説明

光学活性アルコールの製造方法

本発明は、式(I)の光学活性アルコールを、対応するケトンの酵素的還元を用いて製造する方法に関し、特に(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-プロパン-1-オールおよび(1S)-3-クロロ-1-(2-チエニル)-プロパン-1-オールの製造に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アルカノールを製造する方法であって、対応するケトンを酵素的に還元することによる方法、特に(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オールおよび(1S)-3-クロロ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オール(「デュロキセチン(Duloxetine)アルコール」)はデュロキセチン合成におけるビルディングブロックである。デュロキセチン(Duloxetine(登録商標))は、現在、認可段階の、うつ病および失禁分野の適応における使用が意図される薬物である。
【0003】
EP-B-0273658では、デュロキセチンに対応する塩基を製造する方法であって、2-アセチルチオフェンをホルムアルデヒドおよびジメチルアミンとマンニッヒ反応で反応させ、得られたマンニッヒ塩基のケト基を還元してラセミ(S)-3-N,N-ジメチルアミノ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールを生じさせ、ナフチルフルオライドでそのアルコール官能基をエーテル化し、そして最後にそのジメチルアミノ基をメチルアミノ官能基に変換することによる方法が記載されている。所望のナフチルエーテルエナンチオマーは、キラル出発材料を使用して、あるいは、最終産物の段階で(例えば光学活性酸を使用する塩またはキラル固定相でのクロマトグラフィーによって)ラセミ化合物を分割することによって、取得される。
【0004】
US-5,362,886では、ケト基の還元後に得られるラセミプロパノールにS-マンデル酸を加える工程を含む類似の方法が記載されている。この方法で得られる該アルコールのSエナンチオマーは、以後の反応段階において使用される。
【0005】
EP-A-0457559では、EP-B-0273658のものと類似の方法が同様に記載されている。この方法では、不斉還元系LAH-lcb (水素化アルミニウムリチウム[(2R,2S)-(-)-4-ジメチルアミノ-1,2-ジフェニル-3-メチル-2-ブタノール])を使用することによって、マンニッヒ塩基のケト基を、Sエナンチオマー型のアルコールへと還元する。この方法の欠点は、コストに加えて、数分間しか安定でないLAH-lcb還元系の感度である。
【0006】
W. J. Wheeler and F. Kuo, in Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals, volume XXXVI, No. 3, 213〜223頁には、デュロキセチンの製造方法が記載されている。この目的を達成するために、DMPU (ジメチルプロピレン尿素)中の触媒量のベンジルクロロ-ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)の存在下で、チオフェン-2-カルボニルクロライドをビニルトリ-n-ブチルスタンナンとStilleカップリングで反応させて、式(V):
【化1】

の1-(チエン-2-イル)プロペノンを生じさせ、次いで、それを塩化水素で処理することによって式(VI):
【化2】

の3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オンに変換する。
【0007】
このようにして得られたクロロプロパノンを、次いで、キラルオキサザボリリジンおよびBH3を使用して還元し、式(VII):
【化3】

の(S)-3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールを生じさせる。
【0008】
このようにして得られたアルコールを、ヨウ化ナトリウムおよび次いでメチルアミンと逐次的に反応させることによって、(S)-3-メチルアミノ-1-(チエン-2-イル)-プロパン-1-オールに変換する。以後の水素化ナトリウム、1-フルオロナフタレンおよび塩化水素との逐次反応により、塩酸塩の形態のデュロキセチンが生成される。
【化4】

【0009】
T. Stillger et al., in Chemie Ingenieur Technik (74) 1035〜1039頁, 2002には、5-オキソヘキサン酸エチルを酵素的かつエナンチオ選択的に還元して(S)-5-ヒドロキシヘキサン酸エチルを生じさせるための、基質共役型補因子の再生方法が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の要旨:
従って、本発明の目的は、置換アルカノン、例えば3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパノンおよび3-クロロ-1-(2-チエニル)プロパノンを立体特異的に還元する方法を見出すことであり、該反応方法は、安価な様式でかつできるだけ定量的に産物を生成するものであることが意図された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素、特にAzoarcus属の微生物から調製可能なそのような酵素が、同時に補因子再生を行いながら、上記反応を立体特異的に触媒できるという驚くべき知見によって達成された。
【0012】
本発明は、まず、式I:
【化5】

[式中
nは0〜5の整数であり;
Aは、場合により置換されている分岐または非分岐C1〜C5アルキル基または「Cyc」基であり、
Cycは、場合により置換されている、単核または多核の、飽和または不飽和の、炭素環式または複素環式の環であり、ならびに
R1は、ハロゲン、SH、OH、NO2、NR2R3またはNR2R3R4+X-であり、ここでR2、R3およびR4は互いに独立して水素または低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンである]
の光学活性アルカノールを製造する方法であって、式II:
【化6】

[式中、n、AおよびR1は上記定義の通りである]
のアルカノールを含む媒体中で、還元等価体(reduction equivalent)の存在下で、デヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼおよびカルボニルレダクターゼのクラスから選択される酵素(E)をインキュベートし、その際、式IIの化合物は酵素的に還元されて式Iの化合物を生じ、かつ該反応中に消費された還元等価体は、酵素(E)の働きにより対応するドナーケトンを生じるドナーアルコールを反応させることによって再生され、該ドナーケトンは少なくとも部分的に反応媒体から除去される工程、および生成された生成物(I)を単離する工程を含む、前記方法に関する。
【0013】
本発明に適している酵素(E)は、特に、アルド-ケトレダクターゼのファミリー、アルド-ケトレダクターゼスーパーファミリー(K.M. Bohren, B. Bullock, B. Wermuth and K.H. Gabbay J.Biol. Chem. 1989, 264, 9547-9551)、および短鎖アルコールデヒドロゲナーゼ/レダクターゼ(SDR)のファミリーの酵素である。後者の酵素群は、例えば、H. Jornvall, B. Persson, M. Krook, S. Atrian, R. Gonzalez-Duarte, J. Jeffery and D. Gosh, Biochemistry, 1995, 34, pp. 6003-6013またはU. Oppermann, C. Filling, M. Hult, N. Shafquat, X.Q. Wu, M. Lindh, J. Shafquat, E. Nordling, Y. Kallberg, B. Persson and H. Jornvall, Chemico-Biological Interactions, 2003, 143, pp. 247-253に詳細に記載されている。
【0014】
これらの上記酵素クラスのうち、短鎖アルコールデヒドロゲナーゼは特によく適している。
【0015】
本発明の特に好適な実施形態は、上述の方法における酵素(E)の使用であり、その際、Eは以下のポリペプチド配列:
(i) 配列番号2、または
(ii) 配列番号2と比較して、25%までのアミノ酸残基が欠失、挿入、置換またはそれらの組み合わせによって改変されていて、かつ配列番号2の酵素活性の少なくとも50%を保持するポリペプチド配列
を有する。
【0016】
特に好ましい実施形態では、該方法を、式III:
【化7】

[式中、R1 = ClまたはNHCH3]
の1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールの誘導体の製造に使用するが、その場合、式IV:
【化8】

