説明

光情報記録媒体

【課題】 情報の記録後、湿度が変化する環境下に保存しても、情報の再生特性が良好に保たれる光情報記録媒体を提供すること。
【解決手段】 本発明の光情報記録媒体は、吸湿率が0.2質量%以下の樹脂基板上に、少なくとも、反射層、色素記録層、バリア層、及びカバー層をこの順に有し、該カバー層側からレーザ光が照射されることで記録及び/又は再生を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定波長のレーザ光を用いて記録及び再生を行うことができる光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザー光により一回限りの情報の記録が可能な光情報記録媒体(光ディスク)が知られている。この光ディスクは、追記型CD(所謂CD−R)とも称され、その代表的な構造は、透明な円盤状基板上に有機色素からなる記録層、金等の金属からなる反射層、更に樹脂製の保護層(カバー層)がこの順に積層したものである。そしてこのCD−Rへの情報の記録は、近赤外域のレーザ光(通常は780nm付近の波長のレーザー光)をCD−Rに照射することにより行われ、記録層の照射部分がその光を吸収して局所的に温度上昇し、物理的或いは化学的変化(例えば、ピットの生成)によりその部分の光学的特性が変化することにより情報が記録される。一方、情報の読み取り(再生)もまた記録用のレーザー光と同じ波長のレーザー光をCD−Rに照射することにより行われ、記録層の光学的特性が変化した部位(記録部分)と変化していない部位(未記録部分)との反射率の違いを検出することにより行われている。
【0003】
近年、記録密度のより高い光情報記録媒体が求められている。このような要望に対して、追記型デジタル・ヴァーサタイル・ディスク(所謂DVD−R)と称される光ディスクが提案されている(例えば、「日経ニューメディア」別冊「DVD」、1995年発行)。このDVD−Rは、照射されるレーザ光のトラッキングのための案内溝(プリグルーブ)がCD−Rの半分以下(0.74〜0.8μm)という狭い溝幅で形成された透明な円盤状基板上に、通常、有機色素を含有する記録層、反射層、及び保護層をこの順に積層したディスク2枚を記録層を内側にして貼り合わせた構造、或いはこのディスクと同じ形状の円盤状保護基板とを記録層を内側にして貼り合わせた構造を有している。そして、このDVD−Rへの情報の記録及び再生は、可視レーザー光(通常は、630nm〜680nmの範囲の波長のレーザー光)を照射することにより行われており、CD−Rより高密度の記録が可能である。
【0004】
最近、インターネット等のネットワークやハイビジョンTVが急速に普及している。また、HDTV(High Definition Television)の放映開始も開始された。このような状況の下で、画像情報を安価簡便に記録することができる大容量の記録媒体が必要とされている。DVD−Rは現状では大容量の記録媒体としての役割を十分に果たしているが、大容量化、高密度化の要求は高まる一方であり、これらの要求に対応できる記録媒体の開発も必要である。このため、DVD−Rよりも更に短波長の光で高密度の記録を行なうことができる、より大容量の記録媒体の開発が進められている。
【0005】
通常、光情報記録媒体の高密度化は、記録及び再生用レーザの短波長化、対物レンズの高NA化によりビームスポットを小さくすることで達成することができる。最近では、波長680nm、650nm及び635nmの赤色半導体レーザから、更に超高密度の記録が可能となる波長400nm〜500nmの青紫色半導体レーザ(以下、青紫色レーザと称する。)まで開発が急速に進んでおり、それに対応した光情報記録媒体の開発も行われている。特に、青紫色レーザの発売以来、該青紫色レーザと高NAピックアップを利用した光記録システムの開発が検討されており、相変化する記録層を有する書換型光情報記録媒体及び光記録システムは、既に、DVR−Blueシステムとして発表されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、有機色素を用いた追記型光情報記録媒体であって、青紫レーザーにより記録・再生を行うDVR−Blueディスクも発表されている(例えば、非特許文献2参照。)。これらの光情報記録媒体により、高密度化という課題に対しては、一定の成果が得られた。
【0006】
上述のような青紫色レーザと高NAピックアップを利用した光記録システムに用いる光情報記録媒体は、青紫色レーザ光を記録層に照射させる際、高NAの対物レンズの焦点を合わせるために、レーザ光が入射する面を有するカバー層を薄化させている(例えば、特許文献1参照。)。ここで、カバー層としては、例えば、基板と同様の材質の薄い樹脂フィルムが使用され、接着剤又は粘着剤を用いて記録層に接着されている。カバー層の厚さは、通常、接着剤や粘着剤が硬化し形成された接着層又は粘着層を含め約100μmであるが、照射されるレーザの波長やNAにより最適化される。
