説明

光学装置及び筐体

【課題】無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在している領域から構成された下地に対して高い密着性を有する絶縁層を備えた光学装置(例えば液体レンズ)を提供する。
【解決手段】光学装置は、第1の基材11、第2の基材12、及び、第1の基材と第2の基材を繋ぐ枠部材13を有し、第1の基材11、第2の基材12及び枠部材13によって囲まれたレンズ室10は、液体レンズを構成する第1の液体41及び第2の液体42によって占められおり、レンズ室10に向いた第1の基材11の内面及び枠部材13の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在しており、レンズ室10に向いた第1の基材11の内面及び枠部材13の内面の上には、無機材料から成る第1絶縁層、有機材料から成る密着層及び有機材料から成る第2絶縁層(積層構造体30)が、順次、積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロウェッティング現象を利用した光学装置、及び、係る光学装置を構成する筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロウェッティング現象(電気毛管現象)を利用した光学装置の開発が進められている。エレクトロウェッティング現象は、導電性を有する液体と電極との間に電圧を印加したときに電極表面と液体との固液界面におけるエネルギーが変化し、液体表面の形状が変化する現象を云う。
【0003】
図6の(A)及び(B)に、エレクトロウェッティング現象を説明するための原理図を示す。図6の(A)に模式的に示すように、例えば、電極101の表面に絶縁層102が形成されており、この絶縁層102の上に電解液から成る導電性の液滴103が置かれているとする。絶縁層102の表面には撥水処理が施されており、図6の(A)に示すように、電圧を印加していない状態では、絶縁層102の表面と液滴103との間の相互作用エネルギーは低く、接触角θ0は大きい。ここで、接触角θ0は、絶縁層102の表面と液滴103の正接線との成す角度であり、液滴103の表面張力や絶縁層102の表面エネルギー等の物性に依存する。
【0004】
一方、図6の(B)に模式的に示すように、電極101と液滴103との間に電圧を印加すると、液滴側の電解質イオンが絶縁層102の表面に集中することによって電荷二重層の帯電量変化が生じ、液滴103の表面張力の変化が誘発される。この現象がエレクトロウェッティング現象であり、印加電圧の大きさによって液滴103の接触角θvが変化する。即ち、図6の(B)において、接触角θvは、印加電圧Vの関数として、以下の式(A)の Lippman-Young の式で表される。
【0005】
cos(θv)=cos(θ0)+(1/2)(ε0・ε)/(γLG・t)×V2 (A)
【0006】
ここで、
ε0 :真空の誘電率
ε :絶縁層の比誘電率
γLG:電解液の表面張力
t :絶縁層の膜厚
である。
【0007】
以上のように、電極101と液滴103との間に印加する電圧Vの大きさによって、液滴103の表面形状(曲率)が変化する。従って、液滴103をレンズ素子として用いた場合、焦点位置(焦点距離)を電気的に制御できる光学素子を実現することができる。
【0008】
このような光学素子を用いた光学装置の開発が進められている。例えば、特開2000−356708には、ストロボ装置用のレンズアレイが提案されている。このレンズアレイにあっては、基板表面の撥水膜上にアレイ状に配置された絶縁性液体の液滴と導電性液体を封入することで、可変焦点レンズが構成されている。そして、この構成にあっては、絶縁性液体と導電性液体との間の界面形状で個々のレンズが形成され、エレクトロウェッティング現象を利用して個々のレンズ形状を電気的に制御し、焦点距離を変化させている。また、特開2002−162507には、液体レンズから成る円柱レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−356708
【特許文献2】特開2002−162507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、絶縁層102の下地は、一般に、電極101から構成されるだけでなく、プラスチック材料からも構成されている。即ち、絶縁層102の下地は、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在している。一方、成膜性の観点から、多くは、絶縁層102を有機材料から構成している。しかしながら、使用に適した有機材料は、屡々、有機材料から成る領域に対する密着性に乏しく、下地の有機材料から成る領域から剥離し易いといった問題がある。
