説明

光導波路の伝送損失試験方法および光導波路テストピース

【課題】可撓性を有する光導波路において屈曲試験時における伝送損失を逐次的に測定する方法およびこの方法に用いる光導波路テストピースを提供すること。
【解決手段】基材110の上に所定の曲率半径のループ状曲げ部を持った被試験光導波路1、および前記被試験光導波路と所定の位置関係にあり前記基材を縦断するように配された調芯用光導波路7,7’を有するテストピース100を用意し、前記テストピースの前記被試験光導波路に、光ファイバを介して、光を与えかつ取り出す光測定装置を用意し、前記調芯用導波路を用いて前記光測定装置の前記光ファイバに対して調芯するように前記テストピースの位置決めを行い、前記被試験光導波路に、前記光測定装置の光ファイバを用いて光を授受することにより光の伝送測定を行うことを特徴とする光導波路の試験方法、およびこの試験に用いる光導波路テストピース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路の伝送損失試験方法および光導波路テストピースに係わり、さらに詳細にいえば、光導波路について機械的変位を伴う機器への組み込みを想定した逐次的な伝送損失測定方法および光導波路テストピースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型・軽量化、高機能化により回路基材の高速化および高集積化が進み、信号遅延、EMI(Electromagnetic interference:電磁干渉ノイズ)の発生などの問題への対応が急務となっている。
【0003】
この状況は携帯電話においても例外ではなく、小型の筐体の中に複数の機能を集積する必要があり、特にメイン基材と液晶パネル部とを接続する屈曲部においては、電気配線がアンテナのような働きをするため、EMIの発生あるいは外部ノイズによる誤動作が問題となっており、対策が必要となっている。
【0004】
これらの問題を解決する手段として、上記信号遅延、EMIが克服ないし低減され、かつ高速伝送が可能である光伝送がある。例えば特許文献1のように、光伝送の利点を用い、電気配線基材上の電気配線の一部を光伝送による光配線に置き換えた光電気配線基材の製造が提案されている。特に、携帯電話などの民生機器では、生産性、取り扱い易さの観点から、光導波路によるマルチモード伝送が盛んに検討されている。
【0005】
携帯電話のヒンジ部には一般にフレキシブルプリント配線板が適用されており、その屈曲、折り曲げに対する試験方法は、JIS C 5016 8.6および8.7(非特許文献1)に基づき、JPCA-DG02-2006 10.5および10.6(非特許文献2)に記載されている。
【0006】
しかしながら、実際には、組み込まれる携帯電話の屈曲形状に応じた試験が要求されており、具体的にはアルファヒンジ、ダイレクトヒンジ、スライド、ねじりなどの試験を別途行う必要がある。また、これらは、試験中の抵抗値変化を逐次測定することを前提としている。
【特許文献1】特開2005-134862号公報
【特許文献2】特開2007-85799号公報
【特許文献3】特開2001-83040号公報
【非特許文献1】日本工業規格、C 5016「フレキシブルプリント配線板試験方法」、財団法人 日本規格協会、平成16年3月発行
【非特許文献2】JPCA規格、JPCA-DG02-2006「片面および両面フレキシブルプリント配線板」、社団法人 日本電子回路工業会、平成18年5月発行
【非特許文献3】JPCA規格、JPCA-PE02-05-01S「高分子光導波路の試験方法」、社団法人 日本電子回路工業会、平成17年5月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、一般に光配線は、曲げることによりコアから光が漏れるなどして損失の増大が起こる。そのため、曲げ時の損失測定は、光配線の評価においては重要な項目である。光導波路に関しては、JPCA-PE02-05-01S(非特許文献3)といった規格がある。また、特許文献2に記載されるように、専用のジグによる測定も行われている。
【0008】
しかしながら、当該参考文献も含めて、これまで光導波路の開発において静的な曲げ、あるいは連続屈曲試験前後に対する損失の測定結果は示されているものの、電気配線のような屈曲試験中の損失を逐次測定することはなかった。その理由を、以下に述べる。
【0009】
一般に、損失の測定は、導波路の光を入射および出射する端面に、調芯機を用いてファイバを介し光源、パワーメータを接続して測定する。特に民生機器向けの光導波路は、上記のようにマルチモードによる伝送を前提としており、導波路に接続されるファイバもまたマルチモードファイバを用いる。
【0010】
しかし、マルチモードファイバは、ファイバを動かすことによりコアに発生するモードが変化するため、損失が変動する。この結果、光導波路のダイナミックな屈曲試験において検出される損失は、ファイバの損失が不規則に検出され、ばらつきの大きい測定結果となる。
【0011】
一方、光ファイバの場合、光入射側と反対側のファイバ端部に反射器を設け、返ってくる光を光サーキュレータで取り出すことで、入射端を除くファイバの機械試験時の損失を測定する手法が特許文献3に開示されている。
【0012】
しかしながら、本方法では、サーキュレータ、あるいは光カプラ、反射器を別途準備する必要があり、特に反射器は測定ごとに個別に準備する必要があり、コスト、時間の面で不利である。