【0007】
このようにカバー層が薄化したことで、上記の光情報記録媒体は、記録層を中心とすると、基板とカバー層との厚みのバランスが偏ったものとなる。これにより、例えば、湿度が変化した場合、基板中の水分の吸収・排出量が多く、一方、相対的に、カバー層の方は水分の吸収・排出量が少ないという状況ができる。このような状況ができると、両者の収縮率や膨張率に顕著な差が現れ、その寸法変化の差により、記録層中に形成された記録ピットがダメージを受けてしまい、情報の再生特性が低下するという問題を有していた。
また、記録層は基板に近接して形成されていることから、特に、基板における水分の吸収・排出による寸法変化の影響を受け易い。これらのことから、情報の記録後に湿度が変化した場合であっても、記録された情報の再生特性が低下しない光情報記録媒体の改良が望まれていた。
【非特許文献1】“ISOM2000”210〜211頁
【非特許文献2】“ISOM2001”218〜219頁
【特許文献1】特許第3,431,612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の如き問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、情報の記録後、湿度が変化する環境下に保存しても、情報の再生特性が良好に保たれる光情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、下記に示す本発明により解決される。
すなわち、本発明の光情報記録媒体は、吸湿率が0.2質量%以下の樹脂基板上に、少なくとも、反射層、色素記録層、バリア層、及びカバー層をこの順に有し、該カバー層側からレーザ光が照射されることで記録及び/又は再生を行うことを特徴とする。
また、本発明の光情報記録媒体において、樹脂基板の厚さが0.7〜2mmの範囲であり、かつ、前記カバー層の厚さが0.01〜0.5mmの範囲であることが好ましい態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、情報の記録後、湿度が変化する環境下に保存しても、情報の再生特性が良好に保たれる光情報記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の光情報記録媒体は、吸湿率が0.2質量%以下の樹脂基板上に、少なくとも、反射層、色素記録層、バリア層、及びカバー層をこの順に有し、該カバー層側からレーザ光が照射されることで記録及び/又は再生を行うことを特徴とする。
まず、本発明の光情報記録媒体を構成する各要素について順に説明する。
【0012】
〔樹脂基板〕
本発明における樹脂基板は、吸湿率が0.2質量%以下であることを特徴とする。また、この吸湿率は、0.18質量%以下であることがより好ましく、0.16質量%以下であることが更に好ましい。ここで、本発明における「樹脂基板の吸湿率」とは、樹脂基板を23℃の純水中に24時間放置し、放置前後の質量変化率(質量上昇率)を指す。
【0013】
樹脂基板の材料としては、成型された樹脂基板が上記のような特定の吸湿率を有するのであれば、特に制限されるものではない。
本発明においては、具体的には、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;アモルファスポリオレフィン;ポリエステル;等を挙げることができ、所望によりこれらを併用してもよい。
上記材料の中では、耐湿性、寸法安定性及び低価格等の点から、アモルファスポリオレフィン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
これらの樹脂を用いた場合、射出成型を用いて樹脂基板を作製することができる。
また、樹脂基板の厚さは、0.7〜2mmの範囲であることが好ましく、0.9〜1.6mmの範囲であることがより好ましく、1.0〜1.3mmの範囲であることが更に好ましい。
【0014】
また、樹脂基板には、色素記録層が設けられる側の面に、トラッキング用の案内溝又はアドレス信号等の情報を表わす凹凸(プリグルーブ)が形成されている。より高い記録密度を達成するためにはCD−RやDVD−Rに比べて、より狭いトラックピッチのプリグルーブが必要となる。例えば、本発明の光情報記録媒体を、好適な、青紫色レーザに対応する媒体として使用する場合には、形成されるプリグルーブは以下に示す範囲のものであることが好ましい。
【0015】
