説明

光学活性化合物の製造方法

【課題】二重結合もしくはニトロ基を有する化合物から不純物の少ない光学活性化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】ニトロレダクターゼがエノン化合物の二重結合を還元するので、ニトロレダクターゼ活性が低減又は消失した微生物に還元酵素遺伝子を導入して作製した組換え微生物を用いて、二重結合もしくはニトロ基を有する化合物を還元することにより、不純物含量の少ない光学活性化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニトロレダクターゼ活性を低減した微生物を宿主として作製した組換え微生物を触媒として用いることを特徴とする光学活性な化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性化合物である3−ブテン−2−オールの製造方法としては、次のものが知られている。
(1)加水分解酵素の作用によってラセミ体を光学分割する方法(特許文献1、特許文献2)、
(2)光学活性な2,3−エポキシアルコールを経由する方法(非特許文献1)や光学活性な乳酸を利用する方法(特許文献3)、
がある。(1)の方法では、光学分割反応であるためその収率は50%を越えることはなく経済的な方法と言い難い。(2)の方法では、高価な試薬を用いた多段階の反応であり、実用的とはいえない。また、
(3)安価なメチルビニルケトンを微生物や酵素によって立体選択的に還元する方法(特許文献4)、
が知られている。この方法は、光学純度の高い3−ブテン−2−オールを効率的に製造する方法であるが、メチルエチルケトンと2−ブタノールが副生成し、その除去が困難であることを本発明者らは明らかにした。
また、光学活性化合物であるニトロフェニルアルコール誘導体の製造方法としては、
(4)ラセミ体の2−ブロモ−1−(4−ニトロフェニル)エタノールにカルボン酸無水物存在下、微生物由来のリパーゼを作用させ、光学分割する方法(特許文献5)がある。(4)の方法では、光学分割反応であるためその収率は50%を越えることはなく経済的な方法と言い難い。また、
(5)ニトロアセトフェノンから微生物や酵素によって立体選択的に還元する方法(非特許文献2、特許文献6)がある。これらの方法は収率や生成物の蓄積濃度、光学純度が低いため、工業的に効率的な方法とは言い難い。
また、光学活性化合物である、2−置換プロパナール誘導体の製造方法として、以下の様な方法が知られている。
(6)プロリン誘導体を不斉補助基として用い、プロパナールを不斉アルキル化することにより、光学純度94%e.e.の(R)−2−メチルペンタナールを合成する方法(非特許文献3)。
(7)ベアウベリア・スルフレセンス(Beauveria Sulfurescens)を用いて2−メチル−2−ペンテナールを微生物還元して光学活性2−メチル−1−ペンタノールを取得し、これを酸化して光学活性2−メチルペンタナールを合成する方法(非特許文献4)。
(8)サッカロマイセス・セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のOld Yellow Enzyme2(OYE2)のような炭素-炭素二重結合を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて、安価に入手可能な2−ブチルアクロレインを立体選択的に還元することにより、(R)−2−メチル−ペンタールを簡便に製造する方法。
【0003】
しかしながら、(6)の方法では、不斉アルキル化反応に高価な不斉補助基が必要である。(7)の方法では、副生物である2−メチル−1−ペンテノールが多量に生成する。このようにいずれも工業的製法としては大きな課題を有している。また、(8)の方法で得られる(R)−2−メチル−ペンタールの光学純度は94.5%e.e.であり、不純物(光学異性体)を多く含んでいる。
【特許文献1】特開平1−132399公報
【特許文献2】特開平5−317090公報
【特許文献3】DE4219510公報
【特許文献4】特開2006−246772
【特許文献5】特許第3814766号
【特許文献6】特開2003−96029
【非特許文献1】J.Chem.Soc.Perkin Trans1,399(1993)
【非特許文献2】Tetrahedron,54,13059−13072(1998)
【非特許文献3】New Journal of Chemistry,24,973−975 (2000)
【非特許文献4】Tetrahedron,37,3825−3829(1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、エノン化合物から医薬品の中間体として有用な光学活性化合物を製造する方法において、不純物もしくは光学異性体の少ない光学活性化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、微生物を触媒としてメチルビニルケトンから光学活性な3−ブテン−2−オールを製造する方法において、不純物であるメチルエチルケトンと2−ブタノールの低減を目的に、これらの不純物の生成原因を調べた。その結果、微生物が有するニトロレダクターゼによりメチルビニルケトンの二重結合が還元されてメチルエチルケトンが生成すること、さらに、メチルビニルケトンのカルボニル基を還元する酵素によりメチルエチルケトンのカルボニル基が還元され2−ブタノールが生成することを発見した。本発明者らはニトロレダクターゼ遺伝子を破壊した微生物を取得し、この株を用いればメチルビニルケトンからメチルエチルケトン及び2−ブタノールの含量が少ない光学活性な3−ブテン−2−オールの製造が可能であることを見出した。
【0006】
また、ニトロレダクターゼはニトロアセトフェノンをアミノアセトフェノンに還元することから、ニトロレダクターゼ遺伝子を破壊した微生物を用いることにより、アミン体を副生成することなく、効率的に光学活性ニトロフェニルアルコール誘導体が製造できることを明らかにした。
【0007】
さらに、ニトロレダクターゼは2−ブチルアクロレインをラセミ体の2−メチル−ペンタールに還元することから、ニトロレダクターゼ遺伝子を破壊した微生物を用いることにより、光学純度の高い2−置換プロパナール誘導体を製造できることを明らかにした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、医薬品、農薬等の合成原料及び中間体として有用な3−ブテン−2−オールやニトロフェニルアルコール誘導体、2−置換プロパナール誘導体などの光学活性化合物をつくる還元反応において、ニトロレダクターゼ活性が低い宿主を用いることによって、不純物もしくは光学異性体の含量を低減した製造方法が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態で詳細に説明する。本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、本明細書において記述されている、DNAの単離、ベクターの調製、形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)等の成書に記載されている方法により実施できる。また、本明細書の記述に用いられる%は、特に断りのない限り、%(w/v)を意味する。
【0010】
本発明はニトロレダクターゼ活性が低い宿主微生物に、前記ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素のDNAを含むベクターを導入することにより作製した組換え微生物を用いて、カルボニル基もしくは炭素−炭素二重結合を還元することを特徴とする、光学活性化合物の製造方法である。
【0011】
本発明の「ニトロレダクターゼ」は、ニトロ基を還元し、アミノ基もしくはヒドロキシアミン基を生成する活性(以下、ニトロレダクターゼ活性と略記する)を有し、かつエノン化合物の炭素−炭素二重結合を還元する活性を有するポリペプチドである。好ましくはEC番号1.5.1.34のジヒドロプテリジンレダクターゼに分類される酵素であり、さらに好ましくはエシェリヒア(Escherichia)属の細菌由来のものである。最も好ましくはニトロレダクターゼNfsBである。NfsBは配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドである。また、配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列において1若しくは複数個(例えば、60個、好ましくは20個、より好ましくは15個、さらに好ましくは10個、さらに好ましくは5個、4個、3個、または2個以下)のアミノ酸が置換、挿入、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、上記ニトロレダクターゼ活性を有するポリペプチドであってもよい。なお、ニトロレダクターゼ活性の検出方法としては、例えば J.Biochem.120,736−744(1996)に記載の方法がある。
【0012】
配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失及び/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,Inc.,(1989))等に記載の公知の方法に準じて調製することができ、ニトロレダクターゼ活性を有する限り上記ポリペプチドに包含される。
【0013】
配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列において、アミノ酸が置換、挿入、欠失及び/または付加される場所は特に制限されないが、高度保存領域を避けるのが好ましい。ここで、高度保存領域とは、由来の異なる複数の酵素ついて、アミノ酸配列を最適に整列させて比較した場合に、複数の配列間でアミノ酸が一致している位置を表す。高度保存領域は、配列番号1に示したアミノ酸配列と、前述した他の微生物由来のアミノ基転移酵素のアミノ酸配列とを、GENETYX等のツールを用いて比較することにより確認することができる。
【0014】
置換、挿入、欠失及び/又は付加により改変されたアミノ酸配列としては、1種類のタイプ(例えば置換)の改変のみを含むものであっても良いし、2種以上の改変(例えば、置換と挿入)を含んでいても良い。
【0015】
また、置換の場合には、置換するアミノ酸は、置換前のアミノ酸と類似の性質を有するアミノ酸(同族アミノ酸)であることが好ましい。ここでは、以下に挙げる各群の同一群内のアミノ酸を同族アミノ酸とする。
(第1群:中性非極性アミノ酸)Gly, Ala, Val, Leu, Ile, Met, Cys, Pro, Phe
(第2群:中性極性アミノ酸)Ser, Thr, Gln, Asn, Trp, Tyr
(第3群:酸性アミノ酸)Glu, Asp
(第4群:塩基性アミノ酸)His, Lys, Arg
【0016】
置換、挿入、欠失及び/または付加されるアミノ酸の数としては、改変後のポリペプチドがアミノ基転移酵素(A)の活性を有する限り、特に制限されないが、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列と、配列同一性が85%以上であることが好ましい。配列同一性90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましく、99%以上が最も好ましい。配列同一性は、前記の高度保存領域の確認と同様にして、配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列と改変されたアミノ酸配列とを比較し、両方の配列でアミノ酸が一致した位置の数を比較総アミノ酸数で除し、さらに100を乗じた値で表される。
【0017】
ニトロレダクターゼ活性を有する限り、配列番号1に記載のアミノ酸配列に、付加的なアミノ酸配列を結合することができる。たとえば、ヒスチジンタグやHAタグのような、タグ配列を付加することができる。あるいは、他のタンパク質との融合タンパク質とすることもできる。また、ニトロレダクターゼ活性を有する限り、ペプチド断片であってもよい。
【0018】
本発明における「ニトロレダクターゼ活性が低い宿主微生物」とは、J.Biochem.120,736−744(1996)に記載の方法でニトロレダクターゼ活性を測定した場合、その比活性が0.5U/mg以下、好ましくは0.1U/mg以下である微生物、もしくは、野生型の宿主微生物よりもニトロレダクターゼ活性が低減・消失した変異型の宿主微生物である。この変異型の宿主微生物を取得する方法としては特に限定はなく変異処理法もしくは、遺伝子工学的手法でも良い。
【0019】
変異処理法としては微生物に公知の変異誘導法、例えば、変異誘発の物理的手段としては、紫外線照射、放射線照射等があり、化学的手段としては、エチルメタンスルホン酸、N−メチル−N´−ニトロソグアニジン等の変異剤を接触させる方法を適宜用いることにより行えばよい。
【0020】
遺伝子工学的手法としては、例えば、相同組換えにより破壊型遺伝子を、宿主染色体上の正常遺伝子と置換する方法が挙げられる。破壊型遺伝子は配列表の配列番号2のDNAにおいて1個以上のヌクレオチドが置換、挿入、欠失及び/または付加されており、かつ、そのDNAにコードされているポリペプチドが正常型遺伝子のコードするポリペプチドに比べニトロレダクターゼ活性が低減しているDNAである。例えば、配列表の配列番号2のDNAの任意の場所に、薬剤耐性等のマーカー遺伝子が挿入されたDNAが好ましい。相同組換えにより破壊型遺伝子を、宿主染色体上の正常遺伝子と効率良く置換する方法としては、例えば、Environ. Mutagen.Res.25,87−92(2003)に記載の(1)Linear Transformation、(2)Preligation法、(3)One−Step inactivation methodなどがある。
【0021】
また、アンチセンスDNA法によりニトロレダクターゼ活性を低減することもできる。例えば、Nucleic Acids Research,34,(2006)に記載の方法でニトロレダクターゼをコードするDNAのアンチセンスDNAを導入することにより得られたニトロレダクターゼ活性を低減した宿主微生物の利用も本発明に含まれる。
【0022】
変異型宿主微生物のニトロレダクターゼ活性が低減・消失していることを確認する方法としては、例えば、J.Biochem.120,736−744(1996)に記載の方法で野生型及び変異型宿主微生物のニトロレダクターゼ活性を測定し、変異型宿主微生物のニトロレダクターゼ活性が消失しているか、もしくは、野生型の微生物よりも低下していればよい。例えば、野生型宿主微生物のニトロレダクターゼ活性を100%としたときに、変異型宿主微生物の活性が95%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下であればよい。また、本発明においては、ニトロレダクターゼの活性測定の変わりに実施例に示すエノン化合物の炭素−炭素二重結合の還元酵素活性を測定することでも確認できる。
【0023】
本発明に用いる宿主生物は、ニトロレダクターゼ活性が当初から低いか、野生型よりも低減されており、ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素を発現することができる生物であれば、特に制限はされない。利用可能な微生物としては、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、及びラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属及びストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クライベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ピキア(Pichia)属、及びキャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母、ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、及びトリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ、などが挙げられる。これらのうち、導入及び発現効率から細菌が好ましく、大腸菌が特に好ましい。
【0024】
遺伝子工学的手法で得られるニトロレダクターゼ活性を低減させた宿主微生物の例としては、奈良先端科学技術大学院大学(日本国奈良県生駒市高山町8916番地5)が保有する大腸菌一遺伝子破壊株KeioコレクションのEscherichia coli(以下、E.coli) JWK0567株が挙げられる(参考文献(a)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97,6640−6645(2000)、 参考文献(b) Molecular Systems Biology2 Article number: 2006.0008doi:10.1038/msb4100050 Published online (2006))。
【0025】
本発明で製造される光学活性化合物の原料はエノン合物、もしくはニトロ基を有するカルボニル化合物である。前記還元酵素がカルボニル基を還元する酵素を用いる場合の原料としては、一般式(1);
【0026】
【化7】

