説明

光学式センサ

【課題】検体の沈殿物の影響を回避することが出来る光学式センサを提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る光学式センサ1は、光導波路部12と、前記光導波路部12に隣接して設けられ、検体を保持するとともに、前記検体27の沈殿物27aが沈殿する沈殿面21が前記光導波路部12側の光学的変化を生じるセンシング面23とは異なる位置に配された検体エリア20と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式センサに関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の検体の測定対象物質を検出する方法として、電気検出、光学検出、表面プラズモン検出が挙げられる。
【0003】
光導波路構造をもつ光学式センサでは、光導波路層と検体との界面(センシング面)における光学的変化を検知することにより、測定対象物質および測定対象物質に起因する物質もしくは反応生成物を検出する。このような光学式センサでは、通常、検体を保持するために検体エリアを上向きにし、検体エリアの下方側に光導波路層を配置している。この検体エリアで検体を保ち、検体エリアの下側の表面であるセンシング面の測定対象物質および測定対象物質に起因する物質もしくは反応生成物を光学的変化として検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−115666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述の技術では以下の問題がある。すなわち、検体中において自重で沈殿する沈殿物がある場合に、上述の上向きの検体エリアでは、検体エリア下面であるセンシング面に沈殿物が堆積してしまう。このため、この沈殿物によって物理的もしくは化学的に測定対象物質および測定対象物質に起因する物質もしくは反応生成物の検出が阻害される場合がある。
【0006】
本発明は上記の事情に基づきなされたもので、その目的とするところは、検体の沈殿物の影響を回避することが出来る光学式センサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る光学式センサは、光導波路部と、前記光導波路部に隣接して設けられ、検体を保持するとともに、前記検体の沈殿物が沈殿する沈殿エリアが前記光導波路部側の光学的変化を生じるセンシングエリアとは異なる位置に配された検体エリアと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検体の沈殿物の影響を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光学式センサの断面図。
【図2】同光学式センサの平面図。
【図3】同光学式センサのセンサチップの下面図。
【図4】同光学式センサの検体エリアを示す説明図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光学式センサの断面図。
【図6】本発明の第3実施形態に係る光学式センサの断面図。
【図7】同光学式センサのセンサチップの下面図。
【図8】本発明の第4実施形態に係る光学式センサの検体エリアの説明図。
【図9】同実施形態における抗原抗体反応を示す説明図。
【図10】同実施形態における抗原抗体反応を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態にかかる光学式センサ1について、図1乃至図4を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る光学式センサ1を示す断面図、図2は同平面図である。図3はセンサチップ15の下面図、図4は検体エリア20の説明図である。
【0011】
光学式センサ1は、光導波路型バイオケミカルセンサチップであり、基板11、光導波路層12(光導波路部)、入射側及び出射側グレーティング13a、13b、及び保護膜14を有するセンサチップ15と、このセンサチップ15に対向するチャンバ16と、を備え、これらのセンサチップ15とチャンバ16との間に検体エリア20を構成している。
【0012】
基板11は、ガラス(例えば無アルカリガラス)または石英からなり、透光性を有する板状に構成されている。基板11はチャンバ16の凹部16aに配置される。
【0013】
基板11の下側の主面の両端部付近の領域には、基板11に光を入射、出射させるための一対のグレーティング13a、13bが形成されている。入射側及び出射側のグレーティング13a、13bは光導波路層12に接して互いに離間して設けられている。グレーティング13a、13bは、基板11を構成する材料よりも高い屈折率を有する材料(例えば酸化チタン)で形成されている。
【0014】
光導波路層12は、例えば3〜300μmの範囲で設定される均一な厚さの膜体であり、グレーティング13a、13bが形成された基板11の下面に密着するように隣接して形成されている。光導波路層12は、基板11より高屈折率の高分子樹脂からなり、例えば酸化シリコン、ガラス、酸化チタン、もしくは有機材料で構成される。
【0015】