の1-(2-チエニル)プロパノンの誘導体を含む媒体中で、この化合物が酵素的に還元されて式IIIの化合物を生じ、そして生成された本質的に鏡像異性的に純粋な生成物が単離される。
【0017】
この方法では、Azoarcus、Azonexus、Azospira、Azovibrio、Dechloromonas、Ferribacterium、Petrobacter、Propionivibrio、Quadricoccus、Rhodocyclus、Sterolibacterium、ThaueraおよびZoogloea属の微生物から調製できるデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を使用することが好ましい。
【0018】
特に好ましいのは、Azoarcus属の種のデヒドロゲナーゼである。
【0019】
Azoarcus sp. EbN1のフェニルエタノール-デヒドロゲナーゼは、そのアミノ酸配列に基づき、短鎖アルコールデヒドロゲナーゼ/レダクターゼ(SDR)に含めることができる。該酵素群は、例えば、H. Jornvall, B. Persson, M. Krook, S. Atrian, R. Gonzalez-Duarte, J. Jeffery and D. Gosh, Biochemistry, 1995, 34, pp. 6003-6013またはU. Oppermann, C. Filling, M. Hult, N. Shafquat, X.Q. Wu, M. Lindh, J. Shafquat, E. Nordling, Y. Kallberg, B. Persson and H. Jornvall, Chemico-Biological Interactions, 2003, 143, pp. 247-253に詳細に記載されている。SDR群内で、個々の代表例のアミノ酸配列同士は互いに大きく異なっていることがある。それにもかかわらず、特定のアミノ酸またはアミノ酸領域は、SDR群内で高度に保存されていることが知られている。C. Filling, K.D. Berndt, J. Benach, S. Knapp, T. Prozorovski, E. Nordling, R. Ladenstein, H. Jornvall and U. Oppermann, Journal of Biological Chemistry, 2002, 277, pp. 25677-25684には、重要な保存SDR領域が記載されている。
【0020】
Azoarcus属種の例としては、Azoarcus anaerobius、Azoarcus buckelii、Azoarcus communis、Azoarcus evansii、Azoarcus indigens、Azoarcus toluclasticus、Azoarcus tolulyticus、Azoarcus toluvorans、Azoarcus sp.、Azoarcus sp. 22Lin、Azoarcus sp. BH72、Azoarcus sp. CC-11、Azoarcus sp. CIB、Azoarcus sp. CR23、Azoarcus sp. EB1、Azoarcus sp. EbN1、Azoarcus sp. FL05、Azoarcus sp. HA、Azoarcus sp. HxN1、Azoarcus sp. mXyN1、Azoarcus sp. PbN1、Azoarcus sp. PH002、Azoarcus sp. TおよびAzoarcus sp. ToN1がある。
【0021】
特に好ましいのは、Azoarcus sp.(アゾアルカス・エスピー)EbN1デヒドロゲナーゼを使用することである。
【0022】
該方法の特に好ましい実施形態では、デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素は、配列番号2に記載のアミノ酸配列、またはそれ由来の配列であって配列番号2と比較して25%まで、好ましくは20%まで、特に好ましくは15%まで、特に10、9、8、7、6、5、4、3、2、1%までのアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または、欠失、置換および挿入の組み合わせによって改変されており、かつ該改変されたポリペプチド配列が配列番号2の酵素活性の少なくとも50%、好ましくは65%、特に好ましくは80%、特に90%を超える活性を保持している配列を含む酵素の中から選択される。これに関して、配列番号2の酵素活性とは、式(IV) [式中、R1 = Cl]のケトンをエナンチオ選択的様式で還元し、一般式(III)の(S)アルコールを生じさせる能力を意味するものとする。酵素活性を測定するための厳密な条件は実施例3および4で述べる。
【0023】
本発明の方法は、還元等価体、特にNADHまたはNADPHを加えて実行される。反応で消費された還元等価体は、ドナーアルコール、好ましくはイソプロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノールを用いて再生され、またそのドナーアルコールは反応条件下で酵素(E)によって酸化されて、対応するドナーケトンを生じる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、加えられたドナーアルコールは、消費された還元等価体の再生に使用されるだけでなく、共溶媒として使用される。液体2相系として機能することが好ましく、その場合、一方の相は水または水混和性溶媒からなり、他方の相は該ドナーアルコールからなる。使用するのが好ましいドナーアルコールは2-ペンタノールである。
【0025】
還元等価体は、好ましくは、使用されるアルカノン(II) 1モルあたり還元等価体0.001〜100 mmol、特に好ましくは0.01〜1 mmolの量で使用される。
【0026】
本発明の方法には、消費された還元等価体の再生時にドナーアルコールの酸化によって生成されたドナーケトンを、少なくとも部分的に、反応混合物から除去する工程が含まれる。生成されたドナーケトンを反応媒体から完全に除去することが好ましい。これは、種々の方法で、例えば選択的メンブレンを通すか、あるいは抽出または蒸留法を用いて実行することができる。蒸留を使用して該ケトンを除去することが好ましい。蒸留による該ケトンの除去により、通常、ドナーアルコールの一部および、時には、水相の一部さえも除去される。これらの蒸留による損失は、通常、追加量のドナーアルコールおよび、適切であれば、水を測り取ることによって補填される。蒸留の速度は、反応容量に応じて、0.02%/分〜2%/分、好ましくは0.05%/分〜1%/分の範囲である。反応容器のジャケット温度は5〜70ケルビンの範囲、好ましくは10〜40ケルビンの範囲であり、反応容器の内部温度より高い。
【0027】
蒸留は、1〜500 mbar、好ましくは10〜200 mbarの圧力範囲で特に良好に実行される。
【0028】
好ましい実施形態では、一般式IIの化合物、例えば式IVの化合物を、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、リゾビウム科(Rhizobiaceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、ストレプトミセス科(Streptomycetaceae)、ロドコッカス科(Rhodococcaceae)およびノカルジア科(Nocardiaceae)の細菌から選択される微生物の存在下で反応させる。該微生物は、特に、上記で規定したデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸構築物により形質転換されている組換え微生物であってよい。
【0029】
本発明は、特に
- 天然供給源由来のデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を生産する微生物を単離するか、あるいは組換え的に製造すること、
- 該微生物を増殖させること、
- 適切であれば、該微生物から該デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素を単離するか、あるいは該酵素を含むタンパク質画分を調製すること、および
- 工程b)に記載の微生物または工程c)に記載の酵素を、式Iの化合物を含む媒体に移すこと
に関する。
【0030】
本発明は、さらに、上記で規定したポリペプチドをコードする配列を含むコード化核酸配列に関する。
【0031】
本発明は、さらにまた、上記で規定したコード化核酸配列を含む発現カセットであって、少なくとも1個の調節核酸配列に作動可能に連結されている該コード化核酸配列に関する。
【0032】
本発明は、さらに、少なくとも1個のそのような発現カセットを含む組換えベクターに関する。
【0033】
本発明は、また、少なくとも1個の本発明のベクターを用いて形質転換されている原核生物または真核生物宿主に関する。
【0034】
最後に、本発明は、式IまたはIIIの化合物を製造するための、上記で規定したデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素または該酵素を生産する微生物の使用、および、そのさらなる加工方法、例えばデュロキセチン(式VIII):
【化9】

を製造するための方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
発明の詳細な説明:
A. 一般的用語および定義
特に記載しない限り、以下の一般的意味が適用される:
「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードであり、特にフルオロまたはクロロである。
【0036】
「低級アルキル」とは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基であり、例えばメチル、エチル、イソプロピルまたはn-プロピル、n-、イソ-、sec-またはtert-ブチル、n-ペンチルまたは2-メチルブチル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-エチルブチルである。
【0037】
「低級アルケニル」とは、2〜6個の炭素原子を有する、上述のアルキル基の一価または多価の、好ましくは一価または二価の、不飽和類似体であり、その二重結合は炭素鎖の任意の位置にあってよい。
【0038】
「低級アルコキシ」とは、上述のアルキル基の酸素終端類似体である。
【0039】
「アリール」とは、単核または多核の、好ましくは単核または二核の、場合により置換されている芳香族基であり、特に、任意の環位置を介して結合しているフェニルまたはナフチル、例えば1-または2-ナフチルである。これらのアリール基は、適切であれば、上記定義のハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、またはトリフルオロメチルから選択される1または2個の同一または異なる置換基を保持してもよい。
【0040】
置換アルカノン、(S)-アルカノールおよびその誘導体
本発明に従って酵素触媒反応によって入手可能なアルカノールは、上記式(I) [式中
nは0〜5の整数であり;
Aは、場合により置換されている分岐または非分岐C1〜C6アルキル基または「Cyc」基であり、
Cycは、場合により置換されている、単核または多核の、飽和または不飽和の、炭素環式または複素環式の環であり、ならびに
R1は、ハロゲン、SH、OH、NO2、NR2R3またはNR2R3R4+X-であり、ここでR2、R3およびR4は互いに独立して水素または低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンである]
のアルカノールである。
【0041】
酵素的合成に使用される上記式IIのアルカノンはそれ自体公知の化合物であり、周知の有機合成法(例えばEP-A-0 273 658を参照のこと)を適用することによって入手可能である。
【0042】
上記化合物では、nは好ましくは0、1または2であり、特に1である。
【0043】
Aと呼ばれ得るものの例は、特に、1、2、3、および4個の炭素原子を有するアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n-およびイソ-プロピル、n-、イソ-およびtert-ブチルである。
【0044】
A基は、さらにまた、単または多置換型、例えば単または二置換型であってよい。好適な置換基の例は、ハロゲン、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルコキシ、-OH、-SH、-NO2またはNR2R3 [式中、R2およびR3は上記定義の通りである]であり、好ましくはハロゲンまたは低級アルキルである。
【0045】
Cycと呼ばれ得る炭素環式基および複素環式基の例は、特に、O、NおよびSから選択される4個までの、好ましくは1または2個の、同一または異なる環ヘテロ原子を有する、単核または二核の、好ましくは単核の基である。
【0046】
これらの炭素環式環または複素環式環は、特に3〜12個、好ましくは4、5または6個の、環炭素原子を含む。その例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、それらの一価または多価不飽和類似体、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル; およびさらに、O、NおよびSから選択される1〜4個のヘテロ原子を有する5〜7員の飽和または一価もしくは多価不飽和複素環式基と称され得るものであり、該複素環は、適切であれば、別の複素環または炭素環と縮合していてもよい。特に、ピロリジン、テトラヒドロフラン、ピペリジン、モルホリン、ピロール、フラン、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピラン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、クマロン、インドールおよびキノリンから誘導された複素環式基が挙げられる。
【0047】
この場合、Cyc基は、任意の環位置を介して、好ましくは環炭素原子を介して、該アルカノンまたはアルカノールと結合していてよい。
【0048】
好適なCyc基の例は、2-チエニル、3-チエニル; 2-フラニル、3-フラニル; 2-ピリジル、3-ピリジルまたは4-ピリジル; 2-チアゾリル、4-チアゾリルまたは5-チアゾリル; 4-メチル-2-チエニル、3-エチル-2-チエニル、2-メチル-3-チエニル、4-プロピル-3-チエニル、5-n-ブチル-2-チエニル、4-メチル-3-チエニル、3-メチル-2-チエニル; 3-クロロ-2-チエニル、4-ブロモ-3-チエニル、2-ヨード-3-チエニル、5-ヨード-3-チエニル、4-フルオロ-2-チエニル、2-ブロモ-3-チエニル、および4-クロロ-2-チエニルである。
【0049】
Cyc基は、さらにまた、単または多置換型、例えば単または二置換型であってよい。置換基は好ましくは環炭素原子上に位置する。好適な置換基の例は、ハロゲン、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルコキシ、-OH、-SH、-NO2またはNR2R3 (式中、R2およびR3は上記定義の通りである)であり、好ましくはハロゲンまたは低級アルキルである。
【0050】
R1 は特にハロゲン、NR2R3またはNR2R3R4+X-であり、その場合、R2、R3 および、それぞれ、R2、R3 およびR4は互いに独立して水素または低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、かつX-は対イオンであり、好ましくはR2、R3 およびR4基のいずれかは水素である。好適な対イオンの例は酸アニオンであり、例えば酸付加塩の調製時に生産される酸アニオンである。その例は、例えば、本明細書で参照するEP-A-0 273 658中に記載されている。R1基の好ましい例は、特にフルオロまたはクロロ、およびNR2R3 [式中、R2およびR3は同一であるか、あるいは異なり、水素またはメチル、エチルまたはn-プロピルである]であり; R1は特に好ましくはクロロまたは-NHメチルである。
【0051】
C. デヒドロゲナーゼ活性を有する好適な酵素
デヒドロゲナーゼ活性を有する好ましい酵素は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む。
【0052】
本発明は、同様に、具体的に開示したデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素の「機能的等価物」および本発明の方法におけるこれらの使用を含む。
【0053】
本発明の内容において、具体的に開示した酵素の「機能的等価物」または類似体とは、例えば、これらの酵素と異なるが、所望の生物学的活性、例えば基質特異性を依然として有するポリペプチドである。ゆえに、「機能的等価物」とは、例えば、3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オンを還元して対応するSアルコールにするものであって、かつ、配列番号2に示したアミノ酸配列を有する酵素の活性の少なくとも50%、好ましくは60%、特に好ましくは75%、特に非常に好ましくは90%の、を有する酵素を意味する。機能的等価物は、また、好ましくはpH 4〜10の範囲で安定であり、好都合には、pH 5〜8の範囲で最適pHおよびさらに20℃〜80℃の範囲で最適温度を有する。
【0054】
本発明では、「機能的等価物」とは、さらに、特に、上述のアミノ酸配列の少なくとも1個の配列位置において具体的に記載されたアミノ酸以外のアミノ酸を有するが、それにもかかわらず上述の生物学的活性の1つを有している突然変異体を意味する。ゆえに「機能的等価物」は、1個以上のアミノ酸付加、アミノ酸置換、アミノ酸欠失および/またはアミノ酸反転(inversion)によって取得可能な突然変異体を含み、そのような改変は、それらが本発明の特性プロファイルを有する突然変異体を生じさせる限り、任意の配列位置で生じるものであってよい。機能的等価性は、特に、突然変異ポリペプチドと未改変ポリペプチドの反応性パターンが定性的に一致する場合、すなわち例えば同一の基質が異なる速度で変換される場合にも存在する。
【0055】
好適なアミノ酸置換の例は以下の表に見出すことができる。
【0056】

