説明

光学器材用液剤

【課題】特定の表面処理を施さなくても液中での分散性が良好で、光透過性に優れた薄層を比較的低温で形成しうる光学器材用液剤及びその製造方法、並びに該光学器材用液剤を塗布する工程を有する光学器材の製造方法を提供すること。
【解決手段】フッ化カルシウムを含む粒子を含有する光学器材用液剤であって、前記フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmである光学器材用液剤、グリセロリン酸カルシウム、グルコース−1−リン酸カルシウム及びグルコース−6−リン酸カルシウムからなる群より選ばれた1種以上のカルシウムイオン供給化合物(A1)及びフッ素イオン供給化合物(B)を混合する工程を有する前記光学器材用液剤の製造方法、及び前記光学器材用液剤からなる被膜を光学器材の基材上に形成する工程を有する光学器材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学器材用液剤に関する。更に詳しくは、眼鏡用レンズ、カメラ用レンズ、CRT用フィルター、光記録用基体等の光学器材のコーティング剤として好適な光学器材用液剤及びその製造方法、該光学器材用液剤を用いる光学器材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学器材用コーティング膜には、高屈折率性、強度、硬度等に優れることから、サブミクロンオーダーの無機微粒子が使用されており(例えば、特許文献1)、該サブミクロンオーダーの微粒子は、水性ゾルやオルガノゾルの態様で提供されている(例えば、特許文献2)。しかし、従来の水性ゾルは、その粒径が大きく、光透過率が低く、その分散媒を有機溶媒に置換させたオルガノゾルも光透過率が低いため、これを光学器材に塗布して膜を形成させると基体の透明度が低下するという難点がある。
【0003】
レンズや干渉フィルターに反射防止膜を形成させる際には、無機微粒子として屈折率が低いフッ化カルシウムが用いられている。しかし、微粒のフッ化カルシウムを液中で分散させるために、特定の表面処理を必要としたり(例えば、特許文献1参照)、フッ化カルシウムをレンズやフィルターにコーティングする場合、現在はその殆どが真空蒸着法に頼らざるを得ないため、コーティングに費用がかかるばかりでなく、著しく表面が湾曲したレンズ等の基体の表面に均一なコーティング膜を形成することができないという課題がある。

【特許文献1】特開2004−300172号公報
【特許文献2】特開平5−78508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定の表面処理を施さなくても液中での分散性が良好で、光透過性に優れた薄層を比較的低温で形成しうる光学器材用液剤及びその製造方法、並びに該光学器材用液剤を塗布する工程を有する光学器材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)フッ化カルシウムを含む粒子を含有する光学器材用液剤であって、前記フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmである光学器材用液剤、
(2)グリセロリン酸カルシウム、グルコース−1−リン酸カルシウム及びグルコース−6−リン酸カルシウムからなる群より選ばれた1種以上のカルシウムイオン供給化合物(A1)及びフッ素イオン供給化合物(B)を混合する工程を有する前記光学器材用液剤の製造方法、
(3)カルシウムイオン供給化合物(A2)及びフッ素イオン供給化合物(B)を、グリセロリン酸、グルコース−1−リン酸及びグルコース−6−リン酸からなる群より選ばれた1種以上の有機酸又はその塩(但し、カルシウム塩は除く)(C)の存在下で混合する工程を有する前記光学器材用液剤の製造方法、及び
(4)前記光学器材用液剤からなる被膜を光学器材の基材上に形成する工程を有する光学器材の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光学器材用液剤は、特定の表面処理を施さなくても液中での分散性が良好であり、光学系器材の表面に、耐久性を損なうことなく光透過性に優れた薄層を比較的低温度で形成することができ、また、耐久性及び光透過性に優れた薄層を有する光学器材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者等は、ナノオーダーの粒子径を有するフッ化カルシウムを含む粒子の分散液による光学器材用コーティング膜が極めて優れた光透過性を示す点に着目し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の光学器材用液剤においては、フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmであるので、光透過率が向上した薄層を形成することができる。フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径は、以下の測定条件で測定される。