【0013】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、可撓性を有する光導波路において屈曲試験時における伝送損失を逐次的に測定する方法、および光導波路テストピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的達成のため、本発明では、下記の各発明を提供する。
【0015】
第1の発明は、
基材の上に所定の曲率半径のループ状曲げ部を持った被試験光導波路、および前記被試験光導波路と所定の位置関係にあり前記基材を縦断するように配された調芯用光導波路を有するテストピースを用意し、
前記テストピースの前記被試験光導波路に、光ファイバを介して、光を与えかつ取り出す光測定装置を用意し、
前記調芯用導波路を用いて前記光測定装置の前記光ファイバに対して調芯するように前記テストピースの位置決めを行い、
前記被試験光導波路に、前記光測定装置の光ファイバを用いて光を授受することにより光の伝送測定を行う
ことを特徴とする光導波路の試験方法、である。
【0016】
また、第2の発明は、
光源および光パワーメータを有し、前記光源と前記光パワーメータとの間に被試験光導波路を設置して、この被試験光導波路の光伝送損失特性を測定する光導波路の試験に用いる光導波路テストピースにおいて、
基材と、
前記基材の上に形成され、所定の曲率半径のループ状曲げ部を持った被試験光導波路と、
前記被試験光導波路と所定の位置関係にあり、前記基材を縦断するように配された調芯用光導波路と、
を有することを特徴とする光導波路テストピース、である。
【0017】
<光伝送損失特性の試験>
曲げ部を有する光導波路の曲率半径は、直線状の光導波路をJPCA-PE02-05-01Sに記載の方法で曲げることで、予めその損失が分っている曲率半径に設定する。この測定には、特許文献2の手法が適用可能である。
【0018】
さらに云えば、その曲率半径は曲げていないとき、すなわち導波路固有の損失と同程度の損失となる曲率半径に設定すれば、後の評価において当該曲げ部を考慮する必要がないので、試験を簡便にすることができる。
【0019】
また、一般に光導波路のコア形状は、その多くが精密金型や、フォトリソグラフィにて形成できるので、任意の曲率半径が設定でき、後述する入出射端部のピッチも任意に設定できる。
【0020】
また、試験は、上述のようにJPCA-DG02-2006 10.5および10.6に記載の試験方法のみならず、携帯電話への組み込みを想定したアルファヒンジ、ダイレクトヒンジ、スライド試験、ねじり試験などを行うことも可能である。
【0021】
さらに言えば、テストピースとなる曲げ部を有する導波路の両側に、曲げ部を有する導波路の光の入出射端と同じ端部から入射し、当該入出射端とは対向する端部に出射部を有する導波路を少なくとも1つ以上配置し、当該導波路についてファイバと調芯する。
【0022】
曲げ部を有する導波路と同一平面上にある導波路を調芯することで、V溝上に設置されたファイバと曲げ部を有する導波路との調芯が完了する。この際、ファイバを固定するV溝のピッチと導波路の各入出射端のピッチを同じとする。
【0023】
こうして調芯された導波路およびファイバを、紫外線硬化樹脂など所定の方法で固定することで、曲げ部を有する導波路のファイバと接続する入出射端が固定される。
【0024】
これにより、当該固定部と光導波路の曲げ部を除く箇所を所定の曲率半径、所定の周波数で機械的変位を与える際に、ファイバおよびファイバと導波路の接続部が固定されているので試験中の損失変動がない。
【0025】
この伝送損失特性試験は、被試験光導波路に光測定装置の光ファイバを固定し、光導波路の曲げ部および固定部を除く箇所に対して所定の曲率半径、所定の周波数での機械的変位を伴う形で、光測定装置の光ファイバを用いて光を逐次授受することにより行う。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、光導波路において屈曲試験をはじめとする機械的変位試験におけるダイナミックな伝送損失でも逐次測定できる。また、そのための特別な装置を必要とせず、V溝、光ファイバ、調芯機のみでテストピースを製作できる。
【0027】
これにより、電気配線と同様の手法で、携帯電話などの機械的変位を伴う機器への組み込みを想定した光導波路の試験が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0029】
図1(1)は、本発明による光導波路の試験パターンが形成されたテストピース100を用いる、機械的変位による試験方法を示した説明図である。また、図1(2)は、図1(1)の左側部分を拡大して示した図である。
【0030】
テストピース100は、可撓性の基材110上に、被試験光導波路、つまり試験用パターン1が形成されたものであり、フォトプロセスにて形成可能なコアを用いて、損失が直線時と同程度となる曲率半径にてループ状の曲げ部2および直線部分3が形成されている。ここで、曲げ部2の曲率半径は例えば3ミリで、直線部分3の長さは例えば100ミリである。
【0031】
そして、試験用パターン1の図示左右各側における所定位置には、試験用パターン1の入出射部4に調芯用光導波路の入射部5,5’が、また、入出射部4と対向する面に調芯用光導波路の出射部6,6’が配置されるように、基材110の図示上下各側に、調芯用パターン7,7’が形成されている。
【0032】