【0011】
従って、本発明の目的は、エレクトロウェッティング現象を利用した光学装置であって、無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在している領域から構成された下地に対して高い密着性を有する絶縁層を備えた光学装置を提供し、また、係る光学装置を構成する筐体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の光学装置は、
(a)入射光に対して透明な第1の基材、
(b)入射光に対して透明であり、第1の基材に対面した第2の基材、及び、
(c)第1の基材と第2の基材を繋ぐ枠部材、
を有し、
第1の基材、第2の基材及び枠部材によって囲まれたレンズ室は、液体レンズを構成する第1の液体及び第2の液体によって占められおり、
レンズ室に向いた第1の基材の内面及び枠部材の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在しており、
レンズ室に向いた第1の基材の内面及び枠部材の内面の上には、無機材料から成る第1絶縁層、有機材料から成る密着層、及び、有機材料から成る第2絶縁層が、順次、積層されている。
【0013】
上記の目的を達成するための本発明の筐体は、
基材、及び、有機材料から成る接着剤層によって基材に接着された枠部材から成る筐体であって、
筐体内部に向いた基材の内面及び枠部材の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在しており、
筐体内部に向いた基材の内面及び枠部材の内面の上には、無機材料から成る第1絶縁層、有機材料から成る密着層、及び、有機材料から成る第2絶縁層が、順次、積層されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明にあっては、無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在したレンズ室に向いた第1の基材の内面及び枠部材の内面、あるいは、無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在した筐体内部に向いた基材の内面及び枠部材の内面(以下、これらを総称して、『下地』と呼ぶ場合がある)には、無機材料から成る第1絶縁層及び有機材料から成る密着層が積層され、そして、密着層の上に、有機材料から成る第2絶縁層が形成されている。このように、下地の上に、下地に対して優れた密着性を有する無機材料から成る第1絶縁層を形成し、第1絶縁層に対して優れた密着効果を有する有機材料から成る密着層を形成し、更に、密着層によって優れた密着性を発揮する有機材料から成る第2絶縁層を形成するので、無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在している領域から構成された下地に対して高い密着性を有する第2絶縁層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1の(A)は、実施例1の光学装置を図1の(B)の矢印A−Aに沿って切断したときの模式的な断面図であり、図1の(B)は、光学装置を図1の(A)の矢印B−Bに沿って切断したときの模式的な断面図であり、図1の(C)は、光学装置を図1の(A)の矢印C−Cに沿って切断したときの模式的な断面図である。
【図2】図2の(A)及び(B)は、それぞれ、光学装置を図1の(A)の矢印C−Cに沿って切断したときの模式的な断面図であり、液体レンズの原理を模式的に説明する図である。
【図3】図3の(A)は、実施例1の筐体を図3の(B)の矢印A−Aに沿って切断したときの模式的な断面図であり、図3の(B)は、筐体を図3の(A)の矢印B−Bに沿って切断したときの模式的な断面図であり、図3の(C)は、筐体を図3の(A)の矢印C−Cに沿って切断したときの模式的な断面図である。
【図4】図4は、実施例2の光学装置を構成するレンズ室の一部を図5の(A)の矢印A−Aに沿って切断したと同様の模式的な断面図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、ぞれぞれ、実施例2及びその変形例の光学装置を構成するレンズ室を図4の矢印C−Cに沿って切断したときの模式的な断面図である。
【図6】図6の(A)及び(B)は、電気毛管現象を説明するための原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本発明の光学装置及び筐体、全般に関する説明
2.実施例1(本発明の光学装置及び筐体)
3.実施例2(実施例1の変形)、その他
【0017】
[本発明の光学装置及び筐体、全般に関する説明]
