光学装置および光学装置を用いた顕微鏡
【課題】 本発明は、回折限界を超えた2次元の解像を得ることができる光学装置を提供する。
【解決手段】 被検体(SA)を観察する光学装置(100)が、中空の球体の一部が切り取られ凸面と凹面とを有する球殻状であり、且つ被検体から発生するエバネッセント光を伝播光に変換するレンズ(HL)と、レンズの凸面側に配置され、電場が特定の偏光方向にのみ振動している光を透過する偏光領域を有し、偏光領域の偏光方向が全体として中心軸に対して軸対称になっている偏光素子(PO)と、を備える。
【解決手段】 被検体(SA)を観察する光学装置(100)が、中空の球体の一部が切り取られ凸面と凹面とを有する球殻状であり、且つ被検体から発生するエバネッセント光を伝播光に変換するレンズ(HL)と、レンズの凸面側に配置され、電場が特定の偏光方向にのみ振動している光を透過する偏光領域を有し、偏光領域の偏光方向が全体として中心軸に対して軸対称になっている偏光素子(PO)と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置及び該光学装置を用いた顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に示されているように、金属の薄膜を使用して回折限界を超えた光であるエバネッセント光を伝播光に変換する円筒を半分に割った半円筒形のレンズが知られている。また、この半円筒形のレンズは、エバネッセント光を伝播することにより被検体を入射光の波長よりも小さく解像する超解像で観測することを可能にしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Liu,Z.et al.Far−field optical hyperlens magnifying sub−diffraction−limited objects. Science 315,1686(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、半円筒形のレンズでは、円筒の軸に垂直であり光の検出面に平行な面にのみの超解像しか得ることができない。つまり、半円筒形のレンズでは一次元の超解像しか得ることができない。
そこで、二次元の超解像を得ることができる光学装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の光学装置は、被検体を観察する光学装置において、中空の球体の一部が切り取られ凸面と凹面とを有する球殻状であり、且つ被検体から発生するエバネッセント光を伝播光に変換するレンズと、レンズの凸面側に配置され、電場が特定の偏光方向にのみ振動している光を透過する偏光領域を有し、偏光領域の偏光方向が全体として中心軸に対して軸対称になっている偏光素子とを備える。
【0006】
第2観点の顕微鏡は、第1観点の光学装置と、伝播光を集光して像面に実像をつくる対物レンズと、備え、被検体がレンズの凹面側に配置されて使用される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光学装置は、不要な偏光成分の光であるTE波と分離して被検体から発せられるエバネッセント光を伝播光として検出することができ、回折限界を超えた二次元の解像を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】光学装置100の概略図である。
【図2A】(a)は、偏光素子POの平面図である。 (b)は、ハイパーレンズHLの平面透過図である。 (c)は、図2(b)のハイパーレンズHLのA−A断面図である。
【図2B】エバネッセント光EVの発生を説明するための図である。
【図3】エバネッセント光を説明するための図である。
【図4】ハイパーレンズの形成工程を示すフローチャートである。
【図5】クロム膜Crが形成された水晶材ウエハSUの斜視図である。
【図6】光学装置200の概略図である。
【図7】光学装置300の概略図である。
【図8】光学装置400の概略図である。
【図9】顕微鏡500の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施例)
図1、図2及び図3は、エバネッセント光を通して被検体を観察するための光学装置100を説明する図である。
【0010】
<光学装置100の構成>
図1は、光学装置100の概略図である。図2(a)は、偏光素子POの平面図であり、図2(b)は、ハイパーレンズHLの平面透過図であり、図2(c)は、図2(b)のハイパーレンズHLのA−A断面図である。図3は、エバネッセント光を説明するための図である。このハイパーレンズは球殻の中心の放射方向の誘電率が負で放射方向に垂直な面内に正の誘電率を持つ。
【0011】
図1に示されるように、光学装置100は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEとにより構成されている。また、被検体SAがハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0012】
照明光源ILは所定の径(図では点線で示されている)を有する照明光LW11を発し、照明光LW11は偏光素子POに入射する。偏光素子POは入射した照明光LW11のTM波(Transverse Magnetic Wave)のみを透過させて、光束LW12として透過させる。光束LW12は被検体SAに照射される。光束LW12が照射された被検体SAの波長以下の構造による散乱光、若しくは透過光はエバネッセント光となる。このエバネッセント光のTM成分はハイパーレンズHLによって伝播光である光束LW13に変換される。光束LW13は受光光学系LEに入射して検出される。また、照明光LW11の中心軸と、光束LW12の中心軸と、光束LW13の中心軸とは同一軸上に存在する。照明光学系が存在する場合、偏光素子POは照明光学系の瞳面に存在することが望ましい。
【0013】
光学装置100は、受光光学系LEで二次元状に必要な偏光のみを有する光束を受光することにより、エバネッセント光の二次元状の結像を得ることができる。二次元状に必要な偏光のみを有する光束は偏光素子POにより形成されるため、偏光素子POに入射する光束はあらゆる方向に偏光を有するランダム偏光である必要がある。そのため、照明光源ILでは、ランダム偏光の光束を照射する必要がある。照明光源ILは例えば波長365nmの光束を照射する。
【0014】
偏光素子POは、図2A(a)に示されるように、複数の偏光領域HRを有している。偏光素子POは中心部に対称軸TJを有しており、各偏光領域HRは対称軸TJに対して軸対称となるように配置されている。また、偏光領域HRの磁場の透過方向HHも対称軸TJに対して軸対称になっている。各偏光素子POにおける磁場の透過方向は、対称軸TJに対して垂直な方向に伸びている。この偏光素子POを用いることにより、このハイパーレンズHLを用いた結像にとってノイズとなるTE波(Transverse Electric Wave)を遮光し、ハイパーレンズによってエバネッセント波から変換された伝播光の成分であるTM波(Transverse Magnetic Wave)を透過する作用を持つ。
【0015】