【0057】
本発明では、「機能的等価物」とは、また、特に、上述のアミノ酸配列の少なくとも1個の配列位置において具体的に記載されたアミノ酸以外のアミノ酸を有するが、それにもかかわらず上述の生物学的活性の1つを有している突然変異体を意味する。ゆえに「機能的等価物」は、1個以上のアミノ酸付加、アミノ酸置換、アミノ酸欠失および/またはアミノ酸反転によって取得可能な突然変異体を含み、そのような改変は、それらが本発明の特性プロファイルを有する突然変異体を生じさせる限り、任意の配列位置で生じるものであってよい。機能的等価性は、特に、突然変異ポリペプチドと未改変ポリペプチドの反応性パターンが定性的に一致する場合、すなわち例えば同一の基質が異なる速度で変換される場合にも存在する。
【0058】
上記意味における「機能的等価物」は、上記ポリペプチドの「前駆体」でもあり、該ポリペプチドの「機能的誘導体」および「塩」でもある。
【0059】
この内容において、「前駆体」とは、所望の生物学的活性を有するか、あるいは有さない、ポリペプチドの天然または合成の前駆体である。
【0060】
表現「塩」とは、本発明のタンパク質分子のカルボキシル基の塩およびアミノ基の酸付加塩の両者を意味する。カルボキシル基の塩は、それ自体公知の様式で調製することができ、それには、無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄および亜鉛塩ならびに有機塩基塩、例えば、トリエタノールアミン、アルギニン、リシン、ピペリジン等のアミンの塩が含まれる。本発明は、同様に、酸付加塩、例えば、塩酸または硫酸等の無機酸の塩、および酢酸およびシュウ酸等の有機酸の塩に関する。
【0061】
本発明のポリペプチドの「機能的誘導体」は、同様に、機能的アミノ酸側鎖またはそれらのN末端またはC末端で、公知の技術を使用して調製してよい。この種の誘導体には、例えば、カルボン酸基の脂肪族エステル、カルボン酸基のアミド(該アミドはアンモニアまたは一級もしくは二級アミンと反応させることによって取得される); 遊離アミノ基のN-アシル誘導体(該誘導体はアシル基と反応させることによって調製される); または遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体(該誘導体はアシル基と反応させることによって調製される)が含まれる。
【0062】
「機能的等価物」にはまた、天然に、他の生物から入手可能なポリペプチドおよびさらに天然に存在する変異体が含まれる。例えば、配列比較によって相同配列領域の範囲を確定することができ、本発明の具体的指針に基づいて等価な酵素を決定することができる。
【0063】
「機能的等価物」には、同様に、本発明のポリペプチドの断片、好ましくは個々のドメインまたは配列モチーフ、が含まれ、該断片は、例えば、所望の生物学的機能を有する。
【0064】
「機能的等価物」とは、さらに、上述のポリペプチド配列またはそれから誘導された機能的等価物のうちいずれかと、機能上それと異なる少なくとも1個の追加の異種配列であってN末端またはC末端に機能的に連結されてた(すなわち該融合タンパク質部分の、いかなる実質的な相互機能的障害を伴わない)該配列を含有する融合タンパク質である。そのような異種配列の非限定的な例は、例えばシグナルペプチドまたは酵素である。
【0065】
本発明に含まれる「機能的等価物」は、具体的に開示されているタンパク質のホモログである。該ホモログは、具体的に開示されているアミノ酸配列の1種と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、特に少なくとも85%、例えば90%、95%または99%のホモロジーを有する。該ホモロジーは、Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad, Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムを使用して算出される。本発明の相同ポリペプチドについてのホモロジー・パーセンテージは、特に、本明細書中で具体的に記載されている任意のアミノ酸配列の全長に対するアミノ酸残基の同一性パーセンテージである。
【0066】
タンパク質グリコシル化がありうる場合、本発明の「機能的等価物」は、脱グリコシル化またはグリコシル化形態およびさらに、グリコシル化パターンを改変することによって取得できる改変形態の上記タイプのタンパク質を含む。
【0067】
本発明のタンパク質またはポリペプチドのホモログは、突然変異誘発によって、例えばタンパク質のポイントミューテーションまたはトランケーションによって作製してよい。
【0068】
本発明のタンパク質のホモログは、例えばトランケーション突然変異体等の突然変異体のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定してよい。例えば、核酸レベルでのコンビナトリアル突然変異誘発によって、例えば合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素的にライゲーションすることによって、タンパク質変異体の多様なライブラリーを作製してもよい。縮重オリゴヌクレオチド配列からのホモログ候補のライブラリーの調製に使用できる多数の方法が存在する。縮重遺伝子配列は、DNA合成機で化学合成することができ、次いで合成遺伝子を好適な発現ベクター中にライゲートすることができる。縮重セットの遺伝子を使用すると、所望のセットの可能性のあるタンパク質配列をコードするすべての配列を混合物として調製することが可能になる。縮重オリゴヌクレオチドの合成方法は当業者に公知である(例えばNarang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakura et al. (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakura et al., (1984) Science 198:1056; Ike et al. (1983) Nucleic Acids Res. 11:477)。
【0069】
ポイントミューテーションまたはトランケーションによって調製されたコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングするため、および選択された特性を有する遺伝子産物に関してcDNAライブラリーをスクリーニングするための、複数の技術が、先行技術において公知である。これらの技術は、本発明のホモログのコンビナトリアル突然変異誘発によって作製された遺伝子ライブラリーの高速スクリーニング用に適合させることができる。ハイスループット解析の対象とする大規模遺伝子ライブラリーをスクリーニングするために最も頻繁に使用される技術は、遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクター中にクローニングし、得られたベクターライブラリーで適切な細胞を形質転換し、そして、所望の活性の検出によって検出された産物の遺伝子をコードするベクターの単離が容易になる条件下で、コンビナトリアル遺伝子を発現させることを含む。ライブラリー中の機能的突然変異体の頻度を増加させる技術である帰納的集合突然変異誘発(REM)をスクリーニング試験と組み合わせて使用して、ホモログを同定してもよい(Arkin and Yourvan (1992) PNAS 89:7811-7815; Delgrave et al. (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0070】
D. デヒドロゲナーゼをコードする核酸配列
本発明は、特に、本発明のデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列、例えばcDNAおよびmRNA)に関する。例えば配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその特徴的部分配列をコードするか、あるいは配列番号1に記載の核酸配列またはその特徴的部分配列を含む、核酸配列が好ましい。
【0071】
本明細書中に記載のすべての核酸配列は、それ自体公知の様式で、例えば個々の重複する、二重らせんの相補的核酸ビルディングブロックの断片縮合を用いて、ヌクレオチドビルディングブロックから化学合成することによって調製することができる。オリゴヌクレオチドは、例えば、公知の様式で、ホスホアミダイト法を使用して化学合成することができる(Voet, Voet, 2nd edition, Wiley Press New York, pages 896-897)。DNAポリメラーゼクレノウ断片およびライゲーション反応を用いた合成オリゴヌクレオチドの組み立てとギャップの穴埋め、およびさらに一般的クローニング法は、Sambrook et al. (1989), Molecular Cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
【0072】
本発明は、また、上記ポリペプチドおよび、例えば人工ヌクレオチド類似体を使用して取得できるそれらの機能的等価物、のいずれかをコードする核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列、例えばcDNAおよびmRNA)に関する。
【0073】
本発明は、本発明のポリペプチドまたはタンパク質をコードするか、あるいはその生物活性部分をコードする単離された核酸分子および、例えば本発明のコード化核酸を同定または増幅するためのハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーとして使用しうる、核酸断片の両者に関する。
【0074】
本発明の核酸分子は、さらに、コード化遺伝子領域の3'および/または5'末端由来の非翻訳配列を含んでよい。
【0075】
本発明は、さらにまた、具体的に記載されているヌクレオチド配列に相補的な核酸分子、またはその一部分を含む。
【0076】
本発明のヌクレオチド配列によって、他の細胞タイプおよび生物における相同配列の同定および/またはクローニングに使用できるプローブおよびプライマーを作製することが可能になる。この種のプローブおよびプライマーは、通常、「ストリンジェントな」条件(下記参照)下で、本発明の核酸配列のセンス鎖または対応するアンチセンス鎖の少なくとも約12個、好ましくは少なくとも約25個、例えば約40、50または75個連続したヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含む。
【0077】
「単離された」核酸分子とは、該核酸の天然供給源中に存在する他の核酸分子から分離して取り出されていて、さらに、組換え技術を用いて調製された場合には、他の細胞材料または培養培地を本質的に含まないものでありうるし、あるいは化学合成された場合には、化学前駆体または他の化学物質を含まないものでありうる。
【0078】
本発明の核酸分子は、標準的な分子生物学的技術および本発明に従って提供される配列情報を用いて単離してよい。例えば、具体的に開示されている完全な配列またはその一部分のうち1つをハイブリダイゼーションプローブとして使用し、かつ標準的ハイブリダイゼーション技術(例えばSambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている)を使用することにより、好適なcDNAライブラリーからcDNAを単離してもよい。さらに、開示された配列またはその一部分のいずれかを含む核酸分子は、ポリメラーゼ連鎖反応および、この配列に基づいて構築されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用して単離することができる。このようにして増幅した核酸を好適なベクター中にクローニングし、DNA配列解析によって特徴付けすることができる。本発明のオリゴヌクレオチドは、また、例えば自動DNA合成機を使用する、標準的合成方法によって調製してもよい。
【0079】
本発明の核酸配列は、基本的に任意の生物から同定および単離することができる。好都合には、本発明の核酸配列またはそのホモログは、真菌、酵母、古細菌または細菌から単離することができる。細菌はグラム陰性菌およびグラム陽性菌と呼ばれうるものである。本発明の核酸は、好ましくは、グラム陰性菌から、好都合にはα-プロテオバクテリア、β-プロテオバクテリアまたはγ-プロテオバクテリアから、特に好ましくはバークホルデリア目(Burkholderiales)、ヒドロゲノフィルス目(Hydrogenophilales)、メチロフィルス目(Methylophilales)、ナイセリア目(Neisseriales)、ニトロソモナス目(Nitrosomonadales)、プロカバクター目(Procabacteriales)またはロドシクルス目(Rhodocyclales)の細菌から、特に非常に好ましくはロドシクルス科(Rhodocyclaceae)の細菌から、特に好ましくはAzoarcus属から、特に好ましくはAzoarcus anaerobius、Azoarcus buckelii、Azoarcus communis、Azoarcus evansii、Azoarcus indigens、Azoarcus toluclasticus、Azoarcus tolulyticus、Azoarcus toluvorans、Azoarcus sp.、Azoarcus sp. 22Lin、Azoarcus sp. BH72、Azoarcus sp. CC-11、Azoarcus sp. CIB、Azoarcus sp. CR23、Azoarcus sp. EB1、Azoarcus sp. EbN1、Azoarcus sp. FL05、Azoarcus sp. HA、Azoarcus sp. HxN1、Azoarcus sp. mXyN1、Azoarcus sp. PbN1、Azoarcus sp. PH002、Azoarcus sp. TおよびAzoarcus sp. ToN1種から単離される。
【0080】
特に好ましいのは、Azoarcus sp. EbN1由来のデヒドロゲナーゼを使用することである。
【0081】
本発明の核酸配列は、例えば、例えばゲノムまたはcDNAライブラリーを用いる慣用のハイブリダイゼーション法またはPCR技術を使用して、他の生物から単離することができる。これらのDNA配列は標準条件下で本発明の配列とハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションに関して、保存領域の、例えば活性部位由来の、短いオリゴヌクレオチドが好都合に使用され、該保存領域は、当業者に公知の様式で、本発明のデヒドロゲナーゼとの比較によって同定されうる。しかし、本発明の核酸の長い断片または完全配列をハイブリダイゼーションに使用することも可能である。該標準条件は、使用される核酸(オリゴヌクレオチド、長い断片または完全配列)に応じて、あるいはいずれの核酸タイプ、すなわちDNAまたはRNAをハイブリダイゼーションに使用するかに応じて、変動する。ゆえに、例えば、DNA:DNAハイブリッドの融解温度は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドの融解温度より約10℃低い。
【0082】
