説明

光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割

【課題】光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る工業的な光学分割を提供する。
【解決手段】分割剤に天然型L−(−)−リンゴ酸を用いて光学分割することにより、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得ることができる。さらに、分割剤に天然型L−(+)−酒石酸を用いて光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割と組み合わせることにより、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンの分割効率を改善することができる。また、本発明の光学分割において鍵ジアステレオマー塩となる、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩を新規化合物として見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンは、医農薬中間体として重要である。本発明に関連する従来技術として、分割剤にA(非特許文献1)、B(非特許文献2)、C(特許文献1)、D(非特許文献3)、E(非特許文献4)、F(非特許文献5)またはG(非特許文献6)を用いて、光学活性1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割が報告されている(図1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国公開第1760176号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Crystal Growth&Design(米国),2010年,第10巻,p.685−690
【非特許文献2】Tetrahedron:Asymmetry(オランダ),2006年,第17巻,p.1617−1621
【非特許文献3】Tetrahedron:Asymmetry(オランダ),2006年,第17巻,p.967−974
【非特許文献4】J.Org.Chem.(米国),2006年,第71巻,p.606−615
【非特許文献5】Tetrahedron:Asymmetry(オランダ),2004年,第15巻,p.585−587
【非特許文献6】Tetrahedron(英国),2000年,第56巻,p.6651−6655
【化1】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る工業的な光学分割を提供することにある。
【0006】
工業的な光学分割では、分割剤の入手容易性が問題となる。従来の分割剤は、Cを除いて全て(A、BおよびDからG)が煩雑な合成を必要とするため、工業的な光学分割には採用し難いものであった。一方、Cは天然型L−(+)−酒石酸であり、安価に大量規模で入手できるため、光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割を工業的に実施することができた。しかしながら、絶対配置が逆の光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得るには、格段に高価な非天然型D−(−)−酒石酸を用いる必要があり、工業的に光学分割を実施することができなかった。
【0007】
この様に、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る工業的な光学分割が実施できる好適な分割剤が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、分割剤に天然型L−(−)−リンゴ酸を用いて光学分割することにより、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンが得られることを見出した。さらに、分割剤に天然型L−(+)−酒石酸を用いて光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割と組み合わせることにより、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンの分割効率が改善できることも見出した。例えば、スキーム1で示す様に、1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンのラセミ体を天然型L−(−)−リンゴ酸を用いて光学分割すると、所望の光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩と母液−1が回収される(光学分割−1)。母液−1にはS体が過剰に含まれるため、もはやR体を効率良く回収することができない。そこで、母液−1(遊離塩基)を天然型L−(+)−酒石酸を用いて光学分割することにより、R体が過剰に含まれる母液−2を回収することができる(光学分割−2)。よって、母液−2(遊離塩基)に対して光学分割−1を繰り返すことにより、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを効率良く回収することができる。また、本発明の光学分割において鍵ジアステレオマー塩となる、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩を新規化合物として見出した。
【0009】
この様に、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る有用な光学分割を見出し、本発明に到達した。
【化2】

【0010】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明3]を含み、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る工業的な光学分割を提供する。
【0011】
[発明1]
分割剤に天然型L−(−)−リンゴ酸を用いて、式[1]
【化3】

【0012】
で示される光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割の方法。
【0013】
[式中、Meはメチル基を表す]
[発明2]
分割剤に天然型L−(+)−酒石酸を用いて、式[2]
【化4】

【0014】
で示される光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割の方法を更に含む、発明1に記載の方法。
【0015】
[式中、Meはメチル基を表す]
[発明3]
式[3]
【化5】

