説明

光学レンズの染色検査方法

【課題】透過する光量の違いによって生じる、色の濃さが実際と異なって見えてしまう現象を防止することによって、目視による光学レンズの染色検査方法を可能とする。
【解決手段】光学レンズとしての眼鏡レンズ10を、対向部としての作業台12上に置かれた光透過部としての載置台11上に載置する。そして、眼鏡レンズ10を、眼鏡レンズ10の裏面14側から目視により視認し、眼鏡レンズ10の染色の良否を判定する眼鏡レンズ10の染色検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色された光学レンズの染色状態を検査する光学レンズの染色検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズの一例として眼鏡レンズがある。眼鏡レンズ(以下、「レンズ」という。)は、防眩、ファッション性などを高めるために染色されることがある。レンズの染色は、例えば、染料を溶かした溶媒中にレンズを浸漬して染料をレンズ表面に染着させる。そして、染色されたレンズは、所望の染着が出来たか否か、外観上の欠点があるか否かなどが目視によって検査される(例えば、特許文献1参照)。この目視検査は、図5に示すように、レンズ100を載置台101の対向面104上に置き、レンズ100の上面105から対向面104に向かって(矢印Aの方向)レンズ100を目視により視認することによって行われる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−38591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の染色検査方法においては、レンズ100の上面105側からレンズ100に入り対向面104で反射された光がレンズ100によって集光されることにより部分的(本例に示すプラス(凸状)レンズではレンズ中央部)に光量が多くなる。目視では、このように光量が多い部分の色の濃さが実際より薄く見え、光量の少ないレンズ100の端面102に近い端部103が実際より濃く見えてしまうという課題があった。特に、集光率が高く曲率の大きなレンズ(ハイカーブレンズともいう。)ではこの傾向が大きく、目視検査の妨げとなっていた。
この課題は、透過率では説明がつかないものである。例えば、図4は、眼鏡レンズの種類による透過率を示すグラフである。図4において、折れ線WTは、集光率が高く曲率の大きなレンズ(ハイカーブレンズともいう。)の光透過率を示し、折れ線Qは、通常の球面レンズの光透過率を示す。図4に示すように、ハイカーブレンズの方が、通常の球面レンズより全ての波長領域において光透過率が小さい。それにも関わらず、従来の染色検査方法では、ハイカーブレンズのレンズにおける中央部の色の濃さと端部の色の濃さの差が、球面レンズ中央部の色の濃さと端部の色の濃さの差よりも大きく見える。さらに、ハイカーブレンズのレンズにおける中央部の色の濃さが、球面レンズ中央部の色の濃さよりも薄く見える。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態、又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例の光学レンズの染色検査方法は、染色された光学レンズの染色検査方法であって、前記光学レンズの一面に対向して設けられた対向部と、前記対向部と前記光学レンズの前記一面との間に設けられた光透過部とを有し、前記一面の裏面側から前記対向部に向かって前記光学レンズを視認することによって当該光学レンズの染色状態を検査することを特徴とする。
【0007】
本適用例によれば、視認される光学レンズと対向部との間に光透過部が設けられている。このため、光学レンズには、視認する側(裏面側)からのみでなく対向部側(一面側)からも光が入射することになる。これにより、光学レンズを透過してくる光量が多くなるとともに、光学レンズ平面全体を光が透過し、集光される部分のみの光量が多くなることを防止することができる。従って、裏面側からレンズの染色状態を視認しても部分的に色の濃さが実際より薄く見えてしまうことを防ぐことが可能となり、染色された光学レンズの目視検査を行うことができる。
【0008】
