説明

光学要素の撥水処理方法

【目的】 撥水処理膜を含む複合表面処理膜を備えた光学要素において、撥水処理膜の高級品質への改質(グレードアップ)、又は、撥水処理膜の修復が、複合表面処理膜の全体除去を行わなくても、簡単に行うことができる光学要素の撥水処理方法を提供すること。
【構成】 光学基材10上に撥水処理膜(第1撥水処理膜)18を最表面に備えた複合表面処理膜20を備えた光学要素において、第1撥水処理膜18の上に重ねて撥水処理膜(第2撥水処理膜)18Aを形成(成膜)する方法。撥水処理剤を付着ないし含浸させた紙、布帛等を、第1撥水処理膜18上に手で擦りつけて第2撥水処理膜18Aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学要素の撥水処理方法に関し、特に、撥水処理膜(いわゆる表面保護膜)を含む複合表面処理膜を備えた光学要素における撥水処理膜の仕様変更(グレードアップ)ないし修復に好適なものである。
【0002】
ここで、「撥水処理」の概念は、文言的に厳格なものではなく、光学要素上に撥水性とともに防汚性の付与処理も含む。したがって、本明細書及び特許請求の範囲における「撥水性」、「撥水性能」、「撥水処理」の語は、それぞれ「撥水・防汚性」、「撥水・防汚性能」、及び「撥水・防汚処理」を意味する。
【背景技術】
【0003】
眼鏡レンズやカメラレンズ等の光学部品は、水滴が付着すると結像がゆがめられるため水滴が付着しがたいことが望ましい。結像がゆがめられる原因は、親水性の無機ガラス基材や有機ガラス基材の表面に、反射率低減または増大のための金属酸化物・ハロゲン化物層(以下、「金属酸化物層」)が親水性であり微細な凸凹が存在していることから、手あか・塵埃等の汚れが付着し不均一な親水性面となるからである。
【0004】
このような場合、最外層(最表面)に撥水処理膜を形成する、即ち、撥水処理を行って対処することが多い。
【0005】
撥水処理に係る技術としては、下記のような先行技術文献が存在する。
【0006】
特許文献1、2に、フルオロアルキルシラザン等のシラザン化合物を多孔質材料(焼結フィルター・スチールウール等)に含浸させて、真空下、加熱蒸発させて、無機コート膜上に撥水処理を行う技術が記載されている。
【0007】
特許文献3には、有機ポリシロキサン系重合物またはパーフルオロアルキル基含有化合物を重合してなる重合物からなる有機物含有硬化物質層を、浸漬後・硬化(反応)させて無機コート膜上に形成することにより成形して撥水処理等を行う技術が記載されている。
【0008】
しかし、上記のような撥水処理技術によって一定の撥水性能は得られるが、これらの処理を施した光学部品、特に眼鏡レンズ等は装着によって付着する手垢、汗、指紋、ヘアーリキッドなどの油性汚れに対する除去性能としては不十分であった。
【0009】
一方、上記問題点を解決するために、近年含フッ素シラン化合物で最表面を撥水処理した撥水処理眼鏡レンズが上市されている(特許文献4等参照)。しかし、含フッ素シラン化合物で最表面を処理した眼鏡レンズは、小売店でフレームの形状に合わせてレンズをカット(玉摺り)する際に滑り性が良いため、レンズ保持が困難となり、いわゆる二次加工が実質的に不可能であった。
【0010】
これら問題点を解決するために、本発明者らは、フッ素変性有機基と反応性シリル基を有する有機基シラン化合物の薄膜に変更することによって従来性能の撥水性と新たに防汚特性を持たせた技術開発を行い、先に、複合表面処理膜を備えた光学要素の提案を行った(特許文献5)。
【特許文献1】特開平5−215905号公報
【特許文献2】特開平6−340996号公報
【特許文献3】特公平6−5324号公報
【特許文献4】特開平9−258003号公報
【特許文献5】特開2004―61879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そして、上記撥水処理技術は撥水性能が優れていることは確認できた。
【0012】
このため、メーカで又は問屋等で保管されている従来の撥水処理膜を含む複合表面処理膜を備えた光学要素を、当該撥水性能の優れた撥水処理膜を備えた高級グレードの商品へ改質したい場合がある。
【0013】