【0016】
で示される光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩。
【0017】
[式中、Meはメチル基を表す]
【発明の効果】
【0018】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0019】
本発明の光学分割で用いる分割剤は、安価に大量規模で入手できる天然型L−(−)−リンゴ酸のため、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割を工業的に実施することができる。さらに、天然型L−(+)−酒石酸を用いて光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割と組み合わせることにより、分割効率を改善することができる。また、本発明の光学分割における鍵ジアステレオマー塩を新規化合物として提供する。
【0020】
この様に、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割における従来技術の問題点を解決することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割について詳細に説明する。
【0022】
式[1]、式[2]または式[3]で示される光学活性1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンまたは該構造部位のMeは、メチル基を表す。
【0023】
光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンは、ラセミ体または、R体もしくはS体が過剰に含まれるものである。「過剰」の程度は、特に制限はないが、通常は60%ee(エナンチオマー過剰率)以下であり、50%ee以下が好ましく、40%ee以下が特に好ましい。ラセミ体は、特許文献1、参考例1等を参考にして同様に製造することができる。R体またはS体が過剰に含まれるものは、特開2002−255908号公報等を参考にして同様に製造することができる。光学分割で得られる不要な光学異性体(S体)は、ラセミ化[Tetrahedron(英国),1997年,第53巻,p.9417−9476等]や4’−フルオロアセトフェノンへの変換[Synlett(ドイツ),2008年,第18巻,p.2769−2772等]等を行い再利用することができる。
【0024】
天然型L−(−)−リンゴ酸の使用量は、光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン1モルに対して0.35モル以上を用いれば良く、0.40から1.50モルが好ましく、0.45から1.25モルが特に好ましい。
【0025】
天然型L−(+)−酒石酸の使用量は、光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン1モルに対して0.35モル以上を用いれば良く、0.40から1.50モルが好ましく、0.45から1.25モルが特に好ましい。
【0026】
分割剤に天然型L−(−)−リンゴ酸と天然型L−(+)−酒石酸を組み合わせて用いる場合(発明2)は、光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンの立体化学(ラセミ体または、R体もしくはS体が過剰に含まれるもの)に制限はないが、R体が過剰に含まれるものに対しては、天然型L−(−)−リンゴ酸を用いて光学分割を行うのが好ましく、逆にS体が過剰に含まれるものに対しては、天然型L−(+)−酒石酸を用いて光学分割を行うのが好ましい。ラセミ体に対しては、スキーム1とは逆に、先に天然型L−(+)−酒石酸を用いて光学分割を行うこともできる。この場合には、R体が過剰に含まれる母液を回収することができ、引き続いて行う天然型L−(−)−リンゴ酸を用いる光学分割の分割効率を格段に改善することができる。
【0027】
光学分割の具体的な操作としては、有機合成における一般的な方法を採用することができる。具体的には、天然型L−(−)−リンゴ酸または天然型L−(+)−酒石酸とのジアステレオマー塩[1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンはR体とS体の混合物]を調製し、引き続いて該ジアステレオマー塩を再結晶精製する。再結晶精製には遊離塩基の回収工程も含まれ、該工程の方法についても後述する。
【0028】
ジアステレオマー塩の調製方法は、特に制限はないが、通常は調製溶媒に光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと、天然型L−(−)−リンゴ酸または天然型L−(+)−酒石酸を加え(当然、予め調製溶媒に別々に溶解した両化合物の溶液を混合することもできる)、加熱溶解し、調製溶媒を減圧濃縮することにより、ジアステレオマー塩(R体とS体の混合物)を得ることができる。好ましい態様として、該ジアステレオマー塩を単離することなく、調製時の加熱溶解液を直接、再結晶精製することもできる。ジアステレオマー塩の再結晶精製の方法は、特に制限はないが、通常は再結晶溶媒にジアステレオマー塩を加熱溶解し、徐々に室温まで降温し、必要に応じて氷冷下で熟成し、析出した結晶を濾過し、少量の再結晶溶媒で洗浄し、真空乾燥することにより、光学分割された(光学純度の高い)ジアステレオマー塩(R体またはS体)を得ることができる。再結晶精製を繰り返すことにより光学純度の更に高いジアステレオマー塩を得ることができる。
【0029】
ジアステレオマー塩の調製溶媒または再結晶溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でもメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよび水が好ましく、メタノール、エタノールおよび水が特に好ましい。これらの溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。
【0030】
ジアステレオマー塩の調製溶媒または再結晶溶媒の使用量は、光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン1モルに対して0.1L以上を用いれば良く、0.2から10Lが好ましく、0.3から5Lが特に好ましい。
【0031】
ジアステレオマー塩の調製または再結晶精製の(全操作工程を通しての)温度条件は、−30から+150℃の範囲で行えば良く、−20から+140℃が好ましく、−10から+130℃が特に好ましい。
【0032】
再結晶精製における結晶の析出方法は、特に制限はないが、通常は攪拌しながら行うのが好ましい。また、種結晶を加えることにより、結晶が円滑に且つ効率良く析出する場合がある。
【0033】
種結晶を加える場合の該使用量は、光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン1モルに対して0.00001モル以上を用いれば良く、0.0001から0.1モルが好ましく、0.0002から0.05モルが特に好ましい。
【0034】
再結晶精製における結晶の析出時間は、特に制限はないが、通常は72時間以内であり、分割剤および精製条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により、上澄み液に残存する所望のジアステレオマー塩の量を追跡して結晶が殆ど析出した時点を終点とすることが好ましい。
【0035】
再結晶精製後のジアステレオマー塩(R体またはS体)から光学活性(R)−または(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン(遊離塩基)を回収する方法は、特に制限はないが、通常は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基の水溶液で中和し、トルエン、酢酸エチル、塩化メチレン等の有機溶媒で抽出し、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥し、減圧濃縮することにより、光学純度を損なうことなく、目的とする光学活性(R)−または(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを収率良く回収することができる(中和抽出)。必要に応じて活性炭処理、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製を行うことにより、更に純度の高いものを得ることができる。
【0036】
発明2の様に、分割剤を組み合わせて光学分割を繰り返し行う場合には、回収した母液の化学純度が低下する傾向がある。この様な場合は、母液から(上記の中和抽出により)回収した遊離塩基を必要に応じて蒸留精製することができる。当然、この蒸留精製は必須ではなく、光学分割を効率良く行うための好ましい態様の1つである。
【0037】
本発明で記載した「光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩」および「光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(+)−酒石酸からなる塩」は、その構造式で示される化合物だけでなく、該化合物の溶媒和物または水和物も含まれるものとして扱う[実施例の「S体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩」および「R体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(+)−酒石酸からなる塩」も同様に扱う]。
【0038】
発明2(スキーム1を参照)を採用すると、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンだけでなく、同時に光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンの分割効率も改善することができる。よって、請求項2は、分割剤に天然型L−(−)−リンゴ酸と天然型L−(+)−酒石酸を組み合わせて用いて光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割も含まれるものとして扱う。
【0039】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。Meはメチル基を表す。
【0040】
[参考例1]
参考例1は、光学分割に供する1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンのラセミ体の製造に関する具体例である。
【0041】
氷水(氷5.00kg、水1.00kg)に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(HONH・HCl)815g(11.7mol、1.07eq)を加え、48%水酸化ナトリウム水溶液2.05kg(24.6mol、2.26eq)を10℃未満で加え、下記式
【化6】