プリグルーブのトラックピッチは、上限値が500nm以下であることが好ましく、420nm以下であることがより好ましく、370nm以下であることが更に好ましく、330nm以下であることが特に好ましい。また、下限値は、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが更に好ましく、260nm以上であることが特に好ましい。
プリグルーブの幅(半値幅)は、上限値が250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、170nm以下であることが更に好ましく、150nm以下であることが特に好ましい。また、下限値は、23nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることが更に好ましく、100nm以上であることが特に好ましい。
【0016】
プリグルーブの(溝)深さは、上限値が150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることが更に好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。また、下限値は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることが更に好ましく、28nm以上であることが特に好ましい。
プリグルーブの角度は、上限値が80°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましく、60°以下であることが更に好ましく、50°以下であることが特に好ましい。また、下限値は、20°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましく、40°以上であることが更に好ましい。
なお、上記のプリグルーブに関する上限値及び下限値は、それぞれが任意で組み合わせることができる。
【0017】
これらのプリグルーブの値は、AFM(原子間力顕微鏡)により測定することができる。なお、上記プリグルーブの角度とは、グルーブの溝深さをDとした時、溝形成前の樹脂基板の表面を基準とし、その表面からD/10の深さの傾斜部と、溝の最も深い個所からD/10の高さの傾斜部と、を結ぶ直線と、樹脂基板面(溝部底面)と、が成す角度である。
【0018】
このような溝形状を有するプリグルーブを有する樹脂基板を作製するには、射出成型時に用いるスタンパが、高精度なマスタリングにより形成されることが必要である。このマスタリングには、上述の溝形状を達成するために、DUV(波長330nm以下、深紫外線)レーザーや、EB(電子ビーム)によるカッティングが用いられることが好ましい。
一方、UVレーザーや可視光レーザーでは、本発明のような溝形状を形成するための、良好なマスタリングを行うことが困難である。
【0019】
なお、後述する光反射層が設けられる側の樹脂基板表面には、平面性の改善、接着力の向上の目的で、下塗層を形成することが好ましい。
該下塗層の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、N−メチロールアクリルアミド、スチレン・ビニルトルエン共重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の高分子物質;シランカップリング剤等の表面改質剤;を挙げることができる。
下塗層は、上記材料を適当な溶剤に溶解又は分散して塗布液を調製した後、この塗布液をスピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート等の塗布法により樹脂基板表面に塗布することにより形成することができる。下塗層の層厚は、一般に0.005〜20μmの範囲にあり、好ましくは0.01〜10μmの範囲である。
【0020】
〔光反射層〕
本発明の光情報記録媒体は、レーザ光に対する反射率を高めたり、記録再生特性を改良する機能を付与するために、樹脂基板と色素記録層との間に光反射層を有する。
光反射層は、レーザ光に対する反射率が高い光反射性物質を、真空蒸着、スパッタリング又はイオンプレーティングすることにより樹脂基板上に形成することができる。
光反射層の層厚は、一般的には10〜300nmの範囲とし、50〜200nmの範囲とすることが好ましい。
なお、前記反射率は、70%以上であることが好ましい。
【0021】
反射率が高い光反射性物質としては、Mg、Se、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi等の金属及び半金属或いはステンレス鋼を挙げることができる。これらの光反射性物質は単独で用いてもよいし、或いは二種以上の組合せで、又は合金として用いてもよい。これらのうちで好ましいものは、Cr、Ni、Pt、Cu、Ag、Au、Al及びステンレス鋼である。特に好ましくは、Au、Ag、Al或いはこれらの合金であり、最も好ましくは、Au、Ag或いはこれらの合金である。