保護膜14は、光導波路層12を構成する材料よりも低屈折率で、かつセンサチップ15に投入される全ての試薬と反応しない材料(例えばフッ素樹脂)で構成される。グレーティング13a、13bが形成されている領域に対応する光導波路層12の両端部、つまりグレーティング13a、13bに対応する領域を覆うように、光導波路層12の下面に隣接して形成されている。
【0016】
これらの基板11、光導波路層12、グレーティング13a、13b、及び保護膜14が積層されて、センサチップ15が形成されている。センサチップ15は、チャンバ16の凹部16aに設けられている。センサチップ15の光導波路層12とチャンバ16の底面との間に検体エリア20が形成される。
【0017】
基板11の裏面(図1中上面)の一端側及び他端側には、光源18(例えばレーザダイオード)及び受光素子19(例えばフォトダイオード)がそれぞれ配置される。
【0018】
チャンバ16は、例えばアクリル等から矩形の板状の外形を有し、光学式センサ1の外郭を構成している。チャンバ16は、センサチップ15の外周を囲む側壁部16bと、センサチップ15の下方に検体エリア20を介して対向配置される底壁部16cと、側壁部16bの内側において検体エリア20の周囲を囲む周壁部17と、を一体に有して構成され、その上面中央にはセンサチップ15を収容する凹部16aが形成されている。すなわち、凹部16aの下方に光導波路層12との間に中空部分である検体エリア20を構成し、この検体エリア20を挟んで凹部16a内上部にセンサチップ15がセットされている。チャンバ16は例えば全体が黒色の材質で構成され、遮光性を有して構成されている。底壁部16cの上面が光導波路層12と検体エリア20を介して対向する対向面16dとなる。チャンバ16とセンサチップ15とは、例えば遮光性の両面接着テープ(不図示)により、互いに固定されている。
【0019】
チャンバ16の側壁部16bまたは底壁部16cには、外部と検体エリア20とを連通する送液路16eが形成されている。この送液路16eを通じて検体27が検体エリア20に導入される。また、チャンバ16には、検体27導入時に流体が逃げる逃げ部16fが設けられている。逃げ部16fは、例えばチャンバ16の外部に通じる流路、穴、またスペース等として形成されている。
【0020】
検体エリア20は、光導波路層12に隣接して設けられた中空状の空間である。検体エリア20は例えばZ方向寸法1〜10mm程度に設定され、この内部に検体27が充填され、保持される。検体27は、測定対象物質、沈殿物27a、及び溶媒等を含む検体溶液である。
【0021】
図4に示すように、検体エリア20の下面、すなわち対向面16dは、自重により検体27における血球などの沈殿物27aが沈殿する沈殿面21(沈殿エリア)となる。
【0022】
検体エリア20にはセンシング膜22(反応層)が設けられている。このセンシング膜22における光導波路層12との界面である上面が光学的変化を生じるセンシング面23(センシングエリア)となる。
【0023】
ここでは検体エリア20を下向きとして、沈殿面21は検体エリア20の下面であるチャンバ16の対向面16dとなり、センシング面23は検体エリア20の上面である光導波路層12との界面となる。すなわち、検体エリア20の沈殿面21とセンシング面23とは互いに異なる位置に配され、上下に離間している。この配置によって、血球などの沈殿物27aがセンシング面23にかからないようになっている。
【0024】
センシング膜22には、検体27と反応する反応試薬群25が設けられている。反応試薬群25として、例えば検体27と抗原抗体反応により結合する標識された抗体や、標識に反応して反応産物を生成する試薬、標識と試薬の反応を促進する触媒などが、薬品の種類に応じて適宜組み合わされ納められている。ここではセンシング膜22は検体エリア20の上側、すなわち光導波路層12側の一部に形成されていてもよいし、検体エリア20全体に形成されていてもよい。
【0025】
センシング膜22での検体27の反応として、例えば抗原抗体反応、酵素反応などを含めた生体分子認識反応、もしくは生体分子認識反応から生じる反応生成物を利用した発色もしくは蛍光反応が挙げられる。
【0026】
センシング膜22は測定対象物をセンシング面23に保持する保持構造24を有している。保持構造24としては、例えばビーズ、親水性の吸収膜である吸水シート、金コロイド、メッシュ構造の保持部材、多孔質構造の保持部材等が挙げられる。
【0027】
例えばセンシング膜22がグルコースセンシング膜である場合、センシング膜22は反応試薬群25としてグルコースの酸化酵素または還元酵素、この酵素による生成物と反応して発色剤を発色させる物質を発生する試薬、発色剤、膜形成高分子樹脂を備えるとともに、必要に応じて保持構造24としてポリエチレングリコールのような透水性促進剤を含む。
【0028】
検体エリア20及びセンシング膜22の上面であるセンシング面23は、グレーティング13a、13b間を結ぶ線分上の保護膜14に挟まれた領域に位置し、光導波路層12表面に密着するように隣接する面である。センシング面23は、導入された検体27における測定対象物の量または濃度に応じて光導波路層12内を伝播する光の強度を変化させる等の光学的変化を生じさせる。
【0029】
センシング面23で生じる光学的変化として、例えば発色(反応)、蛍光(反応)、発光、吸収、散乱、屈折率変化が挙げられる。
