説明

光学用樹脂材料及びそれから得られる光学プリズム又はレンズ

低吸水性であり、耐熱性、透明性、流動性等に優れ、かつ複屈折低減された光学用樹脂材料とこれを使用した光学プリズム、レンズに関する。
この複屈折低減光学樹脂材料は、重量平均分子量の範囲が50,000〜400,000であり、ビカット軟化温度が105℃以上、屈折率1.550〜1.580、吸水率0.13%以下であり、厚さ10mmプリズムの複屈折値が300nm以下であり、α‐メチルスチレン10〜65重量%、メタクリル酸メチル10〜40重量%及びスチレン10〜80重量%の割合からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα‐メチルスチレン、スチレン、メタクリル酸メチルを共重合してなる光学用樹脂材料及びそれから得られる光学プリズム又はレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
光学プリズム、レンズ、光導波路材などの光学用材料として使用される高分子材料として、優れた透明性、加工性及び低複屈折性を有するアクリル樹脂及び優れた耐熱性及び低吸水性を有するシクロオレフィン樹脂が挙げられる。しかしながら、アクリル樹脂は吸湿性が高く、面精度が維持できず、高度に低複屈折特性の要求される材料には使用不可であり、耐熱性も不十分である。また、シクロオレフィン樹脂は、低加工性のため成形時の歪が残留しやすく、結果的に低複屈折特性を維持できず、アクリル樹脂などに比較して高価である。更に、両樹脂は比較的低屈折率であり、特に光学レンズなどに要求される高屈折率特性を満たすことが難しい。また、屈折率1.550〜1.580の材料特性を必要とする場合、これに対応することは困難である。一方、共重合体の場合、共重合比率により微妙な屈折率までも制御可能であることは知られているが、実用的には改良の余地が残る。
【0003】
汎用樹脂中で高屈折率特性を有するスチレン樹脂は、優れた加工性、透明性有するものの、分子中の芳香環の分極率が高く、高複屈折を示すため、光学レンズには使用されていない。また、耐熱性も不足している。
また、メタクリル酸メチル‐スチレン共重合体に関しても、光学プリズム、レンズ用途に使用するには、複屈折が高く、耐熱性も低いため、特殊な成型法を必要とし、成型サイクルが長くなるという問題を抱えている。
【0004】
本発明に関連する先行文献として次の文献がある。
【特許文献1】特開昭63−57621号公報
【特許文献2】特開平8−53523号公報
【特許文献3】特開2001−89537号公報
【特許文献4】特開平4−300908号公報
【0005】
特開昭63−57621号公報には、ポリスチレンと固有複屈折値の逆の符号を有するポリカーボネート樹脂とのグラフト共重合を行うことによる低複屈折化が開示されている。特開平8−53523号公報には、ポリスチレンとポリアリレート樹脂とのブロック共重合による低複屈折化が開示されている。特開2001−89537号公報では、スチレンとインデンとのカチオン共重合による低複屈折化が開示されている。しかし、これらの方法では、合成自体が煩雑で困難であるばかりか、高溶融粘度のため複屈折特性の低下度合いも小さい。更に、特開平4−300908号公報には、α‐メチルスチレンを含む耐熱性スチレン系樹脂が開示されている。しかし、複屈折特性の改善については言及していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低吸水性であり、耐熱性、透明性、流動性等に優れ、かつ複屈折の低減された光学用プリズム、レンズ用の樹脂材料並びにこれから得られる光学用プリズム、レンズ用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の組成を有するメタクリル酸メチル、α‐スチレン、スチレンの3種類を共重合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、α‐メチルスチレン単位10〜65重量%、メタクリル酸メチル単位10〜40重量%及びスチレン単位10〜80重量%の割合で構成された共重合体からなり、重量平均分子量の範囲が50,000〜400,000、ビカット軟化温度が105℃以上、屈折率1.550〜1.580、吸水率0.13%以下であり、かつ厚さ10mmとしたときのプリズムの複屈折値が300nm以下である光学プリズム又はレンズ用の樹脂材料である。また、本発明は、前記の樹脂材料を成型して得られた光学プリズム又はレンズである。
【0009】