本発明の光学装置あるいは筐体(以下、これらを総称して、単に、『本発明』と呼ぶ場合がある)において、第2絶縁層を構成する有機材料として、以下の構造式(1)〜構造式(5)にて示すパラキシリレン系ポリマーを挙げることができる。反応性の高いモノマーガスを用い、モノマーガスが密着層に接したところで重合して成膜されるので、微細な領域にまでピンホールの無い、コンフォーマルな第2絶縁層を得ることができ、パラキシリレン系ポリマーは第2絶縁層を構成する材料として非常に好ましい材料である。あるいは又、第2絶縁層を構成する有機材料として、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ナイロン系樹脂を例示することができる。これらの材料は、有機材料から成る密着層によって高い密着性を発揮する。
【0018】

【0019】
上記の好ましい形態を含む本発明にあっては、第1絶縁層を構成する無機材料として、SiO2を含むSiOX系材料、SiN、SiON、酸化フッ化シリコン(SiOF)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta25)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化クロム(CrOx)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化スズ(SnO2)、酸化バナジウム(VOx)、SiNx、AlN、TiN、TaN、CrN、ZrN、NbN、VN等を挙げることができる。第1絶縁層を、電子ビーム蒸着法や熱フィラメント蒸着法といった蒸着法、スパッタリング法を含む物理的気相成長法(PVD法)にて形成(成膜)することが、下地に対する第1絶縁層の優れた密着性を得るといった観点から望ましい。
【0020】
更には、これらの好ましい形態を含む本発明において、密着層を構成する有機材料は、シランカップリング剤から成る形態とすることができる。密着層をシランカップリング剤から構成する場合、各種の塗布法や浸漬法に基づき密着層を形成(成膜)することができる。このような密着層は、無機材料から成る第1絶縁層と有機材料から成る第2絶縁層との間の密着性の向上を図ることができる。
【0021】
更には、これらの好ましい形態を含む本発明にあっては、第1の基材と枠部材とは有機材料から成る接着剤層によって接着され、接着剤層はレンズ室に面した部分を有する形態とすることができる。接着剤層を構成する有機材料は、被接着物である第1の基材及び枠部材を構成する材料に適したものを、適宜、選択すればよく、例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤を例示することができる。
【0022】
更には、これらの好ましい形態を含む本発明の光学装置にあっては、
少なくとも枠部材の内面の一部には、無機材料から成る第1電極が設けられており、第1電極は無機材料から成る領域を構成し、
レンズ室に向いた第2の基材の内面の一部には、無機材料から成る第2電極が設けられている形態とすることができる。第1電極は、レンズ室に向いた第1の基材の内面の一部にも設けられていてもよい。尚、このような形態にあっては、枠部材の内面の残部は、有機材料から成る領域を構成する形態とすることができる。
【0023】
第1電極及び第2電極は、使用される部位、要求される特性に応じて、インジウム−錫酸化物(ITO,Indium Tin Oxide,SnドープのIn23、結晶性ITO及びアモルファスITO、銀添加ITOを含む)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO,Indium Zinc Oxide)、In23系材料(FドープのIn23であるIFOを含む)、酸化錫系材料(SbドープSnO2であるATOやFドープのSnO2であるFTOを含む)、酸化亜鉛系材料(ZnO、AlドープのZnOやBドープのZnO、GaドープのZnOを含む)、Sb25系材料、In4Sn312、InGaZnO、酸化チタン(TiO2)、スピネル型酸化物、YbFe24構造を有する酸化物等の導電性金属酸化物や、金属、合金、半導体材料等から構成された透明電極とすることもできるし、不透明な金属や合金から構成された無機材料から成る電極とすることもできる。具体的には、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)等の金属;これらの金属元素を含む合金(例えばMoW)あるいは化合物(例えばTiN等の窒化物や、WSi2、MoSi2、TiSi2、TaSi2等のシリサイド);シリコン(Si)等の半導体;ダイヤモンド等の炭素薄膜といった無機材料を例示することができる。これらの電極の形成方法として、例えば、電子ビーム蒸着法や熱フィラメント蒸着法といった蒸着法、スパッタリング法、CVD法やイオンプレーティング法とエッチング法との組合せ;スクリーン印刷法;メッキ法(電気メッキ法や無電解メッキ法);リフトオフ法;レーザアブレーション法;ゾル・ゲル法等を挙げることができる。