また、撥水処理膜含む複合表面処理膜を備えた光学要素の製造に際して、撥水処理膜の形成不良品が発生した場合、撥水処理膜を、再度成膜する必要がある。
【0014】
さらに、含フッ素シラン化合物系の撥水処理膜(滑りが非常に良好)が最表面に形成された複合表面処理膜を備えた光学要素の場合、保管状態が良好でないと、長期間の間には、撥水性能が経時的に低下する。含フッ素シラン化合物は、太陽光線等の紫外線により劣化し易いためである。この場合も、出荷前に、撥水処理膜を再度成膜する必要がある。
【0015】
しかし、撥水処理膜が残存している状態で、撥水処理膜を重ねて実用に耐える成膜をすることは、当業者には、困難視又は不可能視されていた。
【0016】
即ち、真空蒸着では実用的な密着性を有する成膜ができず、ディッピング・スピンコートでは撥水現象が起こり成膜できない。
【0017】
このため、通常は、上記のような場合、撥水処理膜を含めて複合表面処理膜の全体(全処理膜)の除去を行った後、再度、複合表面処理膜における多段成膜を行う必要があった。なお、複合表面処理膜において撥水処理膜のみの除去は可能であるが、除去工程の際の熱による膜割れ(クラック)・汚れ・キズ等の不良が発生しやすいことから好ましくない。
【0018】
本発明は、上記にかんがみて、撥水処理膜を含む複合表面処理膜を備えた光学要素において、撥水処理膜の高級品質への改質(グレードアップ)、又は、撥水処理膜の修復が、複合表面処理膜の全体除去を行わなくても、簡単に行うことができる光学要素の撥水処理方法を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を鋭意開発する過程で、布や紙に撥水処理剤(表面保護剤)を付着させて手で擦れば、複合表面処理膜の形成工程で自動(機械、工場)成膜した撥水処理膜(表面保護膜)の上に、重ねて撥水処理膜(表面保護膜)を成膜することができることを知見して、下記構成の光学要素の撥水処理方法に想到した。
【0020】
光学基材上に撥水処理膜(第1撥水処理膜)を最表面に備えた複合表面処理膜を備えた光学要素において、第1撥水処理膜の上に重ねて撥水処理膜(第2撥水処理膜)を形成(成膜)する方法であって、
撥水処理剤を付着ないし含浸させた多孔質塗布手段を、第1撥水処理膜上に手で又は手作業的に擦りつけて第2撥水処理膜を形成することを特徴とする。
【0021】
上記の如く、撥水処理剤を紙、布等の多孔質塗布手段に付着させて、手等でレンズ面(光学要素面)を擦りつけることだけで、第2撥水処理膜を第1撥水処理膜の上に形成することができる。このため、撥水処理膜の高級品質への改質(グレードアップ)、又は、撥水処理膜の修復が、複合表面処理膜全体の除去を行わなくても、簡単に行うことができる。
【0022】
上記、多孔質塗布手段として、通常、布帛、紙等の多孔質シートを使用するが、スポンジ等のブロック体であってもよい。
【0023】
上記構成の撥水処理方法は、第1撥水処理膜の膜厚が1〜50nmである光学要素、及び/又は、光学基材が有機ガラスで形成され、該光学基材と第1撥水処理膜の間にハードコート又はハードコート及びプライマーコートを備えた光学要素を対象とすることが望ましい。第1撥水処理膜の膜厚は50nmより厚くなると第二撥水膜を形成したときに膜が白濁し易く透明性が失われる可能性がある。また、基材は軽量化のために有機ガラスが好まれており、プライマーコート及びハードコートは有機ガラスと第一撥水膜との密着性及び耐擦傷性を得るためである。
【0024】
そして、第1撥水処理膜が含フッ素シラン化合物系である光学要素を対象とすることが望ましい。含フッ素シラン系化合物系の撥水処理膜は、紫外線光劣化しやすく、長期間保管した場合、本発明の方法で修復する必要がある。また、滑り性が非常に良好な含フッ素シラン化合物系の撥水処理膜(第1撥水処理膜)は、他の系の撥水処理膜に比して、長期間保管すると紫外線による性能劣化が顕著に現れるため、重ねて実用的に密着性を有する撥水処理膜(第2撥水処理膜)を形成することが非常に有効な手段となる。
【0025】
第2撥水処理膜を形成する撥水処理剤として、フッ素変性有機基と反応性シリル基を有するフッ素有機基導入シラン化合物を主剤とするものを使用することが望ましい。この撥水処理剤は、撥水性能が優れているとともに、防汚性・滑り性も良好であるためである。
