説明

光導電素子及びこれを用いた撮像デバイス、並びに導電膜付き基板の製造方法

【課題】本発明は、画面欠陥を抑制することができる光導電素子及びその製造方法、撮像デバイス及びその製造方法、並びに導電膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】透光性基板10と、該透光性基板の上に形成された酸化インジウムを主成分とする導電膜20と、該導電膜上に正孔注入阻止層31を介して形成された光導電膜32とを含む光導電素子40であって、
前記導電膜は、1μm×1μmの領域における算術平均粗さが0.15nm以下の平坦度を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導電素子及びこれを用いた撮像デバイス、並びに導電膜付き基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セレン系非晶質半導体からなる光導電膜に、約1×10〔V/m〕以上の高電界を印加すると、内部でアバランシェ増倍現象が起きることが知られており、この現象を利用した高感度撮像管が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
かかる光導電膜を利用した撮像装置としては、透光性の基板上に下から順に透光性電極、正孔注入阻止層、光導電膜及び電子注入阻止層が形成された受光素子を有する撮像装置が知られている。また、これらの撮像装置で作製後に初期的に発生する画面欠陥、又は長期使用後に発生する画面欠陥を改善する方法としては、例えば、透光性基板の表面をイオンエッチング処理し、その後に透光性電極を形成するようにした撮像装置及び受光素子の製造方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−192177号公報
【特許文献2】特開平7−105865号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「X線用HARP撮像管」、テレビジョン学会全国大会講演予稿集、15〜16頁、1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1、2に記載の撮像装置においては、光導電膜が非晶質であるため、結晶化や体積収縮等の経時変化を起こし、画面欠陥を生じ易いという問題があった。かかる非晶質の光導電膜は、基板側界面で一部が結晶化を起こし、結晶化による電気特性や光学特性の変化により画面欠陥を生じる。また、非晶質導電膜の体積収縮は、光導電膜や、光導電膜上にキャリアの注入を阻止する目的で形成された正孔注入阻止層又は電子注入阻止層にクラックを発生させ、やはり画面欠陥を生じるという問題があった。このように、従来の光導電膜に非晶質半導体を用いた撮像装置では、初期段階及び長期間使用後に画面欠陥を生じ易く、良質な画質を必ずしも十分に維持できないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、画面欠陥を抑制することができる光導電素子及びこれを用いた撮像デバイス、並びに導電膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る光導電素子は、透光性基板と、該透光性基板の上に形成された導電膜と、該導電膜上に正孔注入阻止層を介して形成された光導電膜とを含む光導電素子であって、
前記導電膜は、算術平均粗さが0.15nm以下の平坦度を有することを特徴とする。
【0009】
これにより、導電膜の平坦度の低さに起因する光導電膜の長期使用により生じる欠陥を抑制することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明に係る光導電素子において、
前記導電膜は、結晶化していて膜厚が5〜6nmであることを特徴とする。
【0011】
これにより、導電膜の平坦度を向上させることができ、光導電膜の結晶核の発生を抑制し、長期使用による欠陥の発生を低減させることができる。
【0012】
第3の発明は、第2の発明に係る光導電素子において、
前記導電膜は、酸化インジウムを主成分とし、酸化スズを5〜15重量%含有することを特徴とする。
【0013】
これにより、導電膜を薄い膜厚で構成しても、シート抵抗を低減させ、良好な電気伝導度を保つことができる。
【0014】
第4の発明に係る撮像デバイスは、第1〜3のいずれかの発明に係る光導電素子と、
電子ビーム発生手段と、
