説明

光学補償シートの製造方法

【課題】配向膜との密着性に優れ、かつ良好な面状を有する光学補償シートを製造する。
【解決手段】セルロースエステルフイルム上に、配向膜、および液晶性分子の配向を固定化した光学異方性層がこの順に設けられてなる光学補償シートを製造する方法において、セルロースエステルフイルムの配向膜を塗布する側の表面のみを選択的に、溶媒としてアルコールを含むアルカリ溶液を塗布する工程、アルカリ溶液を洗浄してフイルムの表面から除去する工程、次いでフイルムの表面に配向膜塗布液を塗布する工程、そして配向膜塗布液を乾燥する工程を連続して実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフイルム、配向膜および液晶性分子の配向を固定化した光学異方性層を有する光学補償シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、および光学補償シート(位相差板)からなる。透過型液晶表示装置では、二枚の偏光板を液晶セルの両側に取り付け、一枚または二枚の光学補償シートを液晶セルと偏光板との間に配置する。反射型液晶表示装置は、反射板、液晶セル、一枚の光学補償シート、そして一枚の偏光板からなる。
液晶セルは、棒状液晶性分子、それを封入するための二枚の基板および棒状液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、棒状液晶性分子の配向状態の違いで、透過型については、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、反射型については、HAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
偏光板は、一般に、偏光膜とその両側に設けられた二枚の透明保護膜とからなる。偏光膜は、一般に、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料の水溶液を含浸させ、さらにこのフイルムを一軸延伸することにより得られる。
光学補償シートは、画像着色を解消し、視野角を拡大するために、様々な液晶表示装置に用いられている。光学補償シートとしては、延伸複屈折フイルムが従来から使用されていた。
延伸複屈折フイルムからなる光学補償シートに代えて、透明支持体上に液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)から形成された光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学異方性層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定化することにより形成する。一般に、重合性基を有する液晶性分子を用いて、重合反応により配向状態を固定化する。液晶性分子は、大きな複屈折を有する。そして、液晶性分子には、多様な配向形態がある。光学補償シートに液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フイルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。
光学補償シートの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような液晶セルの表示モードの違いに応じて決定する。光学補償シートに液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いると、液晶セルの様々な表示モードに対応する様々な光学的性質を有する光学補償シートを製造することができる。
ディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートは、様々な表示モードに対応するものが既に提案されている。例えば、TNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献1〜4に記載がある。また、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献5に記載がある。さらに、OCBモードまたはHANモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献6および7に記載がある。さらにまた、STNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献8に記載がある。そして、VAモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献9に記載がある。
透明支持体上に液晶性分子から形成された光学異方性層が設けられた光学補償シートにおいては、透明支持体と光学異方性層の間に、液晶性分子の配向を制御する配向膜が設けられる。透明支持体としてはセルロースエステルフイルムが好ましく用いられる。このような光学補償シートを製造する場合、セルロースエステルフイルムと配向膜(通常はポリビニルアルコール)の間の良好な密着性が必要になる。
一般に、セルロースエステルフイルムとポリビニルアルコール(配向膜)の親和性は悪く、配向膜の剥離が生じ易い。配向膜の剥離により、配向膜の上に設けられた光学異方性層もフイルムから剥離する。光学補償シートは、液晶表示装置の寸法にあわせて切断(あるいは打ち抜き)されるが、この切断の際の衝撃によりフイルムの切断部に剥離を生じることが多い。剥離した配向膜(または光学異方性層)の屑は、光学補償シートを用いた液晶表示装置の表示画面上に生じる「輝点故障」の原因となる。輝点故障は液晶表示装置の表示画面上に生じる星状に輝いて見える点状の故障である。このような輝点故障の発生を防ぐ(セルロースエステルフイルムと配向膜の密着性を改良する)ために、セルロースエステルフイルムをアルカリ水溶液に浸漬して、表面を鹸化処理したり、フイルム上にゼラチン下塗り層を設けたりしていた。セルロースエステルフイルムに対する鹸化処理については、特許文献10に記載がある。
【特許文献1】特開平6−214116号公報
【特許文献2】米国特許5583679号明細書
【特許文献3】米国特許5646703号明細書
【特許文献4】ドイツ特許3911620A1号明細書
【特許文献5】特開平10−54982号公報
【特許文献6】米国特許5805253号明細書
【特許文献7】国際公開第96/37804号パンフレット
【特許文献8】特開平9−26572号公報
【特許文献9】特許第2866372号公報
【特許文献10】特開平8−94838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セルロースエステルフイルムをアルカリ水溶液の中に浸漬して表面を鹸化処理することで、フイルムと配向膜の密着性を改良する場合、フイルムの両面が鹸化処理される。フイルムの両面に鹸化処理がされると、フイルムをロール状に巻き取った場合に、フイルムが互いに接着してしまう問題点があった。またこの様な浸漬による鹸化処理は、配向膜などの親水性材料を塗布する工程と同時に行うことが困難で、これらの工程とは分離して処理が行われていた。このために、鹸化処理工程に要する費用が高いという問題を有していた。
一方、セルロースエステルフイルム上にゼラチン下塗り層を設けることで、フイルムと配向膜の密着性を改良する場合、ゼラチン下塗り層の塗布に用いる溶液の溶媒として、セルロースエステルを膨潤させやすい溶媒(例えばケトン系溶媒など)が用いられる。ゼラチン下塗り層を設けることで、フイルムと配向膜の密着性は改良されるものの、下塗り層の塗布に用いる溶液の溶媒によりフイルム表面の平滑性が損なわれ、フイルムの長手方向にスジ状のムラが形成される問題があった。このようなスジ状のムラは、光学補償シートを液晶表示装置に用いた場合に表示ムラとして観察でき、液晶表示装置の表示品位を低下させていた。
このようにセルロースエステルフイルムの表面を平滑に保ったまま、フイルムと配向膜の密着性を(フイルム同士の接着などの)問題なく改良するのは困難であった。
本発明の目的は、配向膜との密着性に優れ、かつ良好な面状を有する光学補償シートとその製造方法を提供することにある。
別の本発明の目的は、このような光学補償シートと偏光膜を一体化した偏光板を提供することにある。
さらに別の本発明の目的は、このような光学補償シートを用いて、表示ムラや輝点故障が改善された液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、セルロースエステルフイルム上に、配向膜、および液晶性分子の配向を固定化した光学異方性層がこの順に設けられてなる光学補償シートを製造する方法であって、セルロースエステルフイルムの配向膜を塗布する側の表面のみを選択的に、溶媒としてアルコールを含むアルカリ溶液を塗布する工程、アルカリ溶液を洗浄してフイルムの表面から除去する工程、次いでフイルムの表面に配向膜塗布液を塗布する工程、そして配向膜塗布液を乾燥する工程を連続して実施することを特徴とする光学補償シートの製造方法を提供する。
なお、本明細書において、「実質的に45゜」とは、厳密な角度よりも±5゜未満の範囲内であることを意味する。この範囲は、±4゜未満であることが好ましく、±3゜未満であることがさらに好ましく、±2゜未満であることが最も好ましい。また、本明細書において、「遅相軸( slow axis)」は屈折率が最大となる方向を、「進相軸( fast axis)」は屈折率が最小となる方向、そして「透過軸(transmission axis)は透過率が最大となる方向をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0005】
本発明者の研究の結果、アルカリ溶液を塗布することにより一方の面のみが選択的に鹸化処理されたセルロースエステルフイルムを光学補償シートに用いることで、配向膜との優れた密着性を確保し、かつ良好な面状を有する光学補償シートを得ることに成功した。
塗布による鹸化処理方法を用いることにより、処理をするフイルム面を選択することができるので、従来のロール状に巻き取った際のフイルム同士の貼り付きなどの問題を生じずに配向膜などとの良好な密着性を得ることが可能となり、そしてゼラチン層を設ける必要がないために面状にも優れた光学補償シートの提供が可能となる。
さらに、塗布による鹸化処理は処理時間が短いために、配向膜塗布工程などと連続して処理が行えるため、光学補償シートなどを製造するコストを抑えることができる。また、偏光膜と光学補償シートを一体化した偏光板を製造する際に、セルロースエステルフイルムの偏光膜側も同様に塗布による鹸化処理を用いることにより、従来の浸漬による鹸化処理工程を省くことが可能となり、生産性の向上や製造コストの低下を達成することができる。
また、液晶性分子を用いた光学補償シートの透明支持体と偏光板の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板を備えたTNモードTFT液晶表示装置において、熱等の歪みにより光漏れが生じる問題がある。この現象は光学補償シートの光学特性が変化することが原因であり、特にセルロースエステルフイルムのような水酸基を有するポリマーでは使用環境の影響が大きい。この歪みによる光漏れ対策として光学補償シートの光弾性係数を下げ、特にセルロースエステルフイルムの厚みを薄くすることに効果があることがわかった。
ところがこの様な厚みの薄いセルロースエステルフイルムへのゼラチン下塗り層の塗設は、塗布工程でのハンドリングが困難であることがわかった。
本発明に従う光学補償シートの製造方法は、ゼラチン下塗り層が不要であるため、この様な薄い厚みと良好な平面性が必要とされる光学補償シートを製造するためにも有効に用いることができる。
なお、セルロースエステルフイルムの片面のみを選択的に鹸化処理する方法は、偏光板の保護膜の製造においても有効に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(セルロースエステルフイルムの光学特性)
セルロースエステルフイルムの光学特性は、光学補償シートが用いられる液晶セルの種類により適宜調節することができる。
フイルムに光学的異方性が要求される場合は、レターデーションが高いセルロースエステルフイルムを用いることが好ましい。
セルロースエステルフイルムの面内レターデーション(Re)は、セルロースエステルフイルムの延伸により調整(高い値と)することができる。
セルロースエステルフイルムの厚み方向のレターデーション(Rth)は、(1)レターデーション上昇剤の使用、または(2)冷却溶解法によるフイルムの製造により調整(高い値と)することができる。また、セルロースエステルフイルムとしてセルロースアセテートフイルムを用いる場合には、Rthは、フイルムの平均酢化度(アセチル化度)により調整(高い値と)することができる。これにより、従来は光学的等方性と考えられていたセルロースエステルフイルムを、光学補償機能を有する光学的異方性フイルムとして使用できる。この様な光学的異方性セルロースエステルフイルムは、その上に設けられる光学異方性層と協調して、液晶セルを光学的に補償する。
光学的異方性セルロースエステルフイルムの面内のレターデーション値(Re)は、−50乃至50nmであることが好ましく、−20乃至20nmであることが更に好ましい。
また、光学的異方性セルロースエステルフイルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)は、60乃至1000nmであることが好ましい。
面内のレターデーション値は、面内の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。厚み方向のレターデーション値は、厚み方向の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。厚み方向のレターデーション値は、厚み方向の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。厚み方向のレターデーション値の具体的な値は、測定光の入射方向をフイルム膜面に対して鉛直方向として、遅相軸を基準とする面内レターデーションの測定結果と、入射方向をフイルム膜面に対する鉛直方向に対して傾斜させた測定結果から外挿して求める。測定はエリプソメーター(例えば、M−150、日本分光(株)製)を用いて実施できる。測定波長としては、632.8nm(He−Neレーザー)を採用する。
面内レターデーション値(Re)と、厚み方向のレターデーション値(Rth)とは、それぞれ下記式(1)および(2)に従って算出する。
式(1):Re=(nx−ny)×d
式(2):Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nxはフイルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフイルム平面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフイルム面に垂直な方向の屈折率であり、そしてdはフイルムの厚み(nm)である。
【0007】
(セルロースエステル)
セルロースエステルの重合度(粘度平均)は200〜700の範囲にあることが好ましく、250〜550の範囲にあることがより好ましく、250〜350の範囲にあることがさらに好ましい。粘度平均重合度はオストワルド粘度計で測定することができ、測定されたセルロースエステルの固有粘度[η]から下記式により求められる。
DP=[η]/Km
式中、DPは粘度平均重合度、Kmは定数6×10−4を表す。
さらに、セルロースエステルは未使用(バージン)フレークだけをもちいても良いが、好ましくは製膜したセルロースエステルフイルム屑を3乃至95質量%、より好ましくは6乃至80質量、さらに好ましくは10乃至70質量%の範囲で混合して使用することが好ましい。
セルロースエステルフイルムを形成するセルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステルを用いることが好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースアセテート
が特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
セルロースアセテートの平均酢化度(アセチル化度)は、55.0%以上62.5%未満であることが好ましい。フイルムの物性の観点では、平均酢化度は、58.0%以上62.5%未満であることがさらに好ましい。ただし、平均酢化度が55.0%以上58.0%未満(好ましくは57.0%以上58.0%未満)であるセルロースアセテートを用いると、厚み方向のレターデーションが高いフイルムを製造することができる。
【0008】
(レターデーション上昇剤)
セルロースエステルフイルムにレターデーション上昇剤を添加することにより、フイルムの厚み方向のレターデーションを高い値とすることもできる。レターデーション上昇剤としては、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を使用できる。芳香族化合物は、セルロースエステル100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースフイルム100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5ートリアジン環が含まれる。
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。レターデーション上昇剤の沸点は、260℃以上であることが好ましい。沸点は、市販の測定装置(例えば、TG/DTA100、セイコー電子工業(株)製)を用いて測定できる。レターデーション上昇剤の具体例としては、特開2000−111914号公報、同2000−275434号公報、およびPCT/JP00/02619号明細書等に記載の化合物を挙げることができる。
【0009】
(セルロースエステルフイルムの製造)
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフイルムを製造することが好ましく、セルロースエステルを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムは製造される。ドープの主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチル
ケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素としては、メチレンクロリドを代表的な例として挙げることができる。なお、技術的には、メチレンクロリドのようなハロゲン化炭化水素は問題なく使用できるが、地球環境や作業環境の観点では、有機溶媒はハロゲン化炭化水素を実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、有機溶媒中のハロゲン化炭化水素の割合が5質量%未満(好ましくは2質量%未満)であることを意味する。また、製造したセルロースエステルフイルムから、メチレンクロリドのようなハロゲン化炭化水素が全く検出されないことが好ましい。
主溶媒として二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。特に好ましい有機溶媒は、互いに異なる三種類以上の混合溶媒である。第一の溶媒としては、炭素原子数が3〜4のケトンおよび炭素原子数が3〜4のエステル、およびこれらの混合液から選択することが好ましい。第二の溶媒としては、炭素原子数が5〜7のケトン類およびアセト酢酸エステル、およびこれらの溶媒の混合液から選択することが好ましい。第三の溶媒としては、沸点が30〜170℃のアルコール、沸点が30〜170℃の炭化水素、およびそれらの混合液から選択することが好ましい。
第一の溶媒に用いるケトンおよびエステルの好ましい例として、アセトン、酢酸メチル、蟻酸メチル、および蟻酸エチルなどを挙げることができる。
第二の溶媒に用いる有機溶媒の好ましい例として、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルなどを挙げることができる。
第三の溶媒は、沸点が30〜170℃のアルコールおよび沸点が30〜170℃の炭化水素から選択することが好ましい。アルコールは一価であることが好ましい。アルコールの炭化水素部分は、直鎖であっても、分岐を有していても、環状であってもよい。炭化水素部分は、飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には(以下括弧内は沸点である)、メタノール(64.65℃)、エタノール(78.325℃)、1−プロパノール(97.15℃)、2−プロパノール(82.4℃)、1−ブタノール(117.9℃)、2−ブタノール(99.5℃)、t−ブタノール(82.45℃)、1−ペンタノール(137.5℃)、2−メチル−2−ブタノール(101.9℃)およびシクロヘキサノール(161℃)が含まれる。これらのアルコールについては、二種類以上を混合して用いることが好ましい。炭化水素は、直鎖であっても、分岐を有していても、環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン(80.7℃)、ヘキサン(69℃)、ベンゼン(80.1℃)、トルエン(110.6℃)およびキシレン(138.4〜144.4℃)が含まれる。
三種混合溶媒中には、第一の溶媒が30〜95質量%含まれることが好ましく、40〜90質量%含まれることがより好ましく、50〜90質量%含まれることがさらに好ましく、50〜85質量%含まれることが最も好ましい。第二の溶媒及び第三の溶媒は、1〜40質量%含まれることが好ましく、3〜30質量%含まれることがより好ましい。三種混合溶媒とセルロースエステルとの好ましい配合比を以下に記載する。セルロースエステル/酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/エタノール(X/(70−X)/20/5/5、質量部)、セルロースエステル/酢酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(X/(50−X)/20/20/5/5、質量部)、セルロースエステル/アセトン/アセト酢酸メチル/エタノール(X/(75−X)/20/5、質量部)、セルロースエステル/酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/エタノール(X/(80−X)/10/5/5、質量部)、セルロースエステル/酢酸メチル/
1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール(X/(70−X)/20/5/5、質量部)、セルロースエステル/酢酸メチル/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール(X/(60−X)/20/10/5/5、質量部)、およびセルロースエステル/1,3ジオキソラン/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン/メタノール/エタノール(X/(55−X)/20/10/7.5/7.5、質量部)が好ましい配合比である。ここでXは、セルロースエステルの質量部を表わし、10乃至25の範囲にあることが好ましく、15〜23の範囲にあることが特に好ましい。
セルロースエステルフイルムの作製に用いるドープ(セルロースエステル溶液)には、上記の有機溶媒以外に、フルオロアルコールやメチレンクロライドを全有機溶媒量の10質量%以下含有させることもできる。これによりフイルムの透明性を向上させたり、ドープに対するセルロースエステルの溶解を早めたりすることができる。
フルオロアルコールとしては沸点が165℃以下のものがよく、好ましくは111℃以下のものがよく、更に80℃以下のものが好ましい。フルオロアルコールは炭素原子数が2から10程度、好ましくは2から8程度のものがよい。また、フルオロアルコールはフッ素原子含有脂肪族アルコールで、置換基があってもなくてもよい。置換基としてはフッ素原子含有或いはなしの脂肪族置換基、芳香族置換基などがよい。
このようなフルオロアルコールの例には、(以下括弧内は沸点である)2−フルオロエタノール(103℃)、2,2,2ートリフルオロエタノール(80℃)、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(109℃)、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール(55℃)、1,1,1,3,3,3−ヘキサ−2−メチル−2−プロパノール(62℃)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(59℃)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール(80℃)、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール(114℃)、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール(97℃)、パーフルオロ−tert−ブタノール(45℃)、2,2,3,3,4,4,5,5−オクトフルオロ−1−ペンタノール(142℃)、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,5−ペンタンジオール(111.5℃)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8ートリデカフルオロ−1−オクタノール(95℃)、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−1−オクタノール(165℃)、1−(ペンタフルオロフェニル)エタノール(82℃)、および2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジルアルコール(115℃)などが含まれる。これらのフルオロアルコールのうちの二種類以上を用いてもよい。
セルロースエステル溶液(ドープ)の調製は、冷却溶解法または高温溶解法に従い実施される。
まず冷却溶解法について、以下に説明する。まず室温近辺の温度(−10〜40℃)で主溶媒中にセルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加する。主溶媒として複数の有機溶媒の混合溶媒を用いる場合は、混合溶媒中にセルロースエステルを添加してもよいし、混合溶媒のうちのいずれかにセルロースエステルを混合したのちに残りの溶媒を添加してもよい。例えばアルコールなどのゲル化溶媒などにより予めセルロースエステルを湿らせた後に残りの主溶媒を加えてもよい。このような方法により、セルロースエステルの不均一な溶解を防止できる。このようにして有機溶媒とセルロースエステルの混合溶液を調整する。
セルロースエステルの量は、混合溶液中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースエステルの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに混合溶液中に、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合溶液を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースエステルと有機溶媒の混合溶液は固化する。冷却速度に特に限定はないが、バッチ式での冷却の場合は、冷却に
伴いセルロースエステル溶液の粘度が上がり、冷却効率が劣るために所定の冷却温度に達するために効率よい溶解釜を用いることが必要である。また冷却は、混合溶液を所定の冷却温度に設定された一般的な冷却装置を用いて短時間で行うこともできる。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースエステルが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよいし、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
加温を0.3〜30MPaの圧力下で実施してもよく、この場合処理時間は短時間でよく、0.5〜60分以内で処理することが好ましく、0.5〜2分以内で処理することがより好ましい。
以上のようにして、セルロースエステルが均一に溶解した溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断できる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
また、高温溶解法によりセルロースエステル溶液を調製することもできる。
高温溶解法では、室温近辺の温度(−10〜40℃)で主溶媒中にセルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加する。主溶媒として複数の有機溶媒の混合溶媒を用いる場合は、混合溶媒中にセルロースエステルを添加してもよいし、混合溶媒のうちのいずれかにセルロースエステルを混合したのちに残りの溶媒を添加してもよい。例えばアルコールなどのゲル化溶媒などにより予めセルロースエステルを湿らせた後に残りの主溶媒を加えてもよい。この様な方法によりに、セルロースエステルの不均一な溶解を防止できる。
このような混合溶液を調製する前に、セルロースエステルをアルコールなどのゲル化溶媒や各種有機溶媒の混合有機溶媒中に添加して予め膨潤させておくことも好ましい。その場合、−10〜40℃の温度の溶媒中に、セルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加しておくか、溶媒によりセルロースエステルを予め膨潤させ、その後に他の併用溶媒を加えて混合して均一の膨潤液としておいてもよい。セルロースエステルを二種以上の溶媒で膨潤させた後にさらに溶媒を加えて膨潤液を調整しておいても良い。このように作製した膨潤液を前記の主溶媒中に添加して混合溶液を調整することもできる。
混合溶液に対するセルロースエステルの添加量は40質量%以下が好ましく、フイルム製膜時の乾燥効率の点から、なるべく高濃度であることが好ましい。セルロースエステルの量は、最終的なドープとして10〜40質量%含まれるように調製する。最終的なドープとしてセルロースエステルの高濃度溶液を調製することが好ましいが、あまり高濃度になり過ぎると溶液の粘度が大きすぎて、製膜しにくくなる場合もある。従って、調整したドープにおけるセルロースエステルの濃度は、15〜30質量%の範囲にあることが好ましく、17〜25質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
高温溶解法においては、溶媒の蒸発を避けるために密閉容器を用いる。また、膨潤工程
おいて、加圧や減圧をすることで溶解に要する時間を短縮することができる。加圧及び減圧を実施するためには耐圧性容器を用いる。
次に得られた混合液を、0.2〜30MPaの加圧下で70〜240℃に加熱する。加熱温度は80〜220℃の範囲にあることが好ましく、100〜200℃の範囲にあることがさらに好ましく、100〜190℃の範囲にあることが最も好ましい。このように、混合液を加圧下で加熱する(さらに攪拌することが好ましい)ことによりセルロースエステルが均一に溶解した溶液が得られる。
加圧や加熱の方法に特に制限はない。圧力は、例えば混合溶液を容器に投入して、不活性ガスを注入することにより加圧してもよいし、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用して加圧してもよい。温度は、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いて加熱してもよいし、容器の外部に配管を施して加熱された液体を循環させることにより加熱してもよい。
容器内部に攪拌翼を設けて、混合液を攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
加熱された混合液は、そのままでは塗布できないため、混合液中の溶媒のうちの最も低い沸点以下に冷却する必要がある。冷却はセルロースエステル溶液の入った容器を、室温に放置するだけでもよく、更に好ましくは冷却水などを用いて容器を冷却してもよい。
尚、溶解を早めるために以上述べた加熱と冷却の操作を繰り返してもよい。
溶解が十分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断できる。
なお、セルロースエステル溶液を調製する際に、容器内に窒素ガスなどの不活性ガスを充満させてもよい。セルロースエステル溶液の製膜直前の粘度は、製膜の際、流延可能な範囲であればよく、通常は10〜2000ps・sの範囲に調製することが好ましく、30〜400ps・sに調整することがさらに好ましい。高圧高温溶解方法においては、溶媒の蒸発を避けるために密閉容器を用いる。また、膨潤工程おいて、加圧や減圧にしたりすることで更に溶解に要する時間を短縮することができる。加圧及び減圧を実施するためには、耐圧性容器あるいはラインが必須である。
得られたセルロースエステル溶液を用いてフイルムを製造する方法について述べる。セルロースエステルフイルムを製造する方法および設備は、従来から用いられている溶液流延法および溶液流延製膜装置を用いればよい。
まず、調製されたドープ(セルロースエステル溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵して、ドープに含まれている泡を脱泡するなどの最終調整をする。
次にドープを、高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプなどを用いて加圧型ダイに送る。ドープは加圧型ダイの口金(スリット)から、エンドレスに走行している支持体の上に均一に流延され、支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)として支持体から剥離される。得られたウェブの両端をクリップで挟み、その幅を保持しながらテンターで搬送して乾燥し、巻き取り機で所定の長さに巻き取る。また、溶液流延製膜装置には、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等をフイルム表面に施すための塗布装置が付加されることが多い。以下に各製造工程について簡単に述べるが、これらに限定されるものではない。
調製したセルロースエステル溶液(ドープ)は、ソルベントキャスト法により、ドープはドラムまたはバンド上に流延され、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンドなどの支持体上に流延することが好まし
い。
ドープは、バンドまたはドラムなどの支持体上に単層で流延してもよいし、二層以上の複数層で流延してもよい。
複数のセルロースエステル溶液を流延する場合、支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースエステルを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフイルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各明細書に記載の方法を用いることができる。また、二つの流延口からセルロースエステル溶液を同時に流延することによってフイルム化してもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および特開平6−134933号の各明細書に記載の方法を用いることができる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースエステル溶液の流れを低粘度のセルロースエステル溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースエステル溶液を同時に押出すセルロースエステルフイルムの流延方法を用いてもよい。
また二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成型したフイルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことにより、フイルムを作製してもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法を用いることができる。
流延するセルロースエステル溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースエステル溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースエステル層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースエステル溶液をそれぞれの流延口から押出せばよい。
