説明

光学活性アミノアルコール化合物の製造方法

【課題】高価なキラル還元剤を用いることなく、式(2)


(式中、R、RおよびRは水素原子等を、Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基を、Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基等を、*は光学活性な炭素原子をそれぞれ表わす。)
で示される光学活性アミノアルコール化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】式(1)


(式中、R、R、R、RおよびRは上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性アミド化合物と水素化ホウ素ナトリウムと有機溶媒とを含む混合物中に酸を加えて、式(2)で示される光学活性アミノアルコール化合物を製造する方法であって、酸を加える際の前記混合物中の温度が20℃以下であることを特徴とする式(2)で示される光学活性アミノアルコール化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アミノアルコール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(2)

(式中、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子、置換されていてもよい低級アルキル基またはハロゲン原子を表わす。Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基を表わし、Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基または水素原子を表わす。*は光学活性な炭素原子を表わす。)
で示される光学活性アミノアルコール化合物は、例えば医薬中間体として有用な化合物として知られており(例えば特許文献1参照。)、その製造方法として、メチルケトン体とハロゲン化剤を反応させて、α−ハロケトン体に変換し、次いで(+)−B−クロロジイソピノカンフェニルボラン等のキラル還元剤を作用させて、カルボニル基を還元し、さらに、ベンジルアミン等を作用させる方法が知られている(例えば特許文献1参照。)。しかしながら、かかる方法は、高価なキラル還元剤を用いなければならないという問題があった。
【0003】
【特許文献1】国際公開第02/06232号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況のもと、本発明者らは、高価なキラル還元剤を用いることなく、前記式(2)で示される光学活性アミノアルコール化合物を製造する方法を検討したところ、式(3)

(式中、R、R、Rおよび*は上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性カルボン酸化合物から容易に製造可能な式(1)

(式中、R、R、R、R、Rおよび*は上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性アミド化合物と、安価な還元剤である水素化ホウ素ナトリウムとを混合し、該混合物中の温度が20℃以下に保持しながら、該混合物に酸を加えることにより、式(2)で示される光学活性アミノアルコール化合物が光学純度よく得られることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、式(1)

(式中、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子、置換されていてもよい低級アルキル基またはハロゲン原子を表わす。Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基を表わし、Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基または水素原子を表わす。*は光学活性な炭素原子を表わす。)
で示される光学活性アミド化合物と水素化ホウ素ナトリウムと有機溶媒とを含む混合物中に酸を加えて、式(2)

(式中、R、R、R、R、Rおよび*は上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性アミノアルコール化合物を製造する方法であって、酸を加える際の前記混合物中の温度が20℃以下であることを特徴とする式(2)で示される光学活性アミノアルコール化合物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光学活性アミノアルコール化合物を、高価なキラル還元剤を用いることなく、光学純度よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
式(1)

