説明

光学用樹脂組成物およびその製造方法および光学用製品

【課題】ガラス基材と樹脂層の密着性の高いハイブリッドレンズを形成するのに適した光学用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物と、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物とを主成分とする光学用樹脂組成物を提供する。多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とを含むウレタン系樹脂組成物は、肉厚で非球面量の大きなハイブリッドレンズを製造するのに適しており、さらに、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物が付加された光学用樹脂組成物を用いることにより、樹脂層とガラス基材との剥離の少ないハイブリッドレンズを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズなどの光学用製品、特にハイブリッドレンズに適した光学用樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズや反射鏡等の光学素子を備えた各種の光学機器において、高性能化、小型軽量化、低コスト化を図るために、非球面レンズを有する光学素子を用いることが増加している。例えば、液晶プロジェクタ用の投射レンズは、高拡大の画像を近距離で投影しようとすると、収差補正に必要なレンズが多数枚必要となると共に、最もスクリーン側の最後(出射側)のレンズは大口径となる。したがって、最もスクリーン側の大口径レンズを非球面化して結像性能の向上と、レンズ枚数の削減の効果を得ようとすることが多い。
【0003】
しかしながら、大口径の非球面レンズを、ガラスレンズを精密研削・研磨して製造する方法はコストが高く、家電としてのプロジェクタを提供する場合には用いることができない。これに対して、球面ガラスレンズの上に非球面形状の樹脂層を重ねて形成する製造方法は、低コストで大口径の非球面レンズを製造できるので好ましい。ガラスレンズと樹脂層との組み合わせからなるレンズはハイブリッドレンズと呼ばれている。
【0004】
ハイブリッドレンズの製造過程は、まず、球面ガラスレンズを基材として、そのガラスレンズ基材と、その一方あるいは両方に非球面形状を転写する成形型とを組み合わせる。次に、母材と成形型との間に樹脂組成物を充填し、光または熱により硬化する。この後に、成形型を脱離することにより、表面が非球面形状になったハイブリッドレンズが製造される。
【特許文献1】特開2005−60657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、球面形状のガラス基材の上に非球面形状の樹脂層を形成する際に、その最大厚みを確保し肉厚で非球面量の大きなハイブリッドレンズを得るために、アクリレート系樹脂を用いることが開示されている。さらに、アクリレート系樹脂によりハイブリッドレンズを形成する際の問題としては、例えば、硬化成形する際の重合収縮に起因するガラス基材の割れや樹脂の亀裂が発生する問題があり、これを防止するために、樹脂に柔軟性を持たせることが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献1には、アクリレート系の樹脂組成物による樹脂層とレンズ基材との密着性を確保するためにシランカップリング剤を含むことが開示されており、このシランカップリング剤は樹脂層の表面硬度を向上するために有効であることが開示されている。
【0007】
このように、ハイブリッドレンズを形成するための樹脂層には、ガラス基材に対する密着性と、ある程度の柔軟性と、表面強度とが要求される。さらに、多くのレンズでは樹脂層の表面に反射防止層を形成するために、反射防止層との密着性が要求される。そして、プロジェクタなどの光学製品に使用される環境を考えると、十分な高温耐久性も要求される。
【0008】
アクリレート系樹脂は、シランカップリング剤を適量含めたり、異なる種類のアクリレート化合物を含めることにより、上記の幾つかの条件を満足する樹脂組成物が見出されている。しかしながら、反射防止層との密着性をさらに向上しようとすると、他の性能、例えば高温耐久性を維持することが難しくなったり、高温耐久性を向上しようとすると密着性を維持することが難しくなるなど、さらに高い性能のハイブリッドレンズなどに用いられる光学用樹脂組成物を提供することが困難になっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様は、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物と、さらに、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物とを主成分とする光学用樹脂組成物である。
【0010】
多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とを含むチオウレタン系樹脂組成物は熱硬化樹脂組成物であり、この組成物を熱硬化した樹脂層は、ガラス基材との密着性が非常に高い。さらに、本発明の一態様である光学用樹脂組成物は、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物と、さらに、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物とを含んでおり、チオウレタン系樹脂が硬化する際に樹脂が本来持っている重合収縮力に起因し、あるいは、温度サイクル試験により、ガラス基材との間に剥離が生じたり、樹脂に亀裂が生じたりするのを抑制することができる。したがって、ガラス基材および反射防止膜との密着性が高く、さらに、硬化時あるいは温度サイクル試験時のガラス基材のひび割れや樹脂亀裂の少ない、高温耐久性の高い光学樹脂層を形成するのに適した光学用樹脂組成物を提供できる。
【0011】
ポリオール化合物として、好適なものは、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル等がある。
【0012】
これらの成分は、少ないと重合収縮力の緩和効果を得ることができず、多すぎると、他の成分との相溶性が低下する。このため、ガラス転移温度(Tg)が低下し、実用温度において軟化する可能性がある。
【0013】
光学用樹脂組成物は、ポリオール化合物として、ポリプロピレングリコール(PPG)を、5重量%〜10重量%の範囲で含むことが望ましい。
【0014】
また、光学用樹脂組成物は、ポリオール化合物として、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル(DA)、ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(DB)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(DAB)の少なくともいずれか1種以上を、5重量%〜30重量%の範囲で含むものであっても良い。
【0015】
長鎖ジチオール化合物として好適なものは、1,10−デカンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール等がある。
【0016】
光学用樹脂組成物は、長鎖ジチオール化合物として、1,10−デカンジチオールを、3重量%〜10重量%の範囲で含むものであっても良い。
【0017】
また、光学用樹脂組成物は、長鎖ジチオール化合物として、1,6−ヘキサンジチオールを、5重量%〜15重量%の範囲で含むものであっても良い。
【0018】
本発明の他の一態様は、光学用製品の製造方法であり、光学用樹脂組成物を型に入れる工程と、熱硬化することにより光学用製品を成形する工程とを有する。さらに、光学用樹脂組成物を重合硬化させた樹脂により少なくとも一部が構成されている光学用製品は、本発明に含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下において、本発明の一形態である光学用樹脂組成物を用いてハイブリッドレンズを製造する概要を説明する。以下で説明する製造方法は、ガラス基材と、そのガラス基材の少なくとも一方の面に樹脂によるレンズ面を成形するための成形型とを組み合わせた鋳型に、多価イソシアネート化合物(第1成分)と、多価チオール化合物(第2成分)と、さらにポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物(第3成分)とを主成分とするウレタン系の光学用樹脂組成物を注入する工程と、その光学用樹脂組成物を熱硬化して樹脂層を形成する工程とを有する。また、ハイブリッドレンズは、ガラス基材と、そのガラス基材の少なくとも一方の面に樹脂層が形成されたハイブリッドレンズであって、樹脂層は、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物と、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物とを主成分とする光学用樹脂組成物を熱硬化することにより形成されている。
【0020】
上記第1成分の多価イソシアネート化合物は、脂環族ポリイソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートであることが好ましい。多価イソシアネート化合物としては、さらに、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルイソシアネート)、3,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
また、屈折率の向上に効果的であると考えられている、芳香族ポリイソシアネートを含めることも有用である。
【0022】
上記の第2成分の多価チオール化合物は、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,5−トリメルカプト−4−チアペンタン、3,3−ジメルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、3−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、3−メルカプトメチルチオ−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、3,6−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、3,7−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、4,6−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、3−メルカプトメチル−1,6−ジメルカプト−2,5−ジチアヘキサン、3−メルカプトメチルチオ−1,5−ジメルカプト−2−チアペンタン、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,4,8,11−テトラメルカプト−2,6,10−トリチアウンデカン、1,4,9,12−テトラメルカプト−2,6,7,11−テトラチアドデカン、2,3−ジチア−1,4−ブタンジチオール、2,3,5,6−テトラチア−1,7−ヘプタンジチオール、2,3,5,6,8,9−ヘキサチア−1,10−デカンジチオール、4,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチオラン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−ビス(メルカプトメチルチオ)メチルー1,3−ジチエタン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタン等のポリチオール化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
上記第3成分のポリオール化合物として、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル(DA)、ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(DB)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(DAB)を挙げることができる。また、第3成分の長鎖ジチオール化合物としては、1,10−デカンジチオール、1,6−ヘキサンジチオールを挙げることができる。
【0024】
図1(a)および(b)に、ハイブリッドレンズの製造工程の一部を模式的に示してある。このハイブリッドレンズは、液晶プロジェクタ用の投写レンズシステムの一部である。ガラス製で球面のレンズ基材2の片面に樹脂層3がモールドされ、非球面のハイブリッドレンズ1が製造される。
【0025】
このハイブリッドレンズの製造方法では、図1(a)に示すように、ガラス基材2と、そのガラス基材の少なくとも一方の面に樹脂によるレンズ面を成形するための成形型4とを組み合わせた鋳型7に、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物と、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物とを主成分とするウレタン系樹脂組成物9を注入する工程を有する。さらに、図1(b)に示すように、ウレタン系樹脂組成物を熱硬化して樹脂層3を形成した後、成形型4を取り外し、ガラス基材2と樹脂層3からなるハイブリッドレンズ1が供給される。ガラス基材2の一例は、鏡面仕上げした外径100mm、曲率120mmの球状の凸面(成型面)21を備えた負のメニスカスレンズである。成形型4の一例は、非球面形状に鏡面仕上げ加工した転写面41を備えた外径100mmの型ガラスである。鋳型7は、これらガラス基材2と成形型4とを、中心の厚みを0.5mm、最大樹脂層厚5mmとなる空間が形成されるように組み合わせて、粘着テープ5で固定したものである。