電荷読み出し手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
これにより、撮像デバイスの長期使用により生じる画面欠陥を抑制することができる。
【0016】
第5の発明に係る導電膜付き基板の製造方法は、透光性基板上に導電膜が形成された導電膜付き基板の製造方法であって、
酸化インジウムが主成分であり、スズを5〜15%含有する金属材料をターゲットとし、前記透光性基板の温度を300℃以上に保った状態で、スパッタ蒸着法により、前記透光性基板上に、膜厚を5〜6nmの厚さで導電膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【0017】
これにより、薄く構成され、十分な平坦度を有するとともに、十分な電気伝導度の導電膜を有する基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、平坦度の高い導電膜を形成することができ、光導電膜として初期段階の欠陥を抑制でき、使用された場合の光導電膜の長期使用耐性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る撮像デバイスの断面図の一例を示した図である。
【図2】本実施形態に係る光導電素子40の一例を示した詳細拡大断面図である。
【図3A】本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の透光性基板用意工程の一例を示した図である。
【図3B】本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の導電膜形成工程の一例を示した図である。
【図3C】本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の正孔注入阻止層形成工程の一例を示した図である。
【図3D】本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の光導電膜形成工程の一例を示した図である。
【図3E】本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の電子注入阻止層形成工程の一例を示した図である。
【図4】スパッタ蒸着法による導電膜形成工程の一例を示した図である。
【図5】本実施形態の導電膜20のシート抵抗の膜厚依存性を示した図である。
【図6】本実施形態の導電膜20の算術平均粗さRaの膜厚依存性を示した図である。
【図7】本実施形態の導電膜20のシート抵抗のSnO濃度依存性を示した図である。
【図8】本実施形態の導電膜20の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図である。図8(A)は、比較例として従来技術による導電膜の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図である。図8(B)は、本実施形態の導電膜20の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図である。
【図9】本実施形態の正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図である。図9(A)は、比較例として従来技術による正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図である。図9(B)は、本実施形態の正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図である。
【図10】本実施形態に係る撮像デバイスを用いて撮像した画像を示した図である。図10(A)は、比較例として従来技術による撮像デバイスを用いて撮像した画像を示した図である。図10(B)は、本実施形態に係る撮像デバイスを用いて撮像した画像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る撮像デバイスの断面図の一例を示した図である。図1において、本実施形態に係る撮像デバイスは、光導電素子40と、電荷読み出し手段50と、インジウムリング60と、電子ビーム発生手段70と、偏向手段80と、メッシュ電極90と、ガラス管100とを備える。
【0022】