(式中、R1は直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す。)で表される化合物が好ましく、この場合、得られる光学活性化合物は一般式(2);
【0027】
【化8】

(式中、R1は直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基、*は不斉炭素をそれぞれ表す。)である。より好ましくは、前記R1が直鎖もしくは分岐鎖状の炭素数1〜10のアルキル基である。さらに好ましくは直鎖の炭素数1〜5の低級アルキル基である。最も好ましくは前記R1がメチル基である。
【0028】
また、前記還元酵素がカルボニル基を還元する酵素を用いる場合の原料としては、
一般式(3);
【0029】
【化9】

(式中、nは0以上の整数、R2はハロゲン原子、水酸基、置換されていても良いアルコキシ基、置換されていても良いアルキル基またはアミノ基を表し、R3、R4は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換されていても良いアルコキシ基、置換されていても良いアルキル基、またはアミノを示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい、また、ニトロ基はパラ位もしくはメタ位に置換されていること表す)であり、得られる光学活性化合物が一般式(4);
【0030】
【化10】

(式中、R2、R3、R4は前記と同じ*は不斉炭素をそれぞれ表す。)であってもよい。
【0031】
好ましくはnが0〜10の整数、R2がハロゲン原子あるいは直鎖もしくは分岐鎖状の炭素数1〜10のアルキル基、R3及びR4が水素原子である。より好ましくはnが0〜5の整数R2がハロゲン原子もしくは炭素数1〜5の低級アルキル基、R3及びR4が水素原子である。最も好ましくはnが0、R2がメチル基、R3及びR4が水素原子、ニトロ基がメタ位に置換されている化合物である。
【0032】
また、前記の炭素−炭素二重結合を還元する酵素を用いる場合の原料としては、一般式(3);
【0033】
【化11】

(式中、R2は直鎖または分岐鎖状のアルキル基、もしくはアラルキル基を表す。)で表される化合物が好ましく、この場合、得られる光学活性化合物は、一般式(4);
【0034】
【化12】

