説明

光学材料のレーザ安定性判定方法、該方法により得られる結晶、及び該結晶の利用方法

【課題】光学素子の製造に用いられ、かつ200nm以下の波長をもつ高エネルギー電磁放射線に対してレーザ安定性の高い光学材料を選択する方法を提供する。
【解決手段】光学材料を選択する方法は、a)光学材料に対して1回目前照射を行って放射線損傷を生じさせる工程と、b)前記1回目前照射の実施後に、前記光学材料中において波長350nm〜700nmの光を用いて誘導蛍光を少なくとも10分間励起させる工程と、c)550nm〜810nmの範囲内の1又は2以上の波長において誘導蛍光強度を測定する工程と、d)工程c)における誘導蛍光強度の測定後に、前記光学材料に対して前記1回目前照射に用いたエネルギーよりも少なくとも1000倍高いエネルギー用いて2回目前照射を実施する工程と、e)工程d)における前記2回目前照射に続いて、前記誘導蛍光強度の2回目の測定を行って前記誘導蛍光の前記強度の増加を判定する工程から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に200nm未満の波長をもつ高エネルギー放射線用光学素子の製造に適する光学材料の評価方法、該方法を用いて得られる光学材料、及び該光学材料の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の作製に用いられる材料によってそれら材料を透過する光あるいは放射線の一部が吸収され、それにより、光学素子透過後の光及び又は放射線の強度は透過前よりも通常小さくなることは周知である。また、前記吸収の程度は光の波長によって異なることも周知である。光学系、すなわち光学的に透明な系においは吸収は可能な限り最少に保たれる。何故ならこれら系は、少なくともそれら系の作動波長域において高透過性あるいは高伝達性でなければならないからである。前記吸収は、材料に起因する吸収成分(内因性又は本質的吸収)と、含有物、不純物及び又は結晶欠陥等の所謂外因性あるいは非本質的吸収成分によって生ずるものである。本質的吸収は材料の質とは無関係であるが、一方の非本質的成分による吸収は光学材料の質の低下を引き起こす。
【0003】
加熱をもたらすエネルギーは、本質的吸収及び非本質的吸収の双方により光学材料によって吸収される。光学材料がこのように加熱されると、例えば屈折率は光の波長だけでなく光学材料の温度によっても影響を受けるため、屈折率等の光学特性に変化が生じ、その結果としてビーム形成に用いられる光学部品における撮像能力に変化がもたらされる等の不利益が生ずる。さらに、光学部品の加熱によりレンズ構造の変化も引き起こされる。このような現象が起こるとレンズの焦点が変わり、また加熱したレンズを用いて投影された画像は不鮮明となる。このようなレンズは特にコンピュータチップや電子回路に使われるフォトリトグラフィーにおいては欠陥品質であり、不合格品数の増加をもたらす原因となる。このような事態は明らかに望ましくないことである。
【0004】
さらに、材料による吸収によって高エネルギー光を用いた照射が長時間化されることも明らかとなっている。放射線損傷と呼ばれるこのような影響は、より急速に生ずる可逆的な要素と、緩慢に生ずる不可逆的要素から成るものである。より急速な放射線損傷が起こる場合には、吸収された放射線の一部は熱へ変換されるに止まらず蛍光として発せられる。光学材料、特に光学結晶中における蛍光の発生はそれ自体は公知である。例えば、石英、特にOH基リッチな石英中におけるレーザ誘導蛍光(LIF)の生成及び測定に関してはW.Triebel,Bark−Zollmann,C.Muehligらによる「短時間診断法によるDUVレーザ用途に用いる溶融石英の評価」、Proceedings SPIE,Vol.4103,1−11頁、2000年に記載がある。CaFの蛍光及び透過特性に関してはC.Muehlig,W.Triebel,Toepferらの論文、Proceedings SPIE,Vol.4932,458−466頁に記載がある。フッ化カルシウム結晶中における光学吸収バンドの形成に関しては、M.Mizuguchiらによる論文、J.Vac.Sci.Technol.A.,Vol.16,2052−3057頁(1998年)に記載がある。フッ化カルシウム結晶中におけるレーザ損傷の診断に用いられる時間分解光ルミネセンスに関してはM.Mizuguchiらによる論文、J.Opt.Soc.Am.B,Vol.16,1153−1159頁(1999年7月)に記載がある。