【0026】
(事前評価)
まず、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とを含み、ポリオール化合物および長鎖ジチオール化合物を含まないチオウレタン系樹脂組成物のサンプルと、それを硬化した樹脂層を備えたハイブリッドレンズを幾つか製造し、それら樹脂層の密着性などの性能を、アクリレート系樹脂組成物を硬化した樹脂層を備えたハイブリッドレンズの性能と比較して評価した。
【0027】
事前評価においては、ガラス基材2を洗浄した後、ガラス基材2の樹脂層3と接する成型面21に、樹脂層3との密着性を向上するために、シランカップリング剤を塗布する前処理を行ったガラス基材2と、洗浄した後にシランカップリング剤を塗布しない(前処理を行なわない)ガラス基材2とを用意した。前処理にはシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの0.5%イソプロパノール溶液を用い、ガラス基材2の成型面21に塗布し、その後、120℃程度で、約1時間、焼成処理した。
【0028】
成形型4は、洗浄した後、転写面41に、樹脂層3との剥離を容易にするために、離型剤を予め塗布する前処理を行う。この例では、離型剤として、フッ素系撥水処理剤を転写面41に塗布した後、乾燥処理を行った。これらのガラス基材2と成形型4とを組み合わせて鋳型7とした。
【0029】
(比較例1)
比較例1では、第1成分の多価イソシアネート化合物(B)であるキシリレンジイソシアネート50.7重量%と、第2成分の多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物49.3重量%とを混合し、これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、ウレタン系樹脂組成物L1を得た。
【0030】
(樹脂層の形成)
この樹脂組成物L1を、前処理されたガラス基材2を用いた鋳型7に注入し、熱硬化させる。熱硬化は、樹脂組成物L1が注入された鋳型7を防爆型加熱オーブン中で35℃から120℃まで10時間かけて徐々に昇温して行った。その後、120℃で2時間加熱し硬化を完結させた。その後、成形型4を脱型してハイブリッドレンズ1を取り出し、さらに、120℃で1時間加熱してアニール処理した。
【0031】
(反射防止膜の形成)
得られたハイブリッドレンズ1には、その両面に反射防止コート処理を行い、この比較例1により得たものをサンプルS1とした。本例では、反射防止コート処理は、基材SiOとZrOを交互に重ねながら蒸着し、5層の無機系の反射防止膜を形成した。
【0032】
樹脂組成物L1による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS1に対し、以下で述べる試験を行い、各特性を評価した。評価方法および結果については以下で纏めて説明する。
【0033】
(比較例2)
比較例2では、比較例1と同じ樹脂組成物L1を前処理されていないガラス基材2を用いた鋳型7に注入し、その他については比較例1と同様にハイブリッドレンズを製造した。この比較例2により製造されたハイブリッドレンズをサンプルS2とする。
【0034】
(比較例3)
比較例3では、多価イソシアネート化合物(A)であるノルボルネンジイソシアネート53.0重量%と、多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物47.0重量%とを混合し、これを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、比較例3のウレタン系樹脂組成物L3を得た。この樹脂組成物L3を、前処理されたガラス基材2を用いた鋳型7に注入し、その他については比較例1と同様にハイブリッドレンズを製造した。この比較例3により製造されたハイブリッドレンズをサンプルS3とする。
【0035】
(比較例4)
比較例4では、比較例3と同じ樹脂組成物L3を、前処理されていないガラス基材2を用いた鋳型7に注入し、その他については比較例1と同様にハイブリッドレンズを製造した。この比較例4により製造されたハイブリッドレンズをサンプルS4とする。
【0036】
(比較例5)
比較例5では、ノナブチレングリコールジメタクリレートを65.0重量%と、トリレンジイソシアネート、および2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られたウレタンジアクリレートを20.0重量%と、トリシクロ(5,2,1,02,6)デカン−8−イルメタクリレートを12.0重量%と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを3.0重量%とを混合した。さらに、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドを300ppmと、t−ブチルパーオキシイソブチレートを600ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、50mmHgに減圧して15分間脱気し、アクリレート系樹脂組成物L5を得た。
【0037】
さらに、アクリレート系の樹脂組成物L5を、前処理されたガラス基材2を用いた鋳型7に注入し、2KWの高圧水銀灯により、6000mJ/cmの紫外線を照射して光硬化させた。その後、120℃で0.5時間加熱した。そして、型4を脱型した。その後、比較例1と同様に、120℃で1時間加熱してアニール処理し、その後、反射防止膜を成膜した。この比較例5により製造されたハイブリッドレンズをサンプルS5とする。
【0038】
(比較例6)
比較例6では、比較例5と同じ樹脂組成物L5を、前処理されていないガラス基材2を用いた鋳型7に注入し、その他については比較例5と同様にハイブリッドレンズを製造した。この比較例6により製造されたハイブリッドレンズをサンプルS6とする。
【0039】
(比較例1〜6の評価)
上記の比較例1〜6で得られた反射防止膜付きのハイブリッドレンズのサンプルS1〜S6について、硬化後(温度サイクル試験前)の外観、屈折率、面精度、耐溶剤性、転写性、注入作業性、密着性を評価した。さらに、以下の方法で温度サイクル試験を行い、その後の、外観、耐溶剤性、密着性を評価した。それぞれの特性の評価方法は以下のとおりである。
【0040】
外観は、ハイブリッドレンズの樹脂層および反射防止膜に、クラック、腐食、気泡、剥離、著しい色の変化が認められるかどうかを目視により観察した。
【0041】