【0009】
〔フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径の測定条件〕
(1)測定機
測定器として、(株)堀場製作所製、商品名:HORIBA LB-500, Dynamic Light Scattering Particle Size Analyzerを使用する。
【0010】
(2)フッ化カルシウム分散液の調製
前記測定機で測定されるサンプルの濃度に相当する表示値が0.01〜16Vとなるようにフッ化カルシウムを含む粒子の濃度を調整し、フッ化カルシウムを含む粒子をイオン交換水中に分散させた分散液に超音波処理を施したものをフッ化カルシウム分散液とする。
【0011】
(3)測定条件
フッ化カルシウムを含む粒子の屈折率を1.435、水の屈折率を1.333、エタノールの屈折率を1.361とし、データ取り込み回数を64回とする。
なお、平均粒径の基準として、動的光散乱法による体積中位粒径(D50)を用いる。
【0012】
フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径は、安定に分散状態を維持する観点から、1nm以上、好ましくは2nm以上であり、光透過性を高める観点から、20nm以下、好ましくは10nm以下である。これらの観点から、フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径は、1〜20nm、好ましくは2〜10nmである。
【0013】
フッ化カルシウムを含む粒子は、フッ化カルシウムのみで構成されていてもよく、フッ化カルシウム以外に、例えば、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化チタン等の無機微粒子の1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0014】
フッ化カルシウムを含む粒子中のフッ化カルシウムの含有量は、低屈折率の粒子を得る観点から、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、より一層好ましくは40重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、更に一層好ましくは90重量%以上、特に好ましくは100重量%である。
【0015】
光学器材用液剤に含まれる固形分におけるフッ化カルシウムを含む粒子の含有量は、フッ化カルシウムに由来の低屈折率を維持し、耐久性を高める観点から、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、更に好ましくは99重量%以上である。
【0016】
光学器材用液剤における総固形分量は、光学器材用液剤を製造する際の作業効率及び経済性を高める観点、並びに光学器材用液剤の保存安定性を良好にするとともに、その粘度の上昇を抑制し、光学器材用液剤を製造する際の作業性を向上させる観点から、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜40重量%、更に好ましくは5〜30重量%である。
【0017】
光学器材用液剤に用いられる水系分散媒としては、水及び水系有機溶媒が挙げられる。なお、水系分散媒は、あらかじめ脱塩しておくことが好ましい。
【0018】
水系分散媒としては、水単独、又は水及び水混和性の有機溶媒を含有する水系有機溶媒が好ましい。水としては、イオン交換水等が好ましい。水混和性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の水溶性1価アルコール類、モノエチレングリコール等の水溶性多価アルコール、アセトン等の水溶性ケトン類等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
本発明の光学器材用液剤には、フッ化カルシウムを含む粒子の分散性、光学器材上での薄層形成性、光学器材上で形成された薄層の光学的特性及び物理的特性等が損なわれない範囲であれば、任意成分が含まれていてもよい。また、本発明の光学器材用液剤には、例えば、分散剤として、ポリエチレングリコール等の非イオン界面活性剤、フッ化カルシウム以外の無機微粒子等が含まれていてもよい。
【0020】
本発明の光学器材用液剤は、例えば、
(1)グリセロリン酸カルシウム、グルコース−1−リン酸カルシウム及びグルコース−6−リン酸カルシウムからなる群より選ばれた1種以上のカルシウムイオン供給化合物(A1)〔以下、単にカルシウムイオン供給化合物(A1)という〕及びフッ素イオン供給化合物(B)を混合する方法〔以下、方法(I)という〕、
(2)カルシウムイオン供給化合物(A2)及びフッ素イオン供給化合物(B)を、グリセロリン酸、グルコース−1−リン酸及びグルコース−6−リン酸からなる群より選ばれた1種以上の有機酸又はその塩(但し、カルシウム塩は除く)(C)〔以下、単に有機酸塩(C)という〕の存在下で混合する方法〔以下、方法(II)という〕
等により、製造することができる。
【0021】
方法(I)において、カルシウムイオン供給化合物(A1)は、グリセロリン酸カルシウム、グルコース−1−リン酸カルシウム及びグルコース−6−リン酸カルシウムからなる群より選ばれた1種以上が挙げられる。これらのなかでは、フッ化カルシウムを含む粒子を微小化させる観点から、グリセロリン酸カルシウムが好ましい。
【0022】
方法(II)に用いられるカルシウムイオン供給化合物(A2)は、水溶性を有するカルシウム塩化合物である。なお、本明細書において、水溶性とは、25℃の水100gに対する溶解量が1g以上であることを意味する。
【0023】
カルシウムイオン供給化合物(A2)としては、例えば、ポリオールリン酸カルシウム、糖リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、イソ酪酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトが挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
ポリオールリン酸カルシウムの代表例としては、グリセロリン酸カルシウム等が挙げられる。糖リン酸カルシウムの代表例としては、グルコース−1−リン酸カルシウム、グルコース−6−リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0025】
カルシウムイオン供給化合物(A2)のなかでは、フッ化カルシウムを含む粒子を微小化させる観点から、グリセロリン酸カルシウムが好ましい。
【0026】
フッ素イオン供給化合物(B)は、水溶性を有するフッ素化合物である。
フッ素イオン供給化合物(B)としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫、フッ化カリウム、フッ化亜鉛、フッ化ベタイン、フッ化第一錫アラニン、フルオロケイ酸ナトリウム、フッ化ヘキシルアミン等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。フッ素イオン供給化合物(B)のなかでは、フッ化ナトリウム及びフッ化第一錫が好ましい。
【0027】
方法(I)におけるカルシウムイオン供給化合物(A1)とフッ素イオン供給化合物(B)との混合割合、及び方法(II)におけるカルシウムイオン供給化合物(A2)とフッ素イオン供給化合物(B)との混合割合は、効率よくフッ化カルシウムを生成させる観点から、カルシウムイオン供給化合物(A1)又は(A2)のカルシウム換算量とフッ素イオン供給化合物(B)のフッ素換算量とのモル比〔カルシウムイオン供給化合物(A1)又は(A2)のカルシウム換算量/フッ素イオン供給化合物(B)のフッ素換算量〕は、好ましくは1/8〜4/1、より好ましくは1/4〜2/1である。
【0028】
なお、本明細書において、カルシウムイオン供給化合物のカルシウム換算量とは、カルシウムイオン供給化合物に含まれているカルシウム原子モル量を意味し、フッ素イオン供給化合物のフッ素換算量とは、フッ素イオン供給化合物に含まれているフッ素原子モル量を意味する。
【0029】
本発明では、フッ化カルシウムを含む粒子の分散性を良好に維持する観点から、カルシウムイオン供給化合物(A1)又は(A2)のカルシウムイオンとフッ素イオン供給化合物(B)との混合割合が前記好ましい範囲内にあり、フッ素イオン濃度が1〜10000ppm、好ましくは1〜4000ppmであることが望ましい。
【0030】
本発明では、前記と同様の観点から、方法(II)においては、有機酸塩(C)を必須とし、フッ化カルシウムの微粒子を得る観点から、グリセロリン酸塩、グルコース−1−リン酸塩及びグルコース−6−リン酸塩からなる群より選ばれた1種以上の有機酸塩が挙げられる。但し、カルシウムイオン供給化合物(A2)と有機酸塩(C)との重複を排除するために、有機酸塩(C)からカルシウム塩が除外される。有機酸塩を構成する塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、セシウム塩、ストロンチウム塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。これらのなかでは、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩が好ましい。
【0031】
有機酸塩(C)のなかでは、フッ化カルシウムを含む粒子を安定して製造する観点から、グリセロリン酸塩が好ましい。
【0032】
有機酸塩(C)の量は、光透過性の高いフッ化カルシウムを含む粒子を得る観点及びフッ化カルシウムを含む粒子以外の共存化合物量を少なくする観点から、フッ素イオン供給化合物(B)のフッ素換算モル量に対して、好ましくは30〜70モル%、より好ましくは40〜60モル%である。
【0033】
方法(I)においては、本発明の光学器材用液剤は、例えば、カルシウムイオン供給化合物(A1)及びフッ素イオン供給化合物(B)を混合し、得られた混合物と水系分散媒とを混合する方法(以下、方法(Ia)という)、カルシウムイオン供給化合物(A1)及びフッ素イオン供給化合物(B)のうちの少なくとも1成分の水系分散体溶液を調製した後、両者を混合する方法(以下、方法(Ib)という)等によって製造することができる。
【0034】
方法(Ia)においては、カルシウムイオン供給化合物(A1)とフッ素イオン供給化合物(B)とを、水を加えたときにフッ化物の沈澱を生じる量及び配合比で混合し、得られた混合物に適当量の水系分散媒を加えて攪拌するか又は超音波洗浄器で処理を施すことにより、光学器材用液剤を得ることができる。
【0035】
方法(Ib)においては、例えば、カルシウムイオン供給化合物(A1)及びフッ素イオン供給化合物(B)のうちの少なくとも1成分の水系分散媒溶液を調製した後、両者を混合するか、又は超音波洗浄器で処理を施すことにより、光学器材用液剤を得ることができる。
【0036】
前記方法(II)においては、本発明の光学器材用液剤は、例えば、カルシウムイオン供給化合物(A2)、フッ素イオン供給化合物(B)及び有機酸塩(C)を混合し、得られた混合物と水系分散媒とを混合する方法(以下、方法(IIa)という)、カルシウムイオン供給化合物(A2)、フッ素イオン供給化合物(B)及び有機酸塩(C)のうちの少なくとも1成分の水系分散体溶液を調製した後、各成分を混合する方法(以下、方法(IIb)という)等によって製造することができる。
【0037】
方法(IIa)においては、カルシウムイオン供給化合物(A2)とフッ素イオン供給化合物(B)とを、水を加えたときにフッ化物の沈澱を生じる量及び配合比で混合し、得られた混合物に適量の水系分散媒を加え、攪拌するか又は超音波洗浄器で処理を施した後、有機酸塩(C)を混合し、必要により水系分散媒を加えて攪拌するか又は超音波洗浄器で処理を施すことにより、光学器材用液剤を得ることができる。
【0038】
方法(IIb)においては、例えば、カルシウムイオン供給化合物(A2)、フッ素イオン供給化合物(B)及び有機酸塩(C)のうちの少なくとも1成分の水系分散媒溶液を調製した後、各成分を混合するか又は超音波洗浄器で処理を施した後、必要により水系分散媒を加えて攪拌するか又は超音波洗浄器で処理を施すことにより、光学器材用液剤を得ることができる。
【0039】
なお、フッ化カルシウムを含む粒子の分散液を製造する際に、カルシウムイオン供給化合物(A1)及びフッ素イオン供給化合物(B)を混合するとき、又はカルシウムイオン供給化合物(A2)及びフッ素イオン供給化合物(B)を有機酸塩(C)の存在下で混合するときの系内の温度は、通常、室温〜40℃程度であることが好ましく、全成分が添加されてから10分から2時間まで、製造効率を考慮すると10分から1時間まで混合することが好ましい。
【0040】
前記方法は、いずれも例示であり、水不溶性又は難水溶性のフッ化物を生じ、フッ化物が生じる前、フッ化物が生じるとき又はフッ化物が生じた後に、有機酸塩(C)をその系に存在させることによって分散液が生成するのであれば、他の方法を採ることもできる。