さらにセルロースエステル溶液を、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
これまでセルロースエステルフイルムの流延に用いられていた単層液を流延する方法では、必要なフイルムの厚さにするために高濃度で高粘度のセルロースエステル溶液を押出すことが必要である。その場合セルロースエステル溶液の安定性が悪くて固形物が発生してブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。複数のセルロースエステル溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押出すことができ、優れた面状のフイルムが作製できる。さらに、濃厚なセルロースエステル溶液を用いることで乾燥負荷を低減でき、フイルムの生産スピードを高めることができる。
【0010】
(添加剤)
セルロースエステルフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1乃至25質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましく、3乃至15質量%であることが最も好ましい。
セルロースエステルフイルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)や紫外線防止剤を添加してもよい。
劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、および同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1質量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を挙げることができる。紫外線防止剤については、特開平7−11056号公報に記載がある。
なお、平均酢化度が55.0乃至58.0%であるセルロースアセテートは、平均酢化度が58.0%以上であるセルローストリアセテートと比較して、調製した溶液の安定性や製造したフイルムの物性が劣るとの欠点がある。しかし、上記のような劣化防止剤、特にブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)のような酸化防止剤を用いることで、この欠点を実質的に解消することが可能である。
【0011】
(延伸処理)
セルロースエステルフイルムを、フイルム面に沿った少なくとも一方向に延伸することが好ましい。セルロースエステルフイルムを、縦方向(MD)および横方向(TD)のうちの少なくとも一方向に延伸することがより好ましい。延伸は、縦方向の一軸延伸でも、横方向の一軸延伸でもよく、これらを組み合わせた多軸延伸でもよい。延伸倍率は、1乃至2倍の範囲にあることが好ましく、1乃至1.8倍の範囲にあることがより好ましく、1乃至1.6倍の範囲にあることがさらに好ましい。また、延伸前のフイルムにおける溶媒含有量は、0乃至50質量%の範囲にあることが好ましい。縦延伸を施す場合、溶媒含有量は、0乃至10質量%の範囲にあることが好ましく、0乃至5質量%の範囲にあることがより好ましい。横延伸を施す場合、溶媒含有量は、5乃至45質量%の範囲にあることが好ましく、10乃至40質量%の範囲にあることがより好ましい。
(1)縦延伸
縦延伸は、互いに間隔をおいて配置された二組以上のニップロールを用い、入口側のニップロールより出口側のニップロールの周速を早くすることで実施できる。延伸速度は、50乃至1000%/分の範囲にあることが好ましく、80乃至800%/分の範囲にあることがより好ましく、100乃至700%/分の範囲にあることがさらに好ましい。延伸時のフイルム温度(以下、延伸温度と記載する)は、フイルムのガラス転位温度(Tg)−20℃以上、Tg+50℃以下、より好ましくはTg−110℃以上、Tg+30℃以下の範囲にあることが好ましい。フイルムを加熱する方法としては、ヒートロールにフイルムを接触させる方法、加熱した恒温槽中でフイルムを延伸する方法、IRヒーターやハロゲンヒーターを用いてフイルムを加熱する方法などが挙げられる。これらの方法を組み合わせてフイルムを加熱してもよい。
さらにフイルムに皺が発生することを防止するため、延伸の前にフイルムを予熱、延伸の後にフイルムを徐冷することも好ましい。予熱は、フイルムをステップワイズに昇温して実施してもよいし、連続的に昇温して実施してもよい。前者の場合、フイルムを加熱して、室温から延伸温度までの少なくとも1つの温度でフイルムを1秒乃至3分間保持した後、延伸温度まで加熱することで予熱する。後者の場合、フイルムを室温から延伸温度まで、10乃至1000℃/分の範囲の昇温速度で連続的に加熱することで予熱する。これらの予熱方法を組み合わせて実施することも好ましい。徐冷は、フイルムを延伸後、延伸温度から室温までゆっくり冷却することで実施する。冷却は、フイルムをステップワイズに降温して実施してもよいし、連続的に降温して実施してもよい。前者の場合、フイルムを冷却して、延伸温度から室温までの少なくとも1つの温度でフイルムを1秒乃至3分間保持した後、室温まで冷却することで徐冷する。後者の場合、フイルムを延伸温度から室温まで、−10乃至−1000℃/分の範囲の冷却速度で連続的に冷却することで徐冷する。これらの徐冷方法を組み合わせて実施することも好ましい。さらに面状改良のために
、フイルムを0乃至10%の倍率で追加延伸することも好ましく、逆に0〜10%緩和させることも好ましい。
(2)横延伸
横延伸は、フイルムの両端をクリップで把持し、これを広げることで実施できる。延伸の速度は、5乃至300%/分の範囲にあることが好ましく、10乃至200%/分の範囲にあることがより好ましく、15乃至150%/分の範囲にあることがさらに好ましい。延伸時のフイルム温度(延伸温度)は、フイルムのガラス転位温度(Tg)−20℃以上、Tg+50℃以下、より好ましくはTg−110℃以上、Tg+30℃以下であることが好ましい。このような加熱を、恒温槽中で行なう方法(テンター法)が好ましい。延伸温度は、一定温度でも良く、二種以上の温度でもよい。二種以上の温度とは、複数に分割したテンターを用い個別に温度設定することを意味する。
さらにフイルムに皺が発生することを防止するため、延伸の前にフイルムを予熱、延伸の後にフイルムを徐冷することも好ましい。予熱は、フイルムをステップワイズに昇温して実施してもよいし、連続的に昇温して実施してもよい。前者の場合、フイルムを加熱して、室温から延伸温度までの少なくとも1つの温度でフイルムを1秒以上3分間保持した後、延伸温度まで加熱することで予熱する。後者の場合、フイルムを室温から延伸温度まで、10乃至1000℃/分の範囲の昇温速度で連続的に加熱することで予熱する。これらの予熱方法を組み合わせて実施することも好ましい。徐冷は、フイルムを延伸後、延伸温度から室温までゆっくり冷却することで実施する。冷却は、フイルムをステップワイズに降温して実施してもよいし、連続的に降温して実施してもよい。前者の場合、フイルムを冷却して、延伸温度から室温までの少なくとも1つの温度でフイルムを1秒乃至3分間保持した後、室温まで冷却することで徐冷する。後者の場合、フイルムを延伸温度から室温まで、−10乃至−1000℃/分の範囲の冷却速度で連続的に冷却することで徐冷する。これらの徐冷方法を組み合わせて実施することも好ましい。さらに面状改良のために、フイルムを0乃至10%の倍率で追加延伸することも好ましく、逆に0〜10%緩和させることも好ましい。
【0012】
(フイルムの寸法)
セルロースエステルフイルムの厚みは、20乃至500μmの範囲にあることが好ましく、20乃至300μmの範囲にあることがより好ましく、30乃至200μmの範囲にあることがさらに好ましく、35乃至150μmの範囲にあることが特に好ましい。フイルムの幅は、0.4乃至4mの範囲にあることが好ましく、0.5乃至3mの範囲にあることがより好ましく、0.6乃至2mの範囲にあることがさらに好ましい。フイルムの幅方向の端部近辺に、ナーリング(厚みだし加工)を施すことが好ましい。フイルムのナーリングを施す部分は、透明支持体端部より5乃至30mmの範囲にあることが好ましく、7乃至20mmの範囲にあることがより好ましい。ナーリングの高さは、10乃至100μmの範囲にあることが好ましく、20乃至80μmの範囲にあることがより好ましい。ナーリング(厚みだし加工)は、片押しまたは両押しで実施できる。
【0013】
(鹸化処理)
セルロースエステルフイルムには、その配向膜が設けられる側の表面にアルカリ溶液の塗布による鹸化処理が施される。塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を挙げることができる。ディップコーティング法では、反対側の面がアルカリ溶液に接しないようにマスクしてからアルカリ溶液に浸して直ちに引き上げれば(ディップすれば)よい。
鹸化処理塗布液(アルカリ溶液)の溶媒は、セルロースエステルフイルムに対して濡れ性が良く、フイルム表面を膨潤させ難い(凹凸を形成しない)溶媒であることが好ましい。溶媒は、アルコール系溶媒が好ましく、炭素原子数が1〜5の一価アルコールまたは二価アルコールがさらに好ましい。アルコール系溶媒は、エチルアルコール、ノルマルプロ
ピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコールおよびエチレングリコールがより好ましく、イソプロピルアルコールがさらに好ましい。二種類以上のアルコールを混合して用いてもよい。またこれらのアルコール系溶媒に、水を0乃至50質量%の範囲で、より好ましくは0乃至30質量%の範囲で、さらに好ましくは0乃至15質量%の範囲で添加してもよい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。
鹸化液に含まれるアルカリは、上記の溶媒に対して溶解性のよいアルカリが好ましく、KOHおよびNaOHがさらに好ましい。鹸化液のpH値は10以上であることが好ましく、12以上であることがさらに好ましい。
鹸化処理の条件は、鹸化液が塗布された状態で1秒以上5分以下保つことが好ましく、2秒以上1分以下保つことがさらに好ましく、3秒以上30秒以下保つことが特に好ましい。この鹸化処理の後、鹸化液が塗布された面を水洗、乾燥することが好ましい。鹸化時の温度は、10乃至80℃の範囲にあることが好ましく、15乃至60℃の範囲にあることがより好ましく、20乃至40℃の範囲にあることがさらに好ましい。
本発明においては、セルロースエステルフイルムを、酸素濃度が0乃至18%、より好ましくは0乃至15%、さらに好ましくは0乃至10%の範囲にある雰囲気下において鹸化処理することが好ましい。このような低酸素濃度下で鹸化塗布液(アルカリ溶液)を塗布することで、フイルムの表面特性を制御でき、密着性の高い表面にすることができる。雰囲気の酸素以外の気体成分は不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン等であることが好ましく、窒素であることが特に好ましい。
鹸化処理に引き続き、鹸化塗布液を洗浄液により洗浄する。洗浄は、洗浄液の液温を30乃至80℃の範囲として行なうことが好ましい。この洗浄液の温度は、35乃至70℃の範囲にあることがより好ましく、40乃至65℃の範囲にあることがさらに好ましい。洗浄は、鹸化塗布液が塗布されたセルロースエステルフイルムを洗浄液の浴に浸漬しても良く、スプレーで洗浄液をフイルムに塗布しても良い。洗浄液は、実質的に水であれば良く、0乃至50%の範囲で、より好ましくは0乃至20%の範囲で溶剤をふくんでも良い。好ましい溶剤の例としては、炭素数5以下のアルコールを挙げることができる。洗浄液として最も好ましいのは、純水である。洗浄の後40℃以上200℃以下、より好ましくは50℃以上150℃以下、さらに好ましくは60℃以上120℃以下で乾燥させる。
また、このような塗布による鹸化処理と後述の配向膜の塗設は、連続して行うことができる。また、セルロースエステルフイルムの片面のみを選択的に鹸化処理することができるため、鹸化処理した表面に配向膜を設けた後にフイルムをロール状に巻き取っても、フイルムの配向膜が設けられた面と、逆側の面とが貼り付いたりすることはない。
【0014】
(セルロースエステルフイルムの表面特性)
塗布による鹸化を行うことで「輝点故障」や「表示ムラ」を改善できるが、「輝点故障」を確実に改善するには、鹸化後のフイルムの表面特性を調節することが必要であることがわかった。また逆に鹸化後のフイルムの表面特性を調節しないと塗布による鹸化処理を行っても輝点故障が発生し、さらには液晶表示装置を長期にわたり使用した後に「雲状故障」を生じる場合があることがわかった。
「輝点故障」とは、液晶表示装置の画面上に生ずる星状に輝く欠陥であり、画面が黒表示の場合に容易に観察することができる。このような輝点故障について調べた結果、輝点は配向膜あるいは光学異方性層などの屑が付着して生じていることがわかった。これらの屑は、液晶表示装置の寸法に合わせて光学補償シートを切断(あるいは打ち抜き)する際の衝撃により、フイルムから配向膜(と同時に光学異方性層)が僅かながら剥離することで生じることがわかった。「雲状故障」とは、液晶表示装置の画面上に、雲状にくすんだように見えるムラが生じる欠陥であり、画面が白表示の場合に観察し易い欠陥である。この雲状故障は、液晶表示装置を製造した直後には発生し難く、長期経時後に発生し易い。このような雲状ムラについて調べた結果、雲状ムラは、光学補償シートに用いられるセルロースエステルフイルム中の低分子量化合物(例えば可塑剤など)が、長期経時後に配向
膜と光学異方性層の界面にまで析出することで発生することがわかった。さらに雲状故障は、従来のような浸漬による鹸化処理より、塗布による鹸化処理を施したほうが生じ易いこともわかった。
セルロースエステルフイルムの、塗布による鹸化処理が施された面の表面特性を、下記の(1)乃至(5)の表面特性のうちの少なくとも一つ(好ましくは複数)を満足させることで、塗布による鹸化処理を用いる利点(フイルムの平滑な面状を保てることなど)に加えて、光学補償シートを液晶表示装置に用いた際の輝点故障を、雲状故障の発生もなく改善できることがわかった。セルロースエステルフイルムに塗布による鹸化処理を施した場合に、「輝点故障」および「雲状故障」の発生を抑えることのできるフイルムの表面特性を以下に記載する。
(1)フイルム表面の鹸化深さが、0.010乃至0.8μmの範囲にあること。
鹸化深さは、0.020乃至0.6μmの範囲にあることが好ましく、0.040乃至0.4μmの範囲にあることがより好ましい。
(2)表面における化学結合の存在量の比を示すC=O/C−O比が0乃至0.6の範囲にあり、かつC−C/C−O比が0.45乃至0.75の範囲にあること。
C=O/C−O比は、0乃至0.55の範囲にあることが好ましく、0乃至0.5の範囲にあることがより好ましい。
C−C/C−O比は、0.5以上0.7の範囲にあることが好ましく、0.5乃至0.65の範囲にあることがより好ましい。
(3)セルロースエステルフイルムに可塑剤としてリン化合物が添加されている場合、表面における元素の存在量の比を示すO/C比が0.62乃至0.75の範囲にあり、かつP/C比が0.007乃至0.015の範囲にあること。
表面のO/C比は、0.63乃至0.73の範囲にあることが好ましく、0.64乃至0.71の範囲にあることがより好ましい。
表面のP/C比は、0.008乃至0.0145の範囲にあることが好ましく、0.009乃至0.014の範囲にあることがより好ましい。
(4)フイルム表面における水との接触角が、20乃至55度の範囲にあること。
水との接触角は、25乃至50度の範囲にあることが好ましく、30乃至45度の範囲にあることがより好ましい。
(5)セルロースエステルフイルムとしてセルロースアセテートフイルムを用いた場合、フイルム表面のアセチル置換度が、1.8乃至2.7の範囲にあること。
アセチル置換度は、1.85乃至2.5の範囲にあることが好ましく、1.9乃至2.4の範囲にあることがより好ましい。
これらの表面特性を達成することにより輝点故障と雲状故障が抑えられる理由についてはわかっていないが、以下のように推測される。
例えば、鹸化深さが深すぎる場合には、表面付近のセルロースエステルの主鎖などの切断が生じていると推測される。この主鎖の切断によりフイルム表面のセルロースエステルの分子量が低下して脆くなり、フイルムと配向膜の密着性が低下すると考えられる。そしてフイルム表面が過度に(表面から深くまで)鹸化処理されることにより低分子量化合物(可塑剤など)の発生が多くなり表面付近に多く付着すると考えられる。長期経時後に低分子量化合物が配向膜の表面へと析出することで雲状故障を生じると推測される。一方、鹸化深さが浅すぎる場合には、鹸化処理が不充分であるためにフイルムと配向膜の密着性が低下すると考えられる。そして鹸化深さが極端に浅いためにセルロースエステルフイルム表面の極近傍に微量に存在する低分子量化合物(可塑剤など)が長期経時後に配向膜の表面にまで析出しやすいと考えられる。
セルロースエステルフイルムの表面特性を上記の範囲に調節するには、塗布による鹸化処理の条件を調節することで達成できる。表面特性を調節するための最大のポイントは、18%以下の低酸素雰囲気下でアルカリ溶液をセルロースエステルフイルムに塗布すること、およびこの後アルカリ溶液を30℃〜80℃の洗浄液(温水が好ましい)で洗浄することである。鹸化処理の詳細については、光学補償シートの製造工程と併せて後述する。
【0015】
(表面特性の評価方法)
セルロースエステルフイルムの表面特性の評価方法について記載する。
【0016】
(1)フイルム表面の鹸化深さ
セルロースエステルフイルムの表面をイオンエッチングしながら、光電子分光法(XPS)により、鹸化に用いるアルカリに特有の元素の存在量を測定することで鹸化深さを求める。エッチング時間から測定深さへの換算は、下記の標準サンプルの測定結果から行える。
【0017】
(標準サンプルの作製)
トリアセチルセルロース10質量部にコロイダルシリカを5質量部添加し、これを90質量部のジクロロメタンと10質量部のメタノールに溶解する。これをセルロースエステルフイルム(例えば市販のフジタック)の上に、乾膜後の厚みが約0.2μmとなるように塗布、そして乾燥する。この厚みを、再度膜厚計を用いて測定し、t(μm)とする。
【0018】
(エッチング時間から測定深さの換算)
