説明

光学部品

【課題】潤滑剤の塗布をすることなく、摺動面の摺動抵抗を軽減でき動作の安定化を図る上で有利な光学部品を提供する。
【解決手段】光学部品10は、例えば、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラの撮影光学系に組み込まれ開口面積を変化させる複数の絞り羽根16を備える絞りであり、摺動面は絞り羽根16の厚さ方向の両面である。複数の絞り羽根16は、光を透過しない薄板状の合成樹脂で形成されプラズマイオン注入法によって表面改質が行われている。したがって、複数の絞り羽根16はその表面の硬度が高められることにより、各絞り羽根16の摺動面の摩擦係数を低下させることで摺動負荷を軽減できるので、開閉動作の安定化、高速化を図る上で有利となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラなどの撮像装置の撮影光学系に組み込まれ、開口面積を変化させる複数の絞り羽根を備えた絞りがある(特許文献1、2参照)。
このような絞りでは、絞り羽根の開閉動作の安定化を図るために、互いに重なり合う摺動面に潤滑剤を塗布することで摺動抵抗を軽減するようにしている。
【特許文献1】特開平13−281728号公報
【特許文献2】特開2002−202543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した絞りでは、絞り羽根に潤滑剤を塗布する工程が必要となるため、組み立てが繁雑となる不具合があった。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、潤滑剤の塗布をすることなく、摺動面の摺動抵抗を軽減でき動作の安定化を図る上で有利な光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の目的を達成するため、本発明は、摺動面を有する合成樹脂製の光学部品であって、前記摺動面は、プラズマイオン注入法によって表面改質が行われその表面の硬度および靭性が高められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、プラズマイオン注入法によって摺動面の表面改質が行われその表面の硬度が高められる。これにより、摺動面の摩擦係数を低下させることで摺動負荷を軽減でき、動作の安定化を図れる。また、従来の摺動面へ潤滑剤を塗布する工程を省略でき、光学部品の組み立てを簡単に行う上で有利となる。
また、摺動面の表面改質が行われその表面の靭性が高められる。これにより、光学部品の耐久性を確保しつつ薄型化、小型化、軽量化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(第1の実施の形態)
次に本発明の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は第1の実施の形態における光学部品の構成を示す斜視図、図2(A)、(B)は第1の実施の形態の光学部品の動作を示す説明図、図3は光学部品のシャッタの羽根の断面図である。
【0007】
図1に示すように、第1の実施の形態において、光学部品10は、例えば、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラの撮影光学系に組み込まれ開口面積を変化させる複数の絞り羽根を備える絞りであり、摺動面は絞り羽根の厚さ方向の両面である。
光学部品10はケース12と蓋板14を備え、ケース12と蓋板14の間に、複数の絞り羽根16と回転板18が収容され、蓋板14にアクチュエータ20とセンサ22が配設されている。
ケース12は、円板状の底壁1202と、底壁1202の周囲から起立された円筒状の側壁1204を有し、底壁1202の中央には光路を形成する円状の開口1206が設けられている。
底壁1202の内面にはカム溝1208が周方向に延在形成されている。カム溝1208は、開口1206の中心からの距離が周方向に沿って周期的に増減するように形成されている。
また、側壁1204の内周には、回転板支持用の第1環状面1210と、蓋板支持用の第2環状面1212とが設けられている。
【0008】
複数の絞り羽根16は、光を透過しない薄板状の合成樹脂で形成され後述するようにプラズマイオン注入法によって表面改質が行われている。
合成樹脂としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、アクリル、APO(アモルファスポリオレフィン)などを用いることができる。
複数の絞り羽根16は厚さ方向の両側に位置する下面1602と上面1604を有し、下面1602にはガイドピン1606が突設され、上面1604には支軸1608が突設されている。
