光学的内部移行により細胞内にsiRNAを導入する方法
本発明は、i)細胞をsiRNA分子、担体および光感作薬と接触させることと、ii)細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射することを含み、前記担体が非リポソーム剤形中のリポポリアミン、ポリエチレンイミン(PEI)、βシクロデキストリンアミンポリマー、アミン基含有デンドリマー、および陽イオン性ペプチドなどの陽イオン性ポリアミンを含む、siRNA分子を細胞のサイトゾル内に導入する方法に関する。本方法によって得ることができる細胞または細胞集団、siRNA分子および担体分子を含む組成物、キットおよび上記の物の治療上の使用も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光感作薬および担体分子と光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光での細胞の照射とを用いて、低分子干渉RNA(siRNA)を細胞内、好ましくは細胞のサイトゾル内に導入する方法、ならびに遺伝子活性、たとえばin vitroまたはin vivoの遺伝子サイレンシングを変更するための本方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉のプロセスは多くの生物中で起こり、このプロセスでは、二本鎖の非コードRNAが、配列特異的な転写後の様式で、遺伝子発現のサイレンシングを行う。自然において、この現象は、生物のゲノムをトランスポゾン、導入遺伝子およびウイルス遺伝子などの外来の侵入核酸から保護する。
【0003】
細胞内への二本鎖RNA(dsRNA)の導入がこのRNAサイレンシングのプロセスを始動し、導入したdsRNAに配列が対応する細胞内のすべてのmRNAが分解される。RNAサイレンシング経路は、dsRNAを、リボヌクレアーゼを相同的mRNA標的へと導く低分子干渉RNA(siRNA)へと変換することを含む。酵素ダイサーは、dsRNAを、一般に長さが20〜25個のヌクレオチドであるsiRNAへと処理する。その後、siRNAはRNA誘発性サイレンシング複合体(RISC)として知られるエンドリボヌクレアーゼ含有複合体へと会合し、これは相補的RNA分子へと導かれ、ここでこれらは標的mRNAを切断および破壊する。RNAサイレンシングの成分が増幅することにより、少量のdsRNAが大量の標的mRNAのサイレンシングを行うことができる(HannonおよびRossi(2004)、Nature、431、371〜378に掲載)。
【0004】
siRNA分子がこの経路の主要な構成要素であるという知識により、標的のRNAまたはDNA配列に対応する、化学合成した長さが約20〜22塩基対のsiRNA分子の試験がもたらされた。これらの分子は、哺乳動物細胞中で標的配列の発現を乱すように作用することが示された(Elbashir S.M.他、(2001)Nature、411、494〜498)。20個のヌクレオチドのsiRNAが、通常、遺伝子特異的なサイレンシングを誘発させるために十分長いが、宿主応答を回避するために十分短い長さである。標的遺伝子産物の発現の低下は大規模である可能性があり、数分子のsiRNAによって90%のサイレンシングが誘発される。
【0005】
したがって、siRNA技術が配列特異的遺伝子サイレンシングの一般的技術として開発された。遺伝子サイレンシングには、研究ツールおよび治療的戦略のどちらとしても、in vitroおよびin vivoのどちらにおいても多くの用途が存在する。siRNA技術を使用した際に見られる高い効力および特異性が、この技術を特に魅力的にしている。
【0006】
遺伝子サイレンシングが起こるためには、siRNA分子が、有用となるために十分な濃度で細胞に入ることが必要であるので、すべての場合において、siRNA分子を細胞へ送達することは大きな課題となっている。サイレンシング応答の強度およびその持続期間は細胞に送達されるsiRNAの量によって影響を受け、siRNAを十分に高い濃度で供給することによって、比較的弱いsiRNA分子もその標的をサイレンシングできることが示されている。しかし、このことを、大量のsiRNAを細胞内に投与することは、「的外れ」効果(すなわち、タンパク質発現レベルの所望しない変化)または自然免疫経路の活性化などの望ましくない効果をもたらす可能性があることが知られているという事実に対してバランスを取るべきである。
【0007】
一般に、siRNAは、リポソーム、陽イオン性脂質、陰イオン性脂質、および微量注入を用いることなどの、核酸の標準の形質移入プロトコルを用いることによって細胞に適用している。siRNAは二本鎖分子であり、したがって、分子の送達および細胞取り込みは、細胞に取り込ませる血清タンパク質と結合するアンチセンスよりも困難である。様々な異なる戦略が用いられており、市販のキットがこの目的のために存在する。上述のように、遺伝子サイレンシングの効力は細胞中のsiRNAの濃度に少なくとも部分的に依存するので、効率的な形質移入が極めて望ましいが、高濃度で細胞に投与することは、望ましくない副作用も引き起こし得る。
【0008】
また、高レベルでの投与は、多くの場合、高濃度の形質移入試薬も必要とし、これは、細胞生存度の低下および様々な他の副作用を含めて、細胞に対して表現型および非表現型のどちらの有害作用も与える場合がある。さらに、高濃度の試薬を用いた場合、特異的送達が達成されない。
【0009】
また、siRNAなどの核酸分子の標的送達は、一般に、十分に信頼性のあるものではない。この目的のためにウイルスを使用することができるが、この手法には安全性に対する懸念があり、全身性ウイルス送達は達成が困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
siRNAは細胞のサイトゾル中で作用し、分子が作用するためには、それがサイトゾルに達する必要がある。上記検討事項に鑑みて、siRNAを細胞のサイトゾルに送達する改善された方法を開発することが望ましいであろう。そのような改善された方法の望ましい特性には、i)siRNA分子をその作用部位へと時間および部位に特異的な送達を行う能力、ii)高濃度の形質移入試薬および/もしくはsiRNAの使用の回避、ならびに/またはiii)細胞系におけるsiRNAサイレンシングの増強が含まれる。具体的には、そのような方法により、特定のレベルの遺伝子サイレンシングを達成するために必要なsiRNA:脂質の複合体の全体数が低下するか、またはそれが改善される。そのような方法では、特定の量の遺伝子サイレンシングを維持するか、またはそれを改善させながら、siRNA:形質移入試薬の比を変更し得る。siRNA:脂質の比を増加することは、高濃度の形質移入試薬を使用した場合に観察される阻害剤の効果を最小限にするので、有用である。
【0011】
あるいは、改善された方法の全体的な目的は、siRNAを有効かつ調節可能にサイトゾルへ送達する必要性と、たとえば特定の細胞種における、高濃度の形質移入試薬または非特異的な効果のどちらかによって引き起こされる有害な副作用の軽減とのバランスを取る要望として述べることができる。上述のように、siRNA:脂質の複合体の全体数の低下および/またはsiRNA:脂質の比の増加がこの目的に寄与するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的を達成するために、本発明者らは、担体(形質移入試薬)の使用を光化学的内部移行(PCI)の技術と組み合わせた。選択した特定の担体は、siRNA分子を細胞の細胞内区画、たとえば細胞のエンドソームおよび/またはリソソームなどのエンドサイトーシス小胞へと送達する。siRNA:脂質の複合体を取り込ませ得る別の細胞内区画には、ゴルジ体および小胞体が含まれる。
【0013】
細胞内小胞からのsiRNA分子の放出がPCI技術の結果として起こる。これは、細胞を光感作化合物に曝露させ、続いて照射を行うことに依存し、siRNA分子の放出は細胞の照射後にのみ起こることが認められ、したがって、その効果が媒介されるサイトゾル内へのこの放出は、空間的または時間的な様式で調節することができる。i)その細胞内小胞内にsiRNAを含み、ii)光化学的内部移行剤に曝露され、iii)照射に曝露された細胞のみが、siRNA分子を細胞のサイトゾル内に放出して、それがその細胞内のmRNAに作用する。
【0014】
一般に、サイトゾルへのsiRNAの送達を最適化するために、形質移入試薬を高濃度で使用する必要がある。本発明者らは、驚くべきことに、低濃度の形質移入試薬(および光化学的内部移行剤)を用いることによって、形質移入ステップを使用してsiRNAをエンドソームなどの細胞内小胞へと導くことができることを観察し、その放出が照射の適用によって始動されるまで、siRNAはそれに含まれる。したがって、本方法は、高濃度の形質移入試薬またはsiRNAを使用することを必要とせずに、siRNAがその作用部位に到達することを可能にする。さらに、PCI技術を用いることによってエンドソームなどの細胞内小胞からのsiRNA分子の放出のタイミングおよび位置を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
したがって、第1の態様では、本発明は、siRNA分子を細胞のサイトゾル内に導入する方法であって、前記細胞をsiRNA分子、担体および光感作薬と接触させるステップと、細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射するステップを含む方法を提供する。活性化された後、前記光感作薬を含む前記細胞内の細胞内区画が、これらの区画に含まれるsiRNAをサイトゾル内へと放出する。
【0016】
PCIとは、光感作薬を、その光感作薬を活性化させるための照射ステップと組み合わせて用い、細胞と共に細胞のサイトゾル内へと同時投与した分子の放出を達成する技術である。この技術により、細胞によってエンドソームなどのオルガネラ内へと取り込まれる分子が、照射後に、これらのオルガネラからサイトゾル内へと放出されることを可能にする。
【0017】
光化学的内部移行(PCI)の基本的な方法は、本明細書中に参考として組み込まれている国際公開第96/07432号パンフレットおよび国際公開第00/54802号パンフレットに記載されている。上述のように、内部移行させる分子を(本発明に従った使用ではsiRNA分子である)、この場合では担体分子および光感作薬と共に、細胞と接触させる。光感作薬、担体分子および内部移行させる分子が、細胞内の、細胞膜に結合した小区画内に取り込まれる。細胞を適切な波長の光に露光させた際、光感作薬が活性化され、これにより、細胞内区画膜を破壊する反応性種が直接または間接的に生じる。これにより、内部移行した分子がサイトゾル内へと放出されることが可能となる。
【0018】
これらの方法では、過剰の毒性種の産生を回避するために、たとえば照射時間または光感作薬の用量を減少することによって方法を適切に調整した場合に、広範囲の細胞破壊または細胞死をもたらさない様式で、光化学効果を、そうでなければ膜不透過性(または透過不良)の分子を細胞のサイトゾル内に導入する機構として用いる。
【0019】
本方法は、有効な遺伝子阻害を達成する一方で、慣用のsiRNA形質移入で必要なよりも低い濃度で担体もしくは形質移入試薬および/またはsiRNAを使用することが可能となるので、siRNAを細胞内に導入することに特に有利である。さらに、必要な効果を達成するために望ましい時間および位置でのみ放出されるように、siRNA分子を放出させる照射のタイミングおよび位置を調節し得る。したがって、細胞のsiRNAおよび担体への曝露が最小限となり、望ましくない副作用が最小限となる。これは、siRNAの放出のタイミングおよび位置を調節することが不可能であり、高濃度の形質移入試薬が必要なsiRNAを細胞内に導入するための標準技術と対照的である。担体の量を、使用が提唱される量と比較して減らす(siRNA:担体の比を変更する)ことによって、または細胞に適用するsiRNA:担体の複合体の全体数を減らすことによって、PCI照射の前にsiRNAが細胞内区画から漏れることを最小限にすることも可能であり得る。
【0020】
siRNAを送達するために本明細書中に定義した担体をPCIと共に使用することによって、やはり細胞毒性を引き起こさずに強力な遺伝子サイレンシング効果を達成できることが、さらに示されている。たとえば、PEI(分子量25000)を1μg/mlで、100nMのsiRNAと共に、40秒間までの光用量で用いることで、細胞毒性効果は観察されなかった(図11B参照)。これらの条件下では、強力な遺伝子サイレンシング効果が観察された(図10参照)。
【0021】
RNAとは、それぞれがリン酸基および窒素塩基と会合した糖リボースを含むリボヌクレオチドのポリマーである(典型的には、アデニン、グアニン、シトシン、またはウラシル)。DNAの場合と同様、RNAは相補的水素結合を形成することができ、RNAは、二本鎖(dsRNA)、一本鎖(ssRNA)または一本鎖オーバーハングを有する二本鎖であり得る。「低分子干渉RNA」(siRNA)とは、mRNA分子と結合することによってタンパク質の発現を特異的に干渉する、約10〜約30個のヌクレオチドの長さの二本鎖RNA分子をいう。好ましくは、siRNA分子は、12〜28個のヌクレオチドの長さ、より好ましくは15〜25個のヌクレオチドの長さ、さらにより好ましくは19〜23個のヌクレオチドの長さ、最も好ましくは21〜23個のヌクレオチドの長さである。したがって、好ましいsiRNA分子の長さは、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28または29個のヌクレオチドである。
【0022】
1本の鎖の長さによりsiRNA分子の長さが指定される。たとえば、21個のリボヌクレオチドの長さ(21量体)と記載されたsiRNAは、19個の連続的な塩基対にわたって一緒にアニーリングするRNAの2本の互いに逆の鎖を含むことができる。それぞれの鎖上の残りの2個のリボヌクレオチドはオーバーハングを形成する。siRNAが異なる長さの2本の鎖を含む場合、鎖のうちの長い方によりsiRNAの長さが指定される。たとえば、21個のヌクレオチドの長さの1本の鎖および20個のヌクレオチドの長さの第2の鎖を含むdsRNAは、21量体を構成する。
【0023】
オーバーハングを含むsiRNAが望ましい。オーバーハングは鎖の5’または3’末端に存在し得る。好ましくは、これはRNA鎖の3’末端に存在する。オーバーハングの長さは異なり得るが、好ましくは約1〜約5個のヌクレオチドであり、より好ましくは約2個のヌクレオチドの長さである。好ましくは、本発明のsiRNAは約2〜4個のヌクレオチドの3’オーバーハングを含む。より好ましくは、3’オーバーハングは2個のリボヌクレオチドの長さである。さらにより好ましくは、3’オーバーハングを含む2個のリボヌクレオチドは、ウラシル(U)塩基を保有する。
【0024】
siRNAは標的リボヌクレオチド配列と相互作用するように設計されており、言い換えれば、これらは、標的配列と結合するように標的配列と相補的である、すなわち、siRNAのうちの1本が標的配列の領域と相補的である。
【0025】
その半減期を増加させるために修飾された主鎖を有するsiRNA分子も作製されている(たとえば、Chiu他、(2003)、RNA.、9(9)、1034〜48およびCzauderna他、(2003)、Nucleic Acids Research、31、2705〜2716に記載のように)。したがって、用語「siRNA」には、そのような修飾された分子も含まれる。したがって、siRNAへの言及は、同じ機能、すなわち標的mRNA配列との相互作用を示すsiRNAの誘導体または変異体を包含する。好ましい変異体には、修飾された主鎖が使用されている(上記)または1つもしくは複数の天然に存在しない塩基が使用されているものが含まれる。
【0026】
本方法は、複数種のsiRNA分子を細胞内に導入するために使用し得る。言い換えれば、異なる配列を有するsiRNA分子を細胞内に同時に導入することができる。複数のsiRNA分子を導入する場合は、これは、複数のsiRNA分子を担体と同時に会合させることによって達成することができる。あるいは、それぞれのsiRNA分子の種類を別々に担体と会合させることができる。
【0027】
化学合成、in vitro転写、siRNA発現ベクター、およびPCR発現カセットなど、siRNAを調製する方法がいくつか存在する。そのような技術は当該分野で周知である。たとえば、Pon他、(2005)Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids.、24(5〜7):777〜81、Du他、(2006)、Biochem.Biophys.Res.Commun.、345(1):99〜105およびKatoh他、(2003)、Nucleic Acids Res Suppl.(3):249〜50を参照されたい。
【0028】
同様に、所望の結果を達成するためにsiRNA分子を設計する方法も十分に文書化されている。最初にsiRNA標的部位を選択しなければならない。これは、様々な技術を用いて実施することができる(たとえば、Jagla他、(2005)、RNA.、11(6):864〜72およびTakasaki他、(2006)、Comput.Biol.Chem.、30(3):169〜78参照)。
【0029】
本発明の方法では、サイトゾル内へのsiRNA分子の転位置を達成する。しかし、細胞と接触するそれぞれかつすべての分子の取り込みは達成不可能であることを理解されたい。しかし、PCIまたは担体を使用しないバックグラウンドレベルと比較して顕著かつ改善した取り込みが達成可能である。
【0030】
好ましくは、本発明の方法は、その効果がそれらの細胞の発現産物で明白なほど十分なレベルでのsiRNA分子の取り込みを可能にする。この目的を達成するため、たとえば、細胞と共にたとえば24、48、72または96時間(たとえば24〜48時間)インキュベートした後に、少なくとも10%の標的遺伝子の発現の減少、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%の減少(たとえば標的遺伝子によってコードされている1つまたは複数のタンパク質の発現の減少)を達成するために、細胞と接触させるsiRNAの適切な濃度を調整し得る。同様に、上述の減少を達成するために、担体の種類および/または濃度、光感作薬の種類および/または濃度ならびに照射時間を調整することができる。
【0031】
これは、ウエスタンブロッティングなどの当該分野で知られている標準技術を用いて細胞中のタンパク質レベルを決定することによって測定することができる。タンパク質減少レベルはタンパク質の半減期に依存する、すなわち、既存のタンパク質がその半減期に従って除去される。したがって、半減期が考慮されるようにsiRNAを用いない、同じ時点での発現に対して、発現の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80または90%の減少が達成される。
【0032】
あるいは、これは、細胞中に存在するmRNAの量に対するsiRNA分子の効果の観点から測定することができ、たとえば、siRNAを用いない同じ時点での標的配列のmRNAレベルに対して、細胞と共にたとえば24、48、72または96時間、たとえば24〜48時間)インキュベートした後に、mRNAレベルの少なくとも10%の減少、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%の減少を達するために、この方法を実施することができる。これは、ハイブリダイゼーションまたはブロッティング技術およびRT−PCRなどの当該分野で知られている標準技術を用いて測定することもできる。
【0033】
本方法は、siRNA分子を形質移入する標準方法よりも有意に少ない担体または形質移入剤(および/あるいは、複合体の全体数を減少させるのか、またはsiRNA:担体もしくは形質移入剤の比を変更するのか、または両方なのかに応じて、より少ないsiRNA)しか使用を必要としないので、タンパク質の発現またはmRNAレベルの特定の減少量を達成するために必要な担体または形質移入剤の量に関して、本発明の方法を用いて形質移入の改善を表すことも可能である。たとえば、本発明の方法は、好ましくは、たとえば、PCIを用いずに、標的タンパク質の発現またはmRNAレベルの同レベルの減少を達成するために必要な担体の量よりも少なくとも10、20、30、40、50または60%低い担体濃度および/またはsiRNA濃度を用いて、標的タンパク質の発現またはmRNAレベルの特定の減少(たとえば上述のように少なくとも10%、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%)を可能とする。
【0034】
また、PCIを存在させる場合および存在させない場合の、特定のsiRNAおよび担体の濃度で見られる、タンパク質の発現またはmRNAレベルの減少のレベル間で比較を行うこともできる。たとえば、本発明の方法は、好ましくは、PCI技術の照射ステップを存在させずに本方法を実施することによって達成されるタンパク質の発現またはmRNAレベルと比較して、上述のように少なくとも10%、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%の標的タンパク質の発現またはmRNAレベルの減少を可能とする。
【0035】
本明細書中で使用する用語「細胞」には、すべての真核細胞(昆虫細胞および真菌細胞を含む)が含まれる。したがって、代表的な「細胞」には、あらゆる種類の哺乳動物および非哺乳動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞ならびに原虫が含まれる。しかし、好ましくは、細胞は哺乳動物、たとえばネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモットからの細胞であり、最も好ましくはヒトからの細胞である。
【0036】
本明細書中で使用する「接触させる」とは、細胞内への内部移行に適した条件下、たとえば、好ましくは37℃、適切な栄養培地中、たとえば25〜39℃で、細胞と光感作薬および/またはsiRNAならびに担体とを互いに物理接触させることをいう。
【0037】
光感作薬とは、適切な波長および強度での照射で活性化されて活性種を生じる薬剤である。好都合には、そのような薬剤は、特にエンドソームまたはリソソームなどの細胞内区画に局在化するものであり得る。様々なそのような光感作薬が当該分野で知られており、本明細書中に参考として組み込まれている国際公開第96/07432号パンフレットを含めた文献に記載されている。培養中の細胞のエンドソームおよびリソソームの位置を見つけることが示されているジ−およびテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニン(たとえばAlPcS2a)、スルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPSn)、ナイルブルー、クロリンe6誘導体、ウロポルフィリンI、フィロエリスリン、ヘマトポルフィリンおよびメチレンブルーに関して言及されている可能性がある。これは、ほとんどの場合、光感作薬のエンドサイトーシスの取り込みによるものである。したがって、光感作薬とは、好ましくは、細胞の内部区画、たとえばリソソームおよび/またはエンドソーム内に取り込まれる薬剤である。本発明で使用するためのさらなる適切な光感作薬は、やはり本明細書中に参考として組み込まれている国際公開第03/020309号パンフレットに記載されており、具体的には、スルホン化メソ−テトラフェニルクロリン、好ましくはTPCS2aである。
【0038】
しかし、他の細胞内区画、たとえば小胞体またはゴルジ体の位置を見つける他の光感作薬も用い得る。また、光化学的処理の効果が細胞の他の構成要素(すなわち、膜に限定された、すなわち膜に取り囲まれる区画以外の構成要素)に対するものである機構も作用していることが考えられる。したがって、たとえば、1つの可能性は、光化学的処理が細胞内輸送または小胞融合に重要な分子を破壊することであり得る。そのような分子は、必ずしも膜に限定された区画に位置していない可能性があり、それでも、そのような分子の光化学的損傷は、たとえば、そのような分子に対する光化学的効果により内部移行させる分子(すなわちsiRNA分子)の、リソソームなどの分解性小胞への輸送の減少がもたらされる機構によって、担体:siRNAの複合体の光化学的内部移行をもたらし得る。これにより、内部移行させる分子は分解される前にサイトゾルへと逃げることができる。
【0039】
必ずしも膜に限定された区画に位置しない分子の例は、ダイニンおよびダイナクチンの構成要素などの微小管輸送系のいくつかの分子;ならびにたとえばrab5、rab7、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、可溶性NSF付着タンパク質(SNAP)等である。
【0040】
したがって、言及し得る適切な光感作薬のクラスには、ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン(特に以下に記載のプロフィリンのクロリン誘導体)、ベンゾポルフィリン、リソソーム向性(lysomotropic)弱塩基、ナフタロシアニン、陽イオン性色素およびテトラサイクリンまたはその誘導体が含まれる(Berg他、(1997)、J.Photochemistry and Photobiology、65、403〜409)。他の適切な光感作薬には、テキサフィリン、フェオホルビド、ポルフィセン、バクテリオクロリン、ケトクロリン、ヘマトポルフィリン誘導体、およびその誘導体、5−アミノレブリン酸によって誘発される内在性光感作薬およびその誘導体、光感作薬間の二量体または他のコンジュゲートが含まれる。
【0041】
好ましい光感作薬には、TPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2aおよび他の両親媒性光感作薬が含まれる。他の適切な光感作薬には、化合物5−アミノレブリン酸もしくは5−アミノレブリン酸のエステルまたは製薬上許容されるその塩が含まれる。
【0042】
光感作薬を活性化させるための細胞の「照射」とは、本明細書中以下に記載するように、光を直接または間接的に施すことをいう。したがって、細胞に光源を、たとえば、直接(たとえばin vitroで単一細胞に)、または間接的に、たとえば細胞が皮膚の表面下にある場合、もしくはすべてが直接照射されない、すなわち他の細胞によって覆われていない細胞層の形態である場合はin vivoで、照射し得る。
【0043】
本方法では、細胞内に導入するsiRNA分子は、光感作薬またはsiRNA分子の細胞内への取り込みを促進または増加させるように作用する、1つまたは複数の担体分子または形質移入剤に付着、会合、またはコンジュゲートしている。この付着、会合またはコンジュゲートは、siRNA分子およびその担体を細胞と接触させる前に、または前記接触時に、これらの分子を接触させることによって行い得る。
【0044】
用語担体および形質移入剤は、本明細書中で互換性があるように使用する。
担体分子は、siRNA分子またはsiRNAおよび光感作薬の両方と会合、結合、またはコンジュゲートしていてよい。したがって、たとえばsiRNAは、電荷:電荷の相互作用によって担体に付着していてよい。上述のように、複数の担体を同時に用いてよく、担体は、複数のsiRNA分子または複数種のsiRNA分子と会合、結合またはコンジュゲートしていてよい。
【0045】
好ましくは、担体は、2つ以上のアミン基(すなわちポリアミンである)を含み、陽イオン性であり、好ましくは様々なpH値でプロトン化可能な(すなわち、適切な反応条件下1つまたは複数の追加の水素原子を保有するようにプロトン化し得る)化合物を、好ましくは非リポソーム配合物中で含む。様々なpH値には、単一分子内および/または様々な分子内のプロトン化可能な原子の様々な値が当てはまる。
【0046】
本明細書中で使用する用語「プロトン化可能」とは、その基が水素原子を受容できることを意味し、すなわちプロトン化可能な基は水素受容基である。基が水素を受容する能力は、基の性質だけでなく、基が曝されるpHにも依存することが明らかである。好ましくは、前記プロトン化可能な基は窒素原子を含み、この原子が水素原子を受容する。
【0047】
本明細書中で言及する「陽イオン性」とは、分子の全体的な、すなわち実効電荷が+1以上であることを示す。これは、好ましくは生理的pH、すなわちpH7.2で測定する。分子は、より高い電荷、たとえば+2以上、+3以上、+4以上、+5以上、+6以上、+7以上、+8以上、+9以上、+10以上、+11以上、+12以上、+13以上、+14以上、+15以上、+20以上、+25以上、+50以上、+75以上、+100以上、+150以上、+200以上、+250以上、+300以上、+400以上、+500以上、+750以上または+1000以上を有し得る。
【0048】
本発明の方法に従って使用する陽イオン性ポリアミンは本明細書中以下で定義するとおりであり、以下が含まれる。
(a)非リポソーム配合物中のリポポリアミン、
(b)GPCによって500〜20000のMn値を有するポリエチレンイミン(PEI)、
(c)以下の式のβシクロデキストリンアミンポリマー
【0049】
【化1】
【0050】
[式中、Xは1〜100の整数(端値を含む)であり、nは4〜10の整数(端値を含む)である]、
(d)アミン基含有デンドリマー、および
(e)陽イオン性ペプチド。
【0051】
好ましくは、本明細書中で言及するポリアミンは、第一級もしくは第二級アミン基、またはその混合物(たとえば少なくとも2つの第一級アミン基)を含む。好ましくは、ポリアミン領域は、少なくとも2、3、4、5または6個の窒素原子、および生理的pHで少なくとも+1、+2、+3、+4、もしくは+5(または少なくとも+6、+7、+8、+9、+10、+11、+12、+13、+14、+15、+20、+25、+50、+75、+100、+150、+200、+250、+300、+400、+500、+750もしくは+1000)の電荷を有し、たとえばアミン基の一部またはすべてが帯電している。好ましくは、少なくとも1個(たとえば少なくとも2、3または4個)の窒素含有基、たとえばNHは、生理的pHで帯電していない。ポリアミン、たとえばリポポリアミンの最後のアミンがプロトン化されるpKaは、好ましくは約5.5である、すなわち、pHを低下していく際、または酸性化合物を加えていく際、プロトン化される最後のアミンは、pH5.5以下でプロトン化される。
【0052】
一実施形態では、担体は非リポソーム配合物中のリポポリアミンを含む。リポポリアミンとは、少なくとも1つの親水性ポリアミン領域(すなわち2つ以上のアミン基を含む)および1つの親油性領域を含む両親媒性分子を意味する。親油性領域は、1つまたは複数の親油性の鎖を含み得る。
【0053】
リポポリアミンのポリアミン領域は、好ましくは式(I)を有し、
【0054】
【化2】
【0055】
式中、mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、mは2つのアミン間に含まれる様々な炭素基間で異なることが可能である、すなわち、それぞれの(CH)m−NH基が異なるmの値を有してよく、mは前記式中に現れる際に同一または異なっていてよい。それぞれの位置R1には、本明細書中以下に記載するように水素またはリポポリアミンの脂肪部分との連結基または脂肪部分自体があり、それぞれの炭素原子で同一または異なっていてよい。R2は、本明細書中以下に記載のように水素またはリポポリアミンの脂肪部分との連結基または脂肪部分自体である。優先的には、mは2〜6(端値を含む)であり、より好ましくは3または4であり、nは1〜5(端値を含む)であり、より好ましくは3である。
【0056】
好ましくは、R1およびR2の一方のみが、リンカー、ポリアミンの脂肪部分に付着したリンカー、またはポリアミンの脂肪部分である。好ましくは、1つのR1基のみが、リンカー、ポリアミンの脂肪部分に付着したリンカーまたはポリアミンの脂肪部分である。R2は好ましくはHである。
【0057】
R1またはR2が脂肪部分自体である場合、またはポリアミンの脂肪部分に付着したリンカーである場合、式(I)はリポポリアミンである。したがって、R1またはR2が脂肪部分または脂肪部分が付着した連結基でない場合にのみ、式(I)はポリアミン領域である。
【0058】
さらにより優先的には、ポリアミン領域は以下の式によって表される
【0059】
【化3】
【0060】
[式中、R2およびR1a〜R1jは、上記でR1を定義したとおりであり、好ましくは、R1aはリンカーであり、残りのR1基およびR2は水素である]。
連結基は、通常条件下で安定な結合からなる。
【0061】
好ましくは、R1またはR2は水素原子または一般式IIのラジカルを表す:
【0062】
【化4】
【0063】
[式中、R3およびR4は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれが飽和脂肪族ラジカルCpH2p+2または不飽和脂肪族ラジカルCpH2pもしくはCpH2p-2を表し、pは12〜22の整数(端値を含む)であり、R5は、水素原子、または1〜4個の炭素原子を含む、任意選択でフェニルラジカルで置換されたアルキルラジカルを表す]。
【0064】
あるいは、R1またはR2は、それぞれ一般式IIIのラジカルであり得る:
【0065】
【化5】
【0066】
[式中、Xは、メチレン基(−CH2−)またはカルボニル基(−CO−)を表し、R6およびR7は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれが飽和脂肪族ラジカルCp’H2p’+2または不飽和脂肪族ラジカルCp’H2p’もしくはCp’H2p’-2を表し、p’は11〜21の整数(端値を含む)である]。
【0067】
Mおよびnの値にかかわらず、記号R1およびR2の一方のみが一般式(II)または(III)のラジカルを表すことができる。
nが2〜5である場合、異なる断片
【0068】
【化6】
【0069】
中のmの値は、同じであっても異なっていてもよい。
式(I)の好ましい実施形態では、nは3に等しく、断片
【0070】
【化7】
【0071】
中のmの値は同一または異なっており、3または4を表し、R1もしくはR2のどちらかが、一般式(II)のラジカル[式中、R3およびR4は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルキルラジカルを表し、R5は水素原子を表す]を表すか、またはR1もしくはR2のどちらかが、一般式(III)のラジカル[式中、R6−X−およびR7−X−は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルカノイルラジカルを表す]を表す。
【0072】
5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン5−カルボキシスペルミルアミド(DPPES)が特に好ましい。
【0073】
上記リポポリアミンの合成は米国特許第5,476,962号に記載されている。
本発明に従って使用するリポポリアミンのさらなる例には、2,3−ジオレイル−オキシ−N[2−スペルミンカルボキシイル−アミド]エチル−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオル酢酸(DOSPA)、1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシスペルミン)(DOSPER)およびRPR−120535が含まれる(Ahmed他(2005)Pharmaceutical Research、22(6)、972〜980)。好ましいリポポリアミンの構造を図7に示す。
【0074】
DOSPAでは、連結基は
【0075】
【化8】
【0076】
である。
DOSPERでは、連結基は
【0077】
【化9】
【0078】
である。
したがって、上記構造は連結基のさらなる適切な例を表す。
親油性領域は、上記R3、R4、R5またはR6に定義したとおりであるか、または任意の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖、コレステロールもしくは他のステロイド、ラメラ相もしくは六方相を形成することができる天然脂質もしくは合成脂質であることができる。炭化水素鎖の長さは、10〜30個の炭素の長さ、たとえば12〜28、14〜26、16〜24、18〜22個の炭素の長さであり得る。
【0079】
担体は、好ましくはJetSI(商標)またはJetSI−ENDO(商標)であり、これらはどちらもPolyplus transfectionから入手可能である。あるいは、担体はPromegaから入手可能なTransfectam(登録商標)であり得る。
【0080】
リポソーム形成とは、陽イオン性の帯電した両親媒性物質(すなわちリポポリアミン)をDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)などの中性ヘルパー脂質と合わせてリポソームを形成することを意味する。したがって、リポポリアミンの非リポソーム配合物とは、リポポリアミンリポソームの形態で存在しない、リポポリアミン含有配合物である。言い換えれば、そのような配合物は、リポポリアミンに加えては、どの中性ヘルパー脂質も含まない。ヘルパー脂質の例は、中性リン脂質、コレステロール、グリセロホスホエタノールアミンおよびジアシルグリセロールである。好ましくは、リポポリアミン配合物は本明細書中に記載のリポポリアミンのみを含む。
【0081】
一般に、形質移入剤をDOPEなどのヘルパー脂質と組み合わせることで形質移入効率が増加することが知られており、したがって、本発明の方法で使用した場合にこれらの化合物を配合物から除外することによって改善された、より選択的な度合の阻害を達成できることは、驚くべきことである。
【0082】
担体は、好ましくは、リポフェクタミン2000、リポフェクチン、jetPEI、またはこれら市販の形質移入試薬の組成を有する担体ではない。リポフェクタミン2000の組成は、3:1(w/w)の、ポリカチオン性脂質2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)(ケミカルアブストラクト登録名:N−[2−(2,5−ビス[(3−アミノプロピル)アミノ]−1−オクスペンチル−アミノ)エチル]−N,N−ジメチル−2,3−ビス(9−オクタデセニルオキシ)−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸)のリポソーム配合物、および中性脂肪ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)である。
【0083】
リポフェクチンの組成は、DOTMA(1,2−ジオレオイルオキシプロピル−3−トリメチルアンモニウムブロマイド)およびDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)の1:1混合物である。
【0084】
また、担体は、siPORTまたはこの市販の形質移入試薬の組成を有する担体でもない。
代替実施形態では、担体は、生理的pHで陽イオン性(かつ好ましくはプロトン化可能)であるポリアミン化合物、たとえばポリエチレンイミン(PEI)である。PEIは、多くの様々な構造変異体として存在するが、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって600以上のMn値(数平均分子量)を有する変異体が最も興味深い。たとえば、PEIは、500〜700、500〜750、750〜1000、100〜1250、1000〜1250、1250〜1500、1000〜20000、1100〜15000、1200〜12500、1250〜10000、1500〜7500、1750〜5000、2000〜4000または2500〜3500のMn値を有し得る。
【0085】
数平均分子量は、ポリマーの分子量を決定する一方法である。ポリマー分子は、同じ種類のものでも様々な大きさ(直鎖状ポリマーでは鎖の長さ)で存在するので、平均分子量は平均する方法に依存する。数平均分子量は、個々のポリマーの分子量の一般的な平均である。n個のポリマー分子の分子量を測定し、重量を合計し、nで割り算することによって決定する。
【0086】
【数1】
【0087】
PEIの直鎖形または非直鎖状、たとえば分枝鎖状のPEI(これはたとえば、本明細書中に記載の分子量値の低分子量であることができる)を使用し得る。
分枝鎖状PEIとは、第三級アミン基、ならびに第一級および第二級アミン基を含むPEIを意味する。第一級および/または第二級アミン基に対する第三級アミン基の数は、ポリマー中の分枝の量または度合の指標である。一般に、分枝鎖状PEIは、0.5〜1.5:1.5〜2.5:0.5〜1.5の比、たとえば1:2:1で第一級、第二級および第三級アミン基を含むが(すなわち第二級および第三級アミン基の比は2:1)、第三級アミン基をより多くまたは少なく含む分枝構造を有する分枝鎖状PEIも存在し、本発明で使用することができる。別の比の例は、1:1〜3:1(第二級:第三級アミン基)、たとえば1.2:1〜2.8:1、1.4:1〜2.6:1、1.6:1〜2.4:1、1.8:1〜2.2:1である。
【0088】
PEIの分子量は、好ましくは30kDaまたは25kDaより低い、たとえば15、10、5または2kDaより低い。
適切なPEIの例はSigmaから入手可能である(408719ポリエチレンイミン(平均MwはLSで約800Daまで、平均MnはGPCで約600まで、低分子量、非含水)。他の市販のPEI系試薬には、Poly Sciences,Inc PEI(分枝鎖状、Mw10,000)、US Biological Exgen500、Polyplus transfection jetPEI(商標)、Sigma ESCORT(商標)V形質移入試薬、およびMinis TransIT−TKO(登録商標)が含まれる。
【0089】
上述のように、好ましい実施形態では、1つまたは複数のβシクロデキストリンアミンポリマーを担体分子として用いることができる、すなわちポリアミン化合物はβシクロデキストリンアミンポリマーである。適切なβシクロデキストリンアミンポリマーおよびそのような分子の合成方法は、Hwang他、(2001)Bioconjugate Chem、12、280〜90に記載されている。
【0090】
適切なβシクロデキストリンアミンポリマーおよび適切な単量体からのその合成を示す模式図を、以下に示す:
【0091】
【化10】
【0092】
上述のように、nは、4〜10(端値を含む)、好ましくは5〜8(端値を含む)、または6〜7(端値を含む)の整数であることができる。nは、最も好ましくは4、6または8である。Xは任意の整数であることができる。Xは、好ましくは1〜100、10〜50、15〜25、1〜20、たとえば2〜15、3〜12、4〜10、5〜8または6〜7(端値を含む)である。Xは、最も好ましくは4または5である。
【0093】
さらに好ましい実施形態では、1つまたは複数のアミン基含有デンドリマー(たとえばポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマー)を担体分子として用いることができる、すなわちポリアミン化合物はアミン基含有デンドリマーである。デンドリマーは「デンススター(dense star)」ポリマーと呼ばれる巨大分子構造のクラスを表す。
【0094】
伝統的なポリマーとは異なり、デンドリマーは高い度合の分子均一性、狭い分子量分布、具体的な大きさおよび形状特徴、ならびに高度に官能化された末端表面を有する。したがって、デンドリマーは、分枝鎖状単位または単量体から構築されて単分散の樹状または世代構造を構成する人工的に製造または合成した分子である。単分散ポリマーの合成には高いレベルの合成の調節を必要とし、デンドリマーを一度に一単量体層、すなわち一「世代」ずつ構築する段階的な反応によって達成する。それぞれのデンドリマーは、それぞれの官能部位に樹状ウェッジが付着した多官能性の核分子からなる。核分子は「世代0」と呼ばれる。すべての分枝に沿ったそれぞれの連続的な反復単位が次の世代、「世代1」、「世代2」などを、最終世代まで形成する。
【0095】
したがって、製造プロセスは、中心の開始核から開始する一連の反復ステップである。続くそれぞれの成長ステップは、前の世代より大きな分子直径、2倍の数の反応性表面部位、および約2倍の分子量を有するポリマーの新しい「世代」を表す。たとえば、PAMAMデンドリマーの作製は、Esfand他、(2001)Drug Discovery Today、6(8)、427〜36およびKukowska−Latallo他、(1996)、93(10)、4897〜902に記載されている。
【0096】
適切なデンドリマーには、アミン基を含むすべてのデンドリマー、たとえば、トリエタノールアミン、NH3、またはアミン含有単量体が付着したエチレンジアム核を有するデンドリマーが含まれる。PAMAMデンドリマーが特にも好ましい。好ましくは、デンドリマーはポリアミン単量体、たとえば一般式H2N−(CH2)m−NH−(CO)n−(CH2)o[式中、mおよびoは1〜10の整数、好ましくは1または2であり、nは0または1である]を有するものから構成される。
【0097】
PAMAMデンドリマーを図14に示す。やはり図中に示すように、それぞれの「世代」は、前の世代のそれぞれの末端アミノ基への2つの新しいH2N−CH2−CH2−NH−CO−CH2−CH2−基の付加を表す。
【0098】
以下の表は、アミン表面官能性PAMAMデンドリマーの計算した特性を世代別に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
好ましくは、PAMAMデンドリマーは、分子量が1000〜235000または3000〜117000、たとえば6000〜60000または14000〜30000Daのものである。
【0101】
デンドリマーは、その世代に関して定義することもでき、したがって、デンドリマー(たとえばPAMAMデンドリマー)は、好ましくは世代0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のもの、特に世代2〜6のものである。
【0102】
上述のように、さらなる代替実施形態では、1つまたは複数の陽イオン性ポリペプチドを担体分子として用いることができる、すなわちポリアミン化合物は陽イオン性ポリペプチドである。様々な陽イオン性ペプチドが当該分野で知られている。
【0103】
本明細書中で定義する「ペプチド」には、任意の数のアミノ酸、すなわち1つまたは複数のアミノ酸を含む任意の分子が含まれる。しかし、好ましくは、ペプチドは連続的なアミノ酸のポリマーである。
【0104】
ペプチドは、任意の好都合な手段、たとえば、直接化学合成または適切な配列の核酸分子を細胞中で発現させることによる組換え手段によって調製し得る。
ペプチドに関して本明細書中で言及する「陽イオン性」とは、生理的pH、すなわちpH7.2でペプチドの全体的な、すなわち実効電荷が+1以上であることを示す。アミノ酸は、ペプチドの配列構成中で存在する場合に、生理的pHでの優勢種が陽性に帯電している場合に+1とみなされる。ペプチド中のそのようなアミノ酸のそれぞれがさらなる正電荷に寄与して、ペプチドの最終電荷が計算される。ペプチドの実効電荷(それぞれのアミノ酸に起因する電荷を合計することによって計算する)が陽性である限りは、ペプチドは1つまたは複数の陰性に帯電したアミノ酸残基、および中性残基を含み得る。
【0105】
したがって、ペプチドの電荷はそのアミノ酸組成に依存する。特定のアミノ酸は通常の生理的pHで帯電している。陽性に帯電したアミノ酸はリシン(K)、アルギニン(R)およびヒスチジン(H)であり、上述のスケールで+1とみなされる。アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)はほとんどの生理的pHで負電荷を保有し、上記スケールで−1とみなされる。他の天然に存在するアミノ酸は電荷を保有しないとみなされる。ペプチドの全体的な電荷が+1以上である限りは、任意の数の陽性または陰性に帯電したアミノ酸が存在し得る。
【0106】
本発明で使用するペプチドで用いられるアミノ酸は、必ずしも天然に存在するアミノ酸である必要はない。ペプチド中のアミノ酸のうちの1つまたは複数を、天然に存在しない、たとえば誘導体化したアミノ酸で置換し得る。そのようなアミノ酸は、ペプチドの電荷へのその寄与に基づいて同様に評価する。したがって、天然に存在するアミノ酸の場合と同様、優性種が生理的pHで陽性である場合、全体的な電荷が+1以上である限りは、その電荷が誘導体化した部分(たとえば導入したアミン基)に由来するのか、または天然のアミノ酸中にも存在する部分に由来するのかどうかは重要でない。
【0107】
ペプチドの電荷は、>1、好ましくは+1〜+1000、+1〜+500、+1〜250または+1〜+100、たとえば+2〜+80、たとえば+3〜+60または+4〜+50、+5〜+30、+6〜+20、たとえば+10または+15である。
【0108】
好ましくは、陽イオン性ペプチドは、LもしくはDリシン、LもしくはDアルギニン、LもしくはDヒスチジンおよび/またはオルニチン残基を含む。さらにより好ましくは、ペプチドはこれらの残基のうちの1つまたは複数に富む、たとえば10〜100%、20〜80%、30〜70%、40〜60%または50%の陽性に帯電した残基を含む。そのようなペプチドの例には、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ポリ−ヒスチジン、ヒスチジル化ポリ−リシンおよびポリ−オルニチン、あるいはLもしくはDリシン、LもしくはDアルギニン、LもしくはDヒスチジンおよび/またはオルニチン残基と他のアミノ酸、たとえばアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンのうちの1つまたは複数とのコポリマーが含まれる。
【0109】
前記陽イオン性ポリペプチドは、その分子量に関して定義することができる。したがって、これらの重量は、好ましくは少なくとも1000Da、1500Da、2000Da、2500Da、5000Da、7500Da、10000Da、15000Da、20000Da、25000Da、30000Da、40000Da、50000Da、60000Da、70000Da、80000Da、90000Daまたは100000Daである。
【0110】
あるいは、陽イオン性ポリペプチドは、その長さに関して定義することができる。好ましい陽イオン性ポリペプチドの長さは、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、150、200、250、300、350、400、450、500個のアミノ酸である。
【0111】
極めて好ましい陽イオン性ペプチドは、ポリアルギニン、特にMwが少なくとも15000kDaのポリアルギニンである。
理論に拘泥するものではないが、担体とsiRNA分子との会合は、陽性に帯電した担体と陰性に帯電したsiRNA分子との相互作用に基づいており、siRNA−担体の複合体の形成がもたらされると考えられている。siRNA−担体の複合体は細胞表面の陰イオン性プロテオグリカンと相互作用し、エンドサイトーシスによって取り込まれる。
【0112】
一般に、担体とsiRNA分子またはsiRNAおよび光感作薬の両方との会合、結合またはコンジュゲートは、単純に2つの構成要素を適切な条件下および濃度で混合し、構成要素を相互作用させることによって達成される。したがって、好ましい実施形態では、本方法は、前記siRNAを前記担体と接触させる追加のステップを含む。この接触ステップを実施する条件、ならびに担体およびsiRNA分子のそれぞれの適切な濃度は、ルーチン試験を行うことによって当業者によって容易に決定することができる。適切な条件の例を実施例に記載する。たとえば、siRNA分子および担体分子を、たとえば渦撹拌によって混合し、たとえば室温で静置し得る。その後、siRNA分子および担体分子を約10〜20、10〜30または20〜40分間放置した後に、細胞と接触させ得る。
【0113】
好ましくは、10nM〜200nM、たとえば15〜150nM、20〜100nM、20〜100nM、30〜90nM、40〜80nM、または50〜70nMのsiRNAを、たとえば標準の6ウェルプレートのウェル中で、形質移入に用いるが、異なる濃度を試験し得る。本方法で使用するsiRNAの最適濃度の決定はルーチンの問題である。
【0114】
siRNAおよび担体を適用する細胞は、標準の細胞培養技術を用いて調製する。細胞が接着細胞である場合、これらは好ましくは50〜70%または25〜50%コンフルエントである。
【0115】
担体およびsiRNA分子は、標準プロトコルに基づいて様々な比で混合し得る。たとえば、実施例1〜6に示すように、6ウェルプレートに適用するために、水溶液として作製した8.4μlの2mMの担体を2mlの培地中の2.8μgのsiRNAと混合することができる。同様に、6ウェルプレートに適用するために、水溶液として作製した4.2μlの2mMの担体を1mlの培地中の1.4μgのsiRNAと混合することができる。担体は必ず2mMである必要はなく、適切な範囲には0.5〜5mM、1〜3mM、1.5〜2.5mMが含まれる(たとえば水溶液として作製)。1ngのsiRNAに対して、光感作薬と一緒の溶液中に合計約6ナノモルに等価な量の担体(たとえば1〜10、2〜8)を用いることができる。
【0116】
PEIでは、6ウェルプレートで適用するための好ましい濃度は、たとえば1mlの培地中で100nMのsiRNAを用いて、1μg/mlおよび10μg/ml(たとえば0.5〜20または1〜15μg/ml)である。これは、実施例9に示すように、1200〜25000ダルトン(たとえば1300〜2000ダルトン)の分子量を有するPEIに特に有効であることが示されている。使用するPEIの濃度は、実施例9に示す条件を用いて達成される電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0117】
βシクロデキストリンアミンポリマーでは、6ウェルプレートで適用するための適切な濃度は、たとえば1mlの培地中で50nMのsiRNAを用いて、100μg/ml(たとえば10〜1000、20〜800、30〜600、40〜400、50〜200μg/ml)である。これは、実施例11に記載のポリマーの使用に基づく。nおよびXの値は分子の電荷に影響を与え、したがって、様々な濃度が適切であり得る。使用するβシクロデキストリンアミンポリマーの濃度は、実施例11に示す条件を用いて達成される電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0118】
アミン基含有デンドリマーでは、6ウェルプレートで適用するための適切な濃度は、たとえば1mlの培地中で100nMのsiRNAを用いて、100μg/ml(たとえば10〜1000、20〜800、30〜600、40〜400、50〜200μg/ml)である。使用するアミン基含有デンドリマーの濃度は、実施例12に示す条件を用いて達成される電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0119】
陽イオン性ペプチドでは、6ウェルプレートで適用するための適切な濃度は、たとえば1mlの培地中で100nMのsiRNAを用いて、0.35μg/mlまたは0.7μg/ml(たとえば0.1〜20、0.2〜15、0.3〜10μg/ml)である。実施例13に示すように、これらの濃度は、分子量15000〜70000および>70000のポリアルギニン担体を用いた使用で成功した。ペプチドの分子量およびアミノ酸組成は分子の電荷に影響を与え、したがって、様々な濃度が適切であり得る。使用する陽イオン性ペプチドの濃度は、実施例13に示す条件を用いて達成されるような電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0120】
2つの構成要素の比は電荷の比として表現してもよく、このことも考慮に入れる必要がある。好ましくは、担体およびsiRNAの間の電荷比は、少なくとも1+/−(すなわち1つの負電荷あたり1つの正電荷)、5+/−、10+/、20+/−、30+/−、40+/−、50+/−、60+/−、70+/−、80+/−、90+/−、100+/−、200+/−、300+/−、400+/−または500+/−である。
【0121】
電荷比は、それぞれの構成要素(すなわちsiRNAおよび担体)の電荷ならびに存在するそれぞれの構成要素の量に依存する。
あるいは、2つの構成要素の比は、N/P比、すなわち窒素残基対オリゴヌクレオチドリン酸の比として表現し得る。担体のすべての窒素原子が必ず陽イオンであるわけではないので、N/P比は電荷比と同じではない。N/P比は、それぞれの化合物の化学組成および存在するそれぞれの化合物の量に依存する。N/P比の適切な値には、1〜500、たとえば2〜450、3〜400、4〜350、5〜300、6〜250、7〜200、8〜150、9〜100、10〜80、15〜60、20〜50、30〜40、1〜25、1〜20、1〜15、1〜10、1〜5が含まれる。
【0122】
好ましくは、担体は、使用に選択した濃度では、PCIの照射ステップなしでは細胞内区画からの放出が起こらず、PCIの照射ステップ後に細胞内区画からの放出が見られるような濃度である。siRNAおよび担体の適切な濃度および比は上述した。
【0123】
担体は、一般に水溶液(たとえば水)中での形質移入目的のために形成されている。その後、ストック溶液(たとえばエタノール中に20mM)を使用に適した濃度に(たとえば水で)希釈することができる。米国特許第5,476,962号は、リポポリアミンの形成を記載している。
【0124】
上述のように、siRNA担体も光感作薬の担体として使用し得る。しかし、その代わりに、光感作薬は、担体なしで、またはsiRNAのために本発明に従って使用しない別の担体と共に使用し得る。そのような別の担体は本明細書中で光感作薬担体と呼び、ポリリシン(たとえばポリ−L−リシンもしくはポリ−D−リシン)、ポリエチレンイミンまたはデンドリマー(たとえばSuperFect7などの陽イオン性デンドリマー)などのポリカチオン;DOTAPなどの陽イオン性脂質またはリポフェクチンおよびペプチドが含まれる。
【0125】
特異的な細胞(たとえば癌細胞)または組織をsiRNA分子および/または光感作薬の標的とするために、siRNA分子および/または光感作薬および/または担体を、所望の細胞または組織内へのsiRNA分子の特異的な細胞取り込みを促進する特異的標的化分子と会合またはコンジュゲートさせ得る。
【0126】
たとえばCuriel(1999)、Ann.New York Acad.Sci.、886、158〜171;Bilbao他、(1998)、癌の遺伝子治療(Gene Therapy of Cancer)(Walden他編、Plenum Press、ニューヨーク);PengおよびRussell(1999)、Curr.Opin.Biotechnol.、10、454〜457;Wickham(2000)、Gene Ther.、7、110〜114に記載のように、多くの異なる標的化分子を用いることができる。
【0127】
標的化分子を、siRNA分子、担体、光感作薬あるいはそれらの部分の2つ(たとえば、siRNAおよび担体もしくはsiRNAおよび光感作薬もしくは担体および光感作薬)または3つすべてと会合、結合またはコンジュゲートさせてよく、同一または異なる標的化分子を使用し得る。上述のように、複数の標的化分子を同時に使用し得る。
【0128】
本発明の方法は以下に記載するように実施し得る。本発明の方法では、siRNA分子を、その担体および光感作化合物と一緒に(任意選択で同じ担体もしくは光感作薬担体と共に)、同時にまたは次々と細胞に適用し、ここで、光感作化合物、担体およびsiRNA分子が、エンドソーム、リソソームまたは他の細胞内の膜に限定された区画内に、エンドサイトーシスまたは他の様式で転位される。
【0129】
siRNA、担体および光感作化合物は、一緒にまたは逐次的に細胞に適用し得る。一般に、上述のようにsiRNAを担体と混合して複合体を形成させ、次いで、それを細胞に光感作化合物と同時に投与する。あるいは、siRNA:担体の複合体および光感作化合物を逐次的に投与することができる。siRNA−担体の複合体および光感作化合物を、細胞によって同一または異なる細胞内区画内に取り込ませ得る(たとえば、これらは同時転位し得る)。
【0130】
次いで、光感作化合物を活性化させるために細胞を適切な波長の光に露光させ、それにより細胞内区画膜の破壊、および続いて光感作薬と同じ区画内に位置し得るsiRNAのサイトゾルへの放出をもたらすことによって、siRNAが放出される。したがって、これらの方法では、細胞を光に露光する最終ステップが、siRNAが光感作薬と同じ細胞内区画から放出されてサイトゾル中に存在することもたらす。
【0131】
国際公開第02/44396号パンフレット(本明細書中に参考として組み込まれている)は、たとえば、内部移行させる分子(および担体)を細胞と接触させる前に、光感作薬を細胞と接触させて照射によって活性化させるように、ステップの順序を変更できる方法を記載している。この適応方法は、照射時に内部移行させる分子が光感作薬と同じ細胞小区画中に存在している必要がないことを利用している。
【0132】
したがって、好ましい実施形態では、前記光感作薬、前記担体および前記siRNA分子(たとえば担体:siRNAの複合体として)を細胞に一緒に適用するか、または、前記光感作薬を前記担体および前記siRNA分子とは別々に適用する。その結果、これらが細胞によって同じ細胞内区画内に取り込まれる場合があり、その後、前記照射を行い得る。光感作薬、担体およびsiRNA分子は別々であるか、またはこれらをデンドリマー分子として配合することができる(たとえばNishiyama N他、(2005)Nat Mater.、4(12):934〜41参照)。
【0133】
代替実施形態では、前記方法は、前記細胞を光感作薬と接触させるステップと、前記細胞を、導入する担体およびsiRNA分子と接触させるステップと、前記細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射するステップとによって行うことができ、前記照射は、前記siRNA分子および前記担体の、前記光感作薬を含む細胞内区画内への細胞取り込みの前に、好ましくは前記分子および前記担体の、任意の細胞内区画内への細胞取り込みの前に行う。
【0134】
前記照射は、前記siRNA分子および光感作薬が露光時に同じ細胞内区画内に局在しているかどうかにかかわらず、分子および担体分子の、細胞内区画内への細胞取り込みの後に行うことができる。しかし、好ましい一実施形態では、照射は、内部移行させる分子の細胞取り込みの前に行う。
【0135】
本明細書中で使用する「内部移行」とは、分子のサイトゾル送達をいう。したがって、この事例では、「内部移行」には、分子を細胞内/膜結合区画から細胞のサイトゾルへと放出させるステップが含まれる。
【0136】
本明細書中で使用する「細胞取り込み」または「転位置」とは、細胞膜外部にある分子が、外の細胞膜の内部に見つかるように細胞内に取り込まれる、たとえばエンドサイトーシスまたは他の適切な取り込み機構によって、たとえば細胞内の膜に限定された区画内、たとえば小胞体、ゴルジ体、リソソーム、エンドソームなど内に取り込まれるまたはそれと会合する、内部移行のステップの1つをいう。
【0137】
細胞を光感作薬とならびにsiRNA分子および担体と接触させるステップは、任意の好都合または所望される方法によって実施し得る。したがって、接触ステップをin vitroで実施する場合、細胞を好都合にたとえば適切な細胞培地などの水性培地中に維持してよく、適切な時点で、光感作薬ならびに/またはsiRNA分子および担体を、適切な条件下で、たとえば適切な濃度および適切な時間、単純に培地に加えることができる。たとえば、細胞を無血清培地の存在下でsiRNA分子および担体と接触させ得る。
【0138】
光感作薬を適切な濃度で適切な時間、細胞と接触させ、これらはルーチン技術を用いて当業者が容易に決定することができ、使用する具体的な光感作薬ならびに標的細胞の種類および位置などの要素に依存する。光感作薬の濃度は、細胞内に取り込まれた後、たとえばその細胞内区画の1つまたは複数内に取り込まれるまたはそれと会合し、照射によって活性化させた後、1つまたは複数の細胞構造が破壊される、たとえば1つまたは複数の細胞内区画が溶解または破壊されるような濃度でなければならない。たとえば、本明細書中に記載の光感作薬は、たとえば10〜50μg/mlの濃度で使用し得る。in vitroの使用では、はるかに広範な範囲、たとえば0.05〜500μg/mlのであることができる。in vivoのヒト治療では、光感作薬は、全身投与した場合は0.05〜20mg/体重1kg、または局所適用する溶媒中で0.1〜20%の範囲で使用し得る。より小さな動物では濃度範囲は異なる場合があり、それに応じて調整することができる。
【0139】
細胞の光感作薬とのインキュベーション時間(すなわち「接触」時間)は数分間から数時間まで変動することができ、たとえば48時間以上までも、たとえば12〜20または24時間であることができる。インキュベーション時間は、光感作薬が適切な細胞によって、たとえば前記細胞の細胞内区画内に取り込まれるようなものであるべきである。
【0140】
細胞の光感作薬とのインキュベーションには、任意選択で、細胞を光に露光させるまたはsiRNA分子および担体を加える前に、たとえば10分間〜8時間、特に1〜4時間、光感作薬を含まない培地を用いたインキュベーション時間が続いてもよい。
【0141】
siRNA分子および担体(たとえば事前に形成させたsiRNA:担体の複合体として)は、適切な濃度で、適切な時間、細胞と接触させる。
本発明の方法で使用するsiRNA分子の適切な用量の決定は、当業者にはルーチン的な実施である。in vitroの用途ではsiRNA分子の例示的な用量は約1〜100nMのsiRNAであり、in vivoの用途ではヒトに注射する1回あたり約10-6〜1gのsiRNAである。たとえば、siRNA分子は、500nM未満、たとえば300nM未満、特に好ましくは100nMもしくは50nM未満、たとえば1〜100nM、または5〜50nMのレベルで投与してよく、示した濃度は、細胞と接触するレベルを反映している。
【0142】
上述のように、光感作薬を加え、照射を行った数時間後にさえ接触を開始し得ることが見出された。
適切な濃度は、懸案のsiRNA分子の懸案の細胞内への取り込み効率、および細胞中で達成することを所望する最終濃度に応じて決定することができる。したがって、「形質移入時間」または「細胞取り込み時間」、すなわち分子が細胞と接触している時間は、数分間または数時間までであることができ、たとえば、10分間〜24時間、たとえば30分間〜10時間、またはたとえば30分間〜2時間もしくは6時間の形質移入時間を使用することができる。より長いインキュベーション時間、たとえば24〜96時間以上、たとえば5〜10日間も使用し得る。
【0143】
形質移入時間の増加は、通常、懸案の分子の取り込みの増加をもたらす。しかし、より短いインキュベーション時間、たとえば30分間〜1時間も、分子の取り込みの改善された特異性をもたらすことができる。したがって、任意の方法の形質移入時間を選択する際、分子の十分な取り込みを得つつPCI処理の十分な特異性を維持する、適切なバランスを取らなければならない。
【0144】
siRNA分子、担体および光感作薬を標的細胞と接触させる、in vivoの適切な方法およびインキュベーション時間は、投与様式ならびにsiRNA分子、担体および光感作薬の種類などの要素に依存する。たとえば、siRNA分子および担体を治療する腫瘍、組織または器官内に注射した場合、注射点付近の細胞は、後の時点およびより低い濃度でsiRNA分子と接触する可能性の高い注射点からより離れた位置の細胞よりも迅速にsiRNA分子と接触してそれを取り込む傾向がある。
【0145】
さらに、静脈内注射によって投与したsiRNA分子は、標的細胞に到達するまでにある程度の時間がかかる場合があり、したがって、十分または最適な量のsiRNA分子が標的細胞または組織内に蓄積されるまでにより長い投与後時間、たとえば数時間かかり得る。もちろん、同じ考慮が、光感作薬が細胞内に取り込まれるために必要な投与時間にも適用される。したがって、in vivoで個々の細胞に必要な投与時間は、これらおよび他のパラメータに応じて変動する可能性がある。
【0146】
いずれにせよ、in vivoの状況はin vitroよりも複雑であるが、本発明の基底の概念は依然として変わらない、すなわち、分子を標的細胞と接触させる時間は、照射が起こる前に適切な量の光感作薬が標的細胞によって取り込まれており、(i)照射前またはその間、siRNA分子は、同一もしくは異なる細胞内区画内に取り込まれている、または標的細胞との十分な接触後にそれに取り込まれる、あるいは、(ii)照射後、siRNA分子を、細胞内へのその取り込みを可能にするために十分な時間、細胞と接触させるような時間でなければならない。siRNA分子を光感作薬の活性化によって影響を受ける細胞内区画(たとえば光感作薬が存在する区画)内に取り込ませる限りは、siRNA分子は照射の前または後に取り込ませことができる。
【0147】
光感作薬を活性化させるための光照射ステップは、当該分野で周知の技術および手順に従って行い得る。たとえば、光の波長および強度は、使用する光感作薬に応じて選択し得る。適切な光源が当該分野で周知である。
【0148】
本発明の方法において細胞を光に露光させる時間は変動し得る。細胞損傷、ひいては細胞死が増加する最大値を超える光への露光の増加に伴って、サイトゾル内へのsiRNA分子の内部移行効率が増加する。
【0149】
照射ステップの好ましい時間の長さは、標的、光感作薬、標的細胞または組織中に蓄積された光感作薬の量および光感作薬の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの重なりなどの要素に依存する。一般に、照射ステップの時間の長さは、分間から数時間の桁、たとえば好ましくは60分間まで、たとえば0.5または1〜30分間、たとえば0.5〜3分間、または1〜5分間もしくは1〜10分間、たとえば3〜7分間、好ましくは約3分間、たとえば2.5〜3.5分間である。より短い照射時間、たとえば1〜60秒間、たとえば10〜50、20〜40または25〜35秒間も用い得る。
【0150】
適切な光用量を当業者によって選択することができ、これは、ここでも、光感作薬および標的細胞または組織中に蓄積された光感作薬の量に依存する。たとえば、光感作薬フォトフリンおよびプロトポルフィリン前駆体5−アミノレブリン酸を用いた癌の光力学治療で通常用いる光用量は、高体温を回避するために、200mW/cm2未満のフルエンス範囲で50〜150J/cm2の範囲である。可視スペクトルの赤色領域の消光係数がより高い光感作薬を用いた場合、光用量は通常より低い。しかし、より少ない光感作薬が蓄積された非癌性組織の治療では、必要な光の総量は、癌の治療よりも実質的に高い場合がある。さらに、細胞生存度を維持する場合は、過剰レベルの毒性種の発生を回避すべきであり、それに応じて関連パラメータを調整し得る。