この論文には、193nmのArFエキシマレーザを用いた励起による光ルミネセンス生成色中心の形成についても記載がある。しかしながら、上述したような測定方法が可能であったことから、フォトリトグラフィーの高基準を満たさない不純物含量のかなり高い結晶が用いられてきた。さらに、蛍光測定は、50ナノ秒の時間間隔中であって、かつレーザパルスがサンプルを通過した後に実施される。このようにして得られた蛍光値は、品質管理あるいは不純物生成程度の測定、従って高品質な結晶中の色中心の形成には利用できないことが明らかとなっている。
【0005】
光学ブランクからの完全な光学部品の作製には高額な費用と労力を要することから、後における使用中に光学部品中に生ずる放射線損傷の程度及び状態を早い時点、すなわちブランクの加工前に判定する必要が生じている。不適切な材料は除去されなければならない。これまで、この種の放射線損傷の程度及び状態を判定するためにレーザ誘導蛍光を用いる試みが為されている。例えばWO2004/027395には光学材料中における非固有的蛍光の測定方法が開示されている。この方法では、193nm又は157nmの励起波長でレーザ光を前照射した直後に同一レーザを用いて光学材料中の蛍光が直接測定される。
【0006】
DE10335457A1には光学材料の適合性の定量的判定方法に関する記載がある。この方法では、エネルギー・密度依存性透過性が、UV域の波長における透過平衡値を見出し、サンプルのdT/dH曲線の傾斜を測定し、及び蛍光特性と比較することによって測定されている。
【0007】
コンピュータリトグラフィーにおいては光学素子に対するレーザからの負荷が増大するため、EP1890131A2には、前照射の終了後にも猶生ずる350〜700nmの波長域における励起蛍光の変化に基づく長期間レーザ安定性の改善判定方法が記載されている。上記測定においては、前照射直後に1回目の測定を実施し、次いで予め規定された待機時間経過後に2回目の測定を実施することから、蛍光強度の増加を前照射終了後に判定することが可能である。
【0008】
前記EP1890131A2は、高エネルギー光を用いた照射後に材料中に貯まったエネルギーによって、照射前の結晶中には存在しなかった新しいナトリウム安定化F中心の形成が引き起こされることを教示している。さらに他の波長をもつ光を照射することによってこれらのナトリウム安定化F中心を励起させ、次いで蛍光発光によってそれら中心をアース状態へ移行させることが可能である。
【0009】
上記に関連して、これらナトリウム安定化F中心の形成時間定数が極端に長く(k=1/τ、τ≧10分)、そのために照射後における蛍光強度の増加が少なくとも10分間、特に好ましくは少なくとも20分間、さらに好ましくは少なくとも30分間引き起こされることが見出されている。
【0010】
X線放射、中性子放射、あるいは強力レーザ放射線などの強力な放射線は材料中に放射線損傷(急速損傷)を生ずるために使用される。前記照射は十分量のF中心が形成されるまで十分な時間に亘って実施される。なお、最も遅い場合でも、透過が平衡値に達する時点には十分量のF中心が形成されている。このような状態は、通常材料中へArFレーザ(10mJ/cm)を約10,000パルス発した後に得られるものである。前記透過平衡値は、照射中における透過に著しい変化が測定されなくなった時に平衡値に達したと認められる。10mJ/cm以上のエネルギー密度を用いる場合には3,000未満のパルスであっても前記平衡値へ到達する。
【0011】
しかしながら、さらに高エネルギーが使用される場合には、先行技術方法によってレーザ安定性を有すると判定されたサンプルでもその寿命は不十分であり、またそれらサンプルを例えばコンピュータリトグラフィーに用いる場合には放射線損傷を生ずることが明らかとなっている。このような問題は、とりわけ、100カウント以下の範囲内におけるCCDカメラを用いた蛍光測定において約20カウントのエラー(バックグラウンド ノイズ)が生ずるため、0〜40カウントの範囲内において数値を互いに識別できないことから生ずるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、現行のレーザ安定材料の評価方法をさらに改善し、かつ特にレーザ安定材料のレーザ安定性について順位付けを行って材料を相互に識別可能とできる方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明はさらに、強いレーザ放射線によって生じる放射線損傷に対してより向上された長期間レーザ安定性を有するコンピュータリトグラフィー用光学材料のより改善された選択方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的及び以下においてさらに明らかにされる他の目的は添付の特許請求の範囲において限定された方法によって達成される。