図2(A)に示すように、複数の絞り羽根16は、各ガイドピン1206がカム溝1208に挿入された状態で開口1206を囲むように開口1206の周方向に等間隔をおいて配設され、隣接する絞り羽根16の上面1604と下面1602の一部が互いに重ねあわされた態で底壁1202の内面上に配置される。
そのため、後述するように、各絞り羽根16の下面1602は隣接する隣接する絞り羽根16の上面1604と摺動し、各絞り羽根16の上面1604は隣接する隣接する絞り羽根16の下面1602と摺動する。
したがって、各絞り羽根16の下面1602と上面1604は摺動面となっている。
【0009】
回転板18は円板状を呈し、絞り羽根16の上方からケース12内に挿入され回転板18の下面外周が第1環状面1210に支持されて配設され、その中央に前記開口1206とほぼ同じ直径の円状の開口1802が設けられている。
回転板18の開口1802周囲には、開口1802の中心を中心とする円周上に等間隔をおいて絞り羽根16の数と同じ数の係合孔1804が貫通形成されている。
各係合孔1804に絞り羽根16の支軸1208が挿入されることで、各絞り羽根16は支軸1208を中心に揺動可能に支持されている。
回転板18の上面には開口1802の中心を中心とする環状の壁部が突設され、この壁部の外周面に大径歯車1806が形成されている。
また、回転板18の外周寄りの箇所に検出用孔1808が貫通形成されている。
【0010】
蓋板14は円板状を呈し、回転板18の上方からケース12内に挿入され、蓋板14の下面外周が第2環状面1212に支持され側壁1204に回転不能に取着されている。
蓋板14は、その中心に前記開口1206、1802とほぼ同じ直径の円状の開口1402が設けられている。
【0011】
アクチュエータ20は、例えば、モータなどで構成され、駆動信号が供給されることで正逆方向に回転駆動される駆動軸を有し、駆動軸に小径歯車2002が設けられている。
アクチュエータ20は、小径歯車2002を蓋板14の貫通孔1404を通して回転板18の大径歯車1806に噛合した状態で蓋板14に取着されている。
センサ22は、例えば、検出光を照射するとともにその反射光を検出する反射型の光センサなどで構成され、蓋板14の貫通孔1406を介して前記検出光を回転板18に向けて出射し、検出用孔1808の位置を検出することで回転板18の揺動位置を検出するように構成されている。
【0012】
このように構成された光学部品10の動作について説明する。
アクチュエータ20に駆動信号が供給されると、小径歯車2002、大径歯車1806を介して回転板18が正方向あるいは逆方向に所定の角度回転される。
これにより、各絞り羽根16は、支軸1608および係合孔1804を介して回転板18とともに所望の角度回転され、各絞り羽根16のガイドピン1606がカム溝1208に沿って案内されることで各絞り羽根16は支軸1608を支点に揺動される。
したがって、絞り羽根16が開口1206、1802、1402の中心から離れる方向に揺動されると、図2(A)に示すように、各絞り羽根16で囲まれた開口面積が拡大して前記光路が開かれた状態(全開状態)となる。
また、絞り羽根16が開口1206、1802、1402の中心に近づく方向に揺動されると、図2(B)に示すように、各絞り羽根16で囲まれた開口面積が縮小する。
これらにより絞りによる光量調節が行われる。
なお、各絞り羽根16で囲まれた開口面積が縮小する方向に移動させると、開口面積が零になって前記光路が閉じられた状態(全閉状態)となり、したがって、各絞り羽根16を全閉状態に移動させることでシャッタとして使用できることは無論である。
【0013】
次に、各絞り羽根16の下面1602、上面1604に対してなされるイオンプラズマ注入法(Plasma−Based Ion Implantation:PBII)による表面改質について図4を参照して説明する。
図4はプラズマイオン注入を行う装置の構成図である。
まず、プラズマイオン注入を行う装置について説明する。
装置100は、真空チャンバー102、アンテナコイル104、ホルダ106などを備えている。
真空チャンバー102は、その内部が真空状態に保持されるとともに、イオンを生成するためのガスが導入されるものである。
アンテナコイル104は、真空チャンバー102内に配置され、高周波の交流電圧(例えば周波数13.56MHz)が印加されることで放電を行い真空チャンバー102内のガスをプラズマ化するものである。
ホルダ106は、真空チャンバー102内でアンテナコイル104に対向する箇所において、イオンを注入すべき材料、本実施の形態では、絞り羽根16を保持するものである。
