説明

光学物品およびその製造方法

【課題】防汚層の防汚性と耐擦傷性に優れた光学物品およびその製造方法を提供すること

【解決手段】光学物品10は、プラスチック基板11を備え、このプラスチック基板11
の両面にハードコート層12と、反射防止層13と、防汚層14が設けられている。防汚
層14を構成する化合物は、プラスチック基板と反応する反応基を有する反応性化合物と
、プラスチック基板と反応しない非反応性化合物と、を含有している。また、反応性化合
物および非反応性化合物は、フッ素含有有機ケイ素化合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面層として防汚層を備えた光学物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズ等の光学物品の表面には、その付加価値を高めるために種々の膜や層が形成
される。例えば、表面での反射を低減するための反射防止層が形成され、さらにその表面
には撥水撥油性を備えた表面層として防汚層が設けられる。この防汚層は、光学物品を使
用する際に付着する手垢、汗または化粧品など汚れの付着を防ぎ、これらの汚れが付着し
たとしても、拭取りやすくするために設けられている。
防汚層の形成には、防汚剤分子として主にフッ素含有の有機化合物が用いられている(
例えば、特許文献1参照)。
このような有機化合物は反応基を有しており、この反応基が基材表面や基材表面に形成
された膜と反応することにより、基材表面と結合している。
【0003】
【特許文献1】特開平9−258003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、有機化合物の反応基が全て基材表面と結
合するため、結合が強固となる。したがって、基材表面に摺動力が働いた場合、例えば、
メガネレンズの表面を布等でふき取る場合など、その摺動力が直接結合部分に加わるため
、防汚剤分子が脱落して、基材表面に傷がつきやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、防汚層の防汚性と耐擦傷性に優れた光学物品およびその製造
方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学物品は、プラスチック基板上に防汚層を備えた光学物品であって、前記防
汚層は、前記プラスチック基板と反応する反応基を有する反応性化合物と、前記プラスチ
ック基板と反応しない非反応性化合物とから形成されていることを特徴とする。
【0007】
ここで、プラスチック基板とは、ハードコート層および反射防止層のうち少なくとも一
方が積層されたものをも含むものである。例えば、プラスチック基板のみのもの、プラス
チック基板にハードコート層のみが積層されたもの、プラスチック基板にハードコート層
と反射防止層とが積層されたものなどがある。なお、防汚層との反応性が良好であるとい
う点から最上層に反射防止層が形成されたものがより好ましい。
また、防汚層がプラスチック基板と反応するとは、例えば、防汚層とプラスチック基板
の双方がアルコキシシリル基やアミノシリル基のような互いに結合(縮合)可能な反応基
を有する化合物を含有しており、これらを介して結合することを言う。
【0008】
この発明によれば、防汚層内に、反応性化合物と非反応性化合物とが混在する。反応性
化合物はその反応基がプラスチック基板(反射防止層)と反応して強固に結合する一方、
非反応性化合物はプラスチック基板(反射防止層)とは反応しないため、非反応性化合物
の分子が自由度を持って防汚層内に存在している。
したがって、この光学物品の表面に摺動力が働いた場合(例えば、眼鏡レンズなどの光
学物品の表面を布等でふき取る場合など)に、この非反応性化合物の分子が自由に運動す
ることにより、加わった摺動力を防汚層内で吸収することができる。これにより、反応性
化合物とプラスチック基板(反射防止層)との結合部分に加わる力を低減させることがで
きるため防汚層が脱落しにくくなり、耐擦傷性を向上させることができる。
【0009】
本発明の光学物品において、前記反応性化合物および前記非反応性化合物は、フッ素含
有有機ケイ素化合物であることが好ましい。
この発明によれば、フッ素含有有機ケイ素化合物は撥水撥油性に優れているため、優れ
た防汚性を発揮することができる。
【0010】
本発明の光学物品において、前記非反応性化合物は、前記反応性化合物の前記反応基を
失活させたものであることが好ましい。
この発明では、反応性化合物を自己縮合などにより末端封止して非反応性化合物とした
ものを用いる。このように同じ化合物を用いることにより、本来の撥水撥油性を維持した
まま、耐擦傷性にも優れた光学物品を提供することができる。
【0011】
本発明の光学物品において、前記防汚層は、前記反応性化合物と前記非反応性化合物と
を、固形分質量比で8:2〜2:8の割合で配合されてなる組成物から形成されているこ
とが好ましい。
【0012】
ここで、反応性化合物の割合が固形分質量比で2よりも少ないと、プラスチック基材(
反射防止層)と結合する防汚剤分子の量が少なくなり、防汚層が剥がれやすくなってしま
う。また、反応性化合物の割合が固形分質量比で8よりも多いと、自由度を持った分子が
少なくなるため、数少ない反応性化合物とプラスチック基材(反射防止層)との結合部分
に摺動力がかかりやすくなり、反応性化合物が脱落して防汚層が剥がれやすくなってしま
う。
なお、反応性化合物と非反応性化合物との配合比は、固形分質量比で6:4〜4:6の
範囲であることがより好ましい。
【0013】
本発明の光学物品において、前記反応性化合物は、以下の式(1)で表される化合物で
あることが好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
式中、Rfはパーフルオロアルキル基、Xは水素、臭素、またはヨウ素、Yは水素