光導電素子40は、光を受光して、受光した光に応じた電気信号を出力する素子である。撮像デバイス100においては、光導電素子40は、受光素子として機能する。透光性基板10と、電荷読み出しピン11と、導電膜20と、光導電膜ユニット30とを備える。透光性基板10で光を受光し、受光した光は、光導電膜ユニット30で受光量に応じた量の電子正孔対に変換される。このうち、正孔が導電膜20と反対方向に走行し、信号電荷となる。光導電膜ユニット30に蓄積された信号電荷は、光導電膜ユニット30に電子ビームが照射されることにより、蓄積された信号電荷に応じた電流が電荷読み出しピン11を介して流れ、外部に設けられた電荷読み出し手段50により読み取られる。これにより、受光した光に応じた大きさの電気信号が得られることになる。なお、光導電素子40の詳細な構成については、後述する。
【0023】
インジウムリング50は、ガラス管90をシールするとともに、光導電素子40を、ガラス管90に固定支持するためのシール支持部材である。電子ビーム発生手段70は、電子ビームEBを発生する手段であり、電子銃等のビーム源が用いられる。偏向手段80は、電子ビーム発生手段70で発生した電子ビームEBを偏向させ、ターゲットである光導電ユニット30の所望の照射位置に導く手段である。メッシュ電極90は、電子ビームEBが光導電膜ユニット30に照射されるときのランディングエネルギー等を調整する手段である。ガラス管100は、撮像管の外形を形成する透過性を有するガラス製の管である。ガラス管100の内部は、インジウムリング60でシールされて真空封止されている。
【0024】
このように、本実施形態に係る撮像デバイスにおいては、光導電素子40で撮像を行い、電子ビーム発生手段70で発生させた電子ビームを光導電素子40に照射し、撮像した電気信号を読み取るという動作を行う。なお、図1においては、撮像管の形式の撮像デバイスを示したが、光導電素子40が用いられていれば、撮像デバイスの形式は、種々の形式で構成してよい。
【0025】
図2は、本実施形態に係る光導電素子40の一例を示した詳細拡大断面図である。図2において、本実施形態に係る光導電素子40は、透光性基板10と、電荷読み出しピン11と、導電膜20と、光導電膜ユニット30とを備える。光導電膜ユニット30は、正孔注入阻止層31と、光導電膜32と、電子注入阻止層33とを備える。
【0026】
透光性基板10は、光を透過させる基板であり、光が透過する基板であれば、種々の材料から構成された基板が用いられ得る。透光性基板10は、例えば、ガラス基板が用いられてもよいし、透光性樹脂基板や、オプティカルファイバープレートが用いられてもよい。また、X線に対する透過率が高いベリリウム(Be)、結晶シリコン(Si)、又は窒化ホウ素(BN)等の薄板等を用いれば、X線用撮像デバイスの暗電流を低減することも可能である。
【0027】
電荷読み出しピン11は、図1において説明したように、光導電膜ユニット30に蓄積された信号電荷を読み出すための導通ピンである。電荷読み出しピン11は、導電性を有するピンであればよく、例えば、金属製のピンが用いられてもよい。電荷読み出しピン11は、透光性基板10を貫通し、導電膜20に接触するように設けられる。つまり、光導電膜ユニット30内の蓄積電荷を、導電膜20を介して読み出す。
【0028】
導電膜20は、光導電膜ユニット30の下地となる膜であり、光導電膜ユニット30に蓄積された信号電荷に応じた電流を電荷読み出しピン11を介して外部に流す役割を果たす。本実施形態に係る光導電素子40及び撮像デバイスにおいては、導電膜20は極めて高い平坦度を有し、縦1μm×横1μmの領域内で、算術平均粗さRaが0.15nm以下である。これにより、光導電膜ユニット30の長時間使用による劣化を大きく低減させることができる。
【0029】
光導電膜32にセレン系非晶質半導体を用いた光導電型撮像デバイスについて、本願の発明者等が発生する画面欠陥を調査した結果、非晶質光導電膜の結晶化は、基板界面に存在する突起等が結晶核となり、非晶質光導電膜の結晶化を引き起こすことが主な原因であることを見出した。よって、導電膜20の基板と反対側界面の平坦度を高くすることで、上述の結晶核を減少させることができ、非晶質光導電膜の結晶化に起因する画面欠陥を大きく減少させることができる。特に、導電膜20の平坦性を極めて高くすることで、正孔注入阻止層31の形成後の平坦性も大きく向上させることができ、その結果、上述の結晶核が減少し、非晶質光導電膜の結晶化を抑制する等の効果により、初期段階においても長期間経過後においても、画面欠陥を抑制することができる。
【0030】
