説明

光学系の設計方法

【課題】 光学設計に必要な計算時間を短縮することを可能とする。
【解決手段】 光学系による収差を、光学系を構成するパラメータ(曲率半径、間隔、屈折率など)で微分してその変化率を計算することにより光学系を設計する方法において、微分した変化率を、光学系を構成するパラメータが微小変動することによるGauss像面の変動の変化率で補正することを特徴とする光学系の設計方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置、液晶露光装置、カメラ、顕微鏡など、あらゆる光学分野に使用される光学系の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の光学系は、光軸上に屈折光学素子または、反射光学素子または、それらを複数枚組み合わせたもので構成され、それらの光学系を構成するパラメータ(曲率半径、間隔、屈折率など)を最適に設計することで収差を補正し、所望の性能を得ていた。
【0003】
最適なパラメータ値を求めるために、現設計時点での収差値と、その設計値のパラメータをわずかに変化した場合の収差の変化率を求め、それらの値から、最小二乗法または減衰最小二乗法(DLS法)によりもっと良い設計解を得ていた。しかし、収差値は、パラメータ値に対して極めて非線形なために、最小二乗法または減衰最小二乗法による最適値を一回で求められることは稀で、何回も繰り返して計算することにより、所望の性能を得ていた。又、どのような光学系をどのような光学素子で構成するかは、かなりの試行錯誤を必要とし、結果的に光学系の設計には、かなりの計算時間を必要としていた。
【0004】
ところが、レンズデータの各面間の光線移動式と屈折式を、光線通過位置や、光線の方向余弦で微分して記憶させることにより、パラメータによる微分が可能であることがFederにより示された(J. Opt. Soc. Am. 58, 1494 (1968)、非特許文献1参照)。これによれば、収差のパラメータによる変化率の計算は著しく速くなり、光学系設計全体にかかる時間の大幅な短縮が可能となる。
【0005】
【非特許文献1】J. Opt. Soc. Am. 58, 1494 (1968)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1には、パラメータを微小変化させたことによる近軸的なGauss像面の移動による収差の変動や、非点収差のパラメータによる変化率を微分で求める方法は示されていない。そこで、本発明は、光学系の設計に必要なこれらの量を微分で求める方法を提供することを課題としている。
【0007】
また、光軸が偏芯することなどにより、光軸に関して回転非対称な光学系では、非点収差の光線追跡式は使えず、光学系に入射する主光線と、主光線から光学系に入射する角度を微小変化させた光線が像面付近で交差する交点位置から非点収差を計算していた。しかし、この計算方法では、高精度な非点収差位置を求めるためには角度をかなり微小変化しなければならないが、あまり微小であると桁落ちによる計算精度の劣化の問題があった。さらにそれをパラメータで微分するとさらに、計算精度上の問題があった。そこで、本発明は、像面付近で交差する交点位置を、主光線から光学系に入射する光線の方向余弦で微分する方法により、この問題を解決することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための第1の手段は、光学系による収差を、光学系を構成するパラメータ(曲率半径、間隔、屈折率など)で微分してその変化率を計算することにより光学系を設計する方法において、微分した変化率を、光学系を構成するパラメータが微小変動することによるGauss像面の変動の変化率で補正することを特徴とする光学系の設計方法である。
【0009】
前記課題を解決するための第2の手段は、光学系による非点収差の、光学系を構成するパラメータ(曲率半径、間隔、屈折率など)による変化率を計算することにより光学系を設計する方法において、光学系の非点収差のパラメータによる変化率を、非点収差の光線追跡式を微分することにより求めることを特徴とする光学系の設計方法である。
【0010】
前記課題を解決するための第3の手段は、光学系による非点収差を計算することにより光学系を設計する方法において、光学系に入射する主光線と、光学系に入射する角度を主光線から微小変化させた光線が、像面付近で交差する交点位置を、主光線の像面での到達位置と像面での方向余弦で表し、それらを主光線から光学系に入射する光線の方向余弦で微分することにより、非点収差を求めることを特徴とする光学系の設計方法である。
【0011】
前記課題を解決するための第4の手段は、光学系による非点収差を計算することにより光学系を設計する方法において、光学系に入射する主光線と、光学系に入射する角度を主光線から微小変化させた光線が、像面付近で交差する交点位置を、主光線の像面での到達位置と像面での方向余弦で表し、それらを主光線から光学系に入射する光線の方向余弦で微分することにより非点収差を求め、光学系を構成するパラメータによる変化率を、この非点収差の式をパラメータで微分することにより求めることを特徴とする光学系の設計方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学系の設計方法により、光学系の設計に必要な近軸的なGauss像面の移動による収差の変動や、非点収差のパラメータによる変化率を微分で求めることが可能となり、光学設計に必要な計算時間を短縮することが可能となる(第1の手段)。また、光軸に関して非対称な光学系でも非点収差を正確に計算することが可能となる(第3の手段)。さらにこの計算式をパラメータで微分することにより、光軸に関して非対称な光学系でも、光学設計に必要な計算時間が大幅に短縮することが可能となる(第2の手段、第3の手段)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
先ず、パラメータを微小変化させたことによる近軸的なGauss像面の移動による収差の変動を計算するためには、近軸光線追跡式のパラメータによる微分を計算する必要がある。その方法が理解し易いように、最初に非特許文献1に記載されたFederによる方法を紹介する。
【0014】
光学系の光軸をx軸、子午線軸をz軸とし、レンズの第(i-1)面から第i面までを光線が通過するときの光線追跡式について考える。なお、本明細書においては、文章中でベクトル記号を使用するとイメージデータを使用しなければならなくなり煩雑になるので、ベクトルの場合、その前にベクトルである旨を明示して代用することにする。式の中では、ベクトルを太文字で表す。又、行列は文章中では[ ]で示すものとし、式中では太文字で表す。
【0015】
(i-1)面及びi面の光線通過点を、それぞれ、(i-1)面及びi面の光線の方向余弦を、それぞれ、(Xi−1,Yi−1,Zi−1)、(X,Y,Z)とする。
【0016】
光線が通過する面の形状及び、方向余弦の関係式より、xは y,zより、Xiは、 Y、Zより求められる。
ここで、(i-1)面からi面までの移動の式を、
【0017】
【数1】