【0151】
本発明の方法は、光化学的処理が原因で、すなわち光感作薬が活性化される際に毒性種が発生することによって、ある程度の細胞死滅を必然的に生じ得る。提案された使用に応じて、この細胞死は重要でない場合があり、一部の用途(たとえば癌治療)には実際に有利な場合がある。しかし、好ましくは、細胞死を回避し、本明細書中の他の箇所に記載したように、細胞毒性を存在させずに発現の強力な阻害(すなわち強力なsiRNA効果)を引き起こすように、本発明を実施することができる。全般的な細胞毒性または細胞生存度に対する効果なしに強力な発現の阻害を達成することが極めて有利である。本発明の方法は、生存細胞の分率または割合が光用量を光感作薬の濃度に関係して選択することによって調節されるように変更し得る。ここでも、そのような技術は当分野で知られている。
【0152】
生細胞が望ましい用途では、実質的にすべての細胞、または顕著に大多数(たとえば細胞の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60、70、80または90%)が死滅しない。PCI処理後の細胞生存度は、MTS試験などの当該分野で知られている標準技術によって測定することができる(実施例参照)。
【0153】
光感作薬の活性化によって誘発された細胞死の量にかかわらず、siRNAが細胞に対して効果を有するためには、PCI効果が現れる個々の細胞の一部は光化学的処理単独で死滅しないように光用量を調節することが重要である(ただし、細胞内に導入する分子が細胞毒性効果を有する場合はその後死滅し得る)。
【0154】
細胞毒性効果は、たとえば遺伝子を下方制御するために、たとえばsiRNA分子を本発明の方法によって腫瘍細胞内に内部移行させる遺伝子治療を用いて達成し得る。
本発明の方法は、たとえば遺伝子治療方法およびスクリーニングアッセイの作製における特定の遺伝子産物の発現の阻害を含めた様々な目的のために、in vitroまたはin vivoで、たとえばin situ治療またはex vivo治療のために使用し、次いで処理細胞を身体に投与し得る。
【0155】
したがって、本発明は、本明細書中に既に記載した方法によって、siRNA分子を前記標的遺伝子を含む細胞内に導入することによって標的遺伝子の発現を阻害する方法を提供し、前記siRNA分子は、前記標的遺伝子の発現を特異的に阻害する。
【0156】
「特異的阻害」とは、標的遺伝子の配列依存的阻害をいう。核酸レベルで使用するsiRNA分子と十分な同一性を有する配列を含む遺伝子の発現が、siRNA分子によって影響を受ける。上述のように、発現の配列特異的阻害を引き起こす適切な配列のsiRNA分子を当業者が設計することを可能にする、標準的な技術が開発されている。
【0157】
「標的遺伝子」とは、その発現を下方制御させる、かつ調査または操作の標的となる遺伝子をいう。
これらの方法は、細胞の発現プロフィールを変更させて、たとえば細胞経路を調査するため、もしくは特定の遺伝子の発現の影響を測定するために、あるいは治療目的に使用し得る。
【0158】
本発明の方法は、1つ以上の遺伝子の下方制御、修復または変異から利益を受ける任意の疾患の治療にも用い得る。たとえば、癌において過剰発現される遺伝子は、適切なsiRNA分子を投与することによって下方制御し得る(Lage(2005)Future Oncol、1(1):103〜13)。治療し得る別の疾患には、ハンチントン病およびアルツハイマー病などの神経変性疾患ならびに肝炎(たとえばB、C)およびHIVなどのウイルス感染症が含まれる。
【0159】
したがって、本発明のさらなる態様は、本明細書中に記載の、siRNA分子、担体分子(好ましくは前記siRNA分子との複合体として)および任意に別個に光感作薬も含む組成物を提供する。さらなる態様では、本発明は、治療で使用する前記組成物を提供する。
【0160】
あるいは、本発明は、本明細書中に記載の、siRNA分子、担体分子および任意に光感作薬も含むキットを提供する。好ましくは、前記キット(または製品)は、医療における同時、個別または逐次的な使用のためのものである。
【0161】
別の記載をすると、本発明は、前記患者において1つ以上の標的遺伝子の発現を変更させることによって疾患、障害または感染症を治療または予防するための医薬品の調製における、本明細書中に記載のsiRNA分子および担体の使用を提供する。任意選択で、前記医薬品は前記siRNA分子または担体の一方のみを含む場合があり、その医薬品は、前記医薬品中に存在しない前記siRNA分子または担体が前記疾患、障害または感染症を治療または予防する際に前記患者に投与するためのものである方法で使用し得る。任意選択で、前記医薬品は光感作薬を含み得る。好ましくは、前記医薬品は遺伝子治療用である、すなわち、異常な遺伝子発現によって代表される、または1つ以上の遺伝子の抑制から利益を受ける疾患または障害を治療するためのものである。前記変更には、前記発現の下方制御が含まれる。
【0162】
上述の様々な実施形態によれば、前記光感作薬ならびに前記siRNA分子および担体を患者の細胞または組織と同時にまたは逐次的に接触させ、前記細胞を、光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光で照射し、その照射は、前記siRNA分子および担体の前記光感作薬を含む細胞内区画内への細胞取り込みの前、その間または後に、好ましくは前記移行分子の任意の細胞内区画内への細胞取り込みの前に行う。
【0163】
したがって、別の態様では、本発明は、患者において疾患、障害または感染症を治療または予防する方法であって、本明細書中で既に記載した方法に従ってsiRNA分子および担体を1つ以上の細胞内にin vitro、in vivoまたはex vivoで導入すること、および必要な場合(すなわち形質移入をin vitroまたはex vivoで実施する場合)には前記細胞を前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【0164】
本明細書中で定義する「治療」とは、治療前の症状と比較して、治療中の疾患、障害または感染症の1つ以上の症状を軽減、緩和または排除することをいう。「予防」とは、疾患、障害または感染症の症状の発症を遅延または予防することをいう。
【0165】
本発明の組成物は、本発明の方法によって細胞のサイトゾル内に内部移行されているsiRNA分子を含む細胞も含み得る。本発明は、治療、特に癌または遺伝子治療において使用するそのような組成物にさらに拡張する。
【0166】
したがって、本発明のさらなる態様は、細胞のサイトゾル内に内部移行されているsiRNA分子を含む、本発明の方法によって得ることができる、細胞または細胞集団を提供する。
【0167】
本発明のさらなる態様は、本明細書中で既に記載した治療、好ましくは癌または遺伝子治療において使用する組成物または医薬品を調製するための、そのような細胞または細胞集団の使用を提供する。
【0168】
本発明は、患者に本発明の細胞または組成物を投与することを含む前記患者の治療方法、すなわち、本明細書中で既に記載したようにsiRNA分子を細胞内に導入するステップと、そのように調製した前記細胞を前記患者に投与するステップとを含む方法をさらに提供する。好ましくは、前記方法を癌の治療または遺伝子治療で用いる。
【0169】
in vivoでは、当分野で一般的または標準の任意の投与様式、たとえば注射、点滴、体表面の内および外などへの局所投与を用い得る。in vivoの使用では、本発明は、体液部位を含めた光感作薬およびsiRNA分子が局在する細胞を含む任意の組織、ならびに固形組織に関して使用することができる。光感作薬が標的細胞によって取り込まれ、光を適切に送達することができる限りは、すべての組織を治療することができる。
【0170】
したがって、本発明の組成物は、製薬分野で知られている技術および手順に従った任意の好都合な様式で、たとえば1つ以上の製薬上許容される担体または賦形剤を用いて製剤にし得る。本明細書中で言及する「製薬上許容される」とは、組成物の他の成分と適合性があり、かつ受容者に生理的に許容される成分をいう。組成物および担体の性質または賦形剤物質、用量などは、好み(choice)および所望の投与経路、治療目的などに応じてルーチン様式で選択し得る。同様に、用量もルーチン様式で決定してよく、用量は分子の性質、治療目的、患者の年齢、投与様式などに依存し得る。光感作薬に関連して、照射時に膜を破壊する効力/能力も考慮に入れるべきである。
【0171】
あるいは、上述の方法を、ハイスループットスクリーニング方法のスクリーニングツールを作製するため、特に特定の遺伝子をサイレンシングする効果を分析するために用い得る。上述のように、1つ以上の特異的遺伝子に対するsiRNAを作製して本発明の方法で使用し得る。したがって、siRNAを、細胞集団中の遺伝子の発現を減少させるために用い得る。その後、得られる細胞集団を、標準技術によって遺伝子サイレンシングの下流効果を同定するためのスクリーニングツールとして用い得る。
【0172】
正常および化学修飾したアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子発現を減少させる以前の試みは、アンチセンスオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ分解、非特異的効果の発生および/または不十分な標的親和性の問題によって制限されてきた。siRNAを投与するために本発明の方法を用いることによって、これらの問題に打ち勝ち得る。
【0173】
したがって、さらなる態様では、本発明は、遺伝子の発現を阻害または減少させることができるsiRNA分子、担体および光感作薬を細胞(たとえば細胞集団)と接触させること、細胞(たとえば細胞集団)に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射することを含む、細胞(たとえば細胞集団)の遺伝子発現パターンを改変して、スクリーニングツール(たとえば高スループットスクリーニング用)として使用するための細胞(または細胞集団)を調製する方法を提供する。本発明は、そのような細胞ならびに、そのような細胞の特異的特性、たとえばそのような細胞のmRNA発現レベルを、たとえばマイクロアレイで検査する、そのような細胞をスクリーニングする方法にさらに拡張する。「改変された遺伝子発現パターン」とは、前記siRNA分子が細胞核中に存在する結果、遺伝子の、それが方向付けられているものへの転写または翻訳に影響が与えられることを意味する。
【0174】
遺伝子の発現のこの変化の結果、他の遺伝子の発現が影響を受け得る。したがって、調査中の遺伝子の正常発現に影響を与えることによって、他の遺伝子の発現パターンの変化を決定することが可能である。そのような遺伝子の同定、および調査中の遺伝子の発現がそれらに与える影響の同定により、調査者が遺伝子の機能、たとえばその下流機能について結論づけることが可能となる。調査中の遺伝子の正常発現の変化によって影響を受ける遺伝子は上方制御または下方制御され得るが、発現パターンの全体的な変化により、正常細胞機能における遺伝子の役割およびその誤制御による結果の指標が与えられる。
【0175】
当分野で周知の標準技術を用いて、懸案の遺伝子の発現の下方制御または排除の効果を研究することが可能である。これは、たとえば細胞接着の変化、タンパク質分泌の変化または形態学的変化などの、細胞(または胞集団)の機能的変化を探すことによって行い得る。あるいは、ここでも当分野で周知の標準技術を用いて、mRNAパターンおよび/またはタンパク質発現を分析することによって、遺伝子発現プロファイルを直接研究することができる。
【0176】
遺伝子の発現を阻害または減少させることとは、本方法に供していない細胞、すなわち野生型または正常な細胞と比較した場合に、懸案の遺伝子の発現が減少することと理解される。遺伝子発現レベルの変化は当分野で知られている標準技術によって決定し得る。
【0177】
遺伝子の検出可能な発現が存在しない、すなわちmRNAもしくはタンパク質が検出不可能であるような発現の完全な阻害があり得、または遺伝子発現の量が野生型もしくは正常な細胞よりも低い、発現の部分的な阻害、すなわち減少があり得る。これは、特定の配列を有するsiRNAの効果を、組み換えた配列、すなわち同じ組成のヌクレオチドであるが異なる配列順序を有するsiRNAの効果と比較することによって、評価および調節することができる。好ましくは、この技術が有用となるためには、発現の減少は、対照レベル未満またはその80%、たとえば対照レベルの<50%、好ましくは<20、10または5%である。使用する細胞(または複数の細胞)は、好ましくは細胞集団であり、その個々の細胞は遺伝的に同一である。細胞は、上述のように任意の細胞であり得る。
【0178】
本発明の方法に従って作製した細胞または細胞集団を用いて、本発明のさらなる態様を形成するライブラリを作製し得る。
以下、本発明を、以下の図面を参照しながら、以下の非限定的な実施例でさらに詳述する。
【実施例】
【0179】
材料および方法
細胞系および培養条件。
HCT−116(結腸直腸腺癌)およびSW620(結腸直腸腺癌)を米国タイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection、米国バージニア州Manassas)から得た。OHS(骨肉腫(osteocarcinoma))およびRMS細胞系はノルウェーラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)で確立されたものである。すべての細胞系は、抗生物質を含まないが10%のウシ胎児血清(FCS;PAA Laboratories、オーストリアLinz)および2mMのL−グルタミン(Bio Whittaker、ベルギーVerviers)を添加したRPMI−1640培地(Bio Whittaker、ベルギーVerviersまたはGibcoBRL、英国Paisley)を用いて培養した。5%のCO2を含む加湿雰囲気中、37℃で細胞を増殖およびインキュベートした。すべての細胞系を試験し、実験前にマイコプラズマ感染に関して陰性であることが見出された。
【0180】
光源および光感作薬。
Lumisource(登録商標)(PCI Biotech AS、ノルウェーOslo)を光源として用いた。Lumisource(登録商標)とは、処理領域の均一な照射を提供し、主にピークが420nmの青色光を発光するように設計された4本の蛍光チューブのバンク(bank)である。光感作薬、ジスルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPS2a)はPorphyrin Products(米国ユタ州Logan)から購入した。最初にTPPS2aを0.1MのNaOHに溶かし、その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.5で5mg/mlの濃度まで希釈し、0.002MのNaOHの最終濃度まで希釈した。光感作薬は光から保護し、使用時まで−20℃で保管した。
【0181】
PCIを用いないsiRNA形質移入。
siRNA送達用の様々な形質移入試薬は、以下を用いて評価した:Life Technologies Inc.のリポフェクチン(商標)試薬(米国メリーランド州Gaithersburg)、Invitrogenのリポフェクタミン(商標)2000(米国カリフォルニア州Carlsbad)、Roche DiagnosticsのFuGene6(ドイツMannheim)、AmbionのsiPORT(商標)Lipid Transfection Agent(米国テキサス州Austin)、Polyplus transfectionのjetSI(商標)およびjetSI(商標)−ENDO(フランスIllkirch)。すべての形質移入試薬は、製造者の仕様書に従って取り扱った。すべての細胞系を「細胞系および培養条件」に記載のように培養し、6ウェルプレート中で24時間、50〜70%のコンフルエンスまで培養した後、24、48または96時間形質移入した。形質移入試薬を用いた組み換えsiRNAに加えて、未処理の対照として形質移入試薬を単独で細胞に適用した。
【0182】
jetSI/jetSI−ENDOで用いたプロトコルは、標準の6ウェルプレートにおいて以下のとおりであった:
・ステップ1:それぞれのウェルについて、4.2(8.4)μlのjetSI/jetSI−ENDO溶液を100μlの培地に希釈する。激しく渦攪拌し(重要:混合にピペットを用いない)、10分間待つ(重要:30分間を超えない)。
・ステップ2:それぞれのウェルについて、1.4μg(100nM)のsiRNA二重鎖を100μlの培地中に希釈する。穏やかに渦攪拌する。
・100μlのjetSI培地溶液を100μlのsiRNA溶液に加え、溶液を直ちに混合する(重要:溶液を逆の順序で混合しない)
・直ちに溶液を10秒間渦攪拌混合する。
・30分間、室温でインキュベーションを行って複合体を形成させる(重要:1時間を超えない)。
・複合体の形成中、増殖培地をプレートから除去し、事前に37℃に温めた0.8mlの新鮮な血清含有培地(および使用する場合は光感作薬)を加える。
・200μlのjetSI/siRNA溶液をそれぞれのウェルに加え、プレートを穏やかに回すことによって混合物を均一にする。
・プレートを必要な細胞培養条件下で18時間インキュベートし、その後、プレートを新鮮な培地で3回洗浄し、2〜4mlの培地で再度インキュベートする。
【0183】
PCIを用いたsiRNA形質移入。
数点の変更以外は、細胞を「PCIを用いないsiRNA形質移入」と同様に培養および形質移入した。光感作薬TPPS2a(0,5μg/ml)を形質移入時に培地に加えた。18時間のインキュベーション後、細胞を新鮮な培地で3回洗浄し、光処理の前に4時間インキュベートした。4時間後、細胞を、細胞系に応じて青色光(7mW/cm2)に様々な時間(60〜90秒間)露光させ、24、48および96時間再度インキュベートした後に回収した。PCI効果を測定するために、エフェクターsiRNA、組み換えsiRNAおよび形質移入試薬単独を、同じプレート中の異なるウェルに、光感作薬を用いてまたは用いずに適用し、同じ処理を与えた。細胞はこれらの実験中アルミニウム箔によって光から保護した。
【0184】
S100A4のリアルタイム逆転写酵素PCR。
GenElute哺乳動物全RNA Miniprepキット(Sigma−Aldrich、ドイツSteinheim)を用いて全細胞RNAを単離し、iScript cDNA合成キット(BioRad、カリフォルニア州Hercules)を逆転写に用いた。どちらのキットも、製造者のマニュアルに従って使用した。すべてのPCRを並行して実行し、SYBRGreen Iを用いることによってリアルタイム検出が得られた。それぞれのPCRについて、10μlのcDNA、30μlのiQ SYBRGreen Supermix(BioRad)、300nMのそれぞれのプライマーおよびヌクレアーゼを含まない水を加えて最終容積60μlとした。その後、それぞれ25μlの試料をPCRプレートに適用した。本方法では、並行が真の並行であり、すべての複製(replicate)について十分なPCRミックスが存在することを保証する。プライマーの設計は、Applied BiosystemsのPrimer Expressソフトウェア(Applied Biosystems、カリフォルニア州Foster City)を用いて達成した。使用したプライマー組(フォワードプライマー5’−AAGTTCAAGCTCAACAAGTCAGAAC−3’およびリバースプライマー5’−CATCTGTCCTTTTCCCCAAGA−3’)によって、S100A4配列のエクソン2および3中の79−塩基対のセグメントが増幅される。
【0185】
リアルタイム反応は、以下の増幅プロトコルにしたがい、iCycler(Bio−Rad)で実行した:95℃で3分間の最初の変性、50サイクルの95℃で10秒間の変性、60℃で35秒間のアニーリング/伸長、95℃で20秒間の1回の保持、続いて55℃で1分間の保持、最後に、最終温度95℃まで、10秒ごとに0.5℃の上昇の80ステップ融解曲線分析(finally a melt curve analysis of 80 steps each for 10s, with 0.5℃ increase until a final temperature of 95℃)。RNA試料の品質は、2つのハウスキーピング遺伝子、TBP(フォワードプライマー5’−GCCCGAAACGCCGAATAT−3およびリバースプライマー5’−CGTGGCTCTCTTATCCTCATGA−3’)ならびにRPLPO(フォワードプライマー5’−CGCTGCTGAACATGCTCAAC−3’およびリバースプライマー5’−TCGAACACCTGCTGGATGAC−3’)の増幅によって確認した。Gene Expression Macro、バージョン1.1(Biorad)を定量的計算に用いた。このプログラムは、同じ試料組に対して様々なプライマー組を用いて得られるサイクル閾値の比較を可能にするΔΔCT方法に基づいて計算を行う。
【0186】
顕微鏡観察研究。
記載(PCIを用いたおよび用いないsiRNA形質移入)のように細胞をsiRNA/jetSI−ENDOの複合体と共にインキュベートし、48時間後に、PCI処理を用いておよび用いずに、FITC(450〜490nmのBP励起フィルター、510nmのFTビームスプリッター、および515〜565nmのLP発光フィルター)、ならびにローダミン(546/12nmのBP励起フィルター、580nmのFTビームスプリッター、および590nmのLP発光フィルター)用のフィルターを備えたZeiss倒立顕微鏡、Axiovert200で分析した。画像(Pictures)は、Carl Zeiss AxioCam HR、バージョン5.05.10およびAxioVision3.1.2.1ソフトウェアを用いることによって構成した。画像(Images)はAdobe Photoshop7.0(Adobe、カリフォルニア州San Jose)およびZeiss LSM Image Browser(バージョン3)を用いて形成した。
【0187】
ウエスタン免疫ブロット。
タンパク質溶解物は、150mMのNaClならびに2g/mlのペプスタチン、アプロチニン(Sigma Chemical Company、モンタナ州St Louis)およびロイペプチン(Roche Diagnostics、ドイツMannheim)を含む0.1%のNP−40を含む50mMのトリス−HCl(pH7.5)中で調製した。それぞれの試料からの全タンパク質溶解物(30μg)を12%のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、製造者のマニュアルに従ってImmobilon−P膜(Millipore、マサチューセッツ州Bedford)上に移した。ローディング対照および移動対照として、膜を0.1%のアミドブラックで染色した。続いて、膜を、0.5MのNaClおよび10%の乾燥乳(ブロッキング溶液)を含む0.25%のTween20(TBST)を含む20mMのトリス−HCl(pH7.5)中でインキュベートした後、5%の乾燥乳を含むTBST中のウサギポリクローナル抗S100A4(1:300に希釈、DAKO、デンマークGlostrup)およびマウスモノクローナル抗α−チューブリン(1:250に希釈、Amersham Life Science、英国Buckinghamshire)と共にインキュベートした。洗浄後、二次抗体(1:5000に希釈、DAKO、デンマークGlostrup)に結合した西洋ワサビペルオキシダーゼおよび増強した化学発光系(Amersham Pharmacia Biotech、英国Buckinghamshire)を用いて免疫反応性タンパク質を可視化した。S100A4タンパク質レベルは対照試料の割合として報告し、α−チューブリンをローディング対照として用いた。
【0188】
[実施例1]OHS細胞系における遺伝子サイレンシング
OHS細胞を、様々な形質移入系を用いてS100A4タンパク質の発現を標的とするように設計して、形質移入した。それぞれの実験において、標準の形質移入プロトコルを製造者の指示に従って用いた。光感作薬を用いた場合は、それはTPPS2aであった(1mlの形質移入容積中に0.5μg、これとは別にjetSIは2mlの形質移入容積を用いた)。それぞれの実験における照射時間は60秒間であった。
【0189】
20μMのsiRNAストック溶液をそれぞれの異なる形質移入試薬と混合し、6ウェルプレート中で最終容積1mlになるように形質移入した(ただし、jetSIおよびjetSI−ENDOの場合は、最終容積は2mlであった)。
siPORT脂質=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて2および4μlを試験した
FuGene6=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2μlおよび8.4μlを試験した
リポフェクタミン2000=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2および7μlを試験した
リポフェクチン=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2および7μlを試験した
jetSI=2000μl中に2.8μgのsiRNAと組み合わせて8.4μl
jetSI−ENDO=2000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2μl。
【0190】
使用したsiRNA分子はS100A4のmRNA配列(GenBank受入番号NM_002961)に対するものであった。配列
5’−UGAGCAAGUUCAAUAAAGA−3’
3’−ACUCGUUCAAGUUAUUUCU−5’
を有する特異的siRNAを、Elbashir他((2001)、Genes Dev.、15、188〜200)に従って設計した。選択した標的遺伝子に対して設計されたsiRNAに加えて、組み換えsiRNA(5’−CGCAUAAGUGAAAUAGAAU−3’、3’−GCGUAUUCACUUUAUCUUA−5’)を作製することによって対照siRNAを設計し、偽ハイブリダイゼーションを排除するためにBLAST検索を行った。二重鎖のGC含有率は30〜70%の範囲内に保ち、siRNA二重鎖の最適な安定性のために、すべてのsiRNA分子はその3’末端にdTdT突出を有するように合成した。siRNA分子はEurogentec(ベルギーSeraing)から注文した。
【0191】
乾燥siRNAオリゴヌクレオチドをDEPC処理した水で100μMまで再懸濁させ、−20℃で保管した。それぞれのRNAオリゴヌクレオチドを別々のアリコートとし、50μMの濃度まで希釈することによって、アニーリングを行った。その後、30μlのそれぞれのRNAオリゴヌクレオチド溶液および15μlの5×アニーリング緩衝液を合わせて、DEPC処理した水中に50mMのトリス、pH7.5、100mMのNaClの最終濃度とした。その後、溶液を3分間、水浴中、95℃でインキュベートし、次いで作業台上で45分間徐々に冷却した。アニーリングの成功は4%のNuSieveアガロースゲル電気泳動によって確認した(データ示さず)。
【0192】
図1から、PCI依存性の遺伝子サイレンシングは、形質移入剤jetSIおよびjetSI−ENDOを用いることで達成できることがわかる。PCIを存在させずにこれらの2つの形質移入剤を用いた場合(すなわち、照射するが光感作薬が存在しない)、遺伝子発現は、ウエスタンブロットを用いたタンパク質レベルの測定に基づいて対照の約75%であるが、追加でPCIを用いた場合、遺伝子発現は対照の約15%まで減少する。
【0193】
対照的に、形質移入剤としてSIPORT脂質またはFuGene6を使用することでは、遺伝子発現有意な減少が何ら達成されず、リポフェクタミン2000およびリポフェクチンを使用した場合は、PCIも用いたかどうかにかかわらず遺伝子発現の阻害が達成された。
【0194】
[実施例2]様々な細胞系における遺伝子サイレンシング
4つの異なる細胞系、HCT116、SW620、OHSおよびRMS細胞を、標準のjetSI−ENDOプロトコルを用いて、光感作薬(0.5μg/mlのTPPS2a)を存在させておよび存在させずに、S100A4の発現をサイレンシングするように設計された(実施例1参照)50nMのsiRNA(jetSI−ENDO=4.2μl、1.4μgのsiRNAと組み合わせた)を用いて形質移入した。細胞を照射に供し、照射の96時間後にウエスタンブロットを行うことによってS100A4タンパク質レベルを決定した(照射条件は、OHS=60秒間、SW620=80秒間、HCT116=90秒間、RMS=70秒間であった)。
【0195】
結果の例を図2Bに示し、結果を図2Aにグラフで表す。それぞれの細胞種において、形質移入した細胞をPCI処理に曝露することにより高レベルの遺伝子サイレンシングが引き起こされ、一方で、S100A4 siRNAを形質移入したがPCI処理に供さなかった細胞では、有意により低い遺伝子サイレンシングが示された。組換えsiRNAは、PCIが存在する場合でも存在しない場合でも、遺伝子発現に対して効果を示さなかったので、この効果は特異的であることが示された。試験した様々な細胞系間で遺伝子サイレンシング効果の有意な差異はなかった。
【0196】
[実施例3]siRNA濃度および時間の効果
S100A4タンパク質の発現をサイレンシングするように設計されたsiRNA分子を、4.2μlのjetSI−ENDOを用いて1〜5nMの濃度でOHS細胞内に形質移入し、上述のようにPCI処理に供した。
【0197】
ウエスタンブロットを用いて細胞溶解液中のタンパク質レベルを測定し、これを図3Aに未処理の対照細胞のタンパク質レベルの割合として示した。
遺伝子サイレンシング効果は、細胞を曝露したsiRNAの濃度に伴って増加したが、4nMおよび5nMのsiRNAで見られたサイレンシング効果には僅かな差異しか存在しなかった。
【0198】
組換えsiRNA分子もすべての実験で使用し、遺伝子発現に影響を与えないことが示された。したがって、遺伝子阻害効果は特異的である。
図2Bは、細胞の照射と分析するための細胞溶解液の回収との間の時間を変更することによる、遺伝子サイレンシングに対する時間の効果を示す。照射後かつ回収前に細胞を長く放置すればするほど、遺伝子発現のより大きな阻害が観察されることがわかる。
【0199】
[実施例4]siRNA PCI処理後のOHS細胞における遺伝子サイレンシング
OHS細胞に上述のように100nMのsiRNAまたは組換えsiRNAを形質移入し、タンパク質およびmRNAのレベルに対するPCI処理の効果を、照射の96時間後にウエスタンブロットおよびRT−PCRによって決定し、未処理の対照におけるタンパク質およびmRNAのレベルと比較した。
【0200】
図4に示す結果は、タンパク質およびmRNAのレベルのどちらに関しても、S100A4遺伝子の大量の遺伝子サイレンシングが、この遺伝子に特異的なsiRNAをjetSI ENDOを用いて形質移入し、細胞をPCI処理に供した場合に観察されることを示している(図3AおよびBのレーン5)。タンパク質およびRNAのレベルの少量の減少がPCI処理を用いずに見られるが(図3AおよびBのレーン2)、これはPCI処理によって著しく増強される。
【0201】
[実施例5]標識したsiRNAのサイトゾル送達
OHS細胞に、jetSI ENDO((jetSI−ENDO=8,4μl、1000μlの形質移入容積中で2,8μgのsiRNAと組み合わせた結果、200nMのsiRNA溶液である)を用いて、光感作薬を用いておよび用いずに、200nMのFITCで標識したsiRNAを形質移入した。その後、形質移入した細胞を照射に供した。
【0202】
位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡を用いて細胞を検査した。画像を比較することによって、PCI処理が存在しない場合、siRNAは点状の分布に留まることが見られ、これは細胞内小胞中の分布に代表的である(図5aおよびc)。また、ある程度の漏れも見られる(図5cの右側のボックス)。対照的に、PCI処理後、標識したsiRNAは細胞質全体にわたっておよび核中に分布していることが見られる(図5b参照)。
【0203】
これにより、siRNAが細胞の必要な区画に送達されるためにはPCI処理が必要であること、また、送達がPCI処理に依存することが実証される。
【0204】
[実施例6]siRNA−PCIを用いた遺伝子サイレンシングは標準の形質移入よりも少ない担体の使用を必要とする。
【0205】
OHS細胞に、jetSIを用いて100nMのsiRNAを形質移入した。上述の実験とは対照的に、jetSIをより低い濃度、すなわち標準プロトコルで推奨された濃度の50%で使用した。6ウェルプレートでの標準プロトコルは、2000μlの培地中に2.8μgのsiRNA+8.4μlのjetSIであり、それぞれのウェルについて100nMのsiRNAということになる。
【0206】
対照的に、6ウェルプレートで、1.4μgのsiRNAを1000μlの培地中に4.2μlのjetSIと混合すると、それぞれのウェルについて100nMのsiRNAということになる。したがって、複合体の全体量が50%減少した。
【0207】
形質移入後、細胞をPCI処理に供したか(この実験での光用量は、0,5μg/mlのTPPS2aを用いて30秒間であった)、または未処理のままとし、RT−PCRを用いて遺伝子サイレンシングを測定した。エフェクターsiRNAはS100A4遺伝子の発現を未処理の対照の20%未満まで減少させることができたが、PCIを用いない場合および組換えsiRNA(PCI処理を用いるかまたは用いない)を用いた場合では僅かな減少しか見られなかった。
【0208】
これにより、担体およびPCIを組み合わせた使用は選択的なsiRNA分子の放出の利点を提供するだけでなく、PCIと組み合わせた場合には、より低い濃度の形質移入剤の使用で高レベルの遺伝子サイレンシングが達成できることが実証される。図6のレーン5および図1のレーン5を比較することにより、実施例1で使用した形質移入剤の50%しか使用しない場合でも、PCIも使用した場合は、遺伝子阻害の度合がはるかに大きいことがわかる。
【0209】
[実施例7]PEIを担体として用いた形質移入
siRNA標的をS100A4のmRNA配列(Gene Bank受入番号NM_002961)に対して選択した。siRNAの481〜499をエフェクターとして用いた(配列は実施例1を参照)。
【0210】
ポリエチレンイミン(PEI)を、PCIに誘発される送達について評価した。細胞系を形質移入前に、6ウェルプレート中で50〜80%のコンフルエンスまで培養した(10%のFBS、10mlのL−グルタミン酸、10mlのHepesを添加したRPMI−1640)。100nMのsiRNAを標準濃度として用いた。
【0211】
使用したPEIはSigmaのものであり、滅菌水で希釈し、1000μlのPEIおよび9000μlの滅菌水を含むストック溶液を作製した。ストック溶液から1および10μlを用いて、細胞に1.4μgのsiRNAを形質移入した(各ウェル100nM)。
【0212】
SigmaのPEIを使用した(408719ポリエチレンイミン(LSによる平均Mw約800まで、GPCによる平均Mn約600まで、分枝状、低分子量、非含水))。