(式中、R2は直鎖または分岐鎖状のアルキル基、もしくはアラルキル基を、*は不斉炭素を表す。)である。より好ましくは、前記R2が直鎖もしくは分岐鎖状の炭素数1〜10のアルキル基、もしくは炭素数6〜15のアラルキル基である。さらに好ましくは直鎖の炭素数1〜5の低級アルキル基もしくは炭素数6〜10のアラルキル基である。最も好ましくは前記R2がブチル基もしくはフェニル基である。
【0035】
「ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素」としてはニトロレダクターゼ活性を検出できない酵素もしくは、EC番号1.5.1.34以外のEC番号1に分類される酵素であればよい。好ましくは、カルボニル基を還元する酵素又は炭素−炭素二重結合を還元する酵素である。なお、ニトロレダクターゼ活性の検出方法としては、例えば J.Biochem.120,736−744(1996)に記載の方法がある。
【0036】
光学活性化合物の原料がエノン化合物である場合に利用するカルボニル基を還元する酵素としては、特に特開2066−246772に記載のものが好ましく、具体的にはアクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デボシア(Devosia)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ツカムレラ(Tsukamurella)属、キャンディダ(Candida)属、ディポダスカス(Dipodascus)属、ピキア(Pichia)属、ロードスポリジウム(Rhodosporidium)属、およびロドトルラ(Rhodotorula)属からなる群より選ばれた微生物由来のものである。さらに好ましくは、アクロモバクター・デニトリフィカンズ(Achromobacter denitrificans)、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)、セルロモナス・エスピー(Cellulomonas sp.)、セルロモナス・ウダ(Cellulomonas uda)、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、シュードモナス・ツトゼリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ツカムレラ・パウロメタボラ(Tsukamurella paurometabola)、キャンディダ・インコンスピシア(Candida inconspicua)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・マリス(Candida maris)キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、ディポダスカス・テトラスペルマ(Dipodascus tetrasperma)、ピキア・ミヌータ・バー・ミヌータ(Pichia minuta var.minuta)、ピキア・ヘンリッキ(Pichia henricii)、ロードスポリディウム・ディオボバタム(Rhodosporidium diobovatum)、ロードスポリジウム・スファエロカプム(Rhodosporidium sphaerocarpum)、ロードスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、およびロドトルラ・グルチニス・バー・グルチニス(Rhodotorula glutinis var.glutinis)からなる群より選ばれた微生物由来のものである。
【0037】
光学活性化合物の原料がニトロ基を有するカルボニル化合物である場合に利用するカルボニル基を還元する酵素としては、キャンディダ(Candida)、デボシア(Devosia)、ロドトルーラ(Rhodotorula)属からなる群より選ばれた微生物由来のものが好ましく、さらに好ましくはキャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・マリス(Candida maris)、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)からなる群より選ばれた微生物由来のものである。
【0038】
光学活性化合物の原料がエノン化合物である場合に利用する炭素−炭素二重結合を還元する酵素としては、アクロモバクター(Achromobacter)属、アシディフィリウム(Acidiphilium)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、バシラス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エシェリヒア(Escherichia)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、パエニバシラス(Paenibacillus)属、ザントモナス(Xanthomonas)属キャンディダ(Candida)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、スポリディオボルス(Sporidiobolus)属、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、トリゴノプシス(Trigonopsis)属、およびチゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属からなる群より選ばれた微生物由来のものである。さらに好ましくはアクロモバクター・キシロキダンス サブスピーシーズ デニトリフィカンス(Achromobacter xylosoxidans subsp. denitrificans)、アシディフィリウム・クリプタム(Acidiphilium cryptum)、アルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)、アルカリゲネス・スピーシーズ(Alcaligenes sp.)、アースロバクター・クリスタロポエテス(Arthrobacter crystallopoietes)、アースロバクター・プロトフォロミス(Arthrobacter protophormise)アースロバクター・ニコチアーネ(Arthrobacter nicotianae)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バシラス・リヘニホルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・プミラス(Bacillus pumilus)バシラス・バディウス(Bacillus badius)、バシラス・ファエリクス(Bacillus sphaericus)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、エシェリヒア・コリ ビー(Escherichia coli B)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、シュードモナス・シュッツエリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、パエニバシラス・アルベイ(Paenibacillus alvei)、ザントモナス・スピーシーズ(Xanthomonas sp.)、キャンディダ・カンタレリ(Candida cantarellii)、キャンディダ・エチェルシー(Candida etchellsii)、キャンディダ・ケフィル(Candida kefyr)、キャンディダ・ムサエ(Candida musae)、キャンディダ・ニトラトフィラ(Candida nitratophila)、キャンディダ・サケ(Candida sake)、キャンディダ・ステラータ(Candida stellata)、キャンディダ・ジラノイデス(Candida zeylanoides)、クライベロマイセス・ラクティス バー ドロソフィラルム(Kluyveromyces lactis var. drosphilarum)、ピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピキア・ヒーディー(Pichia heedii)、ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotorula minuta)サッカロマイセス・ユニスポラス(Saccharomyces unisporus)、サッカロマイセス・バヤナス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・カステリ(Saccharomyces castellii)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、スポリディオボルス・ジョンソニー(Sporidiobolus johnsonii)、スポリディオボルス・サルモニコラ(Sporidiobolus salmonicolor)、スポロボロマイセス・サルモニコラ(Sporobolomyces salmonicolor)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)、およびチゴサッカロマイセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)からなる群より選ばれた微生物由来のものである。これら微生物は一般に、入手または購入が容易な保存株から得ることができるが、自然界から分離することもできる。なお、これらの微生物に変異を生じさせて、より光学活性化合物の製造に有利な性質を有する酵素を得ることもできる。
【0039】
本発明に用いるニトロレダクターゼとは異なる還元酵素遺伝子の導入方法としては、公知の遺伝子工学的手法を用いることができるが、特に、ベクターを用いた導入方法が効率的である。ベクターとしては、適当な宿主生物内でニトロレダクターゼとは異なる還元酵素の遺伝子を発現できるものであれば、特に限定されない。例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクターなどが挙げられ、さらに、他の宿主株との間での遺伝子交換が可能なシャトルベクターも使用できる。
【0040】
このようなベクターは、例えば大腸菌の場合では、通常、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lppプロモーター、tufBプロモーター、recAプロモーター、pLプロモーター等の制御因子を含み、本発明のDNAと作動可能に連結された発現単位を含む発現ベクターとして好適に使用できる。例えば、pUCN18(実施例2参照)、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUCNT(国際公開第WO94/03613号パンフレット)などが挙げられる。
【0041】
本明細書で用いる用語「制御因子」は、機能的プロモーター及び、任意の関連する転写要素(例えばエンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有する塩基配列をいう。
【0042】
本明細書で用いる用語「作動可能に連結」とは、遺伝子の発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントと遺伝子が、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。制御因子のタイプ及び種類が、宿主に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0043】
各種生物において利用可能なベクター、プロモーターなどに関して「微生物学基礎講座8遺伝子工学」(共立出版(東京)、1987)などに詳細に記述されている。
【0044】
また、ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素をコードするDNA、および、補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を含む形質転換体を本発明に用いることにより、より効率的に光学活性化合物を製造することができる。ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素をコードするDNA、および、補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を含む形質転換体は、ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素をコードするDNA、および、補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を、同一のベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入することにより得られるほか、これら2種のDNAを不和合性グループの異なる2種のベクターにそれぞれ組み込み、それら2種のベクターを同一の宿主細胞に導入することによっても得られる。
【0045】
補酵素再生能を有するポリペプチドとしては、酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(NAD+)もしくは酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)を還元型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(NADH)、もしくは還元型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)に変換する能力を有している酸化還元酵素が好ましい。
【0046】
このような酵素としては、例えば、ヒドロゲナーゼ、ギ酸脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素及びグルコース脱水素酵素などが挙げられる。好適には、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素が使用される。
【0047】
ギ酸脱水素酵素としては、例えば、キャンディダ(Candida)属、クロイッケラ(Kloeckera)属、ピキア(Pichia)属、リポマイセス(Lipomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、モラキセラ(Moraxella)属、ハイホマイクロビウム(Hyphomicrobium)属、パラコッカス(Paracoccus)属、チオバシラス(Thiobacillus)属、アンシロバクター(Ancylobacter)属、などの微生物、特にチオバシラス・エスピー(Thiobacillus sp.)から得られる酵素が挙げられる。
【0048】
グルコース脱水素酵素としては、例えば、バシラス(Bacillus)属などの微生物、特にバシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)から得られる酵素が挙げられる。
