説明

光学式ロータリエンコーダ

【課題】シャフトをディスクの片方側だけでベアリングによって支持する光学式ロータリエンコーダの、回転系の部材の非回転方向の剛性を確保する。
【解決手段】一端に回転スリットが形成されたディスク6が固定されたシャフト3を、ディスク6の片方側で軸支する二つのベアリング5を設ける。そして、シャフト3の直径をd、ディスク6の回転スリットの直径をD、二つのベアリング5の軸方向の中央位置からの回転スリットまでの距離をLとし、K1≦2.1、望ましくはK1≦1.85、として、L/d≦K1を満たし、K2≦3.0、望ましくはK2≦2.7として、D/d≦K2を満たすように光学式ロータリエンコーダを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式ロータリエンコーダの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学式ロータリエンコーダとしては、回転可能に支持された一端が測定対象の回転体に連結されるシャフトと、当該シャフトの他端に固定された周方向に配列した複数のスリットよりなる円環状のスリット列を有する円盤状のディスクと、固定スリットと、発光素子と、発光素子から出射されディスクのスリットと固定スリットとを通過した光を電気信号に変換する光電変換素子とを備えた光学式ロータリエンコーダが知られている(たとえば、特許文献1、2)。
【0003】
ここで、これら光学式ロータリエンコーダでは、ディスクよりもシャフトの回転体に連結される端側の位置において、2つのベアリングによってシャフトを回転可能に支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-147396号公報
【特許文献2】特開2000-275067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した、ディスクよりもシャフトの回転体に連結される端側の位置において、2つのベアリングによってシャフトを回転可能に支持する構造は、ベアリングを支持するベースを、比較的小型な単一の部材によって構成することができるので、シャフトの間にディスクを挟む2カ所の位置において、2つのベアリングによってシャフトを回転可能に支持する構造に比べ、ロータリエンコーダの小型化や、組み付け精度の向上に有利である。一方で、このようなシャフトをディスクの片方側だけで支持する構造は、シャフトやディスクなどの回転系の部材の剛性確保の点からは不利であり、測定精度の劣化につながるディスクの非回転方向の振動などを生じ易い。
【0006】
そこで、本発明は、シャフトをディスクの片方側だけでベアリングによって支持する光学式ロータリエンコーダの、回転系の部材の非回転方向の剛性を確保できる構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、ベースと、端部に測定対象の回転体が連結されるシャフトと、前記ベースに固定された、前記シャフトの軸方向について異なる位置で当該シャフトを各々軸支する二つのベアリングと、前記シャフトに固定された、円環形状のスリット列を形成するように周方向に配列された複数のスリットが設けられたディスクと、前記ディスクのスリットに光を照射し、前記スリットを通過した光を回転信号に変換する回転信号生成手段とを備えた光学式ロータリエンコーダを提供する。但し、前記二つのベアリングは、前記シャフトの軸方向について、前記ディスクよりも前記回転体が連結される端部側において、前記シャフトを軸支しており、前記シャフトの前記ベアリングで軸支される位置の直径をd、前記ディスクに形成されたスリット列の円環形状の径方向中心位置の直径をD、二つのベアリングの軸方向の中央位置から前記スリット列までの、前記シャフトの軸方向の距離をLとして、L/d≦2.1さらに望ましくはL/d≦1.85、D/d≦3.0さらに望ましくはD/d≦2.7を満たすように、光学式ロータリエンコーダは構成されているものである。
【0008】
本発明者らの知見によれば、このように、L/d≦2.1さらに望ましくはL/d≦1.85、D/d≦3.0さらに望ましくはD/d≦2.7を満たすように、光学式ロータリエンコーダを構成することにより、シャフトを二つのベアリングでディスクの片方側だけで支持する構造においても、回転系の部材の非回転方向の剛性を確保して、ディスクの不要な振動を抑制し、精度良く計測を行えるようになる。
【0009】
ここで、このような光学式ロータリエンコーダは、前記二つのベアリングを予圧して設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、シャフトをディスクの片方側だけでベアリングによって支持する光学式ロータリエンコーダにおいて、回転系の部材の不要な振動を抑制して、非回転方向の剛性を確保し、精度良く計測を行えることが期待できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る光学式ロータリエンコーダの構造を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光学式ロータリエンコーダの評価に用いるパラメータを示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る本発明の実施形態に係る光学式ロータリエンコーダの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る光学式ロータリエンコーダの実施形態について説明する。
図1aに光学式ロータリエンコーダの外観を示し、図1bに光学式ロータリエンコーダの内部構成を模式的に示す。
図1aに示すように、光学式ロータリエンコーダは、一方の端が閉じられた管状の筐体1、筐体1の他方の端を覆うように筐体1に連結固定されたベース2、ベース2の中央孔を通って筐体内外に延びるシャフト3、ベース2の中央孔とシャフト3の隙間を極小化するためのシールド4とを有している。ここで、シャフト3の筐体1の外側の端部には、測定対象の回転体が連結される。
【0013】
次に、図1bは、図1aのシャフト3の中心軸を通る鉛直な平面による光学式ロータリエンコーダの断面によって、光学式ロータリエンコーダの内部構成を模式的に示したものであり、図示するように、ベース2の中央孔には、二つのベアリング5が、シャフト3の中心軸方向に離間して固定されており、この二つのベアリング5によってシャフト3が回転可能に支持されている。
