説明

光学異方膜の製造方法、及び画像表示装置

【課題】 本発明は、リオトロピック液晶性化合物の分子配向を磁場印加によって制御して得られ、配向欠陥の少ない光学異方膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】 本発明の光学異方膜の製造方法は、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す、等方層を形成する工程と、該等方層に磁場を印加する工程と、を有する。前記等方層4は、リオトロピック液晶性化合物と溶媒とを含み且つ等方相を示すコーティング液を、長尺状の基材2の長手方向に流延することによって基材2上に形成され、磁場印加装置5を用いて、該等方層4に磁場を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置等に使用される光学異方膜の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像表示装置には、光学異方膜が組み込まれている。該光学異方膜は、その光学特性により、位相差素子(位相差フィルム、複屈折フィルム、光学補償層とも呼ばれる)又は、偏光素子(偏光フィルム、偏光子とも呼ばれる)として用いられている。
かかる位相差素子又は偏光素子として利用できる光学異方膜としては、通常、ポリマーフィルム、液晶性化合物を含むフィルムなどが用いられている。
また、液晶性化合物を含むフィルムのうち、リオトロピック液晶性化合物を含むフィルムが、偏光素子や位相差素子として用いられている(特許文献1及び2)。かかるリオトロピック液晶性化合物を含むフィルムは、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ該化合物が液晶相を示す状態に調製したコーティング液を、基材上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥することによって得られる。
【0003】
さらに、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ該化合物が液晶相を示す状態に調製したコーティング液を、基材上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜に磁場印加を行い、化合物の分子配向を制御する方法も知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2002−277636
【特許文献2】特開2002−241434
【特許文献3】WO2002−048759
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の磁場印加を行う方法は、磁場の印加領域の略全体において、リオトロピック液晶性化合物の分子を略均一に配向させることができず、配向欠陥が発生するという問題があった。
配向欠陥が生じた光学異方膜を画像表示装置に組み込んだ場合、画像のコントラスト比が低下する等の問題が生じる。
【0005】
本発明の課題は、リオトロピック液晶性化合物の分子配向を磁場印加によって制御して得られる、配向欠陥の少ない光学異方膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リオトロピック液晶性化合物を含む光学異方膜の製造方法であって、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す、等方層を形成する工程と、該等方層に磁場を印加する工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記製造方法は、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す状態の等方層に、磁場を印加するため、磁場印加領域の略全体においてリオトロピック液晶性化合物の分子を略均一に配向させることができる。このため、本発明の製造方法は、磁場印加領域の略全体において配向欠陥の少ない光学異方膜を製造できる。
【0008】
本発明の好ましい製造方法は、前記等方層が、リオトロピック液晶性化合物と溶媒とを含み且つ等方相を示すコーティング液を、長尺状の基材の長手方向に流延することによって、基材上に形成される。
【0009】
本発明の他の好ましい製造方法は、前記磁場を印加する方向が、コーティング液を流延する方向と実質的に平行である。尚、実質的に平行とは、流延方向と磁場印加方向のなす角度が0±5°の範囲内である場合を含む。
【0010】
本発明の他の好ましい製造方法は、前記コーティング液に含まれるリオトロピック液晶性化合物の濃度が0.1質量%〜10質量%である。
【0011】
本発明の他の好ましい製造方法は、前記磁場の印加強度が2〜12テスラ(T)である。
【0012】
本発明の他の好ましい製造方法は、前記リオトロピック液晶性化合物が、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、ペリレン系化合物、キノフタロン系化合物、ナフトキノン系化合物、及びメロシアニン系化合物から選ばれる少なくとも1種を含む化合物である。
【0013】
また、本発明は上記の何れかの製造方法により得られた光学異方膜を有する画像表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学異方膜の製造方法は、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す等方層に、磁場を印加する。これによって、磁場印加領域の略全体において、リオトロピック液晶性化合物の分子を略均一に配向させることができる。従って、本発明の製造方法は、配向欠陥が少ない光学異方膜を製造することができる。かかる光学異方膜を、例えば、画像表示装置に組み込むことにより、コントラスト比などに優れた画像表示装置を構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の光学異方膜の製造方法は、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す、等方層を形成する工程と、該等方層に磁場を印加する工程を、少なくとも有する。
以下、本発明の製造方法の各工程及び各工程で用いられる材料等について説明する。
【0016】
本発明の光学積層体の製造方法は、少なくとも下記工程A及び工程Bを有し、好ましくは下記工程C及び/又は工程Dを有する。
【0017】
工程A:リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す等方層(以下、単に「等方層」という場合がある)を形成する工程。