屈折率は、試験片を作成し、アッベ屈折率計を用いて25℃における屈折率を測定した。それぞれのサンプルの試験片は、上記それぞれの比較例に示した樹脂組成と同じようにして調製した樹脂組成物を厚さ2mmまたは5mm、外径75mmの円盤状平板に成型し、測定に必要なサイズに切り出して試験片とした。
【0042】
面精度は、ハイブリッドレンズの樹脂層の表面形状を、3次元形状測定機(松下電器産業(株)製、UA3P)を用いて測定した。「○」は、形状精度が3μm以下のものを示し、「△」は、3μm〜10μmのものを示し、「×」は、10μm以上のものを示している。
【0043】
耐溶剤性は、アルコール系有機溶剤をしみ込ませたレンズクリーニング用紙(小津紙業(株)製、商品名:ダスパー)により反射防止膜の表面を10回こすり、外観を目視で観察した。「○」は、変化のない良好なものを示している。
【0044】
転写性は、ガラス型を離型したレンズ面の転写性を目視にて判定した。「○」は、転写性が良いことを示し、「△」は、転写性に若干の問題が有ることを示し、「×」は、転写性が悪いことを示している。
【0045】
注入作業性は、ハイブリッドレンズの成形型へのハイブリッドレンズ用樹脂組成物を注入する際の難易度を判定した。「○」は、注入しやすいことを示し、「△」は、注入するのがやや難しいことを示し、「×」は、注入し難いことを示している。
【0046】
密着性(ガラス基材との密着性)については、密着力の違いを実証するために以下の引張り試験を行った。先ず、20mm角、厚さ4mmのガラス基材上に上記のサンプルS1〜S6と同様に、それぞれの樹脂層を厚さ10mmとなるように硬化成形した試験片を準備する。この試験片を用い、ガラス基材面と樹脂層とを剥離するのに要する引張り荷重を測定し、密着性の強さの指標(1(低)〜10(高))とした。また、この指標は、アクリレート系樹脂を用いたサンプルS6の測定値を基準として換算した。
【0047】
温度サイクル試験は、硬化成形して得られたレンズを小型環境試験機(タバイエスペック(株)製、SH−220型)に入れ、−30℃の低温下に30分放置後、80℃の高温下に30分放置する操作を1サイクルとして、10サイクル繰り返す。
【0048】
この温度サイクル試験(耐久試験)を行った後に、外観、耐溶剤性について、温度サイクル試験前と同様に評価した。温度サイクル試験後の密着性については、接着テープ(ニチバン(株)製:商品名:セロテープ(登録商標)CT−12)を反射防止膜の表面に接着して、剥離する操作を3回繰り返し、外観を目視で観察した。変化のないものを良好とした。
【0049】
図2に、上記の評価結果を、樹脂層の主組成、ガラス基材の前処理の有無とともに纏めて示している。まず、比較例1〜4のサンプルS1〜S4は、前処理の有無に関わらず、全ての評価項目について良好であるとの結果が得られた。特に、サンプルS1〜S4は、初期(硬化成形後)の外観は、良好であり、樹脂層3やガラス基材2に気泡、剥離、クラックなどは見られなかった。屈折率が1.60以上と高屈折率であり、硬化した後の樹脂層3とガラス基材2との密着性レベルは、「5」〜「8」と高レベルであった。温度サイクル試験後の評価も良好であり、樹脂層および反射防止膜にクラック、腐食、気泡、剥離、著しい色の変化は特に認められなかった。
【0050】
比較例5および6で得られた、サンプルS5およびS6では、初期(硬化成形後)の外観は、良好であり、樹脂層3やガラス基材2に気泡、剥離、クラックなどは見られなかった。屈折率は、1.51程度とやや低く、硬化した樹脂層3とガラス基材2との密着性レベルは、総じてサンプルS1〜S4に対して低く、特に、前処理を行なわなかったサンプルS6は、密着性レベルが「1」と最も低い。
【0051】
また、温度サイクル試験後の評価においても、前処理を省いたサンプルS6は、接着テープによる反射防止膜の密着性については、芳しくなく、不良と判断された。したがって、アクリレート系の樹脂組成物を用いたサンプルS5およびS6においては、ガラス基材と硬化後の樹脂層との密着性を得るために、少なくともシランカップリング剤を用いた前処理が必要であると言える。これに対し、チオウレタン系の樹脂組成物を用いたサンプルS1〜S4においては、前処理を行なうことによりそれなりの効果は得られていると考えられるが、基本的には、前処理を行なう必要がない程度の十分な密着性が得られることが分かる。
【0052】
(実施例1)
以下では、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物と、ポリオール化合物とを含むウレタン系樹脂組成物を用いてハイブリッドレンズを製造する例を説明する。実施例1では、第3成分のポリオール化合物となるポリプロピレングリコール(分子量1000)(以下、PPG1000)を含む樹脂組成物L11〜L14を製造し、それぞれの樹脂組成物L11〜L14による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS11〜S14を製造した。
【0053】
なお、本実施例を含み、以下の各実施例では、ガラス基材2の表面21に対し、シランカップリング剤による前処理を行っていない鋳型7を用いてレンズを製造した。また、鋳型7を用いたハイブリッドレンズ製造過程および反射防止膜の成膜過程は、特に記載しない限り、上記の事前評価の比較例1で説明した過程と同様である。
【0054】
樹脂組成物L11を調整するために、まず、第1成分の多価イソシアネート化合物(A)であるノルボルネンジイソシアネート48.7重量%と、第2成分の多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物41.3重量%とを混合し、さらに、第3成分のPPG1000を10.0重量%と、添加物としてブチルチンジクロライド100ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、樹脂組成物L11を得た。
【0055】
樹脂組成物L12は、樹脂組成物L11と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを50.4重量%と、多価チオール化合物となる組成を43.6重量%と、第3成分のPPG1000を6.0重量%とを含むものである。
【0056】
樹脂組成物L13は、樹脂組成物L11と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを51.7重量%と、多価チオール化合物となる組成を45.3重量%と、第3成分のPPG1000を3.0重量%とを含むものである。
【0057】
樹脂組成物L14は、樹脂組成物L11と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを46.5重量%と、多価チオール化合物となる組成を38.5重量%と、第3成分のPPG1000を15.0重量%とを含むものである。
【0058】
(実施例1の評価)
このようにして得られたサンプルS11〜S14を、事前評価と同様の方法で評価した。その結果を図3に示している。
【0059】