ホルダ106は、カソード(陰極)を兼用しており、高圧の正負パルス電圧(例えば、周波数10KHz、正電圧+10KV、負電圧−10KV)が印加されるものである。
【0014】
次に、このような装置100を用いて絞り羽根16にイオンを注入する手順について説明する。
予め、イオンを注入すべき材料である絞り羽根16をホルダ106に保持させる。
次に、真空チャンバー102内をポンプにより真空状態にしたならば、イオンを生成するためのガスとしてメタンガス(CH)を真空チャンバー102内に導入する。この際、アンテナコイル104による放電を容易にするためアルゴンガスも真空チャンバー102内に導入する。
そして、アンテナコイル104に高周波の交流電圧を印加することで、真空チャンバー102内のガスをプラズマ状態(電離状態)とする。すなわち、メタンガスがプラズマ状態になると、陽イオンである炭素イオン(カーボンイオン)が生成される。
次いで、ホルダ106に高圧の正負パルス電圧を印加することで絞り羽根16を負電位とすると、炭素イオンが絞り羽根16に向かって引きつけられて加速され、絞り羽根16に注入される。
これにより、図3に示すように、絞り羽根16の表面(下面1602、上面1604)から深さDの領域Aに炭素イオンが注入され、表面改質がなされる。深さDは例えば80nmである。
絞り羽根16は、このような表面改質により、その表面の硬度と靭性(粘り強さ)が高められる。そして、絞り羽根16は、表面の硬度が高められることにより摩擦係数が低下し、また、靭性が高められることで塑性変形しにくくなる。
言い換えると、絞り羽根16は、このような表面改質により、その表面に硬く、耐食性に優れる安定した膜が形成される。
なお、プラズマを利用する表面改質技術としては、上述したプラズマイオン注入法の他に、従来公知のイオン窒化、PVD(イオンプレーティング)、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)、イオンエッチング(スパッタクリーニング)などの技術が知られているが、これらの従来公知の技術の表面改質によって得られる表面の硬度と靭性に比べてプラズマイオン注入法の表面改質によって得られる表面の硬度と靭性は格段に優れているものである。
なお、プラズマイオン注入法では、下面1602、上面1604、ガイドピン1606、支軸1608を含む絞り羽根16の表面全域が表面改質される。
【0015】
したがって、本実施の形態の光学部品10によれば、プラズマイオン注入法によって絞り羽根16の摺動面の表面改質が行われその表面の硬度が高められることにより、各絞り羽根16の摺動面の摩擦係数を低下させることで摺動負荷を軽減できるので、開閉動作の安定化、高速化を図る上で有利となる。
このため、従来と違って摺動面に潤滑剤を塗布する工程を省略でき、光学部品10の組み立てを簡単に行う上で有利となる。
また、摺動面に潤滑剤が塗布された光学部品が撮像装置のレンズ鏡筒に組み込まれている場合、撮像装置に加えられた衝撃や振動により摺動面に塗布された潤滑剤が飛散してレンズ鏡筒内のレンズなどに付着して光路上の障害物となり、撮影した画像に黒い点となって表れてしまうことが考えられるが、本実施の形態の光学部品10によればこのような不具合を未然に防止することができる。
また、絞り羽根16の摺動面の表面改質が行われその表面の靭性が高められることにより、各絞り羽根16の耐久性を確保しつつ薄型化を図ることができるので光学部品10の小型化、軽量化を図る上で有利となる。
また、絞り羽根16の摺動面の摺動負荷を軽減するとともに、絞り羽根16の小型化、軽量化を図ることで、絞りばね16を駆動するアクチュエータ20の消費電力を低減する上でも有利となる。
なお、第1の実施の形態では、光学部品10が多数の絞り羽根16を有する絞りあるいはシャッタである場合について説明したが、本発明の光学部品はこのような絞りやシャッタに限定されるものではなく、例えば、切り欠き部を設けた2枚の絞り羽根を相対的にスライドさせて2つの切り欠き部の間に形成される絞り部の開口面積(通光面積)を可変する絞り、あるいは、NDフィルタを光路上に入出させるフィルタ装置などの摺動面を有する光学部品に適用できることは勿論である。
【0016】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。
図5は第2の実施の形態における光学部品の構成を示す図である。
第2の実施の形態では、光学部品30は、レンズを保持するレンズ保持部と軸受け部とが一体成形されたレンズ枠であり、軸受け部には軸受け孔が形成され、摺動面は軸受け孔の内周面である。
光学部品30は、レンズ32を保持するレンズ保持部34と、レンズ保持部34に一体成形された軸受け部36とを備えたレンズ枠であり、光学部品30は第1の実施の形態と同様の合成樹脂で形成されている。