i面での屈折の式(または反射の式)を、
【0018】
【数2】

とする。そして、(1-1)式,(1-2)式をparameter:pで微分する場合のベクトルY、ベクトルY’を以下のように定義する。
【0019】
【数3】

すると、ベクトルY、ベクトルY'の微分は、次のようにベクトルYi−1、ベクトルYi−1'の微分で表わされる。
【0020】
【数4】

ただし、
【0021】
【数5】

となる。
【0022】
次に像面を(F+1)面とし、[CF+1]を単位行列とし、[C’]=[CF+1][TF+1]、[C]=[C’][R]、…、[C’]=[Ci+1][T]、[C]=[C’][R] …(1-11)
とする。 pをi面でのパラメータとすると、pがシフトしても、i面以前には光線追跡に影響を及ぼさない。つまり1≦j≦i−1のとき、
【0023】
【数6】

ゆえに、
【0024】
【数7】

(1-11)より(1-13)は、
【0025】
【数8】

pがi面での曲率半径rまたは非球面係数Cinならば、
【0026】
【数9】

以外はゼロになる。従って(1-14)式は、
【0027】
【数10】

pが(i−1)面とi面での間隔Di−1ならば、
【0028】
【数11】

以外はゼロになる。従って(1-14)式は
【0029】
【数12】

となる。このように、parameterに依存しない微分行列をあらかじめまとめて記憶しておいて計算することにより、計算時間の節約が可能になる。以上がFederによる方法の概略である。
【0030】
次に(1-7)〜(1-10)で表わされるような各偏微分要素について、非球面非偏心の光線追跡式の場合に対して示しておく。
先ず、xはi面での曲率半径および非球面係数により、
【0031】
【数13】