この際、全ての曲線部の曲率半径は3ミリとし、調芯用入射部5,5’、試験用パターン1の入出射部4の各々のピッチは0.25ミリとした。また、調芯用出射部6,6’のピッチは、0.5mmとした。
【0033】
そして、調芯用パターン7,7’を調芯された位置におけば、同一基材110の上に所定位置関係で形成された試験パターン1は、自ずと試験をするための適正位置に置かれることになる。
【0034】
このテストピース100は、図示左右両側に配された光源14およびパワーメータ17を有する測定装置にセットされて、光伝送損失特性が測定される。すなわち、測定装置の光源14の側(図示左側)では、マルチモード光ファイバ8,9,10,11を固定するV溝12が、導波路入出射部4のピッチと同じ0.25ミリとなっており、これらファイバ8,9,10,11の端部は、導波路の調芯用入射部5,5’、試験用パターン1の入出射部4と対向している。
【0035】
ファイバ8,9,10,11のテストピース100と反対側の端部には、光コネクタが接続してあり、このうち調芯用入射部5,5’と対向するファイバ8および11は、光源14に接続された光カプラ13と接続している。光カプラ13の代わりに、光スプリッタを用いてもよい。
【0036】
一方、測定装置のパワーメータ17の側(図示右側)には、光導波路の調芯用出射部6,6’に、マルチモード光ファイバ15,15’が調芯用出射部6,6’と対向するように、0.5ミリピッチのV溝16に固定されている。これらファイバ15,15’は、パワーメータ17に接続されている。
【0037】
テストピース100の図示左側にあるV溝12を動かしてファイバ8,9,10,11を移動させ、かつ図示右側にあるV溝16を動かしてファイバ15,15’を介してパワーメータ17にて検出される光量が各々同程度となるように、ファイバ15,15’を移動させて調芯する。
【0038】
この調芯により、試験パターン1の入出射部4と対向するファイバ9,10も調芯される。調芯後、各ファイバ9,10は、UV硬化樹脂などによってテストピース100と固定される。ファイバ15,15’は、調芯が完了した時点で不要となる。
【0039】
調芯が完了したところで、ファイバ8および11を光カプラ13から外し、ファイバ9を光源14に、ファイバ10をパワーメータ17に接続する(あるいは、その逆でもよい)ことで、試験パターン1の光伝送損失測定が可能となる。
【0040】
この測定は、JIS規格,JCPA規格にしたがって種々の機械的変位を伴う形で行う。この際、試験により機械的変位を受けるのは試験パターン1の直線部3のみであり、ファイバ9,10およびファイバ9,10との接続部4は固定されているので、ファイバ9,10の動きによる試験中の損失の変動がない。
【実施例2】
【0041】
図2は、本発明の実施例2を示した説明図である。実施例1と同様に、テストピース100が、試験パターン18および調芯用パターン19,19’を有しており、試験パターン18は複数の曲げ部20を有している。これにより、直線部21の本数が増加し、試験による損失の変動をより顕著に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施例による光導波路の試験方法を示す図。
【図2】本発明の第2の実施例による光導波路の試験における導波路パターンを示す図。
【符号の説明】
【0043】
100 テストピース
110 可撓性基材
1 試験用パターン
2 ループ状の曲げ部
3 直線部分
4 試験用パターン1の入出射部
5,5’ 調芯用光導波路の入射部
6,6’ 調芯用光導波路の出射部
7,7’ 調芯用パターン
8,9,10,11 マルチモード光ファイバ
12 V溝
13 光カプラ
14 光源
15,15’ファイバ
16 V溝
17 パワーメータ
18 試験パターン
19,19’ 調芯用パターン
20 曲げ部
21 直線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に所定の曲率半径のループ状曲げ部を持った被試験光導波路、および前記被試験光導波路と所定の位置関係にあり前記基材を縦断するように配された調芯用光導波路を有するテストピースを用意し、
前記テストピースの前記被試験光導波路に、光ファイバを介して、光を与えかつ取り出す光測定装置を用意し、
前記調芯用導波路を用いて前記光測定装置の前記光ファイバに対して調芯するように前記テストピースの位置決めを行い、
前記被試験光導波路に、前記光測定装置の光ファイバを用いて光を授受することにより光の伝送測定を行う
ことを特徴とする光導波路の試験方法。
【請求項2】
請求項1記載の光導波路の試験方法において、
前記被試験光導波路と前記光ファイバの入出射端とを調芯された状態で固定し、この固定された部分および前記ループ状曲げ部を除く前記光導波路の各箇所に対し機械的変位を伴う形で、光の伝送測定を逐次行うことを特徴とする光導波路の試験方法。
【請求項3】
光源および光パワーメータを有し、前記光源と前記光パワーメータとの間に被試験光導波路を設置して、この被試験光導波路の光伝送損失特性を測定する光導波路の試験に用いる光導波路テストピースにおいて、
基材と、
前記基材の上に形成され、所定の曲率半径のループ状曲げ部を持った被試験光導波路と、
前記被試験光導波路と所定の位置関係にあり、前記基材を縦断するように配された調芯用光導波路と、
を有することを特徴とする光導波路テストピース。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate