説明

光学素子の製造方法

【課題】 本発明の目的は、より安価で量産性の高い偏光子等の光学素子の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、基板上に複数の金属ワイヤグリッドを備えた光学素子の製造方法であって、前記金属ワイヤグリッドを電解めっき法で作製することを特徴とする光学素子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、特に可視スペクトル用のワイヤグリッド偏光子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学素子、例えば、特定の偏光の光を効率的に透過するとともに、直交する偏光の光を効果的に反射する広帯域幅ワイヤグリッド偏光子等が種々開発されている(特許文献1等)。
【0003】
現在、実用化されている無機偏光子は、金属のエンボスパターンを形成するため、基板上にレジストパターニング後、RIE(Reactive Ion Etching)等でドライエッチングを行っている。しかし、エンボス形状がナノオーダーになると、エッチングパラメータを厳密に制御しなければならず、精度の良い偏光子を高い歩留まりで生産することが困難であった。 このため、より安価で量産性の高い、高精度な偏光子等の光学素子を製造することが求められていた。
【特許文献1】特表2003−502708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする問題点は、前述した従来技術における問題点である。
従って、本発明の目的は、より安価で量産性の高い偏光子等の光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、下記1を提供するものである。
1.基板上に複数の金属ワイヤグリッドを備えた光学素子の製造方法であって、前記金属ワイヤグリッドを電解めっき法で作製することを特徴とする光学素子の製造方法。
【0006】
また、本発明は、下記2.〜6.をそれぞれ提供するものである。
【0007】
2.めっき浴を用いて電析を行う、前記1記載の光学素子の製造方法。
【0008】
3.電解めっきで第1層目のワイヤーグリッドを形成後、電解めっきもしくは無電解めっきを少なくとも1回繰り返し、多層のワイヤーグリッドを作製する、前記1又は2記載の光学素子の製造方法。
【0009】
4.2種類以上の金属を使用し、多元系の金属ワイヤグリッドを作製する、前記1〜3の何れかに記載の光学素子の製造方法。
【0010】
5.前記電解めっき法で成長させる金属が、Al、Ag及びAuからなる群より選択された1種類以上の金属を含む、前記1〜4の何れかに記載の光学素子の製造方法。
【0011】
6.前記光学素子として、可視スペクトル用の偏光子を作製する、前記1〜5の何れかに記載の光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学素子における金属ワイヤグリッドを、電解めっき法を用いて作製することで、高精度な偏光子等の光学素子が、より安価で量産性高く得られる。また、多元系ならびに多層の金属ワイヤグリッドを容易に作製でき、材料選択の幅が広がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明に係る光学素子の製造方法について、その好ましい実施態様としての実施例を挙げて説明する。尚、本発明は、かかる実施例により何等制限されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1に、本実施例に係る可視スペクトル用の偏光子の製造工程の一例を示す。
【0015】
(1)透明電極層の成膜
図1(a)に示すように、石英等のガラス基板11上に、透明電極層(ITO等)12を成膜する。
【0016】
(2)レジストパターン形成
図1(b)に示すように、透明電極層12の上に、通常の方法によりレジストパターン13を形成する。レジスト13は、凹部の溝が形成されるように、複数の平行なリブ状に形成する。
【0017】
(3)電解めっき
次いで、図1(c)に示すように、電解めっきを用いてレジスト13によって形成された凹部に、Alからなる金属層14を成長させる。電解めっきの条件としては、より量産性高く、精度のよい偏光子を得る観点からの所望の条件が採用される。また、ここで行う電解めっき法の一例としては、図2に示すめっき浴20を用いて電析を行う方法等が挙げられる。
【0018】
図2に示すように、めっき浴20は、AlCl3と有機塩化物との混合塩からなる溶液21と、Alを電析させるための基板からなる陰極22と、Alからなる正極23と、から構成されている。
【0019】
ここで、溶液21の混合塩中の有機塩化物としては、例えば、BPC(1-butylpyridinium chloride)、EMIC(1-ethyl-3-methylimidazolium chloride)等が挙げられる。
【0020】
陰極22を構成する基板は、Alを電析させるための基板であって、前述の通り、石英等のガラス基板11上に透明電極層(ITO等)12が成膜され、更に所定のレジスト13(図2に図示せず)を備えるものが用いられる。
【0021】
正極23を構成する材料は、導電性を有するものである限り特に制限されないが、電析させる金属と同一の材料であることが好ましい。従って、本実施例においては、正極として、陰極と同じAlからなる金属を用いることが好ましい。なお、正極は、上記のような金属に限られず、カーボン材料等の導電性を有するものであってもよい。
【0022】
また、電析条件の一例としては、電流密度:5〜30mA・cm-2、浴の温度:20〜25℃、通電量:10〜50C・cm-2、電極間距離:1〜10cm、等が挙げられる。
【0023】
(4)レジスト剥離,ワイヤグリッド形成
金属層14が成長した後、図1(d)に示すように、レジスト13を剥離し、金属ワイヤーグリッド15を作製する。これにより、金属ワイヤグリッド15を備えた高精度な光学素子としての偏光子10が、安価で量産性よく作製できる。