または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、Rは水酸基または加
水分解可能な基、Rは水素または一価の炭化水素を表す。また、a、b、c、d、eは
0または1以上の整数で、a+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c、
d、eでくくられた各繰り返し単位の存在順位は、一般式(1)において限定されない。
fは0、1または2を表す。gは1、2または3を表す。hは1以上の整数を表す。
【0016】
この発明では、式(1)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物は、フッ素原子の含有
率が高く、分子量数千でパーフルオロアルキル基の鎖長が長いために、臨界表面張力が低
い。そのためこれを含む防汚層の表面は、より低エネルギーとなり防汚性が向上する。
【0017】
本発明の光学物品において、前記反応性化合物は、以下の式(2)で表される化合物で
あることが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、Rfは、−(C2k)O−(kは1〜6の整数)で表される単位を含み、
分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する二価の基を表
す。Rは炭素原子数1〜8の一価の炭化水素基であり、Xは加水分解性基またはハロ
ゲン原子を表す。pは0、1または2を表す。nは1〜5の整数を表す。mおよびrは、
2または3を表す。
【0020】
この発明では、式(2)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物は、フッ素原子の含有
率が高く、分子量数千でパーフルオロアルキル基の鎖長が長いために、臨界表面張力が低
い。そのためこれを含む防汚層の表面は、より低エネルギーとなり防汚性が向上する。
【0021】
本発明の光学物品において、前記反応性化合物は、以下の式(3)で表される化合物で
あることが好ましい。
17−C−Si(NH)3/2 …(3)
【0022】
この発明によれば、式(3)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物は、防汚性を発揮
するので、光学物品の表面に防汚性を付与することができる。
【0023】
本発明の光学物品において、前記反応性化合物は、以下の式(4)で表される化合物で
あることが好ましい。
3C−(CF2n−(CH2m−Si(O−R)3 …(4)
式中、nは1〜11の整数であり、mは1〜4の整数であり、Rは炭素数1以上のアル
キル基である。
【0024】
この発明によれば、式(4)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物は、防汚性を発揮
するので、光学物品の表面に防汚性を付与することができる。
【0025】
本発明の光学物品において、前記非反応性化合物は、前記反応性化合物と以下の式(5
)で表される化合物とを反応させて得られる組成物であることが好ましい。
17−C−Si(NH)3/2 …(5)
【0026】
この発明によれば、(NH)3/2が反応基となり、防汚剤である反応性化合物と反応
する。これにより、反応性化合物の末端を封止して非反応性化合物とすることができる。
そして、反応性化合物と、上記(5)式で表される化合物と反応した非反応性化合物と、
が混在するので、光学物品の表面に摺動力が働いた場合(例えば、眼鏡レンズなどの光学
物品の表面を布等でふき取る場合など)に、非反応性化合物の分子が自由に運動すること
により、加わった摺動力を防汚層内で吸収することができる。したがって、耐擦傷性を向
上させることができる。
【0027】
本発明の光学物品において、前記非反応性化合物は、前記反応性化合物と以下の式(6
)で表される化合物とを反応させて得られる組成物であることが好ましい。
3C−(CF2n−(CH2m−Si(O−R)3 …(6)
式中、nは1〜11の整数であり、mは1〜4の整数であり、Rは炭素数1以上のアル
キル基である。
【0028】
式(6)の具体例としては、CF3(CF2)4CH2CH2Si(OC25)3、CF3(CF2)
4CH2CH2SiCH3(OC25)2、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OC25)3、CF3
2CH2CH2Si(OC37)3、CF3(CF2)2CH2CH2Si(OC37)3、CF3(CF
2)4CH2CH2SiCH3(OC37)2、CF3(CF2)5CH2CH2SiCH3(OC37)2
CF3(CF2)7CH2CH2SiCH3(OC37)2などのパーフルオロアルキルアルキレン
アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0029】
上記式(6)で表される化合物は、Rが反応基となり、防汚剤である反応性化合物の反
応基と反応する。すなわち、上記式(6)で表される化合物で反応性化合物の末端を封止
して非反応性化合物とする。そして、反応性化合物と非反応性化合物が混在するので、光
学物品の表面に摺動力が働いた場合(例えば、眼鏡レンズなどの光学物品の表面を布等で
ふき取る場合など)に、非反応性化合物の分子が自由に運動することにより、加わった摺
動力を防汚層内で吸収することができる。したがって、耐擦傷性を向上させることができ
る。
【0030】
本発明の光学物品において、前記防汚層は、反射防止層の上に形成されることが好まし
い。
反射防止層は、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層で形成される。これら
の層は、例えば、SiO2,SiO,ZrO2,TiO2,TiO,Ti23,Ti25