【0022】
〔色素記録層〕
本発明における色素記録層は、記録物質として色素を含有する層である。
色素記録層は、記録波長領域に吸収を有する色素を含有していることが好ましい。当該色素としては、シアニン色素、オキソノール色素、金属錯体系色素、アゾ色素、フタロシアニン色素等が挙げられる。
また、特開平4−74690号公報、特開平8−127174号公報、同11−53758号公報、同11−334204号公報、同11−334205号公報、同11−334206号公報、同11−334207号公報、特開2000−43423号公報、同2000−108513号公報、及び同2000−158818号公報等に記載されている色素も好適に用いられる。
【0023】
このような色素記録層は、色素を、結合剤等と共に適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、次いで、この塗布液を、光反射層上に塗布して塗膜を形成した後、乾燥することにより形成される。
その際、塗布液を塗布する面の温度は、10〜40℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、下限値が、15℃以上であり、20℃以上であることが更に好ましく、23℃以上であることが特に好ましい。また、下限値としては、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることが更に好ましく、27℃以下であることが特に好ましい。このように被塗布面温度が上記範囲にあると、塗布ムラや塗布故障の発生を防止し、塗膜の厚さを均一とすることができる。
なお、上記の上限値及び下限値は、それぞれが任意で組み合わせることができる。
ここで、色素記録層は、単層でも重層でもよく、重層構造の場合、塗布工程を複数回行うことによって形成される。
塗布液中の色素の濃度は、一般に0.01〜15質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜10質量%の範囲、より好ましくは0.5〜5質量%の範囲、最も好ましくは0.5〜3質量%の範囲である。
【0024】
塗布液の溶剤としては、酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジクロルメタン、1,2−ジクロルエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルホルムアミド等のアミド;メチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールジアセトンアルコール等のアルコール;2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のフッ素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;等を挙げることができる。
上記溶剤は使用する色素の溶解性を考慮して単独で、或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。塗布液中には、更に、酸化防止剤、UV吸収剤、可塑剤、潤滑剤等各種の添加剤を目的に応じて添加してもよい。
【0025】
塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
塗布の際、塗布液の温度は、23〜50℃の範囲であることが好ましく、24〜40℃の範囲であることがより好ましく、中でも、23〜50℃の範囲であることが特に好ましい。
【0026】
このようにして形成された色素記録層の厚さは、グルーブ(前記樹脂基板において凸部)上で、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることが更に好ましく、180nm以下であることが特に好ましい。下限値としては、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、70nm以上であることが更に好ましく、90nm以上であることが特に好ましい。
また、色素記録層の厚さは、ランド上(前記樹脂基板において凹部)で、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、250nm以下であることが更に好ましい。下限値としては、70nm以上であることが好ましく、90nm以上であることがより好ましく、110nm以上であることが更に好ましい。