【0030】
さらに、光学式センサ1は、検体エリア20内において検体27及び反応試薬群25を撹拌するための撹拌機構26を備えている。撹拌機構26は、例えば、チャンバ16外に配置されるとともに検体エリア20内に連通するポンプ等を有して構成され、検体エリア20内に導入された検体27や試薬群を撹拌し、分離しやすい状態とする。
【0031】
以上のように構成された光学式センサ1における測定方法を説明する。なお、沈殿物27aがある場合には、検体導入し、攪拌し、沈殿物27aを沈殿させつつ光量変化測定を行う。
【0032】
光源18としてのレーザダイオードからレーザ光を基板11上面側に入射すると、そのレーザ光は基板11を通して入射側グレーティング13aと光導波路層12の界面で屈折され、さらに光導波路層12と基板11およびセンシング層の界面であるセンシング面23で複数回屈折しながら伝播する。光導波路層12を伝播した光は、出射側のグレーティング13bから基板11の裏面から出射され、受光素子19であるフォトダイオードで受光される。
【0033】
この状態で、チャンバ16の外部から送液路16eを介して検体27を注入する。検体27は、送液路16eを通って検体エリア20に導入される。このときチャンバ16に形成された逃げ部16fより検体エリア20内に存在していた空気や流体が抜けるため、送液をスムーズに行うことができる。
【0034】
送液により検体27を検体エリア20に導入した直後に、撹拌機構26により検体エリア20内を撹拌し、撹拌後に所定時間放置する。撹拌及び放置により検体27の測定対象物質と沈殿物27aとの分離が促される。また、撹拌により沈殿物27aを均一に堆積させ、一箇所に集中して沈殿することが防止される。分離した沈殿物27aは検体エリア20の下面である沈殿面21に堆積する。センシング面23は検体エリア20の上面であるため、この沈殿によってセンシング面23から沈殿物27aが除去される。
【0035】
この際、光導波路層12で伝播する光のエバネッセント波はセンシング面23での屈折時にそのセンシング膜22における検体27中の生体分子のバイオケミカル反応に基づく変化(例えば吸光度変化)に応じて吸収される。
【0036】
光導波路層12を伝播した光は、出射側のグレーティング13bから基板11の裏面から出射され、受光素子19であるフォトダイオードで受光される。受光したレーザ光強度は、センシング膜22が生体分子とバイオケミカル反応をなさない時に受光した光強度(初期光強度)に比べて低下した値になり、その低下率から生体分子の量を検出することが可能になる。
【0037】
本実施形態に係る光学式センサ1によれば、以下のような効果を奏する。すなわち、センシング面23と沈殿面21とを異なる位置に配置させたことにより、沈殿物27aによる検出結果への影響を防止することが出来る。
【0038】
例えば検体27が血液である場合には、予め血液を血球分離することなく検体エリア20に血液を導入することができるとともに、沈殿物27aである血球による影響を受けずに測定が可能となる。また、光学式センサ1の構造を複雑化することなく、検体エリア20の向きを下向きにするだけの単純な構造で、沈殿物27aの影響を回避できる。
【0039】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る光学式センサ2について、図5を参照して説明する。なお、第2実施形態の光学式センサ2は、光学式センサ2の向き及び検体エリア20の配置以外については上記第1実施形態の光学式センサ1と同様であるため共通する説明を省略する。
【0040】
図5は本実施形態に係る光学式センサ2の断面図である。光学式センサ2は、横向きに配置されている。すなわち、基板11、光導波路層12、グレーティング13a、13b、及び保護膜14は横方向(X方向)に積層されてセンサチップ15を構成し、このセンサチップ15に対向してチャンバ16が配置されている。
【0041】
チャンバ16のX方向一方側(図中左側)の側面に凹部16aが形成され、この凹部16aはZ方向において中心よりも下方寄りに配置されている。チャンバ16の底側壁とセンサチップ15との間に検体エリア20が形成されている。この検体エリア20の下方において、光導波路層12との間には保護膜14が配置されている。この保護膜14が隔壁部となる。本実施形態にかかる光学式センサ2において、検体エリア20と光導波路層12とはX方向において隣り合って配置され、検体エリア20と光導波路層12との境界部分の下方に、隔壁部となる保護膜14が配置されている。すなわち、検体エリア20は光導波路層12に対して横方向に隣接して設けられるとともに、前記検体エリアの下部と前記光導波路層との間に隔壁部としての保護膜14が形成されている。
【0042】
このように構成された光学式センサ2において、検体エリア20の光導波路層12との界面であるX方向一方側の側面がセンシング面23(センシングエリア)となり、検体エリア20の下面が沈殿面21となる。
【0043】
すなわち、側面のセンシング面23と、下面の沈殿面21とは異なる位置に配置され、90度傾いた異なる面に配置されている。さらに、この検体エリア20内の下方の領域は保護膜14によって光導波路層12と隔てられている。したがって、検体エリア20内において、沈殿物27aは下方の領域に堆積するが、その左側には保護膜14が配置されているため、沈殿物27aがセンシング面23にかかることはない。