【0024】
レンズ室内に隔壁部材(仕切り部材)を配置して、レンズ室を複数の領域(部分)に区切ってもよい。
【0025】
隔壁部材の底面は第1の基材まで延びており、隔壁部材の頂面は第2の基材まで延びている構成とすることができる。ここで、隔壁部材の頂面とは第2の基材に対向した面を指し、隔壁部材の底面とは第1の基材に対向した面を指す。以下においても同様である。あるいは又、隔壁部材の底面は第1の基材まで延びており、隔壁部材の頂面と第2の基材との間には隙間が存在する構成とすることができる。あるいは又、隔壁部材の底面と第1の基材との間には隙間が存在し、隔壁部材の頂面は第2の基材まで延びている構成とすることができる。あるいは又、隔壁部材の底面と第1の基材との間には隙間が存在し、隔壁部材の頂面と第2の基材との間には隙間が存在する構成とすることができる。尚、これらの構成にあっては、隔壁部材を接着剤等を用いて枠部材に固定すればよいし、隔壁部材と枠部材とを一体に作製してもよい。
【0026】
第1の基材や第2の基材、隔壁部材を構成する材料は、入射光に対して透明であることが要求される。ここで、「入射光に対して透明である」とは、入射光の光透過率が80%以上であることを意味する。第1の基材や第2の基材、枠部材、隔壁部材を構成する材料として、具体的には、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂といった有機材料、ガラスといった無機材料を例示することができる。各部材を構成する材料は同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2の基材から光が入射し、第1の基材から光が出射する構成としてもよいし、第1の基材から光が入射し、第2の基材から光が出射する構成としてもよい。
【0027】
以上に説明した種々の好ましい形態、構成を含む本発明の光学装置にあっては、第1の液体と第2の液体とは、不溶、不混合であり、第1の液体と第2の液体との界面がレンズ面を構成することが好ましい。更には、第1の液体は絶縁性を有し、第2の液体は導電性を有し、第2電極が第2の液体と接し、第1電極が第2の液体とは絶縁された状態となるように、第1電極及び第2電極を配置することが好ましい。第1電極は、第2絶縁層を介して第1の液体と第2の液体との界面に接している。更には、少なくとも第1の液体と第2の液体との界面が位置する第2絶縁層の部分の表面には、撥水処理が施されていることが好ましい。撥水処理として、例えば、フッ素系のポリマーであるPVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の材料をコーティングする方法を挙げることができる。また、撥水性の第2絶縁層を選択してもよい。
【0028】
本発明の光学装置において、導電性を有する液体(あるいは有極性を有する液体であり、以下、これらを総称して、導電性液体と呼ぶ場合がある)として、例えば、水、電解液(塩化カリウムや塩化ナトリウム、塩化リチウム、硫酸ナトリウム等の電解質の水溶液)、これらの電解質を溶かし込んだ例えばトリエチレングリコール水溶液、分子量の小さなメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、常温溶融塩(イオン性液体)、純水等の有極性液体、これらの液体の混合物を挙げることができる。尚、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類は、水溶液として導電性を持たせたり、塩を溶かして導電性を持たせて使用すればよい。また、絶縁性を有する液体(あるいは無極性を有する液体であり、以下、これらを総称して、絶縁性液体と呼ぶ場合がある)として、例えば、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、ウンデカン等の炭化水素系の材料、シリコーンオイル、フッ素系の材料等の無極性溶媒を挙げることができる。導電性液体と絶縁性液体とは、互いに異なる屈折率を有すると共に、互いに混和することなく存在できることが要求される。また、導電性液体の密度と絶縁性液体の密度を、出来る限り同じ値とすることが望ましい。導電性液体及び絶縁性液体は、入射光に対して透明な液体であることが望ましいが、場合によっては、着色されていてもよい。
【実施例1】
【0029】