【0042】
で示される4’−フルオロアセトフェノンのメタノール溶液[1.50kg(10.9mol、1.00eq)、溶媒使用量1.50L]を−5から+10℃で加え、室温で終夜攪拌した(懸濁状態)。変換率はガスクロマトグラフィーより100%であった。反応終了液に37%塩酸1.20kg(12.2mol、1.12eq)を氷冷下で加え(pH1)、トルエン4.00Lで抽出し、有機層を回収した。水層をトルエン4.00Lで再抽出し、回収有機層を合わせて部分的に減圧濃縮し、メタノール分を粗方取り除いた。残渣(トルエン溶液、pH4)を炭酸水素ナトリウムで中和し(pH7)、食塩水で洗浄した。回収トルエン層を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化7】

【0043】
で示される4’−フルオロアセトフェノンのオキシムを1.62kg得た。収率は97%であった。
【0044】
メタノール300mLに、上記で得られた4’−フルオロアセトフェノンのオキシム100g(653mmol、1.00eq)、5%パラジウム炭5.56g(含水率50%、1.31mmol、0.00201eq)と7Mアンモニアメタノール溶液373mL(2.61mol、4.00eq)を加え、水素(H)圧を1.00MPaに設定し、20から30℃で終夜攪拌した。変換率はガスクロマトグラフィーより100%であった。反応終了液をセライト濾過し、濾洗液を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化8】

【0045】
で示される1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンのラセミ体を89.1g得た。収率は98%であった。化学純度はガスクロマトグラフィーより99%であった。1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンのラセミ体のH−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
【0046】
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl]、δ ppm;1.36(3H)、1.47(2H)、4.12(1H)、7.00(2H)、7.31(2H)。
【0047】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;+45.25(1F)。
【実施例1】
【0048】
実施例1は、発明1と発明3に関する具体例である。
【0049】
メタノール40.0mL(1.33L/mol)に、参考例1を参考にして同様に製造した、下記式
【化9】

【0050】
で示される1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンのラセミ体4.18g(30.0mmol、1.00eq)と天然型L−(−)−リンゴ酸4.02g(30.0mmol、1.00eq)を加え、70℃で加熱溶解し、徐々に室温まで降温し、析出した結晶を濾過し、少量のメタノールで洗浄し、真空乾燥することにより、下記式
【化10】

【0051】
で示される光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩を3.58g得た(再結晶1回目品)。メタノール21.5mL(1.64L/mol)と水1.79mL(0.137L/mol)に、上記で得られた再結晶1回目品全量3.58g(13.1mmol)を加え、70℃で加熱溶解し、徐々に室温まで降温し、析出した結晶を濾過し、少量のメタノールで洗浄し、真空乾燥することにより、上記式で示される光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩を2.92g得た(再結晶2回目品)。光学純度はキラルガスクロマトグラフィー(遊離塩基をアセトアミド体へ誘導後)より98%eeであった。光学分割におけるR体のトータル回収率は71%であった。光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩のH−NMRおよび19F−NMRを下に示す。
【0052】
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDOD]、δ ppm;1.62(3H)、2.50(1H)、2.78(1H)、4.27(1H)、4.47(1H)、7.18(2H)、7.49(2H)/アミノ基、カルボキシル基およびヒドロキシル基のプロトンは帰属できず。
【0053】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDOD)、δ ppm;+50.59(1F)。
【0054】
氷6.56g、水4.92gと48%水酸化ナトリウム水溶液2.47g(29.6mmol、3.00eq)に、上記で得られた光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩の再結晶2回目品2.70g(9.88mmol、1.00eq)を加え(pH11)、トルエン9.84mLで抽出し、有機層を回収した。水層をトルエン4.92mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、クーゲルロールで蒸留することにより、下記式
【化11】