図2A(b)は、ハイパーレンズHLの平面透過図である。ハイパーレンズHLは伝搬しない光であるエバネッセント光(詳細は後述する)を伝搬光に変換することができるレンズである。ハイパーレンズHLは中空の球体の一部が切り取られたような球殻状のレンズであり、一方の面が凸面で、他方の面が凹面になっている。凸面の表面は銀膜Agで形成されており(図中のハッチング部)、その下層は酸化アルミニウム膜Al2O3で形成されている。酸化アルミニウム膜Al2O3の下層は銀膜Agで形成される。ハイパーレンズHLの他方の面である凹面も球体の一部の形状になっており、表面が酸化アルミニウム膜Al2O3になっている。ハイパーレンズHLの凹面側には半球状の空洞CAが形成される。つまり、ハイパーレンズHLは、銀膜Agと酸化アルミニウム膜Al2O3とが交互に形成されることによって形成されている。
【0016】
図2A(c)は、図2A(b)のハイパーレンズHLのA−A断面図である。ハイパーレンズHLの内周の半径(すなわち、空洞CAの半径)をriとし、外周の半径はr0である。パイパーレンズHLは、例えばr0は0.8μmであり、riは240nmであり、ハイパーレンズHLの銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3が16層形成され(図2(c)では理解を助けるため6層で示している)、銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の各層の厚さは、約35nmである。このとき、各層の厚さの合計raは560nmとなる。また、ハイパーレンズHLの倍率は、ハイパーレンズHLの内径riとハイパーレンズHLの外形r0との比r0/riにより決まる。つまり、このハイパーレンズHLの倍率は0.8μm/240nm=約3.3倍となる。
【0017】
図2Bは、エバネッセント光EVの発生を説明するための図である。被検体SAがハイパーレンズHLの半球状の空洞CAに配置されている。
【0018】
−Z軸方向から被検体SAに入射する光束LW12は、被検体SAに照射される。その後、被検体SAからは様々な光が散乱される、散乱される光の中にはエバネッセント光EVがある。エバネッセント光EVは被検体SAへの入射光である光束LW12の波長以下の光であり、通常は空間に伝播されないが、ハイパーレンズHLはエバネッセント光EVを伝播光に変換させることができる。図2Bでは、エバネッセント光EVを太い点線で示している。太い実線の矢印は伝播光である。この伝播光はハイパーレンズHLの凸面から外側に放射される。この伝播光のうち受光光学系LE(図1参照)に入射する光束が、光束LW3として示されている。また、ハイパーレンズHLはTM波のみを伝播光に変換する性質をもつ。
【0019】
光束LW2の偏光が必要な偏光のみを有する場合は、光束LW2によって発生したエバネッセント光EVも必要な偏光のみを有する。そのため、偏光素子POで、対称軸TJに対して軸対称に偏光が形成されている光束LW2によって発生したエバネッセント光EVも軸対称の偏光として生成される。
【0020】
<ハイパーレンズの原理>
ハイパーレンズHLがエバネッセント光を伝播する原理に関して図3を用いて説明する。
【0021】
電磁波における周波数と波数との関係は分散関係と呼ばれ、電磁波の一種である光は以下の式で表わされる。
k=ω/c・・・(1)
ここで、ωは角振動数、cは光速、kは波数である。
また、等方物質であった場合のレンズ内の二次元における分散関係を考えると、式(1)は以下のように表わされる。
kr2+kθ2=ε(ω2/c2)・・・・(2)
ここで、εはレンズの誘電率、krはレンズの法線方向への波数であり、kθは、krに垂直な方向への波数である。(図3(c)参照)
【0022】
図3(a)は、光学的等方物質中における二次元の分散関係を表わしたグラフである。図3(a)は横軸にkθ、縦軸にkrをとり、式(2)をグラフに表わしている。光学的等方物質中での波数kθの最大値は|kθ|であり、波数kθがこの値を超えた光束は、光学的等方物質中では伝わらない。この波数kθの大きさが|kθ|を越えた光がエバネッセント光である。
【0023】
また、誘電率はr方向とθ方向とで異方性を持つ場合、TM波の分散関係は以下のように書ける。
(kr2/εθ)+(kθ2/εr)=ω2/c2・・・・(3)
ここで、εθ>0、εr<0であるとき、式(3)は以下のように書ける。
(kr2/εθ)−(kθ2/|εr|)=ω2/c2・・・・(4)
【0024】
図3(b)は、εθ>0、εr<0の物質中における二次元の分散関係を表わしたグラフである。また図3(b)は横軸にkθ、縦軸にkrをとり、式(4)をグラフに表したものである。図3(b)の双曲線は式(4)を表わしており、点線で表わしている円は式(2)を表わしている。図3(b)の双曲線では、どのような波数kθに対しても波数krの値が存在している。そのため、εθ>0、εr<0の物質中では、光学的等方物質中では伝播しない波数kθの大きさが|kθ|を越えたエバネッセント光を伝播することができる。
【0025】
図3(c)または式(4)に示したような非等方的な所望の誘電率を実現する方法として層状の構造にレンズを形成する方法がある。図3(c)は局所的に1軸性の非等方媒質であるハイパーレンズの例である。図3(c)のハイパーレンズは球殻状に層が形成されているため全体としては1軸性とはならないが、局所的には平面の層が積み重ねられているとみなすことができるため、1軸性とみなすことができる。また、図3(c)は、レンズの表面における法線方向(r方向)の有効誘電率が負であり、レンズの表面における法線方向に垂直な方向(θ方向)の有効誘電率が正である。通常の物質では誘電率は正になる。しかし、金又は銀等のように特定の金属では可視光の周波数範囲でマイナスの値を示す誘電率εmをもつものがある。これらの物質と、正の誘電率εdを有する物質とを組み合わせた場合、εr及びεθの符号が逆転しているメタマテリアルと呼ばれる物質を作製することが可能である。有効誘電率の法線方向εr及び有効誘電率の法線に垂直な方向εθはεm及びεdによって以下のように記述することができる。
【数1】
・・・(5)
【数2】
・・・(6)
ここで、pは金属の充填率である。充填率とは原子同士が隙間なくくっつき、原子の半径が全て同じ長さと仮定し、各格子の体積とその中に含まれる原子との体積の比をいう。ここで、例えば、銀Agと酸化アルミニウムAl2O3との多層膜を考えた場合、εmを−2.4012+0.2488i、εdを3.217としてεθとεrとを計算することができる。金属の充填率pを0.5として計算した時、εθは正の値を取り、εrは負の値をとる。
【0026】
<ハイパーレンズの作製方法>
図4、図5を参照してハイパーレンズHLの作製方法を説明する。図4はハイパーレンズHLの形成工程を示すフローチャートである。図4(a)から図4(f)はハイパーレンズHLの形成工程を説明するための図であり、図5のB−B断面図である。図5は、クロム膜Crが形成された水晶材ウエハSUの概略斜視図である。
【0027】
まず、図4のステップS101において、水晶材ウエハSUの主面に円形の孔HOのあいたクロム層Crを形成する(図4(a)参照)。クロム層Crは、水晶材ウエハSUの一方の主面に、電子ビーム蒸着又は真空蒸着を行うことによって形成される。また、円形の孔HOは、クロム層Crに集束イオンビームを照射することによって形成される。
【0028】