【0026】
なお、本発明の光学要素の撥水処理方法は、撥水処理膜を含まない多膜又は単膜の表面処理膜を備えた光学要素、更には、表面保護層を備えない光学基材も対象とすることができ、その場合は、下記構成の光学要素の撥水処理方法となる。
【0027】
光学基材上に撥水処理膜を形成する方法であって、撥水処理剤を付着ないし含浸させた多孔質塗布手段を、手作業的に擦りつけて撥水処理膜を形成することを特徴とする。
【0028】
また、上記各方法で製造した光学要素は、基本的には、下記構成の撥水処理膜を備えた光学要素となる。
【0029】
光学基材上に複合表面処理膜を備えた光学要素であって、第1撥水処理膜の上に重ねて第2撥水処理膜を備えていることを特徴とする。
【0030】
そして、上記構成において、第1撥水処理膜が含フッ素シラン化合物系であり、第2撥水処理膜がフッ素変性有機基と反応性シリル基を有するフッ素有機基導入シラン化合物を主剤とする撥水処理剤で形成されていることが、方法の場合と同様の理由で望ましい。
【手段(構成)の詳細な説明】
【0031】
本発明は、基本的には、光学基材上に複合表面処理膜を備え、複合表面処理膜が最表面に撥水処理膜(第1撥水処理膜)18を含む光学要素において、第1撥水処理膜の上に重ねて撥水処理膜(第2撥水処理膜)を形成する方法である。
【0032】
ここで、本発明における光学要素には、眼鏡レンズ・カメラ用レンズなどの光学レンズ、さらには、各種ディスプレイの前面ガラスないし前面フィルター、さらには光学プリズム等も含まれる。
【0033】
本発明の方法を、図1に基づいて、本発明の方法詳細に説明をする。
【0034】
図1は、本発明の方法を適用する光学要素の一例である光学レンズのモデル断面図である。即ち、光学基材(レンズ本体)10の上に、プライマーコート12を介して、ハードコート14、光学無機薄膜16を備え、更に、最表面(最外層)に撥水処理膜18を備えている。
【0035】
ここで、上記光学基材としては無機ガラス基材、有機ガラス基材を問わない。
【0036】
無機ガラスとしては、特に限定されないが、例えば、クラウンガラス(nD=1.52〜1.72)、フリントガラス(nD=1.53〜1.88)、等を好適に使用可能である。「nD」は、ガラスの屈折率を示す。
【0037】
有機ガラス基材としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、脂肪族アリルカーボネート、芳香族アリルカーボネート、ポリチオウレタン等からなるものを公的に使用可能である。
【0038】
そして、本発明の光学要素における複合表面処理膜は、光学基材10と最外膜(最外層)となる撥水処理膜18との間に、少なくとも1層以上の各種機能膜を有している。具体的には、本実施形態においては、機能膜としては、プライマーコート12、ハードコート14や光学無機薄膜(反射防止膜・反射増加膜)16が介在している。これらの機能膜は、必然的ではなく、少なくとも一つ存在すればよい。
【0039】
しかし、光学基材10が有機ガラスの場合、通常、耐擦傷性の見地から、ハードコート14を設け、更に、該ハードコート14に耐衝撃性を付与する見地からプライマーコート12をハードコート12と光学基材10との間に形成する。
【0040】
無機光学薄膜16は、通常、金属酸化物、金属ハロゲン化物などのセラミックス及び金属膜からなる単層又は2種類以上の物質で単層または多層の薄膜を形成して、光学的に反射率を低減させたり、増大させたりするものである。
【0041】
薄膜材料としては、
1)チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、アンチモン、イットリウム、インジウム、スズ、ランタン、セリウム、マグネシウム、アルミニウム、珪素、亜鉛等のいずれか、又は2種以上の複数を成分とする無機酸化物;
2)マグネシウム、ランタン、アルミニウム、リチウム等の無機ハロゲン化物;
3)珪素、ゲルマニウム、クロム、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、白金、鉄等の金属単体又はこれらの内から2種以上の複数を成分とする金属混合体(焼結体、合金を含む)、などを、
