴムのような柔らかい材質の場合には、シリコンゴム層が変形し回復しないような状態でなければ、無端ベルト9を挟んで、冷却ロール3との隙間をゼロにしてもよい。このときの冷却ロール3と冷却駆動ロール4の中心点の距離を便宜的にゼロとすると、上記状態であればマイナスであってもよい。
【0012】詳述すると、(ロール間距離)=(冷却ロール3の半径)+(冷却駆動ロール4の半径)+(無端ベルト9の厚み)であり、この距離にある場合を便宜的にゼロとする。これより距離が開く場合をプラス、狭い場合をマイナスと呼ぶ。他方、冷却駆動ロール4が金属ロールの場合、ロール間距離はプラスが好ましい。冷却駆動ロール4が金属製である場合、シリコンゴムロールのようには変形しないため、ロール間距離をマイナス にしすぎると破損するためである。
【0013】冷却駆動ロール4を冷却ロール3の上方より下降させて押出し直後の膜状の樹脂を挟圧し、所定の挟圧量に設定する。挟圧方法は特に限定されないが、たとえば冷却駆動ロール4または冷却ロール3に、図示しない油圧シリンダーを接続し、適宜油圧をかけることによって達成される。
【0014】このとき冷却ロール3を駆動させてしまうと、微妙な樹脂の収縮やロール速度のむらにより、樹脂内に不均一な応力むらが残留することが確認された。このため冷却ロール3は、独立駆動させずに連れ回りにするのが好ましい。ただし、成形開始時には、冷却ロール3が駆動しないと通紙等の問題があるので駆動させる必要がある。この点から、冷却ロール3は、クラッチ付きのプーリー等に変更し、冷却駆動ロール4の駆動力が勝る場合のみ連れ回りする機構にするのがよい。冷却ロール3の連れ回り駆動で挟圧開始後、ベルト押しつけロール7を下降させ、冷却ロール3に無端ベルト9を円弧状に抱かせる。無端ベルト9の抱かせ量は、剥離ロール5に接触しない範囲とする。
【0015】冷却後、樹脂2を冷却ロール3から剥離するが、冷却ロール3を硬質Cr鍍金処理してある場合、PCのようなエンジニアリングプラスチックは、十分に密着しているため、特開平6−170919号公報に記載のように、無端ベルト9が冷却ロール3から離れると同時に樹脂2が剥離するようなことはない。このために、樹脂2を剥離するための剥離ロール5を設置する必要がある。樹脂2を剥離する場合は、樹脂が十分に冷却されていることが好ましい。
【0016】樹脂温が、例えば、そのガラス転移温度(Tg)より、十分に低ければ、剥離ロール5は、ある程度離れていてもよい。しかし、冷却駆動ロール4の回転速度が速い、すなわち引取成形速度が速い場合、樹脂が十分に冷却されないことがあり、この点を考慮し、剥離ロール5は、極力冷却ロール3に接近させた方がよい。剥離ロール5をシリコンゴムロール等の柔らかい材質にした場合、剥離ロール5は、冷却ロール3に密着させてもよい。また、剥離ロールは、冷却ロール3と同温度で温調してもよいし、低い温度で冷却してもよい。微妙な応力むらを緩和させるために、剥離ロール5の後に配置したロール8を温調し、アニール処理を行ってもよいが、特に応力が残留していなければ温調しなくてもよい。なお、この実施形態では、剥離ロールを用いたが、剥離ロールにかえて、エアー吹き付けによるエアナイフ様による剥離、無端ベルトによる剥離など、その他の剥離手段を用いてもよい。
【0017】本発明においては、剥離時以後のフィルムの巻き取り速度を、金属製冷却ロールの回転周速度より遅い速度でかつ剥離時以後にフィルムが弛まない速度とする。フィルムの巻き取り速度とは、剥離ロールを用いて剥離ロールを駆動させる場合は剥離ロールの周速であり、剥離ロールを用いなかったり、剥離ロールを用いても剥離ロールを駆動しない場合はピンチロール周速もしくは巻き取り機の巻き取り速度を意味する。剥離ロールを駆動させてフィルム巻き取り速度を調整する場合は、後方装置であるピンチロールや巻き取り装置の速度がフィルム剥離時の巻き取り速度に影響を及ぼさないようにしなければならない。
【0018】すなわち、後方装置の張力が加わらないように剥離ロールを配置したり、剥離ロールと後方装置の間にガイドロールを配置したり、剥離ロールのところでフィルムをニップ出来るようにニップロールを付加したりすればよい。また、剥離ロールの周速と後方装置の巻き取り速度を等しくすればよい。
【0019】金属ロール面上よりシートを剥離するときの巻き取り速度は金属ロールとベルト駆動ロールとは別々に駆動されいる方が好ましく、それぞれ単独で調整可能である方がよい。通常の成形では、金属ロールとベルトの周速は同速で駆動している。
【0020】この周速V1より巻き取り速度V2は遅く、フィルムがゆるまない状態に調節される。V2/V1は0.8〜0.99が好ましく、さらに好ましくは0.93〜0.99である。