導電膜20の膜厚は、例えば、5〜6nmの範囲内であってよい。導電膜20の膜厚は、薄ければ薄い程平坦度を高めることができるが、あまりに薄くすると、シート抵抗が高くなり、導電性が低くなってしまう。よって、本実施形態に係る光導電素子40においては、シート抵抗が高くならない範囲で膜厚を可能な限り薄くし、5〜6nmとしている。
【0031】
導電膜20は、種々の成分構成をとり得るが、例えば、酸化インジウムを主成分とし、スズを5〜15重量%含有する成分構成であってもよい。酸化インジウムスズ(ITO、Indium Tin Oxide)は、透明電極として広く用いられているが、本実施形態に係る光導電素子40においては、スズの割合を通常の5%より割合を高くしている。このスズの含有割合を高くした比率により、導電膜20を薄く構成しても、シート抵抗の増加を抑制することができる。なお、スズの含有割合は、5〜15重量%の範囲内であることが好ましく、7〜13重量%の範囲内であればより好ましく、9〜11重量%、つまり10重量%前後の値であれば更に好ましい。
【0032】
また、導電膜20は、ITO以外にも、IZO、ZnO、AZO、SnO又は酸化チタン(TiO)系の金属材料で構成されてもよい。これらの金属材料を用いても、膜厚を薄くすることにより、平坦度を高めることができる。
【0033】
なお、上述の導電膜20の膜厚は、導電膜20の材料を、例えば上述のような金属材料に変更することにより、更に薄くできたり、また厚くしても十分に高い平坦度を得ることがあり得るので、4〜7nmの範囲、又は3〜8nmの範囲であってもよい。
【0034】
導電膜20は、結晶化された導電膜20が用いられてよい。一般的には、非晶質の導電膜20の方が平坦度は高いが、シート抵抗が高くなるため、膜厚10nm以下には薄くできない。一方、結晶化された導電膜を用いてその膜厚を5〜6nmとすると、従来のITOよりも平坦度はきわめて高くなることが発明者等により確認されている。これにより、十分な平坦度を得ることができるとともに、後に結晶化して平坦度を損ねる確率を減少させることができる。
【0035】
正孔注入阻止層31は、光導電膜32への正孔の注入を阻止するための層である。これにより、光導電膜32で発生した信号電荷の電荷量が、外部から正孔が注入されて変化することを防ぐことができる。正孔注入阻止層31は、導電膜20の上に形成されるが、導電膜20が高い平坦度を有するため、正孔注入阻止層31も高い平坦度を有することが可能となる。
【0036】
光導電膜32は、光の受光により、光量に応じた電気信号を発生させるとともに、電気信号を増幅する機能を有する膜である。光導電膜32は、非晶質系材料により構成され、例えば、セレン(Se)を主成分とする非晶質系材料から構成されてもよい。光導電膜32が、セレンを主成分として構成される場合には、光の受光により、正電荷が発生し、キャリアは正孔となる。なお、本実施形態に係る光導電素子40及び撮像デバイスにおいては、光導電膜32を、セレンを主成分として構成した例を挙げて説明するが、他の非晶質系材料から構成されてもよい。セレンを主成分として構成した光導電膜32は、光の照射により電子なだれ現象を生じ、電子が倍増されて発生し、高感度の光導電素子40及び撮像デバイスとして構成することが可能である。
【0037】
光導電膜32は、正孔注入阻止層31を介して、導電膜20の上に形成される。平坦性の高い導電膜20を用いることにより、正孔注入阻止層31も平坦となり、光導電膜32の平坦性も向上する。よって、光導電膜32に結晶核が発生し難い構成となっており、光導電膜32の初期段階及び長期使用後の画像欠陥を低減させることができる。
【0038】
電子注入阻止層33は、電子の光導電膜32への注入を阻止する層であり、電子カットフィルタとしての役割を果たす。これにより、電子ビームEB以外の電子が光導電膜32に注入されることを防ぐことができる。なお、電子注入阻止層33は、電子ビーム発生手段70からの電子ビームEBの照射を受けるので、電子ビームランディング層33と呼んでもよい。
【0039】
このように、本実施形態に係る光導電素子40は、導電膜20の平坦性が高く、縦1μm×1μmの面積で算術平均粗さRaが0.15nm以下で構成されているので、正孔注入素子層31及び光導電膜32の平坦性を向上させることができる。これにより、光導電膜32の初期段階及び長期使用後に結晶核が発生するのを防ぐことができ、光導電素子40を撮像デバイスとして用いた場合の初期段階及び長期使用後における画面欠陥を低減させることができる。
【0040】
次に、図3A〜図3Eを用いて、本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の一例について説明する。図3A〜図3Eは、本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の一連の工程の一例を示した図である。
【0041】
図3Aは、本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の透光性基板用意工程の一例を示した図である。透光性基板用意工程においては、光導電素子40を形成する透光性基板10が用意される。透光性基板10は、上述のように、ガラス基板以外にも、種々の透光性を有する基板が用いられてよい。また、電荷読み出し電極11は、透光性基板10に既に形成されていてもよいし、光導電素子40を製造してから最後に形成してもよいが、本実施形態においては、最初から電荷読み出し電極11が透光性基板10に設けられている例を挙げて説明する。よって、透光性基板10を載置する載置台は、電荷読み出し電極11用の穴が開いている載置台を用いるようにしてよい(図示せず)。
【0042】
図3Bは、本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の導電膜形成工程の一例を示した図である。導電膜形成工程においては、透光性基板10の上に、導電膜20が形成される。導電膜20は、種々の方法により形成され得るが、例えば、スパッタ蒸着法により形成されてもよい。
【0043】
図4は、スパッタ蒸着法による導電膜形成工程の一例を示した図である。図4において、スパッタ蒸着装置が示されている。スパッタ蒸着装置は、ステージ110と、陽極111と、チャンバ120と、ガス導入口121と、排気口122と、陰極130と、真空ポンプ140と、電源Vとを備える。また、ステージ110は、内部に加熱手段115を備える。
【0044】
図4において、透光性基板10は、ステージ110上に載置される。また、ターゲット25が、陰極130側に設置される。ガス導入口121からは、不活性ガスが導入され、アルゴン(Ar)ガスが導入されている例が示されている。アルゴンガスは、イオン化されており、電源Vにより印加された直流高電圧により生じた電場による影響を受けて、ターゲット25に衝突する。アルゴンガスのターゲット25への衝突により、ターゲット25からスパッタ物質がはじき飛ばされ、導電膜20として透光性基板10上に成膜される。なお、透光性基板10の大きさは、用途に応じて定められてよいが、例えば、直径18mm程度であってもよい。
【0045】
ここで、ターゲット25は、例えば、酸化インジウムを主体とし、スズを5〜15重量%、好ましくは7〜13重量%、更に好ましくは9〜11重量%含む金属材料(ITO)の焼結体が用いられてよい。また、ターゲット25の焼結体密度は、少なくとも99.0%以上の材料を用いる。また、膜厚は、5〜6nm程度で、従来の40nm程度の厚さよりも、大幅に薄い導電膜20を形成する。なお、導電膜20の大きさは、用途に応じて定めてよいが、例えば、直径14mm程度であってもよい。また、スパッタ蒸着法の実行の際、加熱手段115を用いて、透光性基板10の温度を、300〜400℃に保つようにする。これにより、導電膜20が結晶化されて形成され、シート抵抗値を低くすることができる。さらに、膜厚を大幅に薄くしているので平坦度を高めることができる。また、チャンバ120内の圧力は、排気口122の先に備えられた真空ポンプ140を用いて調整し、例えば、圧力7.0×10―5〜2.0×10―4Torrの酸素(O)ガス雰囲気中で形成を行うようにしてよい。
【0046】
また、ターゲット25には、ITO以外にも、IZO、ZnO、AZO、SnO又は酸化チタン(TiO)系の金属材料が用いられてもよい。これらの金属材料を用いても、ターゲット25の焼結密度を少なくとも99.0%以上とし、例えば5〜6nmの範囲程度に膜厚を薄くすることにより、導電膜20の平坦度を高めることができる。
【0047】
例えば、スパッタ蒸着法を用いて、このような条件下で導電膜20を形成することにより、平坦度の高い導電膜20を透光性基板10上に形成することができる。また、導電膜形成工程により、導電膜20が形成された透光性基板10が製造される。よって、導電膜形成工程は、導電膜付き基板の製造方法と呼んでもよい。
【0048】