第3成分のPPG1000が15重量%含まれる樹脂組成物L14は、注入作業性が低く、さらに、この樹脂組成物L14を用いたサンプルS14の温度サイクル試験後の評価は、外観検査および耐溶剤性が不良であった。したがって、PPG1000を多く含みすぎる樹脂組成物L14を用いたサンプルS14は、高温耐久性が低いと判断される。
【0060】
一方、剥離については、第3成分のPPG1000を3重量%含んだ樹脂組成物L13によるサンプルS13では、「△」であるのに対し、PPG1000をより多く含んだ樹脂組成物L11、L12およびL14によるサンプルS11、S12およびS14は、良好な結果を示している。したがって、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、第3成分であるポリオール化合物を適量の範囲で含む樹脂組成物を用いてハイブリッドレンズを製造することにより、樹脂層がさらに剥離し難い、ハイブリッドレンズを提供することが可能となることが分かる。
【0061】
実施例1の評価結果より、第3成分のポリオール化合物としてポリプロピレングリコール(PPG1000)を付加する際には、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、5重量%〜10重量%の範囲でPPG1000を含む樹脂組成物が好ましい。
【0062】
(実施例2)
実施例2では、第3成分のポリオール化合物としてポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル(分子量400)(以下、DA400)を含む樹脂組成物L21〜L25を製造し、それぞれの樹脂組成物L21〜L25による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS21〜S25を製造した。
【0063】
樹脂組成物L21を調整するために、まず、多価イソシアネート化合物(第1成分)であるノルボルネンジイソシアネートを50.1重量%と、多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物(第2成分)を39.9重量%とを混合した。さらに、第3成分のポリオール化合物であるDA400を10.0重量%と、添加剤としてブチルチンジクロライド100ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、樹脂組成物L21を得た。
【0064】
樹脂組成物L22は、樹脂組成物L21と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを47.2重量%と、多価チオール化合物となる組成を32.8重量%と、第3成分のDA400を20.0重量%とを含むものである。
【0065】
樹脂組成物L23は、樹脂組成物L21と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを44.3重量%と、多価チオール化合物となる組成を25.7重量%と、第3成分のDA400を30.0重量%とを含むものである。
【0066】
樹脂組成物L24は、樹脂組成物L21と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを51.6重量%と、多価チオール化合物となる組成を43.4重量%と、第3成分のDA400を5.0重量%とを含むものである。
【0067】
樹脂組成物L25は、樹脂組成物L21と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを42.8重量%と、多価チオール化合物となる組成を22.2重量%と、第3成分のDA400を35.0重量%とを含むものである。
【0068】
(実施例2の評価)
このようにして得られたサンプルS21〜S25を、事前評価と同様の方法で評価した。その結果を図4に示している。
【0069】
DA400が35重量%含まれる樹脂組成物L25は、注入作業性が低く、さらに、この樹脂組成物L25を用いたサンプルS25は、耐溶剤性が低く、また、温度サイクル試験後の評価は、外観検査および耐溶剤性が不良と評価された。したがって、DA400を多く含みすぎる樹脂組成物L25を用いたサンプルS25は、高温耐久性が低いと判断される。
【0070】
一方、剥離については、第3成分のDA400を5重量%含んだ樹脂組成物L24によるサンプルS24では、「△」であるのに対し、DA400をより多く含んだ樹脂組成物L21、L22、L23およびL25によるサンプルS21、S22、S23およびS25は、良好な結果を示している。したがって、実施例1と同様に、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、第3成分であるポリオール化合物を適量の範囲で含む樹脂組成物を用いてハイブリッドレンズを製造することにより、樹脂層がさらに剥離し難いハイブリッドレンズを提供することが可能となる。
【0071】
実施例2の評価結果より、第3成分のポリオール化合物としてDA400を付加する際には、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、5重量%〜30重量%の範囲でDA400を含む樹脂組成物が望ましい。
【0072】
(実施例3)
実施例3では、第3成分のポリオール化合物として、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル(分子量700)(以下、DA700)を含む樹脂組成物L31〜L33を製造し、それぞれの樹脂組成物L31〜L33による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS31〜S33を製造した。
【0073】
樹脂組成物L31を調整するために、まず、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを49.1重量%と、多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物を40.9重量%とを混合した。さらに、第3成分のDA700を10.0重量%と、添加剤としてブチルチンジクロライド100ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、ウレタン系の樹脂組成物L31を得た。
【0074】
樹脂組成物L32は、樹脂組成物L31と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを45.2重量%と、多価チオール化合物となる組成を34.8重量%と、第3成分のDA700を20.0重量%とを含むものである。
【0075】
樹脂組成物L33は、樹脂組成物L31と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを41.3重量%と、多価チオール化合物となる組成を28.7重量%と、第3成分のDA700を30.0重量%とを含むものである。