【0049】
ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素をコードするDNAを含むベクターの例としては、実施例に示すpNMCが挙げられる。ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素をコードするDNAを含むベクターは、公知の方法により宿主微生物に導入できる。例えば、宿主微生物として大腸菌を用いる場合は、公知の方法で作製したE. coli JWK0567のコンピテントセルに当該ベクターを導入すればよい。ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素をコードするDNAを含む形質転換体の例としては、実施例に示すベクターpNCMでE.coli JWK0567株を形質転換して得られる、E.coli JWK0567(pNCM)が挙げられる。
【0050】
本発明の反応に触媒として用いる組換え微生物(形質転換体)の形態としては、特に限定されないが、例えば組換え微生物の培養液、菌体、またはそれらの処理物などが挙げられる。ここで「処理物」とは、例えば、凍結乾燥品、アセトン乾燥品、摩擦物、自己消化物、超音波破砕物またはアルカリ処理物などを言い、目的とする活性が残存する限りは、本発明の反応に用いることができる。
【0051】
組換え微生物の培養は、通常これらの微生物が資化できる栄養源を含む培地であれば何でも使用しできる。例えば、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、エタノール、グリセリン等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油脂類、またはこれらの混合物等の炭素源;硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源;更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源;を適宜混合・配合した通常の培地を用いることが出来る。これら培地は用いる微生物の種類によって適宜選択すればよい。
【0052】
組換え微生物の培養は通常一般の条件により行なうことができ、例えば、pH4.0〜9.5、温度範囲20〜45℃の範囲で、好気的に10〜96時間培養するのが好ましい。カルボニル化合物に微生物を反応させる場合においては、通常、上記微生物の菌体を含んだ培養液をそのまま反応に使用することもできるが、培養液の濃縮物も用いることができる。また、培養液中の成分が反応に悪影響を与える場合には、培養液を遠心分離等により処理して得られる菌体または菌体処理物を使用することも出来る。
【0053】
カルボニル化合物の還元反応の際には、基質であるカルボニル化合物を反応の初期に一括して添加してもよく、反応の進行にあわせて分割して添加してもよい。反応時の温度は通常10〜60℃、好ましくは、20〜40℃であり、反応時のpHは2.5〜9、好ましくは、5〜9の範囲である。反応液中の酵素源の量はこれらの基質を還元する能力に応じ適宜決定すればよい。また、反応液中の基質濃度は0.01〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、0.1〜30%(W/V)である。反応は通常、振とうまたは通気攪拌しながら行なう。反応時間は基質濃度、酵素源の量及びその他の反応条件により適宜決定される。通常、2〜168時間で反応が終了するように各条件を設定することが好ましい。
【0054】
還元反応を促進させるために、反応液にグルコース、エタノール、イソプロパノールなどのエネルギー源を0.5〜30%の割合で加えると優れた結果が得られるので好ましい。一般に生物学的方法による還元反応に必要とされているNADH、NADPH等の補酵素を添加することにより、反応を促進させることもできる。この場合、具体的には、反応液に直接これらを添加する。
【0055】
また、補酵素再生能有するポリペプチドをコードするDNAを含まない形質転換体を反応に用いる場合は、反応を促進させるために、NAD+もしくはNADP+をそれぞれの還元型へ還元する酵素、及び還元するための基質を共存させて反応を行うと優れた結果が得られるので好ましい。例えば、酵素としてグルコース脱水素酵素、還元するための基質としてグルコースを共存させる。
【0056】
また更に、トリトン(ナカライテスク株式会社製)、スパン(関東化学株式会社製)、ツイーン(ナカライテスク株式会社製)などの界面活性剤を反応液に添加することも効果的である。更に、基質または還元反応の生成物であるアルコール体による反応の阻害を回避する目的で、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルエーテル、トルエン、ヘキサンなどの水に不溶な有機溶媒を反応液に添加してもよい。更に、基質の溶解度を高める目的で、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどの水に可溶な有機溶媒を添加することもできる。
【0057】
還元反応により生成したカルボニル化合物の採取は、特に限定されないが、反応液から直接、あるいは菌体等を分離後、酢酸エチル、トルエン、t−ブチルメチルエーテル、ヘキサン等の溶剤で抽出し、脱水後、蒸留あるいはシリカゲルカラムクロマトグラフィー等により精製すれば高純度のカルボニル化合物を容易に得ることが出来る。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。また、以下の記載において、「%」は特に断らない限り「重量%」を意味する。なお、以下の実施例において用いた組み換えDNA技術に関する詳細な操作方法などは、次の成書に記載されている:
Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、
Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
【0059】
(参考例1) 還元酵素RCM高発現組換え菌E.coli HB101(pNCM)の作製
メチルビニルケトンのカルボニル基を立体選択的に還元し、(S)−3−ブテン−2−オールを生成する還元酵素RCMを発現する組換え菌E.coli HB101(pNCM)の作製の方法を以下に示す。プライマー1(配列表の配列番号3):5’−GGGAATTCCATATGTCAATTCCATCTACTCAATAC−3’、プライマー2(配列表の配列番号4):5’−CCGGAATTCTTATGGATGGAAAACAACTCTACC−3’を用い、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)IFO 1977株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。その結果、還元酵素RCM遺伝子の開始コドン部分にNdeI認識部位が付加され、かつ終始コドンの直後にEcoRI認識部位が付加された二本鎖DNAを得た。PCRは、DNAポリメラ−ゼとして、Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。
【0060】
上記のPCRで得られたDNA断片をNdeI及びEcoRIで消化し、プラスミドpUCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No.L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)のlacプロモーターの下流のNdeI認識部位とEcoRI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNCMを構築した。この組換えベクターpNCMを用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pNCM)を得た。
【0061】
(比較例1)組換え菌 E.coli HB101(pNCM)を用いた(S)−3−ブテン−2−オールの製造
E.coli HB101(pNCM)を200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス0.5%、NaCl1.0%、pH7.0)500mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。培養液250mlを遠心分離により100mlに濃縮した後、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液100mlを得た。この無細胞抽出液100mlに、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)2000U、グルコース18.4g、NAD+10mgを添加し、30℃で攪拌した。これにメチルビニルケトン1.8gを加え、5Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpH5.5に調整しながら、30℃で攪拌を続けた。19時間の反応ののち、反応液を200mlの塩化メチレンで5回抽出し、得られた有機層をあわせて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除去し、常圧下有機溶媒を留去したのち、常圧で蒸留し、1.5gの(S)−3−ブテン−2−オールを得た(沸点96℃)。得られた(S)−3−ブテン−2−オールの光学純度は、99.6%e.e.であった。また、不純物としてメチルエチルケトンが1.0area%、2−ブタノールが13.5area%含まれていた。これらの不純物は蒸留操作で除去できなかった。
【0062】
なお、(S)−3−ブテン−2−オールの生成量及びメチルエチルケトン及び2−ブタノールの量(不純物量)は下記のガスクロマトグラフィー条件で分析することにより決定した。
【0063】
[ガスクロマトグラフィー分析条件]
カラム:GLサイエンス株式会社製 InertCap5(30m×0.25mm)
検出:FID
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:35℃
保持時間:3−ブテン−2−オール2.65分、メチルビニルケトン2.71分、メチルエチルケトン2.82分、2−ブタノール2.87分
不純物量(area%)=メチルエチルケトン(もしくは2−ブタノール)のピーク面積÷3−ブテン−2−オールのピーク面積×100
【0064】
なお、生成した3−ブテン−2−オールの光学純度は、ジニトロベンゾイル化後、HPLC分析することにより測定した。3−ブテン−2−オールのジニトロベンゾイル化は、反応液から3−ブテン−2−オールを塩化メチレンで抽出後、トリエチルアミン及び3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルを3−ブテン−2−オールの1.2等量添加後、室温で2時間攪拌することにより行なった。1N塩酸で洗浄後、分取用薄層クロマトグラフィーにより精製取得し、これをエタノールに溶解後、下記の高速液体クロマトグラフィー条件で分析し、光学純度を求めた。
【0065】
[高速液体クロマトグラフィー分析条件]
カラム:ダイセル化学工業株式会社製 Chiralpak AD−H(250mm×4.6mm
溶離液:n−ヘキサン/エタノール=7/3
流速:1.0ml/min
検出:245nm
保持時間:S体 17.2分、R体 11.0分
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100 (A及びBは対応する鏡像異性体量を表し、A>Bである)。
【0066】
(実施例1)メチルエチルケトン、2−ブタノール生成の確認
メチルビニルケトンからメチルケトン、2−ブタノールが生成する原因を調べた。比較例1に示した方法で、 E.coli HB101(pNCM)、E.coli HB101(pUCN18)(E.coli HB101株にプラスミドpUCN18を形質転換した株)を培養した。また、E.coli HB101を2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス0.5%、NaCl1.0%、pH7.0)500mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。それぞれの培養液1mlについて超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液1mlを得た。この無細胞抽出液1mlに16mMのNADHを含む1Mリン酸緩衝液(pH5.5)0.1ml、メチルビニルケトンもしくは3−ブテン−2−オールを1.4mMになるように添加し、30℃で5分間反応した。反応液を1mlのジクロロメタンで抽出し、有機層を実施例1に示すガスクロマトグラフィーの分析条件で分析した。結果を表1に示す。また、グルコース脱水素酵素を添加したもの、培養液の代わりに水を用いたもの(ブランク)についても同様の操作により、メチルエチルケトン、2−ブタノールの生成を調べた。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
宿主E.coli HB101でメチルエチルケトンが検出されたことから、宿主E.coli HB101の作用により、メチルビニルケトンからメチルエチルケトンが副生成していることが分かった。
【0069】
また、E.coli HB101(pNCM)にのみ2−ブタノールが検出されたことから、メチルエチルケトンのカルボニル基が還元酵素RCMにより還元されて2−ブタノールが副生成していることが明らかになった。
【0070】
(実施例2)エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101からのメチルビニルケトン二重結合還元酵素の精製
以下の方法に従って、E.coli HB101株より、メチルビニルケトンの二重結合を還元してメチルエチルケトンを生成する活性を有するポリペプチドを電気泳動的に単一にまで精製した。特に断りのない限り、精製操作は4℃で行った。
【0071】
メチルビニルケトンの二重結合に対する還元活性は以下の方法で測定した。2.8mMのメチルビニルケトン及び3.2mMの補酵素NADHを含む1Mリン酸緩衝液(pH5.5)に、粗酵素液を添加し、30℃で5分間反応させた後、反応液をジクロロメタンで抽出し、ガスクロマトグラフィー分析により、メチルエチルケトンの生成量を求めた。本反応条件において、1分間に1μmolのメチルビニルケトンをメチルエチルケトンに還元する活性を、1unitと定義し、下記式より還元活性を算出した。
【0072】
メチルビニルケトンの二重結合に対する還元活性(U/ml)=メチルエチルケトンのエリア面積÷(メチルビニルケトンのエリア面積+メチルエチルケトンのエリア面積)×反応に用いたメチルビニルケトン量(μmol)÷反応時間(分)÷酵素液量(ml)
【0073】
(1)微生物の培養
5Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ社製)に、肉エキス10g、ペプトン15g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム3g、アデカノールLG−109(日本油脂製)0.1g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH6)3Lを調製し、120℃で20分間蒸気殺菌をおこなった。この培地に、予め同培地にて前培養しておいたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)HB101株の培養液を30ml接種し、攪拌回転数400rpm、通気量0.9NL/min、37℃で24時間培養を行った。
【0074】
(2)無細胞抽出液の調製
上記の培養液から遠心分離により菌体を集め、0.9%塩化ナトリウム水溶液を用いて菌体を洗浄した。この菌体を、1mMのβ−メルカプトエタノールを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、SONIFIER250型超音波破砕機(BRANSON社製)を用いて破砕した後、遠心分離にて菌体残渣を除き、無細胞抽出液を得た。
【0075】
(3)プロタミン処理
無細胞抽出液の10分の1量の10%(w/v)硫酸プロタミン溶液を無細胞抽出液加えて4℃で2時間攪拌後、生じた沈殿を遠心分離により除去した。
【0076】
(4)ポリペプチドの精製
プロタミン処理後の無細胞抽出液を、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で予め平衡化したDEAE−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(400ml)に供し、活性画分を吸着させた。同一緩衝液でカラムを洗浄した後、NaClのリニアグラジエント(0Mから0.2Mまで)により活性画分を溶出させた。この活性画分を集めて、次に10mM酢酸緩衝液(pH5.0)で予め平衡化したCM−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(70ml)に供し、活性画分を吸着させた。同一緩衝液でカラムを洗浄した後、NaClのリニアグラジエント(0Mから0.2Mまで)により活性画分を溶出させた。活性画分を集めて、さらに10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で予め平衡化したSuperQ TOYOPEARL 650S(東ソー株式会社製)カラム(400ml)に供し、活性画分を吸着させた。同一緩衝液でカラムを洗浄した後、NaClのリニアグラジエント(0Mから0.2Mまで)により活性画分を溶出させた。
【0077】
(5)ポリペプチドの同定
活性画分を集めて、UltrafreeMC(ミリポア株式会社社製)により酵素液を濃縮した。濃縮した酵素液についてSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後、エレクトロブロッティングによってPVDF膜に転写し、クマシーブリリアントブルー染色によって可視化された約26kDa目的タンパクのバンドを切り出し、アミノ酸配列をABI492型プロテインシーケンサー(パーキンエルマー社製)により決定した。決定したN末端アミノ酸配列「MDIISVALK」について、The National Center for Biotechnology Informationが提供するブラストサーチを用いた相同性検索を行った。その結果、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)のニトロレダクターゼNfsBのN末端アミノ酸配列と100%一致した。
【0078】
(実施例3)ニトロレダクターゼNfsB高発現組換え大腸菌E.coli HB101(pNNR)の作製
ニトロレダクターゼNfsBを高発現する組換え大腸菌を作製した。プライマー3(配列表の配列番号5):5’−GGAGTCCATATGGATATCATTTCTG−3’、プライマー4(配列表の配列番号6):5’−GGCAAGCTGCAGTTACACTTCGGTT−3’を用い、E.coli HB101株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。その結果、配列表の配列番号2に示す塩基配列からなる遺伝子の開始コドン部分にNdeI認識部位が付加され、かつ終始コドンの直後にEcoRI認識部位が付加された二本鎖DNAを得た。PCRは、DNAポリメラ−ゼとして、Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。
【0079】
上記のPCRで得られたDNA断片をNdeI及びEcoRIで消化し、プラスミドpUCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No.L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)のlacプロモーターの下流のNdeI認識部位とEcoRI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNNRを構築した。この組換えベクターpNNRを用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pNNR)を得た。E.coli HB101(pNNR)、E.coli HB101(pUCN18)、E.coli HB101を実施例1に示した方法で培養し、得られた培養液のメチルビニルケトンの二重結合還元活性を実施例2に示した方法で測定した。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
E.coli HB101(pNNR)はE.coliHB101(pUCN18)よりもメチルビニルケトンの二重結合還元活性が高いことから、ニトロレダクターゼNfsBがメチルビニルケトンの二重結合を還元し、メチルエチルケトンを生成することが確認できた。
【0082】
(実施例4)ニトロレダクターゼ遺伝子破壊組換え菌E.coli JWK0567(pNCM)の作製
ニトロレダクターゼNfsBの遺伝子を破壊したE.coli JWK0567株を奈良先端科学技術大学院大学が保有する大腸菌一遺伝子破壊株Keioコレクションから入手した(参考文献(a)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97,6640−6645(2000)、 参考文献(b) Molecular Systems Biology2 Article number: 2006.0008doi:10.1038/msb4100050 Published online (2006))。E.coli JWK0567株及びE.coli HB101を実施例1に示した方法で培養し、得られた培養液のメチルビニルケトンの二重結合還元活性を実施例2に示した方法で測定した。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
E.coli JWK0567はE.coli HB101よりもメチルビニルケトンの炭素―炭素二重結合還元活性が低かった。E.coliJWK0567株から塩化カルシウム法にてコンピテントセルを作製した。参考例1に示した組換えベクターpNCMを用いて、E.coliJWK0567株コンピテントセルを形質転換し、E.coli JWK0567(pNCM)を得た。
【0085】
(実施例5)組換え菌 E.coli JWK0567(pNCM)を用いた(S)−3−ブテン−2−オールの製造
E.coli JWK0567(pNCM)を200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)500mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。培養液250mlを遠心分離により100mlに濃縮した後、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液100mlを得た。この無細胞抽出液100mlに、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)2000U、グルコース18.4g、NAD+10mgを添加し、30℃で攪拌した。これにメチルビニルケトン1.8gを加え、5Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpH5.5に調整しながら、30℃で攪拌を続けた。19時間の反応後の反応変換率は96%であった。また、(S)−3−ブテン−2−オールの光学純度は99.0%e.e.であり、不純物としてメチルエチルケトンが0.1area%、2−ブタノールが1.6area%含まれていた。反応変換率、光学純度、不純物量は比較例1と同様にして決定した。
【0086】
ニトロレダクターゼNfsBの遺伝子を破壊したE.coliを宿主として作製した還元酵素組み換え菌を触媒とすることにより、比較例1に比べて、不純物(メチルエチルケトン及び2−ブタノール)含量が少ない(S)−3−ブテン−2−オールを得ることができた。
【0087】
(比較例2)組換え菌 E.coli HB101(pNCM)を用いた(S)−1−(m−ニトロフェニル)エタノールの製造
E.coli HB101(pNCM)を比較例1と同様の方法で培養した。この培養液1mlについて、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液1mlを得た。この無細胞抽出液900μlに、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)5U、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、1Mリン酸緩衝液(pH6.5)100μl、m−ニトロアセトフェノン10mgを添加し、30℃で攪拌した。24時間の反応ののち、反応液を2mlの酢酸エチルで抽出し、反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層中の基質及び生成物量をガスクロマトグラフィー(GC)法により分析することで、反応変換率及び、生成物の光学純度を求めた。変換率は97%であり、生成物(S)−1−(m−ニトロフェニル)エタノールの光学純度は99%e.e.以上であった。また、不純物として
m−アミノアセトフェノンが0.4area%、1−(m−アミノフェニル)エタノールが0.25area%含まれていた。分析条件は以下の通りである。
【0088】
[GC分析条件]
生成物及び不純物分析
キャピラリーカラム:Rtx−5 Amine φ0.25mm I.D.×30m(Restek社製)、キャリアーガス:He 150kPa、検出器:FID、カラム温度:130℃、検出時間:m−ニトロアセトフェノン 25.6分、1−(m−ニトロフェニル)エタノール 36.8分、m−アミノアセトフェノン 21.7分、1−(m−アミノフェニル)エタノール 18.6分
不純物量は次式より算出した。
【0089】
不純物量(area%)=(m−アミノアセトフェノンもしくはm−アミノフェニルエタノールのピーク面積)÷(1−(m−ニトロフェニル)エタノールのピーク面積)×100
【0090】
光学純度分析
キャピラリーカラム:Cyclodex−β φ0.25mm I.D.×60m(J&W Scientific社製)、キャリアーガス:He 300kPa、検出器:FID、カラム温度:180℃、検出時間:(R)−1−(m−ニトロフェニル)エタノール 29.3分、(S)−1−(m−ニトロフェニル)エタノール 29.7分
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100 (A及びBは対応する鏡像異性体量を表し、A>Bである)。
【0091】
(実施例6)組換え菌E.coli HB101(pNNR)を用いたニトロアセトフェノンの還元反応
実施例1に示した方法で、E.coli HB101(pNNR)を培養した。E.coli HB101(pNNR)の培養液900μl、1Mリン酸緩衝液(pH6.5)100μl、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、グルコース脱水素酵素(天野エンザイム社製)5Uを加えた。その後、基質m−ニトロアセトフェノンもしくはp−アセトフェノン10mgを加え、30℃で24時間攪拌した。反応後、反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層中の基質及び生成物量を比較例2に示した方法で分析することにより、反応変換率及び、生成物の光学純度を求めた。m−ニトロアセトフェノンからm−アミノアセトフェノンへの変換率は5.6%であった。p−ニトロアセトフェノンからp−アミノアセトフェノンへの変換率は5.0%であった。
【0092】
ニトロレダクターゼNfsBを発現させたE.coli HB101(pNNR)はm位及p位がニトロ基に置換されたアセトフェノンのニトロ基をアミノ基に還元することが明らかになった。
【0093】
(実施例7)組換え菌 E.coli JWK0567(pNCM)を用いた(S)−1−(m−ニトロフェニル)エタノールの製造
E.coli JWK0567(pNCM)を比較例1と同様の方法で培養した。この培養液1mlについて、比較例2と同様の方法で反応した。24時間の反応ののち、反応液を2mlの酢酸エチルで抽出し、反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層中の基質及び生成物量を比較例2に示した方法で分析することにより、反応変換率及び、生成物の光学純度を求めた。変換率は98%、生成した(S)−1−(m−ニトロフェニル)エタノールの光学純度は99%e.e.以上であった。また、不純物としてm−アミノフェニルエタノールが0.14area%含まれていた。m−アミノアセトフェノンは検出されなかった。
【0094】
ニトロレダクターゼNfsBの遺伝子を破壊したE.coliを宿主として作製した還元酵素組み換え菌を触媒とすることにより、比較例2に比べて不純物の少ない(S)−1−(m−ニトロフェニル)エタノールを得ることができた。また、本実験で用いた還元酵素RCMの代わりに、参考例2に示すような組換え菌が発現する還元酵素を用いても光学活性な(S)−1−(m−ニトロフェニル)エタノールを得ることができる。
【0095】
(参考例2)光学活性1−(m−ニトロフェニル)エタノールの製造
実施例1に示した方法で表4に示す組換え大腸菌を培養した。この培養液を用いて、比較例2と同様の方法で反応した。24時間の反応ののち、反応液を2mlの酢酸エチルで抽出し、反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層中の基質及び生成物量を比較例2に示した方法で分析することにより、反応変換率及び、生成物の光学純度を求めた。結果を表4に示す。なお、各組換え大腸菌の作製方法については、国際特許公報WO2001−005996、WO2004−027055、WO2003−093477に記載されている。
【0096】
【表4】