【0044】
以上のように構成された光学式センサ2では、第1実施形態と同様に、検体エリア20に検体27を導入した後、撹拌、放置を行うことで検体27内の測定対象物質と沈殿物27aとの分離が促される。
【0045】
沈殿物27aはその自重によって下方に移動し、隔壁部である保護膜14によって光導波路層12と隔てられた領域に移動する。このため、沈殿物27aはセンシング面23から除去される。
【0046】
本実施形態においても第1実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、センシング面23と沈殿面21を異なる位置及び異なる面に配置したことにより測定対象物質の検出に沈殿物27aが影響することを回避できる。さらに、本実施形態では保護膜14が隔壁部として機能するため、沈殿物27aを確実にセンシング面23から除去することが出来る。
【0047】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態に係る光学式センサ3について、図6及び図7を参照して説明する。なお、第3実施形態の光学式センサ3は、ガラス導波路層とした点や側壁部16bの構成以外については上記第1実施形態の光学式センサ1と同様であるため共通する説明を省略する。
【0048】
光学式センサ3は、例えばガラス導波路層を用いた光導波路型バイオケミカルセンサチップであり、透光性を有する光導波路層12と、光導波路層12の下側の主面に形成される検体エリア20と、検体エリア20内に設けられるセンシング膜22と、この検体エリア20を挟むように両側部に配置される入射側及び出射側グレーティング13a、13bと、検体エリア20を取り囲むように構成された撥水性樹脂性の周壁部17と、検体エリア20を囲む保護膜14と、検体エリア20を介し全反射層と対向配置される対向面16dを有するチャンバ16と、を備えている。光導波路層12の裏面の一端側及び他端側には、光学的要素である光源18(例えばレーザダイオード)及び受光素子19(例えばフォトダイオード)がそれぞれ配置される。すなわち、上記第1実施形態においては光導波路層12の検体エリア20とは反対側に隣接して透光性の基板11が設けられていたが、本実施形態においては光導波路層12の上側に別途基板は設けられておらず、全反射層となる基板そのものが光導波路層12として機能する。
【0049】
光導波路層12(全反射層)は、石英(酸化シリコン)がプレート状に成型された基板である。入射した光がこの光導波路層12内を全反射しながら透過する。
【0050】
互いに離間して設けられた入射側及び出射側グレーティング13a、13bは、光導波路層12の下面側に接して形成されている。
【0051】
グレーティング13a、13bは、光導波路層12より高屈折率の材料からなる。例えば酸化チタン、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素、インジウム錫酸化物、ポリイミド、酸化タンタル等を化学蒸着法(CVD)等により堆積させ、リソグラフィー技術とドライエッチング技術でパターニングすることにより形成される。
【0052】
センシング膜22は、検体エリア20内に設けられ、光導波路層12に接して、入射側グレーティング13a及び出射側グレーティング13bの間に設けられている。センシング膜22は、反応試薬群25として例えば酵素と発色試薬を含有するセンシング膜22酵素と発色試薬を有し、これらの反応試薬群25が保持構造24としてのセルロース誘導体等によってゲル状に固定されて形成されている。検体エリア20の上面すなわちセンシング膜22の上面であって光導波路層12との界面がセンシング面23(センシングエリア)となる。一方検体エリア20の下面が検体27の沈殿物27aが沈殿する沈殿面21となる。
【0053】
周壁部17は例えば撥水性の樹脂等から構成され、検体エリア20を囲むように円環状に構成された壁部材を有して構成される。
【0054】
保護膜14は、センシング膜22の周囲を囲み、入射側グレーティング13a及び前記出射側グレーティング13bを覆う。保護膜14は、例えばフッ素系樹脂のような入射側グレーティング13a及び前記出射側グレーティング13bに比べて低屈折率の材料を塗布して形成される。
【0055】
以上のように構成された光学式センサ3において、発光素子より入射された光は、入射側グレーティング13aで回折し、光導波路層12内を全反射しながら透過していく。光導波路層12とセンシング膜22の境界面であるセンシング面23で屈折する際に、エバネッセント波がセンシング膜22の発色によって吸収される。したがって例えばセンシング膜22の発色の度合い、すなわち測定対象物質の量に比例して光が吸収されることになる。最終的に出射側グレーティング13bに到達した光は、光導波路層12から受光素子19に向けて出射される。そして、発光素子より放射した光量と、受光素子19で受けとった光量との差から測定しようとする物質の量を算出することになる。
【0056】
