説明

光学活性トランス−4−フルオロプロリン高純度品の製造方法

【課題】光学活性トランス−4−フルオロプロリン高純度品の製造方法を提供する。
【解決手段】光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体(主生成物)と光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応を行うことにより、光学活性トランス−4−フルオロプロリン(目的物)と光学活性プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収する光学活性トランス−4−フルオロプロリンの製造方法を見出した。
本発明は、従来技術に比べて品質管理が行い易く、高純度品を簡便に且つ効率良く製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性トランス−4−フルオロプロリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性トランス−4−フルオロプロリンは重要な医薬中間体である(非特許文献1、非特許文献2)。該化合物の製造方法においては光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体の立体反転を伴う脱ヒドロキシフッ素化反応が多用されるが、所望の光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体以外に相当量の光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体を副生する(スキーム1を参照。Pはカルボキシル基の保護基を表し、Pは2級アミノ基の保護基を表す)。この段階での副生成物の除去や続く脱保護反応工程での副生成物由来不純物の除去を簡便に且つ効率良く行うことは困難であった。
【化1】

【0003】
従来の除去方法としては、炭素−炭素2重結合にハロゲン系酸化剤を反応させて処理物を除去する方法(特許文献1)や、N−ベンジルオキシカルボニル−トランス−4−フルオロ−L−プロリンの段階でシクロヘキシルアミン塩に誘導して再結晶精製する方法(特許文献2)が開示されている。
【0004】
また、本出願人は、N−tert−ブトキシカルボニル−トランス−4−フルオロ−L−プロリンの段階で塩に誘導して再結晶精製する方法を出願している(特願2009−278791号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2006/080401号パンフレット
【特許文献2】米国特許4241076号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Organic Process Research & Development(米国),2008年,第12巻,p.183−191
【非特許文献2】Bioorganic & Medicinal Chemistry(オランダ),2006年,第14巻,p.6900−6916
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光学活性トランス−4−フルオロプロリンは医薬中間体として高純度品が要求される。よって、本発明の目的は、光学活性トランス−4−フルオロプロリン高純度品の製造方法を提供することにある。
【0008】
特許文献1は、炭素−炭素2重結合とハロゲン系酸化剤の反応が単純でなく、最終的に除去すべき処理物の構造を特定し難く、品質管理が必ずしも容易でなかった。
【0009】
また、特許文献2と特願2009−278791号は、塩への誘導、再結晶精製およびカルボキシル基への遊離を必要とし、操作が格段に簡便とは言えなかった。さらに、再結晶精製の除去効率も格段に高いとは言えなかった。
【0010】
本発明に先立ち、上記の副生成物または該由来不純物の除去について予備検討を行ったところ(図1を参照)、ケース1から7の何れの対象化合物においても特許文献2と特願2009−278791号の除去効率を大幅に上回る方法を見出すことはできなかった(再結晶精製および塩での再結晶精製は、有機合成における一般的な操作を採用した。ケース7は水素化反応後に行った)。
【化2】

【0011】
この様に、光学活性トランス−4−フルオロプロリンの製造において品質管理が行い易く、高純度品を簡便に且つ効率良く製造できる方法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、光学活性トランス−4−フルオロプロリンと光学活性プロリンの物性が大きく異なり、両化合物が容易に分離できることを見出した。つまり、光学活性トランス−4−フルオロプロリンの製造方法において、光学活性トランス−4−フルオロプロリン(目的物)と光学活性プロリン(不純物)を含む反応処理物から目的物だけを選択的に回収することを特徴とする製造方法を見出した。好適には、光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体(主生成物)と光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応を行うことにより、光学活性トランス−4−フルオロプロリン(目的物)と光学活性プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収する光学活性トランス−4−フルオロプロリンの製造方法を見出した(スキーム2を参照)。さらに、原料基質である光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体のカルボキシル基の保護基としてはベンジル基が好ましく、また2級アミノ基の保護基としてはベンジルオキシカルボニル基が好ましい。これらの好適な保護基を組み合わせることにより、光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体の炭素−炭素2重結合の水素化反応と、カルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の還元的脱保護反応(脱ベンジル化反応と脱ベンジルオキシカルボニル化反応)を同時に行うことができる。このことは、光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体と光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体を含む反応生成物から光学活性トランス−4−フルオロプロリンと光学活性プロリンを含む反応処理物への誘導を1工程で行えることを意味し、本発明の好ましい態様である。
【化3】

【0013】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明5]を含み、光学活性トランス−4−フルオロプロリン高純度品の製造方法を提供する。
【0014】
[発明1]
式[A]
【化4】

【0015】
で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリンの製造方法において、式[A]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン(目的物)と式[B]
【化5】

【0016】
で示される光学活性プロリン(不純物)を含む反応処理物から目的物だけを選択的に回収することを特徴とする製造方法。
【0017】
[式中、*は不斉炭素を表し、式[A]の2位の絶対配置はS(L)体またはR(D)体を採り、式[A]の2位と4位の相対配置はトランスを採る。式[A]と式[B]の2位の立体化学は同じ絶対配置を採る]
[発明2]
一般式[1]
【化6】

【0018】
で示されるシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、一般式[2]
【化7】

【0019】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン保護体(主生成物)と一般式[3]
【化8】

【0020】
で示される3,4−デヒドロ−L−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応を行うことにより、式[4]
【化9】

【0021】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(目的物)と式[5]
【化10】

【0022】
で示されるL−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−L−プロリンの製造方法。
【0023】
[式中、Pはアルキル基、置換アルキル基、ベンジル基または置換ベンジル基を表し、Pはtert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはトリフェニルメチル基を表す。]
[発明3]
式[6]
【化11】

【0024】
で示されるシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、式[7]
【化12】

【0025】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン保護体(主生成物)と式[8]
【化13】

【0026】
で示される3,4−デヒドロ−L−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の還元的脱保護反応を同時に行うことにより、式[4]
【化14】

【0027】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(目的物)と式[5]
【化15】

【0028】
で示されるL−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−L−プロリンの製造方法。
【0029】
[式中、Bnはベンジル基を表し、Cbzはベンジルオキシカルボニル基を表す]
[発明4]
一般式[9]
【化16】

【0030】
で示されるシス−4−ヒドロキシ−D−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、一般式[10]
【化17】

【0031】
で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン保護体(主生成物)と一般式[11]
【化18】

【0032】
で示される3,4−デヒドロ−D−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応を行うことにより、式[12]
【化19】

【0033】
で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン(目的物)と式[13]
【化20】

【0034】
で示されるD−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−D−プロリンの製造方法。
【0035】
[式中、Pはアルキル基、置換アルキル基、ベンジル基または置換ベンジル基を表し、Pはtert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはトリフェニルメチル基を表す。]
[発明5]
式[14]
【化21】

【0036】
で示されるシス−4−ヒドロキシ−D−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、式[15]
【化22】

【0037】
で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン保護体(主生成物)と式[16]
【化23】

【0038】
で示される3,4−デヒドロ−D−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の還元的脱保護反応を同時に行うことにより、式[12]
【化24】

【0039】
で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン(目的物)と式[13]
【化25】

【0040】
で示されるD−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−D−プロリンの製造方法。
【0041】
[式中、Bnはベンジル基を表し、Cbzはベンジルオキシカルボニル基を表す]
【発明の効果】
【0042】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0043】
本発明では、光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体(副生成物)から光学活性プロリン(不純物)への誘導が好適な反応条件において定量的に進行し、目的物の光学活性トランス−4−フルオロプロリンに残存する可能性のある光学活性プロリンは、その分析方法や毒性データ等が豊富に利用できるため、品質管理が格段に行い易い。また、実施例1で開示している通り、光学活性トランス−4−フルオロプロリンと光学活性プロリンの分離は熱時攪拌洗浄程度の格段に簡便な操作で対応することができ、除去効率も格段に高い。さらに、カルボキシル基と2級アミノ基の好適な保護基を組み合わせることにより、光学活性トランス−4−フルオロプロリン高純度品を短工程で収率良く製造することができる。
【0044】
本発明では、副生成物である光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体の炭素−炭素2重結合に対して還元的な処理を行っており、特許文献1の酸化的な処理とは発明の思想において好対照である。
【0045】
また、本発明では、スキーム2の脱ヒドロキシフッ素化反応が立体保持で進行した光学活性シス−4−フルオロプロリン保護体(4位立体異性体)に由来する不純物(図2を参照)も同時に除去することができる。
【化26】

【0046】
この様に、本発明は従来技術の問題点を解決した光学活性トランス−4−フルオロプロリン高純度品の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の光学活性トランス−4−フルオロプロリン高純度品の製造方法について詳細に説明する。
【0048】
本発明の好適な製造方法は、「脱ヒドロキシフッ素化反応」、「水素化反応&脱保護反応」および「不純物除去」の3工程から成る。発明1は、不純物除去工程に対応する。
【0049】
最初に、脱ヒドロキシフッ素化反応工程について詳細に説明する。
【0050】
脱ヒドロキシフッ素化反応工程では、一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体を脱ヒドロキシフッ素化剤と反応させることにより、一般式[2]または一般式[10]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体(主生成物)と一般式[3]または一般式[11]で示される光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物を得る。この反応では、副生成物の光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体以外にさらに光学活性4,5−デヒドロプロリン保護体(図3を参照)を少量副生する場合もあるが、同じ不純物である光学活性プロリンに同様に誘導され除去することができる。
【化27】

【0051】
一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体のPは、アルキル基、置換アルキル基、ベンジル基または置換ベンジル基を表す。アルキル基は、炭素数が1から12の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)である。置換アルキル基は、該アルキル基の任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換基を有する。係る置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の低級アルコキシ基等である。本明細書における“低級”は、炭素数が1から6の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を表す。置換ベンジル基は、フェニル基の任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換基を有する。係る置換基は、フッ素原子、トリフルオロメチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の低級アルコキシ基等である。Pの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2−クロロエチル基、2,2−ジクロロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、2−メトキシエチル基、3−メトキシ−n−プロピル基、4−メトキシ−n−ブチル基、2−エトキシエチル基、3−エトキシ−n−プロピル基、4−エトキシ−n−ブチル基、ベンジル基、2−フルオロベンジル基、3−フルオロベンジル基、4−フルオロベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基等が挙げられる。その中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基および4−メチルベンジル基が好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
【0052】
一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体のPは、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはトリフェニルメチル基を表す。その中でもtert−ブトキシカルボニル基およびベンジルオキシカルボニル基が好ましく、ベンジルオキシカルボニル基が特に好ましい。
【0053】
一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体は、特許文献2、第5版実験化学講座16有機化合物の合成IVカルボン酸・アミノ酸・ペプチド(日本化学会編平成17年丸善発行)の2アミノ酸・ペプチド、Tetrahedron Letters(英国),1998年,第39巻,p.1169−1172等を参考にして同様に製造することができる。
【0054】
脱ヒドロキシフッ素化剤としては、特に制限はないが、SO/有機塩基(式中、SOはスルフリルフルオリドを表す。有機塩基の存在下にSOと反応させることを意味する;特開2006−290870号公報)、RfSOF/有機塩基[式中、RfはCF(トリフルオロメチル基)またはn−C(n−ノナフルオロブチル基)を表す。有機塩基の存在下にRfSOFと反応させることを意味する;特開2005−336151号公報]、3フッ化ジエチルアミノイオウ(DAST;A)、3フッ化ビス(2−メトキシエチル)アミノイオウ(B)、ヤロベンコ試薬(CTT;C)、石川試薬(PPDA;D)、2,2−ジフルオロ−1,3−ジメチルイミダゾリジン(E)等が挙げられる(AからEは図4を参照)。その中でもSO/有機塩基、C、DおよびEが好ましく、SO/有機塩基が特に好ましい。CおよびDは、トリフルオロクロロエチレンまたはヘキサフルオロプロペンとジエチルアミンの付加物であるが、これら以外の類似する組み合わせ(例えば、テトラフルオロエチレン等のフルオロオレフィン、ジメチルアミン等の炭素数の異なるジアルキルアミン)から成る付加物も同様の脱ヒドロキシフッ素化能を期待することができるため、本発明における脱ヒドロキシフッ素化剤として扱う。上記の全ての脱ヒドロキシフッ素化剤は、低級アルコール、フッ化水素または「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下に用いることもでき、この様な態様も本発明における脱ヒドロキシフッ素化剤として扱う。その中でも好適なSO/有機塩基において、さらに「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下に脱ヒドロキシフッ素化反応を行う態様が特に好ましい。
【化28】