工程B:工程Aによって形成された等方層に対し磁場を印加し、リオトロピック液晶性化合物の分子を配向させる工程。
工程C:磁場を印加後の等方層(異方層)を乾燥することにより、光学異方膜を形成する工程。
工程D:前記光学異方膜の表面に、耐水性を付与する工程。
尚、工程Bにおいて、等方層に磁場を印加すると、リオトロピック液晶性化合物が配向し、その層は等方相の状態でなくなくなる。このため、磁場印加後の等方層を、特に「異方層」という。
【0018】
<工程A>
本工程Aは、リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す等方層を形成する工程である。等方層は、好ましくは基材上に形成される。基材上に等方層を形成するにあたって、リオトロピック液晶性化合物と溶媒とを含むコーティング液を、等方相を示す状態に調製する。該等方相を示すコーティング液を、基材上に塗布することによって、基材上に等方層を形成できる。
【0019】
(リオトロピック液晶性化合物)
本発明で用いられるリオトロピック液晶性化合物は、等方層を形成できるものであれば特に制限はない。
尚、リオトロピック液晶性化合物とは、溶媒に溶解可能な液晶性化合物であって、溶媒に溶解させた溶液状態で、溶液の温度や濃度などを変化させることにより、等方相−液晶相の相転移を起こす性質(リオトロピック液晶性)を有する化合物を意味する。また、等方相とは、巨視的な光学的性質が方向により異ならない(光学的異方性を示さない)状態の相を意味する。
リオトロピック液晶性化合物の液晶相の種類は、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、ヘキサゴナル液晶相などが挙げられる。液晶相は、偏光顕微鏡で観察される光学模様によって、確認、識別できる。
本発明の製造方法に用いられるリオトロピック液晶性化合物は、ネマチック液晶相を示すものが好ましい。ネマチック液晶相を示すリオトロピック液晶性化合物は、配向性に優れるからである。
【0020】
上記リオトロピック液晶性化合物としては、化学構造による分類によれば、アゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、イミダゾール系、インジゴイド系、オキサジン系、フタロシアニン系、トリフェニルメタン系、ピラゾロン系、スチルベン系、ジフェニルメタン系、ナフトキノン系、メロシアニン系、キノフタロン系、キサンテン系、アリザリン系、キノキサリン系、アクリジン系、キノンイミン系、チアゾール系、メチン系、ニトロ系、ニトロソ系、及びポリメチン系の化合物等を例示できる。これらは1種単独で、又は2種以上を併用できる。
特に、アゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、キノフタロン系、ナフトキノン系、又はメロシアニン系の化合物から選ばれる少なくとも1種を含むリオトロピック液晶性化合物を用いることが好ましい。かかるリオトロピック液晶性化合物を溶媒に溶解させると、該化合物が超分子会合体を形成し得る。このため、前記リオトロピック液晶性化合物は、磁場印加によって略均一に配向し易くなる。
【0021】
上記リオトロピック液晶性化合物は、成膜後、位相差素子を形成し得る化合物であってもよいし、或いは、成膜後、偏光素子を形成し得る化合物であってもよい。
また、リオトロピック液晶性化合物は、可視光領域(波長380nm〜780nm)で吸収を示すものであってもよいし、示さないものであってもよい。可視光領域で吸収を示すリオトロピック液晶性化合物を用いた場合に形成される光学異方膜は、偏光素子として利用できる。また、可視光領域で吸収を示さないリオトロピック液晶性化合物を用いた場合に形成される光学異方膜は、位相差素子として利用できる。
尚、偏光素子とは、自然光または偏光から特定の直線偏光を透過する機能を有する光学部材をいう。また、位相差素子とは、その面内及び/又は厚み方向に複屈折(屈折率の異方性)を示す光学部材を言う。かかる位相差素子は、例えば、波長590nmにおける面内及び/又は厚み方向の複屈折率が、1×10−4以上であるものを含む。
【0022】
(偏光素子を形成するリオトロピック液晶性化合物)
リオトロピック液晶性化合物が偏光素子を形成する材料である場合、該リオトロピック液晶性化合物としては、アゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、イミダゾール系、インジゴイド系、オキサジン系、フタロシアニン系、トリフェニルメタン系、ピラゾロン系、スチルベン系、ジフェニルメタン系、ナフトキノン系、メロシアニン系、キノフタロン系、キサンテン系、アリザリン系、アクリジン系、キノンイミン系、チアゾール系、メチン系、ニトロ系、及びニトロソ系の化合物等を例示できる。これらは1種単独で、又は2種以上を併用できる。
【0023】
具体的には、偏光素子を形成するリオトロピック液晶性化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
式(1):(クロモゲン)−X
式(1)のXは、親水性置換基である。該親水性置換基は、極性の大きな置換基であり、好ましくは−COOM、−SOM、−POM、−OH、及び−NHからなる群から選択される少なくとも1種である(Mは、対イオンを表す)。極性の大きな置換基を有するリオトロピック液晶性化合物は、親水性溶媒に対して優れた溶解性を示す。式(1)のnは、置換数(0以上の整数。通常、1〜6の整数)を表す。式(1)のクロモゲン部位としては、好ましくはアゾ誘導体単位、アントラキノン誘導体単位、ペリレン誘導体単位、インダンスロン誘導体単位、及び/又はイミダゾール誘導体単位などが含まれる。
また、前記Mは、好ましくは、水素イオン、Li、Na、K、Csのような第一族金属のイオン、アンモニウムイオンなどである。
【0024】
上記一般式(1)で表される化合物は、溶液中に於いて、クロモゲンが疎水性部位となり、且つ親水性置換基及びその塩が親水性部位となり、両者のバランスによって疎水性部位同士及び親水性部位同士が集まり、全体としてリオトロピック液晶性を発現する。
【0025】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、下記一般式(2)〜(8)で表される化合物を例示できる。
【0026】
【化1】

【0027】