更に、グルーブ上の色素記録層の厚さ/ランド上の色素記録層の厚さの比は、0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることが更に好ましく、0.7以上であることが特に好ましい。上限値としては、1未満であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.85以下であることが更に好ましく、0.8以下であることが特に好ましい。
なお、上記の上限値及び下限値は、それぞれが任意で組み合わせることができる。
【0027】
塗布液が結合剤を含有する場合、該結合剤の例としては、ゼラチン、セルロース誘導体、デキストラン、ロジン、ゴム等の天然有機高分子物質;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン等の炭化水素系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル・ポリ酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、ゴム誘導体、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等の熱硬化性樹脂の初期縮合物等の合成有機高分子;を挙げることができる。色素記録層の材料として結合剤を併用する場合に、結合剤の使用量は、一般に色素に対して0.01倍量〜50倍量(質量比)の範囲にあり、好ましくは0.1倍量〜5倍量(質量比)の範囲にある。
【0028】
また、色素記録層には、該色素記録層の耐光性を向上させるために、種々の褪色防止剤を含有させることができる。
褪色防止剤としては、一般的に一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項酸素クエンチャーとしては、既に公知の特許明細書等の刊行物に記載のものを利用することができる。
その具体例としては、特開昭58−175693号公報、同59−81194号公報、同60−18387号公報、同60−19586号公報、同60−19587号公報、同60−35054号公報、同60−36190号公報、同60−36191号公報、同60−44554号公報、同60−44555号公報、同60−44389号公報、同60−44390号公報、同60−54892号公報、同60−47069号公報、同63−209995号公報、特開平4−25492号公報、特公平1−38680号公報、及び同6−26028号公報等の各公報、ドイツ特許350399号明細書、そして日本化学会誌1992年10月号第1141頁等に記載のものを挙げることができる。
前記一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、色素の量に対して、通常0.1〜50質量%の範囲であり、好ましくは、0.5〜45質量%の範囲、更に好ましくは、3〜40質量%の範囲、特に好ましくは5〜25質量%の範囲である。
【0029】
なお、上記の色素記録層が光反射層上に形成された後には、色素記録層中の余分な溶剤を除去するために、アニール処理を行うことが好ましい。
アニール処理の温度は、余分な溶剤を効率よく除去できる温度として、50℃以上とすることが好ましく、55℃以上とすることがより好ましく、60℃以上とすることが更に好ましい。また、記録層の変質発生の点からは、アニール処理の温度は、100℃以下とすることが好ましく、95℃以下とすることがより好ましく、90℃以下とすることが更に好ましい。
また、アニール処理の時間は、上記処理温度にもよるが、余分な溶剤を効率よく除去できる時間として、5分以上とすることが好ましく、10分以上とすることがより好ましく、30分以上とすることが更に好ましい。また、製造時間を短縮して高い生産性を得る観点から、6時間以下とすることが好ましく、4時間以下とすることがより好ましく、3時間以下とすることが更に好ましい。
アニール処理の雰囲気としては、特に限定されないず、適宜設定することが好ましい。
【0030】
〔バリア層〕
本発明の光情報記録媒体は、色素記録層の保存性を高める、色素記録層とカバー層との接着性を向上させる、反射率を調整する、熱伝導率を調整する、等のために、色素記録層とカバー層との間にバリア層を有する。
バリア層に用いられる材料としては、記録及び再生に用いられる光を透過する材料であり、上記の機能を発現し得るものであれば、特に、制限されるものではないが、例えば、一般的には、ガスや水分の透過性の低い材料であり、誘電体であることが好ましい。
具体的には、Zn、Si、Ti、Te、Sn、Mo、Ge等の窒化物、酸化物、炭化物、硫化物からなる材料が好ましく、ZnS、MoO2、GeO2、TeO、SiO2、TiO2、ZuO、ZnS−SiO2、SnO2、ZnO−Ga23が好ましく、ZnS−SiO2、SnO2、ZnO−Ga23がより好ましい。
【0031】