【0055】
好適なSO/有機塩基におけるSOの使用量は、一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から10モルが好ましく、0.9から5モルが特に好ましい。
【0056】
好適なSO/有機塩基における有機塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)等が挙げられる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジンおよび2,4,6−コリジンが好ましく、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミンおよびピリジンが特に好ましい。これらの有機塩基は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0057】
好適なSO/有機塩基における有機塩基の使用量は、一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から20モルが好ましく、0.9から10モルが特に好ましい。
【0058】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」における有機塩基は、上記の好適なSO/有機塩基における有機塩基を好適に採用することができる。
【0059】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」における有機塩基とフッ化水素のモル比は、100:1から1:100の範囲で用いれば良く、50:1から1:50が好ましく、25:1から1:25が特に好ましい。アルドリッチ(Aldrich、2009−2010カタログ)から市販されている「トリエチルアミン1モルとフッ化水素3モルからなる錯体」または「ピリジン〜30%(〜10モル%)とフッ化水素〜70%(〜90モル%)からなる錯体」を用いるのが便利である。
【0060】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の使用量は、一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対してフッ化物イオン(F)として0.1モル以上を用いれば良く、0.3から30モルが好ましく、0.5から20モルが特に好ましい。
【0061】
RfSOF/有機塩基におけるRfSOFの使用量、有機塩基および該使用量は、好適なSO/有機塩基において記載したSOの使用量、有機塩基および該使用量と同様である。
【0062】
AからE等(類似付加物も対象)の使用量は、一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から10モルが好ましく、0.9から5モルが特に好ましい。
【0063】
脱ヒドロキシフッ素化剤を低級アルコールまたはフッ化水素の存在下に用いる場合、該使用量は、一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して0.01モル以上を用いれば良く、0.02から30モルが好ましく、0.03から20モルが特に好ましい。
【0064】
反応溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0065】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]または一般式[9]で示される光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して0.1L以上を用いれば良く、0.2から20Lが好ましく、0.3から10Lが特に好ましい。
【0066】
反応温度は、−60から+150℃の範囲で行えば良く、−50から+125℃が好ましく、−40から+100℃が特に好ましい。
【0067】
反応時間は、24時間以内の範囲で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0068】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[2]または一般式[10]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体(主生成物)と一般式[3]または一般式[11]で示される光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物を得ることができる。通常の後処理操作としては、反応終了液に無機塩基の水溶液を加えて有機溶媒で抽出し、回収有機層を水、食塩水または無機酸の水溶液で洗浄し、必要に応じて乾燥剤で乾燥し、有機溶媒を減圧除去することにより粗生成物を得ることができる。粗生成物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィー等により高い純度に精製することができるが、副生成物の除去を簡便に且つ効率良く行うことは困難である。
【0069】
次に、水素化反応&脱保護反応工程について詳細に説明する。
【0070】
水素化反応&脱保護反応工程では、一般式[2]または一般式[10]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体(主生成物)と一般式[3]または一般式[11]で示される光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応を行うことにより、式[4]または式[12]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン(目的物)と式[5]または式[13]で示される光学活性プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導する。この誘導では、光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体の炭素−炭素2重結合の水素化反応条件においてカルボキシル基の保護基(P)と2級アミノ基の保護基(P)の脱保護反応を同時に行うことができれば、光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体と光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体を含む反応生成物から光学活性トランス−4−フルオロプロリンと光学活性プロリンを含む反応処理物への誘導を1工程で行える。水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応の行う順序に制限はなく、任意の順序で行うことができる。また、好適な水素化反応条件を採用すれば4位フッ素原子の還元的脱フッ素化反応(水素原子への変換)は殆ど進行しない。仮に還元的脱フッ素化反応が少し進行しても、同じ不純物である光学活性プロリンに同様に誘導され除去することができる。
【0071】
水素化反応について具体的に説明する。
【0072】
水素化反応は、10族の遷移金属触媒の存在下に水素(H)と反応させることにより行う。本反応は、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、硫酸、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の酸または炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、シクロヘキシルアミン等の塩基の存在下に行うことにより円滑に進行する場合がある。脱保護反応を水素化反応の先に行う場合は、酸または塩基を原料基質の塩の形で供することもできる。しかしながら、好適な反応条件を採用することにより、必ずしも酸または塩基の存在下に行う必要はない。
【0073】
10族の遷移金属触媒としては、ニッケル触媒、パラジウム触媒、白金触媒が挙げられる。その中でもパラジウム触媒が好ましく、パラジウムスポンジ、パラジウム黒、パラジウム炭、パラジウムアルミナ、パラジウム炭酸カルシウム、パラジウム硫酸バリウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウムおよび塩化パラジウムが特に好ましい。
【0074】
10族の遷移金属触媒の使用量は、反応生成物に含まれる一般式[3]または一般式[11]で示される光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体1モルに対して0.000001モル以上を用いれば良く、0.00001から0.3モルが好ましく、0.00005から0.2モルが特に好ましい。
【0075】
水素の使用量は、反応生成物に含まれる一般式[3]または一般式[11]で示される光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体1モルに対して1モル以上を用いれば良く、大過剰の水素雰囲気下(大気圧)で行うのが好ましく、大過剰の加圧条件下が特に好ましい。また、脱保護反応も同時に行う場合は、該反応に必要な水素の使用量を加味して用いれば良い。