【0015】
本発明により、先行技術による前照射の前あるいは後、あるいは前照射の代わりに、前照射が先行技術方法において生ずるエネルギーよりも特に大きなエネルギーを伴って好ましくは長い時間間隔に亘って起こる場合、先行技術により前照射(1回目前照射)で放射線損傷を発生させることにより生成される誘導蛍光を何倍にも増大できることが明らかにされた。 これは、先行技術からは平衡状態は比較的短い作用時間後に生じ、かつ3000未満のレーザパルス後に得られ、照射中に透過率はもはや変化せず、少ないエネルギー密度であっても可逆的に再度平衡状態に至ることが知られていたから、驚くべきことであった。このことは、さらに照射を行ってもナトリウム安定化F中心を増加させることができないことを意味している。しかしながら、本発明によれば、少ないエネルギー密度では再度生成することのできない追加的欠陥中心が高エネルギー照射を用いて生成されることが明らかにされた。この時、レーザ誘導蛍光(LIF)、特に赤色LIFが大きく増加するが、このLIFは長期間照射における吸収変化と相関する。レーザ誘導蛍光の強度、特にサンプル中の赤色LIFは、以前は0〜45カウントの強度であったが、本発明に係る方法を実施した場合45〜800の範囲内の数値となる。このことは、欠陥がさらに生成されることによって測定される誘導蛍光信号が大きく増加することを示している。かかる方法により、本発明による照射によって誘導されるRLIF強度が150カウント未満である極めてレーザ安定な材料サンプルを、先行技術方法によってRLIF強度が40カウント未満であってレーザ安定であると判定されたサンプル群から識別して評価することが可能である。
【0016】
最初の照射は、一般的には、十分なナトリウム安定化F中心が生成されるまで、エネルギー照射が実施される。この十分なF中心の生成は、最も遅くとも透過率が平衡値(一定透過率)に達した時に得られるが、好ましくは透過率の平衡値が少なくとも90%、特に好ましくは95%、さらに好ましくは97%に達した時に得られる。この最初の照射のための数値及び前提条件に関しては例えばEP1890131A2に記載がある。
【0017】
比較的高いエネルギーで実施される2回目前照射に関して、光学材料へ投入されるエネルギーはナトリウム安定化F中心の平衡濃度を生ずるために必要とされるエネルギーよりも少なくとも1000倍大きい。光学材料は、好ましくはそのエネルギー量よりも2000倍〜3000倍大きいエネルギーを用いて照射される。2回目前照射中に試験対象となる光学材料へ投入される好ましい投入エネルギー量は、例えば少なくとも5×10mJ/cmに達する。この投入エネルギー量は、投入されたレーザパルス数を積算されたレーザビームエネルギー密度の2乗によって与えられる。典型的なエネルギー密度は例えば少なくとも10mJ/cmであるが、好ましくは30mJ/cm、特に好ましくは40mJ/cmである。平衡レーザビームに関しては、レーザを用いて投入される適切な最大エネルギー濃度は、好ましくは150mJ/cm、特に好ましくは120及び又は100mJ/cmである。典型的な最大エネルギー密度は80mJ/cm、好ましくは70mJ/cm、特に好ましくは65及び又は60mJ/cmである。
【0018】
集束されたレーザビームを用いてエネルギー密度500又は1000mJ/cmを得ることが可能であり、該エネルギー密度におけるエネルギー投入量は1013mJ/cmに達する。かかる方法により極めて強い効果を得ることが可能である。
【0019】
高エネルギー照射(2回目照射)についての典型的な作用回数は少なくとも5×10パルス、好ましくは1×10パルスに達するが、特に好ましくは最少パルス数として2×10及び又は3×10とされる。もちろん最大パルス投入量について制限はないが、最大パルス数を10及び又は5×10とすることが経済的な方法を証するために適当であることが確認された。特に好ましい最大パルス数は10である。高エネルギー密度を用いる場合には、低エネルギー密度を用いる場合よりもパルス数を少なくすることが可能である。