その核酸に応じて、標準条件は、例えば、0.1〜5 × SSC (1 × SSC = 0.15 M NaCl、15 mMクエン酸ナトリウム、pH 7.2)の範囲の濃度を有する水性緩衝液中、あるいはさらに50%ホルムアミドの存在下での、42〜58℃の範囲の温度を意味し、例えば5 × SSC、50%ホルムアミド中での42℃である。好都合には、DNA:DNAハイブリッドに関するハイブリダイゼーション条件は、0.1 × SSCおよび約20℃〜45℃の範囲、好ましくは約30℃〜45℃の範囲の温度である。DNA:RNAハイブリッドに関するハイブリダイゼーション条件は、好都合には、0.1 x SSCおよび約30℃〜55℃の範囲、好ましくは約45℃〜55℃の範囲の温度である。ハイブリダイゼーションに関して指定されるこれらの温度は融解温度の値であり、ホルムアミドの不存在下で約100ヌクレオチドの長さおよび50%のG + C含量を有する核酸に関して例示的に算出されたものである。DNAハイブリダイゼーションに関する実験条件は、遺伝学の専門教科書、例えばSambrook et al., "Molecular Cloning", Cold Spring Harbor Laboratory, 1989に記載されていて、また、当業者に公知の式を使用して、例えば核酸の長さ、ハイブリッドのタイプまたはG + C含量の関数として算出することができる。当業者は、以下の教科書からハイブリダイゼーションに関する追加の情報を取得することができる: Ausubel et al. (eds), 1985, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York; Hames and Higgins (eds), 1985, Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford; Brown (ed), 1991, Essential Molecular Biology: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford。
【0083】
本発明は、また、具体的に開示されているか、あるいは誘導可能な核酸配列の誘導体に関する。
【0084】
ゆえに、本発明の別の核酸配列は配列番号1から誘導してよく、1個または2個またはそれ以上のヌクレオチドの付加、置換、挿入または欠失によって配列番号1と異なっているが、依然として所望の特性プロファイルを有するポリペプチドをコードしていてよい。
【0085】
本発明は、また、具体的に記載されている配列と比較して、「サイレント」突然変異を含むか、あるいは、特定の供給源生物または宿主生物のコドン使用に従って改変された核酸配列、ならびに天然に存在するその変異体、例えばスプライスバリアントまたはアレル変異体を含む。
【0086】
本発明は、また、保存的ヌクレオチド置換(すなわち目的のアミノ酸が同一電荷、サイズ、極性および/または溶解性のアミノ酸で置換される)により取得可能な配列に関する。
【0087】
本発明は、また、具体的に開示されている核酸から配列多型により誘導された分子に関する。これらの遺伝子多型は、天然変異の結果として、ある集団内の個体間で存在しうる。これらの天然変異は、通常、遺伝子のヌクレオチド配列中に1〜5%の分散を生じさせる。
【0088】
本発明の核酸配列の誘導体とは、例えば、配列領域全体にわたって、誘導されるアミノ酸レベルで、少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に非常に好ましくは少なくとも80、85、90、93、95または98%相同であるアレル変異体を意味する(アミノ酸レベルでのホモロジーに関して、読み手は、該ポリペプチドに関する上記コメントを参照できる)。好都合には、配列の部分領域におけるホモロジーはより高いことがありうる。
【0089】
さらにまた、誘導体とは、本発明の核酸配列のホモログをも意味し、例えば、該コード化および非コード化DNA配列の、真菌または細菌ホモログ、トランケート配列、一本鎖DNAまたはRNAである。それらは、例えば、DNAレベルで、記載のDNA領域の全体で、少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、特に非常に好ましくは少なくとも80%相同である。
【0090】
さらに、誘導体とは、例えばプロモーターとの融合物を意味する。記載されているヌクレオチド配列の上流に位置するプロモーターは、1個以上のヌクレオチド置換、挿入、反転および/または欠失によって改変されていてよいが、該プロモーターの機能性および効力は損なわれていない。さらにまた、該プロモーターの効力は、それらの配列を改変することによって増加させてもよく、あるいは該プロモーターは、他の種の生物由来のプロモーターなどの、より活性なプロモーターで完全に置換されてもよい。
【0091】
誘導体とは、また、開始コドンの-1〜-1000塩基上流または停止コドンの0〜1000塩基下流の領域において、そのヌクレオチド配列が遺伝子発現および/またはタンパク質発現を改変、好ましくは増加させるように改変されている変異体を意味する。
【0092】
本発明は、さらにまた、「ストリンジェントな条件」下で上記コード化配列とハイブリダイズする核酸配列を含む。これらのポリヌクレオチドは、ゲノムまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって見出すすることができ、適切であれば、例えば、好適なプライマーを使用するPCRを用いてそれから増幅した後、好適なプローブを使用して単離することができる。さらに、本発明のポリヌクレオチドは化学合成してもよい。この特性とは、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドが実質的に相補的な配列にストリンジェントな条件下で結合する能力を意味し、これらの条件下では、非相補的パートナー間の非特異的結合は形成されない。この目的のために、該配列は70〜100%、好ましくは90〜100%相補的であるべきであろう。相補的な配列が互いに特異的に結合できる特性は、例えば、ノーザンまたはサザンブロット技術において、あるいはPCRまたはRT-PCRにおけるプライマー結合に関して、利用される。この目的のために、通常、少なくとも30塩基対の長さのオリゴヌクレオチドが使用される。ノーザンブロット技術では、例えば、ストリンジェントな条件とは、非特異的にハイブリダイズしたcDNAプローブまたはオリゴヌクレオチドを溶出させるための、50〜70℃、好ましくは60〜65℃の洗浄溶液、例えば0.1% SDSを含有する0.1 x SSCバッファー(20 x SSC: 3M NaCl、0.3Mクエン酸ナトリウム、pH 7.0)の使用を意味する。上述のように、ここで互いに結合したままである核酸のみが高度に相補的な核酸である。ストリンジェントな条件の確立は当業者に公知であり、例えばAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。
【0093】
E. 本発明の構築物の実施形態
本発明は、さらに、調節核酸配列の遺伝子制御下に本発明のポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現構築物に関し; さらに少なくとも1つのこれらの発現構築物を含むベクターにも関する。
【0094】
本発明のそのような構築物は、好ましくは、特定のコード配列の5'上流にプロモーターおよび3'下流にターミネーター配列を含み、さらに、適切であれば、追加の慣用の調節エレメントを含む。調節エレメントはそれぞれ作動可能に該コード配列に連結されている。
【0095】
「作動可能に連結」とは、各調節エレメントが、コード配列の発現において必要とされるその機能を果たすことができるように、プロモーター、コード配列、ターミネーターおよび、適切であれば、追加の調節エレメントを連続的に配置することを意味する。作動可能に連結できる配列の例は、ターゲティング配列およびさらにエンハンサー、ポリアデニル化シグナル等である。他の調節エレメントには、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点等が含まれる。好適な調節配列は、例えばGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0096】
本発明の核酸構築物とは、特に、本発明のデヒドロゲナーゼの遺伝子が、該遺伝子の発現を調節する、例えば増加させる目的で1個以上の調節シグナルに作動可能あるいは機能的に連結されているものを意味する。
【0097】
これらの調節配列に加えて、これらの配列の天然の調節物は、実際の構造遺伝子の上流に依然として存在していてよく、適切であれば、該天然の調節物のスイッチがオフになっていて、該遺伝子の発現を増加させるように遺伝的に改変されていてよい。しかし、該核酸構築物は、もっとシンプルな設計を有してもよく、すなわち、追加の調節シグナルがコード配列の上流に挿入されておらず、天然プロモーターがその調節物とともに除去されていない設計を有してよい。その代わりに、すべての調節物がもはや存在せず、遺伝子の発現を増加させるように天然の調節配列を突然変異させる。
【0098】
好ましい核酸構築物は、また、好都合には、以前に記載されている1個以上のエンハンサー配列を含み、該エンハンサー配列はプロモーターに機能的に連結されていて、それにより該核酸配列の発現を増加させることが可能になる。追加の有利な配列、例えば追加の調節エレメントまたはターミネーターをDNA配列の3'末端に挿入してもよい。本発明の核酸は、1以上のコピーで構築物中に存在してよい。該構築物は、該構築物を選択する目的のために適切であれば、追加のマーカー、例えば抗生物質耐性または栄養要求性相補遺伝子を含んでもよい。
【0099】
本発明の方法に有益である調節配列は、例えば、プロモーター、例えばcos、tac、trp、tet、trp-tet、lpp、lac、lpp-lac、lacIq、T7、T5、T3、gal、trc、ara、rhaP (rhaPBAD)SP6、λ-PRまたはλ-PLプロモーターに含まれ、該プロモーターはグラム陰性菌において好都合に使用される。別の有益な調節配列は、例えば、グラム陽性プロモーターamyおよびSPO2、酵母または真菌プロモーターADC1、MFalpha、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADHに含まれる。例えばハンゼヌラ(Hansenula)由来のピルビン酸デカルボキシラーゼおよびメタノールオキシダーゼプロモーターもこれに関して有益である。人工プロモーターを調節に使用することも可能である。
【0100】
宿主生物での発現のために、核酸構築物は、好都合には、例えば宿主中で遺伝子が最適に発現されることを可能にする、プラスミドまたはファージ等のベクター中に挿入される。ベクターとは、プラスミドおよびファージに加えて、当業者に公知の任意の他のベクター、すなわち、例えば、SV40、CMV、バキュロウイルスおよびアデノウイルス等のウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド、および線状または環状DNAをも意味する。これらのベクターは、宿主生物中で自律的に複製されるか、あるいは染色体と共に複製されうる。これらのベクターは、本発明の追加の実施形態を構成する。好適なプラスミドの例は、E. coliにおけるpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、lgt11またはpBdCI、StreptomycesにおけるpIJ101、pIJ364、pIJ702またはpIJ361、BacillusにおけるpUB110、pC194またはpBD214、CorynebacteriumにおけるpSA77またはpAJ667、真菌におけるpALS1、pIL2またはpBB116、酵母における2alphaM、pAG-1、YEp6、YEp13またはpEMBLYe23、または植物におけるpLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004またはpDH51である。該プラスミドは、プラスミド候補の小規模な選択である。他のプラスミドも当業者に周知であり、例えば、書籍Cloning Vectors (Eds. Pouwels P. H. et al. Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985, ISBN 0 444 904018)に見出すことができる。
【0101】
存在する他の遺伝子の発現のために、該核酸構築物は、好都合には、発現を増加させるための3'末端および/または5'末端調節配列をさらに含み、該配列は、宿主生物および選択された遺伝子または遺伝子群に応じた最適な発現に関して選択される。
【0102】
これらの調節配列は、遺伝子およびタンパク質発現を特異的に発現させることを可能にすることが意図される。宿主生物に応じて、これは、例えば、遺伝子が誘導後にのみ発現または過剰発現されること、または、それが即時に発現および/または過剰発現されることを意味しうる。
【0103】
これに関連して、調節配列または調節因子は、好ましくは、導入された遺伝子の発現に正の影響を及ぼし、それによって該発現を増加させてうる。ゆえに、調節エレメントは、好都合には、強い転写シグナル、例えばプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することによって転写レベルで向上させてよい。しかし、それに加えて、例えばmRNAの安定性を改善することによって翻訳を増加させることも可能である。
【0104】
前記ベクターの別の実施形態では、本発明の核酸構築物または本発明の核酸を含むベクターを、線状DNAの形式で微生物に導入し、非相同または相同組換えにより宿主細胞のゲノム中に組み込ませることも有利でありうる。この線状DNAは、線状化ベクター、例えばプラスミドから構成されていてよく、あるいは本発明の核酸構築物または核酸のみから構成されていてよい。
【0105】
生物において最適に異種遺伝子を発現させることを可能にするために、該生物において使用される特定のコドン使用に従って核酸配列を改変することが有益である。コドン使用は、目的の生物由来の他の公知遺伝子についてのコンピュータ解析の支援により容易に決定することができる。
【0106】
本発明の発現カセットは、好適なコードヌクレオチド配列に対して、ならびにターミネーターシグナルまたはポリアデニル化シグナルに対して、好適なプロモーターを融合させることによって調製される。この目的のために、例えば以下の文献に記載される一般的な組換えおよびクローニング技術が使用される: T. Maniatis, E.F. Fritsch and J. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)およびさらにT.J. Silhavy, M.L. Berman and L.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)およびAusubel, F.M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987)。
【0107】
好適な宿主生物中で発現を達成するために、組換え核酸構築物または遺伝子構築物は、好都合に、宿主特異的ベクター中に挿入してよく、該ベクターによって該遺伝子を該宿主において最適に発現させることが可能になる。ベクターは当業者に周知であり、例えば"Cloning Vectors" (Pouwels P. H. et al., Eds., Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985)に見出される。
