説明

光応答性薬物輸送体及び薬物付き光応答性薬物輸送体

【課題】薬物の固定化が簡便であり、担体への薬物の精密な固定化方法を必要とせず、光照射に対して即応的な薬物放出及び活性化を実現でき、また、広範な薬物に適用可能な、新規な光応答性薬物輸送体を提供する。
【解決手段】一般式 A−X−Y−L〔但し、A:微粒子(担体)、X:担体結合基、Y:光分解性基、L:薬物結合性官能基〕で表されるところの、微粒子表面に、担体結合基、光分解性基及び薬物結合性官能基がこの順に共有結合で結合されている光応答性薬物輸送体。更にこれに薬物(ドラッグ)を結合させれば薬物付き光応答性薬物輸送体となり、医療分野における薬物輸送システム(DDS)に好適に用いうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物(ドラッグ)を、生体組織又は細胞内の必要な部位に必要な量だけ投与する薬物輸送システム(ドラッグデリバリーシステム;DDS)に好適に用いうる光応答性薬物輸送体に関するものであり、あるいはその薬物輸送体に薬物を付けた薬物付き光応答性薬物輸送体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体組織や細胞内に、時空間を制限して、低分子化合物、ペプチド、核酸、タンパク質等の薬物を輸送するDDSは、薬物を生体組織又は細胞内の必要な部位に必要な量だけ投与することで生命活動の調節を行なうので、臨床医学及び基礎生物学の分野において重要である。特に、光応答的に薬物が放出されるシステムや、不活化されていた薬物が光照射により活性を取り戻すシステムは、薬物の時空間動態の精密な制御を可能にするため、近年注目を集めている。このようなDDSに用いることができる光応答的薬物輸送体としては、次のようなものが知られている。
【0003】
(1)ケージド低分子化合物、ケージドペプチド、ケージド核酸又はケージドタンパク質(Kaplan, J. H. et al., 1978; Furuta, T. et al., 1999; Momotake, A. et al., 2006; Ando, H. et al., 2001; Arabaci, G. et al., 1999; Ghosh, M. et al., 2002; Muranaka, N. et al., 2002等多数):
低分子化合物、ペプチド、核酸又はタンパク質に直接光分解性保護基を結合させることによって一時的にその活性を抑え、光照射により保護基を除去することによって、活性を回復させることが可能な分子(広義な意味でのケージド化合物)である。また、最近では、光応答性官能基を有する非天然アミノ酸を含むタンパク質を人工的に合成し、その活性を光制御する方法も開発されている。
【0004】
(2)光応答的に膨潤・収縮する高分子を結合させた光応答性タンパク質(Shimboji, T. et al., 2002):
紫外光・可視光照射によってシス・トランス異性化するアゾベンゼンをグラフトしたアクリル酸とジメチルアクリルアミドとを共重合させて得た高分子を、タンパク質に結合させ、紫外・可視光照射に応じてエンドヌクレアーゼ12Aの活性をOFF/ONする方法である。
【0005】
(3)光分解性高分子ミセル、光分解性リポソーム(Jiang, J. et al., 2005; Yamaguchi, K. et al., 1998):
Jiangらは、ピレンメタノールをグラフトしたアクリル酸とポリエチレングリコールのブロック共重合体から形成した高分子ミセルにおいて、UV光照射によりピレンメタノールエステルが加水分解を受けてミセルが崩壊することに基づき、蛍光色素Nile Redを例に疎水性物質の光放出を実現している。また、山口らは、アルキル鎖の末端に光分解性の2−ニトロベンジル基を有するリン脂質を合成し、同分子が形成するリポソームがUV光照射により崩壊することを利用して、内水相に封入した水溶性物質(例として蛍光色素カルセイン)の光放出を実現している。
【0006】
(4)光応答的に表面電荷が逆転する金ナノ粒子:
Rotelloらは、表面に、光分解性フェナシル基を介してアミンを有する化合物を結合させた金ナノ粒子、あるいは光分解性2−ニトロベンジル基を介してアミンを結合させた金ナノ粒子を開発し、その表面電荷が光応答的に正電荷から負電荷になることを利用して、キモトリプシンやDNAとの相互作用を光制御する方法を開発した(非特許文献1)。また、プラスミドDNAへ適用することで、細胞へのトランスフェクションの光制御も実現されている。
【0007】
(5)光応答性のカチオンデンドリマー(Nagasaki, T. et al., 2000)
Nagasakiらは、末端にリジン残基を導入したポリアゾベンゼンデンドリマーを開発し、同分子がUV光及び可視光照射に応じてプラスミドDNAとの相互作用が変化することを利用して、細胞へのプラスミドDNAのトランスフェクションを光制御する。
【0008】
そのほか、特開2007−291005(特許文献1)には、同一分子内に異なる反応性基を備えるカップリング剤であって、両末端にアミン反応性基、及びそのアミン反応性基間にジスルフィド基を有し、これらアミン反応性基とジスルフィド基との間に光分解性基が含を含む新規な光分解性カップリング剤が提案されている。
【0009】
【非特許文献1】Rotello V.M. et al.:Angewendte Chemie International Edition,2006年,45巻,3165−3169頁
【特許文献1】特開2007−291005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記(1)や(2)の薬物輸送体においては、薬物付き薬物輸送体の合成及び精製が煩雑であり、更には、光照射前の薬物の活性を完全に抑えるには、担体への薬物の固定化方法を精密に設計する必要がある。上記(3)の薬物輸送体においては、一般化の点で原理的に適しているが、リポソームやミセルの崩壊が律速段階となるために、薬物の放出が徐放的になり、薬物の即応的な放出が難しい。また、上記(4)や(5)の薬物輸送体においては、表面電荷の差異を利用するため、核酸のような電荷数の高い物質や、一部のタンパク質等に限られ、適用できる薬物が限定的である。
本発明では、薬物の固定化が簡便であり、担体への薬物の精密な固定化方法を必要とせず、光照射に対して即応的な薬物放出及び活性化を実現でき、また、広範な薬物に適用可能な、新規な光応答性薬物輸送体を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔発明の概要〕
上記目的を達成するために、本発明者らは、微粒子(担体)の表面に担体結合基を介して、光分解性基及び薬物結合基を共有結合で結合することに着目し、種々検討して、本発明を完成することができた。
すなわち、本発明は、次の一般式
【化1】


〔但し、式中のAは微粒子、
Xは担体結合基、
Yは光分解性基、
Lは薬物結合性官能基を意味する〕で表されるところの、
微粒子表面に、担体結合基、光分解性基及び薬物結合性官能基がこの順に共有結合で結合されている光応答性薬物輸送体、である。
【0012】
また、本発明は、次の式(3)
【化2】


〔但し、式中のAは微粒子、
Xは担体結合基、
Yは光分解性基、
Lは薬物結合性官能基、
Dは薬物で、Rは前記薬物結合性官能基との反応に与る薬物中の官能基、
点線(…で標記)は水素結合、配位結合、ファンデルワールス結合、静電的相互作用等の結合様式を意味し、薬物結合性官能基が活性エステル基である場合には、薬物中の官能基とカップリング反応した後は共有結合を示す。〕で表されるところの、
微粒子表面に、担体結合基、光分解性基及び薬物結合性官能基がこの順に共有結合で結合され、更にこれに薬物(ドラッグ)が結合されている薬物付き光応答性薬物輸送体も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光応答性薬物輸送体への薬物の固定化は、一段階的で容易であり、精製も遠心分離による微粒子の沈降を利用するため、非常に簡便である。本発明の光応答性薬物輸送体と薬物(ドラッグ)とを組み合わせて、医療分野における薬物輸送システム(DDS)に好適に用いうる。
本発明の薬物付き光応答性薬物輸送体は、嵩高い微粒子の立体障害によって薬物活性を一時的に抑制し、光照射によって薬物を微粒子から切り離して、その活性を発揮させるのを原理とするため、微粒子に固定する薬剤の配向は大まかに設計するだけでよく、分子設計が容易である。また、薬物の活性発揮は光照射による微粒子からの薬物の切離しに基づくので、即応的な薬物放出及び活性発揮を実現できる。また、薬物としては広範なものを使用でき、医療分野における薬物輸送システム(DDS)、例えば、腫瘍部位のみへの至適量の薬剤投与も可能となり、薬剤の副作用軽減にも寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔発明の更に詳しい説明〕
はじめに、本発明の光応答性薬物輸送体又は薬物付き光応答性薬物輸送体における、光照射依存的な薬物放出と活性制御とを、図1の概念図を用いて説明する。
嵩高い微粒子担体(A)の表面に固定化された薬物(D)は、微粒子担体の立体障害効果によって薬物とその標的物質(B)との相互作用が妨げられ、結果的にその薬物の活性が抑制(阻害)されている。これに光照射すると、光分解性基(X)が分解し、薬物が微粒子担体表面から解離して、薬物と標的物質との相互作用が可能となり、薬物の活性が発揮される。
【0015】
先に述べたとおり、本発明の光応答性薬物輸送体は、次の式(1)
【化3】