Al23,TaO2,Ta25,NbO,Nb,NbO,Nb,CeO2
MgO,Y23,SnO2,MgF2,WO3などで形成されるが、最上層を形成する層に
は、SiO2が含有されるのがよい。
この発明では、反射防止層の構成成分と、防汚層を構成する成分の反応基とが反応しや
すいため、反射防止層と防汚層とが強固に結合する。したがって、防汚層が剥がれにくく
なるため、防汚性の耐久性に優れた光学物品を提供することができる。
【0031】
本発明の光学物品は、眼鏡レンズであることが好ましい。
この発明では、前述の効果を達成できる眼鏡レンズを提供できる。眼鏡レンズでは、特
に汚れが目立ちやすいので前述の効果がさらに大きくなる。
【0032】
本発明の光学物品の製造方法は、前記反応性化合物と前記非反応性化合物とを混合して
防汚処理液を調製する防汚処理液調製工程と、前記防汚処理液を前記プラスチック基材の
表面に塗布する防汚層形成工程と、を実施することを特徴とする。
【0033】
この発明によれば、防汚液を調整した後、この防汚液をプラスチック基材に塗布して防
汚層を形成する。防汚液には、反応性化合物と非反応性化合物とが混在しているため、反
応性化合物とプラスチック基材(反射防止層)との密着性に優れるとともに、非反応性化
合物の自由な運動により耐擦傷性に優れた光学物品を提供することができる。
反応性化合物および非反応性化合物としては、前述のとおりフッ素含有有機ケイ素化合
物が用いられることが好ましい。また、非反応性化合物は、反応性化合物の反応基を失活
させたものが用いられてもよい。
【0034】
本発明の光学物品の製造方法において、前記防汚層形成工程は、乾式法により実施され
ることが好ましい。
乾式法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
この発明によれば、溶剤を用いないので環境負荷が低い。また、防汚層形成工程におけ
る条件を変更することが容易なので防汚層の膜厚制御も簡便である。さらに繊維状または
多孔質の媒体を用いているのでフッ素含有有機ケイ素化合物の加熱効率が高い。なお、媒
体としては熱伝導率の高い物質が好ましく、金属のような導電性物質が好適である。
【0035】
本発明の光学物品の製造方法において、前記防汚層形成工程は、湿式法により実施され
ることが好ましい。
湿式法としては、例えば、浸漬法などが挙げられる。
湿式法で行うことにより、真空装置等の大型設備が不要となり、製造にかかるコストを
低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本実施形態の光学物品10の概略断面図が示されている。この光学物品10
は、例えば眼鏡レンズである。
〔光学物品の構成〕
光学物品10は、プラスチック基板11を備え、このプラスチック基板11の両面にハ
ードコート層12と、反射防止層13と、防汚層14が設けられている。
プラスチック基板11としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル樹脂をはじめ
としてスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスア
リルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエ
ステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒ
ドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール
化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する
(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂等を例示す
ることができる。
【0037】
ハードコート層12としては、本来の機能である耐擦傷性を向上するものであればよい
。例えば、ハードコート層12として、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系
樹脂、アクリル系樹脂等を用いたハードコート層が挙げられるが、シリコーン系樹脂を用
いたハードコートが最も好ましい。例えば、金属酸化物微粒子、シラン化合物からなるコ
ーティング組成物を塗布し硬化させてハードコート層を設ける。このコーティング組成物
にはコロイダルシリカ、および多官能性エポキシ化合物等の成分を含んでいてもよい。
金属酸化物微粒子の具体例としてはSiO2,Al23,SnO2,Sb25,Ta25
,CeO2,La23,Fe23,ZnO,WO3,ZrO2,In23,TiO2等の金属
酸化物からなる微粒子または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子を、分散媒
たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものがあ
げられる。なお、本実施形態では、プラスチック基板11上にハードコート層12を設け
ずに直接、反射防止層13を設けることも可能である。
このようなハードコート層12を形成する方法としては、ディッピング法、スピンナー
法、スプレー法、フロー法により、ハードコート層12の組成物を塗布した後、40〜2
00℃の温度で数時間加熱乾燥する方法が例示できる。
【0038】
反射防止層13は、低屈折率層と高屈折率層とを順に積層したものである。この反射防
止層13は、プラスチック基板11側から外側に向けて順に配置された第1層131、第
2層132、第3層133、第4層134及び第5層135から構成され、このうち、第
1層131、第3層133及び第5層135が低屈折層であり、第2層132及び第4層
134が高屈折層である。
反射防止層13の各層131〜135に使用される無機物の例としては、SiO2,S