【0108】
F. 本発明に有用な宿主生物
本発明のベクターまたは構築物を用いて、例えば本発明の少なくとも1個のベクターで形質転換され、本発明のポリペプチドの生産に使用してよい組換え微生物を調製することが可能である。好都合には、本発明の上記組換え構築物は好適な宿主系に導入され、発現される。これに関連して、当業者に公知の慣用のクローニングおよびトランスフェクション方法、例えば共沈、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクション等が好ましく使用され、該核酸を特定の発現系において発現させる。好適な系は、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology, F. Ausubel et al., Eds., Wiley Interscience, New York 1997、またはSambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
【0109】
本発明では、相同組換え微生物を調製することも可能である。この目的のために、本発明の遺伝子の、あるいはコード配列の少なくとも一つの部分であって、適切であれば、本発明の配列を改変、例えば機能的に破壊させるために、少なくとも1個のアミノ酸欠失、アミノ酸付加またはアミノ酸置換が導入されている部分を含むベクター(ノックアウトベクター)が調製される。該導入配列は、関連微生物由来のホモログであってもよく、あるいは、例えば哺乳類、酵母または昆虫供給源に由来してもよい。別法では、相同組換えに使用されるベクターは、相同組換えにおいて、内因性遺伝子が突然変異しているか、あるいはそうでなければ改変されているが、依然として機能的タンパク質をコードするように設計してよい(例えば、内因性タンパク質の発現が改変されるように上流調節領域が改変されていてもよい)。本発明の遺伝子の改変された一部分は相同組換えベクター中に含まれる。相同組換えに好適なベクターの構築は、例えばThomas, K.R. and Capecchi, M.R. (1987) Cell 51:503に記載されている。
【0110】
本発明の核酸または核酸構築物に好適な組換え宿主生物は、基本的に、任意の原核生物または真核生物である。好都合には、微生物、例えば細菌、真菌または酵母が宿主生物として使用される。グラム陽性菌またはグラム陰性菌、好ましくは腸内細菌科、シュードモナス科、リゾビウム科、ストレプトミセス科またはノカルジア科の細菌、特に好ましくはEscherichia、Pseudomonas、Streptomyces、Nocardia、Burkholderia、Salmonella、AgrobacteriumまたはRhodococcus属の細菌が好都合に使用される。Escherichia coli属および種が特に非常に好ましい。さらに、別の好都合な細菌は、α-プロテオバクテリア、β-プロテオバクテリアまたはγ-プロテオバクテリアの群に見出すことができる。
【0111】
これに関連して、本発明の宿主生物または宿主生物群は、好ましくは、本発明において記載されている核酸配列、核酸構築物またはベクターであって、本発明のデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸配列、核酸構築物またはベクターの少なくとも1個を含む。
【0112】
本発明の方法において使用される生物は、宿主生物に応じて、当業者に公知の様式で増殖または培養される。通常、微生物は、通常は糖の形態の炭素源、通常は有機窒素源(例えば酵母抽出物または硫酸アンモニウムなどの塩)の形態の窒素源、微量元素(例えば鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩)および、適切であれば、ビタミンを含む液体培地中で、0℃〜100℃の範囲、好ましくは10℃〜60℃の範囲の温度で、酸素ガスを供給しながら増殖させる。これに関連して、該栄養液のpHは、固定された値で維持してもしなくてもよく、すなわち培養中に調節してもしなくてもよい。培養はバッチ式、半バッチ式または連続的に実行してよい。栄養素は、培養の開始時に導入してよく、あるいはその後に半連続または連続的様式で送り込んでもよい。ケトンは、培養物に直接加えてよく、あるいは、好都合には、培養後に加えてよい。酵素は、実施例に記載の方法を使用して該生物から単離してよく、あるいは粗抽出物として反応に使用してよい。
【0113】
G. 本発明のポリペプチドの組換え調製
本発明は、さらにまた、本発明のポリペプチドまたはその機能的かつ生物学的活性断片を組換え調製する方法であって、ポリペプチド産生微生物を培養する工程、適切であれば、そのポリペプチドの発現を誘導する工程および該ポリペプチドを培養物から単離する工程を含む前記方法に関する。該ポリペプチドは、このようにして、所望であれば工業規模で製造してもよい。
【0114】
組換え微生物は、公知の方法によって培養および発酵してよい。細菌は、例えば、TB培地またはLB培地中で、かつ20〜40℃の温度で、かつ6〜9のpHで増殖させてよい。好適な培養条件は、例えばT. Maniatis, E.F. Fritsch and J. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)に詳細に記載されている。
【0115】
ポリペプチドが培養培地中に分泌されない場合、その後、細胞を破壊して、公知のタンパク質単離方法によってライセートから生成物を取得する。細胞は、高周波数の超音波を用いて、高圧を用いて、例えばフレンチ加圧セル中で、浸透圧溶解(osmolysis)を用いて、界面活性剤、細胞溶解酵素または有機溶媒の作用によって、ホモジナイザーを使用して、あるいは列挙した方法の2種以上の組み合わせによって、所望のように破壊してもよい。
【0116】
ポリペプチドは、公知のクロマトグラフィー方法、例えば分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、例えばQセファロースクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーを使用して、またさらに他の慣用の方法、例えば限外ろ過、結晶化、塩析、透析および未変性ゲル電気泳動を使用して、精製してもよい。好適な方法は、例えばCooper, T. G., Biochemische Arbeitsmethoden [original title: The tools of biochemistry], Verlag Walter de Gruyter, Berlin, New YorkまたはScopes, R., Protein Purification, Springer Verlag, New York, Heidelberg, Berlinに記載されている。
【0117】
cDNAを特定のヌクレオチド配列によって伸長し、それによって、例えば精製を簡単にするために使用される改変されたポリペプチドまたは融合タンパク質をコードするベクター系またはオリゴヌクレオチドを使用することにより、組換えタンパク質を単離することは有益でありうる。この種の好適な改変は、例えば、アンカーとして働く「タグ」、例えば、ヘキサヒスチジンアンカーとして知られる改変、または抗体によって抗原として認識されうるエピトープである(例えばHarlow, E. and Lane, D., 1988, Antibodies: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor (N.Y.) Pressに記載されている)。これらのアンカーを使用して、該タンパク質を固体支持体、例えばポリマーマトリックス(例えば、クロマトグラフィーカラム中に充填してよい)またはマイクロタイタープレートまたは別の支持体に固定してもよい。
【0118】
同時に、これらのアンカーは該タンパク質の同定に使用してもよい。該タンパク質は、慣用のマーカー、例えば蛍光色素、基質と反応した後に検出可能な反応産物を生成する酵素マーカー、または放射性マーカーを、単独で、あるいはアンカーと組み合わせて、該タンパク質の誘導体化に使用することによって、同定してもよい。
【0119】
H. (S)-アルカノールを製造するための本発明の方法の実施
本発明に従って使用されるデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素は、本発明の方法において、遊離酵素または固定された酵素として使用してよい。
【0120】
本発明の方法は、好都合には、0℃〜95℃の範囲、好ましくは10℃〜85℃の範囲、特に好ましくは15℃〜75℃の範囲の温度で実行される。
【0121】
本発明の方法では、pHは、好都合には、pH 4〜12の範囲、好ましくはpH 4.5〜9の範囲、特に好ましくはpH 5〜8の範囲で維持される。
【0122】
本発明の方法では、鏡像異性的に純粋な生成物またはキラル生成物または光学活性アルコールとは、エナンチオマー濃縮を示すエナンチオマーを意味する。少なくとも70%ee、好ましくは少なくとも80%ee、特に好ましくは少なくとも90%ee、特に非常に好ましくは少なくとも98%eeの鏡像異性体純度が、好ましくは、該方法において達成される。
【0123】
本発明の方法に関して、本発明の核酸、核酸構築物またはベクターを含む増殖細胞を使用することが可能である。休止または破壊細胞を使用することも可能である。破壊細胞とは、例えば溶媒での処理によって透過性にされている細胞、または酵素での処理、機械的処理(例えばフレンチプレスまたは超音波処理)または別の方法によって破壊された細胞を例えば意味する。このように得られた粗抽出物は、好都合には、本発明の方法に好適である。精製または部分精製された酵素を該方法に使用することも可能である。本反応において好都合に適用できる固定された微生物または酵素も同様に好適である。
【0124】
本発明の方法に使用する場合、遊離の生物または酵素は、好都合には、例えばろ過または遠心分離によって抽出前に除去される。
【0125】
本発明の方法において生産される生成物、例えば(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オールは、水性反応溶液から抽出または蒸留によって好都合に取得することができる。収率を増加させるために、抽出を数回反復してよい。好適な抽出剤の例は、トルエン、塩化メチレン、酢酸ブチル、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、MTBEまたは酢酸エチル等の溶媒であるが、それらに限定されない。
【0126】
別法では、本発明の方法において生産される生成物、例えば(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オールは、好都合には、反応溶液の有機相から抽出または蒸留または/および結晶化によって取得することができる。収率を増加させるために、抽出を数回反復してよい。好適な抽出剤の例は、トルエン、塩化メチレン、酢酸ブチル、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、MTBEまたは酢酸エチル等の溶媒であるが、それらに限定されない。
【0127】
有機相を濃縮した後、通常、良好な化学的純度、すなわち80%を超える化学的純度を有する生成物を取得することができる。しかし、抽出後、該生成物を含有する有機相を部分的にしか濃縮せずに、該生成物を結晶化してもよい。この目的のために、該溶液を、好都合には、0℃〜10℃の温度に冷却する。結晶化は、有機溶液または水性溶液から直接実行してもよい。結晶化された生成物は、新たな結晶化のために、同一または異なる溶媒中に再懸濁して、再結晶させてよい。少なくとも1回実行される以後の有益な結晶化によって、必要であれば、生成物についての鏡像異性的純度をさらに増加させることができる。
【0128】
上記試作品種により、該反応に使用される基質、例えば3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オンに基づいて60〜100%、好ましくは80〜100%、特に好ましくは90〜100%の収率で本発明の方法の生成物を単離することが可能になる。単離された生成物は、>90%、好ましくは>95%、特に好ましくは>98%の高い化学的純度によって特徴付けられる。該生成物は、さらにまた、高い鏡像異性的純度を有し、該純度は、好都合には、必要であれば結晶化によってさらに増加させることができる。
【0129】
本発明の方法は、バッチ式、半バッチ式または連続的に操作することができる。
【0130】
該方法は、好都合には、例えばBiotechnology, volume 3, 2nd edition, Rehm et al. Eds., (1993), 特にchapter IIに記載のバイオリアクター中で実行してもよい。
【0131】
上記説明および下記実施例は、本発明を説明するためだけのものである。本発明は、同様に、当業者に自明の多数の可能な変形物を包含する。
【0132】
本発明の方法の利点は、式(I)の光学活性アルカノールの特に高い収率および実質的に定量的なアルカノン(II)の変換である。
【0133】
実験部分:
【実施例1】
【0134】
実施例1: 合成オリゴヌクレオチドを用いる、Azoarcus sp. EbN1フェニルエタノールデヒドロゲナーゼのクローニング
Azoarcus sp. EbN1フェニルエタノールデヒドロゲナーゼの遺伝子配列はデータベースに登録されている(Genbank ID 25956124, 領域: 25073〜25822)。公知の方法に従って該遺伝子を合成した際に合成起点としたオリゴヌクレオチドは、該フェニルエタノールデヒドロゲナーゼ遺伝子の核酸配列から作製した。表1に、該オリゴヌクレオチドのDNA配列をまとめる。図3は、Azoarcus sp. EbN1フェニルエタノールデヒドロゲナーゼ遺伝子全体に対する個々のオリゴヌクレオチドの位置を示す。合成遺伝子を調製する方法は、例えばY.P. Shi, P. Das, B. Holloway, V. Udhayakumar, J.E.Tongren, F. Candal, S. Biswas, R. Ahmad, S.E. Hasnain and A.A. Lal, Vaccine 2000, 18, pp. 2902-2914に記載されている。得られた配列は、公開されている配列と同一である。
【0135】
PCR産物を制限エンドヌクレアーゼNdeIおよびBamHIで消化し、適宜消化したpDHE19.2ベクター(DE19848129)中にクローニングした。ライゲーション混合物をE. coli XL1 Blue (Stratagene)中に形質導入した。
【0136】
該pDHEEbN1プラスミドを用いて、E. coli株TG10 pAgro4 pHSG575 (TG10: E. coli TG1のRhaA-誘導株(Stratagene); pAgro4: Takeshita, S; Sato, M; Toba, M; Masahashi, W; Hashimoto-Gotoh, T (1987) Gene 61, 63-74; pHSG575: T. Tomoyasu et al (2001), Mol. Microbiol. 40(2), 397-413)中へ形質転換した。
【0137】
該組換えE. coliをE. coli LU 11558と称する。
【表1】