形質移入には、2つの溶液を作製した。溶液Aは、siRNAを100μlの無血清(OPTI−MEM I)培地に希釈した。溶液Bは、PEIを100μlの無血清培地に希釈した。穏やかに混合することによって溶液AおよびBを混合し、室温で30分間インキュベートした。その後、混合溶液を細胞に加えた(1mlの100nM siRNA)。
【0213】
jetSIについて上述したようにPCI処理を行った。PEI実験の光用量は40秒間であった。照射の96時間後にウエスタンブロットによってタンパク質レベルを測定した。
【0214】
図8から、レーン5および6に示す試料、すなわちPEIでの形質移入およびPCI処理に供した試料においてS100A4タンパク質の発現が減少したことが認められる。
【0215】
[実施例8]25kDaのPEI担体を用いたsiRNAの活性に対するPCIの効果
siRNA形質移入。すべての細胞系を「細胞系および培養条件」に記載のように培養し、形質移入前に25〜50%のコンフルエンスで6ウェルプレートにまいた(plated)。siRNAおよび担体を穏やかな混合によって複合体形成させ、細胞に加える前に30分間インキュベートした。細胞を、siRNA、担体、および光感作薬(TPPS2a=0,5μg/ml)を用いてまたは用いずに形質移入し、18時間インキュベートし、その後、新鮮な培地で3回洗浄し、光処理の前に4時間、再度インキュベートした。4時間後、細胞を青色光(7mW/cm2)に、実験に応じて様々な時間(0〜60秒間)露光させ、96時間再度インキュベートした後に回収した。遺伝子サイレンシングの際のPCIの効果を測定するために、特異的siRNA、組み換えsiRNA、および形質移入試薬単独を同じプレート中の異なるウェルに、光感作薬を用いてまたは用いずに適用し、全く同じ処理を与えた。細胞は実験中アルミニウム箔によって光から保護した。
【0216】
分枝状の25kDaのポリエチレンイミン(PEI)(1μg/ml)およびS100A4の遺伝子を標的とする100nMの濃度のsiRNAを使用して、PCI処理を用いておよび用いずに、siRNAに媒介されるS100A4遺伝子サイレンシングをタンパク質レベルで測定した。光用量は30秒間とし、血清含有培地中での複合体形成および形質移入をどちらも伴って、上述のプロトコルに従った。図9Aは、PCIの使用により、S100A4 siRNAは、S100A4レベルを典型的には未処理の対照(siRNAを用いずにPEIで処理)のレベルの5〜15%まで減少させたことを示す。対照的に、PCIを用いないS100A4 siRNAは、S100A4レベルを対照の100〜80%までしか減少させることができなかった。未処理の対照レベルは、組み換えsiRNAをS100A4特異的siRNAの代わりに使用した対照と同等であった(データ示さず)。図9Bでは、実験をウエスタンブロットによって表す。図中に示すように、上部バンドはローディング対照(αチューブリン)を表し、下部バンドはS100A4レベルを表す。ブロットから見ることができるように、有意な遺伝子サイレンシングを検出できなかった、PCIで処理しなかったS100A4 siRNAを受容する細胞の状況と比較して、S100A4は、PCIを使用した場合にはsiRNAで有意にサイレンシングされる。
【0217】
[実施例9]様々な濃度で使用した様々なPEI担体を用いた、siRNAの活性に対するPCIの効果
S100A4 siRNAの活性に対するPCI効果を、様々な分枝状PEI製剤(formulation)を様々な濃度(0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/mlおよび100μg/ml、ウェル1つあたり1mlの培地を使用した)で用いて調査した。試験したPEI種(すべて分枝鎖状)は以下のとおりである:
PEI 分子量(Da)
1 800
2 1200
3 1300
4 1800
5 2000
6 25000
光用量は30秒間とし、血清含有培地中での複合体形成および形質移入をどちらも伴って、材料および方法に記載したプロトコルに従った。siRNAは100nMの濃度で用いた。図10から見ることができるように、PCIの使用は、様々なPEI担体を用いたS100A4 siRNAの遺伝子サイレンシング効果を有意に増強させることができる。この効果は、10μg/mlのPEI4(分子量1800)を除いてはPCIを用いない場合の効果が非常に低いが、より少量のPEI(1および10μg/ml)で特に顕著である。これら2つのPEIの濃度では、PCIにより、PEI1(分子量800)以外の試験したすべてのPEI種の遺伝子サイレンシング効果が顕著に増強された。
【0218】
PCIを用いない場合、PEI濃度の増加に伴って遺伝子サイレンシングの度合が増加し、PCIを用いた場合、この効果はそれほど明白ではない、ただし、0.1μg/mlのPEIでは、(PCIを用いても用いなくても)遺伝子サイレンシングを観察することができない。これの1つの可能な説明は、このPEIの量は、すべてのsiRNAを複合体にするために十分に高くはなく、その結果、細胞によって取り込まれない陰性に帯電した複合体が生じていることである。PCIを用いない場合では、PEI担体の分子量の増加に伴って遺伝子サイレンシングが増加する傾向にあると考えられ、PCIを用いた場合、この効果はそれほど顕著ではなく、ここでもPEI1(分子量800)は例外である。より高い分子量およびより多い量での、PCIを用いない場合のPEIの効果は、恐らく、PEIが高濃度の場合にのみ作用する、PEIについて報告されているエンドソーム溶解特性によるものである。
【0219】
これは、PCIでこの効果を置き換え、低い量および低い分子量のポリエチレンイミンを使用することが可能となることを示しており、これはPEI担体の毒性および他の問題を回避するために非常に有利な特性である。
【0220】
[実施例10]毒性研究
様々なPEI製剤(formulation)(分子量800〜25.000)単独(PCI処理を用いない)の毒性を最初に評価した。このアッセイでは、OHS細胞を96ウェルプレートにまき(plated)、血清含有培地中で一晩接着させた。その後、培地を廃棄し、細胞を培地および様々なPEI製剤(formulation)と共に、様々な濃度下で20時間インキュベートした。その後、PEI含有培地を廃棄し、MTS溶液(Promega、米国ウィスコンシン州Madison)をそれぞれのウェルに加え(1:6に希釈、100μl/ウェル)、プレートをさらに4時間、再度インキュベートした。490nmでの吸光度を測定した。
【0221】
図11Aから観察できるように、PEI製剤(formulation)の分子量の増加(たとえば25000のPEI対800のPEI)およびPEIの量の増加に伴って毒性が増加した。重要なことに、1μg/ml(示さず)および10μg/mlのPEI製剤(formulation)は有意な毒性を示さなかった。これらの試料では、PCIを用いてsiRNAの有意な生物学的効果を達成することができ、一方で、PCIを用いない効果は非常に低かった(実施例9参照)。
【0222】
siRNA/PCI処理を用いたPEIの毒性も評価した。OHS細胞を6ウェルプレートにまき(plated)、血清含有培地中で一晩接着させた。その後、培地を廃棄し、6ウェルプレート中の細胞をPEI単独、組み換えsiRNAおよび特異的siRNAを用いて、光感作薬を用いてまたは用いずに形質移入した。その後、細胞を一晩インキュベートし、続いて洗浄し、「siRNA形質移入」に記載のように青色光で処理した(PCI)。44時間再度インキュベートした後、166.6μlのMTS溶液)をそれぞれのウェルに加え、プレートをさらに4時間、再度インキュベートした。490nmでの吸光度を測定した。図11Bは、1μg/mlのPEI(分子量25000)、100nMのsiRNAおよびPCIを用いた様々な光用量における組合せ処理の毒性を示す。グラフからわかるように、PCI処理は、すべてのPEI遺伝子サイレンシング実験において、強い遺伝子サイレンシング効果がPCIによって誘発された光用量である(図10参照)使用光用量(30秒間)で、有意な毒性を誘発しなかった。40秒間のより高い光用量でもPCI処理の細胞毒性は観察されず、PCIが細胞毒性効果を与えずに完全に増強されたsiRNA送達を誘発できることが示された。
【0223】
[実施例11]β−シクロデキストリンアミンを担体として用いたsiRNA分子のPCIに誘発される送達。
β−シクロデキストリンアミンに媒介されるsiRNA送達に対するPCIの効果を調査した。60秒間の光用量をこれらの実験で用い、材料および方法に記載のプロトコルに従った。n=6およびX=4である上述のβ−シクロデキストリンアミンを滅菌水で希釈し、無血清培地中で複合体形成および形質移入を行った。ウエスタンブロット(図12)から見ることができるように、50nM(0.7μg)のsiRNAと複合体形成した100μg/mlのβ−シクロデキストリンアミン(各ウェルに1mlを使用)が、PCIに誘発されるsiRNA送達に有効であり(レーン3)、一方で、これらの条件下では、PCIを用いない送達は無効であった(レーン6)。本研究で用いたβ−シクロデキストリンアミンは、siRNAとの結合に関与するアミン橋によって複合化したβ−シクロデキストリン分子からなり、Hwang S.J.他(2001、Bioconjugate Chem.、12、280〜290)に記載されている。
【0224】
[実施例12]エチレンジアミン核を有するポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマー(世代2〜7)を用いたsiRNA分子のPCIに誘発される送達
ポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマーを、PCIに誘発されるsiRNA送達について評価した。PAMAMを滅菌水で希釈し、血清含有培地中で形質移入を行った。100μg/mlの様々な種類のPAMAMデンドリマー(世代2〜7)(各ウェルに1mlを使用)を100nM(1.4μg)のsiRNAと複合体形成させ、上述の手順に従って形質移入を実施した。30秒間の光用量をこれらの実験で用いた。ウエスタンブロット(図13A)からわかるように、siRNA/PAMAMが単独では遺伝子サイレンシングに無効であった条件下で(レーン4および5)、PCIはsiRNAの活性を強力に増強することができた(レーン1および2)。図13Bからわかるように、この効果はいくつかの他の種類のPAMAMデンドリマーでもみられ、これは、PCIがポリアミン系のデンドリマーによってsiRNA送達を全般的に増強することができることを示している。
【0225】
本研究で用いた、異なる量の表面アミン基を含む様々な種類のPAMAMは、以下のとおりである:
G2 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=2); デンドリPAMAM(NH2)16
G3 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=3); デンドリPAMAM(NH2)32
G4 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=4); デンドリPAMAM(NH2)64
G5 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=5); デンドリPAMAM(NH2)128
G6 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=6); デンドリPAMAM(NH2)256
G7 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=7); デンドリPAMAM(NH2)512
【0226】
【表2】
【0227】
[実施例13]塩酸ポリ−L−アルギニンを担体として用いたsiRNAのPCIに誘発される送達
ポリアルギニンを滅菌水で希釈し、無血清培地中で形質移入を行った。2種類のポリアルギニン担体(分子量15000〜70000および>70000)を試験した。0.35または0.7μg/mlのポリアルギニン(各ウェルに1mlを使用)を100nM(1.4μg)のsiRNAと複合体形成させ、上述のプロトコルに従って、30秒間の光用量を与えた後にS1004Aの発現をウエスタンブロットによって評価した。図15からわかるように、PCIで処理したおよび処理していない試料間で遺伝子サイレンシングの有効性に有意な差異が存在する。このように、PCIで処理したすべての試料(図15のR+試料)は有意な遺伝子サイレンシングを示す一方で、PCIで処理しない対応する試料(図15のR−試料)ではサイレンシング効果が観察されない。したがって、PCIは、試験した異なるポリアルギニン担体のどちらでも、また使用したどちらの濃度でも、遺伝子サイレンシングの誘発に有効であり、これは、PCIが陽イオン性ペプチド系の担体によってsiRNA送達を有意に増強することができることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】様々な形質移入試薬を用いてOHS細胞系を使用した遺伝子サイレンシング実験の結果を示す図であり、siRNA9を用いたPCI処理あり(黒いバー)およびなし(白いバー)を示す。グラフは、左から右に、1)siPORT脂質、2)FuGene6、3)リポフェクタミン2000、4)リポフェクチン、5)jetSIおよび6)jetSI−ENDOのS100A4タンパク質レベルを示す。結果は未処理の対照細胞の%として表す。バーは3回の個別実験の平均である。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。
【図2】様々な種類の細胞を、PCI処理を用いておよび用いずに、jetSI−ENDOを使用してsiRNAを形質移入した遺伝子サイレンシング実験の結果を示す図である。(A)の結果は、siRNAで処理した際の4つの細胞系におけるS100A4タンパク質レベルを示す。灰色のバーはPCIを用いた組み換え対照siRNAを示し、黒いバーはPCIを用いないエフェクターsiRNAを示し、白いバーはPCIを用いたエフェクターsiRNAを示す。細胞系は、左から右に、HCT−116、SW620、OHSおよびRMSである。バーは3回の個別実験の平均である。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。(B)の結果は、上から下に様々な細胞系、すなわちHCT−116、SW620、OHSおよびRMSを示すウエスタンブロットを示す。上部パネルはα−チューブリンのローディング対照を示し、下部パネルはS100A4レベルを示す。下部パネルのそれぞれにおいて、レーン1〜3は、PCI処理を用いない、未処理の対照(C)、組み換え対照(siRNA11)、およびエフェクター(siRNA9)のタンパク質レベルを示す。レーン4〜6は、PCI処理を用いた、未処理の対照(C)、スクランブル対照(siRNA11)、およびエフェクター(siRNA9)のタンパク質レベルを示す。
【図3】OHS細胞における遺伝子サイレンシング実験の結果を示す図であり、a)照射の96時間後の用量依存性サイレンシング(1〜5nMのsiRNA)、b)siRNA9を用いた時間依存性サイレンシング(24、48および96時間)を示す。結果は未処理の対照細胞の%として表した。バーは3回の個別実験の平均である。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。
【図4】PCI処理を用いておよび用いずにjetSIで形質移入したsiRNAを用いた遺伝子サイレンシングの、照射の96時間後の結果を示す図である。結果は、OHS細胞系を100nMのsiRNAで以下に示すように処理した後のS100A4タンパク質レベル(A)およびRNAレベル(B)を示す。黒いバーはPCIを用いない試料を表し、白いバーはPCIに供した試料を表す。PCI処理を用いない未処理の対照を、すべての試料の対照として用いた(示さず)。試料1および4)組み換え対照(siRNA11)、2および5)エフェクター(siRNA9)、3)未処理の対照。バーは3回の個別実験の平均を表す。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。
【図5】PCI処理を用いておよび用いずに、jetSI−ENDOを用いた形質移入(200nM)後の、OHSにおける蛍光標識したsiRNAの分布を示す図であり、a)PCI処理を用いないsiRNAの送達であり、左から右に位相差、蛍光および対応するマージ(merge)を示す。b)PCI処理を用いたsiRNAの送達であり、左から右に位相差、蛍光および対応するマージ(merge)を示す。c)PCI処理を用いない蛍光写真であり、左から右に、蛍光封入したエンドソーム(左側のボックス)、エンドソームからの蛍光漏れ(右側のボックス)、左側のボックス内の画像の拡大、および右側のボックスの画像の拡大を示す。
【図6】OHSを100nMのsiRNAおよび標準プロトコルと比較して推奨レベルの50%のjetSIで処理した後の、jetSIを用いた遺伝子サイレンシングの結果を示す図である。バーは、1)PCIを用いない組み換え対照siRNA、2)PCIを用いないエフェクターsiRNA、3)PCIを用いた未処理の対照、4)PCIを用いた組み換え対照siRNA、5)PCIを用いたエフェクター対照siRNAを表す。バーは3回の個別実験の平均を表す。
【図7】好ましいリポポリアミンの構造を示す図である(Ahmed他、上記およびBehr他(1989)PNAS、86、6982〜6も参照)。
【図8】PEIを担体として用いた遺伝子サイレンシングの結果を示す図である。ウエスタンブロットは、上部パネルにローディング対照(α−チューブリン)を示し、下部パネルにS100A4タンパク質レベルを示す。レーン1=未処理の対照(PEIなし)、2=1μlのPEI+エフェクターsiRNA、3=10μlのPEI+エフェクターsiRNA、4=未処理の対照(PEIなし)、5=1μlのPEI+エフェクターsiRNA、6=10μlのPEI+エフェクターsiRNA。レーン1〜3はPCIを用いず、レーン4〜6はPCIを用いたものである。
【図9】25kDaのPEIを担体として用いた遺伝子サイレンシングの結果を示す図である。使用した試料は図中に示した。A.S100A4タンパク質レベルはウエスタンブロットの走査によって定量した(PCIを用いてまたは用いない、S100A4 siRNAを使用、3回の個別実験の平均、誤差バーはSEMを表す)。B.ウエスタンブロットの例を示す。
【図10】様々なPEI担体を様々な濃度で使用した際の、siRNAの活性に対するPCIの効果を示す図である。S100A4タンパク質レベルはウエスタンブロットの走査によって定量した。黒いバーはPCIを用いない形質移入を表し、白いバーはPCIを用いた形質移入を表す。結果は3回の個別実験の平均である。
【図11】PEI単独、ならびにPCIおよびsiRNAと組み合わせた場合のPEIの毒性を決定するための実験の結果を示す図である。PEIの量およびPCI実験で使用した光用量を示した。A.PCIを用いないPEIの毒性。試験した様々な(分枝)PEI担体の分子量を示した(5回の個別実験の平均)。B.様々な光用量におけるPCI、PEI(1μg)およびsiRNAの組合せの毒性。試験した試料および使用した光用量を示す。対照−=未処理の対照(PEIを用いるがPCIを用いない)、組み換え−=組換えsiRNA対照(PEIを用いるがPCIを用いない)、siRNA−=S100A4 siRNA(PEIを用いるがPCIを用いない)。対照+、組み換え+、およびsiRNA+は、対照−、組み換え−、およびsiRNA−と同じであるが、PCIを用いる(5回の個別実験の平均)。
【図12】β−シクロデキストリンアミンを担体として用いた、siRNA分子のPCIに誘発される送達を示す図である。レーン1および4=siRNAなしの対照、レーン2および5=対照組換えsiRNA、レーン3および6=S100A4 siRNA。チューブリン対照のバンドおよびS100A4のバンドは示したとおりである。
【図13】エチレンジアミン核を有するポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマー(世代2〜7)を用いた、siRNA分子のPCIに誘発される送達を示す図である。(A)上部バンドがローディング対照(αチューブリン)を表し、下部バンドがS100A4レベルを表すウエスタンブロットである。異なるレーン中の試料は、1.PCIを用いたPAMAM世代6。2.PCIを用いたPAMAM世代7。3.PCIを用いた対照。4.PCIを用いないPAMAM世代6。5.PCIを用いないPAMAM世代7。6.PCIを用いない対照である。(B).ウエスタンブロットの走査によって定量したS100A4タンパク質レベル。黒いバーはPCIを用いない形質移入を表し、白いバーはPCIを用いた形質移入を表す。結果は3回の個別実験の平均である。使用したPAMAMの様々な形態を図中に示す。
【図14】世代0、世代1および世代2のPAMAMデンドリマーの構造式を示す図である。
【図15】ポリアルギニンに媒介されるsiRNA送達に対するPCIの効果を示す図である。S100A4タンパク質のレベルはウエスタンブロットによって分析した。上部レーンはローディング対照(αチューブリン)を表し、下部レーンはS100A4レベルを表す。ゲル上の試料は以下のとおりである:C+=PCIを用いた対照、S+=PCIを用いた対照組換えsiRNA、R+=PCIを用いたS100A4 siRNA、C=PCIを用いない対照、S=PCIを用いない対照組換えsiRNA、R=PCIを用いないS100A4 siRNA。1=ポリアルギニン、分子量15,000〜70,000、0.35μg、2=ポリアルギニン、分子量15,000〜70,000、0.7μg、3=ポリアルギニン、分子量>70.000、0.35μg、4=ポリアルギニン、分子量>70,000、0.7μg。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光感作薬および担体分子と光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光での細胞の照射とを用いて、低分子干渉RNA(siRNA)を細胞内、好ましくは細胞のサイトゾル内に導入する方法、ならびに遺伝子活性、たとえばin vitroまたはin vivoの遺伝子サイレンシングを変更するための本方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉のプロセスは多くの生物中で起こり、このプロセスでは、二本鎖の非コードRNAが、配列特異的な転写後の様式で、遺伝子発現のサイレンシングを行う。自然において、この現象は、生物のゲノムをトランスポゾン、導入遺伝子およびウイルス遺伝子などの外来の侵入核酸から保護する。
【0003】
細胞内への二本鎖RNA(dsRNA)の導入がこのRNAサイレンシングのプロセスを始動し、導入したdsRNAに配列が対応する細胞内のすべてのmRNAが分解される。RNAサイレンシング経路は、dsRNAを、リボヌクレアーゼを相同的mRNA標的へと導く低分子干渉RNA(siRNA)へと変換することを含む。酵素ダイサーは、dsRNAを、一般に長さが20〜25個のヌクレオチドであるsiRNAへと処理する。その後、siRNAはRNA誘発性サイレンシング複合体(RISC)として知られるエンドリボヌクレアーゼ含有複合体へと会合し、これは相補的RNA分子へと導かれ、ここでこれらは標的mRNAを切断および破壊する。RNAサイレンシングの成分が増幅することにより、少量のdsRNAが大量の標的mRNAのサイレンシングを行うことができる(HannonおよびRossi(2004)、Nature、431、371〜378に掲載)。
【0004】
siRNA分子がこの経路の主要な構成要素であるという知識により、標的のRNAまたはDNA配列に対応する、化学合成した長さが約20〜22塩基対のsiRNA分子の試験がもたらされた。これらの分子は、哺乳動物細胞中で標的配列の発現を乱すように作用することが示された(Elbashir S.M.他、(2001)Nature、411、494〜498)。20個のヌクレオチドのsiRNAが、通常、遺伝子特異的なサイレンシングを誘発させるために十分長いが、宿主応答を回避するために十分短い長さである。標的遺伝子産物の発現の低下は大規模である可能性があり、数分子のsiRNAによって90%のサイレンシングが誘発される。
【0005】
したがって、siRNA技術が配列特異的遺伝子サイレンシングの一般的技術として開発された。遺伝子サイレンシングには、研究ツールおよび治療的戦略のどちらとしても、in vitroおよびin vivoのどちらにおいても多くの用途が存在する。siRNA技術を使用した際に見られる高い効力および特異性が、この技術を特に魅力的にしている。
【0006】
遺伝子サイレンシングが起こるためには、siRNA分子が、有用となるために十分な濃度で細胞に入ることが必要であるので、すべての場合において、siRNA分子を細胞へ送達することは大きな課題となっている。サイレンシング応答の強度およびその持続期間は細胞に送達されるsiRNAの量によって影響を受け、siRNAを十分に高い濃度で供給することによって、比較的弱いsiRNA分子もその標的をサイレンシングできることが示されている。しかし、このことを、大量のsiRNAを細胞内に投与することは、「的外れ」効果(すなわち、タンパク質発現レベルの所望しない変化)または自然免疫経路の活性化などの望ましくない効果をもたらす可能性があることが知られているという事実に対してバランスを取るべきである。
【0007】
一般に、siRNAは、リポソーム、陽イオン性脂質、陰イオン性脂質、および微量注入を用いることなどの、核酸の標準の形質移入プロトコルを用いることによって細胞に適用している。siRNAは二本鎖分子であり、したがって、分子の送達および細胞取り込みは、細胞に取り込ませる血清タンパク質と結合するアンチセンスよりも困難である。様々な異なる戦略が用いられており、市販のキットがこの目的のために存在する。上述のように、遺伝子サイレンシングの効力は細胞中のsiRNAの濃度に少なくとも部分的に依存するので、効率的な形質移入が極めて望ましいが、高濃度で細胞に投与することは、望ましくない副作用も引き起こし得る。
【0008】
また、高レベルでの投与は、多くの場合、高濃度の形質移入試薬も必要とし、これは、細胞生存度の低下および様々な他の副作用を含めて、細胞に対して表現型および非表現型のどちらの有害作用も与える場合がある。さらに、高濃度の試薬を用いた場合、特異的送達が達成されない。
【0009】
また、siRNAなどの核酸分子の標的送達は、一般に、十分に信頼性のあるものではない。この目的のためにウイルスを使用することができるが、この手法には安全性に対する懸念があり、全身性ウイルス送達は達成が困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
siRNAは細胞のサイトゾル中で作用し、分子が作用するためには、それがサイトゾルに達する必要がある。上記検討事項に鑑みて、siRNAを細胞のサイトゾルに送達する改善された方法を開発することが望ましいであろう。そのような改善された方法の望ましい特性には、i)siRNA分子をその作用部位へと時間および部位に特異的な送達を行う能力、ii)高濃度の形質移入試薬および/もしくはsiRNAの使用の回避、ならびに/またはiii)細胞系におけるsiRNAサイレンシングの増強が含まれる。具体的には、そのような方法により、特定のレベルの遺伝子サイレンシングを達成するために必要なsiRNA:脂質の複合体の全体数が低下するか、またはそれが改善される。そのような方法では、特定の量の遺伝子サイレンシングを維持するか、またはそれを改善させながら、siRNA:形質移入試薬の比を変更し得る。siRNA:脂質の比を増加することは、高濃度の形質移入試薬を使用した場合に観察される阻害剤の効果を最小限にするので、有用である。
【0011】
あるいは、改善された方法の全体的な目的は、siRNAを有効かつ調節可能にサイトゾルへ送達する必要性と、たとえば特定の細胞種における、高濃度の形質移入試薬または非特異的な効果のどちらかによって引き起こされる有害な副作用の軽減とのバランスを取る要望として述べることができる。上述のように、siRNA:脂質の複合体の全体数の低下および/またはsiRNA:脂質の比の増加がこの目的に寄与するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的を達成するために、本発明者らは、担体(形質移入試薬)の使用を光化学的内部移行(PCI)の技術と組み合わせた。選択した特定の担体は、siRNA分子を細胞の細胞内区画、たとえば細胞のエンドソームおよび/またはリソソームなどのエンドサイトーシス小胞へと送達する。siRNA:脂質の複合体を取り込ませ得る別の細胞内区画には、ゴルジ体および小胞体が含まれる。
【0013】
細胞内小胞からのsiRNA分子の放出がPCI技術の結果として起こる。これは、細胞を光感作化合物に曝露させ、続いて照射を行うことに依存し、siRNA分子の放出は細胞の照射後にのみ起こることが認められ、したがって、その効果が媒介されるサイトゾル内へのこの放出は、空間的または時間的な様式で調節することができる。i)その細胞内小胞内にsiRNAを含み、ii)光化学的内部移行剤に曝露され、iii)照射に曝露された細胞のみが、siRNA分子を細胞のサイトゾル内に放出して、それがその細胞内のmRNAに作用する。
【0014】
一般に、サイトゾルへのsiRNAの送達を最適化するために、形質移入試薬を高濃度で使用する必要がある。本発明者らは、驚くべきことに、低濃度の形質移入試薬(および光化学的内部移行剤)を用いることによって、形質移入ステップを使用してsiRNAをエンドソームなどの細胞内小胞へと導くことができることを観察し、その放出が照射の適用によって始動されるまで、siRNAはそれに含まれる。したがって、本方法は、高濃度の形質移入試薬またはsiRNAを使用することを必要とせずに、siRNAがその作用部位に到達することを可能にする。さらに、PCI技術を用いることによってエンドソームなどの細胞内小胞からのsiRNA分子の放出のタイミングおよび位置を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
したがって、第1の態様では、本発明は、siRNA分子を細胞のサイトゾル内に導入する方法であって、前記細胞をsiRNA分子、担体および光感作薬と接触させるステップと、細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射するステップを含む方法を提供する。活性化された後、前記光感作薬を含む前記細胞内の細胞内区画が、これらの区画に含まれるsiRNAをサイトゾル内へと放出する。
【0016】
PCIとは、光感作薬を、その光感作薬を活性化させるための照射ステップと組み合わせて用い、細胞と共に細胞のサイトゾル内へと同時投与した分子の放出を達成する技術である。この技術により、細胞によってエンドソームなどのオルガネラ内へと取り込まれる分子が、照射後に、これらのオルガネラからサイトゾル内へと放出されることを可能にする。
【0017】
光化学的内部移行(PCI)の基本的な方法は、本明細書中に参考として組み込まれている国際公開第96/07432号パンフレットおよび国際公開第00/54802号パンフレットに記載されている。上述のように、内部移行させる分子を(本発明に従った使用ではsiRNA分子である)、この場合では担体分子および光感作薬と共に、細胞と接触させる。光感作薬、担体分子および内部移行させる分子が、細胞内の、細胞膜に結合した小区画内に取り込まれる。細胞を適切な波長の光に露光させた際、光感作薬が活性化され、これにより、細胞内区画膜を破壊する反応性種が直接または間接的に生じる。これにより、内部移行した分子がサイトゾル内へと放出されることが可能となる。
【0018】
これらの方法では、過剰の毒性種の産生を回避するために、たとえば照射時間または光感作薬の用量を減少することによって方法を適切に調整した場合に、広範囲の細胞破壊または細胞死をもたらさない様式で、光化学効果を、そうでなければ膜不透過性(または透過不良)の分子を細胞のサイトゾル内に導入する機構として用いる。
【0019】
本方法は、有効な遺伝子阻害を達成する一方で、慣用のsiRNA形質移入で必要なよりも低い濃度で担体もしくは形質移入試薬および/またはsiRNAを使用することが可能となるので、siRNAを細胞内に導入することに特に有利である。さらに、必要な効果を達成するために望ましい時間および位置でのみ放出されるように、siRNA分子を放出させる照射のタイミングおよび位置を調節し得る。したがって、細胞のsiRNAおよび担体への曝露が最小限となり、望ましくない副作用が最小限となる。これは、siRNAの放出のタイミングおよび位置を調節することが不可能であり、高濃度の形質移入試薬が必要なsiRNAを細胞内に導入するための標準技術と対照的である。担体の量を、使用が提唱される量と比較して減らす(siRNA:担体の比を変更する)ことによって、または細胞に適用するsiRNA:担体の複合体の全体数を減らすことによって、PCI照射の前にsiRNAが細胞内区画から漏れることを最小限にすることも可能であり得る。
【0020】
siRNAを送達するために本明細書中に定義した担体をPCIと共に使用することによって、やはり細胞毒性を引き起こさずに強力な遺伝子サイレンシング効果を達成できることが、さらに示されている。たとえば、PEI(分子量25000)を1μg/mlで、100nMのsiRNAと共に、40秒間までの光用量で用いることで、細胞毒性効果は観察されなかった(図11B参照)。これらの条件下では、強力な遺伝子サイレンシング効果が観察された(図10参照)。
【0021】
RNAとは、それぞれがリン酸基および窒素塩基と会合した糖リボースを含むリボヌクレオチドのポリマーである(典型的には、アデニン、グアニン、シトシン、またはウラシル)。DNAの場合と同様、RNAは相補的水素結合を形成することができ、RNAは、二本鎖(dsRNA)、一本鎖(ssRNA)または一本鎖オーバーハングを有する二本鎖であり得る。「低分子干渉RNA」(siRNA)とは、mRNA分子と結合することによってタンパク質の発現を特異的に干渉する、約10〜約30個のヌクレオチドの長さの二本鎖RNA分子をいう。好ましくは、siRNA分子は、12〜28個のヌクレオチドの長さ、より好ましくは15〜25個のヌクレオチドの長さ、さらにより好ましくは19〜23個のヌクレオチドの長さ、最も好ましくは21〜23個のヌクレオチドの長さである。したがって、好ましいsiRNA分子の長さは、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28または29個のヌクレオチドである。
【0022】
1本の鎖の長さによりsiRNA分子の長さが指定される。たとえば、21個のリボヌクレオチドの長さ(21量体)と記載されたsiRNAは、19個の連続的な塩基対にわたって一緒にアニーリングするRNAの2本の互いに逆の鎖を含むことができる。それぞれの鎖上の残りの2個のリボヌクレオチドはオーバーハングを形成する。siRNAが異なる長さの2本の鎖を含む場合、鎖のうちの長い方によりsiRNAの長さが指定される。たとえば、21個のヌクレオチドの長さの1本の鎖および20個のヌクレオチドの長さの第2の鎖を含むdsRNAは、21量体を構成する。
【0023】
オーバーハングを含むsiRNAが望ましい。オーバーハングは鎖の5’または3’末端に存在し得る。好ましくは、これはRNA鎖の3’末端に存在する。オーバーハングの長さは異なり得るが、好ましくは約1〜約5個のヌクレオチドであり、より好ましくは約2個のヌクレオチドの長さである。好ましくは、本発明のsiRNAは約2〜4個のヌクレオチドの3’オーバーハングを含む。より好ましくは、3’オーバーハングは2個のリボヌクレオチドの長さである。さらにより好ましくは、3’オーバーハングを含む2個のリボヌクレオチドは、ウラシル(U)塩基を保有する。