〔但し、式中のAは微粒子(担体)、
Xは担体結合基、
Yは光分解性基、
Lは薬物結合性官能基を意味する〕で表されるところの、
微粒子表面に、担体結合基、光分解性基及び薬物結合性官能基がこの順に共有結合で結合されている光応答性薬物輸送体、である。
【0016】
ここで、「微粒子」(式中のA)とは、薬物の固定化の担体もしくは足掛り(anchor)となる微小な粒子性材料の意味であり、その形状としては、球状のもの(球状微粒子)、凹状又は凸状にRを有する微粒子、多孔性微粒子等がありうるが、好ましくは、球状微粒子である。大きさは、球状のもので、好ましくは径0.001〜10μm程度、更に好ましくは径1〜300nm程度、もっと好ましくは径10〜50nm程度、非球状のものにおいては、長径が好ましくは0.001〜10μm程度、更に好ましくは径1〜300nm程度、もっと好ましくは径10〜50nm程度、短径が好ましくは0.001〜10μm程度、更に好ましくは径1〜300nm程度、もっと好ましくは径10〜50nm程度である。
微粒子の素材は、薬物の固定化に適するものであれば特に限定しない。金(Au)、ガラス、シリコン、炭素(C60、ダイアモンド)、金属酸化物、半導体、プラスチック(スチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET等)等がある。
【0017】
また、「担体結合基」(式中のX)とは、共有結合で担体表面に結合可能な化学基を意味する。用いる微粒子素材に応じてその化学基は変わるが、微粒子素材が金の場合には、次の構造式で示される化学基が好ましく用いられる。
【化4】


【化5】


なお、上記構造式における担体−担体結合基間の結合は、本願明細書では「共有結合」とみなしている。
【0018】
また、微粒子素材がガラスの場合には、次の構造式で示される化学基が好ましく用いられる。
【化6】

【0019】
また、「光分解性基」(式中のY)とは、紫外線等の高エネルギー光を照射すれば、容易に分解する二価の化学基を意味する。好ましく用いられる光分解性基として、例えば、次の2価の有機基がある。
【化7】

【0020】
また、以下のような2価の有機基も用いることができる。
【化8】


【化9】


【化10】

【0021】
「薬物結合性官能基」(式中のL)とは、薬物に結合性を有する化学基を意味し、種々のものがある。例えば、活性エステル基であり、その活性エステル基として代表的なものは、スクシンイミジルエステル基である。
【化11】