式(2)中、Rは、水素又は塩素であり、Rは、水素、アルキル基、ArNH又はArCONHである。Rは、任意の置換基である。前記アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、中でもメチル基やエチル基がより好ましい。前記アリール基(Ar)としては、置換又は無置換のフェニル基が好ましく、中でも無置換又は4位を塩素で置換したフェニル基がより好ましい。また、Xは、上記一般式(1)と同様の親水性置換基である。
【0028】
【化2】

【0029】
式(3)〜(5)において、Aは、式(A)又は(B)で表されるものであり、nは、2又は3である。式(B)のRは、水素、アルキル基、ハロゲン又はアルコキシ基であり、Arは、置換又は無置換のアリール基を表す。前記アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、中でもメチル基やエチル基がより好ましい。前記ハロゲンとしては、臭素又は塩素が好ましい。また、前記アルコキシ基としては、炭素数が1又は2個のアルコキシ基が好ましく、中でもメトキシ基がより好ましい。前記アリール基としては、置換又は無置換のフェニル基が好ましく、中でも無置換あるいは4位をメトキシ基、エトキシ基、塩素若しくはブチル基で、又は3位をメチル基で置換したフェニル基が好ましい。Xは、上記一般式(1)と同様の親水性置換基である。
【0030】
【化3】

【0031】
式(6)において、nは、3〜5の整数であり、Xは、上記一般式(1)と同様の親水性置換基である。
【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
式(7)及び式(8)において、Xは、上記一般式(1)と同様の親水性置換基である。
【0035】
リオトロピック液晶性化合物は、上記の他に、例えば、特開2006−047966号公報、特開2005−255846号公報、特開2005−154746号公報、特開2002−090526号公報、特表平8−511109号公報、特表2004−528603号公報などに記載の化合物を用いることもできる。
また、リオトロピック液晶性化合物は、市販品を用いることもできる。市販の化合物としては、C.I. DirectB67、DSCG(INTAL)、RU31.156、Metyl orange、AH6556、Sirius Supra Brown RLL、Benzopurpurin、Copper−tetracarboxyphthalocyanine、Acid Red 266、Cyanine Dye、Violet 20、Perylenebiscarboximides、Benzopurpurin 4B、Methyleneblue(Basic Blue 9)、Brilliant Yellow、Acid Red 18、Acid Red 27などを例示できる。
【0036】
(位相差素子を形成するリオトロピック液晶性化合物)
また、リオトロピック液晶性化合物が位相差素子を形成する材料である場合、該リオトロピック液晶性化合物は、キノキサリン系、アクリジン系、及びポリメチン系の化合物等を例示できる。
【0037】
位相差素子を形成するリオトロピック液晶性化合物は、好ましくはキノキサリン系化合物である。
キノキサリン系化合物は、その分子構造中にキノキサリン誘導体単位を含むリオトロピック液晶性化合物である。該キノキサリン系化合物は、より好ましくは、分子構造中にアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含み、特に好ましくは、−SOM基及び−COOM基の少なくとも何れか一方を有するアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体単位を含む。
【0038】
上記キノキサリン誘導体としては、下記一般式(9)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体が挙げられる。式(9)中、k、lはそれぞれ独立して0〜4の整数であり、m、nはそれぞれ独立して0〜6の整数であり、Mは、対イオンを表す。ただし、k、l、m、及びnは、同時に0ではない。
上記Mは、好ましくは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、金属イオン、又は置換若しくは無置換のアンモニウムイオンである。上記金属イオンとしては、例えば、Ni2+、Fe3+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、Pd2+、Cd2+、Sn2+、Co2+、Mn2+、Ce3+等が挙げられる。
【0039】
【化6】

【0040】
上記アセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体は、例えば、下記式(C)に示すように、アセナフト[1,2−b]キノキサリン又はそのカルボン酸を、硫酸、発煙硫酸、又はクロロスルホン酸などでスルホン化することによって得ることができる。式(C)中、k、l、m、n及びMは、一般式(9)と同様である。
【0041】
【化7】

【0042】
また、上記アセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体は、例えば、下記式(D)に示すように、ベンゼン−1,2−ジアミンのスルホ及び/又はカルボキシ誘導体と、アセナフトキノンのスルホ及び/又はカルボキシ誘導体とを縮合反応させて得ることもできる。式(D)中、k、l、m、n及びMは、一般式(9)と同様である。
【0043】
【化8】

【0044】
上記アセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体を用いれば、高い面内複屈折率を有し、可視光の領域で吸収がないか又は小さい、透明な位相差素子(光学異方膜)を得ることができる。
【0045】
(溶媒)
リオトロピック液晶性化合物の溶解に用いられる溶媒は、特に制限はない。
一般的な溶媒は、疎水性溶媒と親水性溶媒に大別することができる。
疎水性溶媒としては、ジエチルエーテルなどのエーテル類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサンなどの環式炭化水素類;テトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類;ケトン類;炭素数が6以上の高級アルコール類等を例示できる。
親水性溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの第1級アルコール類;イソプロパノール、イソブタノールなどの第2級アルコール類;tert−ブタノールなどの第3級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどのジオール類;ポリエチレングリコールなどのポリオール類;ピリジン、イミダゾールなどの環状アミン類;テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン等を例示できる。