【0020】
更なる前照射及び又は2回目前照射に用いられる典型的エネルギー投入量は、好ましくは少なくとも10×10mJ/cm及び又は12×10mJ/cmに達する。特に好ましいエネルギー投入量は少なくとも10×10mJ/cm及び又は12×10mJ/cmである。この目的のために用いられるレーザ光の波長は好ましくは150〜240nmの範囲内である。特に好ましいレーザ光は波長193nmのArFエキシマレーザである。
【0021】
本発明における誘導吸収を実施するために用いられる適当な放射線源はX線源、及び強力な放射線、例えば中性子ビーム、放射能を有する放射線、例えばCo60源のようなガンマ線等を生成する他の放射線源である。しかしながら、本発明方法には入手容易性、安価性及び取扱容易性からX線が特に適する。
【0022】
本発明方法を実施するために必要とされるエネルギー密度は広範囲に亘って可変であり、かつ飽和状態に達する時間間隔だけに依存する。しかしながら、一般的には、10〜10Gy、好ましくは5×10〜5×10Gyの範囲内のエネルギー密度が用いられる。飽和状態に達するまでに要する照射時間は10〜360分、好ましくは30〜180分である。飽和状態を制御するためにサンプルに対して2回目照射を実施することができ、そして吸収バンドの強度及び又は吸収スペクトルを相互に比較することも可能である。吸収バンドの強度に変化が認められなくなったら、照射により所望の飽和状態へ達したと認められる。
【0023】
結晶中のすべての色中心が励起されることを確実にするため、照射される結晶及び又はサンプルの厚さは厚過ぎてはならない。これは、厚過ぎるとサンプルのビーム耐久性と依存関係にある材料全体の均質な浸入を確実に行わせられなくなり、入射放射線の最大部分がサンプルを通過するビーム通路の最初の部分で吸収されてしまう可能性があるからである。このような吸収が起これば表面付近に別の色中心が導かれ、ビームがこれら色中心を通過してサンプル中へ入り、さらに表面からスペースを空けて離れているサンプルの内部までビームが入り込む。
【0024】
蛍光の試験前測定は1回目前照射の終了直後に行われる。この測定は典型的には、照射終了後の3〜5秒間内に実施され、測定は1秒間続けられる。前記照射から最初の蛍光測定までの望ましい待機時間(測定回数に等しい)は少なくとも10分、好ましくは少なくとも20分である。個々のケースにおいて、少なくとも30分間、さらには少なくとも50分間待機する方が適当であることも明らかにされた。しかしながら、減衰過程の影響が顕在化してきて測定結果に誤差が生じてくることから、蛍光の最初の測定は前照射終了から15時間以上、特には10時間以上遅くなってはならないことが明らかにされた。それゆえ、これら測定は一般的には各前照射の終了後8時間以上経過すると実施されない。
【0025】
本発明による2回目の高エネルギー前照射によって、先行技術による試験又は選択方法においてレーザ安定性であると先に認められたサンプルであっても相当量のレーザ誘導蛍光(LIF)が生成されることが明らかとされた。本発明によるさらに強力な前照射を行うことにより、EP1890131A2に記載された誘導蛍光検知とは対照的に、感度を少なくとも10倍、好ましくは20倍増加させることが可能である。多くの場合において感度を30倍及び又は40倍増加させることが可能なことが明らかにされた。
【0026】
本発明においては、好ましくはEP1890131A2に記載の方法を用いてレーザ安定サンプルを最初に判定し、先行技術方法によってレーザ安定であると認められるサンプル群から本発明方法によって特にレーザ安定であるサンプルを検出することが好ましい。特にレーザ安定性の高いサンプルでは、高エネルギー放射線を用いた誘導蛍光強度の最初の測定後に2回目前照射を行った場合、1回目前照射によって生じた誘導蛍光から僅かに変化した誘導蛍光しか示されない。この測定に関して特に好ましい蛍光バンドは630nm及び740nmである。
【0027】