【0097】
(参考例3)還元酵素OYE2高発現組換え菌E.coli HB101(pTSYE2)の作製
2−ブチルアクロレインの炭素−炭素二重結合を立体選択的に還元し、(R)−2−メチルヘキサナールを生成する還元酵素OYE2を発現する組換え菌E.coli HB101(pTSYE2)の作製の方法を以下に示す。プライマー5(配列表の配列番号7):5’−CGGTCCAGATATAGAATAAATCATCATATTAAG−3’、プライマー6(配列表の配列番号8):5’−GAAATGGTGCTACAAAGTACGGTTAACAC−3’を用い、サッカロマイセス・セレビジエ S288C(ATCC26108)(Saccharomyce cerevisiae S288C (ATCC26108))株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。その結果、還元酵素OYE2の開始コドン部分にNdeI認識部位が付加され、かつ終始コドンの直後にSacI認識部位が付加された二本鎖DNAを得た。PCRは、
DNAポリメラ−ゼとして、Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。
【0098】
上記のPCRで得られたDNA断片をNdeI及びSacIで消化し、プラスミドp
UCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No.L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)のlacプロモーターの下流のNdeI認識部位とSacI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNCMを構築した。この組換えベクター
pTSYE2を用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pTSYE2)を得た。
【0099】
(比較例3)組換え菌 E.coli HB101(pTSYE2)を用いた(R)−2−メチル−1−ヘキサナールの製造
E.coli HB101(pTSYE2)を200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス0.5%、NaCl1.0%、pH7.0)500mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。培養液2mlを遠心分離により1mlに濃縮し、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液1mlを得た。この無細胞抽出液500μlに、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)5U、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、0.2Mリン酸緩衝液(pH6.5)500μl、2−ブチルアクロレイン10mgを添加し、30℃で攪拌した。19時間の反応ののち、反応液を2mlの酢酸エチルで抽出し、反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層中の基質及び生成物量をガスクロマトグラフィー(GC)法により分析することで、反応変換率及び、生成物の光学純度を求めた。変換率は100%であり、生成物(R)−2−メチル−1−ヘキサナールの光学純度は94.5%e.e.であった。分析条件は以下の通りである。
【0100】
[GC分析条件]
キャピラリーカラム:Cyclodex−β φ0.25mm I.D.×60m(J&W Scientific社製)、キャリアーガス:He 300kPa、検出器:FID、カラム温度:45℃、検出時間:(R)−2−メチル−1−ヘキサナール 49.9分、(S)−2−メチル−1−ヘキサナール 51.5分、2−ブチルアクロレイン 44.6分
変換率は99.7%、生成した(R)−2−メチル−1−ヘキサナールの光学純度は94.5%e.e.であった。
【0101】
(実施例8)組換え菌E.coli HB101(pNNR)を用いた2−ブチルアクロレインの還元反応
実施例1に示した方法で、E.coli HB101(pNNR)を培養した。E.coli HB101(pNNR)の培養液900μl、1Mリン酸緩衝液(pH6.5)100μl、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、グルコース脱水素酵素(天野エンザイム社製)5Uを加えた。その後、基質2−ブチルアクロレインを10mg加え、30℃で20時間攪拌した。反応後、反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層中の基質及び生成物量を比較例3に示した方法で分析することにより、反応変換率及び、生成物の光学純度を求めた。変換率は100%であり、生成物2−メチル−1−ヘキサナールはラセミ体であった。
【0102】
ニトロレダクターゼNfsBは2−ブチルアクロレインを還元しラセミ体の2−メチル−1−ヘキサナールを生成することが明らかになった。
【0103】
(実施例9)ニトロレダクターゼ遺伝子破壊組換え菌E.coli JWK0567(pTSYE2)の作製
E.coliJWK0567株から塩化カルシウム法にてコンピテントセルを作製した。参考例2に示した組換えベクターpTSYE2を用いて、E.coliJWK0567株コンピテントセルを形質転換し、E.coli JWK0567(pTSYE2)を得た。
【0104】
(実施例10)組換え菌 E.coli JWK0567(pTSYE2)を用いた(R)−2−メチル−1−ヘキサナールの製造
E.coli JWK0567(pTSYE2)を200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)500mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。培養液2mlを遠心分離により1mlに濃縮した後、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液1mlを得た。この無細胞抽出液500μlに、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)5U、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、0.2Mリン酸緩衝液(pH6.5)500μl、2−ブチルアクロレイン10mgを添加し、30℃で攪拌した。19時間の反応ののち、反応液を2mlの酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を比較例3に示した方法で変換率と光学純度を分析した。変換率は99.7%、生成した(R)−2−メチル−1−ヘキサナールの光学純度は95.0%e.e.であった。
【0105】
ニトロレダクターゼNfsBの遺伝子を破壊したE.coliを宿主として作製した還元酵素組み換え菌を触媒とすることにより、比較例3に比べて光学純度が向上した(R)−2−メチル−1−ヘキサナールを得ることができた。また、本実験で用いた還元酵素OYE2の代わりに、参考例4及び5に示すような微生物から得られた酵素を用いても光学活性な2−メチル−1−ヘキサナールを得ることもができる。
【0106】
(参考例4)光学活性2−メチル−1−ヘキサナールの製造
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表5に示した微生物をそれぞれ1白金耳植菌し、30℃で2〜3日間振盪培養した。この培養液から遠心分離により菌体を集め、菌体を水洗し、氷冷アセトンを添加した後、減圧乾燥することによりアセトン乾燥菌体を調製した。試験管に、アセトン乾燥菌体5mgを量り取り、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)500μlに懸濁させた。この溶液に、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、グルコース脱水素酵素(天野エンザイム社製)5Uを加えた。その後、基質2−ブチルアクロレイン2mgを酢酸エチル500μlに溶解させて試験管に加え、30℃で20時間攪拌した。反応後、反応液を遠心分離し、酢酸エチル層中の基質及び生成物量を比較例3に示した方法で分析することにより、反応変換率、及び、生成物の光学純度を求めた。その結果を表5に示す(反応変換率は10〜100%)。
【0107】
実施例8で用いた還元酵素OYE2の代わりにこれらの微生物が有する酵素を用いても光学活性な2−メチル−1−ヘキサナールの製造が可能である。
【0108】
【表5】