[適用例2]上記光学レンズの染色検査方法において、前記光学レンズは、前記対向部との間に空隙を有して保持されており、前記光透過部は、前記空隙によって形成されていることを特徴とする。
【0009】
これによれば、光透過部を空隙とすることにより、簡便に光透過部を形成することが可能となる。
【0010】
[適用例3]上記光学レンズの染色検査方法において、前記光透過部は、光透過性を有する載置台であることを特徴とする。
【0011】
これによれば、光透過部を載置台とすることにより、光学レンズを載置台上に載置して目視検査を行うことが可能となり、より安定した目視検査を行うことが可能となる。
【0012】
[適用例4]上記光学レンズの染色検査方法において、前記光学レンズの前記一面と前記裏面とが接続される端面に、該端面からの光の入射を防止する遮光部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、光学レンズの端面から入射される光を遮光することができるため、端面からの入射光が、その端面を通過する際に起こる乱反射などによって生じる光量のばらつきを防止することができる。これにより、光量のばらつきによる光学レンズの色の濃さの視認状態が実際と異なることを防止することができる。従って、染色された光学レンズの目視検査を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
眼鏡レンズの染色検査方法の実施形態を説明するに先立って、眼鏡レンズの製造工程の内、眼鏡レンズの染色検査までの工程の一例を簡単に説明する。
先ず、成形工程において、成形型を用い、凸面側が光学的に仕上げられ、反対面側未仕上げの面としてセミフィニッシュトレンズを成形する。
次に、研磨工程において、セミフィニッシュトレンズの未仕上げの面を切削或いは研削を行った後、平滑処理と鏡面加工を行って、両面が光学的に仕上げられたレンズ基材を形成する。
次に、洗浄工程において、研磨工程などで付着した汚れなどを洗浄する。
次に、染色工程において、染料を溶かした溶媒中にレンズを浸漬して染料をレンズ表面に染着する。
次に、染色検査工程において、染色されたレンズを所望の染着が出来たか否か、外観上の欠点があるか否かなどが目視によって検査する。
【0015】
以下に図面を用いて、光学レンズとしての眼鏡レンズの染色検査方法について説明する。なお、以下の図面においては、各構成を分り易くするために、実際の構造と縮尺や数などを異ならせている。
[第1実施形態]
図1に、眼鏡レンズの染色検査方法を第1実施形態として示し説明する。図1は、第1実施形態としての眼鏡レンズの染色検査方法の構成を示す概略の断面図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の染色検査方法は、眼鏡レンズ10を、対向部としての作業台12上に置かれた光透過部としての載置台11上に載置して行う。
先ず、構成について説明する。
眼鏡レンズ10は、プラスレンズ(凸レンズ)を一例として説明する。眼鏡レンズ10は、載置台11側の面である一面15、一面15と反対側の面である裏面14、眼鏡レンズ10の外周端において一面15および裏面14と交差し、それぞれを結ぶ面である端面13を有している。眼鏡レンズ10の裏面14および一面15は、平滑処理あるいは鏡面仕上げ処理などによって光学的に仕上げられている。そして、眼鏡レンズ10は、眼鏡レンズ10の裏面14、一面15、および端面13の表面に染料が染着されることによって染色(図示せず)されている。
作業台12には、眼鏡レンズ10の一面15に対向する対向面16が形成されている。対向面16は、例えば白色の同一色の面で形成されている。なお、対向面16としては、作業台12の上面に敷いた白色紙などを用いることもできる。載置台11は、光透過性を有する透明ガラスを用いて形成されている。なお、載置台11は、光透過性を有していればよく、擦りガラスなどのガラス部材、アクリル樹脂などの樹脂部材などを用いることもできる。
【0017】
眼鏡レンズ10の染色検査方法は、前述の構成のように置かれた眼鏡レンズ10を、図1の上側(眼鏡レンズ10の裏面14側)から目視する。この目視により眼鏡レンズ10の染色状態について視認し、染色の良否を判定する。なお、この検査のことを色見検査と呼ぶこともある。