また、バリア層は、真空蒸着、DCスパッタリング、RFスパッタリング、イオンプレーティングなどの真空成膜法により形成することができる。中でも、スパッタリングを用いることがより好ましく、RFスパッタリングを用いることが更に好ましい。
本発明におけるバリア層の厚さは、1〜200nmの範囲であることが好ましく、2〜100nmの範囲であることがより好ましく、3〜50nmの範囲であることが更に好ましい。
【0032】
〔カバー層〕
本発明におけるカバー層は、バリア層上に、接着剤や粘着剤を介して貼り合わされる。
本発明において用いられるカバー層としては、透明な材質のフィルムであれば、特に限定されないが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;アモルファスポリオレフィン;ポリエステル;三酢酸セルロース等を使用することが好ましく、中でも、ポリカーボネート又は三酢酸セルロースを使用することがより好ましい。
なお、「透明」とは、記録及び再生に用いられる光に対して、透過率80%以上であることを意味する。
【0033】
また、カバー層は、本発明の効果を妨げない範囲において、種々の添加剤が含有されていてもよい。例えば、波長400nm以下の光をカットするためのUV吸収剤及び/又は500nm以上の光をカットするための色素が含有されていてもよい。
更に、カバー層の表面物性としては、表面粗さが2次元粗さパラメータ及び3次元粗さパラメータのいずれも5nm以下であることが好ましい。
また、記録及び再生に用いられる光の集光度の観点から、カバー層の複屈折は10nm以下であることが好ましい。
【0034】
カバー層の厚さは、記録及び再生のために照射されるレーザ光の波長やNAにより、適宜、規定されるが、本発明においては、0.01〜0.5mmの範囲内であることが好ましく、0.05〜0.12mmの範囲であることがより好ましい。
また、カバー層と、接着剤又は粘着剤からなる層と、を合わせた総厚は、0.09〜0.11mmであることが好ましく、0.095〜0.105mmであることがより好ましい。
なお、カバー層の光入射面には、光情報記録媒体の製造時に、光入射面が傷つくことを防止するための保護層(ハードコート層)が設けられていてもよい。
【0035】
カバー層を貼り合せるために用いられる接着剤は、例えば、UV硬化樹脂、EB硬化樹脂、熱硬化樹脂等を使用することが好ましく、特に、UV硬化樹脂を使用することが好ましい。
接着剤としてUV硬化樹脂を使用する場合は、該UV硬化樹脂をそのまま、若しくはメチルエチルケトン、酢酸エチル等の適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、ディスペンサからバリア層表面に供給してもよい。また、作製される光情報記録媒体の反りを防止するため、接着層を構成するUV硬化樹脂は硬化収縮率の小さいものが好ましい。このようなUV硬化樹脂としては、例えば、大日本インキ化学工業(株)社製の「SD−640」等のUV硬化樹脂を挙げることができる。
【0036】
接着剤は、例えば、バリア層からなる被貼り合わせ面上に、所定量塗布し、その上に、カバー層を載置した後、スピンコートにより接着剤を、被貼り合わせ面とカバー層との間に均一になるように広げた後、硬化させることが好ましい。
このような接着剤からなる接着剤層の厚さは、0.1〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜50μmの範囲、更に好ましくは10〜30μmの範囲である。
【0037】
また、カバー層を貼り合せるために用いられる粘着剤としては、アクリル系、ゴム系、シリコン系の粘着剤を使用することができるが、透明性、耐久性の観点から、アクリル系の粘着剤が好ましい。かかるアクリル系の粘着剤としては、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレートなどを主成分とし、凝集力を向上させるために、短鎖のアルキルアクリレートやメタクリレート、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレートと、架橋剤との架橋点となりうるアクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド誘導体、マレイン酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、グリシジルアクリレートなどと、を共重合したものを用いることが好ましい。主成分と、短鎖成分と、架橋点を付加するための成分と、の混合比率、種類を、適宜、調節することにより、ガラス転移温度(Tg)や架橋密度を変えることができる。
【0038】