この実施形態においても、上記第1及び第2実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、センシング面23を沈殿面21と反対側に配置したことにより沈殿物27aがセンシング面23にかかることを防止し、沈殿物27aの影響を回避できる。
【0057】
[第4実施形態]
以下、本発明の第4実施形態として抗原抗体反応を用いた場合のセンシング膜22における反応動作を図8乃至図10を参照して説明する。
【0058】
図8は検体エリア20の拡大図であり、図9及び図10は抗原抗体反応を示す説明図である。
【0059】
測定対象物質は、例えば血液、血清、血漿、生体試料、食品等の中に含まれる蛋白質、ペプチド、遺伝子等が挙げられる。具体的には、インスリン、カゼイン、β―ラクトグロブリン、オボアルブミン、カルシトニン、C−ペプチド、レプチン、β−2−ミクログロブリン、レチノール結合タンパク、α−1−ミクログロブリン、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原、トロポニン−I、クルカゴン様ペプチド、インスリン様ペプチド、腫瘍増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、血小板成長因子、上皮増殖因子、コルチゾール、トリヨードサイロニン、サイロキシン等のハプテンホルモン、ジゴキシン、テオフィリン等の薬物、細菌、ウイルス等の感染性物質、肝炎抗体、IgEの他、そばの主要タンパク質複合体、落花生のArah2を含む可溶性タンパク質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
抗原抗体反応を用いる場合、光導波路層12は、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂または無アルカリガラスから形成することができる。ここで用いる材料とは、所定の光の透過性を有する材料であって、特に、ポリスチレンを主たる構造とするエポキシ樹脂等であることが好ましい。
【0061】
センシング膜22には、反応試薬群25として、検体27の測定対象物質と特異的に反応する第1物質が固定化される。例えばシランカップリング剤等により疎水化処理した表面上に前記物質の疎水性相互作用により固定化する。第1物質は、例えば検体27の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0062】
センシング膜22における測定対象物質の保持構造24としては、微粒子が光導波路表面にブロッキング層を介して分散される形態が挙げられる。ブロッキング層は、例えばポリビニルアルコール、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリエチレングリコール、リン脂質ポリマー、ゼラチン、糖類(例えばスクロース、トレハロース)のような水溶性物質を含む。ブロッキング層は、さらにプロテーインヒビタを含んでもよい。
【0063】
微粒子は、例えばポリスチレン製のラテックスビーズ(商品名)のような樹脂ビーズもしくは金コロイドのような金属コロイド、または酸化チタン粒子のような無機酸化物粒子を用いることができる。微粒子は、アルブミンのようなタンパク質、アガロースのような多糖類、シリカ粒子、カーボン粒子のような非金属粒子も用いることができる。特に、ラテックスビーズ、金属コロイドが好ましい。ラテックスビーズの中で、後述する光導波路を伝播させる光が赤色レーザの場合、青色ラテックスビーズが好ましい。微粒子は、50nm〜10μmの径を有することが好ましい。
【0064】
微粒子には、反応試薬群25として、測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化される。第2物質としては、例えば検体27の測定対象物質が抗原の場合、微粒子に抗体が固定化される。
【0065】
抗原抗体反応について説明する。図9に示すように、検体27中に第1抗体111と微粒子113の第2抗体112と特異的に反応する抗原が存在しないと、微粒子113の第2抗体112は光導波路層12表面の第1抗体111と結合することなく分散する。第2抗体112及び微粒子113が反応試薬群25として機能する。
【0066】
この状態で、光源18から赤色レーザ光を入射側グレーティング13aから光導波路層12に入射させ、その光導波路層12を伝播させて表面(センシングエリア)付近にエバネッセント光を発生させても、検体エリア20内の検体27中の微粒子113が分散しているため、微粒子113がエバネッセント光領域に殆ど存在しなくなる。すなわち、微粒子113がエバネッセント光の吸収や散乱に殆ど関与しないため、エバネッセント光の強度の減衰が殆ど起きない。その結果、出射側グレーティング13bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオードで受光した際、そのレーザ光強度が殆ど変化しない。
【0067】
一方、図10に示すように、検体27中に抗原115が存在すると、抗原115は光導波路層12表面の第1抗体111と抗原抗体反応を生じて結合し、さらに微粒子113の第2抗体112は抗原115と抗原抗体反応を生じて結合する。つまり、光導波路層12表面の第1抗体111と微粒子113の第2抗体112の間で抗原115を介して抗原抗体反応を生じるために、微粒子113が光導波路層12表面に対して固定化される。