【0018】
このとき、載置台11が光透過性を有しているため、眼鏡レンズ10には、裏面14側のみからでなく一面15側からも載置台11を透して図中の矢印で示すような散乱光などを含む様々な光が入射する。このように様々な光が眼鏡レンズ10の平面視全面に渡って透過するため、端面13に近い部分においても眼鏡レンズ10の中央部と同程度に光が透過する。これにより、染色の見え具合の濃淡が発生せず眼鏡レンズ10の平面視全面の染色の濃さの見え具合が均一になる。従って、本実施形態によれば、眼鏡レンズ10の裏面側からレンズの染色状態を視認しての眼鏡レンズ10の染色検査を安定的に行うことが可能となる。
【0019】
[第2実施形態]
図2に、光学レンズとしての眼鏡レンズの染色検査方法を第2実施形態として示し説明する。図2は、眼鏡レンズの染色検査方法の構成を示す概略の断面図である。
【0020】
図2に示すように、本実施形態の染色検査方法は、眼鏡レンズ10を対向部としての作業台12上に置かれた保持具21上に載置して行う。なお、前述の第1実施形態と同じ構成要素である眼鏡レンズ10、および作業台12は、同符号を付けて説明を省略する。
保持具21は、作業台の対向面16と光透過部としての空隙25を形成し眼鏡レンズ10を保持するために用いる。保持具21は、一端が作業台の対向面16上に固定されており、他端部に切欠部22が形成されている。そして、この切欠部22に眼鏡レンズ10が載置されている。
また、保持具21は、眼鏡レンズ10の外周に沿って複数個(本例では、対角に2個)用いられており、保持具21の設けられていないところから空隙25に光が入射する。
【0021】
眼鏡レンズ10の染色検査方法は、前述の構成のように置かれた眼鏡レンズ10を、図2の上側(眼鏡レンズ10の裏面14側)から目視する。この目視により眼鏡レンズ10の染色状態について視認し、染色の良否を判定する。
【0022】
このとき、空隙25が光透過性を有しており、保持具21の設けられていない部分から入射した光が前述の第1実施形態と同様に眼鏡レンズ10の一面15側からも入射する。このように様々な光が眼鏡レンズ10の平面視全面に渡って透過するため、端面13に近い部分においても眼鏡レンズ10の中央部と同程度に光が透過する。これにより、染色の見え具合の濃淡が発生せず眼鏡レンズ10の平面視全面の染色の濃さの見え具合が均一になる。従って、第2実施形態によれば、眼鏡レンズ10の裏面側からレンズの染色状態を視認しての眼鏡レンズ10の染色検査を安定的に行うことが可能となる。
【0023】
なお、保持具21は、眼鏡レンズ10の外周の全周にわたって設けられていてもよいが、この場合の保持具21は、光透過性を有する部材で形成されていることが好適である。これは、空隙25に光を入射させるためである。
また、保持具21に替えて、空隙25を確保しながら作業者が指で眼鏡レンズ10の外周部を保持しても良い。
【0024】
[第3実施形態]
図3に、光学レンズとしての眼鏡レンズの染色検査方法を第3実施形態として示し説明する。図3は、眼鏡レンズの染色検査方法の構成を示す概略の断面図である。
【0025】
図3に示すように、本実施形態の染色検査方法は、眼鏡レンズ10を対向部としての作業台12上に置かれた光透過部としての載置台11上に載置して行う。なお、前述の第1実施形態と同じ構成要素である眼鏡レンズ10、載置台11、および作業台12は、同符号を付けて詳細な説明を省略する。
第3実施形態において前述の第1実施形態と異なる構成は、眼鏡レンズ10の外周端に形成されている端面13に沿って遮光部としてのリング状の厚紙37が設けられている。リング状の厚紙37は、遮光性を保持するに十分な厚さを有し、端面13からの光の入射を防止する。
なお、遮光部はリング状の厚紙37に限らず、遮光性を有する部材であればよく、例えば金属板、金属リング、樹脂などを端面に沿って設けることでも同様な効果を得ることができる。
また、遮光部は、端面13に密着して設けられる方が好ましく、遮光部と端面13との隙間から入射する光を防ぎ、遮光の効果をより高めることが可能となる。
【0026】
眼鏡レンズ10の染色検査方法は、前述の構成のように置かれた眼鏡レンズ10を、図3の上側(眼鏡レンズ10の裏面14側)から目視する。この目視により眼鏡レンズ10の染色状態について視認し、染色の良否を判定する。