上記粘着剤と併用される架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤が挙げられる。かかるイソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート類を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品としては、日本ポリウレタン社製のコロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートHTL;武田薬品社製のタケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202;住友バイエル社製のデスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL;等を挙げることができる。
【0039】
粘着剤は、バリア層からなる被貼り合わせ面上に、所定量、均一に塗布し、その上に、カバー層を載置した後、硬化させてもよいし、予め、カバー層の片面に、所定量を均一に塗布して粘着剤塗膜を形成しておき、該塗膜を被貼り合わせ面に貼り合わせ、その後、硬化させてもよい。
また、カバー層に、予め、粘着剤層が設けられた市販の粘着フィルムを用いてもよい。
このような粘着剤からなる粘着剤層の厚さは、0.1〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜50μmの範囲、更に好ましくは10〜30μmの範囲である。
【0040】
〔その他の層〕
本発明の光情報記録媒体は、本発明の効果を損なわない範囲においては、上述の必須の層に加え、他の任意の層を有していてもよい。かかる他の任意の層としては、例えば、光反射層と色素記録層との間に設けられる界面層などが挙げられる。
なお、これら必須及び任意の層は、いずれも、単層でもよいし、多層構造を有してもよい。
【0041】
以上のように、本発明の光情報記録媒体によれば、低吸湿性である樹脂基板を用いることにより、その樹脂基板自体の寸法変化を小さく抑えられ、近接して設けられる記録層中に形成された記録ピットに与えるダメージが抑制される。
また、樹脂基板とカバー層との間の厚さのバランスが偏った構成であったとしても、樹脂基板とカバー層との寸法変化の差をより小さく抑えることができることから、記録層中に形成された記録ピットに与えるダメージが抑制される。
これらのことから、本発明の光情報記録媒体は、情報の記録後、湿度が変化する環境下に保存しても、情報の再生特性が良好に保つことが可能となる。
【0042】
本発明の光情報記録媒体に対する情報の記録方法としては、カバー層側から波長100〜600nmのレーザ光を照射し、色素記録層を物理的或いは化学的に変化させることで行うことができる。上記の構成の光情報記録媒体に対し、適した波長のレーザ光を照射して記録を行うことにより、良好で安定な記録再生特性を付与することができる。
【0043】
記録波長(レーザ光波長)のより好ましくは、下限値が200nm以上であり、300nm以上であることが更に好ましく、350nm以上であることが特に好ましい。また、上限値としては、500nm以下であることがより好ましく、450nm以下であることが更に好ましく、420nm以下であることが特に好ましい。
なお、上記の上限値及び下限値は、それぞれが任意で組み合わせることができる。
また、情報の記録は本発明の光情報記録媒体のグルーブに行ってもよいし、ランドに行ってもよいが、グルーブの方が好ましい。
更に、上記の波長領域のレーザー光によって、情報の再生も行われる。
【0044】
より具体的には、本発明の光情報記録媒体を用いた情報の記録、再生は、例えば、次のようにして行われる。
まず、光情報記録媒体を所定の線速度(0.5〜10m/秒)、又は、所定の定角速度にて回転させながら、カバー層側から対物レンズを介して青紫色レーザ(例えば、波長405nm)などの記録用の光を照射する。この照射光により、色素記録層がその光を吸収して局所的に温度上昇し、例えば、ピットが生成してその光学特性を変えることにより情報が記録される。上記のように記録された情報の再生は、光情報記録媒体を所定の定線速度で回転させながら、青紫色レーザ光をカバー層側から照射して、その反射光を検出することにより行うことができる。
【0045】
上述のような500nm以下の発振波長を有するレーザ光源としては、例えば、390〜415nmの範囲の発振波長を有する青紫色半導体レーザ、中心発振波長425nmの青紫色SHGレーザ等を挙げることができる。
また、記録密度を高めるために、ピックアップに使用される対物レンズのNAは0.7以上が好ましく、0.85以上がより好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0047】
(実施例1)
<光情報記録媒体の製造>
(樹脂基板)