で示される光学活性アミド化合物(以下、光学活性アミド化合物(1)と略記する。)の式中、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子、置換されていてもよい低級アルキル基またはハロゲン原子を表わし、*は光学活性な炭素原子を表わす。
【0008】
置換されていてもよい低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基および前記アルキル基の一つの水素原子が、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基等の低級アルコキシ基、置換されていてもよいアリール基等の置換基で置換されたものが挙げられる。ここで、置換されていてもよいアリール基としては、例えばフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等およびこれらフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を構成する芳香環の水素原子が、例えば前記低級アルキル基、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたもの、例えば2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−クロロ−2−メトキシフェニル基等が挙げられる。
【0009】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0010】
また、上記式(1)の式中、R4は置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基を表わし、R5は置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基または水素原子を表わす。置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基とは、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4の低級アルキル基であって、該低級アルキル基の1位の炭素原子上に前記置換されていてもよいアリール基を有するものであり、例えばベンジル基、4−メトキシベンジル基、(1−ナフチル)メチル基、(2−ナフチル)メチル基、1−フェニルエチル基、1−(1−ナフチル)エチル基、1−(2−ナフチル)エチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基等が挙げられる。
【0011】
かかる光学活性アミド化合物(1)としては、例えば光学活性N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(2−ピリジル)アセトアミド、光学活性N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド、光学活性N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(4−ピリジル)アセトアミド、光学活性N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(6−クロロ−3−ピリジル)アセトアミド、光学活性N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(6−メチル−3−ピリジル)アセトアミド、光学活性N−(4−メトキシベンジル)−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド、光学活性N−(1−フェニルエチル)−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド、光学活性N−ジフェニルメチル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド、光学活性N,N−ジベンジル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド等が挙げられる。
【0012】
水素化ホウ素ナトリウムの使用量は、光学活性アミド化合物(1)に対して、通常2モル倍以上、好ましくは3モル倍以上であり、その上限は特にないが、あまり多すぎると経済的に不利になりやすいため、実用的には10モル倍以下、好ましくは5モル倍以下である。
【0013】
有機溶媒としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒等の単独または混合溶媒が挙げられ、好ましくはエーテル系溶媒が挙げられる。かかる有機溶媒の使用量は、光学活性アミド化合物(1)に対して、通常0.5重量倍以上、好ましくは2重量倍以上であり、その上限は特にないが、あまり多すぎると容積効率が悪くなるため、実用的には30重量倍以下である。
【0014】
酸としては、例えば三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体等のルイス酸、例えば硫酸等のブレンステッド酸等が挙げられ、ルイス酸が好ましい。かかる酸の使用量は、水素化ホウ素ナトリウムに対して、通常1〜5モル倍である。
【0015】
かかる酸は、光学活性アミド化合物(1)と水素化ホウ素ナトリウムと有機溶媒とを含む混合物中の温度を20℃以下に保持した状態で加えられる。20℃を超えると、光学活性アミド化合物(1)のラセミ化反応が進行しやすくなり、目的とする式(2)

(式中、R、R、R、R、Rおよび*は上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性アミノアルコール化合物(以下、光学活性アミノアルコール化合物(2)と略記する。)の光学純度が低下するため、好ましくない。前記混合物中の温度は20℃以下であればよいが、あまり低すぎると反応の進行が遅くなるため、実用的には、−80℃以上、20℃以下、好ましくは−20℃以上、20℃以下に保持することが好ましい。酸は、前記混合物中の温度が20℃以下に保持可能であれば、一括して加えてもよいし、連続もしくは間欠的に加えてもよい。安全面を考慮すると、連続もしくは間欠的に加えることが好ましい。
【0016】
酸の添加終了後、そのままもしくは反応液を昇温し、所定時間保持した後、例えば反応液と酸、アルカリまたは水を混合し、必要に応じて水に不溶の有機溶媒を加え、分液処理することにより、光学活性アミノアルコール化合物(2)を含む有機層を得ることができる。得られた有機層を濃縮処理することにより、光学活性アミノアルコール化合物(2)を取り出すことができる。反応液を昇温した場合の温度は、通常80℃以下、好ましくは60℃以下である。
【0017】
酸としては、例えば塩化水素、硫酸、リン酸等の鉱酸、例えばメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸等が挙げられ、アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。かかる酸やアルカリはそのまま使用してもよいし、水溶液や有機溶媒溶液として用いてもよい。また、光学活性アミノアルコール化合物(2)を酸付加塩として取り出してもよい。
【0018】
水に不溶の有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、例えばジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒、例えば酢酸エチル等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0019】
取り出した光学活性アミノアルコール化合物(2)は、例えば蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段により、さらに精製してもよい。
【0020】
かくして得られる光学活性アミノアルコール化合物(2)としては、例えば光学活性2−ベンジルアミノ−1−(2−ピリジル)エタノール、光学活性2−ベンジルアミノ−1−(3−ピリジル)エタノール、光学活性2−ベンジルアミノ−1−(4−ピリジル)エタノール、光学活性2−ベンジルアミノ−1−(6−クロロ−3−ピリジル)エタノール、光学活性2−ベンジルアミノ−1−(6−メチル−3−ピリジル)エタノール、光学活性2−(4−メトキシベンジルアミノ)−1−(3−ピリジル)エタノール、光学活性2−(1−フェニルエチルアミノ)−1−(3−ピリジル)エタノール、光学活性2−ジフェニルメチルアミノ−1−(3−ピリジル)エタノール、光学活性2−ジベンジルアミノ−1−(3−ピリジル)エタノール等が挙げられる。
【0021】
なお、光学活性アミド化合物(1)は、例えば式(3)

(式中、R、R、Rおよび*は上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性カルボン酸化合物(以下、光学活性カルボン酸化合物(3)と略記する。)と式(4)