光電子分光スペクトロメーター(島津製作所製、ESCA750型)を用い、加速電圧2kV、加速電流20mAで、圧力5×10−4Paのアルゴンガス中で標準サンプルをエッチングする。エッチングを2分間行い、Si−2pのシグナルを測定する。これを繰り返し、測定されるシグナルの強度が、第1回エッチング後のSi−2pのシグナルの1/10の強度となった時のエッチング時間の合計をT分とする。t(μm)/T(分)からエッチング速度を求め、実サンプルのエッチング時間から測定深さに換算する。
【0019】
(実サンプルにおける表面の鹸化深さの評価)
セルロースエステルフイルムにアルカリ溶液を塗布(鹸化処理)する。アルカリ溶液の乾燥前に、表面に残った鹸化塗布液(アルカリ溶液)を濾紙で拭き取り、直ちに液体窒素で凍結した後、凍結乾燥する。これによりフイルムに浸透したアルカリを固定する。得られたセルロースエステルフイルムを、標準サンプルと同様の条件で、エッチングしながらXPS測定することで鹸化深さを評価する。XPS測定の際に検出する元素は、アルカリの特異元素(例えばNaOHを用いた場合はNa、KOHを用いた場合はK)のシグナルに着目する。エッチングを2分間隔で行いXPS測定する。測定される特異元素のシグナル強度が、第1回目エッチングの後の特異元素のシグナル強度の1/10以下となった時の深さ(エッチング時間の合計から深さに換算する)を鹸化深さとする。
【0020】
(2)フイルム表面におけるC=O/C−O比およびC−C/C−O比
鹸化処理、洗浄、そして乾燥まで終了したセルロースエステルフイルムに対し、島津製作所製ESCA750型スペクトロメーターを用いXPS測定を行い、C=O/C−O比およびC−C/C−O比を下記のように求めた。
1)C1sに由来するスペクトルを、結合エネルギー295eVから280eVの間で測定する。
2)295eV〜293eVの間のスペクトル上で強度が最低である点と、282eV〜280eVの間のスペクトル上で強度が最低である点を結びベースラインとする。
3)測定したC1sに由来するスペクトル上の、強度が最大である点の結合エネルギーは、C−Oの結合エネルギーに対応している。この強度が最大である点のベースラインからの強度をC−Oとする。
C−Oの結合エネルギーから2.1eV高い結合エネルギーは、C=Oの結合エネルギーに対応している。C1sに由来するスペクトル上の、C=Oの結合エネルギーにおける点のベースラインからの強度をC=Oとする。
C−Oの結合エネルギーから1.4eV低い結合エネルギーは、C−Cの結合エネルギ
ーに対応している。C1sに由来するスペクトル上の、C−Cの結合エネルギーにおける点のベースラインからの強度をC−Cとする。求めたC−O、C=O、C−Cの強度の比をとり、フイルム表面のC=O/C−O比、C−C/C−O比とする。
【0021】
(3)フイルム表面におけるO/C比およびP/C比
鹸化処理、洗浄、そして乾燥まで終了したセルロースエステルフイルムに対し、島津製作所製ESCA750型スペクトロメーターを用いXPS測定し、O/C比およびP/C比を下記のように求めた。
1)C1sに由来するスペクトルを、結合エネルギー295eVから280eVの間で測定する。295eV〜293eVの間のスペクトル上で強度が最低である点と、282eV〜280eVの間のスペクトル上で強度が最低である点を結びベースラインとする。ベースラインと、その上のスペクトルにより囲まれた面積をX(cps・eV)とする。
2)O1sに由来するスペクトルを、結合エネルギー540eVから526eVの間で測定する。540eV〜538eVの間のスペクトル上で強度が最低の点と、528eV〜526eVの間のスペクトル上で強度が最低の点を結びベースラインとする。ベースラインと、その上のスペクトルにより囲まれた面積を求め、これをイオン化断面積(2.85)で割った値をY(cps・eV)とする。
3)P2pに由来するスペクトルを、結合エネルギー145eVから125eVの間で測定する。143eV〜141eVの間の平均強度と、129eV〜127eVの間の平均強度を結びベースラインとする。ベースラインと、その上のスペクトルにより囲まれた面積を求め、これをイオン化断面積(1.25)で割った値をZ(cps・eV)とする。4)求めたスペクトルの面積X、YおよびZの比をとり、Y/XをO/C比、Z/XをP/C比とする。
【0022】
(4)水との接触角
鹸化処理、洗浄、そして乾燥まで終了したセルロースエステルフイルムを、温度25℃、相対湿度60%の環境下において3時間調温調湿した後、(株)協和界面科学社製接触角計CA−Aにより接触角を測定した。
【0023】
(5)フイルム表面のアセチル置換度
フイルム表面のアセチル鹸化度は、下記方法に従い、ATR−IR法を用いて測定する。
1)鹸化処理、洗浄、そして乾燥まで終了したセルロースエステルフイルムを、Geプリズムを用い、入射角45度の条件でATR−IR測定する。
2)測定したIRスペクトルにおいて、1450〜1550cm−1の間の吸光度が最小である点と、1350〜1300cm−1の間の吸光度が最小である点を直線で結び、これをベースラインとし、スペクトルの1360±20cm−1におけるベースラインからの吸光度を最大吸光度Iとする。また、1200〜1100cm−1の間の吸光度が最小である点と、900〜800cm−1の間の吸光度が最小である点を直線で結び、これをベースラインとし、スペクトルの1150±20cm−1におけるベースラインからの吸光度を最大吸光度iとする。
1360±20cm−1における最大吸光度Iと、1150±20cm−1における最大吸光度iとの比I/iを求める。
3)アセチル置換度=0のI/iを0.5、アセチル置換度=3のI/iを4.7とし、アセチル置換度とI/iの関係を直線的に近似して、測定したI/iの値をアセチル置換度に換算する。換算して得られた値を、フイルム表面のアセチル置換度とする。
【0024】
(配向膜)
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜
)による有機化合物(例、ωートリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。ポリマーのラビング処理により形成する配向膜が特に好ましい。ラビング処理は、ポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に、数回こすることにより実施する。
配向膜に使用するポリマーの種類は、液晶セルの表示モードの種類に応じて決定する。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に垂直に配向している表示モード(例、VA、OCB、HAN)では、光学異方性層の液晶性分子を実質的に水平に配向させる機能を有する配向膜を用いる。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に水平に配向している表示モード(例、STN)では、光学異方性層の液晶性分子を実質的に垂直に配向させる機能を有する配向膜を用いる。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に斜めに配向している表示モード(例、TN)では、光学異方性層の液晶性分子を実質的に斜めに配向させる機能を有する配向膜を用いる。
具体的なポリマーの種類については、前述した様々な表示モードに対応するディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートについての文献に記載がある。
配向膜に使用するポリマーを架橋して、配向膜の強度を強化してもよい。配向膜に使用するポリマーに架橋性基を導入して、架橋性基を反応させることにより、ポリマーを架橋させることができる。なお、配向膜に使用するポリマーの架橋については、特開平8−338913号公報に記載がある。
配向膜の厚さは、0.01乃至5μmであることが好ましく、0.05乃至1μmであることがさらに好ましい。
【0025】
(光学異方性層)
光学異方性層は、液晶性分子から形成する。
液晶性分子としては、棒状液晶性分子またはディスコティック液晶性分子が好ましく、ディスコティック液晶性分子が特に好ましい。
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性分子だけではなく、高分子液晶性分子も用いることができる。高分子液晶性分子は、以上のような低分子液晶性分子に相当する側鎖を有するポリマーである。高分子液晶性分子を用いた光学補償シートについては、特開平5−53016号公報に記載がある。
ディスコティック液晶性分子は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq.
Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、ディスコティック液晶性分子は、下記式(I)で表わされる化合物であることが好ましい。
(I) D(−L−P)
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Pは重合性基であり;そして、nは4乃至12の整数である。
式(I)の円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LP(またはPL)は、二価の連結基(L)と重合性基(P)との組み合わせを意味する。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
式(I)において、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−および−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−および−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2乃至12であることが好ましい。アリーレン基の炭素原子数は、6乃至10であることが好ましい。アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、置換基(例、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ、アルコキシ基、アシルオキシ基)を有していてもよい。
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(P)に結合する。ALはアルキレン基またはアルケニレン基を意味し、ARはアリーレン基を意味する。
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AL−AR−O−AL−O−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L21:−S−AL−
L22:−S−AL−O−
L23:−S−AL−O−CO−
L24:−S−AL−S−AL−
L25:−S−AR−AL−
なお、STNモードのような棒状液晶性分子がねじれ配向している液晶セルを、光学的に補償するためには、ディスコティック液晶性分子もねじれ配向させることが好ましい。上記AL(アルキレン基またはアルケニレン基)に、不斉炭素原子を導入すると、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。また、不斉炭素原子を含む光学活性を示す化合物(カイラル剤)を光学異方性層に添加しても、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。
式(I)の重合性基(P)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(P)の例を以下に示す。
【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
重合性基(P)は、不飽和重合性基(P1〜P7)、エポキシ基(P7)またはアジリジニル基(P8)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、
エチレン性不飽和重合性基(P1〜P6)であることが最も好ましい。
式(I)において、nは4乃至12の整数である。具体的な数字は、ディスコティックコア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとPの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
二種類以上のディスコティック液晶性分子を併用してもよい。例えば、以上述べたような重合性ディスコティック液晶性分子と非重合性ディスコティック液晶性分子とを併用することができる。
非重合性ディスコティック液晶性分子は、前述した重合性ディスコティック液晶性分子の重合性基(P)を、水素原子またはアルキル基に変更した化合物であることが好ましい。すなわち、非重合性ディスコティック液晶性分子は、下記式(II)で表わされる化合物であることが好ましい。
(II)D(−L−R)n
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Rは水素原子またはアルキル基であり;そして、nは4乃至12の整数である。
式(II)の円盤状コア(D)の例は、LP(またはPL)をLR(またはRL)に変更する以外は、前記の重合性ディスコティック液晶分子の例と同様である。
また、二価の連結基(L)の例も、前記の重合性ディスコティック液晶分子の例と同様である。
Rのアルキル基は、炭素原子数が1乃至40であることが好ましく、1乃至30であることがさらに好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも直鎖状アルキル基の方が好ましい。Rは、水素原子または炭素原子数が1乃至30の直鎖状アルキル基であることが特に好ましい。
光学異方性層は、液晶性分子、あるいは下記の重合性開始剤や任意の添加剤(例、可塑剤、モノマー、界面活性剤、セルロースエステル、1,3,5−トリアジン化合物、カイラル剤)を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成する。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
塗布液の塗布は、公知の方法(例、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
液晶性分子は、実質的に均一に配向していることが好ましく、実質的に均一に配向している状態で固定されていることがさらに好ましく、重合反応により液晶性分子が固定されていることが最も好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマートp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20質量%であることが好ましく、0.5乃至5質量%であることがさらに好ましい。
ディスコティック液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい

照射エネルギーは、20mJ/cm乃至50J/cmであることが好ましく、100乃至800mJ/cmであることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
光学異方性層の厚さは、0.1乃至10μmであることが好ましく、0.5乃至5μmであることがさらに好ましく、1乃至5μmであることが最も好ましい。ただし、液晶セルのモードによっては、高い光学的異方性を得るために、光学異方性層を厚く(3乃至10μm)する場合がある。
光学異方性層内での液晶性分子の配向状態は、前述したように、液晶セルの表示モードの種類に応じて決定される。液晶性分子の配向状態は、具体的には、液晶性分子の種類、配向膜の種類および光学異方性層内の添加剤(例、可塑剤、バインダー、界面活性剤)の使用によって制御される。
【0035】
(光学補償シートの表面処理)
光学補償シートと偏光膜とを一体化して偏光板を作製する場合、光学補償シートの偏光膜側の面を表面処理することにより、互いの接着性を改善することができる。表面処理としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理を実施することが好ましい。
コロナ放電処理とグロー放電処理は、光学補償シートの表面を放電中に曝すことにより行われる。これらの処理は、市販の放電処理機を用いて実施できる。
放電処理は、水蒸気の存在下で実施することが好ましい。水蒸気分圧は、10乃至100%であることが好ましく、40乃至90%であることがさらに好ましい。セルロースエステルフイルムを予熱してから、放電処理を行うことが好ましい。予熱温度は、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが最も好ましい。予熱温度の上限は、セルロースエステルフイルムのガラス転移温度である。
グロー放電処理における真空度は、0.005乃至20Torrであることが好ましく、0.02乃至2Torrであることがさらに好ましい。グロー放電処理の電圧は、500乃至5000Vであることが好ましく、500乃至3000Vであることがさらに好ましい。グロー放電周波数は、50Hz乃至20MHzであることが好ましく、1KHz乃至1MHzであることがさらに好ましい。グロー放電強度は、0.01乃至5KV・A・分/mであることが好ましく、0.15乃至1KV・A・分/mであることがさらに好ましい。
放電処理が終了した光学補償シートは、直ちに冷却することが好ましい。
火炎処理では、ガス(天然ガス、プロパンガス)と空気との混合比が重要である。ガス/空気の容積比は、1/13乃至1/21であることが好ましく、1/14乃至1/20であることがさらに好ましい。セルロースエステルフイルムの面積当たりの火炎処理の熱量は、1乃至50kcal/mであることが好ましい。火炎の内炎先端とセルロースエステルフイルムとの距離は、4cm以下であることが好ましい。
酸処理またはアルカリ処理は、酸またはアルカリの水溶液に光学補償シートを浸漬して実施する。
酸処理に使用する酸は、塩酸、硫酸または硝酸のような無機酸であることが好ましい。アルカリ処理に使用するアルカリは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物であることが好ましい。浸漬時間は、30秒乃至10分であることが好ましい。浸漬終了後、フイルムを水で洗浄することが好ましい。
酸処理またはアルカリ処理は、セルロースエステルフイルムの配向膜が設けられる面と同様に、塗布により行うことがさらに好ましい。
紫外線照射処理は、光学補償シートの偏光膜に接する側の面に紫外線を照射することで行われる。