【0022】
また、以下のような活性エステル基も用いることができる。
【化12】


【化13】

【0023】
【化14】


【化15】

【0024】
【化16】

【化17】

【化18】

【0025】
次の構造式で示されカルボニルイミダゾール基を用いることもできる。
【化19】

【0026】
あるいは、ビオチン基、アビジン、レクチン、抗体、アプタマー、ペプチド、糖、グルタチオンに代表される、特定のタンパク質や生理活性物質と結合性を示す生体分子を用いることもできる。
【0027】
あるいは、ニトリロ三酢酸基やFluorescein Biaresenical Helx Binderのように特定のアミノ酸配列に結合性を示すアフィニティーリガンドを用いることもできる。そのほか、アジド基、アルキン基等を用いることもできる。
【0028】
また、本発明は、先に述べたとおり、次の式(3)
【化20】


〔但し、式中Aは微粒子(担体)、
Xは担体結合基、
Yは光分解性基、
Lは薬物結合性官能基、
D:薬物で、Rは前記薬物結合性官能基との反応に与る薬物中の官能基、
点線(…で表わす)は水素結合、配位結合、ファンデルワールス結合、静電的相互作用等の結合様式を意味し、薬物結合性官能基(L)が活性エステル基である場合には、薬物中の官能基(D)とカップリング反応した後は共有結合を示す。〕で表されるところの、
微粒子表面に、担体結合基、光分解性基及び薬物結合性官能基がこの順に共有結合で結合され、更にこれに薬物(ドラッグ)が結合されている薬物付き薬物輸送体である。
【0029】
ここで、微粒子(A)、担体結合基(X)、光分解性基(Y)及び薬物結合性官能基(L)は、上で説明したものと同じであるので、説明を省略する。
「薬物」(R−D)としては、生体に種々の生理活性を示す生理活性物質があり、更に具体的には、生理活性を示す種々の低分子化合物や、DNA・RNA等の核酸、あるいは糖、脂質、ペプチド、タンパク質等である。
【実施例1】
【0030】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に述べる。
なお、本発明で用いた下記構造式(I)のBis(12−(4−succinimidyloxycarbonyloxyethyl−2−methoxy−5−nitrophenyl)oxydodecyl) disulfideは、特開2007−291005に記載の方法によって合成した。
【化21】

【0031】
また、上記式(I)の構造式に示される化合物もしくはその誘導体又は下記(a)の式(II)の構造で示されるDithiobis(succinimidylundecanoate)と、種々のポリエチレングリコール(PEG)との反応物により、微粒子(本実施例では、金ナノ粒子)表面を修飾する場合、これらの反応はほぼ当量的に進むことを高速液体クロマトグラフィーで確認していたため、前記反応物からは余剰成分を除去することなく、そのまま微粒子表面の修飾に用いた。なお、種々のポリエチレングリコールは、微粒子表面への薬物の非特異吸着及び微粒子どうしの自発的凝集を防ぐ目的で導入した。
【0032】
光分解性基を介してスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子の調製
下記(a)の式(II)の構造で示されるDithiobis(succinimidylundecanoate)(同仁化学社製)、トリエチルアミン(和光社製)及びメトキシ化ポリエチレングリコールモノアミン(分子量5,000、日油社製)を、それぞれの最終濃度が1.4mM、2.4mM及び2.4mMとなるようにDMSO中で混合し、室温で1時間振とうして、式(III)のジスルフィド化合物を得た。
反応式は以下の(a)に示す。
【化22】

【0033】
次に、アミコン30,000(ミリポア社製)を用いて、金ナノ粒子(5nm、BCC社製)5mlを遠心分離(7,000rpm×30分)で限外ろ過濃縮し、その濃縮液に、5mMの式(I)のDMSO溶液122μl及び上で調製した式(III)の溶液433μlを加え、終夜混合することで、金ナノ粒子の表面修飾を行った。その後、アミコン30,000を用いた限外ろ過膜による脱塩処理(7000rpm×30分)を4回繰り返すことにより、未反応のジスルフィドを除去し、光分解性基を介してスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子式(19)で示すを得た。この状態で冷蔵保存し、使用直前に水で3mlにメスアップした。
【化23】