【0076】
大過剰の加圧条件下で行う場合の水素圧は、10MPa以下で行えば良く、0.01から5MPaが好ましく、0.05から3MPaが特に好ましい。
【0077】
水素化反応を酸または塩基の存在下に行う場合の該使用量は、一般式[2]または一般式[10]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体と一般式[3]または一般式[11]で示される光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体を含む反応生成物トータル1モルに対して0.1モル以上を用いれば良く、0.2から30モルが好ましく、0.3から20モルが特に好ましい。
【0078】
反応溶媒としては、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でもアルコール系および水が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよび水が特に好ましい。これらの反応溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0079】
反応溶媒の使用量は、一般式[2]または一般式[10]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン保護体と一般式[3]または一般式[11]で示される光学活性3,4−デヒドロプロリン保護体を含む反応生成物トータル1モルに対して0.1L以上を用いれば良く、0.2から30Lが好ましく、0.3から20Lが特に好ましい。
【0080】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0081】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[4]または一般式[12]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリンと一般式[5]または一般式[13]で示される光学活性プロリンを含む反応処理物を得ることができる。通常の後処理操作としては、反応終了液をセライト濾過、必要に応じてメンブランフィルターで濾過し、残渣をメタノールまたは水で洗浄し、濾洗液を減圧濃縮し、必要に応じて共沸減圧濃縮し、真空乾燥することにより粗生成物を固形物として得ることができる。本発明では、光学活性トランス−4−フルオロプロリンと光学活性プロリンの物性の違いを利用して分離するが、不純物の除去効率は遊離アミノ酸(HN−COH)の状態で最大となる。よって、粗生成物が酸または塩基との塩として回収される場合は、塩基または酸による中和、イオン交換樹脂による脱塩等により遊離アミノ酸に誘導して不純物除去工程に供する。
【0082】
脱保護反応を水素化反応の先に行う場合、上記の10族の遷移金属触媒、水素、必要に応じて用いる酸または塩基、および反応溶媒の使用量における基準対象化合物は、脱保護反応後の対応する化合物に名称を置き換える。
【0083】
脱保護反応について具体的に説明する。
【0084】
脱保護反応は、有機合成における一般的な方法を採用する。具体的には、Protective Groups in Organic Synthesis、Third Edition、1999、John Wiley & Sons、Inc.、第5版実験化学講座16有機化合物の合成IVカルボン酸・アミノ酸・ペプチド(日本化学会編平成17年丸善発行)の2アミノ酸・ペプチド、Tetrahedron Letters(英国),1998年,第39巻,p.1169−1172等を参考にして同様に行うことができる。これらの方法では、所望の脱保護反応のみが選択的に進行し、反応を通して主生成物の4位フッ素原子の立体化学は保持され、また副生成物の炭素−炭素2重結合は殆ど異性化しない。
【0085】
最後に、不純物除去工程について詳細に説明する。
【0086】
式[A]および式[B]の*は、不斉炭素を表す。
【0087】
式[A]の2位の絶対配置は、S(L)体またはR(D)体を採る。
【0088】
式[A]の2位と4位の相対配置は、トランスを採る。
【0089】
式[A]と式[B]の2位の立体化学は、同じ絶対配置を採る。
【0090】
不純物除去工程では、式[4]または式[12]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン(目的物)と式[5]または式[13]で示される光学活性プロリン(不純物)を含む反応処理物から目的物だけを選択的に回収する。この回収では、不純物の除去効率が格段に高いため、固形物の洗浄だけでも所望の効果を得ることができる。当然、再結晶を行えば洗浄を大幅に上回る効果を得ることもできるが、格段に簡便な洗浄だけでも十分な効果が得られることより、操作性の観点から本発明の好ましい態様である。このことは、再結晶の実施を制限するものではなく、必要に応じて有機合成における一般的な再結晶操作を採用することができる。具体的には、第5版実験化学講座1基礎編I実験・情報の基礎(日本化学会編平成15年丸善発行)、第5版実験化学講座4基礎編IV有機・高分子・生化学(日本化学会編平成15年丸善発行)、第5版実験化学講座5化学実験のための基礎技術(日本化学会編平成17年丸善発行)等を参考にして同様に行うことができる。また、再結晶溶媒は、下記の洗浄溶媒を好適に採用することができる。
【0091】
洗浄溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸tert−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノールおよび水が好ましく、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、アセトニトリル、プロピオニトリル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールおよび水が特に好ましい。これらの洗浄溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0092】
洗浄溶媒の使用量は、式[4]または式[12]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリンと式[5]または[13]で示される光学活性プロリンを含む反応処理物トータル1モルに対して0.05L以上を用いれば良く、0.1から30Lが好ましく、0.15から20Lが特に好ましい。
【0093】
洗浄は、攪拌しながら行うことにより不純物の除去効率を高めることができる。よって、攪拌洗浄は本発明の好ましい態様である。
【0094】
洗浄温度は、−40から+200℃の範囲で行えば良く、−20から+175℃が好ましく、0から+150℃が特に好ましい。また、洗浄終了後は室温まで徐々に降温し、氷冷下で熟成することが好ましい。
【0095】
洗浄時間は、24時間以内の範囲で行えば良く、不純物含有量および洗浄条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により固形物の不純物含有状況を追跡し、不純物が殆ど除去できた時点を終点とすることが好ましい。
【0096】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、式[4]または式[12]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリンの高純度品を得ることができる。通常の後処理操作としては、洗浄された固形物を濾過し、貧溶媒で洗浄し、真空乾燥することにより洗浄品を回収することができる。本発明では、回収された固形物の純度が向上し、濾洗液に不純物が濃縮される。また、洗浄操作を繰り返すことによりさらに高い純度に精製することができる。
【0097】
本発明で得られる式[4]または式[12]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリンは、Protective Groups in Organic Synthesis、Third Edition、1999、John Wiley & Sons、Inc.、第5版実験化学講座16有機化合物の合成IVカルボン酸・アミノ酸・ペプチド(日本化学会編平成17年丸善発行)の2アミノ酸・ペプチド等を参考にして同様にカルボキシル基または(および)2級アミノ基を保護することができる。
【0098】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0099】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【化29】