本発明に係る方法は好ましくはアルカリハロゲン化物及びアルカリ土ハロゲン化物のサンプルの試験に用いられる。特に好ましい対象化合物としては、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化リチウム、フッ化カリ、フッ化ナトリウム、及びKMgF等の混合物が挙げられる。
【0028】
添付の特許請求の範囲において限定された方法と共に選定された、特に前述したアルカリハロゲン化物及びアルカリ土ハロゲン化物等の特別なレーザ安定光学材料も、本発明によって提供される発明の一部、あるいは別観点となる発明である。
【0029】
本発明による試験方法を用いることにより、DE102004003829に記載されているフッ化カルシウムインゴット等の非結晶質前駆体の後時のレーザ処理中におけるレーザビーム耐久性について、それらインゴットが成長して大容積の単結晶を形成する前に、試験を行うことも可能である。従って、前駆体材料から費用をかけて結晶を成長させる前に、適する単結晶を評価し及び又は選択することが可能である。
【0030】
本発明方法に係る十分にレーザ安定な光学材料は、DUVリトグラフィー用の光学部品の製造と、フォトラッカーでコーティングされたウェハーの製造、すなわち電子装置の製造に特に適するものである。従って、本発明は本発明方法及び又は本発明に係る結晶によって選択あるいは得られる材料の、レンズ、プリズム、光伝達ロッド、光学窓、及びDUVリトグラフィー用光学装置の製造、特にステッパー及びエキシマレーザの製造への利用、さらに集積回路、コンピュータチップ、及びチップ型の集積回路が組み込まれるプロセッサ等の電子装置及びその他装置への利用にも関する。
【0031】
レーザ安定材料の評価は、前述した方法を用いて製造工程の初期段階において行うことが可能である。現在発展中のフォトリトグラフィー照明装置、該装置において用いられるレーザ、及び又はレーザビーム誘導システムには、特にレーザ安定性の高い材料が必要とされる。このような要求は、レーザ能力を高め、エネルギー密度要求を満たす装置の生産性に対する要求から生ずるものである。適する光学材料の評価に用いられる前述した短期間測定方法の感度は、特にレーザ安定サンプル群からのレーザ安定サンプルの識別にはもはや十分ではなくなっている。
【0032】
蛍光は波長460〜700nm、特に500〜650nmの励起放射線を用いて励起されるが、特に好ましい励起放射線の波長は530〜635nmの範囲内である。さらに、波長532nm、633nm及び635nmの励起放射線はとりわけ好ましい。さらに、励起放射線の波長が600nm以下であれば、波長630nmに蛍光バンドが観察可能である。
【0033】
波長633nmでのヘリウム・ネオンレーザを用いた蛍光あるいは波長635nmのレーザダイオードを用いた蛍光(双方とも赤色レーザビーム、RLIF)の励起、あるいはダイオードが注入されたファイバー光レーザ(DPSSレーザ、グリーンレーザ、GLIF)を用いた波長532nmでの蛍光励起は特に適することが確認されている。波長633nmのヘリウム・ネオンレーザ又は波長635nmでのレーザダイオードを用いた励起は、532nmにおける励起よりも感度を4倍高めるファクターとなる。本来的に、蛍光強度信号は入射レーザ強度に対しほぼ直線的な依存関係にある。
【0034】
レーザ安定性の特に高い材料では誘導蛍光に変化がないか、変化があっても2回目前照射後に1回目前照射後の誘導蛍光に比べれば僅かな変化があるだけである。
【0035】
550nm〜810nmの波長域内にある双方の蛍光バンドは蛍光強度測定に適するものである。しかしながら、フッ化カルシウムの場合、波長740nmが特に適することが確認されている。
【0036】
レーザ安定サンプルとは対照的に、本発明方法において評価あるいは選択対象となるレーザ安定性の特に高いサンプルの場合には、630nm及び740nmにおけるそれぞれのバンドの蛍光強度の増加は、誘導蛍光強度の最初の測定において同条件で測定されたそれらバンドの蛍光強度に比べればほんの僅かである。
【0037】
本発明方法の適する実施態様において、用途に即して、評価対象サンプルのそれぞれの測定蛍光強度が適当なレーザ安定性をもつ比較サンプルの蛍光強度と比較される。双方のサンプルとも、同一条件、すなわち同一波長を用い、及び同一投入エネルギー密度において試験される。先行技術に従った波長193nmでの蛍光測定において、前照射直後に猶測定装置のバックグラウンドノイズに含まれる740nmに蛍光バンドをもつサンプルが比較サンプルとして用いられる。この目的のため、レーザビーム耐久性について、例えば前述したエネルギー照射に関するパルス持続期間を用いて使用条件下で判定を行っている。