これら溶媒は、1種単独で、または2種以上混合して使用してもよい。
【0046】
用いられる溶媒は、好ましくは親水性溶媒であり、さらに好ましくは、水、炭素数1〜5の低級アルコール類、又は、セロソルブ類である。
【0047】
特に好ましくは、水単独、又は、水と水以外の上記親水性溶媒との混合溶媒が用いられる。また、水を用いる場合、その水は、好ましくはその電気伝導率が20μS/cm以下であり、より好ましくは0.001μS/cm〜10μS/cmであり、特に好ましくは0.001μS/cm〜5μS/cmである。電気伝導率が上記の範囲の水を用いることによって、厚みバラツキが小さく、基材上に略均一に広がった等方層を形成できる。ただし、前記電気伝導率とは、物質の電気の通しやすさを表し、断面積1cm、距離1cmの相対する電極間にある物質の伝導度をいう。上記電気伝導率(μS/cm)は、溶液電導率計(京都電子工業(株)製、製品名:CM−117)を用いて測定した値である。
【0048】
(コーティング液)
本発明で用いるコーティング液は、上記リオトロピック液晶性化合物を上記溶媒に溶解させることによって調製できる。該コーティング液は、含有するリオトロピック液晶性化合物が等方相を示す状態に調整される。すなわち、コーティング液は、これを塗布する際には、液晶相を示していない。
コーティング液が等方相となるように調整する方法としては、(1)コーティング液に含まれるリオトロピック液晶性化合物の濃度を、等方相を示す濃度範囲に希釈又は濃縮する方法、(2)コーティング液の温度を、等方相を示す温度範囲に調整する方法(3)コーティング液に、液晶相が消失する(等方相となる)ような添加物を加える方法、などが挙げられる。
【0049】
コーティング液中のリオトロピック液晶性化合物の濃度は、好ましくは0.1〜10質量%である。尚、前記濃度は、1種類のリオトロピック液晶性化合物を用いた場合はその単体の濃度を表し、2種類以上のリオトロピック液晶性化合物を用いた場合は各化合物の合計の濃度を表す。
また、コーティング液の粘度は、好ましくは、0.1mPa・s〜30mPa・sであり、より好ましくは、0.5mPa・s〜3mPa・sである。ただし、粘度は、レオメーター(Haake社製、製品名「レオストレス600」、測定条件:ダブルコーンセンサー shear rate 1000(1/s))で測定した値である。
上記コーティング液のpHは、好ましくは4〜10、より好ましくは6〜8である。
【0050】
コーティング液に、任意の添加剤を添加してもよい。該添加剤としては、界面活性剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、及び増粘剤等を例示できる。これら添加剤は、1種単独で、または2種以上を併用してもよい。前記添加剤の中でも、界面活性剤は、コーティング液の基材表面への湿潤性、塗布性を向上させる。従って、界面活性剤がコーティング液に添加されていることが好ましい。この界面活性剤としては、非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
添加剤の添加量は、好ましくは、コーティング液100質量部に対し、0を超え10質量部以下である。但し、添加剤は、コーティング液中のリオトロピック液晶性化合物が液晶相に移相しない範囲で添加される。
【0051】
(基材)
上記コーティング液を、適切な基材上に塗布することにより、等方層を形成できる。
本発明で用いる基材は、等方層の支持体となり且つコーティング液の塗布時にコーティング液を略均一に展開することができるものであれば、特に制限はない。一般的には、基材は、ガラス板、ポリマーフィルム等が用いられる。また、該基材は、単層体であってもよく、或いは、2種類以上の積層体であってもよい。
【0052】
好ましくは、基材は、単独のポリマーフィルム、ポリマーフィルムの積層体、又はポリマーフィルムと配向膜を含む積層体である。
ポリマーフィルムとしては、特に限定されないが、透明性に優れたフィルムが好ましく、さらに、延伸フィルムが好ましい。
ポリマーフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系;ポリカーボネート系;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系;塩化ビニル系;ナイロン、芳香族ポリアミド等のアミド系;イミド系;ポリエーテルスルホン系;ポリエーテルエーテルケトン系;ポリフェニレンスルフィド系;ビニルアルコール系;塩化ビニリデン系;ビニルブチラール系;アクリレート系;ポリオキシメチレン系;エポキシ系などのポリマーフィルムや、これらの2種以上の混合物を含むポリマーフィルム等を例示できる。
【0053】
また、上記ポリマーフィルムの厚みは、強度等に応じて適宜に設計しうる。その厚みは、薄型軽量化の観点から、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
【0054】
さらに、基材の形状は、長尺状であることが好ましい。尚、長尺とは、長さ寸法が幅寸法よりも十分に大きいことを意味する。その長さ寸法は、通常、幅寸法の2倍以上であり、好ましくは3倍以上である。本発明で用いられる長尺状の基材は、ロール状に巻かれていてもよく、その巻き長さは、好ましくは300m以上であり、さらに好ましくは1,000m〜50,000mである。
【0055】
上記基材の塗布面(コーティング液が塗布される基材の表面)の親水性が低い場合には、この塗布面に親水化処理を施すことが好ましい。
親水化処理は、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理及びグロー放電処理などの放電処理;火炎処理;オゾン処理;UVオゾン処理;紫外線処理及び電子線処理などの電離活性線処理等を例示できる。湿式処理としては、例えば、水やアセトンなどの溶媒を用いた超音波処理、アルカリ処理、アンカーコート処理等を例示できる。これらの処理は、単独で、又は2つ以上を組み合せてもよい。
好ましくは、上記親水化処理は、コロナ処理、プラズマ処理、アルカリ処理、又はアンカーコート処理であり、より好ましくは、コロナ処理である。
【0056】
(塗布方法)
上記基材にコーティング液を塗布する方法は、コーティング液が等方相の状態のままで基材に塗布できれば特に制限はない。等方相を示すコーティング液を適宜な塗布法で基材に塗布することにより、等方層を形成できる。
【0057】