図5は、クロム膜Crが形成された水晶材ウエハSUの概略斜視図であり、図4(a)を3次元で表わした図である。水晶材ウエハSUの厚さTH1は150μmであり、その上に形成されているクロム層Crの厚さTH2は150nmである。また、クロム層Crには直径DIの孔HO開けられている。直径DIは、例えば50nmで形成されている。
【0029】
ステップS102において、クロム層Crに形成した孔HOを通して水晶材ウエハSUのウエットエッチングを行う(図4(b)参照)。そして、水晶材ウエハSUに半球状の空洞CAを形成する。ウエットエッチングは、フッ酸にフッ化アンモニウムを混合した液であるバッファードフッ酸または55%フッ酸を用いて行われる。
【0030】
ステップS103において、クロム層Crを除去する(図4(c)参照)。クロム層Crは、例えば硝酸第2セリウムアンモニウムと酢酸との水溶液のエッチングで除去される。
【0031】
ステップS104において、銀膜Agを水晶材ウエハSUの空洞CAが形成されている面に形成する(図4(d)参照)。銀膜Agは、蒸着またはスパッタリングにより形成される。銀膜Agの形成では、低圧下により形成することにより、表面粗さができるだけ小さくなるように形成する。表面粗さは平均二乗偏差で1.3nm以内になるように形成する。
【0032】
ステップS105において、ステップS104で形成した銀膜Ag上に酸化アルミニウム膜Al2O3を形成する(図4(e)参照)。酸化アルミニウム膜Al2O3は、蒸着またはスパッタリングにより形成される。
【0033】
ステップS106において、さらに銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3を形成すべきかどうかを判断する。銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の層の数が足りない場合は、ステップS104に戻ってさらに銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の積層を重ねる。銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の層の数が既定の数だけ形成された場合は、ハイパーレンズHLの積層を終了する(図4(f)参照)。光学装置100に用いられるハイパーレンズHLでは、銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の層の数が合計で16層形成される。
【0034】
以上のような工程で、球殻状のハイパーレンズHLを作製することができる。ハイパーレンズHLの周りの水晶材は取り除いても取り除かなくてもよい。取り除く場合は、水晶材ウエハSUのエッチングを行って取り除く。
【0035】
(第2実施例)
<光学装置200の構成>
図6は、第2実施例である光学装置200の概略図である。光学装置は、最終的に受光光学系で二次元に必要な偏光のみを有する光束を受光できればよい。そのため光学装置200では、光学装置100のように照明光源ILと被検体SAとの間に偏光素子POを配置する代わりに、照明光源ILと被検体SAとの間にハイパーレンズHLが配置されている。この光学装置200の構成について図6を参照して説明する。
【0036】
光学装置200は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEとにより構成されている。また、エバネッセント光を発する被検体SAはハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0037】
照明光源ILにより発せられた照明光LW21は、被検体SAに照射される。照明光LW21が照射された被検体SAはエバネッセント光を発する。このエバネッセント光はハイパーレンズHLによって伝播光である光束LW22に変換される。この時点で光束LW22はランダム偏光である。その後、光束LW22は、偏光素子POに入射する。偏光素子POは、入射した光束LW22のTM波のみを透過させて、光束LW23として透過する。光束LW23は受光光学系LEに入射して検出される。
【0038】
光学装置200では、被検体SAが放射した光束に対して偏光素子でTM波のみを透過させる。そのため、光学装置200は、偏光特性を変えてしまう性質を持っている被検体SAを観察する場合に対して有効である。
なお、第1実施例の光学装置100と第2実施例の光学装置200とは、−Z軸方向から被検体SAに光束を照射した例である。
【0039】
(第3実施例)
被検体SAには、ハイパーレンズHLを通して+Z軸方向から光束を照射してもよい。+Z軸方向から光束を照射することにより、被検体SAの+Z軸側表面より発したエバネッセント光を観測することができる。
【0040】
<光学装置300の構成>
図7は、光学装置300の概略図である。光学装置300は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEと、光線分光素子KBとにより構成されている。また、エバネッセント光を発する被検体SAはハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0041】
照明光源ILにより発せられた照明光LW31は、光線分光素子KBにより反射され、光束LW32となって偏光素子POに入射する。偏光素子POは、入射した光束LW32の偏光を整え、光束LW33として射出する。光束LW33は、ハイパーレンズHLに入射し、ハイパーレンズHLを透過して被検体SAに照射される。光束LW33が照射された被検体SAはエバネッセント光を発する。エバネッセント光はハイパーレンズHLを通して伝播光に変換され、光束LW34としてハイパーレンズHLより射出される。光束LW34は、偏光素子POによってTM波成分のみを透過して光束LW35となる。光束LW35は光線分光素子KBを透過して光束LW36となり、受光光学系LEに入射される。
【0042】
光線分光素子KBは、照明光源ILから発した照明光を被検体SA側に反射又は透過させ、被検体SAからの伝播光を透過又は反射する。そのため、照明光源ILと受光光学系LEとの配置を入れ替えて、照明光源ILから−Z軸方向に照明光LW31を発し、ハイパーレンズHLより戻ってきた光束を光線分光素子KBで−X軸方向に反射させて受光光学系LEで受光させても良い。
【0043】
(第4実施例)
<光学装置400の構成>
被検体SAの上部より光束を入射させる光学素子300では、別の構成を取ることもできる。以下に光学装置400を説明する。
【0044】
図8は、光学装置400の概略図である。光学装置400は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEと、光線分光素子KBとにより構成されている。また、エバネッセント光を発する被検体SAはハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0045】
照明光源ILにより発せられたランダム偏光の照明光LW41は、光線分光素子KBにより反射され、光束LW42となってハイパーレンズHLを透過し、被検体SAに入射する。光束LW42が照射された被検体SAはエバネッセント光を発する。エバネッセント光はハイパーレンズHLを透過し、TM波成分は伝播光に変換されて光束LW43としてハイパーレンズHLより射出される。光束LW43は光線分光素子KBを透過し、光束LW44となって偏光素子POに入射する。偏光素子POは、入射した光束LW44のTM波のみを透過させて光束LW45となり、受光光学系LEに入射する。
