説明

光学用積層フィルム

【課題】高価なドライコーティング法を用いることなくウェットコーティング法による接着力の強い塗膜によって表面反射が低減された、光拡散性を備える光学用積層フィルムを提供する。
【解決手段】ボイドを実質的に含有しないポリエステルからなる配向した支持層、該支持層のうえに設けられ支持層のポリエステルより融点が5〜50℃低いポリエステルと光拡散成分とからなる光拡散層からなる光拡散フィルム、ならびに該光拡散フィルムの少なくとも一方の面に直に設けられた塗布層からなり、該塗布層は、フルオロアルキル(メタ)アクリレートを主たる重合成分とし、フッ素を含まない(メタ)アクリレートを従たる重合成分としてなるアクリル共重合体からなり、300〜800nmの波長領域での塗布層表面の反射率の最小値が0.5〜8.0%であることを特徴とする、光学用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の各種ディスプレイの構成部材として用いられる、光拡散性を有する光学用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の薄型化が進んでおり、光学部材の薄膜化と枚数削減が求められており、ベースフィルム自体に光拡散性を有するフィルムが提案されている。液晶表示装置では、光源より発せられた光線が光学用フィルムを通る際に、表面の反射により光線透過量が減少し輝度が低下する問題がある。
【0003】
光線透過量の減少を防止する方法として、バックライトの光量を上げること考えられるが、消費エネルギーが高くなるなどの問題がある(特許文献1)。フィルム表面の反射を防止して光線透過量を向上させる方法も提案されており、ドライコーティング法、例えばスパッタリング法、蒸着法、CVD法によって、フィルム上に反射を抑制する層を直接設けることが提案されている。しかし、ドライコーティング法では、真空処理設備が必要であり、生産コストが高価となる。そのため、最近ではウエットコーティング法でフィルム上に反射を抑制する層を安価に形成する技術が開発されている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−044954号公報
【特許文献2】特開2003−075603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高価なドライコーティング法を用いることなくウェットコーティング法による接着力の強い塗膜によって表面反射が低減された、光拡散性を備える光学用積層フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ボイドを実質的に含有しないポリエステルからなる配向した支持層、該支持層のうえに設けられ支持層のポリエステルより融点が5〜50℃低いポリエステルと光拡散成分とからなる光拡散層からなる光拡散フィルム、ならびに該光拡散フィルムの少なくとも一方の面に直に設けられた塗布層からなり、該塗布層は、下記式で表わされるフルオロアルキル(メタ)アクリレートを主たる重合成分とし、フッ素を含まない(メタ)アクリレートを従たる重合成分としてなるアクリル共重合体からなり、300〜800nmの波長領域での塗布層表面の反射率の最小値が0.5〜8.0%であることを特徴とする、光学用積層フィルムである。
【0007】
【化1】

(上記式において、R基は、水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、R基は、炭素数1〜4かつフッ素原子数1〜7のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、本発明は、高価なドライコーティング法を用いることなくウェットコーティング法による接着力の強い塗膜によって表面反射が低減された、光拡散性を備える光学用積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光学用積層フィルムは、光拡散フィルムおよび該光拡散フィルムの少なくとも一方の面に直に設けられた塗布層からなる。この塗布層がフィルムの表面反射を抑制する作用をする。なお、塗布層は光拡散フィルムの両面に設けられていてもよい。
【0010】
[光拡散フィルム]
本発明における光拡散フィルムは、光拡散層およびそのうえに設けられた支持層からなる積層フィルムである。以下、支持層から説明する。
【0011】
[支持層]
支持層は、ポリエステルからなる二軸配向した層である。二軸配向した層でないと熱収縮率が高くなり、液晶表示装置のバックライトユニットの光源からの熱によって、フィルムが変形したり、バックライトユニットの輝度斑が発生することがある。
【0012】
支持層は、ポリエステルからなる配向した層であり、ボイドを実質的に含有しない。配向は二軸配向でも一軸配向でもよいが、強度の等方性を得るために二軸配向が好ましい。ボイドを実質的に含有しないとは、ボイドを全く含有しないか、ボイドを含有してもボイドの断面積がボイドを形成する原因となるフィルムに含まれる粒子の断面積の例えば50%以下、好ましくは30%以下であることを意味する。この粒子として例えばフィラーや触媒析出粒子が考えられる。
【0013】