【0024】
siRNAは標的リボヌクレオチド配列と相互作用するように設計されており、言い換えれば、これらは、標的配列と結合するように標的配列と相補的である、すなわち、siRNAのうちの1本が標的配列の領域と相補的である。
【0025】
その半減期を増加させるために修飾された主鎖を有するsiRNA分子も作製されている(たとえば、Chiu他、(2003)、RNA.、9(9)、1034〜48およびCzauderna他、(2003)、Nucleic Acids Research、31、2705〜2716に記載のように)。したがって、用語「siRNA」には、そのような修飾された分子も含まれる。したがって、siRNAへの言及は、同じ機能、すなわち標的mRNA配列との相互作用を示すsiRNAの誘導体または変異体を包含する。好ましい変異体には、修飾された主鎖が使用されている(上記)または1つもしくは複数の天然に存在しない塩基が使用されているものが含まれる。
【0026】
本方法は、複数種のsiRNA分子を細胞内に導入するために使用し得る。言い換えれば、異なる配列を有するsiRNA分子を細胞内に同時に導入することができる。複数のsiRNA分子を導入する場合は、これは、複数のsiRNA分子を担体と同時に会合させることによって達成することができる。あるいは、それぞれのsiRNA分子の種類を別々に担体と会合させることができる。
【0027】
化学合成、in vitro転写、siRNA発現ベクター、およびPCR発現カセットなど、siRNAを調製する方法がいくつか存在する。そのような技術は当該分野で周知である。たとえば、Pon他、(2005)Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids.、24(5〜7):777〜81、Du他、(2006)、Biochem.Biophys.Res.Commun.、345(1):99〜105およびKatoh他、(2003)、Nucleic Acids Res Suppl.(3):249〜50を参照されたい。
【0028】
同様に、所望の結果を達成するためにsiRNA分子を設計する方法も十分に文書化されている。最初にsiRNA標的部位を選択しなければならない。これは、様々な技術を用いて実施することができる(たとえば、Jagla他、(2005)、RNA.、11(6):864〜72およびTakasaki他、(2006)、Comput.Biol.Chem.、30(3):169〜78参照)。
【0029】
本発明の方法では、サイトゾル内へのsiRNA分子の転位置を達成する。しかし、細胞と接触するそれぞれかつすべての分子の取り込みは達成不可能であることを理解されたい。しかし、PCIまたは担体を使用しないバックグラウンドレベルと比較して顕著かつ改善した取り込みが達成可能である。
【0030】
好ましくは、本発明の方法は、その効果がそれらの細胞の発現産物で明白なほど十分なレベルでのsiRNA分子の取り込みを可能にする。この目的を達成するため、たとえば、細胞と共にたとえば24、48、72または96時間(たとえば24〜48時間)インキュベートした後に、少なくとも10%の標的遺伝子の発現の減少、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%の減少(たとえば標的遺伝子によってコードされている1つまたは複数のタンパク質の発現の減少)を達成するために、細胞と接触させるsiRNAの適切な濃度を調整し得る。同様に、上述の減少を達成するために、担体の種類および/または濃度、光感作薬の種類および/または濃度ならびに照射時間を調整することができる。
【0031】
これは、ウエスタンブロッティングなどの当該分野で知られている標準技術を用いて細胞中のタンパク質レベルを決定することによって測定することができる。タンパク質減少レベルはタンパク質の半減期に依存する、すなわち、既存のタンパク質がその半減期に従って除去される。したがって、半減期が考慮されるようにsiRNAを用いない、同じ時点での発現に対して、発現の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80または90%の減少が達成される。
【0032】
あるいは、これは、細胞中に存在するmRNAの量に対するsiRNA分子の効果の観点から測定することができ、たとえば、siRNAを用いない同じ時点での標的配列のmRNAレベルに対して、細胞と共にたとえば24、48、72または96時間、たとえば24〜48時間)インキュベートした後に、mRNAレベルの少なくとも10%の減少、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%の減少を達するために、この方法を実施することができる。これは、ハイブリダイゼーションまたはブロッティング技術およびRT−PCRなどの当該分野で知られている標準技術を用いて測定することもできる。
【0033】
本方法は、siRNA分子を形質移入する標準方法よりも有意に少ない担体または形質移入剤(および/あるいは、複合体の全体数を減少させるのか、またはsiRNA:担体もしくは形質移入剤の比を変更するのか、または両方なのかに応じて、より少ないsiRNA)しか使用を必要としないので、タンパク質の発現またはmRNAレベルの特定の減少量を達成するために必要な担体または形質移入剤の量に関して、本発明の方法を用いて形質移入の改善を表すことも可能である。たとえば、本発明の方法は、好ましくは、たとえば、PCIを用いずに、標的タンパク質の発現またはmRNAレベルの同レベルの減少を達成するために必要な担体の量よりも少なくとも10、20、30、40、50または60%低い担体濃度および/またはsiRNA濃度を用いて、標的タンパク質の発現またはmRNAレベルの特定の減少(たとえば上述のように少なくとも10%、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%)を可能とする。
【0034】
また、PCIを存在させる場合および存在させない場合の、特定のsiRNAおよび担体の濃度で見られる、タンパク質の発現またはmRNAレベルの減少のレベル間で比較を行うこともできる。たとえば、本発明の方法は、好ましくは、PCI技術の照射ステップを存在させずに本方法を実施することによって達成されるタンパク質の発現またはmRNAレベルと比較して、上述のように少なくとも10%、たとえば少なくとも20、30、40、50、60、70、80または90%の標的タンパク質の発現またはmRNAレベルの減少を可能とする。
【0035】
本明細書中で使用する用語「細胞」には、すべての真核細胞(昆虫細胞および真菌細胞を含む)が含まれる。したがって、代表的な「細胞」には、あらゆる種類の哺乳動物および非哺乳動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞ならびに原虫が含まれる。しかし、好ましくは、細胞は哺乳動物、たとえばネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモットからの細胞であり、最も好ましくはヒトからの細胞である。
【0036】
本明細書中で使用する「接触させる」とは、細胞内への内部移行に適した条件下、たとえば、好ましくは37℃、適切な栄養培地中、たとえば25〜39℃で、細胞と光感作薬および/またはsiRNAならびに担体とを互いに物理接触させることをいう。
【0037】
光感作薬とは、適切な波長および強度での照射で活性化されて活性種を生じる薬剤である。好都合には、そのような薬剤は、特にエンドソームまたはリソソームなどの細胞内区画に局在化するものであり得る。様々なそのような光感作薬が当該分野で知られており、本明細書中に参考として組み込まれている国際公開第96/07432号パンフレットを含めた文献に記載されている。培養中の細胞のエンドソームおよびリソソームの位置を見つけることが示されているジ−およびテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニン(たとえばAlPcS2a)、スルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPSn)、ナイルブルー、クロリンe6誘導体、ウロポルフィリンI、フィロエリスリン、ヘマトポルフィリンおよびメチレンブルーに関して言及されている可能性がある。これは、ほとんどの場合、光感作薬のエンドサイトーシスの取り込みによるものである。したがって、光感作薬とは、好ましくは、細胞の内部区画、たとえばリソソームおよび/またはエンドソーム内に取り込まれる薬剤である。本発明で使用するためのさらなる適切な光感作薬は、やはり本明細書中に参考として組み込まれている国際公開第03/020309号パンフレットに記載されており、具体的には、スルホン化メソ−テトラフェニルクロリン、好ましくはTPCS2aである。
【0038】
しかし、他の細胞内区画、たとえば小胞体またはゴルジ体の位置を見つける他の光感作薬も用い得る。また、光化学的処理の効果が細胞の他の構成要素(すなわち、膜に限定された、すなわち膜に取り囲まれる区画以外の構成要素)に対するものである機構も作用していることが考えられる。したがって、たとえば、1つの可能性は、光化学的処理が細胞内輸送または小胞融合に重要な分子を破壊することであり得る。そのような分子は、必ずしも膜に限定された区画に位置していない可能性があり、それでも、そのような分子の光化学的損傷は、たとえば、そのような分子に対する光化学的効果により内部移行させる分子(すなわちsiRNA分子)の、リソソームなどの分解性小胞への輸送の減少がもたらされる機構によって、担体:siRNAの複合体の光化学的内部移行をもたらし得る。これにより、内部移行させる分子は分解される前にサイトゾルへと逃げることができる。
【0039】
必ずしも膜に限定された区画に位置しない分子の例は、ダイニンおよびダイナクチンの構成要素などの微小管輸送系のいくつかの分子;ならびにたとえばrab5、rab7、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、可溶性NSF付着タンパク質(SNAP)等である。
【0040】
したがって、言及し得る適切な光感作薬のクラスには、ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン(特に以下に記載のプロフィリンのクロリン誘導体)、ベンゾポルフィリン、リソソーム向性(lysomotropic)弱塩基、ナフタロシアニン、陽イオン性色素およびテトラサイクリンまたはその誘導体が含まれる(Berg他、(1997)、J.Photochemistry and Photobiology、65、403〜409)。他の適切な光感作薬には、テキサフィリン、フェオホルビド、ポルフィセン、バクテリオクロリン、ケトクロリン、ヘマトポルフィリン誘導体、およびその誘導体、5−アミノレブリン酸によって誘発される内在性光感作薬およびその誘導体、光感作薬間の二量体または他のコンジュゲートが含まれる。
【0041】
好ましい光感作薬には、TPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2aおよび他の両親媒性光感作薬が含まれる。他の適切な光感作薬には、化合物5−アミノレブリン酸もしくは5−アミノレブリン酸のエステルまたは製薬上許容されるその塩が含まれる。
【0042】
光感作薬を活性化させるための細胞の「照射」とは、本明細書中以下に記載するように、光を直接または間接的に施すことをいう。したがって、細胞に光源を、たとえば、直接(たとえばin vitroで単一細胞に)、または間接的に、たとえば細胞が皮膚の表面下にある場合、もしくはすべてが直接照射されない、すなわち他の細胞によって覆われていない細胞層の形態である場合はin vivoで、照射し得る。
【0043】
本方法では、細胞内に導入するsiRNA分子は、光感作薬またはsiRNA分子の細胞内への取り込みを促進または増加させるように作用する、1つまたは複数の担体分子または形質移入剤に付着、会合、またはコンジュゲートしている。この付着、会合またはコンジュゲートは、siRNA分子およびその担体を細胞と接触させる前に、または前記接触時に、これらの分子を接触させることによって行い得る。
【0044】
用語担体および形質移入剤は、本明細書中で互換性があるように使用する。
担体分子は、siRNA分子またはsiRNAおよび光感作薬の両方と会合、結合、またはコンジュゲートしていてよい。したがって、たとえばsiRNAは、電荷:電荷の相互作用によって担体に付着していてよい。上述のように、複数の担体を同時に用いてよく、担体は、複数のsiRNA分子または複数種のsiRNA分子と会合、結合またはコンジュゲートしていてよい。
【0045】
好ましくは、担体は、2つ以上のアミン基(すなわちポリアミンである)を含み、陽イオン性であり、好ましくは様々なpH値でプロトン化可能な(すなわち、適切な反応条件下1つまたは複数の追加の水素原子を保有するようにプロトン化し得る)化合物を、好ましくは非リポソーム配合物中で含む。様々なpH値には、単一分子内および/または様々な分子内のプロトン化可能な原子の様々な値が当てはまる。
【0046】
本明細書中で使用する用語「プロトン化可能」とは、その基が水素原子を受容できることを意味し、すなわちプロトン化可能な基は水素受容基である。基が水素を受容する能力は、基の性質だけでなく、基が曝されるpHにも依存することが明らかである。好ましくは、前記プロトン化可能な基は窒素原子を含み、この原子が水素原子を受容する。
【0047】
本明細書中で言及する「陽イオン性」とは、分子の全体的な、すなわち実効電荷が+1以上であることを示す。これは、好ましくは生理的pH、すなわちpH7.2で測定する。分子は、より高い電荷、たとえば+2以上、+3以上、+4以上、+5以上、+6以上、+7以上、+8以上、+9以上、+10以上、+11以上、+12以上、+13以上、+14以上、+15以上、+20以上、+25以上、+50以上、+75以上、+100以上、+150以上、+200以上、+250以上、+300以上、+400以上、+500以上、+750以上または+1000以上を有し得る。
【0048】
本発明の方法に従って使用する陽イオン性ポリアミンは本明細書中以下で定義するとおりであり、以下が含まれる。
(a)非リポソーム配合物中のリポポリアミン、
(b)GPCによって500〜20000のMn値を有するポリエチレンイミン(PEI)、
(c)以下の式のβシクロデキストリンアミンポリマー
【0049】
【化1】
【0050】
[式中、Xは1〜100の整数(端値を含む)であり、nは4〜10の整数(端値を含む)である]、
(d)アミン基含有デンドリマー、および
(e)陽イオン性ペプチド。
【0051】
好ましくは、本明細書中で言及するポリアミンは、第一級もしくは第二級アミン基、またはその混合物(たとえば少なくとも2つの第一級アミン基)を含む。好ましくは、ポリアミン領域は、少なくとも2、3、4、5または6個の窒素原子、および生理的pHで少なくとも+1、+2、+3、+4、もしくは+5(または少なくとも+6、+7、+8、+9、+10、+11、+12、+13、+14、+15、+20、+25、+50、+75、+100、+150、+200、+250、+300、+400、+500、+750もしくは+1000)の電荷を有し、たとえばアミン基の一部またはすべてが帯電している。好ましくは、少なくとも1個(たとえば少なくとも2、3または4個)の窒素含有基、たとえばNHは、生理的pHで帯電していない。ポリアミン、たとえばリポポリアミンの最後のアミンがプロトン化されるpKaは、好ましくは約5.5である、すなわち、pHを低下していく際、または酸性化合物を加えていく際、プロトン化される最後のアミンは、pH5.5以下でプロトン化される。
【0052】
一実施形態では、担体は非リポソーム配合物中のリポポリアミンを含む。リポポリアミンとは、少なくとも1つの親水性ポリアミン領域(すなわち2つ以上のアミン基を含む)および1つの親油性領域を含む両親媒性分子を意味する。親油性領域は、1つまたは複数の親油性の鎖を含み得る。
【0053】
リポポリアミンのポリアミン領域は、好ましくは式(I)を有し、
【0054】
【化2】
【0055】
式中、mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、mは2つのアミン間に含まれる様々な炭素基間で異なることが可能である、すなわち、それぞれの(CH)m−NH基が異なるmの値を有してよく、mは前記式中に現れる際に同一または異なっていてよい。それぞれの位置R1には、本明細書中以下に記載するように水素またはリポポリアミンの脂肪部分との連結基または脂肪部分自体があり、それぞれの炭素原子で同一または異なっていてよい。R2は、本明細書中以下に記載のように水素またはリポポリアミンの脂肪部分との連結基または脂肪部分自体である。優先的には、mは2〜6(端値を含む)であり、より好ましくは3または4であり、nは1〜5(端値を含む)であり、より好ましくは3である。
【0056】
好ましくは、R1およびR2の一方のみが、リンカー、ポリアミンの脂肪部分に付着したリンカー、またはポリアミンの脂肪部分である。好ましくは、1つのR1基のみが、リンカー、ポリアミンの脂肪部分に付着したリンカーまたはポリアミンの脂肪部分である。R2は好ましくはHである。
【0057】
R1またはR2が脂肪部分自体である場合、またはポリアミンの脂肪部分に付着したリンカーである場合、式(I)はリポポリアミンである。したがって、R1またはR2が脂肪部分または脂肪部分が付着した連結基でない場合にのみ、式(I)はポリアミン領域である。
【0058】
さらにより優先的には、ポリアミン領域は以下の式によって表される
【0059】
【化3】
【0060】
[式中、R2およびR1a〜R1jは、上記でR1を定義したとおりであり、好ましくは、R1aはリンカーであり、残りのR1基およびR2は水素である]。
連結基は、通常条件下で安定な結合からなる。
【0061】
好ましくは、R1またはR2は水素原子または一般式IIのラジカルを表す:
【0062】
【化4】
【0063】
[式中、R3およびR4は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれが飽和脂肪族ラジカルCpH2p+2または不飽和脂肪族ラジカルCpH2pもしくはCpH2p-2を表し、pは12〜22の整数(端値を含む)であり、R5は、水素原子、または1〜4個の炭素原子を含む、任意選択でフェニルラジカルで置換されたアルキルラジカルを表す]。
【0064】
あるいは、R1またはR2は、それぞれ一般式IIIのラジカルであり得る:
【0065】
【化5】
【0066】
[式中、Xは、メチレン基(−CH2−)またはカルボニル基(−CO−)を表し、R6およびR7は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれが飽和脂肪族ラジカルCp’H2p’+2または不飽和脂肪族ラジカルCp’H2p’もしくはCp’H2p’-2を表し、p’は11〜21の整数(端値を含む)である]。
【0067】
Mおよびnの値にかかわらず、記号R1およびR2の一方のみが一般式(II)または(III)のラジカルを表すことができる。
nが2〜5である場合、異なる断片
【0068】
【化6】
【0069】
中のmの値は、同じであっても異なっていてもよい。
式(I)の好ましい実施形態では、nは3に等しく、断片
【0070】
【化7】
【0071】
中のmの値は同一または異なっており、3または4を表し、R1もしくはR2のどちらかが、一般式(II)のラジカル[式中、R3およびR4は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルキルラジカルを表し、R5は水素原子を表す]を表すか、またはR1もしくはR2のどちらかが、一般式(III)のラジカル[式中、R6−X−およびR7−X−は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルカノイルラジカルを表す]を表す。
【0072】
5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン5−カルボキシスペルミルアミド(DPPES)が特に好ましい。
【0073】
上記リポポリアミンの合成は米国特許第5,476,962号に記載されている。
本発明に従って使用するリポポリアミンのさらなる例には、2,3−ジオレイル−オキシ−N[2−スペルミンカルボキシイル−アミド]エチル−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオル酢酸(DOSPA)、1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシスペルミン)(DOSPER)およびRPR−120535が含まれる(Ahmed他(2005)Pharmaceutical Research、22(6)、972〜980)。好ましいリポポリアミンの構造を図7に示す。
【0074】
DOSPAでは、連結基は
【0075】
【化8】
【0076】
である。
DOSPERでは、連結基は
【0077】
【化9】
【0078】
である。
したがって、上記構造は連結基のさらなる適切な例を表す。
親油性領域は、上記R3、R4、R5またはR6に定義したとおりであるか、または任意の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖、コレステロールもしくは他のステロイド、ラメラ相もしくは六方相を形成することができる天然脂質もしくは合成脂質であることができる。炭化水素鎖の長さは、10〜30個の炭素の長さ、たとえば12〜28、14〜26、16〜24、18〜22個の炭素の長さであり得る。
【0079】
担体は、好ましくはJetSI(商標)またはJetSI−ENDO(商標)であり、これらはどちらもPolyplus transfectionから入手可能である。あるいは、担体はPromegaから入手可能なTransfectam(登録商標)であり得る。
【0080】
リポソーム形成とは、陽イオン性の帯電した両親媒性物質(すなわちリポポリアミン)をDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)などの中性ヘルパー脂質と合わせてリポソームを形成することを意味する。したがって、リポポリアミンの非リポソーム配合物とは、リポポリアミンリポソームの形態で存在しない、リポポリアミン含有配合物である。言い換えれば、そのような配合物は、リポポリアミンに加えては、どの中性ヘルパー脂質も含まない。ヘルパー脂質の例は、中性リン脂質、コレステロール、グリセロホスホエタノールアミンおよびジアシルグリセロールである。好ましくは、リポポリアミン配合物は本明細書中に記載のリポポリアミンのみを含む。
【0081】
一般に、形質移入剤をDOPEなどのヘルパー脂質と組み合わせることで形質移入効率が増加することが知られており、したがって、本発明の方法で使用した場合にこれらの化合物を配合物から除外することによって改善された、より選択的な度合の阻害を達成できることは、驚くべきことである。
【0082】
担体は、好ましくは、リポフェクタミン2000、リポフェクチン、jetPEI、またはこれら市販の形質移入試薬の組成を有する担体ではない。リポフェクタミン2000の組成は、3:1(w/w)の、ポリカチオン性脂質2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)(ケミカルアブストラクト登録名:N−[2−(2,5−ビス[(3−アミノプロピル)アミノ]−1−オクスペンチル−アミノ)エチル]−N,N−ジメチル−2,3−ビス(9−オクタデセニルオキシ)−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸)のリポソーム配合物、および中性脂肪ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)である。
【0083】
リポフェクチンの組成は、DOTMA(1,2−ジオレオイルオキシプロピル−3−トリメチルアンモニウムブロマイド)およびDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)の1:1混合物である。
【0084】
また、担体は、siPORTまたはこの市販の形質移入試薬の組成を有する担体でもない。
代替実施形態では、担体は、生理的pHで陽イオン性(かつ好ましくはプロトン化可能)であるポリアミン化合物、たとえばポリエチレンイミン(PEI)である。PEIは、多くの様々な構造変異体として存在するが、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって600以上のMn値(数平均分子量)を有する変異体が最も興味深い。たとえば、PEIは、500〜700、500〜750、750〜1000、100〜1250、1000〜1250、1250〜1500、1000〜20000、1100〜15000、1200〜12500、1250〜10000、1500〜7500、1750〜5000、2000〜4000または2500〜3500のMn値を有し得る。
【0085】
数平均分子量は、ポリマーの分子量を決定する一方法である。ポリマー分子は、同じ種類のものでも様々な大きさ(直鎖状ポリマーでは鎖の長さ)で存在するので、平均分子量は平均する方法に依存する。数平均分子量は、個々のポリマーの分子量の一般的な平均である。n個のポリマー分子の分子量を測定し、重量を合計し、nで割り算することによって決定する。
【0086】
【数1】
【0087】
PEIの直鎖形または非直鎖状、たとえば分枝鎖状のPEI(これはたとえば、本明細書中に記載の分子量値の低分子量であることができる)を使用し得る。
分枝鎖状PEIとは、第三級アミン基、ならびに第一級および第二級アミン基を含むPEIを意味する。第一級および/または第二級アミン基に対する第三級アミン基の数は、ポリマー中の分枝の量または度合の指標である。一般に、分枝鎖状PEIは、0.5〜1.5:1.5〜2.5:0.5〜1.5の比、たとえば1:2:1で第一級、第二級および第三級アミン基を含むが(すなわち第二級および第三級アミン基の比は2:1)、第三級アミン基をより多くまたは少なく含む分枝構造を有する分枝鎖状PEIも存在し、本発明で使用することができる。別の比の例は、1:1〜3:1(第二級:第三級アミン基)、たとえば1.2:1〜2.8:1、1.4:1〜2.6:1、1.6:1〜2.4:1、1.8:1〜2.2:1である。
【0088】
PEIの分子量は、好ましくは30kDaまたは25kDaより低い、たとえば15、10、5または2kDaより低い。
適切なPEIの例はSigmaから入手可能である(408719ポリエチレンイミン(平均MwはLSで約800Daまで、平均MnはGPCで約600まで、低分子量、非含水)。他の市販のPEI系試薬には、Poly Sciences,Inc PEI(分枝鎖状、Mw10,000)、US Biological Exgen500、Polyplus transfection jetPEI(商標)、Sigma ESCORT(商標)V形質移入試薬、およびMinis TransIT−TKO(登録商標)が含まれる。
【0089】
上述のように、好ましい実施形態では、1つまたは複数のβシクロデキストリンアミンポリマーを担体分子として用いることができる、すなわちポリアミン化合物はβシクロデキストリンアミンポリマーである。適切なβシクロデキストリンアミンポリマーおよびそのような分子の合成方法は、Hwang他、(2001)Bioconjugate Chem、12、280〜90に記載されている。
【0090】
適切なβシクロデキストリンアミンポリマーおよび適切な単量体からのその合成を示す模式図を、以下に示す:
【0091】
【化10】
【0092】
上述のように、nは、4〜10(端値を含む)、好ましくは5〜8(端値を含む)、または6〜7(端値を含む)の整数であることができる。nは、最も好ましくは4、6または8である。Xは任意の整数であることができる。Xは、好ましくは1〜100、10〜50、15〜25、1〜20、たとえば2〜15、3〜12、4〜10、5〜8または6〜7(端値を含む)である。Xは、最も好ましくは4または5である。
【0093】
さらに好ましい実施形態では、1つまたは複数のアミン基含有デンドリマー(たとえばポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマー)を担体分子として用いることができる、すなわちポリアミン化合物はアミン基含有デンドリマーである。デンドリマーは「デンススター(dense star)」ポリマーと呼ばれる巨大分子構造のクラスを表す。
【0094】
伝統的なポリマーとは異なり、デンドリマーは高い度合の分子均一性、狭い分子量分布、具体的な大きさおよび形状特徴、ならびに高度に官能化された末端表面を有する。したがって、デンドリマーは、分枝鎖状単位または単量体から構築されて単分散の樹状または世代構造を構成する人工的に製造または合成した分子である。単分散ポリマーの合成には高いレベルの合成の調節を必要とし、デンドリマーを一度に一単量体層、すなわち一「世代」ずつ構築する段階的な反応によって達成する。それぞれのデンドリマーは、それぞれの官能部位に樹状ウェッジが付着した多官能性の核分子からなる。核分子は「世代0」と呼ばれる。すべての分枝に沿ったそれぞれの連続的な反復単位が次の世代、「世代1」、「世代2」などを、最終世代まで形成する。
【0095】
したがって、製造プロセスは、中心の開始核から開始する一連の反復ステップである。続くそれぞれの成長ステップは、前の世代より大きな分子直径、2倍の数の反応性表面部位、および約2倍の分子量を有するポリマーの新しい「世代」を表す。たとえば、PAMAMデンドリマーの作製は、Esfand他、(2001)Drug Discovery Today、6(8)、427〜36およびKukowska−Latallo他、(1996)、93(10)、4897〜902に記載されている。
【0096】
適切なデンドリマーには、アミン基を含むすべてのデンドリマー、たとえば、トリエタノールアミン、NH3、またはアミン含有単量体が付着したエチレンジアム核を有するデンドリマーが含まれる。PAMAMデンドリマーが特にも好ましい。好ましくは、デンドリマーはポリアミン単量体、たとえば一般式H2N−(CH2)m−NH−(CO)n−(CH2)o[式中、mおよびoは1〜10の整数、好ましくは1または2であり、nは0または1である]を有するものから構成される。
【0097】
PAMAMデンドリマーを図14に示す。やはり図中に示すように、それぞれの「世代」は、前の世代のそれぞれの末端アミノ基への2つの新しいH2N−CH2−CH2−NH−CO−CH2−CH2−基の付加を表す。
【0098】
以下の表は、アミン表面官能性PAMAMデンドリマーの計算した特性を世代別に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
好ましくは、PAMAMデンドリマーは、分子量が1000〜235000または3000〜117000、たとえば6000〜60000または14000〜30000Daのものである。
【0101】
デンドリマーは、その世代に関して定義することもでき、したがって、デンドリマー(たとえばPAMAMデンドリマー)は、好ましくは世代0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のもの、特に世代2〜6のものである。
【0102】
上述のように、さらなる代替実施形態では、1つまたは複数の陽イオン性ポリペプチドを担体分子として用いることができる、すなわちポリアミン化合物は陽イオン性ポリペプチドである。様々な陽イオン性ペプチドが当該分野で知られている。
【0103】
本明細書中で定義する「ペプチド」には、任意の数のアミノ酸、すなわち1つまたは複数のアミノ酸を含む任意の分子が含まれる。しかし、好ましくは、ペプチドは連続的なアミノ酸のポリマーである。
【0104】
ペプチドは、任意の好都合な手段、たとえば、直接化学合成または適切な配列の核酸分子を細胞中で発現させることによる組換え手段によって調製し得る。
ペプチドに関して本明細書中で言及する「陽イオン性」とは、生理的pH、すなわちpH7.2でペプチドの全体的な、すなわち実効電荷が+1以上であることを示す。アミノ酸は、ペプチドの配列構成中で存在する場合に、生理的pHでの優勢種が陽性に帯電している場合に+1とみなされる。ペプチド中のそのようなアミノ酸のそれぞれがさらなる正電荷に寄与して、ペプチドの最終電荷が計算される。ペプチドの実効電荷(それぞれのアミノ酸に起因する電荷を合計することによって計算する)が陽性である限りは、ペプチドは1つまたは複数の陰性に帯電したアミノ酸残基、および中性残基を含み得る。
【0105】
したがって、ペプチドの電荷はそのアミノ酸組成に依存する。特定のアミノ酸は通常の生理的pHで帯電している。陽性に帯電したアミノ酸はリシン(K)、アルギニン(R)およびヒスチジン(H)であり、上述のスケールで+1とみなされる。アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)はほとんどの生理的pHで負電荷を保有し、上記スケールで−1とみなされる。他の天然に存在するアミノ酸は電荷を保有しないとみなされる。ペプチドの全体的な電荷が+1以上である限りは、任意の数の陽性または陰性に帯電したアミノ酸が存在し得る。
【0106】
本発明で使用するペプチドで用いられるアミノ酸は、必ずしも天然に存在するアミノ酸である必要はない。ペプチド中のアミノ酸のうちの1つまたは複数を、天然に存在しない、たとえば誘導体化したアミノ酸で置換し得る。そのようなアミノ酸は、ペプチドの電荷へのその寄与に基づいて同様に評価する。したがって、天然に存在するアミノ酸の場合と同様、優性種が生理的pHで陽性である場合、全体的な電荷が+1以上である限りは、その電荷が誘導体化した部分(たとえば導入したアミン基)に由来するのか、または天然のアミノ酸中にも存在する部分に由来するのかどうかは重要でない。
【0107】
ペプチドの電荷は、>1、好ましくは+1〜+1000、+1〜+500、+1〜250または+1〜+100、たとえば+2〜+80、たとえば+3〜+60または+4〜+50、+5〜+30、+6〜+20、たとえば+10または+15である。
【0108】
好ましくは、陽イオン性ペプチドは、LもしくはDリシン、LもしくはDアルギニン、LもしくはDヒスチジンおよび/またはオルニチン残基を含む。さらにより好ましくは、ペプチドはこれらの残基のうちの1つまたは複数に富む、たとえば10〜100%、20〜80%、30〜70%、40〜60%または50%の陽性に帯電した残基を含む。そのようなペプチドの例には、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ポリ−ヒスチジン、ヒスチジル化ポリ−リシンおよびポリ−オルニチン、あるいはLもしくはDリシン、LもしくはDアルギニン、LもしくはDヒスチジンおよび/またはオルニチン残基と他のアミノ酸、たとえばアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンのうちの1つまたは複数とのコポリマーが含まれる。
【0109】