なお、図3Bの導電膜形成工程は、スパッタ蒸着法を用いた例を挙げて説明したが、平坦度が高く、シート抵抗の高くない導電膜20を形成することができれば、蒸着法等の他の成膜方法で形成してもよい。
【0049】
図3Cは、本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の正孔注入阻止層形成工程の一例を示した図である。正孔注入阻止層形成工程においては、導電膜20の上に、正孔注入阻止層31を形成する。正孔注入阻止層31の形成は、種々の成膜方法により行われてよいが、例えば、真空蒸着法により行われてもよい。正孔注入阻止層31は、導電膜20と同じ大きさ及び平面形状で形成されることが好ましく、導電膜20の直径が14mmの場合には、正孔注入阻止層31も、導電膜20に重なるように、直径14mmで形成されてよい。また、膜厚は、用途に応じて適宜変更されてよいが、例えば、10nm程度であってよい。また、正孔注入阻止層31は、酸化セリウムで構成されてよい。
【0050】
図3Dは、本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の光導電膜形成工程の一例を示した図である。光導電膜形成工程においては、正孔注入阻止層31の上に、光導電膜32が形成される。光導電膜32は、種々の成膜方法により形成されてよいが、例えば、真空蒸着法により形成されてよい。また、光導電膜32は、正孔注入阻止層31と同じ大きさ及び同じ形状で形成され、本実施形態においては、直径14mmで形成されてよい。材料としては、例えば、セレンを主体とする非晶質半導体で構成されてよく、膜厚は、2〜50μm程度で形成されてよい。
【0051】
図3Eは、本実施形態に係る光導電素子40の製造方法の電子注入阻止層形成工程の一例を示した図である。電子注入阻止層形成工程においては、光導電膜32の上に、電子注入阻止層33が形成される。電子注入阻止層33は、種々の成膜方法により成膜されてよいが、例えば、真空蒸着法により形成されてもよい。例えば、圧力0.1〜0.4Torrのアルゴンガス雰囲気下で、三硫化アンチモン(Sb)を蒸着し、直径14mm、膜厚0.1μmの電子注入阻止層33を形成するようにしてもよい。
【0052】
このように、例えば、図3A〜図3Eで説明したような製造方法により、光導電素子40を製造することができる。光導電素子40を製造した後、図1に示したように、導電膜20及び光導電ユニット30を形成した透光性基板10と、電子ビーム発生手段70、偏向手段80、メッシュ電極80等を内蔵したガラス管100とを、インジウムリング60でシールし、内部を真空封止することにより、本実施形態に係る撮像デバイスを製造することができる。
【0053】
次に、図5〜図7を用いて、本実施形態に係る光導電素子40における導電膜20の特性について説明する。
【0054】
図5は、結晶化したITOを用いた導電膜20のシート抵抗の膜厚依存性を示した図である。図5において、横軸は膜厚〔nm〕、縦軸はシート抵抗〔Ω/□〕を示している。また、曲線Aは、本実施形態に係る光導電素子40に用いる結晶化したITOの導電膜20の特性を示しており、曲線Bは、従来技術の光導電素子に用いる非晶質のITOの導電膜の特性を示している。
【0055】
撮像管に適用できるシート抵抗の限界値は、600〜700〔Ω/□〕と推定されるが、曲線Bにおいては、膜厚が10〔nm〕よりも厚い領域でないと、600〜700〔Ω/□〕以下のシート抵抗は実現できない特性となっている。一方、曲線Aにおいては、膜厚が10〔nm〕以下の領域で600〜700〔Ω/□〕以下のシート抵抗を実現でき、膜厚が5〔nm〕以上10〔nm〕以下の領域であれば、600〜700〔Ω/□〕以下のシート抵抗を実現できる特性となっている。
【0056】
曲線A、Bとも、膜厚を薄くすると、シート抵抗は高くなる傾向があるが、膜厚が10〔nm〕以下の領域では、曲線Aのシート抵抗が曲線Bのシート抵抗よりも大幅に低い値となっていることが分かる。このように、膜厚を薄くした場合には、非晶質のITOよりも、結晶化したITOを用いた方がよく、本実施形態に係る光導電素子40及び撮像デバイスにおいては、結晶化したITOを導電膜20に用いることが好ましい。
【0057】
図6は、結晶化したITOを用いた導電膜20の算術平均粗さRaの膜厚依存性を示した図である。図6において、横軸は膜厚〔nm〕、縦軸は算術平均粗さRaを示している。図6においては、図4において説明したように、スパッタ蒸着法を用いて導電膜20を形成し、ターゲット25として、酸化インジウム(In)を主成分とし、酸化スズ(SnO)を10%含む金属材料の焼結体を用い、焼結密度が99.5%の場合を示している。また、曲線Cは縦1〔μm〕×横1〔μm〕の正方形領域における算術平均粗さRaを示している。