【0027】
一般的には眼鏡レンズ10の表裏面(一面15、裏面14)は鏡面状に仕上げられるが、端面13は梨地上の凹凸を有している。このため端面13から入射する光は屈折方向が様々な乱反射光となり光の強弱(光量)のばらつきが発生する。この光の強弱のばらつきにより前述のような眼鏡レンズ10の色の濃さを視認した際に実際と異なるように見えることが発生する。
【0028】
上述の第3実施形態の染色検査方法によれば、眼鏡レンズ10の端面13から入射する光を遮光することができるため乱反射光などが発生せず光の強弱(光量)のばらつきを防止することが可能となる。従って、眼鏡レンズ10の色の濃さを視認した際に実際と異なるように見えることを防止することができることから、目視による安定した眼鏡レンズ10の染色検査を行うことが可能となる。
【0029】
また、上述の実施形態で説明した眼鏡レンズ10の染色検査方法では、光透過性を有する作業台12を用い、対向面16と反対の面側に設けた光源から光を射出させ、眼鏡レンズ10の裏面14側から目視することも可能である。なお、光源の位置はこれに限らず、眼鏡レンズ10の一面15側にあればよく、例えば、第2実施形態で示す空隙25の中に設けることも可能である。このとき、作業台12は擦りガラス、光源は白色蛍光灯が好ましい。
【0030】
また、眼鏡レンズの外周部と中央部との色の濃淡の差は、眼鏡レンズの種類によってもその発生状況が異なるが、ラップアラウンド型の眼鏡フレームに取り付けられる眼鏡レンズの染色検査に本実施形態の染色検査方法を用いることはより好適である。
また、前述の説明では、プラスレンズで説明したが、マイナスレンズなど他のレンズにおいても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】眼鏡レンズの染色検査方法の第1実施形態の構成を示す概略の断面図。
【図2】眼鏡レンズの染色検査方法の第2実施形態の構成を示す概略の断面図。
【図3】眼鏡レンズの染色検査方法の第3実施形態の構成を示す概略の断面図。
【図4】眼鏡レンズの種類による透過率を示すグラフ。
【図5】従来の眼鏡レンズの染色検査方法の構成を示す概略の断面図。
【符号の説明】
【0032】
10…光学レンズとしての眼鏡レンズ、11…光透過部としての載置台、12…対向部としての作業台、13…端面、14…裏面、15…一面、16…対向面、21…保持具、22…切欠部、25…空隙、37…遮光部としての厚紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色された光学レンズの染色検査方法であって、
前記光学レンズの一面に対向して設けられた対向部と、
前記対向部と前記光学レンズの前記一面との間に設けられた光透過部とを有し、
前記一面の裏面側から前記対向部に向かって前記光学レンズを視認することによって当該光学レンズの染色状態を検査することを特徴とする光学レンズの染色検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学レンズの染色検査方法において、
前記光学レンズは、前記対向部との間に空隙を有して保持されており、
前記光透過部は、前記空隙によって形成されていることを特徴とする光学レンズの染色検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の光学レンズの染色検査方法において、
前記光透過部は、光透過性を有する載置台であることを特徴とする光学レンズの染色検査方法。
【請求項4】
請求項1に記載の光学レンズの染色検査方法において、
前記光学レンズの前記一面と前記裏面とが接続される端面に、該端面からの光の入射を防止する遮光部が設けられていることを特徴とする光学レンズの染色検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−216684(P2009−216684A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63750(P2008−63750)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】