【0076】
(実施例3の評価)
このようにして得られたサンプルS31〜S33を上記の実施例と同様の方法で評価した。その結果を図5に示している。樹脂組成物L31〜L33によるサンプルS31〜S33は全ての評価で良好な結果を示している。この実施例3の評価結果と、DA400を用いた実施例2の評価結果より、第3成分のポリオール化合物としてDA700を付加する際には、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、5重量%〜30重量%の範囲でDA700を含む樹脂組成物が望ましい。
【0077】
(実施例4)
実施例4では、第3成分のポリオール化合物としてポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(分子量400)(以下、DB400)を含む樹脂組成物L41〜L45を製造し、それぞれの樹脂組成物L41〜L45による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS41〜S45を製造した。
【0078】
樹脂組成物L41を調整するために、まず、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを50.1重量%と、多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物を39.9重量%とを混合した。さらに、第3成分のポリオール化合物であるDB400を10.0重量%と、添加剤としてブチルチンジクロライド100ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、樹脂組成物L41を得た。
【0079】
樹脂組成物L42は、樹脂組成物L41と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを47.3重量%と、多価チオール化合物となる組成を32.7重量%と、第3成分のDB400を20.0重量%とを含むものである。
【0080】
樹脂組成物L43は、樹脂組成物L41と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを44.4重量%と、多価チオール化合物となる組成を25.6重量%と、第3成分のDB400を30.0重量%とを含むものである。
【0081】
樹脂組成物L44は、樹脂組成物L41と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを51.6重量%と、多価チオール化合物となる組成を43.4重量%と、第3成分のDB400を5.0重量%とを含むものである。
【0082】
樹脂組成物L45は、樹脂組成物L41と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを42.8重量%と、多価チオール化合物となる組成を22.2重量%と、第3成分のDB400を35.0重量%とを含むものである。
【0083】
(実施例4の評価)
このようにして得られたサンプルS41〜S45を上記の実施例と同様の方法で評価した。その結果を図6に示している。
【0084】
DB400が35重量%含まれる樹脂組成物L45は、注入作業性が低く、さらに、この樹脂組成物L45を用いたサンプルS45は、耐溶剤性が低く、また、温度サイクル試験後の評価は、外観検査が不良と評価された。したがって、DB400を多く含みすぎる樹脂組成物L45を用いたサンプルS45は、高温耐久性が低いと判断される。
【0085】
一方、剥離については、第3成分のDB400を5重量%含んだ樹脂組成物L44によるサンプルS44では、「△」であるのに対し、DB400をより多く含んだ樹脂組成物L41、L42、L43およびL45によるサンプルS41、S42、S43およびS45は、「○」と良好な結果を示している。したがって、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、第3成分であるポリオール化合物を適量の範囲で含む樹脂組成物を用いてハイブリッドレンズを製造することにより、樹脂層がさらに剥離し難いハイブリッドレンズを提供することが可能となる。
【0086】
実施例4の評価結果より、第3成分のポリオール化合物として、DB400を付加する際には、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、5重量%〜30重量%の範囲でDB400を含む樹脂組成物が望ましい。
【0087】
(実施例5)
実施例5では、第3成分のポリオール化合物としてポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(分子量800)(以下、DAB800)を含む樹脂組成物L51〜L53を製造し、それぞれの樹脂組成物L51〜L53による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS51〜S53を製造した。
【0088】
樹脂組成物L51を調整するために、まず、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを48.9重量%と、多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物を41.1重量%とを混合した。さらに、第3成分のポリオール化合物のDAB800を10.0重量%と、添加剤としてブチルチンジクロライド100ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、樹脂組成物L51を得た。
【0089】
樹脂組成物L52は、樹脂組成物L51と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを44.8重量%と、多価チオール化合物となる組成を35.2重量%と、第3成分のDAB800を20.0重量%とを含むものである。
【0090】
樹脂組成物L53は、樹脂組成物L51と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを40.8重量%と、多価チオール化合物となる組成を29.2重量%と、第3成分のDAB800を30.0重量%とを含むものである。
【0091】
(実施例5の評価)
このようにして得られたサンプルS51〜S53を、上記実施例と同様の方法で評価した。その結果を図7に示している。樹脂組成物L51〜L53によるサンプルS51〜S53は、全ての評価で良好な結果を示している。
【0092】
実施例5の評価結果と、DB400を用いた実施例4の評価結果を参照すると、第3成分のポリオール化合物としてDAB800を付加する際には、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、5重量%〜30重量%の範囲でDAB800を含む樹脂組成物が望ましい。