コーティング液の塗布法としては、バーコート法、インクジェット法、グラビアコート法、スリットコート法、スライドコート法、スプレー法、突出コート法、ディップコート法、ダイコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、ロールコート法等を例示できる。
【0058】
好ましくは、コーティング液は、長尺状の基材上に塗布される。より好ましくは、コーティング液は、長尺状の基材の長手方向に流延させて塗布される(流延法)。
該流延法としては、ダイコート法、バーコート法、ナイフコート法、スライドコート法、グラビアコート法、ブレードコート法等を例示できる。
また、コーティング液の流延速度は、特に限定されないが、基材の長手方向に100mm/秒以上であり、好ましくは500mm/秒〜8000mm/秒であり、より好ましくは800mm/秒〜6000mm/秒であり、特に好ましくは1000mm/秒〜4000mm/秒である。かかる流延速度でコーティング液を塗布すれば、厚みバラツキの小さい等方層を形成できる。
【0059】
(等方層)
等方層は、例えば、上記基材上に形成される。等方層に含まれるリオトロピック液晶性化合物は、少なくとも磁場印加時までは等方相となっている。
該等方層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.2μm〜20μmであり、さらに好ましくは0.2μm〜10μmである。
また、形成された等方層は、好ましくは上記溶媒を20質量%以上含み、さらに好ましくは上記溶媒を20質量%〜95質量%含んでいる。前記範囲の溶媒が等方層中に含まれていることにより、磁場印加時、等方層中のリオトロピック液晶性化合物が優れた配向性を示す。このため、磁場印加領域の略全体において、リオトロピック液晶性化合物の配向性に優れた光学異方膜を得ることができる。
【0060】
<工程B>
本工程Bは、工程Aによって形成された等方層に対し磁場を印加し、リオトロピック液晶性化合物の分子を所定方向に配向させる工程である。
【0061】
(磁場印加)
工程Bにおいて磁場を印加する方法としては、等方層に対して略均一に磁場を印加することができれば特に制限はない。磁場印加は、例えば、永久磁石、電磁石、超伝導磁石又はコイル等を備えた磁場発生装置を用いて行うことができる。
【0062】
上記磁場の印加強度(磁束密度)は、好ましくは2テスラ〜20テスラであり、さらに好ましくは4テスラ〜20テスラである。磁場印加強度が2テスラ未満であると、上記リオトロピック液晶性化合物を十分に配向させることができない虞がある。
一方、磁場印加強度が高ければ、リオトロピック液晶性化合物に対し、強い配向力を加えることができるため、優れた光学特性(例えば、高い二色性)を有する光学異方膜を得ることができる。もっとも、磁場印加強度が20テスラを超える磁場は、実用上得られ難いので、一般的に、磁場印加強度の上限は、20テスラ以下とされる。
【0063】
また、上記磁場印加時の温度(磁場印加温度)は、等方層の等方相が液晶相に移相しない温度範囲内であれば特に限定されない。好ましくは、磁場印加温度は、15℃〜30℃である。
また、上記磁場印加時間は、等方層中のリオトロピック液晶性化合物が十分に配向することができる時間であれば特に限定されない。好ましくは、磁場印加時間は、5〜15分である。
【0064】
本発明の光学異方膜の製造方法によれば、等方層に磁場を印加することにより、磁場印加領域の略全体においてリオトロピック液晶性化合物の分子を配向させることができる。ところで、磁場印加後、等方層中のリオトロピック液晶性化合物が配向するので、等方層は、等方相から液晶相に変化する。つまり、磁場印加後の等方層は、異方層となる。
【0065】
ある種のリオトロピック液晶性化合物を含む等方層に磁場を印加した場合、リオトロピック液晶性化合物の分子は、磁場を印加する方向(以下、磁場印加方向という)に対して略平行に配向する。また、他のリオトロピック液晶性化合物を含む等方層に磁場を印加した場合、リオトロピック液晶性化合物の分子は、磁場印加方向に対して略直交する方向に配向する。この配向方向は、リオトロピック液晶性化合物の種類によって異なるものの、等方層に対して磁場を印加すれば、等方層中のリオトロピック液晶性化合物を所定方向に略均一に配向させることができる。
【0066】
上記磁場印加方向は、等方層の面内の何れの方向でもよい。
例えば、長尺状の基材上に等方層が形成されている場合、磁場印加方向は、前記長尺状の基材の長手方向と実質的に平行でもよいし、或いは、前記基材の面内で長手方向に対して直交する方向(幅方向)でもよい。また、磁場印加方向は、前記基材の面内で長手方向に対して鋭角な方向でもよい。
好ましくは、磁場印加方向は、前記長尺状の基材の長手方向と実質的に平行とされる。コーティング液を長尺状の基材の長手方向に流延させて等方層を形成する場合、前記磁場印加方向は、コーティング液の流延方向と実質的に平行となる。尚、実質的に平行とは、流延方向と磁場印加方向のなす角度が0±5°の範囲内を含み、好ましくは0±3°の範囲内を含む。
【0067】
リオトロピック液晶性化合物が偏光素子を形成する材料の場合、コーティング液の流延方向と実質的に平行な方向に磁場を印加することにより、例えば、前記流延方向(基材の長手方向)と平行な方向に吸収軸を有する偏光素子(光学異方膜)を形成することができる。
【0068】
本発明の光学異方膜の製造方法によれば、等方層に磁場を印加することにより、磁場印加領域の略全体においてリオトロピック液晶性化合物の分子を所定方向に略均一に配向させることができる。よって、配向欠陥の少ない光学異方膜を得ることができる。この原理は、明確ではないが、本発明者は、次のように推定する。
【0069】
すなわち、従来の光学異方膜の製造方法は、液晶相を示す状態のコーティング液を基材上に流延することにより、液晶層(液晶相を示す状態の層)を基材上に形成した後、該液晶層に磁場を印加する。液晶相を示す状態のコーティング液を基材上に流延した場合、前記液晶層中のリオトロピック液晶性化合物の分子は、コーティング液の流動に起因する流動配向を示す。尚、流動配向とは、液晶相を示す状態のコーティング液を一方向に流延した際に生じる、リオトロピック液晶性化合物の配向を意味する。
そして、上記液晶層に磁場を印加した際、リオトロピック液晶性化合物の流動配向が、磁場印加に起因する配向力を阻害するのである。従って、液晶層に磁場を印加すると、リオトロピック液晶性化合物の分子の配向が乱れる。このため、従来法では、磁場印加領域の略全体においてリオトロピック液晶性化合物を略均一に配向させることができない。
【0070】