【0058】
図6において、曲線Cは、膜厚が薄くなる程、算術平均粗さRaが小さくなっており、膜厚5〔nm〕において、算術平均粗さRaが最小となっている。
【0059】
図6に示すように、膜厚が薄ければ薄い程、算術平均粗さRaは小さくなるので、導電膜20の膜厚を薄くすればする程、平坦度を高めることができる。よって、導電膜20の平坦度を高める観点からは、膜厚を可能な限り薄く形成することが好ましい。
【0060】
図7は、結晶化したITOを用いた導電膜20のシート抵抗値のSnO濃度依存性を示した図である。図7において、横軸はSnO濃度〔%〕、縦軸はシート抵抗〔Ω/□〕を示している。また、導電膜20の膜厚は、10〔nm〕とした。
【0061】
図7において、SnOの濃度が、5〔%〕の場合よりも、10〔%〕の場合の方が、シート抵抗が低くなっていることが分かる。従って、従来は、SnOの濃度が低く、5〔%〕よりも低い割合であったが、含有SnOの重量%を増加させ、10〔%〕とすれば、シート抵抗を低下させ、導電膜20の導電性を向上できることが分かる。
【0062】
図5〜7をまとめると、図6に示したように、膜厚は薄ければ薄い程、導電膜20の平坦度は向上する。しかしながら、図5に示したように、導電膜20の膜厚を薄くすると、シート抵抗が増加してしまうので、シート抵抗が600〜700〔Ω/□〕以下となる範囲で、膜厚を薄くする。そして、図7に示したように、ITOにおける酸化スズ(SnO)の割合を増加させ、例えば、10〔%〕程度とすることにより、シート抵抗を増加させることができる。
【0063】
このように、本実施形態における光導電素子40及びその製造方法は、導電膜20の膜厚を薄くして平坦度を向上させ、光導電膜32の結晶化を防ぐとともに、導電膜20のシート抵抗を十分に下げて導電性を確保し、十分な性能を有する光導電素子40を実現している。
【0064】
図8は、本実施形態に係る光導電素子40の導電膜20の表面の算術平均粗さRaを原子間力顕微鏡で調べた結果を示した図である。図8(A)は、参考比較例として従来技術による導電膜の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図であり、図8(B)は、本実施形態に係る光導電素子40の導電膜20の表面の算術平均粗さRaを調べた結果を示した図である。
【0065】
図8(A)に示すように、従来技術による導電膜は、縦1〔μm〕×横1〔μm〕の領域で、算術平均粗さRaは、0.456〔nm〕であった。原子間力顕微鏡の画像からも、表面に凹凸が生じていることが分かる。
【0066】
図8(B)に示すように、本実施形態における導電膜20は、縦1〔μm〕×横1〔μm〕の領域で、算術平均粗さRaは、0.135〔nm〕であった。数値的に、算術平均粗さが大幅に減少しているのとともに、原子間力顕微鏡の画像からも、表面の凹凸が、従来技術と比較して減少していることが分かる。
【0067】
図9は、本実施形態に係る光導電素子40の導電膜20上に形成された正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaを原子間力顕微鏡で調べた結果を示した図である。図9(A)は、参考比較例として従来技術による導電膜の上に形成された正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaを原子間力顕微鏡で調べた結果を示した図であり、図9(B)は、本実施形態に係る光導電素子40の導電膜20の上に形成された正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaを原子間力顕微鏡で調べた結果を示した図である。
【0068】
図9(A)に示すように、従来技術による導電膜上の正孔注入阻止層の表面の算術平均粗さRaは、縦1〔μm〕×横1〔μm〕の領域で、0.669〔nm〕であった。図8(A)の導電膜の表面の算術平均粗さRaは、0.456〔nm〕であったので、正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaは、導電膜よりも増長されたことが分かる。
【0069】
