説明

光導波路の製法

【課題】オーバークラッド層の形成に、型取り性と透光性とを兼ね備えるとともに寸法ずれが生じない成形型を用いる光導波路の製法を提供する。
【解決手段】オーバークラッド層形成用の成形型Mを、透光性樹脂20Aと透光性支持板Gとを形成材料とし、オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材40を用いて型成形することにより、一体的に作製する。この成形型Mの作製において、上記型部材40の脱離跡が、オーバークラッド層形成用の凹部21に形成される。そして、オーバークラッド層を形成する際には、上記成形型Mの凹部21内に、オーバークラッド層形成用の感光性樹脂を充填し、その感光性樹脂内に、アンダークラッド層の表面にパターン形成されたコアを浸した状態で、上記成形型Mを透して上記感光性樹脂を露光し硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信,光情報処理,位置センサ,その他一般光学技術の分野で広く用いられる光導波路の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光導波路は、通常、アンダークラッド層の表面に、光の通路であるコアを所定パターンに形成し、そのコアを被覆した状態で、オーバークラッド層を形成して構成されている。なかでも、上記オーバークラッド層の端部をレンズ部にする等、オーバークラッド層を所望の形状に形成する場合、その所望の形状に対応する型面を有する凹部が形成された成形型を用いてオーバークラッド層を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、本出願人は、上記オーバークラッド層形成用の成形型として、寸法精度に優れた、透光性のある樹脂製の成形型を提案し既に出願している(特願2010−126714)。この成形型は、つぎのようにして作製される。すなわち、まず、オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を準備し、その型部材を成形型形成用の容器内に設置する。ついで、その容器内に透光性樹脂を充填し硬化させる。そして、それを上記容器から取り出し、上記型部材を脱離させることにより、上記型部材の脱離跡をオーバークラッド層形成用の凹部とする、透光性樹脂製の成形型を得る。
【0004】
上記成形型を用いた光導波路の作製は、つぎのようにして行われる。すなわち、まず、上記成形型の凹部内に、オーバークラッド層形成用の感光性樹脂を充填する。ついで、その感光性樹脂内に、アンダークラッド層の表面に形成したコアを浸し、上記アンダークラッド層を上記成形型に押圧する。つぎに、上記成形型を透して上記感光性樹脂を露光し硬化させてオーバークラッド層に形成する。その後、脱型し、上記アンダークラッド層,コアおよびオーバークラッド層からなる光導波路を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−281654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記透光性樹脂製の成形型を作製する方法において、成形型の壁厚の厚みを薄く形成すると、オーバークラッド層形成時に、その成形型を透して行われる照射線による露光(透光性)が良好になり好ましいが、上記成形型の作製工程において、型部材を脱離させる際に、成形型が破損する(型取り性が悪くなる)傾向がみられる。そこで、成形型の壁厚の厚みを厚く形成すると、今度は、上記型部材を脱離させる際に破損し難くなる(型取り性は向上する)ものの、露光性(透光性)が悪くなり、オーバークラッド層の形成性が悪くなる傾向がみられる。上記透光性樹脂製の成形型は、これらの点で改善の余地がある。
【0007】
また、上記成形型の形成材料として、シリコーン樹脂が賞用されるが、シリコーン樹脂は、硬化した状態でも軟弱であるため、壁厚の厚みを薄くすると、上記型部材を脱離させる際に、より破損し易くなる(型取り性が悪くなる)傾向がみられる。また、壁厚の厚みを厚くしても、シリコーン樹脂の硬化体(シリコーン樹脂製の成形型)は自己吸着性を有しているため、オーバークラッド層を形成する際に、成形型を成形ステージ(成形作業台)の上に設置すると、成形型と成形ステージとの接触むらにより、成形型が引っ張られて変形し、成形型に寸法ずれが生じる傾向がみられる。成形型に寸法ずれが生じると、オーバークラッド層が設計値に形成されず、コアとオーバークラッド層との位置関係にずれが生じる。