iO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti23、Ti25、Al23、TaO2、Ta25
、NbO、Nb、NbO、Nb、CeO2、MgO、Y23、SnO2、M
gF2、WO3などが挙げられる。これらの無機物は単独で用いるかもしくは2種以上の混
合物を用いる。
例えば、第1層131、第3層133及び第5層135をSiO2の層とし、第2層1
32及び第4層134をZrO2の層としてもよい。
【0039】
防汚層14は、撥水撥油性を有する層である。防汚層14には、反射防止層13と反応
する反応性化合物と、反射防止層13と反応しない非反応性化合物が混在している。
反応性化合物と非反応性化合物は、フッ素含有有機ケイ素化合物を用いることが好まし
い。例えば、以下の式(1)〜(4)で表される化合物を用いることができる。
【0040】
【化3】

【0041】
式中、Rfはパーフルオロアルキル基、Xは水素、臭素、またはヨウ素、Yは水素
または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、Rは水酸基または加
水分解可能な基、Rは水素または一価の炭化水素を表す。また、a、b、c、d、eは
0または1以上の整数で、a+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c、
d、eでくくられた各繰り返し単位の存在順位は、一般式(1)において限定されない。
fは0、1または2を表す。gは1、2または3を表す。hは1以上の整数を表す。
【0042】
【化4】

【0043】
式中、Rfは、−(C2k)O−(kは1〜6の整数)で表される単位を含み、
分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する二価の基を表
す。Rは炭素原子数1〜8の一価の炭化水素基であり、Xは加水分解性基またはハロ
ゲン原子を表す。pは0、1または2を表す。nは1〜5の整数を表す。mおよびrは、
2または3を表す。
【0044】
17−C−Si(NH)3/2 …(3)
【0045】
3C−(CF2n−(CH2m−Si(O−R)3 …(4)
式中、nは1〜11の整数であり、mは1〜4の整数であり、Rは炭素数1以上のアル
キル基である。
【0046】
反応性化合物には、上記式(1)〜(4)で表される化合物のいずれも用いることがで
き、これらは単独で用いてもよいが、混合して用いることもできる。
反応性化合物としては上記式(1)または(2)で表される化合物を用いることが好ま
しい。これらのフッ素含有有機ケイ素化合物の具体例としては、信越化学工業株式会社製
KY−130、KP−801などが挙げられる。
【0047】
非反応性化合物には、上記式(1)〜(4)で表される化合物のいずれも用いることが
でき、これらは単独で用いてもよいが、混合して用いることもできる。
非反応性化合物としては、上記式(1)または(2)で表される反応性化合物に、上記
式(3)または(4)で表される化合物を反応させて非反応性化合物としたものを用いる
ことが好ましい。また、上記(1)〜(4)で表される化合物を自己縮合させて非反応性
化合物としたものでもよい。
【0048】
このような化合物で形成される防汚層14は、乾式法と湿式法のいずれで形成されても
よい。乾式法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。湿式
法としては、例えば、浸漬法などが挙げられる。
【0049】
〔光学物品の製造装置〕
次に、光学物品10の製造方法を図2に基づいて説明する。ここでは、真空蒸着法によ
る成膜方法について説明する。
図2には、光学物品のプラスチック基板へのコーティングおよび表面処理を行なう成膜
装置の概略図が示されている。
【0050】
成膜装置100は、図2において、プラスチック基板11が支持装置20に複数保持さ
れている。プラスチック基板11には、ハードコート層12が予め設けられている。この
支持装置20が成膜装置100の内部を工程ごとに移動して、プラスチック基板11への
コーティングおよび表面処理が行なわれる。支持装置20は、各プラスチック基板11へ
の処理が均一になるように、図示しない回転機構によって回転させられている。
【0051】
成膜装置100は、支持装置20が内部を通過可能な三つのチャンバ30、40および
50を備えている。これらのチャンバは連結され、支持装置20はプラスチック基板11
を保持した状態で通過可能となっている。また、各チャンバは、各チャンバ間の図示しな
いシャッタによって相互に密封できるようになっており、各チャンバの内圧は真空生成装
置31、41および51によりそれぞれ制御されている。
【0052】
チャンバ30は、エントランスまたはゲートチャンバであり、外部から支持装置20を
導入した後、一定時間、一定の圧力下にチャンバ30の内部を加熱することにより、プラ
スチック基板11および支持装置20に吸着したガスの脱ガスが行なわれる。チャンバ3
0の真空生成装置31は、ロータリーポンプ32、ルーツポンプ33およびクライオポン
プ34を備えている。
【0053】
チャンバ40は、真空蒸着による薄膜の形成やプラズマ等による表面処理を行なうチャ
ンバである。チャンバ40の真空生成装置41もチャンバ30の真空生成装置31と同様
に、ロータリーポンプ42、ルーツポンプ43およびクライオポンプ44を備えている。
【0054】
チャンバ40の内部には、屈折率の異なる蒸着物質を組み合わせて反射防止層13を効
率よく形成するために、蒸発源61および蒸発源62が設けられている。そして、これら
二つの蒸発源61、62に配置された蒸着物質63、64を蒸発させる電子銃65、66
および蒸着量を調整する開閉可能なシャッタ67、68が一対設けられている。
屈折率の異なる蒸着物質の例として、低屈折率物質として酸化ケイ素が、高屈折率物質
としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0055】
また、チャンバ40には、プラズマ処理を行なうために、高周波プラズマ発生装置70
が設置されている。高周波プラズマ発生装置70は、チャンバ内に設置されたRFコイル
71と、チャンバ外でこれに接続されているマッチングボックス72と高周波発信器73
とから構成されている。
【0056】
さらに、チャンバ40には、イオンアシスト蒸着および表面処理を行なうためのイオン
ガン80が設置されている。イオンガン80には、導入ガスをプラズマ化し、正イオンを
発生するためのRF電源81と正イオンを加速するためのDC電源82が接続されている

プラズマ処理およびイオン照射に使用されるガスである酸素74とアルゴン75は、オ
ートプレシャーコントローラ77で所定の圧力になるように、マスフローコントローラ7
8、83で流量が制御されて導入される。
【0057】
チャンバ50は、フッ素含有有機ケイ素化合物を蒸着することにより防汚層14を形成
するチャンバである。チャンバ内部には、フッ素含有有機ケイ素化合物が含浸された蒸発
源90と、加熱ヒータ(ハロゲンランプ)91と、補正板92とが設置されている。補正
板92は固定式であり、開度を調整する事により、支持装置20の場所に対する蒸着量を
調整できるようになっている。チャンバ50は、ロータリーポンプ52、ルーツポンプ5
3およびターボ分子ポンプ54を備えた真空生成装置51により適当な圧力に保持されて
いる。
【0058】
〔光学物品の製造方法〕
以下、図3に基づいて本実施形態のプラスチック基板11への処理工程を説明する。
工程(A)は、プラスチック基板11にハードコート層12を形成する工程である。ハ
ードコート層12は、無機微粒子を有するゾルゲルをプラスチック基板11に塗布し、そ
の後硬化する方法によって得られる。この方法によれば、無機微粒子をプラスチック基板
11の屈折率に合わせて選択することが可能で、プラスチック基板11とハードコート層
12との界面の反射が抑えられる。ハードコート層12は、必要に応じて、片面および両
面に形成される。眼鏡レンズの場合は、両面に形成する。
【0059】
工程(B)は、反射防止層13を形成する工程である。図3では、反射防止層13が片
面のみに形成されているが、後で表裏反転して両面に形成されるものである。
プラスチック基板11は、支持装置20に保持された状態でチャンバ30に導入され、
脱ガスされる。次に支持装置20は、チャンバ40に導入され、ハードコート層12の表
面に反射防止層13が成膜される。この過程では、高屈折率と低屈折率の複数の層が交互
に積層され、反射防止層13の最上層には、酸化ケイ素層である二酸化ケイ素層が形成さ
れる。
【0060】
次に、反射防止層13とフッ素含有有機ケイ素化合物との反応性を高めるため、反射防
止層13の表面にシラノール基を生成するためのプラズマ処理を行なう。
チャンバ40に酸素74またはアルゴン75が導入され、オートプレシャーコントロー
ラ77とマスフローコントローラ78によって、チャンバ40内は一定圧力に制御される
。高周波プラズマはおよそ10−3から10Paで発生可能であるが、1×10−2
a〜1×10−1Paが好適である。高周波周波数は、13.56MHzとした。処理時
間は、0.5〜3分間で、この処理で反射防止層13の表面にシラノール基が生成される

【0061】
その他、シラノール基を生成するための処理として、イオンガン80を使用することも
できる。
イオンガン80には、酸素74またはアルゴン75がマスフローコントローラ83で一
定流量に制御されて導入される。導入されたガスは、イオンガン80内部でプラズマ化さ
れる。プラズマは高周波プラズマであり、RF電源81の周波数は通常13.56MHz
である。生成した正イオンは、DC電源82で電圧印加された加速電極によって引き出さ
れ、反射防止層13の表面に照射される。
なお、プラスチック基板11上で絶縁破壊が起き、異常放電が発生するのを防止するた
め、内蔵されたニュートライザーから電子を供給し中和している。処理時間は、0.5〜
3分間で、この処理で、反射防止層13表面にシラノール基が生成される。
【0062】
工程(C)は、防汚層14を形成する工程である。支持装置20は、チャンバ50に導
かれる。ここで、蒸発源90を加熱ヒータ91で加熱することで、反射防止層13の表面
に前述の化合物による防汚層14が蒸着により形成される。
防汚層14が形成された後、チャンバ50は徐々に大気圧に戻され、プラスチック基板
11が支持装置20ごと取り出される。
【0063】
片面に防汚層14まで形成されたプラスチック基板11は、表裏反転して再度支持装置
20にセットされ、工程(B)(C)と同様な処理を行なう。これによって、プラスチッ
ク基板11の両面に反射防止層13および防汚層14が形成される。
【0064】
防汚層14まで形成されたプラスチック基板11は、支持装置20から取り外された後
、図示しない恒温恒湿槽に投入され、適当な湿度と温度の雰囲気でアニールされる。また
は、室内に所定時間放置してエージングが行なわれる。その後、防汚層14の厚みを調整
する必要があれば、過剰分を溶剤で拭き取るなどの除去作業が行なわれる。
【0065】
以上の本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)本実施形態では、防汚層14に反応性化合物と非反応性化合物が混在している。
このため、反応性化合物の反応基は反射防止層13と強固に結合する一方、非反応性化
合物は自由度をもった一分子として防汚層14内に存在している。したがって、光学物品
の表面に摺動力が働いた場合(例えば、眼鏡レンズの表面を布でふき取る場合)に、この
摺動力を防汚層14内で吸収することができる。すなわち、摺動力が、反応性化合物と反
射防止層13との結合部分に直接かかることが少ないため、防汚剤分子の脱落を防止でき