【0046】
光学装置400では、照明光源ILと受光光学系LE及び偏光素子POとの配置を入れ替えて使用することができる。すなわち、照明光源ILから−Z軸方向に照明光LW41を発し、ハイパーレンズHLより戻ってきた光束を光線分光素子KBで−X軸方向に反射させて受光光学系LEで受光させても良い。
なお、第3実施例の光学装置300と第4実施例の光学装置400とは、+Z軸方向から被検体SAに光束を照射した例である。
【0047】
(第5実施例)
以上に説明した光学装置は、被検体を観察する受光光学系の像面に実像をつくる対物集光光学系を備えることにより顕微鏡として使用可能になる。以下に光学装置100に対物集光光学系として対物レンズTLを備え付けた顕微鏡500について説明する。
【0048】
<顕微鏡500の構成>
図9は、顕微鏡500の概略構成図である。顕微鏡500は第1実施例の光学装置100のハイパーレンズHLと偏光素子OPとの間に対物レンズTLが組み込まれて構成されている。特に図示されていないが、光学装置200〜光学装置400にも光学装置100と同様に適用できる。これらの場合、偏光素子POは瞳面に配置されることが望ましい。
【0049】
照明光源ILから射出されたランダム偏光の照明光LW51は被検体SAに入射し、被検体SAからエバネッセント光を出させる。エバネッセント光はハイパーレンズHLによって伝播光に変換され、光束LW52となって対物レンズTLに向かう。光束LW52は拡散光であるが、対物レンズTLでは光束LW52を集光して光束LW53として偏光素子POに向かわせる。偏光素子POでは光束LW53のTM波のみを透過させて、光束LW54として受光光学系LEに向かわせ、受光光学系LEで光束LW54を検出する。ここで、対物レンズTLは、その像面が受光光学系LEくるように配置され、被検体SAの像が受光光学系LEに実像を作るように配置される。
【0050】
顕微鏡500は、被検体SAを照明光LW51の波長の回折限界を超えて解像させることができる。
【0051】
以上実施形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、種々の変更、置換、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0052】
例えば、以上の実施例では光学装置にハイパーレンズHLを用いていたが、スーパーレンズを用いても良い。スーパーレンズは、波数Kθが大きいエバネッセント光を増幅することができる素子である。スーパーレンズには3種類存在する。1種類目は、スーパーレンズが誘電率と透磁率とがともにマイナスとなる物質で構成された場合で、負の屈折率をもち、どのような偏光も透過することができる。2種類目は、スーパーレンズが、誘電率が負で透磁率が正の物質で構成された場合で、スーパーレンズはTM波のエバネッセント光を透過することができる。3種類目は、スーパーレンズが、誘電率が正で透磁率が負の物質を用いて構成された場合で、スーパーレンズはTE波(Transverse Electric Wave)のエバネッセント光を透過することができる。
【0053】
このようなスーパーレンズは倍率をかける場合、図2B等で示されたように球殻状のレンズであり、異なる金属膜が交互に形成されている。これら倍率の掛かったスーパーレンズが、ハイパーレンズHLに代えて配置されれば同様な効果を得ることができる。
【0054】
また、ハイパーレンズとスーパーレンズとを組み合わせることによりエバネッセント光を増幅し、伝播光に変換するレンズを作製することも可能である。
【符号の説明】
【0055】
100、200、300、400 光学装置
500 顕微鏡
CA 空洞
IL 照明光源
KB 光線分光素子
LE 受光光学系
PO 偏光素子
TL 対物レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置及び該光学装置を用いた顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に示されているように、金属の薄膜を使用して回折限界を超えた光であるエバネッセント光を伝播光に変換する円筒を半分に割った半円筒形のレンズが知られている。また、この半円筒形のレンズは、エバネッセント光を伝播することにより被検体を入射光の波長よりも小さく解像する超解像で観測することを可能にしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Liu,Z.et al.Far−field optical hyperlens magnifying sub−diffraction−limited objects. Science 315,1686(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、半円筒形のレンズでは、円筒の軸に垂直であり光の検出面に平行な面にのみの超解像しか得ることができない。つまり、半円筒形のレンズでは一次元の超解像しか得ることができない。
そこで、二次元の超解像を得ることができる光学装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の光学装置は、被検体を観察する光学装置において、中空の球体の一部が切り取られ凸面と凹面とを有する球殻状であり、且つ被検体から発生するエバネッセント光を伝播光に変換するレンズと、レンズの凸面側に配置され、電場が特定の偏光方向にのみ振動している光を透過する偏光領域を有し、偏光領域の偏光方向が全体として中心軸に対して軸対称になっている偏光素子とを備える。
【0006】
第2観点の顕微鏡は、第1観点の光学装置と、伝播光を集光して像面に実像をつくる対物レンズと、備え、被検体がレンズの凹面側に配置されて使用される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光学装置は、不要な偏光成分の光であるTE波と分離して被検体から発せられるエバネッセント光を伝播光として検出することができ、回折限界を超えた二次元の解像を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】光学装置100の概略図である。
【図2A】(a)は、偏光素子POの平面図である。 (b)は、ハイパーレンズHLの平面透過図である。 (c)は、図2(b)のハイパーレンズHLのA−A断面図である。
【図2B】エバネッセント光EVの発生を説明するための図である。
【図3】エバネッセント光を説明するための図である。
【図4】ハイパーレンズの形成工程を示すフローチャートである。
【図5】クロム膜Crが形成された水晶材ウエハSUの斜視図である。
【図6】光学装置200の概略図である。
【図7】光学装置300の概略図である。
【図8】光学装置400の概略図である。
【図9】顕微鏡500の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施例)
図1、図2及び図3は、エバネッセント光を通して被検体を観察するための光学装置100を説明する図である。
【0010】
<光学装置100の構成>