実施例1は、本発明の光学装置及び筐体に関する。尚、実施例1の光学装置によって、一種の円柱(シリンドリカル)・液体レンズが構成され、この円柱レンズは凸レンズとして機能する。実施例1の光学装置を図1の(B)の矢印A−Aに沿って切断したときの模式的な断面図を図1の(A)に示し、光学装置を図1の(A)の矢印B−Bに沿って切断したときの模式的な断面図を図1の(B)に示し、光学装置を図1の(A)の矢印C−Cに沿って切断したときの模式的な断面図を図1の(C)に示す。尚、液体レンズのXZ平面で切断したときの形状は模式的な形状であり、実際の形状とは異なっている。また、実施例1の筐体を図3の(B)の矢印A−Aに沿って切断したときの模式的な断面図を図3の(A)に示し、筐体を図3の(A)の矢印B−Bに沿って切断したときの模式的な断面図を図3の(B)に示し、筐体を図3の(A)の矢印C−Cに沿って切断したときの模式的な断面図を図3の(C)に示す。
【0030】
実施例1の光学装置は、
(a)入射光に対して透明な第1の基材11、
(b)入射光に対して透明であり、第1の基材11に対面した第2の基材12、及び、
(c)第1の基材11と第2の基材12を繋ぐ枠部材13、
を有し、
第1の基材11、第2の基材12及び枠部材13によって囲まれたレンズ室10は、液体レンズを構成する第1の液体41及び第2の液体42によって占められおり、
レンズ室10に向いた第1の基材11の内面及び枠部材13の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在しており、
レンズ室10に向いた第1の基材11の内面及び枠部材13の内面の上には、無機材料から成る第1絶縁層31、有機材料から成る密着層32、及び、有機材料から成る第2絶縁層33が、順次、積層されている。尚、図面においては、場合によっては、第1絶縁層31、密着層32及び第2絶縁層33から成る積層構造体を、参照番号30で示し、また、1層にて図示している。積層構造体30の模式的な一部断面図を図2の(B)に示す。
【0031】
また、実施例1の筐体は、基材11、及び、有機材料から成る接着剤層14によって基材11に接着された枠部材13から成る筐体であって、
筐体内部に向いた基材11の内面及び枠部材13の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在しており、
筐体内部に向いた基材11の内面及び枠部材13の内面の上には、無機材料から成る第1絶縁層31、有機材料から成る密着層32、及び、有機材料から成る第2絶縁層33が、順次、積層されている。
【0032】
尚、実施例1の光学装置にあっては、少なくとも枠部材13の内面の一部には、無機材料から成る第1電極21が設けられており、第1電極21は無機材料から成る領域を構成し、レンズ室10に向いた第2の基材12の内面の一部には、無機材料から成る第2電極22が設けられている。尚、実施例1にあっては、枠部材13の内面の一部に無機材料から成る第1電極21が設けられている。そして、枠部材13の内面の残部は、有機材料から成る領域を構成する。レンズ室(筐体)10の外形形状は矩形形状であり、軸線がY方向である円柱レンズとしての液体レンズを構成する第1の液体41及び第2の液体42によって占められている。そして、第1の基材11から光が入射し、第2の基材12から光が出射する。
【0033】
具体的には、実施例1において、有機材料から構成された第2絶縁層33は、上述した構造式(1)〜構造式(5)のいずれかにて示されたパラキシリレン系ポリマーから成る。また、無機材料から構成された第1絶縁層31はSiO2から成る。更には、密着層32を構成する有機材料は、シランカップリング剤、具体的には、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランあるいは3−アミノプロピルトリエトキシシランから成る。また、第1の基材11と枠部材13とは有機材料から成る接着剤層14(具体的には、エポキシ系接着剤)によって接着されており、接着剤層14はレンズ室(筐体)10に面した部分を有する。また、第2電極21はITOから成り、第1電極21は、例えば、金、アルミニウム、銅、銀等の金属電極から成る。更には、第1の基材11、第2の基材12及び枠部材13は、入射光に対して透明なプラスチック、具体的には、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂から構成されている。
【0034】
実施例1あるいは後述する実施例2において、第1の液体41と第2の液体42とは、不溶、不混合であり、第1の液体41と第2の液体42との界面がレンズ面を構成する。ここで、第1の液体41は絶縁性を有し、第2の液体42は導電性を有し、第2電極22は第2の液体42と接しており、第1電極21は第2絶縁層33を介して第1の液体41及び第2の液体42と接している。絶縁性を有する第1の液体41はシリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社(旧GE東芝シリコーン株式会社))製TSF437から成り、密度は1.02グラム/cm3であり、屈折率は1.49である。一方、導電性を有する第2の液体42は塩化リチウム水溶液から成り、密度は1.06グラム/cm3であり、屈折率は1.34である。少なくとも第1の液体41と第2の液体42との界面が位置する第2絶縁層33は撥水性を有する。