、耐擦傷性に優れた光学物品を提供することができる。
【0066】
(2)防汚層14の反応性化合物または非反応性化合物として、フッ素含有有機ケイ素化
合物を用いた。フッ素含有有機ケイ素化合物は分子量が大きいので、防汚層14に含まれ
るフッ素の量が多く、より撥水撥油性を向上でき、汚れの拭取り性も向上できる。
特に、上記式(1)で表される化合物は、フッ素原子の含有率が高く、分子量数千でパ
ーフルオロアルキル基の鎖長が長いために、臨界表面張力が低い。そのためこれを含む防
汚層14の表面は、より低エネルギーとなり防汚性を向上することができる。
【0067】
(3)防汚層14の反応性化合物と非反応性化合物は、固形分質量比で8:2〜2:8の
割合で配合されている。
このような範囲で配合することにより、耐擦傷性と耐久性の両方に優れた光学物品を提
供することができる。
【0068】
(4)防汚層14は、反射防止層13の上に形成される。しかも、反射防止層13の最上
層はSiOで形成されている。したがって、防汚層14を構成する防汚剤分子とSiO
とが強固に結合する。したがって、防汚剤分子が脱落しにくく、耐久性に優れている。
【0069】
(5)前述の作用効果を有する光学物品10は眼鏡レンズとして使用される。眼鏡レンズ
では、特に汚れが目立ちやすいので前述の効果をさらに大きくすることができる。
【0070】
(6)前述の光学物品10を、乾式法により製造した。
乾式法では、溶剤を用いないので環境負荷が低い。また、防汚層形成工程における条件
を変更することが容易なので防汚層の膜厚制御も簡便である。
また、乾式法によれば、前述の効果を達成できる光学物品10を製造することができる

【0071】
[本発明の変形例]
本発明は、以上述べた実施形態には限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で種々
の改良および変形を行うことが可能である。
【0072】
例えば、前記実施形態では、乾式法により防汚層14を形成したが、湿式法で防汚層1
4を形成してもよい。湿式法の場合、前述したいずれかのフッ素含有有機ケイ素化合物を
有機溶剤に溶解させ、所定の濃度となるように調整し、プラスチック基板11の表面に塗
布する方法を採用することができる。有機溶剤としては、フッ素含有有機ケイ素化合物の
溶解性に優れるパーフルオロ基を有し、炭素数が4以上の有機化合物が好ましく、例えば
、パーフルオロヘキサン、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロオクタン、パーフル
オロデカン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシク
ロヘキサン、パーフルオロ−4−メトキシブタン、パーフルオロ−4−エトキシブタン、
メタキシレンヘキサフロライドを挙げることができる。また、パーフルオロエーテル油、
クロロトリフルオロエチレンオリゴマー油を使用することができる。その他に、フロン2
25(CF3CF2CHCl2とCClF2CF2CHClFの混合物)を例示することがで
きる。これらの有機溶剤の1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
有機溶剤で希釈するときの濃度は、0.03質量%以上1質量%以下の範囲が好ましい
。0.03質量%より低すぎると十分な厚さを有する防汚層14の形成が困難であり、十
分な撥水・撥油効果、さらには十分な滑り性が得られない場合がある。一方、1質量%よ
り濃すぎると防汚層14が厚くなり過ぎるおそれがあり、塗布後に塗りむらをなくすため
のリンス作業の負担が増すおそれがある。
【0074】
また、前記実施形態では、式(1)で表される反応性化合物と式(3)で表される化合
物を反応させて非反応性化合物を生成したが、反応性化合物の反応基を失活させたものを
非反応性化合物として用いてもよい。この場合、反応性化合物に触媒(例えば、エステル
交換触媒(CH3(CH23-Sn-(OCCH3))を固形分比で0.1%)を添加するこ
とにより、反応性化合物を縮合させることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの
実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
本実施例では、光学物品としての眼鏡レンズを作製する。
[実施例1]
以下のA1液およびB液を固形分質量比で8:2となるように混合し、さらに有機溶媒
「HFE−7200」(商品名、住友スリーエム株式会社製)を加えて固形分濃度0.1
%となるように調製し、ディッピング用処理液とした。
また、以下のA1液とB液を固形分質量比で8:2となるように混合し、多孔質ペレッ
トに滴下含浸後、乾燥し、固形分質量が30mgとなるように調製した。これを蒸着用ペ
レットとして用いた。
【0077】
(A1液)前述の一般式(1)で表される化合物(ダイキン工業株式会社製「オプツール
DSX」(商品名)、化合物x)
(B液)A1液で使用した化合物(化合物x)と、前述の一般式(4)で表される化合物
(東芝シリコーン株式会社製「TSL8257」、化合物y)と、を固形分質量比で1:
12となるように混合した。この比率は、モル比でおよそ1:1となる混合比である。こ
こで、化合物xと化合物yは双方とも分子鎖の片末端に反応基が存在する構造である。
そして、この液にエステル交換触媒としてCH3(CH23-Sn-(OCCH3)を対固
形分比で0.1%添加した。その後、常温で24時間撹拌した。これによって、防汚剤分
子同士が縮合する。なお、縮合の組み合わせは、化合物xと化合物y、化合物x同士、化
合物y同士の3つのパターンが考えられる。
【0078】
[実施例2]
A1液および以下のA2液を固形分質量比で8:2となるように混合し、さらに有機溶
媒「HFE−7200」(商品名、住友スリーエム株式会社製)を加えて固形分濃度0.