この点、本発明の製造方法は、磁場印加時には、リオトロピック液晶性化合物が配向していない(等方相を示す状態)。このため、磁場印加によってリオトロピック液晶性化合物を所定方向に略均一に配向させることができる。よって、磁場印加領域の略全体において、配向欠陥の少ない光学異方膜を得ることができる。
尚、本発明の製造方法の1つの実施形態において、コーティング液を基材上に流延させることは、従来法と同じである。しかし、本発明では、等方相を示す状態のコーティング液を流延させている。このため、コーティング液中のリオトロピック液晶性化合物が、流動配向を示さず、磁場による配向力が阻害されることはない。
【0071】
<工程C>
本工程Cは、工程Bで磁場を印加した後の等方層(つまり、異方層)を乾燥させる工程である。
工程Cは、必要に応じて行われる。通常、工程Cは、工程Bの後に行われる。
尚、工程Bの前(工程Aと工程Bの間)に、等方層を乾燥してもよい。工程Bの前に乾燥を行う場合には、等方層が等方相から液晶相に移相しない程度で、等方層の乾燥が行われる。
【0072】
工程Bを行った後に得られる異方層は、通常、多量の溶媒を含んでいるため、このままでは光学異方膜として用いることができない。このため、これを乾燥して異方層を固化することによって、適切な光学異方膜を得ることができる。
【0073】
該異方層を乾燥させる方法は、基材の種類、コーティング液の溶媒の種類などに応じて、適宜な方法が採用され得る。
該乾燥方法は、自然乾燥でもよいし、強制的な乾燥でもよい。強制的な乾燥は、熱風又は冷風が循環する空気循環式恒温オーブン;マイクロ波又は遠赤外線などを利用したヒーター;温度調節用に加熱されたロール、ヒートパイプロール又は金属ベルト;などを用いて行うことができる。好ましくは、乾燥方法は自然乾燥である。
【0074】
上記乾燥温度は、上記異方膜の液晶相が移相しない範囲内であれば特に制限はない。乾燥温度は、好ましくは10℃〜80℃であり、さらに好ましくは20℃〜60℃である。かかる温度範囲で乾燥することにより、厚みバラツキの小さい光学異方膜を得ることができる。
【0075】
上記異方層を乾燥させる時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって適宜選択される。前記乾燥時間は、例えば、1分〜60分であり、好ましくは5分〜40分である。
【0076】
異方層の乾燥によって、異方層中の溶媒を実質的に除去することができる。乾燥後の異方層の固形分濃度は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。かかる固形分濃度となるように乾燥することによって、強度及び耐久性に優れた光学異方膜を得ることができる。
また、乾燥後の異方層(得られる光学異方膜)の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.2μm〜10μmであり、より好ましくは0.2μm〜7μmである。
【0077】
<工程D>
本工程Dは、光学異方膜の表面に、耐水性を付与する工程である。
工程Dは、必要に応じて行われる。通常、工程Dは、工程Cの後に行われるが、工程Cを行わない場合には、工程Dは、工程Bの後に行ってもよい。
【0078】
具体的には、工程Dは、光学異方膜の表面に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる。
【0079】
上記化合物塩としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化バリウム、塩化鉛、塩化クロム、塩化ストロンチウム、4,4’−テトラメチルジアミノジフェニルメタン塩酸塩、2,2’−ジピリジル塩酸塩、4,4’−ジピリジル塩酸塩、メラミン塩酸塩、テトラアミノピリミジン塩酸塩等を例示できる。このような化合物塩の層を形成することにより、光学異方膜の表面を水に対して不溶化又は難溶化させることができる。よって、光学異方膜の表面に、耐水性を付与できる。
【0080】
上記化合物塩を含む溶液に於いて、その化合物塩の濃度は、好ましくは3質量%〜40質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%である。
光学異方膜の表面に、上記化合物塩を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、該光学異方膜の表面に上記化合物塩を含む溶液を塗布する方法、該光学異方膜を上記化合物塩を含む溶液に浸漬する方法などを採用できる。これらの方法を採用する場合、光学異方膜の表面は、水又は任意の溶剤で洗浄し乾燥することが好ましい。
【0081】
尚、本発明の光学異方膜の製造方法は、上記工程A〜工程D以外に、他の工程を有していてもよい。
【0082】
上記各工程を経ることによって、本発明の光学異方膜と基材とが積層された積層体を得ることができる。本発明の光学異方膜は、基材上に積層されたままで使用してもよいし、或いは、基材から剥離して使用してもよい。基材から剥離した光学異方膜は、それ単独で使用してもよいし、或いは、他の光学部材に積層した積層体の状態で使用してもよい。
【0083】
(光学異方膜の製造装置)
本発明の光学異方膜の製造装置の1つの実施形態について、図1を参照しつつ説明する。尚、図1では、各装置の相対的な大きさは実際のものと異なることに留意されたい。
図1において、1は、ダイコータを示し、2は、長尺状の基材を示し、3は、長尺状の基材を巻き取ったロールを示し、4は、基材上に形成される等方層を示し、5は、磁場印加装置を示し、6は、異方層(光学異方膜)を示し、7は、乾燥装置を示し、8は、光学異方層が形成された長尺状の基材を巻き取ったロールを示す。なお、長尺状の基材2の長手方向は、MD方向とも言う。
長尺状の基材2は、ロール3から引き出され、その長手方向に送出される途中で、コーティング液の塗布などの一連の処理が行われた後、再び、ロール8に巻き取られる。尚、長尺状の基材2は、通常、テンションローラなどを含めて多数本のローラを介して送出されるが、該ローラは、図示しない。
【0084】
長尺状の基材2の送出経路中において、上流側から順に、ダイコータ1、磁場印加装置5、乾燥装置7が基材2の表面側に配置されている。
このダイコータ1の吐出口から、等方相を示す状態のコーティング液を基材2の表面に吐出する。長尺状の基材2は、長手方向に送出されているので、前記コーティング液を基材2の表面に吐出すると、コーティング液は、基材2の長手方向に流延される。コーティング液の吐出量及び基材2の送出速度などを調整することにより、基材2の表面に所定厚みのコーティング液の層(つまり、等方層4)を形成できる。
【0085】