【0109】
(参考例5)光学活性2−メチル−1−ヘキサナールの製造方法
肉エキス1%、ペプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム1%からなる液体培地(pH6.5)を調製し、大型試験管に5mlづつ分注して、120℃で20分間蒸気滅菌した。これらの液体培地に表6に示した微生物をそれぞれ1白金耳植菌し、30℃で2〜3日間振盪培養した。この培養液から遠心分離により菌体を集め、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)1mlで洗浄し、同緩衝液500μlに再懸濁させ、試験管に移した。この溶液に、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、グルコース脱水素酵素(天野エンザイム社製)5Uを加えた。その後、基質2−ブチルアクロレイン2mgを酢酸エチル500μlに溶解させて試験管に加え、30℃で20時間攪拌した。反応後、反応液を遠心分離し、酢酸エチル層中の基質及び生成物量を比較例3と同様の方法で分析することにより、反応変換率、及び、生成物の光学純度を求めた。その結果を表6に示す(反応変換率は10〜100%)。
【0110】
実施例10で用いた還元酵素OYE2の代わりにこれらの微生物が有する酵素を用いても光学活性な2−メチル−1−ヘキサナールの製造が可能である。
【0111】
【表6】

【0112】
(比較例4)組換え菌 E.coli HB101(pTSYE2)を用いた(R)−2−メチル−3−フェニルプロパナールの製造
E.coli HB101(pTSYE2)を200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス0.5%、NaCl1.0%、pH7.0)500mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。培養液2mlを遠心分離により1mlに濃縮し、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液1mlを得た。この無細胞抽出液500μlに、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)5U、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、0.2Mリン酸緩衝液(pH6.5)500μl、2−ベンジルアクロレイン10mgを添加し、30℃で攪拌した。19時間の反応ののち、反応液を2mlの酢酸エチルで抽出し、有機層中の基質及び生成物量をガスクロマトグラフィー(GC)法により分析することで、反応変換率及び光学純度を求めた。
【0113】
[GC分析条件]
キャピラリーカラム:Cyclodex−β φ0.25mm I.D.×60m(J&W Scientific社製)、キャリアーガス:He 300kPa、検出器:FID、カラム温度:80℃、検出時間:(R)−2−メチル−3−フェニルプロパナール 113.9分、(S)−2−メチル−3−フェニルプロパナール 116.9分、2‐ベンジルアクロレイン 96.2分
変換率は99.3%、生成した(R)−2−メチル−3−フェニルプロパナールの光学純度は94.7%e.e.であった。
【0114】
(実施例11)組換え菌E.coli HB101(pNNR)を用いた2−ベンジルアクロレインの還元反応
実施例1に示した方法で、HB101(pNNR)を培養した。HB101(pNNR)の培養液900μl、1Mリン酸緩衝液(pH6.5)100μl、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、グルコース脱水素酵素(天野エンザイム社製)5Uを加えた。その後、基質2−ベンジルアクロレインを10mg加え、30℃で20時間攪拌した。反応後、反応液を酢酸エチルで抽出し、比較例4に示した分析方法で分析した。反応変換率は100%であり、生成物2−メチル−3−フェニルプロパナールはラセミ体であった。
【0115】
ニトロレダクターゼNfsBは2−ベンジルアクロレインを還元しラセミ体の2−メチル−3−フェニルプロパナールを生成することが明らかになった。
【0116】
(実施例12)組換え菌 E.coli JWK0567(pTSYE2)を用いた(R)−2−メチル−3−フェニルプロパナールの製造
実施例10と同様の方法で得たE.coli JWK0567(pTSYE2)の培養液2mlを遠心分離により1mlに濃縮した後、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、無細胞抽出液1mlを得た。この無細胞抽出液500μlに、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)5U、グルコース25mg、NAD及びNADP各0.5mg、0.2Mリン酸緩衝液(pH6.5)500μl、2−ベンジルアクロレイン10mgを添加し、30℃で攪拌した。19時間の反応ののち、反応液を2mlの酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を比較例4に示した方法で変換率と光学純度を分析した。変換率は100%、生成した(R)−2−メチル−3−フェニルプロパナールの光学純度は95.2%e.e.であった。
【0117】
ニトロレダクターゼNfsBの遺伝子を破壊したE.coliを宿主として作製した還元酵素組み換え菌を触媒とすることにより、比較例4に比べて 光学純度が向上した(R)−2−メチル−3−フェニルプロパナールを得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロレダクターゼ活性が低い宿主微生物に、前記ニトロレダクターゼとは異なる還元酵素のDNAを導入することにより作製した組換え微生物を用いた還元反応による、光学活性化合物の製造方法。
【請求項2】
前記還元酵素がカルボニル基を還元する酵素であり、前記還元反応の基質がエノン化合物、もしくはニトロ基を有するカルボニル化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記微生物がエシェリヒア属(Escherichia)の微生物である、請求項1または2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
前記ニトロレダクターゼが以下の(a)又は(b)で表されるポリペプチドである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(a)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失または付加されたアミノ酸配列からなり、かつニトロレダクターゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項5】
前記還元酵素がエノン化合物のカルボニル基を還元する酵素であって、前記エノン化合物が、一般式(1);
【化1】