【実施例2】
【0034】
光分解性基を介してビオチンを提示する金ナノ粒子の調製
式(I)のジスルフィド化合物、トリエチルアミン、およびBiotin PEO−LC−amine(Pierce社製)を、それぞれの最終濃度が1.9mM、4.1mM、4.1mMになるようDMSO中で混合し、終夜振とうすることで、以下の反応式に示す式(IV)の化合物を得た。 反応式を式(b)に示す。
【化24】

【0035】
なお、式(IV)中のRは、式(20)で示す官能基(ビオチン含有基)である。
【化25】


また、図中の点線で囲んだ部分がビオチン基である。
【0036】
次に、金ナノ粒子(15nm、BCC社製)3mlに対し、得られた式(IV)のDMSO溶液0.81μl及びメトキシPEGジスルフィド(Polypure、分子量710)のDMSO溶液2.7μlを加え(最終濃度は、各々0.51μM及び4.4μM)、終夜混合することで、金ナノ粒子の表面修飾を行った。その後、その金ナノ粒子の遠心・沈殿(15000rpm×30分)及び超純水を用いた再懸濁の繰返し(4回)によって、未反応のジスルフィドを除去し、最後に3mlの水で懸濁し、光分解性基を介してビオチンを提示する金ナノ粒子を得た。
【化26】

【実施例3】
【0037】
光分解性基を介してニトリロ三酢酸(NTA)を提示する金ナノ粒子の調製
式(II)の構造式で示されるDithiobis(succinimidylundecanoate)(同仁化学社製)、トリエチルアミン及びトリエチレングリコールモノアミンを、それぞれの最終濃度が1.2mM、2.6mM及び2.6mMとなるようにDMSO中で混合し、室温で1時間振とうし、以下の反応式(C)に示す(V)のジスルフィドを得た。なお、トリエチレングリコールモノアミンは、文献(Bioconjugate Chemistry,12:701−710,(2001))にしたがって合成した。
反応式は以下の(c)に示す。
【化27】

【0038】
別途、前記反応式(a)に示すように、Dithiobis(succinimidyl undecanoate)、トリエチルアミン及びメトキシ化ポリエチレングリコールモノアミン(分子量5,000)を、それぞれの最終濃度が1.2mM、2.6mM及び2.6mMとなるようDMSO中で混合し、室温で1時間振とうすることで、式(III)を得た。
【0039】
また、以下の反応式(d)に示すように、式(I)のジスルフィド化合物、トリエチルアミン及びAB−NTA(同仁化学社製)を、それぞれ最終濃度が1.2mM、2.6mM、及び2.6mMとなるようDMSO中で混合し、室温で1時間振とうすることで、反応式(d)に示す式(VI)のジスルフィド化合物を得た。
【化28】

【0040】
なお、反応式(d)中、式(VI)のRは、式(21)で示す官能基(ニトリロ三酢酸含有基)である。また、点線内がニトリロ三酢酸基である。
【化29】

【0041】
次に、金ナノ粒子(15nm、BCC社製)1mlに対し、上で得た式(VI)のジスルフィド化合物のDMSO溶液8.7μl、式(III)のジスルフィド化合物のDMSO溶液33μl及び式(V)のジスルフィド化合物のDMSO溶液2.2μlを加え(各最終濃度は各々10μM、38μM及び2.6μM)、終夜混合することで、金ナノ粒子の表面修飾を行った。その後、その金ナノ粒子の遠心・沈殿(18,100rpm×30分)及び超純水を用いた再懸濁の繰返し(4回)によって、未反応のジスルフィドを除去し、最後にTween20(和光社製)の水溶液(0.02%)の250μlで懸濁し、光分解性基を介してニトリロ三酢酸(NTA)を提示する金ナノ粒子(目的物)を得た。
【化30】

【実施例4】
【0042】
光分解性基を介してスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子への薬剤の固定化
スクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子と、分子内に1級アミンを有する薬剤とは、両者を混合するだけで、その薬剤を固定化した金ナノ粒子を容易に得ることができる。ここでは、固定する薬剤の例として、以下の式(VII)の11−アジド−3,6,9−トリオキサウンデカン−1−アミン(Fluka社製)を用いた。
【化31】