本発明の樹脂材料は、重量平均分子量が50,000〜400,000、好ましくは80,000〜300,000である。重量平均分子量が5万未満である場合には、目的の共重合体の機械強度が低下し、成形品を得ることができず、40万を超えると溶融粘度が高すぎ結果的に低複屈折特性の発現が困難になる。
【0010】
また、本発明の樹脂材料を構成する単量体成分として、α‐メチルスチレン単位を10〜65重量%、好ましくは15〜60重量%、更に好ましくは20〜50重量%含むものであり、メタクリル酸メチル単位を10〜40重量%、好ましくは15〜35重量%、更に好ましくは15〜30重量%含むものであり、かつ、スチレン単位を10〜80重量%、好ましくは15〜70重量%、更に好ましくは20〜60重量%含むものである。α‐メチルスチレン単位の割合が10重量%未満であると、低複屈折特性の発現が困難になるばかりでなく、耐熱性の向上も微小である。65重量%を超えると、重合性が著しく低下し、高分子量体にならず、成型困難となる。メタクリル酸メチル単位の割合が10重量%未満であると重合性が著しく低下し、生産性を損ない、かつ屈折率が高くなり過ぎる。40重量%を超えると吸水率が0.13を超え、高いレベルとなり、かつ屈折率が低くなりすぎる。また、スチレン単位の割合が10重量%未満であると重合性が著しく低下し、生産性を損ない、80重量%を超えると低複屈折特性の発現が困難になる。
【0011】
本発明の樹脂材料は、α‐メチルスチレン、メタクリル酸メチル及びスチレンを共重合させることにより得ることができる。通常、これらのモノマーの使用割合は、樹脂材料中の各構成単位の存在割合にほぼ対応するが、α‐メチルスチレンの反応性が最も低いので、α‐メチルスチレン単位の存在割合は、モノマーとしてのα‐メチルスチレンの使用割合よりいくぶん少ないものとなる。
【0012】
本発明の樹脂材料の製造法は、完全混合型反応器を用いた連続塊状重合法又は連続溶液重合法を利用するのが組成や分子量の均一性と良好な外観を保持する上から望ましいが、バッチ式の塊状又は溶液重合でも可能である。重合時には開始剤を存在させることが好ましく、開始剤としては、通常のラジカル重合に使用する過酸化物及び/又はアゾ化合物が使用可能である。また、分子量を調節するためにアルキルメルカプタンのような連鎖移動剤を適量添加しても差し支えない。重合終了後は、定法により脱気、ペレット化等の処理を行って本発明の樹脂材料を得る。
【0013】
得られた本発明の樹脂材料には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、光拡散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃賦与成分等の添加剤を1種又は2種以上配合してもよい。これらの添加剤を樹脂に配合する方法としては、例えば、スーパーミキサー等の混合機で混合した後、押出機で溶融混練する方法等が挙げられる。
【0014】
このようにして得られた樹脂材料は、ビカット軟化温度が105℃以上、好ましくは105〜130℃、屈折率1.550〜1.580、吸水率0.13%以下であり、かつ厚さ10mmとしたときのプリズムの複屈折値が300nm以下、好ましくは80〜200nmである必要がある。これらの物性は原料モノマーの使用割合、重合条件等を調整することにより満足させることができる。これらの数値の測定は具体的には実施例に記載した条件に従う。
【0015】
本発明の樹脂材料から本発明の光学プリズム、レンズを製造する方法は、射出成形、プレス成形など公知の方法を使用することができ、特に制限されない。
しかし、本発明の光学プリズム、レンズは、樹脂温度200〜300℃、金型温度50〜170℃の範囲で成形して製造することが好ましく、より好ましくは、樹脂温度210〜290℃、金型温度60〜160℃である。
【0016】
本発明の樹脂材料において、成形時に樹脂温度が、あまりに高すぎると樹脂の分解、着色等が避けられなくなり、透明性が低下する。一方、樹脂温度があまりに低くすぎると、溶融流動性が十分に得られず、金型の転写性が悪くなったり、複屈折値が高くなる等の問題がある。更に、成形時の金型温度は、あまりに高すぎると離型時の変形が大きくなる等の問題が生じ、あまりに低すぎると得られる光学プリズム、レンズの複屈折が高くなる等の問題が生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で製造したαMS樹脂(MMA-αMSt-St共重合体)の物性の測定は以下の方法により行った。