【0035】
第1電極21及び第2電極22は、接続部を介してレンズ制御部(これらは図示せず)に接続され、所望の電圧が印加される構成、構造となっている。ここで、図1に示す状態にあっては、第1電極21、第2電極22には電圧を印加していない。そして、この状態から、第1電極21、第2電極22に適切な電圧を印加すると、第1の液体41と第2の液体42との界面によって構成されたレンズ面が、図1の(C)に示す下に凸の状態から、図2の(A)に示す上に凸の状態に向かって変化する。レンズ面の変化状態は、電極21,22に印加する電圧によって変化する(式(A)参照)。図2の(A)に示した例においては、第1の液体41及び第2の液体42の両側に位置する第1電極21に同じ電圧を印加している。それ故、レンズ室内で形成される液体レンズのXZ平面で切断したときの形状は、レンズ室10の法線方向中心軸に対して対称である。尚、両側に位置する第1電極21に異なる電圧を印加した場合には、レンズ室内で形成される液体レンズのXZ平面で切断したときの形状は、レンズ室10の法線方向中心軸に対して非対称となる。しかも、第1電極21と第2電極22との間の電位差に応じて、レンズ室10において形成されるレンズの光学パワーを変化させることができる。尚、レンズが光学パワーを発揮しているとき、YZ平面(あるいは、YZ平面と平行な平面)におけるレンズの光学パワーは実質的に0であり、XZ平面におけるレンズの光学パワーは有限の値である。以上に説明した実施例1の光学装置の基本的な動作は、後述する実施例2の光学装置においても同様である。
【0036】
実施例1の光学装置あるいは筐体は、以下の方法で作製することができる。
【0037】
第1の基材11と枠部材13を準備する。尚、枠部材13の表面の所定の領域には、例えば、真空蒸着法に基づき、第1電極21を予め形成しておく。そして、エポキシ系接着剤を用いて、第1の基材11と枠部材13とを接着する。尚、第1の基材11と枠部材13の組立体を『レンズ室組立体』と呼ぶ場合がある。この状態においては、レンズ室(筐体)10に向いた第1の基材11の内面及び枠部材13の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在している。具体的には、レンズ室(筐体)10に向いた第1の基材11の内面は、有機材料(具体的には、COP樹脂)から成る領域から構成されている。一方、レンズ室(筐体)に向いた枠部材13の内面には、無機材料から成る領域(第1電極21が占める領域)と、有機材料から成る領域(それ以外の領域)とが混在している。また、接着剤層14の一部(端面)が、レンズ室(筐体)10に面して露出している。
【0038】
その後、レンズ室(筐体)10に向いた第1の基材11の内面及び枠部材13の内面の上に、スパッタリング法に基づき、平均厚さ0.2μmのSiO2から成る第1絶縁層31を形成(成膜)する。スパッタリング法にあっては、スパッタ粒子のエネルギーが高いので、有機材料にも無機材料にも密着性良く成膜することができる。その後、イソプロピルアルコール94重量%、水5重量%、シランカップリング剤(具体的には、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)1重量%の溶液に10分間浸漬し、65゜Cで30分間乾燥し、水洗した後、再び、65゜Cで30分間乾燥することで、あるいは又、シランカップリング剤の水溶液を塗布し、乾燥し、水洗した後、再び、乾燥することで、第1絶縁層31上に有機材料から成る密着層32を形成(成膜)することができる。
【0039】
次いで、レンズ室組立体を蒸着チャンバー内に搬入し、モノマーガスを用い、モノマーガスが密着層32に接したところで重合することで、平均厚さ3μmの第2絶縁層33を成膜する。これによって、微細な領域にまでピンホールの無い、コンフォーマルな第2絶縁層33を得ることができる。こうして、実施例1の筐体を得ることができる。
【0040】
その後、レンズ室組立体を蒸着チャンバーから搬出し、レンズ室10内に、第1の液体41、第2の液体42を入れ、接着剤15を用いて、全体を、第2の基板12で密封する。こうして、実施例1の光学装置(液体レンズ)を得ることができる。あるいは又、レンズ室10を接着剤15を用いて第2の基板12で密封した後、レンズ室10を減圧しながら、枠部材13に設けられた注入口(図示せず)から第1の液体41を注入し、次いで、第2の液体42を注入してもよい。このとき、第2の液体42は、第1の液体41との間で界面を形成しながら注入され、第2の液体42の一部は排出口(図示せず)から排出される。最後に、注入口及び排出口を封止し、電極をレンズ制御部と接続することで、光学装置(液体レンズ)を完成させることができる。