そのため、コアの先端から出射した光は、オーバークラッド層の端部のレンズ部で適正に絞られず、拡がった状態で、そのレンズ部から出射される。よって、その光を受け取る側の受光強度(光伝播特性)が低下する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、オーバークラッド層の形成に、型取り性と透光性とを兼ね備えるとともに寸法ずれが生じない成形型を用いる光導波路の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の光導波路の製法は、アンダークラッド層の表面にコアをパターン形成した後、オーバークラッド層の形状に対応する型面を有する凹部が形成されている成形型を用い、上記コアを被覆した状態でオーバークラッド層を形成する工程を有する光導波路の製法であって、上記成形型として、下記(A)の成形型を用い、オーバークラッド層の形成を、上記成形型の凹部内に、オーバークラッド層形成用の感光性樹脂を充填し、その感光性樹脂内に、上記コアを浸した状態で、上記成形型を透して上記感光性樹脂を露光し硬化させてオーバークラッド層に形成することにより行うという構成をとる。
(A)オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を成形型形成用の容器内に設置し、その容器内に透光性樹脂を充填し、その透光性樹脂の表面に透光性支持板を接触させ、その状態で、上記透光性樹脂を硬化させ、上記透光性支持板に固着させた後、上記容器から取り出し、上記型部材を脱離させて得られた、上記型部材の脱離跡をオーバークラッド層形成用の凹部とする、上記透光性支持板付き透光性樹脂製の成形型。
【0010】
本発明者は、オーバークラッド層の形成に用いる成形型として、型取り性と透光性とを兼ね備えるとともに寸法ずれが生じないものを作製することを目的として、その成形型の形成材料,作製方法等について研究を重ねた。その過程で、本出願人が既に出願している、透光性樹脂を形成材料とし、オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を用いて型成形する方法に、改良を加えることに着想した。すなわち、オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を成形型形成用の容器内に設置し、その容器内に透光性樹脂を充填した後、その透光性樹脂の表面に透光性支持板を接触させた。そして、その状態で、上記透光性樹脂を硬化させ、上記透光性支持板に固着させた。その後、上記容器から取り出し、上記型部材を脱離させ、上記透光性支持板付き透光性樹脂製の成形型を作製した。
【0011】
その結果、上記成形型は、透光性支持板により、補強された状態になり、透光性樹脂部分の壁厚の厚みを薄く形成しても、上記型部材を脱離させる際に、成形型が破損しなくなる(型取り性に優れる)ことを、本発明者は突き止めた。そして、上記成形型は、壁厚の厚みを薄く形成できることから、透光性(成形型を透した露光性)に優れたものとなることも、本発明者は突き止めた。また、オーバークラッド層を形成する際に、上記成形型を成形ステージ(成形作業台)の上に設置しても、その成形ステージと接触するのは、上記透光性支持板であるため、上記成形型の形成材料である透光性樹脂が、例えシリコーン樹脂であったとしても、成形型と成形ステージとの接触むらにより、成形型に寸法ずれが生じることがないことを、本発明者は見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光導波路の製法では、オーバークラッド層形成用の成形型の作製を、透光性樹脂と透光性支持板とを形成材料とし、オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を用いて型成形することにより、上記透光性樹脂を硬化させ、上記透光性支持板に固着させて行っている。そのため、上記成形型は、透光性支持板により、補強された状態となり、上記型部材を脱離させる際の型取り性に優れているとともに、壁厚の厚みを薄く形成して透光性に優れたものとすることができる。また、オーバークラッド層を形成する工程では、上記成形型の透光性支持板を成形ステージに接触させることができるため、上記成形型の形成材料である透光性樹脂が、たとえシリコーン樹脂であったとしても、成形型と成形ステージとの接触むらにより、成形型に寸法ずれが生じることがない。そして、上記成形型の優れた透光性により、成形型を透した、オーバークラッド層形成用の感光性樹脂への露光性が良好となることと、上記成形型に寸法ずれが生じないこととが相俟って、オーバークラッド層の形成性が良好となる。