次に、長尺状の基材2の送出に従い、形成された等方層4が磁場印加装置5の下方に至ると、該等方層4に磁場が印加される。長尺状の基材2は、長手方向に送出されているので、磁場印加方向は、長尺状の基材2の長手方向と平行な方向となる。
このように等方層4に磁場を印加することにより、等方層4に含有されるリオトロピック液晶性化合物が配向し、異方層6が形成される。
【0086】
長尺状の基材2の送出に従い、形成された異方層6が乾燥装置7の下方に至ると、該異方層6が乾燥される。乾燥後の異方層6は、光学異方膜として使用できる。このようにして長尺状の基材2の表面に、光学異方膜を形成できる。光学異方膜が形成された長尺状の基材2は、ロール8に巻き取られる。
尚、乾燥後、ロール8に巻き取る前に、光学異方膜の表面に耐水性を付与する処理を行っても良い。該耐水性付与処理は、上記工程Dに準じて実施できる。
【0087】
<光学異方膜の光学的性質>
本発明の製造方法によって得られる光学異方膜は、上記リオトロピック液晶性化合物の種類などに応じて異なるものの、代表的には、偏光素子又は位相差素子の性質を有する。
【0088】
光学異方膜が偏光素子の性質を有する場合、その偏光度は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上である。また、その単体透過率は、好ましくは40%以上、より好ましくは42%以上である。
【0089】
光学異方膜が位相差素子の性質を有する場合、該光学異方膜は所望の位相差値を有する。この光学異方膜の波長590nmにおける面内の位相差値(Re[590])は、例えば、10nm以上であり、好ましくは20nm〜300nmである。尚、面内の位相差値(Re[λ])は、23℃で波長λ(nm)における面内の位相差値をいう。Re[λ]は、厚みをd(nm)としたとき、Re[λ]=(nx−ny)×dによって求めることができる。
【0090】
<光学異方膜の用途>
本発明の製造方法によって得られる光学異方膜の用途は、特に限定されない。
本発明の光学異方膜が偏光素子の性質を有する場合、これに位相差素子を積層することにより、偏光板を構成できる。前記位相差素子は、本発明の製造方法によって得られる光学異方膜を用いてもよいし、従来公知の位相差素子を用いてもよい。
また、本発明の光学異方膜が位相差素子の性質を有する場合、これに偏光素子を積層することにより、偏光板を構成できる。前記偏光素子は、本発明の製造方法によって得られる光学異方膜を用いてもよいし、従来公知の偏光素子を用いてもよい。
尚、上記偏光板は、任意の保護層などを含んでいてもよい。
【0091】
実用的には、上記偏光板を構成する光学部材の間には、任意の適切な接着層が設けられ、各部材が貼着される。
上記接着層は、隣り合う部材の面と面とを接合し、実用上十分な接着力と接着時間で、一体化させるものであれば、任意の適切なものが選択され得る。上記接着層を形成する材料としては、例えば、接着剤、粘着剤、アンカーコート剤等が挙げられる。
【0092】
本発明の製造方法で得られた光学異方膜は、好ましくは、画像表示装置の構成部材として使用できる。
本発明の画像表示装置は、液晶表示装置、有機ELディスプレイ、及びプラズマディスプレイ等を含み、その好ましい用途はテレビ(特に、画面サイズ40インチ以上の大型テレビ)である。画像表示装置が液晶表示装置の場合、その好ましい用途は、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機などのOA機器;携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機などの携帯機器;ビデオカメラ、電子レンジなどの家庭用電気機器;バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器;商業店舗用インフオメーション用モニターなどの展示機器;監視用モニターなどの警備機器;介護用モニター、医療用モニターなどの介護・医療機器等である。
【実施例】
【0093】
本発明について、実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。尚、本発明は、下記の実施例のみに限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた各分析方法は、以下の通りである。
【0094】
[分析方法]
(1)光学異方膜の厚みの測定:
走査型電子顕微鏡FE−SEM(日立社製、製品名「S−4800」)を用いて、光学異方膜の断面の観察を行い、厚みを測定した。
(2)単体透過率及び偏光度の測定方法:
分光光度計[村上色彩技術研究所(株)製、製品名「DOT−3」]を用いて、23℃の条件で測定した。
単体透過率は、JlS Z 8701−1995の2度視野に基づく、三刺激値のY値である。
偏光度は、平行透過率(H)および直交透過率(H90)を測定し、式:偏光度(%)={(H−H90)/(H+H90)}1/2×100より求めることができる。平行透過率(H)は、測定対象である光学積層体2枚を互いの吸収軸が平行となるように重ね合わせて作製した平行型積層体の透過率の値である。直交透過率(H90)は、測定対象である光学積層体2枚を互いの吸収軸が直交するように重ね合わせて作製した直交型積層体の透過率の値である。尚、これらの透過率は、JlS Z 8701−1982の2度視野(C光源)により、視感度補正を行ったY値である。
(3)配向欠陥の観察:
偏光顕微鏡(ニコン社製、製品名「XTP−11」)を用いて、光学異方膜の吸収軸と偏光顕微鏡の偏光子の吸収軸を90度交差させたときの様子を、接眼レンズ10倍、対物レンズ10倍に設定して観察した。また、そのときの様子を、前記偏光顕微鏡に備え付けのカメラを用いて撮影した。
【0095】
[実施例]
リオトロピック液晶性化合物を含む水溶液(オプティバ社製、製品名「NO15」)を用いた。この水溶液は、−SONaを置換基として有するイミダゾール誘導体、−SONaを置換基として有するペリレン誘導体、−SONaを置換基として有するインダスロン誘導体を含んでいる。
前記水溶液中のリオトロピック液晶性化合物の濃度が、7質量%となるように水分を調整した。濃度調整後の水溶液を、コーティング液として用いた(これをコーティング液Aという)。このコーティング液Aを偏光顕微鏡で観察したところ、室温(23℃)で等方相を示していた。
室温中において、前記コーティング液Aを基材(コロナ処理を施したスライドガラス。松浪硝子工業社製、サイズ500mm×400mm、厚み0.7mm)の表面に、スライドコータを用いて基材の一方向(この一方向を基材のMD方向という)に流延した。このようにして基材上に、厚み4.0μmの等方層を形成した。