1%となるように調製し、ディッピング用処理液とした。
また、A1液と以下のA2液を固形分質量比で8:2となるように混合し、多孔質ペレ
ットに滴下含浸後、乾燥し、固形分質量が30mgとなるように調製した。これを蒸着用
ペレットとして用いた。
【0079】
(A2液)化合物xに、エステル交換触媒としてCH3(CH23-Sn-(OCCH3)を
対固形分比で0.1%添加した。その後、常温で24時間撹拌した。これによって、防汚
剤分子同士が縮合する。
【0080】
[実施例3]
実施例2において、A1液とA2液との混合固形分質量比を7:3とした。
【0081】
[実施例4]
実施例2において、A1液とA2液との混合固形分質量比を6:4とした。
【0082】
[実施例5]
実施例2において、A1液とA2液との混合固形分質量比を5:5とした。
【0083】
[実施例6]
実施例2において、A1液とA2液との混合固形分質量比を4:6とした。
【0084】
[実施例7]
実施例2において、A1液とA2液との混合固形分質量比を3:7とした。
【0085】
[実施例8]
実施例2において、A1液とA2液との混合固形分質量比を2:8とした。
【0086】
[実施例9]
以下のC液およびD液を固形分質量比で8:2となるように混合し、さらに有機溶媒「
HFE−7200」(商品名、住友スリーエム株式会社製)を加えて固形分濃度0.1%
となるように調製し、ディッピング用処理液とした。
また、以下のC液とD液を固形分質量比で8:2となるように混合し、多孔質ペレット
に滴下含浸後、乾燥し、固形分質量が30mgとなるように調製した。これを蒸着用ペレ
ットとして用いた。
【0087】
(C液)前述の一般式(2)で表される化合物、信越化学工業株式会社製防汚剤「KY-
130」(化合物z)
(D液)化合物zと、前述の一般式(3)で表される化合物(信越化学工業株式会社製「
KP-801M」、化合物v)と、を固形分質量比で3:1となるように混合した。この
比率はモル比でおよそ1:2となる混合比である。ここで、化合物zは分子鎖の両末端に
反応基が存在し、化合物vは片末端に反応基が存在する構造である。
そして、この液にエステル交換触媒としてCH3(CH23-Sn-(OCCH3)を対固
形分比で0.1%添加した。その後、常温で24時間撹拌した。これによって、防汚剤分
子同士が縮合する。なお、縮合の組み合わせは、化合物zと化合物v、化合物z同士、化
合物v同士の3つのパターンが考えられる。
また、化合物zは両末端に反応基が存在するため、両方封止された場合と、片方のみ封
止された場合が想定される。
【0088】
[比較例1]
実施例1で使用したA1液のみを使用した。
【0089】
[比較例2]
実施例9で使用したC液のみを使用した。
【0090】
[防汚層の形成]
次に、上記の実施例1〜9および比較例1および2で調整した蒸着用ペレットを用いて
、乾式法によって防汚層を形成した。
基板10として、プラスチック基板11の上にハードコート層12が形成された眼鏡用
プラスチックレンズ(セイコーエプソン株式会社製「セイコースーパーソブリン」)を支
持装置20にセットし、チャンバ30で脱ガスした後、チャンバ40において、SiO2
とZrO2の層を交互に蒸着し、これらの層からなる反射防止層13を成形した。この反
射防止層13の最上層は、SiO2層である。
引き続き、チャンバ40内に酸素100%ガスを導入し、圧力を4.0×10-2Paに
制御しつつ、高周波プラズマ発生装置でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件は、1
3.56MHz、0.4kWで、1分間処理を行った。
【0091】
その後、チャンバ50に支持装置20を移動して防汚層14を形成した。蒸発源90と
して、実施例1〜9および比較例1および2で作製した蒸着用ペレットを用いた。
成膜中は、ハロゲンランプを加熱ヒータ91として使用し、蒸発源90のペレットを6
00℃に加熱して、フッ素含有有機ケイ素化合物を蒸発させた。蒸着時間は3分である。
防汚層形成後、支持装置20をチャンバ50から取り出し、レンズを反転して支持装置
20にセットし直し、再び上記と同様の処理を行うことによって、レンズ両面に防汚層1
4を形成した。その後、光学物品10を取り出し、60℃,60%RHに設定した高温高
湿槽に投入して2時間保持し、防汚剤とレンズ表面との反応を進行させた。
【0092】
なお、本実施例では乾式法により防汚層を形成したが、前述のディッピング用処理液を
使用した湿式法により防汚層を形成することもできる。具体的には、以下のように実施す
る。
処理用基板として、ハードコート層、反射防止層(最外層がSiO膜)を有する眼鏡
用プラスチックレンズ(「セイコースーパーソブリン」セイコーエプソン株式会社製)を
用意し、基板表面を洗浄するためにプラズマ処理(処理圧力:0.1Torr、導入ガス
:乾燥air、電極間距離:24cm、電源出力:DC1KV、処理時間:15秒)を行
う。そして、プラズマ処理したレンズを、前述の反応性化合物と非反応性化合物とを含有
するディッピング用処理液に浸漬して1分保持した後150mm/分にて引き上げ、防汚
処理液を塗布する。その後、アニール工程として、60℃、60%RHに設定した恒温恒
湿槽に投入し、2時間保持することで防汚層を形成することができる。
【0093】
[評価]
以上のようにして作成した眼鏡レンズについて、スチールウールによる耐擦傷性、アル
カリ浸漬試験での接触角とインク拭取性で防汚層の性能を評価した。
(1)耐擦傷性
眼鏡レンズ表面を、スチールウール(日本スチールウール(株)製ボンスター#000
0)に荷重1kgを加え、約30mmの距離を10往復擦ったのち、目視でレンズ表面に
入った傷の状態を下記のA〜Dの基準で評価した。
A:全く傷がない。
B:1〜2本の傷が確認される。
C:3〜5本の傷が確認される。
D:6本以上の傷が確認される。
【0094】
(2)アルカリ浸漬試験
0.1Nに調整した水酸化ナトリウム水溶液中に試験片を3時間浸漬し、浸漬後の試験
片を水でよく洗う。アルカリ浸漬試験前後の防汚性能を、接触角と油性インクの拭取性に
よって評価した。
(2−1)接触角測定
接触角計(「CA−D型」協和界面科学株式会社製)を使用し、液滴法による純水の接
触角を測定した。
(2−2)油性インクの拭取性
レンズの凸面に、黒色油性マーカー(「ハイマッキーケア」ゼブラ株式会社製)により
約4cmの直線を引き、5分間放置後、該マーク部をワイプ紙(クレシア製:ケイドライ
)によって拭き取りを行い、その拭き取りやすさを下記の基準にて判定した。
○:10回以下の拭き取りで完全に除去できる
△:11回〜20回の拭き取りで完全に除去できる
×:20回の拭き取り後も除去されない部分が残る
上記の評価結果を以下の表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示すように、実施例1は末端封止成分であるB液を混合しているため、比較例1
に比べて耐擦傷性が優れている。
また、実施例9は、末端封止成分であるD液を混合しているため、比較例2に比べて耐
