説明

光学積層体の製造方法

【課題】基板上に塗布されたリオトロピック液晶化合物の水溶液が等方相から液晶相に相転移した後、液晶相から水分が蒸発して配向膜が形成される過程においてリオトロピック液晶分子相互間に配向欠陥を生じ難い、リオトロピック液晶化合物の配向層を有する光学積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】基板と、リオトロピック液晶化合物の配向層とを有する光学積層体の製造方法であって、リオトロピック液晶化合物と、酸性官能基を有するアゾ系色素化合物と、水とを混合して、等方相状態の水溶液を調製する工程Aと、前記工程Aにより調製された水溶液をラビング処理された基板上に一方向に塗布し、水分を蒸発させることにより、リオトロピック液晶化合物の配向層を形成する工程Bとを含む光学積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学積層体の製造方法に関し、特に、配向欠陥が生じにくい光学積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種のディスプレイに使用される光学積層体の製造方法が種々提案されている。例えば、特開2002−311246号には、透明基板の表面をラビング処理し、次いでそのラビング処理面に平板状色素を含有する水溶液を塗布し、乾燥して偏光層を形成することにより偏光板を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−311246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の偏光板の製造方法では、透明基板上に塗布された直後において平板状色素を含有する水溶液は光学的に等方相であり、その後乾燥により徐々に水分が蒸発されて高濃度となっていくと、等方相から液晶相への相転移が発生する。
【0005】
かかる相転移後、液晶相においては、水分が蒸発していくに従い液晶を形成している平板状色素分子相互が接近し過ぎることに起因して、平板状色素分子間で分子間相互作用が強くなってしまう。この結果、平板状色素分子の結晶性が高くなり過ぎ、適正な配向状態が崩れる、所謂、配向欠陥が発生してしまう問題がある。
【0006】
本発明は前記従来の問題点を解消するためになされたものであり、基板上に塗布されたリオトロピック液晶化合物の水溶液が等方相から液晶相に相転移した後、液晶相から水分が蒸発して配向膜が形成される過程においてリオトロピック液晶分子相互間に配向欠陥を生じ難い、リオトロピック液晶化合物の配向層を有する光学積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため請求項1に係る光学積層体の製造方法は、基板と、リオトロピック液晶化合物の配向層とを有する光学積層体の製造方法であって、リオトロピック液晶化合物と、酸性官能基を有するアゾ系色素化合物と、水とを混合して、等方相状態の水溶液を調製する工程Aと、前記工程Aにより調製された水溶液をラビング処理された基板上に一方向に塗布し、水分を蒸発させることにより、リオトロピック液晶化合物の配向層を形成する工程Bとを含む。
【0008】
ここに、前記アゾ系色素化合物は、スルホン酸基、カルボン酸基又はこれらの塩基を含有することが望ましい。
前記水溶液におけるリオトロピック化合物の濃度は、5重量%以上15重量%未満であることが望ましい。
前記水溶液が等方相から液晶相に転移する相転移濃度は、23℃において15重量%以上30重量%未満であることが望ましい。
前記配向層の厚みは、0.1μm〜10μmであることが望ましい。
前記配向層の二色比は、50以上であることが望ましい。
前記配向層の二色比は、55〜65であることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る光学積層体の製造方法によれば、配向欠陥の少ないリオトロピック液晶化合物の配向層を有する光学積層体が得られる。さらに、配向欠陥が減少した結果、リオトロピック液晶化学物の配向の度合い(二色比)の高い配向層を有する光学積層体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例に係る光学積層体の偏光顕微鏡写真である。
【図2】比較例に係る光学積層体の偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明に係る光学積層体の製造方法
本発明は、基板と、リオトロピック液晶化合物の配向層とを有する光学積層体の製造方法であって、後述する工程Aと工程Bとを含む。
【0012】
2.工程A
本発明に用いられる工程Aは、リオトロピック液晶化合物と、酸性官能基を有するアゾ系色素化合物と、水とを混合して、等方相状態の水溶液を調製する工程である。このような水溶液では、酸性官能基を有するアゾ系色素化合物を混合することにより、基板上に塗布されたリオトロピック液晶化合物の水溶液が等方相から液晶相に相転移した後、液晶相から水分が蒸発して配向膜が形成される過程においてリオトロピック液晶分子相互間の結晶性が高まり過ぎるのを防止できる。
【0013】
尚、従来における光学積層体の製造方法では、基板上に塗布されたリオトロピック液晶化合物の水溶液が等方相から液晶相に相転移した後、液晶相から水分が蒸発して配向膜が形成される過程において、リオトロピック液晶化合物の結晶性が高くなり過ぎてリオトロピック液晶化合物が高密度に配列する結果、ジグザグ構造を形成することに起因して配向欠陥が発生するものと考えられる。