【0013】
特に、上記透光性支持板が、石英ガラス板である場合には、成形型の作製工程において、透光性樹脂の表面に透光性支持板を接触させた後に、透光性樹脂を加熱することができる。そのため、上記透光性樹脂の硬化速度を速めることができ、生産性が向上する。なお、上記石英ガラス板がない状態で、透光性樹脂を加熱すると、その透光性樹脂の表面が波打ち、また、上記透光性支持板が石英ガラス以外の材料であると、加熱により弊害が起こり、いずれも、適正な成形型を作製することができない。
【0014】
また、上記コアの先端部を被覆するオーバークラッド層部分に対応する、上記成形型の凹部の型面部分がレンズ曲面に形成されている場合には、コアの先端部を被覆するオーバークラッド層部分をレンズ部に形成した光導波路を得ることができる。そして、その光導波路では、コアの先端部から出射する光を、上記オーバークラッド層のレンズ部の屈折作用により、発散を抑制した状態で出射することができる。また、上記オーバークラッド層のレンズ部の表面から入射した光を、上記レンズ部の屈折作用により、絞って収束させた状態でコアの先端部に入射させることができる。すなわち、得られた上記光導波路は、光伝播特性に優れたものとなっている。
【0015】
そして、上記成形型の形成材料である透光性樹脂が、シリコーン樹脂を含んでいる場合には、上記成形型を、より寸法精度に優れたものとすることができ、より光伝播特性に優れた光導波路を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の光導波路の製法の一実施の形態において用いられる、オーバークラッド層形成用の成形型の製法を模式的に示す説明図である。
【図2】(a)〜(d)は、上記成形型を用いた光導波路の製法を模式的に示す説明図である。
【図3】上記製法により得られた光導波路を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0018】
本発明の光導波路の製法の一実施の形態では、オーバークラッド層3〔図2(d)参照〕を形成する際に、透光性樹脂の硬化体20が透光性支持板Gに固着されてなる成形型Mを用いる。この成形型Mは、透光性樹脂と透光性支持板Gとを形成材料とし、オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を用いて型成形することにより、上記透光性樹脂を硬化させ、上記透光性支持板Gに固着させて作製したものである。すなわち、この成形型Mは、上記透光性支持板Gにより、補強された状態となるため、上記型部材を脱離させる際の型取り性に優れているとともに、透光性樹脂の硬化体20の壁厚を薄く形成して透光性に優れたものとすることができる。このような成形型Mを作製し、その成形型Mを用いてオーバークラッド層3を形成することが、本発明の大きな特徴である。
【0019】
なお、この実施の形態では、上記成形型M〔図2(c)参照〕は、上記透光性樹脂の硬化体20の下面に、上記透光性支持板Gが固着され、上記透光性樹脂の硬化体20の上面に、上記オーバークラッド層3の形状に対応する型面を有する凹部21が2個形成されており、各凹部21の一端部分〔図2(c)では左端部分〕が、レンズ曲面21aに形成されている。
【0020】
上記成形型Mの製法について詳しく説明する。
【0021】
まず、図1(a)に示すように、オーバークラッド層3(図3参照)の形状と同一形状の型部材40を、台部材41の上面に突出させた状態で作製する。上記型部材40の作製は、例えば、板状の部材を、刃物を用いて切削することにより行われる。また、上記型部材40の形成材料としては、例えば、アルミニウム,ステンレス,鉄等があげられる。なかでも、加工性の観点から、アルミニウムが好ましい。
【0022】
ついで、図1(b)に示すように、上記型部材40を、成形型形成用の容器30内に設置する。このとき、図示のように、上記型部材40を上側、台部材41を下側にした状態で、上記容器30の底に設置することが好ましい。また、上記容器30の内面,上記型部材40および台部材41の表面に、離型剤を塗布することが好ましい。
【0023】
つぎに、図示のように、上記型部材40全体が浸かるまで、上記容器30内に液状の透光性樹脂20Aを充填する。この透光性樹脂20Aとしては、例えば、シロキサン樹脂,アクリル樹脂,エポキシ樹脂等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、成形型Mをより寸法精度に優れたものとすることができる観点から、シリコーン樹脂を含んでいることが好ましい。