紫外線照射処理の紫外線波長は、220乃至380nmであることが好ましい。照射光
量は、20乃至10000mJ/cmであることが好ましく、50乃至2000mJ/cmであることがさらに好ましく、100乃至1500mJ/cmであることが最も好ましい。
【0036】
(透明保護膜)
偏光板の透明保護膜としては、ポリマーフイルムが用いられる。保護膜が透明であるとは、光透過率が80%以上であることを意味する。透明保護膜としては、一般にセルロースエステルフイルム、好ましくはアセチルセルロースフイルムが用いられる。セルロースエステルフイルムは、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。透明保護膜の厚さは、20乃至500μmであることが好ましく、50乃至200μmであることがさらに好ましい。
透明保護膜には、偏光膜との密着性を向上させるために、上記の各種表面処理のいずれかを行うことが好ましい。鹸化処理をする場合には、先に述べた塗布法による鹸化処理を行うことも好ましい。
【0037】
(偏光板)
偏光板は、偏光膜と、その両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。偏光膜は、エチレン−酢酸ビニル共重合体系部分鹸化ポリマー、部分ホルマール化ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールのような親水性ポリマーからなるフイルムを延伸した後、ヨウ素または二色性染料を吸着させたものや、ポリ塩化ビニルのようなプラスチックフイルムを処理して、ポリエンを配向させたものである。偏光板の透明保護膜の一方として、本発明に従う光学補償シートを用いることで、(楕円)偏光板を形成することができる。光学補償シートの遅相軸の平均方向と偏光膜の透過軸のなす角度の絶対値が3°以下になるように配置することが好ましい。この角度は、2°以下であることがさらに好ましく、1°以下であることが最も好ましい。
液晶性分子を用いた光学補償シートと偏光膜とを積層して楕円偏光板とすれば、光学補償シートを、偏光板の一方の透明保護膜として機能させることができる。このような楕円偏光板は、透明保護膜、偏光膜、透明支持体、そして液晶性分子から形成された光学異方性層がこの順序で積層された層構成を有する。液晶表示装置は薄型で軽量との特徴があり、構成要素の一つを兼用(偏光板の透明保護膜と光学補償シート)によって削減すれば、装置をさらに薄く軽量にすることができる。また、液晶表示装置の構成要素を一つ削減すれば、構成要素の貼り付け工程も一つ削減され、装置を製造する際に故障が生じる可能性が低くなる。液晶性分子を用いた光学補償シートの透明支持体と偏光板の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板については、特開平7−191217号、同8−21996号、および同8−94838号の各公報に記載がある。
また、液晶性分子を用いた光学補償シートの透明支持体と偏光板の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板を備えたTNモードTFT液晶表示装置において、熱等の歪みにより光漏れが生じる問題がある。この現象は光学補償シートの光学特性が変化することが原因であり、特にセルロースエステルフイルムのような水酸基を有するポリマーでは使用環境の影響が大きい。この歪みによる光漏れ対策として光学補償シートの光弾性係数を下げ、特にセルロースエステルフイルムの厚みを薄くする効果があることがわかった。
ところがこの様な厚みの薄いセルロースエステルフイルムへのゼラチン下塗り層の塗設は、塗布工程でのハンドリングが困難であることがわかった。
本発明に従う光学補償シートの製造方法は、ゼラチン下塗り層が不要であるため、この様な薄い厚みと良好な平面性が必要とされる光学補償シートを製造するためにも有効に用いることができる。
【0038】
(円偏光板)
光学補償シートをλ/4板として使用し、この面内の遅相軸と、偏光膜の偏光軸との角度が実質的に45°になるように積層すると円偏光板が得られる。実質的に45゜とは、
40乃至50゜であることを意味する。この遅相軸と透過軸のなす角度は、41乃至49゜の範囲にあることがより好ましく、42乃至48゜の範囲にあることがさらに好ましい。
【0039】
(液晶表示装置)
本発明に従う光学補償シート、または上記の光学補償シートを用いた偏光板は、液晶表示装置、特に透過型液晶表示装置に有利に用いられる。
透過型液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。
本発明に従う光学補償シートは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
本発明に従う偏光板は、二枚の偏光板のうちの一方の代わりとして配置するか、あるいは双方の偏光板の代わりとして配置すればよい。この場合、偏光板の光学補償シートが設けられた面を液晶セル側となるように配置する。
本発明に従う光学補償シートまたは偏光板は、TNモードの液晶セル、VAモードの液晶セル、OCBモードの液晶セルを有する液晶表示装置に特に有利に用いることができる。
TNモードの液晶セルでは、電極無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60乃至120°にねじれ配向している。
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
VAモードの液晶セルでは電圧印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電極印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向させる狭義のVAモード液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Paper(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58漢9(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98発表)が含まれる。
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルは、棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているために、自己補償機能を有する。そのため、この液晶モードはOCB(Optically Compensatory Bend)モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。ベンド配向モードの液晶表示装置は、棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、応答速度が速いとの利点がある。
【0040】
(反射型液晶表示装置)
本発明に従う光学補償シートは、反射型液晶表示装置に用いることも好ましい。この場合は光学補償シートを、以下に一例として説明する液晶表示装置に配置されるλ/4板として利用することが好ましい。また本発明に従う円偏光板をλ/4板および偏光膜の代わりに用いてもよい。
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる。
下基板と反射電極が反射板を構成する。下配向膜〜上配向膜が液晶セルを構成する。λ/4板は、反射板と偏光膜との間の任意の位置に配置することができる。カラー表示の場
合には、さらにカラーフィルター層を設ける。カラーフィルター層は、反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。反射電極の代わりに透明電極を用いて、別に反射板を取り付けてもよい。透明電極と組み合わせて用いる反射板としては、金属板が好ましい。反射板の表面が平滑であると、正反射成分のみが反射されて視野角が狭くなる場合がある。そのため、反射板の表面に凹凸構造(特許275620号公報記載)を導入することが好ましい。反射板の表面が平坦である場合は(表面に凹凸構造を導入する代わりに)、偏光膜の片側(セル側あるいは外側)に光拡散フイルムを取り付けてもよい。
液晶セルは、TN(twisted nematic )型、STN(Supper Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型であることが好ましい。
TN型液晶セルのツイスト角は、40乃至100゜であることが好ましく、50乃至90゜であることがさらに好ましく、60乃至80゜であることが最も好ましい。液晶層の屈折率異方性(Δn)と液晶層の厚み(d)との積(Δnd)の値は、0.1乃至0.5μmであることが好ましく、0.2乃至0.4μmであることがさらに好ましい。STN型液晶セルのツイスト角は、180乃至360゜であることが好ましく、220乃至270゜であることがさらに好ましい。液晶層の屈折率異方性(Δn)と液晶層の厚み(d)との積(Δnd)の値は、0.3乃至1.2μmであることが好ましく、0.5乃至1.0μmであることがさらに好ましい。HAN型液晶セルは、片方の基板上では液晶が実質的に垂直に配向しており、他方の基板上のプレチルト角が0乃至45゜であることが好ましい。液晶層の屈折率異方性(Δn)と液晶層の厚み(d)との積(Δnd)の値は、0.1乃至1.0μmであることが好ましく、0.3乃至0.8μmであることがさらに好ましい。液晶を垂直配向させる側の基板は、反射板側の基板であってもよいし、透明電極側の基板であってもよい。
反射型液晶表示素子はゲストホスト反射型液晶表示素子で有っても良い。
ゲストホスト反射型液晶表示素子は、下基板、有機層間絶縁膜、金属反射板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、光拡散板、上基板および反射防止層が、この順に積層された構造を有する。下基板と有機層間絶縁膜との間には、TFTが取り付けられている。
光拡散板を設ける代わりに、金属反射板の表面に凹凸を付けることで、金属反射板に光拡散機能を付与してもよい。反射防止層は、反射防止機能に加えて、防眩機能も有していることが好ましい。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
(セルロースエステルフイルムの作製)
下記の成分をミキシングタンクに投入し、加熱撹拌して、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0042】
────────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 3.9質量部
メチレンクロライド 300質量部
メタノール 54質量部
1−ブタノール 11質量部
────────────────────────────────────────
【0043】
別のミキシングタンクに、下記の成分を投入し、加熱撹拌して、レターデーション上昇
剤溶液を調製した。
【0044】
────────────────────────────────────────
レターデーション上昇剤溶液組成
────────────────────────────────────────
2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン 12質量部
2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン 4質量部
メチレンクロライド 80質量部
メタノール 20質量部
────────────────────────────────────────
【0045】
セルロースアセテート溶液474質量部に、レターデーション上昇剤溶液22質量部を添加し、十分に撹拌して、ドープを調製した。セルロースアセテート100質量部に対するレターデーション上昇剤の量は3質量部である。
得られたドープを流延口から0℃に冷却したドラム上に流延した。流延膜を、溶媒含有率が70質量%の状態でドラムから剥ぎ取り、フイルムの幅方向の両端をピンテンターで固定して、溶媒含有率が3乃至5質量%の状態で、幅方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することによりさらに乾燥し、ガラス転移温度が120℃を超える領域で機械方向の延伸率が実質0%、(剥ぎ取り時に機械方向に4%延伸することを考慮して)幅方向の延伸率と機械方向の延伸率との比が0.75となるように調製して、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルム(CA−1)を作製した。
作製したフイルムのレターデーションを測定したところ、厚み方向のレターデーションRthは80μm、面内のレターデーションReは11nmであった。
【0046】
(鹸化処理および配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−1)上に、1.5規定のKOH−イソプロピルアルコール溶液を25ml/m塗布し、25℃で5秒間乾燥させた。次いでフイルムの表面を流水で10秒洗浄し、25℃の空気を吹き付けることでフイルム表面を乾燥させた。
得られたフイルムの表面に、下記の組成の配向膜塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28ml/m塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。さらにセルロースアセテートフイルムCA−1の長手方向にラビング処理を実施した。
【0047】
────────────────────────────────────────
配向膜塗布液組成
────────────────────────────────────────
下記変性ポリビニルアルコール 20質量部
水 360質量部
メタノール 120質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
────────────────────────────────────────
【0048】
【化8】

【0049】
(光学異方性層の形成)
下記の組成のディスコティック液晶塗布液を#4のワイヤーバーコーターで塗布し、125℃の高温槽中で3分間加熱し、ディスコティック液晶を配向させた後、高圧水銀灯を用いて照射エネルギーが500mJ/cmの紫外線を照射し、室温まで放冷して、光学補償シートKS−1を作製した。
【0050】
────────────────────────────────────────
ディスコティック液晶塗布液組成
────────────────────────────────────────
下記のディスコティック液晶DLC−A 9.1質量部
エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)) 0.9質量部
セルロ−スアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製) 0.2質量部
セルロ−スアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)
0.05質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907) 3.0質量部
光増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.1質量部
メチルエチルケトン 25.9質量部
────────────────────────────────────────
【0051】
【化9】

【0052】
光学異方性層の厚さは、1.8μmであった。光学補償シートKS−1のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は18.0゜、厚み方向のレターデーション(Rth)は160nm、面内レターデーション(Re)は33nmであった。光学補償シートKS−1を、クロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。結果を第1表に示す。
また、光学補償シートKS−1の光学異方性層側の面を、アクリル系接着剤を用いてガラス板に貼りつけ、90℃で20時間保存した。アクリル系接着剤は液晶表示装置の組み立てに、ガラス板は液晶セルに用いられるものと同じものである。ガラス板から光学補償シートを垂直方向に剥がして、光学異方性層の剥離残りが生じた部分を調べることで、密着性を評価した。評価は、0(著しく剥離残りがある)から5(剥離の残りが全く認められない)までの5段階で行った。評価結果を第1表に示す。
【0053】
[実施例2]
(セルロースエステルフイルムの作製)
三層共流延ダイを用い、内層から実施例1で調整したセルロースアセテートドープを、その両側に実施例1で調整したドープの溶媒量を10%増加して希釈したドープを、金属支持体上に同時に吐出させて重層流延(共流延)した後、流延膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥して、三層構造のセルロースアセテートフイルム積層体(内層の厚さ:各外層の厚さ=8:1)を製造した。乾燥は70℃で3分、130℃で5分した後、金属支持体からフイルムを剥ぎ取り、そして160℃、30分で段階的に乾燥して溶媒を蒸発させ、セルロースアセテートフイルム(CA−2)を作製した。
作製したフイルムのレターデーションを測定したところ、厚み方向のレターデーションRthは80μm、面内のレターデーションReは11nmであった。
【0054】
(鹸化処理、及び配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−2)に対して、実施例1と同様に鹸化液の塗布、配向膜の形成を行った。さらにセルロースアセテートフイルムCA−2の長手方向にラビング処理を実施した。
【0055】
(光学異方性層の形成)
配向膜を塗設したセルロースアセテートフイルムCA−2上に、実施例1と同様に光学異方性層を形成し、光学補償シートKS−2を作製した。
光学異方性層の厚さは、1.8μmであった。光学補償シートKS−2のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は18.0゜、厚み方向のレターデーション(Rth)は160nm、面内レターデーション(Re)は33nmであった。光学補償シートKS−2をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第1表に示す。