【0021】その理由は、V2/V1が小さ過ぎると、フィルムが弛み冷却や剥離が不均一になり位相差むら、厚みむらを発生する事になる。V2/V1が大き過ぎるとフィルムは張力を受けて残留位相差を発生することになるからである。
【0022】剥離ロールを用いるときは金属ロールでも表面をシリコンゴムで被覆したロールでもフィルム表面を傷つけることがなければ特に限定されず、さらには温度調節されている方がよい。
【0023】
【実施例】本発明を実施例をもってさらに詳細に説明する。
【0024】実施例1ポリカーボネート(帝人社製:商品名「パンライトK−1300」)を除湿器付き乾燥機で120℃、5時間乾燥させたのち、押出機〔1軸押出機、スクリュー径50mm、L/D=28、吐出量:14kg/hr、スクリーンメッシュ5枚(#80、#120、#200、#120、#80の順)、ギヤポンプ付き:10.3cc/1回転)〕に供給しTダイ(巾500mm:コートハンガータイプ、リップ間隔1.2mm)より押出した。成形温度はシリンダー部が250℃、260℃、270℃、275℃、アダプター部280℃、アダプター部280℃、ギヤポンプ部280℃、ネック部280℃、Tダイ部280℃、ネック角度20°に設定した。
【0025】得られた溶融樹脂を図1に示した装置を用い、それぞれ150℃に制御され、3m/minの周速で回転する冷却ロール3と無端ベルト9の間に供給した。冷却ロール3とベルト押しつけロールの直径はそれぞれ500mmであった。このときに冷却ロール3に油圧シリンダーにより60kg/cm2 の油圧をかけて狭圧した。さらに、135℃に制御され、2.8m/minの周速で回転する剥離ロール5により剥離し、剥離速度と同じ速度で巻き取り、幅350mmの成形フィルムを得た。尚、ベルト抱かせ量は250mm、狭圧量はゼロとした。
【0026】比較例1剥離ロール5の周速を3.2m/minとした以外は実施例1と同様にして成形フィルムを得た。
【0027】比較例2無端ベルト9を用いず、150℃に制御された一対の冷却ロール同士の間に溶融樹脂を供給したこと以外は、実施例1と同様にして成形フィルムを得た。
【0028】実施例1、比較例1〜2で得られた成形フィルムを以下の評価に供し、結果を表1にまとめて示した。
【0029】評価■平均厚み得られた成形フィルムの平均厚みをフィルムの中心線にそって10mmおきに20点、マイクロメーター(ミツトヨ社製)で測定し、その平均値を求めた。
【0030】■残留位相差得られた成形フィルムの残留位相差を位相差計(ASUKA電子社製)により測定した。
【0031】■実用評価得られた成形フィルムを一軸延伸機で、170℃にて30秒保持し、縦一軸に1.5倍延伸して位相差板とした。得られた位相差板を市販の白黒表示STN液晶ディスプレイに組み込んで以下の基準にて目視で評価を行った。
〇:位相差むら無し×:位相差むら激しい
【0032】
【表1】


【0033】
【発明の効果】本発明の光学フィルムの製造方法は上述の如きものであるから、溶剤キャスティング法に比して設備費用及びランニングコストが安価である。また、厚みむら、ダイライン、ギヤマークが発生しにくく、且つ残留応力の小さい光学品質に優れた樹脂フィルムを得ることができる。従って、延伸した際に位相差板として用いて良好なフィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
1 Tダイ
2 樹脂
3 冷却ロール
4 冷却駆動ロール
5 剥離ロール
6 ベルト引張ロール
7 ベルト押しつけロール
8 ロール
9 無端ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Tダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属製冷却ロールと、圧力制御された複数のロールで弛まないように張力をかけた無端金属ベルトとの間で、円弧状に狭圧し、次いで、冷却したフィルムを剥離手段により金属製冷却ロールから剥離させる光学フィルムの製造方法であって、剥離時以後のフィルムの巻き取り速度を、金属製冷却ロールの回転周速度より遅い速度でかつ剥離時以後にフィルムが弛まない速度とすることを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開平9−290427
【公開日】平成9年(1997)11月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−108081
【出願日】平成8年(1996)4月26日
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)