【0038】
本発明方法は、波長740nmにバンドが検出されない、あるいは先行技術による蛍光測定方法における193nmでの前照射後において装置のバックグラウンドノイズに猶含まれ、また先行技術による1段階の測定方法ではサンプル群の中からレーザ安定サンプル及び特にレーザ安定なサンプルを検出することが不可能なサンプルのレーザビーム耐久性を判定するためにも利用可能である。本発明方法は、先行技術方法によって蛍光ピークとして40カウント以下、とりわけ20カウント以下が検出される場合に特に必要とされる方法である。本発明方法は、蛍光ピーク強度が測定エラーに相当する15カウント以下である場合に特に好ましい方法である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】パルス状レーザの照射後における個々のレーザ安定光学材料サンプルの誘導蛍光信号の増加を示したグラフである。
【図2】X線照射後における個々のサンプルの誘導蛍光信号の増加を示したグラフである。
【図3】レーザ安定性の特に高い光学材料サンプルの誘導蛍光信号を示したグラフである。先行技術による赤色レーザ誘導蛍光測定方法では個々の信号のそれぞれを識別できないが、本発明方法によれば信号それぞれを識別することが可能である。
【発明を実施するための手段】
【0040】
本発明の目的、特徴、及び利点について、添付図面を参照しながら以下に記載の実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0041】
EP1890131A2によってレーザ安定あるいはレーザ放射線耐久性であると記載された異なるタイプのフッ化カルシウム結晶に対して50mJ/cmのパルス2500万個をパルス化されたレーザから照射し、次いでレーザ誘導蛍光信号をCCDカメラを用いて先に誘導蛍光の最初の測定において用いた方法と同一の測定方法によって測定した。その結果を図1に示す。
【0042】
図1において、強力な照射を行う前の光誘導蛍光信号を、極めて強力な照射を行った後の誘導蛍光信号に対してプロットした。図1から明らかなように、先行技術方法では殆ど誘導蛍光をもたなかった5サンプルに100〜400カウントの誘導蛍光が認められた。従来法による照射を受けた場合に約20カウントしかもたないサンプルに約260カウントの誘導蛍光が認められた。これにより、本発明に係る改善された光学材料選択方法は先行技術方法より極めて信頼性の高い方法であることが明らかとなった。
【0043】
さらに別の実施態様においては、先行技術方法による照射を受けたサンプルに対してX線装置を用いて160kV/18.5mAの線量でX線照射を行った。結晶はそれぞれ18cmの間隔を空けて置き、240Sv/hで100分間結晶に対して照射した。それまで約5カウント程度のレーザ誘導蛍光しか観察されなかったサンプルに、図2に示すように約100〜200カウントの蛍光が認められた。このことは、本発明方法が先行技術方法に比べて極めて感度の高い方法であることをも示すものである。
【0044】
EP1890131A2に記載の先行技術方法を用い、図1の関連において述べたサンプル等の誘導蛍光信号を殆ど示さなかったサンプルに対して2回目のレーザ照射をさらに高いエネルギーを用いて実施した。これまで蛍光を生じなかったサンプルに、740nmの赤色スペクトル域において、容易に測定可能なレーザ誘導蛍光が発現した。
【0045】
図3は本発明方法による感度増大を表した図である。先行技術方法では異なる誘導蛍光信号をもつとは認められなかった4つのサンプルが相互に容易に識別可能となり、誘導蛍光信号の強度に対してランク付けが可能となった。RLIFで示された点は先行技術方法によって測定した誘導蛍光信号を表し、他方LI−RLIFで示された点は本発明方法によって測定された誘導蛍光信号を表わす。
【0046】
本発明は光学材料のレーザ安定性の判定方法、該方法を用いて得られる結晶、及び該結晶の利用方法として具現化されて図示及び説明されているが、本発明の精神から逸脱することなく本発明に対して種々変形及び変更を加えることが可能であることから、本発明を本願において示された詳細に限定する意図ではない。
【0047】