【0014】
これに対して、本発明の工程Aにより得られる水溶液を使用すれば、リオトロピック液晶化合物が、より直線状に配列しやすく、結果として配向欠陥が少なくなり、配向の度合いが高くなると考えられる。
なお、上記工程Aにより得られる水溶液の結晶性の低下は、X線回折(X−ray diffraction)測定により、入射光を中心とする回折パターンの数が減少することから確認できる。
【0015】
また、上記工程Aにより得られる水溶液は、酸性官能基を有するアゾ系色素化合物だけを含まない水溶液に比べて、23℃における等方相一液晶相転移濃度(Tlm)が、高濃度側に移動する傾向がある。酸性官能基を有するアゾ系色素化合物を含む水溶液のTlmは、好ましくは15重量%〜30重量%である。
【0016】
本発明において、リオトロピック液晶化合物とは、溶媒に溶解した状態で液晶性を示す化合物をいう。上記リオトロピック液晶化合物としては、好ましくは、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、ペリレン系化合物、キノフタロン系化合物、ナフトキノン系化合物、メロシアニン系化合物、及びそれらの混合物である。さらに好ましくは、芳香族ジスアゾ系化合物である。
【0017】
本発明に用いられる酸性官能基を有するアゾ系色素化合物は、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、又はそれらの塩基を有するアゾ系色素化合物である。これらの化合物は、水に対する溶解性に優れ、リオトロピック液晶化合物と混合しても相分離を生じにくい。上記アゾ系色素化合物としては、それ単独では液晶性を示さないものが、上記リオトロピック液晶化合物の結晶性を適度に低下させる上で好ましい。アゾ系色素化合物は、特に好ましくは、2,7−Naphthalenedisulfonic acid, 5-amino-3-[(5-chloro-2-hydroxyphenyl) azo]-4-hydroxy-,disodium salt (通称:モーダント・グリーン28(Mordant Green 28)である。
【0018】
本発明の工程Aで得られる水溶液は、リオトロピック液晶化合物の濃度が、等方相−液晶相転移濃度(Tlm)よりも低く、等方相状態を示す。このような水溶液は、塗布される際にコータの剪断力の影響を受けにくく、ラビング処理によって均一に配向しやすい。上記水溶液の濃度は、好ましくは5重量%以上15重量%未満である。
【0019】
3.工程B
本発明に用いられる工程Bは、上記工程Aにより調製された水溶液をラピング処理された基板上に一方向に塗布し、水分を蒸発させることにより、リオトロピック液晶化合物の配向層を形成する工程である。本工程Bにおいて、水溶液は水分が蒸発することによって、リオトロピック液晶化合物の濃度が、等方相−液晶相転移濃度(Tlm)よりも高くなり、液晶相状態を示す。そして、液晶相状態において、リオトロピック液晶化合物は、基板のラビング処理の影響を受け、ラビング処理方向に対して直交方向に光学紬が発現するように配向する(リオトロピック液晶化合物の種類によっては、ラビング処理方向に対して平行方向に光学軸が発現するように配向する場合もある)。
【0020】
本発明に用いられる基板は、特に制限はないが、平滑性や透明性が高いものが好ましい。上記基板を形成する材料としては、例えば、シクロオレフィン系ポリマーフィルムや、セルロース系ポリマーフィルムが挙げられる。また、基板のラビング処理される表面には、リオトロピック液晶化合物の配向能を高めるための、ビニルアルコール系ポリマーなどからなる配向膜が形成されていてもよい。上記基板の総厚みは、好ましくは25μm〜200μmである。
【0021】
本発明に用いられるラビング処理は、リオトロピック液晶化合物を一方向に配向させるために、基板の表面をラビング布で擦る処理である。上記ラビング処理は、例えば起毛パイルを有するラビング布を巻きつけたラビングローラを一方向に回転させながら、基板の表面に押しつけることにより行なわれる。ラビング布の材質に特に制限はなく、例えばコットンやレーヨンなどが用いられる。
【0022】
本発明に用いられる塗布手段は、リオトロピック液晶化合物を含む水溶液を基板の表面に均一に塗布できるものであれば特に制限はなく、例えば、ワイヤーバー、ギャップコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スロットダイなどを使用することができる。塗布された水溶液の水分を蒸発きせる手段は、自然乾燥、加熱乾燥、又は減圧乾燥である。
【0023】
4.本発明の製造方法により得られる光学積層体
本発明の製造方法により得られる光学積層体は、基板と、リオトロピック液晶化合物の配向層とを有する。上記配向層の厚みは、特に制限はないが、例えば0.1μm〜10μmである。上記配向層は、リオトロピック液晶化合物が可視光領域に吸収を有する場合は、偏光膜として用いられ得る。この場合、配向層の二色比は好ましくは50以上であり、さらに好ましくは55〜65である。
【0024】
5.用途
本発明の製造方法により得られる光学積層体の用途は、特に制限はないが、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等である。