適宜、選択して使用する。
【0042】
この無機光学薄膜16は、通常、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク放電法等の乾式メッキ法(PVD法)の内から適宜選択した方法により形成する。
【0043】
また、第1撥水処理膜18の膜材質(撥水処理剤)及び形成方法は、特に限定されない。
【0044】
前述の、特許文献1・2等に記載のフルオロアルキルシラザン等のシラザン化合物、特許文献3に記載の有機ポリシロキサン系重合物、パーフルオロアルキル基含有化合物系重合物、又はその他の含フッ素シラン化合物系重合物等任意である。
【0045】
そして、形成方法も、前述の特許文献1・2に記載の方法、又は、特許文献3等に記載のデッピング又はスピンコート等任意であり、更には、「撥水処理剤を付着ないし含浸させた多孔質塗布手段を、手で又は手作業的に擦りつける」本発明の方法でもよい。
【0046】
そして、上記構成の複合表面処理膜を備えた光学レンズにおける最表面の撥水処理膜18の上に、重ねて第2撥水処理膜18Aを形成する。第2撥水処理膜18Aは、撥水処理剤を付着ないし含浸させた多孔質塗布手段を、1撥水処理膜18上に手で又は手作業的に擦りつけてを形成する。
【0047】
ここで撥水処理剤としては、布、紙等に含浸ないし付着させることができるもの(溶液、ペースト、粉体、粉体分散溶液)なら特に限定されず、汎用の含フッ素シラン化合物系のものを使用可能である。
【0048】
特に、これらのうちで、フッ素変性有機基と反応性シリル基を有するフッ素変性有機基導入シラン化合物とするものが望ましい。例えば、以下の化学式で示されるフッ素変性有機基導入シラン化合物を主剤とするものが望ましい。
【0049】
具体的には信越化学工業(株)製「KY−130」或いはダイキン工業(株)製「オプツールDSX」を、フッ素系溶剤(例えば、住友3M(株)製「HFE−7200」、信越化学工業(株)製「FRシンナー」、ダイキン工業(株)製「デムナムソルベント」等)で適当に希釈したものを使用できる。
【0050】
フッ素有機基導入シラン化合物は、下記一般化学式(化1)、(化2)で示される。
【0051】
【化1】

【0052】
【化2】

この撥水処理剤(表面保護剤)を使用する場合の濃度(質量)は、0.01〜3.0%、好ましくは0.05〜1.0%、更に好ましくは0.1〜0.5%とする。
【0053】
ここで、濃度が高過ぎると、塗膜後の外観が白濁(曇り)し易くなり、濃度が低すぎると、十分な撥水性・防汚性能が得られない。
【0054】
ここで、撥水処理剤(表面保護剤)を付着させる多孔質塗布手段は、スポンジ等でもよいが、擦りつけを手で行う場合は、取り扱い性の見地から、可撓性シート(フィルム)である紙・布(布帛)、多孔質プラスチックフィルム等、特に、紙・布帛が望ましい。
【0055】
紙としては、ティッシュペーパー、シルボン紙、布帛としては、各種ワイパー(小津産業社製「ダスパー」、帝人社製「ミクロスター」、東レ社製「トレシー」等、旭化成繊維社製「スピック」等)、綿、ナイロン等を挙げることができる。
【0056】
なお、手作業的とは、手で行うように、機械を使用して擦りつけることをいう。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例を比較例とともに説明する。
(1)光学基材は、下記のものを使用した。
【0058】
「BK−7」:屈折率1.52 (SCHOTT社製)
「CR−39」:屈折率1.50 (RPG社製)
「MR−8」:屈折率1.60 (三井化学社製)
(2)第1撥水処理膜A・B・Cは、それぞれ下記方法で形成した。
【0059】
<第1撥水処理膜A>
1)第1撥水処理剤Aの調製
両末端にシラノール基を有するジメチルシロキサン(数平均分子量:26000)10部、炭化水素溶媒(Exxon Mobil社製「アイパーE」)10部を添加、混合しさらにエチルトリアセトキシシラン1部、ジブチル錫アセテート0.05部を添加、混合し24h放置する。後にメチルイソブチルケトン540部とシクロヘキサノン540部を添加、混合することによって調製した。