【0056】
[実施例3]
(セルロースエステルフイルムの作製)
下記の組成のセルローストリアセテート溶液を調整した。下記の溶媒を予め混合した溶液に、よく攪拌しつつセルローストリアセテート粉体(平均サイズ:2mm)を徐々に添加した。添加後、室温(25℃)にて3時間放置した。
【0057】
────────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 3.9質量部
2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン 2.25質量部
2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン 0.75質量部
酢酸メチル 282質量部
シクロペンタノン 118質量部
メタノール 29質量部
エタノール 29質量部
────────────────────────────────────────
【0058】
得られたドープを流延口から0℃に冷却したドラム上に流延した。流延膜を、溶媒含有率が70質量%の状態でドラムから剥ぎ取り、フイルムの幅方向の両端をピンテンターで固定し、溶媒含有率が3乃至5質量%の状態で、幅方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、ガラス転移温度が120℃を超える領域で機械方向の延伸率が実質0%、(剥ぎ取り時に機械方向に4%延伸することを考慮して)幅方向の延伸率と機械方向の延伸率との比が0.75となるように調製して、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルム(CA−3)を作製した。
作製したフイルムのレターデーションを測定したところ、厚み方向のレターデーションRthは80μm、面内のレターデーションReは11nmであった。
【0059】
(鹸化処理、及び配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−3)に対して、実施例1と同様に鹸化液の塗布、配向膜の形成を行った。さらにセルロースアセテートフイルムCA−3の長手方向にラビング処理を実施した。
【0060】
(光学異方性層の形成)
配向膜層を塗設したセルロースアセテートフイルムCA−3上に、実施例1と同様に光学異方性層を形成し、光学補償シートKS−3を作製した。
光学異方性層の厚さは、1.8μmであった。光学補償シートKS−3のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は18.0゜、厚み方向のレターデーション(Rth)は160nm、面内レターデーション(Re)は33nmであった。光学補償シートKS−3をクロスニコル配置された二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第1表に示す。
【0061】
[比較例1]
(セルロースエステルフイルムの作製)
実施例1で作製したセルロースアセテートフイルムCA−1に下記組成のセラチン下塗り層塗布液を28ml/m塗布し、乾燥してゼラチン下塗り層を形成し、セルロースアセテートフイルムCA−4を作製した。
【0062】
────────────────────────────────────────
ゼラチン下塗り層塗布液組成
────────────────────────────────────────
ゼラチン 5.42質量部
ホルムアルデヒド 1.36質量部
サリチル酸 1.6質量部
アセトン 391質量部
メタノール 158質量部
メチレンクロライド 406質量部
水 12質量部
────────────────────────────────────────
【0063】
(配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−4)上に、実施例1で用いた配向膜塗布液を#
16のワイヤーバーコーターで28ml/m塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。さらにセルロースアセテートフイルムCA−4の長手方向にラビング処理を実施した。
【0064】
(光学異方性層の形成)
配向膜を塗設したセルロースアセテートフイルムCA−4上に、実施例1と同様に光学異方性層を形成し、光学補償シートKS−4を作製した。
光学異方性層の厚さは、1.8μmであった。光学補償シートKS−4のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は18.0゜、厚み方向のレターデーション(Rth)は160nm、面内レターデーション(Re)は33nmであった。光学補償シートKS−4をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第1表に示す。
【0065】
第1表
────────────────────────────────────────
フイルム 面状(スジ状のムラ) 密着試験
────────────────────────────────────────
実施例1 KS−1 B 5
実施例2 KS−2 A 5
実施例3 KS−3 B 5
比較例1 KS−4 C 5
────────────────────────────────────────(註)
A:全く発生しない(10人が評価し、一人も認識できないレベル)
B:弱く発生する (10人が評価し、1〜5人が認識するレベル)
C:強く発生する (10人が評価し、6人以上が認識するレベル)
【0066】
[実施例4]
(偏光板の作製)
実施例1で作製した光学補償シートKS−1を1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液(55℃)に2分間浸漬し、0.5N硫酸で中和し、流水で洗浄し、乾燥した。
光学補償シートのセルロースアセテートフイルム(CA−1)側と、延伸したポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させた偏光膜とを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた。
市販のセルロースアセテートフイルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)に鹸化処理を施し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の反対側に貼り付けた。偏光膜の透過軸と光学補償シートKS−1の遅相軸とは直交するように配置した。このようにして偏光板P−1を作製した。
【0067】
[実施例5]
(偏光板の作製)
実施例2で作製した光学補償シート(KS−2)を用いること以外は実施例4と同様にして、偏光板P−2を作製した。
【0068】
[実施例6]
(偏光板の作製)
実施例3で作製した光学補償シート(KS−3)を用いること以外は実施例4と同様にして、偏光板P−3を作製した。
【0069】
[比較例2]
(偏光板の作製)
比較例1で作製した光学補償シート(KS−4)を用いること以外は実施例4と同様にして、偏光板P−4を作製した。
【0070】
[実施例7]
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、実施例4で作製した偏光板P−1を、光学補償シート(KS−1)が液晶セル側となるように、粘着剤を用いて液晶セルの両面に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とは、直交となるように配置した。
作製した液晶表示装置について、測定器(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。なお、視野角はコントラスト比10以上、かつ階調反転のない範囲で表す。
さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの評価結果を第2表に示す。
【0071】
[実施例8]
実施例5で作製した偏光板(P−2)を用いること以外は実施例7と同様にして液晶表示装置を作製した。
また、実施例7と同様にして視野角を測定した。さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの評価結果を第2表に示す。
【0072】
[実施例9]
実施例6で作製した偏光板(P−3)を用いること以外は実施例7と同様にして液晶表示装置を作製した。
また、実施例7と同様にして視野角を測定した。さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの評価結果を第2表に示す。
【0073】
[比較例3]
比較例2で作製した偏光板(P−4)を用いること以外は実施例7と同様にして液晶表示装置を作製した。
また、実施例7と同様にして視野角を測定した。さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの評価結果を第2表に示す。
【0074】
第2表
────────────────────────────────────────
液晶 視野角 ムラ
表示装置 上 下 左右
────────────────────────────────────────
実施例7 65 35 140 B
実施例8 65 35 140 A
実施例9 65 35 140 B
比較例3 65 35 140 C
────────────────────────────────────────(註)
A:全く発生しない(10人が評価し、一人も認識できないレベル)
B:弱く発生する (10人が評価し、1〜5人が認識するレベル)
C:強く発生する (10人が評価し、6人以上が認識するレベル)
【0075】
[実施例10]
(光学補償シートの作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0076】
────────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 336質量部
メタノール(第2溶媒) 29質量部
────────────────────────────────────────
【0077】
別のミキシングタンクに、下記のレターデーション上昇剤16質量部、メチレンクロライド80質量部およびメタノール20質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
セルロースアセテート溶液474質量部にレターデーション上昇剤溶液21質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、2.8質量部であった。
【0078】
【化10】

【0079】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延し、残留溶剤量が50質量%のフイルムをバンドから剥離し、130℃の条件で、残留溶剤量が40質量%のフイルムを、テンターを用いて20%の延伸倍率で横延伸し、延伸後の幅のまま130℃で30秒間保持した。その後、クリップを外してセルロースアセテートフイルムCA−5を製造した。得られたフイルムの膜厚は95μmあった。
作製したフイルムのレターデーションを測定したところ、厚み方向のレターデーションRthは110nm、面内のレターデーションReは20nmであった。
【0080】
(鹸化処理および配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−5)上に1.5規定のKOH−イソプロピルアルコール溶液を25ml/m塗布し、25℃で5秒間乾燥させた。フイルムの表面を流水で10秒洗浄し、25℃の空気を吹き付けることでフイルム表面を乾燥させた。
得られたフイルムの表面に、下記の組成の配向膜塗布液を#12のワイヤーバーコーターで21ml/m塗布した。120℃の温風で120秒乾燥した。さらにセルロースアセテートフイルムCA−5の長手方向にラビング処理を実施した。
【0081】
────────────────────────────────────────
配向膜塗布液
────────────────────────────────────────
下記のポリマー素材 4質量部
水 280質量部
メタノール 120質量部
トリエチルアミン 5.6質量部
────────────────────────────────────────
【0082】
【化11】

【0083】
(光学異方性層の形成)
形成した配向膜の上に、下記の組成の液晶塗布液を#3のワイヤーバーコーターで塗布し、90℃の高温槽中で2分間加熱し、液晶を配向させた後、高圧水銀灯を用いて照射エネルギーが250mJ/cmの紫外線を照射し、室温まで放冷して、光学補償シートKS−5を作製した。
【0084】
────────────────────────────────────────
ディスコティック液晶塗布液
────────────────────────────────────────
下記の液晶LC−A 80.0質量部
下記の水平配向剤 0.24質量部
セルロ−スアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製) 0.16質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907) 2.4質量部
光増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.8質量部
メチルエチルケトン 1095.8質量部
────────────────────────────────────────
【0085】
【化12】

【0086】
光学異方性層の厚さは、0.4μmであった。光学補償シートKS−5のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、面内レターデーション(Re)は45nmであり、棒状液晶が水平配向していることが確認できた。光学補償シートKS−5をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第3表に示す。
【0087】
[比較例4]
(セルロースエステルフイルムの作製)
実施例10で作製したセルロースアセテートフイルム(CA−5)上に、比較例1と同様にしてゼラチン下塗り層を設け、セルロースアセテートフイルムCA−6を作製した。
【0088】
(鹸化処理、及び配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−6)のゼラチン下塗り層の上に、実施例10と同様に配向膜を形成した。さらにセルロースアセテートフイルムCA−6の長手方向にラビング処理を実施した。
【0089】
(光学異方性層の形成)
配向膜層を塗設したセルロースアセテートフイルムCA−6上に、実施例10と同様に光学異方性層を形成し、光学補償シートKS−6を作製した。
光学異方性層の厚さは、0.4μmであった。光学補償シートKS−6のレターデーシ
ョンを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、面内レターデーション(Re)は45nmであり、棒状液晶が水平配向していることが確認できた。光学補償シートKS−6をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第3表に示す。
【0090】
[実施例11]
(光学異方性層の形成)
実施例1で作製した、鹸化処理を施して配向膜が設けられたセルロースアセテートフイルム(CA−1)上に、フイルムの遅相軸と45°の方向にラビング処理を実施した。
配向膜の上に、実施例1で用いたディスコティック液晶塗布液を#3のワイヤーバーコーターで塗布し、125℃の高温槽中で3分間加熱し、ディスコティック液晶を配向させた後、高圧水銀灯を用いて照射エネルギーが500mJ/cmの紫外線を照射し、室温まで放冷して、光学補償シートKS−7を作製した。
光学異方性層の厚さは、1.8μmであった。光学補償シートKS−7のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は18.0゜、厚み方向のレターデーション(Rth)は160nm、面内レターデーション(Re)は38nmであった。光学補償シートKS−7をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第3表に示す。
【0091】
[比較例5]
(光学異方性層の形成)
比較例1で作製した、ゼラチン下塗り層と配向膜を形成したセルロースアセテートフイルム(CA−4)上に、フイルムの遅相軸と45°の方向にラビング処理を実施した。
実施例11と同様にして光学異方性層を形成し、光学補償シートKS−8を作製した。
光学異方性層の厚さは、0.4μmであった。光学補償シートKS−8のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、面内レターデーション(Re)は45nmであり、棒状液晶が水平配向していることが確認できた。光学補償シートKS−8をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第3表に示す。
【0092】
第3表
────────────────────────────────────────
フイルム 面状(スジ状のムラ) 密着試験
────────────────────────────────────────
実施例10 KS−5 B 5
比較例4 KS−6 C 5
実施例11 KS−7 B 5
比較例5 KS−8 C 5
────────────────────────────────────────(註)
B:弱く発生する (10人が評価し、1〜5人が認識するレベル)
C:強く発生する (10人が評価し、6人以上が認識するレベル)
【0093】
[実施例12]
(偏光板の作製)
実施例10で作製した光学補償シート(KS−5)および実施例11で作製した光学補償シート(KS−7)のそれぞれを、1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液(55℃)に2分間浸漬し、0.5規定の硫酸で中和し、流水で洗浄し、乾燥した。
この光学補償シートKS−5のセルロースアセテートフイルム(CA−5)側と、延伸
したポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させた偏光膜とを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた。さらに光学補償シートKS−5の光学異方性層側と光学補償シートKS−7のセルロースアセテートフイルム(CA−1)側とをポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた。
市販のセルロースアセテートフイルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)に鹸化処理を施し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の反対側に貼り付けた。偏光膜の透過軸と光学補償シートKS−5の遅相軸とは平行になるように、また偏光膜の透過軸と光学補償シートKS−7の遅相軸とは45°になるように配置した。このようにして偏光板P−5を作製した。
【0094】
[比較例6]
(偏光板の作製)
比較例4で作製した光学補償シート(KS−6)および比較例5で作製した光学補償シート(KS−8)を用いること以外は実施例12と同様にして、偏光板P−6を作製した。
【0095】
[実施例13]
ITO電極付きのガラス基板に、ポリイミド膜を配向膜として設け、配向膜にラビング処理を行った。得られた二枚のガラス基板をラビング方向が平行となる配置で向かい合わせ、セルギャップを6μmに設定した。セルギャップにΔnが0.1396の液晶性化合物(ZLI1132、メルク社製)を注入し、ベンド配向液晶セルを作製した。ベンド配向液晶セルを挟むように、実施例12で作製した偏光板P−5を二枚貼り合せた。偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面するセル基板と隣接した光学異方性層のラビング方向とが反平行になるように配置した。
作製した液晶表示装置について、測定器(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。なお、視野角はコントラスト比10以上、かつ階調反転のない範囲で表す。
さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの評価結果を第4表に示す。
【0096】
[比較例7]
比較例6で作製した偏光板(P−6)を用いること以外は実施例13と同様にして、液晶表示装置を作製した。
また、実施例13と同様にして視野角を測定した。さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの評価結果を第4表に示す。
【0097】
第4表
────────────────────────────────────────
液晶 視野角 ムラ
表示装置 上下 左右
────────────────────────────────────────
実施例13 160 160 B
比較例7 160 160 C
────────────────────────────────────────(註)
B:弱く発生する (10人が評価し、1〜5人が認識するレベル)
C:強く発生する (10人が評価し、6人以上が認識するレベル)
【0098】
[実施例14]
(セルロースエステルフイルムの作製)
下記の成分をミキシングタンクに投入し、加熱撹拌して、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0099】
────────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 3.9質量部
メチレンクロライド 300質量部
メタノール 54質量部
1―ブタノール 11質量部
────────────────────────────────────────
【0100】
別のミキシングタンクに、下記の成分を投入し、加熱撹拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
【0101】
────────────────────────────────────────
レターデーション上昇剤溶液組成
────────────────────────────────────────
実施例10で用いたレターデーション上昇剤 16質量部
メチレンクロライド 80質量部
メタノール 20質量部
────────────────────────────────────────
【0102】
セルロースアセテート溶液479質量部に、レターデーション上昇剤溶液21質量部を添加し、十分に撹拌してドープを調製した。セルロースアセテート100質量部に対するレターデーション上昇剤の量は3質量部である。
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから1分乾燥してバンドから剥ぎ取った後、乾燥を行い、残留溶媒量が0.3質量%のセルロースアセテートフイルムCA−9(厚さ40μm)を製造した。
作製したセルロースアセテートフイルムCA−9について、レターデーションを測定したところ、厚み方向のレターデーションRthは40nm、面内のレターデーションReは7nmであった。
【0103】
(鹸化処理および配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−9)を、実施例1と同様にして鹸化処理した。さらに鹸化処理を施した面に、実施例1同様にして配向膜を形成した。さらにセルロースアセテートフイルムCA−9の長手方向にラビング処理を実施した。
【0104】
(光学異方性層の形成)
下記の液晶性ポリエステル(EPE01)の8質量%テトラクロロエタン溶液を調整した。次いで、セルロースアセテートフイルムCA−9に形成された配向膜の上に、調整した溶液をスピンコート法により塗布した。次いで溶媒を除去した後、190℃で20分間熱処理した。熱処理後、空冷し、液晶性ポリエステルの配向を固定化した。このようにして光学補償シートKS−9を得た。
【0105】
【化13】

【0106】
光学異方性層の厚さは、1.55μmであった。光学補償シートKS−9のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は42゜、面内レターデーション(Re)は43nmであった。
また、光学補償シートKS−9をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第5表に示す。
【0107】
[比較例8]
(セルロースエステルフイルムの作製)
実施例13で作製したセルロースアセテートフイルムCA−9の表面に、比較例1と同様にしてゼラチン下塗り層を設け、セルロースアセテートフイルムCA−10を作製した。
【0108】
(配向膜の形成)
セルロースアセテートフイルム(CA−10)のゼラチン下塗り層を設けた面に、実施例1と同様にして配向膜を形成した。さらにセルロースアセテートフイルムCA−10の長手方向にラビング処理を実施した。
【0109】
(光学異方性層の形成)
セルロースアセテートフイルムCA−10に設けられた配向膜の上に、実施例14と同様にして光学異方性層を形成し、光学補償シートKS−10を作製した。
光学異方性層の厚さは、1.55μmであった。光学補償シートKS−10のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は42゜、面内レターデーション(Re)は43nmであった。
また、光学補償シートKS−10をクロスニコル配置した二枚の偏光板の間に挟み、面状(スジ状のムラ)の確認を行った。また、実施例1と同様に密着性試験を行った。それらの評価結果を第5表に示す。
【0110】
第5表
────────────────────────────────────────
フイルム 面状(スジ状のムラ) 密着試験
────────────────────────────────────────
実施例14 KS−9 B 5
比較例8 KS−10 C 5
────────────────────────────────────────(註)
B:弱く発生する (10人が評価し、1〜5人が認識するレベル)
C:強く発生する (10人が評価し、6人以上が認識するレベル)
【0111】
[実施例15]
(偏光板の作製)
実施例14で作製した光学補償シート(KS−9)を用いること以外は実施例4と同様にして、偏光板P−7を作製した。
【0112】
[比較例9]
(偏光板の作製)
比較例8で作製した光学補償シート(KS−10)を用いること以外は実施例4と同様にして、偏光板P−8を作製した。
【0113】
[実施例16]
実施例15で作製した偏光板(P−7)を用いること以外は実施例7と同様にして、液晶表示装置を作製した。
また、実施例7と同様にして視野角を測定した。さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの評価結果を第6表に示す。
【0114】
[比較例10]
比較例9で作製した偏光板(P−8)を用いること以外は、実施例7と同様にして液晶表示装置を作製した。
また、実施例7と同様にして視野角を測定した。さらに、黒表示時の液晶表示装置のムラを目視で確認した。これらの結果を第6表に示す。
【0115】
第6表
────────────────────────────────────────
液晶 視野角 ムラ
表示装置 上 下 左右
────────────────────────────────────────
実施例16 45 60 140 B
比較例10 45 60 140 C
────────────────────────────────────────(註)
B:弱く発生する (10人が評価し、1〜5人が認識するレベル)
C:強く発生する (10人が評価し、6人以上が認識するレベル)
【0116】
[実施例17]
(セルロースアセテートフイルムの作製−1)
実施例1で調製したドープを用い、下記(イ)および(ロ)のそれぞれの製膜方法に従ってセルロースアセテートフイルムを製膜した。
(イ)単層製膜(セルロースアセテートフイルム:CA−11)
ドープを流延装置の流延口から吐出させ、0℃に冷却したドラム上に流延した。流延後のドープを、溶媒含有率が70質量%の状態まで乾燥してフイルム化した後にドラムから剥ぎ取り、フイルムの幅方向の両端をピンテンターで固定し、溶媒含有率が3乃至5質量%の領域で、幅方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、フイルムを熱処理装置のロール間を搬送させることによりさらに乾燥し、フイルムのガラス転移温度(120℃)を超える領域で、機械方向の延伸率が実質0%、
(剥ぎ取り時に機械方向に4%延伸することを考慮して)幅方向の延伸率と機械方向の延伸率との比が0.75となるように調製して、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルム(CA−11)を作製した。
(ロ)積層製膜(セルロースアセテートフイルム:CA−12)
三層共流延ダイを用い、内層から上記で調製したドープを、両側に10%溶剤量を増加して希釈したドープを、金属支持体上に同時に吐出させて重層流延(共流延)した。これ以降は単層製膜の場合(イ)と同様にして、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルム(CA−12)を作製した。
得られたセルロースアセテートフイルムのそれぞれは、フイルムの幅方向の両端15cmずつトリミングし、さらに両端に高さ50μm幅1cmのナーリング(厚みだし加工)を行い、幅1.5m、長さ3000mのセルロースアセテートフイルムとした。なお、ここでトリミングしたセルロースアセテートフイルム屑は、粉砕した後未使用セルロースアセテートと混合し再使用される(全セルロースアセテート中30質量%これを混合した)。
【0117】
(セルロースアセテートフイルムの作製−2:CA−13)
実施例3で得られたドープを、流延装置の流延口から0℃に冷却したドラム上に流延した。流延後のドープを、溶媒含有率が70質量%の状態まで乾燥してフイルム化した後にドラムから剥ぎ取り、フイルムの幅方向の両端をピンテンターで固定し、溶媒含有率が3乃至5質量%の領域で、幅方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、フイルムを熱処理装置のロール間を搬送させることによりさらに乾燥し、フイルムのガラス転移温度(120℃)を超える領域で、機械方向の延伸率が実質0%、(剥ぎ取り時に機械方向に4%延伸することを考慮して)幅方向の延伸率と機械方向の延伸率との比が0.75となるように調製して、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルム(CA−13)を作製した。
【0118】
(鹸化処理)
得られたセルロースアセテートフイルム(CA−11〜CA−13)の一方の表面に、1.5規定のKOH溶液(アルカリ溶液)を25ml/m塗布、25℃で5秒間保持して鹸化処理した。鹸化処理に次いでアルカリ溶液を、流水で10秒洗浄し、25℃の空気を吹き付けてセルロースアセテートフイルムの表面を乾燥した。この鹸化処理における、周囲環境の酸素濃度、KOH溶液に用いた溶剤組成、および洗浄で用いた流水の温度(水洗温度)を第7表に記載の条件として、17−1〜17−9の光学補償シートに用いるセルロースアセテートフイルムを作製した。作製したセルロースアセテートフイルムの表面物性を測定し、その結果を第7表に記載した。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
(配向膜の形成)
得られた全てのセルロースアセテートフイルムのそれぞれについて、鹸化処理を施した表面に、実施例1と同様にして配向膜を形成した。
【0122】
(光学的異方性層の形成)
それぞれのフイルムに形成した配向膜の上に、実施例1と同様にして光学異方性層を形成して、光学補償シート(17−1〜17−9)を作製した。
形成した光学的異方性層の厚さは、いずれも1.8μmであった。光学補償シート(1
7−1〜17−9)のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、いずれも光学軸の平均傾斜角は17〜19°、厚み方向のレターデーション(Rth)は150〜170nm、面内レターデーション(Re)は31〜35nmであった。
得られた全ての光学補償シートの光学異方性層の表面に、両刃剃刀で切り込み(5mm間隔で縦/横5本ずつ「井」字状に)をいれた。この時、セルロースアセテートフイルム表面まで切れ込みが届き、且つフイルムが切断されない程度に浅い切れ込みを入れた。次に光学補償シートの光学異方性層側の面とガラス板とをアクリル系接着剤を用いて貼りつけて密着性評価用のサンプルをそれぞれ作製し、90℃で20時間保存した。アクリル系接着剤は液晶表示装置の組み立てに、ガラス板は液晶セルに用いられるものと同じものを用いた。そしてガラス板から光学補償シートを垂直方向に剥がして、剥離残りが生じた部分を調べることで、密着性を評価した。このように剃刀で切り込みを入れたほうが、切り込みを入れずに実施した場合より過酷な評価であり、裁断加工時の剥離に対応する。評価は温度25℃、相対湿度10%条件と、温度25℃、相対湿度60%条件とで行った。実際の裁断は後者の条件であるが、過酷条件評価として前者の条件を加えた。密着性は、剥離の発生した面積(%)により評価し、その結果を第7表に示した。
【0123】
(偏光板の作製)
作製した全ての光学補償シートを、規定濃度1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(55℃)に2分間浸漬し、次いで規定濃度0.5Nの硫酸で中和し、そして流水で洗浄し、乾燥した。これらの光学補償シートのセルロースアセテートフイルム側に、延伸したポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させた偏光膜を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた。偏光膜の透過軸と、光学補償シートの光学的異方性層の遅相軸とは直交するように配置した。さらに市販のセルロースアセテートフイルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)に鹸化処理を施し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の反対側に貼り付けた。このようにして作製した光学補償シートのそれぞれについて偏光板を作製した。
【0124】
(液晶表示装置の作製)
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、作製した偏光板を、偏光板の光学補償シートが液晶セル側になるように液晶セルの両面に貼り付けて、得られた偏光板のそれぞれについて液晶表示装置を作製した。この際、観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とは、Oモード(直交)になるように配置した。作製したそれぞれの液晶表示装置について、測定器(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。なお、視野角はコントラスト比10以上、かつ階調反転のない範囲で表す。さらに、黒表示時の液晶表示装置の輝点故障の数を目視で確認した。通常の裁断は、温度25℃、相対湿度60%の条件で実施するが、過酷評価条件として、温度25℃、相対湿度10%の条件でも実施した。これらの評価結果を第7表に示す。
また、作製した全ての偏光板を、80℃で30日間(長期経時に相当する加速条件)保管した。別に、より穏和な条件として50℃で30日間の保管を行った。これらの偏光板のそれぞれについて液晶表示装置を同様に作製し、全面白表示として雲状ムラの発生状況を目視で確認した。雲状ムラは、全画面中に対して雲状ムラの発生した領域(%)で評価し、結果を第7表に示す。
【0125】
[実施例18]
(セルロースアセテートフイルムの作製)
下記組成のセルロースアセテートドープ(高濃度溶液)を作製した。ドープの各成分の溶解は、溶媒中によく攪拌しつつ下記の化合物を徐々に添加し、室温(25℃)にて3時間放置し膨潤させた。得られた膨潤混合物を、還流冷却機を有する混合タンク中で50℃
において撹拌しながら溶解した。
【0126】
────────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────────