【0100】
で示されるシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体(液体クロマトグラフィー純度85.8%)35.5g(85.7mmolとする、1.00eq)、トルエン200mL(2.33L/mol)、ジイソプロピルエチルアミン38.7g(299mmol、3.49eq)とジイソプロピルエチルアミン・3フッ化水素18.4g(97.2mmol、1.13eq)を加え、スルフリルフルオリド12.2g(120mmol、1.40eq)をボンベより吹き込み、45℃で3時間攪拌した。反応終了液の液体クロマトグラフィー分析より変換率は99%であった。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム27.6g(200mmol、2.33eq)と水350mLから調製]を加え、酢酸エチル200mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル150mLで再抽出し、回収有機層を合わせて飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化30】

【0101】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン保護体(主生成物)と下記式
【化31】

【0102】
で示される3,4−デヒドロ−L−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物を34.4g得た(理論収量30.6g)。主生成物と副生成物の液体クロマトグラフィー純度はそれぞれ67.3%、10.3%(86.7:13.3)であった。主生成物のH−NMRと19F−NMRを下に示す。
【0103】
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl]、δ ppm;2.11(m、1H)、2.62(m、1H)、3.68(m、1H)、3.97(m、1H)、4.57(m、1H)、5.02(d、2H)、5.17(m、1H)、5.21(m、1H)、5.21(m、1H)、7.28(Ar−H、10H)。
【0104】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−15.31(m、1Fの4割)、−15.96(m、1Fの6割)。
【0105】
副生成物のH−NMRを下に示す。
【0106】
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl]、δ ppm;4.32(m、2H)、5.76(m、1H)、5.98(m、1H)/特徴的な領域のみ記載。
【0107】
上記で得られた主生成物と副生成物を含む反応生成物15.0g(37.4mmolとする、1.00eq)に、メタノール168mL(4.49L/mol)と5%パラジウム炭890mg(含水率50%、209μmol、0.00559eq)を加え、水素圧を500kPaに設定し、室温で終夜攪拌した。反応終了液のH−NMR分析より変換率は100%であった。反応終了液をセライト濾過し、さらにメンブランフィルターで濾過し、残渣をメタノールで洗浄し、濾洗液を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化32】

【0108】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(目的物)と下記式
【化33】

【0109】
で示されるL−プロリン(不純物)を含む反応処理物を5.60g得た(理論収量4.98g)。目的物と不純物の液体クロマトグラフィー純度はそれぞれ85.2%、9.77%(89.7:10.3)であった。また、シス−4−フルオロ−L−プロリン(4位立体異性体)は1.57%含まれていた。目的物のH−NMRと19F−NMRを下に示す。
【0110】
H−NMR[基準物質;3−トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム−d、重溶媒;DO]、δ ppm;2.28(m、1H)、2.76(m、1H)、3.61(m、1H)、3.73(m、1H)、4.41(m、1H)、5.53(m、1H)/カルボキシル基と2級アミノ基のプロトンは帰属できず。
【0111】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;(CDSO]、δ ppm;−12.72(m、1F)。
【0112】
不純物のH−NMRを下に示す。
【0113】
H−NMR[基準物質;3−トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム−d、重溶媒;DO]、δ ppm;2.04(m、3H)、2.36(m、1H)、3.34(m、1H)、3.43(m、1H)、4.13(m、1H)/カルボキシル基と2級アミノ基のプロトンは帰属できず。
【0114】
上記で得られた目的物と不純物を含む反応処理物5.50g(36.7mmolとする)に、エタノール27.5mL(0.749L/mol)と水16.5mL(0.450L/mol)を加え、60℃で30分間攪拌し(完全に溶解しない懸濁状態)、室温まで徐々に降温し、氷冷下で1時間熟成した。洗浄された固形物を濾過し、少量のエタノールで洗浄し、真空乾燥することにより、下記式
【化34】