【0024】
そして、充填した上記透光性樹脂20Aの表面に、透光性支持板Gを接触させ、また、その透光性樹脂20Aを硬化させる。上記透光性支持板Gの接触は、上記透光性樹脂20Aを上記容器30内に充填した直後でもよいし、しばらく時間を経て上記透光性樹脂20Aが少し硬化した後でもよい。好ましくは、その硬化程度が上記透光性支持板Gの接触にとって適正な約2日後である。また、上記透光性樹脂20Aの硬化は、透光性樹脂20Aおよび透光性支持板Gの種類に応じて、常温下,加熱下またはその組み合わせにより行われる。
【0025】
ここで、上記透光性支持板Gの形成材料としては、例えば、石英ガラス,青板ガラス,ポリカーボネート,アクリル等があげられ、なかでも、上記透光性樹脂20Aの表面に透光性支持板Gを接触させた後に、その透光性樹脂20Aを加熱することができる観点から、石英ガラスが好ましい。透光性樹脂20Aを加熱すると、その透光性樹脂20Aの硬化速度を速めることができ、生産性を向上させることができる。なお、上記透光性支持板Gの厚みは、成形型M〔図1(c)参照〕の補強性,つぎの工程における型部材40を脱離させる際の型取り性,オーバークラッド層3〔図2(d)参照〕を形成する際の露光性(透光性)の観点から、通常、0.5〜5.0mmの範囲内に設定される。
【0026】
その後、上記硬化した透光性樹脂を上記透光性支持板Gに固着させた状態で、上記型部材40および台部材41とともに、上記容器30から取り出す。そして、上記型部材40および台部材41を脱離させる。上記型部材40の脱離跡は、オーバークラッド層3〔図2(d)参照〕の形状に対応する型面を有する凹部21〔図1(c)参照〕となる。また、上記硬化した透光性樹脂のうち、台部材41の周側部分に対応する部分(不要部分)を切除するとともに、その切除部分に対応する上記透光性支持板Gの部分(図示の両端部分)も削除する。このようにして、図1(c)〔図1(b)とは上下を逆に図示している〕に示すような、透光性樹脂の硬化体20と透光性支持板Gとからなる上記成形型Mを得る。
【0027】
ここで、上記型部材40の脱離の際、上記成形型Mは、透光性支持板Gにより補強された状態にあることから、上記凹部21に損傷がなく、型取り性に優れている。また、上記透光性支持板Gによる補強により、透光性樹脂の硬化体20の壁厚を、薄く形成することができ、例えば、上記凹部21の底面と透光性支持板Gの上面との間の部分の厚み(壁厚)Tは、上記型取り性,露光性(透光性)等の観点から、0.5〜5.0mmの範囲内に設定することが好ましい。
【0028】
つぎに、光導波路の製法について詳しく説明する。
【0029】
まず、アンダークラッド層1を形成する際に用いる平板状の基台10〔図2(a)参照〕を準備する。この基台10の形成材料としては、例えば、金属,樹脂,ガラス,石英,シリコン等があげられる。なかでも、ステンレス(SUS)製基板が好ましい。ステンレス製基板は、熱に対する伸縮耐性に優れ、上記光導波路の製造過程において、様々な寸法が設計値に略維持されるからである。また、基台10の厚みは、例えば、20μm(フィルム状)〜5mm(板状)の範囲内に設定される。
【0030】
ついで、図2(a)に示すように、上記基台10の表面に、アンダークラッド層1を形成する。このアンダークラッド層1の形成材料としては、熱硬化性樹脂または感光性樹脂があげられる。上記熱硬化性樹脂を用いる場合は、その熱硬化性樹脂が溶媒に溶解しているワニスを塗布した後、それを加熱することにより、アンダークラッド層1に形成する。一方、上記感光性樹脂を用いる場合は、その感光性樹脂が溶媒に溶解しているワニスを塗布した後、それを紫外線等の照射線で露光することにより、アンダークラッド層1に形成する。アンダークラッド層1の厚みは、例えば、5〜50μmの範囲内に設定される。
【0031】
つぎに、図2(b)に示すように、上記アンダークラッド層1の表面に、フォトリソグラフィ法により所定パターンのコア2を形成する。このコア2の形成材料としては、好ましくは、パターニング性に優れた感光性樹脂が用いられる。その感光性樹脂としては、例えば、アクリル系紫外線硬化樹脂,エポキシ系紫外線硬化樹脂,シロキサン系紫外線硬化樹脂,ノルボルネン系紫外線硬化樹脂,ポリイミド系紫外線硬化樹脂等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、コア2の断面形状は、例えば、パターニング性に優れた台形または長方形である。コア2の幅は、例えば、10〜500μmの範囲内に設定される。コア2の厚み(高さ)は、例えば、25〜100μmの範囲内に設定される。