図1は、光学装置100の概略図である。図2(a)は、偏光素子POの平面図であり、図2(b)は、ハイパーレンズHLの平面透過図であり、図2(c)は、図2(b)のハイパーレンズHLのA−A断面図である。図3は、エバネッセント光を説明するための図である。このハイパーレンズは球殻の中心の放射方向の誘電率が負で放射方向に垂直な面内に正の誘電率を持つ。
【0011】
図1に示されるように、光学装置100は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEとにより構成されている。また、被検体SAがハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0012】
照明光源ILは所定の径(図では点線で示されている)を有する照明光LW11を発し、照明光LW11は偏光素子POに入射する。偏光素子POは入射した照明光LW11のTM波(Transverse Magnetic Wave)のみを透過させて、光束LW12として透過させる。光束LW12は被検体SAに照射される。光束LW12が照射された被検体SAの波長以下の構造による散乱光、若しくは透過光はエバネッセント光となる。このエバネッセント光のTM成分はハイパーレンズHLによって伝播光である光束LW13に変換される。光束LW13は受光光学系LEに入射して検出される。また、照明光LW11の中心軸と、光束LW12の中心軸と、光束LW13の中心軸とは同一軸上に存在する。照明光学系が存在する場合、偏光素子POは照明光学系の瞳面に存在することが望ましい。
【0013】
光学装置100は、受光光学系LEで二次元状に必要な偏光のみを有する光束を受光することにより、エバネッセント光の二次元状の結像を得ることができる。二次元状に必要な偏光のみを有する光束は偏光素子POにより形成されるため、偏光素子POに入射する光束はあらゆる方向に偏光を有するランダム偏光である必要がある。そのため、照明光源ILでは、ランダム偏光の光束を照射する必要がある。照明光源ILは例えば波長365nmの光束を照射する。
【0014】
偏光素子POは、図2A(a)に示されるように、複数の偏光領域HRを有している。偏光素子POは中心部に対称軸TJを有しており、各偏光領域HRは対称軸TJに対して軸対称となるように配置されている。また、偏光領域HRの磁場の透過方向HHも対称軸TJに対して軸対称になっている。各偏光素子POにおける磁場の透過方向は、対称軸TJに対して垂直な方向に伸びている。この偏光素子POを用いることにより、このハイパーレンズHLを用いた結像にとってノイズとなるTE波(Transverse Electric Wave)を遮光し、ハイパーレンズによってエバネッセント波から変換された伝播光の成分であるTM波(Transverse Magnetic Wave)を透過する作用を持つ。
【0015】
図2A(b)は、ハイパーレンズHLの平面透過図である。ハイパーレンズHLは伝搬しない光であるエバネッセント光(詳細は後述する)を伝搬光に変換することができるレンズである。ハイパーレンズHLは中空の球体の一部が切り取られたような球殻状のレンズであり、一方の面が凸面で、他方の面が凹面になっている。凸面の表面は銀膜Agで形成されており(図中のハッチング部)、その下層は酸化アルミニウム膜Al2O3で形成されている。酸化アルミニウム膜Al2O3の下層は銀膜Agで形成される。ハイパーレンズHLの他方の面である凹面も球体の一部の形状になっており、表面が酸化アルミニウム膜Al2O3になっている。ハイパーレンズHLの凹面側には半球状の空洞CAが形成される。つまり、ハイパーレンズHLは、銀膜Agと酸化アルミニウム膜Al2O3とが交互に形成されることによって形成されている。
【0016】
図2A(c)は、図2A(b)のハイパーレンズHLのA−A断面図である。ハイパーレンズHLの内周の半径(すなわち、空洞CAの半径)をriとし、外周の半径はr0である。パイパーレンズHLは、例えばr0は0.8μmであり、riは240nmであり、ハイパーレンズHLの銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3が16層形成され(図2(c)では理解を助けるため6層で示している)、銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の各層の厚さは、約35nmである。このとき、各層の厚さの合計raは560nmとなる。また、ハイパーレンズHLの倍率は、ハイパーレンズHLの内径riとハイパーレンズHLの外形r0との比r0/riにより決まる。つまり、このハイパーレンズHLの倍率は0.8μm/240nm=約3.3倍となる。
【0017】
図2Bは、エバネッセント光EVの発生を説明するための図である。被検体SAがハイパーレンズHLの半球状の空洞CAに配置されている。
【0018】
−Z軸方向から被検体SAに入射する光束LW12は、被検体SAに照射される。その後、被検体SAからは様々な光が散乱される、散乱される光の中にはエバネッセント光EVがある。エバネッセント光EVは被検体SAへの入射光である光束LW12の波長以下の光であり、通常は空間に伝播されないが、ハイパーレンズHLはエバネッセント光EVを伝播光に変換させることができる。図2Bでは、エバネッセント光EVを太い点線で示している。太い実線の矢印は伝播光である。この伝播光はハイパーレンズHLの凸面から外側に放射される。この伝播光のうち受光光学系LE(図1参照)に入射する光束が、光束LW3として示されている。また、ハイパーレンズHLはTM波のみを伝播光に変換する性質をもつ。
【0019】
光束LW2の偏光が必要な偏光のみを有する場合は、光束LW2によって発生したエバネッセント光EVも必要な偏光のみを有する。そのため、偏光素子POで、対称軸TJに対して軸対称に偏光が形成されている光束LW2によって発生したエバネッセント光EVも軸対称の偏光として生成される。
【0020】
<ハイパーレンズの原理>
ハイパーレンズHLがエバネッセント光を伝播する原理に関して図3を用いて説明する。
【0021】
電磁波における周波数と波数との関係は分散関係と呼ばれ、電磁波の一種である光は以下の式で表わされる。
k=ω/c・・・(1)
ここで、ωは角振動数、cは光速、kは波数である。
また、等方物質であった場合のレンズ内の二次元における分散関係を考えると、式(1)は以下のように表わされる。
kr2+kθ2=ε(ω2/c2)・・・・(2)
ここで、εはレンズの誘電率、krはレンズの法線方向への波数であり、kθは、krに垂直な方向への波数である。(図3(c)参照)
【0022】
図3(a)は、光学的等方物質中における二次元の分散関係を表わしたグラフである。図3(a)は横軸にkθ、縦軸にkrをとり、式(2)をグラフに表わしている。光学的等方物質中での波数kθの最大値は|kθ|であり、波数kθがこの値を超えた光束は、光学的等方物質中では伝わらない。この波数kθの大きさが|kθ|を越えた光がエバネッセント光である。
【0023】
また、誘電率はr方向とθ方向とで異方性を持つ場合、TM波の分散関係は以下のように書ける。
(kr2/εθ)+(kθ2/εr)=ω2/c2・・・・(3)
ここで、εθ>0、εr<0であるとき、式(3)は以下のように書ける。
(kr2/εθ)−(kθ2/|εr|)=ω2/c2・・・・(4)
【0024】