【0041】
かくして得られる分散液は、そのままの状態で、本発明の光学器材用液剤として用いることができるが、例えば、超遠心分離、減圧乾燥、アルコールの添加等により、分散液に含まれている粒子を取り出し、乾燥させて固形物として用いることができる。この場合、固形物は、水に分散させることにより、フッ化カルシウムを含む粒子の分散液とすることができ、この分散液を本発明の光学器材用液剤として用いることができる。
【0042】
本発明のフッ化カルシウムを含有する光学器材用液剤は、動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmであるフッ化カルシウムを含む粒子が分散しており、その製造方法の相違による物性上の差異がほとんど認められず、いずれも物理的及び化学的に同じ性質を有する。すなわち、各製造方法によって得られた分散液は、それぞれ、粘度、電気伝導度、光散乱、元素分析結果等の物性にほとんど差異がない。
【0043】
本発明のフッ化カルシウムを含有する光学器材用液剤に電解質が夾雑物として含まれている場合、この光学器材用液剤をそのまま用いてもよく、あるいは電解質を除去した後に用いてもよいが、電解質を除去した後に用いることが好ましい。電解質の除去は、例えば、イオン交換樹脂や限外濾過膜、電気透析等により行うことができる。電解質の除去により、安定な水性フッ化カルシウムを5〜20重量%の濃度で含有する光学器材用液剤を得ることができる。
【0044】
本発明の光学器材用液剤には、必要に応じて、例えば、反応を促進させるための硬化剤、種々の基材、例えば、レンズとの屈折率を調節するための金属酸化物微粒子、塗布時における濡れ性を向上させ、光学器材用液剤で形成された膜の平滑性を向上させるための有機溶媒や界面活性剤を適量で含有させることもできる。
【0045】
硬化剤としては、例えば、アリルアミン、エチルアミン等のアミン類、ルイス酸やルイス塩基を含む各種酸や塩基、例えば、有機カルボン酸、クロム酸、次亜塩素酸、ホウ酸、過塩素酸、臭素酸、亜セレン酸、チオ硫酸、オルトケイ酸、チオシアン酸、亜硝酸、アルミン酸、炭酸等の酸又はその金属塩、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム等の金属アルコキシド又はこれらの金属キレート化合物等が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0046】
金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化鉄等の金属酸化物の微粒子が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0047】
本発明の光学器材用液剤には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の各種成分を適量で含有させることができる。
【0048】
硬化剤を用いて本発明の光学器材用液剤を硬化させる場合、その硬化は、通常、熱風乾燥又は活性エネルギー線の照射によって行うことができる。硬化は、好ましくは70〜200℃、より好ましくは90〜150℃の熱風中で行うことができる。なお、活性エネルギー線の中では、熱による損傷を抑制する観点から、遠赤外線等が好ましい。
【0049】
本発明の光学器材の製造方法は、光学器材の基材上に光学器材用液剤からなる被膜を形成する工程を有する。光学器材の基材上に光学器材用液剤からなる被膜を形成する方法としては、例えば、光学器材用液剤を基材に塗布する方法等が挙げられる。塗布手段としては、例えば、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われている方法を適用することができるが、形成される被膜の面精度の観点から、ディッピング法及びスピンコーティング法が好ましい。
【0050】
形成された乾燥後の被膜は、一層であってもよく、あるいは多層であってもよいが、被膜の耐久性の観点から、多層であることが好ましい。被膜は、その耐久性を損なうことなく光透過性を向上させる観点から、2〜10層で形成されていることが好ましい。
【0051】
光学器材用液剤を基材に塗布する前に、基材に、あらかじめ酸、アルカリ、各種有機溶媒による化学的処理、プラズマ、紫外線等による物理的処理、各種洗剤による洗剤処理、サンドブラスト処理、各種樹脂を用いたプライマー処理等を施しておいてもよい。これにより、基材と形成された被膜との密着性等を向上させることができる。