【0043】
実施例1で得られたスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子溶液2mlに、式(VII)の化合物をその最終濃度が10mMとなるように添加し、終夜振とうした。その後、アミコン30,000を用い、遠心分離(7,000rpm×30分、4回)で脱塩し、未反応の式(VII)の化合物を除去して、式(VII)の薬剤を固定した金ナノ粒子(目的物)を得た。
【実施例5】
【0044】
光分解性基を介してニトリロ三酢酸(NTA)を提示する金ナノ粒子への薬剤の固定化
光分解性基を介してニトリロ三酢酸(NTA)を提示する金ナノ粒子と、分子内にヒスチジンタグを有するタンパク質・ペプチド系薬剤とは、混合するだけで、その薬剤を固定した金ナノ粒子を容易に得ることができる。ここでは、固定する薬剤の例としてヒスチジンタグを有するグルタチオンSトランスフェラーゼ(His−GST)を用いた。
【0045】
(a)His―GSTの合成
プラスミドDNApET41a(Novagen)で形質転換した大腸菌BL21を、37℃で終夜増殖後、対数増殖期に1mMのIPTGによってタンパク質発現を誘導し、その5時間後に集菌し、BugBuster(Novagen)で大腸菌を破砕し、遠心分離(12,000×15分)により細胞残屑を除去した。得られた可溶性画分をグルタチオンセファロースカラム(GEヘルスケア)に負荷し、グルタチオンによる溶出、限外濾過濃縮を経て、His−GSTを得た。
【0046】
(b)光分解性基を介してNTAを担持する金ナノ粒子へのHis−GSTの固定化
実施例3で得られた金ナノ粒子に対して、最終濃度7.5mMとなるようにNiClを加え、6時間〜終夜撹拌することによって、NTAをNi2+錯体に置き換えた。この金ナノ粒子を遠心洗浄(18,100rpm×30分、4回)した後、0.02%Tween20を含むリン酸バッファー(PBS)中で、His−GST25μgを添加し、室温で2時間反応させた。遠心分離(18,100rpm×30分、4回)により、未反応のHis−GSTを除去し、His−GSTを固定した金ナノ粒子(目的物)を得た。
【実施例6】
【0047】
光照射による、薬物付き薬物輸送体からの薬物の放出(赤外線吸収スペクトルによる分析)
薬物付き薬物輸送体として、実施例4で得られたもの(すなわち、光分解性基を介してスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子に式(VII)の化合物を固定したもの)を用いた。この薬物付き薬物輸送体を、石英セル中で、紫外透過・可視吸収フィルターU360(HOYA社製)を装着した250W超高圧水銀光源(SX−UI 251HQ、ウシオ社製)により、9.1mW/cmの光量で30分光照射し、アミコン30,000を用いた遠心分離(7,000rpm×30分、4回)により脱塩した。脱塩後の濃縮物を凍結乾燥し、その粉末を用いてKBrによるタブレットを作製し、赤外線吸収スペクトルを測定した(図2の(3))。
同様にして、実施例1で得られた「光分解性基を介してスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子」、及び実施例4で得られた「11−アジド−3,6,9−トリオキサウンデカン−1−アミン(式(VII))を固定化した金ナノ粒子」を各々凍結乾燥し、その粉末を用いてKBrによるタブレットを作製し、赤外線吸収スペクトルを測定した(図2の(1)、(2))。
【0048】
式(VII)のアジド化合物が固定化された金ナノ粒子(図2の(2))では、スクシンイミジルエステル特有の、1811cm−1と1782cm−1と1742cm−1の吸収が消失し、代わりにアジド特有の2108cm−1の振動吸収とカルバメート由来の1722cm−1の吸収の増大が観察された。一方、光照射物(図2の(3))においては、このアジドおよびカルバメートの吸収が消失していた。また、ニトロ由来の1720cm−1の吸収が、1712cm−1にニトロソ由来のピークに置き換わっていた。以上の結果は、実施例1で得られた「光分解性基を介してスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子」が薬剤である式(VII)のアジド化合物を固定化すると共に、これが光照射されると薬剤である式(VII)のアジド化合物が放出されたことを示している。また、この反応は2−ニトロベンジル基の光化学反応によるものであることも分かった。
【実施例7】
【0049】
光照射による、薬物付き薬物輸送体からの薬物放出のタイムコース
薬物付き薬物輸送体として、実施例5で得られたもの(光分解性基を介してNTAを担持する金ナノ粒子へHis−GSTが固定されたもの)を用いた。石英セル中で、ウシオの250W超高圧水銀光源により、6.3mW/cmの光量(波長365nm)で適当時間光照射を行い、同溶液の遠心上清中(18,100rpm×30分)のタンパク定量を行うことで、溶液中に放出されたタンパク質を経時的に定量したところ、光照射時間に依存するタンパク質の放出が観察された(図3)。なお、横軸は光照射時間、縦軸は溶液中に放出されたHis−GST濃度(Bradford法で求めたもの)を意味する。また、このタンパク質の分子量をSDSポリアクリルアミド電気泳動により解析したところ、光照射時のみ溶液中に使用したHis−GSTと同じ分子量のタンパク質が放出されていることを確認できた(図4)。なお、図中の(i)はマーカー、(iiは)使用したHis−GST、(iii)は光照射粒子の遠心上清、(iv)は光非照射粒子の遠心上清である。