【0041】
密着性評価のために、ガラス基板、プラスチック基板、SiO2から成る第1絶縁層が成膜されたプラスチック基板(COP樹脂から成る)上に、上記のシランカップリング剤から成る密着層を形成したもの、しないものを準備し(表1においては、密着層が形成されたものを『処理有り』、密着層が形成されていないものを『処理無し』と表現する)、上記のパラキシリレン系ポリマーから成る第2絶縁層を形成した。そして、テープ密着テストを行った。その結果を、以下の表1に示す。テープ密着テストは、成膜後の第2絶縁層に、カッターで2mm×2mmの碁盤目状の切り込みを入れ、その上にテープを貼り、剥がしたときに、第2絶縁層の幾つの部分が剥がれずに残っているかを調べて、膜の密着性を評価する方法である。碁盤目の数を、5×5=25とした。
【0042】
[表1]
処理無し 処理有り
ガラス基板 0/25 25/25
プラスチック基板 0/25 0/25
第1絶縁層 0/25 25/25
【0043】
テープ密着テストの結果、シランカップリング剤から成る密着層を形成しないもの(処理無し品)の上にパラキシリレン系ポリマーから成る第2絶縁層を形成した場合、如何なる下地にあっても、第2絶縁層は剥離してしまった。一方、シランカップリング剤から成る密着層を形成したもの(処理有り品)の上にパラキシリレン系ポリマーから成る第2絶縁層を形成した場合、下地が無機材料(ガラス基板あるいは第1絶縁層)にあっては、第2絶縁層は剥離しなかった。然るに、下地が有機材料(プラスチック基板)にあっては、第2絶縁層は剥離してしまった。以上のように、SiO2から成る第1絶縁層をプラスチック基板の表面に成膜してから、シランカップリング剤による下地処理を行うことにより、プラスチック基板でもガラス基板と同等の密着力を得ることができた。
【0044】
また、第1絶縁層を形成せずに、実施例1と同様の方法で光学装置(比較例1の光学装置)を試作し、実施例1と光学装置と併せて、ヒートサイクルテストに供した。それぞれの光学装置の数を3とし、ヒートサイクルテストは、−40゜Cで2時間、70゜Cで2時間のヒートサイクルを50回繰り返した。その結果、比較例1の光学装置にあっては、全ての光学装置において第2絶縁層の剥離が観察された。一方、実施例1の光学装置にあっては、全ての光学装置で第2絶縁層の剥離は観察されなかった。
【0045】
実施例1にあっては、無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在したレンズ室に向いた第1の基材11の内面及び枠部材13の内面(下地)、あるいは、無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在した筐体内部に向いた基材11の内面及び枠部材13の内面(下地)には、無機材料から成る第1絶縁層31及び有機材料から成る密着層32が積層され、密着層32の上に、有機材料から成る第2絶縁層33が形成されている。このように、下地の上に、下地に対して優れた密着性を有する無機材料から成る第1絶縁層31を形成し、第1絶縁層31に対して優れた密着効果を有する有機材料から成る密着層32を形成し、更に、密着層32によって優れた密着性を発揮する有機材料から成る第2絶縁層33を形成するので、無機材料から成る領域と有機材料から成る領域とが混在している領域から構成された下地に対して高い密着性を有する第2絶縁層33を得ることができる。それ故、第2絶縁層33が第1の基材11や枠部材13から剥離することを確実に防止することができる。
【実施例2】
【0046】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2の光学装置を構成するレンズ室の一部を図5の(A)の矢印A−Aに沿って切断した模式的な断面図を図4に示し、実施例2の光学装置を構成するレンズ室を図4の矢印C−Cに沿って切断したときの模式的な断面図を図5の(A)に示す。実施例1にあっては、1つのレンズ室から光学装置(液体レンズ)を構成した。一方、実施例2にあっては、複数のレンズ室から光学装置(液体レンズ)を構成する。即ち、レンズ室10内に隔壁部材16を配置して、レンズ室10を複数の領域(部分)に区切る。図4に示す例では、レンズ室10(101,102,103,104,105)が並置されている状態を示しているが、これは、あくまでも、図面の簡素化のためである。隔壁部材16の底面は第1の基材11まで延びており、隔壁部材16の頂面は第2の基材12まで延びている。隔壁部材16は接着剤17によって枠部材13に固定されている。各レンズ室10(101,102,103,104,105)は、実質的には、実施例1にて説明したレンズ室10と同様の構成、構造を有する。尚、図示した例では、各レンズ室毎に第2電極22が設けられているが、第2の基材12の内面に1枚の第2電極22を設けてもよい。