【実施例2】
【0138】
実施例2: PCRを用いたAzoarcus sp. EbN1フェニルエタノールデヒドロゲナーゼのクローニング
Azoarcus sp. EbN1フェニルエタノールデヒドロゲナーゼの遺伝子配列はデータベースに登録されている(Genbank ID 25956124, 領域25073〜25822)。該フェニルエタノールデヒドロゲナーゼ遺伝子の核酸配列からオリゴヌクレオチド(プライマーMKe0387およびMKe0388)を作製し、それを、以下の通り、PCR増幅を用いる該デヒドロゲナーゼ遺伝子のクローニングに使用した。
【0139】

【0140】
等モル量(各130 ng)のプライマーMKe0387およびMKe0388を混合した。標準的なStratageneプロトコルに従い、PfuTurboポリメラーゼ(Roche Applied Science)および次の温度勾配プログラム: 95℃で5分; 95℃で45秒、55℃で45秒、および72℃で1分を30サイクル; 72℃で10分; 使用するまで10℃を使用して、PCRを行った。アガロースゲル電気泳動(1.2% E-Gel, Invitrogen)およびカラムクロマトグラフィー(GFXキット, Amersham Pharmacia)によってPCR産物(約0.75 kB)を単離した後、配列決定した(シークエンシングプライマー: MKe0387およびMKe0388)。得られた配列は、公開されている配列と同一である。
【0141】
PCR産物を制限エンドヌクレアーゼNdeIおよびBamHIで消化し、適宜消化したpDHE19.2ベクター(DE19848129)中にクローニングした。ライゲーション混合物を用いてE. coli XL1 Blue (Stratagene)中へ形質転換した。このようにして得られたプラスミドpDHEEbN1中の挿入物(該挿入物は、対応するクローンを配列決定することによって解明された)は、配列番号1に記載の核酸配列である。
【0142】
該pDHEEbN1プラスミドを用いてE. coli株TG10 pAgro4 pHSG575 (TG10: E. coli TG1のRhaA-誘導株(Stratagene); pAgro4: Takeshita, S; Sato, M; Toba, M; Masahashi, W; Hashimoto-Gotoh, T (1987) Gene 61, 63-74; pHSG575: T. Tomoyasu et al (2001), Mol. Microbiol. 40(2), 397-413)中へ形質転換した。
【0143】
該組換えE. coliをE. coli LU 11558と称する。
【実施例3】
【0144】
実施例3: E. coli LU 11558の組換えフェニルエタノールデヒドロゲナーゼの提供
E. coli LU 11558を、100 ml 三角フラスコ(バッフル)内の20 mlのLB-Amp/Spec/Cm (100μg/lアンピシリン; 100μg/lスペクチノマイシン; 20μg/lクロラムフェニコール)、0.1 mM IPTG、0.5 g/lラムノース中で37℃で18時間にわたり増殖させ、5000×gで10分間遠心分離し、10 mM TRIS/HCl、pH 7.0で1回洗浄し、2 mlの同バッファー中に再懸濁した。
【0145】
振動ミル中で0.7 mlのガラスビーズ(d=0.5 mm)を用いてE. coli LU 11558細胞ペーストを破壊(氷上で一時冷却しながら、3回×5分)することによって、細胞を含まない粗タンパク質抽出物を調製した。
【実施例4】
【0146】
実施例4: E. coli LU 11558組換えデヒドロゲナーゼの活性測定
6つの形質転換体を、それぞれ、100 ml三角フラスコ(バッフル)内の20 mlのLBAmp/Spec/Cm (100μg/l Amp; 100 mg/l Spec; 20μg/l Cm)、0.1 mM IPTG、0.5 g/lラムノース中で37℃で18時間にわたり増殖させ、5000×gで10分間遠心分離し、10 mM Tris/HCl pH 7.0で1回洗浄し、2 mlの同バッファー中に再懸濁した。100 mlの細胞懸濁液を、50μl/ml グルコースDH、100 mMグルコース、100 mM NaCl、1 mM NADH、1 mM NADPHを含有し、かつ10 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オンを加えた50 mM MES (pH 6)の900μl中で20分間振とうしながらインキュベートした。その反応混合物を実施例4と同様の方法で分析した。平均して0.13 mMの3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールが製造されたが、それは培養懸濁物1L当たり6.6 Uの活性に相当する。振動ミル中で0.7 mlのガラスビーズ(d=0.5 mm)を用いて細胞を破壊(氷上で一時冷却しながら、3回×5分)することによって取得された粗抽出物を含有する同様の反応混合物中では、0.21 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールが測定されたが、それは10.7 U/lの活性に相当する。培養時にラムノースを加えないコントロール実験では3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールは検出できなかった。
【実施例5】
【0147】
実施例5: 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オンおよび3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールの分析
3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オンおよび3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールの濃度は、HPLCを用いて決定することができる。固定相および移動相の選択によっては、濃度に加えてee値を決定することも可能である。
【0148】
a) アキラル分析
以下の系を使用して反応物を定量した。
【0149】
固定相: Chromoltih SpeedROD RP18, 50*4, 6μm, Merck (Darmstadt, Germany), 45℃に加熱
移動相: 溶離液A: 10 mM KH2PO4, pH 2.5
溶離液B: アセトニトリル
勾配: 0〜0.5分, 35%B; 0.5〜1.0分 35〜80%B; 1.0〜1.2分 80%B; 1.2〜1.3分 80%〜35%B; 1.3-2.0分 35%B;
流速: 1.5 ml/分
検出: 230および260 nmでのUV検出
保持時間: 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オン: 約1.6分
3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オール: 約1.3分。
【0150】
真正材料を使用して較正系列を作製し、それに基づいて未知のサンプルの濃度を決定することができる。
【0151】
b) キラル分析
固定相: Chiracel OD-H, 250*4, 6μm, Daicel, 40℃に加熱
移動相: 溶離液A: n-ヘキサン
溶離液B: イソプロパノール
2.5% Bで定組成溶離
流速: 1.0 ml/分
検出: 230および260 nmでのUV検出
保持時間: 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オン: 約9.5分
(1S)-3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オール: 約16.6分
(1R)-3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オール: 約18.3分。
【0152】
真正材料を使用して較正系列を作成し、それに基づいて未知のサンプルの濃度を決定することができる。
【実施例6】
【0153】
実施例6: E. coli LU 11558組換えデヒドロゲナーゼの活性測定
E.coli LU 11558の6つの形質転換体を、それぞれ、100 ml三角フラスコ(バッフル)内の20 mlのLBAmp/Spec/Cm (100μg/l Amp; 50 mg/l Spec; 10μg/l Cm)、0.1 mM IPTG、0.5 g/lラムノース中で37℃で18時間にわたり増殖させ、5000×gで10分間遠心分離し、10 mM Tris/HCl pH 7.0で1回洗浄し、2 mlの同バッファー中に再懸濁した。100 mlの細胞懸濁液を、50μl/ml グルコースDH、100 mMグルコース、100 mM NaCl、1 mM NADH、1 mM NADPHを含有し、かつ10 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オンを加えた50 mM MES (pH 6)の900μl中で20分間振とうしながらインキュベートした。その反応混合物を実施例4と同様の方法で分析した。平均して0.13 mMの3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールが製造されたが、それは培養懸濁物1L当たり6.6 Uの活性に相当する。振動ミル中で0.7 mlのガラスビーズ(d=0.5 mm)を用いて細胞を破壊(氷上で一時冷却しながら、3回×5分)することによって取得された粗抽出物を含有する同様の反応混合物中では、0.21 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールが測定されたが、それは10.7 U/lの活性に相当する。培養時にラムノースを加えないコントロール実験では3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールは検出できなかった。
【実施例7】
【0154】
実施例7: 組換えAzoarcus sp. EbN1デヒドロゲナーゼを2-ペンタノールとともに使用する、(S)-3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールの調製
E. coli LU 11558の休止細胞(バイオマス1L当たり1〜20 g)を、0.75 L反応器内で、221 mlの50 mM KH2PO4および250 mlの2-ペンタノール中、0.2 mM NAD+および185 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オン(12.5 ml)を加えて、250 rpmで40℃で撹拌した。5 M NaOHで滴定することによって反応物をpH 5.5に維持した。有機相中の濃度が50〜350 mM TACAになるまでHPLC分析によって反応をモニターした。
【実施例8】
【0155】
実施例8: 組換えAzoarcus sp. EbN1デヒドロゲナーゼを2-ペンタノールとともに使用した(S)-3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールの調製
E. coli LU 11558の休止細胞(バイオマス1L当たり1〜20 g)を、4 L反応器内で、1432 mlの50 mM KH2PO4および2000 mlの2-ペンタノール中、0.2 mM NAD+および370 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オン(200 ml)を加えて、250 rpmで40℃で撹拌した。5 M NaOHで滴定することによって反応物をpH 5.5に維持した。有機相中の濃度が100〜650 mM TACAになるまでHPLC分析によって反応をモニターした。
【実施例9】
【0156】
実施例9: 組換えAzoarcus sp. EbN1デヒドロゲナーゼを2-ペンタノールとともに使用する、(S)-3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールの調製
E. coli LU 11558の休止細胞(バイオマス1L当たり1〜20 g)を、4 L反応器内で、1432 mlの50 mM KH2PO4および2000 mlの2-ペンタノール中、0.2 mM NAD+および370 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オン(200 ml)を加えて、250 rpmで40℃で撹拌した。5 M NaOHで滴定することによって反応物をpH 5.5に維持した。約85 mbarの減圧状態および50〜70℃のジャケット温度を適用した。2〜10 ml/分の蒸留速度で得られた水および2-ペンタノール蒸留物の量を、反応の間、継続して再導入した。有機相中の濃度が300〜700 mM TACAになるまでHPLC分析によって反応をモニターした。0〜30%の残留部分を除いて、3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オンは反応した。
【実施例10】
【0157】
実施例10: 組換えAzoarcus sp. EbN1デヒドロゲナーゼを2-ペンタノールとともに使用する、(S)-3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オールの調製
E. coli LU 11558の休止細胞(バイオマス1L当たり1〜20 g)を、0.75 L反応器内で、221 mlの50 mM KH2PO4および250 mlの2-ペンタノール中、0.2 mM NAD+および200 mM 3-クロロ-1-(チエン-2-イル)プロパン-1-オン(12.5 ml)を加えて、250 rpmで40℃で撹拌した。5 M NaOHで滴定することによって反応物をpH 5.5に維持した。有機相中の濃度が50〜320 mM TACAになるまでHPLC分析によって反応をモニターした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