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の光応答性薬物輸送体における、光照射依存的な薬物放出と活性制御を説明する概念図である。
【図2】(1)実施例1で得られた、光分解性基を介してスクシンイミジルエステルを提示する金ナノ粒子、(2)実施例4で得られた、11−アジド−3,6,9−トリオキサウンデカン−1−アミン(式(VII))を固定化した金ナノ粒子、(3)光放出により前記薬剤を放出させた際の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図3】光分解性基を介してニトリロ三酢酸を提示する金ナノ粒子表面に固定されたHisタグタンパク質の光照射時間依存的な放出状態を示すグラフである。
【図4】光分解性基を介してニトリロ三酢酸を提示する金ナノ粒子表面に固定されたHisタグタンパク質の、SDS−PAGEによる放出タンパク質の評価を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)
【化1】


〔但し、式中のAは微粒子、
Xは担体結合基、
Yは光分解性基、
Lは薬物結合性官能基を意味する〕で表されるところの、
微粒子表面に、担体結合基、光分解性基及び薬物結合性官能基がこの順に共有結合で結合されている、光応答性薬物輸送体。
【請求項2】
前記微粒子の大きさが、ナノメータスケールの微粒子である、請求項1の光応答性薬物輸送体。
【請求項3】
前記光分解性基は、次の式(2)
【化2】


で表される2価の有機基である、請求項1又は2の光応答性薬物輸送体。
【請求項4】
前記薬物結合性官能基は、活性エステル基、特定のタンパク質もしくは生理活性物質に結合性を示す生体分子、特定のアミノ酸配列に結合性を示すアフィニティーリガンド、アジド基又はアルキン基である、請求項1〜3のいずれかに記載の光応答性薬物輸送体。
【請求項5】
次の式(3)
【化3】


〔但し、式中のAは微粒子、
Xは担体結合基、
Yは光分解性基、
Lは薬物結合性官能基、
Dは薬物で、Rは上記薬物結合性官能基との反応に与る薬物中の官能基、
点線(…で標記)は水素結合、配位結合、ファンデルワールス結合、静電的相互作用などの結合様式を意味する〕で表されるところの、
微粒子表面に、担体結合基、光分解性基及び薬物結合性官能基がこの順に共有結合で結合され、更にこれに薬物が結合されている、薬物付き光応答性薬物輸送体。
【請求項6】
前記微粒子は、ナノメータスケールの微粒子である請求項5記載の、薬物付き光応答性薬物輸送体。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−24147(P2010−24147A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184326(P2008−184326)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】