【0052】
被膜の透明度は、ヘイズ値(%)によって評価することができる。ヘイズ値(%)は、式:Th=Td/Tt(式中、Tdは散乱光線の透過率、Ttは全光線の透過率を示す)によって算出される。被膜内に含まれている粒子の粒子径が大きい場合、粒子の濃度が高い場合、膜厚が厚い場合等においては、散乱光強度は高くなるため、ヘイズ値が高くなる。ヘイズ値を下げるためには、例えば、被膜内に含まれている粒子の粒子径を小さくしたり、粒子の濃度を低くしたり、あるいは膜厚を小さくすればよい。
【0053】
被膜のヘイズ値は、透明性の観点から、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、特に好ましくは0〜0.5%である。
【0054】
本発明の光学器材用液剤が用いられた硬化被膜を有する光学部材は、眼鏡用レンズの他、カメラ用レンズ、自動車の窓ガラス、ワードプロセッサーのディスプレイに付設する光学フィルタ等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
製造例1
0.5mol/Lの塩化カルシウム水溶液100g、0.5mol/Lのフッ化ナトリウム水溶液200g及び0.5mol/Lのグリセロリン酸二ナトリウム水溶液100gを500mL容のビーカー内で室温下で混合撹拌したところ、混合液は白濁していたが、しだいに透明となり、1日経過後には透明となった。
【0056】
得られた混合液は、以下の測定結果に基づき、平均粒径が5nmのフッ化カルシウムコロイド水分散体であることが確認された。
【0057】
得られた混合液に含まれている粒子の平均粒径を、動的光散乱法〔(株)堀場製作所製、品番:LB−500〕を用いて測定したところ、5nmであった。
【0058】
また、X線回折の測定結果より、フッ化カルシウム結晶の存在が確認され、核磁気共鳴スペクトル〔F19−NMR、測定装置:Varian社製、品番:Unity INOVA 300WB〕により、−120ppm付近に観測されるシャープなフッ素イオン由来のピークとは異なり、−110ppm付近にブロードなピークが見られたことから、フッ素原子が結晶格子を形成していることが確認された。
【0059】
製造例2
0.5mol/Lのグリセロリン酸カルシウム水溶液100g及び0.5mol/Lのフッ化ナトリウム水溶液200gを500mL容のビーカー内で室温下、混合撹拌したところ、得られた混合液は初期には白濁していたが、ただちに透明となった。得られた混合液中に分散している粒子の平均粒径を、製造例1と同様にして測定したところ、5nmであった。
【0060】
X線回折の測定結果より、得られた粒子にフッ化カルシウムの結晶が存在していることが確認され、製造例1と同様にして核磁気共鳴スペクトルを調べたところ、フッ素イオンとは異なるケミカルシフトにピークが見られたことから、得られた混合液は、平均粒径が約5nmのフッ化カルシウム粒子の分散液であることが確認された。
【0061】
比較製造例1
0.5mol/Lの塩化カルシウム水溶液100g、0.5mol/Lのフッ化ナトリウム水溶液200g及び0.5mol/Lのクエン酸三ナトリウム水溶液100gを500mL容のビーカー内で室温下、混合撹拌したところ、攪拌直後より透明となった。得られた混合液に含まれている粒子の平均粒径を、製造例1と同様にして測定したところ、散乱光が得られず、粒径を測定することができなかった。
【0062】
また、X線回折を測定したが、フッ化カルシウムの結晶に由来のピークが見られなかった。また、製造例1と同様にして核磁気共鳴スペクトルを調べたが、フッ素イオンが明確に検出されたことから、フッ化カルシウム粒子の分散液が得られていないことが確認された。
【0063】
比較製造例2
0.5mol/Lの塩化カルシウム水溶液100g及び0.5mol/Lのフッ化ナトリウム水溶液200gを500mL容のビーカー内で室温下、混合することより、白濁分散液を得た。得られた混合液に含まれている粒子の平均粒径を製造例1と同様にして動的光散乱法にて測定したところ、平均粒径が200nmの分散液であることが確認された。
【0064】
実施例1
製造例1で得られた平均粒径5nmのフッ化カルシウムを含む粒子の分散液(フッ化カルシウムの濃度:3.9重量%)を光学器材用液剤として用いた。
【0065】