前記陽イオン性ポリペプチドは、その分子量に関して定義することができる。したがって、これらの重量は、好ましくは少なくとも1000Da、1500Da、2000Da、2500Da、5000Da、7500Da、10000Da、15000Da、20000Da、25000Da、30000Da、40000Da、50000Da、60000Da、70000Da、80000Da、90000Daまたは100000Daである。
【0110】
あるいは、陽イオン性ポリペプチドは、その長さに関して定義することができる。好ましい陽イオン性ポリペプチドの長さは、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、150、200、250、300、350、400、450、500個のアミノ酸である。
【0111】
極めて好ましい陽イオン性ペプチドは、ポリアルギニン、特にMwが少なくとも15000kDaのポリアルギニンである。
理論に拘泥するものではないが、担体とsiRNA分子との会合は、陽性に帯電した担体と陰性に帯電したsiRNA分子との相互作用に基づいており、siRNA−担体の複合体の形成がもたらされると考えられている。siRNA−担体の複合体は細胞表面の陰イオン性プロテオグリカンと相互作用し、エンドサイトーシスによって取り込まれる。
【0112】
一般に、担体とsiRNA分子またはsiRNAおよび光感作薬の両方との会合、結合またはコンジュゲートは、単純に2つの構成要素を適切な条件下および濃度で混合し、構成要素を相互作用させることによって達成される。したがって、好ましい実施形態では、本方法は、前記siRNAを前記担体と接触させる追加のステップを含む。この接触ステップを実施する条件、ならびに担体およびsiRNA分子のそれぞれの適切な濃度は、ルーチン試験を行うことによって当業者によって容易に決定することができる。適切な条件の例を実施例に記載する。たとえば、siRNA分子および担体分子を、たとえば渦撹拌によって混合し、たとえば室温で静置し得る。その後、siRNA分子および担体分子を約10〜20、10〜30または20〜40分間放置した後に、細胞と接触させ得る。
【0113】
好ましくは、10nM〜200nM、たとえば15〜150nM、20〜100nM、20〜100nM、30〜90nM、40〜80nM、または50〜70nMのsiRNAを、たとえば標準の6ウェルプレートのウェル中で、形質移入に用いるが、異なる濃度を試験し得る。本方法で使用するsiRNAの最適濃度の決定はルーチンの問題である。
【0114】
siRNAおよび担体を適用する細胞は、標準の細胞培養技術を用いて調製する。細胞が接着細胞である場合、これらは好ましくは50〜70%または25〜50%コンフルエントである。
【0115】
担体およびsiRNA分子は、標準プロトコルに基づいて様々な比で混合し得る。たとえば、実施例1〜6に示すように、6ウェルプレートに適用するために、水溶液として作製した8.4μlの2mMの担体を2mlの培地中の2.8μgのsiRNAと混合することができる。同様に、6ウェルプレートに適用するために、水溶液として作製した4.2μlの2mMの担体を1mlの培地中の1.4μgのsiRNAと混合することができる。担体は必ず2mMである必要はなく、適切な範囲には0.5〜5mM、1〜3mM、1.5〜2.5mMが含まれる(たとえば水溶液として作製)。1ngのsiRNAに対して、光感作薬と一緒の溶液中に合計約6ナノモルに等価な量の担体(たとえば1〜10、2〜8)を用いることができる。
【0116】
PEIでは、6ウェルプレートで適用するための好ましい濃度は、たとえば1mlの培地中で100nMのsiRNAを用いて、1μg/mlおよび10μg/ml(たとえば0.5〜20または1〜15μg/ml)である。これは、実施例9に示すように、1200〜25000ダルトン(たとえば1300〜2000ダルトン)の分子量を有するPEIに特に有効であることが示されている。使用するPEIの濃度は、実施例9に示す条件を用いて達成される電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0117】
βシクロデキストリンアミンポリマーでは、6ウェルプレートで適用するための適切な濃度は、たとえば1mlの培地中で50nMのsiRNAを用いて、100μg/ml(たとえば10〜1000、20〜800、30〜600、40〜400、50〜200μg/ml)である。これは、実施例11に記載のポリマーの使用に基づく。nおよびXの値は分子の電荷に影響を与え、したがって、様々な濃度が適切であり得る。使用するβシクロデキストリンアミンポリマーの濃度は、実施例11に示す条件を用いて達成される電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0118】
アミン基含有デンドリマーでは、6ウェルプレートで適用するための適切な濃度は、たとえば1mlの培地中で100nMのsiRNAを用いて、100μg/ml(たとえば10〜1000、20〜800、30〜600、40〜400、50〜200μg/ml)である。使用するアミン基含有デンドリマーの濃度は、実施例12に示す条件を用いて達成される電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0119】
陽イオン性ペプチドでは、6ウェルプレートで適用するための適切な濃度は、たとえば1mlの培地中で100nMのsiRNAを用いて、0.35μg/mlまたは0.7μg/ml(たとえば0.1〜20、0.2〜15、0.3〜10μg/ml)である。実施例13に示すように、これらの濃度は、分子量15000〜70000および>70000のポリアルギニン担体を用いた使用で成功した。ペプチドの分子量およびアミノ酸組成は分子の電荷に影響を与え、したがって、様々な濃度が適切であり得る。使用する陽イオン性ペプチドの濃度は、実施例13に示す条件を用いて達成されるような電荷比および/またはN/P比を達成するために変更することができる。
【0120】
2つの構成要素の比は電荷の比として表現してもよく、このことも考慮に入れる必要がある。好ましくは、担体およびsiRNAの間の電荷比は、少なくとも1+/−(すなわち1つの負電荷あたり1つの正電荷)、5+/−、10+/、20+/−、30+/−、40+/−、50+/−、60+/−、70+/−、80+/−、90+/−、100+/−、200+/−、300+/−、400+/−または500+/−である。
【0121】
電荷比は、それぞれの構成要素(すなわちsiRNAおよび担体)の電荷ならびに存在するそれぞれの構成要素の量に依存する。
あるいは、2つの構成要素の比は、N/P比、すなわち窒素残基対オリゴヌクレオチドリン酸の比として表現し得る。担体のすべての窒素原子が必ず陽イオンであるわけではないので、N/P比は電荷比と同じではない。N/P比は、それぞれの化合物の化学組成および存在するそれぞれの化合物の量に依存する。N/P比の適切な値には、1〜500、たとえば2〜450、3〜400、4〜350、5〜300、6〜250、7〜200、8〜150、9〜100、10〜80、15〜60、20〜50、30〜40、1〜25、1〜20、1〜15、1〜10、1〜5が含まれる。
【0122】
好ましくは、担体は、使用に選択した濃度では、PCIの照射ステップなしでは細胞内区画からの放出が起こらず、PCIの照射ステップ後に細胞内区画からの放出が見られるような濃度である。siRNAおよび担体の適切な濃度および比は上述した。
【0123】
担体は、一般に水溶液(たとえば水)中での形質移入目的のために形成されている。その後、ストック溶液(たとえばエタノール中に20mM)を使用に適した濃度に(たとえば水で)希釈することができる。米国特許第5,476,962号は、リポポリアミンの形成を記載している。
【0124】
上述のように、siRNA担体も光感作薬の担体として使用し得る。しかし、その代わりに、光感作薬は、担体なしで、またはsiRNAのために本発明に従って使用しない別の担体と共に使用し得る。そのような別の担体は本明細書中で光感作薬担体と呼び、ポリリシン(たとえばポリ−L−リシンもしくはポリ−D−リシン)、ポリエチレンイミンまたはデンドリマー(たとえばSuperFect7などの陽イオン性デンドリマー)などのポリカチオン;DOTAPなどの陽イオン性脂質またはリポフェクチンおよびペプチドが含まれる。
【0125】
特異的な細胞(たとえば癌細胞)または組織をsiRNA分子および/または光感作薬の標的とするために、siRNA分子および/または光感作薬および/または担体を、所望の細胞または組織内へのsiRNA分子の特異的な細胞取り込みを促進する特異的標的化分子と会合またはコンジュゲートさせ得る。
【0126】
たとえばCuriel(1999)、Ann.New York Acad.Sci.、886、158〜171;Bilbao他、(1998)、癌の遺伝子治療(Gene Therapy of Cancer)(Walden他編、Plenum Press、ニューヨーク);PengおよびRussell(1999)、Curr.Opin.Biotechnol.、10、454〜457;Wickham(2000)、Gene Ther.、7、110〜114に記載のように、多くの異なる標的化分子を用いることができる。
【0127】
標的化分子を、siRNA分子、担体、光感作薬あるいはそれらの部分の2つ(たとえば、siRNAおよび担体もしくはsiRNAおよび光感作薬もしくは担体および光感作薬)または3つすべてと会合、結合またはコンジュゲートさせてよく、同一または異なる標的化分子を使用し得る。上述のように、複数の標的化分子を同時に使用し得る。
【0128】
本発明の方法は以下に記載するように実施し得る。本発明の方法では、siRNA分子を、その担体および光感作化合物と一緒に(任意選択で同じ担体もしくは光感作薬担体と共に)、同時にまたは次々と細胞に適用し、ここで、光感作化合物、担体およびsiRNA分子が、エンドソーム、リソソームまたは他の細胞内の膜に限定された区画内に、エンドサイトーシスまたは他の様式で転位される。
【0129】
siRNA、担体および光感作化合物は、一緒にまたは逐次的に細胞に適用し得る。一般に、上述のようにsiRNAを担体と混合して複合体を形成させ、次いで、それを細胞に光感作化合物と同時に投与する。あるいは、siRNA:担体の複合体および光感作化合物を逐次的に投与することができる。siRNA−担体の複合体および光感作化合物を、細胞によって同一または異なる細胞内区画内に取り込ませ得る(たとえば、これらは同時転位し得る)。
【0130】
次いで、光感作化合物を活性化させるために細胞を適切な波長の光に露光させ、それにより細胞内区画膜の破壊、および続いて光感作薬と同じ区画内に位置し得るsiRNAのサイトゾルへの放出をもたらすことによって、siRNAが放出される。したがって、これらの方法では、細胞を光に露光する最終ステップが、siRNAが光感作薬と同じ細胞内区画から放出されてサイトゾル中に存在することもたらす。
【0131】
国際公開第02/44396号パンフレット(本明細書中に参考として組み込まれている)は、たとえば、内部移行させる分子(および担体)を細胞と接触させる前に、光感作薬を細胞と接触させて照射によって活性化させるように、ステップの順序を変更できる方法を記載している。この適応方法は、照射時に内部移行させる分子が光感作薬と同じ細胞小区画中に存在している必要がないことを利用している。
【0132】
したがって、好ましい実施形態では、前記光感作薬、前記担体および前記siRNA分子(たとえば担体:siRNAの複合体として)を細胞に一緒に適用するか、または、前記光感作薬を前記担体および前記siRNA分子とは別々に適用する。その結果、これらが細胞によって同じ細胞内区画内に取り込まれる場合があり、その後、前記照射を行い得る。光感作薬、担体およびsiRNA分子は別々であるか、またはこれらをデンドリマー分子として配合することができる(たとえばNishiyama N他、(2005)Nat Mater.、4(12):934〜41参照)。
【0133】
代替実施形態では、前記方法は、前記細胞を光感作薬と接触させるステップと、前記細胞を、導入する担体およびsiRNA分子と接触させるステップと、前記細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射するステップとによって行うことができ、前記照射は、前記siRNA分子および前記担体の、前記光感作薬を含む細胞内区画内への細胞取り込みの前に、好ましくは前記分子および前記担体の、任意の細胞内区画内への細胞取り込みの前に行う。
【0134】
前記照射は、前記siRNA分子および光感作薬が露光時に同じ細胞内区画内に局在しているかどうかにかかわらず、分子および担体分子の、細胞内区画内への細胞取り込みの後に行うことができる。しかし、好ましい一実施形態では、照射は、内部移行させる分子の細胞取り込みの前に行う。
【0135】
本明細書中で使用する「内部移行」とは、分子のサイトゾル送達をいう。したがって、この事例では、「内部移行」には、分子を細胞内/膜結合区画から細胞のサイトゾルへと放出させるステップが含まれる。
【0136】
本明細書中で使用する「細胞取り込み」または「転位置」とは、細胞膜外部にある分子が、外の細胞膜の内部に見つかるように細胞内に取り込まれる、たとえばエンドサイトーシスまたは他の適切な取り込み機構によって、たとえば細胞内の膜に限定された区画内、たとえば小胞体、ゴルジ体、リソソーム、エンドソームなど内に取り込まれるまたはそれと会合する、内部移行のステップの1つをいう。
【0137】
細胞を光感作薬とならびにsiRNA分子および担体と接触させるステップは、任意の好都合または所望される方法によって実施し得る。したがって、接触ステップをin vitroで実施する場合、細胞を好都合にたとえば適切な細胞培地などの水性培地中に維持してよく、適切な時点で、光感作薬ならびに/またはsiRNA分子および担体を、適切な条件下で、たとえば適切な濃度および適切な時間、単純に培地に加えることができる。たとえば、細胞を無血清培地の存在下でsiRNA分子および担体と接触させ得る。
【0138】
光感作薬を適切な濃度で適切な時間、細胞と接触させ、これらはルーチン技術を用いて当業者が容易に決定することができ、使用する具体的な光感作薬ならびに標的細胞の種類および位置などの要素に依存する。光感作薬の濃度は、細胞内に取り込まれた後、たとえばその細胞内区画の1つまたは複数内に取り込まれるまたはそれと会合し、照射によって活性化させた後、1つまたは複数の細胞構造が破壊される、たとえば1つまたは複数の細胞内区画が溶解または破壊されるような濃度でなければならない。たとえば、本明細書中に記載の光感作薬は、たとえば10〜50μg/mlの濃度で使用し得る。in vitroの使用では、はるかに広範な範囲、たとえば0.05〜500μg/mlのであることができる。in vivoのヒト治療では、光感作薬は、全身投与した場合は0.05〜20mg/体重1kg、または局所適用する溶媒中で0.1〜20%の範囲で使用し得る。より小さな動物では濃度範囲は異なる場合があり、それに応じて調整することができる。
【0139】
細胞の光感作薬とのインキュベーション時間(すなわち「接触」時間)は数分間から数時間まで変動することができ、たとえば48時間以上までも、たとえば12〜20または24時間であることができる。インキュベーション時間は、光感作薬が適切な細胞によって、たとえば前記細胞の細胞内区画内に取り込まれるようなものであるべきである。
【0140】
細胞の光感作薬とのインキュベーションには、任意選択で、細胞を光に露光させるまたはsiRNA分子および担体を加える前に、たとえば10分間〜8時間、特に1〜4時間、光感作薬を含まない培地を用いたインキュベーション時間が続いてもよい。
【0141】
siRNA分子および担体(たとえば事前に形成させたsiRNA:担体の複合体として)は、適切な濃度で、適切な時間、細胞と接触させる。
本発明の方法で使用するsiRNA分子の適切な用量の決定は、当業者にはルーチン的な実施である。in vitroの用途ではsiRNA分子の例示的な用量は約1〜100nMのsiRNAであり、in vivoの用途ではヒトに注射する1回あたり約10-6〜1gのsiRNAである。たとえば、siRNA分子は、500nM未満、たとえば300nM未満、特に好ましくは100nMもしくは50nM未満、たとえば1〜100nM、または5〜50nMのレベルで投与してよく、示した濃度は、細胞と接触するレベルを反映している。
【0142】
上述のように、光感作薬を加え、照射を行った数時間後にさえ接触を開始し得ることが見出された。
適切な濃度は、懸案のsiRNA分子の懸案の細胞内への取り込み効率、および細胞中で達成することを所望する最終濃度に応じて決定することができる。したがって、「形質移入時間」または「細胞取り込み時間」、すなわち分子が細胞と接触している時間は、数分間または数時間までであることができ、たとえば、10分間〜24時間、たとえば30分間〜10時間、またはたとえば30分間〜2時間もしくは6時間の形質移入時間を使用することができる。より長いインキュベーション時間、たとえば24〜96時間以上、たとえば5〜10日間も使用し得る。
【0143】
形質移入時間の増加は、通常、懸案の分子の取り込みの増加をもたらす。しかし、より短いインキュベーション時間、たとえば30分間〜1時間も、分子の取り込みの改善された特異性をもたらすことができる。したがって、任意の方法の形質移入時間を選択する際、分子の十分な取り込みを得つつPCI処理の十分な特異性を維持する、適切なバランスを取らなければならない。
【0144】
siRNA分子、担体および光感作薬を標的細胞と接触させる、in vivoの適切な方法およびインキュベーション時間は、投与様式ならびにsiRNA分子、担体および光感作薬の種類などの要素に依存する。たとえば、siRNA分子および担体を治療する腫瘍、組織または器官内に注射した場合、注射点付近の細胞は、後の時点およびより低い濃度でsiRNA分子と接触する可能性の高い注射点からより離れた位置の細胞よりも迅速にsiRNA分子と接触してそれを取り込む傾向がある。
【0145】
さらに、静脈内注射によって投与したsiRNA分子は、標的細胞に到達するまでにある程度の時間がかかる場合があり、したがって、十分または最適な量のsiRNA分子が標的細胞または組織内に蓄積されるまでにより長い投与後時間、たとえば数時間かかり得る。もちろん、同じ考慮が、光感作薬が細胞内に取り込まれるために必要な投与時間にも適用される。したがって、in vivoで個々の細胞に必要な投与時間は、これらおよび他のパラメータに応じて変動する可能性がある。
【0146】
いずれにせよ、in vivoの状況はin vitroよりも複雑であるが、本発明の基底の概念は依然として変わらない、すなわち、分子を標的細胞と接触させる時間は、照射が起こる前に適切な量の光感作薬が標的細胞によって取り込まれており、(i)照射前またはその間、siRNA分子は、同一もしくは異なる細胞内区画内に取り込まれている、または標的細胞との十分な接触後にそれに取り込まれる、あるいは、(ii)照射後、siRNA分子を、細胞内へのその取り込みを可能にするために十分な時間、細胞と接触させるような時間でなければならない。siRNA分子を光感作薬の活性化によって影響を受ける細胞内区画(たとえば光感作薬が存在する区画)内に取り込ませる限りは、siRNA分子は照射の前または後に取り込ませことができる。
【0147】
光感作薬を活性化させるための光照射ステップは、当該分野で周知の技術および手順に従って行い得る。たとえば、光の波長および強度は、使用する光感作薬に応じて選択し得る。適切な光源が当該分野で周知である。
【0148】
本発明の方法において細胞を光に露光させる時間は変動し得る。細胞損傷、ひいては細胞死が増加する最大値を超える光への露光の増加に伴って、サイトゾル内へのsiRNA分子の内部移行効率が増加する。
【0149】
照射ステップの好ましい時間の長さは、標的、光感作薬、標的細胞または組織中に蓄積された光感作薬の量および光感作薬の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの重なりなどの要素に依存する。一般に、照射ステップの時間の長さは、分間から数時間の桁、たとえば好ましくは60分間まで、たとえば0.5または1〜30分間、たとえば0.5〜3分間、または1〜5分間もしくは1〜10分間、たとえば3〜7分間、好ましくは約3分間、たとえば2.5〜3.5分間である。より短い照射時間、たとえば1〜60秒間、たとえば10〜50、20〜40または25〜35秒間も用い得る。
【0150】
適切な光用量を当業者によって選択することができ、これは、ここでも、光感作薬および標的細胞または組織中に蓄積された光感作薬の量に依存する。たとえば、光感作薬フォトフリンおよびプロトポルフィリン前駆体5−アミノレブリン酸を用いた癌の光力学治療で通常用いる光用量は、高体温を回避するために、200mW/cm2未満のフルエンス範囲で50〜150J/cm2の範囲である。可視スペクトルの赤色領域の消光係数がより高い光感作薬を用いた場合、光用量は通常より低い。しかし、より少ない光感作薬が蓄積された非癌性組織の治療では、必要な光の総量は、癌の治療よりも実質的に高い場合がある。さらに、細胞生存度を維持する場合は、過剰レベルの毒性種の発生を回避すべきであり、それに応じて関連パラメータを調整し得る。
【0151】
本発明の方法は、光化学的処理が原因で、すなわち光感作薬が活性化される際に毒性種が発生することによって、ある程度の細胞死滅を必然的に生じ得る。提案された使用に応じて、この細胞死は重要でない場合があり、一部の用途(たとえば癌治療)には実際に有利な場合がある。しかし、好ましくは、細胞死を回避し、本明細書中の他の箇所に記載したように、細胞毒性を存在させずに発現の強力な阻害(すなわち強力なsiRNA効果)を引き起こすように、本発明を実施することができる。全般的な細胞毒性または細胞生存度に対する効果なしに強力な発現の阻害を達成することが極めて有利である。本発明の方法は、生存細胞の分率または割合が光用量を光感作薬の濃度に関係して選択することによって調節されるように変更し得る。ここでも、そのような技術は当分野で知られている。
【0152】
生細胞が望ましい用途では、実質的にすべての細胞、または顕著に大多数(たとえば細胞の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60、70、80または90%)が死滅しない。PCI処理後の細胞生存度は、MTS試験などの当該分野で知られている標準技術によって測定することができる(実施例参照)。
【0153】
光感作薬の活性化によって誘発された細胞死の量にかかわらず、siRNAが細胞に対して効果を有するためには、PCI効果が現れる個々の細胞の一部は光化学的処理単独で死滅しないように光用量を調節することが重要である(ただし、細胞内に導入する分子が細胞毒性効果を有する場合はその後死滅し得る)。
【0154】
細胞毒性効果は、たとえば遺伝子を下方制御するために、たとえばsiRNA分子を本発明の方法によって腫瘍細胞内に内部移行させる遺伝子治療を用いて達成し得る。
本発明の方法は、たとえば遺伝子治療方法およびスクリーニングアッセイの作製における特定の遺伝子産物の発現の阻害を含めた様々な目的のために、in vitroまたはin vivoで、たとえばin situ治療またはex vivo治療のために使用し、次いで処理細胞を身体に投与し得る。
【0155】
したがって、本発明は、本明細書中に既に記載した方法によって、siRNA分子を前記標的遺伝子を含む細胞内に導入することによって標的遺伝子の発現を阻害する方法を提供し、前記siRNA分子は、前記標的遺伝子の発現を特異的に阻害する。
【0156】
「特異的阻害」とは、標的遺伝子の配列依存的阻害をいう。核酸レベルで使用するsiRNA分子と十分な同一性を有する配列を含む遺伝子の発現が、siRNA分子によって影響を受ける。上述のように、発現の配列特異的阻害を引き起こす適切な配列のsiRNA分子を当業者が設計することを可能にする、標準的な技術が開発されている。
【0157】
「標的遺伝子」とは、その発現を下方制御させる、かつ調査または操作の標的となる遺伝子をいう。
これらの方法は、細胞の発現プロフィールを変更させて、たとえば細胞経路を調査するため、もしくは特定の遺伝子の発現の影響を測定するために、あるいは治療目的に使用し得る。
【0158】
本発明の方法は、1つ以上の遺伝子の下方制御、修復または変異から利益を受ける任意の疾患の治療にも用い得る。たとえば、癌において過剰発現される遺伝子は、適切なsiRNA分子を投与することによって下方制御し得る(Lage(2005)Future Oncol、1(1):103〜13)。治療し得る別の疾患には、ハンチントン病およびアルツハイマー病などの神経変性疾患ならびに肝炎(たとえばB、C)およびHIVなどのウイルス感染症が含まれる。
【0159】
したがって、本発明のさらなる態様は、本明細書中に記載の、siRNA分子、担体分子(好ましくは前記siRNA分子との複合体として)および任意に別個に光感作薬も含む組成物を提供する。さらなる態様では、本発明は、治療で使用する前記組成物を提供する。
【0160】
あるいは、本発明は、本明細書中に記載の、siRNA分子、担体分子および任意に光感作薬も含むキットを提供する。好ましくは、前記キット(または製品)は、医療における同時、個別または逐次的な使用のためのものである。
【0161】
別の記載をすると、本発明は、前記患者において1つ以上の標的遺伝子の発現を変更させることによって疾患、障害または感染症を治療または予防するための医薬品の調製における、本明細書中に記載のsiRNA分子および担体の使用を提供する。任意選択で、前記医薬品は前記siRNA分子または担体の一方のみを含む場合があり、その医薬品は、前記医薬品中に存在しない前記siRNA分子または担体が前記疾患、障害または感染症を治療または予防する際に前記患者に投与するためのものである方法で使用し得る。任意選択で、前記医薬品は光感作薬を含み得る。好ましくは、前記医薬品は遺伝子治療用である、すなわち、異常な遺伝子発現によって代表される、または1つ以上の遺伝子の抑制から利益を受ける疾患または障害を治療するためのものである。前記変更には、前記発現の下方制御が含まれる。
【0162】
上述の様々な実施形態によれば、前記光感作薬ならびに前記siRNA分子および担体を患者の細胞または組織と同時にまたは逐次的に接触させ、前記細胞を、光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光で照射し、その照射は、前記siRNA分子および担体の前記光感作薬を含む細胞内区画内への細胞取り込みの前、その間または後に、好ましくは前記移行分子の任意の細胞内区画内への細胞取り込みの前に行う。
【0163】
したがって、別の態様では、本発明は、患者において疾患、障害または感染症を治療または予防する方法であって、本明細書中で既に記載した方法に従ってsiRNA分子および担体を1つ以上の細胞内にin vitro、in vivoまたはex vivoで導入すること、および必要な場合(すなわち形質移入をin vitroまたはex vivoで実施する場合)には前記細胞を前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【0164】
本明細書中で定義する「治療」とは、治療前の症状と比較して、治療中の疾患、障害または感染症の1つ以上の症状を軽減、緩和または排除することをいう。「予防」とは、疾患、障害または感染症の症状の発症を遅延または予防することをいう。
【0165】
本発明の組成物は、本発明の方法によって細胞のサイトゾル内に内部移行されているsiRNA分子を含む細胞も含み得る。本発明は、治療、特に癌または遺伝子治療において使用するそのような組成物にさらに拡張する。
【0166】
したがって、本発明のさらなる態様は、細胞のサイトゾル内に内部移行されているsiRNA分子を含む、本発明の方法によって得ることができる、細胞または細胞集団を提供する。
【0167】
本発明のさらなる態様は、本明細書中で既に記載した治療、好ましくは癌または遺伝子治療において使用する組成物または医薬品を調製するための、そのような細胞または細胞集団の使用を提供する。
【0168】
本発明は、患者に本発明の細胞または組成物を投与することを含む前記患者の治療方法、すなわち、本明細書中で既に記載したようにsiRNA分子を細胞内に導入するステップと、そのように調製した前記細胞を前記患者に投与するステップとを含む方法をさらに提供する。好ましくは、前記方法を癌の治療または遺伝子治療で用いる。
【0169】
in vivoでは、当分野で一般的または標準の任意の投与様式、たとえば注射、点滴、体表面の内および外などへの局所投与を用い得る。in vivoの使用では、本発明は、体液部位を含めた光感作薬およびsiRNA分子が局在する細胞を含む任意の組織、ならびに固形組織に関して使用することができる。光感作薬が標的細胞によって取り込まれ、光を適切に送達することができる限りは、すべての組織を治療することができる。
【0170】
したがって、本発明の組成物は、製薬分野で知られている技術および手順に従った任意の好都合な様式で、たとえば1つ以上の製薬上許容される担体または賦形剤を用いて製剤にし得る。本明細書中で言及する「製薬上許容される」とは、組成物の他の成分と適合性があり、かつ受容者に生理的に許容される成分をいう。組成物および担体の性質または賦形剤物質、用量などは、好み(choice)および所望の投与経路、治療目的などに応じてルーチン様式で選択し得る。同様に、用量もルーチン様式で決定してよく、用量は分子の性質、治療目的、患者の年齢、投与様式などに依存し得る。光感作薬に関連して、照射時に膜を破壊する効力/能力も考慮に入れるべきである。
【0171】
あるいは、上述の方法を、ハイスループットスクリーニング方法のスクリーニングツールを作製するため、特に特定の遺伝子をサイレンシングする効果を分析するために用い得る。上述のように、1つ以上の特異的遺伝子に対するsiRNAを作製して本発明の方法で使用し得る。したがって、siRNAを、細胞集団中の遺伝子の発現を減少させるために用い得る。その後、得られる細胞集団を、標準技術によって遺伝子サイレンシングの下流効果を同定するためのスクリーニングツールとして用い得る。
【0172】
正常および化学修飾したアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子発現を減少させる以前の試みは、アンチセンスオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ分解、非特異的効果の発生および/または不十分な標的親和性の問題によって制限されてきた。siRNAを投与するために本発明の方法を用いることによって、これらの問題に打ち勝ち得る。
【0173】
したがって、さらなる態様では、本発明は、遺伝子の発現を阻害または減少させることができるsiRNA分子、担体および光感作薬を細胞(たとえば細胞集団)と接触させること、細胞(たとえば細胞集団)に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射することを含む、細胞(たとえば細胞集団)の遺伝子発現パターンを改変して、スクリーニングツール(たとえば高スループットスクリーニング用)として使用するための細胞(または細胞集団)を調製する方法を提供する。本発明は、そのような細胞ならびに、そのような細胞の特異的特性、たとえばそのような細胞のmRNA発現レベルを、たとえばマイクロアレイで検査する、そのような細胞をスクリーニングする方法にさらに拡張する。「改変された遺伝子発現パターン」とは、前記siRNA分子が細胞核中に存在する結果、遺伝子の、それが方向付けられているものへの転写または翻訳に影響が与えられることを意味する。
【0174】
遺伝子の発現のこの変化の結果、他の遺伝子の発現が影響を受け得る。したがって、調査中の遺伝子の正常発現に影響を与えることによって、他の遺伝子の発現パターンの変化を決定することが可能である。そのような遺伝子の同定、および調査中の遺伝子の発現がそれらに与える影響の同定により、調査者が遺伝子の機能、たとえばその下流機能について結論づけることが可能となる。調査中の遺伝子の正常発現の変化によって影響を受ける遺伝子は上方制御または下方制御され得るが、発現パターンの全体的な変化により、正常細胞機能における遺伝子の役割およびその誤制御による結果の指標が与えられる。
【0175】
当分野で周知の標準技術を用いて、懸案の遺伝子の発現の下方制御または排除の効果を研究することが可能である。これは、たとえば細胞接着の変化、タンパク質分泌の変化または形態学的変化などの、細胞(または胞集団)の機能的変化を探すことによって行い得る。あるいは、ここでも当分野で周知の標準技術を用いて、mRNAパターンおよび/またはタンパク質発現を分析することによって、遺伝子発現プロファイルを直接研究することができる。
【0176】
遺伝子の発現を阻害または減少させることとは、本方法に供していない細胞、すなわち野生型または正常な細胞と比較した場合に、懸案の遺伝子の発現が減少することと理解される。遺伝子発現レベルの変化は当分野で知られている標準技術によって決定し得る。
【0177】
遺伝子の検出可能な発現が存在しない、すなわちmRNAもしくはタンパク質が検出不可能であるような発現の完全な阻害があり得、または遺伝子発現の量が野生型もしくは正常な細胞よりも低い、発現の部分的な阻害、すなわち減少があり得る。これは、特定の配列を有するsiRNAの効果を、組み換えた配列、すなわち同じ組成のヌクレオチドであるが異なる配列順序を有するsiRNAの効果と比較することによって、評価および調節することができる。好ましくは、この技術が有用となるためには、発現の減少は、対照レベル未満またはその80%、たとえば対照レベルの<50%、好ましくは<20、10または5%である。使用する細胞(または複数の細胞)は、好ましくは細胞集団であり、その個々の細胞は遺伝的に同一である。細胞は、上述のように任意の細胞であり得る。
【0178】
本発明の方法に従って作製した細胞または細胞集団を用いて、本発明のさらなる態様を形成するライブラリを作製し得る。
以下、本発明を、以下の図面を参照しながら、以下の非限定的な実施例でさらに詳述する。
【実施例】
【0179】
材料および方法
細胞系および培養条件。
HCT−116(結腸直腸腺癌)およびSW620(結腸直腸腺癌)を米国タイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection、米国バージニア州Manassas)から得た。OHS(骨肉腫(osteocarcinoma))およびRMS細胞系はノルウェーラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)で確立されたものである。すべての細胞系は、抗生物質を含まないが10%のウシ胎児血清(FCS;PAA Laboratories、オーストリアLinz)および2mMのL−グルタミン(Bio Whittaker、ベルギーVerviers)を添加したRPMI−1640培地(Bio Whittaker、ベルギーVerviersまたはGibcoBRL、英国Paisley)を用いて培養した。5%のCO2を含む加湿雰囲気中、37℃で細胞を増殖およびインキュベートした。すべての細胞系を試験し、実験前にマイコプラズマ感染に関して陰性であることが見出された。
【0180】
光源および光感作薬。