(式中、RおよびRは上記と同一の意味を表わす。)
で示されるアミノ化合物(以下、アミノ化合物(4)と略記する。)を反応させることにより製造することができる。
【0022】
光学活性カルボン酸化合物(3)としては、例えば光学活性2−ヒドロキシ−2−(2−ピリジル)酢酸、光学活性2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)酢酸、光学活性2−ヒドロキシ−2−(4−ピリジル)酢酸、光学活性2−ヒドロキシ−2−(6−クロロ−3−ピリジル)酢酸、光学活性2−ヒドロキシ−2−(6−メチル−3−ピリジル)酢酸等が挙げられる。かかる光学活性カルボン酸化合物(3)は、フリー体を用いてもよいし、例えば硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸との酸付加塩、例えばメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸との酸付加塩を用いてもよい。光学活性カルボン酸化合物(3)の酸付加塩を使用する場合には、予め前記酸付加塩を中和処理した後用いるか、もしくは前記酸付加塩を中和するに足る塩基が併用される。かかる塩基としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン等の有機塩基等が使用され、好ましくは有機塩基が使用される。かかる塩基の使用量は、通常光学活性カルボン酸化合物(3)に対して0.8〜10モル倍、好ましくは0.9〜5モル倍である。
【0023】
かかる光学活性カルボン酸化合物(3)は、例えば特開平8−205878号公報に記載の方法等公知の方法に準じて製造したものを用いてもよい。
【0024】
アミノ化合物(4)としては、例えばベンジルアミン、4−メトキシベンジルアミン、(1−ナフチル)メチルアミン、(2−ナフチル)メチルアミン、1−フェニルエチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン、1−(2−ナフチル)エチルアミン、1,1−ジフェニルメチルアミン、1,1,1−トリフェニルメチルアミン、ジベンジルアミン等が挙げられ、好ましくはベンジルアミン、1−フェニルエチルアミンが用いられる。かかるアミノ化合物(4)の中には不斉炭素原子を有するものが存在するが、本発明には、光学活性なアミノ化合物を用いてもよいし、ラセミのアミノ化合物を用いてもよい。かかるアミノ化合物(4)としては、通常市販されているものが用いられる。なお、アミノ化合物(4)の酸付加塩も使用できるが、アミノ化合物(4)の酸付加塩を使用する場合には、予め酸付加塩を中和処理した後用いるか、もしくは前記酸付加塩を中和するに足る塩基が併用される。
【0025】
アミノ化合物(4)の使用量は、光学活性カルボン酸化合物(3)に対して、通常0.8モル倍以上であり、その上限は特にないが、あまり多すぎると経済的に不利になりやすいため、実用的には10モル倍以下、好ましくは5モル倍以下である。
【0026】
光学活性カルボン酸化合物(3)とアミノ化合物(4)との反応は、通常縮合剤の存在下に実施される。縮合剤としては、例えばN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート、(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート、O−(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート等の公知の縮合剤またはその酸付加塩(例えば丸善株式会社発行,第4版実験化学講座22有機合成IV,258〜262頁等参照。)が挙げられ、好ましくはN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドが挙げられる。かかる縮合剤の中には、例えば塩酸塩等の酸付加塩が存在するものがあり、かかる酸付加塩を用いることもできる。かかる縮合剤の使用量は、光学活性カルボン酸化合物(3)に対して、通常0.5〜10モル倍、好ましくは0.8〜5モル倍である。
【0027】
また、縮合助剤の共存下に反応を実施することにより、反応をよりスムーズに進行させることができる。かかる縮合助剤としては、例えばN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール等の公知の縮合助剤(例えば丸善株式会社発行,第4版実験化学講座22有機合成IV,258〜262頁等参照。)が挙げられ、好ましくは1−ヒドロキシベンゾトリアゾールが挙げられる。光学活性なカルボン酸化合物を用いた場合には、かかる縮合助剤の共存下に反応を実施することが好ましい。なお、かかる縮合助剤の中には、水和物が存在するものがあるが、かかる水和物を用いることもできる。かかる縮合助剤の使用量は、光学活性カルボン酸化合物(3)に対して、通常0.5〜10モル倍、好ましくは0.8〜5モル倍である。
【0028】
光学活性カルボン酸化合物(3)とアミノ化合物(4)の反応は、無溶媒で行ってもよいし、溶媒の存在下に実施してもよい。溶媒としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルコール系溶媒、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒、例えばアセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、例えば酢酸エチル等のエステル系溶媒、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、例えばアセトニトリル等のニトリル系溶媒、水等の単独または混合溶媒が挙げられ、好ましくはエーテル系溶媒が挙げられる。
【0029】
かかる溶媒を使用する場合のその使用量は、光学活性カルボン酸化合物(3)に対して、通常0.5重量倍以上、好ましくは2重量倍以上であり、その上限は特にないが、あまり多すぎると容積効率が悪くなるため、実用的には30重量倍以下である。