セルロースアセテート(酢化度59%) 120質量部
トリフェニルホスフェート 9.36質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 4.68質量部
メチレンクロリド(第1溶媒) 704質量部
メタノール(第2溶媒) 61.2質量部
実施例10で用いたレターデーション上昇剤 1.20質量部
────────────────────────────────────────
【0127】
得られた溶液(ドープ)を、濾紙(安積濾紙(株)製、No.244)およびネル製の濾布で濾過した後、定量ギアポンプで加圧ダイに送液し、有効長6mのバンド流延機を用いて、0℃に冷却したバンド上に流延した。流延は、乾燥、延伸後のフイルムの最終膜厚が第8表に記載の厚みになるように実施した。流延後のドープを2秒間風に当てて、フイルム中の揮発分が50質量%となるまで乾燥してフイルム化した後にバンドから剥ぎ取った。さらにフイルムを100℃で3分、130℃で5分、そして160℃で5分、フイルムを固定せず自由に収縮させて段階的に乾燥して溶剤を蒸発させ、残留溶剤量を1%以下とした。次いでこれらのフイルムの幅方向の両端15cmずつをトリミングし、両端に高さ50μm幅1cmのナーリング(厚みだし加工)を行い、幅1.8m、長さ3000mの未延伸セルロースアセテートフイルム(CA−14)を得た。なお、ここでトリミングしたセルロースアセテートフイルム屑は、粉砕した後未使用セルロースアセテートと混合し再使用される(全セルロースアセテート中30質量%これを混合した)。
【0128】
(縦延伸)
作製したセルロースアセテートフイルム(CA−14)を幅90cmにトリミングし、50℃、80℃、110℃、130℃に加熱した直径30cmのロール4本に順次接触させて予熱した後、130℃に設定した恒温槽中に送り込んだ。次いでフイルムを、恒温槽中に間隔を以て二カ所に設置したニップロールを用いて延伸した。ニップロールのそれぞれは、直径15cmのハードクロムコートしたステンレスロールと直径5cmのゴム被覆ニップロールの二本のロールからなり、フイルムはこれら二本のロールにニップされて搬送される。そしてニップロール同士の間隔は、ロール中心間距離が90cmとなるように配置した。二カ所に設置したニップロールの周速(搬送の速度)の値に差を付けることでフイルムは必要な倍率に延伸される。このようにして、作製したセルロースアセテートフイルム(CA−14)を第8表に記載の倍率で延伸してそれぞれフイルムを作製した。なお、入口側のライン速度は8m/分とした。延伸後に恒温槽から送出した後、110℃、90℃、70℃、50℃に加熱した直径30cmの3本のロールを順次通過させてフイルムを徐冷した。
【0129】
(鹸化処理、配向膜および光学異方性層の形成)
作製した全てのセルロースアセテートフイルムの一方の表面に、1.5規定KOH溶液(アルカリ溶液)を25ml/m塗布、25℃で5秒間保持して鹸化処理した。鹸化処理に次いでアルカリ溶液を、流水で10秒洗浄し、25℃の空気を吹き付けてセルロースアセテートフイルムの表面を乾燥した。この鹸化処理における、周囲環境の酸素濃度、KOH溶液に用いた溶剤組成、および洗浄で用いた流水の温度(水洗温度)を第8表に記載の条件として、18−1〜18−5の光学補償シートに用いるセルロースアセテートフイルムを作製した。作製したセルロースアセテートフイルムの表面物性を測定し、その結果を第8表に記載した。さらに実施例17と同様にして、得られた全てのセルロースアセテ
ートフイルムのそれぞれについて、鹸化処理を施した表面に配向膜と光学異方性層を形成して、光学補償シート(18−1〜18−5)を作製した。
さらに実施例17と同様にして、得られた全ての光学補償シートについて密着性評価用のサンプルをそれぞれ作製して評価を行い、その結果を第8表に示した。
【0130】
【表3】

【0131】
【表4】

【0132】
(円偏光板の作製)
作製した全ての光学補償シートを、規定濃度1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(55℃)に2分間浸漬し、次いで規定濃度0.5Nの硫酸で中和し、そして流水で洗浄し、乾燥した。これらの光学補償シートのセルロースアセテートフイルム側に、延伸したポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させた偏光膜を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた。この時、光学補償シートの光学異方性層の遅相軸と偏光膜の偏光軸との角度は、45゜に調整した。このようにして作製したそれぞれの光学補償シートについて円偏光板を作製した。
【0133】
(反射型液晶表示素子の作製)
ITO透明電極を設けたガラス基板と、微細な凹凸が形成されたアルミニウム反射電極を設けたガラス基板とを用意した。二枚のガラス基板の電極側に、それぞれポリイミド配向膜(SE−7992、日産化学(株)製)を形成し、ラビング処理を行った。2.5μmのスペーサーを介して、二枚の基板を配向膜が向かい合うように重ねた。二つの配向膜のラビング方向は、117゜の角度で交差するように、基板の向きを調節した。基板の間隙に、液晶(MLC−6252、メルク社製)を注入し、液晶層を形成した。このようにして、ツイスト角が63゜、Δndの値が198nmのTN型液晶セルを作製した。
ITO透明電極を設けたガラス基板の側に、作製した円偏光板を、粘着剤を介して貼り付け、さらにその上に表面がAR処理された保護膜を貼り付けて、それぞれの偏光板を用いた反射型液晶表示装置を作製した。
作製した反射型液晶表示装置に、1kHzの矩形波電圧を印加した。白表示1.5V、黒表示4.5Vとして目視で評価を行ったところ、本発明では白表示においても、黒表示においても色味がなく、ニュートラルグレイが表示されていることが確認できた。さらに黒表示にして、暗室にて10cm四方のなかの輝点の数(輝点故障)を目視で数え、結果を第8表に示した。輝点故障の許容範囲は3個以下であるが、18−1〜18−3の光学補償シートでは輝点故障は全く発生せず、良好であった。次に、測定機(EZcontrast160D、ELDIM社製)を用いて反射輝度のコントラスト比を測定したところ、正面からのコントラスト比が23であった。また、コントラスト比3となる視野角を第8表に示した。18−1〜18−3の光学補償シートでは全て上下120゜以上、左右120゜以上であった。一方、18−4、18−5の光学補償シートでは、いずれも60度程度以下であった。
また、作製した全ての偏光板を、80℃で30日間(長期経時に相当する加速条件)保管した。別に、より穏和な条件として50℃で30日間の保管を行った。これらの偏光板のそれぞれについて反射型液晶表示装置を同様に作製し、全面白表示として雲状ムラの発生状況を目視で確認した。雲状ムラは、全画面中に対して雲状ムラの発生した領域(%)で評価し、結果を第8表に示す。
【0134】
(ゲストホスト反射型液晶表示装置の作製)
ITO透明電極が設けられたガラス基板の上に、垂直配向膜形成ポリマー(LQ−1800、日立化成デュポンマイクロシステムズ社製)の溶液を塗布し、乾燥後、ラビング処理を行った。反射板としてアルミニウムを蒸着したガラス基板の上に、作製した円偏光板をλ/4板(位相差板)として粘着剤で貼り付けた。λ/4板の上に、スパッタリングによりSiO層を設け、その上にITO透明電極を設けた。透明電極の上に、垂直配向膜形成ポリマー(LQ−1800、日立化成デュポンマイクロシステムズ社製)の溶液を塗布し、乾燥後、λ/4板の遅相軸方向に対して45゜の方向にラビング処理を行った。7.6μmのスペーサーを介して、二枚のガラス基板を、配向膜が向かい合うように重ねた。配向膜のラビング方向が反平行となるように、基板の向きを調節した。基板の間隙に、二色性色素(NKX−1366、日本感光色素社製)2.0質量%と液晶(ZLI−2806、メルク社製)98.0質量%との混合物を、真空注入法により注入し、液晶層を形成した。このようにして作製した円偏光板のそれぞれを用いてゲストホスト反射型液晶表示装置を作製した。
作製したゲストホスト反射型液晶表示装置のITO電極間に、1kHzの矩形波電圧を印加した。18−1〜18−3の光学補償シートは白表示1V、黒表示10Vでの透過率はそれぞれ65%、6%であり、白表示と黒表示との透過率の比(コントラスト比)は、11:1であり、上下左右でコントラスト比2:1が得られる視野角は上下、左右ともに120゜以上でいずれも良好であった。また本発明ではいずれも輝故障は全く発生しなかった。一方、18−4、18−5の光学補償シートを用いて作製した円偏光板を実装したゲストホスト反射型液晶表示装置には、輝点故障がそれぞれ23、36個発生した。電圧を上昇、下降させながら透過率測定を行ったが、透過率−電圧の曲線にヒステリシスは観察されなかった。
【0135】
[実施例19]
(セルロースアセテートフイルムの作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。なお全アセチルセルロース中の再溶解アセチルセルロースの含率は30質量%とした。
【0136】
────────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300質量部
メタノール(第2溶媒) 54質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 11質量部
────────────────────────────────────────
【0137】
別のミキシングタンクに、実施例10で用いたレターデーション上昇剤16質量部、メチレンクロライド80質量部およびメタノール20質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。セルロースアセテート溶液474質量部にレターデーション上昇剤溶液25質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、3.5質量部であった。
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。これをバンド上で100℃に加熱した後剥取り、幅1.8m、厚み130μm、残留溶剤30質量%のセルロースアセテートフイルムCA−15を作製した。これを巻き取らずにそのまま両端をチャックで把持し、テンターにより以下のように横方向に一軸延伸した。
まず130℃の予熱ゾーンでフイルムを30秒予熱した。これに引き続き130℃で30秒かけ幅方向に1.25倍に延伸し、次いでテンター幅を第9表に記載した倍率となるよう広げる(この倍率を変更してそれぞれフイルムを作製する)。この後延伸倍率×0.98となるようにテンター幅を狭めながら130℃で30秒フイルムに熱処理(後熱処理)をする。この後テンターチャックを外した後にフイルムの両端をトリミングし、さらに160℃に保持した乾燥ゾーン内をロールにより搬送し、残留溶剤量が2質量%以下になるまでフイルムを乾燥する。この後フイルムの両端に実施例17と同様にナーリング加工をしてロール状に巻き取った。
【0138】
(鹸化処理、配向膜および光学異方性層の形成)
得られたセルロースアセテートフイルムの一方の表面に、1.5規定のKOH溶液(アルカリ溶液)を25ml/m塗布、25℃で5秒間保持して鹸化処理した。鹸化処理に次いでアルカリ溶液を、流水で10秒洗浄し、25℃の空気を吹き付けてセルロースアセテートフイルムの表面を乾燥した。この鹸化処理における、周囲環境の酸素濃度、KOH溶液に用いた溶剤組成、および洗浄で用いた流水の温度(水洗温度)を第9表に記載の条件として、19−1〜19−5の光学補償シートに用いるセルロースアセテートフイルムを作製した。作製したセルロースアセテートフイルムの表面物性を測定し、その結果を第9表に記載した。さらに実施例17と同様にして、得られた全てのセルロースアセテートフイルムのそれぞれについて、鹸化処理を施した表面に配向膜と光学異方性層を形成して、光学補償シート(19−1〜19−5)を作製した。
さらに実施例17と同様にして、得られた全ての光学補償シートについて密着性評価用のサンプルをそれぞれ作製して評価を行い、その結果を第9表に示した。
【0139】
【表5】

【0140】
【表6】

【0141】
(偏光板の作製)
作製した全ての光学補償シートを、規定濃度1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(55℃)に2分間浸漬し、次いで規定濃度0.5Nの硫酸で中和し、そして流水で洗浄し、乾燥した。これらの光学補償シートのセルロースアセテートフイルム側に、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、延伸したポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させた偏光膜を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付けた。この時、偏光膜の透過軸方向と光学補償シートの遅相軸が平行になる様に貼り付けたため、光学補償シートの遅相軸の平均
方向と偏光膜の透過軸のなす角度は0.5°であった。市販のセルローストリアセテートフイルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)を19−1の光学補償シートに施した鹸化処理と同じ条件で鹸化処理し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の反対側に貼り付けた。このようにして作製したそれぞれの光学補償シートについて偏光板を作製した。
【0142】
(液晶表示装置−1の作製)
垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置(VL−1530S、富士通(株)製)に設けられている一対の偏光板および一対の光学補償シートを剥がし、代わりに作製した偏光板を、光学補償シートが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。このようにして作製したそれぞれの偏光板を用いて液晶表示装置を作製した。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ-Contrast160D、ELDIM社製)を用いて上下左右でコントラスト比10:1が得られる最小の視野角を求め、結果を第9表に示す。併せて、全面黒表示として暗室中で星状に輝く輝点の数を数え、結果を第9表に示す。
また、作製した全ての偏光板を、80℃で30日間(長期経時に相当する加速条件)保管した。別に、より穏和な条件として50℃で30日間の保管を行った。これらの偏光板のそれぞれについて液晶表示装置を同様に作製し、全面白表示として雲状ムラの発生状況を目視で確認した。雲状ムラは、全画面中に対して雲状ムラの発生した領域(%)で評価し、結果を第9表に示す。
【0143】
(液晶表示装置−2の作製)
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに作製した偏光板を、光学補償シートが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とは直交であり、Oモード(直交)となるように配置した。このようにして作製したそれぞれの偏光板を用いて液晶表示装置を作製した。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ-Contrast160D、ELDIM社製)を用いて上下左右でコントラスト比10:1が得られる最小の視野角を求め、結果を第9表に示す。併せて、全面黒表示として暗室中で星状に輝く輝点の数を数え、結果を第9表に示す。
また、作製した全ての偏光板を、80℃で30日間(長期経時に相当する加速条件)保管した。別に、より穏和な条件として50℃で30日間の保管を行った。これらの偏光板のそれぞれについて液晶表示装置を同様に作製し、全面白表示として雲状ムラの発生状況を目視で確認した。雲状ムラは、全画面中に対して雲状ムラの発生した領域(%)で評価し、結果を第9表に示す。
【0144】
[表示ムラの評価]
実施例17〜実施例19で作製した液晶表示装置の表示画面を目視により観察したが、フイルムの凹凸に起因する表示ムラは確認できなかった。従って、得られた本発明に従う光学補償シートの表面は、液晶表示装置の使用に充分な平滑性を有することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルフイルム上に、配向膜、および液晶性分子の配向を固定化した光学異方性層がこの順に設けられてなる光学補償シートを製造する方法であって、セルロースエステルフイルムの配向膜を塗布する側の表面のみを選択的に、溶媒としてアルコールを含むアルカリ溶液を塗布する工程、アルカリ溶液を洗浄してフイルムの表面から除去する工程、次いでフイルムの表面に配向膜塗布液を塗布する工程、そして配向膜塗布液を乾燥する工程を連続して実施することを特徴とする光学補償シートの製造方法。
【請求項2】
アルカリ溶液の溶媒に含まれる水の割合が0乃至50質量%である請求項1に記載の光学補償シートの製造方法。
【請求項3】
アルカリ溶液の溶媒に含まれる水の割合が0乃至15質量%である請求項1に記載の光学補償シートの製造方法。
【請求項4】
アルコールがイソプロピルアルコールである請求項1に記載の光学補償シートの製造方法。
【請求項5】
酸素濃度が18%以下の雰囲気下において、アルカリ溶液を塗布する請求項1に記載の光学補償シートの製造方法。
【請求項6】
30乃至80℃の温水でアルカリ溶液を洗浄する請求項1に記載の光学補償シートの製造方法。
【請求項7】
配向膜塗布液を乾燥する工程の後に、液晶性分子を含む光学異方性層を設ける工程、および液晶性分子の配向を固定化する工程を、この順に実施することを特徴とする請求項1に記載の光学補償シートの製造方法。

【公開番号】特開2008−304924(P2008−304924A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151728(P2008−151728)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【分割の表示】特願2002−548489(P2002−548489)の分割
【原出願日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】