図3(b)は、εθ>0、εr<0の物質中における二次元の分散関係を表わしたグラフである。また図3(b)は横軸にkθ、縦軸にkrをとり、式(4)をグラフに表したものである。図3(b)の双曲線は式(4)を表わしており、点線で表わしている円は式(2)を表わしている。図3(b)の双曲線では、どのような波数kθに対しても波数krの値が存在している。そのため、εθ>0、εr<0の物質中では、光学的等方物質中では伝播しない波数kθの大きさが|kθ|を越えたエバネッセント光を伝播することができる。
【0025】
図3(c)または式(4)に示したような非等方的な所望の誘電率を実現する方法として層状の構造にレンズを形成する方法がある。図3(c)は局所的に1軸性の非等方媒質であるハイパーレンズの例である。図3(c)のハイパーレンズは球殻状に層が形成されているため全体としては1軸性とはならないが、局所的には平面の層が積み重ねられているとみなすことができるため、1軸性とみなすことができる。また、図3(c)は、レンズの表面における法線方向(r方向)の有効誘電率が負であり、レンズの表面における法線方向に垂直な方向(θ方向)の有効誘電率が正である。通常の物質では誘電率は正になる。しかし、金又は銀等のように特定の金属では可視光の周波数範囲でマイナスの値を示す誘電率εmをもつものがある。これらの物質と、正の誘電率εdを有する物質とを組み合わせた場合、εr及びεθの符号が逆転しているメタマテリアルと呼ばれる物質を作製することが可能である。有効誘電率の法線方向εr及び有効誘電率の法線に垂直な方向εθはεm及びεdによって以下のように記述することができる。
【数1】
・・・(5)
【数2】
・・・(6)
ここで、pは金属の充填率である。充填率とは原子同士が隙間なくくっつき、原子の半径が全て同じ長さと仮定し、各格子の体積とその中に含まれる原子との体積の比をいう。ここで、例えば、銀Agと酸化アルミニウムAl2O3との多層膜を考えた場合、εmを−2.4012+0.2488i、εdを3.217としてεθとεrとを計算することができる。金属の充填率pを0.5として計算した時、εθは正の値を取り、εrは負の値をとる。
【0026】
<ハイパーレンズの作製方法>
図4、図5を参照してハイパーレンズHLの作製方法を説明する。図4はハイパーレンズHLの形成工程を示すフローチャートである。図4(a)から図4(f)はハイパーレンズHLの形成工程を説明するための図であり、図5のB−B断面図である。図5は、クロム膜Crが形成された水晶材ウエハSUの概略斜視図である。
【0027】
まず、図4のステップS101において、水晶材ウエハSUの主面に円形の孔HOのあいたクロム層Crを形成する(図4(a)参照)。クロム層Crは、水晶材ウエハSUの一方の主面に、電子ビーム蒸着又は真空蒸着を行うことによって形成される。また、円形の孔HOは、クロム層Crに集束イオンビームを照射することによって形成される。
【0028】
図5は、クロム膜Crが形成された水晶材ウエハSUの概略斜視図であり、図4(a)を3次元で表わした図である。水晶材ウエハSUの厚さTH1は150μmであり、その上に形成されているクロム層Crの厚さTH2は150nmである。また、クロム層Crには直径DIの孔HO開けられている。直径DIは、例えば50nmで形成されている。
【0029】
ステップS102において、クロム層Crに形成した孔HOを通して水晶材ウエハSUのウエットエッチングを行う(図4(b)参照)。そして、水晶材ウエハSUに半球状の空洞CAを形成する。ウエットエッチングは、フッ酸にフッ化アンモニウムを混合した液であるバッファードフッ酸または55%フッ酸を用いて行われる。
【0030】
ステップS103において、クロム層Crを除去する(図4(c)参照)。クロム層Crは、例えば硝酸第2セリウムアンモニウムと酢酸との水溶液のエッチングで除去される。
【0031】
ステップS104において、銀膜Agを水晶材ウエハSUの空洞CAが形成されている面に形成する(図4(d)参照)。銀膜Agは、蒸着またはスパッタリングにより形成される。銀膜Agの形成では、低圧下により形成することにより、表面粗さができるだけ小さくなるように形成する。表面粗さは平均二乗偏差で1.3nm以内になるように形成する。
【0032】
ステップS105において、ステップS104で形成した銀膜Ag上に酸化アルミニウム膜Al2O3を形成する(図4(e)参照)。酸化アルミニウム膜Al2O3は、蒸着またはスパッタリングにより形成される。
【0033】
ステップS106において、さらに銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3を形成すべきかどうかを判断する。銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の層の数が足りない場合は、ステップS104に戻ってさらに銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の積層を重ねる。銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の層の数が既定の数だけ形成された場合は、ハイパーレンズHLの積層を終了する(図4(f)参照)。光学装置100に用いられるハイパーレンズHLでは、銀膜Ag及び酸化アルミニウム膜Al2O3の層の数が合計で16層形成される。
【0034】
以上のような工程で、球殻状のハイパーレンズHLを作製することができる。ハイパーレンズHLの周りの水晶材は取り除いても取り除かなくてもよい。取り除く場合は、水晶材ウエハSUのエッチングを行って取り除く。
【0035】
(第2実施例)
<光学装置200の構成>
図6は、第2実施例である光学装置200の概略図である。光学装置は、最終的に受光光学系で二次元に必要な偏光のみを有する光束を受光できればよい。そのため光学装置200では、光学装置100のように照明光源ILと被検体SAとの間に偏光素子POを配置する代わりに、照明光源ILと被検体SAとの間にハイパーレンズHLが配置されている。この光学装置200の構成について図6を参照して説明する。
【0036】
光学装置200は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEとにより構成されている。また、エバネッセント光を発する被検体SAはハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0037】
照明光源ILにより発せられた照明光LW21は、被検体SAに照射される。照明光LW21が照射された被検体SAはエバネッセント光を発する。このエバネッセント光はハイパーレンズHLによって伝播光である光束LW22に変換される。この時点で光束LW22はランダム偏光である。その後、光束LW22は、偏光素子POに入射する。偏光素子POは、入射した光束LW22のTM波のみを透過させて、光束LW23として透過する。光束LW23は受光光学系LEに入射して検出される。
【0038】
光学装置200では、被検体SAが放射した光束に対して偏光素子でTM波のみを透過させる。そのため、光学装置200は、偏光特性を変えてしまう性質を持っている被検体SAを観察する場合に対して有効である。
なお、第1実施例の光学装置100と第2実施例の光学装置200とは、−Z軸方向から被検体SAに光束を照射した例である。
【0039】
(第3実施例)
被検体SAには、ハイパーレンズHLを通して+Z軸方向から光束を照射してもよい。+Z軸方向から光束を照射することにより、被検体SAの+Z軸側表面より発したエバネッセント光を観測することができる。