【0068】
例えば光源18として赤色レーザダイオードから赤色レーザ光を入射側グレーティング13aから光導波路層12に入射させ、その光導波路層12を伝播させてセンシング面23付近にエバネッセント光を発生させると、微粒子113が光導波路層12表面(センシング面23)に対して固定化されているため、微粒子113がエバネッセント光領域に存在することになる。すなわち、微粒子113がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、エバネッセント光の強度の減衰が起きる。その結果、出射側グレーティング13bから出射されるレーザ光を受光素子19であるフォトダイオードで受光した際、そのレーザ光強度が固定化された微粒子113の影響によって時間の経過に伴って低下する。
【0069】
受光素子19で受光したレーザ光強度の低下率は、光導波路層12表面に対して固定化される微粒子113の量、つまり抗原抗体反応に関与する検体27中の抗原濃度に比例する。したがって、抗原濃度が既知の検体27において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、抗原濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。前記方法で測定した時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、検体27中の抗原濃度を測定できる。
【0070】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、上記第1実施形態では光学式センサ1を下向きとし、第2実施形態では光学式センサ2を横向きとした場合を例示したがこれに限られるものではない。例えば斜めに傾斜して配置してもよい。例えば検体エリア20が直方体であれば、上向き状態から90以上270以下傾けることにより、異なる面に沈殿面21とセンシング面23を設定することが出来る。
【0071】
また、上記実施形態においてはチャンバ16全面を黒色とした場合を示したが、エバネッセント光の生じる面もしくは光が導波する層の上面に対向して位置する対向面16dのみを黒色としてもよい。また、検体エリア20外の箇所に黒色の両面遮光テープを用いてチャンバ16とセンサチップ15とを接合してもよい。
【0072】
また、撹拌機構26を実現するために、モータを有するポンプを例示したが、アクチエーター、磁性微粒子、SAWデバイス、ピエゾ素子等を利用してもよい。
【0073】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1、2、3…光学式センサ、11…基板、12…光導波路層、
13a…入射側グレーティング、13b…出射側グレーティング、
14…保護膜、15…センサチップ、16…チャンバ、16a…凹部、16b…側壁部、16c…底壁部、16d…対向面、16e…送液路、16f…逃げ部、18…光源、
19…受光素子、20…検体エリア、21…沈殿面(沈殿エリア)、22…センシング膜、
23…センシング面(センシングエリア)、24…保持構造、25…反応試薬群、
26…撹拌機構、27…検体、27a…沈殿物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路部と、
前記光導波路部に隣接して設けられ、検体を保持するとともに、前記検体の沈殿物が沈殿する沈殿エリアが前記光導波路部側の光学的変化を生じるセンシングエリアとは異なる位置に配された検体エリアと、を備えたことを特徴とする光学式センサ。
【請求項2】
前記光導波路部に対向配置され、前記光導波路部との間に前記検体エリアを構成するチャンバを備えたことを特徴とする請求項1記載の光学式センサ。
【請求項3】
前記検体エリア内に、前記検体と反応して、前記センシングエリアに測定対象物質量に応じた光学的変化を生じさせる反応試薬群が形成されたことを特徴とする請求項1または2記載の光学式センサ。
【請求項4】
前記検体エリアは前記光導波路部に対して横方向に隣接して設けられ、
前記検体エリアの下部と前記光導波路部との間に隔壁部が形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の光学式センサ。
【請求項5】
前記検体エリア内の検体を撹拌する撹拌機構をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の光学式センサ。
【請求項6】
前記チャンバは、前記検体エリアに前記検体を導入する送液路と、前記検体エリアに前記検体が導入される際に前記検体エリア内の流体が逃げる逃げ部と、を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の光学式センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−202997(P2011−202997A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68426(P2010−68426)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】