軸受け部36には軸受け孔3602が形成され、軸受け孔3602に案内軸38が挿通されることで、光学部品30がレンズ32の光軸方向に沿って案内されるように構成されている。
したがって、軸受け孔3602の内周面3604が案内軸38の外周面3802と摺動する摺動面を構成している。
また、軸受け部36の反対側のレンズ保持部34箇所に光軸と平行な方向に貫通する孔3402が設けられ、この孔3402には金属製の雌ねじ部材3404が埋め込まれている。
雌ねじ部材3404には送りねじ40が螺合されており、送りねじ40がモータなどにより正逆方向に回転されることで、光学部品30が光軸方向に沿って移動するように構成されている。
そして、軸受け部36の内周面3604は、第1の実施の形態と同様に、イオンプラズマ注入法によってその表面にイオンが注入され、表面改質が行われることで、その表面の硬度と靭性(粘り強さ)が高められる。そして、レンズ保持部34と軸受け部36は、表面の硬度が高められることにより摩擦係数が低下し、また、靭性が高められることで塑性変形しにくくなる。
なお、プラズマイオン注入法では、レンズ保持部34、軸受け部36を含む光学部品30の表面全域が表面改質される。
【0017】
第2の実施の形態によれば、軸受け部36の内周面3404で構成される摺動面の表面の硬度が高められることにより摩擦係数が低下し、また、靭性が高められることで塑性変形しにくくなる。
このため、軸受け部36の摺動面(内周面3602)と案内軸38の外周面3802の摩擦係数が低下させることで摺動負荷を軽減できるので、光学部品30の移動動作の安定化、高速化を図る上で有利となる。
また、第2の実施の形態では、レンズ保持部34および軸受け部36の表面改質が行われその表面の靭性が高められるので、レンズ保持部34および軸受け部36の耐久性を確保しつつ小型化を図ることができるので光学部品30の小型化、軽量化を図る上で有利となる。
また、軸受け部36の摺動面の摺動面の摺動負荷を軽減するとともに、レンズ保持部34および軸受け部36の小型化、軽量化を図ることで、送りねじ40を駆動するモータの消費電力を低減する上でも有利となる。
【0018】
なお、各実施の形態では、注入されるイオンが炭素イオンである場合について説明したが、注入されるイオンは、そのイオンが注入されることで表面改質が行われるイオンであればよい。例えば、炭素イオンに代えて窒素イオンを用いてもよく、その場合にはメタンガスに代えて窒素ガスを用いればよい。
また、実施の形態では、イオンを摺動面に注入することで摺動面の表面の改質を行う場合について説明したが、イオンに代えて電子を摺動面に注入することで摺動面の表面の改質を行ってもよい。
また、実施の形態では、光学部品が絞り、あるいは、レンズ枠である場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、摺動面を有する光学部品に広く適用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施の形態における光学部品の構成を示す斜視図である。
【図2】(A)、(B)は第1の実施の形態の光学部品の動作を示す説明図である。
【図3】光学部品のシャッタの羽根の断面図である。
【図4】プラズマイオン注入を行う装置の構成図である。
【図5】第2の実施の形態における光学部品の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
10……光学部品、16……絞り羽根、1602……下面、1604……上面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面を有する合成樹脂製の光学部品であって、
前記摺動面は、プラズマイオン注入法によって表面改質が行われその表面の硬度および靭性が高められている、
ことを特徴とする光学部品。
【請求項2】
前記光学部品は開口面積を変化させる複数の絞り羽根を備える絞りであり、前記摺動面は前記絞り羽根の厚さ方向の両面であることを特徴とする請求項1記載の光学部品。
【請求項3】
前記光学部品は、レンズを保持するレンズ保持部と軸受け部とが一体成形されたレンズ枠であり、前記軸受け部には軸受け孔が形成され、前記摺動面は前記軸受け孔の内周面であることを特徴とする請求項1記載の光学部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−308728(P2006−308728A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129220(P2005−129220)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】