【0040】
<光学装置300の構成>
図7は、光学装置300の概略図である。光学装置300は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEと、光線分光素子KBとにより構成されている。また、エバネッセント光を発する被検体SAはハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0041】
照明光源ILにより発せられた照明光LW31は、光線分光素子KBにより反射され、光束LW32となって偏光素子POに入射する。偏光素子POは、入射した光束LW32の偏光を整え、光束LW33として射出する。光束LW33は、ハイパーレンズHLに入射し、ハイパーレンズHLを透過して被検体SAに照射される。光束LW33が照射された被検体SAはエバネッセント光を発する。エバネッセント光はハイパーレンズHLを通して伝播光に変換され、光束LW34としてハイパーレンズHLより射出される。光束LW34は、偏光素子POによってTM波成分のみを透過して光束LW35となる。光束LW35は光線分光素子KBを透過して光束LW36となり、受光光学系LEに入射される。
【0042】
光線分光素子KBは、照明光源ILから発した照明光を被検体SA側に反射又は透過させ、被検体SAからの伝播光を透過又は反射する。そのため、照明光源ILと受光光学系LEとの配置を入れ替えて、照明光源ILから−Z軸方向に照明光LW31を発し、ハイパーレンズHLより戻ってきた光束を光線分光素子KBで−X軸方向に反射させて受光光学系LEで受光させても良い。
【0043】
(第4実施例)
<光学装置400の構成>
被検体SAの上部より光束を入射させる光学素子300では、別の構成を取ることもできる。以下に光学装置400を説明する。
【0044】
図8は、光学装置400の概略図である。光学装置400は、照明光源ILと、偏光素子POと、ハイパーレンズHLと、受光光学系LEと、光線分光素子KBとにより構成されている。また、エバネッセント光を発する被検体SAはハイパーレンズHLの中に配置されている。
【0045】
照明光源ILにより発せられたランダム偏光の照明光LW41は、光線分光素子KBにより反射され、光束LW42となってハイパーレンズHLを透過し、被検体SAに入射する。光束LW42が照射された被検体SAはエバネッセント光を発する。エバネッセント光はハイパーレンズHLを透過し、TM波成分は伝播光に変換されて光束LW43としてハイパーレンズHLより射出される。光束LW43は光線分光素子KBを透過し、光束LW44となって偏光素子POに入射する。偏光素子POは、入射した光束LW44のTM波のみを透過させて光束LW45となり、受光光学系LEに入射する。
【0046】
光学装置400では、照明光源ILと受光光学系LE及び偏光素子POとの配置を入れ替えて使用することができる。すなわち、照明光源ILから−Z軸方向に照明光LW41を発し、ハイパーレンズHLより戻ってきた光束を光線分光素子KBで−X軸方向に反射させて受光光学系LEで受光させても良い。
なお、第3実施例の光学装置300と第4実施例の光学装置400とは、+Z軸方向から被検体SAに光束を照射した例である。
【0047】
(第5実施例)
以上に説明した光学装置は、被検体を観察する受光光学系の像面に実像をつくる対物集光光学系を備えることにより顕微鏡として使用可能になる。以下に光学装置100に対物集光光学系として対物レンズTLを備え付けた顕微鏡500について説明する。
【0048】
<顕微鏡500の構成>
図9は、顕微鏡500の概略構成図である。顕微鏡500は第1実施例の光学装置100のハイパーレンズHLと偏光素子OPとの間に対物レンズTLが組み込まれて構成されている。特に図示されていないが、光学装置200〜光学装置400にも光学装置100と同様に適用できる。これらの場合、偏光素子POは瞳面に配置されることが望ましい。
【0049】
照明光源ILから射出されたランダム偏光の照明光LW51は被検体SAに入射し、被検体SAからエバネッセント光を出させる。エバネッセント光はハイパーレンズHLによって伝播光に変換され、光束LW52となって対物レンズTLに向かう。光束LW52は拡散光であるが、対物レンズTLでは光束LW52を集光して光束LW53として偏光素子POに向かわせる。偏光素子POでは光束LW53のTM波のみを透過させて、光束LW54として受光光学系LEに向かわせ、受光光学系LEで光束LW54を検出する。ここで、対物レンズTLは、その像面が受光光学系LEくるように配置され、被検体SAの像が受光光学系LEに実像を作るように配置される。
【0050】
顕微鏡500は、被検体SAを照明光LW51の波長の回折限界を超えて解像させることができる。
【0051】
以上実施形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、種々の変更、置換、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0052】
例えば、以上の実施例では光学装置にハイパーレンズHLを用いていたが、スーパーレンズを用いても良い。スーパーレンズは、波数Kθが大きいエバネッセント光を増幅することができる素子である。スーパーレンズには3種類存在する。1種類目は、スーパーレンズが誘電率と透磁率とがともにマイナスとなる物質で構成された場合で、負の屈折率をもち、どのような偏光も透過することができる。2種類目は、スーパーレンズが、誘電率が負で透磁率が正の物質で構成された場合で、スーパーレンズはTM波のエバネッセント光を透過することができる。3種類目は、スーパーレンズが、誘電率が正で透磁率が負の物質を用いて構成された場合で、スーパーレンズはTE波(Transverse Electric Wave)のエバネッセント光を透過することができる。
【0053】
このようなスーパーレンズは倍率をかける場合、図2B等で示されたように球殻状のレンズであり、異なる金属膜が交互に形成されている。これら倍率の掛かったスーパーレンズが、ハイパーレンズHLに代えて配置されれば同様な効果を得ることができる。
【0054】
また、ハイパーレンズとスーパーレンズとを組み合わせることによりエバネッセント光を増幅し、伝播光に変換するレンズを作製することも可能である。
【符号の説明】
【0055】
100、200、300、400 光学装置
500 顕微鏡
CA 空洞
IL 照明光源
KB 光線分光素子
LE 受光光学系
PO 偏光素子
TL 対物レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を観察する光学装置において、
中空の球体の一部が切り取られ凸面と凹面とを有する球殻状であり、且つ前記被検体から発生するエバネッセント光を伝播光に変換するレンズと、
前記レンズの凸面側に配置され、電場が特定の偏光方向にのみ振動している光を透過する偏光領域を有し、前記偏光領域の偏光方向が全体として中心軸に対して軸対称になっている偏光素子と、
を備える光学装置。
【請求項2】
照明光を前記被検体に照射する照明光源と、
前記被検体を観察する受光光学系と、を備え、
前記照明光源、前記レンズ、前記偏光素子および前記受光光学系の順に配置されている請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
照明光を照射する照明光源と、