【0060】
2)成膜方法
上記第1撥水処理剤Aに基材を浸漬、引き上げスピード100mm/minでディップコーティング後、24h室温で放置して乾燥硬化させて、第1撥水処理膜Aを形成する。
【0061】
<第1撥水処理膜B>
1)第1撥水処理剤Bの調製
フッ素系コーティング剤(信越化学工業社製商品名「KY−130」、 固形分10%)をフッ素系溶剤(信越化学工業社製商品「FRシンナー」)で希釈し3.0%となるように調製したものをスチールウール(日本スチールウール社製#0、線径0.025mm)0.5部を上方が解放の円筒形の胴(容量:内径16mm×内高さ6mm)に詰めた容積に充填(薬品充填量1.0部)した後、120℃で1h乾燥させて調製した。
【0062】
2)成膜方法
上記第1撥水処理剤Bを、真空蒸着機内にセットし0.01Paの真空にした後モリブデン製抵抗加熱ボートで加熱、0.6A/sの製膜速度で蒸発させ0.005μmの第1撥水処理膜Bを形成する。
【0063】
<第1撥水処理膜C>
1)第1撥水処理剤Cの調製
フッ素系変性有機基と反応性のシリル基を有するフッ素系コーティング剤(信越化学工業社製商品名「KY−130」 固形分20%)をフッ素系溶剤(信越化学工業社製商品名「FRシンナー」)で希釈して固形分0.3%のものを調製した。
【0064】
2)成膜方法
第1撥水処理剤Cに基材を浸漬、引き上げスピード100mm/minでコーティング。温度40℃湿度40% 24時間で放置し乾燥、硬化させて、第1撥水処理膜Cを形成する。
(3)撥水処理剤Dの調製
フッ素系変性有機基と反応性のシリル基を有するフッ素系コーティング剤(信越化学工業社製商品名KY−130 固形分20%品)をフッ素系溶剤(信越化学工業社製商品FRシンナー)で希釈し固形分0.1%となるように第2撥水処理剤(第2撥水処理膜用)を調製した。
(4)対象光学要素の調製
下記各構成の複合表面処理膜を備えた撥水処理の対象とする対象光学要素1〜5を調製した。
<対照例1>
BK−7基材に酸化珪素と酸化チタンの交互層からなる7層の反射防止膜を形成した。
<対照例2>
CR−39基材に有機ケイ素化合物よりなるハードコート層を形成し、酸化珪素と酸化ジルコニアの交互層からなる5層の反射防止膜を形成した。
<対照例3>
CR−39基材に有機ケイ素化合物よりなるハードコート層を形成し、酸化珪素と酸化ジルコニアの交互層からなる5層の反射防止膜を形成し、第1撥水処理膜Aを形成した。
<対照例4>
MR−8基材に有機ケイ素化合物よりなるハードコート層を形成し、酸化珪素と酸化ジルコニアの交互層からなる5層の反射防止膜を形成し、第1撥水処理膜Bを形成した。
<対照例5>
MR−8基材に有機ケイ素化合物よりなるハードコート層を形成し、酸化珪素と酸化ジルコニアの交互層からなる5層の反射防止膜を形成し、第1撥水処理膜Cを形成した。
(5) そして、各対象光学要素について、下記各方法により手で撥水処理を行った。
<参照例1>
対象光学要素1の表面に、撥水処理材Dを付着させたダスパーを擦りつけて第1撥水処理膜を形成した。
<参照例2>
対象光学要素2の表面に、撥水処理材Dを付着させたダスパーを擦りつけて第1撥水処理膜を形成した。
<実施例1>
対象光学要素3の表面に、撥水処理材Dを付着させたティッシュペーパーを、擦りつけて第2撥水処理膜を形成した。
<実施例2>
対象光学要素4の表面に、撥水処理材Dを付着させたティッシュペーパーを、擦りつけて第2撥水処理膜を形成した。
<実施例3>
対象光学要素5の表面に、撥水処理材Dを付着させたティッシュペーパーを、擦りつけて第2撥水処理膜を形成した。
(6)上記各対象光学要素及び各参照例・実施例について下記各項目の試験を行った。
【0065】
1)耐擦傷性試験
スチールウール(#0000)に1000部の荷重を加え、各試験片の表面を50回/50秒で擦り傷の入り具合を蛍光灯の透過光により下記の基準で判定した。
【0066】
2)密着性試験
試験片を硬質のナイフで1mm間隔で100個の升目をクロスカットしセロハンテープを升目に貼り急速剥離をし剥離しない升目の数を数えた。
【0067】
3)耐温水試験
80℃の温純水に試験片を10分間浸漬し前述密着試験を実施