支持層がボイドを含有すると、ボイド界面での光の反射が多くなり、フィルムの全光線透過率が低下して、輝度が劣ることになる。支持層がボイドを含有しないことは、フィルムの断面を走査型顕微鏡(SEM)または透過型顕微鏡(TEM)で500倍〜20000倍の倍率で観察することによって確認することができる。
【0014】
支持層の表面粗さRzは、好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。この範囲の表面粗さRzであると、表面が粗すぎず支持層のうえにプリズム層などの機能層を形成する加工適正に優れて好ましい。
【0015】
支持層に用いるポリエステルは、芳香族飽和ポリエステルである。これは、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とからなるポリエステルである。このポリエステルとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを例示することができる。これらは共重合ポリマーであってもよいが、ホモポリマーであることが好ましい。最も好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートのホモポリマーである。
【0016】
本発明では、支持層のポリエステルとフィラーとの界面にボイドを形成させないことが好ましく、そのため、支持層にはフィラーを添加しないことが好ましい。重合時における触媒やその析出粒子であれば含有されていてもよい。
【0017】
[光拡散層]
光拡散層は、ポリエステルと光拡散成分とからなる。光拡散層のポリエステルとして、支持層のポリエステルより融点が5〜50℃低いポリエステルを用いる。本発明においては、フィルムの延伸により発生した拡散層のボイドを、フィルムを熱処理することで消滅させて、ボイドのない光拡散層を得る。融点差が5℃未満であるとフィルムの機械的強度を保ったまま光拡散層のポリエステルを再融解させることができず、延伸時に光拡散成分の周辺に発生するボイドをフィルムの熱処理によっても十分に消滅させることができず、融点差が50℃を超えると耐熱性が不足する。
【0018】
光拡散層に用いる融点の低いポリエステルとして、共重合ポリエステルを用いることができる。例えば、支持層のポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートを用いる場合には、光拡散層のポリエステルとして、共重合ポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。共重合成分として、ジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。ジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール、ビスフェノールAの如き芳香族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0019】
例えば、支持層のポリエステルとして、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いる場合には、光拡散層のポリエステルとして、共重合ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いることが好ましい。共重合成分として、ジカルボン酸成分としては、例えばフタル酸、イソフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。ジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール、ビスフェノールAの如き芳香族ジオールを挙げることができる。これらは単独または二種以上を使用することができる。
【0020】
光拡散層の光拡散成分としては、ポリエステルに配合することにより光を拡散する性質を示す粒子を用いることができ、有機粒子でもよく、無機粒子でもよく、有機無機のハイブリッド粒子であってもよい。この光拡散成分として球状粒子を用いることが好ましい。球状粒子は真球度の高いものほど好ましく、アスペクト比が1.1以下のものが特に好ましい。球状粒子の平均粒径は、好ましくは0.5〜30μm、さらに好ましくは1〜20μmである。平均粒径が0.5μm未満であると光拡散性が不足し、他方、平均粒径が30μmを超えると光拡散性は十分だが、全光線透過率が不足して輝度が劣るうえ、光拡散粒子の粒径が大きいために粒子の界面で発生するボイドが大きくなり、熱処理によってボイドを消滅させることが困難となり好ましくない。なお、球状粒子は、無色透明な粒子であることが好ましい。
【0021】
光拡散成分として、例えば、シリカ、アクリル、ポリスチレン、シリコーンの粒子を用いることができる。光拡散成分の屈折率と光拡散層のポリエステルとの屈折率の差と、光拡散成分の平均粒子径との積(屈折率差×平均粒子径(μm))は0.1〜0.5[μm]であることが好ましい。この範囲であると、とても良好な光拡散性を得ることができる。
【0022】