[式中
nは0〜5の整数であり;
Aは、場合により置換されている分岐または非分岐C1〜C6アルキル基または「Cyc」基であり、
Cycは、場合により置換されている、単核または多核の、飽和または不飽和の、炭素環式または複素環式の環であり、ならびに
R1は、ハロゲン、SH、OH、NO2、NR2R3またはNR2R3R4+X-であり、ここでR2、R3およびR4は互いに独立して水素または低級アルキルまたは低級アルコキシ基であり、X-は対イオンである]
の光学活性アルカノールを製造する方法であって、
式II:
【化2】

[式中、n、AおよびR1は上記定義の通りである]
のアルカノールを含む媒体中で、還元等価体の存在下で、デヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼおよびカルボニルレダクターゼのクラスから選択される酵素(E)をインキュベートし、その際、式IIの化合物は酵素的に還元されて式Iの化合物を生じ、かつ該反応中に消費された還元等価体は、酵素(E)の働きにより対応するドナーケトンを生じるドナーアルコールを反応させることによって再生され、該ドナーケトンは少なくとも部分的に反応媒体から除去される工程、および生成された生成物(I)を単離する工程を含む、方法。
【請求項2】
酵素(E)がアルコールデヒドロゲナーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酵素(E)が以下のポリペプチド配列を有する、請求項1に記載の方法:
(i) 配列番号2、または
(ii) 配列番号2と比較して、25%までのアミノ酸残基が欠失、挿入、置換またはそれらの組み合わせによって改変されていて、かつ配列番号2の酵素活性の少なくとも50%を保持するポリペプチド配列。
【請求項4】
式III:
【化3】