【0115】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(洗浄品)を3.45g得た(理論収量4.89g)。脱ヒドロキシフッ素化反応からの3工程のトータル収率は70.6%であった。目的物と不純物の液体クロマトグラフィー純度はそれぞれ98.6%、0.766%(99.2:0.8)であった。また、シス−4−フルオロ−L−プロリン(4位立体異性体)は検出されなかった。
【0116】
原料基質としてシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体の代わりにシス−4−ヒドロキシ−D−プロリン保護体を用いても同様の結果を得ることができた。
【実施例2】
【0117】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【化35】

【0118】
で示されるシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体(ガスクロマトグラフィー純度94.4%)22.0g(74.4mmolとする、1.00eq)、トルエン110mL(1.48L/mol)、ジイソプロピルエチルアミン30.5g(236mmol、3.17eq)とジイソプロピルエチルアミン・3フッ化水素14.9g(78.7mmol、1.06eq)を加え、氷冷下でスルフリルフルオリド9.64g(94.5mmol、1.27eq)をボンベより吹き込み、45℃で3時間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より変換率は100%であった。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム10.0g(72.4mmol、0.973eq)と水90.0mLから調製]を加え、酢酸エチル200mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル100mLで再抽出し、回収有機層を合わせて1N塩酸100mL(100mmol、1.34eq)で洗浄し、10%食塩水100mLで洗浄し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化36】

【0119】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン保護体(主生成物)と下記式
【化37】

【0120】
で示される3,4−デヒドロ−L−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物を19.5g得た(理論収量20.9g)。収率は93.3%であった。主生成物と副生成物のガスクロマトグラフィー純度はそれぞれ84.6%、13.2%(86.5:13.5)であった。
【0121】
上記で得られた主生成物と副生成物を含む反応生成物全量19.5g(69.3mmol、1.00eq)のメタノール溶液[溶媒使用量80.0mL(1.15L/mol)]に、氷冷下で水酸化ナトリウム水溶液23.3g[水酸化ナトリウム3.30g(82.5mmol、1.19eq)と水20.0mLから調製]を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了液の薄層クロマトグラフィー分析より原料基質は検出されなかった。反応終了液を減圧濃縮し、トルエン80.0mLで共沸減圧濃縮し、残渣に2N塩酸60.0mL(120mmol、1.73eq)を加え、酢酸エチル100mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル50.0mLで再抽出し、回収有機層を合わせて10%食塩水30.0mLで洗浄し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化38】

【0122】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリンP保護体と下記式
【化39】

【0123】
で示される副生成物由来不純物−1を含む反応生成物を19.5g得た(理論収量18.5g)。トランス−4−フルオロ−L−プロリンP保護体と副生成物由来不純物−1のガスクロマトグラフィー純度(トリメチルシリルジアゾメタンでメチルエステル化して分析)はそれぞれ84.1%、13.1%(86.5:13.5)であった。トランス−4−フルオロ−L−プロリンP保護体のH−NMRと19F−NMRを下に示す。
【0124】
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDOD]、δ ppm;2.18(m、1H)、2.64(m、1H)、3.63(m、1H)、3.88(m、1H)、4.44(m、1H)、5.08(d、1H)、5.15(d、1H)、5.26(m、1H)、7.35(Ar−H、5H)/カルボキシル基のプロトンは帰属できず。
【0125】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDOD]、δ ppm;−13.71(m、1Fの4割)、−14.20(m、1Fの6割)。
【0126】
副生成物由来不純物−1のH−NMRを下に示す。
【0127】
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDOD]、δ ppm;4.27(m、2H)、5.84(m、1H)、6.04(m、1H)/特徴的な領域のみ記載。
【0128】
上記で得られたトランス−4−フルオロ−L−プロリンP保護体と副生成物由来不純物−1を含む反応生成物全量19.5g(69.3mmolとする、1.00eq)に、メタノール150mL(2.16L/mol)と5%パラジウム炭1.73g(含水率50%、406μmol、0.00586eq)を加え、水素圧を1.00MPaに設定し、室温で2時間攪拌した。反応終了液の19F−NMR分析より変換率は100%であった。反応終了液をセライト濾過し、さらにメンブランフィルターで濾過し、残渣を水300mLで洗浄し、濾洗液を減圧濃縮し、トルエン50.0mLで2回共沸減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化40】

【0129】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(目的物)と下記式
【化41】

【0130】
で示されるL−プロリン(不純物)を含む反応処理物を9.10g得た(理論収量9.23g)。加水分解反応からの2工程のトータル収率は98.6%であった。目的物と不純物の液体クロマトグラフィー純度はそれぞれ84.1%、7.69%(91.6:8.4)であった。また、シス−4−フルオロ−L−プロリン(4位立体異性体)は1.12%含まれていた。
【0131】
上記で得られた目的物と不純物を含む反応処理物全量9.10g(68.4mmol)に、トルエン63.0mL(0.921L/mol)とメタノール36.0mL(0.526L/mol)を加え、70℃で3時間攪拌し(完全に溶解しない懸濁状態)、室温まで徐々に降温し、氷冷下で1時間熟成した。洗浄された固形物を濾過し、少量のトルエンで洗浄し、真空乾燥することにより、下記式
【化42】