(式中、R1は直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す。)であり、得られる光学活性化合物が一般式(2);
【化2】

(式中、R1は前記と同じ、*は不斉炭素をそれぞれ表す。)である、請求項1〜2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
1が直鎖もしくは分岐鎖状の炭素数1〜10のアルキル基である、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
アルキル基がメチル基である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記カルボニル基を還元する酵素が、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デボシア(Devosia)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ツカムレラ(Tsukamurella)属、キャンディダ(Candida)属、ディポダスカス(Dipodascus)属、ピキア(Pichia)属、ロードスポリジウム(Rhodosporidium)属、およびロドトルラ(Rhodotorula)属からなる群より選ばれた微生物由来のものである、請求項5記載の製造方法。
【請求項9】
前記カルボニル基を還元する酵素が、アクロモバクター・デニトリフィカンズ(Achromobacter denitrificans)、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)、セルロモナス・エスピー(Cellulomonas sp.)、セルロモナス・ウダ(Cellulomonas uda)、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、シュードモナス・ツトゼリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ツカムレラ・パウロメタボラ(Tsukamurella paurometabola)、キャンディダ・インコンスピシア(Candida inconspicua)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・マリス(Candida maris)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、ディポダスカス・テトラスペルマ(Dipodascus tetrasperma)、ピキア・ミヌータ・バー・ミヌータ(Pichia minuta var.minuta)、ピキア・ヘンリッキ(Pichia henricii)、ロードスポリディウム・ディオボバタム(Rhodosporidium diobovatum)、ロードスポリジウム・スファエロカプム(Rhodosporidium sphaerocarpum)、ロードスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、およびロドトルラ・グルチニス・バー・グルチニス(Rhodotorula glutinis var.glutinis)からなる群より選ばれた微生物由来のものである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記還元酵素がカルボニル基を還元する酵素であり、前記ニトロ基を有するカルボニル化合物が、一般式(3);
【化3】

(式中、nは0以上の整数、R2はハロゲン原子、水酸基、置換されていても良いアルコキシ基、置換されていても良いアルキル基またはアミノ基を表し、R3、R4は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換されていても良いアルコキシ基、置換されていても良いアルキル基、またはアミノを示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい、また、ニトロ基はパラ位もしくはメタ位に置換されていること表す)であり、得られる光学活性化合物が一般式(4);
【化4】

(式中、n、R2、R3、R4は前記と同じ*は不斉炭素をそれぞれ表す。)である、請求項1〜2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
2が直鎖もしくは分岐鎖状の炭素数1〜10のアルキル基、R3及びR4が水素原子、である、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
nが0、R2がメチル基、R3及びR4が水素原子、ニトロ基がメタ位にある請求項10記載の製造方法。
【請求項13】
前記カルボニル基を還元する酵素が、キャンディダ(Candida)、デボシア(Devosia)、ロドトルーラ(Rhodotorula)属からなる群より選ばれた微生物由来のものである、請求項10記載の製造方法。
【請求項14】
前記カルボニル基を還元する酵素が、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・マリス(Candida maris)、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)からなる群より選ばれた微生物由来のものである、請求項10記載の製造方法。
【請求項15】
前記還元酵素がエノン化合物の炭素−炭素二重結合を還元する酵素であり、前記エノン化合物が、一般式(5);
【化5】

(式中、R2は直鎖または分岐鎖状のアルキル基、もしくはアラルキル基を表す。)であり、得られる光学活性化合物が一般式(6);
【化6】

(式中、R2は直鎖または分岐鎖状のアルキル基、もしくはアラルキル基を、*は不斉炭素を表す。)である、請求項1〜2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
2が直鎖もしくは分岐鎖状の炭素数1〜10のアルキル基、もしくは炭素数6〜15アラルキル基ある、請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
2がブチル基もしくはフェニル基である、請求項15記載の製造方法。
【請求項18】
前記炭素−炭素二重結合を還元する酵素が、アクロモバクター(Achromobacter)属、アシディフィリウム(Acidiphilium)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、バシラス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エシェリヒア(Escherichia)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、パエニバシラス(Paenibacillus)属、ザントモナス(Xanthomonas)属、キャンディダ(Candida)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、スポリディオボルス(Sporidiobolus)属、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、トリゴノプシス(Trigonopsis)属、およびチゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属からなる群より選ばれた微生物由来のものである、請求項15記載の製造方法。
【請求項19】
前記炭素−炭素二重結合を還元する酵素が、アクロモバクター・キシロキダンス サブスピーシーズ デニトリフィカンス(Achromobacter xylosoxidans subsp. denitrificans)、アシディフィリウム・クリプタム(Acidiphilium cryptum)、アルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)、アルカリゲネス・スピーシーズ(Alcaligenes sp.)、アースロバクター・クリスタロポエテス(Arthrobacter crystallopoietes)、アースロバクター・プロトフォロミス(Arthrobacter protophormise)アースロバクター・ニコチアーネ(Arthrobacter nicotianae)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バシラス・リヘニホルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・プミラス(Bacillus pumilus)バシラス・バディウス(Bacillus badius)、バシラス・ファエリクス(Bacillus sphaericus)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、エシェリヒア・コリ ビー(Escherichia coli B)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、シュードモナス・シュッツエリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、パエニバシラス・アルベイ(Paenibacillus alvei)、ザントモナス・スピーシーズ(Xanthomonas sp.)、キャンディダ・カンタレリ(Candida cantarellii)、キャンディダ・エチェルシー(Candida etchellsii)、キャンディダ・ケフィル(Candida kefyr)、キャンディダ・ムサエ(Candida musae)、キャンディダ・ニトラトフィラ(Candida nitratophila)、キャンディダ・サケ(Candida sake)、キャンディダ・ステラータ(Candida stellata)、キャンディダ・ジラノイデス(Candida zeylanoides)、クライベロマイセス・ラクティス バー.ドロソフィラルム(Kluyveromyces lactis var. drosphilarum)、ピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピキア・ヒーディー(Pichia heedii)、ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotorula minuta)サッカロマイセス・ユニスポラス(Saccharomyces unisporus)、サッカロマイセス・バヤナス(Saccharomyces bayanus)サッカロマイセス・セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・カステリ(Saccharomyces castellii)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、スポリディオボルス・ジョンソニー(Sporidiobolus johnsonii)、スポリディオボルス・サルモニコラ(Sporidiobolus salmonicolor)、スポロボロマイセス・サルモニコラ(Sporobolomyces salmonicolor)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)、およびチゴサッカロマイセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)からなる群より選ばれた微生物由来のものである請求項19記載の製造方法。
【請求項20】
酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド、及び/または、酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸をそれぞれの還元型へ還元する酵素と、該還元のための基質を、共存させることを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項21】
酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド、及び/または、酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸をそれぞれの還元型へ還元する酵素がグルコース脱水素酵素もしくはギ酸脱水素酵素である請求項20に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−110232(P2010−110232A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283385(P2008−283385)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】