厚さ1.1mm、外径120mm、内径(中心孔直径)15mmでスパイラル状のプリグルーブ(トラックピッチ320nm、溝幅107nm、溝深さ35nm)を有する、ポリカーボネート樹脂(帝人バイエルポリテック(株)製、「ST−3000」)からなる射出成形樹脂基板を用いた。この樹脂基板の吸湿率は0.18質量%であった。
【0048】
(光反射層の形成)
樹脂基板のプリグルーブ上に、Unaxis社製Cubeを使用し、Ar雰囲気中で、DCスパッタリングにより、膜厚70nmの光反射層(Ag:98質量%、Nd:1質量%、Cu:1質量%)を形成した。光反射層の膜厚は、スパッタ時間により調整した。
【0049】
(色素記録層の形成)
下記化学式で表わされる色素A:2gを、2,2,3,3−テトラフロロプロパノール100ml中に添加して溶解し、色素含有塗布液を調製した。そして、光反射層上に、調製した色素含有塗布液を、スピンコート法により回転数300〜4000rpmまで変化させながら23℃、50%RHの条件で塗布した。その後、23℃、50%RHで1時間保存して、色素記録層(グルーブ上の厚さ45nm、ランド上の厚さ65nm)を形成した。
【0050】
【化1】

【0051】
色素記録層を形成した後、クリーンオーブンにてアニール処理を施した。アニール処理は、樹脂基板を垂直のスタックポールにスペーサーで間隔をあけながら支持し、80℃で1時間保持して行った。
【0052】
(バリア層の形成)
その後、色素記録層上に、Unaxis社製Cubeを使用し、Ar雰囲気中で、RFスパッタリングによりZnO・Ga23(ZnO:Ga23=7:3(質量比))からなる、厚さ5nmのバリア層を形成した。
【0053】
(カバー層の貼り合わせ)
カバー層としては、内径15mm、外径120mmで、片面に粘着剤が塗設してあるポリカーボネート製フィルム(帝人ピュアエース、厚さ:80μm)を用い、該粘着剤層とポリカーボネート製フィルムとの厚さの合計が100μmとなるように設定した。
そして、バリア層上に、該バリア層と粘着剤層とが当接するようにカバー層を載置した後、そのカバー層を押し当て部材にて圧接して、貼り合わせた。
【0054】
<光情報記録媒体の評価>
(ジッター評価)
製造直後の光情報記録媒体を、403nmレーザ、NA0.85ピックアップを積んだ記録再生評価機(パルステック社製:DDU1000)を用い、クロック周波数66MHz、線速5.28m/sにて、ランダム信号を記録、再生しスペクトルアナライザー(パルステックMSG2)にてジッターを測定した。また、記録はグルーブ上に行っい、記録パワー5.2mW、再生パワー0.4mWであった。測定結果を表1に示す。なお、この測定結果は表1中では初期のデータとして表記した。ここで、ジッターが12%以下であると、実用上好ましいことを指す。
また、得られた光情報記録媒体を、40℃85%RHの条件で12時間保存した後、25℃30%RHで12時間保存することを、6回続けた後、23℃50%RHの環境へと移し24時間経過した試料について、上記と同様の方法でジッターを測定した。測定結果を表1に示す。なお、この測定結果は表1中では保存後のデータとして表記した。
【0055】
【表1】

【0056】
(比較例1)
実施例1において用いられる樹脂基板材料をポリカーボネート樹脂(ST−3000)から、ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、「タフロン MD1500」)に代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の光情報記録媒体を作製した。得られた光情報記録媒体を、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表1に示す。また、比較例1で用いた樹脂基板の吸湿率を、実施例1と同様の方法で測定し、表1に併記した。
【0057】
表1から、実施例1の光情報記録媒体は、比較例1の光情報記録媒体と比較して、製造直後のジッターと、高湿度の環境下での保存を経た後のジッターと、の差が小さく、再生特性が良好に保たれていることが判明した。また、比較例1の光情報記録媒体は、保存後のジッター値が12%を超え、実用上の問題が生じていることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿率が0.2質量%以下の樹脂基板上に、少なくとも、光反射層、色素記録層、バリア層、及びカバー層をこの順に有し、該カバー層側からレーザ光が照射されることで記録及び/又は再生を行うことを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記樹脂基板の厚さが0.7〜2mmの範囲であり、かつ、前記カバー層の厚さが0.01〜0.5mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。