擦傷性が優れている。
そして、実施例2から実施例8に示すように、末端封止成分であるA2液の混合比が増
加すると、耐擦傷性が向上する一方で、耐アルカリ性が低下する傾向にあるが、実用的に
問題なかった。
このように、種々の混合系によって最適混合比を設定すれば、耐擦傷性と耐アルカリ性
に代表される耐薬品性を兼ね備えた基板の表面処理が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、プラスチック眼鏡レンズに利用できる他、プラスチック製の液晶表示パネル
、光学機器用レンズ等にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施形態にかかる光学物品の断面を示す模式図。
【図2】本発明の実施形態にかかる成膜装置を示す概略図。
【図3】本発明の実施形態にかかる処理工程を示す図。
【符号の説明】
【0099】
10・・・光学物品、11・・・プラスチック基材、12・・・ハードコート層、13・
・・反射防止層、14・・・防汚層、100・・・成膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基板上に防汚層を備えた光学物品であって、
前記防汚層は、前記プラスチック基板と反応する反応基を有する反応性化合物と、前記
プラスチック基板と反応しない非反応性化合物とから形成されていることを特徴とする光
学物品。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品において、
前記反応性化合物および前記非反応性化合物は、フッ素含有有機ケイ素化合物であるこ
とを特徴とする光学物品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品において、
前記非反応性化合物は、前記反応性化合物の前記反応基を失活させたことを特徴とする
光学物品。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光学物品において、
前記防汚層は、前記反応性化合物と前記非反応性化合物とを、固形分質量比で8:2〜
2:8の割合で配合されてなる組成物から形成されていることを特徴とする光学物品。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学物品において、
前記反応性化合物は、以下の式(1)で表される化合物であることを特徴とする光学物
品。
【化1】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基、Xは水素、臭素、またはヨウ素、Yは水
素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、Rは水酸基または
加水分解可能な基、Rは水素または一価の炭化水素を表す。また、a、b、c、d、e
は0または1以上の整数で、a+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c
、d、eでくくられた各繰り返し単位の存在順位は、一般式(1)において限定されない
。fは0、1または2を表す。gは1、2または3を表す。hは1以上の整数を表す。)
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学物品において、
前記反応性化合物は、以下の式(2)で表される化合物であることを特徴とする光学物
品。
【化2】

(式中、Rfは、−(C2k)O−(kは1〜6の整数)で表される単位を含み
、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する二価の基を
表す。Rは炭素原子数1〜8の一価の炭化水素基であり、Xは加水分解性基またはハ
ロゲン原子を表す。pは0、1または2を表す。nは1〜5の整数を表す。mおよびrは
、2または3を表す。)
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学物品において、
前記反応性化合物は、以下の式(3)で表される化合物であることを特徴とする光学物
品。
17−C−Si(NH)3/2 …(3)
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学物品において、
前記反応性化合物は、以下の式(4)で表される化合物であることを特徴とする光学物
品。
3C−(CF2n−(CH2m−Si(O−R)3 …(4)
(式中、nは1〜11の整数であり、mは1〜4の整数であり、Rは炭素数1以上のアル
キル基である。)
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の光学物品において、
前記非反応性化合物は、前記反応性化合物と以下の式(5)で表される化合物とを反応
させて得られる組成物であることを特徴とする光学物品。
17−C−Si(NH)3/2 …(5)
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の光学物品において、
前記非反応性化合物は、前記反応性化合物と以下の式(6)で表される化合物とを反応
させて得られる組成物であることを特徴とする光学物品。
3C−(CF2n−(CH2m−Si(O−R)3 …(6)
(式中、nは1〜11の整数であり、mは1〜4の整数であり、Rは炭素数1以上のアル
キル基である。)
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の光学物品において、
前記防汚層は、反射防止層の上に形成されることを特徴とする光学物品。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の光学物品は眼鏡レンズであることを特徴と
する光学物品。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の光学物品の製造方法であって、
前記反応性化合物と前記非反応性化合物とを混合して防汚処理液を調製する防汚処理液
調製工程と、
前記防汚処理液を前記プラスチック基材の表面に塗布する防汚層形成工程と、を実施す
ることを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の光学物品の製造方法において、
前記防汚層形成工程は、乾式法により実施されることを特徴とする光学物品の製造方法

【請求項15】
請求項13に記載の光学物品の製造方法において、
前記防汚層形成工程は、湿式法により実施されることを特徴とする光学物品の製造方法


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−251008(P2009−251008A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94766(P2008−94766)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】