【実施例2】
【0024】
図3に、本実施例に係る可視スペクトル用の偏光子の製造工程の他の例を示す。
【0025】
(1)透明電極層の成膜
図3(a)に示すように、石英等のガラス基板31上に、透明電極層(ITO,ZnO等)32を成膜する。
【0026】
(2)レジストパターン形成
図3(b)に示すように、透明電極層32の上に、通常の方法によりレジストパターン33を形成する。レジスト33は、凹部の溝が形成されるように、複数の平行なリブ状に形成する。
【0027】
(3)電解めっき,第1層目金属ワイヤーグリッドの形成
次いで、図3(c)に示すように、電解めっきを用いてレジスト33によって形成された凹部に、第1層目の金属層34を成長させる。電解めっきの条件としては、より量産性高く、精度のよい偏光子を得る観点からの所望の条件が採用される。また、ここで行う電解めっき法の一例としては、実施例1で詳述しためっき浴を用いて電析を行う方法(図2)等が挙げられる。この電解めっきにより、金属層34を成長させて、第1層目の金属ワイヤーグリッド35を形成する。
【0028】
(4)複数層からなる金属ワイヤーグリッドの形成
図3(d)に示すように、電解めっきで第1層目の金属ワイヤーグリッド35を形成した後、少なくとも1回、所望の層構成に至るまで電解めっきもしくは無電解めっきを繰返す。これにより、所望の層構成からなる金属ワイヤーグリッド36が形成される。なお、図3(d)では、AlとAg等の金属の種類が異なる2層構成の金属ワイヤーグリッド36を示しているが、金属の種類及び積層の数については特に制限を受けない。
【0029】
(5)レジスト剥離
図3(e)に示すように、レジスト33を剥離することで、金属ワイヤーグリッド36を備えた高精度な光学素子としての偏光子30が、安価で量産性よく作製できる。
【実施例3】
【0030】
次に、電解めっき法で成長させる金属としてAl,Agの2種類の金属を用い、電解めっき法により7層構造のワイヤグリッドを形成する実施例を示す。図4は、本実施例の製造方法により形成した、2種類の金属からなるワイヤグリッド(積層合金)を備えた可視スペクトル用の偏光子の一例を示す。図4(a)は、実施例3に係る偏光子の斜視図、図4(b)は、図4(a)の偏光子のX−X方向断面図である。
【0031】
本実施例に係る偏光子の製造方法は、電解めっき法で成長させる金属としてAl及びAgの2種類の金属を用いて交互に7層の金属層を形成する以外は、前述した実施例1及び2と同様の工程からなる。従って、本実施例3において特に詳述しない点については、前記の実施例1及び2で説明した事項が適宜適用される。
【0032】
本実施例においては、ガラス基板41に設けた透明電極層42上にレジストを設けた後、AlとAgで交互に電解めっきを行う。これにより、レジストを剥離した後には、図4に示すように、AlとAgが交互に積層形成された複数の金属ワイヤグリッド(多元系で多層の金属ワイヤグリッド)43を備えた高精度な光学素子としての偏光子40が、安価で量産性よく容易に得られる。
〔変更形態〕
【0033】
本発明は、前述した各実施形態、実施例を好適に提供するものであるが、これらの実施形態、実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【0034】
金属ワイヤグリッドを形成するための金属としては、Al、Ag以外にも、Auを好適に使用でき、またこれらを混合したものも使用できる。その他、AlとAgの固溶体ならびに金属間化合物でもよい。
【0035】
光学素子として、実施例では、可視スペクトル用の偏光子を作製したが、本発明においては、回折格子等にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、より安価で量産性の高い偏光子等の光学素子の製造方法として、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】可視スペクトル用の偏光子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】電解めっき法を実行するためのめっき浴を示す概略図である。
【図3】可視スペクトル用の偏光子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図4】2種類の金属からなる7層ワイヤグリッドを備えた可視スペクトル用の偏光子の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の金属ワイヤグリッドを備えた光学素子の製造方法であって、前記金属ワイヤグリッドを電解めっき法で作製することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記電解めっき法が、めっき浴を用いて電析を行う方法である、請求項1記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
電解めっきで第1層目のワイヤーグリッドを形成後、電解めっきもしくは無電解めっきを少なくとも1回繰り返し、多層のワイヤーグリッドを作製する、請求項1又は2記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
2種類以上の金属を使用し、多元系の金属ワイヤグリッドを作製する、請求項1〜3の何れかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記電解めっき法で成長させる金属が、Al、Ag及びAuからなる群より選択された1種類以上の金属を含む、請求項1〜4の何れかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記光学素子として、可視スペクトル用の偏光子を作製する、請求項1〜5の何れかに記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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