光拡散層は二軸延伸後に、光拡散層のポリエステルの融点より高い温度で熱処理されることによって、配向が緩和もしくは配向が無くされていることが好ましい。光拡散層に配向が残っていると光拡散粒子との界面で延伸時に発生するボイドを十分に消失させることができず、光線透過率の低下を招くことになる。
【0023】
[光拡散フィルムの層構成]
本発明における光拡散フィルムは、光拡散層およびそのうえに設けられた支持層からなる。光拡散層と支持層との厚み比率は、光拡散層の厚み1に対して、支持層の厚みが好ましくは0.2〜5.0、さらに好ましくは0.2〜4.0である。この範囲の厚み比率であることによって、機械的強度を維持しながら、優れた光拡散性を得ることができる。本発明において好ましい構成は、光拡散層の両側に支持層を備える構成である。
【0024】
本発明における光拡散フィルムの厚みは、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは10〜400μmである。この範囲の総厚みであることによって、優れた光拡散性と密着防止性を備えるフィルムを良好な生産性で製造することができる。
【0025】
[塗布層]
本発明においては、塗布層を、下記式で表わされるフルオロアルキル(メタ)アクリレートを主たる重合成分とし、フッ素を含まない(メタ)アクリレートを従たる重合成分としてなるアクリル共重合体(以下「フッ素含有アクリル共重合体」ということがある)で構成する。
【0026】
【化2】

(上記式において、R基は、水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、R基は、炭素数1〜4かつフッ素原子数1〜7のアルキル基である。)
【0027】
本発明における「主たる重合成分」とは、フッ素含有アクリル共重合体を構成する全モノマー成分の合計重量を基準に55〜99重量%、好ましくは65〜99重量%、さらに好ましくは70〜90重量%を占める重合成分をいい、「従たる重合成分」とは、フッ素含有アクリル共重合体を構成する全モノマー成分の合計重量を基準に1〜45重量%、好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは10〜30重量%を占める重合成分をいう。
【0028】
この比率の重合成分からなるフッ素含有アクリル共重合体を塗布層に用いることで、光拡散フィルムとの良好な接着性を示し、適切な屈折率を備える塗布層を光拡散フィルムのうえに設けることができる。
【0029】
主たる重合成分のフルオロアルキル(メタ)アクリレートとして、例えば、トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートを例示することができる。水に可溶性または分散性のものが好ましいが、多少の有機溶剤を含有する水に可溶なものも好ましく、特にトリフルオロエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
従たる共重合成分のフッ素を含まない(メタ)アクリレートとしては、例えば以下に例示されるものを用いることができる。すなわち、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1、3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1、4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1、6−ヘキサンジオールジアクリレート、1、6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールアクロキシジメタクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタクリレートを例示することができ、前記アクリレートの中でもエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレートが好ましく、特にエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0031】
塗布層のフッ素含有アクリル共重合体として好ましいものは、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート55〜99重量%と、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート1〜45重量%とからなるフッ素含有アクリル共重合体である。
【0032】
塗布層のフッ素含有アクリル共重合体のガラス転移点は、好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは60〜80℃である。この範囲であれば、優れた接着性と優れた造膜性を得ることができる。他方、ガラス転移温度が40℃ 未満であるとフィルム同士でブロッキングが発生しやすくなり、100℃ を超えると造膜性が悪くなる。
【0033】