となる。ただし、
【0032】
【数14】

である。従って、
【0033】
【数15】

となり、
【0034】
【数16】

と置くと、
【0035】
【数17】


となる。また、
【0036】
【数18】

とする。これらを用いて、移動式の微分要素を表わすと、
【0037】
【数19】

となる。移動式のパラメータによる微分は、パラメータが曲率半径rの場合、
【0038】
【数20】



【0039】
【数21】

となる。パラメータが曲率半径ri−1の場合、
【0040】
【数22】

となり、パラメータが非球面係数の場合
【0041】
【数23】

となる。またパラメータが間隔Di−1の場合、
【0042】
【数24】

となる。
次に屈折式の微分要素を示す。光線と屈折面の交点での屈折面の法線の方向余弦を(α、β、γ)とすると、
【0043】
【数25】

となる。従って、
【0044】
【数26】

となる。ただし、
【0045】
【数27】

で与えられる。同様にして、
【0046】
【数28】

となる。次に、入射光線ベクトルと屈折面の法線の内積をI、出射光線ベクトルと屈折面の法線の内積をI’
とすると、
【0047】
【数29】

となり、屈折式は、
【0048】
【数30】

となる。これらのyによる微分は、
【0049】
【数31】

となる。同様にして、
【0050】
【数32】

また、方向余弦による微分は、
【0051】
【数33】

となる。さらに、
【0052】
【数34】

と書き換えることができるので、
【0053】
【数35】

となり、屈折式のパラメータによる微分は、
【0054】
【数36】



【0055】
【数37】



【0056】
【数38】

となる。
【0057】
次に、課題を解決するための第1の手段の実施の形態である計算方法について説明する。そのために、最初に、近軸光線追跡式のパラメータによる微分を計算する方法を説明する。ここでいう近軸光線追跡式とは、次のようなものである。すなわち、i面と光線の交点の近軸的な位置をh,i面での光線の光軸となす角をαとすると、
【0058】
【数39】

ただし、最終面I=Fでは(2-2)を計算しない。そして、最終面では、光学系の倍率βが指定されている場合、αを(2-1)の代わりに、
α=α/β …(2-3)
とする。ただし、αは最初の面に入射する前の近軸的な光線と光軸のなす角度である。
また、光学系の倍率が指定されていない場合、(2-3)を計算しない。
【0059】
次にGauss像面の位置dを、光学系の倍率βが指定されていてもいなくても、
=h/α …(2-4)
と計算する。次に光学系の倍率βが指定されていない場合のみ、近軸倍率βを
β=α/α …(2-5)
と計算する。なお光学系の倍率βが指定されている場合、最終面のレンズの曲率半径を
【0060】
【数40】

と計算する。
次に、近軸光線追跡の微分について説明する。
α, hi+hのパラメータpによる微分のベクトルを、
【0061】
【数41】

とする。ただし、最終面では、(2-2)を計算しないので、
【0062】
【数42】

と定義する。すると、漸化式
【0063】
【数43】

が成立する。ただし[G]は次のような2行2列の微分行列である。
【0064】
【数44】

ただし、最終面では、
【0065】
【数45】

となる。パラメータpが、i面の曲率半径rまたは、間隔dとすると、pがシフトしても、i面以前の近軸光線追跡式には影響を及ぼさないので、
【0066】
【数46】

となり、また、近軸光線追跡式においては、
【0067】
【数47】

となるので、
【0068】
【数48】

となる。(2-15)より、dα/dp、dh/dpが求められると、光学系の倍率が指定されていない場合、(2-3),(2-4)より、Gauss像面のパラメータによる変化率dα/dp、近軸倍率のパラメータによる変化率dβ/dpが
【0069】
【数49】

として求められる。また、光学系の倍率が指定されている場合、(2-3)より、αはパラメータにより変動せず、そして、最終面の曲率半径を変動させて、倍率を一定に保持するので、
【0070】
【数50】

となる。次に、個々の偏微分要素を近軸光線追跡式(2-1),(2-2)から求める。先ず、(2-12)の要素は、(2-1),(2-2)より、
【0071】
【数51】