【0032】
なお、上記コア2の形成材料としては、上記アンダークラッド層1および下記オーバークラッド層3(図3参照)の形成材料よりも屈折率が高く、伝播する光の波長で透光性が高い材料が用いられる。上記屈折率の調整は、上記アンダークラッド層1,コア2,オーバークラッド層3の各形成材料である樹脂に導入する有機基の種類および含有量の少なくとも一方を変化させることにより、適宜、増加ないし減少させることができる。例えば、環状芳香族性の基(フェニル基等)を樹脂分子中に導入するか、あるいはその芳香族性基の樹脂分子中の含有量を増加させることにより、屈折率を大きくすることができる。他方、直鎖または環状脂肪族性の基(メチル基,ノルボルネン基等)を樹脂分子中に導入するか、あるいはその脂肪族性基の樹脂分子中の含有量を増加させることにより、屈折率を小さくすることができる。
【0033】
そして、図2(c)に示すように、前記の工程で作製した、上記オーバークラッド層形成用の成形型Mを、その凹部21を上にして、成形ステージ(図示せず)の上に設置し、その凹部21に、オーバークラッド層3〔図2(d)参照〕の形成材料である液状の感光性樹脂3Aを充填する。
【0034】
ついで、図2(d)に示すように、上記オーバークラッド層3の形成材料である感光性樹脂3A内に、上記アンダークラッド層1の表面にパターン形成されたコア2を浸した状態で、そのコア2を成形型Mの凹部21に対して位置決めし、上記アンダークラッド層1を上記成形型Mに押圧する。このときの押圧荷重は、例えば、49〜980Nの範囲内に設定される。ここで、上記成形型Mの凹部21の形成部分は、樹脂製であることから、耐圧性のあるものとなっている。そのため、上記のようにアンダークラッド層1を成形型Mに押圧して密着させることができ、ばりの形成を防止することができる。
【0035】
つぎに、紫外線等の照射線を、上記成形型Mを透して上記感光性樹脂3Aに照射することにより、その感光性樹脂3Aを露光する。これにより、上記感光性樹脂3Aが硬化し、一端部分がレンズ部3aに形成されたオーバークラッド層3が形成される。このオーバークラッド層3の厚み(アンダークラッド層1の表面からの厚み)は、例えば、25〜1500μmの範囲内に設定される。ここで、上記成形型Mは、上記透光性支持板Gによる補強により、透光性樹脂の硬化体20の壁厚を、薄く形成することができるため、上記成形型Mを透した露光性を良好にし、オーバークラッド層3の形成性を良好にすることができる。
【0036】
そして、上記成形型Mから、上記オーバークラッド層3を、上記基台10,アンダークラッド層1およびコア2と共に脱型し、図3〔図2(d)とは上下を逆に図示している〕に示すように、基台10の表面に形成された、アンダークラッド層1とコア2とオーバークラッド層3とからなる光導波路を得る。この実施の形態では、2個の光導波路が形成されており、光導波路を使用する際には、個々が切り出される。
【0037】
なお、上記オーバークラッド層3の脱型前または脱型後に、必要に応じて、加熱処理を行う。また、上記基台10は、必要に応じて、アンダークラッド層1から剥離される。
【0038】
上記光導波路は、例えば、L字板状に形成することにより、タッチパネルにおける指等の触れ位置の検知手段(位置センサ)として用いることができる。すなわち、上記L字板状の光導波路において、複数のコア2を、上記L字板状の角部から内側端縁部に、等間隔に並列状態で延びたパターンに形成する。このようなL字板状の光導波路を2個作製する。そして、一方の光導波路の角部の外側に、発光素子を光結合し、他方の光導波路の角部の外側に、受光素子を光結合する。そして、それら光導波路を、タッチパネルの四角形のディスプレイの画面周縁部に沿って設置すると、タッチパネルにおける指等の触れ位置の検知手段として用いることができる。
【0039】
なお、上記実施の形態では、オーバークラッド層3の一端部分をレンズ部3aに形成したが、他端部分と同様に平面状に形成してもよい。
【0040】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるわけではない。
【実施例】
【0041】
〔アンダークラッド層の形成材料〕