表面の汚れを2−プロパノールで充分に除去したマイクロスライドガラス〔松浪(株)製、縦76mm×横52mm×厚さ1.3mm)をディップコーターに装着した。スライドガラスを40cm/minの速度で光学器材用液剤中に浸漬し、10秒間静置した後、40cm/minの速度で引き上げ、スライドガラスの全面を塗布した。
【0066】
次に、スライドガラスを200℃で2時間乾燥させた後、形成された被膜の物性として、鉛筆硬度、耐擦傷性、密着性及び透明性を以下の方法に基づいて評価した。その結果、鉛筆硬度は6H、耐擦傷性はA、密着性は良好、透明度は0.2%(ヘイズ値)の被膜が形成されていることが確認された。
【0067】
(1)鉛筆硬度
JIS K−5400に従い、傷の付かない最高の鉛筆硬度で示した。
【0068】
(2)耐擦傷性(スチールウール)
#0000のスチールウールに1kgの荷重をかけ、被膜の表面を1秒間あたり1往復させる操作を5回繰り返し、以下の判定基準に基づいて判定した。
〔判定基準〕
A:ほとんど傷が付かない。
B:少しの傷が付く。
C:多くの傷が付く。
【0069】
(3)密着性(クロスカット法/碁盤目試験)
基材に達するマス目の間隔が1mmの碁盤目を被膜の上から刃が未使用のカッターナイフ(エヌティーカッターA−300型)で100個入れ、セロハン粘着テープ〔(株)ニチバン製〕を強く貼り付けた後、急速に剥がし、碁盤目の剥離がなければ良好、剥離がある場合を不良と判定した。
【0070】
(4)透明性
被膜の透明性は、ヘイズメーター(村上色材研究所製、反射透過計HR−100)を用いて測定し、ヘイズ値(%)により評価した。
【0071】
実施例2
実施例1において、光学器材用液剤として、製造例1で得られた平均粒径5nmのフッ化カルシウムを含む粒子の分散液の代わりに、製造例2で得られた平均粒径5nmのフッ化カルシウムを含む粒子の分散液(フッ化カルシウムの濃度:3.9重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして被膜を形成させ、形成された被膜の物性を実施例1と同様にして調べた。
【0072】
その結果、鉛筆硬度は6H、耐擦傷性はA、密着性は良好、透明度は0.2%(ヘイズ値)の被膜が形成されていることが確認された。
【0073】
比較例1
実施例1において、光学器材用液剤として、製造例1で得られた平均粒径5nmのフッ化カルシウムを含む粒子の分散液の代わりに、比較製造例2で得られた平均粒径200nmのフッ化カルシウムを含む粒子の分散液(フッ化カルシウムの濃度:3.9重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして被膜を形成させ、形成された被膜の物性を実施例1と同様にして調べた。
【0074】
その結果、鉛筆硬度は2H、耐擦傷性はC、密着性は良好、透明度は4%(ヘイズ値)の被膜が形成されていることが確認された。
【0075】
以上の結果から、各実施例によれば、光学系器材の表面に、耐久性を損なうことなく光透過性に優れた被膜を比較的低温度で形成することができ、また、耐久性及び光透過性に優れた被膜を有する光学器材を製造することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の光学器材用液剤は、眼鏡用レンズ、カメラ用レンズ、CRT用フィルター、光記録用基体等の光学器材等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化カルシウムを含む粒子を含有する光学器材用液剤であって、前記フッ化カルシウムを含む粒子の動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmである光学器材用液剤。
【請求項2】
グリセロリン酸カルシウム、グルコース−1−リン酸カルシウム及びグルコース−6−リン酸カルシウムからなる群より選ばれた1種以上のカルシウムイオン供給化合物(A1)及びフッ素イオン供給化合物(B)を混合する工程を有する請求項1記載の光学器材用液剤の製造方法。
【請求項3】
カルシウムイオン供給化合物(A2)及びフッ素イオン供給化合物(B)を、グリセロリン酸、グルコース−1−リン酸及びグルコース−6−リン酸からなる群より選ばれた1種以上の有機酸又はその塩(但し、カルシウム塩は除く)(C)の存在下で混合する工程を有する請求項1記載の光学器材用液剤の製造方法。
【請求項4】
有機酸(C)がグリセロリン酸塩である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の光学器材用液剤からなる被膜を光学器材の基材上に形成する工程を有する光学器材の製造方法。