【0030】
反応は、通常光学活性カルボン酸化合物(3)、アミノ化合物(4)、縮合剤および必要に応じて縮合助剤を混合することにより実施され、その混合順序は特に制限されない。
【0031】
反応温度は、通常−30〜120℃、好ましくは−20〜80℃である。
【0032】
反応終了後、例えば得られた光学活性アミド化合物(1)を含む反応液と無機塩基の水溶液を混合した後、必要に応じて水に不溶の有機溶媒を加えて抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理することにより、光学活性アミド化合物(1)を取り出すことができる。また、前記有機層をそのままもしくは一部濃縮処理した後、例えば冷却することにより、光学活性アミド化合物(1)を結晶化させ、結晶として取り出すこともできる。取り出した光学活性アミド化合物(1)は、例えば蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段により、さらに精製してもよい。
【0033】
無機塩基としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、水に不溶の有機溶媒としては、前記したものと同様のものが挙げられる。
【0034】
取り出した光学活性アミド化合物(1)は、前記水素化ホウ素ナトリウムとの反応に用いられるが、例えば前記抽出処理して得られる光学活性アミド化合物(1)を含む有機層をそのままもしくは濃縮処理した後、前記還元剤との反応に用いてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、光学純度は、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー法により分析した。
【0036】
参考例1
ベンジルアミン4.4gとテトラヒドロフラン78gとを混合し、内温0℃に調整した。これに、(2R)−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)酢酸・硫酸塩10g、トリエチルアミン5.6g、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩11.5gおよび1−ヒドロキシイミダゾール・水和物8.1gを加えた後、内温22℃で1時間35分攪拌、反応させた。反応終了後、反応液に、水50mL、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mLおよび酢酸エチル200mLを加えて抽出処理し、有機層と水層を得た。水層を酢酸エチルで再度抽出処理し、得られた酢酸エチル層を先に得た有機層に合一した。合一後の有機層を10重量%食塩水、次いで飽和食塩水で洗浄処理した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理した。硫酸ナトリウムを濾別した後、濃縮処理し、濃縮残渣10.7gを得た。濃縮残渣にイソプロパノール29gを加え、内温80℃で30分攪拌、保持した後、内温50℃に冷却した。種晶を加えた後、同温度で1時間25分攪拌、保持した。室温まで冷却した後、n−ヘプタン116gを滴下した。さらに内温0℃まで冷却し、析出結晶を濾取した。濾取した結晶を洗浄、乾燥させ、(2R)−N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド9.3gを得た。光学純度は、100%e.e.であった。
【0037】
実施例1
前記参考例1と同様に実施して得られた(2R)−N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド(光学純度:100%e.e.)22gとテトラヒドロフラン110mLと水素化ホウ素ナトリウム10.3gを混合した。得られた混合物の内温を0℃に調整し、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体51.6gを、前記混合物中の温度が0℃を保つように滴下した。滴下終了後、内温50℃に昇温し、同温度で4時間10分攪拌、反応させた。反応終了後、内温40℃に冷却し、同温度で7.8重量%塩酸水84mLを10分かけて滴下した。その後、内温50℃に昇温し、同温度で1時間攪拌、保持した。酢酸エチル110mLを加え、20重量%水酸化ナトリウム水溶液55gを加えてpH6.4に調整した。内温55℃に昇温し、同温度で30分攪拌後、静置し、有機層と水層に分離した。水層を酢酸エチルで2回抽出処理し、得られた酢酸エチル層を先に得た有機層に合一した。合一後の有機層を濃縮処理し、濃縮残渣132gを得た。濃縮残渣に、テトラヒドロフラン220mLを加えた後、濃縮処理し、濃縮残渣110gを得た。得られた濃縮残渣に、メタノール4.4gおよびテトラヒドロフラン66gを加えた。不溶分を濾別し、テトラヒドロフラン溶液213gを得た。
【0038】
35重量%塩酸水15.1gとテトラヒドロフラン176mLとを混合し、得られた塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液の内温0℃に冷却した。塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液に、前記テトラヒドロフラン溶液45gを滴下し、さらに種晶を加え、内温0℃で30分攪拌、保持した。さらに、前記テトラヒドロフラン溶液168gを滴下し、1時間攪拌、保持した後、析出結晶を濾取、洗浄、乾燥させ、(1R)−2−ベンジルアミノ−1−(3−ピリジル)エタノール・2塩酸塩の水和物17.6gを得た。光学純度は、100%e.e.であった。
【0039】
実施例2