となる。次に
【0072】
【数52】

の要素を求める。先ず、pがi面の曲率半径rの場合、
【0073】
【数53】

次にpがi面と(i-1)面の間隔Dの場合、
【0074】
【数54】

次に、pがi面の2次の非球面係数Ci1の場合、
【0075】
【数55】

以上のようにして、近軸光線式のパラメータによる微分が求められる。
【0076】
次にFederによる方法で求められた横収差のパラメータによる微分をもとに、Gauss像面の移動による収差の変動を微分で補正する方法について示す。図1において、現在のレンズデータによって、光線ABが最終面FからGauss像面に向けて進行したとする。Gauss像面の光軸での位置は最終面FからDの距離にあり、Gauss像面での光線到達位置は、光軸からGB=yF+1の距離にある。パラメータpが微小変動したことによる光線がA’B’とする。一方、パラメータpが変動したことにより、Gauss像面位置がDからDF+1’に移動する。すると光線は延長して、A’C’となる。パラメータpによる収差変動量は、BB’=Δyでは無くて,Bから光軸に平行に引いて移動したGauss像面との交点Cにより、CC’=Δy’となる。図1より明らかなように、BB’とCC’はほぼ等しく、Federの方法によりskew光線追跡式を微分して求めたdy/dp、dy/dDと、近軸光線追跡式を微分して求めたdD/dpにより、
【0077】
【数56】

であるので、
【0078】
【数57】

となり、パラメータpが微小変動したことによりGauss像面位置が移動したことによる補正された収差のパラメータによる微分は、
【0079】
【数58】

となり、同様にして、

となる。近軸光線追跡式の微分とSkew光線追跡式の微分とを区別する目安は、前者が最終面の間隔や曲率半径といったパラメータをパラメータで微分するのに対し、後者は像高や光線の方向余弦をパラメータで微分する量であるということである。
【0080】
なお光学系の倍率βが指定されている場合、パラメータpが変動すると、最終面のレンズの曲率半径が(2-6),(2-7)により変動するので、補正された収差のパラメータによる微分は、Federの方法によりskew光線追跡式を微分して求めたdy/drと、近軸光線追跡式を微分して求めたdr/dpにより、(2-33),(2-34)の式にさらに加えて、
【0081】
【数59】

となる。
【0082】
以上のように、近軸光線追跡とその微分から、収差のパラメータによる微分をパラメータによるGauss像面の移動分だけ補正するまでのアルゴリズムを図2に示す。図2において、先ず演算処理S1により(2-1),(2-2)のような近軸光線追跡をし、光線追跡の各面毎に演算処理S2により(2-20)〜(2-29)のような近軸微分要素を計算し、(2-8),(2-9),(2-11),(2-12)のような形にまとめる。近軸光線追跡が最終面まで終わると、演算処理S3により(2-3)〜(2-7)のように近軸量を計算し、演算処理S4により(2-15)のような近軸のパラメータpによる微分を計算する。次に、skew計算のスケジュールに従って演算処理S5によりskew光線追跡をし、光線追跡の各面毎に演算処理S6により(1-17)〜(1-85)のようなskew微分要素を計算する。Skew光線追跡が最後まで終わると、演算処理S7により(1-11)のようにskew微分行列を計算し、演算処理S8により(1-15),(1-16)のように収差のパラメータpiによる微分を計算する。最後に収差のパラメータによる微分と近軸微分量から、演算処理S9により(2-33)〜(2-36)のようなGauss像面移動による補正をする。Skew光線追跡のスケジュールが全て終われば、収差のパラメータによる微分の計算を終了する。
【0083】
次に、課題を解決する第2の手段の実施の形態である、非点収差のパラメータによる変化率を微分で求める方法を説明する。主光線がi面によって屈折するとき、主光線とi面の交点と、メリジオナル(子午的)結像位置との距離をM,サジタル結像位置との交点をSとし、(i-1)面からi面までの光線の長さをWとし、i面に入射する光線と、i面との交点でi面との法線とのなす角の余弦をI,その法線とi面より屈折する光線光線のなす角の余弦をI’とし、交点でのメリジオナル的、およびサジタル的曲率半径の逆数をそれぞれ、ρおよびρとすると、
【0084】
【数60】



【0085】
【数61】

となる。(3-1)および(3-2)を変形すると、
【0086】
【数62】

となる。ただし、
=nI’−ni−1I …(3-6)
である。従って、parameterpがi面の曲率半径や非球面係数であるとき、または、(i-1)面の間隔Di−1であるとき、pを変化させても、(i-1)面以前の光線追跡には影響を及ぼさず、(i-1)面からi面までの光線の長さWには影響を及ぼす。従って、
【0087】
【数63】