4)耐候性試験
促進耐候性試験 スガ社製サンシャインスーパーロングライフウェザーメーターで100時間暴露し前述耐擦傷性、密着性試験を実施
5)撥水性試験
接触角計(協和界面科学社製CA-D型)にて純水に対する接触角を測定した。
【0068】
6)耐薬品性試験
耐酸:20℃の硝酸水溶液(pH1)に試験片を6時間浸漬させ、水洗後前述の接触角を測定した。
【0069】
耐アルカリ:20℃の苛性ソーダ水溶液(pH11)に試験片を6時間浸漬させ、水洗後前述の接触角を測定した。
【0070】
7)防汚性
油性ペン(寺西化学工業社製マジックインキNo.500)で試験片面を1cm長の線を引きハンカチにて5往復し、拭き取り可能の有無を試験する。
<試験結果>
上記各試験の結果を、それぞれ表1・2に示す。
【0071】
参照例・実施例の試験結果より、本発明により各種耐久性(耐擦傷性・耐薬品性)及び撥水性・防汚性の優れた膜を簡易的に付与した光学要素を提供できることが確認できた。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明を適用する複合表面処理膜を備えた光学要素の一例を示すレンズのモデル断面図である。
【符号の説明】
【0075】
10 光学基材(レンズ本体)
12 プライマーコート
14 ハードコート
16 光学無機薄膜(反射防止膜又はミラーコート)
18 撥水処理膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基材上に複合表面処理膜を備え、該複合表面処理膜の最外層(最表面)が撥水処理膜(第1撥水処理膜)である光学要素に、重ねて撥水処理膜(第2撥水処理膜)を形成する方法であって、
撥水処理剤を付着ないし含浸させた多孔質塗布手段を、前記第1撥水処理膜上に手で又は手作業的に擦りつけて前記第2撥水処理膜を形成することを特徴とする光学要素の撥水処理方法。
【請求項2】
前記多孔質塗布手段として、布帛、紙等の多孔質シートを使用することを特徴とする請求項1記載の光学要素の撥水処理方法。
【請求項3】
前記第1撥水処理膜の膜厚が1〜50nmである光学要素を対象とすることを特徴とする請求項1又は2記載の光学要素の撥水処理方法。
【請求項4】
前記光学基材が有機ガラスで形成され、該光学基材と前記第1撥水処理膜の間にハードコート又はハードコート及びプライマーコートを備えた光学要素を対象とすることを特徴とする請求項3記載の光学要素の撥水処理方法。
【請求項5】
前記第1撥水処理膜が、含フッ素シラン化合物系である光学要素を対象とすることを特徴とする請求項4記載の光学要素の撥水処理方法。
【請求項6】
前記第2撥水処理膜を形成する撥水処理剤として、フッ素変性有機基と反応性シリル基を有するフッ素有機基導入シラン化合物を主剤とするものを使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学要素の撥水処理方法。
【請求項7】
光学基材上に撥水処理膜を形成する方法であって、撥水処理剤を付着ないし含浸させた多孔質塗布手段を、手又は手作業的に擦りつけて撥水処理膜を形成することを特徴とする光学要素の撥水処理方法。
【請求項8】
光学基材上に複合表面処理膜を備え、該複合表面処理膜の最外層(最表面)が撥水処理膜(第1撥水処理膜)である光学要素であって、前記第1撥水処理膜の上に重ねて第2撥水処理膜を備えていることを特徴とする撥水処理膜を備えた光学要素。
【請求項9】
第1撥水処理膜が含フッ素シラン化合物系であり、第2撥水処理膜がフッ素変性有機基と反応性シリル基を有するフッ素有機基導入シラン化合物を主剤とする撥水処理剤で形成されていることを特徴とする請求項8記載の撥水処理膜を備えた光学要素。


【図1】
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【公開番号】特開2006−23542(P2006−23542A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201553(P2004−201553)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】