【0093】
(実施例6)
実施例6および7は、第3成分として長鎖ジチオール化合物を含む樹脂組成物を用いた例である。実施例6では、第3成分の長鎖ジチオール化合物として1,10−デカンジチオール(以下、10DSH)を含む樹脂組成物L61〜L64を製造し、それぞれの樹脂組成物L61〜L64による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS61〜S64を製造した。
【0094】
樹脂組成物L61を調整するために、まず、多価イソシアネート化合物(第1成分)であるノルボルネンジイソシアネートを52.7重量%と、多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物(第2成分)を42.3重量%とを混合した。さらに、第3成分の長鎖ジチオール化合物として、10DSHを5.0重量%と、添加剤としてブチルチンジクロライド100ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、樹脂組成物L61を得た。
【0095】
樹脂組成物L62は、樹脂組成物L61と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを52.4重量%と、多価チオール化合物となる組成を37.6重量%と、第3成分の10DSHを10.0重量%とを含むものである。
【0096】
樹脂組成物L63は、樹脂組成物L61と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを51.8重量%と、多価チオール化合物となる組成を28.2重量%と、第3成分の10DSHを20.0重量%とを含むものである。
【0097】
樹脂組成物L64は、樹脂組成物L61と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを51.2重量%と、多価チオール化合物となる組成を18.8重量%と、第3成分の10DSHを30.0重量%とを含むものである。
【0098】
(実施例6の評価)
このようにして得られたサンプルS61〜S64を上記実施例と同様の方法で評価した。その結果を図8に示している。
【0099】
10DSHが30重量%含まれる樹脂組成物L64によるサンプルS64は、面精度および耐溶剤性が低く、さらに、温度サイクル試験後の評価は、外観検査が不良と評価された。したがって、10DSHを多く含みすぎる樹脂組成物L64を用いたサンプルS64は、高温耐久性が低いと判断される。
【0100】
実施例6の評価結果より、第3成分の長鎖ジチオール化合物として10DSHを付加する際には、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、3重量%〜10重量%の範囲で10DSHを含む樹脂組成物が好ましい。
【0101】
(実施例7)
実施例7では、第3成分の長鎖ジチオール化合物として1,6−ヘキサンジチオール(以下、6DSH)を含む樹脂組成物L71〜L74を製造し、それぞれの樹脂組成物L71〜L74による樹脂層3を備えたハイブリッドレンズのサンプルS71〜S74を製造した。
【0102】
樹脂組成物L71を調整するために、まず、多価イソシアネート化合物(第1成分)であるノルボルネンジイソシアネートを53.6重量%と、多価チオール化合物となるエピクロルヒドリン、2−メルカプトエタノール、硫化ソーダ、およびチオ尿素から得られる反応生成物(第2成分)を41.4重量%とを混合した。さらに、第3成分の長鎖ジチオール化合物として6DSHを10.0重量%と、添加剤としてブチルチンジクロライド100ppmとを混合した。これらを室温でよく攪拌した後、1mmHg以下に減圧して1時間脱気し、樹脂組成物L71を得た。
【0103】
樹脂組成物L72は、樹脂組成物L71と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを54.2重量%と、多価チオール化合物となる組成を35.8重量%と、第3成分の6DSHを5.0重量%とを含むものである。
【0104】
樹脂組成物L73は、樹脂組成物L71と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを53.4重量%と、多価チオール化合物となる組成を43.6重量%と、第3成分の6DSHを3.0重量%とを含むものである。
【0105】
樹脂組成物L74は、樹脂組成物L71と同様の手順で製造され、多価イソシアネート化合物であるノルボルネンジイソシアネートを54.7重量%と、多価チオール化合物となる組成を34.3重量%と、第3成分の6DSHを15.0重量%とを含むものである。
【0106】
(実施例7の評価)
このようにして得られたサンプルS71〜S74を上記実施例と同様の方法で評価した。その結果を図9に示している。
【0107】
6DSHが15重量%含まれる樹脂組成物L74を用いたサンプルS74は、面精度および耐溶剤性が低く、さらに、温度サイクル試験後の評価は、外観検査が不良と評価された。したがって、6DSHを多く含みすぎる樹脂組成物L74を用いたサンプルS74は、高温耐久性が低いと判断される。
【0108】
一方、剥離については、第3成分の6DSHを3重量%含んだ樹脂組成物L73によるサンプルS73では、「△」であるのに対し、6DSHを多く含んだ樹脂組成物L71、L72およびL74によるサンプルS71、S72およびS74は、良好な結果を示している。したがって、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、第3成分である長鎖ジチオール化合物を適量の範囲で含む樹脂組成物を用いてハイブリッドレンズを製造することにより、樹脂層がさらに剥離し難いハイブリッドレンズを提供することが可能となる。
【0109】
実施例7の評価結果より、第3成分の長鎖ジチオール化合物として6DSHを付加する際には、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、5重量%〜15重量%の範囲で6DSHを含む樹脂組成物が好ましい。
【0110】
以上に説明したように、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物を第3成分とする樹脂組成物を用いてガラス基材上に硬化成形された樹脂は、ガラス基材との密着性が高く、温度耐久性も高い。さらに、反射防止膜との密着性も良いだけではなく、転写後の離型の際、あるいは温度サイクル試験において生ずる可能性のあるガラス基材の割れや樹脂層の亀裂を抑制でき、ガラス基材からの剥離の発生が少ないものとなる。これは、多価チオール化合物の一部をポリオール化合物に置換することで、チオウレタン樹脂中に硬化成形時の重合収縮力を緩和する働きをするソフトセグメント領域を形成することができるためであると考えられる。同様に、多価チオール成分の一部を長鎖ジチオール化合物に置換することでも適当な大きさのソフトセグメント領域を形成できるためであると考えられる。また、ウレタン樹脂特有のハードセグメント領域とソフトセグメント領域の形成によって重合収縮力の緩和作用を発現できるという効果も寄与していると考えられる。特に、ソフトセグメント領域の形成がこの緩和作用に大きく効いているものと考えられる。