Lumisource(登録商標)(PCI Biotech AS、ノルウェーOslo)を光源として用いた。Lumisource(登録商標)とは、処理領域の均一な照射を提供し、主にピークが420nmの青色光を発光するように設計された4本の蛍光チューブのバンク(bank)である。光感作薬、ジスルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPS2a)はPorphyrin Products(米国ユタ州Logan)から購入した。最初にTPPS2aを0.1MのNaOHに溶かし、その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.5で5mg/mlの濃度まで希釈し、0.002MのNaOHの最終濃度まで希釈した。光感作薬は光から保護し、使用時まで−20℃で保管した。
【0181】
PCIを用いないsiRNA形質移入。
siRNA送達用の様々な形質移入試薬は、以下を用いて評価した:Life Technologies Inc.のリポフェクチン(商標)試薬(米国メリーランド州Gaithersburg)、Invitrogenのリポフェクタミン(商標)2000(米国カリフォルニア州Carlsbad)、Roche DiagnosticsのFuGene6(ドイツMannheim)、AmbionのsiPORT(商標)Lipid Transfection Agent(米国テキサス州Austin)、Polyplus transfectionのjetSI(商標)およびjetSI(商標)−ENDO(フランスIllkirch)。すべての形質移入試薬は、製造者の仕様書に従って取り扱った。すべての細胞系を「細胞系および培養条件」に記載のように培養し、6ウェルプレート中で24時間、50〜70%のコンフルエンスまで培養した後、24、48または96時間形質移入した。形質移入試薬を用いた組み換えsiRNAに加えて、未処理の対照として形質移入試薬を単独で細胞に適用した。
【0182】
jetSI/jetSI−ENDOで用いたプロトコルは、標準の6ウェルプレートにおいて以下のとおりであった:
・ステップ1:それぞれのウェルについて、4.2(8.4)μlのjetSI/jetSI−ENDO溶液を100μlの培地に希釈する。激しく渦攪拌し(重要:混合にピペットを用いない)、10分間待つ(重要:30分間を超えない)。
・ステップ2:それぞれのウェルについて、1.4μg(100nM)のsiRNA二重鎖を100μlの培地中に希釈する。穏やかに渦攪拌する。
・100μlのjetSI培地溶液を100μlのsiRNA溶液に加え、溶液を直ちに混合する(重要:溶液を逆の順序で混合しない)
・直ちに溶液を10秒間渦攪拌混合する。
・30分間、室温でインキュベーションを行って複合体を形成させる(重要:1時間を超えない)。
・複合体の形成中、増殖培地をプレートから除去し、事前に37℃に温めた0.8mlの新鮮な血清含有培地(および使用する場合は光感作薬)を加える。
・200μlのjetSI/siRNA溶液をそれぞれのウェルに加え、プレートを穏やかに回すことによって混合物を均一にする。
・プレートを必要な細胞培養条件下で18時間インキュベートし、その後、プレートを新鮮な培地で3回洗浄し、2〜4mlの培地で再度インキュベートする。
【0183】
PCIを用いたsiRNA形質移入。
数点の変更以外は、細胞を「PCIを用いないsiRNA形質移入」と同様に培養および形質移入した。光感作薬TPPS2a(0,5μg/ml)を形質移入時に培地に加えた。18時間のインキュベーション後、細胞を新鮮な培地で3回洗浄し、光処理の前に4時間インキュベートした。4時間後、細胞を、細胞系に応じて青色光(7mW/cm2)に様々な時間(60〜90秒間)露光させ、24、48および96時間再度インキュベートした後に回収した。PCI効果を測定するために、エフェクターsiRNA、組み換えsiRNAおよび形質移入試薬単独を、同じプレート中の異なるウェルに、光感作薬を用いてまたは用いずに適用し、同じ処理を与えた。細胞はこれらの実験中アルミニウム箔によって光から保護した。
【0184】
S100A4のリアルタイム逆転写酵素PCR。
GenElute哺乳動物全RNA Miniprepキット(Sigma−Aldrich、ドイツSteinheim)を用いて全細胞RNAを単離し、iScript cDNA合成キット(BioRad、カリフォルニア州Hercules)を逆転写に用いた。どちらのキットも、製造者のマニュアルに従って使用した。すべてのPCRを並行して実行し、SYBRGreen Iを用いることによってリアルタイム検出が得られた。それぞれのPCRについて、10μlのcDNA、30μlのiQ SYBRGreen Supermix(BioRad)、300nMのそれぞれのプライマーおよびヌクレアーゼを含まない水を加えて最終容積60μlとした。その後、それぞれ25μlの試料をPCRプレートに適用した。本方法では、並行が真の並行であり、すべての複製(replicate)について十分なPCRミックスが存在することを保証する。プライマーの設計は、Applied BiosystemsのPrimer Expressソフトウェア(Applied Biosystems、カリフォルニア州Foster City)を用いて達成した。使用したプライマー組(フォワードプライマー5’−AAGTTCAAGCTCAACAAGTCAGAAC−3’およびリバースプライマー5’−CATCTGTCCTTTTCCCCAAGA−3’)によって、S100A4配列のエクソン2および3中の79−塩基対のセグメントが増幅される。
【0185】
リアルタイム反応は、以下の増幅プロトコルにしたがい、iCycler(Bio−Rad)で実行した:95℃で3分間の最初の変性、50サイクルの95℃で10秒間の変性、60℃で35秒間のアニーリング/伸長、95℃で20秒間の1回の保持、続いて55℃で1分間の保持、最後に、最終温度95℃まで、10秒ごとに0.5℃の上昇の80ステップ融解曲線分析(finally a melt curve analysis of 80 steps each for 10s, with 0.5℃ increase until a final temperature of 95℃)。RNA試料の品質は、2つのハウスキーピング遺伝子、TBP(フォワードプライマー5’−GCCCGAAACGCCGAATAT−3およびリバースプライマー5’−CGTGGCTCTCTTATCCTCATGA−3’)ならびにRPLPO(フォワードプライマー5’−CGCTGCTGAACATGCTCAAC−3’およびリバースプライマー5’−TCGAACACCTGCTGGATGAC−3’)の増幅によって確認した。Gene Expression Macro、バージョン1.1(Biorad)を定量的計算に用いた。このプログラムは、同じ試料組に対して様々なプライマー組を用いて得られるサイクル閾値の比較を可能にするΔΔCT方法に基づいて計算を行う。
【0186】
顕微鏡観察研究。
記載(PCIを用いたおよび用いないsiRNA形質移入)のように細胞をsiRNA/jetSI−ENDOの複合体と共にインキュベートし、48時間後に、PCI処理を用いておよび用いずに、FITC(450〜490nmのBP励起フィルター、510nmのFTビームスプリッター、および515〜565nmのLP発光フィルター)、ならびにローダミン(546/12nmのBP励起フィルター、580nmのFTビームスプリッター、および590nmのLP発光フィルター)用のフィルターを備えたZeiss倒立顕微鏡、Axiovert200で分析した。画像(Pictures)は、Carl Zeiss AxioCam HR、バージョン5.05.10およびAxioVision3.1.2.1ソフトウェアを用いることによって構成した。画像(Images)はAdobe Photoshop7.0(Adobe、カリフォルニア州San Jose)およびZeiss LSM Image Browser(バージョン3)を用いて形成した。
【0187】
ウエスタン免疫ブロット。
タンパク質溶解物は、150mMのNaClならびに2g/mlのペプスタチン、アプロチニン(Sigma Chemical Company、モンタナ州St Louis)およびロイペプチン(Roche Diagnostics、ドイツMannheim)を含む0.1%のNP−40を含む50mMのトリス−HCl(pH7.5)中で調製した。それぞれの試料からの全タンパク質溶解物(30μg)を12%のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、製造者のマニュアルに従ってImmobilon−P膜(Millipore、マサチューセッツ州Bedford)上に移した。ローディング対照および移動対照として、膜を0.1%のアミドブラックで染色した。続いて、膜を、0.5MのNaClおよび10%の乾燥乳(ブロッキング溶液)を含む0.25%のTween20(TBST)を含む20mMのトリス−HCl(pH7.5)中でインキュベートした後、5%の乾燥乳を含むTBST中のウサギポリクローナル抗S100A4(1:300に希釈、DAKO、デンマークGlostrup)およびマウスモノクローナル抗α−チューブリン(1:250に希釈、Amersham Life Science、英国Buckinghamshire)と共にインキュベートした。洗浄後、二次抗体(1:5000に希釈、DAKO、デンマークGlostrup)に結合した西洋ワサビペルオキシダーゼおよび増強した化学発光系(Amersham Pharmacia Biotech、英国Buckinghamshire)を用いて免疫反応性タンパク質を可視化した。S100A4タンパク質レベルは対照試料の割合として報告し、α−チューブリンをローディング対照として用いた。
【0188】
[実施例1]OHS細胞系における遺伝子サイレンシング
OHS細胞を、様々な形質移入系を用いてS100A4タンパク質の発現を標的とするように設計して、形質移入した。それぞれの実験において、標準の形質移入プロトコルを製造者の指示に従って用いた。光感作薬を用いた場合は、それはTPPS2aであった(1mlの形質移入容積中に0.5μg、これとは別にjetSIは2mlの形質移入容積を用いた)。それぞれの実験における照射時間は60秒間であった。
【0189】
20μMのsiRNAストック溶液をそれぞれの異なる形質移入試薬と混合し、6ウェルプレート中で最終容積1mlになるように形質移入した(ただし、jetSIおよびjetSI−ENDOの場合は、最終容積は2mlであった)。
siPORT脂質=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて2および4μlを試験した
FuGene6=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2μlおよび8.4μlを試験した
リポフェクタミン2000=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2および7μlを試験した
リポフェクチン=1000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2および7μlを試験した
jetSI=2000μl中に2.8μgのsiRNAと組み合わせて8.4μl
jetSI−ENDO=2000μl中に1.4μgのsiRNAと組み合わせて4.2μl。
【0190】
使用したsiRNA分子はS100A4のmRNA配列(GenBank受入番号NM_002961)に対するものであった。配列
5’−UGAGCAAGUUCAAUAAAGA−3’
3’−ACUCGUUCAAGUUAUUUCU−5’
を有する特異的siRNAを、Elbashir他((2001)、Genes Dev.、15、188〜200)に従って設計した。選択した標的遺伝子に対して設計されたsiRNAに加えて、組み換えsiRNA(5’−CGCAUAAGUGAAAUAGAAU−3’、3’−GCGUAUUCACUUUAUCUUA−5’)を作製することによって対照siRNAを設計し、偽ハイブリダイゼーションを排除するためにBLAST検索を行った。二重鎖のGC含有率は30〜70%の範囲内に保ち、siRNA二重鎖の最適な安定性のために、すべてのsiRNA分子はその3’末端にdTdT突出を有するように合成した。siRNA分子はEurogentec(ベルギーSeraing)から注文した。
【0191】
乾燥siRNAオリゴヌクレオチドをDEPC処理した水で100μMまで再懸濁させ、−20℃で保管した。それぞれのRNAオリゴヌクレオチドを別々のアリコートとし、50μMの濃度まで希釈することによって、アニーリングを行った。その後、30μlのそれぞれのRNAオリゴヌクレオチド溶液および15μlの5×アニーリング緩衝液を合わせて、DEPC処理した水中に50mMのトリス、pH7.5、100mMのNaClの最終濃度とした。その後、溶液を3分間、水浴中、95℃でインキュベートし、次いで作業台上で45分間徐々に冷却した。アニーリングの成功は4%のNuSieveアガロースゲル電気泳動によって確認した(データ示さず)。
【0192】
図1から、PCI依存性の遺伝子サイレンシングは、形質移入剤jetSIおよびjetSI−ENDOを用いることで達成できることがわかる。PCIを存在させずにこれらの2つの形質移入剤を用いた場合(すなわち、照射するが光感作薬が存在しない)、遺伝子発現は、ウエスタンブロットを用いたタンパク質レベルの測定に基づいて対照の約75%であるが、追加でPCIを用いた場合、遺伝子発現は対照の約15%まで減少する。
【0193】
対照的に、形質移入剤としてSIPORT脂質またはFuGene6を使用することでは、遺伝子発現有意な減少が何ら達成されず、リポフェクタミン2000およびリポフェクチンを使用した場合は、PCIも用いたかどうかにかかわらず遺伝子発現の阻害が達成された。
【0194】
[実施例2]様々な細胞系における遺伝子サイレンシング
4つの異なる細胞系、HCT116、SW620、OHSおよびRMS細胞を、標準のjetSI−ENDOプロトコルを用いて、光感作薬(0.5μg/mlのTPPS2a)を存在させておよび存在させずに、S100A4の発現をサイレンシングするように設計された(実施例1参照)50nMのsiRNA(jetSI−ENDO=4.2μl、1.4μgのsiRNAと組み合わせた)を用いて形質移入した。細胞を照射に供し、照射の96時間後にウエスタンブロットを行うことによってS100A4タンパク質レベルを決定した(照射条件は、OHS=60秒間、SW620=80秒間、HCT116=90秒間、RMS=70秒間であった)。
【0195】
結果の例を図2Bに示し、結果を図2Aにグラフで表す。それぞれの細胞種において、形質移入した細胞をPCI処理に曝露することにより高レベルの遺伝子サイレンシングが引き起こされ、一方で、S100A4 siRNAを形質移入したがPCI処理に供さなかった細胞では、有意により低い遺伝子サイレンシングが示された。組換えsiRNAは、PCIが存在する場合でも存在しない場合でも、遺伝子発現に対して効果を示さなかったので、この効果は特異的であることが示された。試験した様々な細胞系間で遺伝子サイレンシング効果の有意な差異はなかった。
【0196】
[実施例3]siRNA濃度および時間の効果
S100A4タンパク質の発現をサイレンシングするように設計されたsiRNA分子を、4.2μlのjetSI−ENDOを用いて1〜5nMの濃度でOHS細胞内に形質移入し、上述のようにPCI処理に供した。
【0197】
ウエスタンブロットを用いて細胞溶解液中のタンパク質レベルを測定し、これを図3Aに未処理の対照細胞のタンパク質レベルの割合として示した。
遺伝子サイレンシング効果は、細胞を曝露したsiRNAの濃度に伴って増加したが、4nMおよび5nMのsiRNAで見られたサイレンシング効果には僅かな差異しか存在しなかった。
【0198】
組換えsiRNA分子もすべての実験で使用し、遺伝子発現に影響を与えないことが示された。したがって、遺伝子阻害効果は特異的である。
図2Bは、細胞の照射と分析するための細胞溶解液の回収との間の時間を変更することによる、遺伝子サイレンシングに対する時間の効果を示す。照射後かつ回収前に細胞を長く放置すればするほど、遺伝子発現のより大きな阻害が観察されることがわかる。
【0199】
[実施例4]siRNA PCI処理後のOHS細胞における遺伝子サイレンシング
OHS細胞に上述のように100nMのsiRNAまたは組換えsiRNAを形質移入し、タンパク質およびmRNAのレベルに対するPCI処理の効果を、照射の96時間後にウエスタンブロットおよびRT−PCRによって決定し、未処理の対照におけるタンパク質およびmRNAのレベルと比較した。
【0200】
図4に示す結果は、タンパク質およびmRNAのレベルのどちらに関しても、S100A4遺伝子の大量の遺伝子サイレンシングが、この遺伝子に特異的なsiRNAをjetSI ENDOを用いて形質移入し、細胞をPCI処理に供した場合に観察されることを示している(図3AおよびBのレーン5)。タンパク質およびRNAのレベルの少量の減少がPCI処理を用いずに見られるが(図3AおよびBのレーン2)、これはPCI処理によって著しく増強される。
【0201】
[実施例5]標識したsiRNAのサイトゾル送達
OHS細胞に、jetSI ENDO((jetSI−ENDO=8,4μl、1000μlの形質移入容積中で2,8μgのsiRNAと組み合わせた結果、200nMのsiRNA溶液である)を用いて、光感作薬を用いておよび用いずに、200nMのFITCで標識したsiRNAを形質移入した。その後、形質移入した細胞を照射に供した。
【0202】
位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡を用いて細胞を検査した。画像を比較することによって、PCI処理が存在しない場合、siRNAは点状の分布に留まることが見られ、これは細胞内小胞中の分布に代表的である(図5aおよびc)。また、ある程度の漏れも見られる(図5cの右側のボックス)。対照的に、PCI処理後、標識したsiRNAは細胞質全体にわたっておよび核中に分布していることが見られる(図5b参照)。
【0203】
これにより、siRNAが細胞の必要な区画に送達されるためにはPCI処理が必要であること、また、送達がPCI処理に依存することが実証される。
【0204】
[実施例6]siRNA−PCIを用いた遺伝子サイレンシングは標準の形質移入よりも少ない担体の使用を必要とする。
【0205】
OHS細胞に、jetSIを用いて100nMのsiRNAを形質移入した。上述の実験とは対照的に、jetSIをより低い濃度、すなわち標準プロトコルで推奨された濃度の50%で使用した。6ウェルプレートでの標準プロトコルは、2000μlの培地中に2.8μgのsiRNA+8.4μlのjetSIであり、それぞれのウェルについて100nMのsiRNAということになる。
【0206】
対照的に、6ウェルプレートで、1.4μgのsiRNAを1000μlの培地中に4.2μlのjetSIと混合すると、それぞれのウェルについて100nMのsiRNAということになる。したがって、複合体の全体量が50%減少した。
【0207】
形質移入後、細胞をPCI処理に供したか(この実験での光用量は、0,5μg/mlのTPPS2aを用いて30秒間であった)、または未処理のままとし、RT−PCRを用いて遺伝子サイレンシングを測定した。エフェクターsiRNAはS100A4遺伝子の発現を未処理の対照の20%未満まで減少させることができたが、PCIを用いない場合および組換えsiRNA(PCI処理を用いるかまたは用いない)を用いた場合では僅かな減少しか見られなかった。
【0208】
これにより、担体およびPCIを組み合わせた使用は選択的なsiRNA分子の放出の利点を提供するだけでなく、PCIと組み合わせた場合には、より低い濃度の形質移入剤の使用で高レベルの遺伝子サイレンシングが達成できることが実証される。図6のレーン5および図1のレーン5を比較することにより、実施例1で使用した形質移入剤の50%しか使用しない場合でも、PCIも使用した場合は、遺伝子阻害の度合がはるかに大きいことがわかる。
【0209】
[実施例7]PEIを担体として用いた形質移入
siRNA標的をS100A4のmRNA配列(Gene Bank受入番号NM_002961)に対して選択した。siRNAの481〜499をエフェクターとして用いた(配列は実施例1を参照)。
【0210】
ポリエチレンイミン(PEI)を、PCIに誘発される送達について評価した。細胞系を形質移入前に、6ウェルプレート中で50〜80%のコンフルエンスまで培養した(10%のFBS、10mlのL−グルタミン酸、10mlのHepesを添加したRPMI−1640)。100nMのsiRNAを標準濃度として用いた。
【0211】
使用したPEIはSigmaのものであり、滅菌水で希釈し、1000μlのPEIおよび9000μlの滅菌水を含むストック溶液を作製した。ストック溶液から1および10μlを用いて、細胞に1.4μgのsiRNAを形質移入した(各ウェル100nM)。
【0212】
SigmaのPEIを使用した(408719ポリエチレンイミン(LSによる平均Mw約800まで、GPCによる平均Mn約600まで、分枝状、低分子量、非含水))。
形質移入には、2つの溶液を作製した。溶液Aは、siRNAを100μlの無血清(OPTI−MEM I)培地に希釈した。溶液Bは、PEIを100μlの無血清培地に希釈した。穏やかに混合することによって溶液AおよびBを混合し、室温で30分間インキュベートした。その後、混合溶液を細胞に加えた(1mlの100nM siRNA)。
【0213】
jetSIについて上述したようにPCI処理を行った。PEI実験の光用量は40秒間であった。照射の96時間後にウエスタンブロットによってタンパク質レベルを測定した。
【0214】
図8から、レーン5および6に示す試料、すなわちPEIでの形質移入およびPCI処理に供した試料においてS100A4タンパク質の発現が減少したことが認められる。
【0215】
[実施例8]25kDaのPEI担体を用いたsiRNAの活性に対するPCIの効果
siRNA形質移入。すべての細胞系を「細胞系および培養条件」に記載のように培養し、形質移入前に25〜50%のコンフルエンスで6ウェルプレートにまいた(plated)。siRNAおよび担体を穏やかな混合によって複合体形成させ、細胞に加える前に30分間インキュベートした。細胞を、siRNA、担体、および光感作薬(TPPS2a=0,5μg/ml)を用いてまたは用いずに形質移入し、18時間インキュベートし、その後、新鮮な培地で3回洗浄し、光処理の前に4時間、再度インキュベートした。4時間後、細胞を青色光(7mW/cm2)に、実験に応じて様々な時間(0〜60秒間)露光させ、96時間再度インキュベートした後に回収した。遺伝子サイレンシングの際のPCIの効果を測定するために、特異的siRNA、組み換えsiRNA、および形質移入試薬単独を同じプレート中の異なるウェルに、光感作薬を用いてまたは用いずに適用し、全く同じ処理を与えた。細胞は実験中アルミニウム箔によって光から保護した。
【0216】
分枝状の25kDaのポリエチレンイミン(PEI)(1μg/ml)およびS100A4の遺伝子を標的とする100nMの濃度のsiRNAを使用して、PCI処理を用いておよび用いずに、siRNAに媒介されるS100A4遺伝子サイレンシングをタンパク質レベルで測定した。光用量は30秒間とし、血清含有培地中での複合体形成および形質移入をどちらも伴って、上述のプロトコルに従った。図9Aは、PCIの使用により、S100A4 siRNAは、S100A4レベルを典型的には未処理の対照(siRNAを用いずにPEIで処理)のレベルの5〜15%まで減少させたことを示す。対照的に、PCIを用いないS100A4 siRNAは、S100A4レベルを対照の100〜80%までしか減少させることができなかった。未処理の対照レベルは、組み換えsiRNAをS100A4特異的siRNAの代わりに使用した対照と同等であった(データ示さず)。図9Bでは、実験をウエスタンブロットによって表す。図中に示すように、上部バンドはローディング対照(αチューブリン)を表し、下部バンドはS100A4レベルを表す。ブロットから見ることができるように、有意な遺伝子サイレンシングを検出できなかった、PCIで処理しなかったS100A4 siRNAを受容する細胞の状況と比較して、S100A4は、PCIを使用した場合にはsiRNAで有意にサイレンシングされる。
【0217】
[実施例9]様々な濃度で使用した様々なPEI担体を用いた、siRNAの活性に対するPCIの効果
S100A4 siRNAの活性に対するPCI効果を、様々な分枝状PEI製剤(formulation)を様々な濃度(0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/mlおよび100μg/ml、ウェル1つあたり1mlの培地を使用した)で用いて調査した。試験したPEI種(すべて分枝鎖状)は以下のとおりである:
PEI 分子量(Da)
1 800
2 1200
3 1300
4 1800
5 2000
6 25000
光用量は30秒間とし、血清含有培地中での複合体形成および形質移入をどちらも伴って、材料および方法に記載したプロトコルに従った。siRNAは100nMの濃度で用いた。図10から見ることができるように、PCIの使用は、様々なPEI担体を用いたS100A4 siRNAの遺伝子サイレンシング効果を有意に増強させることができる。この効果は、10μg/mlのPEI4(分子量1800)を除いてはPCIを用いない場合の効果が非常に低いが、より少量のPEI(1および10μg/ml)で特に顕著である。これら2つのPEIの濃度では、PCIにより、PEI1(分子量800)以外の試験したすべてのPEI種の遺伝子サイレンシング効果が顕著に増強された。
【0218】
PCIを用いない場合、PEI濃度の増加に伴って遺伝子サイレンシングの度合が増加し、PCIを用いた場合、この効果はそれほど明白ではない、ただし、0.1μg/mlのPEIでは、(PCIを用いても用いなくても)遺伝子サイレンシングを観察することができない。これの1つの可能な説明は、このPEIの量は、すべてのsiRNAを複合体にするために十分に高くはなく、その結果、細胞によって取り込まれない陰性に帯電した複合体が生じていることである。PCIを用いない場合では、PEI担体の分子量の増加に伴って遺伝子サイレンシングが増加する傾向にあると考えられ、PCIを用いた場合、この効果はそれほど顕著ではなく、ここでもPEI1(分子量800)は例外である。より高い分子量およびより多い量での、PCIを用いない場合のPEIの効果は、恐らく、PEIが高濃度の場合にのみ作用する、PEIについて報告されているエンドソーム溶解特性によるものである。
【0219】
これは、PCIでこの効果を置き換え、低い量および低い分子量のポリエチレンイミンを使用することが可能となることを示しており、これはPEI担体の毒性および他の問題を回避するために非常に有利な特性である。
【0220】
[実施例10]毒性研究
様々なPEI製剤(formulation)(分子量800〜25.000)単独(PCI処理を用いない)の毒性を最初に評価した。このアッセイでは、OHS細胞を96ウェルプレートにまき(plated)、血清含有培地中で一晩接着させた。その後、培地を廃棄し、細胞を培地および様々なPEI製剤(formulation)と共に、様々な濃度下で20時間インキュベートした。その後、PEI含有培地を廃棄し、MTS溶液(Promega、米国ウィスコンシン州Madison)をそれぞれのウェルに加え(1:6に希釈、100μl/ウェル)、プレートをさらに4時間、再度インキュベートした。490nmでの吸光度を測定した。
【0221】
図11Aから観察できるように、PEI製剤(formulation)の分子量の増加(たとえば25000のPEI対800のPEI)およびPEIの量の増加に伴って毒性が増加した。重要なことに、1μg/ml(示さず)および10μg/mlのPEI製剤(formulation)は有意な毒性を示さなかった。これらの試料では、PCIを用いてsiRNAの有意な生物学的効果を達成することができ、一方で、PCIを用いない効果は非常に低かった(実施例9参照)。
【0222】
siRNA/PCI処理を用いたPEIの毒性も評価した。OHS細胞を6ウェルプレートにまき(plated)、血清含有培地中で一晩接着させた。その後、培地を廃棄し、6ウェルプレート中の細胞をPEI単独、組み換えsiRNAおよび特異的siRNAを用いて、光感作薬を用いてまたは用いずに形質移入した。その後、細胞を一晩インキュベートし、続いて洗浄し、「siRNA形質移入」に記載のように青色光で処理した(PCI)。44時間再度インキュベートした後、166.6μlのMTS溶液)をそれぞれのウェルに加え、プレートをさらに4時間、再度インキュベートした。490nmでの吸光度を測定した。図11Bは、1μg/mlのPEI(分子量25000)、100nMのsiRNAおよびPCIを用いた様々な光用量における組合せ処理の毒性を示す。グラフからわかるように、PCI処理は、すべてのPEI遺伝子サイレンシング実験において、強い遺伝子サイレンシング効果がPCIによって誘発された光用量である(図10参照)使用光用量(30秒間)で、有意な毒性を誘発しなかった。40秒間のより高い光用量でもPCI処理の細胞毒性は観察されず、PCIが細胞毒性効果を与えずに完全に増強されたsiRNA送達を誘発できることが示された。
【0223】
[実施例11]β−シクロデキストリンアミンを担体として用いたsiRNA分子のPCIに誘発される送達。
β−シクロデキストリンアミンに媒介されるsiRNA送達に対するPCIの効果を調査した。60秒間の光用量をこれらの実験で用い、材料および方法に記載のプロトコルに従った。n=6およびX=4である上述のβ−シクロデキストリンアミンを滅菌水で希釈し、無血清培地中で複合体形成および形質移入を行った。ウエスタンブロット(図12)から見ることができるように、50nM(0.7μg)のsiRNAと複合体形成した100μg/mlのβ−シクロデキストリンアミン(各ウェルに1mlを使用)が、PCIに誘発されるsiRNA送達に有効であり(レーン3)、一方で、これらの条件下では、PCIを用いない送達は無効であった(レーン6)。本研究で用いたβ−シクロデキストリンアミンは、siRNAとの結合に関与するアミン橋によって複合化したβ−シクロデキストリン分子からなり、Hwang S.J.他(2001、Bioconjugate Chem.、12、280〜290)に記載されている。
【0224】
[実施例12]エチレンジアミン核を有するポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマー(世代2〜7)を用いたsiRNA分子のPCIに誘発される送達
ポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマーを、PCIに誘発されるsiRNA送達について評価した。PAMAMを滅菌水で希釈し、血清含有培地中で形質移入を行った。100μg/mlの様々な種類のPAMAMデンドリマー(世代2〜7)(各ウェルに1mlを使用)を100nM(1.4μg)のsiRNAと複合体形成させ、上述の手順に従って形質移入を実施した。30秒間の光用量をこれらの実験で用いた。ウエスタンブロット(図13A)からわかるように、siRNA/PAMAMが単独では遺伝子サイレンシングに無効であった条件下で(レーン4および5)、PCIはsiRNAの活性を強力に増強することができた(レーン1および2)。図13Bからわかるように、この効果はいくつかの他の種類のPAMAMデンドリマーでもみられ、これは、PCIがポリアミン系のデンドリマーによってsiRNA送達を全般的に増強することができることを示している。
【0225】
本研究で用いた、異なる量の表面アミン基を含む様々な種類のPAMAMは、以下のとおりである:
G2 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=2); デンドリPAMAM(NH2)16
G3 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=3); デンドリPAMAM(NH2)32
G4 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=4); デンドリPAMAM(NH2)64
G5 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=5); デンドリPAMAM(NH2)128
G6 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=6); デンドリPAMAM(NH2)256
G7 = 分子式: [NH2(CH2)2NH2]:(G=7); デンドリPAMAM(NH2)512
【0226】
【表2】
【0227】
[実施例13]塩酸ポリ−L−アルギニンを担体として用いたsiRNAのPCIに誘発される送達
ポリアルギニンを滅菌水で希釈し、無血清培地中で形質移入を行った。2種類のポリアルギニン担体(分子量15000〜70000および>70000)を試験した。0.35または0.7μg/mlのポリアルギニン(各ウェルに1mlを使用)を100nM(1.4μg)のsiRNAと複合体形成させ、上述のプロトコルに従って、30秒間の光用量を与えた後にS1004Aの発現をウエスタンブロットによって評価した。図15からわかるように、PCIで処理したおよび処理していない試料間で遺伝子サイレンシングの有効性に有意な差異が存在する。このように、PCIで処理したすべての試料(図15のR+試料)は有意な遺伝子サイレンシングを示す一方で、PCIで処理しない対応する試料(図15のR−試料)ではサイレンシング効果が観察されない。したがって、PCIは、試験した異なるポリアルギニン担体のどちらでも、また使用したどちらの濃度でも、遺伝子サイレンシングの誘発に有効であり、これは、PCIが陽イオン性ペプチド系の担体によってsiRNA送達を有意に増強することができることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】様々な形質移入試薬を用いてOHS細胞系を使用した遺伝子サイレンシング実験の結果を示す図であり、siRNA9を用いたPCI処理あり(黒いバー)およびなし(白いバー)を示す。グラフは、左から右に、1)siPORT脂質、2)FuGene6、3)リポフェクタミン2000、4)リポフェクチン、5)jetSIおよび6)jetSI−ENDOのS100A4タンパク質レベルを示す。結果は未処理の対照細胞の%として表す。バーは3回の個別実験の平均である。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。
【図2】様々な種類の細胞を、PCI処理を用いておよび用いずに、jetSI−ENDOを使用してsiRNAを形質移入した遺伝子サイレンシング実験の結果を示す図である。(A)の結果は、siRNAで処理した際の4つの細胞系におけるS100A4タンパク質レベルを示す。灰色のバーはPCIを用いた組み換え対照siRNAを示し、黒いバーはPCIを用いないエフェクターsiRNAを示し、白いバーはPCIを用いたエフェクターsiRNAを示す。細胞系は、左から右に、HCT−116、SW620、OHSおよびRMSである。バーは3回の個別実験の平均である。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。(B)の結果は、上から下に様々な細胞系、すなわちHCT−116、SW620、OHSおよびRMSを示すウエスタンブロットを示す。上部パネルはα−チューブリンのローディング対照を示し、下部パネルはS100A4レベルを示す。下部パネルのそれぞれにおいて、レーン1〜3は、PCI処理を用いない、未処理の対照(C)、組み換え対照(siRNA11)、およびエフェクター(siRNA9)のタンパク質レベルを示す。レーン4〜6は、PCI処理を用いた、未処理の対照(C)、スクランブル対照(siRNA11)、およびエフェクター(siRNA9)のタンパク質レベルを示す。