塗布層のフッ素含有アクリル共重合体は、例えば乳化重合によって重合することができる。乳化重合に用いることができる重合開始剤として、例えば過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、t−ブチルハイドロパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジヒドロキシクロライド、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロキシクロライド、2、2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロキシクロライドを挙げることができる。また、公知のレドックス系開始剤、好ましくは過硫酸アンモニウムを用いることもできる。
【0034】
乳化重合反応は、用いられるモノマーおよびラジカル重合開始剤の種類、その他の条件に応じた温度および反応時間で行うことができる。重合条件として、例えば重合反応温度50〜90℃、および重合反応時間3〜24時間の条件下で行うことができる。乳化重合は、例えば窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。
【0035】
塗布層の形成に用いるフッ素含有アクリル共重合体は、エマルジョンの形態であってもよく、粉末の形態であってもよい。フッ素含有アクリル共重合体を粉末形態にする方法としては、例えばフッ素含有アクリル共重合体を乾燥させる方法を用いることができる。塗布層を簡便に大面積に作製できるため、フッ素含有アクリル樹脂は、エマルジョンの形態で用いることが好ましい。
【0036】
塗布層は、フッ素含有アクリル共重合体および界面活性剤の他に、有機粒子および/または無機粒子を含有することが好ましい。粒子の平均粒径は、好ましくは0.02〜1.0μm、さらに好ましくは0.05〜0.5μm、特に好ましくは0.05〜0.2μmである。平均粒径が1.0μmを超えると塗布後白味が発生し、表面が荒れるおそれがあり好ましくなく、平均粒径が0.02μm未満であると粒子同士の接触面積が広くなって凝集が起こりやすく、さらに現状に技術においては製造が困難などの問題があり好ましくない。
【0037】
塗布層は、フッ素含有アクリル共重合体と界面活性剤からなることが好ましく、塗布層を構成するフッ素含有アクリル共重合体の、塗布層中での含有量は、好ましくは5〜95重量%、さらに好ましくは50〜90重量%、特に好ましくは70〜90重量%であり、そして、界面活性剤の塗布層中での含有量は5〜95重量%、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。塗布層がこの組成で構成されることによって、凝集力の高い塗膜を得るとともに、基材たる光拡散フィルムとの間に優れた接着力を得ることができる。
【0038】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型、ノニオン型界面活性剤を用いることができる。
【0039】
[塗布層の屈折率と厚み]
本発明の光学用積層フィルムは、光拡散フィルムの少なくとも一方の面に、上記の塗布層が直に設けられた構成をとる。本発明においては、光拡散フィルムの少なくとも一方の面に直に塗布層を設けることで、フィルム表面の反射率を低くすることができる。
【0040】
本発明の光学用積層フィルムは、300〜800nmの波長領域での塗布層表面の反射率の最小値が0.5〜8.0%、好ましくは0.5〜7.0%、さらに好ましくは0.5〜3.0%である。この条件を満足することで、光学用積層フィルムとして好ましい、表面反射が抑制されたフィルムを得ることができる。
【0041】
塗布層の屈折率Nは、好ましくは1.20〜1.45、さらに好ましくは1.35〜1.45である。そして、塗布層の厚みd(nm)と屈折率Nは下記式を満足することが好ましい。
(300/4)/N ≦ d(nm) ≦ (800/4)/N
【0042】
これらの条件を満足することでフィルム表面の反射率を十分に低くすることができる。
例えば塗布層の屈折率Nが1.35〜1.45であるとき、塗布層の厚みdは80〜120nmであることが好ましい。この範囲の厚みとすることで、波長300〜800nmでの反射率を低く抑えることができる。
上記の範囲であれば、表面の反射を十分に抑制することができ、また、光学用積層フィルムとして好適な低反射率の表面を備えて好ましい。
【0043】
[製造方法]
以下、融点をTm、ガラス転移温度をTgと表記する。また、「Tg(支持層)」は支持層のポリエステルのTg、「Tg(光拡散層)」は光拡散層のポリエステルのTg、「Tm(支持層)」は支持層のポリエステルのTm、「Tm(光拡散層)」は光拡散層のポリエステルのTmを意味する。
本発明において、光拡散層と支持層は、共押出法により積層される。本発明の光学用積層フィルムは、例えば以下のようにして製造することができる。
【0044】