脂環骨格を有するエポキシ樹脂(アデカ社製、EP4080E)100重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200K)2重量部、紫外線吸収剤(チバジャパン社製、TINUVIN479)5重量部を混合することにより、アンダークラッド層の形成材料を調製した。
【0042】
〔コアの形成材料〕
フルオレン骨格を含むエポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製、オグソールEG)40重量部、フルオレン骨格を含むエポキシ樹脂(ナガセケムテックス社製、EX−1040)30重量部、1,3,3−トリス{4−〔2−(3−オキセタニル)〕ブトキシフェニル}ブタン30重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200K)1重量部を、乳酸エチルに溶解することにより、コアの形成材料を調製した。
【0043】
〔オーバークラッド層の形成材料〕
脂環骨格を有するエポキシ樹脂(アデカ社製、EP4080E)100重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200K)2重量部を混合することにより、オーバークラッド層の形成材料を調製した。
【0044】
〔オーバークラッド層形成用の成形型の作製〕
まず、アルミニウム板を、刃物を回転させて切削することにより、オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を、台部材の上面に突出させた状態で作製した。
【0045】
ついで、上記型部材を上側、台部材を下側にした状態で、成形型形成用の容器の底に設置した。なお、その設置に先立って、上記容器の内面,上記型部材および台部材の表面に、離型剤を塗布した。
【0046】
つぎに、上記容器内に、透光性樹脂(信越化学工業社製、ポリジメチルシロキサンSIM−260)を充填し、上記型部材の上端面から上記透光性樹脂の液面までの深さを1mmにした。そして、常温(25℃)で2日間放置し、少し硬化させた後、上記透光性樹脂の表面全体に、石英ガラス板(厚み3mm)を接触させ、その状態で、150℃×30分間の加熱処理を行うことにより、上記透光性樹脂を完全に硬化させた。
【0047】
その後、上記硬化した透光性樹脂を上記石英ガラス板に固着させた状態で、上記型部材および台部材とともに、上記容器から取り出した後、上記型部材および台部材を脱離させ、さらに、不要部分を切除した。このようにして、透光性樹脂の硬化体と石英ガラス板とからなる、オーバークラッド層形成用の成形型を得た。この成形型において、オーバークラッド層形成用の凹部の一端部分は、側断面形状が略1/4円弧状のレンズ曲面(曲率半径1.4mm)に形成した。また、オーバークラッド層形成用の凹部の底面と石英ガラス板の上面との間の部分の厚みは、1mmであった。
【0048】
〔光導波路の製造〕
まず、ステンレス製基台(厚み50μm)の表面に、上記アンダークラッド層の形成材料をアプリケーターにより塗布した。つづいて、1500mJ/cm2 の紫外線照射による露光を行った後、80℃×5分間の加熱処理を行うことにより、厚み20μmのアンダークラッド層(波長830nmにおける屈折率=1.510)を形成した。
【0049】
つぎに、上記アンダークラッド層の表面に、上記コアの形成材料をアプリケーターにより塗布した後、100℃×5分間の加熱処理を行い、感光性樹脂層を形成した。つぎに、コアのパターンと同形状の開口パターンが形成されたフォトマスクを介して(ギャップ100μm)、2500mJ/cm2 の紫外線照射による露光を行った後、100℃×10分間の加熱処理を行った。つぎに、γ−ブチロラクトン水溶液を用いて現像することにより、未露光部分を溶解除去した後、120℃×5分間の加熱処理を行うことにより、幅20μm、高さ50μmの断面長方形のコア(波長830nmにおける屈折率=1.592)をパターン形成した。
【0050】
そして、上記オーバークラッド層形成用の成形型を、その凹部を上にして、成形ステージ上に設置し、その凹部に、上記オーバークラッド層の形成材料を充填した。
【0051】
ついで、上記オーバークラッド層の形成材料内に、上記アンダークラッド層の表面にパターン形成されたコアを浸した状態で、上記コアを成形型の凹部に対して位置決めし、上記アンダークラッド層を上記成形型に押圧した(押圧荷重196N)。
【0052】
つぎに、上記成形型を透して、5000mJ/cm2 の紫外線照射による露光を行うことにより、一端部分がレンズ部〔側断面形状が略1/4円弧状の凸レンズ部(曲率半径1.4mm)〕に形成された、コアの頂面からの厚み950μmのオーバークラッド層(波長830nmにおける屈折率=1.510)を形成した。