前記被検体を観察する受光光学系と、
前記照明光を前記被検体側に反射又は透過させ前記被検体からの前記伝播光を透過又は反射させる光線分割素子と、を備え、
前記照明光が、前記照明光源、前記光線分割素子、前記偏光素子、前記レンズの順に透過又は反射し、
前記被検体からの前記エバネッセント光が、前記伝播光となって前記レンズを透過し、
前記伝播光が、前記偏光素子、前記光線分割素子、前記受光光学系の順に透過又は反射するように配置されている請求項1に記載の光学装置。
【請求項4】
照明光を照射する照明光源と、
前記被検体を観察する受光光学系と、
前記照明光を前記被検体側に反射又は透過させ前記被検体からの前記伝播光を透過又は反射させる光線分割素子と、を備え、
前記照明光が、前記照明光源、前記光線分割素子、前記レンズの順に透過又は反射し、
前記被検体からの前記エバネッセント光が、前記伝播光となって前記レンズを透過し、
前記伝播光が、前記光線分割素子、前記偏光素子、前記受光光学系の順に透過又は反射するように配置されている請求項1に記載の光学装置。
【請求項5】
前記レンズが、局所的に1軸性の非等方媒質であり、前記レンズの表面における法線方向の誘電率が負であり、前記レンズの表面における法線方向に垂直な方向の誘電率が正であるハイパーレンズである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項6】
前記ハイパーレンズは、誘電率が負である第1膜と誘電率が正である第2膜とが交互に積層されることにより形成される請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記第1膜は銀を材質とし、前記第2膜は酸化アルミニウムを材質とする請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記レンズが、負の誘電率と、正の透磁率とを有し、前記エバネッセント波を増幅して伝播光に変換する第1のスーパーレンズである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項9】
前記偏光素子の偏光領域がTM波(Transverse Magnetic Wave)のみを透過する請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項10】
前記レンズが、正の誘電率と、負の透磁率とを有し、前記エバネッセント波を増幅して伝播光に変換する第2のスーパーレンズである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項11】
前記偏光素子の偏光領域がTE波(Transverse Electric Wave)を透過する請求項10に記載の光学装置。
【請求項12】
請求項5から請求項11のいずれか一項に記載の光学装置と、
前記伝播光を集光して前記被検体を観察する受光光学系の像面に実像をつくる対物集光光学系と、備え、
前記被検体が前記レンズの凹面側に配置されて使用される顕微鏡。
【請求項1】
被検体を観察する光学装置において、
中空の球体の一部が切り取られ凸面と凹面とを有する球殻状であり、且つ前記被検体から発生するエバネッセント光を伝播光に変換するレンズと、
前記レンズの凸面側に配置され、電場が特定の偏光方向にのみ振動している光を透過する偏光領域を有し、前記偏光領域の偏光方向が全体として中心軸に対して軸対称になっている偏光素子と、
を備える光学装置。
【請求項2】
照明光を前記被検体に照射する照明光源と、
前記被検体を観察する受光光学系と、を備え、
前記照明光源、前記レンズ、前記偏光素子および前記受光光学系の順に配置されている請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
照明光を照射する照明光源と、
前記被検体を観察する受光光学系と、
前記照明光を前記被検体側に反射又は透過させ前記被検体からの前記伝播光を透過又は反射させる光線分割素子と、を備え、
前記照明光が、前記照明光源、前記光線分割素子、前記偏光素子、前記レンズの順に透過又は反射し、
前記被検体からの前記エバネッセント光が、前記伝播光となって前記レンズを透過し、
前記伝播光が、前記偏光素子、前記光線分割素子、前記受光光学系の順に透過又は反射するように配置されている請求項1に記載の光学装置。
【請求項4】
照明光を照射する照明光源と、
前記被検体を観察する受光光学系と、
前記照明光を前記被検体側に反射又は透過させ前記被検体からの前記伝播光を透過又は反射させる光線分割素子と、を備え、
前記照明光が、前記照明光源、前記光線分割素子、前記レンズの順に透過又は反射し、
前記被検体からの前記エバネッセント光が、前記伝播光となって前記レンズを透過し、
前記伝播光が、前記光線分割素子、前記偏光素子、前記受光光学系の順に透過又は反射するように配置されている請求項1に記載の光学装置。
【請求項5】
前記レンズが、局所的に1軸性の非等方媒質であり、前記レンズの表面における法線方向の誘電率が負であり、前記レンズの表面における法線方向に垂直な方向の誘電率が正であるハイパーレンズである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項6】
前記ハイパーレンズは、誘電率が負である第1膜と誘電率が正である第2膜とが交互に積層されることにより形成される請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記第1膜は銀を材質とし、前記第2膜は酸化アルミニウムを材質とする請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記レンズが、負の誘電率と、正の透磁率とを有し、前記エバネッセント波を増幅して伝播光に変換する第1のスーパーレンズである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項9】
前記偏光素子の偏光領域がTM波(Transverse Magnetic Wave)のみを透過する請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項10】
前記レンズが、正の誘電率と、負の透磁率とを有し、前記エバネッセント波を増幅して伝播光に変換する第2のスーパーレンズである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項11】
前記偏光素子の偏光領域がTE波(Transverse Electric Wave)を透過する請求項10に記載の光学装置。
【請求項12】
請求項5から請求項11のいずれか一項に記載の光学装置と、
前記伝播光を集光して前記被検体を観察する受光光学系の像面に実像をつくる対物集光光学系と、備え、
前記被検体が前記レンズの凹面側に配置されて使用される顕微鏡。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−227422(P2011−227422A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99557(P2010−99557)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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