上記記載において本発明の要旨はさらなる分析を要することなく十分に開示されていることから、第三者は最新技術を適用し、また従来技術の観点に立って、本発明の全体的あるいは特定の観点において必須の特徴を構成している特長を漏らすことなく本発明を種々用途へ容易に適用することが可能である。
【0048】
本願によって特許が求められる発明は新規であり、これら発明は添付の特許請求の範囲に明記されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)光学材料に対して1回目前照射を行って放射線損傷を生じさせる工程と、
b)前記1回目前照射の実施後に、前記光学材料中において波長350nm〜700nmの光を用いて前記1回目前照射終了後の少なくとも10分間誘導蛍光を励起させる工程と、
c)550nm〜810nmの範囲内の1又は2以上の波長における誘導蛍光強度を測定する工程と、
d)工程c)における誘導蛍光強度の測定後に、前記光学材料に対して前記1回目前照射に用いたエネルギーよりも少なくとも1000倍高いエネルギー用いて2回目前照射を実施する工程と、
e)工程d)における前記2回目前照射に続いて、前記誘導蛍光強度の2回目の測定を行って前記誘導蛍光の前記強度からの増加を判定する工程から構成される、光学素子の製造に用いられ、かつ特に200nm以下の波長をもつ高エネルギー電磁放射線の透過に対しレーザ安定性の特に高い光学材料の選択方法。
【請求項2】
前記光学材料中において前記誘導蛍光を励起させる前記波長が350nm〜430nmの範囲内、又は500nm〜700nmの範囲内の波長であることを特徴とする請求項1高記載の方法。
【請求項3】
前記光学材料の前記1回目前照射が150nm〜240nmの波長域をもつレーザ放射線から成るレーザを用いて実施されることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項4】
前記レーザがArFエキシマレーザであり、前記レーザ放射線の波長が193nmであることを特徴とする請求項3項記載の方法。
【請求項5】
前記誘導蛍光の強度が測定される波長が580nm〜810nmの範囲内、及び又は680nm〜810nmの範囲内であることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項6】
前記誘導蛍光強度の最初の測定が、前記1回目前照射の終了直後及び又は前記2回目前照射の終了直後に測定され、及び前記誘導蛍光強度の2回目の測定が、前記1回目前照射の終了後及び又は前記2回目前照射の終了後から少なくとも5分間及び長くても15時間の待機時間経過後に実施されることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項7】
前記光学材料がCaF結晶であることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項8】
前記2回目前照射が少なくとも5×10mJ/cmのエネルギーをもつレーザ放射線、少なくとも500Ws/mmのエネルギーをもつX線、又は少なくとも10Gyのエネルギーをもつガンマ線又は該ガンマ線に匹敵する他放射線を用いて実施されることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項9】
請求項8項記載の方法によって選択可能な光学材料から成るレンズ、プリズム、光伝導ロッド、光学窓、DUVリトグラフィー用光学装置、DUVリトグラフィー用ステッパー、DUVリトグラフィー用エキシマレーザ、集積回路、コンピュータチップ、電子装置、又はプロセッサ。
【請求項10】
請求項1項記載の方法によって選択可能な光学材料から成るレンズ、プリズム、光伝導ロッド、光学窓、DUVリトグラフィー用光学装置、DUVリトグラフィー用ステッパー、DUVリトグラフィー用エキシマレーザ、集積回路、コンピュータチップ、電子装置、又はプロセッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−107506(P2010−107506A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239989(P2009−239989)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】