【0111】
したがって、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物の第3成分は、重合収縮力の緩和効果を得られる程度は少なくとも含めることが望ましい。一方、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物は、多すぎると、他の成分との相溶性が低下するため、注入作業性、耐溶剤性の低下が見られる。さらに、温度サイクル試験後の外観、耐溶剤性の低下が見られ、耐熱性能の低下も見られる。ガラス転移温度(Tg)が低下し、実用温度において軟化するためであると考えられる。
【0112】
このため、上記の実施例において開示した樹脂組成物を含む、第3成分を含むウレタン系の樹脂組成物により、肉厚で非球面量の大きなハイブリッドレンズであって、ガラス基材と樹脂層の密着性が高く、温度サイクル試験において生ずる可能性のあるガラス基材の割れや樹脂層の亀裂に起因する剥離の発生の少ないハイブリッドレンズを提供できる。この樹脂組成物により硬化成形された樹脂層は、無機系の反射防止膜に限らず、有機系の反射防止膜との密着性も良好であり、有機系の反射防止膜を備えたハイブリッドレンズに適している。
【0113】
なお、ハイブリッドレンズ用の樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、黄変防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料等の添加剤が本発明の効果を損なわない範囲で配合されても良い。さらに、樹脂層にハードコート処理などの機能膜を形成するようにしても良い。
【0114】
また、上記では、ガラス基材の片面に樹脂層(プラスチックレンズ)が成形されたハイブリッドレンズを説明しているが、これに限らず、ガラス基材の両面が樹脂層で成形されている両面ハイブリッドレンズも含まれる。さらに、本明細書において開示している、多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物とに加えて、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物とを主成分とする光学用樹脂組成物は、ハイブリッドレンズに限らず、他の光学用製品、例えば、一般の眼鏡レンズ、プリズム、光学フィルタなどにも適用可能である。
【0115】
さらに、上記のハイブリッドレンズを構成要素とする光学レンズ素子では、投影機用非球面レンズとして適用された場合に、最も優れた効果を発揮することができるが、その他にスチルカメラや、ビデオカメラ、それらの交換レンズ、眼鏡レンズ、望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡、光ディスク/光磁気ディスク読取用ピックアップレンズ等の光学部品にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】ハイブリッドレンズの製造工程の一部の模式図。
【図2】事前評価に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【図3】実施例1に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【図4】実施例2に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【図5】実施例3に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【図6】実施例4に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【図7】実施例5に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【図8】実施例6に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【図9】実施例7に係るハイブリッドレンズの評価結果を示す図。
【符号の説明】
【0117】
1 ハイブリッドレンズ、2 ガラス基材、3 樹脂層
4 ガラス製の上型(転写型)、7 ハイブリッドレンズの成形型
21 成型面、41 転写面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価イソシアネート化合物と、多価チオール化合物と、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物とを主成分とする光学用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリオール化合物として、ポリプロピレングリコールを、5重量%〜10重量%の範囲で含む、光学用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1において、前記ポリオール化合物として、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテルの少なくともいずれか1種以上を、5重量%〜30重量%の範囲で含む、光学用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1において、前記長鎖ジチオール化合物として、1,10−デカンジチオールを、3重量%〜10重量%の範囲で含む、光学用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1において、前記長鎖ジチオール化合物として、1,6−ヘキサンジチオールを、5重量%〜15重量%の範囲で含む、光学用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の光学用樹脂組成物を型に入れる工程と、
熱硬化することにより光学用製品を成形する工程とを有する製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の光学用樹脂組成物を重合硬化させた樹脂により少なくとも一部が構成されている光学用製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−187865(P2007−187865A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5763(P2006−5763)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】