図9(B)に示すように、本実施形態における導電膜20上の正孔注入阻止層31の表面の算術平均粗さRaは、縦1〔μm〕×横1〔μm〕の領域で、0.208〔nm〕であった。図8(B)の導電膜20の表面の算術平均粗さRaは、0.135〔nm〕であったので、その算術平均粗さRaの増加割合は、従来技術の導電膜と正孔注入阻止層の組み合わせよりも、非常に小さいことが分かる。また、当然のことながら、図9(A)の従来の正孔注入阻止層の表面の算術平均粗さRaと比較しても、その値は小さく、1/3よりも小さい値である。
【0070】
このように、本実施形態に係る光導電素子40においては、平坦度の高い導電膜20を用いることにより、正孔注入阻止層31を形成した後であっても、表面の平坦度を極めて高くすることができる。
【0071】
図10は、本実施形態に係る撮像デバイスを用いて撮像した画像を示した図である。図10(A)は、比較参考例として従来技術による撮像デバイスを用いて撮像した画像を示した図であり、図10(B)は、本実施形態に係る撮像デバイスを用いて撮像した画像を示した図である。撮像デバイスは、図10(A)、(B)とも、セレン(Se)を主成分とする非晶質半導体からなる厚さ4〔μm〕の光導電膜32を用い、作製から2週間経過した後に撮像した画像を示している。従って、作製後の初期段階の状態、および若干の経年変化後の状態の両方を含んだものを示している。また、撮像条件としては、光照射は行っておらず、印加電圧は470〔V〕であった。
【0072】
図5(A)と図5(B)を比較すると、図5(B)の本実施形態に係る撮像デバイスによる画像の画面欠陥発生数は、図5(A)の従来技術の撮像デバイスによる画像よりも大幅に減少していることが分かる。また、図5(B)の撮像デバイスの作製直後と比較しても、画面欠陥の増加は見られなかった。
【0073】
このように、本実施形態に係る撮像デバイスによれば、初期段階及び長期使用後の画面欠陥の発生を大幅に抑制することができる。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、平坦な導電膜を必要とするデバイス全般に利用することができ、特に、光導電素子、撮像デバイス等の光デバイス及びその製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
10 透光性基板
11 電荷読み出しピン
20 導電膜
25 ターゲット
30 光導電ユニット
31 正孔注入阻止層
32 光導電膜
33 電子注入阻止層
40 光導電素子
50 電荷読み出し手段
60 インジウムリング
70 電子ゲーム発生手段
80 偏向手段
90 メッシュ電極
100 ガラス管
110 ステージ
111 陽極
115 加熱手段
120 チャンバ
121 ガス導入口
122 排気口
130 陰極
140 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板と、該透光性基板の上に形成された導電膜と、該導電膜上に正孔注入阻止層を介して形成された光導電膜とを含む光導電素子であって、
前記導電膜は、算術平均粗さが0.15nm以下の平坦度を有することを特徴とする光導電素子。
【請求項2】
前記導電膜は、結晶化していて膜厚が5〜6nmであることを特徴とする請求項1に記載の光導電素子。
【請求項3】
前記導電膜は、酸化インジウムを主成分とし、酸化スズを5〜15重量%含有することを特徴とする請求項2に記載の光導電素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光導電素子と、
電子ビーム発生手段と、
電荷読み出し手段と、を備えたことを特徴とする撮像デバイス。
【請求項5】
透光性基板上に導電膜が形成された導電膜付き基板の製造方法であって、
酸化インジウムが主成分であり、スズを5〜15%含有する金属材料をターゲットとし、前記透光性基板の温度を300℃以上に保った状態で、スパッタ蒸着法により、前記透光性基板上に、膜厚を5〜6nmの厚さで導電膜を形成する工程を有することを特徴とする導電膜付き基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−100584(P2011−100584A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253515(P2009−253515)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【Fターム(参考)】