等方層が形成された基材を、磁場印加装置(JASTEC社製、製品名「冷凍機伝導冷却型 12Tマグネット」)に入れ、等方層に対して、6テスラの強度の磁場を10分間印加した。その際、磁場印加は、コーティング液Aの流延方向(即ち、基材のMD方向)と平行な方向で行った。磁場印加後、室内で10分間放置して自然乾燥することにより、厚み0.4μmの光学異方膜を形成した。
【0096】
実施例の光学異方膜を、クロスニコルに配置した2枚の偏光板の間に挟んで観察すると、該光学異方膜は、吸収軸と透過軸を有していた。従って、この光学異方膜は、偏光素子の性質を有する。また、該光学異方膜の吸収軸は、流延方向(基材のMD方向)と平行な方向に生じていた。
この光学異方膜の単体透過率は、36.97%であり、偏光度は、99.2%であった。
【0097】
[比較例]
リオトロピック液晶性化合物を含む水溶液(オプティバ社製、製品名「NO15」)を用い、その水溶液中のリオトロピック液晶性化合物の濃度が11.5質量%となるように水分を調整した。濃度調整後の水溶液を、コーティング液として用いた(これをコーティング液Bという)。このコーティング液Bを偏光顕微鏡で観察したところ、室温(23℃)でネマチック液晶相を示していた。
このコーティング液Bを、上記コーティング液Aに代えて用いたこと以外は、上記実施例と同様にして、比較例に係る光学異方膜(厚み0.4μm)を形成した。
【0098】
比較例の光学異方膜を、クロスニコルに配置した2枚の偏光板の間に挟んで観察すると、該光学異方膜は吸収軸と透過軸を有していた。従って、この光学異方膜は、偏光素子の性質を有する。また、該光学異方膜の吸収軸は、流延方向(基材のMD方向)と平行な方向に生じていた。
この光学異方膜の単体透過率は、36.71%であり、偏光度は、98.1%であった。
【0099】
[参考例]
磁場を印加しなかったこと以外は、比較例と同様にして、参考例に係る光学異方膜を形成した。
参考例の光学異方膜を、クロスニコルに配置した2枚の偏光板の間に挟んで観察すると、該光学異方膜は吸収軸と透過軸を有していた。従って、この光学異方膜は、偏光素子の性質を有する。また、該光学異方膜の吸収軸は、流延方向と直交する方向(即ち、基材のTD方向)に生じていた。
【0100】
[評価]
実施例の光学異方膜の表面を観察したところ、配向欠陥が少なかった(図2の写真図を参照)。一方、比較例の光学異方膜の表面を観察したところ、配向欠陥が多かった(図3の写真図を参照)。
実施例のように、等方相を示す状態の等方層に磁場を印加すると、磁場印加領域の略全体で配向欠陥の少ない光学異方膜が得られることが確認された。一方、比較例のように、液晶相を示す状態の液晶層に磁場を印加すると、磁場印加領域の略全体で配向欠陥の多い光学異方膜が得られた。
【0101】
比較例において、配向欠陥が多く生じた理由は、次のように推定される。
まず、参考例の結果から、使用したコーティング液に含まれるリオトロピック液晶性化合物は、液晶相を示す状態で流延すると、基材のTD方向に流動配向する性質を有する化合物であることが判る。
比較例は、参考例と同様に、基材のTD方向に流動配向するリオトロピック液晶性化合物を用いている。比較例においては、リオトロピック液晶性化合物が基材のTD方向に流動配向しようとするのに対し、基材のMD方向に磁場を印加したため、互いの配向力が規制され、その結果、配向欠陥が多く生じたと考えられる。
一方、実施例では、等方層中のリオトロピック液晶性化合物は流動配向していないので、磁場印加による配向力によってリオトロピック液晶性化合物を略均一に配向させることができる。
【0102】
尚、実施例では、基材のMD方向に磁場を印加したが、これに代えて、例えば、基材のTD方向又は基材のMD方向に対して鋭角な方向に磁場を印加しても、磁場印加による配向力によってリオトロピック液晶性化合物を略均一に配向させることができる。この場合でも、配向欠陥が少なく、且つ、基材のTD方向又は基材のMD方向に対して鋭角な方向に吸収軸を有する、光学異方膜を得ることができる。
本発明の製造方法によれば、磁場印加方向を設定することにより、所望の方向に吸収軸を有し且つ配向欠陥の少ない光学異方膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の光学異方膜の製造工程を示す概略参考側面図。
【図2】実施例の光学異方膜の表面を拡大撮影した写真図。
【図3】比較例の光学異方膜の表面を拡大撮影した写真図。
【符号の説明】
【0104】
1…ダイコータ、2…基材、3,8…ローラ、4…等方層、5…磁場印加装置、6…異方層(光学異方膜)、7…乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リオトロピック液晶性化合物を含む光学異方膜の製造方法であって、
リオトロピック液晶性化合物を含み且つ等方相を示す、等方層を形成する工程と、前記等方層に磁場を印加する工程と、を有することを特徴とする光学異方膜の製造方法。
【請求項2】
前記等方層が、リオトロピック液晶性化合物と溶媒とを含み且つ等方相を示すコーティング液を、長尺状の基材の長手方向に流延することによって、前記基材上に形成される、請求項1に記載の光学異方膜の製造方法。
【請求項3】
前記磁場を印加する方向が、コーティング液を流延する方向と実質的に平行である、請求項2に記載の光学異方膜の製造方法。
【請求項4】
前記コーティング液に含まれるリオトロピック液晶性化合物の濃度が、0.1質量%〜10質量%である、請求項2又は3に記載の光学異方膜の製造方法。
【請求項5】
前記磁場の印加強度が、2〜12テスラ(T)である、請求項1〜4の何れかに記載の光学異方膜の製造方法。
【請求項6】
前記リオトロピック液晶性化合物が、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、ペリレン系化合物、キノフタロン系化合物、ナフトキノン系化合物、及びメロシアニン系化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜5の何れかに記載の光学異方膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の製造方法により得られた光学異方膜を有する画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−169342(P2009−169342A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10222(P2008−10222)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】