すなわち、光拡散層を構成するポリエステル組成物と、支持層を構成するポリエステル組成物とを、両方のポリエステルが溶融した状態で、例えばTm〜(Tm+70)℃の温度で、両者が接するようにダイから押出して未延伸積層フィルムとする。未延伸積層フィルムを、一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg(支持層)−10)〜(Tg(支持層)+70)℃の温度で3倍以上の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向にTg(支持層)〜(Tg(支持層)+70)℃の温度で3倍以上の倍率で延伸する。延伸により得られた二軸配向フィルムを、光拡散層のポリエステルが非晶性である場合には、(Tg(支持層)+70)℃〜(Tm(支持層)−10)℃の温度範囲で、光拡散層のポリエステルが結晶性である場合には、(Tm(光拡散層)+5)℃〜(Tm(支持層)−10)℃の温度範囲で熱固定する。この熱固定工程によって、二軸延伸による光拡散層のポリエステルの配向が解消し、光拡散成分とポリエステルとの界面に発生していたボイドを消滅させることができる。
逐次二軸延伸法にかえて、同時二軸延伸法で延伸してもよい。同時二軸延伸法で延伸すると、延伸が二軸方向に同時に行われるためボイドが発生しにくく好ましい。
【0045】
光拡散フィルムへの塗布層の塗設は、フィルム製造工程の任意の段階で実施することができるが、光拡散フィルムの製造過程で実施するのが好ましく、さらには配向結晶化が完了する前の光拡散フィルムに塗布するのが好ましい。ここで、結晶配向が完了する前のフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に配向せしめた一軸配向フィルム、さらには縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム) を含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向せしめた一軸延伸フィルムに塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/ または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
【0046】
塗布層の形成に用いる塗液は、水溶液、水分散液あるいは乳化液等の水性塗液の形態で使用されることが好ましい。塗液として水性塗液を用いる場合、水性塗液の固形分濃度は、通常20重量%以下であるが、特に1〜10重量%であることが好ましい。この割合が1重量%未満であると、ポリエステルフィルムへの塗れ性が不足することがあり、他方、20重量%を超えると塗液の安定性や塗布層の外観が悪化してあまり好ましくない。
【0047】
塗液が水分散液またはエマルジョンである場合、固形分が平均粒子径0.1μm程度となるように分散した水溶液を、イオン交換水で薄め、同様に濡れ剤をイオン交換水で薄め、各々を混合することで作製することが好ましい。
【0048】
塗布方法としては、公知の任意の塗工法を適用することができる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法を単独でまたは組合せて用いることができる。なお、塗布膜は必要に応じてフィルムの光拡散フィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0049】
水性塗液を光拡散フィルムに塗布する際には、塗布性を向上させるための予備処理としてフィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理を施すか、あるいは組成物と共にこれと化学的に不活性な界面活性剤を併用することが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。なお、物性は以下の方法で測定、評価した。「部」は重量部を意味する。
【0051】
(1)反射率の最小値
(株)島津製作所製分光光度計MPC3100を用い、フィルムの塗布層面を測定対象として、波長300nm〜2100nmでの反射率を測定した。波長300〜800nmでの反射率の最小値をチャートから読み取った。
【0052】
(2)反射率が最小となる波長(ボトム波長)
(株)島津製作所製分光光度計MPC3100を用い、フィルムの塗布層面を測定対象として、波長300nm〜2100nmの反射率を測定した。波長300〜800nmでの反射率の最小値をチャートから読み取った。
【0053】
(3)塗布層の厚み
反射率の最小値から得られたボトム波長(nm)と塗布液乾固物の屈折率とを用いて、下記の式より算出した。(厚みd(nm)は小数点以下1桁四捨五入した。)
d=λ/(4×n)
d:塗布層の厚み(nm)
λ:ボトム波長(nm)
n:塗液乾固物の屈折率
【0054】
(4)塗布層の屈折率
塗布用塗液の乾固物について、Metricon社製のレーザー屈折率計プリズムカプラ、モデル2010を用い、633nmの波長を用いて屈折率を測定した。
【0055】
(5)接着性
JIS−K5600−8塗膜劣化評価を参照に、ガーゼに、荷重500g/cmの荷重を負荷しながら、塗布層の表面上を10往復させた後、表面に観察された塗布層の剥がれた塗膜幅、傷を観察し、接着性の評価をした。評価は目視にて確認できる幅とし、下記の基準とした。
◎: 剥離、擦傷とも皆無 ・・・接着性極めて良好
○: 剥離皆無、擦傷あり ・・・接着性良好
△: 剥離少しあり、擦傷あり ・・・接着性やや良好
×: 剥離あり、擦傷あり ・・・接着性不良
【0056】
(6)塗布欠点