となる。そして、SおよびMのPによる微分は、
【0088】
【数64】

となる。
次に、dSi+1/dp及びdMi+1/dpは、dS/dp及びdM/dpを用いて、
【0089】
【数65】

となるが、後述するように、微分要素を検討することにより、WやI、I’がx、yi+1、Yの関数であることがわかるので、
【0090】
【数66】

とすることができる。(3-1),(3-2)式は子午面内での式であるので、(3-13),(3-14)のようにz方向の微分を考慮する必要はない。ここで注意すべきことは、(1-22)と同様にして、
【0091】
【数67】

であるので、j≧i+1の場合、
【0092】
【数68】

であるが、(1-34),(1-35)から分かるように、j=iの場合は、(3-16)は成立しない。しかも、(1-34),(1-35)から、
【0093】
【数69】

であるが、
i−1=0 …(3-18)
の場合は、(3-17)より、dy/dpから、dx/dpを求めることはできない。
【0094】
従って、(3-13),(3-14)のように、y、Yの微分にまとめることができず、x、yi+1、Yの微分で表わすことが必要になる。j≧i+2の場合、yi−1、Yi−1の微分にまとめることが可能になり、
【0095】
【数70】

となる。
j面でのdM/dp、dS/dp、dy/dp、dY/dpを一つのベクトルの成分とすると、(j-1)面でのベクトルとの関係は、次のような偏微分行列により、
【0096】
【数71】

となる。(3-21)における部分行列
【0097】
【数72】

は、(1-7)、(1-8)でy方向成分のみを取った行列により、
【0098】
【数73】

となる。
【0099】
【数74】

と置き、レンズデータの最終面をF面とすると、F面での微分ベクトルは、
【0100】
【数75】

となり、微分行列をF面から逆に(i+2)面までかける過程で、次々と非点収差のparameterによる微分が求められるので、計算時間の省略ができる。微分ベクトルのj=i+1の場合は(3-13),(3-14)より、j=iの場合は(3-9),(3-10)より求められる。次に各微分要素を求める。
<3−1>
先ず(3-9),(3-10)のj=iの場合の各微分要素を求める。(3-4),(3-5)においてそれぞれ、
【0101】
【数76】

と置くと、(3-11),(3-12)における偏微分要素は、
【0102】
【数77】

および、
【0103】
【数78】

となる。
(3-1-4),(3-1-7)において、
【0104】
【数79】

は、(1-64)より、
【0105】
【数80】

となるので、
【0106】
【数81】

となる。一方、(3-11),(3-12)における全微分要素dW/dpは、(3-3)より、
【0107】
【数82】

となる。(3-1-11)において、dx/dpは、pがi面の曲率半径の場合(1-34)で、i面の非球面係数の場合(1-37)で与えられる。(3-1-11d)において、
【0108】
【数83】

であるので、
【0109】
【数84】

となる。
【0110】
(3-1),(3-2)はメリジオナル面内での光線追跡なので、z方向は全てゼロとなる。
【0111】
従って、(1-58)より、
【0112】
【数85】

となり、(3-1-14)をpで微分して、
【0113】
【数86】

となる。(3-1-15)のdα/dp、dβ/dpは、
【0114】
【数87】

であるが、
【0115】
【数88】

はそれぞれ、(1-76),(1-51),(1-77),(1-52)である。
がi面の曲率半径や非球面係数であるとき、(1-49),(1-21)より、
【0116】
【数89】

より、子午面内ではy=h、z=0、γ=0であるので、
【0117】
【数90】

となり、
【0118】
【数91】

となる。また、
【0119】
【数92】

は、pがi面の曲率半径の場合(1-35)により、i面の非球面係数の場合(1-38)により、(i-1)面の間隔Di−1の場合(1-48)により与えられる。
なお、球面の場合、
【0120】
【数93】

である。
<3−2>
(3-11),(3-12)における
【0121】
【数94】

は、(3-1-3)から(3-1-8)のiに (i+1)を置き換えたものに等しい。一方
【0122】
【数95】

は、
【0123】
【数96】

と置くと、
【0124】
【数97】

となる。次に(3-11),(3-12)における全微分を求めると、
dS/dp、dM/dpは既に求められているが、dWi+1/dpは、
【0125】
【数98】

より、
【0126】
【数99】

となる。(3-2-6)において、 (3-16)のように、dxi+1/dpをdyi+1/dpで表わすことはできるが,dx/dpをdy/dpで表わすことはできない。また、
【0127】
【数100】