【0053】
そして、上記成形型から、上記オーバークラッド層を、上記ステンレス製基台,アンダークラッド層およびコアと共に脱型し、ステンレス製基台の表面に形成された、アンダークラッド層とコアとオーバークラッド層とからなる光導波路を得た。
【0054】
〔比較例〕
上記実施例において、オーバークラッド層形成用の成形型として、石英ガラス板がないものを用いた。すなわち、この成形型の作製は、上記実施例の成形型の作製において、上記実施例と同様にして、成形型形成用の容器に、透光性樹脂を充填した後、そのまま、常温(25℃)で5日間放置し、殆ど硬化させ、その後、150℃×30分間の加熱処理を行うことにより、上記透光性樹脂を完全に硬化させた。そして、その硬化した透光性樹脂を、型部材および台部材とともに、上記容器から取り出した後、上記型部材および台部材を脱離させ、さらに、不要部分を切除した。このようにして、透光性樹脂からなる、オーバークラッド層形成用の成形型を得た。この成形型において、オーバークラッド層形成用の凹部の底面と成形型の下面との間の部分の厚みは、1mmであった。なお、この成形型の作製では、上記型部材および台部材の脱離の際に、オーバークラッド層形成用の凹部に損傷が生じた。
【0055】
そして、上記透光性樹脂からなる成形型を用いて、上記実施例と同様にして、光導波路を得た。
【0056】
〔受光強度の測定〕
上記実施例および比較例の光導波路をそれぞれ2個ずつ作製し、一方の光導波路の他端部(レンズ部が形成されていない端部)に発光素子(オプトウェル社製、VCSEL)を光結合し、他方の光導波路の他端部に受光素子(TAOS社製、CMOSリニアセンサーアレイ)を光結合した。そして、それら2個の光導波路を、座標入力領域(対角サイズ76.2mm)を挟んで、レンズ部が対向するように配置した。この状態で、上記発光素子から強度5.0mWの光を出射し、上記受光素子での受光強度を測定した。その結果、受光強度は、実施例の光導波路を用いた場合は0.8mW、比較例の光導波路を用いた場合は0.3mWであった。
【0057】
上記結果から、実施例の光導波路が、比較例の光導波路よりも、光伝播特性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光導波路の製法は、光通信,光情報処理,タッチパネルにおける指等の触れ位置の検知手段(位置センサ)等に用いられる光導波路の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
M 成形型
G 透光性支持板
20A 透光性樹脂
21 凹部
40 型部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンダークラッド層の表面にコアをパターン形成した後、オーバークラッド層の形状に対応する型面を有する凹部が形成されている成形型を用い、上記コアを被覆した状態でオーバークラッド層を形成する工程を有する光導波路の製法であって、上記成形型として、下記(A)の成形型を用い、オーバークラッド層の形成を、上記成形型の凹部内に、オーバークラッド層形成用の感光性樹脂を充填し、その感光性樹脂内に、上記コアを浸した状態で、上記成形型を透して上記感光性樹脂を露光し硬化させてオーバークラッド層に形成することにより行うことを特徴とする光導波路の製法。
(A)オーバークラッド層の形状と同一形状の型部材を成形型形成用の容器内に設置し、その容器内に透光性樹脂を充填し、その透光性樹脂の表面に透光性支持板を接触させ、その状態で、上記透光性樹脂を硬化させ、上記透光性支持板に固着させた後、上記容器から取り出し、上記型部材を脱離させて得られた、上記型部材の脱離跡をオーバークラッド層形成用の凹部とする、上記透光性支持板付き透光性樹脂製の成形型。
【請求項2】
上記透光性支持板が、石英ガラス板である請求項1記載の光導波路の製法。
【請求項3】
上記コアの先端部を被覆するオーバークラッド層部分に対応する、上記成形型の凹部の型面部分がレンズ曲面に形成されている請求項1または2記載の光導波路の製法。
【請求項4】
上記成形型の形成材料である透光性樹脂が、シリコーン樹脂を含んでいる請求項1〜3のいずれか一項に記載の光導波路の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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