前記参考例1と同様に実施して得られた(2R)−N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド(光学純度:100%e.e.)0.5gとテトラヒドロフラン5mLと水素化ホウ素ナトリウム0.47gを混合した。得られた混合物の内温を20℃に調整し、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体2.3gを、前記混合物中の温度が20℃を保つように滴下した。滴下終了後、内温50℃に昇温し、同温度で4時間攪拌、反応させた。反応終了後、内温40℃に冷却し、同温度で7.8重量%塩酸水3.7mLを10分かけて滴下した。その後、内温50℃に昇温し、同温度で1時間攪拌、保持した。酢酸エチル5mLを加え、20重量%水酸化ナトリウム水溶液2.5gを加えてpH6.5に調整した。内温55℃に昇温し、同温度で30分攪拌後、静置し、有機層と水層に分離した。水層を酢酸エチルで2回抽出処理し、得られた酢酸エチル層を先に得た有機層に合一した。合一後の有機層を濃縮処理し、濃縮残渣6gを得た。濃縮残渣に、テトラヒドロフラン10mLを加えた後、濃縮処理し、濃縮残渣5gを得た。得られた濃縮残渣に、メタノール0.2gおよびテトラヒドロフラン3gを加えた。不溶分を濾別し、テトラヒドロフラン溶液10.2gを得た。
【0040】
35重量%塩酸水0.69gとテトラヒドロフラン8mLとを混合し、得られた塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液の内温0℃に冷却した。塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液に、前記テトラヒドロフラン溶液2gを滴下し、さらに種晶を加え、内温0℃で30分攪拌、保持した。さらに、前記テトラヒドロフラン溶液8.2gを滴下し、1時間攪拌、保持した後、析出結晶を濾取、洗浄、乾燥させ、(1R)−2−ベンジルアミノ−1−(3−ピリジル)エタノール・2塩酸塩の水和物0.91gを得た。光学純度は、98.6%e.e.であった。
【0041】
比較例1
前記参考例1と同様に実施して得られた(2R)−N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド(光学純度:100%e.e.)0.5gとテトラヒドロフラン5mLと水素化ホウ素ナトリウム0.47gを混合した。得られた混合物の内温を30℃に調整し、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体2.3gを、前記混合物中の温度が30℃を保つように滴下した。滴下終了後、内温50℃に昇温し、同温度で4時間攪拌、反応させた。反応終了後、内温40℃に冷却し、同温度で7.8重量%塩酸水3.7mLを10分かけて滴下した。その後、内温50℃に昇温し、同温度で1時間攪拌、保持した。酢酸エチル5mLを加え、20重量%水酸化ナトリウム水溶液2.5gを加えてpH6.5に調整した。内温55℃に昇温し、同温度で30分攪拌後、静置し、有機層と水層に分離した。水層を酢酸エチルで2回抽出処理し、得られた酢酸エチル層を先に得た有機層に合一した。合一後の有機層を濃縮処理し、濃縮残渣6gを得た。濃縮残渣に、テトラヒドロフラン10mLを加えた後、濃縮処理し、濃縮残渣5gを得た。得られた濃縮残渣に、メタノール0.2gおよびテトラヒドロフラン3gを加えた。不溶分を濾別し、テトラヒドロフラン溶液10.2gを得た。
【0042】
35重量%塩酸水0.69gとテトラヒドロフラン8mLとを混合し、得られた塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液の内温0℃に冷却した。塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液に、前記テトラヒドロフラン溶液2gを滴下し、さらに種晶を加え、内温0℃で30分攪拌、保持した。さらに、前記テトラヒドロフラン溶液8.2gを滴下し、1時間攪拌、保持した後、析出結晶を濾取、洗浄、乾燥させ、(1R)−2−ベンジルアミノ−1−(3−ピリジル)エタノール・2塩酸塩の水和物0.85gを得た。光学純度は、91.6%e.e.であった。
【0043】
実施例3
前記参考例1と同様に実施して得られた(2R)−N−ベンジル−2−ヒドロキシ−2−(3−ピリジル)アセトアミド(光学純度:100%e.e.)0.5gとテトラヒドロフラン5mLと水素化ホウ素ナトリウム0.47gを混合した。得られた混合物の内温を20℃に調整し、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体2.3gを、前記混合物中の温度が−78℃を保つように滴下した。滴下終了後、内温50℃に昇温し、同温度で4時間攪拌、反応させた。反応終了後、内温40℃に冷却し、同温度で7.8重量%塩酸水3.7mLを10分かけて滴下した。その後、内温50℃に昇温し、同温度で1時間攪拌、保持した。酢酸エチル5mLを加え、20重量%水酸化ナトリウム水溶液2.5gを加えてpH6.5に調整した。内温55℃に昇温し、同温度で30分攪拌後、静置し、有機層と水層に分離した。水層を酢酸エチルで2回抽出処理し、得られた酢酸エチル層を先に得た有機層に合一した。合一後の有機層を濃縮処理し、濃縮残渣6gを得た。濃縮残渣に、テトラヒドロフラン10mLを加えた後、濃縮処理し、濃縮残渣5gを得た。得られた濃縮残渣に、メタノール0.2gおよびテトラヒドロフラン3gを加えた。不溶分を濾別し、テトラヒドロフラン溶液10.2gを得た。
【0044】
35重量%塩酸水0.69gとテトラヒドロフラン8mLとを混合し、得られた塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液の内温0℃に冷却した。塩酸水/テトラヒドロフラン混合溶液に、前記テトラヒドロフラン溶液2gを滴下し、さらに種晶を加え、内温0℃で30分攪拌、保持した。さらに、前記テトラヒドロフラン溶液8.2gを滴下し、1時間攪拌、保持した後、析出結晶を濾取、洗浄、乾燥させ、(1R)−2−ベンジルアミノ−1−(3−ピリジル)エタノール・2塩酸塩の水和物0.97gを得た。光学純度は、100%e.e.であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