【0132】
で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(洗浄1回目品)を7.34g得た。回収率は80.7%であった。目的物と不純物の液体クロマトグラフィー純度はそれぞれ95.3%、1.90%(98.0:2.0)であった。また、シス−4−フルオロ−L−プロリン(4位立体異性体)は0.657%含まれていた。
【0133】
上記で得られた洗浄1回目品全量7.34g(55.1mmol)に、メタノール35.0mL(0.635L/mol)、イソプロパノール21.0mL(0.381L/mol)と水21.0mL(0.381L/mol)を加え、70℃で1時間攪拌し(完全に溶解しない懸濁状態)、室温まで徐々に降温し、氷冷下で30分間熟成した。洗浄された固形物を濾過し、少量のイソプロパノールで洗浄し、真空乾燥することにより、上記式で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(洗浄2回目品)を6.37g得た。回収率は86.8%であった。脱ヒドロキシフッ素化反応からの4工程のトータル収率は64.4%であった。目的物と不純物の液体クロマトグラフィー純度はそれぞれ98.8%、0.779%(99.2:0.8)であった。また、シス−4−フルオロ−L−プロリン(4位立体異性体)は検出されなかった。
【0134】
原料基質としてシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体の代わりにシス−4−ヒドロキシ−D−プロリン保護体を用いても同様の結果を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明で対象とする光学活性トランス−4−フルオロプロリンは医薬中間体として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[A]
【化1】

で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリンの製造方法において、式[A]で示される光学活性トランス−4−フルオロプロリン(目的物)と式[B]
【化2】

で示される光学活性プロリン(不純物)を含む反応処理物から目的物だけを選択的に回収することを特徴とする製造方法。
[式中、*は不斉炭素を表し、式[A]の2位の絶対配置はS(L)体またはR(D)体を採り、式[A]の2位と4位の相対配置はトランスを採る。式[A]と式[B]の2位の立体化学は同じ絶対配置を採る]
【請求項2】
一般式[1]
【化3】

で示されるシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、一般式[2]
【化4】

で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン保護体(主生成物)と一般式[3]
【化5】

で示される3,4−デヒドロ−L−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応を行うことにより、式[4]
【化6】

で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(目的物)と式[5]
【化7】

で示されるL−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−L−プロリンの製造方法。
[式中、Pはアルキル基、置換アルキル基、ベンジル基または置換ベンジル基を表し、Pはtert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはトリフェニルメチル基を表す。]
【請求項3】
式[6]
【化8】

で示されるシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、式[7]
【化9】

で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン保護体(主生成物)と式[8]
【化10】

で示される3,4−デヒドロ−L−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の還元的脱保護反応を同時に行うことにより、式[4]
【化11】

で示されるトランス−4−フルオロ−L−プロリン(目的物)と式[5]
【化12】

で示されるL−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−L−プロリンの製造方法。
[式中、Bnはベンジル基を表し、Cbzはベンジルオキシカルボニル基を表す]
【請求項4】
一般式[9]
【化13】

で示されるシス−4−ヒドロキシ−D−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、一般式[10]
【化14】

で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン保護体(主生成物)と一般式[11]
【化15】

で示される3,4−デヒドロ−D−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の脱保護反応を行うことにより、式[12]
【化16】

で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン(目的物)と式[13]
【化17】

で示されるD−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−D−プロリンの製造方法。
[式中、Pはアルキル基、置換アルキル基、ベンジル基または置換ベンジル基を表し、Pはtert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基またはトリフェニルメチル基を表す。]
【請求項5】
式[14]
【化18】

で示されるシス−4−ヒドロキシ−D−プロリン保護体の脱ヒドロキシフッ素化反応において得られる、式[15]
【化19】

で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン保護体(主生成物)と式[16]
【化20】

で示される3,4−デヒドロ−D−プロリン保護体(副生成物)を含む反応生成物に対して、水素化反応およびカルボキシル基の保護基と2級アミノ基の保護基の還元的脱保護反応を同時に行うことにより、式[12]
【化21】

で示されるトランス−4−フルオロ−D−プロリン(目的物)と式[13]
【化22】

で示されるD−プロリン(不純物)を含む反応処理物に誘導して、目的物だけを選択的に回収するトランス−4−フルオロ−D−プロリンの製造方法。
[式中、Bnはベンジル基を表し、Cbzはベンジルオキシカルボニル基を表す]

【公開番号】特開2012−1525(P2012−1525A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141001(P2010−141001)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】