【0014】
そして、シャフト3の筐体内側の端部には、ディスク6が固定されている。
また、ベース2には、ヘッドユニット7と回路基板8とが固定されている。
ここで、ディスク6には、周方向に並べた複数のスリットより全体として円環形状の回転スリットが形成されている。また、ヘッドユニット7は、発光素子を備えた発光部71と、固定スリットと光電素子を備えた受光部72を備え、ディスク6の回転に伴って、ディスク6の回転スリットが、発光部71と受光部72の間を移動するように、当該ヘッドユニット7はベース2に固定されている。
【0015】
そして、発光部71の発光素子から出射された光が、ディスク6の回転スリットを通過した後に、受光部72の固定スリットを通過して、受光部72の光電素子によって検出される。
なお、回路基板8には、このようなヘッドユニット7の発光の制御や、光電素子によって検出した信号の処理を行う回路が搭載されている。
さて、ここで、ヘッドユニット7の受光部72の固定スリットには、図1cに示すように位相が反転したA相スリットとB相スリットが設けられており、ディスク6の回転スリットとA相スリットとを通過した光によって光電素子によって図1dに示すように正弦波形状のA相信号が検出され、ディスク6の回転スリットとB相スリットとを通過した光によって光電素子によってA相信号と位相が180度異なる余弦波形状のB相信号が検出される。
【0016】
なお、実際には、ディスク6の回転スリットと固定スリットには、図1cに示したスリットとは別に、絶対角度検出用のスリット(いわゆる、Z相用のスリット)も設けられている。
また、各ベアリング5には、図1eに示すように、所定の予圧を与えている。
さて、このような光学式ロータリエンコーダの構成において、図2に示すように、ベアリング5で支持される位置におけるシャフト3の直径をd、ディスク6の回転スリットの径方向中央位置の直径をD、二つのベアリング5の軸方向の中央位置からの回転スリットまでの距離をLとする。ここで、本実施形態ではディスク6は3mm厚のガラス板であり、ガラス板のベース2側の面に回転スリットが形成されているので、二つのベアリング5の軸方向の中央位置からガラス板のベース2側の面までの距離がLとなる。
【0017】
そして、本実施形態では、K1≦2.1、望ましくはK1≦1.85、として、L/d≦K1を満たし、K2≦3.0、望ましくはK2≦2.7として、D/d≦K2を満たすように光学式ロータリエンコーダを構成する。
ここで、二つのベアリング5によって軸支されているシャフト3は、二つのベアリング5の軸方向について中央の位置を中心として振動すると考えられる。そして、この振動は、シャフト3の直径Dが大きいほど小さく抑えられる。一方で、このシャフト3の振動に追従する回転スリットの中心の揺れ幅は、二つのベアリング5の軸方向について中央の位置からの回転スリットまでの軸方向の距離Lが大きいほど大きくなる。また、このシャフト3の振動に追従する、回転スリットの揺幅は、ディスク6がディスク6のシャフト3への連結箇所(回転スリットの中心)を中心としても振動するので、回転スリットの直径Dが大きくなるほど大きくなる。
【0018】
よって、L/dを適当な値以下とし、D/dを適当な値以下とすることにより、回転スリットの揺れ幅を、測定の精度確保に支障の無い範囲に抑えることができる。
さて、ここで、図3は、L/d=1.85、D/d=2.7として光学式ロータリエンコーダを構成し、上述したA相信号をX入力とし、B相信号をY入力として計測したリサージュ図形を示すものである。
図3aはディスク6の1回転あたりに表れるA相信号およびB相信号のパルス数(波数)を60とした場合、図3bはパルス数を750とした場合、図3cはパルス数を2500とした場合、図3dはパルス数を6000とした場合、図3eはパルス数を15000として計測したリサージュ図形を示しており、図示するように、いずれの場合も、リサージュ図形は、ほぼ真円に近い形状を有しており、良好にA相信号およびB相信号が出力されている。
【0019】
よって、L/d=1.85、D/d=2.7以下となるように、光学式ロータリエンコーダを構成すれば、ディスク6の不要な振動を抑制して、精度良く計測を行えることが分かる。また、L/d、D/dの約10%程度の相違は、およそ実質的に精度劣化が問題とならない範囲として許容できるので、L/d≦2.1、D/d≦3.0としても、ディスク6の不要な振動を抑制して、精度良く計測を行えることが期待できる。
【符号の説明】
【0020】
1…筐体、2…ベース、3…シャフト、4…シールド、5…ベアリング、6…ディスク、7…ヘッドユニット、8…回路基板、71…発光部、72…受光部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
端部に測定対象の回転体が連結されるシャフトと、
前記ベースに固定された、前記シャフトの軸方向について異なる位置で当該シャフトを各々軸支する二つのベアリングと、
前記シャフトに固定された、円環形状のスリット列を形成するように周方向に配列された複数のスリットが設けられたディスクと、
前記ディスクのスリットに光を照射し、前記スリットを通過した光を回転信号に変換する回転信号生成手段とを有し、
前記二つのベアリングは、前記シャフトの軸方向について、前記ディスクよりも前記回転体が連結される端部側において、前記シャフトを軸支しており、
前記シャフトの前記ベアリングで軸支される位置の直径をd、前記ディスクに形成されたスリット列の円環形状の径方向中心位置の直径をD、二つのベアリングの軸方向の中央位置から前記スリット列までの、前記シャフトの軸方向の距離をLとして、L/d≦2.1、D/d≦3.0を満たすことを特徴とする光学式ロータリエンコーダ。
【請求項2】
請求項1記載の光学式ロータリエンコーダであって、
L/d≦1.85、D/d≦2.7を満たすことを特徴とする光学式ロータリエンコーダ。
【請求項3】
請求項1または記載の光学式ロータリエンコーダであって、
前記二つのベアリングは予圧されていることを特徴とする光学式ロータリエンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−132871(P2012−132871A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287121(P2010−287121)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】