(式中、R、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子、置換されていてもよい低級アルキル基またはハロゲン原子を表わす。Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基を表わし、Rは置換されていてもよいアリール基を1位の炭素原子上に有する低級アルキル基または水素原子を表わす。*は光学活性な炭素原子を表わす。)
で示される光学活性アミド化合物と水素化ホウ素ナトリウムと有機溶媒とを含む混合物中に酸を加えて、式(2)

(式中、R、R、R、R、Rおよび*は上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性アミノアルコール化合物を製造する方法であって、酸を加える際の前記混合物中の温度が20℃以下であることを特徴とする式(2)で示される光学活性アミノアルコール化合物の製造方法。
【請求項2】
酸が、ルイス酸である請求項1に記載の光学活性アミノアルコール化合物の製造方法。
【請求項3】
ルイス酸が、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体である請求項2に記載の光学活性アミノアルコール化合物の製造方法。
【請求項4】
混合物中の温度が、−80℃以上、20℃以下である請求項1に記載の光学活性アミノアルコール化合物の製造方法。
【請求項5】
式(1)で示される光学活性アミド化合物が、式(3)

(式中、R、R、Rおよび*は上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性カルボン酸化合物と式(4)

(式中、RおよびRは上記と同一の意味を表わす。)
で示されるアミノ化合物とを反応させて得られる光学活性アミド化合物である請求項1に記載の光学活性アミノアルコール化合物の製造方法。
【請求項6】
縮合剤の共存下に、式(3)で示される光学活性カルボン酸化合物と式(4)で示されるアミノ化合物とを反応させる請求項5に記載の光学活性アミノアルコール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−265131(P2006−265131A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83208(P2005−83208)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】