【0047】
図5の(B)に示すように、隔壁部材16の底面は第1の基材11まで延びており、隔壁部材16の頂面と第2の基材12との間には隙間が存在する構成とすることもできる。あるいは又、隔壁部材16の底面と第1の基材11との間には隙間が存在し、隔壁部材16の頂面は第2の基材12まで延びている構成とすることもできる。あるいは又、隔壁部材16の底面と第1の基材11との間には隙間が存在し、隔壁部材16の頂面と第2の基材12との間には隙間が存在する構成とすることもできる。
【0048】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において説明した光学装置や筐体の構成、構造は例示であるし、光学装置や筐体を構成する材料等も例示であり、適宜、変更することができる。また、第1電極、第2電極の構成、構造、配置状態も、これらの電極と直接、あるいは絶縁膜を介して接する液体の性質(導電性、絶縁性)に応じて、適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0049】
10・・・レンズ室(筐体)、11・・・第1の基材、12・・・第2の基材、13・・・枠部材、14・・・接着剤層、15,17・・・接着剤、16・・・隔壁部材、21・・・第1電極、22・・・第2電極、30・・・積層構造体、31・・・第1絶縁層、32・・・密着層、33・・・第2絶縁層、41・・・第1の液体、42・・・第2の液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)入射光に対して透明な第1の基材、
(b)入射光に対して透明であり、第1の基材に対面した第2の基材、及び、
(c)第1の基材と第2の基材を繋ぐ枠部材、
を有し、
第1の基材、第2の基材及び枠部材によって囲まれたレンズ室は、液体レンズを構成する第1の液体及び第2の液体によって占められおり、
レンズ室に向いた第1の基材の内面及び枠部材の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在しており、
レンズ室に向いた第1の基材の内面及び枠部材の内面の上には、無機材料から成る第1絶縁層、有機材料から成る密着層、及び、有機材料から成る第2絶縁層が、順次、積層されている光学装置。
【請求項2】
第2絶縁層を構成する有機材料は、パラキシリレン系ポリマーから成る請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
第1絶縁層を構成する無機材料は、SiO2から成る請求項1又は請求項2に記載の光学装置。
【請求項4】
密着層を構成する有機材料は、シランカップリング剤から成る請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項5】
第1の基材と枠部材とは、有機材料から成る接着剤層によって接着され、接着剤層はレンズ室に面した部分を有する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項6】
少なくとも枠部材の内面の一部には、無機材料から成る第1電極が設けられており、第1電極は無機材料から成る領域を構成し、
レンズ室に向いた第2の基材の内面の一部には、無機材料から成る第2電極が設けられている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項7】
枠部材の内面の残部は、有機材料から成る領域を構成する請求項6に記載の光学装置。
【請求項8】
基材、及び、有機材料から成る接着剤層によって基材に接着された枠部材から成る筐体であって、
筐体内部に向いた基材の内面及び枠部材の内面には、無機材料から成る領域と、有機材料から成る領域とが混在しており、
筐体内部に向いた基材の内面及び枠部材の内面の上には、無機材料から成る第1絶縁層、有機材料から成る密着層、及び、有機材料から成る第2絶縁層が、順次、積層されている筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−227194(P2011−227194A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95159(P2010−95159)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】