【0055】
で示される光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを1.13g得た。回収率は82%であった。化学純度はガスクロマトグラフィーより99%であった。光学純度は中和抽出に供した再結晶2回目品と同等であった(光学純度の低下は認められなかった)。光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンのH−NMRおよび19F−NMRは参考例1のラセミ体と同等であった。
【実施例2】
【0056】
実施例2は、発明2に関する具体例である。
【0057】
実施例1を参考にして同様に光学分割を行い、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩(再結晶1回目品と再結晶2回目品)を得た時の母液(再結晶1回目母液と再結晶2回目母液)を合わせて減圧濃縮することにより、下記式
【化12】

【0058】
で示されるS体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩を濃縮残渣として得た。上記で得られた母液の濃縮残渣全量[S体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンが19.3mmol含まれるものとする]に、氷12.8g、水9.61gと48%水酸化ナトリウム水溶液4.83g(58.0mmol、3.01eq)を加え(pH11)、トルエン19.2mLで抽出し、有機層を回収した。水層をトルエン9.61mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、クーゲルロールで蒸留することにより、下記式
【化13】

【0059】
で示されるS体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを1.75g得た。推定含有量(19.3mmol)に対する回収率は65%であった。化学純度はガスクロマトグラフィーより99%であった。光学純度はキラルガスクロマトグラフィー(遊離塩基をアセトアミド体へ誘導後)より54%eeであった。
【0060】
メタノール14.6mL(1.16L/mol)と水3.64mL(0.289L/mol)に、上記で得られたS体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミン全量1.75g(12.6mmol、1.00eq)と天然型L−(+)−酒石酸1.89g(12.6mmol、1.00eq)を加え、70℃で加熱溶解し、徐々に室温まで降温し、氷冷下で熟成し、析出した結晶を濾過し、少量のメタノールで洗浄し、真空乾燥することにより、下記式
【化14】

【0061】
で示される光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(+)−酒石酸からなる塩を2.45g得た。光学純度はキラルガスクロマトグラフィー(遊離塩基をアセトアミド体へ誘導後)より97%eeであった。光学分割におけるS体の回収率は86%であった。
【0062】
上記の光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(+)−酒石酸からなる塩を得た時の母液を減圧濃縮することにより、下記式
【化15】

【0063】
で示されるR体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(+)−酒石酸からなる塩を濃縮残渣として得た。上記で得られた母液の濃縮残渣全量[R体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンが4.13mmol含まれるものとする]に、氷2.74g、水2.06gと48%水酸化ナトリウム水溶液1.03g(12.4mmol、3.00eq)を加え(pH11)、トルエン4.11mLで抽出し、有機層を回収した。水層をトルエン2.06mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、クーゲルロールで蒸留することにより、下記式
【化16】

【0064】
で示されるR体が過剰に含まれる1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを0.397g得た。推定含有量(4.13mmol)に対する回収率は69%であった。化学純度はガスクロマトグラフィーより99%であった。光学純度はキラルガスクロマトグラフィー(遊離塩基をアセトアミド体へ誘導後)より34%eeであった。
【0065】
この様に、スキーム1における母液−2(R体過剰)の遊離塩基を回収することができた。該遊離塩基を用いて光学分割−1を繰り返すことにより、光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを効率良く回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明で対象とする光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンは、医農薬中間体として重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割剤に天然型L−(−)−リンゴ酸を用いて、式[1]
【化1】

で示される光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割の方法。
[式中、Meはメチル基を表す]
【請求項2】
分割剤に天然型L−(+)−酒石酸を用いて、式[2]
【化2】

で示される光学活性(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンを得る光学分割の方法を更に含む、請求項1に記載の方法。
[式中、Meはメチル基を表す]
【請求項3】
式[3]
【化3】

で示される光学活性(R)−1−(4−フルオロフェニル)エチルアミンと天然型L−(−)−リンゴ酸からなる塩。
[式中、Meはメチル基を表す]

【公開番号】特開2011−231071(P2011−231071A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104451(P2010−104451)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】