製膜したフィルムの塗布層を一定範囲(巾20cm、長さ20cm)についてハロゲンランプで目視観察し、長手方向のスジ状欠点、ハジキ状欠点の発生度合を下記の基準で評価した。
◎: スジ状欠点、ハジキ状欠点とも皆無 ・・・極めて良好
○: スジ状欠点、ハジキ状欠点の合計が10個以下 ・・・良好
△: スジ状欠点、ハジキ状欠点の合計が10個を超え30個以下・・・やや良好
×: スジ状欠点、ハジキ状欠点の合計が30個を超える ・・・不良
【0057】
(7)融点・ガラス転移温度
各層をそれぞれ分離し、サンプル約10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(デュポン社製・V4.OB2000型DSC)に装着し、25℃から20℃/分の速度で300℃まで昇温させ、融点(Tm:℃)を測定し、300℃で5分間保持した後取出し、直ちに氷の上に移して急冷した。このパンを再度示差熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させてガラス転移温度(Tg:℃)を測定した。
【0058】
(8)光拡散フィルムの各層の厚み
サンプルを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋した。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S)で縦方向に平行な断面を50nm厚の薄膜切片にした後、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧100kvにて観察撮影し、写真から光拡散層と支持層の厚みを測定し、平均厚みを求めた。
【0059】
(9)表面粗さRz
小坂研究所社製の表面粗さ測定器SE−3FATを用い、JIS B0601の測定法により、フィルム表面の十点平均粗さRzを求めた。
【0060】
(10)平均粒径
フィルムをヘキサフルオロイソプロパノールで溶解し、粒子を分離して測定の対象とした。島津製作所製「CP−50型Centrifugal Particle Size Analyzer」を用いて測定した。次いで、この測定器によって得られる遠心沈降曲線をもとに算出した各粒径のフィラーとその存在量とのcumulative曲線から、50mass percentに相当する粒径を読み取り、この値を上記フィラー平均粒径とした(参照「粒度測定技術」、242〜247頁、日刊工業新聞社、1975年発行)。
【0061】
(11)アスペクト比
フィルムを走査型電子顕微鏡用試料台に固定し、日本電子(株)製スパッタリング装置(JIS−1100型イオンスパッタリング装置)を用いてシート表面に、1×10−3torrの真空下で0.25kV、1.25mAの条件でイオンエッチング処理を10分間施した。走査型電子顕微鏡(株)日立製S−4700にて、100個の粒子の長径と短径を測定し、長径と短径の比率をアスペクト比とした。
【0062】
(12)フィラーの屈折率
フィラーを、屈折率の異なる種々の25℃の液に懸濁させ、懸濁液が最も透明に見える液の屈折率をアッベの屈折率計(D線589nm)によって測定した。
【0063】
(13)光拡散層の屈折率
フィルムの光拡散層の屈折率をアッベ屈折率計(D線589nm)で測定した。
【0064】
(14)ボイド有無
フィルムを厚み方向にミクロトームで切断し、切断面を走査型電子顕微鏡(株)日立製S−4700にて観察し、ボイドを形成しているフィラーもしくは非相溶樹脂の断面積に対するボイド断面積の割合を計算し、少なくとも10点の平均により、ボイド有無を評価した。
○: ボイド断面積が30%以下である。 ・・・良好
△: ボイド断面積が30%超、50%以下である。 ・・・やや良好
×: ボイド断面積が50%超である。 ・・・不良
【0065】
(15)光拡散フィルムの総厚み
フィルムサンプルをエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K−402B)にて、10点厚みを測定し、平均値をフィルムの厚みとした。
【0066】
(16)光拡散フィルムの厚み
フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製エポマウント)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)にて加速電圧100KV、倍率10万倍にて観察し、塗膜層の厚みを測定した。
【0067】
(17)成分
実施例において用いた成分は以下の通りである。
フッ素含有アクリル共重合体は、トリフルオロエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩で構成されている(Tg=76℃)。なお、アクリルは、特開昭63−37167号公報の製造例1〜3に記載の方法に準じて下記の通り製造した。すなわち、四つ口フラスコに、イオン交換水1050部、および乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩22.6部を仕込んで窒素気流中で80℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム6.4部添加し、モノマーであるトリフルオロエチルメタクリレート110.0部、エチレングリコールジメタクリレート6.9部を3時間にわたり液温が70〜80℃になるよう調製しながら滴下し、滴下終了後も同温度を5時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却させ、真空乾燥機で乾燥させ、平均粒径0.1μmを有する固形分濃度25重量%のフッ素含有アクリル共重合体Aの水分散体を得た。このフッ素含有アクリル樹脂Aは、トリフルオロエチル(メタ)アクリレートが繰り返し単位として90モル%、さらにエチレングリコールジメタクリレートが繰り返し単位として10モル%含有している。