【0025】
6.実施例と比較例
[実施例]
特開2009−173849号の実施例1に準じて作製した芳香族ジスアゾ系化合物を水に溶解して9重量%濃度の水溶液を作製し、これにモーダント・グリーン28を上記芳香族ジスアゾ系化合物100重量部に対して2重量部混合して、水溶液を調整した。次に、厚み100μmのシクロオレフィン系ポリマーフィルム(日本ゼオン社製「ZEONOR」)からなる基材フィルムの一方の側をラビング処理し、このラビング処理面に上記水溶液を塗布し、自然乾燥で水分を蒸発させて、厚み0.4μmの配向層を形成した。このようにして得られた光学積層体の評価結果を表1に示す。
【0026】
[比較例〕
モーダント・グリーン28を含まないことだけが異なる水溶液を調整し、実施例と同様の方法で光学積層体を作製した。得られた光学積層体の評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上記表1において、酸性官能基を有するアゾ系色素化合物を含有する実施例とアゾ系色素化合物を含有しない比較例とを比較すると、23℃における等方相−液晶相転移濃度(Tlm)は、実施例の方が比較例よりも高くなる。比較例のようにアゾ系色素化合物が含有されていない場合には、水分の蒸発に従ってリオトロピック液晶化合物としての芳香族ジスアゾ系化合物は相互に近接していき比較的低濃度で等方相から液晶相への相転移が発生するが、実施例のようにアゾ系色素化合物を含有していると、アゾ系色素化合物の存在に起因して液晶分子相互が近接できないことから液晶構造の生成を阻害しているために、水がより蒸発して濃度が高くならないと液晶構造を生成できないからであると考えられる。これにより、実施例の場合には、比較例の場合と比較して、水が蒸発しても芳香族ジスアゾ系化合物相互が近接し難くなり、配向欠陥が生じにくくなるものと考えられる。
【0029】
前記のように実施例の方が比較例よりも配向欠陥が生じにくいことから、実施例の二色比は比較例の二色比よりも高くなる。
また、配向欠陥は偏光顕微鏡下において縞模様で観察されるが、実施例に係る光学積層体の偏光顕微鏡写真では、図1に示すように、縞模様は殆ど観察されず、配向欠陥が少ないことが分かる。これに対して、比較例に係る光学積層体の偏光顕微鏡写真では、図2に示すように、多くの縞模様が観察され、配向欠陥が多いことが分かる。
【0030】
7.実施例、比較例で用いた測定方法
(1)等方相−液晶相転移濃度の測定
各種濃度の水溶液のサンプルを複数準備し、2枚のスライドガラスに水溶液を少量挟み込み、冷却加熱ステージ(ジャパンハイテック株式会社製、製品名「10039L」)に設置し、偏光顕微鏡(オリンパス社製 製品名「OPTIPHOT−POL」)を用いて観察した。
【0031】
(2)二色比の測定
クラントムソン偏光子を備える分光光度計(日本分光社製 製品名「U−4100」)を用いて、直線偏光の測定光を入射させ、視感度補正したY値のk1及びk2を求め、下式より算出した。
式;二色比=log(1/k2)/log(1/k1)
ここで、上記k1は、最大透過率方向の直線偏光の透過率を表し、k2は、最大透過率方向に直交する方向の直線偏光の透過率を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、リオトロピック液晶化合物の配向層とを有する光学積層体の製造方法であって、
リオトロピック液晶化合物と、酸性官能基を有するアゾ系色素化合物と、水とを混合して、等方相状態の水溶液を調製する工程Aと、
前記工程Aにより調製された水溶液をラビング処理された基板上に一方向に塗布し、水分を蒸発させることにより、リオトロピック液晶化合物の配向層を形成する工程Bとを含む光学積層体の製造方法。
【請求項2】
前記アゾ系色素化合物は、スルホン酸基、カルボン酸基又はこれらの塩基を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液におけるリオトロピック化合物の濃度は、5重量%以上15重量%未満であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液が等方相から液晶相に転移する相転移濃度は、23℃において15重量%以上30重量%未満であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学積層体の製造方法。
【請求項5】
前記配向層の厚みは、0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光学積層体の製造方法。
【請求項6】
前記配向層の二色比は、50以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の光学積層体の製造方法。
【請求項7】
前記配向層の二色比は、55〜65であることを特徴とする請求項6に記載の光学積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−24969(P2013−24969A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157727(P2011−157727)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】