はそれぞれ、
【0128】
【数101】

となる。ρSi+1、ρMi+1はそれぞれ、(i+1)面のサジタル的およびメリジオナル的曲率半径の逆数なので、球面の場合は
【0129】
【数102】

であるが、非球面の場合は<3−4>を参照されたい。
また、(1-5)および(1-6)より、さらに
【0130】
【数103】

以外はゼロになることにより、
【0131】
【数104】

となる。従って、(3-2-6),(3-2-7),(3-2-8),(3-2-9)において、dyi+1/dp、dY/dp
【0132】
【数105】

となる。
【0133】
【数106】

はそれぞれ,(1-26),(1-30),(1-65)より、
【0134】
【数107】

はそれぞれ、(1-35)または(1-38),(1-82),(1-41)または(1-44)より求められる。
【0135】
【数108】

は(1-58)より求められる。(3-13)、(3-14)において、dx/dpは、p面の曲率半径の場合(1-34)で、i面の非球面係数の場合(1-37)で与えられ、(i-1)面の間隔Di−1の場合(3-1-12)で与えられる。(3-11),(3-12)に(3-2-6),(3-2-7),(3 -2-8),(3-2-9)を代入し、
dyi+1/dp、dY/dp、等でまとめると、
【0136】
【数109】

となる。つまり、(3-13),(3-14)の偏微分要素は、j=i+1として、
【0137】
【数110】

となる。

<3−3>
j≧i+2の場合、
【0138】
【数111】

において、
【0139】
【数112】

はそれぞれ、(3-1-3)から(3-1-8)のiにjを置き換えたものに等しい。
【0140】
【数113】

はそれぞれ、(3-2-3),(3-2-4)のi+1にjを置き換えたものに等しい。また、(3-3),(3-16)より、
【0141】
【数114】

となり、さらに
【0142】
【数115】

となるので、(3-3-1),(3-3-2)に(3-3-3)から(3-3-7)を代入して、(3-2-17)〜(3-2-22)を用いて整理すると、
【0143】
【数116】

となる。つまり、(3-19),(3-20)の微分要素は、
【0144】
【数117】

となる。

<3−4>
非球面の場合、サジタル的曲率半径の逆数は、
【0145】
【数118】

となる。σは(1-20)で表わされる。
(3-4-1)のparameterによる微分は、(1-48)を用いて、
【0146】
【数119】

となり、
【0147】
【数120】

となる。ただし、
【0148】
【数121】

より、
【0149】
【数122】

となる。z方向の成分がゼロなので、
【0150】
【数123】

となり、これを代入すると、
【0151】
【数124】

となる。

【0152】
【数125】

となり、
【0153】
【数126】

となる。dy/drは(1-35)により求められる。
がi面の非球面係数である場合、
【0154】
【数127】

より、
【0155】
【数128】

となる。dy/dC1nは、(1-38)により求められる。なお、(3-2-17)における
【0156】
【数129】

は、
【0157】
【数130】

となる。

<3−5>
メリジオナル的曲率半径の逆数を求めると、非球面の場合、メリジオナル的曲率半径の逆数は、
【0158】
【数131】

となる。
【0159】
【数132】

【0160】
【数133】

より、
【0161】
【数134】

となる。ここで(1-48)を用いると、
【0162】
【数135】

となる。また、
【0163】
【数136】

となる。τ、ν
【0164】
【数137】

と定義し、また(1-21)、(3-5-5)に代入すると、
【0165】
【数138】

となる。pが曲率半径rのとき、
【0166】
【数139】

となり、(3-5-12),(3-5-13)を(3-5-11)に代入すれば、求める微分が得られる。(3-4-9)と同様に、dy/drは(1-35)により求められる。pが非球面係数Cinのとき、
【0167】
【数140】

となり、(3-5-14),(3-4-15)を(3-5-11)に代入すれば、求める微分が得られる。(3-4-11)と同様に、dy/dCinは(1-38)により求められる。なお、(3-2-18)における
【0168】
【数141】