1)分子量の測定:ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用しポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
2)樹脂組成物中の各単位組成:熱分解型ガスクロマトグラフィーのモノマーの面積比より各モノマー単位組成を算出した。
【0018】
また、略号は次を意味する。
MMA:メタクリル酸メチル
αMSt:α‐メチルスチレン
St:スチレン
開始剤:パーカドックス12‐EB20
【0019】
また、測定用のサンプルの成形は、各実施例又は比較例で得られたペレットを使用し、次の条件で行った。
(A)光学物性測定用サンプルAの成形:15t成形機を用いて、射出成形を行い、縦50×横75mm、厚さ4mmの長方形のプレートを得た(金型温度90℃)。
(B)光学プリズムサンプルBの成形:15t成形機を用いて、射出成形を行い、辺a、b、c、d及びeからなる五角形で、その長さが10mmの五角柱型プリズム成型品を得た(金型温度90℃)。ここで、辺a、b(bを底辺ともいう)及びcの長さは各10mmであり、辺aとb及び辺bとcが構成する角度は各90°であり、辺d及びeは底辺bと平行な仮底辺b'を底辺とし、その高さが5mm(底辺bからは15mm)である二等辺三角形を形成する長さを有する。なお、上記(A)、(B)の成形温度は樹脂温度230℃である。
【0020】
また、測定方法は次のとおりである。
(1)複屈折(レターデーション):光学プリズムサンプルBを偏光顕微鏡とコンペンセーターを用いてレターデーションの測定を行い、最大値(最も高複屈折である箇所の値)を表2に示した。
(2)吸水率:JIS K‐7209に準拠して光学物性測定用サンプルAについて測定した。
(3)屈折率:屈折計(株式会社アタゴ・DR‐M2)を用いて光学物性測定用サンプルAについて測定した。
(4)ビカット軟化温度(VST):JIS K−7206に準拠して光学物性測定用サンプルAの一部を使用し測定した。
(5)メルトマスフローレート(MFR):JIS K‐7210に準拠し、各実施例又は比較例で得られたペレットについて200℃で測定した。
(6)全光線透過率:JIS K‐7105に準拠して、光学物性測定用サンプルAのヘイズ、全光線透過率を測定した。
(7)イエローネスインデックス(YI):光学物性測定用サンプルAについて測定した。
【実施例】
【0021】
実施例1〜9、比較例1〜5
表1に記載の割合で原料としてのモノマー及び開始剤を仕込み、反応温度120℃、5時間滞留条件下で、一槽型完全混合反応器と脱揮槽を連結した設備を用い、連続塊状重合と重合物の脱気及びペレット化を行った。
得られた樹脂ペレットの組成、転化率、分子量(Mw)について、表1に併せて記載する。また、各実施例及び比較例で製造したペレットについて、上記測定方法を用いて、評価試験を行った。評価結果については表2に記載する。
表1において、モノマー比は、MMA/αMSt/Stであり、ポリマー組成は、MMA単位/αMSt単位/St単位(重量比)である。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の樹脂材料から得られる光学プリズム、レンズは、低吸水性を有し、耐熱性、透明性、流動性等に優れ、かつ低複屈折率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α‐メチルスチレン単位10〜65重量%、メタクリル酸メチル単位10〜40重量%及びスチレン単位10〜80重量%の割合で構成された共重合体からなり、重量平均分子量の範囲が50000〜400000、ビカット軟化温度が105℃以上、屈折率1.550〜1.580、吸水率0.13%以下であり、かつ厚さ10mmのプリズムとしたときの複屈折値が300nm以下である光学プリズム又はレンズ用の樹脂材料。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂材料を成型して得られた光学プリズム。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂材料を成型して得られた光学レンズ。

【国際公開番号】WO2005/070978
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517243(P2005−517243)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000566
【国際出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】