フッ素含有アクリルモノマー:
トリフルオロエチルメタクリレート(東ソーエフテック社製 フルオレスター)
アクリルモノマー:
エチレングリコールジメタクリレート(三新化学工業社製 サンエステルEG)
乳化剤:
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩(日本乳化剤社製 ニューコール)
重合開始剤:
過硫酸アンモニウム(三菱ガス化学社製 ペルオキソ二硫酸アンモニウム)
濡れ剤:
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王株式会社製 エマルゲン)
【0068】
[実施例1]
支持層として、ポリエチレンテレフタレートを、光拡散層として、平均粒子径2.0μmの真球状フィラーをイソフタル酸(以下IA)12molが共重合された共重合ポリエチレンテレフタレートに、2重量%になるように配合し、溶融し、ダイから押しだしてキャスティングドラム上で急冷しシートを得た。その後75℃で余熱し、延伸温度110℃で縦方向に3.3倍に延伸した。次いでその両面に調製したフッ素含有アクリル共重合体90重量部、濡れ剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル10重量部からなる塗布組成物の水性塗液( 固形分濃度3.0重量%) をロールコーターで均一に塗布して塗布フィルムとした。その後、110℃で余熱し、延伸温度130℃にて横方向に3.6倍に延伸した。その後、結晶化ゾーンにて235℃にて熱処理した。熱処理する際に、縦・横に弛緩を入れて熱収を調整した。層構成は低反射層/支持層/光拡散層/支持層/低反射層とした。評価結果を表1に示す。
【0069】
[比較例1]
実施例1と同様にフィルムを製膜し、そのフィルム最表面に塗布層を設けないものとした。評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表中、「PET」はポリエチレンテレフタレートを、「IA12PET」は、イソフタル酸を12モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の光学用積層フィルムは、光拡散性の部材、例えば、液晶表示装置に用いられる光拡散フィルム、輝度向上シートの基材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイドを実質的に含有しないポリエステルからなる配向した支持層、該支持層のうえに設けられ支持層のポリエステルより融点が5〜50℃低いポリエステルと光拡散成分とからなる光拡散層からなる光拡散フィルム、ならびに該光拡散フィルムの少なくとも一方の面に直に設けられた塗布層からなり、該塗布層は、下記式で表わされるフルオロアルキル(メタ)アクリレートを主たる重合成分とし、フッ素を含まない(メタ)アクリレートを従たる重合成分としてなるアクリル共重合体からなり、300〜800nmの波長領域での塗布層表面の反射率の最小値が0.5〜8.0%であることを特徴とする、光学用積層フィルム。
【化1】

(上記式において、R基は、水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、R基は、炭素数1〜4かつフッ素原子数1〜7のアルキル基である。)
【請求項2】
塗布層のアクリル共重合体が、フルオロアルキル(メタ)アクリレート55〜99重量部およびフッ素を含まない(メタ)アクリレート1〜45重量部から重合されたアクリル共重合体である、請求項1記載の光学用積層フィルム。
【請求項3】
アクリル共重合体のフルオロアルキル(メタ)アクリレートがトリフルオロエチル(メタ)アクリレートであり、フッ素を含まない(メタ)アクリレートがエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである、請求項2記載の光学用積層フィルム。
【請求項4】
塗布層の屈折率Nが1.20〜1.45であり、塗布層の厚みd(nm)および屈折率Nについて下記式を満足する、請求項1記載の光学用基材フィルム。
(300/4)/N ≦ d(nm) ≦ (800/4)/N

【公開番号】特開2010−85844(P2010−85844A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256438(P2008−256438)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】