は、
【0169】
【数142】

となる。

<3−6>
次に反射面の場合の非点収差のパラメータによる微分を求める。反射面の場合、非点収差の追跡式は、
【0170】
【数143】


となる。
【0171】
【数144】

と置くと、
【0172】
【数145】

となる。(3-6-5),(3-6-6)において、
【0173】
【数146】

はそれぞれ、(3-1-11)または
(3-1-11d),(3-1-15)により求められる。また、(3-11)における偏微分要素は、
【0174】
【数147】

となる。また、(3-12)における偏微分要素は、
【0175】
【数148】






<3−7>
最後に像面での非点収差のパラメータによる微分の計算方法を示す。像面を(F+1)面とすると、像面からの非点収差は、F面(レンズデータの最終面)での非点収差から、
【0176】
【数149】

【0177】
【数150】

のように求められる。ただし、
【0178】
【数151】

である。(3-7-3)をパラメータpで微分すると、
【0179】
【数152】

であるので、
【0180】
【数153】

となる。同様にして、
【0181】
【数154】

となる。従って最終面での非点収差の偏微分行列は、(3-16)より、
【0182】
【数155】

となる。F≧iの場合、(3-24)より、
【0183】
【数156】



F=i以外の場合、
【0184】
【数157】

と置くと、(3-24)より、
【0185】
【数158】

となる。以上、非点収差のパラメータによる微分の計算方法を図示すると、図3のようになる。図3において、各面の光線追跡中に、演算処理S10は(3-9),(3-10)により計算し、演算処理S11は(3-2-17)〜(3-2-20)により、演算処理S12は(3-2-21),(3-2-22)により計算する。演算処理S13は
(3-2-3),(3-2-4),(3-3-10)〜(3-3-13),(3-22)により計算する。光線追跡後に、演算処理S14は(3-13),(3-14)により計算し、演算処理S15は、(3-7-9)により計算し、最後に演算処理S16は(3-7-10),(3-7-11)により計算する。
【0186】
パラメータの変動によりGauss像面が移動した場合、非点収差のパラメータによる微分は、近軸光線追跡の微分により求めたdD/dpより、
【0187】
【数159】

となる。
【0188】
次に発明を解決するための第3の手段の実施の形態である、非点収差を主光線から光学系に入射する光線の方向余弦で微分する方法により、計算する方法を示す。図4において、入射光線の方向余弦YをΔYだけ変動させたとき、Gauss像面GBでの光線ABが光線A'B'となる場合、ABとA’B’の交点をCとする。Cから光軸(x軸)に平行に引いた直線とGauss像面との交点をBとする。Gauss面上での到達位置がGB=yF+1からGB’=yF+1+ΔyF+1と変化し,∠BCB=θから∠BCB'=θ+Δθと変化した場合、Gauss像面からレンズ方向へのメリジオナル像面位置をmとすると、図4により明らかなように、
【0189】
【数160】

となり、これを方向余弦Yで表わせば、
【0190】
【数161】

となる。
【0191】
【数162】

と表わすことができるので、(4-2)より、
【0192】
【数163】

となる。
【0193】
また図5のように、像面付近で子午面(xy面)内で光軸からθ傾いている光線ABがあるとき、光軸に平行でAと交差する軸をx’軸として、x’軸とGauss像面との交点をBとし、∠BAB=θとする。入射光線の方向余弦を子午面からΔZ0だけ変動させたときのGauss像面での光線AB’の到達位置の変化を
BB’=ΔzF+1、角度の変化を∠BAB’=Δφとし、S像位置をAとし、AB=s’、AB=sとする。図5より明らかなように、
【0194】
【数164】

ただし、
【0195】
【数165】

となる。
Δφが微小であることから、
【0196】
【数166】

と近似でき、(4-6)〜(4-8)より、
【0197】
【数167】

となり、
【0198】
【数168】

と表わすことができるので、
【0199】
【数169】

となる。(4-5),(4-12)におけるY、Zによる微分量は、(1-7)、(1-8)、(1-11)より、
【0200】
【数170】

となる。
【0201】
課題を解決するための第4の手段の実施の形態である、非点収差を、主光線から光学系に入射する光線の方向余弦で微分することにより計算する方法を、さらにパラメータで微分する方法について説明する。(4-5)、(4-12)をパラメータpで微分すると、それぞれ、
【0202】
【数171】