【図3】OHS細胞における遺伝子サイレンシング実験の結果を示す図であり、a)照射の96時間後の用量依存性サイレンシング(1〜5nMのsiRNA)、b)siRNA9を用いた時間依存性サイレンシング(24、48および96時間)を示す。結果は未処理の対照細胞の%として表した。バーは3回の個別実験の平均である。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。
【図4】PCI処理を用いておよび用いずにjetSIで形質移入したsiRNAを用いた遺伝子サイレンシングの、照射の96時間後の結果を示す図である。結果は、OHS細胞系を100nMのsiRNAで以下に示すように処理した後のS100A4タンパク質レベル(A)およびRNAレベル(B)を示す。黒いバーはPCIを用いない試料を表し、白いバーはPCIに供した試料を表す。PCI処理を用いない未処理の対照を、すべての試料の対照として用いた(示さず)。試料1および4)組み換え対照(siRNA11)、2および5)エフェクター(siRNA9)、3)未処理の対照。バーは3回の個別実験の平均を表す。誤差バーは標準誤差(SEM)を示す。
【図5】PCI処理を用いておよび用いずに、jetSI−ENDOを用いた形質移入(200nM)後の、OHSにおける蛍光標識したsiRNAの分布を示す図であり、a)PCI処理を用いないsiRNAの送達であり、左から右に位相差、蛍光および対応するマージ(merge)を示す。b)PCI処理を用いたsiRNAの送達であり、左から右に位相差、蛍光および対応するマージ(merge)を示す。c)PCI処理を用いない蛍光写真であり、左から右に、蛍光封入したエンドソーム(左側のボックス)、エンドソームからの蛍光漏れ(右側のボックス)、左側のボックス内の画像の拡大、および右側のボックスの画像の拡大を示す。
【図6】OHSを100nMのsiRNAおよび標準プロトコルと比較して推奨レベルの50%のjetSIで処理した後の、jetSIを用いた遺伝子サイレンシングの結果を示す図である。バーは、1)PCIを用いない組み換え対照siRNA、2)PCIを用いないエフェクターsiRNA、3)PCIを用いた未処理の対照、4)PCIを用いた組み換え対照siRNA、5)PCIを用いたエフェクター対照siRNAを表す。バーは3回の個別実験の平均を表す。
【図7】好ましいリポポリアミンの構造を示す図である(Ahmed他、上記およびBehr他(1989)PNAS、86、6982〜6も参照)。
【図8】PEIを担体として用いた遺伝子サイレンシングの結果を示す図である。ウエスタンブロットは、上部パネルにローディング対照(α−チューブリン)を示し、下部パネルにS100A4タンパク質レベルを示す。レーン1=未処理の対照(PEIなし)、2=1μlのPEI+エフェクターsiRNA、3=10μlのPEI+エフェクターsiRNA、4=未処理の対照(PEIなし)、5=1μlのPEI+エフェクターsiRNA、6=10μlのPEI+エフェクターsiRNA。レーン1〜3はPCIを用いず、レーン4〜6はPCIを用いたものである。
【図9】25kDaのPEIを担体として用いた遺伝子サイレンシングの結果を示す図である。使用した試料は図中に示した。A.S100A4タンパク質レベルはウエスタンブロットの走査によって定量した(PCIを用いてまたは用いない、S100A4 siRNAを使用、3回の個別実験の平均、誤差バーはSEMを表す)。B.ウエスタンブロットの例を示す。
【図10】様々なPEI担体を様々な濃度で使用した際の、siRNAの活性に対するPCIの効果を示す図である。S100A4タンパク質レベルはウエスタンブロットの走査によって定量した。黒いバーはPCIを用いない形質移入を表し、白いバーはPCIを用いた形質移入を表す。結果は3回の個別実験の平均である。
【図11】PEI単独、ならびにPCIおよびsiRNAと組み合わせた場合のPEIの毒性を決定するための実験の結果を示す図である。PEIの量およびPCI実験で使用した光用量を示した。A.PCIを用いないPEIの毒性。試験した様々な(分枝)PEI担体の分子量を示した(5回の個別実験の平均)。B.様々な光用量におけるPCI、PEI(1μg)およびsiRNAの組合せの毒性。試験した試料および使用した光用量を示す。対照−=未処理の対照(PEIを用いるがPCIを用いない)、組み換え−=組換えsiRNA対照(PEIを用いるがPCIを用いない)、siRNA−=S100A4 siRNA(PEIを用いるがPCIを用いない)。対照+、組み換え+、およびsiRNA+は、対照−、組み換え−、およびsiRNA−と同じであるが、PCIを用いる(5回の個別実験の平均)。
【図12】β−シクロデキストリンアミンを担体として用いた、siRNA分子のPCIに誘発される送達を示す図である。レーン1および4=siRNAなしの対照、レーン2および5=対照組換えsiRNA、レーン3および6=S100A4 siRNA。チューブリン対照のバンドおよびS100A4のバンドは示したとおりである。
【図13】エチレンジアミン核を有するポリアミドアミド(PAMAM)デンドリマー(世代2〜7)を用いた、siRNA分子のPCIに誘発される送達を示す図である。(A)上部バンドがローディング対照(αチューブリン)を表し、下部バンドがS100A4レベルを表すウエスタンブロットである。異なるレーン中の試料は、1.PCIを用いたPAMAM世代6。2.PCIを用いたPAMAM世代7。3.PCIを用いた対照。4.PCIを用いないPAMAM世代6。5.PCIを用いないPAMAM世代7。6.PCIを用いない対照である。(B).ウエスタンブロットの走査によって定量したS100A4タンパク質レベル。黒いバーはPCIを用いない形質移入を表し、白いバーはPCIを用いた形質移入を表す。結果は3回の個別実験の平均である。使用したPAMAMの様々な形態を図中に示す。
【図14】世代0、世代1および世代2のPAMAMデンドリマーの構造式を示す図である。
【図15】ポリアルギニンに媒介されるsiRNA送達に対するPCIの効果を示す図である。S100A4タンパク質のレベルはウエスタンブロットによって分析した。上部レーンはローディング対照(αチューブリン)を表し、下部レーンはS100A4レベルを表す。ゲル上の試料は以下のとおりである:C+=PCIを用いた対照、S+=PCIを用いた対照組換えsiRNA、R+=PCIを用いたS100A4 siRNA、C=PCIを用いない対照、S=PCIを用いない対照組換えsiRNA、R=PCIを用いないS100A4 siRNA。1=ポリアルギニン、分子量15,000〜70,000、0.35μg、2=ポリアルギニン、分子量15,000〜70,000、0.7μg、3=ポリアルギニン、分子量>70.000、0.35μg、4=ポリアルギニン、分子量>70,000、0.7μg。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
siRNA分子を細胞のサイトゾル内に導入する方法であって、
i)前記細胞をsiRNA分子、担体および光感作薬と接触させることと、
ii)細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射することを含む方法であって、
前記担体が、
(a)非リポソーム剤形中のリポポリアミン、
(b)GPCによるMn値が500〜20000であるポリエチレンイミン(PEI)、
(c)以下の式のβシクロデキストリンアミンポリマー
【化1】
[式中、Xは1〜100の整数(端値を含む)であり、nは4〜10の整数(端値を含む)である]、
(d)アミン基含有デンドリマー、および
(e)陽イオン性ペプチド
から選択された陽イオン性ポリアミンである方法。
【請求項2】
リポポリアミンが第一級もしくは第二級アミン基、またはその混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リポポリアミンのポリアミン領域が少なくとも2個の窒素原子および生理的pHで少なくとも+1の電荷を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記担体の少なくとも1個の窒素含有基が生理的pHで帯電していない、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
リポポリアミンの末端(last)アミンがプロトン化されるpKaが5.5以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
リポポリアミンのポリアミン領域が式(I)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法:
【化2】
[式中、
mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、mは前記式中に現れる際に同一または異なっていてよく、それぞれの位置においてR1は水素またはリポポリアミンのリポ部分との連結基、またはリポ部分自体であり、それぞれの炭素原子で同一または異なっていてよく、
R2は、水素またはリポポリアミンのリポ部分との連結基またはリポ部分自体であり、
R1およびR2の一方のみがリポポリアミンのリポ部分との連結基、またはリポ部分自体であり、R1またはR2が前記リポ部分に結合した連結基またはリポ部分自体である場合、式(I)は前記リポポリアミンである]。
【請求項7】
mが2〜6の間(端値を含む)であり、nが1〜5の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
nが3である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
R2がHである、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ポリアミン領域が以下の式によって表される、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法:
【化3】
[式中、R1a〜R1jは、請求項7で定義したR1のとおりである]。
【請求項11】
R1aがリンカーであり、残りのR1基が水素である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
R1またはR2が水素原子または一般式IIの基を表す、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法:
【化4】
[式中、
R3およびR4は、同一または異なっていてよく、それぞれが飽和脂肪族基CpH2p+2、不飽和脂肪族基CpH2pまたはCpH2p-2を表し、pは12〜22の整数(端値を含む)であり、
R5は、水素原子または、1〜4個の炭素原子を含む、任意にフェニル基で置換されたアルキル基を表す(ただし、R1およびR2の一方のみが一般式(II)の基を表すことができる)]。
【請求項13】
R1およびR2がそれぞれ水素原子または一般式IIIの基を表す、請求項6から12のいずれか一項に記載の方法:
【化5】
[式中、
Xは、メチレン基(−CH2−)またはカルボニル基(−CO−)を表し、R6およびR7は、同一または異なっていてよく、それぞれが飽和脂肪族基Cp’H2p’+2、不飽和脂肪族基Cp’H2p’またはCp’H2p’-2を表し、p’は11〜21の整数(端値を含む)である(ただし、R1およびR2の一方のみが一般式(III)の基を表すことができる)]。
【請求項14】
nが2〜5の整数(端値を含む)であり、異なる断片
【化6】
中のmの値が同一である、請求項6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
nが2〜5の間(端値を含む)であり、異なる断片
【化7】
中のmの値が異なる、請求項6から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
nが3に等しく、断片
【化8】
中のmの値が同一または異なり、3または4を表し、
R1またはR2のどちらかが、
(i)一般式(II)の基[式中、R3およびR4は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルキル基を表し、R5は水素原子を表す]、または
(ii)一般式(III)の基[式中、R6−X−およびR7−X−は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルカノイル基を表す]
を表す、請求項6から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記リポポリアミンの親油性領域が、任意の飽和または不飽和の炭化水素鎖、コレステロールまたは他のステロイド、ラメラ相または六方相を形成することができる天然脂質もしくは合成脂質である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
炭化水素鎖の長さが10〜30個の炭素の長さである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
リポポリアミンが、5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン5−カルボキシスペルミルアミド(DPPES)、2,3−ジオレイル−オキシ−N[2−スペルミンカルボキシイル(carboxyyl)−アミド]エチル−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシスペルミン)(DOSPER)およびRPR−120535から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
リポポリアミンが、5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)、およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン5−カルボキシスペルミルアミド(DPPES)から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
担体がJetSI(商標)もしくはJetSI−ENDO(商標)、またはTransfectam(登録商標)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記担体分子が分枝PEI分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
PEIの分子量が50kDa未満、好ましくは25kDa未満である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記担体分子がPAMAMデンドリマー分子、好ましくは世代2〜6のPAMAMデンドリマー分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記担体分子が、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ポリ−ヒスチジン、ヒスチジル化ポリ−リシンおよびポリ−オルニチン、あるいはLもしくはDリシン、LもしくはDアルギニン、LもしくはDヒスチジンおよび/またはオルニチン残基と1つ以上の他のアミノ酸とのコポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
siRNA分子が長さ12〜28ヌクレオチドである、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
光感作薬が、ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン、ベンゾポルフィリン、リソソーム向性(lysomotropic)弱塩基、ナフタロシアニン、陽イオン性色素、テトラサイクリン、5−アミノレブリン酸および/もしくはそのエステル、または前記光感作薬のいずれかの誘導体、好ましくはTPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2a、5−アミノレブリン酸もしくは5−アミノレブリン酸のエステル、または製薬上許容されるその塩から選択される、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記siRNAを前記担体と接触させる追加のステップをさらに含む、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
siRNA分子および担体分子を、細胞と接触させる前に20〜40分間、互いに接触させる、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
10nM〜200nMのsiRNAを形質移入に用いる、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ポリカチオン、ポリエチレンイミン、デンドリマー、陽イオン性脂質およびペプチドから選択された光感作薬担体がさらに存在する、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
siRNAを担体と混合して複合体を形成させ、次いでそれを細胞に光感作薬と同時にまたは逐次的に投与する、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞を光感作薬と接触させ、前記細胞を、導入する担体およびsiRNA分子と接触させ、前記細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射することによって前記方法を行い、前記照射は、前記siRNA分子および前記担体の、前記光感作薬を含む細胞内区画内への細胞取り込みの前に、好ましくは前記分子および前記担体の、任意の細胞内区画内への細胞取り込みの前に行う、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか一項に記載の方法によって、siRNA分子を標的遺伝子を含む細胞内に導入することによって前記標的遺伝子の発現を阻害する方法であって、前記siRNA分子が、前記標的遺伝子の発現を特異的に阻害する方法。
【請求項36】
細胞のサイトゾル内に内部移行されているsiRNA分子を含む、請求項1から35のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる細胞または細胞集団。
【請求項37】
請求項1から25のいずれか一項に記載のsiRNA分子および担体分子を含み、任意に別個に請求項1から25または28のいずれか一項に記載の光感作薬も含む組成物。
【請求項38】
光感作薬を含む、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
請求項36に記載の細胞または細胞集団を含む組成物。
【請求項40】
治療で使用するための、請求項37から39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
請求項1から25または28のいずれか一項に記載の、siRNA分子、担体分子および任意に光感作薬を含むキット。
【請求項42】
前記患者において1つ以上の標的遺伝子の発現を変更させることによって、疾患、障害または感染症を治療または予防するための医薬品の調製における、請求項1から25または28のいずれか一項に記載の、siRNA分子および担体ならびに任意に光感作薬の使用。
【請求項43】
前記患者において1つ以上の標的遺伝子の発現を変更させることによって、疾患、障害または感染症を治療または予防するための医薬品の調製における、請求項36に記載の細胞または細胞集団の使用。
【請求項44】
前記医薬品が、異常な遺伝子発現によって代表される、または1つ以上の遺伝子の抑制から利益を受ける疾患または障害、好ましくは癌を治療するためのものである、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
患者において疾患、障害または感染症を治療または予防する方法であって、請求項1から35のいずれか一項に記載の方法に従ってsiRNA分子および担体を1つ以上の細胞内にin vitro、in vivoまたはex vivoで導入すること、および必要な場合には前記細胞を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項46】
患者において疾患、障害または感染症を治療または予防する方法であって、請求項36に記載の細胞または細胞集団を前記患者に導入することを含む方法。
【請求項47】
異常な遺伝子発現によって代表される、または1つ以上の遺伝子の抑制から利益を受ける疾患、好ましくは癌を治療するために使用する、請求項45または46に記載の方法。
【請求項1】
siRNA分子を細胞のサイトゾル内に導入する方法であって、
i)前記細胞をsiRNA分子、担体および光感作薬と接触させることと、
ii)細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射することを含む方法であって、
前記担体が、
(a)非リポソーム剤形中のリポポリアミン、
(b)GPCによるMn値が500〜20000であるポリエチレンイミン(PEI)、
(c)以下の式のβシクロデキストリンアミンポリマー
【化1】
[式中、Xは1〜100の整数(端値を含む)であり、nは4〜10の整数(端値を含む)である]、
(d)アミン基含有デンドリマー、および
(e)陽イオン性ペプチド
から選択された陽イオン性ポリアミンである方法。
【請求項2】
リポポリアミンが第一級もしくは第二級アミン基、またはその混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リポポリアミンのポリアミン領域が少なくとも2個の窒素原子および生理的pHで少なくとも+1の電荷を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記担体の少なくとも1個の窒素含有基が生理的pHで帯電していない、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
リポポリアミンの末端(last)アミンがプロトン化されるpKaが5.5以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
リポポリアミンのポリアミン領域が式(I)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法:
【化2】
[式中、
mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、mは前記式中に現れる際に同一または異なっていてよく、それぞれの位置においてR1は水素またはリポポリアミンのリポ部分との連結基、またはリポ部分自体であり、それぞれの炭素原子で同一または異なっていてよく、
R2は、水素またはリポポリアミンのリポ部分との連結基またはリポ部分自体であり、
R1およびR2の一方のみがリポポリアミンのリポ部分との連結基、またはリポ部分自体であり、R1またはR2が前記リポ部分に結合した連結基またはリポ部分自体である場合、式(I)は前記リポポリアミンである]。
【請求項7】
mが2〜6の間(端値を含む)であり、nが1〜5の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
nが3である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
R2がHである、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ポリアミン領域が以下の式によって表される、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法:
【化3】
[式中、R1a〜R1jは、請求項7で定義したR1のとおりである]。
【請求項11】
R1aがリンカーであり、残りのR1基が水素である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
R1またはR2が水素原子または一般式IIの基を表す、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法:
【化4】
[式中、
R3およびR4は、同一または異なっていてよく、それぞれが飽和脂肪族基CpH2p+2、不飽和脂肪族基CpH2pまたはCpH2p-2を表し、pは12〜22の整数(端値を含む)であり、
R5は、水素原子または、1〜4個の炭素原子を含む、任意にフェニル基で置換されたアルキル基を表す(ただし、R1およびR2の一方のみが一般式(II)の基を表すことができる)]。
【請求項13】
R1およびR2がそれぞれ水素原子または一般式IIIの基を表す、請求項6から12のいずれか一項に記載の方法:
【化5】
[式中、
Xは、メチレン基(−CH2−)またはカルボニル基(−CO−)を表し、R6およびR7は、同一または異なっていてよく、それぞれが飽和脂肪族基Cp’H2p’+2、不飽和脂肪族基Cp’H2p’またはCp’H2p’-2を表し、p’は11〜21の整数(端値を含む)である(ただし、R1およびR2の一方のみが一般式(III)の基を表すことができる)]。
【請求項14】
nが2〜5の整数(端値を含む)であり、異なる断片
【化6】
中のmの値が同一である、請求項6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
nが2〜5の間(端値を含む)であり、異なる断片
【化7】
中のmの値が異なる、請求項6から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
nが3に等しく、断片
【化8】
中のmの値が同一または異なり、3または4を表し、
R1またはR2のどちらかが、
(i)一般式(II)の基[式中、R3およびR4は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルキル基を表し、R5は水素原子を表す]、または
(ii)一般式(III)の基[式中、R6−X−およびR7−X−は、それぞれ12〜22個の炭素原子を含むアルカノイル基を表す]
を表す、請求項6から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記リポポリアミンの親油性領域が、任意の飽和または不飽和の炭化水素鎖、コレステロールまたは他のステロイド、ラメラ相または六方相を形成することができる天然脂質もしくは合成脂質である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
炭化水素鎖の長さが10〜30個の炭素の長さである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
リポポリアミンが、5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン5−カルボキシスペルミルアミド(DPPES)、2,3−ジオレイル−オキシ−N[2−スペルミンカルボキシイル(carboxyyl)−アミド]エチル−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシスペルミン)(DOSPER)およびRPR−120535から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
リポポリアミンが、5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)、およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン5−カルボキシスペルミルアミド(DPPES)から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
担体がJetSI(商標)もしくはJetSI−ENDO(商標)、またはTransfectam(登録商標)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記担体分子が分枝PEI分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
PEIの分子量が50kDa未満、好ましくは25kDa未満である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記担体分子がPAMAMデンドリマー分子、好ましくは世代2〜6のPAMAMデンドリマー分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記担体分子が、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ポリ−ヒスチジン、ヒスチジル化ポリ−リシンおよびポリ−オルニチン、あるいはLもしくはDリシン、LもしくはDアルギニン、LもしくはDヒスチジンおよび/またはオルニチン残基と1つ以上の他のアミノ酸とのコポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
siRNA分子が長さ12〜28ヌクレオチドである、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
光感作薬が、ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン、ベンゾポルフィリン、リソソーム向性(lysomotropic)弱塩基、ナフタロシアニン、陽イオン性色素、テトラサイクリン、5−アミノレブリン酸および/もしくはそのエステル、または前記光感作薬のいずれかの誘導体、好ましくはTPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2a、5−アミノレブリン酸もしくは5−アミノレブリン酸のエステル、または製薬上許容されるその塩から選択される、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記siRNAを前記担体と接触させる追加のステップをさらに含む、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
siRNA分子および担体分子を、細胞と接触させる前に20〜40分間、互いに接触させる、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
10nM〜200nMのsiRNAを形質移入に用いる、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ポリカチオン、ポリエチレンイミン、デンドリマー、陽イオン性脂質およびペプチドから選択された光感作薬担体がさらに存在する、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
siRNAを担体と混合して複合体を形成させ、次いでそれを細胞に光感作薬と同時にまたは逐次的に投与する、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞を光感作薬と接触させ、前記細胞を、導入する担体およびsiRNA分子と接触させ、前記細胞に光感作薬を活性化させるのに有効な波長の光を照射することによって前記方法を行い、前記照射は、前記siRNA分子および前記担体の、前記光感作薬を含む細胞内区画内への細胞取り込みの前に、好ましくは前記分子および前記担体の、任意の細胞内区画内への細胞取り込みの前に行う、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか一項に記載の方法によって、siRNA分子を標的遺伝子を含む細胞内に導入することによって前記標的遺伝子の発現を阻害する方法であって、前記siRNA分子が、前記標的遺伝子の発現を特異的に阻害する方法。
【請求項36】
細胞のサイトゾル内に内部移行されているsiRNA分子を含む、請求項1から35のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる細胞または細胞集団。
【請求項37】
請求項1から25のいずれか一項に記載のsiRNA分子および担体分子を含み、任意に別個に請求項1から25または28のいずれか一項に記載の光感作薬も含む組成物。
【請求項38】
光感作薬を含む、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
請求項36に記載の細胞または細胞集団を含む組成物。
【請求項40】
治療で使用するための、請求項37から39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
請求項1から25または28のいずれか一項に記載の、siRNA分子、担体分子および任意に光感作薬を含むキット。
【請求項42】
前記患者において1つ以上の標的遺伝子の発現を変更させることによって、疾患、障害または感染症を治療または予防するための医薬品の調製における、請求項1から25または28のいずれか一項に記載の、siRNA分子および担体ならびに任意に光感作薬の使用。
【請求項43】
前記患者において1つ以上の標的遺伝子の発現を変更させることによって、疾患、障害または感染症を治療または予防するための医薬品の調製における、請求項36に記載の細胞または細胞集団の使用。
【請求項44】
前記医薬品が、異常な遺伝子発現によって代表される、または1つ以上の遺伝子の抑制から利益を受ける疾患または障害、好ましくは癌を治療するためのものである、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
患者において疾患、障害または感染症を治療または予防する方法であって、請求項1から35のいずれか一項に記載の方法に従ってsiRNA分子および担体を1つ以上の細胞内にin vitro、in vivoまたはex vivoで導入すること、および必要な場合には前記細胞を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項46】
患者において疾患、障害または感染症を治療または予防する方法であって、請求項36に記載の細胞または細胞集団を前記患者に導入することを含む方法。
【請求項47】
異常な遺伝子発現によって代表される、または1つ以上の遺伝子の抑制から利益を受ける疾患、好ましくは癌を治療するために使用する、請求項45または46に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【公表番号】特表2010−504080(P2010−504080A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518954(P2009−518954)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002569
【国際公開番号】WO2008/007073
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(503195012)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002569
【国際公開番号】WO2008/007073
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(503195012)
【Fターム(参考)】
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