[式中、R1 = ClまたはNHCH3]
の1-(2-チエニル)-(S)-プロパノールの誘導体を製造するための、請求項1に記載の方法であって、
式IV:
【化4】

の1-(2-チエニル)プロパノンの誘導体を含む媒体中で、この化合物が酵素的に還元されて式IIIの化合物を生じ、生成された本質的に鏡像異性的に純粋な生成物が単離される、方法。
【請求項5】
酵素がAzoarcus属の微生物の酵素のうちから選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
酵素が配列番号1に記載の核酸配列またはその機能的等価物によってコードされる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
使用されるドナーアルコールが2-ペンタノールである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
反応時にドナーアルコールから生成されるドナーケトンが蒸留によって反応媒体から少なくとも部分的に除去される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
反応時にドナーケトンが蒸留によって酵素反応器から除去される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、リゾビウム科(Rhizobiaceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、ストレプトミセス科(Streptomycetaceae)、ロドコッカス科(Rhodococcaceae)およびノカルジア科(Nocardiaceae)の細菌から選択される微生物の存在下で式IIの化合物を反応させる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
微生物が、請求項1〜3のいずれかにおいて規定した酵素をコードする核酸構築物により形質転換されている組換え微生物である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
式IまたはIIIの化合物を製造するための、以下のポリペプチド配列:
i. 配列番号2、または
ii. 配列番号2と比較して、25%までのアミノ酸残基が欠失、挿入、置換またはそれらの組み合わせによって改変されていて、かつ配列番号2の酵素活性の少なくとも50%を保持するポリペプチド配列
を有する酵素(E)の使用。
【請求項13】
デュロキセチンの製造方法における、請求項12に記載の使用。

【公表番号】特表2008−538076(P2008−538076A)
【公表日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500175(P2008−500175)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060452
【国際公開番号】WO2006/094945
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】