となる。(5-1),(5-2)における1次微分は前記の方法で求められるが、2次微分
【0203】
【数172】

は次のようにして求められる。すなわち、パラメータpiがi面の曲率半径または非球面係数の場合、
【0204】
【数173】

となる。(5-3)は行列Tから行列TF+1まで[2(F-i+1)+1]個の行列のpによる全微分を含む項の和である。次に(5-3)における微分行列のパラメータによる全微分を偏微分と漸化式で表わす。その前に、(1-3),(1-4)と同様にして、次のようにベクトルを定義する。
【0205】
【数174】

すると、微分行列のパラメータによる全微分は以下のようになる。
【0206】
【数175】

【0207】
(5-7)における
【0208】
【数176】

と,(5-8)における
【0209】
【数177】

は、2階テンソルの行列をベクトルで微分しているので、3階テンソルになる。(5-6)から(5-10)を(5-3)に代入し、(5-1),(5-2)に代入することにより,非点収差の追跡式を微分するのとは別の方法で、非点収差のパラメータによる微分が得られる。
【実施例】
【0210】
以上の計算方法により、図2および図3のようなアルゴリズムを用いることにより、Federの収差のパラメータによる微分がさらに実用的になる。その実施例を次に示す。
【0211】
自動修正(DLS法)の計算時間について、収差のパラメータによる微分を差分近似するか、微分するかの違いにより計算時間にどれ程違いがあるか調査するために、レンズ面数が40面の投影レンズで、目標値数が50(その内近軸光線追跡による目標値が2個で、非点収差の目標値が6個)で、パラメータ数を1個から40個まで増やした場合の、両者の方法による自動修正の1サイクル毎の計算時間を測定した。その結果を図6に示す。図6の(1)が差分で、(2)が微分である。差分の場合、パラメータ数にほぼ比例して計算時間が増加しているのに対して、微分の場合は計算時間がほとんど増加しないことがわかる。
またparameter数を10毎増やした場合の計算時間の値を表1に示す。パラメータ数が5個以上ならば、差分による近似よりも微分の方が速く、パラメータ数が40個ならば、微分は差分の約5分の1の計算時間ですむ事がわかった。なお差分と微分とでは、メリットファンクションに大きな違いはないが、
若干微分の方が小さくなる場合が多い。
(表1)
【0212】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0213】
【図1】Gauss像面が移動した場合の収差のパラメータによる微分を補正する方法を示す図である。
【図2】Gauss像面が移動した場合の収差のパラメータによる微分を補正する計算のアルゴリズム図である。
【図3】非点収差のパラメータによる微分を計算する方法を示す図である。
【図4】光学系に入射する光線の方向余弦が微小変化させてメリジオナル像面移動位置を計算する方法 を示す図である。
【図5】光学系に入射する光線の方向余弦が微小変化させてサジタル像面移動位置を計算する方法を示す図である。
【図6】自動修正において収差のパラメータによる微分を差分近似するか微分するかによる計算時間の相違を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系による収差を、光学系を構成するパラメータ(曲率半径、間隔、屈折率など)で微分してその変化率を計算することにより光学系を設計する方法において、微分した変化率を、光学系を構成するパラメータが微小変動することによるGauss像面の変動の変化率で補正することを特徴とする光学系の設計方法。
【請求項2】
光学系による非点収差の、光学系を構成するパラメータ(曲率半径、間隔、屈折率など)による変化率を計算することにより光学系を設計する方法において、光学系の非点収差のパラメータによる変化率を、非点収差の光線追跡式を微分することにより求めることを特徴とする光学系の設計方法。
【請求項3】
光学系による非点収差を計算することにより光学系を設計する方法において、光学系に入射する主光線と、光学系に入射する角度を主光線から微小変化させた光線が、像面付近で交差する交点位置を、主光線の像面での到達位置と像面での方向余弦で表し、それらを主光線から光学系に入射する光線の方向余弦で微分することにより、非点収差を求めることを特徴とする光学系の設計方法。
【請求項4】
光学系による非点収差を計算することにより光学系を設計する方法において、光学系に入射する主光線と、光学系に入射する角度を主光線から微小変化させた光線が、像面付近で交差する交点位置を、主光線の像面での到達位置と像面での方向余弦で表し、それらを主光線から光学系に入射する光線の方向余弦で微分することにより非点収差を求め、光学系を構成するパラメータによる変化率を、この非点収差の式をパラメータで微分することにより求めることを特徴とする光学系の設計方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−350759(P2006−350759A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177283(P2005−177283)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】